稼動体の異常検出方法及び異常検出システム
【課題】外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える稼動体の異常検出方法及び異常検出システムを提供する。
【解決手段】稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出する。
【解決手段】稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える稼動体の異常検出方法及び異常検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、列車等の移動体や、電線の撚り合わせ、押し出し、圧延など原材料に対して種々の加工を行う製造装置を総称して稼動体と呼ぶ。稼動体は、長期間連続稼動に耐えられるように設計されるのが望ましい。しかし、長期間連続稼動された場合や、外乱によって稼動体各部を構成している部材に劣化が生じた場合、稼動体が稼動しなくなったり、所定の動作を行わなくなったり、安全上の問題が生じたり、製造するものに不良が発生するなど、不具合が生じる。稼動体に不具合が生じる前に、稼動体の異常を検出して警報を出力したり、稼動体の一部あるいは全部を停止させたりすることが望ましい。
【0003】
稼動体の異常検出を行うとき、稼動体から何らかの監視信号を取り出すことになる。しかし、稼動体は、様々な稼動状態を経て稼動している。これら稼動状態に依存して上記監視信号が変動することが多い。したがって、監視信号から稼動状態に依存した変動の影響を排除し、その監視信号に基づいて異常検出を行うことで、異常検出の検出精度を高める必要がある。
【0004】
このように稼動状態による変動の影響を排除するために、監視信号のレベルや振幅に基づいて異常検出を行うのではなく、正常時、異常時、監視時データの標本平均と標本分散を利用する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、稼動体の特徴を利用して異常検出の検出精度を高めるものである。
【0005】
また、稼動体が回転体である場合に、適応デジタルフィルタを用いて回転に同期した信号を抽出して稼動体の異常検出を行う方法が提案されている(特許文献2)。この方法は、稼動体の動作特性を利用して異常検出の検出精度を高めるものである。
【0006】
また、異常検出処理を行うのに適したタイミングを把握するために、GPS情報を受信して高速道路を走行中かどうかの判断を行い、高速道路を走行中であれば、異常検出処理を行う方法が提案されている(特許文献3)。この方法は、適切な時期に異常検出を行うことで、異常の見逃し抑制を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−280603号公報
【特許文献2】特開2005−335664号公報
【特許文献3】特開2001−342889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
異常発生からより早いタイミングで警報出力を行いたいというニーズが高い。そのためには、異常検出の精度をよりいっそう改善することが望まれると共に、異常見逃しの抑制が望まれる。
【0009】
本発明者は、連続稼動している稼動体の異常の程度及び監視信号が外部からの影響によっても変わることに着目し、外部からの影響を極力排除して異常検出を行うことにより、異常検出の精度をよりいっそう向上させることができる異常検出方法を新たに発明するものである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える稼動体の異常検出方法及び異常検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の稼動体の異常検出方法は、稼動体のデータを継続して収集し、上記稼動体のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出するものである。
【0012】
物理量センサの出力信号と上記稼動体が制御される制御信号の両方又はいずれか一方を上記データとして収集してもよい。
【0013】
複数種類のイベントを検出し、同種の2つのイベントの検出タイミングで上記期間を区切ってもよい。
【0014】
上記データから上記イベントを検出してもよい。
【0015】
複数種類のデータを収集し、そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、判定した状態種ごとに異常を検出してもよい。
【0016】
複数種類のデータを収集し、そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内にて、所定の状態種で部分期間を区切り、該部分期間に収集される上記データを対象データとして抽出して異常を検出してもよい。
【0017】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、上記制御信号のデータに対して同時又は所定時間遅れで上記出力信号のデータに所定の信号処理を行ってもよい。
【0018】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、上記制御信号のデータに基づいて上記出力信号のデータの予測を行い、その予測データを上記比較用データとしてもよい。
【0019】
上記対象データをデータ加工処理し、上記データ加工処理された対象データとあらかじめデータ加工処理された比較用データとを比較して異常を検出してもよい。
【0020】
上記対象データ中の周期性がある成分から該周期性と相関を有する異常を検出し、上記対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出してもよい。
【0021】
上記稼動体が回転部材と非回転部材とを含み、上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期する成分から上記回転部材の異常を検出し、上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期しない成分から上記非回転部材の異常を検出してもよい。
【0022】
上記稼動体が自動車であってもよい。
【0023】
また、本発明の稼動体の異常検出システムは、稼動体と、該稼動体のデータを継続して収集するデータ収集部と、上記稼動体のイベントを検出するイベント検出部と、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出する対象データ抽出部と、あらかじめ異常検出のための比較用データを記憶した比較用データベースと、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出する比較演算部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0025】
(1)外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す異常検出方法を適用した稼動体(自動車)の概略構成図である。
【図2】本発明の異常検出方法を適用した稼動体(自動車)のステアリング機構及びタイヤ駆動機構の概略構成図である。
【図3】本発明の異常検出システムの電気回路図である。
【図4】図2のタイヤ駆動機構における路面高さの変化形状図及び上下加速度の時間波形図である。
【図5】図2のタイヤ駆動機構における右旋回時の左輪及び右輪の上下加速度の時間波形図である。
【図6】図2のタイヤ駆動機構における自動車の加速時の前輪及び後輪の上下加速度の時間波形図である。
【図7】(a)は図2のタイヤ駆動機構の回転部材異常時における加速度センサの出力信号電圧の時間波形図、(b)は図2のタイヤ駆動機構の非回転部材異常時における加速度センサの出力信号電圧の時間波形図である。
【図8】イベント検出から異常検出までの手順を示した図である。
【図9】(a)〜(c)は、状態種A(左旋回)の期間に行う異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図10】(a)〜(d)は、状態種P(始動直後)の期間に行うエンジン制御回路の異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図11】イベント検出から異常検出までの手順を示した図である。
【図12】(a)〜(f)は、タイヤ部の異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図13】(a)〜(d)は、制御信号、電磁雑音、センサ出力信号、フィルタ出力信号の時間波形図である。
【図14】対象データの周波数成分分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0028】
図1に示されるように、本発明に係る稼動体1の異常検出方法は、稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出するものである。
【0029】
データとは、異常検出やイベント検出や後述する状態判定に利用できるあらゆる監視信号のことであり、物理量センサが検出する物理量の出力信号、稼動体が運転操作などによって制御されるときの制御信号などが含まれる。
【0030】
ここで、稼動体1が自動車である場合、データとしては、自動車全体に生じる又は一部分に生じる、速度、加速度、振動、音、角速度、部材の歪み、部材温度等がある。
【0031】
稼動体1が自動車である場合、イベントとしては、段差乗り越え、窪み通過等の路面形状に起因するデータ変化、急ハンドル、急加減速等の運転操作に起因するデータの変化、タイヤ脱着、定期点検等のメンテナンス作業に起因するデータの変化などがある。これらのイベントは、データから所定の演算により検出される(詳しくは、表1)。ハンドル操作に関連するイベント検出のためのデータには、ハンドルの回転角を検出する操舵角センサの出力を用いてもよい。
【0032】
【表1】
【0033】
稼動体1が自動車である場合、稼動体1の状態の種類としては、旋回、加減速等の運転状態、高速走行、低速走行等の走行状態、雨天、高気温等の気象状態などがある。本発明では、これら各種類の状態について、稼動体1の状態を1種類以上のデータに基づいて状態を判定して複数の状態種に判定するようになっている(詳しくは、表2)。旋回に関する状態判定のためのデータには、操舵角センサの出力を用いてもよい。
【0034】
【表2】
【0035】
データは加工処理してからイベント検出、状態判定、異常検出に供してもよい。データ加工処理としては、該当期間(イベントとイベントとの間、稼動体が所定の状態種である部分期間等)に収集されたデータに対して、平均値、分散値等を求める統計処理、振幅、周波数等を求める波形処理、タイヤ回転との同期処理(自動車の場合)、フィルタリング等の選別処理、制御信号に現れる操作量(ハンドル操作量、ブレーキ操作量など)に対して予想される運動に基づく予想データと実際の運動から得られたデータとの差分処理、パワーステアリング制御、ABS制御、トルク配分制御における制御信号に対する信号伝達タイミングと同期するタイミングで行う所定周波数成分除去処理などがある。
【0036】
比較用データは、例えば、正常時のデータ、あるいは異常時のデータであり、稼動体1の設計条件やあらかじめ行った試験稼動の結果から作成することができる。
【0037】
