説明

磁気ヘッドスライダの製造方法及びプローブ装置

【課題】クラウン形成工程において研磨量をより正確に制御する。
【解決手段】ローバー取付工程では、ローバー1を、第1の面で、凸曲面を有するキーパー16の凸曲面に固定する。この際、ローバーとキーパー16との間に、弾性変形可能な保持部材17を、ローバーの第1の面が保持部材17の外周縁部の内側に入るように介在させる。ローバー研磨工程では、キーパー16に保持されたローバー1を、凹曲面13aを有する回転する研磨定盤の凹曲面13aに押し付けながら、ローバー1の研磨面を研磨する。この際、プローブ32に、弾性復元力が生じるように押し付け力を加えながら、プローブの先端部35aを保持部材17と凹曲面13aとで挟まれた空間Sに向け、プローブを空間に挿入して電極パッド5に当接させ、抵抗体の電気抵抗を監視しながら、ローバー1を研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドスライダの製造方法及びプローブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッドスライダを製造するためには、スライダとなるべき素子を研磨し、読込素子(MR素子)の高さを正確に形成することが重要である。スライダとなるべき素子(スライダ形成部)はローバーの状態で研磨されることが一般的である。ローバーの研磨は通常、荒削り工程とクラウン形成工程とに分けられる。
【0003】
荒削り工程は読込素子のハイト(媒体対向面から垂直に測った長さ)を粗い精度で形成することを目的としており、研磨量は比較的大きい。特許文献1には、荒削り工程の例が開示されている。研磨量を制御するために、あらかじめウエハ工程で、ローバーの切り代となる部分に抵抗体を形成しておき、研磨時にこの抵抗体を同時に研磨する。抵抗体の電気抵抗は研磨量に従い増加し、電気抵抗と研磨量の関係はあらかじめ測定されている。従って、研磨中に抵抗体の電気抵抗を測定すればローバーの大体の研磨量を推定することができる。電気抵抗を測定するには、抵抗体と電気的に接続された電極パッドをあらかじめウエハ工程で形成しておき、研磨中にこの電極パッドが露出するようにしておく。そして、針型の端子であるプローブを電極パッドに押当て、電極パッドから抵抗体に電圧を掛けることで、電気抵抗が測定される。
【0004】
クラウン形成工程の例は特許文献2に開示されている。クラウン形成工程は、仕上げラッピングとしての役割も有しており、読込素子の高さが高精度で形成される。クラウン形成工程の他の重要な目的は磁気ヘッドスライダの媒体対向面にクラウンと呼ばれる曲面を形成することである。クラウンは、磁気ヘッドスライダの媒体対向面に形成される、記録媒体側に凸状に張り出した曲面で、このような曲面を形成することによって、磁気ヘッドスライダが記録媒体に接触したときの吸着を防止することができる。
【0005】
クラウンを形成するには、ローバーをキーパーの凸曲面に、吸着パッド等の保持部材を介して取り付け、この状態でローバーを、キーパーの凸曲面に対応した形状を有する研磨定盤の凹曲面に押し付ける。保持部材はローバーをキーパーに固定するための治具であり、キーパーの凸曲面に追随して変形できるように、ウレタンなどの柔らかい材料で作成される。また、保持部材はローバーを確実にキーパーに固定するために、ローバーよりも大きな平面積を有している。このため、ローバーは保持部材と研磨定盤の間の隙間に、内側に引きこんだ状態で保持される。ローバーを研磨定盤に押し付けると、ローバーは長手方向には概ね研磨定盤の凹曲面に沿って変形するが、短辺方向には変形しにくいため、ローバーの長手方向両側縁部だけが研磨定盤の凹曲面に当接し研磨される。この結果、ローバーは全体的に蒲鉾状に研磨される。その後ローバーを切り代に沿って切断することで、媒体対向面にクラウンが形成された磁気ヘッドスライダが形成される。クラウン形成工程では抵抗体を用いた研磨量の管理は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-163719号公報
