説明

着色プラスチック物品及びその製造方法

【課題】プラスチック基材に安定した濃度で着色するとともに、着色の媒体としての被膜を確実に水洗除去できる着色プラスチック製品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】プラスチックレンズ上にアニオン系界面活性剤を主成分とする被膜を形成させ、インクジェット方式で被膜表面にインクを供給する。次いでレンズを加熱して同着色剤をレンズ側に転移させ、その後被膜を水洗除去して得るようにする。これによりプラスチックレンズを安定した濃度で着色させることが可能となるとともに、被膜を確実に水洗除去することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は着色されたプラスチック物品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック物品としてのプラスチックレンズは成形が容易で軽く割れにくいことから近年ガラスレンズに代わって多用され始めている。また、レンズは医療上、美容上の観点から着色されたいわゆる着色レンズの需要が多くなってきているがプラスチックレンズがガラスレンズと比較して優れている理由として更にプラスチックの方が着色しやすいことが挙げられる。
レンズの着色方法には1)染料液中にレンズを直接浸漬させる方法、2)染料をプラスチック基材に予め混ぜておく方法、3)レンズ表面に着色したフィルムを貼着しフィルムから染料をレンズに転写する方法、4)気相中で染料を加熱して昇華させてレンズに蒸着させる方法等があるが、いずれもムラのない安定した発色や所定の濃度での着色という点で不十分であった。
そのため技術文献1に開示されるような染色方法が開発されている。技術文献1ではプラスチックレンズ表面に水溶性ポリマーをコーティングし被膜を形成させ、この状態のレンズを染料に浸漬したりインクジェット方式等の手段で被膜表面に染料を塗布し、次いでこれを加熱することで染料をプラスチックレンズ内部に拡散させ、その後被膜を水洗してレンズ表面から除去するというものである。
【特許文献1】特許第3075403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
技術文献1の方法で使用される水溶性ポリマーは水溶性の官能基、例えば水酸基やアミノ基を有している。その結果として水溶性を発現することになっている。しかし、その一方でこれら官能基は一般的に接着性に寄与する基でもあるため、上記技術文献1における水溶性ポリマーの水洗工程で水溶性ポリマーがレンズ表面に強固に接着され必ずしもきれいに剥がれ落ちないことがあった。また、水溶性ポリマーは高分子重縮合体であり、なおかつ必ずしも分子量が一定ではない。そのため、水溶性ポリマーからなる上記被膜の膜質は一定となりにくく、これが原因となって染めムラが生じることがあった。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、プラスチック基材に安定した濃度で着色するとともに、着色の媒体としての被膜を確実に水洗除去できる着色プラスチック物品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、プラスチック基材上に界面活性剤を主成分とする被膜を形成させ、着色剤を成分として含む着色溶液を同被膜表面に供給した後に加熱して同着色剤を同被膜を介して同プラスチック基材に転移させ、その後同被膜を水洗除去して得るようにしたことをその要旨とする。
また、請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、プラスチック基材上に形成される被膜成分とされる界面活性剤としてアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種以上としたことをその要旨とする。
請求項3に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明において、プラスチック基材上に形成される被膜成分とされる界面活性剤としてアニオン系界面活性剤を主成分としたことをその要旨とする。
請求項4に記載の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記皮膜における界面活性剤の配合割合は50重量%以上としたことをその要旨とする。
請求項5に記載の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記界面活性剤と併用する皮膜成分としてコロイド粒子を添加するようにしたことをその要旨とする。
請求項6に記載の発明では請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記界面活性剤と併用する皮膜成分として水溶性ポリマーを添加するようにしたことをその要旨とする。
請求項7に記載の発明では請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記界面活性剤と併用する皮膜成分としてアクリル系エマルジョンを添加するようにしたことをその要旨とする。
請求項8に記載の発明では、プラスチック基材上に界面活性剤を主成分とする被膜を形成させる被膜形成工程と、同被膜形成工程において形成された同被膜表面に着色剤を成分として含む着色溶液を供給する着色溶液供給工程と、同着色溶液供給工程において同被膜内に浸透された同着色剤を同プラスチック基材を加熱することで同被膜を介してプラスチック基材に転移させて着色する着色工程と、同着色工程において同プラスチック基材が着色された後にレンズ表面の同被膜を水洗除去する水洗除去工程とを有するようにしたことをその要旨とする。
【0005】
