説明

画像形成装置の音質評価方法、及び画像形成装置

【課題】不快さを精度よく予測し、かつ、どの様な不快さなのかを物理量から明らかにする画像形成装置の音質評価方法、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】画像形成時に発生される複数種類の音をSD法により評価し、評価結果について因子分析し、音の音響物理量と、因子と、不快さとについて共分散構造分析し、分析結果より、音響物理量と、一つ以上の音質にかかわる因子と、不快さ因子との関係を説明するモデル、及び音質にかかわる因子と不快さ因子との関係を表す(式1)を導出し、画像形成時に発生される音の音響物理量から実在する音の領域、及び不快でない領域を設定することにより、不快さを精度よく予測し、かつ、どの様な不快さなのかを物理量から明らかにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の音質評価方法、及び画像形成装置に関し、特に、OA機器全般、印刷機、家電機器等の画像形成装置の音質評価方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス等においては、複写機、プリンタまたはファクシミリ、これらの複合機などの画像形成装置を搭載した種々の装置が設置されている。この種の画像形成装置は、多くの部品が機械的に連結等されている。また、画像形成装置は、これらの機構等を駆動するためのモータを有しており、画像形成動作時には装置各部の動作音が発生し、この動作音がユーザ等に不快感を与える等、騒音問題になる場合もある。かつては、これらの機器は便利であれさえすれば良かったが、オフィス内の環境改善が進むに連れて、OA機器に対しての騒音問題解決の要望が多くなった。そのため、画像形成装置の静音化が進められ、以前に比べ、相当の静音化を達成してきている。現在、画像形成装置では騒音を評価する方法として、一般的に音響パワーレベルや音圧レベル(ISO7779)が用いられている。
【0003】
特許文献1では、評価すべき音のデジタル信号が音質指数演算部に入力されると、波形前処理部で各種の音響指数の演算に必要な前処理を行った後、音響指数演算部で複数の音響指数を演算する。このとき、大きさ指数演算部で音の大きさ指数を演算するだけでなく、騒音の主観的なうるささや不快さに及ぼす影響を考慮し、高周波純音指数、広帯域雑音指数をそれぞれ高周波純音指数演算部、広帯域雑音指数演算部において演算する。そして、得られた大きさ指数、高周波純音指数、広帯域雑音指数に基づいて、総合音質指数演算部で総合音質指数を演算し、演算結果表示部に表示する。以上の処理により、事務機器等から生じる騒音などの音について、人の主観的な感覚に与える影響を考慮した総合的な音質の評価が可能な音質評価装置、及び音質評価方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、音圧レベル値、心理音響パラメータのラウドネス値、シャープネス値、トーナリティ値、インパルシブネス値を用いた式によって算出される不快確率値が、所定の条件を満たす画像形成装置を提供することにより、低速〜高速で稼動する画像形成装置から発せられる音の不快確率を算出することが可能な音質評価式の導出を行い、画像形成装置の速度と不快感の許容値の関係を近似化し、低速機から中高速機までの画像形成装置に対する不快音源を、合理的に評価可能とし、かつ理解しやすい値で示した上で、改善することにより、心理的な不快感を緩和する画像形成装置、音質評価方法、画像形成装置の製造方法、及び画像形成装置の改造方法が提案されている。
【特許文献1】特開2001−336975号公報
【特許文献2】特開2004−219976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の発明は以下の問題を有している。
【0006】
音響パワーレベルや音圧レベル(ISO7779)は、複写機やプリンタ、複合機などのオフィス機器から発生する音響エネルギーの値であるため、騒音に対する人間の主観的な不快感と相関があまり良くない場合がある。例えば、音圧レベル(等価騒音レベル Leq:測定時間全体についてエネルギー平均した値)の値が同じ音を比較して聞いた場合に、音の周波数分布の違いや衝撃音の有無で不快さに差があることがある。また、音圧レベルの値は小さくても、高周波成分や純音成分等が含まれていると不快に感じる場合がある。
【0007】
したがって、オフィス環境改善のためにはOA機器の音響パワーレベルや音圧レベルでの評価と低減だけでなく、音質の評価と改善も同時に行っていく必要がある。音質の評価・改善のためには、現状把握のための音質の定量的な計測と、改善前後でどのくらい改善されたのか計測する必要がある。ところが、音質は物理量ではないため、定量的な測定を行う事ができない。よって、目標値の設定も困難である。また、人間による音質評価の場合、「音質が少し改善された」、「かなり改善された」等、定性的な表現となる。さらに個人差があるために、人によって評価が異なり、得られた結果が一般的に言えるのかどうか判定が難しい場合がある。よって、音の質を物理的特性で定量的に表わさなければ対策が本当に効果があったのか、また、どのくらいの効果があったのか、客観的な評価は不可能である。このため、主観評価実験を行い、その結果について統計処理を行って音質の定量化を行う必要がある。
【0008】
主観評価にはSD(Semantic Differential)法を用いて、供試音の印象を被験者に尋ねる方法が以前からよく行われている。具体的には、多数の刺激(供試音)に対して、対となる形容詞の段階評価を行い、その結果に対して主成分分析から因子分析を行い、複数の因子で刺激の定量的説明を行う。主観評価に用いる形容詞には不快さに関する内容も準備し、得られた複数因子と不快さの関係を重回帰分析によって求める。さらに、因子と音の音響物理量の関係についても因子分析を行い、最終的に物理量→因子→不快さというように、不快さを物理量で予測する。
【0009】
ところで、音質を評価する物理量として、心理音響パラメータというものがある。代表的なものは以下の通りである(括弧内は単位)。(例えば、日本機械学会「第7回設計工学・システム部門講演会"21世紀に向けて設計、システムの革新的飛躍を目指す!"」'97年11月10日、11日「音・振動と設計、色と設計(1)」部門第089B 『ダミーヘッドを用いた音質評価システム』 参照)
【0010】
・ラウドネス(sone):聞こえの大きさ
・シャープネス(acum):高周波成分の相対的な分布量
・トーナリティ(tu):調音性、純音成分の相対的な分布量
・ラフネス(asper):音の粗さ感
・フラクチュエーション・ストレングス(vacil):変動強度、うなり感
・インパルシブネス(iu):衝撃性
以上の心理音響パラメータも計測可能な機器が提案されている。どのパラメータも値が増すと、不快感が増す傾向にある。この中で、ラウドネスだけがISO532Bで規格化されている。他のパラメータについては、基本的な考え方や定義は同じであるが、計測器メーカーによる独自の研究によってプログラムや計算方法が異なるため、メーカーによって測定値が若干異なるのが普通である。また、インパルシブネスの様に、計測器メーカー独自で開発したオリジナルなパラメータもある。
【0011】
複写機やプリンタ、複合機などの画像形成装置から発生する騒音は、機構の複雑さから、多くの音色の騒音によって構成されており、例えば低周波の重苦しい音、高周波の甲高い音、衝撃的に発生する音などが、モータ、紙、ソレノイド等の複数の音源から時間的に変化しながら発生する。人間はこれらの音を総合的に判断して不快かどうかの判定を行っているが、音のどの部分が特に不快と関係があるかの重み付けを行って判定していると考えられる。つまり、機械の音色によって不快に対して影響の大きい心理音響パラメータと、影響の小さい心理音響パラメータが存在する。これらの心理音響パラメータや音圧レベルを組み合わせて、因子を説明し、不快さを予測している。
【0012】
しかし、上記のように段階的に印象と因子、因子と不快さ、因子と物理量の関係を求めて、最終的に繋ぎ合わせて物理量から不快さを予測するやり方は、以下の2つの不具合がある。
【0013】
(1)全体モデルの誤差を推定できない。印象と因子、因子と物理量、因子と不快さの関係というように、複数のステップで不快さを推定しているため、因子と物理量の関係、因子と不快さの関係等、それぞれの誤差は出せるが、物理量、因子、不快さについて、全体での評価をしていないため、全体モデルの誤差を推定できない。よって、従来の方法では、モデル全体の精度が良いのか悪いのか、判定できない。
【0014】
(2)図16及び18に示す従来のモデルにおいて、本来は物理量や印象によって不快さをコントロールすることができない。図16及び18に示すように、矢印の向きが物理量や印象からYに向いていない(ただし、因子からYを推定することは正しい)。
【0015】
因子分析は、様々な形容詞の印象から、背後に潜む潜在的な真値を発見するための方法である。つまり、因子が因果関係の原因で、結果が印象(形容詞)となる。これは刺激に対する複数の形容詞(印象)の場合だけでなく、刺激に対する複数の物理量の因子分析についても、潜在的な真値を発見する。
【0016】
ここで、図17と図18に示すモデルの違いを説明する。例えば、表1のような36音の供試音の音響物理量データを用意する。これは後述するSD法実験で、実際に用いた供試音である。このデータを用いて、主成分分析から因子分析を行う。統計解析ソフトJMPを用い、主成分を3つ、因子も3つとして機械的に主成分分析と因子分析を行った。表2は主成分分析と因子分析の結果であり、図19は因子分析結果のイメージ図である。
【0017】
【表1】

【表2】

【0018】
ここで、因子から物理量に対する矢印を逆転させた場合の因子分析について説明する。
【0019】
図19に示すように、音圧レベル、ラウドネス、トーナリティの真値が因子1である。よって、ここでは、ラウドネスと因子1とを例にして説明を行う。ラウドネスと因子1の関係で、x→y、y→xにおける回帰係数を比較する。つまり、因子1とラウドネスの関係の散布図より回帰係数を比較する。図21及び22は、x軸とy軸を逆転させた散布図である。
【0020】
図22より、因子1=2.0311×ラウドネス+7.8969・・・・・(式6)
図21より、ラウドネス=0.3889×因子−3.0713・・・・・(式7)
が得られる。
【0021】
(式6)をラウドネスの式に変換すると、
ラウドネス=0.49234405×因子−3.887991729・・・・・(式8)
が得られる。
【0022】
ここで、(式8)と(式7)とを比較すると、因子を目的変数、ラウドネスを説明変数にして解析した場合と異なることが分かる。よって、回帰分析において、目的変数と説明変数の役割を逆にして解析して、得られた式上で、役割を逆にしてはいけないことが分かる。つまり、図18を図17として使用すると、間違った結果が得られるということになる。
【0023】
そこで、(1)及び(2)の不具合を解決するために、1ステップで一気にモデルの分析を行い矢印も図15及び図17に示す方向に向かっているモデルを提供する。そのために、共分散構造分析(構造方程式モデリング:Structural Equation Modeling、SEM)を用いる。共分散構造分析の多重指標モデルを利用すると、数ステップに分けて分析検討していた関係性を、一度の分析で数値化し求めることができる上に、仮説ロジックを全体として評価して統計的に検証することが可能である。
【0024】
つまり、共分散構造分析の多重指標モデルでは、複数の因子分析や重回帰分析を織り交ぜたようなモデルを、1つにまとめて分析することができる。因子分析の結果をさらに回帰分析にかけるというようなことを繰り返すと、誤差が蓄積して分析全体の精度が落ちるとともに、モデル全体での誤差を明らかにすることができない。
【0025】
一方、共分散構造分析ではモデル全体を丸ごと1度に分析することができ、推定精度が高まり、その上データとモデルの適合の程度を評価することも可能である。
【0026】
そこで、本発明は、上記のような不快音の問題に対し、複数の音響物理量を動かした場合の因子空間での効果に基づく不快感モデルを作成するとともに、不快さを精度よく予測し、かつ、どの様な不快さなのかを物理量から明らかにすることができる画像形成装置の音質評価方法、及び画像形成装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
請求項1記載の発明は、画像形成装置が画像形成動作時に発する音を評価する評価方法であって、画像形成時に発生される複数種類の音をSD法により評価する評価工程と、前記評価工程による評価結果について因子分析する因子分析工程と、音の音響物理量と、因子と、不快さとについて共分散構造分析する共分散構造分析工程と、前記共分散構造分析工程による分析結果より、前記音響物理量と、一つ以上の音質にかかわる因子と、不快さ因子との関係を説明するモデル、及び音質にかかわる因子と不快さ因子との関係を表す(式1)を導出する工程と、
【数1】

