説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】スペーシングロスを小さくして良好な磁気記録再生特性を発揮することができる磁気記録媒体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体を製造するものであって、前記磁気記録層上に交換結合層を積層した後、前記交換結合層の全面に対してイオン照射を行うイオン照射工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体及びその製造方法に関し、特に、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(ハードディスクドライブ)に代表される磁気記録装置では、高い記録分解能が得られるので、垂直二層媒体と単磁極ヘッドで構成された垂直磁気記録方式が実用化されている。さらに、面記録密度を向上させる方策として、記録を担う磁性層を微細化する技術が開発されている。この技術においては、微細化により磁性粒子の熱安定性が低下して、記録した情報の劣化、消失といういわゆる熱揺らぎ問題に直面する。この問題を解決するために、個々の磁性粒子を磁気的に結合させ磁気的に安定にする交換結合型媒体を用いて、磁性微粒子構造に熱安定性を増すことが行われている。例えば、CGC媒体では、微粒子構造を持ったグラニュラに交換結合層を設けて、個々が分離した磁性粒子を、交換結合層を介して交換結合させている(特許文献1)。
【特許文献1】米国特許公報第6,468,670号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような構造において交換結合を強くするためには、交換結合層の厚さをある程度厚くする必要がある。交換結合層の厚さを厚くすると、記録を担う主記録層から磁気ヘッドまでの距離が必然的に遠くなってしまい、いわゆるスペーシングロスが大きくなるという問題がある。
【0004】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、スペーシングロスを小さくして良好な磁気記録再生特性を発揮することができる磁気記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気記録層上に交換結合層を積層した後、前記交換結合層の全面に対してイオン照射を行うイオン照射工程を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記交換結合層に含まれる六方最密充填構造を持つ金属の結晶格子におけるc軸とa軸との比c/aの変化量が|0.2|%以上になるように、前記交換結合層の全面に対して、イオン照射を行うイオン照射工程を有することを特徴とする。
【0007】
これらの方法によれば、イオン照射により、作製の難しい微細構造をもつ磁気記録層とさらに交換結合層との間に生じる微少な交換結合を効果的に制御することができるので、磁気記録媒体としての諸特性を変化させることなく、簡便にできることから生産性を落とすことなく作製が可能となる。
【0008】
本発明の磁気記録媒体の製造方法においては、前記交換結合層がPt及びCoを含む膜であり、前記金属がCoであることが好ましい。
【0009】
本発明の磁気記録媒体の製造方法においては、前記交換結合層の厚さが7nm以下であり、前記イオン照射におけるドーズ量が1×1013〜1×1015(イオン/cm2)の範囲内であることが好ましい。
【0010】
本発明の磁気記録媒体の製造方法においては、前記イオン照射工程は、磁気記録層上に交換結合層を積層し、さらにその上に保護層を形成した後、当該保護層の上からイオンを照射することが好ましい。
【0011】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間が空間的に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体であって、逆磁区核形成磁界Hnが−2000Oe(×103/4π A/m)以上であり、逆磁区核形成磁界Hnと保磁力Hcとの比Hn/Hcが−0.5以下であり、前記交換結合層の膜厚が7nm以下であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、交換結合層にイオン照射を行うことにより、膜厚が薄いにも拘わらず高い交換結合力を発揮することができる。このため、スペーシングロスを大きくすることなく、交換結合力を発揮して良好な磁気記録再生特性を得ることができる。
【0013】
本発明の磁気記録媒体においては、前記交換結合層がPt、Co及びCrを含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間が空間的に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体であって、逆磁区核形成磁界Hnが−2000Oe(×103/4π A/m)以上であり、逆磁区核形成磁界Hnと保磁力Hcとの比Hn/Hcが−0.5以下であり、前記交換結合層の膜厚が7nm以下であるので、スペーシングロスを小さくして良好な磁気記録再生特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体の概略構成を示す断面図である。この磁気記録媒体は、垂直磁気記録再生方式に用いられる磁気記録媒体である。
