説明

真空蒸着装置

【課題】成膜室の真空槽内で従来より効率的に成膜マスクから付着物を除去できる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】
真空槽11内に配置され、薄膜材料45の蒸気を放出する放出容器31に、ガス供給装置50から反応ガスを導入する。放出容器31の放出孔34から放出される反応ガスは成膜マスク21の付着物と反応して反応生成物ガスを形成し、反応生成物ガスは真空排気される。放出容器31と成膜マスク21との間に電圧を印加して反応ガスをプラズマ化することもできる。成膜マスク21に周期的に負電位を印加すると、プラズマ中のイオンが成膜マスク21に引き寄せられて衝突するのでより効率的に付着物を除去できる。成膜マスク21に負電位を印加する間に放出容器31に負電位を印加すると、放出容器31からも付着物を効率的に除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELは、発光効率が高く、薄い発光装置を組み立てることができることから、近年では、大面積化する表示装置や照明機器の用途に注目されている。大面積基板に有機薄膜を均一に成膜する方法として、真空蒸着法がよく用いられている。
【0003】
図4は従来の真空蒸着装置100の一例の内部構成図を示している。
従来の真空蒸着装置100は真空槽111と蒸着材料容器141とマスク保持部124とを有している。蒸着材料容器141とマスク保持部124は真空槽111内に配置されている。
【0004】
真空排気装置112によって真空槽111内を真空排気しておき、マスク保持部124に成膜マスク121を保持させ、成膜マスク121上に基板122を配置する。蒸着材料145を蒸着材料容器141内に入れ、加熱器142で加熱すると、蒸着材料145は蒸発し、蒸着材料145の蒸気は真空槽111内に放出され、マスク保持部124に保持された成膜マスク121に入射する。
【0005】
成膜マスク121の開口部を通過する蒸気は成膜マスク121上の基板122の表面に到達し、基板122表面に開口部の形状と同じ形状の薄膜が形成される。このとき成膜マスク121の開口部の外側の遮蔽部に入射する蒸気は遮蔽部に付着して堆積する。
成膜を終えた基板122を真空槽111から搬出し、成膜を終えた基板122とは別の基板122を真空槽111内に搬入して上述の成膜工程を繰り返す。
【0006】
複数枚の基板122の成膜を繰り返すと、成膜マスク121には薄膜材料の付着物が堆積し、付着物が開口部の縁を塞いで開口部の穴が小さくされ、基板122上に形成される薄膜の形状が小さくなる。また堆積した付着物が成膜マスク121から剥離して、ダストが発生し、基板122の成膜に影響する。例えば白色EL素子の生産のように使用する成膜マスク121の開口が大きい場合には、付着物によるダストの発生は、付着物が開口部の縁を塞ぐことよりも大きな問題となる。
【0007】
従って、基板122上の薄膜パターンの精度を維持するためには、定期的に成膜マスク121から付着物を除去するクリーニングが必要になる。
従来クリーニングを行うには、成膜工程を停止して、使用済みの成膜マスク121を真空槽111から搬出し、交換用の成膜マスクを真空槽111に搬入して、成膜工程を再開し、使用済みの成膜マスクが複数枚溜まった後、複数枚の成膜マスクをまとめてクリーニング工場に運んで、複雑なプロセスでウェットクリーニングをして、成膜マスクから付着物を除去していた。
【0008】
しかしながら、特に有機ELディスプレイ用の成膜マスクは、開口パターンが精密であるため、使用寿命が短く、クリーニングの頻度が高い。従って、多数の交換用の成膜マスクが必要であり、コストが高く、生産効率が悪かった。
そのため、使用済みの成膜マスクを、複数枚溜めてからクリーニング工場に運ぶ方法ではなく、その都度その場で成膜マスクをクリーニングする技術が望まれていた。
【0009】
特許文献1では、成膜室の真空槽内で反応ガスのプラズマを発生させて成膜マスクをクリーニングする方法が開示されている。特許文献1の方法では、クリーニングの際に発生させたプラズマ中のラジカルや荷電粒子などが真空槽内の蒸着材料と反応し、蒸着材料を劣化させる虞があった。また成膜マスクの表面でプラズマを発生させるためには、電極を成膜マスクと蒸発源との間に移動させる大がかりな装置が必要であり、大型基板に対応することが困難であった。
【0010】
一方、特許文献2及び特許文献3に開示された方法では、使用済みの成膜マスクを成膜室とは別のクリーニング室に移動させ、クリーニング室でクリーニングを行うことで、特許文献1での問題を回避しているが、成膜マスクの搬送機構と専門のクリーニング室を別途追加する必要があり、コストが高いことが問題であった。
【0011】
特許文献4に開示された方法では、蒸発器からガスではなくラジカルを出すように構成しているため、特許文献1のように電極を移動させる大がかりな装置は不要であるが、クリーニング効果のあるイオン衝撃を利用することが難しく、また発生したラジカルが成膜マスクに到達する前に消滅する確率が高いため、クリーニング効率が悪いという不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−313654号公報
【特許文献2】特開2009−185362号公報
【特許文献3】特開2007−173175号公報
【特許文献4】特開2008−88483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、成膜室の真空槽内で従来より効率的に成膜マスクから付着物を除去できる真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽に接続され、前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、前記真空槽内に配置され、壁面に放出孔が設けられた放出容器と、前記放出容器に接続され、前記放出容器内に薄膜材料の蒸気を導入可能に構成された蒸発源と、前記放出容器の前記放出孔と離間して対面する位置に成膜マスクを保持するように構成されたマスク保持部と、を有する真空蒸着装置であって、前記放出容器に接続され、前記成膜マスクの付着物と反応して反応生成物ガスを形成する反応ガスを前記放出容器内に導入可能に構成されたガス供給装置を有する真空蒸着装置である。