図1に示されるように、自動車1は、車体2と、車体2を地上に支持すると共に車体2に軸受けされ回転して車体2を移動させるタイヤ(車輪)3と、タイヤ3の向きを変えるためのステアリング操作を行うハンドル(ステアリングホイール)4と、タイヤ3を回転させる駆動機となるエンジン5と、車体2に生じる加速度又は車体2の一部である部材に生じる加速度を検知するために車内適宜箇所に配置された複数の加速度センサ6と、本発明の異常検出方法をコンピュータ処理により実施するデータ処理部7とを備える。
【0038】
図2に示されるように、ハンドル4から前輪タイヤ3fl,3frまでのステアリング機構8は、ハンドル4により回転されるギア9と、ギア9により移動され中間部にジョイント17を有するステアリングシャフト10と、ステアリングシャフト10により回動されるナックル11とを備える。
【0039】
前輪部及び後輪部において、ナックル11はハブ12に設けられる。ナックル11はサスペンション13の下部を支持し、サスペンション13の上部は車体2を重力方向に緩衝支持している。各ハブ12の外周にタイヤ3fl,3fr,3rl,3rrが取り付けられる。
【0040】
タイヤ駆動の機構は、エンジン(駆動機)5により回転されるギア14と、ギア14の回転を伝える左右のジョイント15と、ジョイント15により回転される車軸16とを備え、車軸16によりハブ12が回転される。
【0041】
本実施形態では、データ処理部7に対してデータとなる監視信号を出力する物理量センサとして、左前輪部のナックル11に取り付けられた左前輪加速度センサ6flと、右前輪部のナックル11に取り付けられた右前輪加速度センサ6frと、左後輪部のナックル11に取り付けられた左後輪加速度センサ6rlと、右後輪部のナックル11に取り付けられた右後輪加速度センサ6rrとを備えるものとする。これらの加速度センサ6は、各ナックル11に生じる1軸以上の加速度を検出するようになっている。
【0042】
図3に示されるように、左前輪加速度センサ6fl、右前輪加速度センサ6fr、左後輪加速度センサ6rl、右後輪加速度センサ6rrの出力信号は、それぞれデータ処理部7に入力されている。データ処理部7内には、本発明に係る異常検出システムのデータ収集部とイベント検出部と対象データ抽出部と比較用データベースと比較演算部(いずれも図示せず)が設けられている。また、自動車の各部(図示されないものも含む)を制御している複数の制御ユニット(Engine Control Unit)ECU1,ECU2,…の出力信号がデータ処理部7に入力されている。したがって、データ処理部7は、自動車の各部の制御データをデータ処理部7のデータとして利用することができる。
【0043】
以下、稼動体1が自動車である場合について、異常検出の概要を説明する。
【0044】
タイヤ3の回転とともに回転するハブ12は、ベアリングを介して非回転部材であるナックル11に取り付けられている。前後左右4箇所のナックル11にそれぞれ加速度センサ6が取り付けられている。加速度センサ6の感度軸は、自動車が水平に静止しているときを基準として、垂直軸方向(以下、上下方向と言う)の感度軸を含む。
【0045】
各加速度センサ6の出力信号の他に、自動車の速度、エンジン5が起動されているかどうかを示す情報、冷却水温度、エンジン室雰囲気温度、タイヤ周辺の雰囲気温度、タイヤ回転数が、制御ユニットECU1,ECU2,…を介してデータ処理部7に入力されている。
【0046】
検出しようとする異常として、ハブ12等の部材のひび割れ、部材同士を締結するボルト類の緩み、ベアリングの割れや欠け、タイヤ3の空気圧、トレッド(タイヤの路面接地部)の剥離などがある。
【0047】
自動車が走行すると、路面の凹凸や速度変化やハンドル操作により、加速度センサを設置した部材に上下動が生じるので、加速度センサの出力信号が変化する。この加速度センサ出力信号の変化のうちわけ(要因)を外部要因、運転状態、自動車の運動と関連付けると次のようになる。
【0048】
自動車が直進時に路面の凹凸があると、タイヤが凹凸を通過することに応じてナックル11が上下するので、ナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図4のように変化する。すなわち、路面が平坦地(高さ0)から長い距離をかけて緩やかに丸く膨らみ、続いて緩やかに丸く凹んでいる場合に、ナックル11に生じる路面に垂直な方向の加速度は、0から緩やかに正に増加した後、減少して負に転じ、負の最大値のあと絶対値が減少して正に転じ、0に戻る(正は上向き加速度、負は下向き加速度を示す;以下同)。また、路面に短い距離の矩形状の凸部があるとき、ナックル11に生じる路面に垂直な方向の加速度は、急激に正の大きな値となった後、急速に減少して負の大きな値となり、短時間で0に戻る。なお、図4のグラフにおいて車速は一定とする。
【0049】
ハンドル操作により自動車が右に曲がると、車体2の左側が沈む。このため、左右のナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図5のように変化する。すなわち、左輪においては、加速度は、0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。これとは逆に、右輪においては、加速度は0から徐々に正に大きくなり、正の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。
【0050】
自動車の加速時は、車体2の後部が下がる。このため、前後のナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図6のように変化する。すなわち、前輪においては、加速度は、0から徐々に正に大きくなり、正の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。これとは逆に、後輪においては、加速度は0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。
【0051】
タイヤ回転の偏り、タイヤ3をハブ12に固定する部分の緩み、ハブ12の疲労によるひび発生、ベアリング(図示せず)の異常等の回転部材に何らかの異常があると、回転部材の回転に同期して加速度センサ6が取り付けられたナックル11が上下運動するので、加速度センサ6の出力信号が図7(a)のように変化する。すなわち、路面が平坦であって、本来の路面による上下加速度が0で一定としたとき、加速度センサ6の出力信号は、回転部材の回転周期と同じ周期で上下の加速度に相当する電圧が繰り返し現れる。
【0052】
ベアリングのナックル11への取付部、ナックル11、ナックル11と車体2を連結するサスペンション13等の非回転部材に何らかの異常があると、タイヤ3等の回転部材の回転に同期する信号成分もあるが、回転部材の回転には非同期な信号成分が顕著となる。例えば、路面形状や運転状態と関連してナックル11が上下動するため、加速度センサ6の出力信号が図7(b)のように変化する。すなわち、電圧は、長時間で大きく見ると、例えば、0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。その間、回転部材の回転周期と同じ周期で上下の加速度に相当する電圧が繰り返し現れる。
【0053】
なお、非回転部材が正常であっても、旋回や加速等の運転状態において加速度センサ6の出力信号が図5、図6に示したように変化する。このような出力信号変化と、図7(b)における出力信号の長時間の変化とは類似する。しかし、非回転部材に異常があるときには、振幅が大きくなったり、波形形状が異なったりする。左右の前輪と左右の後輪の計4箇所に配置した加速度センサ6の出力信号の相対変化は、非回転部材が正常な場合と異常な場合とで異なってくる。本発明では、例えば、左輪側の加速度センサ6の出力信号をGl(t)(tは時間)とし右輪側の加速度センサ6の出力信号をGr(t)としたとき、
左右比関数F(t)=Gl(t)/Gr(t)
を求める。非回転部材が正常な場合、左右比関数F(t)の値が一定範囲内(例えば、
|F(t)|<F0
)に入るが、例えば、左輪に異常が生じて左輪における加速度センサ6の出力信号の変化が大きくなると、F(t)の非周期成分が一定範囲を外れる。よって、後に詳しく述べるイベント検出、状態判定を利用して、イベントで区切られる所定期間や状態種で区切られる部分期間内における上記4箇所の加速度センサ6の出力信号の相対変化を調べると、異常を検出することができる。
【0054】
回転部材、非回転部材を問わず、これらの部材の異常を早期発見することが望まれる。しかし、加速度センサ6の出力信号は、異常発生によっても変化するが、異常のない場合でも路面形状や運転状態により変化する。このため、加速度センサ6の出力信号を監視信号とし、この監視信号から異常の有無を精度よく判断することは難しい。
【0055】
監視信号の特徴を利用したり、運転状態ごとに適切な異常検出方法を選択したり、回転部材の動作特性を利用したりするなど、異常検出方法に工夫をすることで、異常検出の精度向上が期待できるが、従来技術では十分でない。
【0056】
本発明者は、自動車運転上に問題となる自動車の異常は、路面形状に起因して何らかのイベントが発生したときや、運転状態が所定の条件を満足したというイベントが発生したときに発生、進展(悪化)、顕在化すると考えた。この考えに基づき本発明に至った。
【0057】
異常検出に使用するデータは、瞬時データでもよいが、本実施形態では、時間的に継続するデータとする。その時間的に継続するデータについて、ある期間を区切り、その期間内に所定短時間間隔でサンプリングを行って時系列データを作成する。このような時系列データをそのまま対象データとして抽出してもよい。上記時系列データを使用して、平均値、分散値、振幅値、最大値、最小値等の統計値を演算する統計的処理を行い、得られた統計値を対象データとして抽出してもよい。
【0058】
あらかじめ設定された正常データあるいは異常データを比較用データとし、対象データと比較用データを比較することで異常を検出することになる。
【0059】
時系列データのサンプリング開始から終了までの期間を区切るタイミングとしてイベント発生時刻を使用するとよい。
【0060】
このように、イベントで区切った期間のデータを対象データとして抽出することで、異常検出に使用するデータをある特定の路面形状、運転操作、メンテナンス作業に相関したデータに絞り込むことができる。また、対象データは、異常の発生、進展に影響するイベントで区切って抽出されるため、別々の時間に得られた同じイベントによる複数の対象データは、同じ異常に対応する。このように、イベントに応じて対象データを抽出することにより、異常検出の精度が向上する。また、イベントが表している路面形状、運転操作、メンテナンス作業による異常の発生、進展が捕らえやすくなる。
【0061】
複数種類のイベントのうち、対象データを抽出する期間を区切るイベントを同じ種類のイベントに限定することも有効である。このようにすることで、同じ種類の異常に対する対象データの量が増える。異常の種類によっては、ある種類のイベントによってその異常が発生や進展することがある。対象データを抽出する期間を区切るイベントを同じ種類のイベントに限定すると、同じ異常の程度に対する対象データの量を増やして、異常検出の精度を向上させることができる。
【0062】