【0016】
図1に示す磁気記録媒体100は、ディスク基体10、付着層12、第1軟磁性層14a、スペーサ層14b、第2軟磁性層14c、配向制御層16、第1下地層18a、第2下地層18b、磁気記録層22、補助記録層24、媒体保護層26、及び潤滑層28がその順で積層されて構成されている。なお、第1軟磁性層14a、スペーサ層14b、第2軟磁性層14cは、あわせて軟磁性層14を構成する。第1下地層18aと第2下地層18bはあわせて下地層18を構成する。
【0017】
ディスク基体10としては、例えば、ガラス基板、アルミニウム基板、シリコン基板、プラスチック基板などを用いることができる。ディスク基体10にガラス基板を用いる場合には、例えば、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型してガラスディスクを作製し、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施すことにより作製することができる。
【0018】
付着層12は、ディスク基体10との間の密着性を向上させるための層であり、軟磁性層14の剥離を防止することができる。付着層12としては、例えば、CrTi膜などを用いることができる。
【0019】
軟磁性層14の第1軟磁性層14a及び第2軟磁性層14cとしては、例えば、FeCoTaZr膜などを用いることができる。スペーサ層14bとしては、Ru膜などを挙げることができる。第1軟磁性層14aと第2軟磁性層14cとは、反強磁性交換結合(AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling)しており、これにより、軟磁性層14の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分を極めて少なくして、軟磁性層14から生じるノイズを低減することができる。
【0020】
配向制御層16は、軟磁性層14を保護すると共に、下地層18の結晶粒の配向を促進する。配向制御層16の材料としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nbから選択したものを用いることができる。さらに、これらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金を用いても良い。例えば、NiW、CuW、CuCrが好適である。
【0021】
下地層18を構成する材料はhcp構造を有し、磁気記録層22を構成する材料のhcp構造の結晶をグラニュラ構造として成長させることができる。したがって、下地層18の結晶配向性が高いほど、磁気記録層22の配向性を向上させることができる。下地層18の材質としては、Ruの他に、RuCr、RuCoを挙げることができる。Ruはhcp構造をとり、Coを主成分とする磁気記録層を良好に配向させることができる。
【0022】
本実施の形態において、下地層18は、2層構造のRu膜で構成されている。上層側の第2下地層18bを形成する際に、下層側の第1下地層18aを形成するときよりもArのガス圧を高くしている。ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの自由移動距離が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶配向性を改善することができる。また高圧にすることにより、結晶格子の大きさが小さくなる。Ruの結晶格子の大きさはCoの結晶格子よりも大きいため、Ruの結晶格子を小さくすればCoのそれに近づき、Coのグラニュラ層の結晶配向性をさらに向上させることができる。
【0023】
磁気記録層22は、1層のグラニュラ構造の磁性層である。磁気記録層22としては、CoCrPt-Cr、CoCrPt−SiO、CoCrPt−TiOなどを挙げることができる。これらの材料においては、複数の酸化物が含まれていても良い。
【0024】
交換結合層24は、グラニュラ磁性層22上に高い垂直磁気異方性かつ高い飽和磁化Ms(グラニュラ磁性層22よりも高い飽和磁化Ms)を示す薄膜(補助記録層)であり、磁気記録層の磁性粒子同士を交換結合する。交換結合層24は、逆磁区核形成磁界Hn、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性の改善を目的とする。交換結合層24としては、例えば、CoCrPtや、CoCrPtB膜などを用いることができる。このような構成の磁気記録媒体においては、磁気記録層と交換結合層との間に交換結合が付与される。
【0025】
付着層12から交換結合層24までは、ディスク基体10上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて順次成膜を行う。生産性を考慮すると、インライン型成膜によりこれらの層や膜を形成することが好ましい。
