説明

発光サイリスタ、光源ヘッド、及び画像形成装置

【課題】ゲート層をピーク波長が単一の発光層で構成する場合に比べて、温度変動によって生じる出射光の光量変動が少ない発光サイリスタ、光源ヘッド、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】本実施の形態のRC構造を有する発光サイリスタ100では、アノード層として機能するp型AlGaAs系のDBR層106とカソード層として機能するn型AlGaAs系のDBR層112との間に積層されたゲート層108を、Alの組成が0.12、ピーク波長λ=788.0nmのn型AlGaAs系の発光層108A、及びAlの組成が0.14、ピーク波長λ=775.7nmのp型AlGaAs系の発光層108Bの、ピーク波長が異なる2つの発光層で構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光サイリスタ、光源ヘッド、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゲート層内がバンドギャップの異なる層で形成された発光サイリスタが記載されている。
【0003】
特許文献2には、ダブルヘテロ構造を持ったpnpn発光サイリスタにおいて、少なくともnゲート層に近いアノード層の部分の不純物の濃度を、nゲート層の不純物の濃度より低くしたことを特徴とする発光サイリスタが記載されている。
【0004】
特許文献3には、n型半導体基板の上に、第1のn型半導体層、第1のp型半導体層、第2のn型半導体層、第3のn型半導体層、第2のp型半導体層、 第3のp型半導体層、第4のp型半導体層および第5のp型半導体層を順次積層して、これら積層された半導体層の内部での発光が外部に取り出されるように構成されており、前記第3のn型半導体層はエネルギーギャップが前記第2 のn型半導体層より大きく、前記第3のn型半導体層および前記第3のp型半導体層はエネルギーギャップが前記第2のp型半導体層より大きく、前記第2のp型半導体層はエネルギーギャップが前記第1のp型半導体層より大きいことを特徴とする発光サイリスタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−153890号公報
【特許文献2】特許2001−068726号公報
【特許文献3】特許2005−340471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゲート層をピーク波長が単一の発光層で構成する場合に比べて、温度変動によって生じる出射光の光量変動が少ない発光サイリスタ、光源ヘッド、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発光サイリスタは、基板と、前記基板上に形成された第1導電型の第1半導体多層膜反射鏡と、前記第1半導体多層膜反射鏡上に形成され、かつ、発光波長のピーク値が異なる複数の半導体発光層が積層されて成るゲート層と、前記ゲート層上に形成された第2導電型の第2半導体多層膜反射鏡と、を備える。
【0008】
請求項2に記載の発光サイリスタは、請求項1に記載の発光サイリスタにおいて、前記ゲート層は、前記複数の半導体発光層の各々の間に、前記複数の半導体発光層よりもバンドギャップが大きい半導体層を設けた。
【0009】
請求項3に記載の発光サイリスタは、請求項2に記載の発光サイリスタにおいて、前記ゲート層は、前記第1半導体多層膜反射鏡との間、及び前記第2半導体多層膜反射鏡との間に前記複数の半導体発光層よりもバンドギャップが大きい半導体層を備える。
【0010】
請求項4に記載の光源ヘッドは、前記請求項1から前記請求項3のいずれか1項に記載の発光サイリスタを光源として複数個備える。
【0011】
請求項5に記載の画像形成装置は、感光体と、前記感光体表面を帯電する帯電手段と、前記請求項4に記載の光源ヘッドを備え、かつ前記帯電手段により帯電された前記感光体表面に静電潜像を形成するために前記光源ヘッドの出射光により露光する露光手段と、前記露光手段により形成された前記静電潜像を現像する現像手段と、前記現像手段により現像された前記静電潜像を定着する定着手段と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、請求項4、及び請求項5に記載の発明によれば、ゲート層をピーク波長が単一の発光層で構成する場合に比べて、温度変動によって生じる出射光の光量変動が少なくなる。
【0013】
請求項2及び請求項3に記載の発明によれば、本構成を有しない場合と比較して、キャリアの閉じ込めを各半導体発光層毎に行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係る画像形成装置の一例の概略を示す概略構成図である。