本発明は、前記マスク保持部に成膜マスクを保持させると、前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクは前記マスク保持部と電気的に接続される真空蒸着装置であって、前記放出容器と前記マスク保持部との間に電圧を印加して、前記ガス供給装置から前記放出容器内に導入され、前記放出孔から放出される前記反応ガスを、前記放出容器と前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクとの間の放電空間でプラズマ化する電源装置を有する真空蒸着装置である。
本発明は、前記放電空間を環状に取り囲んで配置され、前記蒸気の粒子を遮蔽する防着壁を有する真空蒸着装置であって、前記防着壁は前記真空槽と同電位にされた真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記電源装置は、前記真空槽の電位に対して負の電位を、前記マスク保持部に周期的に印加するように構成された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記電源装置は、前記マスク保持部に前記負の電位を印加した後で、かつ次に前記マスク保持部に前記負の電位を印加する前に、前記放出容器に前記負の電位を印加するように構成された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記電源装置は、前記マスク保持部に前記負の電位を印加すると同時に、前記放出容器に前記真空槽の電位に対して正の電位を印加し、前記放出容器に前記負の電位を印加すると同時に、前記マスク保持部に前記正の電位を印加するように構成された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記マスク保持部を前記放出孔と離間して対面する位置を通過するように移動させる移動装置を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記マスク保持部に成膜マスクを保持させたときに、前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクから見て前記放出容器とは逆側に配置され、前記成膜マスクより低温にされた冷却プレートと、前記成膜マスクに磁力を印加して、前記成膜マスクを前記冷却プレートに密着させる磁気装置とを有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記真空排気装置はそれぞれ前記真空槽内を真空排気する第一、第二の真空排気部を有し、前記第一の真空排気部によって前記真空槽内を真空排気すると、前記真空槽内の圧力は、前記第二の真空排気部によって前記真空槽内を真空排気したときの前記真空槽内の圧力よりも低くされる真空蒸着装置である。
【発明の効果】
【0015】
薄膜材料の蒸気を放出する放出容器自身がプラズマ発生のための電極になるため、電極を移動させる大がかりな装置は不要であり、大面積基板に容易に対応できる。
放出容器と蒸発源との間はバルブで分けられているため、クリーニングの際のプラズマが蒸発源内の蒸発材料に影響することはない。
成膜マスクと共に、放出容器及び防着壁もクリーニングすることができる。
インライン式の蒸着装置でも本発明により成膜マスクのクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明である真空蒸着装置の第一例の内部構成図
【図2】本発明である真空蒸着装置のA部分拡大図
【図3】本発明である真空蒸着装置の第二例の内部構成図
【図4】従来の真空蒸着装置の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の真空蒸着装置の第一例>
本発明である真空蒸着装置の第一例の構造を説明する。図1は真空蒸着装置10の第一例の内部構成図を示している。
真空蒸着装置10は真空槽11と放出容器31とを有している。
【0018】
放出容器31は中空に形成され、一面には放出容器31の壁面を貫通する複数の放出孔34が設けられている。放出容器31の放出孔34が設けられた面を放出面と呼ぶと、放出面は導電性を有し、複数の放出孔34は放出面の中心から外周まで均等に配置されている。
【0019】
放出容器31は真空槽11内に配置され、放出容器31の内部空間と真空槽11の内部空間とは放出孔34で接続されている。
放出容器31の放出面の外側の壁面には導入口37が設けられ、導入口37には絶縁性の絶縁管38が気密に接続され、絶縁管38には接続管36が気密に接続されている。接続管36の他端は真空槽11の壁面を気密に貫通して、真空槽11の外側まで延ばされている。
【0020】
接続管36と真空槽11とは電気的に接続されている。放出容器31は絶縁管38によって接続管36や真空槽11から電気的に絶縁されている。
真空槽11の外側には蒸発源40とガス供給装置50とが配置されている。
【0021】
蒸発源40は薄膜材料容器41と薄膜材料加熱装置42とを有している。薄膜材料容器41は中空に形成され、内側に固体又は液体の薄膜材料45を保持できるように構成されている。薄膜材料加熱装置42は薄膜材料容器41の外側に取り付けられ、薄膜材料容器41内の薄膜材料45を加熱して、薄膜材料容器41の内部空間に薄膜材料45の蒸気を発生させるように構成されている。
【0022】
ガス供給装置50は反応ガスを放出する反応ガス源51と、放電補助ガスを放出する放電補助ガス源52とを有している。ここで反応ガスとは後述する成膜マスクの付着物と反応して反応生成物ガスを形成するガスであり、放電補助ガスとは電極間での放電を容易に発生させ、かつ放電を持続させるガスである。
【0023】
ここでは放電補助ガスには不活性ガスが使用され、反応ガスには地球温暖化係数の低いフッ素系、酸素系、ハロゲン系のガスが使用される。反応ガスには例えば、Ar、He、Ne、N2、H2、O2、O3、F、Cl2、Br2、NF3、ClF3、CF4、CHF3、C26、C38、CH22、CO2、CO、N2O、BCl3のうち少なくとも一種類のガスが使用される。
【0024】
反応ガス源51は反応ガス流量制御部53に接続され、放電補助ガス源52は放電補助ガス流量制御部54に接続されて、それぞれ放出するガスの流量を制御されている。
薄膜材料容器41は第一の接続バルブ48を介して接続管36に接続されている。反応ガス流量制御部53と放電補助ガス流量制御部54はそれぞれ第二の接続バルブ58を介して接続管36に接続されている。
【0025】
