説明

磁性流体が封入されたダンパを備える構造体

【課題】磁性流体が封入されたダンパが支持体と被支持体との間に配置された構造体において、該ダンパによる振動減衰効果を向上させながら、被支持体を支持体に保持させるための作業の容易性の向上および構造体の構造の簡単化を図る。
【解決手段】構造体において、ダンパ4はドア3に設けられると共に、磁性流体20が封入された液室21を形成するケース22を備える液封ダンパである。車体2には、磁性流体20を磁化する磁石51,52から構成される磁石対が設けられる。ダンパ4は、ドア3の閉状態において、ダンパ4が車体2に当接していないときに比べて液室21の形状が変化する程度にドア3および車体2により押圧された状態で、車体2に当接する。磁石51,52は、ドア3が開状態から閉状態に移行した時点で、開状態のときよりも磁性流体20に対する磁場の強さを大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体が封入されたダンパが、支持体と該支持体に支持される被支持体との間に配置された構造体に関する。そして、該構造体において、支持体および被支持体は、例えば、それぞれ車両の車体およびドアである。
【背景技術】
【0002】
車両において、ドア用開口が設けられた車体と該ドア用開口を開閉可能に車体に取り付けられたドアとの間に配置されるウェザーストリップに液体が封入され、該ウェザーストリップにより、ドアに発生する振動を減衰させるものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、車両において、閉状態にあるドアと車体との間のシール性能を向上させるために、ウェザーストリップに封入された磁性流体を磁化する電磁石を備えたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、液封ダンパとして、内筒と外筒と該内筒および該外筒を連結する弾性壁とから構成されるケースにより形成される液室に、粘性流体から抗力を受ける抵抗体が配置され、液封ダンパの軸方向および該軸方向に直交する方向から入力される振動を減衰させるものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−25285号公報
【特許文献2】実開平4−136968号公報(請求項2,図4)
【特許文献3】特開平5−99267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、車両において、ドアが車体に閉位置で保持された閉状態で、ドアに取り付けられたダンパが、車体とドアとの間に配置される場合、ダンパによる振動減衰効果を高めるためには、ダンパと車体およびドアとが確実に当接状態にあることが好ましい。しかしながら、車体とドアとの相対位置については、公差や組付誤差などに基づく許容範囲でのバラツキの発生をなくすことは容易ではない。そして、該バラツキに起因して、車体とドアとの隙間が拡大し、ダンパと車体との間に遊びが形成されて、ダンパと車体との確実な当接状態が得られない場合には、ダンパによる振動減衰効果の低下を招来する。
【0005】
そこで、例えば、ドアが閉状態になる前の状態である開状態に置かれた時点で、ダンパが車体とオーバラップするようにダンパを配置することにより、ダンパと車体との確実な当接状態を得ることができる。しかしながら、この場合、開状態にあるドアが閉状態に移行するまでのドアの閉じ時に、車体とオーバラップしている部分だけ、ダンパを変形させる力が必要になるので、ドアを軽快に閉じることが妨げられて、ドアの閉まり性が低下する。したがって、一般的には、支持体(例えば、車体)に所定位置で保持される保持状態で支持される被支持体(例えば、車両用ドア)に関して、支持体へ保持状態で被支持体を保持するための作業(例えば、ドア閉じ作業)の容易性が低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、磁性流体が封入されたダンパが支持体と被支持体との間に配置された構造体において、該ダンパによる振動減衰効果を向上させながら、被支持体を支持体に保持させるための作業の容易性の向上および前記構造体の構造の簡単化を図ることを目的とする。
そして、本発明は、さらに、ダンパを備える構造体の小型・軽量化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、支持体(2)と、前記支持体(2)に所定位置で保持される保持状態と前記保持状態になる前の非保持状態とに置かれる被支持体(3)と、前記保持状態の前記被支持体(3)の振動を減衰させるダンパ(4)とを備える構造体において、前記ダンパ(4)は、前記支持体(2)および前記被支持体(3)の一方の部材に設けられると共に、磁性流体(20)が封入された液室(21)を形成するケース(22)を備える液封ダンパであり、前記支持体(2)および前記被支持体(3)の他方の部材には、前記磁性流体(20)を磁化する磁気発生体(51,52;56,57)が設けられ、前記ダンパ(4)は、前記保持状態において、前記ダンパ(4)が前記他方の部材に当接していないときに比べて前記液室(21)の形状が変化する程度に前記一方の部材および前記他方の部材により押圧された状態で、前記他方の部材に当接し、前記磁気発生体(51,52;56,57)は、前記被支持体(3)が前記非保持状態から前記保持状態に移行した時点で、前記非保持状態のときよりも前記磁性流体(20)に対する磁場の強さを大きくする構造体である。
【0008】
これによれば、被支持体が支持体に対して保持状態にあるとき、支持体および被支持体の一方の部材に設けられたダンパは、支持体および被支持体により押圧された状態で支持体および被支持体の他方の部材に当接することから、ダンパと支持体および被支持体との間に遊びが形成されないので、ダンパによる振動減衰効果が高められる。
また、磁性流体を磁化させる磁気発生体は、他方の部材に設けられて、被支持体が保持状態にあるときは、該被支持体が非保持状態にあるときに比べて磁場の強さを大きくするので、被支持体が非保持状態から保持状態へ移行するときのダンパによる抵抗を小さくできて、被支持体を所定位置に保持するための作業の容易性が向上する。
さらに、前記作業の容易性を向上させるために、ダンパの振動減衰性能を設定する磁気発生体を利用するので、前記作業の容易性を向上させるための専用の機構が不要になって、構造体の構造が簡単化される。
