説明

異常行動検知装置

【課題】監視空間の状態変化が生じても的確に異常行動を検知する。
【解決手段】対象物体を追跡して対象物体毎の移動パターンを求める追跡手段51と、監視空間にある対象物体の数が所定数未満である閑散状態から所定数以上である混雑状態への変化を検出する混雑状況検出手段55と、混雑状態への状態変化が検出された後、移動パターンを相互に比較して一致頻度を求め、一致頻度が所定数以上である移動パターンを混雑状態時の正常パターンとする正常パターン設定手段53と、混雑状態時の正常パターンを記憶する記憶手段4と、混雑状態時における移動パターンを混雑状態時の正常パターンと比較し、当該移動パターンが混雑状態時の正常パターンと一致しない場合に異常と判定する異常判定手段54と、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視空間内の対象物体の移動パターンに基づいて異常行動を検出する異常行動検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、画像変化により検出された物体の移動経路、形状特徴量、形状変化率を利用して、監視領域内の不審者及び不審物の有無を検出する監視装置が開示されている。ここで、物体の移動軌跡が予め設定された不審領域を通過しているか、正常領域内にあるか、又は滞留しているかに基づいて不審者や不審物を検出している。
【0003】
【特許文献1】特開平4−273689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、監視空間において混雑状態や監視空間内の設備の状況が変化すると、この変化に伴って正常な人や物の移動パターンも変化する。したがって、人や物の動きが正常であるか否かを判定するための移動パターンの基準も変更しなければならない。
【0005】
例えば、自動現金取引装置(ATM)が設置された監視空間において、閑散時に人が留まっている場合には異常と判断されるべきであるが、混雑時は待ち行列における正常な滞留が発生する。また、特定の領域への人の侵入や通過が正常であるか否かは混雑状態やATMの稼働状況によって変化する。
【0006】
そのため、様々に変化する状況下において予め設定された一定の基準に基づいて判定を行っていると不審者や不審物を検知し損ねる、又は、不審者や不審物でないものを誤検知してしまうおそれがあった。
【0007】
一方、監視空間の状況変化に応じた判定基準の変化は多岐に亘るため、総ての状況に対応するための判定基準を予め設けておくことは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、監視空間の状態変化が生じても的確に異常行動を検知できる異常行動検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、監視空間における対象物体を追跡して前記対象物体毎の移動パターンを生成する追跡手段と、前記追跡を参照して、前記監視空間にある前記対象物体の数が所定数未満である閑散状態から前記所定数以上である混雑状態への変化を検出する混雑状況検出手段と、前記混雑状態への変化が検出された時点を開始時点とする所定の設定期間において生成された前記移動パターンを相互に比較して一致頻度を求め、前記一致頻度が所定頻度以上である前記移動パターンを前記混雑状態時の正常パターンとする正常パターン設定手段と、前記混雑状態時の正常パターンを記憶する記憶手段と、前記混雑状態時における前記移動パターンを前記混雑状態時の正常パターンと比較して異常を判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする異常行動検知装置である。
【0010】
ここで、前記混雑状況検出手段は、前記混雑状態から前記閑散状態への変化をさらに検出し、前記異常判定手段は、前記閑散状態における前記移動パターンを予め定めた閑散状態時の正常パターンと比較して異常を判定することが好適である。
【0011】
また、前記監視空間に設置され前記対象物体の利用に供される設備の稼働状態の変化を検出する稼働状況検出手段をさらに備え、前記正常パターン設定手段は、前記混雑状態への変化、又は、前記稼働状態の変化が検出された時点を前記開始時点とすることが好適である。
【0012】
また、前記正常パターン設定手段は、前記混雑状態への変化が検出された後に生成された前記移動パターンの数に応じて前記設定期間の終了を決定することが好適である。
【0013】
また、前記異常判定手段は、前記正常パターン設定手段において前記一致頻度が前記所定頻度未満であった前記移動パターンを異常と判定することが好適である。
【0014】