第二の接続バルブ58を閉じて第一の接続バルブ48を開くと、蒸発源40から薄膜材料の蒸気が接続管36を通って放出容器31内に導入され、第一の接続バルブ48を閉じて第二の接続バルブ58を開くとガス供給装置50から反応ガスと放電補助ガスとが接続管36を通って放出容器31内に導入されるようになっている。
【0026】
真空槽11内で放出容器31の放出面と離間して対面する位置には、成膜マスク21を保持するように構成されたマスク保持部24が配置されている。マスク保持部24は真空槽11から電気的に絶縁されている。
真空槽11の壁面には、真空槽11から電気的に絶縁された第一、第二の端子18a、18bが、壁面を気密に貫通して設けられ、マスク保持部24は第一の端子18aに電気的に接続され、放出容器31は第二の端子18bに電気的に接続されている。
【0027】
マスク保持部24に成膜マスク21を保持させると、成膜マスク21はマスク保持部24に電気的に接続されるようになっている。
マスク保持部24に成膜マスク21を保持させたときに、マスク保持部24に保持された成膜マスク21と放出容器31の放出面との間に形成される空間を放電空間と呼ぶと、マスク保持部24と放出容器31との間には、放電空間を環状に取り囲んで筒状の防着壁35が配置されている。防着壁35は薄膜材料の蒸気を遮蔽する材質で形成されている。防着壁35は真空槽11に電気的に接続され、真空槽11と同電位にされている。
【0028】
防着壁35とマスク保持部24との間にはマスク保持部24の外周に沿って均一な幅の隙間が形成され、防着壁35と放出容器31との間には放出面の外周に沿って均一な幅の隙間が形成されている。
放出容器31と接続管36にはそれぞれ加熱装置32が取り付けられている。加熱装置32によって放出容器31と接続管36とをそれぞれ加熱すると、蒸発源40から接続管36を通って放出容器31内に導入される薄膜材料の蒸気は接続管36の内部や放出容器31の内部で凝縮しないようになっている。
【0029】
図2は真空蒸着装置10のA部分拡大図を示している。
放出容器31の放出面にはピン部39が突設され、ピン部39には放出面を覆うように熱輻射防止板33が固定されている。ピン部39は熱伝導しにくい導電性材料で形成され、熱輻射防止板33は放出面からの熱輻射を遮断する材質で形成されている。熱輻射防止板33によって放出容器31の放出面からの熱輻射が遮断されているので、図1を参照し、加熱装置32によって放出容器31を加熱しても、放出容器31の放出面からの熱輻射により、マスク保持部24に保持された成膜マスク21が加熱されて膨張し、成膜マスク21の開口パターンが変形することが防止されている。
【0030】
マスク保持部24に成膜マスク21を保持させたとき、マスク保持部24に保持された成膜マスク21の放出容器31と対面する面を表面、その逆を裏面と呼ぶと、成膜マスク21の裏面と対面可能な位置には冷却プレート26が配置されている。冷却プレート26の内部には不図示の冷却媒体流路が設けられ、冷却媒体流路に温度管理された冷却媒体を循環させると、冷却プレート26は冷却されるようになっている。
【0031】
冷却プレート26には昇降装置29が取り付けられている。昇降装置29は不図示の制御装置から制御信号を受けると、冷却プレート26を成膜マスク21の裏面に対して垂直な方向に移動させるように構成されている。
冷却プレート26の成膜マスク21と対面可能な面を表面、その逆を裏面と呼ぶと、冷却プレート26の裏面には板状の磁気装置27が取り付けられている。
【0032】
冷却プレート26を成膜マスク21の裏面に接触させると、磁気装置27は成膜マスク21に磁力を印加して、成膜マスク21の裏面を冷却プレート26の表面に面で密着させるように構成されている。成膜マスク21と冷却プレート26とを面で密着させると、成膜マスク21と冷却プレート26とは熱的に接続されるようになっている。
磁気装置27は成膜マスク21に磁力を印加できるならば冷却プレート26の裏面に取り付けられている構成に限定されず、冷却プレート26の内部に埋め込まれていてもよい。
【0033】
真空槽11に接続され、真空槽11内を真空排気する装置を真空排気装置と呼ぶと、真空排気装置は第一、第二の真空排気部121、122を有している。
ここでは真空槽11の壁面には第一、第二の排気口141、142が設けられ、第一、第二の真空排気部121、122はそれぞれ第一、第二の排気バルブ131、132を介して第一、第二の排気口141、142に接続されている。
【0034】
ここでは第一の真空排気部121によって真空槽11内を真空排気すると、真空槽11内の圧力は、第二の真空排気部122によって真空槽11内を真空排気したときの真空槽11内の圧力よりも低くなるようにされている。
【0035】
上記の真空蒸着装置10を使用した真空蒸着方法を説明する。
第一、第二の接続バルブ48、58と第一、第二の排気バルブ131、132をいずれも閉じておく。
不図示の搬送装置によって成膜マスク21を真空槽11内に搬入し、マスク保持部24に保持させる。このとき成膜マスク21とマスク保持部24とは電気的に接続される。
【0036】
第一の排気バルブ131を開いて、第一の真空排気部121により、真空槽11内を真空排気する。真空槽11に真空計17を接続し、真空槽11内の圧力を測定する。以後、真空計17で真空槽11内の圧力を測定しながら、第一の真空排気部121で真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
不図示の搬送装置によって成膜対象物である基板22を真空槽11内に搬入し、成膜マスク21上に配置する。
【0037】
加熱装置32によって接続管36と放出容器31とを加熱しておく。熱輻射防止板33によって放出容器31の放出面からの熱輻射が遮断されているため、マスク保持部24に保持された成膜マスク21は加熱されない。
薄膜材料加熱装置42によって薄膜材料容器41内の薄膜材料45を加熱し、薄膜材料容器41内で薄膜材料45の蒸気を発生させる。
【0038】
第二の接続バルブ58は閉じたまま、第一の接続バルブ48を開いて、薄膜材料の蒸気を薄膜材料容器41から接続管36を通して放出容器31内に導入する。
放出容器31内に導入された薄膜材料の蒸気は、放出面に均等に設けられた放出孔34から、放出面の中心から外周まで均等な流量で、放電空間に放出される。
【0039】
放電空間に放出され、成膜マスク21の開口部に入射する蒸気は、開口部を通過して、成膜マスク21上の基板22の表面に入射し、基板22の表面に開口部と同じ形状の薄膜が形成される。成膜マスク21の開口部の外側の遮蔽部に入射する蒸気は、遮蔽部に付着して遮蔽部の表面に付着物が形成される。