この結果、磁性流体が封入されたダンパが支持体と被支持体との間に配置された構造体において、ダンパによる振動減衰効果が向上すると共に、被支持体を支持体に保持させるための作業の容易性が向上し、さらに構造体の構造が簡単化される。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構造体において、前記磁気発生体(51,52;56,57)は、第1磁気発生体(51;56)および第2磁気発生体(52;57)であり、前記第1磁気発生体(51;56)および前記第2磁気発生体(52;57)は、前記第1磁気発生体(51;56)での前記液室(21)側の磁極(51a;56a)と前記第2磁気発生体(52;57)での前記液室(21)側の磁極(52a;57a)とが異なり、かつ前記第1磁気発生体(51;56)の前記磁極(51a;56a)と前記第2磁気発生体(52;57)の前記磁極(52a;57a)との間の磁束が、前記支持体(2)が前記保持状態にあるときの前記液室(21)を貫通するように配置されているものである。
これによれば、第1,第2磁気発生体による異なる磁極間での磁束が液室を貫通するので、液室内の磁性流体を効率よく磁化させることができて、所要の振動減衰性能を有するダンパを小型・軽量化でき、さらに磁性流体に対する磁場の強さを大きくすることが容易になる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の構造体において、前記第1磁気発生体(51;56)での前記液室(21)側とは反対側の磁極(51b;56b)と、前記第2磁気発生体(52;57)での前記液室(21)側とは反対側の磁極(52b;57b)とが、強磁性金属で形成された磁路形成部材(53)で連結されているものである。
これによれば、異なる磁極同士が磁路形成部材により連結されるので、第1,第2磁気発生体からの漏れ磁束が減少して、磁気発生体を小型化でき、ひいては構造体の小型・軽量化が可能になる。また、磁路形成部材が強磁性体の金属であるので、他方の部材の剛性が高められる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の構造体において、前記他方の部材は、前記被支持体(3)が前記保持状態のときに前記ダンパ(4)が当接する受け部(14)を有し、前記受け部(14)は、前記他方の部材の外表面を形成する表面形成部材の前記外表面側に設けられ、前記表面形成部材は、非磁性体により形成され、前記磁気発生体(51,52;56,57)は、前記表面形成部材の裏面側に配置されるものである。
これによれば、表面形成部材が非磁性体であるので、磁気発生体が設けられた表面形成部材による漏れ磁束が減少して、磁気発生体を小型化でき、ひいては構造体の小型・軽量化が可能になる。
また、磁力発生体が表面形成部材の裏面側に配置されることにより、磁気発生体が表面形成部材の外表面に露出することがないので、ダンパが当接する受け部が形成された表面形成部材の外観性が向上する。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の構造体において、前記ケース(22)は、内側部材(23)と、前記内側部材(23)との間に前記液室(21)を挟んで前記内側部材(23)を囲んで配置された外筒(24)と、前記内側部材(23)および前記外筒(24)を連結すると共に前記液室(21)を挟んで配置された1対の連結壁(28)とを備え、前記液室(21)は、前記内側部材(23)と前記外筒(24)と前記1対の連結壁(28)とにより筒状に形成され、前記外筒(24)は、前記他方の部材に当接すると共に、非磁性体により形成されているものである。
これによれば、外筒が非磁性体であるので、外筒を通じての磁束漏れが減少して、筒状の液室に対して磁束を通すことが容易になるので、液室内の磁性流体を効率よく磁化させることができて、所要の振動減衰性能を有するダンパを小型・軽量化でき、さらに磁性流体に対する磁場の強さを大きくすることが容易になる。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の構造体において、前記外筒(24)は、非磁性体から形成された筒状の本体(25)と、前記本体(25)における軸方向での端部および前記連結壁(28)が結合されると共に強磁性体により形成された1対の環状の端部部材(26,27)とを有し、前記端部部材(26,27)は、前記被支持体(3)が前記保持状態にあるとき、前記磁気発生体(51,52;56,57)と対向して配置されるものである。
これによれば、磁気発生体からの磁束を、強磁性体の端部部材を介して、筒状の液室の全周に渡って通すことができるので、液室内の磁性流体を効率よく磁化させることができ、または磁気発生体の数の削減が可能になって、所要の振動減衰性能を有するダンパを小型・軽量化できる。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1から6記載の構造体において、前記ケース(22)には、前記液室(21)内に突出していると共に、前記磁性流体(20)との間での相対的な移動により前記磁性流体(20)から抗力を受ける抵抗体(31,32)が設けられ、前記抵抗体(31,32)は、非磁性体により形成されているものである。
これによれば、液室を形成するケースに液室内に突出する抵抗体が設けられるので、ダンパによる振動減衰効果が高められる。また、抵抗体が非磁性体であるので、磁性流体との間での磁力の発生が防止されて、所要の振動減衰性能を得ることができる。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項記載の構造体において、前記被支持体(3)は周縁部(11)を有し、前記周縁部(11)は、回動中心線(Ld)を中心に回動可能に前記支持体(2)に支持される一方の縁部(11a)と、前記周縁部(11)のうちで前記回動中心線(Ld)に直交する方向で前記一方の縁部(11a)と対向する他方の縁部(11b)とを有し、前記ダンパ(4)は前記他方の縁部(11b)に配置されるものである。
これによれば、一方の縁部で回動可能となるように拘束された被支持体において、該被支持体の他方の縁部の変位がダンパにより抑制されるので、保持状態での被支持体の拘束力が高まり、被支持体の振動が抑制されると共に、被支持体が保持状態にあるときの支持体の剛性が高められる。
【0016】
