説明

真空圧力制御システム

【課題】大気圧又は大気圧に近い低真空から高真空までの広い圧力レンジを簡単に圧力制御でき、高精度に圧力制御しながらスロー排気してパーティクルの飛散を確実に防止する真空圧力制御システムを提供する。
【解決手段】真空ポンプ5を介して真空容器4内の真空圧力を変化させる開閉弁2と、真空容器4内の真空圧力を計測する真空圧力センサ3を介して開閉弁2の開度を制御する真空圧力制御システムであり、到達関数f(x)を算出する演算機能と、開閉弁2を任意の時間幅でオープンクローズするタイマー60と、オープン・クローズ開度値を真空圧力センサ3の出力と到達関数f(x)から演算する機能とを有する制御ユニット手段10と、開度値を駆動する駆動手段12と、圧力低下の所要時間Tと到達圧力Pを外部からコマンド入力する入力手段13とを設けて、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで低下させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置内の圧力をスロー排気して所定圧力に圧力制御する真空圧力制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造装置のCVD装置では、ウエハと材料ガスとを反応させる場合に、反応炉(真空容器)内を大気圧から高真空状態まで圧力制御する必要がある。この場合、特に、大気圧、又は大気圧に近い低真空から目標とする真空圧力値まで到達させる際の、真空引きの過程において排気を徐々におこなう、いわゆる、スロー排気によりパーティクルの飛散を抑えることが極めて重要になっている。このため、CVD装置では、反応炉内の空気を排気する真空ポンプと、真空ポンプによる真空引きを調節する開閉弁が設けられ、真空ポンプにより真空引きするときに、開閉弁の開度を調節して反応炉内からスロー排気により高精度に圧力調節してパーティクルの飛散を防止している。
【0003】
この種の圧力調節する技術としては、例えば、特許文献1の真空圧力制御システムがある。この真空圧力制御システムでは、予め、コントローラに目標真空圧力変化ポイントと目標真空圧力変化速度とを設定しておき、これらの設定に基づいて圧力センサで測定した圧力値より真空比例開閉弁の開度を変えて、圧力低下の進行過程を制御している。
一方、特許文献2においては、弾性シール部材を備えた真空比例開閉弁を有する真空圧力制御装置が開示されている。この真空圧力制御装置は、真空比例開閉弁の弾性シール部材の弾性変形量を変化させ、弾性シール部材からの漏れ量を変化させることにより真空容器内の真空圧力を制御して、圧力を大気圧に近い低真空圧力領域にコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−146975号公報
【特許文献2】特開2002―132354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の真空圧力制御システムは、大気圧から所定の真空圧力まで所定時間により圧力制御する場合に、真空圧力値までの所要時間に対する真空圧量変化ポイントと目標真空圧力変化速度とを予め設定値として設定する必要があり、これらの設定値を求めるための余計な手間もかかっていた。このため、操作性が悪くなっていた。
一方、特許文献2の真空圧力制御装置は、真空圧力の制御域が大気圧に近い低真空領域に限られるため、大気圧又は大気圧に近い低真空から高真空までを制御することができず、制御性が悪くなっていた。
【0006】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、大気圧又は大気圧に近い低真空から高真空までの広い圧力レンジを簡単に圧力制御でき、高精度に圧力制御しながらスロー排気してパーティクルの飛散を確実に防止する真空圧力制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、真空容器に真空ポンプを介して真空容器内の真空圧力を変化させる開閉弁と、真空容器内の真空圧力を計測する真空圧力センサを介して開閉弁の開度を制御するようにした真空圧力制御システムであって、真空容器内の圧力低下を誘導する到達関数を算出する演算機能と、開閉弁を任意の時間幅でオープンクローズするタイマーと、オープン開度値とクローズ開度値とを真空圧力センサの出力と前記到達関数から演算する機能とを有する制御ユニット手段と、開度値を駆動する駆動手段と、圧力低下の所要時間と到達圧力を外部からコマンド入力する入力手段とを設けて、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで低下させるようにした真空圧力制御システムである。
