説明

発光素子の製造方法

【課題】 ワイヤーボンダビリティが良好な電極を形成することのできる発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも、n型半導体結晶と、発光層と、GaまたはInを含みキャリア濃度が1×1017/cm以上1×1019/cm以下であるp型半導体結晶とが、この順で形成された半導体結晶の前記p型半導体結晶の表面に、オーミック電極材料として、少なくとも、AuBeを含む層、Ti層、Au層を形成し、その後熱処理を行ってオーミック電極を形成し、その後前記半導体結晶をダイシングする発光素子の製造方法であって、少なくとも、前記形成されたオーミック電極の表面を、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて洗浄する工程を含むことを特徴とする発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関し、具体的には、ワイヤーボンダビリティ特性の優れた電極を形成することができる電極形成工程を含んだ発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からGaP、GaAs、GaAsP、GaAlAs、AlGaInP等の化合物半導体結晶を用いた発光素子が知られている。
【0003】
ここで、従来の発光素子の製造方法の一例について説明する。
まず、n型GaAs基板の上に、AlGaInP発光層、p型GaPをエピタキシャル成長させる。次にn型GaAs基板を除去し、そこにn型GaP基板を貼り合わせる。
次に、n型GaP基板の裏面側にAuSi合金層を形成後、エッチングによってカソード電極を形成する。
次に、p型GaPエピタキシャル層の上面に、アノード電極層を蒸着法により形成し、フォトリソにより所望の形状のアノード電極を形成する。
このアノード電極層は、例えば下層がAuBe層(200nm)、上層がAu層から構成される。ここで、アノード電極層の厚みは通常、1〜2.0μm程度である。
次に、ウエーハを素子毎にダイシング工程またはブレーキングして、最終的な発光素子を得る。
【0004】
ここで上記アノード電極についてさらに詳述すれば、GaP、GaAs、GaAsP、GaAlAs、AlGaInP等の半導体結晶を用いた発光素子では、p型半導体結晶に設けるオーミック電極として、以前からAuBeが使われてきた。
【0005】
このp型半導体結晶側の電極の形成には、量産工程では電極素材の金属膜成膜手段として、密着性ではスパッタよりは劣るが、生産性で優位性のある大型の蒸着機を用いることが多い。
この際の蒸発手段としては、抵抗加熱またはEB加熱で蒸発させ鍍金されることが多い(例えば特許文献1,2参照)。
【0006】
また、半導体発光素子としては、結晶の成長の順番や光の取り出し効率の都合で、p型半導体結晶側が発光素子の上面になることが多い。
さらに、オーミック性の接触を持つアノード電極を形成するのみでなく、発光素子チップ化後のLEDランプ組み立て工程時に、直径25μm程度の金線をワイヤーボンディングするため、金の比較的厚い1〜2μm程度のいわゆるボンディングパッドをオーミック電極上に形成する必要がある。
【0007】
ところで、ボンディングパッドを持つアノード電極の形成方法の基本的手法として、AuBeを蒸着し、その上にAuをボンディングパッドとして成膜した場合、ワイヤーボンディングが困難なことが多い。
これは、半導体結晶からのGa、Inや電極中のBeの拡散により、電極表面のボンディングパッド部分のAuが変質するためと考えられる。
【0008】
この拡散に対する対策として、オーミック電極を一度形成し、その上にボンディングパッドを形成する2段形成工程が用いられている(特許文献1参照)。
これは、AuBeを成膜、フォトリソ、パターンエッチング、レジスト剥離、熱処理し、更に、Auを1〜2μm程度成膜し、フォトリソ、マスクアライメント、パターンエッチング、レジスト剥離、熱処理の順に工程処理するものである。
【0009】
しかし、この方法では、工程が2倍になる。またAuBe層と上部のAu層がその間の微量な汚れなどで、うまく合金化せず剥離する危険性もある。
【0010】
そこで、AuBe層とAuパッド層の間にTi、Mo、W等の高融点金属や、それに近い金属の層、また場合によってはPt等の貴金属の層を設ける場合もある(例えば特許文献3−5参照)。
この製法の場合、AuBe、AuZnなどのドーパントドープ層の上に、Ti、Auと順に一蒸着内で連続して成膜し、フォトリソ、パターンエッチング、レジスト剥離、熱処理と一度の工程で完了するものである。
【0011】
この特許文献3−5に記載の方法で得られるアノード電極は、バリヤメタル(Ti等の金属層)を含み、熱処理でのGaなどの金属の金中への拡散はある程度防ぐことができ、ワイヤーボンディングも可能な状態も得られるが、十分とはいえない。
また、ボンディングの高速化により、ワイヤがうまく溶着せずに剥がれてしまう場合があり、未だワイヤーボンダビリティは十分とはいえない。
そのため、更にワイヤーボンダビリティが良好な電極が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−180430号公報
【特許文献2】特開平09−232255号公報
【特許文献3】特開2000−200926号公報
【特許文献4】特開2006−040997号公報