画像形成時に発生される音の音響物理量から実在する音の領域、及び不快でない領域を設定する工程を有することを特徴とする。
【0028】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の音質評価方法において、不快でない領域を(式4)により設定したことを特徴とする。
【数2】

【0029】
請求項3記載の発明は、画像形成装置が画像形成動作時に発する音を評価する評価方法であって、画像形成時に発生される複数種類の音をSD法により評価する評価工程と、前記評価工程による評価結果について因子分析する因子分析工程と、音の音響物理量と、因子と、不快さとについて共分散構造分析する共分散構造分析工程と、前記共分散構造分析工程による分析結果より、前記音響物理量と、一つ以上の音質にかかわる因子と、不快さ因子との関係を説明するモデル、及び音質にかかわる因子と不快さ因子との関係を表す(式1)を導出する工程と、
【数3】

画像形成時に発生される音の音響物理量から実在する音の領域、及び誤差を考慮して不快でない領域を設定する工程を有することを特徴とする。
【0030】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の音質評価方法において、誤差を考慮して設定される不快でない領域は(式5)によって設定されることを特徴とする。
【数4】

【0031】
請求項5記載の画像形成装置は、請求項1から4のいずれか1項記載の音質評価方法により設定された不快でない領域の音を発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、複数の音響物理量を動かした場合の因子空間での効果に基づく不快感モデルを作成するとともに、不快さを精度よく予測し、かつ、どの様な不快さなのかを物理量から明らかにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係わる画像形成装置の音質評価方法について説明する。
【0034】
<画像形成装置の構成>
画像形成装置には画像形成速度や構造体、装置のサイズが異なる様々な形態があり、代表的な物を以下に示す。
【0035】
(A1)複数モードを持つ画像形成装置
図1は、本実施形態に係わる画像形成装置(複数モードを持つ機器)の全体構成例を示す説明図である。本発明は、このような一般的な画像形成装置が発する騒音を評価する方法であり、評価方法についての説明に先立ち、一般的な画像形成装置の構成について説明する。
【0036】
図1に示す画像形成装置は、電子写真方式を採用したディジタルカラープリンタであり、光学ユニット1と、感光体ユニット3と、現像ユニット4と、転写ユニット5と、定着ユニット46と、給紙部110とを備えている。
【0037】
画像形成時には、当該画像形成装置の最下部に配置された給紙部110に収容された画像形成対象シート(印刷用紙やOHPシート等も含むが、以下用紙とする)が図の右下側から左斜め上側へ上がる所定の搬送経路に沿って搬送させられる。このように搬送される用紙は、給紙部110から繰り出されて、給紙部110の上方側に図の右下から左上側への斜め方向の搬送経路に沿って搬送される。この間、用紙は同様に搬送経路に沿って並んで配置される4つの感光体ユニット3と、現像ユニット4と、転写ユニット5との間を通過させられ、所定の画像が転写される。かかる画像転写がなされた用紙は、感光体ユニット3、現像ユニット4、及び転写ユニット5のさらに左斜め上側に配置される定着ユニット46へ搬送され、定着ユニット46によって転写画像が定着させられる。
【0038】
図2に示すように、光学ユニット1は、図2の右下から左上方向といった斜め方向である用紙搬送路に沿って延在するユニットであって、その方向に沿って配置されるハウジング11を有している。ハウジング11の上部には、4つの色毎のレーザダイオード(LD)17(Bk:ブラック)、18(C:シアン)、19(M:マゼンダ)、20(Y:イエロー)が取り付けられている。
【0039】
また、ハウジング11には、主操作ライン操作のためのポリゴンミラーモータ2、ドット位置補正のための2層fθレンズ(21、22)、面倒れ補正を行うための長尺WTLレンズ(23、24、25、26)、図示せぬレーザビーム径補正のためのシリンダレンズ等が取り付けられている。
【0040】
ポリゴンミラーモータ2には、上下2枚の6面ミラー27が一体となって形成されており、このポリゴンミラー27にLD(17、18、19、20)が発したレーザ光が照射される。
【0041】
各色に対応するLD(17、18、19、20)は、用紙の搬送タイミングにあわせて発光し、その光(図中太線で示す)がシリンダレンズ、ポリゴンミラー27、2層fθレンズ(21、22)、長尺WTLレンズ(23、24、25、26)を経由して各色の感光体ドラム28に照射される。
【0042】
なお、ブラックに対応するLDユニット17については、2ビーム方式のものを採用することが好ましい。すなわち、2ビーム方式のLDを採用することで、モノクロ画像形成時に2ビームを同時に書き込むことができ、ポリゴンミラーモータ2の回転数を抑えながら、かつ迅速な書き込みを行うことができるからである。このようにポリゴンミラーモータ2の回転数を低減することで、騒音が抑制されるといった効果や、モータの寿命が延びるといった効果も得られる。例えば、カラーモードで印刷する場合にポリゴンミラー27の回転数が29528rpm(revolutions per minute)で印刷速度28ppm(pages per minute)であるが、モノクロ印刷時にはポリゴンミラー27の回転数が21850rpmと回転速度が小さいにもかかわらず、印刷速度38ppmとなるといった具合である。
【0043】
図1に戻り、この画像形成装置における感光体ユニット3、現像ユニット4、及び転写ユニット5の構成について説明する。同図に示すように、この画像形成装置は、4連ドラムのタンデム作像方式を採用した装置であり、この方式を採用することでフルカラー印刷モード及びモノクロ印刷モードの印刷速度を向上させている。また、上述したように感光体ユニット3、現像ユニット4、及び転写ユニット5を斜めに配置することで設置スペースを小さくし、これにより装置全体を小型にしている。
【0044】
感光体ユニット3、現像ユニット4は、それぞれ各色で独立したユニットとなっている。つまり、マゼンダ(M)用の感光体ユニット3及び現像ユニット4、シアン(C)用の感光体ユニット3及び現像ユニット4、イエロー(Y)用の感光体ユニット3及び現像ユニット4、ブラック(Bk)用の感光体ユニット3及び現像ユニット4があり、これらが図1の右下側から左上側に上記順序で並んで配置されている。なお、Bk用を除いたM用、C用、Y用の感光体ユニット3は全く同一の構成であるため、新しいユニットであればどの色用(M、C、Y)に用いるようにしてもよい。
【0045】
転写ユニット5は、上述した順序で斜め方向に配置される感光体ユニット3及び現像ユニット4の下方側に、当該斜め方向に沿って延在するユニットであり、その斜め方向に沿うよう配置されている。転写ユニット5は、複数のローラと、当該ローラに巻き掛けられたエンドレスの転写ベルト29とを有している。図示せぬモータによってローラが回転させられることにより転写ベルト29が図中半時計回りに回転させられ、給紙部110から送り出された用紙はかかる転写ベルト29に載って図の右下側から左上側に搬送させられる。また、転写ユニット5の搬送方向の下流側(図の左上側)には、Pセンサ6が配置されており、かかるPセンサ6が転写ベルト29上に形成されたPセンサパターンの濃度を検知し、かかる検知結果が制御に利用される。
【0046】
ここで、図3にある色に対応する感光体ユニット3及び現像ユニット4の断面図を示す。同図に示すように、感光体ユニット3は、感光体ドラム28(例えばφ30)を有している。感光体ドラム28は中空円柱状であり、後述する駆動機構によって図中時計回りに回転させられるようになっている。
【0047】
感光体ドラム28の上方側には帯電ローラ36(例えば、φ11)が配置されている。帯電ローラ36は、その表面が感光体ドラム28の表面から0.05mm程度離間した位置に配置されている。そして、帯電ローラ36は、感光体ドラム28と逆方向、つまり図中半時計周りに回転させられ、感光体ドラム28の面上に均一な電荷を印加している。
【0048】
また、帯電ローラ36の上方側にはクリーニングブラシ37が配置されている。感光体ドラム28の左斜め上側にはクリーニングブラシ39及びカウンターブレード38が配置され、これらによって感光体ドラム28のクリーニングがなされる。
【0049】
また、クリーニングブラシ39の左側には、廃トナー回収コイル40が配置されており、かかる廃トナー回収コイル40によって回収された廃トナーは、図1に示す廃トナーボルト16に搬送されるようになっている。
【0050】
次に、現像ユニット4は、乾式2成分磁気ブラシ現像方式を採用したものであり、現像ローラ30と、現像ドクタ31と、搬送スクリュー左32と、搬送スクリュー右33と、トナー濃度センサ34と、剤カートリッジ35とを備える。
【0051】
次に、図4を参照しながら感光体ユニット3の駆動機構について説明する。感光体ユニット3は、各色毎に設けられており、4つのユニットがあるが、M用、C用、Y用(カラー用)の3つの感光体ユニット3と、Bk用の感光体ユニット3とは別々の駆動機構によって駆動されるようになっている。すなわち、カラー用の感光体ユニット3の駆動は、カラードラム駆動モータ41を駆動源とし、この駆動力を伝達するギヤ(43、44)、ジョイント45とによって行われる。
【0052】
一方、ブラック用の感光体ユニット3の駆動は、別の黒ドラム駆動モータ42を駆動源とし、この駆動力を伝達する別のギヤ44、ジョイント45によって行われる。したがって、カラーモード印刷時には、カラードラム駆動モータ41のみが動作し、黒ドラム駆動モータ42は停止している。一方、モノクロモード印刷時には、黒ドラム駆動モータ42のみが動作し、カラードラム駆動モータ41は停止している。なお、カラードラム駆動モータ41および黒ドラム駆動モータ42はステッピングモータである。
【0053】
図5及び6に示すように、この定着ユニット46は、ベルト定着方式を採用したものであり、ベルトは定着ローラと比べて熱容量が小さいことから、この方式を採用することで、定着ローラを用いる方式よりもウォームアップ時間の短縮、待機時のローラ設定温度を低下できる等のメリットがある。
【0054】
この定着ユニット46は、画像が転写された用紙を加熱・加圧し、用紙上にトナー像を定着させるものであり、定着ベルト13と、オイル塗布ユニット47とを有している。オイル塗布ユニット47内には、ジェルがオイルから染み出し、これが塗布フェルト48から塗布ローラ49に供給される。そして、塗布ローラ49が回転しながら定着ベルト13に微量のシリコーンオイルを塗布している。
【0055】
このように定着ベルト13にオイルを塗布することで、定着ベルト13と用紙とが剥離しやすくなるようにしている。なお、かかるオイル塗布ユニット47による塗布動作は、用紙が1枚搬送される毎になされるようになっており、図示せぬソレノイドやスプリングを有する機構によって、用紙1枚が搬送される都度オイル塗布ユニット47が駆動され、定着ベルト13と接触させられる。一方、用紙1枚が通過すると、上記機構によってオイル塗布ユニット47が定着ベルト13から離間させられるようになっている。
【0056】
また、図5に示すように、定着ベルト13の用紙搬送方向上流側には、クリーニングローラ50が設けられており、かかるクリーニングローラ50が定着ベルト13上の汚れを吸着し、これによりベルトクリーニングがなされる。
【0057】
以上が定着ユニット46の構成であり、かかる定着ユニット46を通過した用紙は、搬送ローラによって図1に示す本体トレー510に搬送される。
【0058】
次に、図7を参照しながら給紙部110の構成について説明する。かかる給紙部110は、第1トレー9と、第2トレー10と、手差し給紙トレー8といった3つのトレーを有している。これらの各トレーは、トレーに収容された用紙を送り出す方式として、FRR給紙方式を採用している。FRR給紙方式による送り出し機構は、給紙トレー内に積層された用紙束中から送り出された用紙を一枚づつに分離する為に、給紙方向に回転駆動される給紙コロに対して逆転コロを当接させた構成となっている。
【0059】
この構成の下、逆転コロは、給紙コロとは逆方向へ向かう弱いトルクがトルクリミッタを介して付与されているため、給紙コロと接触している状態、或は一枚の用紙が両コロ間に進入した状態では給紙コロに連れ回りする一方で、給紙コロと離間した状態、或は2枚以上の用紙が両コロ間に進入した状態では逆回転する。このため、重送用紙の進入時には逆転コロに接する側の用紙は給紙方向下流側へ戻されて、重送が防止されることとなる。
【0060】
第1トレー9に収容された用紙は、第1給紙ユニット51によって1枚分離されて第1トレー9から送り出される。そして、送り出された用紙は、中継ローラ53によって搬送され、搬送ローラ55に到達する。ここで、用紙は搬送ローラ55によってターンさせられながら、左斜め上方側のレジストローラ7に向けて搬送される。
【0061】
搬送された用紙は、停止しているレジストローラ7に突き当たり、これにより用紙の斜行が補正される。そして、感光体ユニット3等による画像形成工程とのタイミング調整を行い、所定のタイミングで図示せぬレジストクラッチがつながれてレジストローラ7が駆動され、用紙が転写ユニットへ向けて搬送される。以降用紙は、上述したように転写ベルト29によって搬送され、所定の画像転写等の処理がなされる。
【0062】
なお、第2トレー10に収容された用紙の送り出しは、第2給紙ユニット52、中継ローラ54によって搬送ローラ55に向けて用紙が搬送され、その後は第1トレー9に収容された用紙と同様である。また、手差しトレー8にセットされた用紙は、給紙ユニット56によってレジストローラ7に向けて搬送され、以降は上記第1トレー9からの用紙搬送と同様である。
【0063】
次に、上述したように第1トレー9及び第2トレー10から用紙を送り出す第1給紙ユニット51及び第2給紙ユニット52を駆動する構成について説明する。
【0064】
図8に示すように、これらの両ユニットは、1つのステッピングモータ83によって駆動されており、各々のユニットへの駆動力伝達は第1給紙クラッチ57及び第2給紙クラッチ58を介して行われる。すなわち、第1トレー9から用紙を送り出すときは第1給紙クラッチ57のみがつながれた状態となり、第2トレー10から用紙を送り出すときは第2給紙クラッチ58のみがつながれた状態となる。
【0065】
この画像形成装置は、上述したようにカラー用感光体ユニット3等を有しており、モノクロ印刷のみならず、カラー印刷もできるようになっている。より具体的には、表3に示すように、「モノクロモード」、「カラーモード1」、「カラーモード2」、「OHP/厚紙モード」といった4つの印刷モードを有しており、ユーザが操作部等を操作してモードを選択した場合、その選択にしたがって図示せぬ当該画像形成装置の制御部(動作制御手段)が装置各部を制御し、その動作モードで各部を動作させる。この画像形成装置では、制御部がユーザに選択されたモードによって画像形成速度を3種類(182.5mm/s=38ppm(pages per minute)、125.0mm/s=28ppm、62.5mm/s=14ppm)に切り替えるようになっている。
【0066】
すなわち、選択された動作モードによってステッピングモータ83、黒ドラム駆動モータ42、カラードラム駆動モータ41といったモータの回転速度を変化させるよう制御しているのである。なお、本実施形態においては、「ppm」はA4横サイズの用紙の1分あたりの出力枚数である。
【0067】
【表3】