請求項9記載の発明は、支持体(2)と、前記支持体(2)に所定位置で保持される保持状態と前記保持状態になる前の非保持状態とに置かれる被支持体(3)と、前記保持状態の前記被支持体(3)の振動を減衰させるダンパ(4)とを備える構造体において、前記ダンパ(4)は、前記支持体(2)および前記被支持体(3)の一方の部材に設けられると共に、磁性流体(20)が液室(21)に封入された液封ダンパであり、前記支持体(2)または前記被支持体(3)には、前記磁性流体(20)を磁化する磁気発生体(51,52;56,57)が設けられ、前記ダンパ(4)は、前記保持状態において、前記液室(21)の形状が、前記ダンパ(4)が前記支持体(2)および前記被支持体(3)の他方の部材に当接していないときに比べて変化する程度に前記一方の部材および前記他方の部材により押圧された状態で、前記他方の部材に当接し、前記磁気発生体(51,52;56,57)は、前記液室(21)での磁場の強さを制御すべく通電量が通電制御装置(60)により制御される電磁石であり、前記通電制御装置(60)は、前記被支持体(3)が前記非保持状態から前記保持状態に移行した時点で、前記非保持状態のときよりも前記磁性流体(20)に対する磁場の強さを大きくするように通電量を制御する構造体である。
これによれば、通電制御装置により制御される電磁石により、被支持体の保持状態および非保持状態に応じて磁性流体に対する磁場の強さが変更されて、請求項1と同様の作用効果が奏される。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の構造体において、前記ダンパ(4)および前記電磁石は、前記被支持体(3)に設けられるものである。
これによれば、ダンパおよび電磁石が支持体に設けられるので、被支持体が軽量化され、支持体に保持するための作業の容易性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁性流体が封入されたダンパが支持体と被支持体との間に配置された構造体において、該ダンパによる振動減衰効果が向上し、被支持体を支持体に保持させるための作業の容易性が向上し、前記構造体の構造の簡単化が可能になる。
さらに、本発明によれば、ダンパを備える構造体の小型・軽量化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態である構造体を備える自動車の要部の概略左側面図である。
【図2】図1の自動車において、(a)は、車体の要部の概略左側面図であり、(b)は、サイドドア(左フロントドア)の概略右側面図である。
【図3】図1の自動車に備えられるダンパを示し、(a)は、斜視図であり、(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図4】図1の自動車のサイドドアが閉状態にあるときの構造体の要部を、ダンパの軸方向から見た図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図1の実施形態の変形実施形態を示し、図4に相当する図である。
【図7】図1の実施形態の変形実施形態を示し、図3(b)に相当する図である。
【図8】図1の実施形態の変形実施形態を示し、図3(b)に相当する図である。
【図9】図1の実施形態の変形実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る構造体(以下、単に「構造体」という。)は、装置としての車両である自動車1に備えられる。
図2を併せて参照すると、構造体は、自動車1の構成部材である支持体としての車体2と、車体2に設けられた開口であるドア用開口2aを開閉可能であると共に該ドア用開口2aに対して移動可能な1以上の被支持体である開閉体としてのサイドドア3と、サイドドア3および車体2から入力される振動を減衰させる液封ダンパから構成されるダンパ4と、ダンパ4に封入された磁性流体20(図3(b)参照)を磁化させる磁気発生体としての磁石51,52(図5参照)を有する磁気発生部材5(図5参照)とを備える。
この磁性流体20は、磁性流体20に対する磁場の強さが大きいほど、粘度が大きくなる。
【0021】
ドアとしてのサイドドア3(以下、「ドア3」という。)は、ヒンジ6により車体2に支持されて上下方向に延びている回動中心線Laを中心に回動可能な回動式のドアである。ドア3は、この実施形態では、左右の1対のフロントドア3aおよび左右の1対のリアドア3bとして使用されている。なお、図1には、左側のドア3のみが示されている。
【0022】
なお、実施形態において、上下方向、前後方向および左右方向は、自動車1を基準としたときの方向であるとする。また、「方向に延びている」旨の表現は、該方向に平行に延びている場合および該方向に傾斜して延びている場合を含むとする。
【0023】
車体2は、各ドア3により開閉される4つのドア用開口2aのそれぞれを形成する4つの支持側周縁部10(図1には、左側の周縁部10が示されている。)を有する。車体2の外表面7aを形成する表面形成部材としてのアウタパネル7の一部である周縁部10は、回動中心線Laを規定する部材であると共に車体2にドア3を取り付ける取付部材としてのヒンジ6がドア3との間で跨って設けられる一方の縁部である前縁部10aと、周縁部10のうちで回動中心線Laに直交する方向(以下、単に「直交方向」という。)で前縁部10aと対向する他方の縁部としての後縁部10bと、前記直交方向において前縁部10aと後縁部10bとの間に位置すると共に回動中心線Laに平行な方向(または、上下方向)で対向する1対の縁部である上縁部10cおよび下縁部10dとを有する。したがって、ドア3は前縁部10aにおいて回動可能となる状態で拘束されている。
【0024】
ドア3は、周縁部10に対して所定位置としての閉位置に保持される保持状態としての閉状態と、閉じ状態になる前の非保持状態としての開状態とに置かれる。そして、ドア3は、閉状態にあるとき、ドアロック機構9(図2(a)には、該ドアロック機構9の構成部材であるストライカ9aが示されている。)により施錠されて、車体2に閉状態に保持される。
なお、以下の説明において、単に「閉状態」および「開状態」との表現は、ドア3がそれぞれ閉状態および開状態にあることを意味する。
【0025】
ドア3は、閉状態のときに支持側嵌合部としての周縁部10に嵌合状態になる被支持側嵌合部としての被支持側周縁部11を有する。ドア3の内側での外表面を形成する表面形成部材としてのインナパネル8の一部である周縁部11は、ヒンジ6が設けられると共に前記直交方向での一方の縁部としての前縁部11aと、周縁部11のうちで前記直交方向で前縁部11aと対向する他方の縁部としての後縁部11bと、前記直交方向において前縁部11aと後縁部11bとの間に位置すると共に回動中心線Laに平行な方向で対向する1対の縁部である上縁部11cおよび下縁部11dとを有する。
したがって、車体2の周縁部10の前縁部10a、後縁部10b、上縁部10cおよび下縁部10dは、ドア3の周縁部11の前縁部11a、後縁部11b、上縁部11cおよび下縁部11dに、それぞれ対応する。
【0026】