本発明に使用されるプラスチック基材としては例えばポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂等が一例として挙げられる。これらは着色性と用途に応じた物理的性質(軽量性、耐衝撃性、耐擦過性等)によって選択されうる。プラスチック基材の用途例としては代表的には着色プラスチックレンズが挙げられる。着色プラスチックレンズとしては例えば眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、望遠鏡用レンズ、拡大鏡用レンズ等が挙げられる。
界面活性剤は水系媒体に対して溶解性を備え着色剤と反応しない、あるいは反応しにくい性質を備えるものであれば特に制限はされない。特にアニオン系、ノニオン系及びカチオン系の界面活性剤が好適であり、最も好適であるのはアニオン系界面活性剤である。そのため界面活性剤としてはアニオン系界面活性剤を主体とすることが最も好適である。
このようなアニオン系界面活性剤として、例えばアルキルベンゼンのスルホン酸塩(後述するペレックスSSL)、アルキル硫酸エステル塩(後述するエマール2F−30)ポリオキシエチル化高級アルコールの硫酸エステル塩(後述するサンデットEND)、高級アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、脂肪酸石鹸等のアニオン系界面活性剤等が挙げられる。
また、ノニオン系界面活性剤として、例えばポリオキシエチレンアルキルおよびアルキルアリールエーテル型ノニオン系界面活性剤、エーテルエステル型ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
また、カチオン系界面活性剤として、例えばアルキルアミン塩、四級アンモニウム塩、アルキル四級アンモニウム塩等が挙げられる。
界面活性剤は単体で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の被膜成分中における配合割合は他の添加成分を考慮しても50重量%以上であることが好ましい。
被膜成分には界面活性剤の他にコロイド粒子を添加することが好ましい。コロイド粒子とはコロイド特性を発現する所定粒径の粒子であって、例えばコロイダルシリカが挙げられる。コロイド粒子は被膜内において着色剤の通過を阻害する障害物となり着色剤の拡散に寄与すると考えられる。
更に被膜成分には水溶性ポリマーを添加することが好ましい。水溶性ポリマーの例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。水溶性ポリマーは単体で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
更に被膜成分にはアクリル系エマルジョンを添加してもよい。アクリル系エマルジョンが被膜成分に加わることで被膜形成能が向上し、着色溶液を被膜表面に供給する際に被膜が溶けにくくなると考えられる。アクリル系エマルジョンとしてはガラス転移温度(Tg)が−20〜10度C程度であることが更に好適である。
【0006】
着色プラスチックの製造においては、まず、着色対象としてのプラスチック基材の表面に、界面活性剤を主成分とする被膜を形成させる。被膜を形成させる方法としては、特に制限はないが、一般的に界面活性剤等の被膜成分を水系媒体に溶解させて調整した被膜用溶液をできる限り均一にプラスチック基材にコーティングし被膜の乾燥を促すのが有利である。水系媒体としては、主成分として水が用いられるが、本発明の目的が損なわれない範囲で水に対して混和性を有する有機溶剤を適宜添加して用いることも可能である。コーティング手段としてはできる限り均一なコートが可能であれば従来からの公知手段はいずれも使用可能である。例えば刷毛塗り、スピンコート法、浸漬法、スプレー法等を用いることができる。特に均一性の点でスピンコーターのような被膜形成装置を使用することが好適である。形成した被膜は速やかに溶媒を気化させる必要、すなわち乾燥させる必要がある。乾燥は自然乾燥でも強制乾燥でも構わない。
乾燥した被膜表面に着色剤を成分として含む着色溶液を供給する。これによって着色溶液が被膜に浸透される。つまり直接プラスチック基材に着色溶液を供給する場合に比べて溶液がはじかれたり、基材表面の一部にだけ停留したりすることがなく、着色剤は着色溶液の一部として被膜全域に均等に供給されることとなる。本発明では界面活性剤を主成分とする被膜であるため水溶性ポリマーを主体とした被膜に比べ着色溶液は極めて均質にムラなく浸透していく。この際、上記のようにコロイド粒子が存在することで着色溶液は被膜内でより均一に拡散することが可能となる。本発明で使用される着色剤は一般に水に難溶性の染料であって水に分散した懸濁液として使用される昇華性のあるものである。
【0007】
着色溶液を被膜表面に供給する方法としては、着色剤を均一にムラなく被膜表面に供給できる方法であればよく特に制限はない。従来からの公知方法、例えば刷毛塗り、スピンコート法、浸漬法、スプレー法、インクジェット方式を用いることができる。特に、インクジェット方式による塗布方法が着色料(インク)の効率的な使用の観点やコンピューターを使用した所望の色調と濃度でインクを供給することができること等から好ましい。
このようにして、被膜に着色剤が浸透されたプラスチック基材を加熱処理して、該染色液中の着色剤を昇華させプラスチック基材側に転移させる。一般に加熱温度が高く加熱時間が長くなると、着色濃度が高くなったりプラスチック基材の変形の原因となるため加熱温度および加熱時間の最適値を選定することが望ましい。加熱に際して減圧することも可能である。減圧することで供給された着色剤をより細かく拡散させることが可能となると考えられる。加熱手段としては、プラスチック基材を均一に加熱できる機器であればよく、特に制限されず、例えば電気オーブン、赤外線オーブン、熱風循環オーブン等を用いることができる。これらオーブンと減圧手段を兼ねた真空オーブンを使用することも可能である。