【特許文献2】特開2000-155924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クラウン形成工程においても荒削り工程と同様にプローブを用いて研磨量の管理を行おうとすると、プローブを保持部材と研磨定盤との間の隙間に挿入する必要がある。しかし、上述のように、保持部材はキーパーの凸曲面に追随して変形できるように柔らかい材料を用いているため、研磨の際にキーパーから研磨定盤に下向きの押し付け力がかかると、保持部材が変形し、ローバーが保持部材にめり込みことがある。ローバーが保持部材にめり込むと、隙間自体が縮小し、あるいは電極パッドが保持部材に覆われてしまう。プローブは細い探針を用いているため、変形しやすく、プローブを挿入しあるいは電極パッドに当接させることは困難である。一例では、ラバーからなる保持部材に厚さ0.2mm程度のローバーを取り付けた場合、ローバーが0.13mm程度、保持部材にめり込むことが確認された。この結果、ローバーの装着時には0.2mmあった隙間が研磨時には0.07mmしか確保できない。以上の理由から、クラウン形成工程は、荒削り工程と異なり、研磨量を監視しながら行うことが困難であり、時間管理、すなわち一定時間の研磨を行うことで研磨量を管理していた。このため、クラウン形成工程では荒削り工程と同程度の精度で研磨量を制御することができなかった。
【0008】
本発明はクラウン形成工程において研磨量をより正確に制御することができるスライダの製造方法、及びこれに用いられるプローブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法は、研磨面と、研磨面と対向する第1の面と、研磨面及び第1の面の双方と接する第2の面と、を有し、磁気ヘッドスライダとなるべき部分であるスライダ形成部が、間に切り代部を挟んで複数個形成され、研磨量に応じて電気抵抗が変化する抵抗体を切り代部の研磨面に備え、抵抗体と電気的に接続された電極パッドを切り代部の第2の面に備える帯状のローバーを研磨することを含んでいる。本製造方法は、ローバーを、第1の面で、凸曲面を有するキーパーの凸曲面に固定するローバー取付工程と、キーパーに保持されたローバーを、凹曲面を有する回転する研磨定盤の凹曲面に押し付けながら揺動させ、ローバーの研磨面を研磨するローバー研磨工程と、を有している。ローバー取付工程は、ローバーとキーパーとの間に、弾性変形可能な保持部材を、ローバーの第1の面が保持部材の外周縁部の内側に入るように介在させることを含んでいる。ローバー研磨工程は、プローブに、弾性復元力が生じるように押し付け力を加えながら、プローブの先端部を保持部材と凹曲面とで挟まれた空間に向け、プローブを空間に挿入して電極パッドに当接させ、抵抗体の電気抵抗を監視しながら、ローバーを研磨することを含んでいる。
【0010】
ローバーは第1の面が保持部材の外周縁部の内側に入るようにキーパーの凸曲面に固定され、研磨定盤の凹曲面に押し付けられる。このため、研磨中には電極パッドは、保持部材と研磨定盤の凹曲面とで挟まれた空間の内部に引きこんだ状態となっている。プローブには、弾性復元力が生じるように押し付け力が加えられ、プローブの先端部は保持部材と凹曲面とで挟まれた空間に向けられる。プローブはこの状態で空間に挿入されるため、プローブの動きが安定化され、衝撃などの外乱によって方向が乱れることがない。従って、狭い空間であってもプローブを正確に空間内に挿入し、電極パッドに当接させることができる。
【0011】
本発明の他の実施態様によれば、研磨面と、研磨面と対向する第1の面と、研磨面及び第1の面の双方と接する第2の面と、を有し、磁気ヘッドスライダとなるべき部分であるスライダ形成部が、間に切り代部を挟んで複数個形成され、研磨量に応じて電気抵抗が変化する抵抗体を切り代部の研磨面に備え、抵抗体と電気的に接続された電極パッドを切り代部の第2の面に備える帯状のローバーを、保持部材を介して第1の面でキーパーに保持させた状態で、回転する研磨定盤に押し付けながら揺動させ研磨する工程に用いられ、研磨定盤と保持部材とで形成される空間の内部に位置する電極パッドと電気的に接続可能なプローブ装置が提供される。プローブ装置は、固定部と、固定部に連結され、固定部との連結部を支点として先端部が上下方向に変位するように弾性変形が可能な可動部と、を有するプローブと、可動部の連結部と先端部との間の位置で可動部に下向きの力を掛けることで、可動部を空間に挿入可能な姿勢に弾性変形させ、姿勢を保持することができるストッパと、を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クラウン形成工程において研磨量をより正確に制御することができるスライダの製造方法、及びこれに用いられるプローブ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用されるローバーの斜視図である。
【図2】クラウン形成工程で使用される研磨装置の概略図である。
【図3】ローバーをキーパーの凸曲面に固定された状態を示す斜視図である。