また、前記追跡手段は、前記監視空間を順次撮像する撮像手段により撮像された画像から前記移動パターンを求めることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、監視空間の状態変化が生じても的確に異常行動を検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態における異常行動検知装置1は、図1に示すように、撮像部2、操作部3、記憶部4、制御部5及び出力部6を含んで構成される。異常行動検知装置1は、監視空間を撮像し、その監視画像を画像処理して不審者や不審物を検知する。撮像部2、操作部3、記憶部4、制御部5及び出力部6は互いに情報伝達可能に接続される。
【0017】
なお、本実施の形態では、監視空間であるATMコーナーにおいて対象物体である人の移動パターンを正常パターンと比較することにより、不審者の異常行動を検知する処理を例に説明する。ただし、これに限定されるものではなく、流通化に置かれる商品等の物品、通行する車等の異常行動を検知する場合等にも適用することができる。
【0018】
撮像部2は、CCD素子やC−MOS素子等の撮像素子、光学系部品、アナログ/デジタル変換器等を含んで構成される所謂監視カメラである。撮像部2は、監視空間を所定時間間隔にて撮像し、その監視画像を制御部5へ順次出力する。以下、この所定時間間隔を時間の単位として時刻と称する。本実施の形態において、撮像部2は、監視空間の天井に光軸を鉛直下方に向けて配置されているものとする。なお、撮像部2は、複数台の監視カメラを含んで構成してもよい。
【0019】
操作部3は、異常行動検知装置1へ情報を入力するためのキーボードやマウス等の入力装置を含んで構成される。操作部3は、異常行動検知装置1の管理者が各種設定の入力のために用いる。
【0020】
記憶部4は、ROMやRAM等のメモリ装置で構成される。記憶部4は、制御部5からアクセス可能に接続される。記憶部4は、各種プログラム、各種データを記憶する。これら各種プログラムや各種データは、制御部5より読み出されて使用される。各種データには、監視画像、移動パターン40、正常パターン41、物体識別情報42が含まれる。
【0021】
制御部5は、CPU、DSP、MCU、IC等の演算回路を含んで構成される。制御部5は、撮像部2、操作部3、記憶部4及び出力部6と情報伝達可能に接続される。制御部5は、追跡手段51、混雑状況検出手段55、稼働状況検出手段56、正常パターン設定手段53、異常判定手段54等の各手段での処理を記述したプログラムを記憶部4から読み出して実行することにより信号処理手段として機能する。また、制御部5は、異常判定手段54としての処理を行った際に異常を検出すると異常信号を出力部6へ出力する。
【0022】
出力部6は、異常信号が入力されると報知音を出力するスピーカー、ブザー等の音響出力手段を含んでなる。また、異常信号が入力されると異常に係る不審者の移動パターンや画像を表示する表示手段を含んでもよい。
【0023】
また、コンピュータをネットワークや電話回線に接続するためのインターフェースを含んでもよい。この場合、異常行動検知装置1は、電話回線やインターネット等の情報伝達手段を介して、センタ装置(図示しない)に情報伝達可能に接続される。異常行動検知装置1とセンタ装置とは、電話番号やネットワークアドレスを用いて情報の送受信を行う。なお、センタ装置は、監視員等が滞在する監視センタ等に設置されるホストコンピュータである。センタ装置は、異常行動検知装置1からの通報情報を受信する通信部、通報情報を表示する表示部等を含んで構成される。
【0024】
以下、異常行動検知装置1における処理について、図1の機能ブロック図並びに図2及び図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0025】
異常行動検知装置1に電源が投入されると、各部、各手段としての処理が開始され、所定の初期化が行われる(S10)。制御部5は、混雑レベルをC0、稼働状態を初期状態、正常パターン41を稼働状態の閑散時パターンに設定し、設定期間中フラグ及び設定期間終了フラグを0に初期化する。また、監視画像内のATMの設置領域や出入口領域が記憶部4に記憶されていなければ操作部3等によりこれらを設定させる。各設定の詳細は後述する。
【0026】
