説明

疎水化多孔質膜の製造方法

【課題】従来の方法では、疎水化処理時間が短縮され、かつ、比誘電率の上昇が抑制された疎水化多孔質膜をえることができない。
【解決手段】 基板1上に有機シリカ絶縁膜2を形成する工程と、有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1が配置された装置内で基板1の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、装置内へシリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガス3を導入する工程と、装置内への混合ガス3の導入を停止する工程と、有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1を加熱する工程と、を含むことによって、有機シリカ絶縁膜2の表面および細孔の表面が疎水化され、比誘電率の上昇が抑制された疎水化有機シリカ絶縁膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水化多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層配線構造を有する半導体装置において、層間絶縁膜として用いられる多孔質膜は空気などに含まれる水分を吸収しやすいため、疎水化処理などの改質が行われている。改質剤を用いて多孔質膜の表面を改質する際に必要な特性は、改質剤が速やかに均一に多孔質膜内に浸透する特性と、作用した後の余分な改質剤が速やかに排出される特性が両立することである。
半導体集積回路装置の層間絶縁膜に用いる多孔質膜の細孔径はパターンサイズより十分小さく5nm以下の径である。そのため、多孔質膜内部の細孔表面は改質化ガスや改質化薬液が到達し難い。
【0003】
基板上に形成された多孔質膜を疎水化する技術として、例えば、特許文献1には、基板上に形成された多孔質膜において、疎水性基を有する有機シラン化合物の気体を疎水処理系に導入し、0℃から450℃の温度下で疎水化処理をすることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、基板上の中多孔性酸化物膜のシリル化工程について、約25℃から約200℃の間の温度でシリル化剤を拡散することにより中多孔性酸化物膜を疎水性にすることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、基板を約100から約300ケルビンの温度に冷却することにより疎水化剤をウエハ上に容易に凝縮させ、次にその疎水化剤を活性化させるためにウエハを約300℃から約450℃に加熱することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、強化剤(シリル化剤)の蒸気又は液体の形態でナノ多孔質シリカ表面に塗布後、乾燥し、その後、最大425℃でベーキングすることが記載されている。また意図している態様として、シリル化剤として50%のヘキサメチルジシラザン(HMDZ)と50%の3−ペンタノンとの混合物を使用することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−272188号公報
【特許文献2】特開2002−33314号公報
【特許文献3】特開2005−236285号公報
【特許文献4】特表2007−508691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法では、疎水化ガスを高温にした場合、疎水化ガスが多孔質膜内に拡散するよりも先に、多孔質膜内の細孔に吸着していた水などの揮発性成分が気化し多孔質膜の細孔内に充満し、それらが多孔質膜から放出されるようになる。そのため、疎水化ガスの多孔質膜内への拡散が阻害され、疎水化処理にかかる時間が長くなるといった問題があった。
一方、疎水化処理時間を短縮するために、昇温状態で疎水化ガスの濃度を高めると、多孔質膜上に疎水化ガスの微粒子が析出しやすくなる。疎水化ガスの微粒子が析出する理由としては、昇温状態では疎水化ガスが多孔質膜内に到達するよりも前に疎水化ガスの分子同士が反応し、巨大化し微粒子となって多孔質膜表面に付着することが挙げられる。または、過剰な疎水化ガスが多孔質膜表面で凝集し、昇温加熱により疎水化ガスの微粒子が析出することが挙げられる。このような疎水化ガスの微粒子による析出物によって、疎水化ガスの多孔質膜内への拡散が阻害され、多孔質膜の十分な疎水化効果が得られなかった。そのため、多孔質膜が水分を吸着してしまい、比誘電率が上昇するといった問題があった。
【0008】
また特許文献3に記載された方法では、基板を約100から約300ケルビンの温度に冷却するため、疎水化剤が多孔質膜の表面で液化し、その後の加熱により多孔質膜の表面でパーティクルとなり多孔質膜の細孔内部まで疎水化されないといった問題があった。また、過剰な疎水化剤が存在する状態で加熱されるため、過剰な疎水化ガスが多孔質膜表面で凝集し、昇温加熱により疎水化ガスの微粒子が析出することが考えられる。
また、このような多孔質膜表面の析出物によって、半導体装置の多孔質膜のパターニング工程において、形状不良など生じるといった問題があった。
