説明

皮革残膜厚測定装置

【課題】皮革に摩擦力がかからず、皮革に形成された溝の深さを高精度に測定することができる皮革残膜厚測定装置を提供する。
【解決手段】スリットSWが形成されている皮革W1の部位における残膜の厚さを測定する皮革残膜厚測定装置1において、皮革W1のスリット形成部SW1の裏面に線状の先端部11を接触させて、皮革W1を支持する基台10と、基台10で支持されている皮革W1の両端部側の部位が基台10から離れて延出し、基台10で支持されている皮革W1のスリットSWが開口するように、皮革W1の両端部を引っ張る皮革引っ張り手段20と、皮革引っ張り手段20で引っ張られている皮革W1のスリット形成部SW1における残膜の厚さを測定する残膜厚測定手段20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革残膜厚測定装置に係り、例えば、自動車用エアーバッグカバーに使用される皮革に設けられた溝部における上記皮革の残膜厚さ(残厚)を測定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホーンパッド等の自動車用エアーバッグカバーに使用される皮革のスリット(エアーバッグ作動時における開裂用の溝)の深さを測定する方法として、例えば、特開2008−233054号公報(特許文献1)に記載された方法が提案されている。このスリットの深さを測定する方法は、センサー等で構成された皮革残膜厚測定装置を用いて非接触で皮革の表面の位置を測定することにより、スリットの深さを測定している。
【0003】
図8及び図9は、特許文献1に記載された皮革残膜厚測定装置の構成を示す図である。図8に示すように、皮革残膜厚測定装置100は、皮革W2(図9参照)を設置する基台101と、皮革W2の部位の厚さ(皮革W2のスリット(溝部)SW2における残膜の厚さ)t2を測定する測定手段102から略構成されている。
【0004】
図9に示すように、基台101は、上端部に凸状で直線状の稜部103を備えている。稜部103には、皮革W2のスリットSW2の深さを測定する際、矢印Tで示す方向に張力を加え、基台101に設置された皮革W2のスリットSW2部位が開くようにし、スリットSW2の裏側(反対側)に位置する部位が稜部103に接触する。
【0005】
そして、測定手段102は、基台101に設置された皮革W2のスリットSW2の深さを測定する際、レーザ等のセンサー104をスリットSW2に照射して、稜部103に接触している皮革W2のスリットSW2における残膜の厚さt2を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−233054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した皮革残膜厚測定装置100では、皮革W2のスリットSW2の深さを測定する際、皮革W2に張力を加え、基台101に設置され基台101に面接触している皮革W2のスリットSW2が開くように構成しているため、基台101に接触している皮革W2に摩擦力がかかり、張力TによるスリットSW2部における皮革W2の張力が安定せず、スリットSW2部における皮革W2の残膜の厚さが変化してしまい、皮革W2の残膜の厚さt2を正確に測定することができなくなるおそれがあるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、皮革に摩擦力がかからず、皮革に形成された溝の深さを高精度に測定することができる皮革残膜厚測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、スリットが形成されている皮革の部位における残膜の厚さを測定する皮革残膜厚測定装置において、前記皮革のスリット形成部の裏面に線状の先端部を接触させて、前記皮革を支持する基台と、前記基台で支持されている前記皮革の両端部側の部位が前記基台から離れて延出し、前記基台で支持されている前記皮革のスリットが開口するように、前記皮革の両端部を引っ張る皮革引っ張り手段と、前記皮革引っ張り手段で引っ張られている皮革のスリット形成部における残膜の厚さを測定する残膜厚測定手段とを有する皮革残膜厚測定装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の皮革残膜厚測定装置において、前記皮革引っ張り手段は、前記先端部に接触する皮革のスリット形成部の位置を調整する調整機能を有する皮革