説明

真空装置

【課題】 基板表面にある凹凸のために基板とロールの間に入れたガスは基板端部から漏れ出し、高い伝熱能力を得ることは困難である。
【解決手段】 真空中で長尺基板18を搬送する機構を有する真空装置であって、チャンバー1と、チャンバー1内を排気する真空ポンプ2と、チャンバー1内で長尺基板18を搬送する複数の搬送ロールと、チャンバー1内で搬送ロールの少なくとも一つが開口部に設置され開口部に配置された搬送ロール24に近接する仕切り部材28を有するケース23と、ケース23内にガスを導入するガス導入手段と、ケース23内で長尺基板18を搬送しながら、長尺基板18を冷却する冷却ロール25と、を有し、ケース23内での長尺基板搬送長に対する、長尺基板18と冷却ロール25との接触長との比が、ケース23外での長尺基板搬送長に対する、長尺基板18と搬送ロールとの接触長との比より大きいことを特徴とする構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺基板を搬送しながら処理を行う巻き取り式の真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの高性能化、小型化に薄膜技術が幅広く展開されている。また、デバイスの薄膜化はユーザーの直接メリットに留まらず、地球資源の保護、消費電力の低減といった環境側面からも重要な役割を果たしている。こうした薄膜技術の進展には、薄膜製造方法の高効率化、高生産性化、低コスト化といった産業利用面からの要請に応えることが必要不可欠であり、これに向けた努力が続けられている。
【0003】
薄膜を連続的に大量に形成する方法として、巻き取り式の薄膜製造方法が用いられる。巻き取り式の薄膜製造方法はロール状に巻かれた長尺基板を巻き出しロールから巻き出し、搬送系に沿って搬送中に、基板上に薄膜の形成をし、しかる後に巻き取りロールに巻き取る方法であり、例えば電子ビームを用いた真空蒸着源などの高堆積速度の成膜源と組み合わせることによって、薄膜を生産性よく形成することが出来る。このような連続巻き取り式の薄膜製造においては多くの場合、基板に対して熱が加えられるため基板の変質などを抑制するために基板を冷却する必要を生じる。
【0004】
特許文献1には、円筒状キャンに沿わせて薄膜形成を行い、その際に基板を冷却する装置が開示されている。特許文献1にある装置を図3に示す。円筒状キャン13(a)あるいは13(b)がガス圧の高い室とガス圧の低い室との両者にまたがるように配置され、長尺基板18はガス圧の高い室で円筒状キャン13(a)あるいは13(b)に接し、ガス圧の低い室で薄膜形成を行い、ガス圧の高い室で円筒状キャン13(a)あるいは13(b)から離れるように搬送されることにより、長尺基板18を冷却しながら薄膜形成を行う装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−89782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板表面は一般的に微視的には凹凸を有しており、中には意図して所定の表面粗さを形成しているものがある。(表面粗さはJISB0601に規定する算術表面粗さRaを用いる。)基板を搬送する際に一般的に、ロールに対して所定の張力で基板を沿わせるが、ロールと基板との間は微視的には基板表面の凹凸により点接触となり、多くの間隙が生じている。真空装置内では間隙は真空となり真空中での基板とロールとの伝熱は、1つには点接触部分での伝導伝熱、2つには基板面とロール面との輻射伝熱、でありこれらの2成分の和になる。点接触部分での伝導伝熱の大きさは、橘の式として知られる接触熱抵抗推定式の関係となるが、数100N以下での張力から得られる大きさの接触圧力の場合や、金属製基板や金属製ロールなどのように硬度が高い場合の、伝熱能力は低い。輻射伝熱はそれぞれの面温度の4乗の差に比例し、温度差がおよそ500℃以上なければ、伝熱能力は低いと言える。
【0007】
上記2つの伝熱と異なり、真空中で基板と冷却体とのギャップを例えば1mm以下と小さくし、例えば10Pa以上と高いガス圧にした条件で得られるガス伝熱があり、基板と冷却体との温度差に比例した、高い伝熱能力が確認されている。
【0008】
