説明

硬化性フルオロエラストマー組成物

本発明は、a)ニトリルキュアサイト、アルキンキュアサイトまたはアジドキュアサイトのいずれかを有するフルオロエラストマーと、b)フルオロエラストマー上でキュアサイトと反応させるためのジアジド基、ジニトリル基またはジアルキン基を含むフッ素化硬化剤とを含む硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。アジドキュアサイトを有するフルオロエラストマーは、ジニトリル基またはジアルキン基を有する硬化剤により架橋を形成する。ニトリルキュアサイトまたはアルキンキュアサイトを有するフルオロエラストマーは、ジアジド基を有する硬化剤により架橋を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルキュアサイト、アルキンキュアサイトまたはアジドキュアサイトのいずれかを有するフルオロエラストマーと、フルオロエラストマー上でキュアサイトと反応させるためのジアジド基、ジニトリル基またはジアルキン基を含むフッ素化硬化剤とを含む硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム弾性フルオロポリマー(すなわち、フルオロエラストマー)は、熱、外気、油、溶媒および化学薬品の作用に対する優れた抵抗性を示す。こうした材料は市販されており、最も一般的には、フッ化ビニリデン(VF2)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーまたはVF2、HFPおよびテトラフルオロエチレン(TFE)のコポリマーのいずれかである。
【0003】
他の一般的なフルオロエラストマーには、TFEと、エチレン(E)またはプロピレン(P)などの1種以上の炭化水素オレフィンのコポリマーおよび、さらにTFEと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)などのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーが含まれる。
【0004】
多くのフルオロエラストマーは、効率的に架橋するためにポリマー鎖にキュアサイトモノマーを導入することを必要とする(Logothetis,A.L.,Prog.Polym.Sci.,Vol.14,pp251−296)(1989)、A.Taguet et al,Advances in Polymer Science,Vol.184,pp127−211(2005))。こうしたキュアサイトモノマーなしでは、フルオロエラストマーは、硬化剤と全く反応しない場合があり、フルオロエラストマーは部分的にのみ反応する場合があり、または商業規模で用いるには反応が遅すぎる場合がある。不十分に架橋したエラストマーから作られたシールは、そうでない場合に予期され得るより速やかに機能しなくなることが多い。残念なことには、現在用いられているキュアサイトモノマーおよび硬化剤の多くには欠点が付随している。例えば、幾つかの硬化剤は毒性である。反応性の臭素原子またはヨウ素原子を含有するキュアサイトモノマーは、環境に有害である副生物を硬化反応中に放出し得る。他のキュアサイトモノマー(例えば、分子の両端で二重結合を含むキュアサイトモノマー)は非常に反応性である場合があるので、こうしたキュアサイトモノマーは、重合速度を変えるか、重合を停止させるか、または望ましくない鎖分枝を引き起こすか、またはその上ゲル化を起こさせることによりフルオロエラストマーの重合を乱すことがある。最後に、フルオロエラストマーポリマー鎖にキュアサイトモノマーを導入すると、フルオロエラストマーの特性(物理的特性と耐薬品性の両方)に悪い影響を及ぼす場合がある。
【0005】
新規フルオロエラストマー硬化系、すなわち、環境に優しく、重合を乱さず、フルオロエラストマーの特性を損なわない新規キュアサイトモノマーと、キュアサイトモノマーにより架橋を形成するための新規硬化剤との両方が当該技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、
A)i)フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンからなる群から選択された第1のモノマーおよびii)アジド基、スルホニルアジド基およびカルボニルアジド基からなる群から選択されたキュアサイトを有するキュアサイトモノマーの共重合単位を含むフルオロエラストマーと、
B)式X−(CH2n−R−(CH2m−X(式中、Xはアルキン基またはニトリル基であり、n、mは独立して1〜4であり、Rは、i)C3〜C10フルオロアルキレン基、ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン基、iii)置換アリーレン基、iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマーおよびvii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)を有する硬化剤と、
を含む硬化性組成物である。
【0007】
本発明の別の態様は、
A)i)フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンからなる群から選択された第1のモノマーおよびii)ニトリル基およびアルキン基からなる群から選択されたキュアサイトを有するキュアサイトモノマーの共重合単位を含むフルオロエラストマーと、
