説明

移動体

【課題】衝突判定の精度を高めることができる移動体。
【解決手段】燃料電池システム1を備えた移動体Sは、移動体Sの移動状態に関する物理量を検出する第1センサ101と、燃料電池システム1の運転状態に関する物理量を検出する第2センサ7と、第1センサ101及び第2センサ7からの検出信号を受信してこの二つの検出信号に基づいて移動体Sの衝突の有無を判定する判定部81と、を備えたものである。判定部81は、第2センサ7の検出値に応じて、第1センサ101の検出値と比較する閾値を変更して移動体Sの衝突の有無を判定できる。第1センサ101は加速度センサで構成でき、第2センサ7はガス圧センサ72aなどで構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の衝突判定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池車両など、燃料電池システムを搭載した移動体では、一般に、移動体の衝突を検知するために、Gセンサ(加速度センサ)等の衝突センサが設けられている(特許文献1〜4参照)。特許文献1に記載の移動体は、衝突センサが車両の衝突を検出した場合、その後の対策として、エアバッグの展開と、燃料電池への水素供給の停止とを実行している。この場合、ある例では、衝突センサとして、エアバッグシステムに用いられる加速度センサを用い、衝突センサの検出信号から衝突の有無を判定している。また、別の例では、水素貯蔵タンク及び燃料電池スタックに設置した加速度センサも衝突センサとして用い、3つの加速度センサの少なくとも一つの検出信号から衝突の有無を判定している。
【0003】
【特許文献1】特開2001−119815号公報
【特許文献2】特開2004−349110号公報
【特許文献3】特開2001−357863号公報
【特許文献4】特開2006−182300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両は、衝突ではなく走行中の路面干渉等によって衝撃を受ける場合がある。特許文献1のように、一つの加速度センサの検出信号だけを用いて衝突の有無を判定した場合、路面干渉等を「衝突」と誤判定して、エアバッグの展開等が実行されないおそれがないとはいえない。もっとも、衝突判定に用いる閾値を上げれば、誤判定を防止できるが、今度は検出漏れが生じるおそれがある。このような問題は、3つの同種の加速度センサの検出信号を個々に独立して用いた場合も同様に懸念されることであり、従来においては、衝突対策を実行するためのトリガである衝突判定の検討が十分とはいえなかった。
【0005】
本発明は、衝突判定の精度を高めることができる移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の移動体は、燃料電池システムと、移動体の移動状態に関する物理量を検出する第1センサと、燃料電池システムの運転状態(以下、単に「システム運転状態」という。)に関する物理量を検出する第2センサと、第1センサ及び第2センサから受信した二つの検出信号に基づいて移動体の衝突の有無を判定する判定部と、を備えるものである。
【0007】
例えば、移動体が衝突した場合、燃料電池システムにおけるガス圧や水圧等の物理量が低下するなどして、システム運転状態は異常となり得る。一方で、移動体が衝突でない路面干渉等を受けた場合、システム運転状態は正常に保たれ得る。本発明の衝突判定によれば、第1センサの検出結果に、システム運転状態の異常・正常を加味するので、移動体全体として、路面干渉等に起因した誤判定を抑制しつつ、閾値が高い場合に懸念される検出漏れを抑制できる。また、第1センサ及び第2センサのどちらかが故障等した場合の誤判定も防止できる。よって、衝突判定の精度を高めることができる。
【0008】
ここで、「移動体の移動状態に関する物理量」とは、移動体自体の速度、加速度又は減速度のほか、移動体に搭載され得る駆動源の駆動状態を示す物理量などを意味する。駆動源がモータであれば、モータ回転数やモータトルクが物理量に含まれる。
【0009】
第1センサとしては、車速センサ、加速度センサ、歪みセンサ、感圧センサ、超音波センサ、又はレーザーレーダーセンサなどを挙げることができるが、その中でも、移動体の加速度を検出する加速度センサが好ましい。その際、加速度センサとして、エアバッグセンサ等の他の用途で設置されたものを兼用すれば、部品点数を削減できる。