【0068】
ここで、高解像度の「カラーモード2」や「OHP/厚紙モード」では、印刷速度(画像形成速度)が14ppmであるのに対し、「モノクロモード」では印刷速度が38ppmであり、3倍近い速度差がある。このような大きな速度差を1つのモータで実現するため、この画像形成装置では用紙搬送機構系等の駆動源としてステッピングモータを採用している。
【0069】
(A2)大型(コンソール型)画像形成装置の構成
図13は、本実施形態に係わる画像形成装置(コンソール型)の構成例を示す説明図である。すなわち、床面に設置して使用されるように全高が高く設計され、その全体が上部(ADF(自動原稿搬送装置)130、スキャナ140、書き込みユニット160、作像エンジン150)120、下部(バンク給紙ユニット180)とから構成されるコンソール型のデジタルMFP(マルチ・ファンクション・プリンタ)を示している。つまり、通常のコピー機能、パソコンからの指示によるプリンタ機能、さらにはファクシミリ機能を備える場合もある。
【0070】
このようなタイプの画像形成装置は一般的に高速機である。上部120は、筐体内に光学要素(スキャナ140、書き込みユニット130)を収容した光学ユニットと、その下方に位置する作像エンジン150と、筐体上部に配置するADF130と、を有している。
【0071】
図13において、符号121は静電潜像が形成される像担持体としての感光体ドラム、符号122は帯電チャージャ、符号123は現像ユニット、符号124は転写・分離チャージャ、符号125はクリーニングユニット、符号126は定着ユニット、符号127はレジストローラ、符号131は原稿台、符号132はコンタクトガラス、符号133は露光ランプ、符号134は第1ミラー、符号135は第2ミラー、符号136は第3ミラー、符号137は結像レンズ、符号138はCCD、符号139はミラー、符号190はロック機能付きのキャスターである。
【0072】
すなわち、スキャナ140は、原稿を載置するコンタクトガラス132と走査光学系で構成されている。走査光学系は、露光ランプ133と第1ミラー134を搭載した第1キャリッジと、第2ミラー135と第3ミラー136を保持する第2キャリッジと、結像レンズ137と、CCD138と、を備えている。なお、原稿読み取り時にはステッピングモータにより駆動されて一定の速度で移動する第1キャリッジと、第1キャリッジの1/2の速度で駆動される第2キャリッジとを備えている。
【0073】
この第1キャリッジ、第2キャリッジによりコンタクトガラス512上の原稿(不図示)が光学的に走査され、そこで得られた反射光は、露光ランプ133、第1ミラー134、第2ミラー135、第3ミラー136、結像レンズ137を介してCCD139上に結像され光電変換される。
【0074】
書き込みユニット160は、レーザ出力ユニット、fθレンズ、ミラー(いずれも不図示)などを備えている。レーザ出力ユニットの内部には、レーザ光源であるレーザダイオードやポリゴンミラーが備わっている。
【0075】
画像処理部から出力された画像信号は、書き込みユニット160により、この画像信号に対応した強度を有するレーザ光に変換され、コリメートレンズ、アパーチャー、シリンダレンズにより一定形状の光束に整形されてポリゴンミラーに照射され、出力される。書き込みユニット160から出力されたレーザ光は、ミラー139を介して感光体ドラム121に照射される。また、fθレンズを通過したレーザ光は、画像領域外に配置された主走査同期検知信号を発生するビームセンサー(不図示)に照射される。
【0076】
ADF130は、原稿台131にセットされた原稿を1枚ずつコンタクトガラス132へ搬送し、読み取り後に排紙する。すなわち、原稿は原稿台131にセットされ、サイドガイドにより幅方向が揃えられる。原稿台131上の原稿は、一番下の原稿から給紙ローラにより1枚づつ給紙され、搬送ベルトにより、コンタクトガラス132上に送られる。コンタクトガラス132上の原稿は読み取り終了後、搬送ベルトおよび排紙ローラにより排紙トレー上に排紙される。
【0077】
バンク給紙ユニット180の、第1トレー181、第2トレー182、第3トレー183、第4トレー184に積載された記録紙は、それぞれ第1給紙装置185、第2給紙装置186、第3給紙装置187、第4給紙装置188によって給紙され、さらにバンク縦搬送ユニット189、本体縦搬送ユニット170によって搬送される。この記録紙の先端がレジストセンサー(不図示)で検出されると一定時間搬送された後、レジストローラ127のニップ部分で一旦停止して待機状態となる。
【0078】
上記待機した記録紙は、画像有効信号のタイミングに合わせて感光体ドラム121側に送し出され、転写・分離チャージャ124の転写onにより感光体ドラム121に密着し、画像が転写される。さらに感光体ドラム121から分離onにより記録紙を感光体ドラム121から分離する。このトナー像が転写された記録紙は、搬送装置により搬送され、定着ローラおよび加圧ローラでなる定着ユニット126の熱・加圧作用により定着され、排紙ローラ171によって機外に排紙される。なお、図13に示す画像形成装置の画像形成速度は、例えば362mm/s程度である。
【0079】
このように、感光体ドラム121への画像形成は、帯電チャージャ122によって感光体ドラム121上に帯電された電荷をレーザ光を照射することにより静電潜像を形成し、現像ユニット123によって感光体ドラム121上に画像を形成する。
【0080】
両面ユニット173を使用して両面印刷を行う場合には、定着後の記録紙を、切り換え爪によって両面搬送路174に導き、フィードローラ、分離コロを通過して両面トレーに集積する。トレーに集積された記録紙は、トレーが上昇することによりフィードローラと接触し、フィードローラが回転することにより本体縦搬送ユニット170に送られ、レジストローラ127へ再給紙された後に裏面に対して印刷が行なわれる。
【0081】
反転排紙を行う場合には、切り替え爪によって記録紙を反転専用トレー方向に導き、さらに記録紙の後端が反転検知センサを通過すると、搬送コロが逆転し、排紙トレー方向に導き、あらかじめ設定したトレーに排紙する。
【0082】
<音質評価手法>
次に、上述した画像形成装置が発する騒音を評価し、その評価に基づき当該騒音が人に与える不快感を低減する方法について説明する。
【0083】
画像形成装置の音質評価実験と不快音源の特定および、音質評価式導出の流れは以下のとおりである。
(1)画像形成装置の動作音の採取
(2)動作音の分析
(3)採取した動作音から供試音の作成
(4)供試音の音響物理量(心理音響パラメータ、音圧レベル)の測定
(5)SD法実験のための形容詞選定
(6)被験者を集め、供試音提示によるSD法実験
(7)SD法実験結果の主成分分析
(8)SD法実験結果の因子分析
(9)変量の合成による因子推定
(10)共分散構造分析
(11)予測値と実測値の比較
(12)不快さマッピング
【0084】
以下、上記各過程の詳細について説明する。
【0085】
(1)画像形成装置の動作音の採取
画像形成装置の動作音の採取は、ヘッドアコースティックス社製ダミーヘッドHMS(Head Measurement System)IIIを用い、バイノーラル(両耳覚)録音を行った。このようにバイノーラル録音を行い、専用ヘッドフォンで再生することで、実際に人間が機械の発生する音を聞いたときの感覚で再現できるからである。
【0086】
また、主観評価対象とする画像形成装置は、複数モード(3種類の画像形成速度で画像形成動作を行う)を持つ画像形成装置と、高速の単独の画像形成速度の画像形成装置を用い、これらの2機種で4つの画像形成速度の動作音について採取、測定を行った。複数モードを持つ画像形成装置の画像形成速度は14ppm、18ppm、38ppm、高速の画像形成装置の画像形成速度は65ppmである。つまり、低速域から高速域までの供示音を用意する。なお、複数モードを持つ画像形成装置はカラーの画像形成装置であり、14ppm、28ppm時はカラーモード、38ppm時はモノクロモードという仕様の装置を使用した。
【0087】
測定条件は以下の通りである(図9参照)。
【0088】
・録音環境‥‥半無響室
・ダミーヘッド203の耳の位置(収音位置)204‥‥高さ1.2m
被測定機器201端面からの水平距離1m(1±0.03)、幅方向は機器中央位置
・録音方向‥‥前面(画像形成装置の操作部202がある面)、後面、左右面の4方向
・録音モード‥‥FF(フリー・フィールド:無響室用)
・HPフィルタ‥‥22Hz
なお、ダミーヘッドの高さを1.2mとしたのは、最近の画像形成装置の利用の仕方として、ユーザが着席した状態でパーソナルコンピュータ等から画像形成の指示を出すケースが多いことを考慮したものである。もちろん、人間が立っている状態を考慮して1.5mの高さにダミーヘッドを設置してもよい。
【0089】
ところで、画像形成装置が発する音は、方向ごとに異なるのが通常である。種々のモータの配置位置や、用紙の搬送経路、排紙口の位置などが装置中心にあるわけではなく、分散配置されているからである。よって、ある音源(モータ等)が発する音は右面側ではよく聞こえるが、左面側ではよく聞こえないといったように各方向ごとに採取される音も異なるものとなる。後述する実験に使用する供試音はどの方向で採取したものであってもよいが、音質評価実験を行う際にはいずれか1つの方向で採取したものに統一した方がよい。そこで、本実験では、前面側においてユーザが最も聞く機会が多いと考えられる一方で、通常画像形成装置の後面側は壁にあわせて設置されるため、後面側の音を聞く機会がほとんどないと考えられるので、前面側で採取したものを供試音として利用することとした。
【0090】
(2)動作音の分析
次に、上述したように採取した画像形成装置の動作音の分析を行った。まず、複数モードを持つ画像形成装置において、カラー28ppmのとき、つまり印刷速度が28ppmで動作したときの騒音を分析すると、図10に示すような分析結果が得られた。図10(a)は時間軸上において、採取した音を表現したものであり、図10(b)は周波数軸上において、採取した音を表現したものである。この結果から、7つの主要な音源を抽出した。まず、時間軸上で定着ユニット46の定着オイル塗布衝撃音を抽出した。そして、周波数軸上では、カラー現像駆動系音、給紙ステッピングモータ音、帯電音、ドラム駆動ステッピングモータ音、ポリゴンミラーモータ音、用紙摺動音を抽出した。
【0091】
次に、カラー14ppmのとき、つまり印刷速度が14ppmで動作したときの騒音を分析すると、図11に示すような分析結果が得られた。図11(a)は時間軸上において、採取した音を表現したものであり、図11(b)は周波数軸上において、採取した音を表現したものである。この結果から、主要な音源として、時間軸上では定着オイル塗布衝撃音を抽出し、周波数軸上では給紙ステッピングモータ音、帯電音、ドラム駆動モータ音、ポリゴンミラーモータ音、用紙摺動音を抽出した。
【0092】
次に、モノクロ38ppmのとき、つまり印刷速度38ppmで動作したときの騒音を分析すると、図12に示すような分析結果が得られた。図12(a)は時間軸上において、採取した音を表したものであり、図12(b)は周波数軸上において、採取した音を表したものである。この結果から、主要な音源として、時間軸上では定着オイル塗布衝撃音を抽出し、周波数軸上では、現像駆動系音、帯電音、ドラム駆動ステッピングモータ音、用紙摺動音を抽出した。
【0093】
次に、高速画像形成装置(65ppm)が動作したときの騒音を分析すると、図14に示すような分析結果が得られた。図14(a)は時間軸上において、採取した音を表現したものであり、図14(b)は周波数軸上において、採取した音を表現したものである。この結果から、主要な音源として、時間軸上では紙衝撃音と金属(クラッチ・ソレノイド)衝撃音を抽出し、周波数軸上では紙衝撃音、バンクモータ音、現像モータ音、メインモータ音、紙摺動音を抽出した。
【0094】
(3)採取した動作音から供試音の作成
次に、上述したように機器前面側の位置で採取した音をヘッドアコースティックス社製の音質解析ソフトウェアである「ArtemiS」を利用し、採取した音の加工を行った。本実験において行った音の加工方法としては、採取した原音から印刷動作1サイクル期間中の音を切り出した。そして、1サイクル期間中の音のうち、上述したように抽出した主要音源に関する部分に対して周波数軸上または時間軸上でフィルタ処理を施し、これらの部分を減衰または強調する処理を行った。すなわち、1つのモードで抽出された音源の音につき3つの水準の音(強調・原音・減衰)を作成した。作成した供試音を被験者に提示する場合、1サイクルの音を聞かせたのでは時間が短すぎて判定が難しいので数サイクルの音にして提示を行う。
【0095】
なお、上述したように画像形成装置の前後左右側で採取される音は各々異なるが、このような4方向の音から得られる心理音響パラメータ値の範囲よりも、本実験で作成した前面側で採取した音を強調、減衰して得られる3つの供試音から得られる心理音響パラメータ値の範囲の方が広いことが確認されている。すなわち、本実験のように前面側で採取した音を強調、減衰して得られる3つの音を用いて主観的評価実験を行うことで、4方向で採取した音から得られる音の特性をカバーできる。
【0096】
以上のように前面側で採取した音を元に、画像形成装置ごとに抽出した主要音源の発する音から3つの水準の音(強調、原音、減衰)を作成すると、各画像形成時に発生する音について抽出した音源の水準が異なる組み合わせをL9直行表に基づいて9音作成した。
【0097】
まず、複数モードを有する画像形成装置を説明する。表4〜7は複数モードを有する画像形成装置のそれぞれのモードに関する説明である。
【0098】
ここで、表4は複数モードを有する画像形成装置のカラー28ppmのとき、つまり印刷速度28ppmで動作したときに採取された音から抽出された主要音源(7つ)について作成した3水準の音を、L9直行表に基づいて割り付けて9つの供試音を作成した結果を示す。このように直行表に割り付けることで、音源の水準変化の間に相関がないため、他の音源の変化を無視して分析が可能となる。
【0099】
【表4】