残膜厚測定装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の皮革残膜厚測定装置において、前記皮革引っ張り手段は、前記基台に係合する一対の皮革引っ張り部材から構成されている皮革残膜厚測定装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の皮革残膜厚測定装置において、前記残膜厚測定手段は、前記皮革のスリット形成部と非接触で該スリット形成部の表面の位置を検出することにより残膜の厚さを測定する非接触式レーザセンサーを備え、前記基台の線状の先端部は細幅の平面状に形成されている皮革残膜厚測定装置である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の皮革残膜厚測定装置において、前記皮革は、過負荷で前記皮革引っ張り部材から外れるように構成されている皮革残膜厚測定装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、皮革に摩擦力がかからず、皮革に形成された溝の深さを高精度に測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の基台を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の皮革引っ張り部材を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の皮革引っ張り部材の装着前を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の引っ張り部材の装着後を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係るホーンパッドの概略構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る皮革と試験片の生成を示す図である。
【図8】従来における皮革残膜厚測定装置の概略構成図である。
【図9】従来における皮革残膜厚測定装置の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。はじめに、図1から図3を参照して、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の斜視図である。図2(a)は、本発明の実施形態に係る基台の上面図である。図2(b)は、本発明の実施形態に係る基台の正面図である。図2(c)は、本発明の実施形態に係る基台の側面図である。図3(a)は、本発明の実施形態に係る皮革引っ張り部材の上板を示す図である。図3(b)は、本発明の実施形態に係る皮革引っ張り部材の中板を示す図である。図3(c)は、本発明の実施形態に係る皮革引っ張り部材の底板を示す図である。
【0017】
図1に示すように、スリットSWが形成されている皮革W1(後述する試験片)の部位における残膜の厚さを測定する皮革残膜厚測定装置1は、皮革W1を支持する基台10と、基台10で支持されている皮革W1に形成されたスリットSWが開口するように、皮革W1の両端部を所定の力で引っ張る皮革引っ張り手段20と、皮革引っ張り手段20により引っ張られている皮革W1のスリット形成部SW1における残膜の厚さ(皮革W1の厚さ;皮革W1の残厚)を測定する残膜厚測定手段30から略構成されている。
【0018】
皮革W1は、例えば、牛革等の天然皮革であり、長手方向両端が皮革引っ張り手段20に保持され、所定の力で引っ張られても皮革引っ張り手段20から外れることがないように、矩形の板状の中央部の両端に、幅広の部分が形成され、ダンベル状の形状になっている。また、皮革W1に形成されたスリットSWは、皮革W1の厚さ方向の一方の面に、たとえば鋭利な刃物によって所定の深さでスリットSWが形成されている。また、スリットSWは、皮革の長手方向の中央部で皮革の幅方向に延び、幅方向の全長にわたって直線状に形成されている。
【0019】
図1及び図2に示すように、基台10は、金属製の材料で形成されており、スリットSWが形成されたスリット形成部SW1の裏面(スリットSWの裏面側)に接触する直線状の先端部11を有する測定子12と、測定子12を支持する一対の測定台13と、皮革引っ張り手段20と係合する一対の測定ガイド14とから構成されている。
【0020】