【0010】
「システム運転状態に関する物理量」とは、酸化ガスもしくは燃料ガス(以下、「反応ガス」と総称する。)又は冷却水の圧力、流量、温度、濃度もしくは流速のほか、燃料電池の電流出力又は電圧出力などを意味する。
【0011】
第2センサは、移動体の衝突時に変化し易いものを検出するものであるとよい。衝突時においてはガス配管や冷却水配管が損傷するおそれがあることを考慮すれば、好ましくは、第2センサは、燃料電池システムにおけるガス配管を流れる反応ガスの圧力を検出するガス圧センサ、燃料電池システムでの反応ガスの濃度を検出するガス濃度センサ、又は燃料電池システムにおける冷却配管を流れる冷却水の圧力を検出する水圧センサであるとよい。
【0012】
本発明の一態様によれば、判定部は、第2センサの検出値に応じて、第1センサの検出値と比較する閾値を変更して移動体の衝突の有無を判定するとよい。
【0013】
この構成によれば、システム運転状態に応じた最適な閾値を設定できるので、第1センサ及び第2センサの検出値を別個独立に衝突判定に用いる場合に比べて、衝突判定の精度を高めることができる。
【0014】
好ましくは、判定部は、第2センサの検出値が燃料電池システムの異常を示す値である場合には、第1センサの検出値と比較する閾値として第1の閾値を用いる一方、第2センサの検出値が燃料電池システムの正常を示す値である場合には、第1センサの検出値と比較する閾値として第1の閾値よりも大きい第2の閾値を用いるとよい。
【0015】
この構成によれば、システム運転状態の異常が検出されない場合には、比較的大きい閾値(第1の閾値)を設定できるので、路面干渉等に起因した第1センサの誤検出を抑制できる。システム運転状態の異常が検出される場合には、それをもって衝突の可能性が高いと判断できるので、第1の閾値より小さい閾値(第2の閾値)の設定で済む。よって、閾値が高い場合に懸念される検出漏れを抑制できる。
【0016】
本発明の一態様によれば、移動体は、エアバッグと、エアバッグの作動を制御するエアバッグ制御部と、を備えるとよい。そして、エアバッグ制御部は、判定部により移動体の衝突が「有」と判定された場合にエアバッグを膨張させるとよい。
【0017】
この構成によれば、エアバッグを作動させるためのトリガである衝突判定の精度が向上しているので、エアバッグの誤作動を抑制しながら、衝突時にエアバッグを確実性良く膨張させることができる。
【0018】
本発明の一態様によれば、移動体は、燃料電池システムの運転を制御するシステム制御部を備えるとよい。システム制御部は、判定部により移動体の衝突が「有」と判定された場合に、次のうちの少なくとも一つを実行するとよい。
(a)燃料電池システムの運転を停止すること
(b)燃料電池システムにおける燃料電池への反応ガスの供給を遮断すること
(c)燃料電池システムにおける燃料電池を他の電気系統から電気的に遮断すること
【0019】
この構成によれば、衝突時に、燃料電池システムや燃料電池を確実性良く停止できると共に、反応ガスの漏れを抑制でき、さらには、接触等による電気系統の短絡や配線等の断線を抑制できる。
【0020】
本発明の一態様によれば、移動体は、判定部により移動体の衝突が「有」と判定された場合に、燃料電池システムにおいて複数の処理を実行可能なシステム制御部を備えるとよい。そして、判定部は、第1センサの検出値を、複数の処理のそれぞれに応じて異なる閾値と比較して、各処理を実行するか否かを判定するとよい。また、システム制御部は、判定部により実行すべきと判定された処理を実行するとよい。
【0021】
本発明の一態様によれば、移動体は、その移動状態に関する物理量を検出する第1センサと別の第3センサを備えてもよい。そして、判定部は、第1センサの検出値ではなく第3の検出値を、複数の処理のそれぞれに応じて異なる閾値と比較して、各処理を実行するか否かを判定して、システム制御部が、判定部により実行すべきと判定された処理を実行してもよい。
【0022】
このような構成によれば、衝突が「有」と判定された場合に、移動体の移動状態に応じた必要な衝突対策処理(例えば、上記の(a)〜(c)の一つ)を効果的に実施できる。
【0023】
