説明

真空ベント部およびこれを用いた熱可塑性樹脂組成物の造粒方法

【課題】熱可塑性樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練する際、真空ベント部において原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出できない場合、その凝集物がシリンダー内に逆流することによって造粒中のペレットが着色するという品質上の問題を解決することである。
【解決手段】特定の形状を有する真空ベント部を押出機に装着使用することで、原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出でき、その凝縮物がシリンダー内に逆流することがない為、造粒中のペレットが着色せず、品質を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物を造粒する際に押出機に装着する真空ベント部に関する。また熱可塑性樹脂組成物を当該真空ベント部が装着された押出機を用いて造粒する、熱可塑性樹脂組成物の造粒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練する際、原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等を除去することを目的にスクリュー押出機にオープンベントや真空ベント部が設けられている。特に押出機の下流に位置する真空ベント部においては熱可塑性樹脂組成物原料から発生する揮発性物質を真空ポンプなどで強制的に系外に排除することが行われる。この際、揮発性物質はベントボックスの上部、特にのぞき窓(ガラス等)で凝縮し液化することがある。こののぞき窓に付着した液化物が系外に排出されずスクリュー押出機のシリンダー内に戻り、液化物が有色の場合造粒中にペレットが着色するという品質上の不具合があった。
【0003】
このような問題点に対して、特許文献1には真空ベントアダプターとベントボックスにヒーターやセンサーを設け揮発性物質の凝縮を防止する方法が採られている。また、特許文献2にはベントボックスに傾斜をつけて凝縮した液を真空ラインの方へ流し込む方法が提案されている。しかしながらこのような真空ベント部では、ベントボックス内で凝縮した液化物を完全に系外に排除することが困難であり、液化物がシリンダー内に戻り着色ペレットが発生するという問題がある。
【特許文献1】特開2002−154570号公報
【特許文献2】特開2006−26998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、熱可塑性樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練する際、真空ベント部において原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出できない場合、その凝縮物がシリンダー内に逆流することによって造粒中のペレットが着色するという品質上の問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の形状を有する真空ベント部を押出機に装着使用することで、原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出でき、その凝縮物がシリンダー内に逆流することがない為、造粒中のペレットが着色せず、品質を保つことができることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)熱可塑性樹脂組成物を押し出すスクリュー押出機の真空ベント部において、真空ベントアダプター開口部が底部から上部に斜めに位置し、当該開口部から延長されたベントボックスののぞき窓の位置がベントアダプターの外周外に設けられていることを特徴とする真空ベント部の提供。
上記(1)に記載の真空ベントが装着されているスクリュー押出機を使用して熱可塑性樹脂組成物を溶融混練した後、押出された熱可塑性樹脂組成物を切断する工程を備える、熱可塑性樹脂組成物の造粒方法を提供することである。
ここで、熱可塑性樹脂組成物が、融点200〜400℃の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0007】
また、熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、ポリイミドから選ばれる、少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
更に、熱可塑性樹脂組成物が、繊維状の強化材および/または難燃剤を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の真空ベント部を用いることにより、原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出でき、その凝縮物がシリンダー内に逆流することがない為、造粒中のペレットが着色せず、品質を保つことができ工業的に極めて価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に係る真空ベント部を装着した押出機を使用した熱可塑性樹脂組成物の造粒方法について説明する。
【0011】
[本発明の真空ベント部]
以下、図面に基づいて本発明に係る真空ベント部について説明する。
図1は本発明に係る真空ベント部の断面図である。
図1中、1はシリンダー、2はスクリューを表し、3は真空ベントアダプターである。4は真空ベントアダプター開口部を表し、5のベントボックス上部には、内部を観察する為に6のぞき窓が設けられている。
【0012】
本発明の真空ベント部は、4の真空ベントアダプター開口部が底部(4a)から上部(4b)に斜めに位置し、当該開口部から延長された5のベントボックスののぞき窓(6)の位置がベントアダプターの外周外に設けられていることが好ましい。のぞき窓が真空ベントアダプターの外周内にあると、凝縮してのぞき窓に付着した液体がシリンダー内に逆流し好ましくない。
【0013】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の真空ベント部は、熱可塑性樹脂組成物の造粒に際してスクリュー押出機に使用することができ、熱可塑性樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂に、強化剤、難燃剤、滑剤、アンチブロッキング剤、消泡剤、顔料、染料、核剤、可塑剤、増粘剤、耐熱安定剤、耐候安定剤などの添加剤を配合したものを好適に使用することができる。
【0014】
例えば、熱可塑性樹脂組成物に添加して使用する強化剤としては、繊維状、粉状、板状、針状、クロス状、マット状等の種々の形状を有する強化剤を挙げることができるが、特に繊維状の強化剤が好ましく、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、金属被覆ガラス繊維、セラミック繊維、ウォラストナイト、炭素繊維、金属炭化物繊維、金属硬化物繊維等の無機繊維また有機繊維が用いられる。またこれらの繊維状充填剤の表面をシラン系化合物等で表面処理しておいてもよい。これらの中では耐熱性の点から無機繊維、特にガラス繊維が好ましい。使用する熱可塑性樹脂の種類および目的にもよるが、強化剤の添加量は熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜400質量部、好ましくは0.1〜200質量部添加することで、熱可塑性樹脂の剛性および耐熱性を良好に改良することができる。
【0015】
また、難燃剤としては、樹脂に難燃性を付与できるものであれば良く、難燃剤としては有機系難燃剤と無機系難燃剤がある。有機系難燃剤としては、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤等が好ましく、無機難燃剤としては、水和金属化合物、金属化合物、金属酸化物等が好ましい。
【0016】