【図2】本実施の形態に係るプリンタヘッドの一例の内部構成を示す概略断面図を示表示媒体の一例を拡大して模式的に示した断面図である。
【図3】本実施の形態に係る発光サイリスタアレイの一例の外観を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態に係る発光サイリスタの一例を示す概略断面図である。
【図5】本実施の形態に係る発光サイリスタの一例の主要構造について模式的に示した模式図である。
【図6】本実施の形態の実施例1に係る発光サイリスタの一例の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す説明図である。
【図7】本実施の形態の実施例1に係る発光サイリスタの一例における、自然発光スペクトル、共振器スペクトル、及び発光スペクトルの波長と強度との関係の具体的一例を説明するための説明図である。
【図8】本実施の形態の実施例2に係る発光サイリスタのその他の例の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す説明図である。
【図9】本実施の形態の実施例3に係る発光サイリスタのその他の例の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す説明図である。
【図10】従来の発光サイリスタの主要構造について模式的に示した模式図である。
【図11】従来の発光サイリスタにおける、自然発光スペクトル、共振器スペクトル、及び発光スペクトルの波長と強度との関係の具体的一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1に、本実施の形態の画像形成装置の一例の概略を示す概略構成図を示す。図2に、本実施の形態の光源ヘッドの一例の内部構成を示す概略断面図を示す。図3に、本実施の形態に係る発光サイリスタアレイの一例の外観を示す斜視図を示す。図4に、本実施の形態の発光サイリスタの一例を示す概略断面図を示す。
【0017】
本実施形態に係る画像形成装置10は、図1に示すように、矢印A方向に定速回転する感光体12を備えている。
【0018】
この感光体12の周囲には、感光体12の回転方向に沿って、感光体12表面を帯電する帯電器14、帯電器14により帯電された感光体12表面に静電潜像を形成するために露光するための光源ヘッド16(露光手段)、トナー像を形成するために静電潜像を現像剤により現像する現像器18(現像手段)、トナー像を用紙28(記録媒体)に転写する転写体20(転写手段)、転写後に感光体12の残存した残トナーを除去するためのクリーナ22、感光体12を除電し電位を均一化するイレーズランプ24が順に配設されている。
【0019】
すなわち、感光体12は、帯電器14によって表面が帯電された後、光源ヘッド16によって光ビームが照射されて、感光体12上に潜像が形成される。なお、光源ヘッド16は駆動部(不図示)と接続されており、駆動部によって発光サイリスタ100の点灯を制御して、画像データに基づいて光ビームを出射するようになっている。
【0020】
形成された潜像には、現像器18によってトナーが供給されて、感光体12上にトナー像が形成される。感光体12上のトナー像は、転写体20によって、搬送されてきた用紙28に転写される。転写後に感光体12に残留しているトナーはクリーナ22によって除去され、イレーズランプ24によって除電された後、再び帯電器14によって帯電されて、同様の処理を繰り返す。
【0021】
一方、トナー像が転写された用紙28は、加圧ローラ30Aと加熱ローラ30Bからなる定着器30(定着手段)に搬送されて定着処理が施される。これにより、トナー像が定着されて、用紙28上に所望の画像が形成される。画像が形成された用紙28は装置外へ排出される。
【0022】
次に、本実施の形態の光源ヘッド16の構成を詳細に説明する。本実施の形態の光源ヘッド16は、SLED(Self−scanning LED:自己走査型LED)を用いている。SLEDは、LEDアレイとその駆動部分を一体化したものであり、複数のサイリスタ構造を有する発光部(発光サイリスタ100、詳細後述)を備えている。図2に示すように、発光サイリスタアレイ50と、発光サイリスタアレイ50を支持するとともに、発光サイリスタアレイ50の駆動を制御する各種信号を供給するための回路(不図示)とが実装された実装基板52と、セルフォックスレンズアレイ等の(セルフォックは、日本板硝子(株)の登録商標)ロッドレンズアレイ54と、を備えている。
【0023】
実装基板52は、発光サイリスタアレイ50の取り付け面を感光体12に対向させて、ハウジング56内に配設され、板バネ58によって支持されている。