【0026】
媒体保護層26は、磁気ヘッドの衝撃から磁気記録層を保護するための保護層である。媒体保護層26を構成する材料としては、例えば、Cr、Cr合金、カーボン、ジルコニア、シリカなどが挙げられる。一般に、CVD法によって成膜されたカーボンはスパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を保護することができる。
【0027】
潤滑層28は、例えば、液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈し、媒体表面にディッピング法、スピンコート法、スプレイ法によって塗布し、必要に応じ加熱処理を行って形成する。
【0028】
次に、本発明に係る磁気記録媒体の交換結合層について説明する。
本発明に係る磁気記録媒体において、交換結合層24は、六方最密充填構造を持つ金属を含み、この金属の結晶格子におけるc軸とa軸との比c/aの変化量が|0.2|%以上|0.8|%以下であることが好ましい。
【0029】
六方最密充填構造においてc軸とa軸との比c/aの変化量が|0.2|%以上(+0.2%以上又は−0.2%以下)|0.8|%以下(+0.8%以下又は−0.8%以上)である状態は、六方最密充填構造が歪んだ状態である。すなわち、この状態は、六方最密充填構造を歪ませて、a軸格子間隔を大きくし(延ばす)、c軸格子間隔を小さくする(縮ませる)。このように、六方最密充填構造を歪ませるためには、交換結合層24全面に対してイオン照射を行う。この照射されたイオンにより、六方最密充填構造のc軸格子間隔を狭め、a軸格子間隔を広げることができる。なお、c軸及び/又はa軸の個々の変化量は、|0.1|%以上(+0.1%以上又は−0.1%以下)、好ましくは、|0.2|%以上(+0.2%以上又は−0.2%以下)であることが好ましい。
【0030】
本発明者らは、Ar+イオンを照射した交換結合層をX線回折して、イオン照射により六方最密充填構造が歪むかどうかについて調べた。ここでは、交換結合層として、Pt及びCoを含む膜であるCoCrPtB膜を用い、Coの結晶格子について調べた。その結果を図2及び図3に示す。図2から分かるように、イオン照射におけるドーズ量を増加するにしたがって、a軸格子間隔が大きくなり、c軸格子間隔が小さくなっている。また、図3から分かるように、イオン照射におけるドーズ量を増加するにしたがって、c/aの変化量が大きくなっている。このように、イオン照射により六方最密充填構造が歪むことが確認された。
【0031】
このように六方最密充填構造を歪ませるイオン照射の条件としては、交換結合層24の膜厚を考慮して適宜決定することができる。例えば、交換結合層24の厚さが3nm以上7nm以下である場合においては、イオン照射におけるドーズ量は1×1013〜5×1014(イオン/cm2)であることが好ましい。
【0032】
このように六方最密充填構造を歪ませた交換結合層は膜厚が薄くなる。このように、膜厚が薄くなった交換結合層の交換結合力について説明する。交換結合層24の膜厚を変えると、保磁力(Hc)及び逆磁区核形成磁界(Hn)が変化する。交換結合層24が厚いほどHcが低下してHnの絶対値が大きくなる(値は負なので低くなる)。ここでは、交換結合力を表す指標としてHn/Hcを用いる。実際は、磁化曲線の傾きαの値の方が好ましいが、αの値よりもより簡便にHnを見ることができるのでこの値で調べる。
【0033】
ガラス基板上に、厚さ60nmの軟磁性層(CoTaZrFe/Ru/CoTaZrFe)、厚さ10nmの配向制御層(NiW)、厚さ20nmの下地層(Ru)、厚さ13nmの磁気記録層(CoCrPt-酸化物)、交換結合層、厚さ5nmの媒体保護層、及び厚さ1.3nmの潤滑層を順次積層してなる磁気記録媒体において、交換結合層24の膜厚を10.5nm、7nm、5.5nm、4nm、0nmとしたときのHc及びHnを求めた。なお、Hc及びHnの測定には、ネオアーク社製Kerr磁気測定装置を用い、磁気記録層のKerr回折角度を垂直方向にして外部磁化を印加して行った。その結果を図4に示す。図4から分かるように、交換結合が大きくなると(交換結合層の厚さが薄くなると)、磁化曲線のヒステリシスの角形が良くなるためにHnの絶対値が大きくなる。
【0034】
また、このように交換結合層24の膜厚を10.5nm、7nm、5.5nm、4nm、0nmとしたときの磁化曲線の傾きαと、Hn/Hcの値を求めた。その結果を図5に示す。図5から分かるように、磁化曲線の傾きαでは、交換結合層24がないものと、交換結合層厚5.5nmのものとが同等の値となっている。一方、Hn/Hcの値は、交換結合層24の膜厚が薄くなるにしたがって高くなっている。このように、膜厚を変えたときの交換結合層の交換結合力については、αを指標にするよりもHn/Hcを指標にした方が好ましいことが分かる。
【0035】