【0100】
上記表(以下の表も同様)において、「−1」は音をほぼ聞こえなくなるまで減衰して作成した音であり、「0」は原音そのままのレベルの音であり、「1」は原音と比較してレベルの違いがはっきりとわかるまで強調した音である。例えば、表4における供試音「カラー28ppm(9)」は、すべての音源について「0」がついているので、すべてが原音のままであることを示す。
【0101】
次に、表5はカラー14ppmのとき、つまり印刷速度14ppmで動作したときに採取された音から抽出された主要音源(6つ)について作成した3水準の音を、L9直行表に基づいて割り付けた結果を示す。ただし、帯電音、ドラム駆動ステッピングモータ音、ポリゴンミラーモータ音は、同じトーナリティ成分の音であるため、各々の供試音について同水準のレベルとした。給紙ステッピングモータ音もトーナリティ成分であるが、これについては間欠的に発生する音であるため、上記のモータ音とは個別に水準を振ることとした。
【0102】
【表5】

【0103】
また、表6はモノクロ38ppmのとき、つまり印刷速度38ppmで動作したときに採取された音から抽出された主要音源(5つ)について作成した3水準の音を、L9直行表に基づいて割り付けた結果を示す。ただし、帯電音およびドラム駆動ステッピングモータ音は同じトーナリティ成分の音であるため、各々の供試音について同水準のレベルとした。
【0104】
【表6】

【0105】
同様に、他の速度の画像形成装置においても同様の作業を行った。表7はモノクロ65ppmで動作したときに採取された音から抽出された主要音源(6つ)について作成した3水準の音を、L9直行表に基づいて割り付けた結果を示す。
【0106】
【表7】

【0107】
以上が採取した動作音から供試音を作成し、実験を組む過程の詳細である。
【0108】
(4)供試音の音響物理量(心理音響パラメータ、音圧レベル)の測定
次に、上述したように作成した供試音について、上記ヘッドアコースティックス社製の音質解析ソフトウェア「ArtemiS」を用い心理音響パラメータを求めた。この音質解析ソフトウェアでは、心理音響パラメータを求める際に、様々な設定を選択することができるのであるが、今回の実験ではデフォルトの設定を採用した。
【0109】
例えば、ラウドネスについては、「Caluculation method」として「FET/ISO0532」、「Filter/ISO0532」および「FET/HEAD」が選択できるが、デフォルトの「FET/ISO0532」を採用し、「Spectrum Size」はデフォルトの「4096」で行った。シャープネスについては、「Caluculation method」としてデフォルトの「FET/ISO0532」を採用し、「Sharpness method」として「Aures」、「von Bismarck」のうち、デフォルトの「Aures」を採用した。「Spectrum Size」はデフォルトの「4096」で行った。他の心理音響パラメータはラウドネスと相関があり、ラウドネスの設定によって自動的に変化する。
【0110】
以上のように設定した音質解析ソフトウェアを用い、上記(3)の過程で作成した供試音の心理音響パラメータ値を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1の結果は、PPM値は小数点以下第一位で、それ以外は小数点以下第二位で四捨五入した結果である。
【0111】
(5)SD法実験のための形容詞選定
画像形成装置の稼動音の不快モデルの仮説を立て、想定される因子とその因子を表現する形容詞をピックアップした。
【0112】
画像形成装置の稼動音の音質評価因子として3因子を想定した。なお、各因子の右の表記はヒントとした心理音響パラメータである。
(i)因子1(衝撃感因子):ラウドネス、インパルシブネス
(ii)因子2(金属性因子):トーナリティ、(シャープネス)
(iii)因子3(こすれ感因子):シャープネス
さらに、上記3因子からの総合的な評価としての因子「総合不快」があるという仮説を立てた。その概念を図20に示す。
【0113】
実際の主観評価に使用するプリンタ音を聴きながら、各因子を表現すると考えられる形容詞の候補を選定した。形容詞の候補と各因子の関係は図20に示す通りとなる。
【0114】
図20において、不快の印象の因子は「真値」であり、直接観測できない潜在的な変数である。被験者には不快の印象を形容詞で答えてもらう。この形容詞は直接的に観測可能な「観測変数」であるが、観測には「誤差」が伴う。形容詞(観測変数)の共通成分である因子(真値)だけでは説明できない外部の影響が「誤差」であり、誤差は直接観測できない。
【0115】
形容詞を最終的に以下の16語に絞り、決定した。
・激しい
・金属性の
・大きい
・こもった
・キンキンする
・ガチャガチャする
・こすれ感のある
・いらだつ
・衝撃感のある
・かん高い
・力強い
・鋭い
・シャーシャーする
・うるさい
・うねりのある
・不快な
特に、「いらだつ」及び「不快な」は総合的な不快さを評価する形容詞と想定した。
【0116】
(6)被験者を集め、供試音提示によるSD法実験
SD(semantic differential)法は形容詞対を用いた両極法が一般的であるが、対の形成が難しい形容詞も多いため、今回のSD法では単極法を採用した。単極法とは、被験者に供試音を提示して、聞いた印象で16語の形容詞について5段階評価してもらう。5段階評価は例えば、『激しい』という形容詞は、聞いた印象が激しいと思うほど5に近い評価で、激しいと思わなければ1に近い評価をしてもらう、ということで評価してもらった。
【0117】
被験者は41人集まった。実験により得られた評点データは、散布図行列、残差プロットなどによりモニタリングを行い、外れ値を除外した。その結果、被験者データは1人のデータを除く40人分を使用することとした。解析に使用した評点データの総数は次のとおりである。
評点データ数:被験者40人×36音×16形容詞=23040
【0118】
(7)SD法実験結果の主成分分析
主成分分析は、市販されている種々の表計算ソフトウェアや統計解析ソフトウェアを利用して行うことができる。例えば、統計解析ソフト「JMP(SAS Institute Incの登録商標)」又は「SPSS(SPSS Incの登録商標)」を使用することができる。なお、本実施形態においてはJMPを使用した。
【0119】
総合不快指標である「いらだつ」「不快な」以外の形容詞について分析した。個人の誤差を除くために、被験者の平均データを用いて分析を行った。
【0120】
統計解析ソフト「JMP」を用いて、14の形容詞についての関係を、散布図と相関係数行列により調べた。図23は相関図行列、表8は相関係数行列である。
【0121】
激しい・大きい・力強い・うるさいには互いに強い正の相関があり、激しいとガチャガチャする・シャーシャーする・こすれ感のある・衝撃感のある・鋭い・うるさい・うねりには正の相関が見られる。
【0122】
また、金属性の・キンキンする・かん高いには互いに強い正の相関があり、これらの形容詞は鋭いとの正の相関がある。うねりのある・こもったには弱い負の相関がある。その他の関係は無相関に近い。また、プロットには大きな外れ値は無いように見える。
【0123】
【表8】