【0008】
請求項2に係る発明は、到達関数を算出するとき、1次、2次或は3次関数と可変可能な演算機能を有する真空圧力制御システムである。
【0009】
請求項3に係る発明は、開閉弁をオープン又はクローズさせながら開閉制御して、真空容器内の圧力を制御するときに、圧力低下に従ってクローズ開度を増加させるようにした真空圧力制御システムである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、制御ユニット手段と、駆動手段と、入力手段とにより、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで低下させるようにしているので、コマンドを入力手段から入力するだけで広い圧力レンジで到達圧力まで簡単に自動圧力制御でき、高精度に圧力制御しながらスロー排気を実施してパーティクルの飛散を確実に防止できる。
【0011】
請求項2に係る発明によると、圧力の制御開始時における圧力から所定の高真空圧力に到達するまでの時間に応じて1次、2次或は3次関数のうちの最適な到達関数に可変させて演算できるため、任意の圧力低下の所要時間に設定した場合でも、圧力低下のプロセスを変化させながら圧力制御を実施してパーティクルの発生を防ぎつつスロー排気できる。このため、パーティクルの飛散を抑えつつ、スロー排気時に必要な時間を短縮することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によると、圧力制御時に開閉弁のシール部位の接触頻度を抑えてこのシール部位の消耗や摩耗を防ぐことができ、これにより、寿命を延ばして長期に亘ってパーティクルの発生を抑えてシール性と正確な圧力制御とを維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の真空圧力制御システムの一実施形態を示した模式図である。
【図2】開閉弁の一例を示した断面図である。
【図3】図2の開閉弁のシートリングが動作した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の真空圧力制御システムによる制御を示した説明図である。
【図5】到達関数による制御波形の例を示したグラフである。(a)は、1次関数による制御波形の例を示したグラフである。(b)は、2次関数による制御波形の例を示したグラフである。
【図6】圧力低下の所要時間と圧力との関係を示したグラフである。
【図7】開閉弁の弁体が動作した状態を示す断面図である。
【図8】高速エア制御回路を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明における真空圧力制御システムの一実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1は、本発明の真空圧力制御システムを示した模式図である。真空圧力制御システム本体(以下、システム本体という)1は、開閉弁2と真空圧力センサ3とを有し、開閉弁2には真空容器4と真空ポンプ5とがつながっている。真空容器4は、例えば、半導体製造装置のCVD装置の一部を成し、この真空容器4に接続された真空ポンプ5により真空容器4内から排気が行なわれる。
【0015】
開閉弁2は、真空容器4に真空ポンプ5を介して接続され、真空容器4内の真空圧力を変化させることが可能になっている。真空圧力センサ3は、真空容器4内につながれて真空容器4内の真空圧力を計測する。システム本体1は、開閉弁2と真空圧力センサ3とを介して開閉弁2の開度を制御するものであり、更に、このシステム本体1は、制御ユニット手段10と、駆動手段(アクチュエータ)12と、入力手段13とを有し、これらの各手段を介して真空容器4内を大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで細かく圧力制御しながら圧力低下させるようにしている。これにより、システム本体1は、真空容器4内に収納された図示しないウエハに材料ガスを供給して被処理体であるウエハを対応処理する。
【0016】
システム本体1において、開閉弁2は、真空容器4と真空ポンプ5と共に流路部15に接続され、この開閉弁2の開度を開閉制御することで真空容器4内の圧力を制御する。開閉弁2は、例えば、バタフライバルブからなり、この開閉弁2のバルブ本体16には、図2に示すように駆動手段12が接続されている。駆動手段12は、開閉弁2のシートリングである弁座17を動作させる弁座制御機構20と、開閉弁2の弁体22を動作させる弁体制御機構21とを備え、開閉弁2の後述するオープン開度値とクローズ開度値とを駆動する。開閉弁は、バタフライバルブに限ることなく、他の構造の開閉弁であってもよい。