ここで、本発明者らは、上記構成を有する磁気記録媒体において、交換結合層24の膜厚を10.5nm、7nm、5.5nmと変えて、それぞれの交換結合層にイオン照射を行った場合のHn/Hcを調べた。その結果を図6に示す。図6から分かるように、交換結合力の指標となるHn/Hcについて、膜厚10.5nmでイオン照射を行わない交換結合層と、膜厚7nmでイオン照射(ドーズ量:4×1013(イオン/cm2)した交換結合層とでほぼ同じ値を示した。すなわち、交換結合層にイオン照射を行うことにより、膜厚が薄いにも拘わらず高い交換結合力を発揮させることができた。
【0036】
本発明において、Hn/Hcは負の値であること、好ましくは−0.2以下、より好ましくは−0.5以下である。また、この範囲内で、イオン照射をしない場合に比べて、イオン照射を行った場合の値が小さいことが好ましく、さらに好ましくはイオン照射しない場合に比べて、イオン照射を行った場合の値が−0.05以下小さいことである。したがって、このようなHn/Hcとなるように、交換結合層の厚さを規定することが望ましく、また、このような交換結合層の厚さになるように、イオン照射の条件を設定することが望ましい。また、逆磁区核形成磁界Hnは、−2000Oe(×103/4π A/m)以上であることが好ましい。
【0037】
上記構成を持つ磁気記録媒体は、交換結合層にイオン照射を行うことにより、膜厚が薄いにも拘わらず高い交換結合力を発揮する。このため、スペーシングロスを大きくすることなく、交換結合力を発揮して良好な磁気記録再生特性を得ることができる。また、本発明の方法においては、イオン照射により、作製の難しい微細構造をもつ磁気記録層とさらに交換結合層との間に生じる微少な交換結合を制御することができるので、磁気記録媒体としての諸特性を変化させることなく、簡便にできることから生産性を落とすことなく作製が可能となる。
【0038】
また、本発明にかかる磁気記録媒体は、磁性粒子の間に非磁性層を持つグラニュラ構造を有する磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合する交換結合層と、を具備する磁気記録媒体であって、前記交換結合層は、六方最密充填構造を持つ金属を含み、前記金属の結晶格子におけるc軸とa軸との比c/aの変化量が|0.2|%以上|0.8|%以下である構成であっても良い。
【0039】
また、本発明にかかる磁気記録媒体は、前記交換結合層がPt及びCoを含む膜であり、前記金属がCoである構成がより好ましい。
【0040】
また、本発明にかかる磁気記録媒体は、前記交換結合層の厚さが3nm以上7nm以下である構成がより好ましい。
【0041】
また、本発明にかかる磁気記録媒体は、前記交換結合層の逆磁区核形成磁界Hnと保磁力Hcとの比Hn/Hcが−0.2以下である構成がより好ましい。
【0042】
また、本発明にかかる磁気記録媒体の製造方法は、磁性粒子の間に非磁性領域を持つグラニュラ構造を有する磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与する交換結合層と、を具備する磁気記録媒体の製造方法であって、前記交換結合層に対して、イオン照射を行って、前記交換結合層に含まれる六方最密充填構造を持つ金属の結晶格子におけるc軸とa軸との比c/aの変化量を|0.2|%以上にする構成であっても良い。
【0043】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型してガラスディスクを作製し、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施すことによりガラス基板を作製した。このガラス基板上に、厚さ60nmの軟磁性層(CoTaZrFe/Ru/CoTaZrFe)、厚さ10nmのNiW膜、厚さ20nmのRu膜、厚さ13nmのCoCrPt-SiO2膜、厚さ7nmの交換結合層(CoCrPt)を、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法により順次成膜した。次いで、交換結合層に対して、ドーズ量4×1013(イオン/cm2)でAr+イオンを照射した。次いで、交換結合層上にCVD法により厚さ5nmのカーボン層を形成し、その上にディップ法により厚さ1.3nmの潤滑層を形成して実施例の磁気記録媒体を作製した。
【0044】
得られた磁気記録媒体について電磁変換特性評価を行った。電磁変換特性評価は、スピンスタンドを用いて磁気ヘッドによる記録再生特性を調べることにより行った。具体的には、記録周波数を変えて記録密度を変化させて信号を記録し、この信号の再生出力を読み取ることにより調べた。なお、磁気ヘッドとしては、垂直記録用単磁極ヘッド(記録用)、GMRヘッド(再生用)が一体となった垂直記録用マージ型ヘッドを用いた。その結果を図7に示す。図7は、出力電圧から求められた規格化出力(正規化TAA)の記録密度依存性を示す図である。
【0045】
(比較例)
交換結合層の膜厚を10.5nmとし、交換結合層にイオン照射を行わないこと以外は実施例と同様にして比較例の磁気記録媒体を作製した。得られた磁気記録媒体について実施例と同様にして電磁変換特性評価を行った。その結果を図7に併記する。