上記目的を達成するための本発明の他の移動体は、互いに異なる位置に設けられた同種の第1及び第2のセンサと、第1のセンサ及び第2のセンサから受信した二つの検出信号に基づいて移動体の衝突の有無を判定する判定部と、を備える。第1及び第2のセンサは、移動体の移動状態に関する物理量を検出する。判定部は、第1及び第2のセンサの一方のセンサの検出値に応じて、他方のセンサの検出値と比較する閾値を変更して移動体の衝突の有無を判定する。
【0024】
この構成によれば、センサの配置位置に応じた最適な閾値を設定できるので、第1センサ及び第2センサの検出値を別個独立に衝突判定に用いる場合に比べて、衝突判定の精度を高めることができる。また、第1センサ及び第2センサのどちらかが故障等した場合の誤判定も防止できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明の移動体によれば、衝突判定の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る移動体について、燃料電池車両を例にとって説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図1に示すように、本実施形態の燃料電池車両S(以下、単に「車両S」という。)には、燃料電池システム1及びエアバッグシステム100が搭載されている。燃料電池システム1及びエアバッグシステム100の制御などの車両Sの全体の制御は、車両ECUである制御装置6によって行われる(図2参照)。ただし、車両ECUとは別に、エアバッグシステム100の制御専用の制御装置を設けてもよい。
【0028】
図2に示すように、エアバッグシステム100は、加速度センサ101及びエアバッグ102を備える。加速度センサ101は、いわゆるGセンサであり、例えば車両Sの上下方向の加速度を検出する上下Gセンサと、車両Sの前後方向及び車幅方向の加速度を検出する前後左右Gセンサと、のいずれか又は両方の機能を有する。加速度センサ101によって、車両Sの衝突等により発生する車両Sの加速度が検出され、この検出された加速度が衝突判定に用いられる。
【0029】
エアバッグ102は、例えば、車両Sの運転席のステアリングハンドルや、助手席前のインストルメントパネル内に設けられている。エアバッグ102は、制御装置6の制御指令に基づいて作動し、所定の大きさに展開するように膨張する。膨張した状態のエアバッグ102は、弾力性及び衝撃吸収力を有し、車両S内の乗員を衝突時の衝撃から守ることができる。
【0030】
燃料電池システム1は、燃料電池2、酸素ガス配管系3、燃料ガス配管系4、及び電力系5を備える。
【0031】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型からなり、酸素ガス及び燃料ガスの供給を受けて電力を発生する。酸素ガス及び燃料ガスは、反応ガスと総称されるものである。特に、燃料電池2から排出される酸素ガス及び燃料ガスは、それぞれ酸素オフガス及び燃料オフガスと称され、これらは反応オフガスと総称されるものである。以下では、酸素ガスとして空気を例に、また、燃料ガスとして水素ガスを例に説明する。
【0032】
酸素ガス配管系3は、加湿器11、供給配管12、排出配管13、排気配管14、及びコンプレッサ15を有する。コンプレッサ15により取り込まれた大気中の空気(酸素ガス)が、供給配管12を流れて加湿器11に圧送され、加湿器11により加湿されて燃料電池2に供給される。酸素オフガスは、排出配管13を流れて加湿器11に導入された後、排気配管14を流れて外部に排出される。
【0033】
燃料ガス配管系4は、水素タンク21、供給配管22、循環配管23、ポンプ24、インジェクタ25を有する。水素タンク21は、高圧の水素ガスを貯留した水素供給源である。供給配管22と循環配管23との合流点Aでは、水素タンク21からの新たな水素ガスとポンプ24により圧送された水素オフガスとが合流し、この合流後の混合水素ガスが供給配管22を流れて燃料電池2に供給される。合流点Aよりも上流側には、インジェクタ25、シャットバルブ26、及びレギュレータ27が設けられる。シャットバルブ26は、水素タンク21の元弁として機能する。循環配管23には、ポンプ24のほか、気液分離器31が介設される。気液分離器31は、水素オフガスに含まれる水を分離する。分離された水は、不純物を含んだ水素オフガスの一部と共に、パージ弁33の開放により排水路32から下流へと排気される。これにより、燃料電池2に循環供給される水素ガスの水素濃度の低下を抑制できる。