ガス伝熱を用いた特許文献1に示されるような場合、高い伝熱能力を得るためには基板と円筒状キャン間のガス圧を高くすることが有効であり、ガス圧の高い室で基板を円筒状キャンに接し、ガス圧の低い室で薄膜形成を行う方法が行われている。しかし、基板とロールとの間には基板表面の凹凸に起因した間隙があり、間隙は連通しているため、ガス圧の低い室に入れば基板端部からガスが漏れ出してしまう。基板の表面粗さRaが数μmオーダーの場合、ガス漏れは顕著である。また、基板幅が100mm以下など短い場合は基板端部のガス漏れが速やかに基板全域のガス圧低下につながる。ガスが漏れるために、基板とロールとの間のガス圧を充分に保持できず、高い伝熱能力を得ることができない。
【0009】
特許文献1には、基板端部からのガス漏れによるガス圧低下を補うためにロールの送り方向に連通した複数の溝を設ける装置が開示されている。溝を介してガスを導き、高いガス圧を保持することはできるが、溝部ではロールと基板とのギャップが大きくガス伝熱の伝熱能力はほとんどなくなり、溝のある部分と無い部分とを合計した伝熱能力は低下してしまう。また、基板端部からのガス漏れを抑制するためにロール表面を柔らかい部材にする装置および、基板端部とロールの接する部分にシール部材を配置した装置が開示されている。柔らかい部材およびシール部材は基板の接触圧力により変形することが必要であり、例えばゴムなどの材料である。ゴムの耐熱性は高くても150℃程度であり、基板温度がそれ以上になる場合には、材料の硬化など劣化が大きく使用できない。
【0010】
また、特許文献1は円筒状キャンに沿わせた状態で薄膜を形成する際の冷却に特化した装置であるが、真空装置においては円筒状キャンに沿わせない状態での薄膜形成の場合があり、また、色々な場所で冷却を必要とする場合があり、特に複数の工程を一つのチャンバー内に配置する場合には工程の直前や直後に冷却ユニットがあることが求められている。冷却ユニットとしては、小型で、設置場所を選ばず、少ないガス量で高い冷却能力を得ることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、真空中で長尺基板を搬送する機構を有する真空装置であって、チャンバーと、チャンバー内を排気する真空ポンプと、チャンバー内で長尺基板を搬送する複数の搬送ロールと、チャンバー内で搬送ロールの少なくとも一つが開口部に設置され開口部に配置された搬送ロールに近接する仕切り部材を有するケースと、ケース内にガスを導入するガス導入手段と、ケース内で長尺基板を搬送しながら、長尺基板を冷却する冷却ロールと、を有し、ケース内での長尺基板搬送長に対する、長尺基板と冷却ロールとの接触長との比が、ケース外での長尺基板搬送長に対する、長尺基板と搬送ロールとの接触長との比より大きいことを特徴とする構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の真空装置によれば、冷却ユニットは小型で設置場所を選ばずガス量が少なくて済むというメリットを有する。また、冷却ロールは全体がガス圧の高い室にあるので基板端部も同様に高いガス圧であり、ガス漏れを抑制し、高い伝熱能力を得ることができる。特に、基板の表面粗さRaが数μmオーダーであっても高い伝熱能力を得ることができる。
【0013】
その結果、基板温度の冷却が容易となり、スループットを上げるなどの手段で生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における真空成膜装置の概略構造図
【図2】本発明の実施の形態1における冷却ユニット11および冷却ユニット15の概略構造図
【図3】従来の真空成膜装置の概略構造図
【図4】本発明の実施の形態1における冷却ユニット11および真空成膜装置200の熱伝達係数とHeガス圧力との関係図
【図5】本発明の実施の形態1における真空成膜装置の熱伝達係数と酸素ガス圧力との関係図
【図6】本発明の実施例における真空実験装置の概略構造図