ここで、監視画像から抽出される移動パターンについて説明する。移動パターンとは、対象物体となる人の位置の履歴情報を意味する。監視画像に撮られた人の位置を取得し、人が監視空間に現れてから立ち去るまでの間の各時刻において取得された各人の位置を時系列に並べて移動軌跡を追跡して移動パターンを求める。すなわち、既存の人体領域抽出処理等の画像処理によって監視画像に写された対象物体の位置のxy座標を求め、同一の対象物体として識別された対象物体の位置のxy座標の系列が移動パターンとなる。なお、対象物体の識別は物体識別情報42に基づいて行うことができる。物体識別情報42は、対象物体を識別する情報であり、対象物体毎にその人体領域の像から抽出された色ヒストグラム等の画像の特徴量である。物体識別情報42を対象物体毎に記憶部4に登録し、登録以降の各時刻において抽出された人体領域の像を特徴と比較することによって、各対象物体を識別して追跡処理することができる。
【0027】
図4(a)に正常な移動パターン40の例を模式的に示す。以下、図4(a),図4(c),図5(b),図5(c)における菱形記号の重心が各時刻における対象物体の位置を示すものとする。図4(a)では、監視画像の枠70内において{(55,8),(60,12),(75,28)・・・(43,10)}というxy座標の系列で表される移動パターンが示されている。
【0028】
また、監視画像には監視空間に設置されたATMの設置領域71−1,71−2,71−3及び監視空間への出入口領域72が設定される。設置領域71や出入口領域72は、管理者が操作部3を用いて設定することができ、記憶部4に記憶される。
【0029】
さらに、本実施形態では移動パターン40のパターンマッチングをより適切に行うために、監視空間が撮像された画像を予め複数の小領域に分割して小領域毎に識別符合を付しておき、上述した対象物体の各位置と対応する小領域の識別符合の系列を移動パターン40とする。
【0030】
図4(b)の例では、x軸方向及びy軸方向をそれぞれ5分割して25個の小領域A1〜A25を設定している。この場合、図4(a)に示した移動パターン40は、図4(c)のように{A22,A23,A18・・・A22}と示すことができる。
【0031】
このように求められる移動パターン40のうち正常な対象物体の移動パターン40を正常パターン41とする。正常パターン41とは、監視空間において高頻度に出現する移動パターン40を意味する。正常パターン41は複数の移動パターン40から構成されてもよい。
【0032】
本実施の形態では、正常な移動パターン40を公知のHMM(Hidden Markov Model:隠れマルコフモデル)によりモデル化し、正常な移動パターン40に対応するモデルを学習させることで正常パターン41を生成する。一般的なHMMのモデルは各状態の集合、各状態において観測されるシンボルの集合、及び各状態間を遷移する確率である状態遷移確率、各状態の初期状態確率により構成される。移動パターン40のHMMによるモデル化は上記各小領域を状態及びシンボルに割り当て、対象物体が各小領域間を移動する確率及び各小領域に留まる確率を状態遷移確率とし、その際のシンボル出力確率及び初期状態確率を定義することにより行うことができる。
【0033】
図4の例では、状態遷移確率及びシンボル出力確率は25×25次元のマトリクスで表され、初期状態確率は25次元のベクトルで表される。
【0034】
正常パターン41の学習は、正常な移動パターン40をシンボル列として公知のBaum−Welchアルゴリズムを適用し、正常な移動パターン40の生成確率、すなわち、そのシンボル列の生成確率を最大化するようなシンボル出力確率、状態遷移確率及び初期状態確率といった値を算出することにより行うことができる。
【0035】
図5(a)は、図4(a)の移動パターン40で学習させたモデルのイメージ図である。図中、丸印は状態、矢印は状態遷移、矢印に附記された数値は状態遷移確率を示している。例えば、A23からA18への状態遷移確率、A18からA13への状態遷移確率・・・A3からA3への状態遷移確率等、図4(a)の正常な移動パターン40に対応する部分の状態遷移確率は高い数値を示す。一方、A23からA24への状態遷移確率、A13からA13への状態遷移確率・・・等、正常な移動パターン40と合致しない状態遷移確率は低い数値となる。
【0036】
なお、HMM、後述するBaum−Welchアルゴリズム及びForwardアルゴリズムは論文"A Tutorial on Hidden Markov Model and selected Applications in Speech Recoqnition" L.R.Rabiner, Proceeding if The IEEE, Vol.77, No.2, pp267-295(1989)等に詳説されている。
【0037】