車体2およびドア3のいずれか一方の部材としてのドア3には、少なくとも1つ、ここでは3つのダンパ4が固定されて設けられる。各ダンパ4は、後縁部11bにおいて、回動中心線Laに平行な方向で、インナパネル8の最上部近傍であって窓部3cに最も近い第1部位3uと、インナパネル8の最下部近傍であってドア3の最低部に最も近い第2部位3dと、第1,第2部位3u,3dの間の第3部位3mに配置される。
一方、車体2およびドア3のいずれか他方の部材としての車体2は、閉じ状態のときにダンパ4が当接する被当接部としての受け部14を、ダンパ4と同数有している。各受け部14は、ダンパ4の位置に対応して、後縁部10bにおいて、第1〜第3部位3u,3d,3mに対応する第1〜第3部位2u,2d,2mに配置される。
そして、第1部位2u,3uは、ウエストラインの近傍であり、第2部位2d,3dは下縁部10,11の近傍であり、第3部位2m,3mはドアロック機構9の近傍である。
【0027】
図3を参照すると、ダンパ4の中心軸線としてのダンパ軸線Ldを有すると共に柱状としての円柱状のダンパ4は、磁性流体20が封入された液室21を形成するケース22と、密封された液室21内に配置されて磁性流体20との間の相対移動により抗力を受ける抵抗体としてのディスク31,32とを備える。1以上の、ここでは複数としての3つのディスク31,32から構成されるディスク群は、ダンパ4に伝達された振動がケース22を介して伝達されるように、ケース22に固定されて設けられると共に該ケース22から径方向に延びている突出部である。
各ディスク31,32は、ケース22または液室21の形状変化による磁性流体20の流動に起因する磁性流体20との間の相対移動により、磁性流体20に流動抵抗を生じさせること、ディスク31,32の形状により流体圧力差が生じること、および磁性流体20との接触により摩擦力(または、磁性流体20の剪断抵抗力)が生じることに基づく抗力を受ける。
【0028】
ケース22は、ダンパ軸線Ldに平行な第1方向としての軸方向に液室21を貫通して延びている第1部材である内側部材としての円筒状の内筒23と、径方向で内筒23との間に液室21を挟んで配置される第2部材である外側部材としての円筒状の外筒24と、同軸に配置された内筒23と外筒24とを連結すると共に軸方向で液室21を挟んで離隔して配置される1以上の、ここでは1対の連結壁としての弾性壁28とを備える。外筒24は内筒23を囲んで該内筒23と同軸に配置され、ダンパ軸線Ldは内筒23および外筒24の中心軸線である。
なお、径方向および周方向は、それぞれダンパ軸線Ldを中心とする径方向および周方向であるとし、さらに軸方向(したがって、ダンパ軸線Ld)に直交する方向を第2方向としての軸直交方向であるとする。したがって、径方向は軸直交方向に含まれる。
【0029】
内筒23は、後縁部11が有する結合部12(図2(b),図4,図5参照)に結合手段としてのボルト13aおよびナット13b(図5参照)により結合されて着脱可能に取り付けられる。したがって、内筒23は、ダンパ4におけるドア3への取付部である。なお、別の例として、前記結合手段は溶接でもよい。
【0030】
内径が内筒23の外径よりも大きい外筒24は、円筒状の本体25と、軸方向での本体25の両端部に、結合手段としての複数のボルト29によりそれぞれ固定されて設けられた環状または円筒状の1対の第1,第2端部部材26,27とを有する。各端部部材26,27には弾性壁28が設けられることから、端部部材26,27は、弾性壁28と本体25とを連結する連結部材でもある。
【0031】
液室21の全体または大部分は、内筒23、本体25および1対の弾性壁28により、筒状、ここでは円筒状に形成される。
環状としての円環状の1対の弾性壁28は、ゴム状弾性を有する弾性材料(例えば、ゴム)から形成されて弾性変形可能であり、その内周部で内筒23に結合され、その外周部で端部部材26,27にそれぞれ結合される。
【0032】
前記ディスク群は、内周部31iが内筒23に固定されて設けられると共に内筒23から径方向外方に延びていて外周部31oが自由端である1以上の、ここでは1つの円環状の内側ディスク31と、外周部32oが本体25に固定されて設けられると共に本体25から径方向内方に延びていて内周部32iが自由端である1以上の、ここでは複数としての2つの円環状の外側ディスク32とを有する。
内側ディスク31および外側ディスク32は、軸方向に間隔をおいて交互に配置されると共に径方向および全周で互いに重なる重合部分を有するように配置されている。
【0033】
図4,図5を参照すると、アウタパネル7の一部である各受け部14は、後縁部10bの段部に切欠き形状に設けられ(図2(a)も参照)、かつダンパ4が収容される収容空間40を形成する凹部により構成される。受け部14は、ドア3(図1参照)が閉状態のときに、端部部材26がその当接部26aにて軸方向またはドア3の開閉方向で押圧した状態で当接する底壁41と、底壁41に連なる周壁42とを有する。周壁42には、ドア3が閉状態のときを含めて、本体25および各端部部材26,27がそれぞれの当接部25c,26c、27cにて径方向で押圧した状態で当接する。したがって、外筒24は、受け部14との、軸方向での当接部26aと、径方向での当接部25c,26c、27cとを有する。
【0034】
ここで、ドア3の開閉方向は、特に断らない限り、開状態でダンパ4が受け部14との当接を開始するときのドア3の位置(図5において、端部部材26が案内面43aに当接したときの位置である。)を閉状態近傍位置とするとき、ドア3が該閉状態近傍位置から閉位置までの位置を占めるときの開閉方向であるとし、閉状態での軸方向にほぼ一致する。
【0035】
また、閉状態で、ダンパ4に対して径方向(または、閉状態でのダンパ4の軸直交方向、および、ドア3の開閉方向に直交する方向でもある。)に位置する周壁42は、ドア3が開状態から閉状態に移行するときであって、ダンパ4が受け部14に進入を開始する際に、端部部材26が当接する案内面43aを有する案内部43を有する。案内面43aは、ドア3の開方向に向かって拡開するテーパ面で形成された傾斜面である。ダンパ4は、この案内面43aにより、案内されて円滑に受け部14に進入する。
【0036】
端部部材26,27は、閉状態にあるドア3により、ドア3の開閉方向または軸方向で底壁41に向かって押圧され、したがってダンパ4がドア3および受け部14により押圧されている。このため、図5に示されるように、内筒23および内側ディスク31,32は、ダンパ4が受け部14に当接していない状態(図3(b)に示され、図5に一部が二点鎖線で示されており、以下、「自然状態」という。)であるときに比べて、外筒24に対して、ドア3の開閉方向での閉方向に(図5において下方)に変位した位置を占める。
