説明

硬化性樹脂組成物およびこれを用いた半導体装置

【課題】半導体封止材等に用いられうる硬化性樹脂組成物において、十分な耐熱性を確保しつつ、硬化後においてもリードフレームや配線等を構成する貴金属(特に、銅またはその合金)などとの接着強度の低下を最小限に抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物に、(A)複数の反応性官能基を有し、複数の環窒素原子を有する含窒素環状化合物、並びに、(B)平均組成式:XSiO(式中、Xは、それぞれ独立して、イミド結合を含む有機骨格を有する基を表し、Yは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子およびOR基(ここで、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアシル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルケニル基、および置換または非置換のアルケニル基からなる群から選択される)からなる群から選択され、Zは、それぞれ独立して、イミド結合を含まない有機基を表し、a、b、cおよびdは、それぞれ、0<a≦3、0≦b<3、0≦c<3、0<d<2、かつ、a+b+c+2d=4を満足する)で表され、有機基Xの少なくとも1つがシロキサン結合を形成するケイ素原子に結合してなる構成単位を含むシラン化合物、をさらに含ませることで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物およびこれを用いた半導体装置に関する。本発明により提供される硬化性樹脂組成物は、例えば、半導体装置において半導体素子を封止するための半導体封止材等の用途に好適に用いられうる。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、超大規模集積回路(VLSI)などの電子部品や半導体装置は、高密度化・高集積化の傾向が強まっている。かような流れを受けて、これらの実装方式は、挿入実装から表面実装へと移行しつつある。また、半導体装置の小型化、軽量化、リードフレーム多ピン化という要求から、表面実装型QFP(Quad Flat Package)などに代表される半導体装置が実用化されている。これらの半導体装置は、生産性、コスト、信頼性などのバランスに優れるという観点から、硬化性樹脂組成物の1種であるエポキシ樹脂組成物からなる半導体封止材によって封止されるのが主流となっている。かような半導体封止材に求められる性能は非常に多岐にわたっている。このため、硬化性樹脂組成物を用いた半導体封止材に関する研究は依然として盛んであり、数多くの技術が提案されている。
【0003】
特に、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料等の各種材料においては、製品の高性能化に加えて、過酷な条件下での使用に耐える材料が求められている。例えば、新しい半導体材料としてシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等のワイドギャップ半導体が挙げられる。これらの半導体材料は従来技術のシリコン(Si)系半導体デバイスと比較して、高い動作上限温度、高耐圧性、機械的・化学的安定性、高い熱伝導率等を有していながら、不純物の添加(ドーピング)が容易であり、かつSi半導体デバイスの製造プロセスに類似した点が多いため、デバイス製品化への製造技術的ハードルは低いといわれている。したがって、これらの材料をパワー半導体デバイスの基板として用いることにより、高耐圧、低電力損失、そして高温動作が実現され、半導体デバイスによる電力損失を半減できる。このため、整流素子、家電・PC用スイッチング電源IC、電気自動車のモータードライブIC、インバータICとしての適用が進んでいる。
【0004】
特に近年、電気自動車・ハイブリッドカーの台頭でカーエレクトロニクス化の動きが激しいが、室内空間を広く取り、車内レイアウトに自由度を持たせるために各種電子制御ユニットやアクチュエーター、センサ、通信用ICを一体化してエンジンやトランスミッション等の高温環境下に近接することが求められている。さらに自動車用途では乗客の安全性の観点から誤作動の発生抑制が従来の家電用途より厳しい。このため、機械部品、電気・電子部品、自動車部品用プラスチック材料として従来よりも高い温度領域での各種物性低下の小さいプラスチック材料が切望されている。
【0005】
このような分野でも、従来、封止材としてはエポキシ樹脂組成物が一般的に用いられているが、例えば200℃以上の高温下で長時間放置すると、重量低下が著しくかつ機械的強度の低下も認められるなど、耐熱性の向上が求められていた。
【0006】
かような従来の技術の現状に鑑み、特許文献1では、シロキサン結合を形成するケイ素原子にイミド結合を含む有機骨格を有する基が結合してなる構成単位を含むシラン化合物を提案している。具体的には、所定のシラン化合物をエポキシ樹脂等の硬化性樹脂に配合して樹脂組成物とすることで、実装用途等に好適に使用可能な、耐熱性、耐圧性、耐水性、低吸湿性、低誘電性、機械的・化学的安定性、熱伝導率性に優れ、高温高圧、多湿等の過酷な環境下においても各種物性の低下が低い硬化物を形成できる樹脂組成物が提供されうるとしている。
【0007】
ところで、半導体装置を封止するのに用いられる半導体封止用樹脂組成物の技術分野において、含窒素環状化合物の利用に関する技術が従来提案されている(例えば、特許文献2〜6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010−518182号公報
【特許文献2】特開平11−92740号公報
【特許文献3】特開2005−132888号公報
【特許文献4】特開2005−154485号公報
【特許文献5】特開2006−80324号公報
【特許文献6】特開2010−65160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上述した特許文献1の実施例の記載によれば、上記所定のシラン化合物の配合によって、エポキシ樹脂組成物からなるフィルムの高温条件(220℃)下における重量減少率が有意に低減されることが示されており、当該シラン化合物を配合しない場合と比べて耐熱性が向上しうることが立証されている。
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上述した特許文献1に記載の技術を用いた場合であっても、耐熱性に関して別の意味での問題が生じうることが判明した。すなわち、特許文献1に記載の所定のシラン化合物が配合された硬化性樹脂組成物を用いて半導体装置の封止を行った場合には、特にリードフレームや配線等を構成する貴金属(特に、銅またはその合金)などと封止材との接着強度が十分に確保されないことが判明したのである。この問題は、半導体装置を長期間にわたって、または、繰り返し高温条件下に曝した場合に、上述した半導体装置の構成部材から封止材が剥離してしまうという現象として顕在化する。
【0011】
なお、上述した特許文献2〜6に記載の技術はいずれも、本発明者らが見出した上記の課題の解決を直接的に指向するものではない。
【0012】
そこで本発明は、半導体封止材等に用いられうる硬化性樹脂組成物において、十分な耐熱性を確保しつつ、硬化後においてもリードフレームや配線等を構成する貴金属(特に、銅またはその合金)などとの接着強度の低下を最小限に抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行なった。その過程で、特許文献1において提案されているシロキサン結合を形成するケイ素原子にイミド結合を含む有機骨格を有する基が結合してなる構成単位を含むシラン化合物に加えて、複数の反応性官能基を有し、3つ以上の環窒素原子を有する含窒素環状化合物を硬化性樹脂組成物に配合することを試みた。そして、予期していなかったことに、これら2種の添加剤のいずれか一方のみを単独で配合するのみでは上記の課題の解決には不十分であること、および、これら2種の添加剤を併用することで上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一形態によれば、
(A)複数の反応性官能基を有し、3つ以上の環窒素原子を有する含窒素環状化合物、
(B)下記平均組成式(B):
【0015】
【化1】