【特許文献5】特開2007−317913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、ワイヤーボンダビリティが良好な電極を形成することのできる発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、n型半導体結晶と、発光層と、GaまたはInを含みキャリア濃度が1×1017/cm以上1×1019/cm以下であるp型半導体結晶とが、この順で形成された半導体結晶の前記p型半導体結晶の表面に、オーミック電極材料として、少なくとも、AuBeを含む層、Ti層、Au層を形成し、その後熱処理を行ってオーミック電極を形成し、その後前記半導体結晶をダイシングする発光素子の製造方法であって、少なくとも、前記形成されたオーミック電極の表面を、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて洗浄する工程を含むことを特徴とする発光素子の製造方法を提供する。
【0015】
このように、熱処理によってp型半導体結晶の表面に形成されたオーミック電極の表面を、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて洗浄することで、電極最表面層のAu層の表面近傍のGa、In、Al等の不純物が除去され、ワイヤーボンダビリティが向上する。従って、従来に比べてワイヤーボンダビリティが良好なオーミック電極が形成された発光素子を製造することができる。
【0016】
また、前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を、水溶液またはアルコール溶液とすることが好ましい。
【0017】
また、前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を、ヨウ素の重量比率が0.02〜0.2%とすることが好ましい。
【0018】
このように、ヨウ素の重量比率が0.2%以下であると、オーミック電極最表面層のAu層の表面が腐食し、Au層の表面に凸凹が発生したり、金が捲れたりする恐れがなく、ヨウ素の重量比率が0.02%以上であると、エッチング力が弱くなり、洗浄時間が長くなり過ぎたり、不純物が十分除去できないという恐れがない。従って、より確実にボンディング強度を改善することができる。
【0019】
前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて行うオーミック電極表面の洗浄を、前記ダイシングによる切断面の歪除去エッチングの後に行うことが好ましい。
【0020】
このように、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液による洗浄は、熱処理時にオーミック電極の表面(電極最表面層のAu層の表面)に拡散した不純物を除去することで、ある程度の効果が期待できるため熱処理後に行えば良いが、熱処理後の工程での汚染を除去することで更にワイヤーボンダビリティを向上させることができるため、ワイヤーボンダリング直前であるダイシングによる切断面の歪除去エッチングの後に行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、ワイヤーボンダビリティが良好な電極を形成することのできる発光素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図である。
【図2】本発明の発光素子の製造方法の製造過程における電極形成前の半導体結晶の概略を示した図である。
【図3】本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるp側オーミック電極形成後の半導体結晶の概略を示した図である。
【図4】本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるn側オーミック電極形成後の半導体結晶の概略を示した図である。
【図5】本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるダイシング後の半導体結晶(発光素子)の概略を示した図である。
【図6】発光素子のp型半導体結晶やオーミック電極付近を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、ワイヤーボンダビリティが良好な電極を形成することのできる発光素子の製造方法が望まれていた。
【0024】
そこで本発明者らは、このワイヤーボンダビリティを向上させる電極の形成方法や処理方法について鋭意検討を重ねたところ、p側オーミック電極の最表面層のAuパッド層の表面状態とワイヤーボンダビリティに関係があることを見出した。
【0025】
そしてワイヤーボンダビリティを向上させるためのボンディングパッド(Auパッド)層の表面の処理方法について更に鋭意検討を重ねたところ、通常Au電極の除去用に用いられるヨウ素ヨウ化カリウム溶液のヨウ素の濃度を薄くしてAuパッド層表面を洗浄することにより、表面近傍のGa、In、Al等の不純物が除去されることでワイヤーボンダビリティを向上できることが判り、この知見を基に本発明を完成させた。
【0026】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の発光素子の製造方法について、図1〜6を用いて説明する。
