説明

画像処理装置、画像処理システム、画像処理方法及びプログラム

【課題】試料中のターゲットの深さ位置を、大容量のメモリを必要とすることなく検出すること。
【解決手段】画像処理装置20は、ステージ11をZ方向へ移動させながら撮像素子30を露光させることで、蛍光マーカMを示す第1の輝点を含む試料SPLの第1の画像を取得し、ステージ11をZ方向へ第1の速度で等速移動させるとともにX方向へ第2の速度で等速移動させながら撮像素子30を露光させることで、上記蛍光マーカMを示す第2の輝点を含む第2の画像を取得し、第1の画像と第2の画像の合成画像内で、第1の輝点と第2の輝点との間の距離Dを算出し、当該距離Dと、上記第1の速度及び第2の速度とを基に、試料SPL中の蛍光マーカMの高さhを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、病理、生物、材料等の分野において顕微鏡により得られた画像情報を処理する画像処理装置、当該画像処理装置を有する画像処理システム、当該画像処理装置における画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療または病理の分野において、光学顕微鏡により得られた、生体の細胞、組織、臓器等の試料の画像をデジタル化し、そのデジタル画像に基づき、医師や病理学者等がその組織等を検査したり、患者を診断したりするシステムが提案されている。このようなシステムは一般にバーチャル顕微鏡と呼ばれている。
【0003】
例えば下記特許文献1に記載の方法では、顕微鏡のステージ上に載置されたスライド標本から光学的に得られた画像が、CCD(Charge Coupled Device)を搭載したビデオカメラによりデジタル化され、そのデジタル信号がPC(Personal Computer)に入力され、モニタに可視化される。病理学者はモニタに表示された画像を見て検査等を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−37250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記バーチャル顕微鏡システムにおいては、試料の深さ方向(焦点方向)に所定間隔毎に焦点を移動させて画像データを取得することで、例えば1つの細胞核中に存在する蛍光染色されたターゲット(蛍光マーカ)の深さ方向の位置を検出することも行われる。しかしながら、この方法では、上記所定間隔毎に複数枚の画像データを保存する必要があり(スライドガラスのほぼ一面に試料が存在する場合、一枚の画像データあたりのデータ量は4GB程度)、データ容量が大きくなってしまうため、大容量のメモリが必要となる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、試料中のターゲットの深さ位置を、大容量のメモリを必要とすることなく容易に検出可能な画像処理装置、画像処理システム、画像処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る画像処理装置は、インターフェイス部と、制御部と、メモリとを有する。上記インターフェイス部は、顕微鏡と接続する。当該顕微鏡は、マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、上記試料の像を拡大する対物レンズと、上記対物レンズで拡大された上記試料の像を結像する撮像素子とを有する。上記制御部は、上記インターフェイス部を介して、上記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から上記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、上記焦点の上記垂直方向への移動の間、上記撮像素子を露光させることで、上記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得する。また制御部は、上記インターフェイス部を介して、上記焦点を、上記基準位置から上記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら上記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、上記焦点の上記垂直方向及び上記平行方向への移動の間、上記撮像素子を露光させることで、上記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得する。さらに制御部は、上記取得された第1の画像及び第2の画像を基に、上記試料中の上記垂直方向における上記ターゲットの位置を算出する。上記メモリは、上記取得された上記第1の画像及び上記第2の画像を保持する。
【0008】
本発明では、上記焦点が上記垂直方向及び平行方向に移動されながら撮像素子が露光されることで、上記第2の画像においては、異なる焦点毎に、ターゲットの像がぼやけた状態から徐々にはっきりした状態へと変化する様子が表れることになる。そして、この第2の画像において、ターゲットに最も焦点が合った位置では、ターゲットの像の輝度が最も大きくなり、上記第2の輝点として表れる。
【0009】