【図7】本発明の実施例における基板と冷却ロールとの温度差と、基板/冷却ロール接触長の関係図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に用いた真空成膜装置100の概略構造図である。真空成膜装置100は、チャンバー1と、真空ポンプ2と、成膜源3と、巻き出しロール4と、搬送ロール5、搬送ロール6および搬送ロール7と、基板処理ユニット8と、搬送ロール9および搬送ロール10と、冷却ユニット11と、搬送ロール12と、成膜ロール13(a)および成膜ロール13(b)と、搬送ロール14と、冷却ユニット15と、搬送ロール16と、巻き取りロール17と、長尺基板18と、マスク19aおよびマスク19bと、ガス配管20と、マスフローコントローラ21aおよびマスフローコントローラ21bと、ガスボンベ22とで構成される。
【0016】
この時、長尺基板18は巻き出しロール4から巻き出され、搬送ロール5、搬送ロール6、搬送ロール7、基板処理ユニット8、搬送ロール9、搬送ロール10、冷却ユニット11、搬送ロール12の順に沿って移動し成膜ロール13(a)および成膜ロール13(b)に沿って移動し、搬送ロール14、冷却ユニット15、搬送ロール16から巻き取りロール17に巻き取られる。
【0017】
巻き出しロール4から巻き出された基板18は基板処理ユニット8内を通過することで基板処理される。次に基板18は冷却ユニット11を通過することで冷却される。次いで基板18は成膜ロール13(a)および成膜ロール13(b)に沿って移動しながらマスク19aおよびマスク19bで規制されていない領域において、成膜源3から飛来した粒子が付着することで成膜が行われる。そして、基板18は冷却ユニット15を通過することで冷却された上、巻き取りロール17に巻き取られるものである。
【0018】
基板処理には加熱、イオンビーム照射、電子ビーム照射、イオンボンバードなどの処理が挙げられる。いずれの処理も基板温度が上昇する。
【0019】
冷却ユニット11および冷却ユニット15には、ガスボンベ22から供給されるガスをマスフローコントローラ21aおよびマスフローコントローラ21bで流量制御しガス配管20を介して導入する。
【0020】
真空ポンプ2はチャンバー1内を所定の真空度に保持するよう、真空排気を行う。
【0021】
成膜源3は、鉛直方向上部が開口している容器状部材と、その内部に載置された成膜材料とを含む。成膜材料としてはシリコンを用いた。成膜源3の近傍には、電子銃等の加熱手段(図示せず)が配置され、成膜源内の成膜材料を加熱して蒸発させる。本実施の形態では、容器状部材として蒸発用坩堝を用いた。
【0022】
なお、成膜源3は、上記に限定されることはなく、各種成膜源を用いることができる。
例えば、抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム加熱等による蒸発源や、イオンプレーティング源、スパッタ源、CVD源等を用いることができる。また、成膜源として、イオン源やプラズマ源を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
図2は冷却ユニット11および冷却ユニット15の概略構造図である。冷却ユニット11および冷却ユニット15は、ケース23と、搬送ロール24と、冷却ロール25および冷却ロール26と、搬送ロール27と、仕切り部材28、仕切り部材29、仕切り部材30および仕切り部材31と、ガス配管20と、長尺基板18とで構成される。仕切り部材28および仕切り部材29は搬送ロール24に近接して配置され、仕切り部材30および仕切り部材31は搬送ロール27に近接して配置される。
【0024】
長尺基板18は搬送ロール14に沿ってケース23内に入り、冷却ロール25および冷却ロール26に沿って移動し、搬送ロール27に沿ってケース23外に出る。ケース23内にはガス配管20からガスを所定量供給する。冷却ロール25および冷却ロール26は内部に冷媒を流し20℃以下あるいは0℃以下の低温に制御される。
【0025】
基板搬送長に対するロールとの接触長さの比を接触割合と定義する。装置100において、基板18が巻き出しロール4から巻き出され巻き取りロール17へ巻き取られるまでの範囲において、冷却ユニットを通過する範囲を除いた残りの接触割合は約0.13である。一方、冷却ユニットにおいて、搬送ロール24に接し、搬送ロール27から離れるまでの長さを搬送長とした時の、冷却ロール25および冷却ロール26に接する接触割合は約0.40である。したがって、高真空内で基板を搬送する目的のユニットに比べて、冷却ユニット内では冷却ロールに接する割合が3倍以上高い。冷却に寄与する冷却ロールとの接触長の割合を多く確保することで、コンパクトで効率的な冷却を行うことが可能である。