【0037】
また、ドア3に設けられたダンパ4と車体2に設けられた受け部14とは、ダンパ4が自然状態にあるとき、ドア3の開閉方向から見て、外筒24と周壁42とにおいてオーバラップする位置関係にある。
このため、閉状態で、ダンパ4は、内筒23が取り付けられたドア3と、外筒24が当接する周壁42を有する車体2とにより、径方向で押圧された状態にある。このため、図5に示されるように、外筒24は、外側ディスク32と共に、ダンパ4が自然状態にあるときに比べて、ダンパ軸線Ldおよび内筒23に対して周壁42が位置する側とは反対側(図5において左方)に変位した位置を占める。このとき、外筒24の外周面の一部である各当接部25c,26c,27cは、ダンパ4が自然状態であるときに比べて、径方向でのダンパ軸線Ldとの距離が小さくなり、各当接部25c,26c,27cがダンパ軸線Ldおよび内筒23に径方向で近づいた位置にある。
【0038】
このように、ドア3が閉状態にあるとき、ダンパ4は、ケース22および液室21の形状が、ダンパ4が自然状態であるときに比べて変化する程度にドア3および車体2の受け部14により押圧されて、変形し、液室21の容積が変化する。
【0039】
受け部14に設けられる磁気発生部材5は、受け部14において、ダンパ4が位置する外表面7a側とは反対側の裏面7b側に配置された1以上の、ここでは複数としての10個の永久磁石からなる磁石51,52により構成される磁石群と、軸方向に離隔して配置された1対の磁石である磁石対50を構成する第1磁石51および第2磁石52を連結する連結部材としての磁路形成部材53とを有する。前記磁石群は、1組以上、ここでは複数組としての5組の磁石対50により構成される。
【0040】
各磁石対50における第1,第2磁石51,52は、周方向でほぼ同じ角度位置に配置され、さらに第1磁石51での液室21側の磁極51a(例えば、S極)と第2磁石52での液室21側の磁極52a(例えば、N極)とが異なり、かつ磁極51aと磁極52aとの間の磁束が、ドア3が閉状態にあるときの液室21を貫通する位置、この実施形態では軸方向に貫通する位置に配置されている。
また、板状の磁路形成部材53は、磁石51の、液室21側とは反対側の磁極51b(例えば、N極)と、磁石52の、液室21側とは反対側の磁極52b(例えば、S極)とを連結している。
【0041】
底壁41に固定されて設けられる磁石51は、底壁41の裏面41bに面接触で接触しており、周壁42に固定されて設けられる磁石52は、周壁42に裏面42bに面接触で接触している。
そして、ドア3の閉状態では、端部部材26は、軸方向で、底壁41を挟んで、かつドア3が開状態から閉状態に移行する過程における最大の対向面積で、磁石51と対向しており、また端部部材27は、径方向で、周壁42を挟んで、かつドア3が開状態から閉状態に移行する過程における最大の対向面積で、磁石52と対向している。
さらに、ドア3の閉状態では、軸方向での端部部材26と磁石51との距離は、開状態から閉状態に移行する過程における最小距離となっており、径方向での端部部材27と磁石52との距離は、開状態から閉状態に移行する過程における最小距離となっている。
また、開状態と閉状態との間でのドア3の開閉時に、ダンパ4が自然状態(図3b参照)と、ダンパ4が受け部14により押圧された押圧状態(例えば、図5に示される状態)とに切換わるときのドア3の位置である前記閉状態近傍位置を押圧開始位置とし、ドア3が前記押圧状態にある閉位置(図5に示される位置である。)を押圧完了位置とするとき、該押圧完了位置では、磁石51と端部部材26,27の当接部26a,26c,27c全体とが、そして、磁石52と端部部材27の当接面27c全体とが、径方向および軸方向のいずれにおいても、前記押圧開始位置でのときよりも互いに近接した位置にある。
【0042】
第1,第2磁石51,52のこのような配置により、開状態から閉状態に移行した時点で、磁石51,52により形成される磁性流体20に対する磁場の強さは、開状態のときよりも閉状態であるときのほうが大きく、閉状態で最大になる。
【0043】
以下、ダンパ4、受け部14および磁気発生部材5等の形成材料について説明する。
内筒23、本体25、各ディスク31,32、アウタパネル7、各ボルト13a,29およびナット13bは、非磁性体(例えば、非磁性金属(例えば、アルミニウム、マグネシウムが含まれる。)、樹脂、複合材料が含まれる。)により形成される。したがって、受け部14は非磁性体で形成され、底壁41および周壁42は非磁性体で形成されている。内筒23および本体25は、その剛性を高めるために、非磁性金属により形成されることが好ましい。
受け部14の形成部材であるアウタパネル7は、非磁性体で形成されていることから、底壁41および周壁42は非磁性体で形成されている。
各端部部材26,27および磁路形成部材53は、強磁性体(例えば、強磁性金属である鉄、ニッケルが含まれる。)により形成される。各端部部材26,27は、該端部部材26,27および本体25の剛性を高めるために、また磁路形成部材53は、受け部14の剛性を高めるために、いずれも強磁性金属により形成されることが好ましい。
弾性壁28を形成している弾性材料は、非磁性体であってもよいし、強磁性体であってもよい。強磁性体である場合には、磁性流体20に対する磁場の強さを一層大きくすることができる。
また、各ディスク31,32は、前記弾性材料により形成されてもよい。これにより、ディスク31,32同士の当接やディスク31,32と内筒23、外筒24または弾性壁28との当接が生じた場合に、該当接による破損や当接音の発生が抑制される。
【0044】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
ダンパ4は、軸方向と、径方向(または軸直交方向)と、内筒23の周りの周方向との各方向に弾性変形可能である。そして、ドア3が閉状態にあるとき、ダンパ4に対して軸方向から入力される第1振動としての振動に対しては、主に、各ディスク31,32が軸方向に相対的に移動する際に、各ディスク31,32により磁性流体20に流動抵抗が発生し、また各ディスク31,32の形状による圧力差に基づく抗力に作用して、振動が減衰する。また、径方向から入力される第2振動としての振動に対しては、各ディスク31,32が径方向に相対的に移動する際に磁性流体20の摩擦力に基づく抗力が各ディスク31,32に作用して、振動が減衰する。
このため、ダンパ4により、ドア3および車体2の振動が減衰し、さらにドア3と車体2との間での振動の伝達が抑制されて、ドア3および車体2の振動が低減する。
