説明

磁気センサ

【課題】 磁界感度異方性、広動作磁界および出力直線性に優れた磁気センサを提供すること。
【解決手段】 絶縁基板20と、絶縁基板20の表面に形成されたGMR素子22a〜22dと、絶縁基板20の裏面に配置されたバイアス磁石24とで磁気センサ20を構成した。そして、GMR素子22a〜22dを一方側と他方側との間を折り返しながら延びる線状のグラニュラ薄膜で構成し、バイアス磁石24によるバイアス磁界をGMR素子22a〜22dの線状が延びる長手方向に印加した。また、GMR素子22a〜22dを構成するグラニュラ薄膜を、Agからなる母相中に、FeCoからなる微粒子を分散させて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の大きさと正負の極性(方向)を測定するための磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電流検出装置や回転検出装置に、磁気センサを用いることはよく知られている。そして、このような磁気センサに、磁気抵抗効果素子を使用することも知られている。磁気抵抗効果素子は外部磁界の変化により抵抗値が変化する特性を備えており、抵抗値の変化を電圧変化として出力する。このような磁気センサの中には、出力を大きくするために、磁気抵抗効果素子として、GMR素子を用いたものがある。しかしながら、通常のGMR素子の電気抵抗変化は磁界の正負の極性に依存せず、等方的な特性を有しているため、GMR素子を用いた磁気センサでは、磁界の正負の2つの極性に対して同じ電気抵抗を示し、磁界の正負の極性を特定することができない。このため、さらに、GMR素子にバイアス磁界を印加することにより、外部磁界の大きさと正負の極性とを検出できるようにした磁気センサもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この磁気センサ(磁界センサ)では、基板の上面に、軟磁性薄膜と硬磁性薄膜との多層膜からなる一対の磁界発生源を間隔を保って形成し、各磁界発生源の上面にそれぞれ軟磁性薄膜を形成している。そして、基板の上面における一対の磁界発生源と一対の軟磁性膜との間に、GMR素子(巨大磁気抵抗薄膜)を形成している。この磁気センサによると、磁界発生源によって、GMR素子にバイアス磁界を印加することができる。そして、GMR素子にバイアス磁界を印加することによって、磁界の正負の極性の違いによって磁気センサの出力に違いを発生させることができる。この結果、外部磁界の大きさと正負の極性の双方を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−78187号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した磁気センサは、まだ、磁界感度異方性、広動作磁界および出力直線性の点において、十分なものでなく、GMR素子の形状や、GMR素子に印加するバイアス磁界の方向、GMR素子を構成する材料等に改良の余地がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、その目的は、磁界感度異方性、広動作磁界および出力直線性に優れた磁気センサを提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載において、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る磁気センサ(20,40,40a)の構成上の特徴は、絶縁基板(21,41)と、絶縁基板の表面に形成され、一方側と他方側との間を折り返しながら延びる線状の高透磁率グラニュラ薄膜からなるGMR素子(22a〜22d,42a,42b,62a〜62d,72a〜72d)と、絶縁基板の近傍に配置され、GMR素子の線状が延びる長手方向にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段(24,44)とを備えたことにある。
【0008】
本発明に係る磁気センサでは、GMR素子をグラニュラ薄膜で構成している。このグラニュラ薄膜は、製作が容易で、磁界に対して電気抵抗が変化する磁界感度に優れているが、磁化が飽和し難く外部磁界による反磁界が小さいため、形状による感度異方性は小さい。このため、本発明に係る磁気センサでは、GMR素子を、一方側と他方側との間を折り返しながら延びる線状に形成している。これによって、GMR素子は、線状が延びる長手方向と、その長手方向に直交する短手方向とに、形状異方性を有するようになる。さらに、バイアス磁界印加手段によって、GMR素子が延びる長手方向にバイアス磁界を印加することで、GMR素子を飽和に近い磁化状態にして反磁界効果を強め感度の形状異方性を増大させている。これによって、感度異方性に優れ磁界の正負の極性(方向)も検知可能な磁気センサが得られる。
【0009】
また、バイアス磁界を印加してGMR素子を飽和に近い磁化状態にすることにより動作磁界範囲での磁気ヒステリシスの発生を抑えることができる。これによって、磁界が増加したときに蓄えられた磁界空間内のエネルギーが、磁界が減少するときにそのまま出てくるようになりエネルギーの損失が少なくなる。また、GMR素子の透磁率が高くなる磁界範囲では、GMR素子の長手方向と短手方向の抵抗変化率(感度)に優位差が生じる。このため、GMR素子の透磁率は、例えば、10以上になるようにすることが好ましい。すなわち、本発明に係る磁気センサでは、前述した構成を備えることにより、飽和に近い磁化状態にすることができ、これによって、GMR素子の透磁率を高くしても、その長手方向は反磁界の影響を受けにくく、ヒステリシスの少ない動作磁界範囲を得ることができる。なお、本発明に係るバイアス磁界印加手段としては、バイアス磁石や磁気コイル等を用いることができる。
【0010】
また、本発明に係る磁気センサの他の構成上の特徴は、GMR素子を構成するグラニュラ薄膜が、Agからなる母相中に、FeCoからなる微粒子を分散させて構成されたものであることにある。この材料を用いることにより、磁界感度が高く、外部磁界の変化に敏感に反応するGMR素子を得ることができる。この場合、GMR素子を構成する材料の原子組成比を、Ag70%に対して、Fe、Coをそれぞれ15%程度に設定することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る磁気センサのさらに他の構成上の特徴は、GMR素子の線状が延びる長手方向に外部磁界を印加したときに、GMR素子に発生する抵抗値に基づいて外部磁界の大きさと正負の極性とを検出することにある。
【0012】
本発明に係る磁気センサでは、GMR素子を長手方向と短手方向とを備えた形状に形成することにより、GMR素子に形状異方性を持たせるとともに、GMR素子の長手方向にバイアス磁界を印加することによって、感度の形状異方性を増大させ、さらに、外部磁界をGMR素子に印加して外部磁界の大きさと正負の極性とを検出するようにしている。