この構成により、画像処理装置は、2回の露光により第1の画像と第2の画像を取得するだけで、メモリの容量を削減しながら、試料中のターゲットの垂直方向における位置を高精度かつ容易に検出することができる。
【0010】
上記制御部は、上記第1の画像及び第2の画像を基に、上記平行方向における上記第1の輝点と上記第2の輝点との間の距離を算出し、当該距離と上記第1の速度と上記第2の速度とを基に、上記ターゲットの位置を算出してもよい。
【0011】
これにより画像処理装置は、第1の画像及び第2の画像から上記平行方向における第1の輝点と第2の輝点との距離を算出するだけで、ターゲットの垂直方向における位置を高精度かつ容易に検出することができる。
【0012】
上記第1の速度は、上記第2の速度よりも大きくてもよい。
【0013】
これにより、第2の画像において、異なる焦点毎のターゲットの像が重なる範囲が小さくなるため、上記第2の輝点の位置がより容易に検出される。
【0014】
上記制御部は、上記第1の画像と上記第2の画像とを合成した合成画像を生成し、当該合成画像を用いて上記距離を算出してもよい。
【0015】
これにより画像処理装置は、合成画像上で第1の輝点と第2の輝点との間の距離を計測することで、ターゲットの垂直方向における位置を容易に検出することができる。
【0016】
本発明の他の形態に係る画像処理システムは、顕微鏡と、画像処理装置とを有する。上記顕微鏡は、マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、上記試料の像を拡大する対物レンズと、上記対物レンズで拡大された上記試料の像を結像する撮像素子とを有する。上記画像処理装置は、インターフェイス部と、制御部と、メモリとを有する。上記インターフェイス部は、上記顕微鏡と接続する。上記制御部は、上記インターフェイス部を介して、上記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から上記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、上記焦点の上記垂直方向への移動の間、上記撮像素子を露光させることで、上記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得する。また制御部は、上記インターフェイス部を介して、上記焦点を、上記基準位置から上記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら上記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、上記焦点の上記垂直方向及び上記平行方向への移動の間、上記撮像素子を露光させることで、上記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得する。さらに制御部は、上記取得された第1の画像及び第2の画像を基に、上記試料中の上記垂直方向における上記ターゲットの位置を算出する。上記メモリは、上記取得された上記第1の画像及び上記第2の画像を保持する。
【0017】
本発明のまた別の形態に係る画像処理方法は、マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、上記試料の像を拡大する対物レンズと、上記対物レンズで拡大された上記試料の像を結像する撮像素子とを有する顕微鏡と接続することを含む。上記対物レンズの焦点が、所定の基準位置から上記載置面の垂直方向へ移動されるとともに、上記焦点の上記垂直方向への移動の間、上記撮像素子が露光されることで、上記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像が取得される。また上記焦点が、上記基準位置から上記垂直方向へ第1の速度で等速移動させられながら上記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動されるとともに、上記焦点の上記垂直方向及び上記平行方向への移動の間、上記撮像素子が露光されることで、上記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像が取得される。上記取得された上記第1の画像及び上記第2の画像はメモリに保持される。上記保持された第1の画像及び第2の画像を基に、上記試料中の上記垂直方向における上記ターゲットの位置が算出される。
【0018】
本発明のまた別の形態に係るプログラムは、画像処理装置に、接続ステップと、第1の取得ステップと、第2の取得ステップと、保持ステップと、第1の算出ステップと、第2の算出ステップとを実行させる。上記接続ステップでは、マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、上記試料の像を拡大する対物レンズと、上記対物レンズで拡大された上記試料の像を結像する撮像素子とを有する顕微鏡と接続される。上記第1の取得ステップでは、上記対物レンズの焦点が、所定の基準位置から上記載置面の垂直方向へ移動されるとともに、上記焦点の上記垂直方向への移動の間、上記撮像素子が露光されることで、上記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像が取得される。