説明

磁性薄膜及びその製造方法、並びにこのような磁性薄膜を用いた各種応用デバイス

【課題】大きな一軸磁気異方性を有する磁性薄膜を提供することにある。
【解決手段】原子が規則的に配列したL11型のCo−Pt−C系合金を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L11型の原子の規則構造の合金を含む磁性薄膜に関する。より詳しくは、本発明の磁性薄膜は、その構造に起因する優れた磁気特性を発揮する磁性薄膜に関する。本発明は、このような磁性薄膜の製造方法、及び該磁性薄膜を用いた各種応用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性薄膜を適用した各種デバイスには、磁気記録媒体、トンネル磁気抵抗素子(TMR)、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)、及びマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)デバイス等が含まれる。
【0003】
まず、磁性薄膜を適用した各種デバイスの一例としての、磁気記録媒体について述べる。磁気記録媒体は、ハードディスク、光磁気記録(MO)、及び磁気テープなどの磁気記録装置に用いられ、その磁気記録方式には、面内磁気記録方式と垂直磁気記録方式とがある。
【0004】
面内磁気記録方式は、従来用いられてきた方式であって、例えばハードディスク表面に対して水平に磁気記録を行う方式である。しかしながら、近年では、より高い記録密度を実現可能な、ディスク表面に対して垂直に磁気記録を行う垂直磁気記録方式が主に用いられている。
【0005】
この垂直磁気記録方式を適用した媒体(垂直磁気記録媒体)については、種々の研究がなされており、例えば、以下の技術が開示されている。
【0006】
特許文献1には、基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなり、上記磁性層が、Co−Pt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ上記下地層が、Cu、Pd、Auのいずれかの元素、又は、Cu、Pd、Pt、Ir、Auのいずれかの2種以上の元素の合金からなる垂直磁気記録媒体が開示されている。この垂直磁気記録媒体は、低ノイズ特性、熱安定性、及び書きこみ特性に優れ、高密度記録が可能であり、しかも低コストでの製造が可能である、とされている。
【0007】
現在、垂直磁気記録媒体の磁性層には、主に、Co−Pt系合金の結晶質膜が用いられている。このCo−Pt系合金の結晶質膜は、六方最密充填構造(hcp)のCo−Pt系合金のC軸が膜面に対して垂直(即ち、C面が膜面に平行)となるようにその結晶配向が制御され、これにより垂直磁気記録が可能となる。
【0008】
磁性層の磁気特性を制御する1方式として、強磁性結晶粒の周りを酸化物及び窒化物のような非磁性非金属物質で取り囲んだ構造のグラニュラー磁性層を形成する方式が知られている。
【0009】
グラニュラー磁性層においては、非磁性非金属の粒界相が強磁性粒子を物理的に分離している。このため、強磁性粒子間の磁気的な相互作用を過度に高めることなく記録ビットの遷移領域を狭小化しその揺らぎを抑制するので、低ノイズ特性が得られる。
【0010】
近年においては、垂直磁気記録媒体のさらなる高記録密度化を目的として、隣接するトラック同士の磁気的な影響を低減するため、トラック間に溝を形成したディスクリートトラックメディア(DTM)の開発が盛んに行われている。また、磁性ドット(あるいは磁性粒子)1つにつき1ビットの記録を可能とすることを目的として、磁性ドット(あるいは磁性粒子)が人工的に規則正しく並べられたビットパターンドメディア(BPM)の開発も盛んに行われている。
【0011】
更に、高い保磁力を有する磁性膜に記録することが可能な垂直磁気記録媒体を得ることを目的として、熱アシスト磁気記録(HAMR、又はTAMR)方式やマイクロ波によるエネルギーアシスト記録方式(MAMR)等も提案されており、これらの記録方式を応用した磁気記録媒体の研究も盛んに行われている。
【0012】
次に、磁性薄膜を適用した各種デバイスの他の例としての、トンネル磁気抵抗素子(TMR)、及びこれを用いた磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)について述べる。フラッシュメモリ、及びダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)などの従来のメモリがメモリセル内の電子を用いて情報の記録を行っているのに対し、MRAMは記録媒体にハードディスクなどと同じ磁性体を用いたメモリである。
【0013】
MRAMは、アドレスアクセスタイムが10ns程度であって、サイクルタイムが20ns程度である。このため、DRAMの5倍程度、即ちスタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)並みの高速での読み書きが可能である。また、MRAMには、フラッシュメモリの10分の1程度の低消費電力、及び高集積性が実現されるという長所もある。