【0040】
放電空間に放出され、放電空間を取り囲む防着壁35に入射する蒸気は、防着壁35に付着して防着壁35の放電空間を向いた面に付着物が形成される。防着壁35によって蒸気が遮蔽されるので、蒸気が真空槽11内に拡散して、真空槽11の内壁に付着することが防止されている。
【0041】
放電空間に放出され、放出容器31の放出面に入射する蒸気は、熱輻射防止板33に付着して熱輻射防止板33の表面に付着物が形成される。
基板22の表面に所定の厚みの薄膜を成膜した後、第一の接続バルブ48を閉じて、放出容器31への蒸気の供給を停止し、不図示の搬送装置によって基板22を真空槽11から搬出し、後工程に流す。
【0042】
次いで、薄膜を成膜した基板22とは別の基板22を不図示の搬送装置によって真空槽11内に搬入し、上述の成膜工程を繰り返す。
複数枚の基板22を成膜すると、成膜マスク21や防着壁35や熱輻射防止板33には薄膜材料からなる付着物が堆積する。
【0043】
成膜マスク21の遮蔽部に付着物が堆積すると、堆積した付着物が開口部の縁を塞いで開口部の形状が変形され、基板22に形成される薄膜の形状が変形される。防着壁35や熱輻射防止板33に付着物が堆積すると、防着壁35や熱輻射防止板33から剥離した付着物が放電空間を飛行して基板22表面に入射し、基板22に形成される薄膜の品質を低下させる。
【0044】
付着物に起因するこれらの問題が発生するときの基板22の成膜枚数を実験やシミュレーションであらかじめ求めておき、所定の枚数の基板22を成膜するたびに、後述のクリーニングを行うことで、基板22に形成される薄膜の品質を維持することができる。
【0045】
真空蒸着装置10を使用した成膜マスク21のクリーニング方法を説明する。
まず真空槽11内への基板22の搬入を停止し、真空槽11内に基板22が配置されている場合には、基板22を真空槽11から搬出しておく。
【0046】
冷却プレート26内部の不図示の冷却媒体流路に温度管理された冷却媒体を循環させ、冷却プレート26を冷却して、成膜マスク21より低温にしておく。以後、冷却プレート26の冷却を継続する。
【0047】
昇降装置29によって冷却プレート26を成膜マスク21に近づけ、成膜マスク21の裏面に接触させる。磁気装置27からの磁力により成膜マスク21の裏面は冷却プレート26の表面に平面で密着され、冷却プレート26と成膜マスク21とは熱的に接続される。
【0048】
第一の排気バルブ131を閉じて、第二の排気バルブ132を開き、第二の真空排気部122によって、真空槽11内を真空排気する。第二の真空排気部122で真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0049】
真空槽11内の圧力を真空計17で計測し、計測結果から、放出容器31内に導入する反応ガスと放電補助ガスのそれぞれの流量を決定し、反応ガス流量制御部53と放電補助ガス流量制御部54を決定した流量に設定する。
【0050】
第一の接続バルブ48を閉じたまま、第二の接続バルブ58を開いて、ガス供給装置50から反応ガスと放電補助ガスとを接続管36を通して放出容器31内に導入する。
放出容器31内に導入された反応ガスと放電補助ガスは、放出面に均等に設けられた放出孔34から、放出面の中心から外周まで均等な流量で、放電空間に放出される。
真空槽11の電位を接地電位にしておく。
【0051】
第一、第二の端子18a、18bに電源装置19を電気的に接続し、電源装置19から第一、第二の端子18a、18bを介してマスク保持部24と放出容器31との間に交流電圧を印加すると、マスク保持部24に保持された成膜マスク21と放出容器31の放出面との間で放電が生じる。ここでは放電空間に導入された放電補助ガスにより、容易に放電が発生し、かつ放電が持続する。
放電空間に導入された反応ガスは放電により電離されてプラズマ化し、プラズマ中の反応ガスのイオンやラジカルは成膜マスク21の表面に付着していた付着物と反応して反応生成物ガスを形成する。
【0052】
反応ガスは放出容器31の放出面に均等に設けられた放出孔34から放電空間に放出されるので、成膜マスク21表面の中心から外周まで均等にプラズマが生成され、成膜マスク21の表面全体がプラズマに曝される。
【0053】
交流電圧のうち成膜マスク21に負電位が印加されているときは、プラズマ中の反応ガスのイオンが成膜マスク21に引き寄せられて衝突するので、成膜マスク21に負電位が印加されていないときより効率的に付着物が反応して反応生成物ガスが形成される。
【0054】
成膜マスク21を冷却プレート26によって冷却しているので、成膜マスク21がプラズマにより加熱されて膨張し、成膜マスク21の開口パターンが変形することが防止されている。
プラズマ中のイオンやラジカルは熱輻射防止板33に付着した付着物や、防着壁35に付着した付着物とも反応して反応生成物ガスを形成する。
【0055】
交流電圧のうち放出容器31に負電位が印加されているときは、プラズマ中の反応ガスのイオンが放出容器31の熱輻射防止板33に引き寄せられて衝突するので、放出容器31に負電位が印加されていないときより効率的に付着物が反応して反応生成物ガスが形成される。
【0056】
放電空間よりも真空槽11の内部空間の方が圧力が低くなっているので、成膜マスク21上で形成された反応生成物ガスと、反応を終えた副生成物ガスは、マスク保持部24と防着壁35との間の隙間から成膜マスク21の外周に沿って均等な流量で、真空槽11の内部空間に放出される。また、熱輻射防止板33上で形成された反応生成物ガスと、副生成物ガスは、放出容器31と防着壁35との間の隙間から放出面の外周に沿って均等な流量で、真空槽11の内部空間に放出される。
【0057】
防着壁35には負電位を印加されないために、プラズマによる付着物の反応効率は、成膜マスク21や熱輻射防止板33よりも低いのだが、防着壁35は成膜マスク21や熱輻射防止板33に比べて交換が容易なため、防着壁35から付着物を完全には除去できなくても不都合ではない。
【0058】
真空槽11の内部空間に放出された反応生成物ガスは第二の真空排気部122によって真空槽11の外側に真空排気される。
電源装置19からの電圧印加を所定の時間継続して、少なくとも成膜マスク21から付着物を除去した後、電圧印加を停止する。第二の接続バルブ58を閉じて、放出容器31への反応ガスと放電補助ガスの導入を停止する。
【0059】
