説明

真空処理装置

【課題】本発明では、成膜処理のスループットの向上を図ることができ、同時に複数種類の処理が可能な真空処理装置を提供する。
【解決手段】真空処理装置1は、被処理材Sをキャリア3に保持した状態で搬送路Rに沿って搬送し、搬送路Rに沿って配置された複数のプロセスチャンバで所定の真空処理を行う装置であり、搬送路Rの角の部分にそれぞれ配置されている複数の方向転換チャンバ内でキャリア3に保持される被処理材Sの交換が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の被処理材に対する真空処理に適した真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理材に対する数層程度の成膜処理に適した成膜装置として、LOADチャンバとUNLOADチャンバの間に複数のプロセスチャンバが配設された真空処理装置が知られている。このような真空処理装置では被処理材をキャリアに保持した状態で搬送することができるため、連続的に被処理材の表面に多層膜を形成することができる。
【0003】
しかしながらプロセスチャンバの上流側と下流側にロードロック室を設ける構成では、被処理材とともにキャリア(若しくはホルダ)を真空容器の外に取り出す必要がある。すなわち、真空容器外に取り出されたキャリアを再び真空容器内に入れるたびに脱ガスすることからスループットの向上が困難であった。
【0004】
一方、キャリアを真空容器の外に取り出すことなく多数の被処理材に成膜するため、真空容器内に無端状の搬送路を構成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術によれば、キャリアを真空容器の外に取り出すことなく、未処理の被処理材の投入と処理済みの被処理材の排出ができるためスループットを向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−229150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、無端状の搬送路を周回しながら所定の成膜を行う処理に適しているものの複数種類の処理を同時に行うことは困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、成膜処理のスループットの向上を図ることができ、複数種類の処理が可能な真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る真空処理装置は、被処理材を保持するキャリアと、キャリアを多角形状の搬送路に沿って搬送する搬送装置と、被処理材に対して所定の真空処理を行うよう搬送路に沿って配置された複数のプロセスチャンバと、多角形状の搬送路の角の部分に配置され、キャリアの向きを転換する方向転換チャンバとを有する真空処理装置であって、複数の方向転換チャンバ内で、キャリアに未処理の被処理材を移載され、若しくは、キャリアから処理済みの被処理材を取り外されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
成膜処理のスループットの向上を図ることができ、同時に複数種類の処理が可能な真空処理装置及び真空処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置の構成図である。
【図2】図1のI−I断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置で用いられるキャリアの構成図である。
【図4】図3のII−II断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置のキャリアの動きを示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置のキャリアの動きを示す説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置のキャリアの動きを示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る真空処理装置の構成摸式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る真空処理装置で用いられるホルダの構成図である。