【0009】
また特許文献4に記載された方法では、多孔質膜の表面および細孔内部の疎水化処理が十分になされない場合があった。特に、溶媒とシリル化剤との混合物を用いると、低温処理した場合では、溶媒が多孔質膜の表面および細孔内部で液化し、この液化物によって多孔質膜表面でパーティクルが発生したり、細孔内部がつまるという問題があった。一方、高温処理した場合では、溶媒が気化した後反応ガスに変わってしまうという問題があった。
【0010】
このような問題を解決するために本発明者が検討した結果、シリル化ガスと不活性ガスとの混合ガスを用い、かつ基板の温度をこのシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下とすることによって、多孔質膜の表面および細孔内部まで疎水化できることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による疎水化多孔質膜の製造方法は、
基板上に多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜が形成された前記基板が配置された装置内で前記基板の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、前記装置内へ前記シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを導入する工程と、
前記装置内への前記混合ガスの導入を停止する工程と、
前記多孔質膜が形成された前記基板を加熱する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
この疎水化多孔質膜の製造方法においては、装置内で基板の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下とした状態で、かつ該シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを導入している。すなわち、シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを導入することを前提として、該シリル化ガスの露点温度以上気化温度以下に基板温度を特定している。これにより、シリル化ガスが多孔質膜の表面および細孔内部に浸透することができる。さらに、いったん該混合ガスの導入を停止してから、基板を加熱することにより、多孔質膜の表面および細孔内部は浸透したシリル化ガスにより疎水化される。かかる疎水化多孔質膜の製造方法によれば、疎水化処理時間を短縮し、比誘電率の上昇が抑制された疎水化多孔質膜の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、疎水化処理時間が短縮され、比誘電率の上昇が抑制された疎水化多孔質膜の製造方法が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明による多孔質膜の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態の多孔質膜の製造方法について説明する。
図1は、本実施形態の多孔質膜の製造方法を示す模式図である。図1に示すように、装置(図示なし)内に、有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1が配置されている。基板1は、下方から赤外線ランプ4の照射により加熱される。基板1に形成された有機シリカ絶縁膜2の上方には、混合ガス3が導入される。基板1および有機シリカ絶縁膜2は、混合ガス3に含まれるシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下であるため、混合ガス3が、有機シリカ絶縁膜2の表面および有機シリカ絶縁膜2に拡散し、混合ガス3に含まれるシリル化ガスが内部の細孔表面に吸着する(吸着シリル化ガス3a)。
【0016】
混合ガス3は、シリル化ガスと不活性ガスとからなる。
シリル化ガスの露点温度は、混合ガス3の圧力によって変化する。そのため、基板1の温度は、装置内の混合ガス3の圧力に応じて調整される。
シリル化ガスの露点温度は、−50℃〜200℃、気化温度は0℃〜250℃が好ましい。これにより、シリル化ガスが多孔質膜の内部の細孔表面に吸着し、高い疎水化効果が得られる。シリル化ガスの気化温度は、導入される混合ガス3の圧力によって変化する。
不活性ガスは、シリル化ガスのキャリアとして用いられ、シリル化ガスを気化させる。具体的には、ヘリウムガス、窒素ガスが好ましい。
基板1の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下とすることにより、有機シリカ絶縁膜2上に導入された混合ガス3に含まれるシリル化ガスが、有機シリカ絶縁膜2の表面および内部の細孔まで拡散できる。
【0017】
本実施形態において、混合ガス3の拡散とは、有機シリカ絶縁膜2の表面および内部の細孔表面まで混合ガス3が浸透することを意味する。また本実施形態において、シリル化ガスの吸着とは、有機シリカ絶縁膜2の表面および内部の細孔表面の末端親水基S−OHとシリル化ガスとが脱水素結合して疎水化される前の状態を意味する。