加熱終了後にはプラスチック基材表面に残存した被膜を除去するために、洗浄処理を行う。本発明では被膜の主成分である界面活性剤は比較的低分子量で水に溶けやすく、特に疎水基は接着に関与しないため、除去されやすいと考えられる。洗浄においては超音波洗浄機を使用することも可能である。
【発明の効果】
【0008】
上記各請求項に記載の発明によれば、界面活性剤を主成分とした被膜を媒体として着色することによってプラスチック基材を安定した濃度で着色させることが可能となるとともに、被膜を確実に水洗除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例1
(1)界面活性剤のレンズへの塗布
スピンコーター(ミカサ株式会社製)の運転プログラムをStep1:SLOPE3sec、Step2:1400rpm×15sec、Step3:SLOPE5secとし、屈折率1.6、アッベ数42のウレタン系レンズ(度数−2.00D、厚さ1.2mm、外径75mm)を該コーターにセットする。アニオン系界面活性剤であるエマール2F−30(花王株式会社製、主成分:ラウリル硫酸ナトリウム塩 30重量%)2.5mlをレンズ上に滴下し、スピンコーターをプログラム運転させる。このレンズを85度Cで定値運転させたクリーンオーブン(エスペック株式会社製)にて乾燥させ被膜をレンズ上に形成する。
(2)着色剤の塗布
(1)で得られた被膜付きレンズの膜がついた面に、分散染料(着色剤)をインクとするフラットタイプのプリンター(株式会社Mimaki製)で全体に均一に印刷する。その後、レンズ周辺を保持できるアルミ製ドーナツ型のホルダーに、印刷面を下に向けてセットする。
(3)光学用プラスチックレンズへの着色
真空オーブン(エスペック株式会社製)の運転プログラムをStep1:165度C,300mmHg,3min保持、Step2:165度C,60mmHg,15min保持、Step3:大気圧へ復帰と設定する。(2)のレンズをホルダーごとの真空オーブンにセットし減圧下で加熱処理を行う。プログラム運転後にレンズを取り出し、冷却後に界面活性剤と残留した染料を水洗除去した。また、高温での加熱処理を行ったが、変質も無く水洗により界面活性剤は容易に除去された。得られたレンズは均一に着色されていた。その視感度透過率は50%であり、特に濃く染まっていた。その結果を表1に示す。表1の各項目及び評価の定義は次の通りである。以下の各実施例及び比較例も同様とする。
【0010】
a)各項目について
コート :スピンコート後の成膜具合。一様なもの程評価がよい
印刷 :インクを被膜に印刷した際に、溶けたりはじいたりしなければ評価が良い
濃淡 :濃いほど評価が良い
斑 :レンズに浸透されたインクに斑が認められなければ評価が良い
膜収縮 :加熱時に被膜に収縮が起こらなければ評価が良い
ザラツキ:レンズに浸透されたインクが十分拡散しない場合のレンズ表面のテクスチャーである細かくざらついた感じがする。ないほうが評価が良い
b)評価について
S・・・非常に良い
A・・・良好
B・・・可
C・・・可、不可の境目くらい
D・・・実用不可能
−・・・評価不可
【0011】
実施例2
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する界面活性剤をアニオン系界面活性剤である、ペレックスSSL(花王株式会社製、主成分:アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は65%で、均一に着色されていた。その結果を表1に示す。
実施例3
アニオン系界面活性剤であるエマール2F−30の21.3重量部に、同じくアニオン系界面活性剤のアスコルビン酸ナトリウム(フタバ産業株式会社製)の3%水溶液を78.7重量部(固形分中の26.9%相当)加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。このようにして得られた着色レンズについて視感度透過率を測定すると60%で、均一に着色されていた。その結果を表1に示す。
実施例4
アニオン系界面活性剤であるエマール2F−30の90重量部に、ノニオン系界面活性剤のエマルゲン1150S−70(花王株式会社製、主成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を10重量部(固形分中の27.0%相当)加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は65%だった。その結果を表1に示す。また、実施例4のレンズは、仕上がり時の外観が特に優れていた。
【0012】
実施例5
アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の44.4重量部に、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスC(日産化学工業株式会社製、SiO2含有量20〜21重量%、pH8.5〜9.0、粒子径10〜20nm)を55.6重量部加え、混合液を作製する。
その際、ゲル化に十分注意する必要がある。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とコロイダルシリカ(スノーテックスC由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ54.5重量%、45.5重量%相当とされる。
このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は50%だった。その結果を表1に示す。また、実施例5のレンズは、濃さだけでなく仕上がり時の外観が特に優れていた。