B)式N3(Y)p−(CH2n−R−(CH2m−(Y)p3(式中、YはSO、SO2、C64またはCOであり、pは0または1であり、n、mは独立して1〜4であり、Rは、i)C3〜C10フルオロアルキレン基、ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン基、iii)置換アリーレン基、iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、およびvii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)を有する硬化剤と、
を含む硬化性組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、共重合されたキュアサイトモノマーと硬化剤の新規組合せに基づく硬化性フルオロエラストマー組成物に傾注している。
【0009】
本発明の硬化性組成物中で用いられるフルオロエラストマーは、典型的には、フルオロエラストマーの全重量を基準にして25〜70重量%の間の、フッ化ビニリデン(VF2)またはテトラフルオロエチレン(TFE)であってもよい第1のモノマーの共重合単位を含有する。フルオロエラストマーは、フルオロエラストマーの全組成物を基準にして0.2〜10(好ましくは0.1〜5)重量%の、キュアサイトモノマー(以後に定義される)の共重合単位を更に含む。フルオロエラストマー中の残りの単位は、前記第1のモノマーおよび前記キュアサイトモノマーの両方とは異なる、フルオロモノマー、炭化水素オレフィンおよびそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種の追加の共重合されたモノマーよりなる。フルオロモノマーは、フッ素含有オレフィン(フルオロオレフィン)とフッ素含有ビニルエーテル(フルオロビニルエーテル)の両方を含む。
【0010】
フルオロエラストマー中で用いてもよいフッ素含有オレフィンには、フッ化ビニリデン(VF2)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(1−HPFP)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(2−HPFP)、3,3,3−トリフルオロプロペン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびフッ化ビニルが含まれるが、それらに限定されない。
【0011】
フルオロエラストマー中で用いてもよいフッ素含有ビニルエーテルには、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルおよび部分フッ素化ビニルエーテルが含まれるが、それらに限定されない。モノマーとして用いるのに適するパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)は、式(I)のものを含む。
CF2=CFO(Rf'O)n(Rf"O)mf (I)
(式中、Rf'およびRf"は、炭素原子数2〜6の異なる直鎖または分枝のパーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは、独立して0〜10であり、Rf'は炭素原子数1〜6のパーフルオロアルキル基である。)
【0012】
パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルの好ましい類には、式(II)の組成物が含まれる。
CF2=CFO(CF2CFXO)nf (II)
(式中、XはFまたはCF3であり、nは0〜5であり、Rfは炭素原子数1〜6のパーフルオロアルキル基である。)
【0013】
パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルの最も好ましい類には、エーテル(式中、nは0または1であり、Rfは1〜3個の炭素原子を含む)が含まれる。こうした過フッ化エーテルの例には、パーフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が含まれる。他の有用なモノマーには、式(III)の化合物が含まれる。
CF2=CFO[(CF2mCF2CFZO]nf(III)
(式中、Rfは炭素原子数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、m=0または1、n=0〜5およびZ=FまたはCF3)。この類の好ましいメンバーは、RfがC37であり、m=0およびn=1である類である。
【0014】
追加のパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルモノマーには、式(IV)の化合物が含まれる。
CF2=CFO[(CF2CF{CF3}O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2p]Cx2x+1 (IV)
(式中、独立してmおよびn=0〜10、p=0〜3およびx=1〜5。)この類の好ましいメンバーには、化合物(n=0〜1、m=0〜1およびx=1)が含まれる。
【0015】
有用なパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルの他の例には、式(V)
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1 (V)
(式中、n=1〜5、m=1〜3、および好ましくはn=1)が含まれる。
【0016】
PAVEの共重合単位が本発明において用いられるフルオロエラストマー中に存在する場合、PAVE含有率は、一般に、フルオロエラストマーの全重量を基準にして25〜65重量%の範囲である。パーフルオロ(メチルビニル)エーテルが用いられる場合、フルオロエラストマーは、好ましくは、30〜65重量%の共重合されたPMVE単位を含む。