ここで、監視空間の状態は、ATMの利用者の待ち行列が発生しない閑散状態と、待ち行列が発生しがちな混雑状態に大別される。上記のとおり、対象物体の正常行動は監視空間の混雑状態やATM等のサービス設備の状態によって変化する。本発明では、これらの変化に対応すべく、監視空間の混雑状態及び設備の稼働状態に対応させて正常パターン41を設定する。このうち、閑散状態に適応させた正常パターン41を閑散時パターンと称し、混雑状態に適応させた正常パターン41を混雑時パターンと称する。閑散時パターンは、異常行動検知装置1を設置した際等に予め正常な移動パターン40を発生させて予め生成及び記憶しておくことが好適である。閑散時の正常な移動パターンは稼働中のATMを利用する典型的な行動であるため、事前に収集することは容易であり、また、実観測するまでもなく事前のシミュレーションによって得ることもできる。一方、混雑時パターンは、監視空間が混雑状態となる毎に実際に監視空間において得られた移動パターン40に基づいてその都度生成し、記憶部4に登録される。
【0038】
初期設定(S10)が終了すると、撮像部2から制御部5へ新たな監視画像が入力される毎にステップS20〜S60の処理が繰り返される。
【0039】
新たな画像が入力される(S15)と、制御部5の追跡手段51は、公知の背景差分処理又は公知の相関処理により新たに入力された画像から変化領域を抽出し、抽出された変化領域の画像の特徴量を対象物体毎に登録された物体識別情報42と比較して一致する変化領域の位置(重心位置)を求め、求められた位置をその対象物体の移動パターン40に追加記憶させる(S20)。
【0040】
ここで、追跡手段51は一時刻前まで追跡中であったが現時刻において物体識別情報42と一致しなくなった対象物体については監視空間から外れてしまったものとして移動パターン40の生成を完了する。このとき、追跡手段51は、その移動パターン40に生成完了時刻として現時刻を関連付けて登録する。これにて、その対象物体は次時刻以降の追跡処理から外される。また、生成された移動パターン40が異常判定手段54及び正常パターン設定手段53へ出力される。
【0041】
また、追跡手段51は一時刻前まで追跡中であった対象物体の物体識別情報42のいずれとも一致しなかった変化領域は、新たに監視空間に現れた対象物体によるものであるとして、その変化領域の位置を初期値とする新たな移動パターン40を登録する。また、追跡手段51はその変化領域の画像の特徴量を新たな対象物体の物体識別情報42として登録する。これにて、その対象物体は次時刻以降の追跡処理の対象となる。
【0042】
続いて、必要に応じて正常パターン41の設定処理(S25)が行われる。正常パターン41の設定処理は、図3のサブルーチンに沿って処理される。以下の処理が、状態変化検出手段52及び正常パターン設定手段53に相当する。
【0043】
制御部5は、設定期間終了フラグが1に設定されていれば、設定期間終了フラグを0にリセットするとともに、設定期間中に生成され不要となったデータを初期化、破棄する後処理を行う(S250)。
【0044】
制御部5の混雑状況検出手段55は、追跡手段51による追跡結果を参照して、現時刻における追跡中の移動パターン40の数から現在の監視空間の混雑レベルを求め、求められた混雑レベルを記憶部4に記憶されている一時刻前の混雑レベルと比較して監視空間の混雑状態の変化の有無を検出する(S251)。
【0045】
具体的には、混雑状況検出手段55は、追跡手段51が現時刻において追跡中の移動パターン40の数を計数し、計数結果を予め設定された閾値と比較して現時刻の混雑レベルを判定する。
【0046】
例えば、本実施の形態では、第1の閾値及び第1の閾値より大きな第2の閾値により混雑レベルをC0,C1,C2の3段階に分類する。対象物体の数が、第1の閾値より小さい場合は閑散状態を示す混雑レベルC0とし、第1の閾値以上であり第2の閾値より小さい場合を混雑レベルC1とし、第2の閾値以上である場合を混雑レベルC2とする。例えば、第1の閾値は待ち行列ができない程度の数に設定し、第2の閾値は待ち行列が定常化する程度の数に設定することが好適である。
【0047】
また、追跡処理の途中で得られる監視画像の変化領域の数の変化から混雑状態の変化を求めることもできる。また、変化領域の面積を対象物体の単位面積で除して混雑状態の変化を求めることもできる。
【0048】
さらに、制御部5の稼働状況検出手段56は、監視画像を分析してATMの稼働状態を求めるとともに、求められた稼働状態を記憶部4に記憶されている一時刻前の稼働状態と比較して稼働状態の変化の有無を検出する(S251)。
【0049】
サービス設備であるATMの設置場所に相当する監視画像内の領域は設置領域としてステップS10にて設定されている。サービス設備においては稼働中と停止中とで異なる画面表示やランプ表示が行われる。稼働状況検出手段56は、各設置領域の画像変化を検出することによって個々のサービス設備の稼働/停止を検出し、これらの稼働/停止の組み合わせを稼働状態として検出する。また、稼働状態の変化は、サービス設備又はサービス設備を制御するシステム等の外部装置から稼働状態を示す信号を受信することによって検出してもよい。