【0013】
GMR素子にバイアス磁界を印加して動作させる場合、外部磁界に対する実動作磁界の大きさと方向とは、バイアス磁界と外部磁界との大きさと方向との合成ベクトルとなり、それぞれのベクトル成分の和から算出される。また、感度の形状異方性に優れたGMR素子とは、外部磁界のベクトルのうち、バイアス磁界方向の成分の強度をより正確に検出できるものであるといえる。言い換えると、外部磁界のベクトルのうち、バイアス磁界方向に直交する成分が大きくなるほどバイアス磁界方向に対する磁化方向の変動が大きくなり正確な感度方向成分の検出が困難になる。本発明に係る磁気センサは、バイアス磁界をGMR素子の長手方向に印加することにより、外部磁界のベクトルのうち、バイアス磁界方向の成分の強度と正負の極性とをより正確に検出できるようにしたものである。この場合、バイアス磁界を大きくするほど、外部磁界におけるバイアス磁界方向に直交する成分の影響を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明に係る磁気センサのさらに他の構成上の特徴は、バイアス磁界印加手段を、磁極面の磁気中心を絶縁基板(21)の中心に合わせた状態で絶縁基板に対向して配置されたバイアス磁石(24)で構成して、GMR素子(22a〜22d)を、絶縁基板の中心点で直交し磁極面に平行に延びる2つの軸に沿い中心点からそれぞれ同一距離の位置にそれぞれ形成された4つのもので構成し、2つの軸の各軸に沿ってそれぞれ設けた2つのGMR素子を直列に接続して2つのブリッジ回路を構成し、2つのブリッジ回路の両端に電源電圧を印加して、2つのGMR素子の接続点からそれぞれ出力信号を取り出すようにしたことにある。
【0015】
本発明によると、例えば、回転軸に磁石を設置して、回転軸の回転に伴って変化する磁界を検出すると、2つのブリッジ回路から得られる出力信号は、位相差を持つ余弦波と正弦波になるため、回転軸の回転方向、回転数および回転角を検出することができる。これによると、磁界感度異方性、広動作磁界および出力直線性に優れた回転センサとしての機能を備えた磁気センサを得ることができる。また、バイアス磁界印加手段として、バイアス磁石を用いることにより、磁気センサの構成が簡単になる。
【0016】
また、本発明に係る磁気センサのさらに他の構成上の特徴は、バイアス磁界印加手段を、絶縁基板(41)の裏面に沿って着磁されたバイアス磁石(44)で構成して、GMR素子(42a,42b)を、絶縁基板の表面におけるバイアス磁石の両極に対応する部分にそれぞれ形成された2つのもので構成し、2つのGMR素子を直列に接続してブリッジ回路を構成し、ブリッジ回路の両端に電源電圧を印加して、GMR素子の接続点からそれぞれ出力信号を取り出すようにしたことにある。
【0017】
本発明によると、例えば、絶縁基板の近傍に導電体を設置して、この導電体に電流を流すと、ブリッジ回路から得られる出力信号は、導電体を通過する電流の大きさに応じた電圧として出力される。これによると、磁界感度異方性、広動作磁界および出力直線性に優れた電流センサとしての機能を備えた磁気センサを得ることができる。また、バイアス磁界印加手段として、バイアス磁石を用いることにより、磁気センサの構成が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気センサを備えたセンサチップパッケージの内部を示した平面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】磁気センサを示した平面図である。
【図4】図3に示した磁気センサのブリッジ回路であり、(a)はX方向のブリッジ回路、(b)はY方向のブリッジ回路である。
【図5】GMR素子に外部磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示しており、(a)は長手方向に印加したときのグラフ、(b)は短手方向に印加したときのグラフである。
【図6】GMR素子の印加磁界と磁化の大きさとの関係を示したグラフである。
【図7】バイアス磁界が印加されたGMR素子に外部磁界を印加したときの磁界と抵抗値との関係を示しており、(a)は長手方向に印加したときのグラフ、(b)は短手方向に印加したときのグラフである。
【図8】大きなバイアス磁界が印加されたGMR素子に外部磁界を印加したときの磁界と抵抗値との関係を示しており、(a)は長手方向に印加したときのグラフ、(b)は短手方向に印加したときのグラフである。
【図9】印加磁界と磁気センサの出力との関係を示したグラフであり、(a)はX方向に外部磁界を印加した場合を示し、(b)はY方向に外部磁界を印加した場合を示している。
【図10】渦巻き状のGMR素子が形成された磁気センサを備えたセンサチップパッケージで回転磁界を計測した結果を示したグラフであり、(a)は外部磁石の回転角と出力との関係を示し、(b)は外部磁石の回転角と角度誤差との関係を示している。
【図11】図1に示したセンサチップパッケージで回転磁界を計測した結果を示したグラフであり、(a)は外部磁石の回転角と出力との関係を示し、(b)は外部磁石の回転角と角度誤差との関係を示している。
【図12】大きなバイアス磁界が印加された磁気センサを備えたセンサチップパッケージで回転磁界を計測した結果を示したグラフであり、(a)は外部磁石の回転角と出力との関係を示し、(b)は外部磁石の回転角と角度誤差との関係を示している。
【図13】本発明の第2実施形態に係る磁気センサを備えたセンサチップパッケージの内部を示した平面図である。
【図14】図13の14−14断面図である。
【図15】図13に示した磁気センサのブリッジ回路である。
【図16】図13に示したセンサチップパッケージの印加電流と磁気センサの出力との関係を示したグラフであり、(a)は大きな印加電流の場合を示し、(b)は微小印加電流の場合を示している。
【図17】第2実施形態の変形例に係るセンサチップパッケージの内部を示した平面図である。
【図18】図17の18−18断面図である。
【図19】図17に示したセンサチップパッケージの印加電流と磁気センサの出力との関係を示したグラフである。
【図20】フルブリッジ回路を備えた電流センサを示した平面図である。
【図21】他のフルブリッジ回路を備えた電流センサを示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、第1実施形態に係る磁気センサ20を備えたセンサチップパッケージ10を示しており、この磁気センサ20は回転センサとして用いられている。なお、図1は、センサチップパッケージ10の内部の主要部分を示した平面図であり、以後、本実施形態においては、前後左右の方向は、図1に基づいて説明する。
【0020】