成膜マスク21の全体の重量は磁気装置27による磁力の大きさよりも大きくされているため、冷却プレート26を上昇させると、成膜マスク21は冷却プレート26から離間してマスク保持部24上に残る。
第二の排気バルブ132を閉じて、第一の排気バルブ131を開き、第一の真空排気部121によって真空槽11内を真空排気したのち、真空槽11内への基板22の搬入を再開する。
【0060】
上述の説明では電源装置19からマスク保持部24と放出容器31の放出面との間に交流電圧を印加していたが、電源装置19の構成はこれに限定されない。
少なくとも成膜マスク21から付着物を除去したいので、電源装置19はマスク保持部24に真空槽11に対して負の電位を周期的に印加するように構成されていればよい。プラズマ中のイオンが負電位を印加された成膜マスク21に衝突して成膜マスク21から効率的に付着物が除去される。
【0061】
電源装置19は、マスク保持部24に負の電位を印加した後で、かつ次にマスク保持部24に負の電位を印加する前に、放出容器31に負の電位を印加するように構成されていてもよい。プラズマ中のイオンが負電位を印加された放出容器31の熱輻射防止板33に衝突して熱輻射防止板33からも付着物を効率的に除去できるので望ましい。
【0062】
さらに、電源装置19は、上述の交流電圧のように、マスク保持部24に負の電位を印加すると同時に、放出容器31に真空槽11の電位に対して正の電位を印加し、放出容器31に負の電位を印加すると同時に、マスク保持部24に正の電位を印加するように構成されていてもよい。防着壁35と真空槽11は接地電位であるため、プラズマ中のイオンを放電空間に閉じ込めることができ、成膜マスク21と熱輻射防止板33とに効率的にイオンを衝突させることができるため望ましい。
【0063】
また、放出孔34から放電空間に放出された反応ガスをプラズマ化させずに、反応ガスを成膜マスク21の付着物と反応させて反応生成物ガスを形成させるように構成してもよい。この場合には、電源装置19を省略でき、かつマスク保持部24や放出容器31を真空槽11から電気的に絶縁させなくてもよいため、装置をより単純に構成することができる。
【0064】
クリーニングの際に、成膜マスク21をクリーニングしない場合には、成膜マスク21を成膜マスク21と同じ形状の導電性のダミーマスクと交換した後、上述のクリーニング方法によって、防着壁35と熱輻射防止板33とをクリーニングしてもよい。
【0065】
<本発明の真空蒸着装置の第二例>
真空蒸着装置の第二例の構造を説明する。図3は真空蒸着装置210の第二例の内部構成図を示している。この真空蒸着装置210はいわゆるインライン式の真空蒸着装置である。
【0066】
真空蒸着装置210は細長の真空槽211と複数の放出容器231a〜231dとを有している。各放出容器231a〜231dの構造は第一例の真空蒸着装置10の放出容器31と同じ構造である。複数の放出容器231a〜231dは真空槽211内で真空槽211の長手方向に沿って並んで配置されている。
【0067】
ここでは符号231aの放出容器の導入口には絶縁性の不図示の絶縁管が接続され、当該絶縁管には符号236aの接続管が気密に接続されている。符号231b〜231dの放出容器の導入口にはそれぞれ異なる接続管236b〜236dが気密に接続されている。各接続管236a〜236dの他端は真空槽211の壁面を気密に貫通して、真空槽211の外側まで延ばされている。
【0068】
符号231aの放出容器と真空槽211とは絶縁管によって電気的に絶縁されている。符号231b〜231dの放出容器と真空槽211とは電気的に接続されていてもよいし、絶縁されていてもよい。
【0069】
真空槽211の外側には、複数の蒸発源240a〜240dと、ガス供給装置250とが配置されている。
各蒸発源240a〜240dの構造は第一例の真空蒸着装置10の蒸発源40と同じ構造であり、各蒸発源240a〜240dの薄膜材料容器内にはそれぞれ異なる薄膜材料が配置されている。ガス供給装置250の構造は第一例の真空蒸着装置10のガス供給装置50と同じ構造である。
【0070】
各蒸発源240a〜240dの薄膜材料容器はそれぞれ異なる第一の接続バルブ248a〜248dを介してそれぞれ異なる接続管236a〜236dに接続されている。ガス供給装置250は第二の接続バルブ258を介してここでは符号236aの接続管に接続されている。
各放出容器231a〜231dはそれぞれ放出孔234a〜234dが設けられた放出面を、真空槽211の長手方向に対して垂直な同一の方向に向けられている。
【0071】
真空槽211内で各放出容器231a〜231dの放出面と離間して対面する位置には、真空槽211の長手方向に沿って導電性のベルトコンベア290が配置されている。ベルトコンベア290は真空槽211から電気的に絶縁されている。
ベルトコンベア290にマスク保持部224、224’を載せると、マスク保持部224、224’とベルトコンベア290とは電気的に接続されるようになっている。
【0072】
ベルトコンベア290には移動制御装置291が接続されている。移動制御装置291はベルトコンベア290を、ベルトコンベア290に載せられたマスク保持部224、224’と共に、真空槽211の長手方向に沿って走行移動させるように構成されている。
【0073】
マスク保持部224、224’を各放出容器231a〜231dの放出面と離間して対面する位置を通過するように移動させる装置を移動装置と呼ぶと、ここでは移動装置はベルトコンベア290と移動制御装置291とで構成されている。
【0074】
成膜マスク221を保持させたマスク保持部224を各放出容器231a〜231dの放出面と対面する位置に移動させたときに、マスク保持部224に保持された成膜マスク221と、それと対面する放出容器231a〜231dの放出面との間に形成される空間を放電空間と呼ぶと、放電空間を環状に取り囲んで筒状の防着壁235が配置されている。防着壁235は薄膜材料の蒸気を遮蔽する材質で形成され、隣り合う放出容器231a〜231dの放出孔234a〜234dからそれぞれ放出される薄膜材料の蒸気は、隣り合う放出容器231a〜231bの間の空間で混合しないようにされている。防着壁235は真空槽211に電気的に接続され、真空槽211と同電位にされている。
【0075】
真空槽211に接続され、真空槽211内を真空排気する装置を真空排気装置と呼ぶと、真空排気装置は第一、第二の真空排気部2121、2122を有している。第一、第二の真空排気部2121、2122はそれぞれ第一、第二の排気バルブ2131、2132を介して真空槽211の壁面に接続されている。