実施例6
アニオン系界面活性剤のサンデットEND(三洋化成工業株式会社製、主成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩)の47重量部に、ポリビニルアルコールのB−05(電気化学工業株式会社製、分子量約500、加水分解度約88)水溶液を53重量部加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(サンデットEND由来)とポリビニルアルコール(B−05由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ69.9重量%、30.1重量%とされる。
このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は55%で、均一に着色されていた。その結果を表1に示す。
【0013】
実施例7
アニオン系界面活性剤のサンデットENDの28.6重量部に、ポリビニルアルコールのB−05水溶液を71.4重量部加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(サンデットEND由来)とポリビニルアルコール(B−05由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ50.0重量%、50.0重量%とされる。
このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は55%で、均一に着色されていた。その結果を表1に示す。但し、実施例7では被膜の除去がしづらく、界面活性剤の添加量としては50.0重量%付近が下限と考えられる。
実施例8
アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の35.2重量部に、ポリアクリルアミドであるポリストロン619(荒川化学工業株式会社製、カチオン性アクリル系樹脂)水溶液を64.8重量部加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とポリアクリルアミド(ポリストロン619由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ70.0重量%、30.0重量%相当とされる。
このようにして得られた着色レンズの視感度透過率は55%で、均一に着色されていた。その結果を表1に示す。
実施例9
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する液体を次で作製する混合液に変更した。アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の78.9重量部に、アクリル系エマルジョンの一種であるジョンクリル7100(ジョンソンポリマー株式会社製、Tg=10度C)を21.1重量部加え、混合液を作製する。このコート液の変更以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とアクリル系エマルジョン(ジョンクリル7100由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ70.0重量%、30.0重量%相当とされる。
このようにして得られた着色レンズについて視感度透過率を測定すると55%で、比較的濃く、また均一に着色されていた。その結果を表1に示す。
実施例10
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する液体を次で作製する混合液に変更した。アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の58.3重量部に、アクリル系エマルジョンの一種であるジョンクリル7100を41.7重量部加え、混合液を作製する。このコート液の変更以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とアクリル系エマルジョン(ジョンクリル7100由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ50.0重量%、50.0重量%相当とされる。
このようにして得られた着色レンズについて視感度透過率を測定すると55%だった。その結果を表1に示す。実施例10では比較的濃く着色していたが、僅かに斑が出始めていた。界面活性剤の添加量としては50.0重量%付近が下限と考えられる。
【0014】
【表1】

【0015】
比較例1
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する界面活性剤を両性界面活性剤である、アンヒトール20N(花王株式会社製、主成分:ラウリルジメチルアミンオキサイド)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果を表2に示す。比較例1では、加工の際のコートが一様とは言えない上、加熱時に変質しプラスチックレンズに焼きついて除去できない箇所もあった。
比較例2
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布でコーティング剤として使用する界面活性剤の代わりに、次の溶液を使用する。アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の31.8重量部に、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスCを68.2重量部加え、混合液を作製する。その際、ゲル化に十分注意する必要がある。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とコロイダルシリカ(スノーテックスC由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ41.2重量%、58.8重量%相当とされる。