センサチップパッケージ10は、エポキシ樹脂からなるパッケージ本体11と、パッケージ本体11の内部から外部にかけて設置されたリードフレーム12と、リードフレーム12に取り付けられた磁気センサ20と、パッケージ本体11の内部と外部とにかけて設置された8個のリードフレーム端子13a〜13hと、磁気センサ20とリードフレーム端子13a〜13hとをそれぞれ接続する8本の配線14a〜14hとで構成されている。
【0021】
リードフレーム12は、導電体、例えば銅からなっており、パッケージ本体11内の中央に配置された四角板状のフレーム本体12aと、フレーム本体12aの前部からパッケージ本体11の外部に延びる突出端部12bと、フレーム本体12aの後部からパッケージ本体11の外部に延びる突出端部12cとで構成されている。突出端部12b,12cは、リードフレーム12の周囲にエポキシ樹脂を流し込んで、リードフレーム12をパッケージ本体11内に固定する際に、リードフレーム12を支持するために形成されている。
【0022】
リードフレーム端子13a〜13hは、接続用の端子を構成するもので、リードフレーム12と同様、銅で構成されている。リードフレーム端子13a〜13hは、パッケージ本体11の左右に4個ずつ左右対象に配置されており、それぞれがパッケージ本体11の外部から内部に向かって左右に延びる部分とパッケージ本体11の内部でフレーム本体12aの周縁部に沿った方向に延びる部分とで構成されている。四隅に位置するリードフレーム端子13a,13d,13e,13hにおけるフレーム本体12aの周縁部に沿った部分は、それぞれフレーム本体12aの角部に沿った略L形に形成されている。また、それ以外のリードフレーム端子13b,13c,13f,13gにおけるフレーム本体12aの周縁部に沿った部分は、それぞれ前後方向の中央部が左右に延びる部分の端部に位置するI形に形成されている。
【0023】
磁気センサ20は、フレーム本体12aの中央部分に設置されており、図3に示した構成をしている。磁気センサ20は、フレーム本体12aの上面に設置された絶縁基板21と、絶縁基板21の上面における前後方向の中央の左右および左右方向の中央の前後にそれぞれ形成されたGMR素子22a〜22dと、絶縁基板21の上面における四隅にそれぞれ2個ずつ形成された8個の電極23a〜23hとを備えている。そして、フレーム本体12aの下面における、絶縁基板21の下方にバイアス磁石24が設置されている。
【0024】
すなわち、磁気センサ20は、フレーム本体12aの上面に設置された絶縁基板21側部分と、フレーム本体12aの下面に設置されたバイアス磁石24とで構成されており、絶縁基板21とバイアス磁石24とは、それぞれ中心を中心点Oに合わせた状態でダイボンドによってフレーム本体12aに固定されている。絶縁基板21は、シリコン、ガラス、セラミック等の絶縁体材料からなる正方形の板状体で構成されており、前後方向の長さおよび左右方向の長さがそれぞれ1.8mmに設定され、厚みが0.4mmに設定されている。この絶縁基板21は、パッケージ本体11の左右および前後の中央に位置するようにして、フレーム本体12aの上面に設置されている。
【0025】
また、GMR素子22a〜22dは、Ag−FeCoからなる線状のグラニュラ薄膜で構成されており、スパッタリング法を用いて成膜されることにより、絶縁基板21の表面に形成されている。GMR素子22a〜22dのうちの、GMR素子22a,22bは左右対称に配置され、GMR素子22c,22dは前後対称に配置されている。すなわち、絶縁基板21の表面において、中心点Oを通り左右に延びる方向をX軸とし、前後に延びる方向をY軸としたときに、GMR素子22a,22bはX軸上に位置し、GMR素子22c,22dはY軸上に位置する。また、GMR素子22a〜22dは、それぞれ中心点Oから同一距離の位置に配置されている。
【0026】
GMR素子22a〜22dは、それぞれ複数の折り返し部がある線状に形成されている。GMR素子22aは、電極23b,23c間に配置されており、電極23b側の右後部から左側に一直線状に一定長さ延びたのちに折り返して、前述した一直線状に延びた線から前方に間隔を保って右側に延び、さらに折り返して左側に延びるといったように後方に位置する線から間隔を保ってジグザグに左右に延びたのちに電極23c側の右前部に延びる全体形状が四角形の線状薄膜で構成されている。GMR素子22aの両端部は、導電部25b,25cによって電極23b,23cに接続されている。
【0027】
同様にして、GMR素子22bは、線状の長手方向を左右方向に向けて配置され、その両端部は、導電部25f,25gによって電極23f,23gに接続されている。また、GMR素子22c,22dは、線状の長手方向を前後方向に向けて配置されており、GMR素子22cの両端部は、導電部25d,25eによって電極23d,23eに接続され、GMR素子22dの両端部は、導電部25a,25hによって電極23a,23hに接続されている。この磁気センサ20では、GMR素子22a〜22dの全ての端部は、絶縁基板21の内部側に位置している。
【0028】
GMR素子22a〜22dの成膜は、スパッタリング装置(図示せず)を用いて行われる。すなわち、スパッタリング装置に備わった真空チャンバー内にアルゴンガスを導入しながら絶縁基板21とAg−FeCoからなるターゲットとの間に高電圧を印加し、イオン化したアルゴンをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を絶縁基板21に成膜させることによりGMR素子22a〜22dが形成される。この場合のターゲットは、Agターゲット上にFeCo合金を載置した複合ターゲットであり、これによって、Agからなる母相中に、FeCoからなる微粒子が分散したグラニュラ薄膜からなるGMR素子22a〜22dが得られる。この場合、GMR素子22a〜22dに含まれるAg、Fe、Coの比率は、原子組成比で、Ag70Fe15Co15 atm%程度に設定しておく。
【0029】
電極23a〜23hおよび導電部25a〜25hは、それぞれ薄い銅板からなっている。そして、各電極23a〜23hは、それぞれ、配線14a〜14hを介したワイヤボンドによって、近傍に位置するリードフレーム端子13a〜13hに接続されている。また、GMR素子22a,22bは、導電部25b,25c,25f,25g、電極23b,23c,23f,23g、配線14b,14c,14f,14gおよびリードフレーム端子13b,13c,13f,13gを介して直列に接続されており、これによって、図4(a)に示したハーフブリッジ回路が形成されている。同様に、GMR素子22c,22dは、導電部25a,25d,25e,25h、電極23a,23d,23e,23h、配線14a,14d,14e,14hおよびリードフレーム端子13a,13d,13e,13hを介して直列に接続されており、これによって、図4(b)に示したハーフブリッジ回路が形成されている。
【0030】