【0016】
式中、
Xは、それぞれ独立して、イミド結合を含む有機骨格を有する基を表し、
Yは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子およびOR基(ここで、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアシル基、置換または非置換のアリール基および置換または非置換の不飽和脂肪族残基からなる群から選択される)からなる群から選択され、
Zは、それぞれ独立して、イミド結合を含まない有機基を表し、
a、b、cおよびdは、それぞれ、0<a≦3、0≦b<3、0≦c<3、0<d<2、かつ、a+b+c+2d=4を満足する、
で表され、前記有機基Xの少なくとも1つが、シロキサン結合を形成するケイ素原子に結合してなる構成単位を含む、シラン化合物、並びに、
(C)硬化性樹脂
を含む、硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により提供される硬化性樹脂組成物は、十分な耐熱性を備えている。そのうえ、当該硬化性樹脂組成物は、硬化後においてもリードフレームや配線等を構成する貴金属(特に、銅またはその合金)などとの接着強度の低下が最小限に抑制されている。このように、本発明によれば、半導体封止材等に用いられた場合に、真の意味で優れた耐熱性を発揮することが可能な硬化性樹脂組成物が提供されうるのである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な形態によって制限を受けることはない。
【0019】
[硬化性樹脂組成物]
本発明の一形態に係る硬化性樹脂組成物は、(A)所定の含窒素環状化合物、(B)所定のシラン化合物、および、(C)硬化性樹脂を含む。以下、本形態の組成物に含まれる各成分について、詳細に説明する。
【0020】
≪成分(A):含窒素環状化合物≫
成分(A)は、複数の反応性官能基を有し、複数の環窒素原子を有する含窒素環状化合物である。
【0021】
含窒素環状化合物は、複数の反応性官能基を有する。ここで、「反応性官能基」とは、リードフレームや配線等を構成する貴金属またはそのイオンとの反応により錯形成しうるか、またはイオン結合を形成しうる官能基を意味し、その他の具体的な形態について特に制限はない。また、含窒素環状化合物の有する複数の反応性官能基は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
反応性官能基の例としては、例えば、アミノ基(第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基)、メルカプト基(−SH)、カルボキシ基(−COOH)、ヒドロキシ基(−OH)、イソシアネート基(−NCO)、シラノール基(−SiOH)、シアネートエステル基(−OCN)などが挙げられる。換言すれば、一実施形態において、含窒素環状化合物の有する複数の反応性官能基の少なくとも2つは、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、シラノール基、およびシアネートエステル基からなる群からそれぞれ独立して選択されうる。なかでも、アミノ基(特に、第1級アミノ基)、メルカプト基、カルボキシ基が反応性官能基として好ましく採用される。なお、含窒素環状化合物は、反応性官能基を複数個有していれば、反応性官能基以外の官能基を1つまたは2つ以上有していてもよい。
【0023】
一方、含窒素環状化合物の基本骨格については、複数の環窒素原子を有する環状化合物であればよい。かような条件を満足する基本骨格としては、例えば、トリアゾール骨格、トリアジン骨格、ベンゾトリアゾール骨格、チアゾール骨格、イミダゾール骨格などが挙げられる。なかでも、含窒素環状化合物は、硬化性樹脂組成物由来の硬化物が高温曝露された際の接着強度をより一層高めることができるという観点から、トリアゾール骨格、トリアジン骨格、ベンゾトリアゾール骨格のいずれかを有するものであることが好ましく、トリアゾール骨格またはベンゾトリアゾール骨格を有するものであることがより好ましい。
【0024】
含窒素環状化合物は、上述した条件を満たすものである限り、特に制限なく用いられうる。含窒素環状化合物の一例を挙げると、例えば、トリアゾール骨格を有するものとして、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール(第1級アミノ基を2つ有する)、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(第1級アミノ基およびメルカプト基を1つずつ有する)、4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(第1級アミノ基2個およびメルカプト基を1つ有する)、3−アミノ−5−メチルチオ−1H−1,2,4−トリアゾール(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸(第1級アミノ基1個およびカルボキシ基1個を有する)、4,4’−ジ(1,2,3−トリアゾリル)ジスルフィド(第2級アミノ基2個を有する)、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(メルカプト基1個および第2級アミノ基1個を有する)、1,2,4−トリアゾール−3−カルボキサミド(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する);トリアジン骨格を有するものとして、2,4−ジアミノ−s−トリアジン(第1級アミノ基を2つ有する)、2,4,6−トリアミノ−s−トリアジン(第1級アミノ基を3つ有する)、2,4−ジメルカプト−s−トリアジン(メルカプト基を2つ有する)、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン(メルカプト基を3つ有する)、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン(第1級アミノ基を1つ、メルカプト基を1つ有する)、2,4,6−トリメチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン(第2級アミノ基を3個有する)、6−アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジオール(ヒドロキシ基2個および第1級アミノ基1個を有する)、2,4−ジアミノ−6−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個およびヒドロキシ基1個を有する)、6−アニリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(メルカプト基2個および第2級アミノ基1個を有する)、4−アミノ−1,3,5−トリアジン−2(1H)−オン(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2−クロロ−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基を2個有する)、2,4−ジアミノ−6−ブチルアミノ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個および第2級アミノ基1個を有する)、2,4−ジアミノ−6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2,4−ジアミノ−6−ジエチルアミノ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2,4−ジアミノ−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2,4−ジアミノ−6−メチル−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−ウンデシル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン(第1級アミノ基2個を有する)、6−(ジブチルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(メルカプト基2個を有する)など;ベンゾトリアゾール骨格を有するものとして、ベンゾトリアゾール−4−カルボン酸(第2級アミノ基およびカルボキシ基を1つずつ有する)、2−アミノ−2H−ベンゾトリアゾール(第1級アミノ基および第2級アミノ基を1つずつ有する)、2−メルカプト−2H−ベンゾトリアゾール(第2級アミノ基およびメルカプト基を1つずつ有する)、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−オクチルフェノール〕(ヒドロキシ基を2個有する)2,2’−〔〔(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル〕イミノ〕ビスエタノール(ヒドロキシ基を2個有する)、1−(1‘,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール(カルボキシ基を2個有する)、1−(2,3−ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、など;チアゾール骨格を有するものとして、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール(第1級アミノ基1個およびメルカプト基1個を有する)、チアゾリジン−2,4−ジカルボン酸(カルボキシ基2個を有する)など;イミダゾール骨格を有するものとして、5(4)−アミノ−4(5)−(アミノカルボニル)イミダゾール(第1級アミノ基2個を有する)、2−アミノベンゾイミダゾール(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、2−アミノ−4,5−ジシアノ−1H−イミダゾール(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、4−アミノ−1H−イミダゾール−5−カルボニトリル(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、5−アミノ−2−メルカプトベンゾイミダゾール(第1級アミノ基1個、第2級アミノ基1個およびメルカプト基1個を有する)、5−ベンゾイミダゾールカルボン酸(第2級アミノ基1個およびカルボキシ基1個を有する)4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基2個を有する)、5−クロロ−2−メルカプトベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびメルカプト基1個を有する)、5−シアノ−1H−イミダゾール−4−カルボキシアミド(第1級アミノ基1個および第2級アミノ基1個を有する)、5−エトキシ−2−ベンゾイミダゾールチオール(第2級アミノ基1個およびメルカプト基1個を有する)、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基1個を有する)、2−(1−ヒドロキシエチル)ベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基1個を有する)、2−(ヒドロキシメチル)ベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基1個を有する)、4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基1個を有する)、2−(3−ヒドロキシプロピル)ベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびヒドロキシ基1個を有する)、4−イミダゾールカルボン酸(第2級アミノ基1個およびカルボキシ基1個を有する)、イミダゾール−4,5−ジカルボキサミド(第1級アミノ基2個および第2級アミノ基1個を有する)、1H−イミダゾール−4,5−ジカルボン酸(第2級アミノ基1個およびカルボキシ基2個を有する)、2−メルカプトベンゾイミダゾール(第2級アミノ基1個およびメルカプト基1個を有する)、2−メルカプト−5−ベンゾイミダゾールカルボン酸(第2級アミノ基1個、メルカプト基1個およびカルボキシ基1個を有する)が挙げられる。
【0025】
含窒素環状化合物としては、市販品が存在する場合には当該市販品を購入したものを用いてもよいし、自ら合成することによりこれを入手してもよい。含窒素環状化合物を自ら合成する手法については、本願出願時の技術常識を参酌することにより、当業者には自明である。
【0026】
本発明に係る硬化性樹脂組成物における成分(A)としての含窒素環状化合物の含有量(2種以上の含窒素環状化合物が用いられる場合にはそれらの合計量)について特に制限はなく、後述する成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部であり、より好ましくは0.1〜4質量部であり、さらに好ましくは0.3〜3質量部である。成分(A)の配合量をかような範囲内の値とすることで、該硬化性樹脂組成物の使用可能な範囲で硬化速度と機械強度を保持しつつリードフレームや配線等を構成する貴金属への接着強度を向上させることが可能となるという利点が得られる。
【0027】
なお、上述した含窒素環状化合物は、室温では通常固体状態で存在するものであり、従来これらの工業的な取扱いは、適当な(通常揮発性を有する)溶媒に当該化合物を溶解させた溶液としてなされるのが一般的である。これに対し、本発明では、硬化性樹脂が室温では通常液体状態で存在するものであることから、本発明の組成物において含窒素環状化合物は硬化性樹脂等の液体成分に溶解した溶液として取扱われうる。したがって、含窒素環状化合物の取り扱いのための溶媒を別途用いる必要がないという点でも本発明は有利な効果を奏するものである。
【0028】
≪成分(B):シラン化合物≫
成分(B)は、シラン化合物である。当該シラン化合物(以下、「シラン化合物(B)」とも称する)は、下記平均組成式(B):
【0029】
【化2】