【0014】
ここで、MRAMに用いるTMRは、例えば、反強磁性薄膜上に強磁性薄膜を形成した積層体とすることができ、種々の技術が開示されている。
【0015】
特許文献2には、基板上に、反強磁性層、及び該反強磁性層と交換結合する強磁性層が順次積層されてなり、上記反強磁性層が、Mn−Ir合金の規則相(Mn3Ir)を備える交換結合素子が開示されており、当該文献の図5には、TMRの模式断面図が開示されている。また、当該文献の図4には、交換結合素子を具備したスピンバルブ型磁気抵抗素子が開示されており、この素子も、上記TMRと同様に、反強磁性薄膜上に強磁性薄膜が形成された積層体である。
【0016】
加えて、磁性薄膜を適用した各種デバイスの更に他の例としての、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)デバイスについて述べる。MEMSデバイスとは、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、及び/又は電子回路を1つのシリコン基板、ガラス基板、又は有機材料などの上に集積化したデバイスの総称である。
【0017】
MEMSデバイスの応用例としては、プロジェクタの光学素子の1種であるデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、及びインクジェットプリンタのヘッド部に用いる微小ノズル、圧力センサー、加速度センサー、及び流量センサーなどの各種のセンサーなどが挙げられる。このようなデバイスは、近年では、製造業はもとより、医療分野などでも応用が期待されている。
【0018】
以上に示した、磁性薄膜を適用した各種デバイス(磁気記録媒体、TMR、MRAM、及びMEMSデバイス)においては、いずれも、磁性薄膜の磁気特性の向上、具体的には一軸磁気異方性(Ku)の向上が要請されている。なお、このように優れたKu値を示す磁性薄膜の開発は、今後、記録媒体及びメモリの大容量化及び/又は高密度化に多大に貢献すると考えられる。
【0019】
例えば、垂直磁気記録媒体の磁気記録層としては、ECC(exchange coupled composite)、ハード/ソフト・スタック、及びExchange Springなどのハード層とソフト層とを重ねた構造の粒子又はドットを備える記録層が、高密度化を達成する手段として提案されている。
【0020】
しかしながら、これらの媒体の特性を十分に発揮させ、高い熱安定性及び優れた飽和記録特性等を実現するためには、107erg/cm3程度のKu値を示す垂直磁化膜をハード層に用いる必要がある。
【0021】
また、将来の高密度メモリとして期待されているスピン注入磁化反転型のMRAMにおいても、107erg/cm3程度の大きなKu値を示す垂直磁化膜を用いることで、大容量化を実現する研究が行われている。
【0022】
このような磁気記録媒体及びメモリに使用するのに好適なKu値を示す垂直磁化膜については、種々の研究がなされており、例えば、以下の技術が開示されている。
【0023】
非特許文献1には、スパッタ堆積によるCo−PtのL11型規則合金膜の製造が開示されている。また、非特許文献2及び特許文献3には、Fe−PtのL10型規則合金膜が開示されている。更に、特許文献4〜9には、Fe−Pt規則合金、Fe−Pd規則合金、Co−Pt規則合金などのL10型規則合金及びこれを磁性層として用いた磁気記録媒体が開示されている。なお、非特許文献1に開示されたCo−PtのL11型規則合金膜は、従来の合金膜に比べて著しく大きな規則度を実現できるため、特に大きなKu値を示すことが期待される。
【0024】
【特許文献1】特開2006−85825号公報
【特許文献2】特開2005−333106号公報
【特許文献3】特開2004−311925号公報
【特許文献4】特開2002−208129号公報
【特許文献5】特開2003−173511号公報
【特許文献6】特開2002−216330号公報
【特許文献7】特開2004−311607号公報
【特許文献8】特開2001−101645号公報
【特許文献9】国際公開WO2004/034385号再公表公報
【非特許文献1】H. Sato, et al., “Fabrication of L11 type Co-Pt ordered alloy films by sputter deposition”, J. Appl. Phys.,103, 07E114(2008)
【非特許文献2】S. Okamoto et al., “Chemical-order-dependent magnetic anisotropy and exchange stiffness constant of FePt (001) epitaxial films”, Phys.Rev.B, 66, 024413(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、近年の各種デバイスにおける大容量化、高密度化の状況下においては、特許文献1〜9及び非特許文献1,2に開示されているいずれの磁性薄膜と同等以上の大きさの一軸磁気異方性を有し、且つ、より簡便な製造技術により形成することのできる垂直磁気記録層(磁性薄膜)の開発が望まれる。