例えば、稼動体1が自動車であって4箇所の加速度センサ6の出力信号をデータとして収集するものとし、急ハンドル操作と急停止の2種類のイベント(表1の#2,#3)が次の順番で連続して発生した場合を考える。日時ET1に急停止、日時ET2に急ハンドル操作、日時ET3に急停止、日時ET4に急ハンドル操作、日時ET5に急停止が発生し、減速の運転状態(表2の$05;記号E)が期間ET1〜ET2の間に1回、期間ET2〜ET3の間に1回、期間ET3〜ET4の間に1回、期間ET4〜ET5の間に1回判定されたとする。また、減速の運転状態に対する異常検出処理を、『左前輪加速度センサ6flと左後輪加速度センサ6rlの出力信号の差分Gdifの最大値が閾値Gth5を越えた場合、異常とする』という処理とし、異常検出処理を行う期間が複数ある場合は、複数期間における出力信号の差分Gdifの平均値と閾値Gth5の大小比較を行い、平均値が閾値Gth5を越えた場合に異常とする、と仮定する。
【0063】
図8に示した手順にしたがって、全ての種類のイベントで区切られる期間内における減速の運転状態が判定されている部分期間内で対象データを抽出すると、期間ET1〜ET2の間に1回、期間ET2〜ET3の間に1回、期間ET3〜ET4の間に1回、期間ET4〜ET5の間に1回の各部分期間において対象データが抽出される。
【0064】
各期間での異常検出処理で計算される複数の対象データ間の差分がGdif12、Gdif23、Gdif34、Gdif45であったとする。最初の期間での異常検出処理では差分Gdif12と閾値Gth5との大小比較が行われ、次の期間での異常検出処理では差分Gdif23と閾値Gth5との大小比較が行われ、以下同様に、各期間での異常検出処理において差分Gdif34と閾値Gth5との大小比較、Gdif45と閾値Gth5との大小比較が行われる。
【0065】
一方、急停止のイベントのみにより区切られた期間において対象データを抽出した場合、期間ET1〜ET3の間に2回の部分期間が、期間ET3〜ET5の間に2回の部分期間が状態判定によって区切られる。このとき、最初の異常検出処理では差分Gdif12と差分Gdif23の平均値と閾値Gth5との大小比較が行われ、次の期間での異常検出処理では差分Gdif34と差分Gdif45の平均値と閾値Gth5との大小比較が行われる。
【0066】
以上のように、急停止のイベントのみにより区切られた期間において対象データを抽出した場合、1回の期間の異常検出処理において2回の部分期間に抽出した複数の対象データの差分の平均値が閾値との比較に使用される。これにより、2種類のイベントで区切られた期間において対象データを抽出した場合に比べて、異常検出の精度を高くすることができる。
【0067】
イベントの検出に、異常検出に使用するデータを用いると、異常とイベントとの関連性を増すことができ、異常検出の精度が向上する。例えば、稼動体1が自動車である場合に、段差乗り越えや窪み通過時には、ナックル11に上下方向に大きな加速度が発生し、ハンドル操作や加減速時には車体2の左右や前後の傾きが発生して各輪のナックル11に生じる加速度のバランスが変化する。このような加速度変化が生じると関連部材において機械的負荷が大きくなり、ハブ12やベアリングの劣化のきっかけとなったり、劣化が進行する可能性がある。このように異常の発生・進展と関連するデータをイベント検出に使用すると、イベントと異常との関連性が増し、異常検出の精度が向上する。
【0068】
メンテナンス時にセンサ(例えば加速度センサ6)及びデータ処理部7の電源がオンであれば、タイヤ脱着等に起因する加速度変化をイベント検出に利用することができる。メンテナンス時には、エンジン5を停止することが多く、一般的にはセンサの電源も遮断される。この場合は、エンジン5の停止・始動を行う操作による制御信号をイベント検出に用いると、メンテナンス作業が行われるときにイベントを検出することができる。エンジン5の停止・始動はメンテナンス時以外にも頻繁に発生するが、エンジン5の停止・始動を行う操作による制御信号をイベント検出に用いると、メンテナンス時の他に、エンジン5の始動直後に特異的に現れる異常に起因する信号を対象データ中に捕らえることができる。エンジン5の始動直後に特異的に現れる信号には、部材が比較的低温であるときに発生する信号、部材間の温度差が小さいときに発生する信号、始動時のサージ電圧による電子回路の故障(異常)により発生する信号がある。
【0069】
本発明では、異常検出処理を行う期間(=対象データを抽出する期間)をイベントで区切る。その期間内で、所定の操作を行っている部分期間、所定の運転状態となっている部分期間など、状態の細目を表す状態種で対象データを部分期間に区切り、この部分期間内の対象データを用いて異常検出処理を行うとよい。このようにすると、異常に起因する信号のうち、所定の操作や所定の運転状態において顕著に現れる信号を精度よく検出することができる。
【0070】
以下、データ処理部7の動作を説明する。
【0071】
図8に示されるように、連続するイベント間のデータを対象データにする場合は、稼動体1の稼働中に、データ処理部7は次のように動作する。
【0072】
データ処理部7は、データ収集部において、稼動体1のデータを継続して収集し、イベント検出部において稼動体1のイベントを検出する。データは、物理量センサが検出する物理量の出力信号、稼動体1が制御される制御信号などである。イベントは、継続して収集しているデータから検出してもよい。イベントは繰り返して検出される。
【0073】
データ処理部7は、あるイベントが検出されたとき(イベント検出タイミングT1)、そのデータまたは収集している他の種類のデータに基づいて稼動体1の状態を複数のあらかじめ決められている複数の状態種に判定する(状態判定タイミングT2)。
【0074】
これ以降のデータ処理部7の動作は表3の例で説明する。表3は、図8に示す手順で処理を行った結果をまとめたものである。なお、表3には、異常検出結果については記載していない。図8の手順にしたがい、イベント検出→状態判定→対象データの抽出→異常検出→イベント検出→…の処理を繰り返す。
【0075】
【表3】
【0076】
初めのイベント検出を行った結果、イベントe1を検出した。その後、状態判定を行い、開始日時t0(11)より終了日時t1(11)までで定義される部分期間t0(11)〜t1(11)の間は状態種P(始動直後)と判定した。次に、今回のイベント(この場合、イベントe1)検出から今回の状態判定までの間に同じ種類の状態判定をしたことがあるかどうかの判定を行った。この場合、今回のイベント発生直後に状態判定したので、該当する状態判定の記録は無しとなった。そこで、対象データを今回の状態判定による部分期間t0(11)〜t1(11)に抽出した対象データのみとして、異常検出処理を行った。
【0077】
ここで、状態種A(左旋回)は、図9に示されるように、図9(a)の左輪上向加速度GLと図9(b)の右輪上向加速度GRの比GL/GRが図9(c)のしきい値Gth1より大きいことで判定される。
【0078】
部分期間t0(16)〜t1(16)の間は状態種Aと判定したが、今回検出したイベントe1から今回の状態判定までの間に、今回判定した状態種Aと同じ状態種Aが部分期間t0(14)〜t1(14)にも検出されていた。そこで、対象データとしては、部分期間t0(16)〜t1(16)に加えて、部分期間t0(14)〜t1(14)に収集したデータも対象データとした。これらの部分期間の対象データについて異常検出処理を行った。異常検出の条件として、種々の条件が考えられるが、例えば、区切られた部分期間内の加速度センサ6の出力信号のピーク値が比較用データGth1より大きいかどうかで異常検出を行うものとし、部分期間t0(14)〜t1(14)での最大値がG14、部分期間t0(16)〜t1(16)での最大値がG16であったとした場合、例えば最大値G14と最大値G16の平均値を用いるなどの処理を行うことで、異常検出に使用する対象データに乗る誤差の影響を低減することができる。
【0079】
イベントe2での状態種Aの判定を行った部分期間t0(23)〜t1(23)での対象データの抽出方法について説明する。状態種Aと判定した部分期間は、今回の状態種Aの判定よりも前にある。しかし、図8にしたがって判定を行うと今回検出したイベントはe2になり、イベントe2検出より後には状態種Aの判定を行っていない。したがって、対象データは今回の状態種Aの判定を行った部分期間t0(23)〜t1(23)のみとなる。
【0080】
データ処理部7では、比較用データベースに、あらかじめ異常検出のための比較用データが記憶されている。データ処理部7では、比較演算部が対象データと比較用データとを比較し、対象データと比較用データとの差が閾値以上あるいは閾値以下であれば、稼動体1に異常があると判断する(異常検出結果出力タイミングT3)。
【0081】
一例として、状態種P(始動直後)について図10により説明する。状態種P(始動直後)では、始動時のサージ電圧による電子回路の故障等が発生する可能性がある。例えば、エンジンを制御している電子回路が故障してアクセルを踏んだときの加速が正常時より遅くなる故障(異常)を検出する場合、アクセルの開度センサ出力に対する前後方向加速度の大きさが正常のときより小さいことで異常が検出できる。異常検出処理の例を次に示す。図10(a)のアクセル開度センサ出力A0(t)とそのときの図10(b)の前方向加速度Gx(t)から演算される図10(c)の、
加速度開度比関数Faog(t)=Gx(t)/A0(t)
の大きさと、正常時における前方向加速度とアクセル開度の比Faog0(t)との比較を図10(d)のように比率で行い、しきい値を設け、例えば20%以上小さいときに異常として検出する。ここで、アクセル開度が所定値A01を越えた時点の時刻を0として、例えば時刻0秒から10秒後までの比較を行う。
【0082】
次に、図8の初めに戻り、イベントの検出を行ったが検出されなかったので、そのまま状態判定処理を行った。状態判定処理を行った結果、部分期間t0(12)〜t1(12)の間は、状態種BG(右旋回と急減速が同時の操作状態・運転状態)と判定した。次に、今回のイベント(この場合、イベントe1)検出から今回の状態判定までの間に同じ種類の状態判定結果があるかどうかの判定を行った。状態種Bと状態種Gが同時の操作状態・運転状態であるので、同じ種類の状態としては状態種B、状態種G及び状態種BGを判定するものとした。
【0083】
今回のイベントe1から今回の状態判定までの間には、判定するものとした操作状態・運転状態が発生しなかったので、対象データは、今回の状態判定を行った部分期間t0(12)〜t1(12)のみを抽出した。同様の処理を繰り返したが、部分期間t0(13)〜t1(13)の間は、該当する状態種がなかったため、対象データを抽出しなかった。このような処理を繰り返し行った。
【0084】
次に、データ処理部7の別の動作を説明する。
【0085】
図11について説明する。複数種類のイベントのうち、同じ種類のイベントで対象データを抽出する期間を区切る場合の例を表4に示す。表4は、図11に示す手順で処理を行った結果をまとめたものである。
【0086】
【表4】
【0087】
図11の手順にしたがい、イベント検出→状態判定→対象データの抽出→異常検出→イベント検出→…の処理を繰り返す。図8の手順とは、対象データ抽出の部分が異なる。表4のイベント検出e4までは、同じ種類のイベントが発生していないので、図8の手順で行った場合との違いはない。イベントe4でエンジン停止の後の始動を検出しているが、イベントe1でもエンジン始動を検出しているため、対象データの抽出開始日時は、イベントe1の開始日時t0(11)とする。したがって、期間t0(41)〜t1(41)の間の状態種Pの異常検出処理を行う際の対象データ抽出期間は、期間t0(11)〜t1(41)となる。この期間内において、状態種Pは部分期間t0(11)〜t1(11)と部分期間t0(41)〜t1(41)の2回判定されている。