【0124】
ここで相関行列より主成分分析を行った。表9は、主成分分析結果である(第5主成分まで表示する)。
【0125】
【表9】

【0126】
表9より、主成分の解釈を行う。第1主成分の固有値は約7.7で、最も大きい。寄与率も約55%である。激しい、ガチャガチャする、衝撃感のある、力強い、鋭い、こすれ感がある、うるさいの固有ベクトルが少しずつ入っているので衝撃・音量を表す成分と考えられる。
【0127】
第2主成分の固有値は約4.2である。寄与率は約30%である。金属性、キンキンする、かん高いの固有ベクトルが少しずつ入り、こもったの負の固有ベクトルがあるので金属成分と考えられる。
【0128】
第3主成分の固有値は約1.1である。寄与率は約8%である。固有ベクトルの大きさから擦れ感の成分と考えられる。
【0129】
第4主成分以下は固有値が1以下で寄与率も4%程度以下なので、残差として扱う。
【0130】
(8)SD法実験結果の因子分析
主成分分析の解釈を行う場合、対立概念にスマートなキャッチフレーズを付けるのは難しい。バリマックス回転という方法を用いて主成分の回転を行う。回転により得られた新たな成分は因子と呼ばれ、個別能力−変量分類が引き出されて構造が単純化される。つまり、主成分の回転により対立概念を消すことが可能となり、因子の解釈が容易になる。この様な方法は因子分析(Factor Analysis)と呼ばれている。
【0131】
ここで、主成分分析を基に因子分析を行う。回転させたい主成分を3までと設定して因子分析を行った。まず、因子分析の結果であるが、その因子負荷量(バリマックス回転)の一覧を表10に示す。
【0132】
【表10】

【0133】
主成分の表9の第3成分までの累積寄与率と、表10の第3因子までの累積寄与率を比較すると、92.31%で一致している。これは、回転によって情報量は変化しないことを意味している。
【0134】
第3因子の累積寄与率は90%以上であり、因子分析の結果からプリンタの音質は3つの因子でほぼ説明できると考えられる。よって、因子数を仮に3と想定する。
【0135】
また、表10において、因子負荷量が低い形容詞および因子負荷量は高いが複数の成分にまたがっている形容詞は、今回の印象の観測には適当でない形容詞と判断して除外することとした。よって、網掛け部分の形容詞「こもった」「鋭い」「うるさい」「うねりのある」は除外した。
【0136】
(9)変量の合成による因子推定
各形容詞には誤差が含まれているため、真値としての因子間の構造を分析するためには、形容詞から因子を推定する必要がある。そこで、偏相関分析で得られた各グループの形容詞に対し、因子分析を用いて合成変量化することにより印象因子を推定し、各因子を定義した。
【0137】
図24は衝撃感因子、図25は金属性因子、図26はこすれ感因子、図27は総合不快の説明図である。
【0138】
(10)共分散構造分析
推定した概念の検証を行った。SPSS社製ソフトAmos(構造方程式モデリングソフト)を用いた共分散構造分析を行った。試行錯誤の結果、こすれ感因子の存在がモデル全体の精度を下げていると予想されるため、2因子モデルとしてモデルを修正した。さらに、形容詞「ガチャガチャする」「衝撃感のある」「キンキンする」はモデル全体への適合度を下げているため除外し、再構築したモデルに対して精度の検証を行った。
【0139】
図28は再構築したモデルである。図28中の「e」は誤差である。パス係数は標準偏回帰係数で示され、絶対値が大きいほど関連が大きいことを示す。パス係数が負の符号となっているものもあるが、これは心理音響パラメータに互いに相関が高いものがあるため、調整因子的な作用として生じているものと考えられる。例えば、ラウドネスと音圧レベルは互いに相関が高いため、二つのパラメータの衝撃感因子に及ぼす影響には、音圧レベルの方が調整因子として働いていると見ることができる。
【0140】
モデル全体の適合度の目安としてはGFI、AGFIを使用した。得られたモデル全体のあてはまり精度はAGFIで0.942であり、精度の高いモデルと言える。よって、プリンタ音の因果モデルを2因子モデルと推定した。主な印象因子としては「衝撃感因子」「金属性因子」を抽出した。
GFI(Goodness of Fit Index:適合度指標)
AGFI(Ajusted Goodness of Fit Index:修正適合度指標)
であり、ともに値が1に近いほどデータへの当てはまりが良い。AGFIは自由度について調整した値と見なすことができ、「GFI≧AGFI」であり、GFIよりも厳しい指標である。
【0141】
(11)予測値と実測値の比較
ここで、図28のモデルに基づき、総合不快の計算を行う。音響物理量は、計測した値そのものではなく、標準化した値を用いる。標準化とは平均値や標準偏差が異なるデータを同じ土俵の上で見るための操作である。具体的には、(個々のデータ−平均値)/標準偏差を計算する(式1)。
【0142】
【数5】

【0143】
モデルによって算出される不快さと、被験者によるSD法実験の結果の不快さを比較する。ここでは、『不快な』についての比較を行う。
『不快な』はモデルより、0.9×総合不快、である。
これは標準化された値なので、SD法の実測値と比較するために元の値に戻す必要がある。このモデルによって予測される『不快な』は、標準化の逆変換を行う。よって、『不快な』の、平均値+標準化『不快な』×標準偏差、を求める。
【0144】
これらの計算結果を表にまとめたのが、表11〜13である。表11は、音響物理量を標準化した結果であり、表12は標準化した結果を用いて各因子と不快さを計算した結果であり、表13は平均値と標準偏差をまとめたものである。
【0145】
【表11】

【表12】

【表13】

【0146】
図29は、モデルによる予測値と、SD法による実測値の散布図である。散布図の傾きは1で、寄与率R2=0.73である。SD法の結果としては精度が高いほうである。よって、(式1)により、音響物理量から音の不快さを算出できるようになった。
【0147】
(12)不快さ許容領域
今回は、得られたモデルに対して、n=10000のデータを用いてシミュレーションを行った。まず、シミュレーションの方法を説明する。総合不快因子は、衝撃感因子と金属性因子で求められるので、衝撃感因子と金属性因子に対してそれぞれn=1000のランダムなデータを入力し、総合不快因子を算出する。
【0148】
表14でこの計算を詳細に説明する。実際に1000のシミュレーションデータを列挙するのは無意味なので、説明のためにその一部を示す。まず、A列、B列に正規乱数を入れる。これは正規分布(0を中心として左右対称の山型の分布)になるような乱数である。これは、因子分析の仮定に合わせるためである。正規乱数はエクセルの分析ツールより発生させることが出来る。
【0149】
図28のモデルより、衝撃感因子と金属性因子の間には0.46の相関がある。モデルでは衝撃感因子と金属性因子の誤差同士に0.46の相関がついているが、今、A列、B列は正規乱数を入れているので無相関である。
【0150】
ここで、モデルに合わせた形態にするため、A列、B列に0.46の相関を持たせるための変換を行う。そのため、主成分分析の考え方を用いた。主成分は互いに無相関(直交)するように求められる。また、元の変量と主成分の相関係数を因子負荷量といい、元の変量と主成分得点の関係は、相関係数(因子負荷量)を用いて表すことが出来る。この関係を用いて、正規乱数A、Bが無相関を確認して、主成分得点から相関係数を用いて逆算し、A列、B列が0.46の相関を持つ様に変換を行った。
【0151】
具体的には(式2)、(式3)で変換を行っている。AはA列の値、BはB列の値、rは相関係数0.46である。得られた結果は乱数を元に算出しているので衝撃性因子と金属性因子は、どちらを使用しても良い。本シミュレーションでは、表14の様に衝撃性因子と金属性因子を決めた。
【0152】
【数6】

【数7】

【0153】
図30にA列とB列の散布図、図31に変換した結果を示す。図30より、散布状態は無相関であり寄与率R2もほぼ0である。図31は散布状態に変化が見られ、寄与率R2は0.2049である。相関係数はRなので、寄与率R2より計算するとR=0.453となり、ほぼ正しいのでこれを使用する。
【0154】
総合不快因子は今決めた衝撃性因子と金属性因子の列に対して、総合不快因子=0.51×衝撃感因子+0.32×金属性因子、に従って求める。
【0155】
ここで、衝撃性因子、金属性因子、総合不快の関係を、図54の等高線図に示した。矢印は不快さの方向である。図28のモデル図および(式1)より、総合不快因子への係数が金属性因子が0.32に対し、衝撃感因子が0.51なので、約3:5の割合で衝撃感因子のほうが不快さへの寄与が高い。
【0156】
本方法では金属因子と衝撃感因子は互いに相関があるため、存在可能な音として、まず図54の様な相関関係に囲まれた領域を指定できる。つまり、金属感因子=−3.0、衝撃性因子=+1.0のような値を取るような画像形成装置の音は、現在のところ、ほぼ存在しない事を意味する。
【0157】
等高線は総合不快の値を0.5ずつ区切っている。この等高線の傾きは、不快の矢印と垂直である。原点を通過する等高線は総合不快が0(式4)の境界線であり、総合不快がゼロ以下(不快さが平均より小さい、つまり不快ではない領域)は、(式4)の直線と、相関で結ばれた領域で囲まれた部分(図54の黒い矢印で示す方向)となる。つまり、画像形成装置の音をこの領域内に入れるような設計をすれば、不快と感じない音になる。
【0158】
【数8】