【0034】
電力系5は、高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63及びトラクションモータ64等を有する。高圧DC/DCコンバータ61は、バッテリ62の充放電を実現すると共に、燃料電池2の出力電圧を制御する。トラクションインバータ63は、高圧DC/DCコンバータ61を介して入力された直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64は、例えば三相交流モータであり、車両Sの主動力源である。トラクションモータ64は、車両Sの走行中には電力を消費する負荷装置となるが、制動時には発電機として機能する。
【0035】
高圧DC/DCコンバータ61とバッテリ62との間には、高圧リレー65が設けられている。また、高圧DC/DCコンバータ61と燃料電池2との間には、高圧リレー66が設けられている。高圧リレー65を開くことで、バッテリ62は他の電気系統(高圧DC/DCコンバータ61)と電気的に遮断される。高圧リレー66を開くことで、燃料電池2は他の電気系統(高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62及びインバータ63)と電気的に遮断される。
【0036】
制御装置6は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、後述する衝突判定及びそれに基づく衝突対策処理など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0037】
制御装置6は、車両Sのアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサなどからセンサ信号を入力すると共に、車両Sの移動状態に関する物理量を検出する各種センサからセンサ信号を入力する。例えば、車速センサ、加速度センサ及び減速度センサなどにより、車両Sの移動状態に関する物理量として、車両Sの車速、加速度及び減速度が検出される。また、トラクションモータ64の回転数及びトルクなども、車両Sの移動状態に関する物理量として検出される。
【0038】
なお、加速度センサとして、エアバッグ用の加速度センサ101を用いることができる。後述する衝突判定では、加速度センサ101を用いた例を説明するが、もちろん上記に列挙した物理量を検出するセンサを単独で又は組み合わせて用いてもよい。
【0039】
制御装置6は、また、燃料電池システム1の運転状態に関する物理量を検出する異常検出センサ72からセンサ信号を入力する。この物理量としては、例えば、反応ガス又は冷却水の圧力、流量、温度、濃度もしくは流速のほか、燃料電池2の電流出力もしくは電圧出力が挙げられる。異常検出センサ72とは、これらの物理量を検出するセンサの総称であり、例えば、反応ガスの圧力を検出するガス圧センサ72a、燃料電池2を冷却する冷却水の圧力を検出する水圧センサ72b、及び、水素ガスの濃度を検出する水素濃度センサ72cが、異常検出センサ72の例として挙げることができる。
【0040】
ガス圧センサ72aは、供給配管12、排出配管13、供給配管22及び循環配管23の少なくとも一つに設けられる。水圧センサ72bは、冷却水を燃料電池2に循環供給する冷却配管(図示省略)に設けられる。水素濃度センサ72cは、供給配管22及び循環配管23等からの水素ガスの漏れを検出する。後述する衝突判定では、一以上の異常検出センサ72からの検出信号が用いられる。
【0041】
制御装置6は、入力された上記各種センサ信号に基づき、車両Sを中枢的に制御する。特に、制御装置6は、衝突判定及びその後の衝突対策処理等を実行するための機能部として、判定部81と、エアバッグ制御部82と、システム制御部83と、を有している。以下、具体的に説明する。
【0042】
<衝突判定の方法>