【0088】
例えば、エンジンを制御している電子回路が故障してアクセルを踏んだときの加速が正常時より遅くなる故障(異常)を検出する場合、アクセルの開度センサ出力A0(t)とそのときの前方向加速度Gx(t)から演算される、
加速度開度比関数Faog(t)=Gx(t)/A0(t)
の大きさと、正常時における前方向加速度とアクセル開度の比Faog0(t)との比較を行い、例えば20%以上小さいときに異常として検出する。ここで、アクセル開度が所定値A01を越えた時点の時刻を0として、例えば時刻0秒から10秒後までの比較を行う。今回抽出した対象データは2組あるため、2組の対象データそれぞれについて、前記手順で加速度開度比関数Faog(t)を計算し(計算結果はFaog1(t)、Faog2(t)とする)、計算結果であるFaog1(t)とFaog2(t)の平均を加速度開度比関数Faog(t)とする。加速度開度比関数Faog(t)と正常時における比Faog0(t)との比較を行い、例えば正常時より20%以上小さいときに異常として検出する。今回抽出した対象データについての異常検出処理では、2組の対象データからえられたFaog1(t)とFaog2(t)の平均を取って加速度開度比関数Faog(t)として異常検出を行ったので、1組の対象データのみを用いた場合より、異常検出精度を向上させることができる。
【0089】
図3の異常検出システムにおいては、データ処理部7は、4個の加速度センサ6の出力信号をデータとして収集し、いくつかの制御ユニットECU1,ECU2,…からの速度、温度等の出力信号をデータとして収集し、これら複数種類のデータを用い、あらかじめ設定しておいたイベント検出条件を参照してイベントを検出する。すなわち、表1に示されるように、データ処理部7内には、イベントの種類ごとに、検出条件が設定されている。各イベントには、当該イベントと相関を有する路面形状あるいは運転状態が存在する。
【0090】
例えば、イベント#1では、いずれか1つ以上の加速度センサ6の出力信号によるデータをデータ加工処理して振幅を求め、その振幅とあらかじめ定めたしきい値とを比較し、振幅がしきい値より大きくなった瞬間、あるいは振幅がしきい値より小さくなった瞬間をイベント#1の検出時点とする。イベント#1は、段差乗り越えや窪み通過によってナックル11に上向きあるいは下向きの加速度が生じたことに大きな相関を有する。
【0091】
また、イベント#4では、いずれか1つ以上の加速度センサ6の出力信号によるデータをデータ加工処理して周波数特性を求め、その周波数特性とあらかじめ定めた周波数特性との類似度を求め、類似度がしきい値より大きくなった瞬間、あるいは類似度がしきい値より小さくなった瞬間をイベント#4の検出時点とする。イベント#4は、タイヤ脱着や定期点検が行われたことに大きな相関を有する。
【0092】
タイヤ着脱を行う場合、タイヤを固定しているボルトを外す操作開始時や点検で工具を使用した際に急激に大きい力を加える必要があるため、加速度センサ6の出力信号の高周波成分が増える。そこで、周波数のしきい値Fthよりも低い周波数成分の積分値GLowとしきい値Fthよりも高い周波数成分の積分値GHighとの比RHLを計算し、比RHLがあらかじめ定めたしきい値RHL0より大きいときを、イベント#4の検出時点としてもよい。
【0093】
このように、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号や制御ユニットECU1,ECU2等からの出力信号を基に、イベントの発生とイベントの種類を検出するようになっている。
【0094】
さらに、データ処理部7は、上記複数種類のデータを用い、あらかじめ設定しておいた判定条件を参照して状態種を判定する。すなわち、表2に示されるように、データ処理部7内には、状態種ごとに判定条件が設定されている。各状態種は、自動車の操作状態、運転状態を判定したもので、データ処理部7内では識別用の記号が与えられる。
【0095】
例えば、状態種$01では、左輪の上向加速度センサの出力信号と右輪の上向加速度センサの出力信号との比を求め、その比としきい値とを比較し、比がしきい値より大きい場合に、自動車の状態を状態種$01に判定する。状態種$01は、自動車が左旋回操作されたという操作状態及び自動車が左旋回したという運転状態と大きな相関を有する。状態種$01を識別する記号はAとする。
【0096】
同様に、状態種$02では、左輪の上向加速度センサの出力信号と右輪の上向加速度センサの出力信号との比を求め、その比としきい値とを比較し、比がしきい値より小さい場合に、自動車の状態を状態種$02に判定する。状態種$02は、自動車が右旋回操作されたという操作状態及び自動車が右旋回したという運転状態と大きな相関を有する(図5参照)。状態種$02を識別する記号はBとする。
【0097】
このように、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号や制御ユニットECU1,ECU2等から出力信号を基に、自動車の状態を複数の状態種に判定するようになっている。
【0098】
次に、データ処理部7は、イベントが検出された後、判定した状態種ごとに、対象データと比較用データとを比較して異常検出を行う。すなわち、表3に示されるように、データ処理部7は、イベントの種類に応じ、かつ状態種ごとに、開始日時から終了日時までのデータを対象データとして抽出する。
【0099】
表3に示した状態種の記号は、表2で定義されたものである。複数の状態種が同時に成立しているときは、それぞれの状態種の記号を連記してある。例えば、記号AE(表3にはなし)は左旋回(記号A)と減速(記号E)の状態種が同時に成立していることであり、これは自動車が左旋回しながら減速している運転状態であることに大きな相関を有する。複数の状態種が同時に3つ以上、4つ以上成立するときは、それに応じて状態種の記号を連記することになる。
【0100】
データ処理部7は、上記抽出した対象データをデータ加工処理(ここでは統計的処理や周波数領域の処理を行うものとする)により、平均値、分散値、振幅値、最大値、最小値等の統計値を演算する。比較用データついては、あらかじめ統計的処理を施しておくことで、演算時間を短縮することができる。また、統計的処理後の比較用データのみを記憶するのであれば、記憶するデータ量を削減して記憶領域を節約することができる。
【0101】
データ処理部7は、上記抽出した対象データ又は上記データ加工処理した対象データを比較用データと比較演算して異常を検出する。具体的な比較演算としては、既に述べたように、2種類の対象データから演算される関数値と正常時の関数値との比を求め、比の値が所定%を超えるとき(あるいは満たさないとき)、異常が検出されたものとする。
【0102】
ここで、具体的な例として、タイヤ部の異常を検出する場合を図12により説明する。ナックル11に取り付けた上向加速度センサの出力信号と、タイヤ3の1回転に対して1周期の論理反転信号を出力するタイヤ回転センサの出力信号とを監視信号とし、これら監視信号のデータを収集する。図示しないイベント検出と状態判定に基づき所定の期間、対象データを抽出する。図12(a)に示した上向加速度センサの出力信号と図12(b)に示したタイヤ回転センサの出力信号が抽出される。上向加速度センサの出力信号の周波数とタイヤ回転センサの出力信号の周波数(1/T)とを各々周波数分析するデータ加工処理により、図12(c)、図12(d)に示した周波数の時間変化Gf,Vfを得る。タイヤ回転センサの出力信号の1周期ごとに、該1周期の中における上向加速度センサの出力信号の振幅最大値を抽出すると、図12(e)の○で示した複数の振幅最大値が得られる。周波数の時間変化Gf,Vfの比Gf/Vfを類似度として求めると、図12(f)のようになる。
【0103】
各振幅最大値がしきい値Athを越え、かつ、周波数の時間変化Gf,Vfの比Gf/Vfが所定の類似度範囲、例えば、1±0.1の範囲に入った場合、タイヤ3の1回転ごとに所定以上の上向加速度が発生しており、かつ、上向加速度とタイヤ回転の周波数特性が類似していることになる。このとき、タイヤ3の回転に同期した異常が発生したことを検出する。
【0104】
周波数の時間変化Gf,Vfの比が1に近いことは、上向加速度の変化がタイヤ3の回転に同期していることを示す。また、タイヤ回転センサの出力信号の1周期中における上向加速度センサの出力信号の振幅最大値がしきい値Athを越えるか否かは異常の有無と相関がある。タイヤ3の回転に同期した異常としては、タイヤ回転の偏り、タイヤ3をハブ12に固定する部分の緩み、ハブ12の疲労によるひび発生、ベアリングの異常等が考えられる。これらのうちどの異常が発生したかの特定についてはここでは説明しないが、回転に同期した監視信号が得られる異常が発生したことが検出されることにより、その後の異常の特定につながる。
【0105】
異常検出は各状態種ごとに行うとよい。さらに、状態種ごとの検出結果を中間検出結果とし、複数の中間検出結果を組み合わせることで、複数の状態種の組み合わせにおける検出結果としてもよい。これにより、より詳細な検出を行うことができる。
【0106】
例えば、タイヤ3の回転に同期した異常が状態種C(左急旋回)で検出されたが、同じ異常が状態種A(左旋回)では検出されなかったとする。この場合、異常の程度が比較的軽いと判断できる。しかし、状態種Cと状態種Aのどちらでも上記異常が検出された場合は、異常の程度が重いと判断できる。このように、状態種ごとの中間検出結果を組み合わせて最終検出を行うことで、詳細な検出を行うことができる。これにより、異常の程度の軽重により警告のレベルを変えるなどの運用が行える。
【0107】
また、状態種ごとの異常検出は、1種類の状態種における異常検出でもよいし、複数種類の状態種を組み合わせた状態種における異常検出でもよいし、これらの異常検出を重複して行ってもよい。例えば、記号Aの状態種における異常検出と、記号AIの状態種における異常検出とをそれぞれ行う。表2に示されるように、記号Aの状態種は左旋回に関係しており、記号Iの状態種はスリップに関係している。重複して異常検出を行うことにより、より詳細な検出を行うことができる。
【0108】
例えば、状態種A(左旋回)のときにタイヤ3の回転に同期した監視信号が得られる異常が検出されたが状態種AI(左旋回&スリップ)のときには上記異常を検出しなかった場合は、状態種AIのときにも上記異常を検出した場合と比べて、異常の程度が軽い可能性がある。タイヤ3がスリップすることにより、タイヤ3にかかる負荷が解放されるために監視信号に異常が現れないためである。このように、複数種類の状態種において同種の異常を重複して検出することにより、詳細な検出を行うことができる。
【0109】
以上説明したように、本発明の異常検出方法によれば、稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出するようにしたので、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える。
【0110】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
【0111】