電極23a,23bには、それぞれリードフレーム端子13a,13bから5Vの電源電圧が供給されるようになっている。また、電極23e,23gは、それぞれリードフレーム端子13e,13gを介して接地されるようになっている。電極23c,23fは、それぞれリードフレーム端子13c,13fを介して出力端子となり、電極23d,23hは、それぞれリードフレーム端子13d,13hを介して出力端子となる。リードフレーム端子13c,13fは、配線(図示せず)を介して接続されその接続点からX軸方向の出力信号Vxが取り出される。また、リードフレーム端子13d,13hは、配線(図示せず)を介して接続されその接続点からY軸方向の出力信号Vyが取り出される。
【0031】
バイアス磁石24は、酸化鉄を主原料とした円板状のフェライト磁石からなっており、直径が1.4mmで、厚みが0.35mmに設定されている。また、バイアス磁石24は、厚み方向を2等分する面を境界として分極されて境界面に対して垂直方向に2極着磁されており、上側がN極、下側がS極になっている。これによって、バイアス磁石24には、図3の矢印の方向の磁界が発生し、GMR素子22a〜22dには、それぞれ長手方向に沿ったバイアス磁界が、絶縁基板21の中心側から外部側に向かって放射状に印加される。
【0032】
つぎに、磁気センサ20が備える各GMR素子22a〜22dのMR特性(磁気抵抗特性)について説明する。図5(a)は、各GMR素子22a〜22dの長手方向にそれぞれ外部磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示しており、図5(b)は、各GMR素子22a〜22dの短手方向にそれぞれ外部磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示している。図5(a)および図5(b)から分かるように、印加磁界の大きさが−4kA/m以下または4kA/m以上程度の範囲の場合には、各GMR素子22a〜22dの長手方向に外部磁界を印加したときと、各GMR素子22a〜22dの短手方向に外部磁界を印加したときとでは双方の抵抗値の変化に僅かな差しか認められないが、印加磁界の大きさが−4kA/mから4kA/m程度の範囲の場合には、双方の抵抗値の変化に明らかな差が生じている。
【0033】
これは、図6に示したMH特性(磁界の強さと磁化の大きさとの関係)と下記に示した実効磁界を示す式1から説明がつくものである。図6は、各GMR素子22a〜22dを構成する、厚みが1000Åで、260℃の温度で熱処理されたGMR薄膜のMH特性を示している。図6から分かるように、GMR素子22a〜22dを構成するGMR薄膜では、印加磁界が−4kA/mから4kA/m程度の場合には、MH曲線の傾きで表される透磁率が高く、その値は10以上になっている。このように透磁率が高い場合、外部磁界によるGMR素子22a〜22dを構成するGMR薄膜の磁化は大きくなる。また、実効磁界は下記の式1で表される。
Heff(実効磁界)=Hex(外部磁界)−Nd(反磁界係数)×M(磁性体の磁化)…式1
【0034】
ここで、反磁界は、外部磁界により磁性体を磁化するときに、その磁性体内に発生する磁化の方向と反対方向の磁界であり、外部から与えられた磁界を弱める作用がある。また、反磁界係数は、無限に長い棒や板では、無限遠方に極ができることになるため、「0」であるが、逆に無限に薄い板では「1」になる。このため、反磁界係数だけを考慮すれば、GMR素子22a〜22dが備える形状異方性により、GMR素子22a〜22dの長手方向では、短手方向よりも反磁界係数が小さくなり、GMR素子22a〜22dの長手方向の実効磁界は、短手方向の実効磁界よりも大きくなる。
【0035】
また、磁化の大きさだけを考慮すれば、印加磁界の大きさが−4kA/mから4kA/m程度のGMR素子22a〜22dが高透磁率になる範囲においては、GMR素子22a〜22dの長手方向の磁化および短手方向の磁化の双方が大きくなる。一方、印加磁界の大きさが−4kA/m以下または4kA/m以上の範囲では、透磁率が低くなり、その値は10未満になる。このため、外部磁界に対する磁化の変化がGMR薄膜の長手方向と短手方向との双方で小さくなる。
【0036】
しかしながら、反磁界係数と磁化の大きさとの双方が影響した場合には、印加磁界の大きさが−4kA/mから4kA/m程度のGMR素子22a〜22dが高透磁率になる磁化の大きな範囲においては、GMR素子22a〜22dの短手方向の方が長手方向よりも反磁界の影響を受けやすくなり、GMR薄膜の短手方向の実効磁界が長手方向の実効磁界よりも小さくなる。また、印加磁界の大きさが−4kA/m以下または4kA/m以上の範囲では、透磁率の低下の影響が大きくなり、外部磁界に対する実効磁界の変化がGMR薄膜の長手方向と短手方向とであまり差が生じなくなる。これによって、GMR素子22a〜22dのMR感度においても、長手方向と短手方向とで差が生じなくなる。
【0037】
すなわち、印加磁界を示す値の絶対値が小さい場合には透磁率が大きくなって磁化が大きくなり、このときに、GMR素子22a〜22dの長手方向と短手方向とでMR感度に明らかな差が生じるが、印加磁界を示す値の絶対値が大きい場合には透磁率が小さくなって磁化の変化が小さくなり、GMR素子22a〜22dの長手方向と短手方向とのMR感度に明らかな差は生じなくなる。したがって、透磁率の大きなGMR薄膜を用いれば形状異方性による磁界感度異方性が得られるが、磁界感度差が得られるのは、印加磁界が−4kA/mから4kA/m程度の限られた磁界範囲だけであり、このままでは実用的でない。
【0038】
このため、磁気センサ20では、GMR素子22a〜22dにバイアス磁石24を組み合わせて広い磁界範囲で感度異方性が得られるようにしている。GMR素子22a〜22dにそれぞれバイアス磁石24からのバイアス磁界を印加すると、そのMR特性は、図7(a)および図7(b)に示したようになる。この場合のバイアス磁石24によるバイアス磁界の大きさは、略14kA/mである。図7(a)は、GMR素子22aの長手方向(左右方向)に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示しており、図7(b)は、GMR素子22aの短手方向(前後方向)に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示している。
【0039】
図7(a)から分かるように、GMR素子22aの長手方向に外部磁界を印加したときのMR特性を表す曲線は、図5(a)に示したバイアス磁界を印加していないときのMR特性を表す曲線と比較してバイアス磁界の値に相当する磁界強度分ずれた非対称な曲線になる。この結果、図7(a)に示されたMR特性を表す曲線は、印加磁界の大きさが−16kA/mから14kA/m程度の範囲の場合には、略直線状に延びる曲線になり、この曲線から磁界の大きさだけでなく、磁界の正負の極性の判別も可能になる。
【0040】