【0045】
そして、構造体において、ダンパ4はドア3に設けられると共に、磁性流体20が封入された液室21を形成するケース22を備える液封ダンパであり、車体2には、磁性流体20を磁化する第1,第2磁石51,52から構成される磁石対50が設けられ、ダンパ4は、ドア3の閉状態において、ダンパ4が車体2の受け部14に当接していないときに比べて液室21の形状が変化する程度にドア3および受け部14により押圧された状態で、受け部14に当接し、各磁石51,52は、移動するドア3に対して、該ドア3が開状態から閉状態に移行した時点で、開状態のときよりも磁性流体20に対する磁場の強さを大きくするように配置されている。
この構造により、ドア3が車体2に対して閉状態にあるとき、ダンパ4は受け部14およびドア3により押圧された状態で受け部14に当接することから、ダンパ4と受け部14およびドア3との間に遊びが形成されないので、ダンパ4による振動減衰効果が高められる。
また、磁性流体20を磁化させる各磁石51,52は、受け部14に設けられて、ドア3が閉状態にあるときは、ドア3が開状態にあるときに比べて磁性流体20に対する磁場の強さを大きくするので、ドア3が開状態から閉状態へ移行するときのダンパ4による抵抗を小さくできて、ドア3を閉位置において閉状態に保持するための作業の容易性が向上し、したがってドア3の閉まり性が向上して、ドア閉めの軽快さを確保できる。
さらに、ドア閉じ作業の容易性を向上させるために、ダンパ4の振動減衰性能を設定する磁石51,52を利用するので、ドア閉じ容易性を向上させるための専用の機構が不要になって、構造体の構造が簡単化される。
この結果、磁性流体20が封入されたダンパ4が車体2とドア3との間に配置された構造体において、ダンパ4による振動減衰効果が向上すると共に、ドア閉じ作業の容易性が向上し、さらに構造体の構造が簡単化される。
【0046】
磁性流体20を磁化する磁石は、第1磁石51および第2磁石52であり、第1,第2磁石51,52は、磁石51の液室21側の磁極51aと磁石52の液室21側の磁極52aとが異なり、かつ磁極51aと磁極52aとの間の磁束が、ドア3が閉状態にあるときの液室21を貫通するように配置されている。
この構造により、第1,第2磁石51,52による異なる磁極51a,52a間での磁束が液室21を貫通するので、液室21内の磁性流体20を効率よく磁化させることができて、所要の振動減衰性能を有するダンパ4を小型・軽量化でき、さらに磁性流体20に対する磁場の強さを大きくすることが容易になる。
【0047】
第1磁石51の、液室21側とは反対側の磁極51bと、第2磁石52の、液室21側とは反対側の磁極52bとが、強磁性金属で形成された磁路形成部材53で連結されていることにより、異なる磁極51b,52b同士が磁路形成部材53により連結されるので、両磁石51,52からの漏れ磁束が減少して、各磁石51,52を小型化でき、ひいては構造体の小型・軽量化が可能になる。また、磁路形成部材53が強磁性体の金属であるので、受け部14の剛性が高められる。
【0048】
車体2は、ドア3が閉状態のときにダンパ4が当接する受け部14を有し、受け部14は、車体2の外表面7aを形成するアウタパネル7の外表面7a側に設けられ、アウタパネル7は、非磁性体により形成され、第1,第2磁石51,52は、アウタパネル7の裏面7b側に配置される。
この構造により、アウタパネル7が非磁性体であるので、各磁石51,52が設けられたアウタパネル7による漏れ磁束が減少して、各磁石51,52を小型化でき、ひいては構造体の小型・軽量化が可能になる。また、磁石51,52がアウタパネル7の裏面7b側に配置されることにより、磁石51,52がアウタパネル7の外表面7aに露出することがないので、ダンパ4が当接する受け部14が形成されたアウタパネル7の外観性が向上する。
別の例として、各磁石51,52が設けられた受け部14での漏れ磁束を減少させるためには、アウタパネル7において、少なくとも受け部14を形成する部分が非磁性体で形成されていてもよい。
【0049】
ダンパ4のケース22は、内筒23と、内筒23との間に液室21を挟んで内筒23を囲んで配置された外筒24と、内筒23および外筒24を連結すると共に液室21を挟んで配置された1対の弾性壁28とを備え、液室21は、内筒23と外筒24と1対の弾性壁28とにより円筒状に形成され、外筒24は、車体2の受け部14に当接すると共に、非磁性体により形成されている。
この構造により、外筒24が非磁性体であるので、外筒24を通じての磁束漏れが減少して、円筒状の液室21に対して磁束を通すことが容易になるので、液室21内の磁性流体20を効率よく磁化させることができて、所要の振動減衰性能を有するダンパ4を小型・軽量化でき、さらに磁性流体20に対する磁場の強さを大きくすることが容易になる。
【0050】
外筒24は、非磁性体から形成された筒状の本体25と、本体25における軸方向での端部および連結壁が結合されると共に強磁性体により形成された1対の環状の端部部材26,27とを有し、第1,第2端部部材26,27は、ドア3が閉状態にあるとき、第1,第2磁石51,52とそれぞれ対向して配置される。
この構造により、各磁石51,52からの磁束を、対応する強磁性体の各端部部材26,27を介して、筒状の液室21の全周に渡って通すことができるので、液室21内の磁性流体20を効率よく磁化させることができ、または磁石51,52の数の削減が可能になって、所要の振動減衰性能を有するダンパ4を小型・軽量化できる。
また、端部部材26,27が、強磁性体の金属であることで、環状の端部部材26,27により、本体25の剛性を高め、ひいては外筒24の剛性を高めることができる。
【0051】
ケース22には、液室21内に突出していると共に、磁性流体20との間での相対的な移動により磁性流体20から抗力を受ける複数のディスク31,32から構成されるディスク群が設けられ、各ディスク31,32は、非磁性体により形成されていることにより、ダンパ4による振動減衰効果が高められる。また、ディスク31,32が非磁性体であるので、磁性流体20との間での磁力の発生が防止されて、所要の振動減衰性能を得ることができる。
【0052】
ドア3の周縁部11は、回動中心線Laを中心に回動可能に車体2に支持される前縁部11aと、周縁部11のうちで回動中心線Laに直交する方向で前縁部11aと対向する後縁部11bとを有し、ダンパ4は後縁部11bに配置される。
この構造により、前縁部11aで回動可能となるように拘束されたドア3において、該ドア3の後縁部11bの変位がダンパ4により抑制されるので、閉状態でのドア3の拘束力が高まり、ドア3の振動が抑制されると共に、ドア3が閉状態にあるときの車体2の剛性が高められる。さらに、ダンパ4がインナパネル8の最上部近傍および最下部近傍に配置されることで、閉じ状態でのドア3の拘束性が向上する。