【0026】
冷却ユニット内のガス圧はコンダクタンスと導入ガス量で決まる。導入したガスは冷却ユニット隙間から漏れ出し、真空ポンプにより排気される。したがって、導入ガス量が多ければ、真空ポンプにより排気しなければならないガス量が増大し、排気速度の大きな真空ポンプが必要となる。排気速度の大きな真空ポンプは高価であり、設備投資が増大するというデメリットを有する。冷却ユニットのコンダクタンスを小さくすることで、冷却ユニットからのガス漏れ量を少なくし真空ポンプへの負担を軽減できる。
【0027】
長尺基板18がケース23内に入る際に擦らずに安定して走行できるように、仕切り部材28と搬送ロール24とのギャップ、および仕切り部材31と搬送ロール27とのギャップは1mm程度が好ましい。
【0028】
具体的には、仕切り部材29とロール24が接触しないように配置可能な機械的精度の出せる範囲であればよく、0.1mm〜0.5mm程度が好ましい。仕切り部材と搬送ロールとのギャップを小さくすることでコンダクタンス(ガスの流れ易さ)を小さくすることができる。
【0029】
なお、出口側の仕切り部材30、31と搬送ロール27間も同様に長尺基板が存在しない方のギャップが、長尺基盤が存在する方のギャップよりも小さいことが好ましい。
【0030】
表1に基板18が冷却ユニット15を通過する際の入口温度、および出口温度の基板送り速度との関係を示す。冷却ユニット15内はガス圧100Pa、ガス種ヘリウムであり、基板18には表面粗さRaが2μmである幅85mmの35μm厚粗化銅箔(密度8.92g/cm^3、比熱380J/kg/K、熱容量0.01186J/cm^2/K)にシリコンを厚み1μm成膜したものを用い、冷却ロール温度は0℃、接触ロール長20
0mmで測定を行った。冷却ユニットに入る直前の温度を250℃一定として比較した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分かるように、基板18の送り速度が1m/minの時は、冷却ロールと同じ温度まで温度低下し、送り速度が5m/minの時でも、200℃近く基板温度が低下した。
【0033】
低圧力下での伝熱能力を示す値として熱伝達係数(単位:W/cm^2/K)があり、定常状態における単位面積あたりの二平面間の伝熱量を温度差で割ることで、熱伝達係数を求めることができる。
【0034】
表1の結果および冷却ユニット11内のヘリウムガス圧を変えて温度測定を行うことにより、ガス圧と熱伝達係数の関係を求めた。また、比較のために図3に示す真空成膜装置200とほぼ同様の構造でガス圧と熱伝達係数の関係を求めた。真空装置200の場合はガス圧の高い室のガス圧を横軸にして、熱伝達係数の関係を求めた。これらの結果を合わせて図4に示す。図4から分かるように真空成膜装置200とほぼ同様の構造は、ガス圧の増大により熱伝達係数は増大する。しかし、冷却ユニット11の方が高い熱伝達係数を得られることが分かり、この差は基板端部からのガス漏れの有無による違いであると考えられる。図4より、ガス圧が40Paであれば熱伝達係数は0.005W/cm^2/Kであり、100Paであれば熱伝達係数は0.008W/cm^2/Kであり高い伝熱能力であると言える。図4の結果はガスがヘリウムの場合であるが、酸素に変えて同様の測定を行った結果、図5に示すようにほぼ同様の熱伝達係数が得られることが分かった。
【0035】
この結果は表面粗さRaが2μmでの結果であるが、表面粗さがこれより大きい場合にはさらにガス漏れが大きいため、本発明を適用することがより好ましいのは明らかである。
【0036】
さらに冷却ガスとしては、成膜材料と反応するガスを含むことが好ましい。
【0037】
冷却用ガスとして成膜材料と反応するガスを導入するので、冷却用ガスが冷却体と基板との間から漏れ出しても、漏れ出した冷却用ガスの全部又は一部が、真空槽内の成膜材料の蒸気等と反応することになる。
【0038】
これにより冷却用ガスが消費され雰囲気中から除去されるので、冷却用ガス導入による真空度の悪化を低減することができる。
【0039】