また上記焦点が、上記基準位置から上記垂直方向へ第1の速度で等速移動されながら上記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動されるとともに、上記焦点の上記垂直方向及び上記平行方向への移動の間、上記撮像素子が露光されることで、上記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像が取得される。上記保持ステップでは、取得された上記第1の画像及び上記第2の画像がメモリに保持される。上記第1の算出ステップでは、上記保持された第1の画像及び第2の画像を基に、上記試料中の上記垂直方向における上記ターゲットの位置が算出される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、試料中のターゲットの深さ位置を、大容量のメモリを必要とすることなく容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像処理システムを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において撮影される試料SPLをステージの側面方向から示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態における画像処理装置の、試料中におけるターゲットの深さ位置の算出処理の流れを示したフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態におけるZ方向への焦点の移動の様子を示した図である。
【図6】本発明の一実施形態において焦点がZ方向へ移動されながら露光処理が行われることで取得された試料の画像(第1の画像)を示した図である。
【図7】本発明の一実施形態におけるZ方向及びX方向への焦点の移動の様子を示した図である。
【図8】本発明の一実施形態において焦点がZ方向及びX方向へ移動されながら露光処理が行われることで取得された試料の画像(第2の画像)を示した図である。
【図9】図6の第1の画像と図8の第2の画像とが合成された合成画像を示した図である。
【図10】図9の合成画像を用いたターゲットの深さ位置の算出処理を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
[画像処理システムの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る画像処理システムを示す図である。同図に示すように、本実施形態における画像処理システム1は、顕微鏡(蛍光顕微鏡)10と、当該顕微鏡10に接続された画像処理装置20とを有する。
【0023】
顕微鏡10は、ステージ11、光学系12、明視野撮影用照明灯13、光源14及び撮像素子30を有する。
【0024】
ステージ11は、例えば組織切片、細胞、染色体等の生体高分子等の試料(サンプル)SPLを載置可能な載置面を有し、当該載置面に対してその平行方向及び垂直方向(XYZ軸方向)へ移動可能とされている。
【0025】
図2は、上記ステージ11に載置される試料SPLをステージ11の側面方向から示した図である。
【0026】
同図に示すように、試料SPLは、Z方向に約4〜8μmの厚さ(深さ)を有し、スライドガラスSG及びカバーガラスCGに挟まれて所定の固定手法により固定され、必要に応じて染色を施される。この染色方法としては、例えばHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色、ギムザ染色またはパパニコロウ染色等の一般的な染色法のほか、FISH(Fluorescence In Situ Hybridization)や酵素抗体法等の蛍光染色も含まれる。当該蛍光染色は、例えば試料中の特定のターゲットをマーキングするために行われる。蛍光染色されたターゲットは、同図では、蛍光マーカM(M1、M2)として表され、当該蛍光マーカMは、顕微鏡で取得された像では、輝点として表れる。
【0027】
図1に戻り、光学系12は、ステージ11の上方に設けられ、対物レンズ12A、結像レンズ12B、ダイクロイックミラー12C、エミッションフィルタ12D及び励起フィルタ12Eを有する。光源14は、例えばLED(Light Emitting Diode)等からなる。
【0028】
対物レンズ12A及び結像レンズ12Bは、上記明視野撮影用照明灯13により得られた試料SPLの像を所定の倍率に拡大し、当該拡大像を撮像素子30の撮像面に結像させる。
【0029】
励起フィルタ12Eは、光源14から出射された光のうち、蛍光色素を励起する励起波長の光のみを透過させることで励起光を生成する。ダイクロイックミラー12Cは、当該励起フィルタで透過されて入射する励起光を反射させて対物レンズ12Aへ導く。対物レンズ12Aは、当該励起光を試料SPLへ集光する。
【0030】
スライドガラスSGに固定された試料SPLに蛍光染色が施されている場合、上記励起光により蛍光色素が発光する。この発光により得られた光(発色光)は、対物レンズ12Aを介してダイクロイックミラー12Cを透過し、エミッションフィルタ12Dを介して結像レンズ12Bへ到達する。
【0031】