【0018】
本実施形態の多孔質膜の製造方法について、詳細に説明する。
ステップ101:基板1上に有機シリカ絶縁膜2を形成する。
基板1上にシロキサン、酸、有機モノマーの混合溶液を塗布し、窒素雰囲気中にて、基板1を100℃から400℃まで段階的に昇温する。昇温に伴って有機モノマーの凝集物が形成され、それを取り囲むようにシロキサンが重合し、その後、有機モノマーの凝集物が熱分解し開放型の細孔を有する有機シリカ絶縁膜2が基板1上に形成される。このようにして有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1が得られる。
【0019】
ステップ103:有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1が配置された装置内で基板1の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、装置内に混合ガス3を導入する。
基板1は、基板1の下方から赤外線ランプ4を照射することによって任意に設定された温度に加熱される。
基板1の温度がシリル化ガスの露点温度以上であることにより、有機シリカ絶縁膜2の表面で液化したシリル化ガスがその後の加熱でパーティクルとなってしまうのを防ぐことができる。また、有機シリカ絶縁膜2の細孔内が液化したシリル化ガスで詰まってしまうことをさけることができる。
また、基板1の温度がシリル化ガスの気化温度以下であることにより、シリル化ガスが有機シリカ絶縁膜2の細孔内に拡散し、シリル化ガスが有機シリカ絶縁膜2の表面および細孔表面に吸着する(吸着シリル化ガス3a)。
シリル化ガスが多孔質膜内に拡散したかの確認は、たとえば、シリル化ガスを導入した後の基板1を取りだしてシリル化ガスが存在しない条件下で加熱し、その後の基板1を熱分解質量分析して、基板1の質量の増加が確認されることにより行うことができる。
装置内の混合ガス3の圧力は、混合ガス3の導入を調整するなどして、所定の圧力に保たれる。装置内の混合ガス3の圧力は、1kPa以上30kPa以下が好ましい。これにより、混合ガス3に含まれるシリル化ガスが有機シリカ絶縁膜2の表面および細孔表面に吸着しやすくなり、さらに疎水化効果が得られる。
【0020】
ステップ105:装置内への混合ガス3の導入を停止する。
装置内への混合ガス3の導入を停止することにより、装置内の混合ガス3の圧力が低下する。すなわち、装置内の過剰な混合ガス3が取り除かれる。これにより、混合ガス3に含まれる過剰なシリル化ガスが有機シリカ絶縁膜2の表面で凝集し、その後の昇温加熱によってシリル化ガスの微粒子が析出することを抑制できる。
基板1の温度は、ステップ103における温度をそのまま維持してもよく、また加熱をしなくてもよい。また、後述するステップ107での加熱温度より低い温度であればよい。
【0021】
ステップ107:有機シリカ絶縁膜2が形成された基板1を加熱する。
基板1の下方から赤外線ランプ4を照射し、急速に加熱する。これにより、有機シリカ絶縁膜2の疎水化時間が短縮できる。
加熱温度は、ステップ103における基板1の温度より高いことが好ましい。
基板1の加熱温度としては、350℃以上が好ましい。これにより、シリル化ガスと有機シリカ絶縁膜2とを反応させ、有機シリカ絶縁膜2の内部細孔表面まで疎水化される。また、基板1の加熱温度としては、450℃以下が好ましい。これにより、シリル化ガスと有機シリカ絶縁膜2とを反応をスムーズにし、さらに疎水化時間の短縮ができる。
また、ステップ105で装置内への混合ガス3が導入された後、引き続き、基板1を加熱することにより、ステップ103で過不足なく有機シリカ絶縁膜内に吸着したシリル化ガスのみが、有機シリカ絶縁膜2と反応できる。
【0022】
本実施形態の効果を説明する。
多孔質膜は、それ自体が有する細孔によって表面積が大きいため、水を吸着しやすい。水は比誘電率が80と大きいため、多孔質膜は水の吸着により比誘電率が上がってしまうという問題があった。また、多孔質膜を形成する−Si−O−Si−構造がHOと反応して結合がきれることにより、Si−OH構造となり、多孔質膜の弾性率が低下するという問題があった。
これに対し本実施形態による有機シリカ絶縁膜2は、基板1の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、装置内へシリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガス3を導入するため、有機シリカ絶縁膜2の表面および内部細孔まで、シリル化ガスが拡散し、疎水化される。
また、上述した特許文献4記載のように、単にシリル化剤を含む蒸気又は液体を導入した場合では、疎水化効果が十分に得られないのに対し、本実施形態では、シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを用い、かつ基板の温度をそのシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下とすることにより、多孔質膜の表面および内部細孔表面まで疎水化されるという効果を奏する。