【0159】
ところで、図28のモデルによると、総合不快には誤差e0が付いている。誤差は、個人差や測定していない因子、非線形関係等考えられる。誤差を考慮した不快ではない領域を考えてみる。
【0160】
表14において、誤差は制御不可能なので、このシミュレーションではC列として正規乱数を入れた。発生させた正規乱数を、このモデルで使用できるように変換させる。不快因子の平均はゼロで、標準偏差は1という仮定がある。その変動は、全平方和=(n−1)×1^2となる。モデルの平方和を計算し、全平方和からモデルの平方和を引いた残りが、誤差の平方和となる。そこから、標準偏差を計算して、正規化したのが総合不快誤差の列である。総合不快に総合不快誤差を加えたのが総合不快実測置と名称がついている列である。
【0161】
ここで、誤差を含んだ不快ではない領域を考える。誤差は誤差を含まないデータの両側に発生する。つまり、より不快になる誤差と、快になる誤差である。快になる誤差は今回考えなくて良く、誤差によって不快な領域がひろがってしまう部分を考える。
【0162】
これは、原点を通る境界直線(式4)に平行に、誤差の1.64倍の標準偏差(=約95%信頼率)を取った距離を平行移動すればよい。本実施形態では、エクセルで1000個の総合不快誤差の標準偏差を計算させた。その結果、標準偏差は0.7であった。
【0163】
つまり、(式4)と平行に、標準誤差0.7×1.64=1.15の距離を移動した境界線と、相関で結ばれた領域で囲まれた部分が誤差を考慮した不快ではない領域である。図55で示す領域がその領域になる。
【0164】
誤差を含んだ境界線は、傾きは(式4)と同じで、切片が異なる。式4からの平行移動距離が1.15であることから、誤差を含んだ境界線はの縦軸、横軸の交点を計算すると、縦軸との交点は約−2.16、横軸との交点は約−1.36となった。ここで、誤差を含んだ境界線の式を(式5)とした。つまり、画像形成装置の音をこの領域内に入れるような設計をすれば、誤差があったとしても不快と感じない音になる。
【0165】
【数9】