なお、外部磁界を加えたときの抵抗値と、外部磁界を加えていないときの抵抗値との比であるMR比は、バイアス磁界がない場合には3.8%であったのに対し、バイアス磁界を印加した場合には5.6%であった。このMR比は、図5(a)に示した曲線と、図7(a)に示した曲線とのずれ量に比例するもので、バイアス磁界が大きいほど大きくなっていく。このため、バイアス磁界を大きくしていくことにより、図5(a)に示した曲線は、図7(a)に示した曲線の位置から、さらに右側の位置に移動していく。また、磁化の大きさMが0のときの磁界に対応する保磁力Hcは、バイアス磁界がない場合には0.32kA/mであったのに対し、バイアス磁界を印加した場合には0kA/mであった。
【0041】
なお、この保磁力Hcは、図5(a),(b)および図7(a),(b)に示した曲線における磁界の大きさが小さい方から大きくなっていく場合と大きい方から小さくなっていく場合とのずれ量で示され、図5(a),(b)においては2本の曲線が示されているのに対し、図7(a),(b)では1本の曲線だけが示されている。これから、バイアス磁界を加えることにより外部磁界に対する抵抗変化のヒステリシスが、明らかに低減することがわかる。すなわち、バイアス磁界を加えることにより、磁界が増加したときに蓄えられた磁界空間内のエネルギーが、磁界が減少するときにそのまま出てくるようになりエネルギーの損失が少なくなる。
【0042】
また、図7(b)から分かるように、GMR素子22aの短手方向に外部磁界を印加したときのMR特性を表す曲線は、図5(b)に示したバイアス磁界を印加しない場合のMR特性を表す曲線と比較して外部磁界に対するMR特性の低感度領域が広がった特性を示す曲線になった。この場合、磁界方向に対しては印加磁界が0kA/mのときを中心として対称のままの状態が維持された。このように、バイアス磁界を印加することにより、GMR素子22aの長手方向と短手方向との感度異方性は明らかに大きくなった。
【0043】
また、他の例として、前述したバイアス磁石24に代えて、バイアス磁石24よりもバイアス磁界の大きなSmCo系のバイアス磁石を用いて、GMR素子22a〜22dのMR特性を測定した。その結果を、図8(a)および図8(b)に示している。この場合のバイアス磁石によるバイアス磁界の大きさは、50kA/mであった。図8(a)は、GMR素子22aの長手方向に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示しており、図8(b)は、GMR素子22aの短手方向に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示している。
【0044】
図8(a)から分かるように、GMR素子22aの長手方向に外部磁界を印加したときには、図7(a)に示した場合と比較してMR特性を表す曲線にピークが見られず、MR特性を表す曲線は直線に近い状態になっている。これは、バイアス磁界の値が測定磁界の範囲を超えているためであり、これによると、広い動作磁界範囲が得られる。また、図8(b)から分かるように、GMR素子22aの短手方向に外部磁界を印加したときには、図7(b)に示した場合と比較して外部磁界に対するMR特性の低感度領域がさらに広がる。このように、バイアス磁界を強めることにより、GMR素子22aの長手方向と短手方向との感度異方性はさらに大きくなる。
【0045】
GMR素子22a〜22dにバイアス磁界を印加して動作させる場合、外部磁界に対する実動作磁界の大きさと方向とは、バイアス磁界と外部磁界との大きさと方向との合成ベクトルとなり、それぞれのベクトル成分の和から算出される。このため、バイアス磁界を大きくすることにより、GMR素子22a〜22dの長手方向に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示す曲線およびGMR素子22a〜22dの短手方向に磁界を印加したときの磁界の大きさと抵抗値との関係を示す曲線のどちらもバイアス磁界の影響が大きくなってより直線に近づいて行くようになる。
【0046】
この結果から、GMR素子22a〜22dの長手方向に、バイアス磁界を印加することにより、GMR素子22a〜22dの長手方向の外部磁界に対するMR特性は、磁界の極性に対して非対称になり、磁界の正負の極性の検出も可能になるとともに、GMR素子22a〜22dの形状に起因する感度異方性を増加できることがわかる。また、GMR素子22a〜22dの短手方向の外部磁界に対するMR特性は、高透磁率領域を超える磁界までは低感度領域が広がる。このように、バイアス磁界を印加することにより、感度異方性が大きくなり、ヒステリシスは減少する。
【0047】
つぎに、磁気センサ20の表面側に、回転体に設けられた外部磁石(図示せず)からの外部磁界を印加したときの磁気センサ20の出力について説明する。図9(a)は、磁気センサ20に、X軸方向(左右方向)の外部磁界を印加したときの各ハーフブリッジ回路のX軸方向の出力VxとY軸方向の出力Vyとを示しており、図9(b)は、磁気センサ20に、Y軸方向(前後方向)の外部磁界を印加したときの各ハーフブリッジ回路のX軸方向の出力VxとY軸方向の出力Vyとを示している。
【0048】
なお、図4(a)に示したGMR素子22aの抵抗値をRx1、GMR素子22bの抵抗値をRx2、図4(b)に示したGMR素子22dの抵抗値をRy1、GMR素子22cの抵抗値をRy2とすると、出力Vx、出力Vyは、それぞれ下記の式2、式3で表わされる。
Vx=Vcc×Rx2/(Rx1+Rx2)…式2
Vy=Vcc×Ry2/(Ry1+Ry2)…式3
【0049】
それぞれのハーフブリッジ回路において、GMR素子22a〜22dの長手方向に外部磁界が印加されたとき(図9(a)のX軸方向、図9(b)のY軸方向)には、磁界方向に対する各GMR素子22a,22bまたはGMR素子22c,22dの非線形特性(磁界強度の変化による感度増と感度減の傾向)が相殺され、図9(a)の出力Vxおよび図9(b)の出力Vyのように斜めに傾斜した直線に近い出力特性が得られた。
【0050】
また、GMR素子22a〜22dの短手方向に外部磁界が印加されたとき(図9(a)のY軸方向、図9(b)のX軸方向)には、外部磁界に対するGMR素子22a〜22dの抵抗変化が少なく、かつ変化した分は互いに相殺されてほぼ無感度特性になる。このため、図9(a)の出力Vyおよび図9(b)の出力Vxのように変化のない直線状になる出力特性が得られた。この結果から、GMR素子22a〜22dの長手方向に外部磁界を印加したときに、GMR素子22a〜22dに発生する抵抗値に基づいて外部磁界の大きさと正負の極性とを検出することにより、より精度のよい検出ができることが分かる。
【0051】
なお、外部磁界の方向をX軸方向からY軸方向に変化させたときには、出力Vxを表す曲線は、図9(a)の印加磁界が小さいときに出力Vxが大きく、印加磁界が大きいときに出力Vxが小さくなった状態から、図9(b)の印加磁界の大きさに関わらず出力Vxが略一定になった状態に変化する。また、そのとき、出力Vyを表す曲線は、図9(a)の印加磁界の大きさに関わらず出力Vyが略一定になった状態から、図9(b)の印加磁界が小さいときに出力Vyが小さく、印加磁界が大きいときに出力Vyが大きくなった状態に変化する。