【0024】
発光サイリスタアレイ50は、図3に示すように、例えば、感光体12の軸線方向に沿って当該軸線方向の解像度に応じて、複数の発光サイリスタ100が配列されて構成されたチップ62が、さらに複数個直列に配列して構成されており、感光体12の軸線方向に、予め定められた解像度で光ビームを照射するようになっている。
【0025】
なお、本実施の形態では、チップ62が複数個直列に1次元状に配列された例を示したが、これに限らず、複数列に分けて2次元状に配置してもよい。例えば千鳥状に配置する場合には、複数のチップ62は、感光体12の軸線方向に沿って並ぶように一列に配置されると共に、当該軸線方向と交わる方向に一定間隔ずらして二列に配置される。複数のチップ62単位に分けられていても、複数の発光サイリスタ100の各々は、互いに隣接する2つの発光サイリスタ100の感光体12の軸線方向の間隔が、ほぼ一定の間隔となるように配列されている。
【0026】
ロッドレンズアレイ54は、図2に示すように、ホルダー64によって支持されており、各発光サイリスタ100から出射された光ビームを感光体12上に結像させる。
【0027】
次に、本実施の形態の発光サイリスタ100について説明する。
【0028】
図4を参照して、本実施の形態の発光サイリスタ100の概略構成について説明する。本実施の形態の発光サイリスタ100は、p型GaAs基板104と、p型GaAs基板104上に順に積層されたp型AlGaAs系のアノード層106と、n型AlGaAs系のゲート層108A及びp型AlGaAs系のゲート層108Bから成るゲート層108、n型AlGaAs系のカソード層112と、n型GaAs系のコンタクト層114と、を備えて構成されている。
【0029】
また、発光サイリスタ100は、アノード電極102、ゲート電極116、及びカソード電極118が備えられている。アノード電極102は、p型GaAs基板104の裏面(共振器が形成されていない面)に設けられている。ゲート電極116は、p型AlGaAs系のゲート層108Bの一部の端部の領域が他の部位よりも薄膜に形成された領域に設けられている。一方、カソード電極118は、p型AlGaAs系のゲート層108Bの薄膜に形成された領域を除く領域に順に積層されたn型AlGaAs系のカソード層112及びn型GaAs系のコンタクト層114の上に設けられている。
【0030】
アノード電極102、ゲート電極116、及びカソード電極118の材料は、接触する半導体層またはp型GaAs基板104との良好なオーミック接触を保つために適した材料がそれぞれ用いられる。具体的例としては、金(Au)や、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0031】
本実施の形態の発光サイリスタ100では、n型AlGaAs系のカソード層112及びp型AlGaAs系のアノード層106のバンドギャップが大きく、ゲート電極116に信号(電圧)を印加し、ゲート電極116からカソード電極118へゲート電流を流すことにより、アノード電極102−カソード電極118間を導通させる。これにより、n型AlGaAs系のカソード層112及びp型AlGaAs系のアノード層106よりもバンドギャップが小さいキャビティ(共振器)となるゲート層108の各層が発光層となり、各発光層内でキャリア(電子及び正孔)が再結合し、発光した光が、最上層(n型GaAs系のコンタクト層114)を経て出射される。
【0032】
次に、図面を参照して発光サイリスタ100の主要構造の実施例について詳細に説明するが、まず、本実施の形態の発光サイリスタ100との比較のため、従来の発光サイリスタ1000の主要構造について説明する。図10に、従来の発光サイリスタ1000の主要構造について模式的に示す。
【0033】
従来の発光サイリスタ1000は、p型GaAs基板1104と、アノード層として機能するp型AlGaAs系のDBR(Distributed Bragg Reflector)層1106と、n型AlGaAs系のゲート層1108Aと、p型AlGaAs系のゲート層1108Bと、カソード層として機能するn型AlGaAs系のDBR層1112と、n型GaAs系のコンタクト層1114と、が順次積層された構造となっている。このように、アノード層1106及びカソード層1112をDBRミラーとし、n型AlGaAs系のゲート層1108A及びp型AlGaAs系のゲート層1108Bを共振器(キャビティ)とすることにより、RC(Resonant Cavity)構造としている。
【0034】