【0030】
で表されるものである。
【0031】
平均組成式(B)において、Xは、それぞれ独立して、イミド結合を含む有機骨格を有する基を表す。また、Yは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子およびOR基からなる群から選択される。ここで、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアシル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルケニル基、および置換または非置換のアルキニル基からなる群から選択される。Zは、それぞれ独立して、イミド結合を含まない有機基を表す。そして、a、b、cおよびdは、それぞれ、0<a≦3、0≦b<3、0≦c<3、0<d<2、かつ、a+b+c+2d=4を満足する。
【0032】
シラン化合物(B)は、ケイ素原子にイミド結合を含む有機骨格を有する基が少なくとも1つ結合してなる構成単位(以下、「構成単位(1)」とも称する)とシロキサン結合(シロキサン骨格)とを有するものである。シラン化合物(B)は、このような構造であることから、耐熱性、耐圧性、機械的・化学的安定性、熱伝導性に優れ、優れた耐熱性等の各種特性を各種材料に付与することができる。
【0033】
シラン化合物(B)において、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」とは、イミド結合を必須とするものであれば特に限定されないが、(1)イミド構造と炭素数1〜6のアルキレン基とを含む構造、(2)イミド構造と第2級アミノ基とを含む構造、(3)イミド構造と第3級アミノ基とを含む構造などが好ましい。なかでも、(1)イミド構造と炭素数1〜6のアルキレン基とを含む構造が、シラン化合物の熱的安定性を向上させうるという観点からは好ましい。
【0034】
シラン化合物(B)において、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」の含有量は、シラン化合物(B)に含まれるケイ素原子100モルに対して、100〜20モルであることが好ましく、より好ましくは100〜50モルであり、さらに好ましくは100〜70モルであり、特に好ましくは100〜80モルであり、最も好ましくは100モルである。かような形態によれば、シラン化合物の耐熱性、耐加水分解性等を向上させることができるとともに、硬化性樹脂への溶解性を向上させたシラン化合物とすることができる。
【0035】
イミド結合を含む有機骨格を有する基が結合したケイ素原子には、少なくとも1つの「イミド結合を含む有機骨格を有する基」と、少なくとも1つの酸素原子とが結合しており、該酸素原子を介してシロキサン骨格を形成している。すなわち、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」が結合したケイ素原子には、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」に加えて、酸素原子と、場合により「その他の基」とが結合しており、これらの結合数の合計が4であり、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」および酸素原子は、ともに1つ以上結合している。
【0036】
上述した「その他の骨格」は、上記「Z」に由来するイミド結合を有さない有機基であるか、あるいは、上記「Y」に由来する水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子およびOR基からなる群から選択されるものである。上記「Z」に由来する「イミド結合を有さない有機基」として好ましくは、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアラルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、置換または非置換のアルキニル基である。なお、本明細書において、ある基が「置換または非置換」のものであるといった場合において、置換されたものであるときの置換基としては、例えば、炭素数1〜20個(好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜8個、さらに好ましくは1〜4個)のアルキル基、炭素数1〜20個(好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜8個、さらに好ましくは1〜4個)のアルコキシ基、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子または塩素原子)、カルボキシ基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜12個、より好ましくは2〜8個、さらに好ましくは2〜4個)のアシル基、アミノ基、炭素数1〜20個(好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜8個、さらに好ましくは1〜4個)のアルキルアミノ基、ニトロ基、メルカプト基が挙げられる。ただし、「置換の(置換された)アルキル基」における置換基の範囲からは「炭素数1〜20個のアルキル基」は除外されるものとする。
【0037】
ここで、「Y」としては、ヒドロキシ基またはOR基が好ましく、より好ましくはOR基であり、さらに好ましくはRが炭素数1〜20(より好ましくは炭素数1〜8)のアルキル基であるOR基(すなわち、炭素数1〜8のアルコキシ基)である。また、「イミド結合を有さない有機基(Z)」として特に好ましくは、置換または非置換の炭素数1〜20(より好ましくは炭素数1〜8)のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜20(より好ましくは炭素数6〜12)のアリール基、あるいは、置換または非置換の炭素数7〜20(より好ましくは炭素数7〜12)のアラルキル基である。「イミド結合を有さない有機基」の具体例としては、例えば、メチル、エチル、フェニル、ビニル、クロロプロピル、メルカプトプロピル、(エポキシシクロヘキシル)エチル、グリシドキシプロピル、N−フェニル−3−アミノプロピル、(メタ)アクリロキシプロピル、ヘキシル、デシル、オクタデシル、トリフルオロプロピル等が好適である。
【0038】
ケイ素原子に対する「イミド結合を含む有機骨格を有する基」の結合数は、1〜3個であり、好ましくは1〜2個であり、より好ましくは1個である。また、「イミド結合を含む有機骨格を有する基」が結合したケイ素原子に結合する酸素原子の結合数は、1〜3個であり、好ましくは2〜3個であり、より好ましくは3個である。
【0039】
「イミド結合を含む有機骨格を有する基」が結合したケイ素原子に結合する「その他の基」の結合数は、0〜2個であり、好ましくは0〜1個であり、より好ましくは0個である。これらをまとめると、ケイ素原子に結合する基の結合数の好適な組み合わせは、(イミド結合を含む有機骨格を有する基、酸素原子、その他の基)として、(1、3、0)、(2、2、0)、(1、2、1)、(3、1、0)、(2、1、1)、(1、1、2)である。
【0040】
シラン化合物(B)は、シロキサン骨格(主鎖骨格)を有するものである。このようなシロキサン骨格としては、シロキサン結合を必須とするものであればよく、該シロキサン骨格の構造としては、直鎖状または分岐状のいずれであってもよく、ラダー状、かご状、キュービック状等の構造のポリシルセスキオキサンであることが好適である。シラン化合物(B)において、シロキサン骨格の占める割合としては、シラン化合物(B)100質量%に対して、80〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは70〜15質量%であり、さらに好ましくは50〜20質量%である。
【0041】
シラン化合物(B)は、上述の構成であれば特に限定されないが、好適な実施形態としては、(i)シロキサン結合とイミド結合とを有し、シロキサン結合(ポリシロキサン結合)を必須とする主鎖骨格を有し、イミド結合を必須とする構造が主鎖骨格に結合した構造を有する形態、(ii)ケイ素原子に、イミド結合を含む有機骨格が少なくとも1個結合してなり、かつ、当該ケイ素原子に酸素原子が少なくとも1個結合してなる構成単位を必須とし、該構成単位の当該ケイ素原子が酸素原子を介してシロキサン骨格を形成してなる形態、(iii)シロキサン結合からなる主鎖骨格と、イミド結合を含む有機骨格とからなり、該主鎖骨格の少なくとも一部のケイ素原子が該有機骨格と結合してなる構成単位を必須単位として含有する形態、(iv)シロキサン結合と、イミド結合を含む有機骨格とからなり、ポリシロキサン結合を必須とする主鎖骨格を有し、イミド結合を含む有機骨格が主鎖骨格中の少なくとも1個のケイ素原子に結合してなる形態等が挙げられる。
【0042】
上記好適な実施形態(i)において、「イミド結合を必須とする構造が主鎖骨格に結合した構造」とは、上記イミド結合を必須とする構造(イミド結合を含む有機骨格)の少なくとも1つがシラン化合物(B)の主鎖骨格(シロキサン骨格)に結合した構造であればよい。すなわち、上記イミド結合を必須とする構造が主鎖骨格以外に存在する構造であればよい。具体的には、上記シラン化合物(B)はイミド結合を必須とする構造を側鎖に有する形態が好適である。この場合、イミド結合を必須とする構造が「鎖」の形態となった繰り返し単位を有するものに限られず、側鎖として1つ以上含まれていればよい。
【0043】
上記好適な実施形態(ii)において、「ケイ素原子に、イミド結合を含む有機骨格が少なくとも1個結合してなり、かつ、当該ケイ素原子に酸素原子が少なくとも1個結合してなる、構成単位」は、下記一般式:
【0044】
【化3】