【0026】
従って、本発明の目的は、大きな一軸磁気異方性を有する磁性薄膜、及び当該磁性薄膜の製造方法、並びに該磁性薄膜を用いた各種の応用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、原子が規則的に配列したL11型のCo−Pt−C系合金を含有する、磁性薄膜に関する。本発明の磁性薄膜は、磁気記録媒体等の各種デバイスに適用することができる。
【0028】
このような磁性薄膜においては、上記磁性薄膜が、50vol%以下のCを含有することが望ましい。
【0029】
また、上記Co−Pt−C系合金には、Co及びPt以外の金属元素の少なくとも1種を含ませることができる。さらに、上記磁性薄膜を、非磁性粒界を有するグラニュラー構造とすることができる。以上の磁性薄膜においては、磁化容易軸が膜面に対して垂直に配向していることが望ましい。
【0030】
次に、本発明は、基体上に上記の磁性薄膜を製造するにあたり、上記基体の温度を150〜500℃とし、成膜前の真空度が1×10-4Pa以下の高真空マグネトロンスパッタ法により形成する、磁性薄膜の製造方法に関する。当該製造方法においては、上記基体温度を270〜400℃とすることが望ましく、また、上記真空度を7×10-7Pa以下とすることが望ましい。
【0031】
更に、本発明は、上記のような磁性薄膜を備える垂直磁気記録媒体、トンネル磁気抵抗素子、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ、及びマイクロエレクトロメカニカルシステムデバイスを包含する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の磁性薄膜は、上記構成により、L11型のCo−Pt−C系合金に関して優れた規則度を実現し、磁性薄膜の優れた磁気異方性を発揮することができる。これにより、当該磁性薄膜を使用した各種の応用デバイスにおいては、大容量化及び/又は高密度化を高いレベルで達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
<磁性薄膜(及びその製造方法)>
以下に、本発明の磁性薄膜をその製造方法とともに説明する。なお、以下に示す例は本発明の単なる例示であって、当業者であれば適宜設計変更することができる。
【0034】
本発明の磁性薄膜は、原子が規則的に配列したL11型のCo−Pt−C系合金を含有する、磁性薄膜である。
【0035】
ここで、本発明において、L11型とは、面心立方格子において、互いに組成の異なる2種類の原子最密面が交互に積層された結晶構造を意味する。
【0036】
上記磁性薄膜は、50vol%以下のCを含有することが好ましく、2〜30vol%のCを含有することがより好ましく、1〜30vol%のCを含有することが極めて好ましい。このように下限値を1vol%以上とすると、原子規則度及びKu値が高く、且つ、結晶粒界等へのCの析出を抑えた磁気的連続性の高いL11型Co−Pt−C合金膜が形成できる。一方、上限値を30vol%以下とすることで、大きなKu値を維持しながら粒子が分離している粒子体積率の高いL11型Co−Pt−C合金のグラニュラー膜が得られる。
【0037】
Co−Pt−C系合金は、Co、Pt、及びCを必須元素として含み、更に、Co及びPt以外の金属元素の少なくとも1種が含まれていてもよい。例えば、Ni、Fe、Mn、Cr、V、Ti、Sc、Cu、Zn、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Zr、Ag、Ir、Au、Re、W、Ta、Hf、Al、Si、Ge、B等を任意選択的に含むことができる。
【0038】
また、特に、Co−Pt−C系合金中のCの含有量を2〜5vol%とすることが好ましい。これにより、例えばガラス基体上に磁性薄膜を形成した場合には、形成された多結晶のL11型Co−Pt−C合金を含む磁性薄膜の一軸磁気異方性(Ku)の値が、MgO単結晶基体の(111)面に形成した単結晶のL11型Co−Pt合金を含む磁性薄膜のKu値に最も近くなる。このことは、多結晶のL11型Co−Pt合金が単結晶のL11型Co−Pt合金に比べて原子配列の規則度が低いところ、多結晶の上記合金にCを添加することでKu値を大幅に向上させることができるためであり、各種デバイスに用いる磁性膜の形成上、非常に重要なことである。
【0039】
さらに、Co−Pt−C系合金中のCの含有量を上記の2〜5vol%から30vol%まで増大しても、多結晶のL11型Co−Pt−C合金が得られる。このため、当該組成域におけるCo−Pt−C系合金薄膜の組織制御を図って、非磁性のC等を主とする粒界相を形成することで、エネルギーアシスト等で用いられる高いKu値を示すグラニュラー膜が得られる可能性がある。
【0040】
このような磁性薄膜は、Co−Pt−C系合金の結晶粒の間に、非磁性のC等を主とする粒界相以外の非磁性物質を介在させて、グラニュラー膜とすることもできる。