【図10】他の実施形態に係る真空処理装置の構成摸式図である。
【図11】他の実施形態に係る真空処理装置の構成摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の各実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変できることは勿論である。
【0012】
本願明細書中では、真空処理装置としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を成膜するCVD成膜装置(真空処理装置1)を例に挙げて説明するが本発明はこの限りではない。例えば、スパッタリング装置や他のPVD装置若しくは他のCVD装置などにも本発明は好適に適用可能である。本発明は成膜装置以外の処理装置、例えばドライエッチング装置若しくはアッシング装置、熱処理装置などの装置にも好適に適用可能である。また、本発明に係る真空処理装置は、燃料電池製造装置、パネル製造装置、半導体製造装置、ストレージ製造装置として好適に適用可能なものである。
【0013】
(第1の実施形態)
図1〜7は本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置を示す図であり、図1は真空処理装置の構成摸式図、図2は図1のI−I断面図、図3,図4はキャリアの構成図、図5〜7真空処理装置のキャリアの動きを示す説明図である。なお、図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略している。
【0014】
図1に基づいて真空処理装置1の概略構成を説明する。真空処理装置1はインライン型の成膜装置であり、真空チャンバが無端状且つ四角形に連結されて構成されている。具体的には真空処理装置1は、2つのプロセスチャンバPC(PC1,PC2)とコーナチャンバCC(CCa〜CCd)からなる組み合わせが4セット直列に連結されている。四隅に配置されているコーナチャンバCC(方向転換チャンバ)のそれぞれには2つのロードロックチャンバLL(LL1,LL2)が接続されている。各コーナチャンバCCの内部にはそれぞれ基板移載装置RBが設けられており、各真空チャンバはいずれもゲートバルブGV介して接続されている。なお、図1では一つのコーナチャンバCCa以外の基板移載装置RBを不図示とした。
【0015】
本明細書においては、2つのプロセスチャンバPC(PC1,PC2)とコーナチャンバCCからなる組み合わせをプロセスユニットA〜Dと称する。各プロセスユニットA〜Dを構成するプロセスチャンバPC(PC1,PC2)とコーナチャンバCCを区別するときは、夫々の符号の末尾にa,b,c,dを付加する。
【0016】
真空処理装置1では、被処理材Sをキャリア3に保持した状態で真空処理が行われるため、各真空チャンバ間でキャリア3を移送する搬送装置が設けられている。搬送装置によってキャリア3に保持された被処理材Sを四角形状(多角形状)の搬送路Rに沿って移動させ、所定の真空チャンバに搬送することができる。また、真空処理装置1では、各プロセスユニットがプロセスチャンバを2つ有するが、プロセスチャンバが1つの場合や3つ以上であってもよい。
【0017】
被処理材Sは、厚さ0.1mm程度のシート状の金属部材を、50×50mm〜500×500mm程度の矩形状に形成したものである。真空処理装置1は、シート状のアルミ板,チタン板、又はステンレス鋼板製の被処理材Sの両面(表面と裏面)にDLC膜を成膜する処理に適している。ただし、被処理材Sは真空処理の目的に応じて適宜変更できるものとする。
【0018】
プロセスチャンバPC(PC1,PC2)は、被処理材Sに対して所定の真空処理を行う真空チャンバであり、本実施形態ではPC1は加熱チャンバ、PC2はDLC(Diamond
Like Carbon)を成膜するためのCVD成膜チャンバとして用いられる。ただし、PC1、PC2のプロセスは決まっておらず、同じプロセスを行ってもよい。また、プロセスも加熱や成膜だけでなく、エッチング処理であっても良いことはもちろんである。本実施形態においてプロセスチャンバPC1,PC2は同様の構成であるが、プロセスチャンバPC1とPC2の構成を異なるものとしてもよい。