【0045】
で表されることが好ましい。この一般式において、Xは、上記と同様の定義であり、イミド結合を含む有機骨格を有する基である。また、sは1〜3の整数であり、2tは1〜3の整数であり、s+2t=4である。
【0046】
シラン化合物(B)を表す平均組成式(B)において、Xの係数aは、0<a≦3を満たす数であり、Yの係数bは、0≦b<3を満たす数であり、Zの係数cは、0≦c<3を満たす数である。また、Oの係数dは、0<d<2を満たす数である。
【0047】
シラン化合物(B)においては、ケイ素原子に対する「イミド結合を含む有機骨格を有する基」の結合割合を多くすることによって、該シラン化合物の硬化性樹脂への溶解性を向上させることができる。硬化性樹脂への溶解性の観点からは、平均組成式(B)におけるXの係数aが、0.2≦aを満たすことが好ましい。イミド結合を含む有機骨格を有する基であるXの係数aが、0.2以上であれば、硬化性樹脂への溶解性が十分に確保され、シラン化合物を硬化性樹脂に溶解させて樹脂組成物を形成した場合にシラン化合物の特性を充分に発揮することができる。なお、Xの係数aは、より好ましくは0.5≦aであり、さらに好ましくは0.7≦aであり、特に好ましくは0.8≦aであり、最も好ましくは1.0≦aである。
【0048】
一方、シラン化合物(B)の耐熱性の観点からは、a≦1.0であることが好ましい。これらをまとめると、より優れた耐熱性を得るとともに、硬化性樹脂への溶解性を向上させ、かつ耐加水分解性を向上させうるという観点から、Xの係数aは、0.2≦a≦1.0を満たすことが好ましく、より好ましくは0.5≦a≦1.0であり、さらに好ましくは0.7≦a≦1.0であり、特に好ましくは0.8≦a≦1.0であり、最も好ましくはa=1.0である。また、平均組成式(B)において、a+b+cが0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.7以上1.0以下であり、特に好ましくは1である。また、酸素の係数であるdは1.50であることが好適である。
【0049】
シラン化合物(B)においては、下記計算式(α):
【0050】
【数1】

【0051】
で求められるシラノール基量の割合が0.1以下であることが好ましい。かような形態によれば、シラン化合物(B)を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物の耐吸湿性に極めて優れたものとなりうる。なお、上記計算式(α)で求められるシラノール基量は、より好ましくは0.05以下であり、さらに好ましくは0.01以下であり、特に好ましくはシラン化合物(B)は残存シラノール基を有さないもの(つまり、α=0)である。ここで、[Si−OH結合モル数]とは、SiとOHとの結合数をモル数で表すものである。例えば、1モルのSi原子のそれぞれに2つのOH基が結合している場合には、[Si−OH結合モル数]は2モルとなる。Si−O結合モル数についても同様に数えるものとする。
【0052】
シラン化合物(B)は、例えば、下記一般式:
【0053】
【化4】

【0054】
で表される。上記一般式において、X、YおよびZは、それぞれ上記と同様の定義である。また、nおよびnは、それぞれ重合度を表し、nは、0でない正の整数(つまり、自然数)であり、nは、0または正の整数である。なお、上記一般式において、Y/Z−は、YまたはZが結合していることを表し、X1〜2−は、Xが1個または2個結合していることを表し、(Z/Y)1〜2−は、ZまたはYのいずれかのみが1個結合するか、ZまたはYのいずれかのみが2個結合するか、ZおよびYがそれぞれ1個ずつ合計2個結合することを表す。また、Si−(X/Y/Z)は、X、YおよびZから選ばれる任意の3種がケイ素原子に結合していることを表す。また、Si−Om1およびSi−Om2は、Si−Om1とSi−Om2との結合順序を規定するものではなく、例えば、Si−Om1とSi−Om2とが交互またはランダムに共縮合している形態、Si−Om1からなるポリシロキサンとSi−Om2からなるポリシロキサンとが結合している形態等を包含する表記であり、この際、縮合構造は任意である。
【0055】
シラン化合物(B)のシロキサン骨格(シロキサン結合を必須とする主鎖骨格)は、(SiOと表すこともできる。(SiO以外の構造は、「X」由来の「イミド結合を含む有機骨格を有する基」、「Y」由来の「水素原子、ヒドロキシ基等」、「Z」由来の「イミド結合を含まない有機基」のいずれかであり、これらは主鎖骨格のケイ素原子に結合することとなる。X、YおよびZは、「鎖」の形態となった繰り返し単位に含まれてもよく、含まれていなくてもよい。例えば、Xは、側鎖として1分子に1つ以上含まれていればよい。上記(SiOにおいて、nは、重合度を表すが、該重合度は、主鎖骨格の重合度を表し、イミド結合を含む有機骨格を有する基は、必ずしもn個存在していなくてもよい。言い換えれば、(SiOの1つの単位に必ず1つのイミド結合を含む有機骨格を有する基が存在していなくてもよい。また、イミド結合を含む有機骨格を有する基は、1分子中に1つ以上含まれていればよいが、複数含まれる場合、上述したように、1つのケイ素原子に2以上のイミド結合を含む有機骨格を有する基が結合していてもよい。
【0056】
主鎖骨格(SiOにおいて、mは、1.0以上2.0未満の数であることが好ましい。より好ましくは、m=1.5〜1.8である。特に好ましくは、m=1.5である。また、上記主鎖骨格(SiOm1)n1および(SiOm2n2において、(n1+1)/(n1+n2+1)の範囲が、平均組成式(B)におけるaの好ましい範囲と同様であることが好ましい。さらに、上記一般式において(X/Y/Z)に結合しているケイ素原子に結合するXの個数、および、(SiOm1)におけるケイ素原子に結合するXの個数は、それぞれ1個であることが好ましい。
【0057】
nは、重合度を表し、1〜5000であることが好ましく、より好ましくは1〜2000であり、さらに好ましくは、1〜1000であり、特に好ましくは1〜200である。
【0058】
nが2である場合のシラン化合物(B)としては、ケイ素原子にイミド結合を含む有機骨格を有する基が少なくとも1個結合してなる構成単位(構成単位(1))が2つ含まれる形態と、該構成単位(1)が1つしか含まれない形態が挙げられる。具体的には、下記一般式:
【0059】
【化5】

【0060】
で表される構造などが好適である。なお、上記一般式において、AはYまたはZと同様の定義であり、X、YおよびZは、上記と同様の定義である。上記一般式から明らかなように、nが2である場合のシラン化合物(B)としては、同一の構成単位(1)2つを含むホモポリマーの形態と、異なる構成単位(1)2つを含むホモポリマーの形態と、構成単位(1)を1つしか含まないコポリマーの形態(共縮合構造の形態)とが存在しうる。
【0061】
シラン化合物(B)は、上記構造を有するものであり、シラン化合物(B)の平均組成式(B)におけるXは、下記化学式(1):
【0062】
【化6】