【0017】
本発明において用いられるフルオロエラストマー中で有用な炭化水素オレフィンには、エチレン(E)およびプロピレン(P)が含まれるが、それらに限定されない。炭化水素オレフィンの共重合単位がフルオロエラストマー中に存在する場合、炭化水素オレフィン含有率は、一般に4〜30重量%である。
【0018】
本発明において用いてもよいフルオロエラストマーの特定の例(明確にするためにキュアサイトモノマーを省く)には、TFE/PMVE、VF2/PMVE、VF2/TFE/PMVE、TFE/PMVE/E、TFE/PおよびTFE/P/VF2の共重合単位が含まれるが、それらに限定されない。
【0019】
フルオロエラストマー中で用いてもよいキュアサイトモノマーは、硬化剤により架橋を形成するための反応サイトとして機能するニトリル基、アルキン基またはアジド基を有するキュアサイトモノマーである。
【0020】
有用なニトリル含有キュアサイトモノマーには、以下で示された式のニトリル含有キュアサイトモノマーが含まれる。
CF2=CF−O(CF2n−CN (VI)
(式中、n=2〜12、好ましくは2〜6)、
CF2=CF−O[CF2−CF(CF3)−O]n−CF2−CF(CF3)−CN (VII)
(式中、n=0〜4、好ましくは0〜2)、
CF2=CF−[OCF2CF(CF3)]x−O−(CF2nCN (VIII)
(式中、x=1〜2およびn=1〜4)、および
CF2=CF−O−(CF2n−O−CF(CF3)CN (IX)
(式中、n=2〜4)。式(VIII)のニトリル含有キュアサイトモノマーが好ましい。特に好ましいキュアサイトモノマーは、ニトリル基およびトリフルオロビニルエーテル基を有する過フッ化ポリエーテルである。最も好ましいキュアサイトモノマーは、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN (X)
である。
【0021】
アジド基を含むキュアサイトモノマーには、スルホニルアジド基またはカルボニルアジド基を含むキュアサイトモノマーが含まれる。スルホニルアジドキュアサイトモノマーの例には、米国特許第6,365,693B1号明細書において開示されたCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−SO23、CF2=CFOCF2CF2−SO23、CF2=CFOCF2CF2CF2−SO23、およびCF2=CFOCF2CF2CF2CF2−SO23が含まれるが、それらに限定されない。カルボニルアジドキュアサイトモノマーの例は、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−CON3(以後EVE−CON3)である。後者は、ClCF2−CFCl−O−CF2CF(CF3)−OCF2CF2−COOH(以後Cl2−EVE−COOH)から出発する以下の反応によって合成してもよい。
Cl2−EVE−COOH + PCl5 −−−→ Cl2−EVE−COCl
Cl2−EVE−COCl + HN3/ピリジン (またはNaN3) −−−→ Cl2−EVE−CON3
Cl2−EVE−CON3 + Zn −−−→ EVE−CON3 + ZnCl2
【0022】
アルキン基を含むキュアサイトモノマーの例には、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−C≡CH、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−COOCH2C≡CH、およびCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−CH2CH2−O−CH2C≡CHが含まれるが、それらに限定されない。Cl2−EVE−COOHからのCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−C≡CH(以後EVE−C≡CH)のための合成は以下の通りである。
Cl2−EVE−COOH + PCl5 −−−→ Cl2−EVE−COCl
Cl2−EVE−COCl + KI/熱 −−−→ Cl2−EVE−I
Cl2−EVE−I + CH2=CH2 −−−→ Cl2−EVE−CH2CH2−I
Cl2−EVE−CH2CH2−I + KOH −−−→ Cl2−EVE−CH=CH2
Cl2−EVE−CH=CH2+ Br2 −−−→ Cl2−EVE−CHBr−CH2Br
Cl2−EVE−CHBr−CH2Br + KOH −−−→ Cl2−EVE−C≡CH
Cl2−EVE−C≡CH + Zn −−−→ EVE−C≡CH + ZnCl2
【0023】
同様に、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−COOCH2C≡CH(以後EVE−COOCH2C≡CH)は、以下を介して合成してもよい。
Cl2−EVE−COCl + HOCH2C≡CH → Cl2−EVE− COOCH2C≡CH + Zn → EVE−COOCH2C≡CH
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−CH2CH2−O−CH2C≡CH(以後EVE−CH2CH2−O−CH2C≡CH)は、以下を介して合成してもよい。
Cl2−EVE−CH2CH2−I + HOCH2C≡CH + 塩基→ Cl2−EVE−CH2CH2−O−CH2C≡CH + Zn → EVE−CH2CH2−O−CH2C≡CH
【0024】