【図4】研磨定盤及びキーパーと研磨中のローバーを示す断面図である。
【図5】図4の拡大図である。
【図6】クラウンが形成されたローバー及び磁気ヘッドスライダの斜視である。
【図7】プローブ装置の側面図である。
【図8】ストッパの斜視図である。
【図9】ストッパの正面図である。
【図10】ローバーの保持部材へのめり込みを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法が適用されるローバーについて説明する。図1は、ローバーの斜視図である。同図(a)はウエハ工程における積層方向上側を上面としたローバーの斜視図であり、同図(b)は同図(a)のローバーを矢印に示す方向に倒した時の状態を示している。ローバー1はウエハ工程で縦横に格子状に形成されたスライダ形成部を、ウエハから1列だけ切り出したものをいう。スライダ形成部2は、磁気ヘッドスライダとなるべき部分をいう。ローバー1は、スライダ形成部2同士の間に各スライダに分離するための切り代部3が設けられており、複数のスライダ形成部2が間に切り代部3を挟んで一方向に配列した構成となっている。
【0015】
一部の切り代部3には抵抗体4が形成されている。この抵抗体4は、RLG(Resistance Lapping Guide)またはELG(Electric Lapping Guide)と呼ばれる。抵抗体4は、予めウエハ工程で作成され、抵抗体4と接続された切り代部3の内部配線(図示せず)によって、ローバー1上の電極パッド5と接続されている。図では、電極パッド5を切り代部3に1つだけ設けているが、2つ設ける構成であってもよい。電極パッド5を介して抵抗体4に電圧を印加することによって、抵抗体4の電気抵抗値を検出することができる。抵抗体4の電気抵抗はローバー1の研磨量に応じて変化し、抵抗体4の電気抵抗値と抵抗体4のハイトとの関係は予め求められている。このため、抵抗体4の電気抵抗値を知れば、抵抗体4のハイトが分かり、これによって荒削り工程中及びクラウン形成工程中の研磨量を管理することができる。抵抗体4及び電極パッド5は必ずしもすべての切り代部3に設ける必要はないが、ローバー1の長手方向に沿った複数の切り代部3に設けることが望ましい。これによって、ローバー1の長手方向におけるMRハイトの分布を推定することができる。
【0016】
ローバー1は帯状の直方体形状をなしており、ウエハからローバー1を切り出したときに現われる一つの面が、研磨によって媒体対向面となる研磨面SLとなっている。抵抗体4は切り代部3の研磨面SLに形成されている。以下の説明では、研磨面SLと対向するローバー1の面を第1の面S1という。第1の面S1もウエハからローバー1を切り出したときに現われる面であり、研磨の際は、後述するキーパー16がローバー1を保持する面となる。ウエハ工程における上面は前述の電極パッド5が設けられる面となっており、この面を第2の面S2という。第2の面S2は研磨面SLと第1の面S1の双方と接している。
【0017】
図2(a)は、クラウン形成工程で使用される研磨装置の概略構成を示す斜視図である。研磨装置11は、テーブル12と、テーブル12上に設けられた回転する研磨定盤13と、研磨定盤13の側方に設けられたアーム支持部14と、アーム支持部14から研磨定盤13の上方に張り出したアーム15と、アーム15に取り付けられたキーパー16と、を備えている。アーム15はアーム支持部14に対して図中の方向Dに往復移動することができる。また、図示は省略するが、研磨装置11はキーパー16を研磨定盤13に押し付けるためのアクチュエータと、押し付け力を制御する制御部とを備えている。
【0018】
図2(b)は図2(a)の2b−2b線に沿ったキーパーと研磨定盤の断面図である。キーパー16と研磨定盤13はともに球面の一部に相当する表面形状を有しており、キーパー16は研磨定盤13に向けて突き出した凸曲面16aを有している。研磨定盤13は下向きに凹んだ椀状の凹曲面13aを有している。凸曲面16aの曲率R1は凹曲面13aの曲率R2より大きくされている。
【0019】
次に、磁気ヘッドスライダの製造方法について説明する。本発明はクラウン形成工程に特徴を有しているため、それ以外の工程については従来技術をそのまま適用できる。従って、クラウン形成工程以外の工程については概略の説明にとどめる。
【0020】
まず、磁気ヘッドスライダとなるべきスライダ形成部2が形成されたウエハを、ウエハ工程で製作する。具体的には、Al23−TiCからなる基板の上に、MR素子と記録素子とを備えたスライダ形成部2を格子状に形成する。この際、切り代部3となる領域には、研磨面SLに沿って抵抗体4を形成する。その後ウエハを切り代部3に沿って切断し、ローバー1を作成する。