稼動体1が自動車である場合に、監視信号(例えば、加速度センサ6の出力信号)をタイヤ3の回転に同期する信号と非同期の信号とに分離することも考えられる。タイヤ3の回転速度は、例えば、ABS(アンチロックブレーキシステム)用に各タイヤ3に設置してあるタイヤ回転センサの出力パルスから検出することができる。また、タイヤ3の回転速度は、タイヤ回転センサ出力パルスをタイヤ3の1回転分カウントすることで検出できる。なお、タイヤ3の1回転に対するタイヤ回転センサ出力パルス数はタイヤ回転センサの設計で決まる。検出したタイヤ3の回転速度(タイヤ回転センサ出力パルス)を基に、監視信号からタイヤ3の回転に同期する信号と非同期の信号とを分離するとよい。この考えに基づき、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号から得られた対象データをタイヤの同期信号のデータと非同期信号のデータとに分離する。
【0112】
タイヤ3の回転と同期する信号からは、ハブ12、ハブ12を保持するベアリング、車軸16、ギア14、ハブ12にタイヤ3を取り付けるホイール(図示せず)、ホイールにタイヤ3を取り付けるナット(ボルト)について異常を検出することができる。例えば、ボルトの緩み、タイヤ接地面の異常を検出することができる。タイヤ3の回転と非同期の信号からは、ナックル11、サスペンション13、ジョイント15、タイヤ3について異常を検出することができる。例えば、タイヤ3の空気圧異常を検出することができる。
【0113】
タイヤ3の空気圧が低下すると、路面の凹凸による上下動が加速度センサ6に伝わりにくくなる。前後左右4つのタイヤ3のうち、1つのタイヤ3の空気圧が低下すると、空気圧が低下したタイヤ3の近傍の加速度センサ6の出力信号の振幅が他のタイヤ3の近傍の加速度センサ6の出力信号の振幅より小さくなる。上下動は、タイヤ3の回転と同期するものよりも、路面の凹凸によるものが支配的であるため、タイヤ3の回転と非同期の信号として検出される。よって、前後左右4つの加速度センサ6の出力信号から得られた対象データからタイヤ3の回転と非同期のデータを分離し、分離した4つのデータの振幅を比較し、振幅が他のデータより所定値(所定比)以上小さいデータがあるときには、その加速度センサ6の近傍のタイヤ3の空気圧が異常であることを検出することができる。
【0114】
対象データを同期信号のデータと非同期信号のデータに分離する実施形態は、回転部材を備える稼動体1のみに限らず、往復運動する部材、振り子運動する部材、周期振動する部材等を備える稼動体にも適用できる。すなわち、対象データ中の周期性がある成分から周期性と相関を有する異常を検出し、対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出するとよい。
【0115】
稼動体1が自動車である場合に、操作量(ハンドル操作量、ブレーキ操作量)に対して自動車に生じる運動を予想することができる。この運動予測に基づいて加速度センサ6が設置されている部材に生じる加速度を予測することができる。予測された加速度と実際に測定された加速度との差分を演算し、差分が所定値範囲に収まらない場合に、異常と判断することができる。すなわち、データ処理部7は、制御信号に含まれている操作量から自動車に生じる運動を予想してその運動予測に基づいて加速度センサ6から得られるであろうデータを予測する。データ処理部7は、その予測データを比較用データとし、加速度センサ6の出力信号から得られた対象データを比較用データと比較する。
【0116】
稼動体1が自動車である場合の運動予測方法の一例を述べる。自動車の運動方程式は、
【0117】
【数1】
【0118】
で表すことができる。これらの方程式(式1)〜(式4)の変数のうち、質量m、慣性モーメントI、重心前車軸間距離lf、重心後車軸間距離lrは、設計値で定まる。走行速度V、舵角δ、ヨー角速度γ、横方向加速度Gyは、センサで検出する。以上の変数が分かれば、コーナリングパワーKf,Krを求めることができる。ハンドル操作量は舵角δに相当する。ブレーキ操作により走行速度Vが変化する。
【0119】
コーナリングパワーKf,Krは、自動車(タイヤ3)と路面の間に働く力に相当し、自動車が路面のみに拘束されて運動していると考えられるので、自動車の運動が把握できる。
【0120】
自動車の運動方程式から式4のように横すべり角βを求めることができるが、横すべり角β2は加速度と速度から
【0121】
【数2】
【0122】
のように式5から求めることができる。
【0123】
式5で求める横すべり角β2と式4で求める横すべり角βとの比較を行うことで、加速度センサ6の異常検出を行うことができる。
【0124】
稼動体1が自動車であって、電動パワーステアリング、ABS、各タイヤへの駆動トルク配分制御を行うものとし、電動パワーステアリング制御信号、ABS制御信号、駆動トルク配分制御信号を本発明の監視信号のデータとする場合、各制御信号における信号伝達のタイミングに起因して制御信号が監視信号のデータにとってノイズ源となる可能性がある。また、上記制御信号に制御されて電動機等の被制御機器が動作するとき、電磁ノイズが発生して監視信号のデータに重畳する可能性がある。
【0125】
これに対し、本発明では、制御信号の出力タイミングに対する電磁ノイズが発生するタイミングの遅延時間、及びノイズ源の周波数をあらかじめ測定してデータ処理部7に設定しておくことができる。制御信号と同期する監視信号について、制御信号が電圧変化したのと同時、あるいは制御信号が電圧変化してからモータ動作時定数等を考慮した所定の遅れ時間の経過後までの所定期間、ノイズ源の周波数成分を対象データから除外する。ノイズが重畳した期間以外の周波数成分には影響が及ばないようにする。ノイズ源の周波数成分が除外された対象データから異常を検出することにより、ノイズに起因する誤検出を防止することができる。
【0126】
図13(c)は、タイヤ付近に設置した加速度センサ6の出力信号(センサ出力信号103)に図13(a)のブレーキ制御信号101からの図13(b)の電磁雑音102が重畳した波形である。方形波インパルス状の制御信号101が出力された後、時間遅延して被制御機器から比較的高周波成分を含んだ電磁雑音102が発生する。センサ出力信号103には本来の出力信号(図7(b)に相当する緩やかに曲線変化している成分とタイヤ3の回転に同期した異常に起因する信号成分(負の三角波インパルス状の周期信号))に、制御信号から時間遅延した被制御機器の電磁雑音に同期し波形が類似した信号成分が重畳している。
【0127】
電磁雑音102が継続する期間(フィルタ期間)104と電磁雑音102の周波数帯域をあらかじめ調べておき、フィルタ期間104だけ上記周波数帯域を遮断するローパスフィルタ処理を行う。ただし、ここでは電磁雑音に類似の成分の周波数帯域と短周期繰り返しのインパルス状の成分のノイズ周波数帯域とが重複しているものとする。
【0128】
フィルタ出力信号105は、離散的に存在している複数箇所のフィルタ期間104において上記周波数帯域が遮断されたものとなる。このとき、センサ出力信号103にあった電磁雑音に類似の成分は全て除去される。一方、センサ出力信号103にあったタイヤ3の回転に同期した短周期繰り返しのインパルス状の成分はフィルタ期間104では除去されるが、非フィルタ期間106では除去されることなく残っている。本来の出力信号である緩やかに曲線変化している成分も残っている。
【0129】
図13に示したような波形処理により、要因や特徴の異なる複数の成分が監視信号に重畳している場合でも、一方の成分を完全に除去しつつ、成分同士が重畳していない期間に他方の成分を検出することが可能となる。例えば、タイヤ3の回転と同期して発生する異常に起因する信号成分の周波数帯域と電磁雑音に起因する信号成分の周波数帯域とが重複する場合でも、電磁雑音102の発生期間以外のデータには、タイヤ3の回転と同期して発生する異常に起因する信号成分が対象データに残ることになり、異常検出を行うことができる。
【0130】
電磁雑音発生期間のデータに対してローパスフィルタ処理を行ったデータ(図13(d))を対象データとする。図14に示されるように、時系列データである対象データをFFT(高速フーリエ変換)処理により、周波数データに変換する。これに伴い時間応答が周波数応答に変換される。図示のようにFFT処理により得られた周波数データには、異常に起因する信号の周波数範囲に含まれる成分103c,103d,103eとその周波数範囲に含まれない成分103a,103b,103fとがある。対象データの周波数範囲に含まれる成分に対して、しきい値を超える成分103dがあることで異常を検出する。
【0131】
イベントの検出や異常の検出に使用する監視信号のデータとして、稼動体1が自動車である上記実施形態において、ナックル11に取り付けられ上下方向の加速度を検出する加速度センサ6を用いた。本発明は、上下方向の他に、自動車の進行方向、横方向などさまざまな方向の加速度を検出する加速度センサを用いてよい。また、単方向の加速度センサに限らず、複数方向の加速度センサを組み合わせて用いてよい。例えば、上下方向、進行方向、横方向の加速度センサを一箇所に取り付けると、その取り付け箇所における加速度を三次元ベクトルとして捕らえることができる。これにより、異常検出精度を上げることができる。
【0132】
上記実施形態では、加速度センサ6をナックル11に取り付けたが、ナックル11以外の部材でもサスペンション13よりタイヤ3側においてタイヤ3等の回転部材を除いた各非回転部材は互いに同じ運動をすると考えてよいので、サスペンション13よりタイヤ3側の非回転部材に加速度センサ6を取り付けることで、加速度センサ6をナックル11に取り付たのと同様の信号を得ることができる。回転するタイヤ3の中に物理量センサを設置し、物理量センサの出力信号を無線により非回転部材に取り付けた受信器に伝送してももよい。
【0133】
また、自動車の他の部分、例えば、エンジン5の周辺に物理量センサを設置すれば、エンジン5の異常検出に本発明を適用できる。ハンドル4等のステアリング装置付近に物理量センサを設置すれば、ステアリング装置の異常検出に本発明を適用できる。
【0134】
上記実施形態では、加速度センサ6をナックル11に取り付けたが、サスペンション13の上側に支持されている車体2に加速度センサを取り付けてもよい。この場合、車室全体が車体2と一体で運動するので、車体2の1箇所に加速度センサを取り付ければ、車室全体に生じる加速度を検出して車室の挙動に相関のあるデータを収集することができる。ただし、サスペンション13の下側に生じている振動がサスペンション13によって吸収されるため、車体2に取り付けられた加速度センサではタイヤ3の振動については感度が弱い。よって、サスペンション13の下側を支持しているナックル11に加速度センサ6を取り付けることで、タイヤ周辺部材の異常検出に有利となる。
【0135】
上記実施形態では、監視信号を出力するセンサとして加速度センサを用いたが、本発明では、振動センサ、音響センサ、角速度センサ、部材の歪みを検出する歪みセンサ、自動車の速度センサ、タイヤ回転センサ、温度センサ等の物理量センサを用いることができる。これらの物理量センサを異常に応じて出力信号が変化するように配置するとよい。これらの物理量センサを単独であるいは複数個組み合わせて使用するとよい。使用する物理量センサの種類・個数が多いほど異常検出が高精度になることが期待されるので、コストバランスを考慮して物理量センサの種類・個数を決めるとよい。また、物理量センサは、異常検出の目的のみに使用するとは限らず、他の用途、例えば自動車運動制御にも共用することができる。共用によりコスト削減を図ることができる。