【0041】
グラニュラー膜を形成するために用いる非磁性物質としては、上記のCo−Pt−C系合金の結晶粒を磁気的に分離する性能が高いSiO2、Cr23、ZrO2、及びAl23などが挙げられる。中でも、SiO2は、上記Co−Pt−C系合金からなる結晶粒を磁気的に分離する性能が優れている点で好ましい。また、グラニュラー膜を形成するために用いる非磁性物質は、L11型の規則構造であってもよいし、その他の構造であってもよい。
【0042】
以上に示すいずれの磁性薄膜においても、磁化容易軸が膜面に対して垂直に配向していることが好ましい。ここで、磁化容易軸とは、結晶磁気異方性を有する磁性薄膜において、磁化され易い結晶方位を意味する。磁化容易軸が膜面に対して垂直に配向しているか否かは、X線回折等による結晶方位の測定により調査することができる。
【0043】
次に、このような磁性薄膜は、当該磁性薄膜が積層される基体温度を150〜500℃とし、成膜前の真空度が1×10-4Pa以下の高真空マグネトロンスパッタ法により形成することで得られる。
【0044】
基体としては、磁性薄膜、及び必要な場合はその上に更に積層される各層の形成を順次好適に行うことができるものであれば特に限定されない。例えば、ガラス基板、Si基板等を用いることができる。
【0045】
マグネトロンスパッタ法、特に高真空マグネトロンスパッタ法を用いることは、量産に適した成膜技術により、L1型の規則構造の形成を促進するという理由による。
【0046】
磁性薄膜形成時の基体の加熱温度は、150〜500℃とすることが好ましい。150℃以上とすることで、L1型の規則構造の形成を促進することができる一方、500℃以下とすることで、L1型の規則構造の乱れを抑制することができる。当該加熱温度は、270〜400℃とすることで、上記効果を極めて高いレベルで達成することができる。
【0047】
磁性薄膜形成時の真空度は、1×10-4Pa以下とすることが、L1型の規則構造の形成を促進する点で好ましい。当該真空度は、7×10-7Pa以下とすることが、上記効果を高いレベルで達成することができる点でより好ましい。
【0048】
<磁性薄膜を用いた各種応用デバイス>
次に、上述した磁性薄膜を用いた各種応用デバイスについて説明する。なお、以下に示す例も、本発明の単なる例示であり、当業者であれば適宜設計変更することができる。
【0049】
[磁気記録媒体]
図1は、上記の磁性薄膜を用いて形成した、本発明の垂直磁気記録媒体の2つの例を示す断面図であり、(a)は、基体12上に、下地層14、磁性層16及び保護層18が順次形成された垂直磁気記録媒体10aを示し、(b)は、(a)に示す例において、基体12と下地層14との間に、下地層14の優れた結晶配向性及び/又は優れた結晶粒径を好適に制御する目的で、シード層20を更に形成した垂直磁気記録媒体10bを示す。
【0050】
(基体12)
基体12は、垂直磁気記録媒体10a,10bの後述する他の構成要素14〜20を順次形成し、当該他の構成要素14〜20を支持するために媒体10a,10bの最下部に配設する構成要素である。基板12としては、通常の磁気記録媒体に用いられる、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、及び結晶化ガラス等を用いることができるのみならず、シリコン基板を用いることもできる。
【0051】
(下地層14)
下地層14は、磁性層16の配向性を向上させるとともに、該層16の粒径を制御し、更にその形成時における初期成長層の発生を抑制するために配設する構成要素である。下地層14にこのような役割を十分に発揮させるには、Ru、Re、Ti、Zr、Nd、Tm、Hf等のhcp構造の材料を用いることが好ましい。
【0052】
(磁性層16)
磁性層16は、情報を記録するために配設する構成要素である。磁性層16は、単層体、又は2層以上の積層構造体であり、積層構造体の場合にはそのうちの少なくとも1層において、上記磁性薄膜を適用することができ、その構成及び製法については、当該磁性薄膜の欄において詳述したため省略する。
【0053】
(保護層18)
保護層18は、図1(a),(b)の磁気記録媒体10の断面視において、当該層18の下方に位置する各層12〜16、20を保護するとともに、特に、磁性層16がグラニュラー膜である場合に、磁性層16からのCoの溶出を防止するために配設する構成要素である。保護層18には、垂直磁気記録媒体に通常使用される材料を用いることができる。例えば、ダイヤモンド状カーボン(DLC)、若しくはアモルファスカーボン(好ましくはダイヤモンド状カーボン(DLC))などのカーボンを主体とする保護層、又は磁気記録媒体の保護層として用いることが知られている種々の薄層材料が挙げられる。保護層18の厚さは、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる厚さを適用することができる。
【0054】
(シード層20)
図1(b)の垂直磁気記録媒体10bにおいては、基体12と下地層14との間に更にシード層20が形成されている。シード層20は、当該層20の上層として形成する下地14の配向性を好適に制御し、ひいては磁性層16の良好な垂直配向性を実現するために配設する構成要素である。