本発明において用いられるフルオロエラストマーは、溶液重合法、懸濁重合法または乳化重合法によって製造してもよい。こうした方法は当該技術分野で公知である。好ましくは、無機過酸化物(例えば、過硫酸ナトリウムまたは過硫酸アンモニウム)が開始剤である乳化法が用いられる。乳化液の安定性を改善するために、場合により界面活性剤、特にフルオロ界面活性剤を含めてもよい。
【0025】
フルオロエラストマーがアジド基を有するキュアサイトモノマーを含有する時、本発明の組成物中で用いてもよい硬化剤は、式X−(CH2n−R−(CH2m−X(式中、Xはアルキン基またはニトリル基であり、nおよびmは独立して1〜4であり、Rは、i)C3〜C10フルオロアルキレン基、ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン基、iii)置換アリーレン基、iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、およびvii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)の硬化剤である。用いてもよい炭化水素オレフィンには、エチレンおよびプロピレンが含まれる。これらのオリゴマー(すなわち、低分子量コポリマー)は、米国特許出願公開第20090105435A1号明細書において開示された方法に従い製造してもよい。こうしたオリゴマーは、好ましくは、10〜50モル%のパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を含む。オリゴマーは、1000〜25,000、好ましくは1200〜12,000、最も好ましくは1500〜5000の数平均分子量を有する。
【0026】
こうした硬化剤の特定の例には、NC−(CF2n−CN(n=2〜20)(米国特許第2,515,246号明細書およびJounal of Industrial and Engineering Chemistry(Washington,D.C.)(1947),39,415−17を参照すること)、およびHC≡C−(CF2n−C≡CH(n=2〜20)(K.Baum,et al.,J.Org.Chem.,47,2251(1982)を参照すること)が含まれるが、それらに限定されない。
【0027】
フルオロエラストマーがニトリル基またはアルキン基を有するキュアサイトモノマーを含有する時、本発明の組成物中で用いてよい硬化剤は、式N3(Y)p−(CH2n−R−(CH2m−(Y)p3(式中、YはSO、SO2、C64またはCOであり、pは0または1であり、nおよびmは独立して1〜4であり、Rは、i)C3〜C10フルオロアルキレン基、ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン基、iii)置換アリーレン基、iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、およびvii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)の硬化剤である。
【0028】
こうした硬化剤の特定の例には、N3CH2CH2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH23、N3−CH2CH2−(CF24−CH2CH23(米国特許第4,020,176号明細書)、N3−CO−CH2−(CF24−CH2−CO−N3(特開昭第57108055A号公報)およびN324−ポリ(VF2−co−PMVE)−C243を含むが、それらに限定されない。後者は、アジ化ナトリウムと、米国特許出願公開第20090105435A1号明細書の方法に従い製造されたI−CH2CH2−(VF2−co−PMVE)−CH2CH2−Iとの反応により製造してもよい。
【0029】
本発明の硬化性組成物は、硬化促進剤、酸受容体、充填剤、着色剤、加工助剤などに限定されないが、それらを含むエラストマー工業において典型的に用いられる添加剤も場合により含有してもよい。
【実施例】
【0030】
試験方法
核磁気共鳴分光分析法
組成および構造を19F NMR分光分析法および1H NMR分光分析法によって決定した。NMRスペクトルは、溶媒として重水素化アセトンおよび1H(または19F)核のための基準としてテトラメチルシラン(TMS)またはCFCl3を用いて、BRUKER(登録商標)AC250または400(250および400MHz)計器上に記録した。結合定数および化学シフトをそれぞれHzおよびppmで与える。1H(または19F)NMRスペクトルのための実験条件は次の通りであった。フリップ角90°(または30°)、捕捉時間4.5秒(または0.7秒)、パルス遅延2秒(または5秒)、スキャン数128(512)および19F NMRための5μsのパルス幅。
【0031】
クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析は、Polymer Laboratories製の2つのPLgel5μm Mixed−Cカラムを備えたSpectra−Physics装置およびSpectra Physics SP8430RI検出器により行った。テトラヒドロフラン(THF)は溶離剤であり、温度は30℃であり、流速は0.8mL/分-1であった。分子量の比較値を与えるために、ポリ(スチレン)標準またはポリ(メチルメタクリレート)標準(Polymer Laboratories)を用いた。注入の前に200ミクロンPTFEクロマフィルメンブレンを通して既知濃度(約2重量%)のサンプルを濾過した。
【0032】
熱特性