測定子12は、スリット形成部SW1に対応して、板状の皮革W1の厚さ方向の他の面に存在している線状の部位が、測定子12の先端部11に接触するように細幅(約0.5mm、後述するレーザ光のスポット径よりも僅かに広い幅)の平面状に形成されている。つまり、後述するレーザ光のスポット径よりも幅が僅かに広い形状のため、皮革W1が載置されていない状態で先端部11にレーザ光を照射して「0」点(皮革W1の残膜の厚さを測定する上で基準となる値)を容易に検出することができる。
【0021】
一対の測定台13は、正面視した場合に「L」字状の形状を有しており、測定子12を支持する測定台上端部15(図2参照)と、後述する残膜測定手段30のステージ32に固定される測定台下端部16から構成されている。
【0022】
測定台上端部15は、測定子12の先端部11が測定台上端部15よりも所定の長さ上方に突出するように、平面状の測定子12を正面視した場合の左右方向から挟み測定子12を支持している。また、測定台下端部16は、螺子孔を有しており、螺子を螺子孔に挿入して後述する残膜測定手段30のステージ32と固定する。
【0023】
一対の測定ガイド14は、側面視した場合に「T」字状の形状を有しており、皮革引っ張り手段20と係合する係合部17を有している。また、一対の測定ガイド14は、螺子孔を有しており、測定子12を挟んだ一対の測定台13を正面視した場合の左右方向から挟み、螺子とナットで螺合することにより測定台13を支持している。また、一対の測定ガイド14は、側面視した場合に測定台13の中央から下方にかけて装着する。
【0024】
係合部17は、後述する上板切り欠き部25aが当接する上板当接部18と、後述する皮革引っ張り部材21a、21bの先端内側部26が上下方向にスライド可能なスライド部19を有している。
【0025】
図1及び図3に示すように、皮革引っ張り手段20は、金属製の材料で構成され皮革W1の長手方向両端を保持して基台10に係合する一対の皮革引っ張り部材21a、21bから構成されている。そして、一対の皮革引っ張り部材21a、21bの重量により、皮革W1の両端部を引っ張るようになっている。皮革引っ張り部材21a、21bは、皮革引っ張り部材21a、21bの幅方向の中央部で厚さ方向に貫通して形成されている矩形状の切り欠き部25a、25b、25cが形成されている。
【0026】
図1に示すように、皮革引っ張り部材21aは皮革W1の長手方向一端を保持し、皮革引っ張り部材21bは、皮革W1の長手方向他端を保持する。また、図3に示すように、皮革引っ張り部材21aは、厚さが約1mmの上板22と、厚さが約1mmの中板23と、厚さが約2mmの底板24の3枚の板から構成されている。
【0027】
上板22は、皮革W1の長手方向一端をスリット形成部SW1側(上面側)から保持するための矩形状の上板切り欠き部25aを有している。また、測定ガイド14に皮革引っ張り手段20を係合した際、上板切り欠き部25aの一端の上面が係合部17の上板当接部18(図2(c)参照)に当接可能に形成されている。
【0028】
また、中板23は、皮革W1の長手方向一端をスリット形成部SW1の厚さ方向から保持するための矩形状の中板切り欠き部25bを有している。中板切り欠き部25bは、上板切り欠き部25aよりも切り欠き部分が大きく、皮革W1の先端と略同様の形状に形成されている。
【0029】
底板24は、皮革W1の長手方向一端をスリット形成部SW1の裏面側から保持し、測定ガイド14の係合部17(図2(c)参照)と所定の角度で係合するための底板切り欠き部25cを有している。底板切り欠き部25cは、上板切り欠き部25a及び中板切り欠き部5bよりも切り欠き部分が小さく形成されている。
【0030】
また、上板切り欠き部25a及び中板切り欠き部25b、底板切り欠き部25cの先端内側部26は、係合部17のスライド部19(図2(c)参照)の上下方向にスライド可能にスライド部19の幅と略同一の幅で形成されている。
【0031】
底板24及び中板23、底板24は、それぞれ螺子孔又は螺子切を有しており、皮革引っ張り部材21aは、底板24の上面に中板23、中板23の上面に上板22を重ねて螺子で螺合することにより皮革引っ張り部材21aとして構成される。
【0032】
また、皮革引っ張り部材21aは、形状がそれぞれ異なる上板切り欠き部25a及び中板切り欠き部25b、底板切り欠き部25cにより、上板22と底板24の間に皮革W1の先端を挟んで保持することが可能であり、スリット位置を調整するときに、誤って保持した皮革W1に過負荷をかけてしまった場合には皮革W1の端部が変形して皮革W1が皮革引っ張り部材21aから外れるように構成されている。このため、皮革W1のスリット形成部SW1が過負荷により伸びることがないので、残膜の厚さを正確に測定することができる。また、皮革W1の保持及び外す作業が簡単になり、測定時間を短縮することができる。