【0017】
バルブ本体16は、ボデー23を有し、このボデー23内には流路24が形成されている。バルブ本体16内には、弁体22と、シートリング17と、ピストン26と、スプリング27とが内蔵されている。弁体22は、略円板状に形成され、固着ボルト28によって回転軸である弁軸29に取付けられ、この弁軸29により流路24に対して垂直方向に回転可能になっている。更に、弁体22の外周側には装着溝30が形成され、この装着溝30には、シールリングであるOリング31が装着されている。Oリング31は、後述するシートリング17の弁座シール部32と当接する側に配設され、このOリング31により、弁座シール部32と弁体22との間がシール可能になっている。弁軸29は、弁体22の中心から偏心するように設けられる。この弁軸29は、図示しないが、流路24の中心から偏心させるようにしてもよい。弁軸29には、弁体制御機構21が接続され、この弁体制御機構21により、弁軸29は、回転誤差が抑えられつつ所望の回転角度で高精度に回転可能になっている。
【0018】
シートリング17は、図に示すように略環状に形成され、弁座シール部32と摺動部33とが設けられている。このうち、弁座シール部32は、Oリング31が当接してシールする部分であり、シートリング17の内周面側に内径側から外径側に緩やかに拡径するテーパ状に形成されている。この弁座シール部32は、テーパ状以外の形状であってもよく、例えば、円弧状であってもよい。摺動部33は、シートリング17全体がボデー23内を摺動できるように形成され、この摺動部33は、外径側に突出形成されている。摺動部33が移動する側には、弁閉側規制面34と弁開側規制面35とがそれぞれ形成されている。
【0019】
シートリング17は、ボデー23の内側に形成された装着凹部36に摺動部33が装着されて取付けられ、この摺動部33と装着凹部36との間に設けられた間隙Gにより流路24の方向に往復動自在に移動し、これにより、弁座シール部32がOリング31に接離可能になっている。このとき、弁閉側規制面34が装着凹部36に形成された環状突部37、また、弁開側規制面35が二次側に形成された当接面38にそれぞれ当接することで、シートリング17の往復時の移動量がそれぞれ規制される。
【0020】
図7に示すように、ピストン26は、略環状に形成されて装着凹部36の二次側に設けられ、本実施形態においては2本からなる複数のシャフト39、39によりシートリング17と連結されている。このため、ピストン26は、シャフト39を介してシートリング17と一体に装着凹部36を移動できるようになっている。ピストン26の二次側のボデー23にはエア流路40が形成され、このエア流路40を介して外部より装着凹部36の二次側にエアを供給可能になっている。また、ボデー23内のピストン26の一次側には複数の凹状溝41が形成され、この凹状溝41とピストン26との間にはスプリング42が弾発した状態で装着されている。
【0021】
ピストン26側に設けられたエア流路40は、エアの供給時にピストン26が図において左方向に移動するような位置に形成され、更に、バルブ本体16に搭載されるアクチュエータ12の内部に設けられたエア流路部45に接続されている。このエア流路部45は、その途中から、第1分岐流路46と第2分岐流路47とに分岐されている。
【0022】
このような構造により、バルブ本体16は、通常時においては、スプリング42の弾発力によりピストン26が図において右方向に付勢され、このピストン26にシャフト39で接続されたシートリング17も右方向、すなわち、弁体22の方向に移動して、弁閉状態に回転した弁体22に当接シールして流路24を閉塞する。一方、エア流路部45を介してエアが供給されると、ピストン26がスプリング27の付勢力に抗して図の左方向に移動し、シートリング17も左側に移動して弁閉状態にある弁体22から離間して流路24を開放する。このように、バルブ本体16は、通常時は閉状態にある、いわゆる、NC(ノーマリークローズ)タイプとなっている。なお、本実施形態において、スプリング27は、ピストン26の円周方向に等角度に8個装着されているが、必要に応じて増減させて装着してもよい。また、シャフト39の数も必要に応じて増減させてもよい。
【0023】
一方、バルブ本体16に接続された駆動手段のうち、弁座制御機構20は、電磁弁50と、電空レギュレータ51と、ポンプ52とを有している。図2、図3に示すように、電磁弁50と電空レギュレータ51は、前記駆動手段12の第1分岐流路46と第2分岐流路47とに対して並列状態でこの駆動手段12の外部(又は内部)に接続されている。電磁弁50と電空レギュレータ51にはポンプ52が接続され、このポンプ52を介して操作用のエアが供給されたときに、後述するエア制御部55によりエアを制御することで、電磁弁50と電空レギュレータ51とがそれぞれ操作されてシートリング17による流路24の開閉制御がなされる。