ガラス転移温度(Tg)は、インジウムおよびn−デカンで較正されたPerkin Elmer Pyris1装置を用いる示差走査熱分析(DSC)によって決定した。サンプル(約10mg)を10分にわたり−105℃に初期に冷却し、その後、20℃/分の加熱速度で−100℃から50℃に加熱した(第2の再冷却を−105℃まで行い、同じサイクルを3回繰り返した)。本明細書において報告されたTgの値は、微分熱流量の変曲点に対応する。
【0033】
TGA分析は、室温(約20℃)から550℃まで20℃/分の加熱速度で空気下でTexas Instrument ATG51−133装置を用いて行った。
【0034】
実施例1
この実施例において、a)フッ化ビニリデン(VF2)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)およびCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN(8−CNVE)のフルオロエラストマーターポリマーとb)ジアジド硬化剤とを含む本発明の硬化性組成物を製造する。その後、得られた組成物を硬化させる。
【0035】
(A)フルオロエラストマーの合成
入口弁と出口弁、マノメータおよび破裂板を備えた300mLハステロイ製オートクレーブを脱気し、漏れを検査するために30バールの窒素で加圧した。その後、0.5mmHgの真空を5分にわたり作用させ、その後、Ar媒体ガスを加えた。このオートクレーブ脱気手順を5回繰り返した。90mlの水に溶解させた8.1g(17.8ミリモル)の1,4−ジヨードパーフルオロブタン、0.3g(1.26ミリモル)のNa228、5mlの1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンに溶解させた7.8g(20ミリモル)の8−CNVEおよび1.35gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム(3.13ミリモル)をオートクレーブに真空下で移送した。その後、二重はかり法により、16g(0.25モル)のVF2および24g(0.145モル)のPMVEをオートクレーブに導入した。その後、オートクレーブを徐々に80℃に加熱した。反応中、圧力は24時間で22バールから14バールに低下した。反応後、オートクレーブを約60分にわたり氷浴に入れ、25gの未反応のPMVEおよびVF2をゆっくり放出した。ガスの転化率は38%であった。オートクレーブを開けた後、150mlのブタノンを添加し、有機層を分液漏斗で分離し、MgSO4上で乾燥させ、焼結ガラス(G4)を通して濾過した。有機溶媒を(40℃/20mmHg)で回転真空蒸発器によって除去した。得られた黄色粘性液体を40℃および真空0.01ミリバールで一定重量まで乾燥させた。生成物(収率56%)を1H NMR分光分析法および19F NMR分光分析法によって分析した。
【0036】
(B)ジアジド硬化剤の合成
エチレン上へのα,ω−ジヨードパーフルオロヘキサンのバッチ式ビスモノ添加は、マノメータ、破裂板、入口弁と出口弁およびメカニカルアンカーを備えた160mLHastelloy製オートクレーブParr System内で行った。電子機器は、オートクレーブの攪拌と加熱の両方を調整し制御した。オートクレーブを20分にわたり閉じたままにし、一切の漏れを防ぐために30バールの窒素圧でパージし、後で脱気した。その後、2mmHgの真空を15分にわたり作用させた。乾燥t−ブタノール(40mL)中の開始剤ジ−4−t−ブチルシクロヘキシルペルオキシジカーボネート(4.22g、10ミリモル)および30.13g(54.2ミリモル)のI−C612−Iを、導入弁にしっかり接続された漏斗を介して導入した。次に、エチレン(4.0g、0.14モル)を二重はかり法により導入した。その後、オートクレーブを7時間にわたり50℃まで加熱した。反応後、オートクレーブを室温に冷却し、その後、氷浴に入れた。未反応モノマーを脱気した後、オートクレーブを開けた。t−ブタノールを蒸発させ、モノマーをTHFに可溶化させ、冷ペンタンから沈殿させた。フッ素化ジヨード生成物を濾過し、洗浄し、24時間にわたり20mmHg真空下で室温で乾燥させた。収率は80%であった。FT−IR:1138cm-1(VC-F)。
【0037】
【化1】

【0038】
1H−NMR(δCDCl3)α:3.2ppm(t、3HH=7.01Hz、4H);β:2.6ppm(m,4H);19F−NMR(δDCl3)g:−115.2ppm(m、4F);h:−121.8ppm(m、4F);i:−123.8ppm(m、4F)
【0039】
DMSO(25mL)および水(1mL)に溶解させた7.80g(12.8ミリモル)の、上で製造された1,10−ジヨード−1H、1H、2H、2H、9H、9H、10H、10H−パーフルオロデカンおよび2.21g(30.8ミリモル)のアジ化ナトリウムからなる混合物を48時間にわたり50℃で攪拌した。その後、反応混合物を水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。この手順を2回繰り返した。有機層を水で2回洗浄し、その後、10%亜硫酸ナトリウム溶液で2回、再び水(3回)、その後、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過した。溶媒を減圧下で蒸発させて薄緑の油5.0gを得た。フッ化ジアジドの収率は94%であった。
FT IR:2100cm-1(VN3);1138cm-1(VC-F
【0040】
【化2】

【0041】