【0033】
なお、皮革引っ張り部材21bは、皮革引っ張り部材21aと同様の構成を有するため、皮革引っ張り部材21bの構成の説明は省略するものとする。
【0034】
図1に示すように、残膜厚測定手段30は、皮革W1のスリット形成部SW1に上方からレーザ光を照射することによりスリット形成部SW1の残膜の厚さを測定する測定装置31と、基台10と、測定台下端部16(図2(b)参照)が固定されることにより基台10を保持するステージ32と、測定装置31により測定した残膜の厚さを表示する表示装置33から構成されている。
【0035】
測定装置31は、測定子12の先端部11にレーザ光を照射可能に先端部11の上方に非接触式レーザセンサー(図示省略)が設けられている。非接触式レーザセンサーは、約0.5mmのレーザ光を皮革W1に照射し、皮革W1と非接触でスリット形成部SW1の表面の位置を検出することにより残膜の厚さを測定する。測定されたスリット形成部SWの残膜の厚さは表示装置33に送信され、表示装置33のディスプレイ34に表示される。
【0036】
なお、皮革残膜測定装置1は、皮革W1のスリット形成部SW1における残膜の厚さを測定するのであるが、皮革W1の厚さ(スリットSW1が形成されていない部位の厚さ)をたとえばノギスを用いて別途計測し、測定装置1で測定した残膜の厚さとの差をとれば、スリットSW1の深さを間接的ではあるが測定することになる。
【0037】
次に、図4及び図5を参照して、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置による残膜厚測定に引っ張り部材を装着する方法及び残膜厚測定方法について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の皮革引っ張り部材の装着前を示す図である。図5は、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置の引っ張り部材の装着後を示す図である。
【0038】
図4に示すように、皮革W1の長手方向一端を皮革引っ張り部材21aに保持し、皮革W1の長手方向他端を皮革引っ張り部材21bに保持する。具体的には、皮革W1の先端を底板24(図3参照)に接触させて、上板22の上板切り欠き部25a(図3参照)が皮革W1の先端の一部を覆うことにより皮革W1の一端及び他端を保持する。
【0039】
皮革W1の長手方向一端及び他端を皮革引っ張り部材21a及び皮革引っ張り部材21bに保持すると、図5に示すように、皮革W1を保持した状態で皮革引っ張り部材21a及び皮革引っ張り部材21bを基台10の上方から下方へ移動して、皮革引っ張り手段20を基台11に係合する。
【0040】
具体的には、皮革W1を保持した皮革引っ張り部材21a及び皮革引っ張り部材21bを基台10の上方から下方へ所定距離移動させ、皮革引っ張り部材21a及び皮革引っ張り部材21bの先端内側部26(図3参照)をスライド部19(図2(c)参照)の下部から上部へスライドし、上板切り欠き部25a(図3(a)参照)の先端上面が係合部17の上板当接部18(図2(c)参照)と当接させることにより、皮革引っ張り手段20を基台11に係合する。
【0041】
上板切り欠き部25a(図3(a)参照)の先端上面が係合部17の上板当接部18(図2(c)参照)に当接すると、図5に示すように、基台10の線状の先端部11が基台10の頂上部になっているとすると、皮革W1のスリットが形成されている面が上面となりスリットが形成されていない面が下面となって、皮革W1が基台10に載置される。
【0042】
皮革W1が基台10に載置されると、引っ張り手段20は、基台10で支持されている皮革W1の両端部側の部位が基台10から離れて空中で延出し、基台10で支持されている皮革W1のスリットSWが開口するように、皮革W1の両端部を所定の力で引っ張る。
【0043】
図5に示すように、基台10の線状の先端部11が基台10の頂上部になっており、先端部11の下側に基台の基端部側の部位が位置しているとすると、引っ張り手段20により皮革W1を引っ張ることにより、スリット形成部SW1を境にした皮革W1の長手方向の一方の側の部位が、基台10の左側で斜め下方に直線的に延出しており、スリット形成部SW1を境にした皮革W1の長手方向の他方の側の部位が、基台10の右側で斜め下方に直線的に延出する。そして、皮革W1が、スリット形成部SW1を頂点とした逆「V」字状となり基台10に載置される。