【0063】
で表される基を含むものであることが好ましく(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(1)」とも称する)、当該基からなるものであることがより好ましい。上記化学式(1)において、Rは、置換または非置換の芳香環、置換または非置換の複素環および置換または非置換の脂環からなる群から選択される構造を表す。ここで、置換または非置換の芳香環、置換または非置換の複素環および置換または非置換の脂環からなる群から選択される構造とは、Rが芳香族化合物の環構造(芳香環)を有する基、複素環式化合物の環構造(複素環)を有する基および脂環式化合物の環構造(脂環)を有する基からなる群から選択される基であることを意味する。ここで、芳香環としては、例えば、ベンゼン、ビフェニレン、ターフェニレン、ナフタレン、アントラセン、ペニレン等が挙げられる。また、脂環のうち飽和脂肪族環状炭化水素としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ノルボルナン、デカヒドロナフタレン等が挙げられ、脂環のうち不飽和脂肪族環状炭化水素としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン等が挙げられる。さらに、複素環としては、ピロール、フラン、チオフェン、ピリジン、ピラゾール、イミダゾール等が挙げられる。なかでも、Rとしては、例えば、フェニレン基、ナフチリデン基、ノルボルネンの2価基、(アルキル)シクロヘキシレン基、シクロヘキセニル基等が好ましい。
【0064】
また、上記化学式(1)において、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数である。なお、x+yとしては、0〜10の整数であればよいが、3〜7であることが好ましく、より好ましくは3〜5であり、特に好ましくは3である。また、上記化学式(1)において、yは、0または1であり、好ましくは0である。
【0065】
上記化学式(1)においてRがフェニレン基である場合、平均組成式(B)における「X」は下記化学式(2):
【0066】
【化7】

【0067】
で表される(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(2)」とも称する)。化学式(2)において、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、すべてが水素原子であることが好ましい。また、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、yは、0または1であり、これらの好ましい形態は上記と同様である。
【0068】
上記化学式(1)においてRが(アルキル)シクロヘキシレン基である場合、平均組成式(B)における「X」は下記化学式(3):
【0069】
【化8】

【0070】
で表される(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(3)」とも称する)。化学式(3)において、R〜RおよびR6’〜R9’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、RもしくはRがメチル基で残りのすべてが水素原子である形態、または、R〜RおよびR6’〜R9’のすべてが水素原子である形態、または、R〜RおよびR6’〜R9’のすべてがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、RまたはRがメチル基で残りのすべてが水素原子である形態である。また、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、yは、0または1であり、これらの好ましい形態は上記と同様である。
【0071】
上記化学式(1)においてRがナフチリデン基である場合、平均組成式(B)における「X」は下記化学式(4):
【0072】
【化9】

【0073】
で表される(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(4)」とも称する)。化学式(4)において、R10〜R15は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、すべてが水素原子である形態、または、すべてがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、すべてが水素原子である形態である。また、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、yは、0または1であり、これらの好ましい形態は上記と同様である。
【0074】
上記化学式(1)において、Rがノルボルネンの2価基である場合、平均組成式(B)における「X」は下記化学式(5):
【0075】
【化10】

【0076】
で表される(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(5)」とも称する)。化学式(5)において、R16〜R21は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、すべてが水素原子である形態、すべてがフッ素原子である形態、または、すべてが塩素原子である形態が好ましい。より好ましくは、すべてが水素原子である形態である。また、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、yは、0または1であり、これらの好ましい形態は上記と同様である。
【0077】
上記化学式(1)において、Rがシクロヘキセニル基である場合、平均組成式(B)における「X」は下記化学式(6):
【0078】
【化11】

【0079】
で表される(この形態に係るシラン化合物(B)を「シラン化合物(6)」とも称する)。化学式(6)において、R22〜R25、R22’およびR25’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、すべてが水素原子である形態、すべてがフッ素原子である形態、または、すべてが塩素原子である形態が好ましい。より好ましくは、すべてが水素原子である形態である。また、xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、yは、0または1であり、これらの好ましい形態は上記と同様である。
【0080】
シラン化合物(5)およびシラン化合物(6)は、分子内部に不飽和結合を有しており、後述するマレイミド化合物と同様の機構で架橋構造を構築することから、シラン化合物(5)およびシラン化合物(6)のいずれかとマレイミド化合物をともに配合することも好ましい形態である。ただし、シラン化合物(B)としては、シラン化合物(6)よりもシラン化合物(5)の方が好適である。なお、シラン化合物(B)と後述するマレイミド化合物との配合比率は両者の不飽和結合の当量比で10/90〜90/10であることが好ましく、より好ましくは15/85〜85/15であり、さらに好ましくは20/80〜80/20である。
【0081】
シラン化合物(B)の平均組成式(B)におけるXは、別の観点から、下記化学式(7):
【0082】
【化12】

【0083】
で表される基を含むものであることが好ましく、当該基からなるものであることがより好ましい。化学式(7)において、式中、R26は、上述したRと同様の定義であり、置換または非置換の芳香環、置換または非置換の複素環および置換または非置換の脂環からなる群から選択される構造を表し、好ましい形態もまた、上述したRと同様である。
【0084】
Xが化学式(7)で表される基を含むものである場合におけるシラン化合物(B)の特に好ましい形態としては、R26がフェニレン基であるポリ(γ−フタロイミドプロピルシルセスキオキサン)、R26がメチルシクロヘキシレン基であるポリ{γ−(へキサヒドロ−4−メチルフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}、R26がナフチリデン基であるポリ{γ−(1,8−ナフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}、R26がノルボルネンの2価基であるポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}、R26がシクロヘキセニル基であるポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕である。なお、これらの化合物の構造は、H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定して同定することができる。
【0085】
平均組成式(B)におけるXが結合したケイ素原子の酸素原子との結合数は3であることが好ましい。かような形態によれば、Xが結合したケイ素原子が、他の官能基と結合していないため、耐熱性、耐湿性、耐加水分解性に優れたシラン化合物とすることができる。例えば、Xが結合したケイ素原子が1つの酸素原子と結合し、これ以外に他の官能基を有する場合、官能基の種類によっては、耐熱性、耐湿性、耐加水分解性が十分に確保されないおそれがある。また、上記シロキサン結合を構成するケイ素原子の酸素原子との結合数が3であることが好ましい。かような形態によれば、シロキサン結合を構成するケイ素原子が、Xで表される有機基以外の官能基と結合していないため、より耐熱性、加水分解性に優れたシラン化合物とすることができる。
【0086】
シラン化合物(B)の分子構造としては、例えば、鎖状構造(直鎖状、分岐状)、ラダー状構造、網状、環状、ラダー状からなる環状構造、かご状等が例示されるが、なかでも、シラン化合物(B)の添加量が少量であっても効果が発揮されやすいという観点から、ラダー状、網状、またはかご状であることが好ましい。より好ましい分子構造は求める効果によって異なり、例えば、かご状分子構造とすることによって、シラン化合物含有組成物の粘度がより低下するとともに、その硬化物の低吸湿化を顕著に実現することが可能となる。すなわち、粘度低下と顕著な低吸湿化を実現するためには、かご状の分子構造が好適であり、このように、シラン化合物(B)がかご状の分子構造を有する形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。かご状の分子構造を有することにより、シラン化合物(B)を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が低吸湿性に極めて優れたものとなるとともに、硬化物の機械的強度や耐熱性をさらに向上させることができる。このため、各種用途(特に、半導体用封止材等の電子部品装置用の用途)に特に有用なものとすることが可能となる。一方、ラダー状構造とした場合には、シラン化合物含有組成物の粘度がより低下するとともに、その硬化物の低吸湿化はそれほど顕著ではないが耐熱性を著しく向上することが可能となる。すなわち、シラン化合物(B)がラダー状の分子構造を有する形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。ここで、ラダー状、網状、かご状の分子構造は、例えば、下記構造式:
【0087】
【化13−1】

【0088】
【化13−2】

【0089】
【化13−3】

【0090】
で表すことができる。
【0091】
上記構造式において、Rは、平均組成式における「X」で表される有機骨格を表す。また、上記構造式(a)はランダム(網状)構造(Random structure)であり、構造式(b)はラダー状構造(Ladder structure)であり、構造式(c)は不完全かご型構造(Incomplete condensed cage)、構造式(d)〜(f)はかご型構造(Completely condensed structures)を表す。なお、上記構造式(c)〜(f)で例示されるように、かご状の分子構造を有するシラン化合物(B)は、無機骨格がコア部分、有機骨格層がシェル部分となる形態が好適である。
【0092】
上述したかご状の分子構造を有するシラン化合物(B)としてはまた、平均組成式(B)におけるXが環構造を有する形態であることが好ましく、なかでも、Xが上記一般式(1)で表されるものであることが好適である。かような形態によれば、シラン化合物(B)を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が低吸湿性に極めて優れたものとなるという上記作用効果をさらに十分に発揮させることが可能となる。
【0093】
上述したかご状の分子構造を有するシラン化合物(B)としてさらに好ましくは、上記一般式(1)で表されるXが、上記一般式(2)〜(7)で表される構造である形態、すなわち上記シラン化合物(2)〜(7)のいずれかであり、特に好ましくは、上記一般式(1)中のRが、ベンゼン環またはノルボルネン構造のいずれかである形態である。
【0094】
ここで、上記一般式(1)中のRがノルボルネン構造である形態に含まれる化合物の一例を以下に示す。
【0095】
【化14】