エミッションフィルタ12Dは、上記対物レンズ12Aによって拡大された発色光以外の光(外光)を吸収する。当該外光が喪失された発色光の像は、上述のとおり、結像レンズ12Bにより拡大され、撮像素子30上に結像される。
【0032】
明視野撮影用照明灯13は、ステージ11の下方に設けられ、ステージ11に設けられた開口(図示せず)を介して、上記載置面に載置された試料SPLへ照明光を照射する。
【0033】
撮像素子30としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等が用いられる。当該撮像素子30は、顕微鏡10と一体的に設けられていてもよいし、顕微鏡10に接続可能な別個の撮像装置(デジタルカメラ等)内に設けられていてもよい。
【0034】
画像処理装置20は、例えばPC(Personal Computer)により構成され、撮像素子30により生成された試料SPLの像を、例えばJPEG(Joint Photographic Experts Group)等の所定形式のデジタル画像データ(バーチャルスライド)として保存する。
【0035】
[画像処理装置の構成]
図3は、上記画像処理装置20の構成を示したブロック図である。
【0036】
同図に示すように画像処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、操作入力部24、インターフェイス部25、表示部26及び記憶部27を有し、これら各ブロックがバス28を介して接続されている。
【0037】
ROM22は、各種の処理を実行するためのファームウェア等の複数のプログラムやデータを固定的に記憶する。RAM23は、CPU21の作業用領域として用いられ、OS(Operating System)、実行中の各種アプリケーション、処理中の各種データを一時的に保持する。
【0038】
記憶部27は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリ、その他の固体メモリ等の不揮発性メモリである。当該記憶部27には、OSや各種アプリケーション、各種データが記憶される。特に本実施形態では、記憶部27には、顕微鏡10から取り込まれた画像データや、当該画像データを処理して試料SPLにおけるターゲットの輝点の深さ(高さ)位置を算出するための画像処理アプリケーションも記憶される。
【0039】
インターフェイス部25は、当該画像処理装置20を、上記顕微鏡10のステージ11、光源14及び撮像素子30とそれぞれ接続し、所定の通信規格により顕微鏡10との間で信号をやり取りする。
【0040】
CPU21は、ROM22や記憶部27に格納された複数のプログラムのうち、操作入力部24から与えられる命令に対応するプログラムをRAM23に展開し、当該展開されたプログラムにしたがって、表示部26及び記憶部27を適宜制御する。特に本実施形態においては、CPU21は、上記画像処理アプリケーションにより、上記試料SPLにおけるターゲットの深さ位置の算出処理を実行する。この際、CPU21は、上記インターフェイス部25を介して、ステージ11、光源14及び撮像素子30を適宜制御する。
【0041】
操作入力部24は、例えばマウス等のポインティングデバイス、キーボード、タッチパネル、その他の操作装置である。
【0042】
表示部26は、例えば液晶ディスプレイ、EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等である。当該表示部26は、画像処理装置20に内蔵されていてもよいし、画像処理装置20に外部接続されていてもよい。
【0043】
[画像処理システムの動作]
次に、以上のように構成された画像処理システム1の動作について説明する。以下では、画像処理装置20のCPU21を動作主体として説明がなされるが、当該動作は、画像処理装置20のその他のハードウェア及び上記画像処理アプリケーション等のソフトウェアとも協働して実行される。
【0044】
図4は、本実施形態における画像処理装置20の、上記試料SPL中におけるターゲットの深さ位置の算出処理の流れを示したフローチャートである。また図5は、図4のステップ41及び42に対応して、Z方向への焦点の移動の様子を示した図である。
【0045】
図4に示すように、まずCPU21は、ステージ11に試料SPLが載置され、画像処理装置20が顕微鏡10と接続された状態で、上記ステージ11の垂直(Z)方向における初期位置を設定する(ステップ41)。図5に示すように、当該初期位置DP(Default Position)は、対物レンズ12Aの焦点面FPの位置が、深さ方向において、試料SPLが存在する範囲の外(上方または下方)となるように、すなわち、次の露光(スキャン)工程において、焦点の移動範囲(スキャン範囲)が試料SPLの全ての面に亘るような位置に設定される。
【0046】
続いてCPU21は、図5に矢印で示すように、ステージ11(すなわち焦点)を、上記初期位置DPから垂直方向(Z方向)へ所定速度で等速移動させながら撮像素子30を露光させることで、試料SPLを撮影する(ステップ42)。ここでCPU21は、焦点の移動範囲が試料SPLの全ての面に亘るような位置を当該移動の終了位置EP(End Point)として設定する。すなわち、初期位置DPから終了位置EPまでの範囲に試料SPLが全て収まるように(試料SPLの厚みよりも焦点の移動距離が長くなるように)初期位置DP及び終了位置EPが設定される。