図1は本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図、図2は本発明の発光素子の製造方法の製造過程における電極形成前の半導体結晶の概略を示した図、図3は本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるp側オーミック電極形成後の半導体結晶の概略を示した図、図4は本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるn側オーミック電極形成後の半導体結晶の概略を示した図、図5は本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるダイシング後の半導体結晶の概略を示した図、図6は発光素子のp型半導体結晶やオーミック電極付近を拡大した図である。
【0027】
まず、図1および図2に示すように、n型半導体結晶11(例えばn型GaAs基板)の上に、例えばAlGaInPからなる発光層12と、GaまたはInを含むキャリア濃度が1×1017〜1×1019/cmのp型半導体結晶13(例えばp型GaP層)とを、エピタキシャル成長によってこの順に形成した半導体結晶14を準備する(図1(A))。
【0028】
このn型半導体結晶11と、発光層12と、p型半導体結晶13の作製は一般的な方法で行えばよく、例えばn型半導体結晶からなる単結晶基板に、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によって発光層を気相成長させた後に、p型半導体結晶をHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によって形成することができる。
【0029】
この場合、発光効率を向上させるため、n型GaAs基板にAlGaInPからなる発光層とp型半導体結晶をエピタキシャル成長させた後に、n型GaAs基板を除去し、そこにn型GaP基板を貼り合わせるようにしてもよい。
【0030】
その後、図1(B)に示すように、p型GaP層13の表面を、硫酸過水で洗浄した後に純水で洗浄することができる。
その後、図1(C)および図6に示すように、p型GaP層13の表面上に、まず、AuBeを含む合金材料を蒸着させて、例えば厚さ0.3μmのAuBeを含む層15aを形成する。これは、例えばAuBe合金材料を抵抗加熱ボート、たとえばタングステンボートに入れて蒸着させればよい。
また、ここでは、AuBeを含む層15aを単独で形成する他に、Au層をその前後に形成しても良い。
【0031】
次に、Ti層15bを、EBガン蒸着等によって厚さ50〜150nm真空蒸着する。
このようにTi層15bを形成することによって、p型半導体結晶13からのGaやAl、In、AuBeを含む層15aからのBeが上部に形成するAu層まで拡散することを抑制するバリアー層を設けることができ、最表面層であるAu層(Auパッド層)中のGaやBe等の不純物濃度を低減させることができる。また厚さを50〜150nmとすることでAu層へのGaやBe等の不純物の拡散を更に抑制することができる厚さとすることができ、また長時間蒸着させる必要がなく、製造時間の短縮を図ることができる。
【0032】
その後、Ti層15b上に、Au層(Auパッド層)15cを、真空蒸着により厚さ1.5〜2μm形成する。このように、Au層15cの厚さを1.5〜2μmとすることによって、より良好なワイヤーボンディング特性を得ることができる
【0033】
その後、図1(D)に示すように、フォトリソ、エッチング、レジスト剥離等を行って電極パターンを形成する。電極パターンの形成方法は一般的な方法を用いることができるが、特に、リフトオフ法、エッチング法のいずれかとすることが好ましい。
電極パターンの形成にエッチング法を用いることによって、短時間で、高い精度で電極パターンを形成することができる。また、リフトオフ法であれば、高い精度で電極パターンを形成することができるとともに、環境負荷の大きな酸やアルカリ性薬液を用いるエッチング工程を行わずに済む。
【0034】
その後、図1(E)および図3に示すように、熱処理を行うことによって、先に蒸着させた金属層とp型半導体結晶とをオーミック接触させてオーミック電極とし、p側オーミック電極15を形成する。ここで、この熱処理条件を、不活性または活性の低いガス雰囲気(例えばArやN)中で、400℃〜500℃の温度で、20〜100分とすることができる。
このような熱処理条件であれば、各々の金属層が熱処理雰囲気と反応したり、熱によって劣化することを確実に防止することができ、また金属層とp型半導体結晶とをオーミック接触させることができる程度にBeを拡散させることができる。
【0035】
また、熱処理後に、図1(F)に示すように、p側オーミック電極とp型半導体結晶との間の抵抗を測定することが望ましい。
【0036】
その後、図1(G)に示すように、n型GaAs層11の表面を、硫酸過水で洗浄した後に純水で洗浄することができる。その後、図1(H)に示すように、n型GaAs層11の裏面側(発光層12やp型GaP層13とは反対側)に、1×10−6Torr程度の真空度でNi層その上にAuGe層を蒸着装置等によって成膜する。
ここで、このn側オーミック電極となる材料からなる層の形成方法や組成は、これに限らず、作製する半導体素子(n型半導体結晶)に合わせて適宜選択すればよい。
【0037】
その後、図1(I)、(J)および図4に示すように、蒸着装置から取り出して、フォトリソ、パターンエッチング、レジスト剥離等の工程を行って電極パターンを形成した後、熱処理してオーミック電極とし、n側オーミック電極16を形成する。
この電極パターンの形成方法や熱処理も、一般的な方法、条件を採用できる。
【0038】