【0044】
このように、引っ張り手段20は、基台10で支持されている皮革W1の両端部側の部位が基台10から離れて(空中で)延出し、基台10で支持されている皮革W1のスリット形成部SW1が開口するように皮革W1の両端部を所定の力で引っ張るため、皮革W1に従来のもののように摩擦力がかることがない。これにより、スリット形成部SW1における皮革W1の部位にかかる張力が安定し、スリット形成部SW1の残膜の厚さが変動しなくなり、皮革W1に形成されたスリットSWの深さを高精度に測定することができる。
【0045】
そして、皮革W1が基台10に載置された状態で測定装置31からレーザ光を照射すると、スリット形成部SW1の残膜の厚さが表示装置33のディスプレイ34に表示される。つまり、皮革W1が載置されていない状態でレーザ光を照射して「0」点(皮革W1の残膜の厚さを測定する上で基準となる値)を検出し、皮革W1が基台10に載置された場合にレーザ光を照射してスリット形成部SW1の厚さ(0点からスリット形成部SW1の表面の高さ)を測定することによりディスプレイ34に残膜厚の値を表示する。
【0046】
また、引っ張り手段20は、先端部11に接触するスリット形成部SW1の裏面の位置を調整する調整機能を有している。つまり、皮革W1はスリット形成部SW1を頂点とした逆「V」字状となり、皮革W1の両端は皮革引っ張り部材21a、21bにより左右均等に荷重がかかりながら引っ張られるため、皮革W1は、先端部11を支点として天秤のように載置される。このため、手動により皮革引っ張り部材21a、21bを矢印A方向に移動させると、スリット形成部SW1が矢印B方向に移動する。
【0047】
そして、測定装置31からレーザ光が皮革W1のスリット形成部SW1に照射された状態で皮革引っ張り部材21a、21bを矢印A方向に移動させると、皮革引っ張り部材21a、21bの移動に伴いレーザ光が照射されるスリット形成部SW1の位置が変化する。スリット形成部SW1の位置が変化すると、表示装置33のディスプレイ34に表示されるスリット形成部SWの残膜厚も値も変化する。
【0048】
そして、ディスプレイ34を目視しながら皮革引っ張り部材21a、21bを矢印A方向に移動させて、ディスプレイ34に表示された残膜厚の値のうち、最も低い数値を示した位置で皮革引っ張り部材21a、21bの移動を停止する。皮革引っ張り部材21a、21bの移動の停止に伴いレーザ光が照射されるスリット形成部SW1の位置が停止することにより、スリット形成部SW1の残膜厚が最も薄い位置を検出することが可能となる。
【0049】
このように、引っ張り手段20は、先端部11に接触するスリット形成部SW1の裏面の位置を調整する調整機能を有しているため、スリット形成部SW1の残膜が最も薄い位置を正確に検出することができ、また、簡単に残膜の厚さを測定することができる。
【0050】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置で測定する皮革について説明する。図6(a)は、ホーンパッドの概略構成を示す図である。図6(b)は、ホーンパッドのI−I断面図である。図7(a)は、皮革と試験片を打ち抜いた直後の状態を示す図である。図7(b)は、皮革と試験片の生成を示す図である。
【0051】
図6に示すように、ホーンパッド50は、自動車のステアリングホイール(図示省略)の中央部に設けられており、図6(a)に示すホーンパッド1の奥(図6(a)の紙面の奥側)には、エアーバッグのユニット(エアーバッグ)が設けられている。
【0052】
また、ホーンパッド50は、基材51と、この基材51に接着剤や粘着剤を用いて貼り付けられた皮革Wとを備えて構成されている。基材51は平面ではない曲面状で板状に形成されており、基材51の厚さ方向の一方の面(自動車の運転者とは反対側に位置する面)には、たとえば「V」字状の溝(予定破断線)52が延びて形成されている。
【0053】
皮革Wの厚さ方向の一方の面には、スリット(脆弱部)53が延びて形成されている。皮革Wは、基材51の表面を覆うようにして設けられており、皮革Wや基材51の厚さ方向から見ると、図6(b)に示すように基材51の溝52と皮革Wのスリット53とがお互いに重なっている。