【0096】
シラン化合物(B)が、上述したかご状の分子構造を有するシラン化合物である場合には、上述した式(α)で求められるシラノール基量の割合が0.1以下であることがより好ましい。かような形態によれば、シラン化合物(B)を含む組成物が著しく低粘度化し、また、該組成物やその硬化物が耐吸湿性に極めて優れたものとなるという上記作用効果をさらに十分に発揮させることが可能となる。この形態において、αはさらに好ましくは0.05以下であり、特に好ましくは0.01以下である。最も好ましくはシラン化合物(B)が残存シラノール基を有さないもの(つまり、α=0)である。
【0097】
また、シラン化合物(B)が、上述したかご状の分子構造を有するシラン化合物である場合には、上記平均組成式(B)において、a+b+cが0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.7以上1.0以下であり、特に好ましくは1である。また、酸素の係数であるdは1.50であることが好適である。
【0098】
平均組成式(B)で表されるシラン化合物(B)を調製する方法について特に制限はなく、後述する実施例の記載および従来公知の知見を適宜参照することにより、調製可能である。シラン化合物(B)は、例えば、下記(ア)や(イ)の方法により得ることが好ましい。なお、これらの製造方法の詳細については、特許文献1(特表2010−518182)が参照されうる。
(ア)シラン化合物(B)における「イミド結合を含む有機骨格を有する基(X)」に対応するアミド結合を含む有機骨格を有する基(X’)とシロキサン結合とを有する、平均組成式:X’SiOで表される(シラン化合物からなる)中間体をイミド化させる工程を含む製造方法。
(イ)シラン化合物(B)における「イミド結合を含む有機骨格を有する基(X)」に対応するイミド結合を含む有機骨格を有する基が、ケイ素原子に結合しかつ加水分解性基を有するシラン化合物からなる中間体を、加水分解・縮合させる工程を含む製造方法。
【0099】
本発明に係る硬化性樹脂組成物における成分(B)としてのシラン化合物の含有量(2種以上のシラン化合物が用いられる場合にはそれらの合計量)について特に制限はなく、後述する成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは2〜40質量部であり、さらに好ましくは3〜35質量部である。成分(B)の配合量をかような範囲内の値とすることで、200℃を超える高温下で空気中に放置していても酸素劣化が起こらず、長期にわたって優れた絶縁特性および機械強度を発現できるという利点が得られる。
【0100】
≪成分(C):硬化性樹脂≫
成分(C)は、硬化性樹脂である。硬化性樹脂について特に制限はなく、上述した成分(A)の含窒素環状化合物および成分(B)のシラン化合物と相溶しうる硬化性樹脂が適宜用いられうる。硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂が挙げられ、なかでも、半導体実装用途で使用実績が高いという観点からは、エポキシ樹脂が好ましく用いられうる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール・クレゾール・キシレノール・ナフトール・レゾルシン・カテコール・ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒド・アセトアルテヒド・プロピオンアルデヒド・ベンズアルデヒド・ヒドロキシベンズアルデヒド・サリチルアルデヒド・ジシクロペンタジエン・テルペン・クマリン・パラキシリレングリコールジメチルエーテル・ジクロロパラキシリレン・ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類をさらにエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、およびさらに上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・テトラエチレングリコール・PEG600・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・テトラプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・PPG・グリセロール・ジグリセロール・テトラグリセロール・ポリグリセロール・トリメチロールプロパンおよびその多量体・ペンタエリスリトールおよびその多量体・グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸・ヘキサヒドロフタル酸・安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、これら以外の硬化性樹脂として、例えば、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等の高耐熱性硬化性樹脂が用いられてもよい。これらの高耐熱性硬化性樹脂を用いると、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等のワイドギャップ半導体材料からなる、高い動作上限温度を有する半導体装置の封止等に特に好適な硬化性樹脂組成物が提供されうる。
【0101】
≪その他の成分≫
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。本発明の硬化性樹脂組成物が含みうるその他の成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、充填材、希釈剤、難燃剤、カップリング剤、着色剤等が挙げられる。
【0102】
硬化剤は、加熱等の外部刺激に応答して硬化性樹脂を硬化させる機能を有するものであればよく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0103】
硬化剤としては、上記硬化剤としては、酸無水物類、多価フェノール類、アミン類、BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類等の1種または2種以上を用いることができる。
【0104】
例えば、酸無水物類としては具体的には、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、2,4−ジエチル無水グルタル酸、無水ハイミック酸(別名:5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水メチルナジック酸(別名:メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ジフェン酸無水物等の一官能性酸無水物;無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物(別名:5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物)、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等の二官能性酸無水物;β,γ−無水アコニット酸、無水グリコール酸、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等の遊離酸を有する酸無水物が例示される。なお、これらの硬化剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0105】
例えば、多価フェノール類としては具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェノールメタン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種以上併用しても差し支えない。硬化性の点から、多価フェノール類の水酸基当量は90g/eq以上、250g/eq以下が好ましい。また、多価フェノール類は、下記一般式(8)で表される化合物を含むことが好ましい。下記一般式(8)で表される化合物は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン骨格を含むアラルキル基を有することから、ノボラック型フェノール樹脂と比べて、架橋点間距離が長いため、これらを用いた樹脂組成物の硬化物は高温下において低弾性率化され、かつフェノール性水酸基が少ないことから、低吸水化を実現することができる。それらの特性の発現により、耐半田リフロー性向上に寄与することができる。さらにナフチレン骨格を含有する化合物においては、ナフタレン環に起因する剛直性によるTgの上昇やその平面構造に起因する分子間相互作用による線膨張係数の低下により、エリア表面実装型半導体パッケージにおける低反り性を向上させることができる。また、下記一般式(8)で表される化合物において、フェノール性水酸基を含有する芳香族基(−R28(OH)−)としては、ヒドロキシフェニレン基、または1−ヒドロキシナフチレン基、2−ヒドロキシナフチレン基のいずれでもよいが、特にヒドロキシナフチレン基である場合は前述のナフチレン骨格を含有する化合物と同様に、Tgの上昇や線膨張係数の低下により、低反り性を向上させる効果が得られ、さらに芳香族炭素を多く有することから耐燃性の向上も実現することができる。
【0106】
下記一般式(8)で表される化合物としては、例えば、フェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を含有するフェノールアラルキル樹脂、ナフチレン骨格を含有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を含有するナフトールアラルキル樹脂が挙げられるが、式(8)の構造であれば特に限定するものではない。
【0107】
【化15】