【0019】
プロセスチャンバPC2について図2に基づいて説明する。プロセスチャンバPC2は、ガス導入系24と電圧印加手段及び排気手段などを備えている。ガス導入系24から導入されるガスはCxHy(炭化水素系ガス),H2,N2,Ar,O2などである。
【0020】
排気手段としては一例として、ターボ分子ポンプ26と背圧排気用ポンプ27を有し、さらに、排気コンダクタンスを変化できるメインバルブ25やバリアブルオリフィスがあると望ましい。電圧印加手段は、キャリア3を介して被処理材Sに高電圧を印加するものであり、電源22や、電圧印加用シリンダー23を備えている。電圧印加用シリンダー23は、キャリア3の搬送時には、キャリア3のホルダ部分と非接触とすべく電圧印加手段を動作させる。その他に、被処理材Sの温度を測定するための温度測定手段21を備えている。温度測定手段21としては例えば、放射温度計が用いられる。
【0021】
プロセスチャンバPC2には、キャリア3の周囲にシールド28が設けられており、基板処理中にプロセスチャンバPC2の内壁に膜が堆積することを防止している。シールド28の裏面には磁場形成手段29が設けられている。磁場形成手段29によって形成される磁場により、被処理材の処理中におけるプロセスチャンバPC2の空間内のプラズマ密度分布をコントロールすることができる。磁場形成手段29としては、永久磁石や電磁石が用いられる。またシールド28は電気的に接地されており、プロセスチャンバPC2においてプラズマを形成する際にはアノードとして機能する。なお、本発明に係るプラズマCVD装置において、磁場形成手段29は及びシールド28の接地は必須の構成要素ではない。シールド28がアノードとして機能するならば他の装置構成も採用可能である。
【0022】
次に、プロセスチャンバPC1,PC2における被処理材Sへの成膜処理について説明する。まず、被処理材Sの加熱処理として、プロセスチャンバPC1に不活性ガスを導入して、プロセスチャンバPC1の圧力を5〜50Pa程度に制御する。そして電圧印加用シリンダー23を駆動することによって、キャリア3と電圧印加手段を電気的に接触させる。電圧印加手段で印加される高電圧は、直流電圧(DC)もしくはパルスDCであり、被処理材Sに電圧が印加されプロセスチャンバPC1にプラズマが形成される。このプラズマによるイオン衝撃により、被処理材Sの温度が上昇する。
【0023】
被処理材Sの加熱後、被処理材Sを保持したキャリア3をプロセスチャンバPC2に移動する。プロセスチャンバPC2にキャリア3が移動したらゲートバルブGV閉鎖して、プロセスチャンバPC2内に炭化水素ガスを導入する。炭化水素ガスはプロセスチャンバPC2内に形成されたプラズマにより分解され、被処理材Sに印加された負の電圧によりイオンが被処理材Sに引き込まれ、被処理材Sの被成膜面にカーボン膜(DLC膜)が成膜される。
【0024】
コーナチャンバCCは、キャリア3の搬送方向を90度変更する方向転換装置を備えた真空チャンバである。方向転換装置は搬送装置の一部であり、方向転換装置として公知の技術(例えば特開平8−274142に記載された技術)を適用することができるものとする。各コーナチャンバCCには、ロードロックチャンバLL(LL1,LL2)がゲートバルブGVを介して接続されている。各コーナチャンバCC内には基板移載装置RBが配置されている。また、キャリア3を真空処理装置1内に出し入れするためのキャリアロードロックチャンバCLLが任意のコーナチャンバCC(図1ではCCa)にゲートバルブGVを介して接続されている。
【0025】
ロードロックチャンバLL(LL1,LL2)は、被処理材Sを導入するロードチャンバと取り出すアンロードチャンバのいずれとしても使用できるものである。ロードロックチャンバLLとコーナチャンバCC内の間、若しくは、ロードロックチャンバLLと大気側との間での被処理材Sの移送は、被処理材Sが所定枚数ずつカセットに支持された状態で行われる。コーナチャンバCCにゲートバルブGVを介して接続され、不図示のガス導入系や排気系を備えている。そのため、ロードロックチャンバLLの排気/ベントおよびゲートバルブGVの開閉操作によってロードロックチャンバLL内とコーナチャンバCC内の空間と適宜連続させることができる。