【0076】
ここでは第一の真空排気部2121によって真空槽211内を真空排気すると、真空槽211内の圧力は、第二の真空排気部2122によって真空槽211内を真空排気したときの真空槽211内の圧力よりも低くなるようにされている。
【0077】
第二例の真空蒸着装置210を使用した真空蒸着方法を説明する。
各第一の接続バルブ248a〜248dと第二の接続バルブ258と第一、第二の排気バルブ2131、2132をいずれも閉じておく。
【0078】
第一の排気バルブ2131を開いて、第一の真空排気部2121により、真空槽211内を真空排気する。真空槽211に真空計217を接続し、真空槽211内の圧力を測定する。以後、真空計217で真空槽211内の圧力を測定しながら、第一の真空排気部2121で真空排気を継続して、真空槽211内の真空雰囲気を維持する。
【0079】
マスク保持部224に成膜マスク221を保持させ、マスク保持部224に保持された成膜マスク221の裏面上に成膜対象物である基板222を配置する。基板222上に磁気装置227を配置して、磁気装置227から成膜マスク221に磁力を印加させ、成膜マスク221の裏面を基板222に密着させる。成膜マスク221の表面が各放出容器231a〜231dと対面可能な向きで、マスク保持部224を成膜マスク221と基板222と磁気装置227と共にベルトコンベア290に載せる。
【0080】
不図示の加熱装置によって各接続管236a〜236dと各放出容器231a〜231dとを加熱しておく。熱輻射防止板233a〜233dによって各放出容器231a〜231dの放出面からの熱輻射が遮断されているため、マスク保持部224に保持された成膜マスク221を放出容器231a〜231dと対面する位置を通過させても、成膜マスク221は加熱されないようになっている。
【0081】
各蒸発源240a〜240dの薄膜材料容器内でそれぞれ薄膜材料を加熱して、薄膜材料の蒸気を発生させる。
第二の接続バルブ258は閉じたまま、各第一の接続バルブ248a〜248dを開いて、薄膜材料の蒸気を蒸発源240a〜240dの薄膜材料容器から接続管236a〜236dを通して放出容器231a〜231d内にそれぞれ導入する。
【0082】
放出容器231a〜231d内に導入された薄膜材料の蒸気は、放出面に均等に設けられた放出孔234a〜234dから、放出面の中心から外周まで均等な流量で放出される。
成膜マスク221を保持するマスク保持部224を、成膜マスク221の裏面に固定された基板222と共に、各放出容器231a〜231dの放出孔234a〜234dと対面する位置を通過するように移動させる。
【0083】
成膜マスク221の表面が各放出孔234a〜234dと対面するときに、各放出孔234a〜234dから放出され、成膜マスク221の開口部に入射する蒸気は、開口部を通過して、成膜マスク221上の基板222の表面に入射し、基板222の表面に開口部と同じ形状の薄膜が形成される。成膜マスク221の開口部の外側の遮蔽部に入射する蒸気は、遮蔽部に付着して遮蔽部に付着物が形成される。
【0084】
放出孔234a〜234dから放出され、当該放出容器231a〜231dの放出面に入射する蒸気は、当該放出容器231a〜231d上の熱輻射防止板233a〜233dに付着して熱輻射防止板233a〜233dの表面に付着物が形成される。
【0085】
放出孔234a〜234dから放出され、防着壁235に入射する蒸気は、防着壁235に付着して防着壁235の表面に付着物が形成される。防着壁235によって蒸気が遮蔽されるので、蒸気が真空槽211内に拡散して、真空槽211の内壁に付着したり、一つの蒸着源から放出された蒸気と他の蒸着源から放出された蒸気とが混合することが防止されている。
【0086】
成膜マスク221と基板222とを固定した状態で各放出容器231a〜231dの放出孔234a〜234dと離間して対面する位置を符号231a〜231dの順に通過させると、基板222上には成膜マスク221の開口と同じ形状で、各放出容器231a〜231dの放出孔234a〜234dから放出された薄膜材料からなる薄膜が符号231a〜231dの順に積層される。
【0087】
マスク保持部224をベルトコンベア290の終点に移動させ、基板222をマスク保持部224に保持された成膜マスク221から分離する。分離された基板222を後工程に流す。
分離された成膜マスク221をマスク保持部224に保持させたまま、ベルトコンベア290の始点に戻し、分離された基板222とは別の基板222を当該成膜マスク221の裏面に固定して、上述の成膜工程を繰り返す。
【0088】
複数枚の基板222を成膜すると、成膜マスク221や防着壁235や各放出容器231a〜231d上の熱輻射防止板233a〜233dには薄膜材料からなる付着物が堆積する。
【0089】
この真空蒸着装置210を使用した成膜マスクのクリーニング方法を説明する。複数枚の基板の成膜に使用した使用済みの成膜マスクに符号221’を付し、当該成膜マスク221’を保持するマスク保持部に符号224’を付して説明する。
【0090】
まずマスク保持部224’に保持された成膜マスク221’に基板が固定されている場合には、マスク保持部224’に保持された成膜マスク221’から基板を分離しておく。
マスク保持部224’に保持された成膜マスク221’の裏面に、冷却プレート226を配置する。
【0091】
冷却プレート226は、ここでは熱容量が大きい板状部材であり、後にプラズマによって加熱される成膜マスク221’よりも低温(例えば室温)にされている。冷却プレート226を加熱された成膜マスク221’に密着させると、冷却プレート226は成膜マスク221’から熱を吸収して、成膜マスク221’を冷却する。
【0092】
あるいは、冷却プレート226は第一例の真空蒸着装置10の冷却プレート26と同じ構造のものを使用してもよい。冷却プレート226内部の不図示の冷却媒体流路に温度管理された冷却媒体を循環させ、冷却プレート226を冷却して、成膜マスク221’より低温にしておき、以後冷却プレート226の冷却を継続する。ただし、熱容量の大きい板状部材を用いる方が搬送し易く、好ましい。
【0093】
冷却プレート226上に磁気装置227’を配置すると、磁気装置227’からの磁力により成膜マスク221’の裏面は冷却プレート226の表面に面で密着され、冷却プレート226と成膜マスク221’とは熱的に接続される。