これにより、比誘電率の上昇が抑制された疎水化有機シリカ絶縁膜を得ることができる。
【0023】
また、半導体装置の製造工程において、多孔質膜が水分を吸着する工程、すなわち半導体装置が有する多孔質膜が露出する工程は、たとえば、多孔質膜の成膜後、ドライエッチング後からバリアメタル成膜前、またはエッチングマスクがレジストでない場合は、ドライエッチング後、アッシング後、洗浄後である。また多孔質膜が露出はしないが、表面の膜を通過してガスを多孔質膜に導入させる可能性がある工程は、バリアメタル成膜後とCu−CMP後である。
本実施形態による疎水化多孔質膜の製造方法によれば、このような工程において、半導体装置が有する多孔質膜が水を吸着して比誘電率が高くなるのを抑制することができる。また、疎水化ガスが多孔質膜表面に析出することにより、半導体装置の多孔質膜のパターニング工程における形状不良といった問題発生を抑えることができる。
【0024】
本発明による疎水化多孔質膜の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0025】
多孔質膜とは、疎水化ガスがその膜中に拡散できればよく、細孔の構造について特に限定されない。開放型の細孔とは、多孔質膜の表面から内部まで疎水化ガスが拡散できるものを意味する。多孔質膜中に疎水化ガスが拡散したか否かは、例えば、密閉容器内で疎水化ガスと膜とを接触させて疎水化ガスの減少または膜の質量増加により、確認できる。または、多孔質膜にX線を照射し、その散乱の有無により確認することができる。
多孔質膜としては、特に限定されないが、主成分がSi−Oであり、Si−O−Si結合を有する材料が好ましい。多孔質膜としては、疎水性に乏しいものであればよく、例えば、ポーラスシリカ、その他、超低比誘電率層間絶縁膜、多孔質層間膜、多孔質シリカ、多孔質MSQ、多孔質SiOCHなどが挙げられる。
多孔質膜にもともと含まれている水分は、特に除去する必要はなく、そのままでも本実施形態における効果と同様の効果が得られる。
【0026】
基板としては、シリコン基板、SOI(Silicon on Insulater)基板および化合物半導体基板などを用いることができる。半導体装置の製造工程では、基板表面に、トランジスタ、抵抗などの素子、および素子間を繋ぐ配線層などを形成しておくことができる。
【0027】
シリル化ガスとしては、特に限定されないが、疎水性基を有する有機シラン化合物を含むが好ましい。また、具体例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン:沸点125−126℃、蒸気圧2.7kPaとしたときの露点温度約20℃)、TMCTS(1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン:沸点135℃、蒸気圧5.33kPaとしたときの露点温度約60℃)、OMCTS(1,1,3,3,5,5,7,7−オルトメチルシクロテトラシロキサン:沸点175〜176℃、蒸気圧5.33kPaとしたときの露点温度約90℃)などが挙げられる。これにより、多孔質膜が疎水化できる。特に、TMCTSが好ましい。TMCTSは、−N−Si−構造を有さないため、分解されにくく、350℃以下では反応しない。このため、混合ガスの導入時に多孔質膜とTMCTSが反応することなく、その後の加熱工程で急激に反応させることができる。これにより比誘電率の上昇が抑制された疎水化多孔質膜短時間で得られる。
【0028】
また、加熱方法としては、赤外線ランプの照射に限られず、基板を急速に加熱できるものであればよい。例えば、高温体に基板を近づけることによる方法、接触させたペルチェ素子を昇温させる方法、マイクロ波加熱を用いる方法、希ガスプラズマに曝す方法、高温ガスを基板に吹き付ける方法などが挙げられ、これらの方法を単独または複数を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
シリコン基板上にシロキサン、酸、有機モノマーの混合溶液を塗布し、窒素雰囲気中にて、シリコン基板を100℃から400℃まで段階的に昇温した。昇温に伴って有機モノマーの凝集物が形成され、それを取り囲むようにシロキサンが重合し、その後、有機モノマーの凝集物が熱分解し開放型の細孔を有する有機シリカ絶縁膜を形成した。このようにして有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を得た。
次に、有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を真空チャンバーに入れ、ドライポンプを用いて0.01Pa程度までチャンバーを真空引きした。
引き続き真空引きを行いながら、赤外線ランプを用いて、シリコン基板温度を約50℃に保った。
次に加熱型気化器により気化させたヘキサメチルジシラザンと窒素キャリアガスの混合ガスを、毎分2リットルでチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を1kPaに保ち、シリコン基板を混合ガス中に1分間さらした。