【0136】
次に、同じ種類のイベント間のデータを使用する場合の例として、始動直後と段差乗り越えイベントについて適用する例を表4に、処理の流れを図8に示す。始動直後の状態(記号P)については、イベントe4でのエンジン始動時に以前のイベントe1のデータも合わせて使用してデータ量を増やして検出精度を上げている。同様に、段差乗り越えイベントe3とe5の間に、エンジン停止始動イベントe4があるが、左旋回状態(記号A)と右旋回状態(記号B)での異常検出処理には、イベントe3〜イベントe5の間の該当状態のデータを全て使用して、データ量を増やして検出精度向上を図っている。
【0137】
上記実施形態では、稼動体1を自動車としたが、本発明は、撚り合わせ装置、押出装置、圧延装置にも適用できる。これらの製造装置の連続稼働中に本発明により異常検出を行うことは有効である。
【0138】
電線等の撚り合わせ装置では、異常として、撚り合わせ線材の重なり、切れ、太さ変動等がある。イベントとして、撚り合わせ速度の変化、材料切り替え、起動などがある。操作状態・運転状態としては、ピッチ設定、送り出し速度の高低等がある。イベント検出や異常検出のためのデータには、中心材や送り出し材用の張力センサ、送り出し速度センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【0139】
押出装置では、異常として、押出完了品の寸法ばらつき増加、材料密度ばらつき増加、詰まり等がある。イベントとして、押出速度の変化、材料切り替え、起動などがある。操作状態・運転状態としては、押出速度レベル、押出圧力の高低、使用材料の種類などがある。イベント検出や異常検出のためのデータには、押出速度センサ、圧力センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【0140】
圧延装置では、異常として、圧延完了品の厚さばらつき増加、強度ばらつき増加等がある。イベントとして、送り速度の変化、材料切り替え、起動等がある。操作状態・運転状態として、送り出し速度レベル、温度の高低等がある。イベント検出や異常検出のためのデータには、送り出し速度センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【符号の説明】
【0141】
1 稼動体
2 車体
3 タイヤ
4 ハンドル
5 エンジン
6 加速度センサ
7 データ処理部
8 ステアリング機構
11 ナックル
13 サスペンション
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える稼動体の異常検出方法及び異常検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、列車等の移動体や、電線の撚り合わせ、押し出し、圧延など原材料に対して種々の加工を行う製造装置を総称して稼動体と呼ぶ。稼動体は、長期間連続稼動に耐えられるように設計されるのが望ましい。しかし、長期間連続稼動された場合や、外乱によって稼動体各部を構成している部材に劣化が生じた場合、稼動体が稼動しなくなったり、所定の動作を行わなくなったり、安全上の問題が生じたり、製造するものに不良が発生するなど、不具合が生じる。稼動体に不具合が生じる前に、稼動体の異常を検出して警報を出力したり、稼動体の一部あるいは全部を停止させたりすることが望ましい。
【0003】
稼動体の異常検出を行うとき、稼動体から何らかの監視信号を取り出すことになる。しかし、稼動体は、様々な稼動状態を経て稼動している。これら稼動状態に依存して上記監視信号が変動することが多い。したがって、監視信号から稼動状態に依存した変動の影響を排除し、その監視信号に基づいて異常検出を行うことで、異常検出の検出精度を高める必要がある。
【0004】
このように稼動状態による変動の影響を排除するために、監視信号のレベルや振幅に基づいて異常検出を行うのではなく、正常時、異常時、監視時データの標本平均と標本分散を利用する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、稼動体の特徴を利用して異常検出の検出精度を高めるものである。
【0005】
また、稼動体が回転体である場合に、適応デジタルフィルタを用いて回転に同期した信号を抽出して稼動体の異常検出を行う方法が提案されている(特許文献2)。この方法は、稼動体の動作特性を利用して異常検出の検出精度を高めるものである。
【0006】
また、異常検出処理を行うのに適したタイミングを把握するために、GPS情報を受信して高速道路を走行中かどうかの判断を行い、高速道路を走行中であれば、異常検出処理を行う方法が提案されている(特許文献3)。この方法は、適切な時期に異常検出を行うことで、異常の見逃し抑制を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−280603号公報
【特許文献2】特開2005−335664号公報
【特許文献3】特開2001−342889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
異常発生からより早いタイミングで警報出力を行いたいというニーズが高い。そのためには、異常検出の精度をよりいっそう改善することが望まれると共に、異常見逃しの抑制が望まれる。
【0009】
本発明者は、連続稼動している稼動体の異常の程度及び監視信号が外部からの影響によっても変わることに着目し、外部からの影響を極力排除して異常検出を行うことにより、異常検出の精度をよりいっそう向上させることができる異常検出方法を新たに発明するものである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える稼動体の異常検出方法及び異常検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の稼動体の異常検出方法は、稼動体のデータを継続して収集し、上記稼動体のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出するものである。
【0012】
物理量センサの出力信号と上記稼動体が制御される制御信号の両方又はいずれか一方を上記データとして収集してもよい。
【0013】
複数種類のイベントを検出し、同種の2つのイベントの検出タイミングで上記期間を区切ってもよい。
【0014】
上記データから上記イベントを検出してもよい。
【0015】
複数種類のデータを収集し、そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、判定した状態種ごとに異常を検出してもよい。
【0016】
複数種類のデータを収集し、そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内にて、所定の状態種で部分期間を区切り、該部分期間に収集される上記データを対象データとして抽出して異常を検出してもよい。
【0017】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、上記制御信号のデータに対して同時又は所定時間遅れで上記出力信号のデータに所定の信号処理を行ってもよい。
【0018】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、上記制御信号のデータに基づいて上記出力信号のデータの予測を行い、その予測データを上記比較用データとしてもよい。
【0019】
上記対象データをデータ加工処理し、上記データ加工処理された対象データとあらかじめデータ加工処理された比較用データとを比較して異常を検出してもよい。
【0020】
上記対象データ中の周期性がある成分から該周期性と相関を有する異常を検出し、上記対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出してもよい。
【0021】
上記稼動体が回転部材と非回転部材とを含み、上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期する成分から上記回転部材の異常を検出し、上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期しない成分から上記非回転部材の異常を検出してもよい。
【0022】
上記稼動体が自動車であってもよい。
【0023】
また、本発明の稼動体の異常検出システムは、稼動体と、該稼動体のデータを継続して収集するデータ収集部と、上記稼動体のイベントを検出するイベント検出部と、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出する対象データ抽出部と、あらかじめ異常検出のための比較用データを記憶した比較用データベースと、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出する比較演算部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0025】
(1)外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す異常検出方法を適用した稼動体(自動車)の概略構成図である。
【図2】本発明の異常検出方法を適用した稼動体(自動車)のステアリング機構及びタイヤ駆動機構の概略構成図である。
【図3】本発明の異常検出システムの電気回路図である。
【図4】図2のタイヤ駆動機構における路面高さの変化形状図及び上下加速度の時間波形図である。
【図5】図2のタイヤ駆動機構における右旋回時の左輪及び右輪の上下加速度の時間波形図である。
【図6】図2のタイヤ駆動機構における自動車の加速時の前輪及び後輪の上下加速度の時間波形図である。
【図7】(a)は図2のタイヤ駆動機構の回転部材異常時における加速度センサの出力信号電圧の時間波形図、(b)は図2のタイヤ駆動機構の非回転部材異常時における加速度センサの出力信号電圧の時間波形図である。
【図8】イベント検出から異常検出までの手順を示した図である。
【図9】(a)〜(c)は、状態種A(左旋回)の期間に行う異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図10】(a)〜(d)は、状態種P(始動直後)の期間に行うエンジン制御回路の異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図11】イベント検出から異常検出までの手順を示した図である。
【図12】(a)〜(f)は、タイヤ部の異常検出処理を説明するための各種信号の時間波形図である。
【図13】(a)〜(d)は、制御信号、電磁雑音、センサ出力信号、フィルタ出力信号の時間波形図である。
【図14】対象データの周波数成分分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0028】
図1に示されるように、本発明に係る稼動体1の異常検出方法は、稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出するものである。
【0029】
データとは、異常検出やイベント検出や後述する状態判定に利用できるあらゆる監視信号のことであり、物理量センサが検出する物理量の出力信号、稼動体が運転操作などによって制御されるときの制御信号などが含まれる。
【0030】