従来の発光サイリスタ1000では、n型AlGaAs系のゲート層1108A及びp型AlGaAs系のゲート層1108BのAl組成を0.13とすることにより、n型AlGaAs系のゲート層1108A及びp型AlGaAs系のゲート層1108B内でピーク波長が780nmの光が発生する。また、RC構造においては、DBRミラーの一層の厚さを780/(4n)nmとし、共振器の長さを780/(2n)nmの整数倍とすることで、780nmをピーク波長とする光が出射される。なおここで、nはDBRミラーや共振器を構成するAlGaAsの780nmの光に対する屈折率である。
【0035】
一般に、RC構造を有する発光サイリスタでは、ゲート層における自然発光スペクトルと、RC構造によって形成される共振器スペクトルとの掛け合わせが、外部に出射される発光スペクトルとなる。従来の発光サイリスタ1000における、自然発光スペクトル、共振器スペクトル、及び発光スペクトルの波長と強度との関係の具体的一例を図11に示す。
【0036】
自然発光スペクトルは、温度変化により、ピーク波長がシフトする。具体的には、温度が上昇すると、ピーク波長が長波長側(図11では右側)にシフトする。
【0037】
これを具体的例を挙げて説明する。AlxGa(1−x)As系の発光サイリスタでは、Alの組成xと、バンドギャップエネルギーEg(単位:eV)、及び波長λ(単位:nm)との間には、次の(1)式及び(2)式の関係がある。
【0038】
Eg(x)=1.424+1.247×x (x<0.45) ・・・(1)
【0039】
λ=1240/Eg ・・・(2)
【0040】
この波長λの温度変動による自然発光スペクトルのシフトΔλは、次の(3)式で近似される。
【0041】
Δλ=0.24nm/℃ ・・・(3)
【0042】
20℃で波長λが780.0nmの光は、40℃では、(3)式より、Δλ=0.24×(40−20)=4.8nmとなり、784.8nm(=780+0.24×(40−20))に波長がシフトする。
【0043】
従来の発光サイリスタ1000では、図11に示すように、上述のように、温度変動によって自然発光スペクトルがシフトすると、自然発光スペクトルのピークが共振器スペクトルのピークと乖離するため、発光スペクトルが大きく変動し、光量が減少する。すなわち、温度変動により、発光サイリスタ1000から出射される光量が大きく変動するという問題が発生する。
【0044】
(実施例1)
【0045】
次に、本実施の形態の発光サイリスタ100の主要構造について説明する。図5に、本実施の形態の実施例1における発光サイリスタ100の主要構造について模式的に示す。
【0046】
本実施例の発光サイリスタ100は、p型GaAs基板104と、アノード層として機能するp型AlGaAs系のDBR(Distributed Bragg Reflector)層106と、n型Al0.12GaAs系の発光層108A及びp型Al0.14GaAs系の発光層108Bとから成るゲート層108と、カソード層として機能するn型AlGaAs系のDBR層112と、n型GaAs系のコンタクト層114と、が積層された構造となっている。このように、p型AlGaAs系のアノード層106及びn型AlGaAs系のカソード層112をDBRミラーとし、キャビティとなるゲート層108の発光層をAlの組成が異なる、すなわち自然発光スペクトルのピーク波長が異なるn型Al0.12GaAs系の発光層108A及びp型Al0.14GaAs系の発光層108Bとし、n型AlGaAs系のDBR層112の反射率をp型AlGaAs系のDBR層106よりも少し低くすることにより、n型AlGaAs系のDBR層112側から光を出射する、RC(Resonant Cavity)構造としている。
【0047】
図6に発光サイリスタ100の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す。なお、図6では、膜厚の一部をピーク波長λを基準にした光学膜厚として示している。これは、発光サイリスタ100がから外部に出射させる出射光のピーク波長をλ0、外部で波長λ0の半導体層内を伝搬する差異の半導体層の屈折率をnとした場合、半導体層内でのピーク波長λは、λ=λ0/nとなり、一般に、Al組成が異なる複数の層から形成されるDBR層や、ゲート層で形成される共振器長は、半導体層内における波長を基準に設計するためである。
【0048】
また、本実施例の発光サイリスタ100では、一例として、p型の場合は、ドーパントとしてZnを用いており、n型の場合は、ドーパントとしてSiを用いている。
【0049】
p型GaAs基板104上に、p型GaAs系のバッファ層を介して、アノード層として機能するp型AlGaAs系のDBR層106が積層されている。なお、図4、5では図示を省略しているが、本実施例の発光サイリスタ100では、図6に示すように、p型GaAs基板104とアノード層106との結晶性を良好にするためにp型GaAs系のバッファ層を設けている。