判定部81は、加速度センサ101の検出信号及び異常検出センサ72の検出信号を受信し、この二つの受信信号に基づいて車両Sの衝突の有無を判定するものである。判定部81では、加速度センサ101により検出された加速度が所定の閾値を越えた場合に衝突が「有」と判定する。このとき、判定部81では、この衝突判定に用いる閾値(以下、「判定閾値」という。)を、燃料電池システム1の異常発生の有無、すなわち、異常検出センサ72の検出信号に対応して設定している。
【0043】
具体的には、車両Sの走行時では、加速度センサ101及び異常検出センサ72の各検出信号が判定部81に随時入力される。このとき、判定部81は、異常検出センサ72の検出値から燃料電池システム1の異常発生の有無を判断し、図3に示すような相関マップを用いて、加速度センサ101の検出値と比較する判定閾値を設定する。
【0044】
図3は、加速度センサ101の判定閾値を設定する方法を示す概念図であり、縦軸は加速度センサ101の判定閾値の大きさを示している。
図3に示すように、燃料電池システム1に異常有りと判断される場合には、衝突が発生している可能性が高いため、判定部81は、判定閾値を比較的小さい閾値T1に設定する。ここで、燃料電池システム1に異常有りと判断される場合とは、例えば反応ガス漏れによるガス圧低下又は冷却水漏れによる水圧低下が起きることなどにより、異常検出センサ72の検出値が燃料電池システム1の異常発生を示すレベルに達した場合をいう。
【0045】
一方、異常検出センサ72の検出値が燃料電池システム1の正常を示すレベルである場合には、衝突が発生していない可能性が高く、また、加速度センサ101の検出値が大きい値であっても、それは路面干渉等の他の要因に基づくものである可能性が高い。そこで、この正常時には、判定部81は判定閾値を比較的大きい閾値T2に設定する。
【0046】
このように、本実施形態の衝突判定の方法によれば、加速度センサ101の検出結果に異常検出センサ72の検出結果を加味している。これにより、車両S全体として、路面干渉等に起因した誤判定を抑制しつつ、閾値が高い場合に懸念される検出漏れを抑制することが可能となる。特に、燃料電池システム1の異常が検出されない場合には、判定閾値を大きくしているので、路面干渉等による影響を排除でき、衝突が起きたと誤判定することを抑制できる。また、燃料電池システム1の異常が検出される場合には、判定閾値を小さくしているので、判定閾値が高い場合に懸念される検出漏れを抑制できる。
【0047】
さらに、燃料電池システム1の運転状態に応じた最適な判定閾値を設定できるので、加速度センサ101及び異常検出センサ72の検出値を別個独立に衝突判定に用いる場合に比べて、衝突判定の精度を高めることができる。また、加速度センサ101及び異常検出センサ72のどちらかが故障等した場合の誤判定も防止できる。したがって、衝突判定の精度を高めることができる。
【0048】
<衝突判定後の処理>
A.エアバッグ102の制御
エアバッグ制御部82が、判定部81の判定結果に基づいてエアバッグ102の作動を制御する。具体的には、車両Sの衝突が「無」と判定された場合には、エアバッグ制御部82は、エアバッグ102を展開させることなくそのままの収縮状態を維持させる。一方で、車両Sの衝突が「有」と判定された場合には、エアバッグ制御部82はエアバッグ102を展開して膨張させる。
【0049】
このように、エアバッグ102を作動させるためのトリガとして上記衝突判定の結果を用いているので、衝突が発生していないにも関わらずエアバッグ102を誤作動させてしまうことを抑制できる。また、衝突時には速やかに且つ確実にエアバッグ102を作動させることができる。
【0050】
B.燃料電池システム1の制御
システム制御部83が、判定部81の判定結果に基づいて、燃料電池システム1の各構成機器(コンプレッサ15、ポンプ24、シャットバルブ26、パージ弁33、及び高圧リレー65,66等)を制御することにより、燃料電池システム1の運転を制御する。具体的には、車両Sの衝突が「無」と判定された場合には、システム制御部83は各種センサからの検出信号に基づいて燃料電池システム1の運転を続行する。
【0051】
一方、車両Sの衝突が「有」と判定された場合には、システム制御部83は、コンプレッサ15の駆動を停止したり、シャットバルブ26を閉じたりして、燃料電池2への酸素ガスの供給や水素ガスの供給を停止する。これにより、不必要な反応ガスが燃料電池2に供給されなくて済み、水素ガスの漏れなども抑制できる。
【0052】