また、臭素系難燃剤や塩素系難燃剤に難燃助剤を組合わせて用いてもよく、難燃助剤としては、酸化アンチモンやアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン化合物、酸化マグネシウム等の金属酸化物、ホウ酸亜鉛などの金属ホウ酸塩、酸化亜鉛、錫酸亜鉛、燐酸亜鉛等の亜鉛化合物、モリブデン化合物、などを挙げることができ、特にアンチモン酸ナトリウムとホウ酸亜鉛が好ましい。使用する熱可塑性樹脂の種類および目的にもよるが、難燃剤の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、10〜200質量部、好ましくは20〜100質量部添加すると、良好な難燃性を得ることができる。さらにこれらの難燃剤とともに、ドリップ防止剤等を併用しても良い。
上記に挙げられる添加剤は、目的に応じて選択することができ、本発明の目的を損なわない範囲内で用いることができる。
【0017】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、剪断発熱や熱を加えることによって可塑化する樹脂であれば限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体などのオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリルスチレン共重合体、ポリスチレン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性エラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、熱可塑性ポリイミド等が挙げられ、これらの樹脂は単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0018】
これらの中で、本発明の真空ベント部を装着した押出機は、特にエンジニアリングプラスチックス等の高融点で成形加工温度の高い熱可塑性樹脂の造粒に好適に使用することができ、高融点の熱可塑性樹脂としては、融点が200〜450℃、好ましくは210〜400℃、さらに220〜350℃の熱可塑性樹脂であり、具体的にはポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、熱可塑性ポリイミドが好ましく、なかでもポリアミドが好ましく、ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド46などの脂肪族ポリアミド等、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミドMXD6等の半芳香族ポリアミドおよびこれらの共重合体を挙げることができる。
【0019】
[本発明の熱可塑性樹脂組成物の造粒方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の造粒に使用する押出機は、一軸、二軸以上或いはこれらを組合わせたスクリューを有する押出機で、二軸の場合スクリューの回転方向がそれぞれの軸で反対でも同じでもよく、また噛み合い型でも非噛み合い型でも良い。さらに軸の形状はパラレルタイプでもコニカルタイプでも良く、加えて、スクリュー押出機を多段に組合わせたタンデム方式でも良く、これらの押出機に本発明の真空ベント部を装着して熱可塑性樹脂組成物を造粒することができる。
【0020】
具体的には、パウダー状、ペレット状、一度溶融した後に固化した樹脂を粉砕等した熱可塑性樹脂に、目的に応じて安定剤、充填剤、難燃剤、顔料等をヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー等を用いて混合した後、本発明の特定の構造を有するダイスを装着したスクリュー押出機に供給する。押出機で加熱またスクリュー軸で可塑化された熱可塑性樹脂は、押出機のスクリュー軸の回転によりスクリュー溝先端まで輸送される。スキュリューヘッドまで輸送された熱可塑性樹脂組成物は、その圧力によりダイフランジ、ダイアダプター、ダイを通りダイに配された小孔から押し出され、カッターで切断することで熱可塑性樹脂組成物の造粒物を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0022】
[本発明の真空ベント部]
図1で表わされる形状の真空ベント部を使用した。
【0023】
[着色ペレットを含む造粒物の数の評価]
ペレット5kgを白色のデコラ板上に広げ、目視にて10分間観察して、着色ペレットの有無を確認した。
【0024】
[実施例1]
本発明の真空ベント部を装着した二軸押出機(日本製鋼所社製 TEX−44α)の原料ホッパーに、変性ポリアミド6T(極限粘度0.8dl/g、融点320℃)42質量部に対して、臭素系難燃剤24質量部、アンチモン酸ソーダ4質量部を配合した混合物を供給し、ガラス繊維をサイドフィーダーから30質量部供給して、ガラス繊維によって強化された難燃性のポリアミド樹脂組成物を、200kg/時間の吐出量で造粒操作を行ない、造粒開始直後、1トン製造毎に造粒ペレット5kgを採取し、得られた造粒ペレットを広げ目視にて10分間観察して着色ペレットの有無を確認したところ、10トン生産しても着色ペレットは1つも発見されなかった。
【0025】
[比較例1]
真空ベントアダプターは日本製鋼所製の標準品を使用した以外は、実施例1と全く同じ方法で、変性ポリアミド6T組成物を押出し、1トン製造毎に造粒ペレット5kgを採取し、得られた造粒ペレットを広げ目視にて10分間観察して着色ペレットの有無を確認したところ、8トン目にサンプリングしたペレットに多数の着色ペレットが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の特定の構造を有する真空ベント部は、熱可塑性樹脂の造粒、特に融点の極めて高いエンジニアリングプラスチックスの造粒に際して、原料樹脂や添加材中に含まれる揮発性物質や水分等が完全に系外に排出でき、その凝集物がシリンダー内に逆流することがない為、造粒中のペレットが着色せず品質を保つことができ、工業的に極めて価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】真空ベント部の断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物を押し出すスクリュー押出機の真空ベント部において、真空ベントアダプター開口部が底部から上部に斜めに位置し、当該開口部から延長されたベントボックスののぞき窓の位置が真空ベントアダプターの外周外に設けられていることを特徴とする真空ベント部。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ベント部が装着されているスクリュー押出機を使用して熱可塑性樹脂組成物を溶融混練した後、押出された熱可塑性樹脂組成物を切断する工程を備える、熱可塑性樹脂組成物の造粒方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物が、融点200〜400℃の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の造粒方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、ポリイミドから選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の造粒方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物が、繊維状の強化材および/または難燃剤を含んでいることを特徴とする、請求項2〜請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の造粒方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−73066(P2009−73066A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244697(P2007−244697)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】