【0024】
電磁弁50は、弁開又は弁閉状態に操作可能になっており、各状態においてポンプ52からのエアをエア流路40に供給、又は、停止できるようになっている。一方、電空レギュレータ51は、バルブ開度を調節することでポンプ52からのエアの供給圧力を調整できるようになっている。電空レギュレータ51は、例えば、図示しない内部のピストンにより圧力を0〜0.5MPaまでの範囲内に圧力制御するようにバルブ本体16へのエアの供給量を制御するものであればよく、または、供給圧力のON−OFF制御により、シートリング17の位置制御をできるものであればよい。
【0025】
電磁弁50と電空レギュレータ51の内部構造は省略するが、電磁弁50は、オンオフ用の開閉弁、電空レギュレータ51は、流量調節可能な流量調節弁であれば、その構造にこだわることはなく、適宜の形態のバルブを用いることが可能である。また、これらは、第1・第2分岐流路46、47にそれぞれ所定量のエアを供給可能であれば、バルブ本体16と一体、又は近接して設ける必要はなく、管路の任意の位置に設けることが可能である。
【0026】
また、駆動手段12のうちの弁体制御機構21は、ステッピングモータ56とモータドライバ57とを有している。図2、図3に示すように、ステッピングモータ56は、アクチュエータ12内に搭載され、その出力軸58が弁軸29に接続されている。モータドライバ57は、図1においてステッピングモータ56に接続されている。弁体制御機構20は、後述する弁体制御部59によりモータドライバ57を制御することでステッピングモータ56を回転制御し、弁軸29に接続された弁体22を所定角度に制御できるようになっている。
【0027】
システム本体1における制御ユニット手段10は、エア制御部55と弁体制御部59とを有し、基板等からなる図示しないCPU、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等の内部部品により構成されている。この制御ユニット手段10は、真空容器4内の圧力低下を誘導する到達関数f(x)を算出する演算機能(以下、到達関数演算機構という)と、開閉弁2を任意の時間幅でオープンクローズするタイマー60と、開閉弁2が開閉動作するときのオープン開度値とクローズ開度値とを真空圧力センサ3の出力と到達関数f(x)から演算する機能(以下、弁開度演算機能という)とを有している。
【0028】
エア制御部55は、弁座制御機構20に接続され、この弁座制御手段20の電空レギュレータ51内部の図示しない弁体の弁開度を制御し、電空レギュレータ51にポンプ52からエアが供給されたときのエア流路40へのエア量(エア圧力)を制御する。これにより、エア制御部55によって弁座制御機構20を介して駆動手段12の第1分岐流路46と第2分岐流路47へのエアの供給・停止、又はエアの供給量を調節し、シートリング17の移動量を制御してシートリング17による弁開度を制御してスロー排気できるようにしている。上記において、電空レギュレータ51の位置には、この電空レギュレータ51と同一の機能を有するバルブを設けるようにしてもよい。このバルブとしては、例えば、図示しないが、オリフィス流路を有する流量制御弁がある。
【0029】
弁体制御部59は、弁体制御機構21に接続され、この弁体制御機構21においてモータドライバ57を介してステッピングモータ56を回転制御して、弁軸29を介して弁体22を所定角度に回転制御できるようにしている。弁体制御部59は、ステッピングモータ56の回転方向や回転速度等を細かく制御して弁体22を高精度に回転制御できるようになっている。
【0030】
バルブ本体16は、弁座制御機構20によりエア流路40にエアが供給され、このエアによりシートリング17が弁体22のOリング31から離間し、さらに、シートリング17が開放した状態から弁体制御機構21により弁体22を無摺動で回転させるようになっている。また、弁体制御機構21によって、弁体22を弁閉状態に回転し、この状態で弁座制御機構20によりエア流路40にエアを供給し、このエア供給40とスプリング42の付勢力とにより弁体22にシートリング17を接離させて流路24内の流量(圧力)を制御する。このとき、上記したように弁座制御機構20がエア制御部55、弁体制御機構21が弁体制御部59によって高精度に制御される。
【0031】