【0026】
ロードロックチャンバLLは、各コーナチャンバCCの所定方向で接続されている。すなわち、コーナチャンバCCa,CCdに接続されるロードロックチャンバLLはいずれも一方向を向いている。また、コーナチャンバCCb,CCcに接続されるロードロックチャンバLLはいずれも逆方向を向いている。このようにロードロックチャンバLLを接続する向きを設定することで真空処理装置1のフットプリントの増加を抑えている。
【0027】
基板移載装置RBは、多関節タイプのロボットを好適に適用することができ、ロボットアームの先端には被処理材Sを適宜把持する把持手段が設けられている。ロードロックチャンバLLとコーナチャンバCCとの間のゲートバルブGVを開放した状態では、基板移載装置RBを介してコーナチャンバCC内のキャリアとの間で被処理材Sの交換、すなわち供給(取り付け)若しくは排出(取り外し)をすることができる。
【0028】
ここで、キャリア3とキャリア3を搬送する搬送装置について説明する。
まず、図3,4に基づいてキャリア3の構成を説明する。キャリア3は、上述したように被処理材Sを保持した状態で搬送装置によって真空処理装置1内を移動する部材であり、被処理材Sを支持する枠状のホルダ部5と、ホルダ部5の下側に設けられ、後述する搬送装置の磁気ネジと磁気結合する磁石列4aが水平方向に沿って取付けられるスライダ部4とからなる。
【0029】
ホルダ部5は、導電性を有する矩形の枠状のホルダ本体に、被処理材Sを挟んで保持できるバネ式支持部5bを備えており、さらに搬送時の被処理材Sの揺れや熱膨張などによる被処理材Sの反りなどの変形を防ぐためのガイド部5aも有している。バネ式支持部5bは高電圧を被処理材Sに印加するために金属板から構成されている。また、ガイド部5aは熱逃げを抑えるように熱伝導の低い絶縁材から構成されている。また、バネ式支持部5bは、被処理材Sを挿入しやすいように、先端部分が外側に広がった形状になっている。
【0030】
本実施形態では、図3,4に示されるように被処理材Sの上部中央の1箇所にバネ式支持部5bを設け、被処理材Sを保持している。なお、ガイド部5aは被処理材Sの湾曲を防ぐための部材であるため、被処理材Sと触れている必要はない。
【0031】
シート状の被処理材Sは、スライダ部4に支持されたホルダ部5に保持されるため、垂直に保持された状態で両面に処理がなされる。また、高電圧はホルダ部5のバネ式支持部5bを介して被処理材Sに印加されるため、ホルダ部5と被処理材Sの電位は実質的に等しくなる。
【0032】
搬送装置は、真空処理装置1内に設けられた搬送路Rに沿ってキャリア3をプロセスチャンバPC及びコーナチャンバCCの所定位置に移送する真空チャンバに備えられた装置であり、公知の技術(例えば特開平8−226512参照)を用いることができる。
【0033】
具体的には、キャリア側の磁石列4aと磁気結合する搬送マグネット(永久磁石)4bと、搬送マグネット4bを軸周り回転させる不図示の駆動源とを有している(図2参照)。搬送路Rにはキャリア3が垂直姿勢のまま進退動できるようにベアリングが配列されている。搬送マグネット4bは、いわゆる磁気ネジであり、キャリア3の搬送方向(搬送路R)に長手方向を配置された軸状部材の表面にN極及びS極の磁極がらせん状に形成されている。搬送マグネット4bを軸中心に回転させることでその軸に沿った方向に磁石列4aを介して磁気的に結合したキャリア3を搬送することができる。なお、磁気ネジの代わりにリニアモータやラックアンドピニオン機構を用いてもよいことはもちろんである。
【0034】
上述のように真空処理装置1は、2つのプロセスチャンバPC(PC1,PC2)とコーナチャンバCCからなる組み合わせが4つのプロセスユニットが直列に連結されているため、各セットのプロセスチャンバPCの処理条件を変更することにより、各プロセスユニットで異なる種類の処理を行うことができる。
【0035】
図5〜7は真空処理装置1でのキャリアの動きを示す説明図であり、図5はキャリア3を周回移動させながら被処理材Sを処理する場合、図6,7はキャリア3を往復移動させながら被処理材Sを処理する場合である。図5はキャリア3を周回移動させながら被処理材Sを処理するときの被処理材S(キャリア3)の配置の一例である。
【0036】