【0166】
<改造方法>
上述したように本発明は、上記のような画像形成装置が発する騒音を評価し、その評価に基づき当該騒音が人に与える不快感を低減するための対策をなす改造方法であり、以下、上記構成の画像形成装置を改造し、画像形成装置が発する音が人に不快感を与えることを低減するための対策の具体例について説明する。
【0167】
まず、画像形成装置が発する音を評価するため、上述した(1)と同様の手法で画像形成装置が発する音を採取する。ここで、採取位置は、ISO7779に規定されている近在者位置(図9参照)であり、基準箱の水平面の投影から1.00±0.03mの距離で、高さは床上1.2±0.03m、又は1.50±0.03mの位置である。
【0168】
また、図9に示すように、操作部のある前面、左右面および後面といった4面側すべてについて音の採取を行い、各々の収音結果から音響物理量を取得して総合不快を上記音質評価式により求め、各面ごとの総合不快が許容値内か否かを判定するようにしてもよいし、前面のみ、あるいはいずれか1の面側のみで採取した収音結果から総合不快を求めて判定を行うようにしてもよい。
【0169】
また、4面側で採取した音から得られた音響物理量の平均値を導出し、かかる平均値から求めた総合不快が許容値内か否かを判定するようにしてもよい。なお、4面側のいずれに位置する人が不快さを感じないようにさせるためには4面側すべての位置で音を採取することが好ましいが、1面のみ、特に最も人が位置する可能性が高い前面側での音を採取することでも十分な評価ができる。
【0170】
以上のようにして求めた総合不快が上述した許容領域外になる場合は、人が不快であると感じているおそれが非常に高いので、かかる総合不快が許容領域内となるよう装置各部に種々の改造を施す。一方、総合不快が許容領域内である場合には、人が不快に感じるおそれは少なく、特に騒音対策を施す必要はないと判断することができる。上述したように総合不快は、金属性因子、衝撃感因子をそれぞれ小さくすることで、人に与える不快さを低減できることになる。
【0171】
図28より、金属性因子は音響物理量のラウドネス、音圧レベル、シャープネス、トーナリティ、インパルシブネスに関係し、中でもトーナリティとの関係が大きい。また、衝撃感因子はラウドネス、音圧レベル、インパルシブネスに関係している。よって、以下においては、図1の画像形成装置を例に、上記の因子を低減させるための具体的な対策例について説明する。
【0172】
1.金属性因子の低減対策
(1)トーナリティ:純音成分の低減
(i)ドラム駆動ステッピングモータ音の低減
まず、純音成分の低減対策について説明する。純音成分の低減対策としては、ドラム駆動ステッピングモータ音を低減する方法がある。図10、図11、及び図12に示すように、いずれの動作モードにおいてもドラム駆動モータの音が発生している。そして、この音はステッピングモータへの入力パルスの周波数成分を多く含むものである。
【0173】
図32及び図33は、改造前のカラードラム駆動モータ41と黒ドラム駆動モータ42とを含むドラム駆動機構を示す図である。これらの図に示すように、カラードラム駆動モータ41、黒ドラム駆動モータ42、及びギヤ(43、44)は、モータブラケット59によって保持されている。
【0174】
モータブラケット59は、板金を絞り加工等で強度を持たせた部材である。そして、曲げ加工により当該画像形成装置の筐体取り付け部(ねじ穴等)が形成されており、モータブラケット59はこの取り付け部において筐体に固定されている。
【0175】
モータブラケット59には、並んで配置される4つのギヤ44が回転可能に保持されている。これらのギヤ44のうち、図32の右端のギヤ44と黒ドラム駆動モータ42のモータ軸に取り付けられたギヤ61とが歯合されている。これにより黒ドラム駆動モータ42によってギヤ44が回転し、これに伴ってモノクロ画像形成用の感光体ドラム28(図3に示す)が回転する。
【0176】
また、上記のギヤ44以外のギヤ44のうち、図32の左から2つのギヤ44は、カラードラム駆動モータ41のモータ軸62によって回転する。また、左から2番目のギヤ44と3番目のギヤ44とはともに中継ギヤ43に歯合されており、これにより2番目のギヤ44の回転に伴って3番目のギヤ44が回転する。つまり、カラードラム駆動モータ41の回転に伴って3つのギヤ44が回転し、これによりC・M・Yの感光体ドラム28(図3に示す)が同時に回転する。
【0177】
感光体ドラム28を駆動するギヤは、モジュール0.5でギヤの軸間距離を設計値に正確にあわせることができるよう、モータの取り付けに対して特殊な防振構造等を採用していない。つまり、黒ドラム駆動モータ42及びカラードラム駆動モータ41は、直接モータブラケット59に取り付けられて固定されている。
【0178】
このように、モータをモータブラケット59に直接取り付けることによって動作時のモータの振動がモータブラケット59に固体伝搬し、増幅されて放射される。これに起因して発せられる音は、ドラム駆動モータであるステッピングモータの駆動周波数成分を多く含む音である。
【0179】
このようなステッピングモータの駆動周波数成分が顕著な音の発生を低減するため、図34に示すように、カラードラム駆動モータ41及び黒ドラム駆動モータ42を、防振ゴムマウント60を介してモータブラケット65に取り付ける。すなわち、この防振ゴムマウント60は、モータの振動により発生する音を低減させる手段となる。
【0180】
防振ゴムマウント60としては、例えば、株式会社NOK製のステッピングモータマウントを使用することができ、後述する騒音対策による効果を試す試験においては当該ステッピングモータマウントを使用している。
【0181】
次に、モータブラケット65とドラム駆動モータとの間に防振ゴムマウント60を介在させたドラム駆動機構について図35及び図36を参照して説明する。
【0182】
防振ゴムマウント60をドラム駆動モータとモータブラケット65の間に介在させると、各ギヤの軸間距離の精度が悪化する。このため、このドラム駆動機構では、モータ軸を直接ギヤに歯合させるのではなく、モータ軸からタイミングベルト機構を介してギヤ44等に駆動力を伝達する構成とした。
【0183】
より具体的には、カラードラム駆動モータ41及び黒ドラム駆動モータ42のモータ軸にはそれぞれタイミングプーリ(66、67)を取り付け、かかるタイミングプーリ(66、67)に巻きかけられたタイミングベルト70によって二段ギヤ/プーリ(63、64)にモータの駆動力を伝達する。つまり、モータ軸の回転に伴って二段ギヤ/プーリ(63、64)を回転させる。
【0184】
かかる二段ギヤ/プーリのギヤは上述したドラム駆動用のギヤ44に歯合されている。これにより上記改造前の構成と同様、ドラム駆動モータの回転に伴ってギヤ44を回転させることができ、感光体ドラム28(図3に示す)を回転させることができる。
【0185】
モータブラケット65は、モータを保持する部分(図36の下側の部分)がその上の部分よりもモータと反対側に突出するよう曲げ加工がなされている。かかる突出部分にできた空間に防振ゴムマウント60がモータブラケット65と接するよう配置され、防振ゴムマウント60のモータブラケット65と反対側に、モータ(41、42)のモータ軸がモータブラケット65の反対側(図36の左側)の面に突出するよう配置される。このようにモータブラケット65とモータとを直接保持する構造とせず、防振ゴムマウント60を介在させて保持する構造としている。
【0186】
本構成では、二段ギヤ/プーリ(63、64)をモータブラケット65の図36の左側(ギヤ44が配置される側)に配置することにより、モータ軸をその分だけ図36の左側の位置まで突出させる必要がある。しかしながら、上記のようにモータブラケット65に突出部分を作ることで、モータの配置位置を図36の左側にすることでき、これによりモータ軸を長くする必要がなくなる。よって、モータ軸を長くすることで生じるおそれのあるモータ軸の偏心やそれに起因した騒音発生等を抑制することができる。
【0187】
なお、本構成においては、二段ギヤ/プーリ(63、64)を取り付けるためのスタッド69の強度を大きくすることが好ましい。スタッド69の強度が不足すると、ギヤ44と二段ギヤ/プーリ(63、64)とが偏心しながら噛み合うこととなり、ベアリング70を介してドラム軸68も偏心することになる。ドラム軸68の偏心は用紙に形成される画像に影響を与えることがあり、かかる不具合を起こさないため、スタッド69の強度を大きくすることが好ましい。また、上述した防振ゴムマウント60以外にも、モータの振動をある程度吸収することができる弾性体を用いるようにしてもよい。以上の構成により、ドラム駆動ステッピングモータ音の低減する。
【0188】
(ii)給紙用ステッピングモータ音の低減
次に、給紙用のステッピングモータ音の低減対策について説明する。上述したように上記画像形成装置の給紙用のモータは、ステッピングモータ83であり(図8に示す)、かかるステッピングモータの駆動を制御することでトレーからの用紙搬送を行う。このモータ音の低減対策としては、ステッピングモータ83の駆動制御内容を以下のようにする方法があり、以下その制御内容について説明する。
【0189】
図37は、ステップ角θ0で駆動されるステッピングモータのロータの動きを説明するための図である。ステッピングモータのステップ角は機械構造的に決められるものであり、通常はかかるステップ角θ0づつロータが一度に移動するため、かかるステップ角θ0が大きい場合にはその動きが滑らかではなく、振動等が生じ、騒音の原因となる。
【0190】
そこで、本構成では、図示のように電子回路による制御によって機械的構造によってきめられているステップ角θ0よりも小さいステップ角でステッピングモータを駆動する(いわゆるマイクロステップ駆動)。すなわち、励磁相の1相に供給する電流値を徐々に増加させる一方で、他の1相へ供給する電流値を徐々に低下させるといった電流供給制御を行うことで(図37(a)〜(e)に示す)、ステップ角θ0よりも小さいステップ角での駆動を可能とし、その動きを滑らかにして騒音を低減する。
【0191】
また、図38は、ステッピングモータのマイクロステップ駆動の1つである1−2相励磁のシーケンスを示す図である。1−2相励磁は、コイルを1相づつ励磁する1相励磁と、コイルを2相づつ励磁する2相励磁を交互に繰り返す励磁方式であり、この励磁方式を用いてステッピングモータを駆動した場合、モータのステップ角が1/2となり、通常の駆動を行うよりもロータの動きが滑らかになり、振動を低減することができる。
【0192】
(iii)ポリゴンミラーモータ音の低減(トーナリティ:純音成分の低減)
次に、ポリゴンミラーモータが発する音を低減するための対策について、図39を参照して説明する。同図に示すように、この対策では、ポリゴンミラーモータ2の近傍にヘルムホルツ共鳴器71を取り付けている。より具体的には、ポリゴンミラーモータ2を保持するハウジング11の上部にヘルムホルツ共鳴器71を取り付けている。
【0193】
ヘルムホルツ共鳴器71は、体積V1の空洞72を形成するための空洞形成部材72aを有している。空洞形成部材72aはハウジング11と一体になって形成されており、そのポリゴンミラーモータに対向する位置にある部分には空洞72に通じる開口穴73(断面積Sb)が形成されている。ここで、開口穴73が形成された部分の板厚がTbであるとすると、かかる開口穴73は一般的なヘルムホルツ共鳴器における、長さTb、開口面積Sbの短管に相当することになり、この構造体はヘルムホルツ共鳴器71として機能するのである。
【0194】
この構成の下、ポリゴンミラーモータ2が駆動され、その振動によって開口穴73の入り口に音圧が作用すると、開口穴73(短管)内の空気(媒質)が一体運動を行い、空洞72内の空気に圧力変化を生じさせる。このような現象は、開口穴73(短管)内の空気を質点、空洞72内の空気の体積変化による圧力変化をバネと仮定すると、力学系の質点−バネモデルと等価となり、後述する周波数(ヘルムホルツ共鳴周波数)に対して共振(共鳴)が生じることとなる。つまり、このヘルムホルツ共鳴周波数の音響エネルギーが空洞72に閉じ込められるので外部空間にとっては音が低減されることになるのである。
【0195】
ここで、ヘルムホルツ共鳴周波数Fh(Hz)は次式により算出される。
Fh=C/2π(Sb/(V1・Tb))1/2、C:音速
【0196】
すなわち、開口穴73の開口面積Sb、長さTb(つまりハウジング11の開口穴73が設けられる部分の板厚)、空洞形成部材72aによって形成される空洞72の体積V1を変化させることによって共鳴周波数Fh、つまり低減させたい音の周波数を変化させることができる。そこで、ポリゴンミラーモータ2を駆動したときに発生する音のうち、最もレベルが大きくなる周波数に合致するよう上記各部の寸法等を設計することにより、ポリゴンミラーモータ2の発する音を効果的に低減させることができる。
【0197】
なお、上述した騒音測定結果(図10〜12に示す)に示すように、カラーモード時にはポリゴンミラーモータ音が騒音として抽出されるものの、モノクロモード時には当該音はあまり騒音としては目立ったものとなっていない。このような場合、上記のようにカラーモード時にポリゴンミラーモータが発する音のうち、最もレベルが大きくなる周波数にヘルムホルツ共鳴周波数が合致するよう各部の寸法等を決定すればよい。一方、モノクロモード時に他の周波数のレベルが大きいような場合には、この周波数が共鳴周波数となるようなヘルムホルツ共鳴器を別途設けるようにすればよい。
【0198】
また、上記のように対応する周波数ごとにヘルムホルツ共鳴器を併設するようにしてもよいが、カラーモード時とモノクロモード時で開口穴73の開口面積Sbを変化させる機構を設けるようにしてもよい。例えば、開口穴73をある程度ふさぐ位置とふさがない位置との間で移動可能な蓋部材等を設け、かかる蓋部材をモードに応じて移動させることで、各々のモード時における共鳴周波数を各々のモード時にレベルが大きくなる周波数と合致するよう可変させるようにしてもよい。
【0199】
(iv)帯電音の低減
次に、帯電音の低減対策について説明する。帯電音とは、以下のようにして発生する音である。すなわち、帯電ローラ36が感光体ドラム28を帯電する際(図3に示す)、一般にバイアス電圧の交流成分に起因して帯電ローラ36の表面と感光体ドラム28の表面との間に引力と斥力が交互に作用し、両者の間に振動を生じさせる。この振動によって感光体ドラム28 が放射する音が帯電音であり、当該音は周杷数の高い耳障りな純音であり、一般的に交流成分の周波数とその整数倍の周波数成分(高調波成分)からなる。
【0200】
このような帯電音の低減対策について図40及び41を参照して説明する。図40に示すように、帯電音対策がなされた感光体ドラム28の中空部分には、制振部材74が配置されている。制振部材74は、感光体ドラム28の軸方向に延びる中空円筒状の基部75と、当該基部75から放射状に突出する複数の羽根部76とを有しており、基部75の中心軸が感光体ドラム28の中心軸と略一致するよう配置される。
【0201】
制振部材の各羽根部76の先端が感光体ドラム28の内面に圧接しており、これにより制振部材74が感光体ドラム28内において保持されている。ここで、羽根部76は、ゴム、樹脂またはこれらを含む材料、例えばウレタンゴムを含む材料、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂材料等の弾性材料によって構成されていることが好ましい。羽根部76として弾性材料を用いることによって、羽根部76の先端がその弾性力によって感光体ドラム28に圧接され、保持される。したがって、接着剤等による接着作業や位置だし作業が不要であるので、取り付け作業および取り出し作業が容易となるからである。
【0202】
上記のように感光体ドラム28の内面側に羽根部76が圧接するよう制振部材74を配置することで、かかる制振部材74が感光体ドラム28の振動を抑制するよう作用する。したがって、上述した帯電ローラ36による帯電の際に生じる感光体ドラム28の振動を抑制することができる。また、このように感光体ドラム28の振動を抑制するための部材が感光体ドラム28の内部に設置されているので、新たに制振部材を設置するスペースをとる等の対策を施す必要がない。
【0203】
なお、感光体ドラム28の振動を抑制して騒音を低減する手段としては、上記構成の制振部材74に限らず、感光体ドラム28の中空部分に金属柱を嵌合するといった対策を施すようにしてもよく、市販されている制振材(例えば、横浜ゴム株式会社製ハマダンパーなど)を貼り付ける等するようにしてもよい。
【0204】
(2)シャープネス:高周波成分の低減
(i)用紙摺動音の低減
次に、シャープネス(高周波成分)の低減対策について説明する。シャープネスの低減対策としては、用紙摺動音を低減する方法がある。なお、用紙摺動音とは、搬送される用紙が部材等と摺動することによって生じる音である。
【0205】
上述したように、複数モードを有する画像形成装置の第1トレー9又は第2トレー10に収容された用紙は、第1給紙ユニット51又は第2給紙ユニット52によって各トレーから繰り出され、中継ローラ53及び搬送ローラ55によってレジストローラ7の位置まで搬送される(図7に示す)。
【0206】
図42は、第1トレー9又は第2トレー10に収容された用紙を搬送して画像形成を行うとき(通常のプリント時)と、用紙を搬送せずにプリントを行うとき(フリーラン時)とで画像形成装置が発する騒音を測定して周波数分析(1/3オクターブバンド分析)した結果である。図43は、図42に示す分析結果に示される通常のプリント時とフリーラン時の騒音から得られる各周波数帯域の音圧レベル差を示すグラフである。
【0207】
すなわち、図43に示す周波数帯域ごとの音圧レベルは、用紙を第1トレー9又は第2トレー10から送り出して搬送するか否かに起因する画像形成装置が発する騒音内容の差であり、用紙を搬送することによって各周波数帯域で音圧レベルが増加していることがわかる。
【0208】
図43に示すグラフから、通常のプリント時とフリーラン時とで3(dB)以上の差があるのは、200〜250Hzを中心とした帯域と、3.15kHz以上の帯域の2つである。なお、3dB以上の差は、音響エネルギーが2倍以上の差があることになる。
【0209】
以上の分析結果を検討すると、200〜250Hzを中心とした帯域の成分は、用紙とレジストローラ7が衝突する際に発生する音に起因するものであることがわかった。一方、3.15kHz以上の周波数帯域の成分は、用紙搬送時に用紙が部材等に摺動することで発生する音に起因するものであることがわかった。
【0210】
また、12.5kHz〜16kHzを中心とした帯域では、7(dB)以上の差があり、またこの帯域はシャープネス値に与える影響が大きい。このことから、用紙摺動音の低減を図ることが騒音対策として効果的であることがわかる。
【0211】
以下、給紙ユニット、中継ローラ53、及び搬送ローラ55によって搬送される用紙の摺動音を低減するための対策について図44を参照して説明する。
【0212】
同図に示すように、搬送ローラ55は、複数のコロを軸に通したローラであり、用紙搬送路を挟んで対向配置されるローラ55aとローラ55bとを有している。そして、搬送路Aに沿って搬送される用紙(第1トレー9から繰り出された用紙)、又は搬送路Bに沿って搬送される用紙(第2トレー10から繰り出された用紙)はかかるローラ(55a、55b)間に案内され、ローラ(55a、55b)によってレジストローラ7に向けて搬送される。
【0213】
搬送ローラ55の近傍には、用紙を所定の経路に沿って搬送するためのガイド部材(80、81、82)が配置されている。ガイド部材80は、ローラ55aとともに搬送路Aに沿って搬送される用紙をローラ(55a、55b)間に案内する空間を形成する。また、ガイド部材80は、ガイド部材81とともに搬送路Bに沿って搬送される用紙をローラ(55a、55b)間に向けて案内する空間を形成する。ガイド部材80の搬送方向下流側(図44の上側)の部分には、用紙搬送方向(図の上下方向)に延びる可踏性シート(例えばマイラーシート)からなる案内部材77が取り付けられている。この案内部材77は搬送路(A、B)から搬送される用紙をローラ(55a、55b)間に向けて案内する。
【0214】
図45に示すように、案内部材77の先端部分におけるローラ55aと交錯しないように、ローラ55aが配置される位置には、切り欠き部分77aが裁断等することで形成されており、これにより用紙をその先端部分に接触させて確実にローラ(55a、55b)間に向けて案内する。
【0215】
したがって、図46に示すように搬送路Aからの用紙は、案内部材77の先端部分に摺動しながら搬送されることになる。従来の一般的な案内部材77は、可撓性シートを所定形状にせん断することによって作製されており、その先端部分(せん断部分)にはバリが出ているのが通常である。このようなバリを1枚づつ取り除くのは非常に困難な作業であり、コストと時間を要する。したがって、通常はこのような作業は行われず、バリがある先端部分と用紙が摺動し、耳障りな騒音が発生していた。
【0216】
そこで、本構成では、図47に示す構成の案内部材78を採用することで、上記のような用紙と案内部材77の先端部分が摺動することに起因する耳障りな騒音を低減することができる。
【0217】
図48に示すように、従来の可撓性シートからなる案内部材77は、所定の形状にせん断した厚さtの可撓性シートをそのまま案内部材77としているものであり、用紙が摺動する先端部分はせん断部分となっている。これに対し、図47に示す構成では、厚さt/2の可撓性シートを折り曲げて2枚重ねとしその折り曲げ部分が案内部材77の先端部分となるようにしている。このような構成の案内部材78を採用することで、上記のように搬送される用紙が摺動する先端部分は折り曲げ部分であり、せん断加工がなされていない部分であり、かつ滑らかなR形状となる。よって、上記のようなせん断加工部分にみられるバリに起因する耳障りな騒音の発生を低減することができるのである。また、2枚重ねとした厚みも従来の案内部材77と同様の厚みとなるため、必要とされる弾性力を発揮することもでき、案内部材としての機能に支障をきたすこともない。
【0218】
2.衝撃性因子の低減対策
上記構成の画像形成装置においては、インパルシブネスの発生はほとんど定着オイル塗布音に起因するものである(図10〜図12に示す)。定着オイル塗布音は、上述した構成の画像形成装置では、オイル消費量の増加を抑制するため、用紙が搬送されると、その都度、オイル塗布ユニット47を駆動して定着ベルト13と接触させる構成を採用している(図6に示す)。このような用紙が搬送される度に発生する接触・離間の音が、衝撃的に発生するので不快感を与えることになる。
【0219】
このような定着オイル塗布音による騒音問題は、画像形成のために用いるトナーとして、オイルレストナーを使用することで解消することができる。すなわち、かかるオイルレストナーは、トナーにワックスが包含されているので、上述したようにオイル塗布作業を行わなくても、定着ベルトと用紙との乖離性がよい。このため、オイル塗布ユニット47を利用する必要がなく、上述したオイル塗布ユニット47と定着ベルト13との接離に起因する衝撃音の発生を防止することができる。なお、オイルレストナーを使用するにあたっては、感光体ユニット3等の作像プロセス構成をオイルレストナーに適するよう修正する必要がある。
【0220】
これらの音源を低減することで、ラウドネス、音圧レベルの様な聞こえの大きさ、音のエネルギーも自動的に低減できる。
【0221】
以上が総合不快を低減する対策の具体例の一例である。以下に、上記のような対策を施した画像形成装置が発する音を、対策前の画像形成装置が発する音を測定した際と同様の条件で測定した結果である。なお、以下において比較する測定結果は、画像形成装置をカラー28ppmで動作させたときの音を採取することで得られたものである。
【0222】
図49に、カラー28ppm機の対策後における騒音の分析結果を示す。上側が時間軸の音圧の変化、下側が周波数軸の音圧レベルを示している。同図に示す対策後の分析結果と、対策前の分析結果(図10に示す)とを比較すると、周波数軸の比較より、給紙ステッピングモータ音は10(dB)程度低減され、帯電音は約5(dB)、ドラム駆動モータ音は約8(dB)低減され、ポリゴンミラーモータ音も10(dB)程度低減されている。
【0223】
また、時間軸の音圧の比較より、定着オイル塗布音もなくなった。以上のことから、上記対策を施すことによって各音源の発する音を低減させることができることがわかる。
【0224】
図50〜図53は、カラー28ppm機の前後左右4方向別の周波数分布を、対策前後で比較した結果である。各方向とも純音成分が低減している。また、4方向で原因は不明だが400Hzが上昇した。
【0225】
表14〜17に、カラー28ppm機の前後左右4方向別の改造前後における音響物理量、金属性因子、衝撃性因子、総合不快の値をまとめた結果を示す。表14は、カラー28ppmの対策前後の音響物理量であり、表15は、カラー28ppmの対策前後の標準化音響物理量であり、表16は、カラー28ppmの対策前後の金属性因子、衝撃性因子、総合不快である。これらの表からわかるように、各方向、4方向の平均値とも対策後の方が総合不快の値が下がっている。
【0226】
【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【0227】
図56は、シミュレーションによる音のプロットである。図57は、表16におけるマシンの改造前後の値をプロットした図であり、丸いプロットがマシン改造前のプロットであり、バツのプロットがマシン改造後のプロットである。
【0228】
また、図56及び57において、(式4)は誤差を含まない場合の境界であり、(式5)は誤差を含んだ場合の境界である。誤差を含まなければ、ほとんど不快感を与えることなく画像形成装置の改造がなされ、4方向の平均値でもほとんど不快さを感じない画像形成装置となったといえる。一方、誤差を考慮すると、図50〜図53の結果より、原因不明の400Hzを低減する事でさらに音質改善が期待でき、外装材によるさらなる遮音、吸音材の使用等、音源対策のほかに、空気伝搬音、固体伝搬音の対策を行うことで誤差を含んだ状態でもほとんど不快さを感じない画像形成装置となったといえる。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本実施形態に係わる画像形成装置の概略図である。
【図2】光学ユニットの概略図である。
【図3】感光体ユニット及び現像ユニットの断面図である。
【図4】感光体ユニットの構造を示す図である。
【図5】定着ユニットの外観図である。
【図6】定着ユニットの断面図である。
【図7】給紙部の構成を示す断面図である。
【図8】給紙部の構造を示す概略図である。
【図9】画像形成装置が発する騒音を検出する際の測定条件を示す図である。
【図10】画像形成装置から発せられる騒音の測定結果である。
【図11】画像形成装置から発せられる騒音の測定結果である。
【図12】画像形成装置から発せられる騒音の測定結果である。
【図13】本実施形態に係わる画像形成装置の概略図である。
【図14】画像形成装置から発せられる騒音の測定結果である。
【図15】因子分析のモデル図である。
【図16】因子分析のモデル図である。
【図17】因子分析のモデル図である。
【図18】因子分析のモデル図である。
【図19】因子分析のモデル図である。
【図20】因子分析のモデル図である。
【図21】因子とラウドネスの関係を示す散布図である。
【図22】因子とラウドネスの関係を示す散布図である。
【図23】14の形容詞についての関係を示す相関図行列である。
【図24】衝撃感因子の説明図である。
【図25】金属性因子の説明図である。
【図26】こすれ感因子の説明図である。
【図27】総合不快の説明図である。
【図28】共分散構造分析結果の再構築したモデル図である。
【図29】モデルによる予測値とSD法による実測値の散布図である。
【図30】A列とB列の散布図である。
【図31】A列とB列の散布図を変換した結果を示す図である。
【図32】改造前のカラードラム駆動モータと黒ドラム駆動モータとを含むドラム駆動機構を示す図である。
【図33】改造前のカラードラム駆動モータと黒ドラム駆動モータとを含むドラム駆動機構を示す図である。
【図34】改造後のカラードラム駆動モータと黒ドラム駆動モータとを含むドラム駆動機構を示す図である。
【図35】改造後のカラードラム駆動モータと黒ドラム駆動モータとを含むドラム駆動機構を示す図である。
【図36】改造後のカラードラム駆動モータと黒ドラム駆動モータとを含むドラム駆動機構を示す図である。
【図37】ステップ角θ0で駆動されるステッピングモータのロータの動きを説明する図である。
【図38】ステッピングモータのマイクロステップ駆動の1つである1−2相励磁のシーケンスを示す図である。
【図39】ポリゴンミラーモータの近傍にヘルムホルツ共鳴器を取り付けた機構を示す図である。
【図40】帯電音対策がなされた感光体ユニットの断面図である。
【図41】帯電音対策がなされた感光体ドラムの外観図である。
【図42】通常のプリント時とフリーラン時とで画像形成装置が発する騒音を測定して周波数分析した結果である。
【図43】図42に示す分析結果に示される通常のプリント時とフリーラン時の騒音から得られる各周波数帯域の音圧レベル差を示すグラフである。
【図44】用紙の摺動音を低減するための対策を施した搬送ユニットの概略図である。
【図45】用紙の摺動音を低減するための対策を施した搬送ユニットの構造図である。
【図46】用紙の摺動音を低減するための対策を施した搬送ユニットの構造図である。
【図47】案内部材の具体的な構造を示す図である。
【図48】案内部材の具体的な構造を示す図である。
【図49】カラー28ppm機の騒音対策後における騒音の分析結果である。
【図50】カラー28ppm機の前後左右4方向別の周波数分布を対策前後で比較した結果である。
【図51】カラー28ppm機の前後左右4方向別の周波数分布を対策前後で比較した結果である。
【図52】カラー28ppm機の前後左右4方向別の周波数分布を対策前後で比較した結果である。
【図53】カラー28ppm機の前後左右4方向別の周波数分布を対策前後で比較した結果である。
【図54】衝撃性因子、金属性因子、及び総合不快の関係を示す等高線図である。
【図55】衝撃性因子、金属性因子、及び総合不快の関係を示す等高線図である。
【図56】シミュレーションによる衝撃性因子、金属性因子、及び総合不快の関係を示す等高線図である。
【図57】表16に示す改造前後の衝撃性因子、金属性因子、及び総合不快の関係を示す等高線図である。
【符号の説明】
【0230】
1 光学ユニット
2 ポリゴンミラーモータ
3 感光体ユニット
4 現像ユニット
5 転写ユニット
6 Pセンサ
7 レジストローラ
8 給紙トレー
9 第1トレー
10 第2トレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置が画像形成動作時に発する音を評価する音質評価方法であって、
画像形成時に発生される複数種類の音をSD法により評価する評価工程と、
前記評価工程による評価結果について因子分析する因子分析工程と、
音の音響物理量と、因子と、不快さとについて共分散構造分析する共分散構造分析工程と、
前記共分散構造分析工程による分析結果より、前記音響物理量と、一つ以上の音質にかかわる因子と、不快さ因子との関係を説明するモデル、及び音質にかかわる因子と不快さ因子との関係を表す(式1)を導出する工程と、
【数1】