その結果を表2に示す。比較例2では、まず被膜の形成が困難である上、加工後の被膜は完全に除去し切れなかった。
比較例3
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する界面活性剤の代わりに、次の溶液を使用する。蒸留水90重量部に対し、B−05(電気化学工業株式会社製、分子量500、加水分解度約88)を10重量部加え加熱攪拌し水溶液とする。この変更以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果を表2に示す。比較例3では、加工の際のコートが一様とは言えない上、除去時にプラスチックレンズに焼きついており除去できない箇所もあった。
比較例4
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する界面活性剤の代わりに、ポリストロン617を原液で使用した以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果を表2に示す。比較例4では、殆ど着色していない上、除去時にプラスチックレンズに焼きついており除去できない箇所もあった。
比較例5
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布、でコーティング剤として使用する界面活性剤の代わりに、ジョンクリル7100を原液で使用した以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果を表2に示す。比較例5では、殆ど着色していない上、除去時にプラスチックレンズに焼きついており除去できない箇所もあった。
比較例6
実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布でコーティング剤として使用する界面活性剤の代わりに、次の溶液を使用する。アニオン系界面活性剤のエマール2F−30の59.3重量部に、ウレタン系エマルジョンの一種であるハイドランHW−930(大日本インキ株式会社製、Tg=20度C)を40.7重量部加え、混合液を作製する。この手順で作製したものを実施例1における、(1)界面活性剤のレンズへの塗布でコーティング剤として使用する以外は、実施例1と同様な操作を行った。界面活性剤(エマール2F−30由来)とウレタン系エマルジョン(ハイドランHW−930由来)のクリーンオーブンでの乾燥後の固形分としてはそれぞれ70.0重量%、30.0重量%相当とされる。
その結果を表2に示す。比較例6では、まず被膜の形成が困難である上、着色は殆ど見られなかった。ウレタン系エマルジョンではアクリル系エマルジョンのような作用は得られないと考えられる。
【0016】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材上に界面活性剤を主成分とする被膜を形成させ、着色剤を成分として含む着色溶液を同被膜表面に供給した後に加熱して同着色剤を同被膜を介して同プラスチック基材に転移させ、その後同被膜を水洗除去して得ることを特徴とする着色プラスチック物品。
【請求項2】
プラスチック基材上に形成される被膜成分とされる界面活性剤はアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の着色プラスチック物品。
【請求項3】
プラスチック基材上に形成される被膜成分とされる界面活性剤はアニオン系界面活性剤を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の着色プラスチック物品。
【請求項4】
前記皮膜における界面活性剤の配合割合は50重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の着色プラスチック物品。
【請求項5】
前記界面活性剤と併用する皮膜成分としてコロイド粒子を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の着色プラスチック物品。
【請求項6】
前記界面活性剤と併用する皮膜成分として水溶性ポリマーを添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の着色プラスチック物品。
【請求項7】
前記界面活性剤と併用する皮膜成分としてアクリル系エマルジョンを添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の着色プラスチック物品。
【請求項8】
プラスチック基材上に界面活性剤を主成分とする被膜を形成させる被膜形成工程と、同被膜形成工程において形成された同被膜表面に着色剤を成分として含む着色溶液を供給する着色溶液供給工程と、同着色溶液供給工程において同被膜に浸透された同着色剤を同プラスチック基材を加熱することで同被膜を介してプラスチック基材に転移させて着色する着色工程と、同着色工程において同プラスチック基材が着色された後にレンズ表面の同被膜を水洗除去する水洗除去工程からなる着色プラスチック物品の製造方法。

【公開番号】特開2006−56955(P2006−56955A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238991(P2004−238991)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】