【0053】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した変形実施形態について、変更した構成に関して説明する。なお、以下の変形実施形態において、前記実施形態での部材と同じ部材または対応する部材には、前記実施形態での符号と同じ符号が付されている。
図6に示されるように、受け部14の周壁42の裏面42b側に、周方向に離隔して配置された第1磁石56および第2磁石57から構成される磁石対55の1組のみが、円筒状の液室21の最大外径にほぼ等しい間隔を置いて、かつドア3が閉状態にあるときに径方向で端部部材27と対向して配置されてもよい。この場合、磁極56a(例えば、N極)と磁極57a(例えば、S極)との間の磁束が、ドア3が閉状態にあるときの液室21を、径方向に貫通して通る位置に配置されている。
これにより、第1,第2磁石56,57による異なる磁極56a,57a間での磁束が液室21をダンパ軸線Ld付近で径方向に貫通するので、液室21内の磁性流体20を効率よく磁化させることができて、所要の振動減衰性能を有するダンパ4を小型・軽量化でき、さらに磁性流体20に対する磁場の強さを大きくすることが容易になる。
また、前記実施形態と同様に、磁極56b(例えば、S極)と磁極57b(例えば、N極)とを連結する磁路形成部材が設けられてもよく、また、第1,第2磁石56,57は、ドア3が閉状態にあるときに径方向または軸方向で端部部材26と対向して配置されてもよい。
【0054】
図7に示されるように、内側ディスク31の外周部31oに、軸方向に突出して延びている突出部としてのフランジ部31aが設けられてもよい。これにより、径方向での内筒23および外筒24の相対移動時に、内筒23および外筒24の少なくとも一方に作用する抗力が大きくなって、径方向から入力される振動の減衰性能が向上する。
なお、外側ディスク32の内周部32iに、突出部としてのフランジ部31aと同様に、突出部としてのフランジ部が設けられてもよい。また、フランジ部は、内側ディスク31において外周部31o以外の部分であってもよく、また内側ディスク32において内周部32i以外の部分であってもよい。
【0055】
図8に示されるように、ダンパ4の内側ディスク31および外側ディスク32が、合成樹脂や金属(例えば、鋼)の薄膜から構成されて、内側ディスク31および外側ディスク32が4層以上の多数層を構成するように、交互に配置されてもよい。これにより、磁性流体20の流動抵抗および各ディスク31,32が受ける抗力が大きくなって、振動減衰性能が向上する。また、各ディスク31,32が可撓性であることにより、ディスク31,32同士の当接やディスク31,32と内筒23、外筒24または弾性壁28との当接が生じた場合に、該当接による破損や当接音の発生が抑制される。
【0056】
図9に示されるように、磁石51,52;56,57が、永久磁石の代わりに電磁石から構成されて、自動車1(図1参照)が該電磁石への通電量を制御する通電制御装置60を備えていてもよい。この場合、通電制御装置60は、タッチセンサや移動量としての回動量を検出する回動量検出手段などから構成されてドア3の閉状態を検出する保持状態検出手段としての開度状態検出手段61(例えば、ドアスイッチ)と、開度状態検出手段61からの検出信号が入力される制御部62とを備える。コンピュータから構成される制御部62は、開度状態検出手段61により検出されるドア3(図1参照)の開状態または閉状態に応じて電磁石への通電量を制御する。
そして、制御部62は、開度状態検出手段61が開状態を検出したときは、電磁石への通電を停止し、ドア3が開状態から閉状態へ移行した時点で、開度状態検出手段61が閉状態を検出したときに、電磁石に通電して磁束を発生させる。
このように、磁性流体20(図5参照)を磁化する磁石51,52;56,57が、磁性流体20に対する磁場の強さを制御すべく通電量が通電制御装置60により制御される電磁石であり、通電制御装置60は、ドア3が開状態から閉状態に移行した時点で、開状態のときよりも磁性流体20に対する磁場の強さを大きくするように通電量を制御する。
この構造により、通電制御装置60により制御される電磁石で、ドア3の閉状態および開状態に応じて磁性流体20に対する磁場の強さが変更されて、前記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0057】
そして、開度状態検出手段61によりドア3の開状態が検出されたときに電磁石への通電を停止し、閉状態が検出されたときに電磁石に通電することにより、電磁石は、開状態では磁性流体20を磁化することなく、閉状態においてのみ磁性流体20を磁化するので、ドア3の閉まり性は、磁石51,52;56,57が永久磁石である場合よりも向上する。
また、ダンパ4および電磁石が受け部14に設けられてもよく、その場合には、ダンパ4および電磁石が車体2に設けられるので、ドア3が軽量化される。
別の例として、開度状態検出手段61が開状態を検出しているときに、閉状態での通電量よりも少ない通電量で電磁石への通電を行ってもよい。このようにすることで、ダンパ4と受け部14との当接開始時の衝撃を、電磁石に対する通電が行われない場合に比べて磁性流体20の粘度がやや大きくなっているダンパ4により低減される。
さらに、磁石51,52;56,57が電磁石で構成される場合、車速センサやドア3に設けられた加速度センサにより車速や加速度を検出し、車速や加速度が大きくなったときに、磁性流体20に対する磁場の強さがより大きくなるように電磁石の通電量を制御して、ダンパ4の減衰力を高めてもよい。これにより、車速や加速度が大きくなったときに発生することがあるドア3の振動を低減できる。
【0058】
さらに、別の変形実施形態を以下に説明する。
永久磁石からなる磁石51,52、または電磁石以外の磁気発生体が、アクチュエータにより駆動されて移動可能であり、ドア3が開状態にあるとき、閉状態であるときよりも液室21から離隔した位置を占め、閉状態になったとき、液室21に近接するように前記アクチュエータにより移動させられてもよい。この場合、磁石51,52または磁気発生体を有する磁気発生部材5およびダンパ4は、ドア3および車体2の一方のみに設けられてもよい。
磁気発生体は、磁石51,52以外に、磁石等により磁化される磁性体により形成される部材であってもよい。
外筒24の全体が非磁性体で形成されてもよく、その場合も外筒24を通じての漏れ磁束が減少する。