図5のように、キャリア3を周回移動させながら被処理材Sを処理する際に被処理材Sが搬送される順序は、各プロセスユニットで行われる処理によらず以下のようなものである。すなわち、コーナチャンバCCaから供給した被処理材は搬送路に沿ってプロセスチャンバPCa(PC1a,PC2a)で処理された後、コーナチャンバCCbから排出される。
【0037】
コーナチャンバCCbから供給した被処理材は搬送路Rに沿ってプロセスチャンバPCb(PC1b,PC2b)で処理された後、コーナチャンバCCcから排出される。コーナチャンバCCcから供給した被処理材は搬送路に沿ってプロセスチャンバPCc(PC1c,PC2c)で処理され、コーナチャンバCCdから排出される。同様に、コーナチャンバCCdから供給した被処理材は搬送路に沿ってプロセスチャンバPCd(PC1d,PC2d)で処理され、コーナチャンバCCaから排出される。
【0038】
各プロセスユニットのプロセスチャンバPCの処理条件が異なる場合、隣接する各プロセスユニット間に影響するおそれがあるが、本実施形態ではコーナチャンバCCを介して各プロセスユニットが連結されるためプロセスユニット間でガスや輻射熱が流通することを避けることができる。また、真空処理装置1では、コーナチャンバCCにロードロックチャンバLL(LL1,LL2)が連結されるとともにコーナチャンバCC内に基板移載装置が配置されている。この構成によりロボットチャンバや基板移載のための真空チャンバを設ける必要がなくなった。すなわち、真空チャンバの数を抑えるとともに、キャリアを搬送する経路長を短くすることができるため、搬送路スループットの低下とコストの上昇を抑えられる。
【0039】
ここで、各プロセスユニットのプロセスチャンバPCの処理条件が異なる場合として、加熱温度やプロセスガスの濃度,種類を異なる条件とすることが考えられる。具体的には、各プロセスユニットで種類や寸法が異なる被処理材を処理する場合に、被処理材の違いに応じてプロセス条件を変更される場合が挙げられる。
【0040】
図6,7はキャリア3を往復移動させながら被処理材Sを処理するときの被処理材S(キャリア3)の配置の一例であるが、図6と図7でキャリア3の移動経路が異なっている。
図6は、各プロセスユニットA,B,C,Dでの真空処理を独立して行う際のキャリア3の配置例である。各プロセスユニットA,B,C,Dを構成する真空チャンバの間をキャリア3が往復しながら被処理材Sの真空処理が行われるため、各プロセスユニットA,B,C,Dで1つのキャリア3が配置される。
【0041】
具体的には、プロセスユニットAでは、コーナチャンバCCaで未処理の被処理材Sがキャリア3に搭載された後、プロセスチャンバPC1a、PC2aで所定の真空処理が行われ、コーナチャンバCCbから処理済みの被処理材Sとして搬出される。そして、コーナチャンバCCbで未処理の被処理材Sがキャリア3に搭載された後、プロセスチャンバPC2a、PC1aで所定の真空処理が行われ、コーナチャンバCCaから処理済みの被処理材Sとして搬出される。このようにキャリア3はコーナチャンバCCaとCCbとの間を繰り返し往復し、1回往復する間に2回の真空処理を行うことができる。
【0042】
他のプロセスユニットB,C,Dでも同様であり、プロセスユニットBではコーナチャンバCCbとCCcとの間を、プロセスユニットCではコーナチャンバCCcとCCdとの間を、プロセスユニットDではコーナチャンバCCdとCCaとの間を、それぞれキャリア3が1回往復する間に2回の真空処理を行うことができる。
【0043】
図7は、任意の2つのプロセスユニットでの真空処理を独立して行う際のキャリア3の配置例である。図7では、プロセスユニットB,Dで真空処理を行う例を示している。プロセスユニットBではコーナチャンバCCbとCCcとの間を、プロセスユニットDではコーナチャンバCCdとCCaとの間を、それぞれキャリア3が1回往復する間に2回の真空処理を行うことができる。この間、コーナチャンバCCaとCCbとの間にあるプロセスチャンバPC1a,PC2a、及び、コーナチャンバCCcとCCdとの間にあるプロセスチャンバPC1c,PC2cは使用しない。従って、真空処理装置1を稼動させながら、装置の一部のメンテナンスを行うことができる。図6,7のようにキャリア3を往復移動させる際には、稼動させている各プロセスユニットで異なる種類の処理を行うことができるし、同じ処理を行うこともできる。