また、熱処理後に、図1(K)に示すように、作製したn側オーミック電極とn型半導体結晶とがオーミック接触しているかどうかを確認するために抵抗を測定することが望ましい。
【0039】
その後、図1(L)に示すように、電極を形成した半導体結晶をダイシングする工程を行う。
そして、図1(M)に示すように、ダイシングによるダメージを除去するための歪取りエッチングや高輝度化のための粗面化処理等を任意で行うことができる。
【0040】
次に、図1(N)に示すように、ヨウ化カリウム溶液にヨウ素を溶かした液でp型半導体結晶の表面に形成されたオーミック電極(p側オーミック電極15)の表面を洗浄し、図5に示すような発光素子10を製造する。
このヨウ素ヨウ化カリウム溶液は水溶液又はアルコール溶液とすることができる。また、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液のヨウ素の重量比率を0.02〜0.2%とすることができる。
【0041】
ヨウ素の重量比率が0.2%以下であると、p側オーミック電極15最表面層のAu層15cの表面が腐食し、Au層15cの表面に凸凹が発生したり、金が捲れたりする恐れがなく、ヨウ素の重量比率が0.02%以上であると、エッチング力が弱くなり、洗浄時間が長くなり過ぎたり、不純物が十分除去できないという恐れがない。従って、より確実にボンディング強度を改善することができる。
【0042】
このようにヨウ素ヨウ化カリウム溶液でp側オーミック電極15表面を洗浄した場合ボンダビリティが向上する理由は以下のように考えられる。
前述したように、発光素子製造工程では、通常2度の電極形成工程において熱処理がなされることになる。このときに半導体と金の界面に合金層が作られる。その際に、相互に拡散がおき結晶からAu層の方向、表面については、ボンディングパッド(Au層)の表面まで拡散が進むことが、SIMS分析等で確認された。例えば、Ga、In、Alなどが電極最表面層のAu層の表面側に拡散する。これにより、ボンディングパッドであるAu層には、Ga、In、Al、Beなどが進入し、Auは硬くなり、ボンディングの熱圧着がしにくくなる。
【0043】
また、これらの不純物がAu層表面にまで突き抜けてきて、酸素、窒素などと化合することも考えられる。このように熱処理によって低抵抗のオーミック性の接触がAuと結晶との間で成り立つ代わりに、ワイヤーボンダビリティが犠牲になっていた。そこで、p側オーミック電極15表面(ボンディングパッド表面)をヨウ素ヨウ化カリウム溶液で洗浄することで、ボンディングパッド表面に拡散したGa、In、Al、Be等の不純物が除去され、ワイヤーボンダビリティが向上すると考えられる。
【0044】
また、作製された発光素子の特性検査として、上記のようにヨウ素ヨウ化カリウム溶液でp側オーミック電極15表面を洗浄した後(または評価ランプ組み立て後(図1(O)))に、シアテスト(図1(P))を行うことによって、製造する発光素子の品質を検査して、歩留り向上を図ることが望ましい。
【0045】
尚、上記例示では、p型半導体結晶にGaPを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、p型半導体結晶としては、他に、GaAs、GaAsP、GaAlAs、AlGaInP等のGaまたはInを含む半導体結晶を用いることができる。
【0046】
また、n型半導体結晶もGaAsに限定されず、同様にGaP、GaAsP、GaAlAs、AlGaInP等を用いることができる。
【0047】
尚、上記ではヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて行うp側オーミック電極表面の洗浄を、ダイシングによる切断面の歪除去エッチング後に行ったが、もちろん本発明の発光素子の製造方法におけるヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて行う洗浄は、ダイシングによる切断面の歪除去エッチングの後には限られない。
上記したように、本発明は、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液によるp側オーミック電極表面の洗浄を行うことによって、熱処理によりp側オーミック電極の表面(電極最表面層のAu層の表面)に拡散した不純物を除去することができ、ワイヤーボンダビリティが向上するという効果を得ることができるものである。従って、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液による洗浄は、p側オーミック電極を形成するための熱処理後であれば、当該洗浄を行わない場合に較べて、ワイヤーボンダビリティが向上するという本発明の効果を確実に奏することができるため、p側オーミック電極を形成するための熱処理後であれば、いずれの工程で行っても良い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
(実施例)
厚さ100μmでドーパント濃度が2×1018/cmのn型GaAs基板上に、厚さ数μmのAlGaInP発光層と、厚さ5μmでドーパント濃度が3×1017/cmのp型GaP層からなる半導体結晶を作製した。
次に、p型GaP層の表面を、硫酸過水(硫酸:過酸化水素水:純水=3:1:1)で40℃、10秒間、洗浄した後に純水で洗浄した。
【0050】
その後、1×10−6Torr程度の真空度で、Be濃度1%のAuBe合金材料をタングステンボートにセットし、蒸気圧が低い状態で溶かし、その後蒸発させ厚さ60nmのAuBeを含む層を成膜した。