【0021】
次に、ローバー1に対し荒削り工程を行う。具体的にはローバー1を適宜の方法で支持し、研磨面SLを荒削り工程用の研磨定盤に押し付け、抵抗体4の電気抵抗を監視しながら、所定の研磨量となるまで研磨面SLを研磨する。その後、ローバー1を上述の研磨装置11に装着し、クラウン形成工程を行い、媒体対向面にクラウンを形成する。次に、ローバー1を切り代部3に沿って切断し、洗浄、検査などの工程を経て、磁気ヘッドスライダを得る。
【0022】
ここで、クラウン形成工程について、図面を参照して詳細に説明する。クラウン形成工程は大きく分けて、ローバー取付工程とローバー研磨工程とからなる。
【0023】
(ローバー取付工程)図3に示すように、ローバー1を、第1の面S1で、キーパー16の凸曲面16aに固定する。この際、ローバー1をキーパー16に保持させる目的で、ローバー1とキーパー16との間に弾性変形可能な保持部材17を介在させる。保持部材17はローバー1より広い平面積を有しており、ローバー1が確実にキーパー16に保持されるように、ローバー1の第1の面S1が保持部材17の外側周縁部17aの内側に入るように保持部材17に取り付けられる。
【0024】
(ローバー研磨工程)キーパー16に保持されたローバー1を、凹曲面13aを有する回転する研磨定盤13の凹曲面13aに押し付けながら揺動させ、ローバー1の研磨面SLを研磨する。キーパー16の凸曲面16aは研磨の際に研磨定盤13の凹曲面13aに沿って摺動する。図4はこのときの状態を示す側方図であり、同図(a)がローバー1の長辺側から見た側方図、同図(b)がローバー1の短辺側から見た側方図である。図5は図4のローバー付近の拡大図を示しており、同図(a),(b)がそれぞれ図4(a),(b)に対応している。
【0025】
ローバー1の長手方向における挙動は以下の通りとなる。キーパー16を研磨定盤13に近づけていくと、凸曲面16aの曲率R1>凹曲面13aの曲率R2であるから、ローバー1の長手方向両端1a,1bがまず凹曲面13aに当接し、さらに押し付けると保持部材17及びローバー1が変形する。これは、ローバー1の長手方向両端1a,1bを支点としてローバー1に曲げモーメントが掛るためである。長手方向では曲げモーメントのアームが長いため大きな曲げモーメントが掛り、最終的にローバー1の長手方向全体が凹曲面13aの形状に沿って変形する。この結果、図5(a)に示すように、ローバー1は凹曲面13aに均等に接触し、研磨定盤13の凹曲面13aの形状に従って(全体が曲率半径R2となるように)研磨される。ローバー1は長手方向と直交するどの断面においても、同じように研磨される。従って、ローバー1をキーパー16から取り外して平坦な状態に戻したときに、研磨面SLは長手方向と直交するどの断面でも同じ状態となっている。
【0026】
これに対して、ローバー1は短手方向には、容易に変形しない。すなわち、短手方向においても、ローバー1の短手方向両端1c,1dがまず凹曲面13aに当接し、さらに押し付けると保持部材17及びローバー1が変形していくのであるが、曲げモーメントのアームが短いため、同じ押し付け力を掛けても保持部材17及びローバー1が変形しにくいのである。このため、図5(b)に示すように、両側端部1c,1dだけが研磨定盤13に当接して研磨され、その後中央部も徐々に研磨されていくが(研磨される部分をLで示す)、中央部は両側端部1c,1dほど研磨されない。従って、ローバー1をキーパー16から取り外して平坦な状態に戻すと、図6(a)に示すような蒲鉾状の形状となる。このローバー1を切り代部3で切断すると、図6(b)に示すようなクラウン21が各スライダの媒体対向面22に形成される。
【0027】
以上の研磨工程において、本発明においては研磨量を監視するためプローブ装置が使用される。ローバー1は、研磨定盤13に押し付けられたときには、図4,5に示すように、保持部材17と研磨定盤13の凹曲面13aとで挟まれた空間S内に、内側に引きこんだ状態で位置することになる。従って、プローブ装置は空間Sの内部に位置する電極パッド5と電気的に接続できるように構成されている。
【0028】