【0050】
例えば、図4(a)に示した監視画像では、3つのATM71−1,71−2,71−3について稼働中又は停止中の稼働状態を求める。すなわち、最大で8通りの稼働状態を採り得ることになり、混雑レベルを3段階に分けた場合には監視空間の状態は最大で24通りとなる。以下の説明では、稼働状態をF1〜F8で示す。また、混雑状況検出手段55及び稼働状況検出手段56は、次時刻での処理のために、現在の混雑レベル及び稼働状態を記憶部4に記憶させる。なお、状態変化が生じたときだけ混雑レベル及び稼働状態を更新するものとしてもよい。
【0051】
ここで、監視空間が閑散状態から混雑状態へ変化すると、監視空間での待ち行列が発生し、それまで異常行動とされていた位置での滞留等が正常行動となる。また、待ち行列を回避するための変則的な移動も正常行動となる。さらに、待ち行列のでき方は対象物体の個々の判断により様々であり、同じ混雑状態であっても混雑レベルの変化やサービス設備の稼働状態によって影響を受ける。このような多様な正常行動を網羅した正常パターン41を予め用意しておくことは困難である。一方で混雑状態から閑散状態へ変化すると、待ち行列が発生しなくなり、正常行動が変化する。また、同じ閑散状態であってもサービス設備の稼働状態の変化によって正常行動が変化する。但し、閑散状態では混雑状態とは異なり、短時間で多くの移動パターン40を得難い。そこで、これらの状態変化に適応した異常判定基準を設定すべく混雑状態変化や稼働状態変化が検出されると、以下の正常パターン設定処理が実行される。
【0052】
混雑状態及び稼働状態のうち少なくとも一方の変化が検出されると、制御部5の正常パターン設定手段53は、正常パターン設定処理を開始する。正常パターン設定手段53は、状態変化があったこと確認すると(S252にてYES)、混雑レベルから現在の監視空間が閑散状態(C0)か混雑状態(C1,C2)かを確認する(S253)。
【0053】
現在の監視空間が閑散状態であれば(S253にてNO)、制御部5は、現在の稼働状態に応じた閑散時パターンのみを有効化することで正常パターン41を閑散時パターンに切り替える(S254)。また、現在の稼働状態に対応しない閑散時パターンは無効に設定し、混雑時パターンが記憶されていれば破棄する。
【0054】
例えば、図6(a)に示すように閑散時パターンが登録されている場合、現在の稼働状況がF1であれば、図6(g)に示すように第1番目及び第2番目の閑散時パターンが有効に設定され、他の閑散時パターンは無効に設定される。
【0055】
その後、処理をステップS30に移行させる。ここで、ステップS253にてNOであることは、稼働状態が維持された上で混雑状態から閑散状態への移行を示す混雑レベルC1又はC2からC0への変化が生じた、混雑レベルの変化と稼働状態の変化が共に生じた、閑散状態が維持された上で稼働状態の変化が生じたことのいずれかであることを意味する。
【0056】
一方、現在の監視空間が混雑状態であれば(S253にてYES)、ステップS255にて、制御部5は、設定期間中フラグを1に書き換えることで設定期間の開始を設定する。また、総ての閑散時パターンを無効に設定すると共に、混雑時パターンが記憶されていれば総て破棄する(図6(a))。ここで、S253にてYESであることは、稼働状態が維持された上で閑散状態から混雑状態への移行を示す混雑レベルC0からC1又はC2への変化が生じた、稼働状態が維持された上で混雑の緩和を示す混雑レベルC2からC1への変化が生じた、上記混雑レベルの変化と稼働状態の変化が共に生じた、一時刻前の混雑レベルが維持された上で稼働状態の変化が生じたことのいずれかであることを意味する。
【0057】
なお、状態変化がなかった場合(S252にてNO)、ステップS253からS255の処理はスキップされる。
【0058】
続くステップS256にて、正常パターン設定手段53は、設定期間中フラグを参照し、フラグが1であれば設定期間中であるとして(S256にてYES)、記憶部4を参照してステップS20にて新たに生成完了した移動パターン40が存在するか否かを確認する(S257)。
【0059】
新たに生成された移動パターン40があれば(S257にてYES)、正常パターン設定手段53は、その移動パターン40と各仮登録パターンとの間の尤度を算出して基準値と比較し(S258)、基準値を超えて一致する仮登録パターンがあれば(S259にてYES)、そのうち最も高い尤度が算出された仮登録パターンに関連付けて登録されている一致頻度を1だけ増加させ、一致した移動パターン40の識別番号のリスト(図6の一致リスト)に新たに一致した移動パターン40の識別番号を付加する(S260)。