その後、その上に、EB蒸着で、厚さ80nmのTi層を成膜した。このTi層形成の際は、シャッターを閉めた状態で、蒸発しない程度の電流でTiインゴットを10分程度電子ビームで加熱して、Tiインゴット内の水分、酸素、窒素などTiに吸着されているであろう成分を放出させる脱ガスを行った後にTiを蒸発させた。そして、その上に、Au層を1.5μm蒸着した。この金は、ワイヤーボンディング時のワイヤーを超音波熱圧着するボンディングパッドとなる。
【0051】
次に、フォトリソ法で、120μm四角の電極パターンを形成した。この際のAu層のエッチングには、ヨウ素系のエッチャントを用いた。その後、レジストを剥離した。
次に、窒素雰囲気中で、500℃、20分の熱処理を行い、オーミック接触を得た。以上でp側オーミック電極(アノード電極)が完成した。
【0052】
次に背面電極を形成した。まずn型GaAsの表面を、硫酸過水(硫酸:過酸化水素水:純水=3:1:1)で、40℃、10秒間、洗浄した後に純水で洗浄した。次にn型GaAs面上に真空蒸着を行った。1×10−6Torr程度の真空度で、Niを30nm、その上にAuGeを300nm、更にAuを200nm蒸着した。
その後フォトリソ、パターンエッチング、レジスト剥離を行い窒素雰囲気中で430℃、30分の熱処理を行いn側オーミック電極(カソード電極)を形成した。
その後、280μmピッチでダイシングし、約250μm四角のチップを切り出した。
その後、ダイシングによる切断面の歪除去として、硫酸:過酸化水素水:純水=3:1:1で、60℃、6分のエッチングを行った。
【0053】
次にヨウ化カリウム水溶液にヨウ素を0.15重量%溶かした液で、p側オーミック電極の表面を10秒間洗浄し、その後、水洗し乾燥させた。ここでヨウ素ヨウ化カリウム水溶液は純水1000mlにヨウ化カリウムを230gを溶かし、そこに1.8gのヨウ素を溶かしたものを用いた。
【0054】
その後、チップをTO−18ステム上に、銀のフィラーを含む一液性の樹脂を用いて、GaAs面をダイボンディングし、150℃、1時間で熱硬化させた。その後、超音波ボンダーで、ステム加熱温度100℃で直径25μmのAuワイヤーをボンディングパッドに熱圧着した。この温度は、通常200℃で行うが、少し低めの温度で行った。したがってボンディング強度は少し低くなる。
【0055】
次にシアテスターで熱圧着したAuワイヤーのボール部分を横方向から押し、Auワイヤーのボール部分がボンディングパッドから剥がれたときの力(シア強度)を測定した。尚、測定は30個のチップについて行い、平均値を算出した。測定結果を下記表1に示す。
【0056】
(比較例)
実施例においてヨウ素ヨウ化カリウム水溶液によるp側オーミック電極表面の洗浄を行わないこと以外は実施例と同じ条件で発光素子を作製し、Auワイヤーのシア強度を測定した。尚、測定は実施例と同様30個のチップについて行い、平均値を算出した。測定結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1により、比較例に比べて実施例の発光素子のシア強度は向上し、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて洗浄することで、安定した電極を形成することができることが判った。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
10…発光素子、 11…n型GaAs基板(n型半導体結晶)、 12…発光層、 13…p型GaP層(p型半導体結晶)、 14…半導体結晶、 15…p側オーミック電極、 15a…AuBeを含む層、 15b…Ti層、 15c…Au層(Auパッド層)、 16…n側オーミック電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、n型半導体結晶と、発光層と、GaまたはInを含みキャリア濃度が1×1017/cm以上1×1019/cm以下であるp型半導体結晶とが、この順で形成された半導体結晶の前記p型半導体結晶の表面に、オーミック電極材料として、少なくとも、AuBeを含む層、Ti層、Au層を形成し、その後熱処理を行ってオーミック電極を形成し、その後前記半導体結晶をダイシングする発光素子の製造方法であって、
少なくとも、前記形成されたオーミック電極の表面を、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて洗浄する工程を含むことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を、水溶液またはアルコール溶液とすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を、ヨウ素の重量比率が0.02〜0.2%とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いて行うオーミック電極表面の洗浄を、前記ダイシングによる切断面の歪除去エッチングの後に行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−35318(P2011−35318A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182682(P2009−182682)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】