画像形成時に発生される音の音響物理量から実在する音の領域、及び不快でない領域を設定する工程を有することを特徴とする音質評価方法。
【請求項2】
不快でない領域を(式4)により設定したことを特徴とする請求項1記載の音質評価方法。
【数2】

【請求項3】
画像形成装置が画像形成動作時に発する音を評価する音質評価方法であって、
画像形成時に発生される複数種類の音をSD法により評価する評価工程と、
前記評価工程による評価結果について因子分析する因子分析工程と、
音の音響物理量と、因子と、不快さとについて共分散構造分析する共分散構造分析工程と、
前記共分散構造分析工程による分析結果より、前記音響物理量と、一つ以上の音質にかかわる因子と、不快さ因子との関係を説明するモデル、及び音質にかかわる因子と不快さ因子との関係を表す(式1)を導出する工程と、
【数3】

画像形成時に発生される音の音響物理量から実在する音の領域、及び誤差を考慮して不快でない領域を設定する工程を有することを特徴とする音質評価方法。
【請求項4】
誤差を考慮して設定される不快でない領域は(式5)によって設定されることを特徴とする請求項3記載の音質評価方法。
【数4】

【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の音質評価方法により設定された不快でない領域の音を発生することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【公開番号】特開2007−205727(P2007−205727A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21553(P2006−21553)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】