また、衝突が「有」と判定された場合、システム制御部83は、パージ弁33を開弁してもよいし、ポンプ24の駆動を停止してもよい。また、システム制御部83は、燃料電池システム1そのものの運転を停止してもよいし。さらに、システム制御部83は、高圧リレー66を遮断することで燃料電池2を他の電気系統から電気的に遮断してもよいし、高圧リレー65を遮断することでバッテリ62を他の電気系統から電気的に遮断してもよい。
【0053】
なお、高圧リレー65又は66の遮断のタイミングは適宜設定可能であり、例えば、このタイミングを衝突発生時から所定の遅延時間後に設定することもできる。このようにすると、遅延時間内は燃料電池2又はバッテリ62からの電力供給が行われるので、衝突直後に乗員が危険回避操作を行うことができる。
【0054】
このように、反応ガスの供給停止や、トラクションモータ64等の負荷装置への電力の供給停止等を行うためのトリガとして、上記の衝突判定の結果を用いているので、反応ガスの漏れを確実性良く抑制できたり、接触等による電力系5の短絡や配線等の断線を確実性良く抑制できる。また、エアバッグ102の作動のために設けた加速度センサ101をこれら燃料電池システム1側の衝突対策処理に兼用できるので、センサの設置数を削減できる。
【0055】
<変形例>
上記実施形態で説明したエアバッグ102の作動等の複数の衝突対策処理を行うためのトリガを同一にせず、互いに異ならせてもよい。例えば、衝突が「有」と判定された場合でも、エアバッグ102の作動のトリガ、高圧リレー65,66の遮断のトリガ、及び水素供給の停止のトリガを互いに異ならせてもよい。
【0056】
一例を挙げると、加速度センサ101の検出値と比較する閾値として、エアバッグ101の作動のトリガとなる閾値を最も小さいレベルに設定し、高圧リレー65,66の遮断のトリガとなる閾値を最も大きいレベルに設定する。また、これらの中間のレベルに、水素供給停止のトリガとなる閾値を設定する。判定部81は、これら各々の閾値が加速度センサ101の検出値と比較されて、各衝突対策処理を実行するか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、システム制御部83が衝突対策処理を実行する。
【0057】
このように、衝突対策処理ごとに閾値を設定することで、判定部81により実行すべきと判定された衝突対策処理を実行できる。これにより、衝突の大きさに応じた必要な衝突対策処理を実施することが可能となる。例えば、上記のような閾値の設定の場合であれば、衝突が「有」と判定されたとき、エアバッグ101のみを膨張させながら、水素供給を続行させることもできる。
【0058】
なお、衝突対策処理ごとに設定する閾値の大きさは任意であるが、上記「A.エアバッグ101の制御」が上記「B.燃料電池システム1の制御」よりも優先的に行われるように、エアバッグ101の作動のトリガとなる閾値は相対的に最も小さいとよい。こうすることで、乗員の保護を最優先できる。また、水素ガス漏れにも迅速に対応するべく、燃料電池システム1側の衝突対策処理の中では、水素供給停止のための閾値が最も小さいとよい。
【0059】
また、別の例を挙げると、加速度センサ101ではなく、車両Sの移動状態を検出する別のセンサ(第3センサ)の検出値に応じて、燃料電池システム1側の衝突対策処理を行うためのトリガを変えてもよい。例えば、車速センサの検出値に基づき、車速が小さい場合には水素供給の停止のみ行い、車速が大きい場合には水素供給の停止及び高圧リレー65,66の遮断を行うようにしてもよい。
【0060】
このように、第3センサについて衝突対策処理ごとに閾値を設定しておき、判定部81により実行すべきと判定された衝突対策処理を実行することで、衝突が「有」と判定された場合に、車両Sの移動状態に応じた必要な衝突対策処理を実施できる。なお、この場合も、各衝突対策におけるセンサの閾値(トリガ)の相対関係は任意に設定できる。
【0061】
<第2実施形態>
第1実施形態では、加速度センサ101及び異常検出センサ72の検出結果から衝突判定を行ったが、第2実施形態では、加速度センサ101及びこれとは別個の加速度センサ201(図1参照)の検出結果から衝突判定を行う。なお、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を振り、詳細な説明を省略する。