【0054】
そして、エアーバッグ(図示省略)が膨張するときホーンパッド50が溝52、スリット53のところで速やかに破断して開裂するようになっている。なお、スリット53は、皮革Wの床面に形成されており、ホーンパッド50では、皮革Wの床面が基材51に接触しており、皮革Wの銀面が、運転者に面している。
【0055】
皮革Wの床面と銀面について説明する。皮革Wとしてたとえば牛皮を考えた場合、銀面とは牛の表皮面に相当する面をいい、床面とは、牛の肉側の面をいう。また、皮革を構成している繊維成分は、銀面側では密になっており、床面側では粗くなっている。したがって、銀面側では、引っ張り強度等の機械的強度が高く、床面側では、機械的強度が低くなっている。
【0056】
図7に示すように、小片の皮革素材54は、脱毛処理や鞣し処理などの前処理が施された1枚の大きな皮革素材(図示省略)から複数枚生成される。生成された小片の皮革素材54からは、例えば、型(図示せず)を用いて打ち抜きをすることにより皮革Wが生成される。
【0057】
図7に示すように、小片皮革素材54には、スリット53(56、57、58)、スリットSW(SW1、SW2、SW3、SW4)が形成されている。また、小片皮革素材54を上記型で打ち抜くときに、小片皮革素材54の姿勢や位置決めをするための切り欠き(図示せず)や円形状の貫通孔59が形成されている。
【0058】
また、1枚の小片皮革素材54からは、上記型による打ち抜きにより、1枚の皮革Wと同時に4つの試験片(ダンベル)W1(W1A、W1B、W1C、W1D)が生成されるようになっている。4つの試験片(皮革)W1は、皮革Wの周囲に例えば4つ形成されている。
【0059】
皮革Wにはスリット(溝)53が形成されており、スリット53は、ほぼ横方向に延びた横スリット(横方向部位)56と、ほぼ縦方向に延びた第1の縦スリット(第1の縦方向部位)57と、ほぼ縦方向に延びた第2の縦スリット(第2の縦方向部位)58とで構成されている。
【0060】
第1の縦スリット57は、長手方向の中間部が横スリット56の長手方向の一端部側の部位に交差しており、第2の縦スリット58は、長手方向の中間部が横スリット56の長手方向の他端部側の部位に交差している。そして、スリット53は、「H」字状に形成されている。
【0061】
また、試験片W1にも、スリット53と同様なスリットSW(SWA、SWB、SWC、SWD)が形成されている。スリット53、スリットSWは、小片皮革素材54(皮革W、試験W1)の床面に形成されている。スリット53が形成された小片皮革素材54の残部の厚さは一定になっており、スリットSWが形成された小片皮革素材54の残部の厚さは、スリット53が形成された小片皮革素材54の残部の厚さと同じ厚さで、一定になっている。
【0062】
なお、試験片W1Aは、縦方向に細長く形成されており、試験片W1Aの長手方向の中央部に横方向に延びたスリットSWAが形成されている。同様にして、試験片W1Bは、縦方向に細長く形成されており、試験片W1Bの長手方向の中央部に横方向に延びたスリットSWBが形成されている。
【0063】
試験片W1Cは、横方向に細長く形成されており、試験片W1Bの長手方向の中央部に縦方向に延びたスリットSWCが形成されている。同様にして、試験片W1Dは、横方向に細長く形成されており、試験片W1Dの長手方向の中央部に縦方向に延びたスリットSWDが形成されている。
【0064】
図6(a)及び図6(b)に示すように、スリットSWA及びスリットSWBは、スリット56の一端及び他端の延長線上に形成されている。また、スリットSWCはスリット57の一端、スリットSWDはスリット58の一端の延長線状に形成されている。つまり、小片皮革素材54にスリット53の第1の縦スリット57及び第2の縦スリット58を形成し、第1の縦スリット57及び第2の縦スリット58の延長線上にスリットSWC及びスリットSWDを形成する。次に、スリット56の一端及び他端の延長線上にスリットSWA及びスリットSWBを形成し、各試験片W1を形成する。
【0065】
このように、スリット56の一端及び他端の延長線上にスリットSWA及びスリットSWBを形成し、第1の縦スリット57及び第2の縦スリット58の延長線上にスリットSWC及びスリットSWDを形成することにより、製品加工(スリット53)の延長線上に試験片W1(サンプル)の加工部(スリットSW)が形成されるため、ホーンパッド50に貼り付けられた皮革W1の代用性が高い試験片W1を生成することができる。