ここで、稼動体1が自動車である場合、データとしては、自動車全体に生じる又は一部分に生じる、速度、加速度、振動、音、角速度、部材の歪み、部材温度等がある。
【0031】
稼動体1が自動車である場合、イベントとしては、段差乗り越え、窪み通過等の路面形状に起因するデータ変化、急ハンドル、急加減速等の運転操作に起因するデータの変化、タイヤ脱着、定期点検等のメンテナンス作業に起因するデータの変化などがある。これらのイベントは、データから所定の演算により検出される(詳しくは、表1)。ハンドル操作に関連するイベント検出のためのデータには、ハンドルの回転角を検出する操舵角センサの出力を用いてもよい。
【0032】
【表1】
【0033】
稼動体1が自動車である場合、稼動体1の状態の種類としては、旋回、加減速等の運転状態、高速走行、低速走行等の走行状態、雨天、高気温等の気象状態などがある。本発明では、これら各種類の状態について、稼動体1の状態を1種類以上のデータに基づいて状態を判定して複数の状態種に判定するようになっている(詳しくは、表2)。旋回に関する状態判定のためのデータには、操舵角センサの出力を用いてもよい。
【0034】
【表2】
【0035】
データは加工処理してからイベント検出、状態判定、異常検出に供してもよい。データ加工処理としては、該当期間(イベントとイベントとの間、稼動体が所定の状態種である部分期間等)に収集されたデータに対して、平均値、分散値等を求める統計処理、振幅、周波数等を求める波形処理、タイヤ回転との同期処理(自動車の場合)、フィルタリング等の選別処理、制御信号に現れる操作量(ハンドル操作量、ブレーキ操作量など)に対して予想される運動に基づく予想データと実際の運動から得られたデータとの差分処理、パワーステアリング制御、ABS制御、トルク配分制御における制御信号に対する信号伝達タイミングと同期するタイミングで行う所定周波数成分除去処理などがある。
【0036】
比較用データは、例えば、正常時のデータ、あるいは異常時のデータであり、稼動体1の設計条件やあらかじめ行った試験稼動の結果から作成することができる。
【0037】
図1に示されるように、自動車1は、車体2と、車体2を地上に支持すると共に車体2に軸受けされ回転して車体2を移動させるタイヤ(車輪)3と、タイヤ3の向きを変えるためのステアリング操作を行うハンドル(ステアリングホイール)4と、タイヤ3を回転させる駆動機となるエンジン5と、車体2に生じる加速度又は車体2の一部である部材に生じる加速度を検知するために車内適宜箇所に配置された複数の加速度センサ6と、本発明の異常検出方法をコンピュータ処理により実施するデータ処理部7とを備える。
【0038】
図2に示されるように、ハンドル4から前輪タイヤ3fl,3frまでのステアリング機構8は、ハンドル4により回転されるギア9と、ギア9により移動され中間部にジョイント17を有するステアリングシャフト10と、ステアリングシャフト10により回動されるナックル11とを備える。
【0039】
前輪部及び後輪部において、ナックル11はハブ12に設けられる。ナックル11はサスペンション13の下部を支持し、サスペンション13の上部は車体2を重力方向に緩衝支持している。各ハブ12の外周にタイヤ3fl,3fr,3rl,3rrが取り付けられる。
【0040】
タイヤ駆動の機構は、エンジン(駆動機)5により回転されるギア14と、ギア14の回転を伝える左右のジョイント15と、ジョイント15により回転される車軸16とを備え、車軸16によりハブ12が回転される。
【0041】
本実施形態では、データ処理部7に対してデータとなる監視信号を出力する物理量センサとして、左前輪部のナックル11に取り付けられた左前輪加速度センサ6flと、右前輪部のナックル11に取り付けられた右前輪加速度センサ6frと、左後輪部のナックル11に取り付けられた左後輪加速度センサ6rlと、右後輪部のナックル11に取り付けられた右後輪加速度センサ6rrとを備えるものとする。これらの加速度センサ6は、各ナックル11に生じる1軸以上の加速度を検出するようになっている。
【0042】
図3に示されるように、左前輪加速度センサ6fl、右前輪加速度センサ6fr、左後輪加速度センサ6rl、右後輪加速度センサ6rrの出力信号は、それぞれデータ処理部7に入力されている。データ処理部7内には、本発明に係る異常検出システムのデータ収集部とイベント検出部と対象データ抽出部と比較用データベースと比較演算部(いずれも図示せず)が設けられている。また、自動車の各部(図示されないものも含む)を制御している複数の制御ユニット(Engine Control Unit)ECU1,ECU2,…の出力信号がデータ処理部7に入力されている。したがって、データ処理部7は、自動車の各部の制御データをデータ処理部7のデータとして利用することができる。
【0043】
以下、稼動体1が自動車である場合について、異常検出の概要を説明する。
【0044】
タイヤ3の回転とともに回転するハブ12は、ベアリングを介して非回転部材であるナックル11に取り付けられている。前後左右4箇所のナックル11にそれぞれ加速度センサ6が取り付けられている。加速度センサ6の感度軸は、自動車が水平に静止しているときを基準として、垂直軸方向(以下、上下方向と言う)の感度軸を含む。
【0045】
各加速度センサ6の出力信号の他に、自動車の速度、エンジン5が起動されているかどうかを示す情報、冷却水温度、エンジン室雰囲気温度、タイヤ周辺の雰囲気温度、タイヤ回転数が、制御ユニットECU1,ECU2,…を介してデータ処理部7に入力されている。
【0046】
検出しようとする異常として、ハブ12等の部材のひび割れ、部材同士を締結するボルト類の緩み、ベアリングの割れや欠け、タイヤ3の空気圧、トレッド(タイヤの路面接地部)の剥離などがある。
【0047】
自動車が走行すると、路面の凹凸や速度変化やハンドル操作により、加速度センサを設置した部材に上下動が生じるので、加速度センサの出力信号が変化する。この加速度センサ出力信号の変化のうちわけ(要因)を外部要因、運転状態、自動車の運動と関連付けると次のようになる。
【0048】
自動車が直進時に路面の凹凸があると、タイヤが凹凸を通過することに応じてナックル11が上下するので、ナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図4のように変化する。すなわち、路面が平坦地(高さ0)から長い距離をかけて緩やかに丸く膨らみ、続いて緩やかに丸く凹んでいる場合に、ナックル11に生じる路面に垂直な方向の加速度は、0から緩やかに正に増加した後、減少して負に転じ、負の最大値のあと絶対値が減少して正に転じ、0に戻る(正は上向き加速度、負は下向き加速度を示す;以下同)。また、路面に短い距離の矩形状の凸部があるとき、ナックル11に生じる路面に垂直な方向の加速度は、急激に正の大きな値となった後、急速に減少して負の大きな値となり、短時間で0に戻る。なお、図4のグラフにおいて車速は一定とする。
【0049】
ハンドル操作により自動車が右に曲がると、車体2の左側が沈む。このため、左右のナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図5のように変化する。すなわち、左輪においては、加速度は、0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。これとは逆に、右輪においては、加速度は0から徐々に正に大きくなり、正の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。
【0050】
自動車の加速時は、車体2の後部が下がる。このため、前後のナックル11に取り付けられた加速度センサ6の出力信号が図6のように変化する。すなわち、前輪においては、加速度は、0から徐々に正に大きくなり、正の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。これとは逆に、後輪においては、加速度は0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。
【0051】
タイヤ回転の偏り、タイヤ3をハブ12に固定する部分の緩み、ハブ12の疲労によるひび発生、ベアリング(図示せず)の異常等の回転部材に何らかの異常があると、回転部材の回転に同期して加速度センサ6が取り付けられたナックル11が上下運動するので、加速度センサ6の出力信号が図7(a)のように変化する。すなわち、路面が平坦であって、本来の路面による上下加速度が0で一定としたとき、加速度センサ6の出力信号は、回転部材の回転周期と同じ周期で上下の加速度に相当する電圧が繰り返し現れる。
【0052】
ベアリングのナックル11への取付部、ナックル11、ナックル11と車体2を連結するサスペンション13等の非回転部材に何らかの異常があると、タイヤ3等の回転部材の回転に同期する信号成分もあるが、回転部材の回転には非同期な信号成分が顕著となる。例えば、路面形状や運転状態と関連してナックル11が上下動するため、加速度センサ6の出力信号が図7(b)のように変化する。すなわち、電圧は、長時間で大きく見ると、例えば、0から徐々に負に大きくなり、負の最大値のあと絶対値が減少して0に戻る。その間、回転部材の回転周期と同じ周期で上下の加速度に相当する電圧が繰り返し現れる。
【0053】
なお、非回転部材が正常であっても、旋回や加速等の運転状態において加速度センサ6の出力信号が図5、図6に示したように変化する。このような出力信号変化と、図7(b)における出力信号の長時間の変化とは類似する。しかし、非回転部材に異常があるときには、振幅が大きくなったり、波形形状が異なったりする。左右の前輪と左右の後輪の計4箇所に配置した加速度センサ6の出力信号の相対変化は、非回転部材が正常な場合と異常な場合とで異なってくる。本発明では、例えば、左輪側の加速度センサ6の出力信号をGl(t)(tは時間)とし右輪側の加速度センサ6の出力信号をGr(t)としたとき、
左右比関数F(t)=Gl(t)/Gr(t)
を求める。非回転部材が正常な場合、左右比関数F(t)の値が一定範囲内(例えば、
|F(t)|<F0
)に入るが、例えば、左輪に異常が生じて左輪における加速度センサ6の出力信号の変化が大きくなると、F(t)の非周期成分が一定範囲を外れる。よって、後に詳しく述べるイベント検出、状態判定を利用して、イベントで区切られる所定期間や状態種で区切られる部分期間内における上記4箇所の加速度センサ6の出力信号の相対変化を調べると、異常を検出することができる。
【0054】
回転部材、非回転部材を問わず、これらの部材の異常を早期発見することが望まれる。しかし、加速度センサ6の出力信号は、異常発生によっても変化するが、異常のない場合でも路面形状や運転状態により変化する。このため、加速度センサ6の出力信号を監視信号とし、この監視信号から異常の有無を精度よく判断することは難しい。
【0055】
監視信号の特徴を利用したり、運転状態ごとに適切な異常検出方法を選択したり、回転部材の動作特性を利用したりするなど、異常検出方法に工夫をすることで、異常検出の精度向上が期待できるが、従来技術では十分でない。
【0056】
本発明者は、自動車運転上に問題となる自動車の異常は、路面形状に起因して何らかのイベントが発生したときや、運転状態が所定の条件を満足したというイベントが発生したときに発生、進展(悪化)、顕在化すると考えた。この考えに基づき本発明に至った。
【0057】