これにより高成膜レートでの成膜に必要なガス冷却を、十分な冷却能を確保しながらも真空度の悪化、及びそれに起因する薄膜品質の低下を抑えることが出来る。
【0040】
本実施の形態では、成膜材料と反応するガスとして、例えば酸素を用いることが好ましい。
(実施例)
図6は本発明の実施例に用いた真空実験装置300の概略構造図である。真空実験装置300はチャンバー1と、真空ポンプ2と、巻き出しロール4と、巻き取りロール17と、基板18と、ガス配管20と、マスフローコントローラ21と、ガスボンベ22と、ケース33と、搬送ロール34と、冷却ロール35と、仕切り部材36と、仕切り部材37と、真空計38と、ヒータ39と、ヒータカバー40と、温度センサ(図示せず)と、複数の搬送ロールとで構成される。
【0041】
冷却ロール35には水冷配管(図示せず)が通り、冷却ロール35の温度は20℃一定に保った。冷却ロール35は主な材質がアルミニウム製で表面は硬質クロメート処理を施した。
【0042】
仕切り部材36および仕切り部材37はアルミニウム製であり、搬送ロール34のR形状に削ることで作製した。搬送ロール34と仕切り部材36および37とのギャップは1mmになるように構成した。
【0043】
ヒータ39には岩崎電気製のハロゲンランプヒータ(定格電圧100V、ランプ電力1000W)を用いた。ヒータ光は周囲に漏れないようにヒータカバー40によって遮蔽した。
【0044】
真空計38にはアルバック製のデジタルピラニ真空計を用い、メーカーのデータを用いてガス種による補正を行った。真空計38はケース33内部のガス圧を測るように取り付けた。
【0045】
温度センサ(図示せず)にはシース外径φ0.5mmのKタイプ熱電対を用い、基板18に対しシース先端を押し付けることで温度測定を行った。基板18と冷却ロール35の接し始める位置から数点について温度測定を行った。
【0046】
導入ガスは、ガスボンベ22から供給し、マスフローコントローラ21で流量を制御し、ガス配管20を介して、ケース33内に導入した。ガスはヘリウムを用いた。
【0047】
基板18には古河サーキットフォイル製の厚み35μm、幅85mmの粗面化銅箔の両面にシリコンを5μm厚で成膜したものを用いた。
【0048】
基板18は巻き出しロール4から巻き出し、搬送ロールに沿って移動し、ヒータ39により加熱され、搬送ロール34に沿ってケース33に入り、冷却ロール35に沿って移動しながら冷却され、搬送ロール34に沿ってケース33から出る。さらに搬送ロールに沿って移動し、巻き取りロール17に巻き取った。基板18には60Nの張力をかけながら搬送させた。
【0049】
チャンバー1の内部は真空ポンプ2により真空排気し、チャンバー1内のケース33外の真空度は5×10^−2Pa以下を維持した。
【0050】
基板18を走行しながら、ヒータ39にAC100Vの電圧を印加して基板18を加熱した。基板18の送り速度を3m/minとし、ケース内のヘリウムガス圧を50Paおよび100Paとした時の温度測定結果を図7に示す。縦軸に基板18と冷却ロール35との温度差をとり、横軸に基板18と冷却ロール35とが接し始めた点からの接触長をとった。図7より、冷却ロール35に接することで基板18の温度は徐々に低下し、冷却されることが分かった。測定した温度を最小二乗法により指数関数近似した時の指数の値は、基板18の送り速度と熱伝達係数から決まる値である。
【0051】
ケース33内へ導入したヘリウムガス量はガス圧が50Paおよび100Paの時にそれぞれ、324sccmおよび676sccmであり、コンダクタンスは0.011m^3/secであった。このコンダクタンス値は、搬送ロール34、仕切り部材36および仕切り部材37の配置などを含む設計値から計算で求めた値とほぼ一致した。
【0052】
冷却ユニットに導入するガスはヘリウムおよび酸素が適していた。アルゴンなど他のガスでも伝熱はするが、同じガス圧で伝熱能力の高いガスが適している。ガス圧100Pa雰囲気下(ピラニ真空計で測定)で、接触しない二平面間でのガス伝熱を評価するために、10cm角の平坦な銅版を使用して、二平面間のギャップを0.1mmとした時の熱伝達係数を求める測定をヘリウム、酸素およびアルゴンで行い表2に示す値が得られた。その結果、高い伝熱能力を有するガスはヘリウムおよび酸素であった。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の真空装置は、薄膜形成および基板処理など基板温度の上昇を伴う工程を有するプロセスにおいて基板冷却を容易に行うことができる。これによって、スループットを向上する、あるいは装置の設計自由度を増すなど生産性を高めることができるようになる。