また、システム本体1は、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)等からなる入力手段13を備え、この入力手段13により、真空容器4内を所定の圧力まで圧力低下させるときの所要時間、いわゆる、圧力低下の所要時間Tと、このとき所要時間Tにより到達する圧力、いわゆる、到達圧力Pを外部からコマンド入力することが可能になっている。入力手段13は、制御ユニット手段10に接続され、コマンド入力された命令は、制御ユニット手段10を介して駆動手段12に伝達される。
【0032】
次に、制御ユニット手段10における、到達関数演算機能と、弁開度演算機能の各機能を詳細に説明する。
到達関数演算機能は、真空容器4内の真空圧力を制御するときに、制御開始からの時間の経過と真空容器4内の圧力との関係を、到達関数f(x)として算出する機能である。到達関数f(x)は、1次、2次或は3次関数のうちの何れかの関数であり、各到達関数f(x)、f(x)、f(x)は、真空容器4内の圧力が制御開始時の圧力(開始圧力)から時間の経過に伴って低下する勾配となることから、それぞれ、f(x)=y=−ax+b、f(x)=y=−a+b、f(x)=y=−a+bの関係に表される。この式において、−a、b、−a、b、−a、bは定数であり、これらの定数−a、b、−a、b、−a、bをそれぞれ算出することで、1次、2次、3次における到達関数がそれぞれ求められる。
【0033】
このとき、定数b、b、bは、制御開始時(到達時間=0)のときの圧力(開始圧力)であり、上記の各関数にx=0を代入したときのy、y、yの値となる。定数−a、−a、−aは、上式から算出した定数b、b、b、目標の真空圧力にするまでの所要時間T、目標となる到達圧力(所定の高真空圧力値)Pの値をそれぞれ上式のx、yに代入することで求められる。その結果、1次、2次、3次の到達関数f(x)、f(x)、f(x)が決定される。
【0034】
この到達関数f(x)を算出するときに、設定する所要時間Tに対応して、1次、2次或は3次関数と可変可能な演算機能を有しており、到達時間tに対応して1次、2次或は3次関数のうちの適切な関数が制御ユニット手段10により自動選択される。図5においては、到達関数f(x)による制御波形の例を示しており、図5(a)では1次関数による到達関数f(x)の制御波形の例を示しており、図5(b)においては、2次関数による到達関数f(x)の制御波形の例を示している。3次関数による制御波形の例は省略するが、到達関数f(x)は、乗数が増加するにつれてxの値に対するyの値がより増加するグラフとなることから、所要時間Tを短く設定した場合に、乗数の大きい到達関数が選択され、短い時間でのパーティクルの飛散を防止したスロー排気が可能になっている。
【0035】
この場合、変数である次数をコマンドにより指定することも可能であり、例えば、0〜3までの数字を、0:所要時間Tにより次数を自動選択、1:1次到達関数を指定、2:2次到達関数を指定、3:3次到達関数を指定するコマンドとし、何れかの数字を入力手段13から入力することで次数を自動選択、或は、任意の次数に指定することもできる。
【0036】
弁開度演算機能は、真空容器4内の圧力が大気圧又は任意の圧力から目標とする到達圧力Pまで低下するときに、所定の経過時間における真空圧力センサ3による測定値と到達関数演算機能から算出された到達関数f(x)との間の誤差から、開閉弁2の弁開時の開度(オープン開度値)、弁閉時の開度(クローズ開度値)を演算する。
具体的には、図4において、真空容器内の圧力PをPからPnまで低下させるときの任意の時間をt、t、t、…tnとしたときに、各時間t、t、t、…tnにおいて真空圧力センサ3により測定される圧力値P、P、P、…Pnを、到達関数f(x)に基づいて得られる理論上の圧力値pと比較し、その結果により、各時間における開閉弁2のオープン開度値、クローズ開度値を演算するものである。
【0037】
上記の弁開度演算機能により演算されたオープン開度とクローズ開度は、タイマー60により開閉弁2を任意の時間幅で開閉指示することで伝達され、これにより、システム本体1は、開閉弁2の開度を制御して真空容器4内のパーティクルの巻き上げを防ぎつつ、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力(到達圧力)Pまで低下させるようにスロー排気する。このとき、弁開度演算機能により演算されたオープン開度値、クローズ開度値によって開閉弁2が開閉指示されて、所定の経過時間に対する真空容器4内の圧力値の誤差の発生が防がれる。
その際、開閉弁2をオープン又はクローズさせながら開閉制御して、真空容器4内の圧力を制御するときに、圧力低下に従ってクローズ開度を増加させるようにしている。