図7はプローブ装置の構成を示す概念図であり、同図(a)は装置全体の断面図、同図(b)はローバー付近の部分図である。図7(a)では、研磨定盤13の凹曲面13aは直線で表示している。プローブ装置31はプローブ32と、ストッパ33と、を有している。プローブ32は複数の電極パッド5に同時に当接できるように、ローバー1の長手方向に沿って、複数個が並置されている(図8参照)。このため、プローブ装置31はローバー1の研磨量を複数個所で検知することができる。各プローブ32は、プローブ装置31の本体(不図示)に固定された固定部34と、連結部36によって固定部34に連結された可動部35からなり、可動部35の先端部35aが電極パッド5に当接するようにされている。ストッパ33はプローブ装置31の本体に取り付けられ、上下方向に移動可能に構成されている。
【0029】
プローブ装置31を用いる際には、ストッパ33によって可動部35に下向きの力を掛けて、可動部35が水平方向を向くように可動部35の姿勢を制御する。可動部35は、図7(a)に破線で示すように、ストッパ33からの力を受けないときは、先端部35aが斜め上方を向く姿勢にされている。この状態で、可動部35の連結部36と先端部35aとの間の位置に、ストッパ33によって、研磨定盤13側に向かう下向きの押し付け力F1を加える。固定部34は本体に固定されており、その姿勢は不変であるため、可動部35だけが連結部36を支点として下向きに弾性変形する。プローブ32には、キーパー16側に復元しようとする弾性復元力F2が生じる。ストッパ33の当接面37の上下方向位置を調整することで、可動部35は水平方向を向いた姿勢に調整される。
【0030】
この状態を維持したままプローブ32を保持部材17と凹曲面13aとで挟まれた空間Sに挿入して、可動部35の先端部35aを電極パッド5に当接させる。空間Sの高さはローバー1の厚みにも依存するが、一例では0.2〜0.3mm程度である。プローブ32は一般に剛性が低く変形しやすいため、挿入時あるいは電極パッド5にプローブ32の先端部35aを押し当てる際、プローブ装置31の動きや衝撃力によって容易に揺れることがある。しかし、本発明によれば、可動部35は押し付け力F1と弾性復元力F2とを受けており、これらの力によって拘束された状態で挿入されるため、プローブ32に衝撃が加わっても揺れが抑えられ、容易に静止状態を保つことができる。プローブ32の先端部35aの位置が容易に変化せず、かつ先端部35aの位置を固定させることができるので、狭い空間であってもプローブ32を容易に挿入することができる。以上により、プローブ32を電極パッド5に確実に当接させ、抵抗体4の電気抵抗を監視しながら、ローバー1を研磨することができる。このためクラウン形成工程においても、研磨量を正確に制御することができる。
【0031】
ストッパ33を可動部35に押し当てる位置に制約はないが、できるだけ先端部35aに近い位置で可動部35に押し当てるのが、姿勢の制御が容易であり、可動部35も安定するため好ましい。ストッパ33の当接面37の可動部35と当接する位置に、図8に示すような可動部35を受け入れる凹部37aを有していると、可動部35が横方向(ローバー1の長手方向)にも拘束されるためさらに好ましい。
【0032】
上述のように、ローバー1はキーパー16に保持され、長手方向においては研磨定盤13の凹曲面13aに沿って弧状に変形する。従って、図8の9−9線から見たストッパ33の正面図に示すように、ストッパ33の当接面37を中央のプローブ32に当接する位置を最下点とする円弧状に形成することが望ましい。これによって、全てのプローブ32を最適な高さで空間Sに挿入し、電極パッド5に当接させることが可能となる。
【0033】
保持部材17は変形しやすいため、図10に示すように、ローバー1を研磨定盤13に押し付けたときにローバー1が保持部材17にめり込むことがある。めり込みが生じると、空間Sの高さが小さくなり、プローブ32の挿入が難しくなるだけでなく、電極パッド5の一部が保持部材17に遮蔽され、電極パッド5へのプロープの当接が困難になることがある。本発明はそのような場合であってもプローブ32を空間Sに挿入し電極パッド5に当接させることができるが、この操作をより確実に行うため、保持部材17を硬めの材料で作成し、ローバー1の保持部材17へのめり込みを抑制することが望ましい。具体的には、保持部材17はローバー1の研磨中に、電極パッド5の高さHの半分以上の高さH1が、保持部材17の変形によって遮蔽されることなく露出する程度の変形特性を有していることが望ましい。高さH1は電極パッド5の下辺と保持部材17のローバー1から離れた位置での下面(すなわちローバーのめり込みの影響を受けない領域での下面高さ)との間の鉛直方向に測った高さである。キーパー16の凸曲面16a及び研磨定盤13の凹曲面13aは曲率半径が非常に大きく、実質的には平面に近いため、ある程度硬い材料であっても保持部材17がこの曲率半径に合わせて変形することは容易である。保持部材17を変形の容易な材料で作成することは好ましくなく、ある程度変形の抑えられた材料で作成する方が望ましい。保持部材17は例えば、ウレタンゴム等で形成され、Hs硬度が55±10程度の材料で形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 ローバー