【0052】
このため、外部磁界の方向がGMR素子22a〜22dの長手方向と短手方向との中間の角度(右45度と左45度の二つの場合がある)の方向になったときには、出力Vxを表す曲線と出力Vyを表す曲線の傾斜角度が同じになる。この場合には、出力Vxを表す曲線と出力Vyを表す曲線とのどちらでも外部磁界の大きさと正負の極性とを検出する精度は同じになる。それ以外の場合には、GMR素子22a〜22dに外部磁界を印加したときに、GMR素子22a〜22dに発生する抵抗値に基づいて外部磁界の大きさと方向とを検出することにより、より精度のよい検出ができる。
【0053】
つぎに、比較例として、GMR素子22a〜22dに代えて渦巻き状に形成した形状異方性のない4つのGMR素子が形成された磁気センサを備えたセンサチップパッケージを用意し、これとセンサチップパッケージ10およびSmCo系のバイアス磁石が取り付けられた磁気センサを備えたセンサチップパッケージとの比較テストを行った。この比較テストは、回転軸に外部磁石を設置して、その外部磁石に磁気センサ20等を対向させた状態でセンサチップパッケージ10等を所定位置に設置して行った。この場合、外部磁石の中心に磁気センサ20等の中心を合わせた。また、各磁気センサ20等に対して、約10kA/mの磁界強度が得られるように各磁気センサ20等と外部磁石との間隔を調整した。
【0054】
また、外部磁石の回転角度の基準は、外部磁界の方向が、図3に示した状態の磁気センサ20のGMR素子22aに示した矢印の方向を「0」度とし、外部磁石の回転方向を時計周り方向をプラスとした360度の範囲で10度ごとの角度について、各X軸、Y軸方向での各ハーフブリッジ回路の出力と角度との関係を求めた。また、各ハーフブリッジ回路の中点電位である出力Vx,Vyは、本来その等価回路から印加電圧5Vの半分である2.5Vとなるが各GMR素子22a等の抵抗にばらつきがあり、各GMR素子22a等の磁界による抵抗変化も小さいため、予め、外部磁界がない場合の印加電圧に対する各センサチップパッケージの出力電位である出力Vx,Vyを計測しておき、その値を基準電圧とした。
【0055】
そして、出力Vx,Vyから基準電圧を差し引いて得られた差分ΔVx,ΔVyの関係を図10(a)、図11(a)、図12(a)に示した。すなわち、回転体の回転によって外部磁石からの外部磁界が変化したときには、2つのハーフブリッジ回路から出力される出力Vxと出力Vyとが周期的に変化する。そして、この出力Vxと出力Vyとの変化から位相差を持つ余弦波と正弦波が得られ、これによって、回転体の回転方向、回転数および回転角が検出されるものであるが、ここでは、基準電圧を差し引くことによって、外部磁界の影響のみに着目した。
【0056】
また、図10(a)、図11(a)、図12(a)に示した結果に基づいて、角度誤差Δθを下記の式4から求め、その外部平行磁界回転角との関係を図10(b)、図11(b)、図12(b)に示した。
Δθ=ARCTAN(ΔVy/ΔVx)−外部平行回転角…式4
すなわち、一方のハーフブリッジ回路をCOSブリッジとしその出力をVxとし、もう一方のハーフブリッジ回路をSINブリッジとしその出力をVyとすると、それらの比を逆正接演算することにより回転角度信号θが得られる。式4は、差分ΔVx,ΔVyの比を逆正接演算した値から外部平行回転角(外部磁石の回転角)の値を差し引くことにより、角度誤差Δθを求めるものである。
【0057】
図10(a),(b)は、渦巻き状に形成した4つのGMR素子が形成された磁気センサを備えたセンサチップパッケージの計測結果を示し、図11(a),(b)は、センサチップパッケージ10の計測結果を示し、図12(a),(b)は、SmCo系のバイアス磁石が取り付けられた磁気センサを備えたセンサチップパッケージの計測結果を示している。すなわち、渦巻き状に形成されたGMR素子は、形状異方性がなく、SmCo系のバイアス磁石が取り付けられた磁気センサは、バイアス磁界が大きいもので、図10から図12にかけて順に感度異方性が増すようになっている。
【0058】
図10(a)、図11(a)、図12(a)から分かるように、磁気センサの感度異方性が増すにしたがって、出力Vx,Vyの差分ΔVx,ΔVyは、三角波と正弦波との中間に近い波形から滑らかな正弦波に近い波形に変化していく。また、図10(b)、図11(b)、図12(b)から分かるように、磁気センサの感度異方性が増すにしたがって、角度誤差Δθは、絶対値が±3度以上におよぶ範囲から、±2度以下、さらに±1度以下へと減少していく。この結果から、GMR素子に形状異方性を持たせ、さらにバイアス磁界を大きくすることにより、回転体の回転角の検出の精度が向上することが分かる。
【0059】
このように、本実施形態に係る磁気センサ20では、GMR素子22a〜22dを、一方側と他方側との間を折り返しながら延びる線状のグラニュラ薄膜で構成している。これによって、GMR素子22a〜22dは、線状が延びる長手方向と、その長手方向に直交する短手方向とに、形状異方性を有するようになるとともに、磁気センサ20の出力を大きくすることができる。さらに、GMR素子22a〜22dが延びる長手方向にバイアス磁石24によるバイアス磁界を印加することによって、GMR素子22a〜22dを飽和に近い磁化状態にして反磁界効果を強め感度の形状異方性を増大させることができる。これによって、磁気センサ20は、感度異方性に優れ極性も検知可能なものになる。
【0060】
(第2実施形態)
図13および図14は、本発明の第2実施形態に係る磁気センサ40を備えたセンサチップパッケージ30を示しており、この磁気センサ40は電流センサとして用いられている。なお、図13は、センサチップパッケージ30の内部の主要部分を示した平面図であり、以後、本実施形態においては、前後左右の方向は、図13に基づいて説明する。センサチップパッケージ30は、エポキシ樹脂からなるパッケージ本体31と、パッケージ本体31内を通過するリードフレーム32と、リードフレーム32に取り付けられた磁気センサ40と、パッケージ本体31の内部と外部とにかけて設置された6個のリードフレーム端子33a〜33fと、磁気センサ40とリードフレーム端子33b〜33eとをそれぞれ接続する4本の配線34a〜34dとで構成されている。
【0061】
リードフレーム32は、銅からなっており、外部から延びてきてパッケージ本体31の左側手前からパッケージ本体31内に入り、後部側が凸になるようにコ字状に延びたのちに、パッケージ本体31の右側手前から外部に延びている。また、リードフレーム32のコ字状になったフレーム本体32aは他の部分よりも幅が大きくなっており、コ字状の内側に形成される隙間の幅は小さくなっている。このリードフレーム32には、左端部の測定電流用端子32b側から、フレーム本体32aを通過して右端部の測定電流用端子32c側に電流が流れ、磁気センサ40は、この電流を検出する。