1H NMR(δCDCl3)α:3.55ppm(t、3HH=7.07Hz、4H)、β:2.30ppm(m、4H) 19F NMR(δCDCl3)g:−114.2ppm(m、4F);h:−121.8ppm(m、4F);i:−123.8ppm(m、4F)
【0042】
FC−75溶媒(3Mから入手できる)に5gの上で製造されたVF2/PMVE/8−CNVEフルオロエラストマーを溶解させることにより本発明の硬化性組成物を製造し、その後、上で製造された0.4gの両端二官能性1,10−ジアジド−1H、1H、2H、2H、9H、9H、10H、10H−パーフルオロデカン硬化剤と混合した。澄んだ透明の均一な溶液を得るまで、この硬化性組成物を混合する。その後、硬化性組成物を型にキャストし、フィルムを得る。フィルムを14〜20時間にわたり150℃で硬化させる。
【0043】
実施例2
FC−75溶媒(3Mから入手できる)に5gのTFE/PMVE/8−CNVEフルオロエラストマー(実質的に米国特許第5,789,489号明細書において開示された通り製造され、約64〜67モル%のTFE、32〜34モル%のPMVEおよび0.7〜1.2モル%の8−CNVEを含有する)を溶解させることにより本発明の硬化性組成物を製造し、その後、上で製造された0.4gの両端二官能性1,10−ジアジド−1H、1H、2H、2H、9H、9H、10H、10H−パーフルオロデカン硬化剤および0.5gの塩化亜鉛と混合した。澄んだ透明の均一な溶液を得るまで、この硬化性組成物を混合した。その後、硬化性組成物を型にキャストし、フィルムを得た。フィルムを14〜20時間にわたり150℃で硬化させた。得られた架橋フルオロエラストマー組成物がFC−75に不溶性であったのに対して、未硬化組成物はFC−75に可溶性であった。TGAは、T10%が442℃であった一方で、T10%が未硬化フルオロエラストマーに関して424℃であったことを示した。
【0044】
硬化剤上のアジド基がフルオロエラストマー上のニトリル側基と反応して、テトラゾール環を通して架橋を形成する架橋メカニズムが以下で示されている。
【0045】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性組成物であって、
A)i)フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンからなる群から選択される第1のモノマーおよび、
ii)アジド基、スルホニルアジド基およびカルボニルアジド基からなる群から選択されるキュアサイト(cure site)を有するキュアサイトモノマーの共重合単位を含むフルオロエラストマー(fluoroelastomer)と、
B)式X−(CH2n−R−(CH2m−X(式中、Xはアルキン基またはニトリル基であり、n、mは独立して1〜4であり、Rは、
i)C3〜C10フルオロアルキレン(fluoroalkylene)基、
ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン(fluoroalkoxylene)基、
iii)置換アリーレン基、
iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、
v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、および、
vii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)を有する硬化剤とを含む硬化性組成物。
【請求項2】
前記キュアサイトモノマーが、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−SO23
CF2=CFOCF2CF2−SO23
CF2=CFOCF2CF2CF2−SO23、および
CF2=CFOCF2CF2CF2CF2−SO23からなる群から選択されるスルホニルアジドである請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記キュアサイトモノマーがCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−CON3である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記フルオロエラストマーが、前記第1のモノマーとは異なる、フッ素含有オレフィン、フッ素含有ビニルエーテルおよび炭化水素オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーと前記キュアサイトモノマーの共重合単位を更に含む請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記追加のモノマーが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(pentafluoropropene)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(pentafluoropropene)、3,3,3−トリフルオロプロペン(trifluoropropene)、塩化三フッ化エチレン(chlorotrifluoroethylene)およびフッ化ビニルからなる群から選択されるフルオロオレフィンである請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記追加のモノマーがパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記硬化剤が、NC−(CF2n−CN、および