上記において、真空容器4内を所定圧力に到達させるまでの時間tnと、到達する所定圧力pとは、入力手段13を介してコマンド入力される。
【0038】
次に、上記の真空圧力制御システムにおいて、具体例として一次関数(f(x)=−ax+b)が到達関数として選択された場合を説明する。開閉弁2は、弁開状態から排気する際には、スロー排気制御とプロセスガス圧力制御により排気する。スロー排気制御は、初期の開始圧力Pから高真空圧力Pまで圧力制御するものであり、プロセスガス圧力制御は、この後に弁体22の開閉により圧力制御するものである。
【0039】
スロー排気制御は、前述したように、弁座制御機構20をエア制御部45で制御して大気圧又は任意の圧力で締め切られた真空容器4内を徐々に除圧して目標とする到達圧力Pまでスロー排気するものである。スロー排気の前には、予め、外部の入力手段13より制御ユニット手段10に真空容器4内を所定圧力に到達させるときの到達時間Tと到達時の所定圧力(到達圧力)Pとをコマンド入力する。到達時間Tは、大気圧又は任意の圧力から到達圧力Pまで減圧するときに、真空容器4内にパーティクルの発生が起こるにくくなる時間に設定するものとし、真空容器4の大きさや処理するウエハの数、材料ガスの種類等に応じて適宜の値に設定する。
このように、到達時間T、到達圧力Pと、真空容器4内の開始圧力が決定すると、到達関数演算機能によって、到達時間をx、到達圧力をy、開始圧力をbとしたものが1次関数y=−ax+bに代入されて定数aが求められ、更に、この結果が前記1次関数に代入されて到達関数f(x)が決定される。
【0040】
続いて、この到達関数f(x)をもとに、弁開度演算機能によりオープン開度値とクローズ開度値とが演算され、図3に示すように、電磁弁50の閉状態が維持されながら、エア制御部55により電空レギュレータ51の弁開度が制御されてシートリング17の開度が制御される。電空レギュレータ51の制御によりエア流路40へのエア供給圧力が調節されて、弁体22に対するシートリング17のオープン開度とクローズ開度の移動量が細かく制御され、シートリング17と弁体22との隙間量が制御される。更に、真空容器4内の圧力低下に従ってクローズ開度を徐々に増加させることで、シートリング17に接するOリング31の接触頻度を低下させ、Oリング31の寿命を延ばすことが可能になっている。
【0041】
引き続き、スロー排気時には、到達関数演算機能により求められたパーティクルの発生が防がれる到達関数f(x)に対して弁開度演算機能によりオープン開度とクローズ開度とが演算され、この演算結果に応じてタイマー60により開閉弁2が任意の時間幅でオープンクローズされることで流量が制御され、その経過時間における到達圧力Pに実際の圧力が近づけられる。
【0042】
例えば、図4の弁開度演算機能において、各時間における制御をステップ0、ステップ1、ステップ2、…ステップNとしたときに、制御ユニット手段10は、各ステップにおいて、到達関数f(x)に近づけるようにオープン開度、クローズ開度を変化させながら、その開度を徐々に大きくする方向にシフトして真空容器4内の圧力を制御する。更に、各ステップにおける制御を詳述すると、動作開始時におけるステップ0での真空圧力センサ3で測定した初期圧力をP、オープン開度を開始開度EvSt、クローズ開度を最小開度EvClsとすると、開閉弁2は、前記のようにクローズ開度を徐々に増加させながら開閉動作の繰り返しを開始する。
【0043】
ステップ1では、真空圧力センサ3により圧力Pを測定し、制御ユニット手段10により到達時間tからtに達したときの図示しない圧力の傾きA(=−圧力P/圧力P)を算出し、この圧力の傾きAを到達関数演算機能により算出された到達関数f(x)の傾きaと比較し、かつ、圧力Pの値と到達関数f(x)で算出された図示しない計算圧力pとの乖離と、開始開度、クローズ最小開度の開度補正値、オープン開度値、クローズ開度値を演算し、これらの演算結果をもとに、エア制御部55により、圧力の傾きAと到達関数の傾きa、測定圧力Pと計算圧力pを次回のステップ(ステップ2)で近づけるように開閉弁2がスロー排気制御される。
【0044】
続いて、ステップ2においても、ステップ1の場合と同様に、真空圧力センサ3により圧力Pを測定し、経過時間tから経過時間tに達したときの到達関数f(x)の圧力の傾きA(=−圧力P/圧力P)を算出し、この圧力の傾きAを到達関数f(x)の傾きaと比較し、かつ、圧力Pの値と到達関数f(x)で算出された計算圧力pとの乖離と、開始開度、クローズ最小開度の開度補正値、オープン開度値、クローズ開度値を演算し、これらの演算結果をもとに、圧力の傾きAと到達関数の傾きa、測定圧力Pと計算圧力pを次回のステップ(ステップ3)で近づけるように開閉弁2がスロー排気制御される。