【0046】
図7から分かるように、実施例の磁気記録媒体は、ロールオフから求めた出力電圧が50%になるときの記録密度いわゆるT50が良くなっている。すなわち、実施例の磁気記録媒体は、媒体出力の解像度が良くなっている。これは、実施例の磁気記録媒体においては、イオン照射により膜厚が薄くても所望の交換結合力が得られ、スページングロスが低下するためであると考えられる。
【0047】
本発明は上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。例えば、磁性記録層及び交換結合層は、特にその構造に限定はされないが、好ましくは磁性記録層がグラニュラ構造を有する少なくとも一つの磁性層であって、交換結合層はグラニュラ構造を有するものや、連続膜、グラニュラ層よりも粒子の孤立化の程度が少ない、いわゆるキャップ層や、結晶構造を有さないアモルファス層を用いることができる。また、磁性記録層と交換結合層とは直接接する場合が最も強い交換結合を示すと考えられるが、必ずしも直接接する必要はない。またさらに、磁性記録層と交換結合層の相対位置は、記録再生ヘッドの近傍に磁性記録層を配置する方がよいと考えられるが、ヘッド書き込み磁界を補助する軟磁性裏打ち層がある垂直記録媒体などでは、記録層に十分な書き込み磁界が印加されるのであれば、交換結合層がヘッドに近く、磁性記録層がヘッドから相対的に離れて配置されても良い。
【0048】
また、上記実施の形態における層構成、部材の材質、個数、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体の構成を示す図である。
【図2】格子定数の変化量とイオン照射のドーズ量との間の関係を示す図である。
【図3】c/a変化量とイオン照射のドーズ量との間の関係を示す図である。
【図4】交換結合層厚とHc及びHnとの間の関係を示す図である。
【図5】交換結合層厚とHn/Hc及び磁化曲線の傾きαとの間の関係を示す図である。
【図6】Hn/Hcとイオン照射のドーズ量との間の関係を示す図である。
【図7】出力電圧から求められた規格化出力の記録密度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 ディスク基体
12 付着層
14 軟磁性層
14a 第1軟磁性層
14b スペーサ層
14c 第2軟磁性層
16 配向制御層
18 下地層
18a 第1下地層
18b 第2下地層
22 磁気記録層
24 交換結合層
26 媒体保護層
28 潤滑層
100 磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気記録層上に交換結合層を積層した後、前記交換結合層の全面に対してイオン照射を行うイオン照射工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記交換結合層に含まれる六方最密充填構造を持つ金属の結晶格子におけるc軸とa軸との比c/aの変化量が|0.2|%以上になるように、前記交換結合層の全面に対して、イオン照射を行うイオン照射工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記交換結合層がPt及びCoを含む膜であり、前記金属がCoであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記交換結合層の厚さが7nm以下であり、前記イオン照射におけるドーズ量が1×1013〜1×1015(イオン/cm2)の範囲内であること特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記イオン照射工程は、磁気記録層上に交換結合層を積層し、さらにその上に保護層を形成した後、当該保護層の上からイオンを照射することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
非磁性基板上に、柱状の磁性粒子間が空間的に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の磁気記録層と、前記磁気記録層上に設けられ、前記磁性粒子同士を交換結合させる作用を付与するための交換結合層とを具備する磁気記録媒体であって、逆磁区核形成磁界Hnが−2000Oe以上であり、逆磁区核形成磁界Hnと保磁力Hcとの比Hn/Hcが−0.5以下であり、前記交換結合層の膜厚が7nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
前記交換結合層がPt、Co及びCrを含むものであることを特徴とする請求項6記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−223950(P2009−223950A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67028(P2008−67028)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】