【0044】
なお、図6,7のようにキャリア3を往復移動させる動作では、各キャリア3を同期して移動させる必要がないため、プロセス時間の長いプロセスチャンバPC(たとえばPC2)がプロセスを行っている間に、被処理材Sの搭載(交換)とプロセスチャンバPC1でのプロセス(加熱など)を行うことができる。これにより、コーナチャンバCCとプロセスチャンバPC1に存在するキャリア3を1つにすることができるため、キャリア3を一つ減らすことができる。従って、スループットも短縮できる。
【0045】
(第2の実施形態)
図8,9は、本発明の第2の実施形態に係る真空処理装置を示す説明図であり、図8は真空処理装置2の構成摸式図、図9はキャリア30の構成図である。なお、第1の実施形態と同様の部材、配置等には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。真空処理装置2は、6つのプロセスユニットA〜Fから構成されている。各プロセスユニットの構成は、第1の実施形態の真空処理装置1と同様であり、2つのプロセスチャンバPC(PC1,PC2)とコーナチャンバCCからなっている。
【0046】
6つのプロセスユニットE,FのコーナチャンバCCe,CCfは、搬送路Rの角の部分(方向転換される部分)に配置されていない。すなわち、真空処理装置2は5つ以上のプロセスユニットから四角形状の閉ループを形成している。また、コーナチャンバCCe,CCfは、搬送路Rの角の部分に配置されていないため、キャリア3の方向転換装置を取り除いてもよい。但し、図9に示すように、被処理材Sを移載する際にキャリアがロードロックチャンバ(若しくは基板移載装置)に対して所定方向を向いている必要がある際にはこの限りでない。
【0047】
図9は、本実施形態に係る真空処理装置で用いられるキャリア30の構成図である。キャリア30はキャリア3と比べてホルダ部5の側面の一部が開放されており、側方から被処理材Sを取り付け、若しくは取り外すことができる。被処理材Sを側方から把持するタイプの基板移載装置RB2を組み合わせることで、キャリア3に比べて被処理材Sの移載動作を確実に行うことができる。なお、キャリア30を第1の実施形態の真空処理装置1で使用してもよいことはもちろんである。
【0048】
また、真空処理装置1,2を構成するプロセスユニットは、異なる数量のプロセスチャンバPCを有する複数のタイプから構成されてもよい。例えば、図10に示す真空処理装置50のように、2つのプロセスチャンバPCとコーナチャンバCCからなるプロセスユニットA,Cと、3つのプロセスチャンバPCとコーナチャンバCCからなるプロセスユニットG,Hと、1つのプロセスチャンバPCとコーナチャンバCCからなるプロセスユニットI,Jとから四角形状の閉ループを形成することもできる。各プロセスユニットで行われる真空処理の種類が大きく異なるときに有効である。
【0049】
上述した本発明に係る真空処理装置1,2,50を用いることで、真空処理のスループットの向上を図ることができ、同時に複数種類の処理が可能な真空処理装置及び真空処理方法を提供することができる。
【0050】
また、上述した真空処理装置1,2,50の適用例としては、本発明に係る処理装置を用いて固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer
electrolyte fuel cell)に用いられるセパレータの製造する例が挙げられる。具体的には、本発明に係る処理装置は、所定形状のステンレス鋼板の表面にカーボン膜コーティングを形成する処理工程に適用される。具体的には、被処理材Sとして150〜300mm角、厚さ0.05〜0.5mmのステンレス鋼板を、アルミ製のキャリア3によって垂直方向に保持し、複数のプロセスチャンバ間に搬送し処理を行う。その中の一室の処理室において、処理品にパルスDCパワーを印加して、エチレンガスのプラズマCVDによる処理品のカーボン膜コーティングを行う。
【0051】