【0045】
以下、ステップNまでの制御が同様に行なわれ、ステップNにおいて真空容器4内の圧力が到達圧力Pに達すると、シートリング17がフルオープンの状態になり、制御ユニット手段10のエア制御部55によるシートリング17のスロー排気制御が終了となる。このエア制御部55によるスロー排気が終了する際には、電空レギュレータ51が閉状態になると同時に電磁弁50が開状態に制御されてエア流路40にエアが供給され、シートリング17が完全に開状態となる。
【0046】
続いて、エア制御部55による弁座制御機構20の制御から弁体制御部59による弁体制御機構21の制御に切り換わる。図7に示すように、開閉弁2の弁体22は、弁体制御部59により弁体制御機構21のステッピングモータ56が回転制御されることにより開閉制御され、これにより、目標とする任意の圧力まで真空容器4内のプロセスガス圧力制御が行なわれる。
【0047】
なお、上記においては、到達関数f(x)を1次関数として真空圧力制御システムを制御する場合を説明したが、到達関数f(x)は、2次関数や3次関数であっても同様に制御できる。この到達関数f(x)は、設定する圧力低下の所要時間Tの長さに応じて到達関数演算機能により適宜可変されて最適な乗数の関数が選択される。何れの関数の場合であっても、制御時におけるステップを細かく設定しておくことで、開始時の圧力から到達圧力Pに達するまで各ステップごとに細かくオープンクローズ動作を繰り返して圧力制御でき、これにより、到達関数f(x)に対する測定圧力の誤差を少なくして高精度に制御することが可能となる。
【0048】
ここで、例えば、図6において、実線は、上記した真空圧力制御により圧力制御したときの関数の曲線を示している。この場合、弁開度値演算機能によるステップ数を増やして曲線を到達関数f(x)の曲線に近づけることができるため、より正確に圧力制御することができる。一方、図における破線は、特許文献1により圧力制御したときのグラフを示している。この場合、図に示すように、事前に設定する目標真空圧力変化ポイントと目標真空圧力変化速度とを設定する必要があり、しかも、このように設定数(A点、B点、C点)が少ない場合には、理想となる到達関数から離れた形状のグラフになる。このため、設定ポイントを増やす必要があり、その結果、各設定値を予め求める手間が増大することになる。上述した本発明の真空圧力制御システムでは、所要時間Tと到達圧力Pのみをコマンド入力するだけでよいので、手間がかかることがない。
【0049】
上述したように、本発明の真空圧力制御システムは、到達関数演算機能と、タイマー60と、弁開度演算機能とを有する制御ユニット手段10と、駆動手段12と、入力手段13とを設けて、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで低下させるようにしているので、設定値などを計算により予め求めておく必要がなく、所望の所要時間Tと到達圧力Pとを入力しておくだけで大気圧又は大気圧に近い低真空から高真空までパーティクルの飛散を抑えつつ簡単かつ正確に圧力制御できる。
【0050】
しかも、弁座制御機構20をエア制御部55によりスロー排気制御しているので、より高精度に圧力制御でき、更には、スロー排気後に弁体制御機構20を弁体制御部59によりプロセスガス圧力制御しているので、微小流量から大流量までを正確に流量制御することができる。この場合、特に、微小流量時において高精度に圧力制御することができ、スロー排気時におけるパーティクルの飛散を確実に抑えることができる。
【0051】
なお、モータ制御状態から再度バルブ本体16を全閉状態にする場合には、弁体22を全閉位置まで回転させ、電磁弁50をOFFにしてのエア流路40からエアを排気すると、スプリング42がシートリング17をOリング31に押し付けてシールさせ、流路24が閉状態となる。
【0052】
更には、図8に示した高速エア制御流路70を利用することで、バルブ本体16を弁閉状態に高速遮断することもできる。図において、エア遮断流路70には、電空レギュレータ71、3方電磁弁72、圧力スイッチ73、2方エアバルブ74が設けられ、このエア制御流路70は、図2におけるボデー23のシリンダである装着凹部36から続くエア流路40に接続されている。
【0053】
エア制御流路70は、エア供給側流路75とエア排気側流路76とにより並列に設けられ、このエア供給側流路75とエア排気側流路76との間には、第1バイパス流路77、第2バイパス流路78が設けられている。そして、エア供給側流路75には、シリンダ36側から順に、電空レギュレータ71、3方電磁弁72、圧力スイッチ73が直列に配設され、一方、エア排気側流路76には、2方エアバルブ74が設けられている。