【符号の説明】
【0055】
1 チャンバー
2 真空ポンプ
3 成膜源
4 巻き出しロール
5、6、7、9、10、12、14、16 搬送ロール
8 処理ユニット
11、15 冷却ユニット
13(a)、13(b) 成膜ロール
17 巻き取りロール
18 基板
19(a)、19(b) マスク
20 ガス配管
21、21(a)、21(b) マスフローコントローラ
22 ガスボンベ
23、33 ケース
24、27、34 搬送ロール
25、26、35 冷却ロール
28、29、30、31、36、37 仕切り部材
32(a)、32(b)、32(c) 圧力分離壁
38 真空計
39 ヒータ
40 ヒータカバー
100、200 真空成膜装置
300 真空実験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で長尺基板を搬送する機構を有する真空装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内を排気する真空ポンプと
前記チャンバー内で前記長尺基板を搬送する複数の搬送ロールと、
前記チャンバー内で前記搬送ロールの少なくとも一つが開口部に設置され前記開口部に配置された搬送ロールに近接する仕切り部材を有するケースと、
前記ケース内にガスを導入するガス導入手段と、
前記ケース内で前記長尺基板を搬送しながら、前記長尺基板を冷却する冷却ロールと、を有し、
前記ケース内での前記長尺基板搬送長に対する、前記長尺基板と前記冷却ロールとの接触長との比が、前記ケース外での前記長尺基板搬送長に対する、前記長尺基板と前記搬送ロールとの接触長との比より大きいことを特徴とする真空装置。
【請求項2】
前記長尺基板が表面に凹凸を有する請求項1に記載の真空装置。
【請求項3】
前記凹凸は表面粗さRaが2.0μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空装置。
【請求項4】
前記開口部に配置されたロールは前記長尺基板との接触する面と接触しない面とを有し、前記接触する面における近接する仕切り部材とロールとのギャップよりも前記接触しない面における近接する部材とロールとのギャップが小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空装置。
【請求項5】
前記ケース内に導入するガスが、ヘリウム、水素、酸素のいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項6】
前記ケース内に導入するガス量は、前記ケース内圧力が40Pa以上、望ましくは100Pa以上になる流量であることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項7】
前記冷却ロールは内部に冷媒を流すことで20℃以下、望ましくは0℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項8】
さらに薄膜成膜機構を有することを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項9】
前記冷却ガスが、前記薄膜製膜機構の成膜材料と反応するガスを含む特徴とする請求項8に記載の真空装置。
【請求項10】
前記薄膜製膜機構の成膜材料がシリコンを含み、前記冷却ガスが酸素を含む請求項9に記載の真空装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−179065(P2011−179065A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43908(P2010−43908)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】