【0047】
図6は、上記のように焦点がZ方向へ移動されながら露光処理が行われることで取得された試料SPLの画像(第1の画像)を示した図である。同図に示すように、第1の画像60においては、上記蛍光マーカM1が輝点Aの像として表れ、上記蛍光マーカM2が輝点Bの像として表れる。
【0048】
ここで、第1の画像60は、試料SPLのZ方向への焦点の移動を伴いながら露光され撮影された画像であるため、蛍光マーカM1及びM2に焦点が合っている焦点面FPにおける像とそうでない像とが重なった画像となる。したがって輝点A及びBの像は、周囲が多少ぼやけた画像となるが、それらの位置は明確に把握可能な程度に表れる。
【0049】
CPU21は、上記第1の画像60を撮像素子30から上記インターフェイス部25を介して取得し、RAM23に一旦保存する(ステップ43)。
【0050】
続いてCPU21は、ステージ11のZ方向の位置を上記初期位置DPに戻す(ステップ44)。
【0051】
図7は、図4のステップ45及び46に対応して、Z方向及びX方向への焦点の移動の様子を示した図である。
【0052】
続いてCPU21は、図7に示すように、ステージ11(焦点)を、上記初期位置DPから上記終了位置EPまで、Z方向へ上記第1の速度(V)で等速移動させるとともにX方向へ第2の速度(V)で等速移動させながら、撮像素子30を露光させることで、試料SPLを撮影する(ステップ45)。
【0053】
図8は、上記のように焦点がZ方向及びX方向へ移動されながら露光処理が行われることで取得された試料SPLの画像(第2の画像)を示した図である。同図に示すように、第2の画像80においては、試料SPLにおける焦点位置の変化毎の像の軌跡が1枚の画像中に表れる。すなわち、蛍光マーカM1及びM2を表す輝点A及び輝点Bの像はそれぞれ、上記X方向への焦点の移動に伴い、ぼやけた大きな状態から、焦点が合いはっきりとした小さな状態へと変化していき、その後またぼやけた状態へと変化するように表れる。
【0054】
CPU21は、上記第2の画像80を撮像素子30から上記インターフェイス部25を介して取得し、RAM23に一旦保存する(ステップ46)。
【0055】
続いてCPU21は、上記第1の画像60と、第2の画像80とを合成して合成画像を生成する(ステップ47)。
【0056】
図9は、上記合成画像を示した図である。同図に示すように、合成画像90においては、上記ステップ42において取得された第1の画像60に表れた輝点A及び輝点B(輝点A1及び輝点B1)の像と、上記ステップ45において取得された第2の画像80に表れた輝点A及び輝点B(輝点A2及び輝点B2)の像とが1枚の画像内で、それぞれ同一直線上に表れている。
【0057】
続いてCPU21は、上記合成画像90から、上記第1の画像60における輝点A1及びB1(第1の輝点)の各位置座標(A1:(XA1,YA)、B1:(XB1,YB))と、上記第2の画像80における輝点A2及びB2(第2の輝点)の各位置座標(A2:(XA2,YA)、B2:(XB2,YB))を検出する(ステップ48)。ここで、各輝点の検出は、CPU21が、例えば、所定閾値以上の輝度値(蛍光強度)を有する複数の画素のまとまりを抽出し、そのうち最も輝度が高い画素の位置を検出することで行われる。ターゲットに応じて異なる色の蛍光染色が施されている場合には、CPU21は、当該異なる色毎に輝度を検出する。
【0058】
続いてCPU21は、上記検出した第1の輝点の座標と第2の輝点の座標との間の距離Dを算出する(ステップ49)。すなわち、図9において、CPU21は、第1の輝点A1(XA1,YA)と第2の輝点A2(XA2,YA)との間の距離D(XA1−XA2)と、第1の輝点B1(XB1,YB)と第2の輝点B2(XB2,YB)との間の距離D(XB1−XB2)とをそれぞれ算出する。
【0059】
そして、CPU21は、上記距離Dと、上記Z方向への焦点の移動速度である上記第1の速度Vと、X方向への焦点の移動速度である上記第2の速度Vとを基に、上記各蛍光マーカMの試料SPL中における深さ(高さ)hを算出する(ステップ50)。
【0060】
図10は、図9の合成画像90を用いた蛍光マーカMの高さの算出処理を示した図である。ここで、ステージ11が移動し始めてから輝点Aに焦点が合うまでの時間tは、t=h/Vにより算出される(hは試料SPLにおける輝点Aの高さ)。
そして、上記距離D及び距離Dは、以下の式によっても表される。
=t・V=V・h/V=h・V/V
=h・V/V
これを変形すると、輝点A及びBの各高さh及びhは、以下の式により算出できることになる。
=D・V/V
=D・V/V
【0061】
CPU21は、当該各式に基づいて輝点A及びBの各高さh及びhを算出し、当該算出結果を輝点毎に例えば表示部26へ出力する。各輝点の高さが算出されることで、例えば輝点Aにより表される蛍光マーカM1と、輝点Bにより表される蛍光マーカM2とが同一組織(細胞)内に存在するのか否かが判別可能となる。また、当該蛍光マーカM1と蛍光マーカM2との3次元距離も検出可能となる。上記画像処理システムのオペレータは、当該算出結果を、例えば各種の病理診断材料や新薬研究等に利用することができる。