【0050】
p型AlGaAs系のDBR層106は、厚さがλ/4nmのAlの組成が0.16のAlGaAs層と厚さがλ/4nmのAlの組成が0.86のAlGaAs層とが積層されたペアが10層繰り返し積層されている。従って、p型AlGaAs系のDBR層106全体の膜厚は5λnm、Alの平均組成は0.51となる。
【0051】
n型AlGaAs系の発光層108Aは、厚さがλ/4nm、Alの組成が0.12のAlGaAs層である。n型AlGaAs系の発光層108Aの波長λは、上述の(1)式及び(2)式より、波長λ=788.0nmとなる。
【0052】
p型Al0.14GaAs系の発光層108Bは、厚さが2λnm、Alの組成が0.14のAlGaAs層である。p型AlGaAs系の発光層108Bの波長λは、上述の(1)式及び(2)式より、波長λ=775.7nmとなる。
【0053】
カソード層(DBR層)112は、具体的には、厚さがλ/4nmのAlの組成が0.86のAlGaAs系のカソード層と厚さが30nmのAlの組成が0.16のAlGaAs系のカソード層との間に積層されたn型AlGaAs系のDBR層112により構成されている。n型AlGaAs系のDBR層112は、厚さがλ/4nmのAlの組成が0.16のAlGaAs層と厚さがλ/4nmのAlの組成が0.86のAlGaAs層とが積層されたペアが4層繰り返し積層されている。従って、n型AlGaAs系のDBR層112の膜厚は2λnm、Alの平均組成は0.51となる。
【0054】
n型GaAs系のコンタクト層114は、膜厚が25nmとしている。
【0055】
なお、これら各層のAl組成及び膜厚は具体的一例であり、以下に示した範囲であれば、これに限定されるものではない。
【0056】
例えば、n型AlGaAs系の発光層108A及びp型AlGaAs系の発光層108Bの膜厚は、λ/2の整数倍である。また、ゲート層全体の厚さは、ゲート電極116とアノード電極102との間に電位差(例えば、3〜5Vがあっても、電流が流れない程度の厚さがあればよい。なお、p型AlGaAs系の発光層108Bは、図4に示したように、本実施例の発光サイリスタ100では、一部を露出させる必要があるため、作製(成膜)上の精度の観点から、0.1μm程度以上あることが好ましい。
【0057】
また、例えば、各層のAl組成は、サイリスタとして動作させるためには、<ゲート層108<カソード層(n型AlGaAs系のDBR層112)・アノード層(p型AlGaAs系のDBR層106)(平均値)が適正範囲である(ゲート層108内の各発光層108A、108BのAl組成の適正範囲については詳細後述)。
【0058】
なお、発光サイリスタ100の各層の結晶成長には、例えば、MOCVD(metal organic chemical vapor deposition)法が適用される。
【0059】
以上説明したように、本実施例のRC構造を有する発光サイリスタ100では、アノード層として機能するp型AlGaAs系のDBR層106とカソード層として機能するn型AlGaAs系のDBR層112との間に積層されたゲート層108を、Alの組成が0.12、ピーク波長λ=788.0nmのn型AlGaAs系の発光層108A、及びAlの組成が0.14、ピーク波長λ=775.7nmのp型AlGaAs系の発光層108Bの、ピーク波長が異なる2つの発光層で構成している。
【0060】
本実施例の発光サイリスタ100における、自然発光スペクトル、共振器スペクトル、及び発光スペクトルの波長と強度との関係の具体的一例を図7に示す。図7に示すように、n型AlGaAs系の発光層108Aの自然発光スペクトルとp型AlGaAs系の発光層108Bの自然発光スペクトルとを合成したものが、本実施の形態の発光サイリスタ100の自然発光スペクトルとなるため、自然発光スペクトルがブロードになる。
【0061】
従って、上述のように、温度変動によって自然発光スペクトルのピーク位置がシフトした場合でも、共振器スペクトルのピーク波長における自然発光波長の強度の変化が緩やかになり、これにより、温度変動に対する出射光の光量変動が抑えられる。
【0062】
また、各半導体層の膜厚のばらつきによって、共振器スペクトルのピーク波長のばらつきが生じた場合でも、自然発光スペクトルがブロードに分布していると、発光スペクトルの光量のばらつきが抑えられる。
【0063】
なお、発光サイリスタ100は、上記構成、組成に限られるものではなく、ゲート層108がピーク波長の異なる複数の発光層を含んで構成されるものであればよく、本実施例のように発光層がAlGaAs系である場合は、Alの組成が異なる複数の発光層で構成すればよい。
【0064】