【0066】
また、試験片W1A、W1Bを縦方向に細長く形成し、試験片W1C、W1Dを横方向に細長く形成した理由は、小片皮革素材54において、縦方向と横方向とでは、強度に差がある場合があるからであり、スリット53が形成されている方向(スリット53の長手方向)が異なっても、スリット53のところで、皮革Wが確実に破断することを保障するためである。
【0067】
続いて、図7(b)に示すように、上記型を用いて、小片皮革素材54から皮革Wと試
験片W1とを打ち抜きにより生成し、皮革W、各試験片W1のそれぞれに、QRコード60等の識別符号を付与する。
【0068】
そして、上述した皮革残膜厚測定装置1を用いて、スリットSWが形成されている部位における試験片W1の残部の厚さを測定する。この皮革残膜厚測定装置1で得られた測定値を小片皮革素材54(皮革W、試験片W1)に製造年月日と共にQRコード60に対応させて、たとえばコンピュータのメモリに記憶(保管)しておく。
【0069】
また、皮革Wのスリット53(各部位56、57、58の少なくともいずれか)における残膜の厚さを測定し、QRコード60に対応させて保管しておいてもよい。
【0070】
このようにして、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1は、皮革W1のスリット形成部SW1の裏面に線状の先端部11を接触させて、皮革W1を支持する基台10と、基台10で支持されている皮革W1の両端部側の部位が基台11から離れて延出し、基台11で支持されている皮革W1のスリットSWが開口するように、皮革W1の両端部を引っ張る皮革引っ張り手段20と、皮革引っ張り手段20で引っ張られている皮革W1のスリット形成部SW1における残膜の厚さを測定する残膜厚測定手段30とを有する。
【0071】
また、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1は、皮革引っ張り手段20は、先端部11に接触する皮革W1のスリット形成部SW1の位置を調整する調整機能を有する。
【0072】
さらに、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1は、皮革引っ張り手段20は、基台10に係合させる一対の皮革引っ張り部材21a、21bから構成されている。
【0073】
また、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1は、残膜厚測定手段30は、皮革W1のスリット形成部SW1と非接触でスリット形成部SW1の表面の位置を検出することにより残膜の厚さを測定する非接触式レーザセンサーを備え、基台10の線状の先端部11は細幅の平面状に形成されている。
【0074】
また、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1は、皮革W1は、過負荷で皮革引っ張り部材21a、21bから外れるように構成されている。
【0075】
そして、本発明の実施形態に係る皮革残膜厚測定装置1によれば、引っ張り手段20は、基台10で支持されている皮革W1の両端部側の部位が基台10から離れて(空中で)延出し、基台10で支持されている皮革W1のスリット形成部SW1が開口するように皮革W1の両端部を所定の力で引っ張るため、皮革W1に摩擦力がかることがない。また、摩擦抵抗によってスリット形成部SW1の残膜の厚さが低く測定されることがなく、皮革W1に形成されたスリットSWの深さを高精度に測定することができる。
【0076】
また、引っ張り手段20は、先端部11に接触するスリット形成部SW1の裏面の位置を調整する調整機能を有しているため、スリット形成部SW1の残膜が最も薄い位置を正確に検出することができ、また、簡単に残膜の厚さを測定することができる。
【0077】
さらに、皮革W1の両端は皮革引っ張り部材21a、21bにより左右均等に荷重がかかりながら引っ張られるため、皮革W1は、先端部11を支点として天秤のように載置される。このため、手動により皮革引っ張り部材21a、21bを矢印A方向(図5参照)に移動させると、スリット形成部SW1が矢印B方向(図5参照)に移動する。従って、手動で皮革引っ張り部材21a、21bを移動させることにより、スリット形成部SW1の残膜が最も薄い位置を簡単に検出することができる。
【0078】