【0060】
一方、仮登録パターンが未だ登録されていない場合、又は、一致する仮登録パターンがない場合、正常パターン設定手段53は、新たに生成完了した移動パターン40で学習させたモデルを新たな仮登録パターンとして記憶部4に追加登録させる(S261)。このとき、その仮登録パターンと関連付けて一致頻度と一致リストも登録する。一致頻度は1に初期化し、一致リストは、その仮登録パターンの学習に用いた移動パターンの識別番号で初期化する。
【0061】
図6(b)は、1つ目の識別番号#50を有する移動パターン40が第1番目の混雑時パターンとして仮登録された例である。図6(c)は、時刻が進んで、2つ目の識別番号#51を有する移動パターン40が第1番目の混雑時パターンと一致したときの登録例を示す。
【0062】
こうして、設定期間中に生成完了した移動パターン40が規定数Nに到達するまで、移動パターン40について相互比較及び一致頻度の計数が繰り返される。移動パターン40の生成数が規定数Nに達すると(S262にてYES)、正常パターン設定手段53は、設定期間の終了を決定し、記憶されている一致頻度のそれぞれを頻度閾値と比較して一致頻度が頻度閾値以上である仮登録パターンを混雑時パターンとして確定させる(S263)。そして、設定期間中フラグを0にリセットし、設定期間終了フラグを1に設定することで設定期間を終了する(S264)。
【0063】
図6(d)は、ステップS263の処理直前の仮登録パターンの登録例であり、図6(e)はステップS263の処理後の登録例を示す。ここで、規定数Nは40、頻度閾値は10であるとする。第1番目から第3番目の仮登録パターンは一致頻度が頻度閾値以上であるので混雑時パターンとして確定され、第4番の仮登録パターンは一致頻度が頻度閾値未満であるので混雑時パターンとして確定されない。
【0064】
図7は設定期間を説明する図である。図7の横軸は時間であり、各帯は対象物体毎の監視空間での滞在時間を表している。時刻TCにおいて状態変化が検出され設定期間が開始される。時刻T0は、状態変化の検出後に生成が完了した1個目の移動パターンが新規登録された時刻であり、時刻TNは状態変化の検出後にN個目の移動パターンの生成が完了した時刻である。すなわち、時刻TCから時刻TNまでが設定期間となり、この間に生成が完了したハッチングを施した帯で示す移動パターン40が混雑時の正常パターン41の設定に用いられる。
【0065】
以上の処理が終了すると、処理はステップS30へ移行される。以上のように、本実施の形態における異常行動検知装置1では、実際の移動パターン40に基づいて混雑時の正常パターン41を設定するので正常パターン41を予め網羅的に用意しておく必要がなく、混雑状態における多様な異常判定の基準の変化に対応させることができる。また、閑散状態と比べて、混雑状態では短時間に多くの対象物体の移動パターン40が得られるので正常パターン41の設定を速やかに行うことができる。
【0066】
また、設定期間中に生成された移動パターン40の数が予め定められた規定数Nとなった時点で設定期間を終了するので、混雑度が高くなるほど設定期間が短縮され、以下の異常判定処理へ迅速に移行することができる。
【0067】
また、閑散状態への変化が検出された場合には、閑散状態に適応させ、さらにサービス設備の稼働状態毎に適応させた閑散時パターンに正常パターン41を切り替えることによって、異常判定処理を的確に行うことができる。また、予め登録された閑散時パターンに切り替えるだけであるため、短時間で多くの移動パターン40を得難い閑散状態であっても正常パターン41の設定を速やかに行うことができる。
【0068】
制御部5は、設定期間中フラグを参照し(S30)、フラグが1であれば設定期間中であるとして(S30にてYES)、異常判定を行わずに処理をステップS15へ戻す。以下の処理が異常判定手段54に相当する。
【0069】
一方、設定期間中でない場合(S30にてNO)、制御部5は、設定期間終了フラグを参照し(S35)、当該フラグが1であれば設定期間終了直後であるとして(S35にてYES)、設定期間中の移動パターン40についての異常判定処理を行う(S40)。
【0070】
ステップS40の異常判定処理では、制御部5は、記憶部4に登録されている仮登録パターンの一致頻度を参照して閾値と比較し、一致頻度が閾値未満である仮登録パターンがあれば、当該仮登録パターンに関連付けて登録されている識別番号で特定される移動パターンが異常であったと判定する。異常の場合には異常信号を出力部6へ出力する。例えば、図6の例では、識別番号#78の移動パターンが異常であったと判定される。
【0071】