自動車1に備えられるドアは、前記したヒンジ式のドア3以外に、スライド式のドアや跳ね上げ式のドア(例えば、テールゲート)であってもよい。この場合、例えば、前記閉状態近傍位置での開閉方向または軸方向は前後方向であり、軸直交方向には上下方向および左右方向が含まれる。開閉体は、サンルーフであってもよい。
車両において、開閉体は、フードや収納ボックスのカバーであってもよく、さらに被支持体は、開閉体以外に、支持体に支持される部材であってもよい。
受け部は、車体の表面形成部材としてのガーニッシュの一部により構成されてもよい。
ダンパ4が一方の部材としての車体2に設けられ、受け部が他方の部材としてのドア3に設けられてもよく、この場合にも前記実施形態と同様の作用および効果が奏される。
本発明の構造体は、車両以外の乗り物、または乗り物以外の装置に備えられてもよい。
【符号の説明】
【0059】
2 車体
3 サイドドア
4 ダンパ
5 磁気発生部材
14 受け部
20 磁性流体
21 液室
22 ケース
23 内筒
24 外筒
28 弾性壁
25 本体
26,27 端部部材
31,32 ディスク
51,52,56,57 磁石
53 磁路形成部材
60 通電制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体に所定位置で保持される保持状態と前記保持状態になる前の非保持状態とに置かれる被支持体と、前記保持状態の前記被支持体の振動を減衰させるダンパとを備える構造体において、
前記ダンパは、前記支持体および前記被支持体の一方の部材に設けられると共に、磁性流体が封入された液室を形成するケースを備える液封ダンパであり、
前記支持体および前記被支持体の他方の部材には、前記磁性流体を磁化する磁気発生体が設けられ、
前記ダンパは、前記保持状態において、前記ダンパが前記他方の部材に当接していないときに比べて前記液室の形状が変化する程度に前記一方の部材および前記他方の部材により押圧された状態で、前記他方の部材に当接し、
前記磁気発生体は、前記被支持体が前記非保持状態から前記保持状態に移行した時点で、前記非保持状態のときよりも前記磁性流体に対する磁場の強さを大きくすることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記磁気発生体は、第1磁気発生体および第2磁気発生体であり、
前記第1磁気発生体および前記第2磁気発生体は、前記第1磁気発生体での前記液室側の磁極と前記第2磁気発生体での前記液室側の磁極とが異なり、かつ前記第1磁気発生体の前記磁極と前記第2磁気発生体の前記磁極との間の磁束が、前記支持体が前記保持状態にあるときの前記液室を貫通するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記第1磁気発生体での前記液室側とは反対側の磁極と、前記第2磁気発生体での前記液室側とは反対側の磁極とが、強磁性金属で形成された磁路形成部材で連結されていることを特徴とする請求項2記載の構造体。
【請求項4】
前記他方の部材は、前記被支持体が前記保持状態のときに前記ダンパが当接する受け部を有し、
前記受け部は、前記他方の部材の外表面を形成する表面形成部材の前記外表面側に設けられ、
前記表面形成部材は、非磁性体により形成され、
前記磁気発生体は、前記表面形成部材の裏面側に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の構造体。
【請求項5】
前記ケースは、内側部材と、前記内側部材との間に前記液室を挟んで前記内側部材を囲んで配置された外筒と、前記内側部材および前記外筒を連結すると共に前記液室を挟んで配置された1対の連結壁とを備え、
前記液室は、前記内側部材と前記外筒と前記1対の連結壁とにより筒状に形成され、
前記外筒は、前記他方の部材に当接すると共に、非磁性体により形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の構造体。
【請求項6】
前記外筒は、非磁性体から形成された筒状の本体と、前記本体における軸方向での端部および前記連結壁が結合されると共に強磁性体により形成された1対の環状の端部部材とを有し、
前記端部部材は、前記被支持体が前記保持状態にあるとき、前記磁気発生体と対向して配置されることを特徴とする請求項5記載の構造体。
【請求項7】
前記ケースには、前記液室内に突出していると共に、前記磁性流体との間での相対的な移動により前記磁性流体から抗力を受ける抵抗体が設けられ、
前記抵抗体は、非磁性体により形成されていることを特徴とする請求項1から6記載の構造体。
【請求項8】
前記被支持体は周縁部を有し、
前記周縁部は、回動中心線を中心に回動可能に前記支持体に支持される一方の縁部と、前記周縁部のうちで前記回動中心線に直交する方向で前記一方の縁部と対向する他方の縁部とを有し、
前記ダンパは前記他方の縁部に配置されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の構造体。
【請求項9】
支持体と、前記支持体に所定位置で保持される保持状態と前記保持状態になる前の非保持状態とに置かれる被支持体と、前記保持状態の前記被支持体の振動を減衰させるダンパとを備える構造体において、
前記ダンパは、前記支持体および前記被支持体の一方の部材に設けられると共に、磁性流体が液室に封入された液封ダンパであり、
前記支持体または前記被支持体には、前記磁性流体を磁化する磁気発生体が設けられ、
前記ダンパは、前記保持状態において、前記液室の形状が、前記ダンパが前記支持体および前記被支持体の他方の部材に当接していないときに比べて変化する程度に前記一方の部材および前記他方の部材により押圧された状態で、前記他方の部材に当接し、
前記磁気発生体は、前記液室での磁場の強さを制御すべく通電量が通電制御装置により制御される電磁石であり、
前記通電制御装置は、前記被支持体が前記非保持状態から前記保持状態に移行した時点で、前記非保持状態のときよりも前記磁性流体に対する磁場の強さを大きくするように通電量を制御することを特徴とする構造体。
【請求項10】
前記ダンパおよび前記電磁石は、前記被支持体に設けられることを特徴とする請求項9記載の構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−256889(P2011−256889A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129555(P2010−129555)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】