【0055】
(その他の層)
更に、図1(a),(b)に示す垂直磁気記録媒体10a,10bにおいては、これらの図に開示された各層12〜20以外の層を含むことができる。
【0056】
例えば、図示しない軟磁性裏打ち層を、基体12上に形成することができる。軟磁性裏打ち層は、情報の記録時にヘッドから発生する磁束の広がりを防止すべく、垂直方向の磁界を十分に確保する役割を担う構成要素である。軟磁性裏打ち層の材料としては、Ni合金、Fe合金、Co合金を用いることができる。特に、非晶質のCo−Zr−Nb、Co−Ta−Zr、Co−Ta−Zr−Nb、Co−Fe−Nb、Co−Fe−Zr−Nb、Co−Ni−Fe−Zr−Nb、Co−Fe−Ta−Zr−Nbなどを用いることにより、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0057】
上述の、下地層14、磁性層16、保護層18、シード層20、軟磁性裏打ち層等のその他の層は、例えば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法及び条件を用いて形成することができる。
【0058】
また、図示しない潤滑層を保護層18上に形成することができる。潤滑層は、任意の構成要素であるが、保護層18と図1(a),(b)には示さないヘッドとの間に生ずる摩擦力を低減し、磁気記録媒体10の優れた耐久性及び信頼性を得る目的で配設する液状の構成要素である。潤滑層の材料としては、磁気記録媒体に通常用いられる材料を使用することができる。例えば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤などが挙げられる。潤滑層の膜厚は、垂直磁気記録媒体の構成要素として通常用いられる膜厚を適用することができる。潤滑層は、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術において知られている任意の塗布方法を用いて形成することができる。
【0059】
[トンネル磁気抵抗素子(TMR)及び磁気抵抗ランダムアクセルメモリ(MRAM)]
図2は、上記の磁性薄膜を用いて形成した、本発明のトンネル磁気抵抗素子(図2(a))と、これを用いて形成した磁気抵抗ランダムアクセルメモリ(図2(b))を示す断面図である。
【0060】
図2(a)に示すように、本発明のトンネル磁気抵抗素子30は、固定磁性層32と、障壁層36と、自由磁性層34とが順次形成された積層体である。
【0061】
自由磁性層34は、トンネル磁気抵抗素子30に流す電流あるいは外部から与えられる磁界により、磁化の方位を変化することができる磁性層である。
【0062】
障壁層36は、自由磁性層34と固定磁性膜32の間にトンネル電流を流すための障壁を配設する構成要素である。障壁層36は酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)等の酸化物薄膜を用いて形成することができる。当該障壁層は、例えば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法及び条件を用いて形成することができる。
【0063】
固定磁性膜32は、トンネル磁気抵抗素子30に、電流あるいは外部磁界を与えた場合でも、磁化の向きが変化しない磁性層として配設する構成要素である。当該固定磁性層32と上記自由磁性層34の各層の磁化の向きの違いにより、上記障壁層36を流れるトンネル電流の大きさを変化させることができる。
【0064】
上記の自由磁性層34及び固定磁性層32の少なくとも一方に、上記磁性薄膜を用いることができる。その構成及び製法については、当該磁性薄膜の欄において詳述したため省略する。
【0065】
このような構成のトンネル磁気抵抗素子30は、同素子に供給する電流又は外部磁界により自由磁性層34の磁化の向きを変化せることで動作する。具体的には、図2(a)に示すように、固定磁性層32と自由磁性層34との磁化の向きが平行な状態(同図右側)から、これらの層32,34の磁化の向きが反平行の状態(同図右側)へと可逆的に変化させて動作させる。
【0066】
層32,34の磁化の向きは、図2(a)に示すように、自由磁性層34及び固定磁性層32の面内方向にあって両層の磁化の向きが平行あるいは反平行の状態にあってもよく、また、それぞれの層の磁化の向きが両層に垂直の方向にあって両層の磁化の向きが互いに平行又は反平行の状態にあってもよい。さらに、同図に示す“0”、“1”はそれぞれ、トンネル磁気抵抗素子30をメモリとして用いる場合の信号の0及び1を意味する。
【0067】
次に、図2(b)に示すように、上記の磁気抵抗素子30は、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ40に組み込まれて使用することができる。同図に示すように、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ40は、ソース42a、ドレイン42b、ゲート42cを有するMOS−FET42と、MOS−FET42とコンタクト44を介して連結された磁気抵抗素子30と、その上方に形成されたビット線46,48とを備える。