このように、AlGaAs系である場合のゲート層108の発光層のAl組成のより好ましい範囲について説明する。ここでは、発光サイリスタ100の使用温度範囲を20℃〜60℃と仮定して説明する。この場合、自然発光スペクトルは、約10nm変動する。そこで、RC構造により定まる出射光スペクトルのピーク波長λを780nmとして、当該波長が温度変動によって変化しないとすると、770nm〜780nmの波長範囲で自然発光スペクトルの強度変化を小さくすることにより、温度変動によって自然発光スペクトルがシフトしても、出射光の光量変動を抑えられる。一方、自然発光スペクトルの半値幅は30nm〜40nmであり、2つのピーク波長の異なるスペクトルの半値のところで重なるようにすることで、2つの波長が合成された自然発光スペクトルのピーク付近では、波長に対する強度変化が小さくなる。
【0065】
従って、20℃において、半値の位置から、波長の変動範囲の半分の5nm長波長の位置を780nmと設定し、40℃において、ピーク波長が10nmシフトした際、半値の位置から5nm短波長側が780nmとなるように設定する。具体的には、短波長側のピーク波長は750nm〜760nm、長波長側の波長は790nm〜810nmの範囲が適正であり、例えば、代表的な値としては、短波長側のピーク波長が760nm、長波長側のピーク波長が790nmとされる。この場合、短波長側(ピーク波長λ=760nm)の発光層のAlの組成は0.16〜0.19、長波長側(ピーク波長λ=790nm)の発光層のAlの組成は0.08〜0.12となり、代表値としては、短波長側はAl=0.16、長波長側は0.12が挙げられる。
【0066】
なお、ここでは、RC構造により定まる出射光スペクトルの波長は温度変化しないと仮定して説明したが、実際には、半導体層の屈折率が温度変動することにより、共振器の光学膜厚が変動するため、変動する。例えば、温度が上昇すると、屈折率が大きくなることにより、光学膜厚が長くなり、出射光スペクトルが長波長側にシフトする。この波長のシフト量としては、約0.08nm/℃と見積もられている。従って、波長変動を抑えるように発光サイリスタを設計する場合、当該変動も加味することが好ましいが、この出射光スペクトルの温度変動は、自然発光スペクトルの温度変動による光量低下を補償する傾向を持っているため、上述のように、発光層のピーク波長を設定しておけば、特に問題は生じない。なお、出射光スペクトルの温度変動までも考慮して、発光サイリスタを設計することにより、温度変動を考慮しなかった場合に比べ、ピーク波長の設定位置が小さくなるため、光量変動が抑制されるため、好ましい。
【0067】
また、例えば、発光層108Aと発光層108BとのAl組成が逆であってもよい。また、発光層(ゲート層108)をノンドープの半導体層を用いて構成してもよい。
【0068】
(実施例2)
【0069】
本実施の形態では、ゲート層108をn型AlGaAs系の発光層108A及びp型AlGaAs系の発光層108B、各1層で構成しているが、それぞれ複数の層を備えるように構成してもよい。このような発光サイリスタ100の実施例を実施例2として示す。
【0070】
図8に、実施例2における発光サイリスタ100の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す。図8に構造を示した発光サイリスタ100では、ゲート層を、基板側から順に、Alの組成が0.12のn型AlGaAs系の発光層、Alの組成が0.14のn型AlGaAs系の発光層、Alの組成が0.14のp型AlGaAs系の発光層、及びAlの組成が0.12のp型AlGaAs系の発光層が積層された構造としている。すなわち、ピーク波長が異なる複数のn型AlGaAs系の発光層と、ピーク波長が異なる複数のp型AlGaAs系の発光層と、を備えた構造としている。
【0071】
(実施例3)
【0072】
実施例1及び実施例2では、ゲート層108を発光層のみで構成しているが、これに限らず、発光層として機能しない半導体層を備えるように構成してもよい。このような発光サイリスタ100の実施例を実施例3として示す。
【0073】
図9に、実施例3における発光サイリスタ100の各層のAl組成及び膜厚の具体的一例を示す。図9に構造を示した発光サイリスタ100では、ゲート層を、基板側から順に、Alの組成が0.25のn型AlGaAs系のゲート層、Alの組成が0.14のn型AlGaAs系のゲート層、Alの組成が0.25のp型AlGaAs系のゲート層、Alの組成が0.12のp型AlGaAs系のゲート層、及びAlの組成が0.25のp型AlGaAs系の発光層が積層された構造としている。
【0074】