【0054】
電空レギュレータ71は、エア供給側流路75と第1バイパス流路77とを接続する位置に設けられ、エア供給側流路75からシリンダ36内に供給するエアの流量を調節可能で、かつ、シリンダ36からの排気エアを、第1バイパス流路77を介してエア排気側流路76に流すことが可能になっている。3方電磁弁72は、エア供給側流路75と第1パイパス流路77とを接続する位置に設けられ、供給エアをシリンダ36側に供給するか、又は、シリンダ36からの排気エアを、第2バイパス流路78を介してエア排気側流路76に流すように切り換え可能になっている。圧力スイッチ73は、エア供給側流路75内の圧力を感知するために設けられている。
【0055】
2方エアバルブ74は、エア排気側流路76に設けられ、この2方エアバルブ74には、エア供給側流路75から第3バイパス流路79が接続されている。この2方エアバルブ74は、ノーマリーオープンタイプのバルブであり、通常時にはシリンダ36からのエアを排気できるようになっており、一方、エア供給側流路75からエアが供給されたときには第3バイパス流路79を介してエアが供給されて弁閉状態となる構造になっている。
【0056】
エア制御流路70において、3方電磁弁72を開状態にしてエアを供給すると、第3バイパス流路79を介して2方エアバルブ74内にエアが流れ、2方エアバルブ74は、閉状態になってシリンダ36からの排気が防がれた状態になる。この状態で電空レギュレータ71に、例えば、0〜5Vの入力信号を入力すると、この入力信号に比例して供給側からの操作圧力が0〜0.5MPaの大きさで出力される。この操作圧力により、シリンダ36内の図示しないシートリングが電空レギュレータ71の出力圧力に比例して、例えば、0〜2.5mmのストロークにより往復動してバルブ本体16を開閉する。
【0057】
バルブ本体16を閉止状態に遮断するときには、3方電磁弁72を切り換えることでシリンダ36からの排気エアが第2バイパス流路78に流れて排気され、かつ、エア供給側流路75へのエア供給も停止する。このとき、電空レギュレータ71への入力信号を0Vにして排気した際に、通常の回路ではシリンダ36が弁閉動作するまでに1.5秒程度掛かることになるが、このエア遮断回路70では、エア供給側流路75に並列に配管されたエア排気側流路76の2方エアバルブ74が開状態となることで、排気エアが2方エアバルブ74と電空レギュレータ71・3方電磁弁72とを介してエア排気側流路76から排気されるため、1秒以下の高速で遮断することができ、遮断時間を大幅に短縮することが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
1 システム本体
2 開閉弁
3 真空圧力センサ
4 真空容器
5 真空ポンプ
10 制御ユニット手段
12 駆動手段
60 タイマー
61 入力手段
f(x) 到達関数
P 到達圧力
T 所要時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器に真空ポンプを介して真空容器内の真空圧力を変化させる開閉弁と、前記真空容器内の真空圧力を計測する真空圧力センサを介して前記開閉弁の開度を制御するようにした真空圧力制御システムであって、前記真空容器内の圧力低下を誘導する到達関数を算出する演算機能と、前記開閉弁を任意の時間幅でオープンクローズするタイマーと、前記オープン開度値とクローズ開度値とを前記真空圧力センサの出力と前記到達関数から演算する機能とを有する制御ユニット手段と、前記開度値を駆動する駆動手段と、圧力低下の所要時間と到達圧力を外部からコマンド入力する入力手段とを設けて、大気圧又は任意の圧力から目標とする任意の圧力まで低下させるようにしたことを特徴とする真空圧力制御システム。
【請求項2】
前記到達関数を算出するとき、1次、2次或は3次関数と可変可能な演算機能を有する請求項1に記載の真空圧力制御システム。
【請求項3】
前記開閉弁をオープン又はクローズさせながら開閉制御して、前記真空容器内の圧力を制御するときに、圧力低下に従ってクローズ開度を増加させるようにした請求項1又は2に記載の真空圧力制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−39824(P2011−39824A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187213(P2009−187213)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(501417929)株式会社キッツエスシーティー (22)
【Fターム(参考)】