【0062】
ここで、上記第2の速度Vは、上記第1の速度Vよりも大きく設定される。これは、合成画像90において、第2の画像80由来の輝点Aの像及び輝点Bの像からそれぞれ焦点が合った位置の座標(A2及びB2)を特定する際に、ぼやけた像の重複範囲が大きいと、各像の分離が困難になり、上記座標(A2及びB2)の特定が容易ではなくなるからである。
【0063】
また、図10に示すように、輝点A及びBの各高さh及びhは、焦点の初期位置DPから輝点までの距離として算出される。したがって、試料SPL内のみを基準にした正確な高さを算出するには、当該初期位置DPから、スライドガラスSGと試料SPLとの境界線までの距離に相当する長さを、上記算出された各高さh及びhから減じればよい。
【0064】
[まとめ]
以上説明したように、本実施形態によれば、画像処理装置20は、焦点をZ方向のみに移動させながら露光することで撮影した蛍光マーカM(ターゲット)の画像(第1の画像)と、焦点をZ方向及びX方向に移動させながら露光することで撮影した蛍光マーカMの画像(第2の画像)を取得し、当該第1の画像における第1の輝点と第2の画像における第2の輝点との距離を算出する。したがって画像処理装置20は、2枚の画像のみを用いて、RAM23の容量を削減しながら、試料SPL中のターゲット(蛍光マーカM)の垂直方向における位置(高さ)を高精度かつ容易に検出することができる。
【0065】
[変形例]
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0066】
上述の実施形態においては、第1の輝点から第2の輝点までの距離Dを算出するために、第1の画像60と第2の画像80とが合成された合成画像90が作成されたが、当該合成画像90によらなくとも距離Dは算出可能である。すなわち、CPU21は、第1の画像60及び第2の画像80においてそれぞれ輝点の座標を検出しておき、第1の画像60にて検出された第1の輝点の座標を、第2の画像80中に当てはめ、または、第2の画像80に検出された第2の輝点の座標を、第1の画像60中に当てはめて、距離Dを算出してもよい。
【0067】
上述の実施形態においては、第2の速度Vxは第1の速度Vzよりも大きく設定されたが、これは必須ではない。CPU21は、例えば、上記光源14の強度を弱くすることで、X方向への移動に伴う輝点の各像の分離を可能とし、同様の効果を得ることができる。
【0068】
上述の実施形態において、上記第2の画像80の取得にあたり、焦点はZ方向とともにX方向へ移動されたが、もちろん、X方向ではなくY方向へ移動されてもよいし、XY平面における直線移動であれば、X軸またはY軸の平行方向以外のどの方向へ移動されてもよい。
【0069】
上述の実施形態においては、画像処理装置20は、第1の画像60及び第2の画像80の取得に際し、Z方向にステージ11を移動させることで焦点を移動させた。しかし、画像処理装置20は、例えば対物レンズ12AをZ方向へ移動させる機構を設けて、当該機構を用いて、ステージ11ではなく対物レンズ12Aの移動により焦点を移動させてもよい。
【0070】
上述の実施形態においては、画像処理装置20は、第2の画像80の取得に際し、ステージ11をX(Y)方向に移動させることで焦点を移動させた。しかし、画像処理装置20は、撮像素子30をX(Y)方向に移動させる機構を設けて、当該機構を用いて、ステージ11ではなく撮像素子30の移動により焦点を移動させてもよい。
【0071】
上述の実施形態においては、本発明を蛍光顕微鏡に適用した例を示したが、傾向顕微鏡以外の顕微鏡に本発明が適用されても構わない。この場合、ターゲットは蛍光染色されていなくともよく、何らかのマーキング手法でマーキングされ、輝点として観察可能であればよい。
【符号の説明】
【0072】
SPL…試料
SG…スライドガラス
CG…カバーガラス
M(M1,M2)…蛍光マーカ
DP…初期位置
FP…焦点面
EP…終了位置
D(D,D)…距離
A1,B1…第1の輝点
A2,B2…第2の輝点
…第1の速度
…第2の速度
1…画像処理システム
10…顕微鏡
11…ステージ
12…光学系
12A…対物レンズ
14…光源
20…画像処理装置
21…CPU
23…RAM
25…インターフェイス部
30…撮像素子
60…第1の画像
80…第2の画像
90…合成画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、前記試料の像を拡大する対物レンズと、前記対物レンズで拡大された前記試料の像を結像する撮像素子とを有する顕微鏡に接続するインターフェイス部と、
前記インターフェイス部を介して、前記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から前記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得し、
前記インターフェイス部を介して、前記焦点を、前記基準位置から前記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら前記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向及び前記平行方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得し、