【0068】
図2(b)に示す磁気抵抗ランダムアクセルメモリ40は、いかなる公知技術を用いて形成することもできる。
【0069】
このような構成の磁気抵抗ランダムアクセスメモリ40は、図2(b)に示す構成により、磁気抵抗素子30の上記作用により、デジタル情報を蓄えるメモリとして機能させることができる。
【0070】
[その他のデバイス]
図示しないが、上記本発明の磁性薄膜を利用したその他の応用デバイスとしては、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)デバイスが挙げられる。マイクロエレクトロメカニカルシステムデバイスは、所定部材に上記の磁性薄膜を組み込んで、いかなる公知技術を用いて形成することもできる。
【実施例】
【0071】
以下に本発明の効果を実施例により実証する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するための代表例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない。
【0072】
<磁気記録媒体の形成>
(実施例1)
超高真空(UHV:Ultra High Vacuum)用のDCマグネトロンスパッタ装置(ANELVAE8001)を用いて、磁気記録媒体を作製した。
【0073】
基体として直径2.5インチのガラスディスクを用意し、当該基板上に、5nmのTa層を形成し、その上に、20nmのRu下地層を形成した。
【0074】
次いで、到達真空度を7×10−7Pa以下とするとともに、不純物濃度が2〜3ppbの超高純度アルゴンガスを用い、ガラス基板の温度を360℃として、Ru下地層上に10nmのCo―Pt−C合金(Cの含有量:0vol%)を同時スパッタ法により形成した。なお、当該スパッタにおいては、Co、Pt、Cの各成膜速度は、1.4〜4.7nm/分とした。これらの成膜速度は、所望の成膜合金の組成等に依存したものである。
【0075】
更に、Co−Pt−C合金上に、2nmのPtキャップ層を形成して、実施例1の垂直磁気記録媒体を得た。
【0076】
(実施例2)
Cの含有量を10vol%としたこと以外は、実施例1と同様に実施例2の垂直磁気記録媒体を得た。
【0077】
(実施例3)
Cの含有量を20vol%としたこと以外は、実施例1と同様に実施例3の垂直磁気記録媒体を得た。
【0078】
(実施例4)
Cの含有量を30vol%としたこと以外は、実施例1と同様に実施例4の垂直磁気記録媒体を得た。
【0079】
<評価項目>
実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体について、L11型の規則構造の確認を、X線回折により超格子回折線を観測することによって行なった。また、実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体について、飽和磁化(Ms)を、試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)により求めた。更に、実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体について、一軸磁気異方性(Ku)をサックスミス−トンプソン法(GST法)によって求めた。これらの結果を以下に示す。
【0080】
(X線回折パターン)
図3(a)〜(d)は、実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体における、X線回折パターンを示すグラフである。いずれのパターンからも、最密面からの回折線のみが観察され、最密面が膜面に平行に配向した多結晶薄膜であることが判る。
【0081】
また、いずれのパターンからも、2原子層毎の原子の周期性に起因したL11−(111)面の回折線が観察されており、L11型の規則化構造が実現されていることが判る。特に、Cが10vol%の実施例2及びCが20vol%の実施例3は、Cが0vol%の実施例1と比べると、L11−(111)面の超格子回折線のピークが大きいことが判る。
【0082】
(飽和磁化と一軸磁気異方性)
図4は、実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体のCo−Pt−C合金からなる磁性層について、一軸磁気異方性(Ku及びKug)を示すグラフである。同図において、Kuは、実際の実施例1〜4における磁性層の一軸磁気異方性を示し、Kugは、実施例1〜4において含有するC体積率を差し引いた薄膜の体積で換算した一軸磁気異方性を示す。
【0083】