なお、一時刻後のS250において、設定期間終了フラグはリセットされ、図6(e)のテーブルで利用状態が破棄となっている第4番目の混雑時パターンは記憶部4から削除され(図6(f))、一致頻度及び一致リストのデータはクリアされる。
【0072】
また、設定期間中でも設定期間終了直後でもない場合(S35にてNO)、制御部5は、記憶部4を参照してステップS20において新たに生成完了した移動パターンがあるか否かを確認し(S45)、該当する移動パターン40があればその移動パターン40についての異常判定処理を行う(S50)。
【0073】
制御部5は、その移動パターン40を現在有効である正常パターン41と比較し、一致しない場合には異常と判断して異常信号を出力部6へ出力する。
【0074】
具体的には、ステップS20において生成された移動パターン40と正常パターン41として設定されている各モデルに公知のForwardアルゴリズムを適用する。各正常パターン41を参照し、移動パターン40に含まれる状態(対象物体の位置)とその遷移に対応する状態遷移確率を求め、移動パターン40に含まれる総ての状態及び遷移についての状態遷移確率を乗算して尤度を算出する。各正常パターン41に対する移動パターン40の尤度を算出し、算出された各尤度を予め定めた判定閾値と比較し、いずれかの尤度が判定閾値以上であれば移動パターン40は正常パターン41と一致したと判定し、いずれの尤度も判定閾値未満であれば移動パターン40は正常パターン41と一致しないと判定する。
【0075】
図5(b),(c)は、異常な移動パターン40の例である。図5(b)の移動パターン40は、図4(a)の正常な移動パターン40と異なりATMを利用する経路とは外れた経路を通っている。図5(a)のモデルに対する図5(b)の移動パターン40の尤度を求めると、A23からA24への状態遷移確率やA24からA25の状態遷移確率が低く、これらにより尤度が低下し、移動パターン40と正常パターン41とは一致しないと判断される。図5(c)の移動パターン40は、図4(a)の正常パターン41と重なる経路を通っているが、小領域A13で滞留しているため、A13からA13への状態遷移確率が繰り返し乗算されることになり尤度が低下し、移動パターン40と正常パターン41とは一致しないと判断される。
【0076】
なお、パターンマッチングの方法は本実施の形態で説明した方法に限定されるものではなく、DPマッチング等の他のパターンマッチング法を適用してもよい。
【0077】
S40又はS50にて異常が判定された場合(S55)、制御部5は、生成された異常信号を出力部6へ出力する。異常信号が入力されると、出力部6は警告音を鳴らして管理者に注意を促す。また、異常と判定された移動パターン40や移動パターン40が追跡されたときに画像を表示して管理者による状況把握を可能としてもよい。さらに、電話回線やインターネット等の情報伝達手段を介して、センタ装置に異常信号を送信し、遠隔に居る管理者に異常を伝えるようにしてもよい。
【0078】
なお、本実施の形態では追跡処理を画像に基づいて行うものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、対象物体に装着したアクティブタグ、GPS端末等の無線通信端末と無線通信を行うことによって対象物体の位置を検出して追跡を行うこともできる。この場合、物体識別情報42は予め記憶させた無線通信端末のID番号とし、そのID番号に基づいて対象物体を特定して追跡することによって移動パターン40を得ることができる。
【0079】
また、移動パターン40として、対象物体の位置及び遷移の情報に加えて、各位置における速さを加えて異常判定を行うようにしてもよい。速さは、前後する時刻の対象物体の位置から求めることができる。そして、各位置における対象物体の動きを動・静に分けて、正常パターン41では位置、遷移及び動きの組み合わせのそれぞれについて遷移確率を設定してマッチングを行うようにしてもよい。
【0080】
また、本実施の形態では、仮登録パターンを介在させて設定期間中に生成完了した移動パターン40を相互に比較した(S258〜S261)。別の実施の形態では、設定期間中に生成完了した移動パターン40を総当たりで比較して相互比較を行うこともできる。
【0081】
また、本実施の形態では、設定期間の長さを可変としたが、別の実施形態では、設定期間の長さを予め定めた長さとすることもできる。
【0082】