本実施例のゲート層108では、Alの組成が0.12のp型AlGaAs系の発光層が発光層として機能し、発光する。一方、Alの組成が0.25のn型AlGaAs系のゲート層、Alの組成が0.30のn型AlGaAs系のゲート層、Alの組成が0.25のp型AlGaAs系のゲート層、及びAlの組成が0.25のp型AlGaAs系のゲート層は、発光層として機能せず、発光しない。
【0075】
実施例1及び実施例2で示した発光サイリスタ100のゲート層108では、ピーク波長の異なる発光層が隣接しており、ゲート層108全体が発光するように構成している。ピーク波長が異なる発光層は、発光効率も異なる場合がある。その理由として、1つは、発光層のうち、発光しやすい方にキャリアが流れ込むことが挙げられる。もう1つは、発光層の膜厚が異なっているため、自然発光の強度が違うことが挙げられる。
【0076】
本実施例では、ゲート層108を、Alの組成が異なる発光層をAlの組成が発光層よりも大きい層で分離するように構成すること(具体的にはAlの組成が0.12の層と0.14の層とを、Alの組成が0.25の層で分離する)で、キャリアの閉じ込めを各発光層毎に個別に行えるようにしている。従って、発光効率が独自に制御される。
【0077】
また、本実施例では、ゲート層108とアノード層であるp型AlGaAs系のDBR層106、カソード層であるn型AlGaAs系のDBR層112と発光層との間に、Alの組成が発光層よりも大きい層を設けている。これにより、より発光効率が高められる。
【0078】
なお、本実施の形態(実施例1〜3)では、具体的一例として、p型GaAs基板70上に、PNPN型構造の第1導電型がp型、第2導電型がn型の発光サイリスタ100について説明したがこれに限られず、NPNP型構造の第1導電型がn型、第2導電型がp型の発光サイリスタであってもよい。
【0079】
また、本実施の形態(実施例1〜3)では、具体的一例として、AlGaAs系材料を用いた発光サイリスタ100について説明したがこれに限られず、InGaAsP系や、AlGaInP系、InGaN/GaN系材料等を用いた発光サイリスタに対しても適用してもよい。
【0080】
また、本実施の形態では、自己走査型の電子写真式の画像形成装置10の光源ヘッド16に適用した場合について説明したがこれに限らず、本実施の形態の発光サイリスタ100を他の光源ヘッドや他の画像形成装置に適用するようにしてもよい。また、発光サイリスタ100を、例えば、スキャナ等、他の装置の光源に適用してもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 画像形成装置
16 光源ヘッド
100 発光サイリスタ
102 アノード電極
104 p型GaAs基板
106 p型AlGaAs系のDBR層(アノード層)
108 ゲート層、
108A n型AlGaAs系の発光層
108B p型AlGaAs系の発光層
112 n型AlGaAs系のDBR層(カソード層)
114 n型GaAs系のコンタクト層
116 ゲート電極
118 カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電型の第1半導体多層膜反射鏡と、
前記第1半導体多層膜反射鏡上に形成され、かつ、発光波長のピーク値が異なる複数の半導体発光層が積層されて成るゲート層と、
前記ゲート層上に形成された、第2導電型の第2半導体多層膜反射鏡と、
を備えた発光サイリスタ。
【請求項2】
前記ゲート層は、前記複数の半導体発光層の各々の間に、前記複数の半導体発光層よりもバンドギャップが大きい半導体層を備えた、請求項1に記載の発光サイリスタ。
【請求項3】
前記ゲート層は、前記第1半導体多層膜反射鏡との間、及び前記第2半導体多層膜反射鏡との間に前記複数の半導体発光層よりもバンドギャップが大きい半導体層を備えた、請求項2に記載の発光サイリスタ。
【請求項4】
前記請求項1から前記請求項3のいずれか1項に記載の発光サイリスタを光源として複数個備えた、光源ヘッド。
【請求項5】
感光体と、
前記感光体表面を帯電する帯電手段と、
前記請求項4に記載の光源ヘッドを備え、かつ前記帯電手段により帯電された前記感光体表面に静電潜像を形成するために前記光源ヘッドの出射光により露光する露光手段と、
前記露光手段により形成された前記静電潜像を現像する現像手段と、
前記現像手段により現像された前記静電潜像を定着する定着手段と、
を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−204677(P2012−204677A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68826(P2011−68826)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】