【0094】
マスク保持部224’に保持された成膜マスク221’の裏面に冷却プレート226を固定した状態で、成膜マスク221’の表面が各放出容器231a〜231dと対面可能な向きで、マスク保持部224’をベルトコンベア290に載せる。マスク保持部224’とベルトコンベア290とは電気的に接続される。
マスク保持部224’に保持された成膜マスク221’を符号231aの放出容器の放出孔234aと対面する位置に移動させる。
【0095】
第一の排気バルブ2131を閉じて、第二の排気バルブ2132を開き、第二の真空排気部2122によって、真空槽211内を真空排気する。第二の真空排気部2122で真空排気を継続して、真空槽211内の真空雰囲気を維持する。
真空槽211内の圧力を真空計217で計測し、計測結果から、放出容器231内に導入する反応ガスと放電補助ガスのそれぞれの流量を決定する。
【0096】
各第一の接続バルブ248a〜248dを閉じたまま、第二の接続バルブ258を開いて、ガス供給装置250から反応ガスと放電補助ガスとを接続管236aを通して符号231aの放出容器内に導入する。
【0097】
符号231aの放出容器内に導入された反応ガスと放電補助ガスは、放出面に均等に設けられた放出孔234aから、放出面の中心から外周まで均等な流量で、放電空間に放出される。
真空槽211の電位を接地電位にしておく。
【0098】
ベルトコンベア290と放出容器231aに電源装置219を電気的に接続し、電源装置219からベルトコンベア290と放出容器231aとの間に交流電圧を印加すると、マスク保持部224’に保持された成膜マスク221’と、それと対面する符号231aの放出容器の放出面との間で放電が生じる。ここでは放出孔234aから放出された放電補助ガスにより、容易に放電が発生し、かつ放電が持続する。
【0099】
放出孔234aから放出された反応ガスは放電により電離されてプラズマ化し、プラズマ中の反応ガスのイオンやラジカルは成膜マスク221’の表面に付着していた付着物と反応して反応生成物ガスを形成する。
【0100】
交流電圧のうち成膜マスク221’に負電位が印加されているときは、プラズマ中の反応ガスのイオンが成膜マスク221’に引き寄せられて衝突するので、成膜マスク221’に負電位が印加されていないときより効率的にイオンが付着物に衝突して付着物が弾き飛ばされる。
【0101】
成膜マスク221’を冷却プレート226によって冷却しているので、成膜マスク221’がプラズマにより加熱されて膨張し、成膜マスク221’の開口パターンが変形することが防止されている。
【0102】
プラズマ中のイオンやラジカルは符号231aの放出容器の熱輻射防止板233aに付着した付着物や、防着壁235のうち符号231aの放出容器を向いた表面に付着した付着物とも反応して反応生成物ガスを形成する。
【0103】
交流電圧のうち符号231aの放出容器に負電位が印加されているときは、プラズマ中の反応ガスのイオンが放出容器231aの熱輻射防止板233aに引き寄せられて衝突するので、放出容器231aに負電位が印加されていないときより効率的にイオンが付着物に衝突して付着物が弾き飛ばされる。
【0104】
成膜マスク221’や熱輻射防止板233aや防着壁235で形成された反応生成物ガスと、イオンに衝突されて弾き飛ばされた付着物は、第二の真空排気部2122によって真空槽211の外側に真空排気される。
【0105】
成膜マスク221’の進行方向に沿った長さが、符号231aの放出容器の当該進行方向に沿った長さよりも長い場合には、成膜マスク221’を放出容器231aの放出孔234aと対面する位置を通過させることで、成膜マスク221’の表面全体をプラズマに曝すことができ、成膜マスク221’の表面全体をクリーニングできる。
【0106】
さらに成膜マスク221’を放出容器231aの放出孔234aと対面する位置で進行方向に沿って往復移動させてもよい。ベルトコンベア290が一定速度でしか走行移動できない場合には、往復移動させることで成膜マスク221’がプラズマに曝される時間が長くなるので好ましい。
【0107】
電源装置219からの電圧印加を所定の時間継続して、少なくとも成膜マスク221’から付着物を除去した後、電圧印加を停止する。第二の接続バルブ258を閉じて、当該放出容器231aへの反応ガスと放電補助ガスの導入を停止する。
【0108】
マスク保持部224’をベルトコンベア290の終点に移動させ、冷却プレート226をマスク保持部224’に保持された成膜マスク221’から分離する。分離された成膜マスク221’をマスク保持部224’に保持させたまま、ベルトコンベア290の始点に戻す。
第二の排気バルブ2132を閉じて、第一の排気バルブ2131を開き、第一の真空排気部2121によって真空槽211内を真空排気したのち、上述の成膜工程を再開する。
【0109】
上述の説明では電源装置219からベルトコンベア290に電気的に接続されたマスク保持部224’と符号231aの放出容器との間に交流電圧を印加していたが、電源装置219の構成はこれに限定されない。
【0110】
少なくとも成膜マスク221’から付着物を除去したいので、電源装置219はマスク保持部224’に真空槽211に対して負の電位を周期的に印加するように構成されていればよい。プラズマ中のイオンが負電位を印加された成膜マスク221’に衝突して成膜マスク221’から効率的に付着物が除去される。
【0111】
電源装置219は、マスク保持部224’に負の電位を印加した後で、かつ次にマスク保持部224’に負の電位を印加する前に、放出容器231aに負の電位を印加するように構成されていてもよい。プラズマ中のイオンが負電位を印加された放出容器231aの熱輻射防止板233aに衝突して熱輻射防止板233aからも付着物を効率的に除去できるので望ましい。
【0112】
さらに、電源装置219は、上述の交流電圧のように、マスク保持部224’に負の電位を印加すると同時に、放出容器231aに真空槽211の電位に対して正の電位を印加し、放出容器231aに負の電位を印加すると同時に、マスク保持部224’に正の電位を印加するように構成されていてもよい。防着壁235と真空槽211は接地電位であるため、プラズマ中のイオンを放電空間に閉じ込めることができ、成膜マスク221’と熱輻射防止板233aとに効率的にイオンを衝突させることができるため望ましい。
【0113】