次に混合ガスの導入を停止し、赤外線ランプの出力を上げて、シリコン基板温度を400℃まで上昇させて1分〜10分間(疎水化処理時間)保持した。その後、シリコン基板の温度を降下させて、シリコン基板をチャンバー内から取り出した。
なお、ヘキサメチルジシラザンの露点温度は、混合ガスの圧力によって変化するため、チャンバー内の圧力1kPaにおいて、ヘキサメチルジシラザンの露点温度以上気化温度以下になるようにシリコン基板の温度を約50℃に設定した。
【0031】
(比較例1)
実施例1と同様にして、有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を得た。
なお比較例1では、実施例1のようなシリコン基板の温度をヘキサメチルジシラザンの露点温度以上気化温度以下として混合ガスを導入する工程はない。
次に、シリコン基板を真空石英炉に入れ、ドライポンプを用いて0.01Pa程度までチャンバーを真空引きした。
引き続き真空引きを行いながら、赤外線ランプを用いて、シリコン基板温度を約400℃に保った。
次に加熱型気化器により気化させたヘキサメチルジシラザンと窒素キャリアガスの混合ガスを、毎分2リットルでチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を1kPaに保ち、シリコン基板を混合ガス中に10分〜30分間(疎水化処理時間)さらした。
次に混合ガスの導入を停止し、赤外線ランプの出力を下げて、シリコン基板の温度を降下させて、シリコン基板をチャンバー内から取り出した。
【0032】
実施例1および比較例1で得られたシリコン基板上の多孔質シリカ膜は、チャンバー内から取り出すことにより、空気中に露出することとなる。
図2は、実施例1と比較例1で得られたシリコン基板について、疎水化処理時間と多孔質シリカ膜の比誘電率の関係を示すグラフ図である。疎水化効果が大きいほど多孔質シリカ膜表面および細孔表面に吸着する水分量が抑制され、多孔質シリカ膜の比誘電率の上昇が抑制される関係がある。
比誘電率の測定は、水銀電極を多孔質シリカ膜につけて容量を測定し、容量値と水銀電極の面積と多孔質シリカ膜の膜厚から、算出して行われる。
図2に示すように、比較例1では、多孔質シリカ膜の比誘電率は、疎水化処理時間10分では4、疎水化処理時間30分では2であった。これに対し、実施例1では、多孔質シリカ膜の比誘電率は、疎水化処理時間1分から10分で2であった。
このことから、シリコン基板の温度をヘキサメチルジシラザンの露点温度以上気化温度以下として、混合ガスを導入することにより、より疎水化効果が得られることがわかった。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にして、有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を得た。
次に、有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を真空チャンバーに入れ、ドライポンプを用いて0.01Pa程度までチャンバーを真空引きした。
引き続き真空引きを行いながら、赤外線ランプを用いて、シリコン基板温度を約50℃に保った。
次に加熱型気化器により気化させたテトラメチルシクロテトラシロキサンと窒素キャリアガスの混合ガスを、毎分2リットルでチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を1kPa〜30kPaに保ち、シリコン基板を混合ガス中に1分間さらした。
次に混合ガスの導入を停止し、赤外線ランプの出力を上げて、シリコン基板温度を400℃まで上昇させて30分間(疎水化処理時間)保持した。その後、シリコン基板の温度を降下させて、シリコン基板をチャンバー内から取り出した。
なお、テトラメチルシクロテトラシロキサンの露点温度は、混合ガスの圧力によって変化するため、チャンバー内の圧力1kPa〜30kPaにおいて、テトラメチルシクロテトラシロキサンの露点温度以上気化温度になるようにシリコン基板の温度を約50℃に設定した。
【0034】
(比較例2)
実施例1と同様にして、有機シリカ絶縁膜が形成されたシリコン基板を得た。
なお比較例2では、実施例1のようなシリコン基板の温度をテトラメチルシクロテトラシロキサンの露点温度以上気化温度以下として混合ガスを導入する工程はない。
次に、シリコン基板を真空石英炉に入れ、ドライポンプを用いて0.01Pa程度までチャンバーを真空引きした。
引き続き真空引きを行いながら、赤外線ランプを用いて、シリコン基板温度を約400℃に保った。
次に加熱型気化器により気化させたテトラメチルシクロテトラシロキサンと窒素キャリアガスの混合ガスを、毎分2リットルでチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を1kPa〜30kPaに保ち、シリコン基板を混合ガス中に30分間(疎水化処理時間)さらした。
次に混合ガスの導入を停止し、赤外線ランプの出力を下げて、シリコン基板の温度を降下させて、シリコン基板をチャンバー内から取り出した。
【0035】