また、基台10の先端部11は、測定装置31が照射するレーザ光のスポット径よりも幅が僅かに広い形状のため、皮革W1が載置されていない状態でレーザ光を照射して「0」点(皮革W1の残膜の厚さを測定する上で基準となる値)を容易に検出することができる。
【0079】
また、皮革引っ張り部材21a、21bが保持した皮革W1を、過負荷で皮革引っ張り部材21a、21bから外れるように構成されているため、皮革W1の保持及び外す作業が簡単になり、測定時間を短縮することができる。
【0080】
以上、本発明の皮革残膜厚測定装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0081】
例えば、上述した実施形態では、測定装置31には非接触式レーザセンサーが設けられている場合について説明したが、CCD式画像センサー等を設け、スリット形成部SW1の残膜の厚さを測定してもよい。
【0082】
また、上述した実施形態では、皮革W1のスリット形成部SW1に上方からレーザ光を照射することによりスリット形成部SW1の残膜の厚さを測定する場合について説明したが、横方向にセンサー等を照射してスリット形成部SW1の残膜の厚さを測定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、自動車用エアーバッグカバーに使用される皮革に設けられた溝部における皮革の残膜厚さ(残厚)を測定する上で極めて有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 皮革残膜厚測定装置
10 基台
11 先端部
12 測定子
13 測定台
14 測定ガイド
15 測定台上端部
16 測定台下端部
17 係合部
18 上板当接部
19 スライド部
20 皮革引っ張り手段
21 皮革引っ張り部材
22 上板
23 中板
24 底板
25 切り欠き部
26 先端内側部
30 残膜厚測定手段
31 測定装置
32 ステージ
33 表示装置
34 ディスプレイ
W1 皮革
SW スリット
SW1 スリット形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットが形成されている皮革の部位における残膜の厚さを測定する皮革残膜厚測定装置において、
前記皮革のスリット形成部の裏面に線状の先端部を接触させて、前記皮革を支持する基台と、
前記基台で支持されている前記皮革の両端部側の部位が前記基台から離れて延出し、前記基台で支持されている前記皮革のスリットが開口するように、前記皮革の両端部を引っ張る皮革引っ張り手段と、
前記皮革引っ張り手段で引っ張られている皮革のスリット形成部における残膜の厚さを測定する残膜厚測定手段と、
を有することを特徴とする皮革残膜厚測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の皮革残膜厚測定装置において、
前記皮革引っ張り手段は、前記先端部に接触する皮革のスリット形成部の位置を調整する調整機能を有することを特徴とする皮革残膜厚測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の皮革残膜厚測定装置において、
前記皮革引っ張り手段は、前記基台に係合する一対の皮革引っ張り部材から構成されていることを特徴とする皮革残膜厚測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の皮革残膜厚測定装置において、
前記残膜厚測定手段は、前記皮革のスリット形成部と非接触で該スリット形成部の表面の位置を検出することにより残膜の厚さを測定する非接触式レーザセンサーを備え、
前記基台の線状の先端部は細幅の平面状に形成されていることを特徴とする皮革残膜厚測定装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の皮革残膜厚測定装置において、
前記皮革は、過負荷で前記皮革引っ張り部材から外れるように構成されていることを特徴とする皮革残膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−220833(P2011−220833A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90363(P2010−90363)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(506292332)株式会社ミドリテクノパーク (9)
【Fターム(参考)】