【0108】
式中、
−R27−はフェニレン基、ビフェニレン基またはナフチレン基を表し、−R28(OH)−はヒドロキシフェニレン基、または1−ヒドロキシナフチレン基または2−ヒドロキシナフチレン基を表し、R29およびR30は、それぞれR28およびR27に導入される基で、互いに独立して炭素数1〜10の炭化水素基であり、n6の平均値は1〜10の正数であり、k6は0〜5の整数であり、m6は0〜8の整数である。
【0109】
多価フェノール類の全体における一般式(8)で表される化合物の配合割合としては、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。一般式(8)で表される化合物の配合割合が上記範囲内であると、耐半田リフロー性、低反り性を向上させる効果を得ることができる。
【0110】
例えば、アミン類としては具体的には、エポキシ樹脂中のエポキシ基と共有結合を形成することが可能な第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に2個以上含むものが例示されうる。特にこれらの分子量や構造は限定されるものではない。そのようなアミン類としては、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン;1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジンなどのピペラジン型のポリアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエートなどの芳香族ポリアミン類、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン等の芳香族ジアミノジフェニルメタン化合物等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いても、2種以上の硬化剤を配合して用いてもよい。
【0111】
その他の成分としての硬化剤の含有量について特に制限はなく、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは2〜65質量部であり、より好ましくは5〜60質量部であり、さらに好ましくは10〜50質量部である。
【0112】
硬化促進剤は、上述した硬化剤が硬化性樹脂を硬化させる作用を促進する機能を有するものであればよく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0113】
硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物;第3級アミン化合物、アルミニウムやジルコニウム等の有機金属化合物;ホスフィン等の有機リン化合物;その他、異環型アミン化合物、ホウ素錯化合物、有機アンモニウム塩、有機スルホニウム塩、有機過酸化物、これらの反応物が例示される。具体的には、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフイン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のリン系化合物;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等の第3級アミン化合物が例示される。これらのほかにも、マイクロカプセル型硬化促進剤等が用いられてもよい。なかでも、イミダゾール系化合物が好ましい。なお、これらの硬化促進剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0114】
その他の成分としての硬化促進剤の含有量について特に制限はなく、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜5質量部であり、さらに好ましくは0.1〜3質量部である。
【0115】
充填材は、本発明の硬化性樹脂組成物に対して、低熱膨張化、作業性改善等の性能を付与することができ、また、原材料コストを低減させるという効果もある。充填材としては、特に制限されず従来公知の充填材が用いられうる。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、微分シリカ、アルミナ、窒化珪素、およびマグネシア等が挙げられる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、充填材を添加する場合の添加量は、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは50〜1500質量部であり、より好ましくは70〜1000質量部である。
【0116】
希釈剤は、硬化性樹脂組成物の粘度を低下させることなどを目的として添加されるものである。希釈剤としては、特に制限されず従来公知の希釈剤が用いられうる。例えば、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、カルビノールのグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド、α−ピネンオキサイド、第3級カルボン酸のグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールのグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールのグリシジルエーテル、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と重合脂肪酸との部分付加物、重合脂肪酸のポリグリシジルエーテル、ブタンジオールのジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、希釈剤を添加する場合の添加量は、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。
【0117】
難燃剤は、硬化性樹脂組成物の難燃性を向上させる目的で添加されるものである。難燃剤としては、特に制限されず従来公知の難燃剤が用いられうる。例えば、臭素化エポキシ樹脂や三酸化アンチモンを用いてもよいが、ノンハロゲン、ノンアンチモンの難燃剤を用いることが好ましい。たとえば、赤リン、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂等で被覆された赤リン、リン酸エステル、酸化トリフェニルホスフィン等のリン化合物、メラミン、メラミン誘導体、メラミン変性フェノール樹脂、トリアジン環を有する化合物、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体等の窒素含有化合物、シクロホスファゼン等のリンおよび窒素含有化合物、ジシクロペンタジエニル鉄等の金属錯体化合物、酸化亜鉛、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等の亜鉛化合物、酸化鉄、酸化モリブデン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などが挙げられる。これらは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、難燃剤を添加する場合の添加量は、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは5〜100質量部であり、より好ましくは10〜80質量部である。
【0118】
カップリング剤としては、具体的には、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック等の顔料や染料等が挙げられる。
【0119】
上述したものの他にも、本発明の硬化性樹脂組成物には、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン等の離型剤、シリコーンオイルやシリコーンゴム粉末等の応力緩和剤等を必要に応じて配合することができる。
【0120】
また、本発明において、上述した成分(C)(硬化性樹脂)としてビスマレイミド樹脂以外の樹脂を用いた場合には、硬化性樹脂組成物がマレイミド化合物を含むことが好ましい。かような形態によれば、シラン化合物が末端二重結合を有するものである場合に、マレイミド化合物とシラン化合物との間で架橋構造が形成され、通常の硬化性樹脂の硬化による架橋構造との相互網目構造が形成されうる。その結果、硬化物の耐久性、耐熱性、接着強度などの特性がより一層図られることになる。
【0121】
マレイミド化合物としては、1分子中に2個以上マレイミド基を有する化合物であれば特に制限なく用いられうる。マレイミド化合物としては、ビスマレイミド、例えば、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−p,p’−ジフェニルジメチルシリルビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−メチレンビス(3−クロロ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジシクロヘキシルメタンビスマレイミド、N,N’−ジメチレンシクロヘキサンビスマレイミド、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルシクロヘキサンビスマレイミド、N−フェニルマレイミドとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシフェニルアルデヒドなどのアルデヒド化合物との共縮合物が挙げられる。これらの他にも、特許文献1(特表2010−518182号公報)に例示されているマレイミド化合物が同様に用いられうる。なお、マレイミド化合物を添加する場合の添加量は、上述した成分(C)(硬化性樹脂)100質量部に対して、好ましくは5〜80質量部であり、より好ましくは10〜60質量部である。
【0122】
本発明の硬化性樹脂組成物は、必須成分である成分(A)〜成分(C)、および必要に応じて任意成分である各種添加剤を、所定の含有量となるように同時または順次配合し、各成分が均一に分散するように、ミキサ等で混合し、その後、ロールやニーダ等によって混練することにより、製造されうる。なお、混合や混練時に、必要に応じて加熱処理や冷却処理を施してもよい。また、各成分を配合する順番には特に制限はない。
【0123】
[用途]
上述した硬化性樹脂組成物(好ましくは、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物)は、例えば、素子の封止による電子部品装置の製造といった用途に用いられうる。すなわち、本発明の一形態によれば、上述した硬化性樹脂組成物からなる半導体封止用樹脂組成物が提供される。
【0124】
本発明の硬化性樹脂組成物により素子を封止して得られる電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を本発明の封止用エポキシ樹脂組成物で封止した電子部品装置が挙げられる。このような電子部品装置としては、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部とをワイヤボンディングやバンプで接続した後、本発明の硬化性樹脂組成物を用いてトランスファー成形等により封止してなる、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Paciage)、SOJ(Small Outline J−lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型ICが挙げられる。また、テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、本発明の硬化性樹脂組成物で封止したTCP(Tape Carrier Package)等も挙げられる。さらに、配線板やガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子および/またはコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子を、本発明の硬化性樹脂組成物で封止したCOB(Chip On Boad)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール等の電子部品装置、裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、本発明の硬化性樹脂組成物で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)等の電子部品装置も挙げられる。
【0125】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。本発明の硬化性樹脂組成物を、必要により溶剤で希釈し、これに上記の硬化促進剤、充填剤、難燃剤等をさらに配合し、配線板用絶縁材料を得て、各種強化材に含浸させるか、または各種基材に塗布し、溶剤を乾燥除去後、硬化させて得られる電気用配線基板としては、片面、両面、多層のコンポジットタイプ積層板、ガラスエポキシタイプ積層板、アラミドエポキシタイプ積層板、金属ベース配線基板、ビルドアップタイプ配線基板等が挙げられる。溶剤としては、エーテル結合、エステル結合および窒素原子からなる少なくとも1つの構造を有するものが好ましく、含浸や塗布工程の最適粘度となるように、または、乾燥工程条件により、単独で、または2種類以上の混合物として用いることができる。また、充填剤、難燃剤としては、上述したのと同様のものが使用できる。さらに、強化材としては、ガラス繊維、ポリアラミド繊維の織布や不織布が特に好ましく、これらは単独で、または2種類以上の組み合わせとして用いられうる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例等を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例等によって限定されることはない。
【0127】
[物性の測定方法]
下記の合成例で得られた化合物の数平均分子量、および重量平均分子量の測定方法は、以下のとおりである。
【0128】
<数平均分子量および重量平均分子量の測定方法>
GPCを用いて測定した。使用機器は(製品名「HLC-8120GPC」東ソー社製)、使用カラムは(製品名「GF−7MHQ」、昭和電工社製)、展開溶媒としてテトラヒドロフラン、標準試料としてポリスチレンを用いた。
【0129】
[シラン化合物の製造例]
<合成例1>
ポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた500mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム103.7gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン177.6gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に80℃に反応液温度を維持しながらcis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物150.7gを30分かけて4分割投入した。投入終了後3時間でcis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
【0130】
続いて、脱イオン水53.4gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、6時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン7.9gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
【0131】
反応生成物は不揮発分74.3%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量測定したところ数平均分子量2041、重量平均分子量2838であった。H−NMR、13C−NMRを測定し、下記化学式(I)の化合物を含有することを確認した。
【0132】
H−NMR:0.25−0.55(bs、2H)、1.3−1.5(bs、2H)、2.0−2.5(dd、4H)、2.9−3.1(bs、2H)、3.2―3.35(bs、2H)、5.65−5.8(bs、2H)
13C−NMR:10.0、21.0、23.8、39.0、41.1、127.8、180.5
【0133】
【化16】