図11に他の実施形態に係る真空処理装置について説明する。図11の真空処理装置は、ロードロックチャンバ内のキャリアが、被処理材Sを取り外すときと取付けるときで、異なる方向を向くように構成されている。本実施形態の真空処理装置は、上述した第1の実施形態とコーナチャンバCC2(CCa2〜CCd2)の構成が異なる。また、コーナチャンバCC2(CCa2〜CCd2)の直交する2つの壁面に、ロードロックチャンバLL1,LL2がそれぞれ取り付けられている。本実施形態の真空処理装置では、コーナチャンバCC2内にキャリア3が入ってきたときの向き(第1方向)で被処理材Sを取り外し、方向転換をした後の向き(第2方向)でキャリア3に被処理材Sを取り付けて、次のチャンバに送り出している。
【0052】
被処理材Sの移載はロボットを用いて行うことができる。被処理材Sを取り外す際のキャリア3の方向と、被処理材Sを取り付ける際のキャリア3の方向が異なるように構成し、被処理材Sを取り外すロボットと被処理材Sを取り付けるロボットの位置を最適化するとよい。すなわち、キャリア3が基板取り外し位置にあるときに被処理材Sを把持しやすい位置に被処理材Sを取り外すロボットを配置し、キャリア3が基板取り付け位置にあるときに被処理材Sを把持しやすい位置に取り付けるロボットを配置するとよい。被処理材Sを把持しやすい位置は、例えば、キャリア3に保持された被処理材Sの係止部(孔などの把持部)の正面である。2台のロボットの位置がキャリア3の回転位置の周りに、キャリア3の回転角度(図11では90度)ずれて配置されるため、2台のロボットのアームの動作範囲が重ならない。従って、2台のロボットを同時に動作させることができ、被処理材Sの移載時間を早くすることができる。
【0053】
また、図11の真空処理装置でキャリア30(図9参照)を用いてもよい。この場合は、被処理材Sを側方から把持するタイプの基板移載装置RB2でキャリア30への被処理材Sの移載を行うとよい。すなわち、キャリア30がコーナチャンバCC2に入ってきたときの向きで被処理材Sを取り外し、方向転換をした後に被処理材Sを取り付けて、次のチャンバに送り出す。この場合も2台のロボットの位置がキャリア3の回転方向に90度ずれるため、2台のロボットのアームの動作範囲が重ならない。2台のロボットを同時に動作させることができ、被処理材Sの移載時間を早くすることができる。
【符号の説明】
【0054】
A〜J プロセスユニット
LL,LL1,LL2 ロードロックチャンバ
PC,PC1,PC2 プロセスチャンバ
CC,CCa〜CCj コーナチャンバ(方向転換チャンバ)
GV ゲートバルブ
CLL キャリアロードロックチャンバ
RB 基板移載装置
R 搬送路
S 被処理材
1,2,50 真空処理装置
3,30 キャリア
4 スライダ部
4a 磁石列
4b 搬送マグネット
5,6 ホルダ部
5a ガイド部
5b バネ式支持部
21 温度測定手段
22 パルスDC電源
23 電圧印加用シリンダー
24 ガス導入系
25 メインバルブ
26 ターボ分子ポンプ
27 背圧排気用ポンプ
28 シールド
29 磁場形成手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材を保持するキャリアと、
該キャリアを多角形状の搬送路に沿って搬送する搬送装置と、
前記被処理材に対して所定の真空処理を行うよう搬送路に沿って配置された複数のプロセスチャンバと、
前記多角形状の搬送路の角の部分に配置され、前記キャリアの向きを転換する方向転換チャンバとを有する真空処理装置であって、
複数の前記方向転換チャンバ内で、前記キャリアに未処理の前記被処理材を移載され、若しくは、前記キャリアから処理済みの前記被処理材を取り外されることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記被処理材を供給し、又は所定の真空処理後の前記被処理材が排出されるロードロックチャンバをさらに有し、
前記ロードロックチャンバはゲートバルブを介して前記方向転換チャンバに連結されることを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−255207(P2012−255207A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110585(P2012−110585)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】