【0062】
リードフレーム端子33a〜33fは、接続用の端子を構成するもので、リードフレーム32と同様、銅からなる導電体で構成されている。6個のリードフレーム端子33a〜33fは、パッケージ本体31の左右に3個ずつ左右対象に配置されており、それぞれがパッケージ本体31の外部から内部に向かって左右に延びる部分とパッケージ本体31の内部で前後方向に延びる部分とで構成されている。前部側の左右に配置されたリードフレーム端子33c,33dは、それぞれ左右に延びる部分の端部から前後に延びる部分が後方に向かって延びるL形に形成されており、パッケージ本体31の前後方向の中央よりも僅かに前部側に配置されている。
【0063】
リードフレーム端子33a〜33fのうちの前後方向の中央の左右に配置されたリードフレーム端子33b,33eは、それぞれ左右に延びる部分の端部に前後に延びる部分の前後方向の中央が位置するT形に形成されている。また、パッケージ本体31の後部側の左右に配置されたリードフレーム端子33a,33fは、それぞれ左右に延びる部分の端部から前後に延びる部分が前方に向かって延びるL形に形成されている。左右に配置されたそれぞれ3個のリードフレーム端子33a〜33cおよびリードフレーム端子33d〜33fは、左右に延びる部分および前後に延びる部分をそれぞれ等間隔にして配置されている。
【0064】
磁気センサ40は、フレーム本体32aの前後方向の中央部分に設置されており、フレーム本体32aの上面に設置された絶縁基板41と、絶縁基板41の上面における前後方向の中央の左右にそれぞれ形成された一対のGMR素子42a,42bと、絶縁基板41の上面における四隅にそれぞれ形成された電極43a〜43dとを備えている。そして、フレーム本体32aの下面における、絶縁基板41の下方にバイアス磁石44が設置されている。磁気センサ40は、フレーム本体32aの上面に設置された絶縁基板41側部分と、フレーム本体32aの下面に設置されたバイアス磁石44とで構成されており、絶縁基板41とバイアス磁石44とは、それぞれダイボンドによってフレーム本体32aに固定されている。
【0065】
絶縁基板41は、前述した絶縁基板21と同じ絶縁体材料からなる前後よりも左右が長い四角板状体で構成されており、前後方向の長さが1.05mm、左右方向の長さが1.8mm、厚みが0.25mmに設定されている。この絶縁基板41は、パッケージ本体31の左右および前後の中央に位置するようにして、フレーム本体32aの上面に設置されている。また、GMR素子42a,42bは、それぞれ前述したGMR素子22a〜22dと同じ材料で構成されており、前述したスパッタリング法を用いて成膜されることにより、絶縁基板41の表面に形成されている。また、GMR素子42a,42bは、それぞれ長手方向を左右に向け、線状の両端部を絶縁基板41の左右の外部側に向けて配置されている。
【0066】
電極43a〜43dはそれぞれ薄い銅板からなっており、電極43a,43bは、GMR素子42aの端部にそれぞれ接続され、電極43c,43dは、GMR素子42bの端部にそれぞれ接続されている。また、電極43a〜43dはそれぞれ、配線34a〜34dを介したワイヤボンドによって、6個のリードフレーム端子33a〜33fのうちの前部側に位置する4個のリードフレーム端子33b〜33dに接続されている。また、GMR素子42a,42bは、電極43a〜43d、配線34a〜34dおよびリードフレーム端子33b〜33eを介して直列に接続されており、これによって、図15に示したハーフブリッジ回路が形成されている。
【0067】
電極43aには、リードフレーム端子33bから配線34aを介して5Vの電源電圧が供給されるようになっている。また、電極43dは、配線34dおよびリードフレーム端子33eを介して接地されるようになっている。電極43b,43cは、それぞれ配線34b,34cおよびリードフレーム端子33c,33dを介して出力端子となる。リードフレーム端子33c,33dは、配線(図示せず)を介して接続されており、その接続点から出力Vが信号として取り出される。この出力Vは、前述した式2、式3のVx、Vyと同様にして求められる。
【0068】
バイアス磁石44は、酸化鉄を主原料とした四角板状のフェライト磁石からなっており、前後方向の長さが1.1mm、左右方向の長さが2.4mm、厚みが0.2mmに設定されている。また、バイアス磁石44は、左右を2等分する面を境界として分極されて境界面に対して直角方向に着磁されており、左側がN極、右側がS極になっている。これによって、バイアス磁石44には、図13に示した矢印の方向の磁界が発生し、GMR素子42a,42bには、それぞれ長手方向に沿ったバイアス磁界が印加される。磁気センサ40が備えるGMR素子42a,42bのMR特性については、前述した磁気センサ20が備えるGMR素子22a〜22dのMR特性と略同じであり、バイアス磁界が印加されていないときには、図5(a)および図5(b)に示したMR特性が現れ、バイアス磁界を印加したときには、図7(a)および図7(b)に示したMR特性が現れる。
【0069】
つぎに、センサチップパッケージ30におけるリードフレーム32の測定電流用端子32b,32c間に、電流を印加した時の印加電流と磁気センサ40の出力との関係を説明する。リードフレーム32に測定電流用端子32bから測定電流用端子32cに向かう電流を印加した場合、フレーム本体32aにおけるGMR素子42aに対応する部分には、フレーム本体32aの断面を前方から見た状態での時計周り方向に外部磁界が発生し、フレーム本体32aにおけるGMR素子42bに対応する部分には、フレーム本体32aの断面を前方から見た状態での反時計周り方向に外部磁界が発生する。すなわち、GMR素子42a,42bには、それぞれ長手方向に沿った反対方向の外部磁界が加わるようになる。
【0070】
このとき、GMR素子42a,42bに加わる磁界の大きさと方向とは、バイアス磁界と外部磁界との大きさと方向との合成ベクトルとなるため、GMR素子42aに加わる磁界の大きさはバイアス磁界よりも外部磁界が加わる分大きくなり、GMR素子42bに加わる磁界の大きさはバイアス磁界よりも外部磁界が引かれる分小さくなる。この場合、GMR素子42aの抵抗値は、GMR素子42bの抵抗値よりも小さくなる。また、印加電流に対する磁気センサ40の出力は、図15に示したハーフブリッジの出力Vとなり、この出力Vは印加電流の大きさにしたがって変化する。
【0071】
図16(a)および図16(b)は、リードフレーム32への印加電流の大きさと磁気センサ40の出力との関係を示している。この場合のバイアス磁石44によるバイアス磁界の大きさは、14kA/mである。この磁気センサ40によると、電流値の正負の方向に関わらず、出力値は、直線状に延び、広い動作磁界に対して良好な検出値を得ることができる。また、図16(b)のように、印加電流を微小にしても、安定した出力特性が得られた。このことから、磁気センサ40が浮遊磁界の変動の影響を受けにくいものであることもわかる。このように、磁気センサ40によると、外部からの浮遊磁界による出力変動がなく、特に、バイアス磁界方向の磁界勾配の検知に優れた出力特性が得られる。