また、図4に示すように、Kuは、Cの添加量が5vol%で最大値を示し、その後緩やかに低減する。Kugは、Cの添加量が5vol%で最大値2.6×10erg/cmに達している。この値は、実施例1におけるCを添加しない場合のKuよりも2倍近く増加しており、MgO単結晶の(111)面基体上に形成した単結晶のL1型Co−Pt薄膜のKu(3.7×10erg/cm)に近づいている。従って、5vol%までのCを添加したL1型Co−Pt−C多結晶薄膜は、Co−Pt多結晶薄膜よりも高い原子規則度(L1型の原子配列の規則性)を示すことが判る。さらに、Kugは、Cの添加量が30vol%においても、1.7×10erg/cmの値を維持している。従って、30vol%においても、Co−Pt−C多結晶薄膜の結晶粒は、L1型の結晶構造を形成していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の磁性薄膜では、L11型のCo−Pt−C系規則構造を実現し、優れた磁気異方性(Ku)を発揮させることができる。従って、本発明の磁性薄膜は、大容量化及び/又は高密度化が要請されている各種デバイスに適用できる点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の磁性薄膜を用いて形成した垂直磁気記録媒体の2つの例を示す断面図であり、(a)は、基体12上に、下地層14、磁性層16及び保護層18が順次形成された垂直磁気記録媒体10aを示し、(b)は、(a)に示す例において、基体12と下地層14との間に、シード層20を更に形成した垂直磁気記録媒体10bを示す。
【図2】本発明の磁性薄膜を用いて形成したトンネル磁気抵抗素子(図2(a))と、これを用いて形成した磁気抵抗ランダムアクセルメモリ(図2(b))を示す断面図である。
【図3】垂直磁気記録媒体における、X線回折パターンを示すグラフであり、(a)は実施例1の媒体を示し、(b)は実施例2の媒体を示し、(c)は実施例3の媒体を示し、そして(d)は実施例4の媒体を示す。
【図4】実施例1〜4の各垂直磁気記録媒体のCo―Pt−C合金からなる磁性層について、その一軸磁気異方性Ku及び含有するC体積率を差し引いた薄膜の体積で換算した一軸磁気異方性Kugを示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
10a,10b 磁気記録媒体
12 基体
14 下地層
16 磁性層
18 保護層
20 シード層
30 トンネル磁気抵抗素子
32 固定磁性層
34 自由磁性層
36 障壁層
40 磁気抵抗ランダムアクセスメモリ
42 MOS−FET
42a ソース
42b ドレイン
42c ゲート
44 コンタクト
46, ビット線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子が規則的に配列したL11型のCo−Pt−C系合金を含有することを特徴とする、磁性薄膜。
【請求項2】
前記磁性薄膜が、50vol%以下のCを含有することを特徴とする、請求項1に記載の磁性薄膜。
【請求項3】
前記Co−Pt−C系合金に、Co及びPt以外の金属元素の少なくとも1種が含まれていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁性薄膜。
【請求項4】
前記磁性薄膜が、非磁性粒界を有するグラニュラー構造であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項5】
磁化容易軸が膜面に対して垂直に配向していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項6】
基体上に、請求項1から5のいずれかに記載の磁性薄膜を製造する方法であって、
前記基体温度を150〜500℃とし、成膜前の真空度が1×10-4Pa以下の高真空マグネトロンスパッタ法により形成することを特徴とする、磁性薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記基体を270〜400℃とすることを特徴とする、請求項6に記載の磁性薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記真空度を7×10-7Pa以下とすることを特徴とする、請求項6又は7に記載の磁性薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の磁性薄膜を備えることを特徴とする、垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の磁性薄膜を備えることを特徴とする、トンネル磁気抵抗素子。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載の磁性薄膜を備えることを特徴とする、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の磁性薄膜を備えることを特徴とする、マイクロエレクトロメカニカルシステムデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−135610(P2010−135610A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310965(P2008−310965)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】