【0062】
加速度センサ201は、加速度センサ101と同種の加速度センサ(Gセンサ)であるが、車両Sにおいて加速度センサ101とは異なる位置に設けられる。例えば、加速度センサ201は、車両Sの側部、後部、燃料電池2の近傍、又は水素タンク21の近傍などに設置される。加速度センサ201の検出信号は、制御装置6の判定部81に送られる。
【0063】
判定部81は、加速度センサ101及び加速度センサ201の二つの検出信号に基づいて車両Sの有無を判定する。このとき、判定部81は、例えば、加速度センサ101及び加速度センサ201の一方の検出値(例えば、加速度センサ101の検出値)に応じて、他方の検出値(例えば、加速度センサ201の検出値)と比較する判定閾値を変更して、衝突の有無を判定する。
【0064】
一例を挙げると、衝突前の車両Sの走行時では、加速度センサ101及び加速度センサ201の検出信号が判定部81に随時入力されており、いずれの検出値も近い値になっている。ところが、衝突時においては、互いに位置が異なる加速度センサ101と加速度センサ201とでは、加速度の検出値が相違し得る。
【0065】
このことに鑑み、例えば一方の加速度センサ101の検出値が閾値を超えている場合には、衝突が発生している可能性が高いため、判定部81は、他方の加速度センサ201の検出値と比較する判定閾値を比較的小さい閾値(例えば図3のT1)に設定する。一方、一方の加速度センサ101の検出値が閾値以下である場合には、衝突が発生していない可能性が高く、このときに他方の加速度センサ201の検出値が大きい値であっても、それは路面干渉等の他の要因に基づくものである可能性が高い。そこで、この場合には、判定部81は、加速度センサ201の検出値と比較する判定閾値を比較的大きい閾値(例えば図3のT2)に設定する。
【0066】
したがって、第2実施形態の衝突判定の方法によれば、加速度センサ101,201の配置位置に応じた最適な閾値を設定できるので、加速度センサ101,201の検出値を別個独立に衝突判定に用いる場合や、一つの加速度センサを用いる場合に比べて、路面干渉等による影響を排除できると共に検出漏れを抑制できる。よって、衝突判定の精度を高めることができる。また、衝突が「有」と判定した場合の処理として、エアバッグ102の膨張を適切に実行することもでき、エアバッグ102の誤作動や作動不良を抑制できる。
【0067】
なお、第2実施形態の場合、車両Sは必ずしも燃料電池システム1を搭載しなくてもよい。ただし、搭載している場合には、衝突対策後の処理として、上記の「B.燃料電池システム1の制御」を実行することができる。この場合、上記の変形例で述べたように、複数の衝突対策処理を行うためのトリガを異ならせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の車両Sは、二輪または四輪の自動車以外の電車、航空機、船舶、自走式ロボットその他の移動体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施形態に係る移動体を示す側面図である。
【図2】実施形態に係る移動体に搭載される燃料電池システムの構成図である。
【図3】実施形態に係る移動体の衝突判定における閾値設定を示す概念図である。
【符号の説明】
【0070】
1:燃料電池システム、2:燃料電池、6:制御装置、65:高圧リレー、66:高圧リレー、72:異常検出センサ(第2センサ)、81:判定部、82:エアバッグ制御部、83:システム制御部、100:エアバッグシステム、101:加速度センサ(第1センサ)、102:エアバッグ、S:燃料電池車両(移動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムを備えた移動体において、
当該移動体の移動状態に関する物理量を検出する第1センサと、
前記燃料電池システムの運転状態に関する物理量を検出する第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサからの検出信号を受信し、この二つの検出信号に基づいて当該移動体の衝突の有無を判定する判定部と、を備えた、移動体。
【請求項2】