【0134】
<合成例2>
ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた300mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム35.1gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン30.8gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物28.2gを30分かけて4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
【0135】
続いて、脱イオン水9.3gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン1.4gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
【0136】
反応生成物は不揮発分58.2%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量測定したところ数平均分子量2340、重量平均分子量2570であった。H−NMR、13C−NMRを測定し、化学式(II)の化合物を含有することを確認した。
【0137】
H−NMR:0.25−0.45(bs、2H)、1.2−1.45(bs、2H)、1.47(dd、2H)、3.0−3.2(bs、4H)、3.4―3.6(bs、2H)、5.8−6.0(bs、2H)
13C−NMR:9.7、21.5、40.4、44.9、45.7、50.1、134.2、178.0
【0138】
【化17】

【0139】
<合成例3>
γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルトリメトキシシランとテトラメトキシシランとの加水分解共縮合体の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた300mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したN,N’−ジメチルホルムアミド98gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン58.0gおよびテトラメトキシシラン49.2gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物53.6gを30分かけて4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
【0140】
続いて、脱イオン水40.8gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン1.4gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
【0141】
反応生成物は不揮発分60.3%で濃褐色高粘度液体であり、H−NMR、13C−NMRを測定したところ、以下のピークが確認されたことから、生成物はγ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピル基を含有することが確認された。
【0142】
H−NMR:0.25−0.45(bs、2H)、1.2−1.45(bs、2H)、1.47(dd、2H)、3.0−3.2(bs、4H)、3.4―3.6(bs、2H)、5.8−6.0(bs、2H)
13C−NMR:9.7、21.5、40.4、44.9、45.7、50.1、134.2、178.0
さらに、粒度分布測定装置(装置名:LB−500、堀場製作所社製)を用いて粒度分布を測定したところ、生成物は平均粒径が8nmのナノ粒子であることが確認された。
【0143】
[樹脂組成物の調製例]
上記合成例1〜3で合成した3種のシラン化合物から、ロータリーエバポレーターを用いてジグライムを脱揮し、固形分を得た。その後、下記の表1に示す組成で混練機を用いて混合し、均一な樹脂組成物を得た。
【0144】
[接着強度試験およびヒートサイクル試験]
上記で調製した実施例および比較例の樹脂組成物について、銅接着強度試験をJIS K6850に準じて行った。なお、試験片の作製時の樹脂硬化温度は120℃×1時間+200℃×3時間とした。得られた結果を、25℃および200℃のそれぞれの接着強度の値として下記の表1に示す。
【0145】
また、上記の銅接着強度試験に用いた試験片を「−40℃×30分⇒200℃×30分のサイクルで500サイクル」の温度変化に曝すことで、ヒートサイクル試験を行った。得られた結果を下記の表1に示す。表1に示す結果においては、試験片の樹脂硬化物/銅界面で剥離が確認されず試験前後で変化のないものを○、界面での剥離や樹脂硬化物の亀裂が確認されて試験前後で変化が確認されたものを×とした。
【0146】
【表1】

【0147】
上記の表1に示すように、シラン化合物も含窒素環状化合物も配合しない場合(比較例1)や、複数の反応性官能基を持たない含窒素環状化合物を配合した場合(比較例2)には、室温(25℃)での接着強度についてはある程度高い値が確認された。しかしながら、高温(200℃)曝露時の接着強度は著しく低下してしまう。このため、ヒートサイクル試験に供すると膨張伸縮に伴う応力負荷によって、銅からの剥離や硬化物のわれが確認された。
【0148】
また、特許文献1で提案されているシラン化合物を配合しても含窒素環状化合物を配合しない場合(比較例3、比較例4)には、高温(200℃)曝露時のみならず、室温(25℃)での接着強度さえも十分ではなかった。当然、ヒートサイクル試験においても膨張伸縮に伴う応力負荷により、銅からの剥離が確認された。特許文献1では所定のシラン化合物の配合によって耐熱性が向上することが謳われているが、本願発明が課題とする別の意味での耐熱性(銅などの貴金属との接着強度の確保)については十分な性能を発揮できるものではないことが示された。
【0149】
これらの比較例に対して、実施例においてはいずれも、室温(25℃)および高温(200℃)曝露時の双方について、銅に対する硬化物の接着強度が高い値を示した。このように高温条件下での高い接着強度に由来して、ヒートサイクル試験に供しても試験前後で変化が確認されなかった。
【0150】
以上のことから、まず、本発明により提供される硬化性樹脂組成物は十分な耐熱性を備えていることがわかる。そのうえ、当該硬化性樹脂組成物は、硬化後においてもリードフレームや配線等を構成する貴金属(特に、銅またはその合金)などとの接着強度の低下が最小限に抑制されうる。このように、本発明によれば、半導体封止材等に用いられた場合に、真の意味で優れた耐熱性を発揮することが可能な硬化性樹脂組成物が提供されうるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)複数の反応性官能基を有し、複数の環窒素原子を有する含窒素環状化合物、
(B)下記平均組成式(B):
【化1】

式中、
Xは、それぞれ独立して、イミド結合を含む有機骨格を有する基を表し、
Yは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子およびOR基(ここで、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアシル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルケニル基、および置換または非置換のアルケニル基からなる群から選択される)からなる群から選択され、
Zは、それぞれ独立して、イミド結合を含まない有機基を表し、
a、b、cおよびdは、それぞれ、0<a≦3、0≦b<3、0≦c<3、0<d<2、かつ、a+b+c+2d=4を満足する、
で表され、前記有機基Xの少なくとも1つが、シロキサン結合を形成するケイ素原子に結合してなる構成単位を含む、シラン化合物、並びに、
(C)硬化性樹脂
を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記複数の反応性官能基の少なくとも2つが、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、ヒドロキシ基からなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)含窒素環状化合物が、トリアゾール骨格、トリアジン骨格、ベンゾトリアゾール骨格、イミダゾール骨格、およびチアゾール骨格からなる群から選択される骨格を含む、請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記含窒素環状化合物が、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、およびベンゾトリアゾール−4−カルボン酸からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項3に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記平均組成式(B)におけるXの係数aが、0.5≦a<3を満たす、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記平均組成式(B)におけるXが結合したケイ素原子の酸素原子との結合数が3である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記シロキサン結合を構成するケイ素原子の酸素原子との結合数が3である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記シラン化合物において、下記計算式(α):
【数1】

で求められるシラノール基量の割合が0.1以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記シラン化合物が、かご状の分子構造を持つものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(1):
【化2】

式中、
は、置換または非置換の芳香環、置換または非置換の複素環および置換または非置換の脂環からなる群から選択される構造を表し、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(2):
【化3】

式中、
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(3):
【化4】

式中、
〜RおよびR6’〜R9’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(4):
【化5】

式中、R10〜R15は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(5):
【化6】

式中、
16〜R21は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(6):
【化7】

式中、
22〜R25、R22’およびR25’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、ハロゲン原子および置換または非置換のアリール基からなる群から選択される基であり、
xおよびzは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
yは、0または1である、
で表される基を含む、請求項11に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項17】
前記平均組成式(B)におけるXが、下記化学式(7):
【化8】

式中、
26は、置換または非置換の芳香環、置換または非置換の複素環および置換または非置換の脂環からなる群から選択される構造を表す、
で表される基を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項18】
充填材をさらに含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物からなる半導体封止用樹脂組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる半導体装置。

【公開番号】特開2012−188629(P2012−188629A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55612(P2011−55612)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】