2 スライダ形成部
3 切り代部
5 電極パッド
SL 研磨面
S1 第1の面
S2 第2の面
11 研磨装置
13 研磨定盤
13a 研磨定盤の凹曲面
16 キーパー
16a キーパーの凸曲面
17 保持部材
31 プローブ装置
32 プローブ
33 ストッパ
34 固定部
35 可動部
35a 先端部
36 連結部
37 当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面と、前記研磨面と対向する第1の面と、前記研磨面及び前記第1の面の双方と接する第2の面と、を有し、磁気ヘッドスライダとなるべき部分であるスライダ形成部が、間に切り代部を挟んで複数個形成され、研磨量に応じて電気抵抗が変化する抵抗体を前記切り代部の前記研磨面に備え、前記抵抗体と電気的に接続された電極パッドを前記切り代部の前記第2の面に備える帯状のローバーを研磨することを含む、磁気ヘッドスライダの製造方法であって、
前記ローバーを、前記第1の面で、凸曲面を有するキーパーの該凸曲面に固定するローバー取付工程と、
前記キーパーに保持されたローバーを、凹曲面を有する回転する研磨定盤の該凹曲面に押し付けながら揺動させ、前記ローバーの前記研磨面を研磨するローバー研磨工程と、を有し、
前記ローバー取付工程は、前記ローバーと前記キーパーとの間に、弾性変形可能な保持部材を、前記ローバーの前記第1の面が該保持部材の外周縁部の内側に入るように介在させることを含み、
前記ローバー研磨工程は、プローブに、弾性復元力が生じるように押し付け力を加えながら、前記プローブの先端部を前記保持部材と前記凹曲面とで挟まれた空間に向け、該プローブを前記空間に挿入して前記電極パッドに当接させ、前記抵抗体の前記電気抵抗を監視しながら、前記ローバーを研磨することを含む、磁気ヘッドスライダの製造方法。
【請求項2】
前記保持部材は、前記ローバーの研磨中に、前記電極パッドの高さの半分以上を、該保持部材の変形によって遮蔽されることなく露出させることが可能な変形特性を有している、請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの製造方法。
【請求項3】
研磨面と、前記研磨面と対向する第1の面と、前記研磨面及び前記第1の面の双方と接する第2の面と、を有し、磁気ヘッドスライダとなるべき部分であるスライダ形成部が、間に切り代部を挟んで複数個形成され、研磨量に応じて電気抵抗が変化する抵抗体を前記切り代部の前記研磨面に備え、前記抵抗体と電気的に接続された電極パッドを前記切り代部の前記第2の面に備える帯状のローバーを、保持部材を介して前記第1の面でキーパーに保持させた状態で、回転する研磨定盤に押し付けながら揺動させ研磨する工程に用いられ、前記研磨定盤と前記保持部材とで形成される空間の内部に位置する前記電極パッドと電気的に接続可能なプローブ装置であって
固定部と、前記固定部に連結され、前記固定部との連結部を支点として先端部が上下方向に変位するように弾性変形が可能な可動部と、を有するプローブと、
前記可動部の前記連結部と前記先端部との間の位置で前記可動部に下向きの力を掛けることで、前記可動部を前記空間に挿入可能な姿勢に弾性変形させ、前記姿勢を保持することができるストッパと、を有するプローブ装置。
【請求項4】
前記ストッパは、前記可動部と当接する位置に、前記可動部を受け入れる凹部を有している、請求項3に記載のプローブ装置。
【請求項5】
前記電極パッドは複数個の切り代部に設けられ、
前記プローブは、複数の前記電極パッドに同時に当接できるように複数個が並置され、
前記ストッパの前記プローブとの当接面は中央の前記プローブに当接する位置を最下点とする円弧状に形成されている、請求項3または4に記載のプローブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−53947(P2012−53947A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195332(P2010−195332)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】