【0072】
(変形例)
図17および図18は、前述したセンサチップパッケージ30の変形例に係るセンサチップパッケージ50を示している。このセンサチップパッケージ50では、リードフレーム52のコ字状になったフレーム本体52aの幅が前述したフレーム本体32aの幅よりも小さくなっており、その分、フレーム本体52aのコ字状部分の内側に形成される隙間の幅は大きくなっている。そして、フレーム本体52aの左右両側における磁気センサ40aが位置する部分には、それぞれ磁気センサ40aの中央側に向かって延びる引き込み部52b,52cが形成されている。この引き込み部52b,52cの対向する先端部間の長さは、前述したフレーム本体32aの内側に形成された隙間の幅と略同じになっている。このセンサチップパッケージ50のそれ以外の部分の構成は、前述したセンサチップパッケージ30と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0073】
センサチップパッケージ50は、フレーム本体52aの幅を小さくすることにより、センサチップパッケージ30のフレーム本体32aと比べて電流密度を高めることができる。これによって、図19に示したように、前述したセンサチップパッケージ30と比べて、同じ電流を印加した場合の磁気センサ40aの出力を増加できる。例えば、印加電流が1ampの場合、磁気センサ40aの出力は、図19に示されているように、1.7mV程度であるが、センサチップパッケージ30の磁気センサ20の出力は、図16(b)に示されているように、1.0mVである。このように、フレーム本体52aの幅を小さくすることにより、磁気センサ40aを高感度なものにすることができる。
【0074】
また、センサチップパッケージ50において、引き込み部52b,52cを設けなくても、引き込み部52b,52cを設けた場合と同様の効果が得られるが、その場合、絶縁基板41とフレーム本体52aとの接触面積が小さくなって、絶縁基板41のフレーム本体52aへのダイボンドが難しくなる。また、リードフレーム52に大きな電流を流した場合には、リードフレーム52からジュール損失による発熱が生じるが、引き込み部52b,52cを設けることにより、その発熱を拡散させる効果も生じる。このようなことから、センサチップパッケージ50においては、リードフレーム52に引き込み部52b,52cを設けている。
【0075】
本発明に係る磁気センサは、前述した各実施形態に限定するものでなく、本発明の技術的範囲内で適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態では、バイアス磁界印加手段として、バイアス磁石24,44を用いているが、これに代えて磁気コイルを用い、磁気コイルに電流を流すことによりバイアス磁界を発生させてもよい。また、前述した各実施形態では、ブリッジ回路をハーフブリッジ回路としたが、フルブリッジ回路を用いることもできる。例えば、磁気センサ40,40aを電流センサとして用いる実施形態では、図20および図21に示したフルブリッジ回路を用いることもできる。
【0076】
図20は、GMR素子62a〜62d、電極63a〜63hおよび導電部65a〜65eを備えたフルブリッジ回路を示している。また、図21は、GMR素子72a〜72d、電極73a〜73hおよび導電部75a〜75dを備えたフルブリッジ回路を示しており、GMR素子72a,72bおよびGMR素子72c,72dは、それぞれ線状を平行して配置することにより入れ子形態に形成されている。また、本発明に係る磁気センサのそれ以外の部分についても、適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
20,40,40a…磁気センサ、21,41…絶縁基板、22a〜22d,42a,42b,62a〜62d,72a〜72d…GMR素子、24,44…バイアス磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に形成され、一方側と他方側との間を折り返しながら延びる線状の高透磁率グラニュラ薄膜からなるGMR素子と、
前記絶縁基板の近傍に配置され、前記GMR素子の線状が延びる長手方向にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段と
を備えたことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記GMR素子を構成するグラニュラ薄膜が、Agからなる母相中に、FeCoからなる微粒子を分散させて構成されたものである請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記GMR素子の線状が延びる長手方向に外部磁界を印加したときに、前記GMR素子に発生する抵抗値に基づいて前記外部磁界の大きさと正負の極性とを検出する請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記バイアス磁界印加手段を、磁極面の磁気中心を前記絶縁基板の中心に合わせた状態で前記絶縁基板に対向して配置されたバイアス磁石で構成して、前記GMR素子を、前記絶縁基板の中心点で直交し前記磁極面に平行に延びる2つの軸に沿い前記中心点からそれぞれ同一距離の位置にそれぞれ形成された4つのもので構成し、前記2つの軸の各軸に沿ってそれぞれ設けた2つのGMR素子を直列に接続して2つのブリッジ回路を構成し、前記2つのブリッジ回路の両端に電源電圧を印加して、前記2つのGMR素子の接続点からそれぞれ出力信号を取り出すようにした請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記バイアス磁界印加手段を、前記絶縁基板の裏面に沿って2極着磁されたバイアス磁石で構成して、前記GMR素子を、前記絶縁基板の表面における前記バイアス磁石の両極に対応する部分にそれぞれ形成された2つのもので構成し、前記2つのGMR素子を直列に接続してブリッジ回路を構成し、前記ブリッジ回路の両端に電源電圧を印加して、前記GMR素子の接続点からそれぞれ出力信号を取り出すようにした請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−63203(P2012−63203A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206663(P2010−206663)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000236447)浜松光電株式会社 (20)
【Fターム(参考)】