前記判定部は、前記第2センサの検出値に応じて、前記第1センサの検出値と比較する閾値を変更して当該移動体の衝突の有無を判定する、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記判定部は、前記第2センサの検出値が前記燃料電池システムの異常を示す値である場合には、前記第1センサの検出値と比較する閾値として第1の閾値を用いる一方、前記第2センサの検出値が前記燃料電池システムの正常を示す値である場合には、前記第1センサの検出値と比較する閾値として前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値を用いる、請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
エアバッグと、
前記エアバッグの作動を制御するエアバッグ制御部と、を備え、
前記エアバッグ制御部は、前記判定部により前記移動体の衝突が「有」と判定された場合に、前記エアバッグを膨張させる、請求項2又は3に記載の移動体。
【請求項5】
前記燃料電池システムの運転を制御するシステム制御部を備え、
前記システム制御部は、前記判定部により前記移動体の衝突が「有」と判定された場合に、
(a)前記燃料電池システムの運転を停止すること
(b)前記燃料電池システムにおける燃料電池への反応ガスの供給を遮断すること
(c)前記燃料電池システムにおける燃料電池を他の電気系統から電気的に遮断すること
のうち、少なくとも一つの処理を実行する、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項6】
前記判定部により前記移動体の衝突が「有」と判定された場合に、前記燃料電池システムにおいて複数の処理を実行可能なシステム制御部を備え、
前記判定部は、前記第1センサの検出値を、前記複数の処理のそれぞれに応じて異なる閾値と比較して、各処理を実行するか否かを判定し、
前記システム制御部は、前記判定部により実行すべきと判定された処理を実行する、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項7】
前記第1センサと別のセンサであって、当該移動体の移動状態に関する物理量を検出する第3センサと、
前記判定部により前記移動体の衝突が「有」と判定された場合に、前記燃料電池システムにおいて複数の処理を実行可能なシステム制御部と、を備え、
前記判定部は、前記第3センサの検出値を、前記複数の処理のそれぞれに応じて異なる閾値と比較して、各処理を実行するか否かを判定し、
前記システム制御部は、前記判定部により実行すべきと判定された処理を実行する、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項8】
前記第1センサは、当該移動体の加速度を検出する加速度センサである、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項9】
前記第2センサは、
前記燃料電池システムにおけるガス配管を流れる反応ガスの圧力を検出するガス圧センサ、
前記燃料電池システムでの反応ガスの濃度を検出するガス濃度センサ、又は
前記燃料電池システムにおける冷却配管を流れる冷却水の圧力を検出する水圧センサである、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項10】
移動体において、
互いに異なる位置に設けられ、当該移動体の移動状態に関する物理量を検出する同種の第1及び第2のセンサと、
前記第1のセンサ及び前記第2のセンサからの検出信号を受信し、この二つの検出信号に基づいて当該移動体の衝突の有無を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記第1及び第2のセンサの一方のセンサの検出値に応じて、他方のセンサの検出値と比較する閾値を変更して当該移動体の衝突の有無を判定する、移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22129(P2009−22129A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184103(P2007−184103)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】