HC≡C−(CF2n−C≡CH(式中、nは2〜20の整数である)からなる群から選択される請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
硬化性組成物であって、
A)i)フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンからなる群から選択される第1のモノマー、および
ii)ニトリル基およびアルキン基からなる群から選択されるキュアサイトを有するキュアサイトモノマーの共重合単位を含むフルオロエラストマーと、
B)式N3(Y)p−(CH2n−R−(CH2m−(Y)p3(式中、YはSO、SO2、C64、またはCOであり、pは0または1であり、n、mは独立して1〜4であり、Rは、i)C3〜C10フルオロアルキレン基、
ii)C3〜C10フルオロアルコキシレン基、
iii)置換アリーレン基、
iv)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、
v)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、vi)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、および
vii)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される)を有する硬化剤とを含む硬化性組成物。
【請求項9】
前記キュアサイトモノマーが少なくとも1個のニトリル基を含む請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
少なくとも1個のニトリル基を含む前記キュアサイトモノマーが、
CF2=CF−O(CF2n−CN(式中、n=2〜12)、
CF2=CF−O[CF2−CF(CF3)−O]n−CF2−CF(CF3)−CN(式中、n=0〜4)、
CF2=CF−[OCF2CF(CF3)]x−O−(CF2n−CN(式中、x=1〜2およびn=1〜4)、
CF2=CF−O−(CF2n−O−CF(CF3)CN(式中、n=2〜4)、および
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN
からなる群から選択される請求項9に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
前記キュアサイトモノマーが少なくとも1個のアルキン基を含む請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
少なくとも1個のアルキン基を含む前記キュアサイトモノマーが、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−C≡CH、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−COOCH2C≡CHおよび
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2−CH2CH2−O−CH2C≡CH
からなる群から選択される請求項11に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
前記フルオロエラストマーが、前記第1のモノマーとは異なる、フッ素含有オレフィン、フッ素含有ビニルエーテルおよび炭化水素オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーおよび前記キュアサイトモノマーの共重合単位を更に含む請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
前記追加のモノマーが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(pentafluoropropene)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(pentafluoropropene)、3,3,3−トリフルオロプロペン(trifluoropropene)、塩化三フッ化エチレン(chlorotrifluoroethylene)、およびフッ化ビニルからなる群から選択されるフルオロオレフィン(fluoroolefin)である請求項13に記載の硬化性組成物。
【請求項15】
前記追加のモノマーがパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である請求項13に記載の硬化性組成物。
【請求項16】
前記硬化剤が、N3CH2CH2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH23、N3−CH2CH2−(CF24−CH2CH23
3−CO−CH2−(CF24−CH2−CO−N3、および
324−ポリ(VF2−co−PMVE)−C243からなる群から選択される請求項8に記載の硬化性組成物。

【公表番号】特表2012−530800(P2012−530800A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516082(P2012−516082)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/030677
【国際公開番号】WO2010/147697
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(511304822)ル ソントル ナショナル ドゥ ラ リシェルシュ シアンティフィーク (5)
【Fターム(参考)】