また、本実施の形態では、異常行動検知装置1の各部の機能を1つのコンピュータで実現する態様を説明したがこれに限定されるものではない。異常行動検知装置1の各部の機能は一般的なコンピュータをプログラムにより制御することによって実現できるものであり、これらの装置の各機能を適宜組み合わせて1つのコンピュータで処理させてもよいし、各機能をネットワーク等で接続された複数のコンピュータで分散処理させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態における異常行動検知装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における異常行動検知装置における処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における異常行動検知装置における処理を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態における異常行動検知処理を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態における異常行動検知処理を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における正常パターンの登録例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態における設定期間を説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
1 異常行動検知装置、2 撮像部、3 操作部、4 記憶部、5 制御部、6 出力部、40 移動パターン、41 正常パターン、42 物体識別情報、51 追跡手段、53 正常パターン設定手段、54 異常判定手段、55 混雑状況検出手段、56 稼働状況検出手段、70 枠、71 設置領域、72 出入口領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空間における対象物体を追跡して前記対象物体毎の移動パターンを生成する追跡手段と、
前記追跡を参照して、前記監視空間にある前記対象物体の数が所定数未満である閑散状態から前記所定数以上である混雑状態への変化を検出する混雑状況検出手段と、
前記混雑状態への変化が検出された時点を開始時点とする所定の設定期間において生成された前記移動パターンを相互に比較して一致頻度を求め、前記一致頻度が所定頻度以上である前記移動パターンを前記混雑状態時の正常パターンとする正常パターン設定手段と、
前記混雑状態時の正常パターンを記憶する記憶手段と、
前記混雑状態時における前記移動パターンを前記混雑状態時の正常パターンと比較して異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする異常行動検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常行動検知装置であって、
前記混雑状況検出手段は、前記混雑状態から前記閑散状態への変化をさらに検出し、
前記異常判定手段は、前記閑散状態における前記移動パターンを予め定めた閑散状態時の正常パターンと比較して異常を判定することを特徴とする異常行動検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異常行動検知装置であって、
前記監視空間に設置され前記対象物体の利用に供される設備の稼働状態の変化を検出する稼働状況検出手段をさらに備え、
前記正常パターン設定手段は、前記混雑状態への変化、又は、前記稼働状態の変化が検出された時点を前記開始時点とすることを特徴とする異常行動検知装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の異常行動検知装置であって、
前記正常パターン設定手段は、前記混雑状態への変化が検出された後に生成された前記移動パターンの数に応じて前記設定期間の終了を決定することを特徴とする異常行動検知装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の異常行動検知装置であって、
前記異常判定手段は、前記正常パターン設定手段において前記一致頻度が前記所定頻度未満であった前記移動パターンを異常と判定することを特徴とする異常行動検知装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の異常行動検知装置であって、
前記追跡手段は、前記監視空間を順次撮像する撮像手段により撮像された画像から前記移動パターンを求めることを特徴する異常行動検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−72782(P2010−72782A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237406(P2008−237406)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】