図3は、実施例2と比較例2における混合ガスの圧力と多孔質シリカ膜表面のテトラメチルシクロテトラシロキサン(シリル化ガス)粒子数の関係を示すグラフ図である。この粒子数は、レーザーパーティクルカウンターを用いて、測定できる。
比較例2では、混合ガス圧力30kPaの疎水化処理では約10,000個のテトラメチルシクロテトラシロキサンの微粒子が基板に析出した。混合ガスに含まれるテトラメチルシクロテトラシロキサンは反応性が大きいため、圧力が高くなることによって、微粒子が析出したと思われる。一方、混合ガスの圧力が1kPaでの疎水化処理では、テトラメチルシクロテトラシロキサンの微粒子数は初期値に抑えられた。しかし、比誘電率の上昇の抑制効果はみられず疎水化は不十分であった。その理由としては、混合ガスの圧力が小さいため、テトラメチルシクロテトラシロキサンが多孔質シリカ膜の細孔内に十分に拡散されず、疎水化反応が膜の内部まで進行しなかったためと思われる。
実施例2では、混合ガス圧力の高低にかかわらずテトラメチルシクロテトラシロキサンの微粒子の析出はほとんどみられなかった。混合ガス圧力30kPaとした場合でも、混合ガスの導入を停止し、混合ガスの圧力が低下した後にシリコン基板を加熱したので、シリコン基板上の過剰な混合ガスは蒸発し、テトラメチルシクロテトラシロキサンの微粒子の析出が抑制されたと思われる。また、混合ガス圧力10kPaとした場合での疎水化処理でも、十分な疎水化効果が得られた。シリコン基板の昇温前に多孔質シリカ膜の細孔内に混合ガスが浸透し、その後急速にシリコン基板を加熱したので、十分な量のテトラメチルシクロテトラシロキサンが細孔内で反応したと思われる。
このことから、シリコン基板の温度をテトラメチルシクロテトラシロキサンの露点温度以上気化温度以下として、混合ガスを導入することにより、より疎水化効果が得られることがわかった。
以上の実施例および比較例より、シリコン基板の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを導入することにより、多孔質膜の疎水化効果が得られることがわかった。なお、シリコン基板の温度をシリル化ガスの露点温度未満とした場合は十分な疎水化効果が得られない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による疎水化多孔質膜の製造方法の実施形態を示す模式図である。
【図2】疎水化処理時間と多孔質シリカ膜の比誘電率の関係を示すグラフ図である。
【図3】混合ガスの圧力と多孔質シリカ膜表面のシリル化ガス粒子数の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シリコン基板
2 有機シリカ絶縁膜
3 混合ガス
3a 吸着シリル化ガス
4 赤外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に多孔質膜を形成する工程と、
前記多孔質膜が形成された前記基板が配置された装置内で前記基板の温度をシリル化ガスの露点温度以上気化温度以下として、前記装置内へ前記シリル化ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを導入する工程と、
前記装置内への前記混合ガスの導入を停止する工程と、
前記多孔質膜が形成された前記基板を加熱する工程と、
を含むことを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の疎水化多孔質膜の製造方法において、
前記基板を加熱する前記工程において、前記基板の温度を350℃以上450℃以下にすることを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の疎水化多孔質膜の製造方法において、
前記シリル化ガスとして、疎水性基を有する有機シラン化合物を含むことを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の疎水化多孔質膜の製造方法において、
前記シリル化ガスとして、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、およびオルトメチルシクロテトラシロキサンのうち少なくとも一種以上を含むことを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の疎水化多孔質膜の製造方法において、
前記多孔質膜が、Si−O−Si結合を有する材料からなることを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の疎水化多孔質膜の製造方法において、
前記装置内へ前記混合ガスを導入する前記工程において、
前記装置内の混合ガスの圧力が1kPa以上30kPa以下であることを特徴とする疎水化多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−94183(P2009−94183A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261620(P2007−261620)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】