前記取得された第1の画像及び第2の画像を基に、前記試料中の前記垂直方向における前記ターゲットの位置を算出する制御部と、
取得された前記第1の画像及び前記第2の画像を保持するメモリと
を具備する画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記制御部は、前記第1の画像及び第2の画像を基に、前記平行方向における前記第1の輝点と前記第2の輝点との間の距離を算出し、当該距離と前記第1の速度と前記第2の速度とを基に、前記ターゲットの位置を算出する
画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記第1の速度は、前記第2の速度よりも大きい
画像処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像処理装置であって、
前記制御部は、前記第1の画像と前記第2の画像とを合成した合成画像を生成し、当該合成画像を用いて前記距離を算出する
画像処理装置。
【請求項5】
マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、
前記試料の像を拡大する対物レンズと、
前記対物レンズで拡大された前記試料の像を結像する撮像素子と
を有する顕微鏡と、
前記顕微鏡に接続するインターフェイス部と、
前記インターフェイス部を介して、前記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から前記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得し、
前記インターフェイス部を介して、前記焦点を、前記基準位置から前記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら前記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向及び前記平行方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得し、
前記取得された第1の画像及び第2の画像を基に、前記試料中の前記垂直方向における前記ターゲットの位置を算出する制御部と、
取得された前記第1の画像及び前記第2の画像を保持するメモリと
を有する画像処理装置と、
を具備する画像処理システム。
【請求項6】
マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、前記試料の像を拡大する対物レンズと、前記対物レンズで拡大された前記試料の像を結像する撮像素子とを有する顕微鏡と接続し、
前記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から前記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得し、
前記焦点を、前記基準位置から前記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら前記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向及び前記平行方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得し、
取得された前記第1の画像及び前記第2の画像をメモリに保持し、
前記保持された第1の画像及び第2の画像を基に、前記試料中の前記垂直方向における前記ターゲットの位置を算出する
画像処理方法。
【請求項7】
画像処理装置に、
マーキングされたターゲットを含む試料が載置される載置面を有するステージと、前記試料の像を拡大する対物レンズと、前記対物レンズで拡大された前記試料の像を結像する撮像素子とを有する顕微鏡と接続するステップと、
前記対物レンズの焦点を、所定の基準位置から前記載置面の垂直方向へ移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第1の輝点を含む第1の画像を取得するステップと、
前記焦点を、前記基準位置から前記垂直方向へ第1の速度で等速移動させながら前記載置面の平行方向へ第2の速度で等速直線移動させるとともに、前記焦点の前記垂直方向及び前記平行方向への移動の間、前記撮像素子を露光させることで、前記ターゲットを表す第2の輝点を含む第2の画像を取得するステップと、
取得された前記第1の画像及び前記第2の画像をメモリに保持するステップと、
前記保持された第1の画像及び第2の画像を基に、前記試料中の前記垂直方向における前記ターゲットの位置を算出するステップと
を実行させるプログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−13804(P2012−13804A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148280(P2010−148280)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】