また、放出孔234aから放電空間に放出された反応ガスをプラズマ化せずに、成膜マスク221’の付着物と反応させて反応生成物ガスを形成させるように構成してもよい。この場合には、電源装置219を省略でき、かつマスク保持部224’や放出容器231aを真空槽211から電気的に絶縁させなくてもよいため、装置をより単純に構成することができる。
【0114】
クリーニングの際に、成膜マスク221’をクリーニングしない場合には、成膜マスク221’を成膜マスク221’と同じ形状の導電性のダミーマスクと交換した後、上述のクリーニング方法によって、防着壁235と熱輻射防止板233aとをクリーニングしてもよい。
【0115】
上述の説明では移動装置にベルトコンベア290を使用したが、マスク保持部224’を移動させながら電源装置219からマスク保持部224’に電圧を印加できるように構成されていれば本発明の移動装置はベルトコンベア式に限定されず、ローラー式など他の方式で構成してもよい。ローラー式の場合には、マスク保持部224’と接触する複数のローラーの少なくとも一つに、電源装置219から電圧を印加するように構成すればよい。
【0116】
上述の説明では複数の接続管236a〜236dのうちの一つの接続管236aにだけガス供給装置250を接続して、複数の放出容器231a〜231dのうち一つの放出容器231a内に反応ガスと放電補助ガスとを導入するように構成し、当該放出容器231aの放出面と成膜マスク221’とを対面させながら成膜マスク221’のクリーニングを行ったが、二つ以上の接続管にガス供給装置を接続して、二つ以上の放出容器に反応ガスと放電補助ガスとを導入するように構成してもよい。この場合には、複数枚の成膜マスクをそれぞれ反応ガスと放電補助ガスとを導入される複数の放出容器と同時に対面させることで、複数枚の成膜マスクを同時にクリーニングすることができ、かつ当該複数の放出容器の熱輻射防止板をクリーニングすることができるので、好ましい。
【符号の説明】
【0117】
10、210……真空蒸着装置
11、211……真空槽
121、2121……第一の真空排気部
122、2122……第二の真空排気部
21、221、221’……成膜マスク
24、224、224’……マスク保持部
26、226……冷却プレート
27、227、227’……磁気装置
31、231a〜231d……放出容器
34、234a〜234d……放出孔
35、235……防着壁
40、240a〜240d……蒸発源
50、250……ガス供給装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽に接続され、前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、
前記真空槽内に配置され、壁面に放出孔が設けられた放出容器と、
前記放出容器に接続され、前記放出容器内に薄膜材料の蒸気を導入可能に構成された蒸発源と、
前記放出容器の前記放出孔と離間して対面する位置に成膜マスクを保持するように構成されたマスク保持部と、
を有する真空蒸着装置であって、
前記放出容器に接続され、前記成膜マスクの付着物と反応して反応生成物ガスを形成する反応ガスを前記放出容器内に導入可能に構成されたガス供給装置を有する真空蒸着装置。
【請求項2】
前記マスク保持部に成膜マスクを保持させると、前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクは前記マスク保持部と電気的に接続される請求項1記載の真空蒸着装置であって、
前記放出容器と前記マスク保持部との間に電圧を印加して、前記ガス供給装置から前記放出容器内に導入され、前記放出孔から放出される前記反応ガスを、前記放出容器と前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクとの間の放電空間でプラズマ化する電源装置を有する真空蒸着装置。
【請求項3】
前記放電空間を環状に取り囲んで配置され、前記蒸気の粒子を遮蔽する防着壁を有する請求項2記載の真空蒸着装置であって、
前記防着壁は前記真空槽と同電位にされた真空蒸着装置。
【請求項4】
前記電源装置は、前記真空槽の電位に対して負の電位を、前記マスク保持部に周期的に印加するように構成された請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記電源装置は、前記マスク保持部に前記負の電位を印加した後で、かつ次に前記マスク保持部に前記負の電位を印加する前に、前記放出容器に前記負の電位を印加するように構成された請求項4記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記電源装置は、前記マスク保持部に前記負の電位を印加すると同時に、前記放出容器に前記真空槽の電位に対して正の電位を印加し、前記放出容器に前記負の電位を印加すると同時に、前記マスク保持部に前記正の電位を印加するように構成された請求項4又は請求項5のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記マスク保持部を前記放出孔と離間して対面する位置を通過するように移動させる移動装置を有する請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
前記マスク保持部に成膜マスクを保持させたときに、前記マスク保持部に保持された前記成膜マスクから見て前記放出容器とは逆側に配置され、前記成膜マスクより低温にされた冷却プレートと、
前記成膜マスクに磁力を印加して、前記成膜マスクを前記冷却プレートに密着させる磁気装置とを有する請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項9】
前記真空排気装置はそれぞれ前記真空槽内を真空排気する第一、第二の真空排気部を有し、
前記第一の真空排気部によって前記真空槽内を真空排気すると、前記真空槽内の圧力は、前記第二の真空排気部によって前記真空槽内を真空排気したときの前記真空槽内の圧力よりも低くされる請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の真空蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−231343(P2011−231343A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99609(P2010−99609)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】