異常検出に使用するデータは、瞬時データでもよいが、本実施形態では、時間的に継続するデータとする。その時間的に継続するデータについて、ある期間を区切り、その期間内に所定短時間間隔でサンプリングを行って時系列データを作成する。このような時系列データをそのまま対象データとして抽出してもよい。上記時系列データを使用して、平均値、分散値、振幅値、最大値、最小値等の統計値を演算する統計的処理を行い、得られた統計値を対象データとして抽出してもよい。
【0058】
あらかじめ設定された正常データあるいは異常データを比較用データとし、対象データと比較用データを比較することで異常を検出することになる。
【0059】
時系列データのサンプリング開始から終了までの期間を区切るタイミングとしてイベント発生時刻を使用するとよい。
【0060】
このように、イベントで区切った期間のデータを対象データとして抽出することで、異常検出に使用するデータをある特定の路面形状、運転操作、メンテナンス作業に相関したデータに絞り込むことができる。また、対象データは、異常の発生、進展に影響するイベントで区切って抽出されるため、別々の時間に得られた同じイベントによる複数の対象データは、同じ異常に対応する。このように、イベントに応じて対象データを抽出することにより、異常検出の精度が向上する。また、イベントが表している路面形状、運転操作、メンテナンス作業による異常の発生、進展が捕らえやすくなる。
【0061】
複数種類のイベントのうち、対象データを抽出する期間を区切るイベントを同じ種類のイベントに限定することも有効である。このようにすることで、同じ種類の異常に対する対象データの量が増える。異常の種類によっては、ある種類のイベントによってその異常が発生や進展することがある。対象データを抽出する期間を区切るイベントを同じ種類のイベントに限定すると、同じ異常の程度に対する対象データの量を増やして、異常検出の精度を向上させることができる。
【0062】
例えば、稼動体1が自動車であって4箇所の加速度センサ6の出力信号をデータとして収集するものとし、急ハンドル操作と急停止の2種類のイベント(表1の#2,#3)が次の順番で連続して発生した場合を考える。日時ET1に急停止、日時ET2に急ハンドル操作、日時ET3に急停止、日時ET4に急ハンドル操作、日時ET5に急停止が発生し、減速の運転状態(表2の$05;記号E)が期間ET1〜ET2の間に1回、期間ET2〜ET3の間に1回、期間ET3〜ET4の間に1回、期間ET4〜ET5の間に1回判定されたとする。また、減速の運転状態に対する異常検出処理を、『左前輪加速度センサ6flと左後輪加速度センサ6rlの出力信号の差分Gdifの最大値が閾値Gth5を越えた場合、異常とする』という処理とし、異常検出処理を行う期間が複数ある場合は、複数期間における出力信号の差分Gdifの平均値と閾値Gth5の大小比較を行い、平均値が閾値Gth5を越えた場合に異常とする、と仮定する。
【0063】
図8に示した手順にしたがって、全ての種類のイベントで区切られる期間内における減速の運転状態が判定されている部分期間内で対象データを抽出すると、期間ET1〜ET2の間に1回、期間ET2〜ET3の間に1回、期間ET3〜ET4の間に1回、期間ET4〜ET5の間に1回の各部分期間において対象データが抽出される。
【0064】
各期間での異常検出処理で計算される複数の対象データ間の差分がGdif12、Gdif23、Gdif34、Gdif45であったとする。最初の期間での異常検出処理では差分Gdif12と閾値Gth5との大小比較が行われ、次の期間での異常検出処理では差分Gdif23と閾値Gth5との大小比較が行われ、以下同様に、各期間での異常検出処理において差分Gdif34と閾値Gth5との大小比較、Gdif45と閾値Gth5との大小比較が行われる。
【0065】
一方、急停止のイベントのみにより区切られた期間において対象データを抽出した場合、期間ET1〜ET3の間に2回の部分期間が、期間ET3〜ET5の間に2回の部分期間が状態判定によって区切られる。このとき、最初の異常検出処理では差分Gdif12と差分Gdif23の平均値と閾値Gth5との大小比較が行われ、次の期間での異常検出処理では差分Gdif34と差分Gdif45の平均値と閾値Gth5との大小比較が行われる。
【0066】
以上のように、急停止のイベントのみにより区切られた期間において対象データを抽出した場合、1回の期間の異常検出処理において2回の部分期間に抽出した複数の対象データの差分の平均値が閾値との比較に使用される。これにより、2種類のイベントで区切られた期間において対象データを抽出した場合に比べて、異常検出の精度を高くすることができる。
【0067】
イベントの検出に、異常検出に使用するデータを用いると、異常とイベントとの関連性を増すことができ、異常検出の精度が向上する。例えば、稼動体1が自動車である場合に、段差乗り越えや窪み通過時には、ナックル11に上下方向に大きな加速度が発生し、ハンドル操作や加減速時には車体2の左右や前後の傾きが発生して各輪のナックル11に生じる加速度のバランスが変化する。このような加速度変化が生じると関連部材において機械的負荷が大きくなり、ハブ12やベアリングの劣化のきっかけとなったり、劣化が進行する可能性がある。このように異常の発生・進展と関連するデータをイベント検出に使用すると、イベントと異常との関連性が増し、異常検出の精度が向上する。
【0068】
メンテナンス時にセンサ(例えば加速度センサ6)及びデータ処理部7の電源がオンであれば、タイヤ脱着等に起因する加速度変化をイベント検出に利用することができる。メンテナンス時には、エンジン5を停止することが多く、一般的にはセンサの電源も遮断される。この場合は、エンジン5の停止・始動を行う操作による制御信号をイベント検出に用いると、メンテナンス作業が行われるときにイベントを検出することができる。エンジン5の停止・始動はメンテナンス時以外にも頻繁に発生するが、エンジン5の停止・始動を行う操作による制御信号をイベント検出に用いると、メンテナンス時の他に、エンジン5の始動直後に特異的に現れる異常に起因する信号を対象データ中に捕らえることができる。エンジン5の始動直後に特異的に現れる信号には、部材が比較的低温であるときに発生する信号、部材間の温度差が小さいときに発生する信号、始動時のサージ電圧による電子回路の故障(異常)により発生する信号がある。
【0069】
本発明では、異常検出処理を行う期間(=対象データを抽出する期間)をイベントで区切る。その期間内で、所定の操作を行っている部分期間、所定の運転状態となっている部分期間など、状態の細目を表す状態種で対象データを部分期間に区切り、この部分期間内の対象データを用いて異常検出処理を行うとよい。このようにすると、異常に起因する信号のうち、所定の操作や所定の運転状態において顕著に現れる信号を精度よく検出することができる。
【0070】
以下、データ処理部7の動作を説明する。
【0071】
図8に示されるように、連続するイベント間のデータを対象データにする場合は、稼動体1の稼働中に、データ処理部7は次のように動作する。
【0072】
データ処理部7は、データ収集部において、稼動体1のデータを継続して収集し、イベント検出部において稼動体1のイベントを検出する。データは、物理量センサが検出する物理量の出力信号、稼動体1が制御される制御信号などである。イベントは、継続して収集しているデータから検出してもよい。イベントは繰り返して検出される。
【0073】
データ処理部7は、あるイベントが検出されたとき(イベント検出タイミングT1)、そのデータまたは収集している他の種類のデータに基づいて稼動体1の状態を複数のあらかじめ決められている複数の状態種に判定する(状態判定タイミングT2)。
【0074】
これ以降のデータ処理部7の動作は表3の例で説明する。表3は、図8に示す手順で処理を行った結果をまとめたものである。なお、表3には、異常検出結果については記載していない。図8の手順にしたがい、イベント検出→状態判定→対象データの抽出→異常検出→イベント検出→…の処理を繰り返す。
【0075】
【表3】
【0076】
初めのイベント検出を行った結果、イベントe1を検出した。その後、状態判定を行い、開始日時t0(11)より終了日時t1(11)までで定義される部分期間t0(11)〜t1(11)の間は状態種P(始動直後)と判定した。次に、今回のイベント(この場合、イベントe1)検出から今回の状態判定までの間に同じ種類の状態判定をしたことがあるかどうかの判定を行った。この場合、今回のイベント発生直後に状態判定したので、該当する状態判定の記録は無しとなった。そこで、対象データを今回の状態判定による部分期間t0(11)〜t1(11)に抽出した対象データのみとして、異常検出処理を行った。
【0077】
ここで、状態種A(左旋回)は、図9に示されるように、図9(a)の左輪上向加速度GLと図9(b)の右輪上向加速度GRの比GL/GRが図9(c)のしきい値Gth1より大きいことで判定される。
【0078】
部分期間t0(16)〜t1(16)の間は状態種Aと判定したが、今回検出したイベントe1から今回の状態判定までの間に、今回判定した状態種Aと同じ状態種Aが部分期間t0(14)〜t1(14)にも検出されていた。そこで、対象データとしては、部分期間t0(16)〜t1(16)に加えて、部分期間t0(14)〜t1(14)に収集したデータも対象データとした。これらの部分期間の対象データについて異常検出処理を行った。異常検出の条件として、種々の条件が考えられるが、例えば、区切られた部分期間内の加速度センサ6の出力信号のピーク値が比較用データGth1より大きいかどうかで異常検出を行うものとし、部分期間t0(14)〜t1(14)での最大値がG14、部分期間t0(16)〜t1(16)での最大値がG16であったとした場合、例えば最大値G14と最大値G16の平均値を用いるなどの処理を行うことで、異常検出に使用する対象データに乗る誤差の影響を低減することができる。
【0079】
イベントe2での状態種Aの判定を行った部分期間t0(23)〜t1(23)での対象データの抽出方法について説明する。状態種Aと判定した部分期間は、今回の状態種Aの判定よりも前にある。しかし、図8にしたがって判定を行うと今回検出したイベントはe2になり、イベントe2検出より後には状態種Aの判定を行っていない。したがって、対象データは今回の状態種Aの判定を行った部分期間t0(23)〜t1(23)のみとなる。
【0080】
データ処理部7では、比較用データベースに、あらかじめ異常検出のための比較用データが記憶されている。データ処理部7では、比較演算部が対象データと比較用データとを比較し、対象データと比較用データとの差が閾値以上あるいは閾値以下であれば、稼動体1に異常があると判断する(異常検出結果出力タイミングT3)。
【0081】
一例として、状態種P(始動直後)について図10により説明する。状態種P(始動直後)では、始動時のサージ電圧による電子回路の故障等が発生する可能性がある。例えば、エンジンを制御している電子回路が故障してアクセルを踏んだときの加速が正常時より遅くなる故障(異常)を検出する場合、アクセルの開度センサ出力に対する前後方向加速度の大きさが正常のときより小さいことで異常が検出できる。異常検出処理の例を次に示す。図10(a)のアクセル開度センサ出力A0(t)とそのときの図10(b)の前方向加速度Gx(t)から演算される図10(c)の、
加速度開度比関数Faog(t)=Gx(t)/A0(t)
の大きさと、正常時における前方向加速度とアクセル開度の比Faog0(t)との比較を図10(d)のように比率で行い、しきい値を設け、例えば20%以上小さいときに異常として検出する。ここで、アクセル開度が所定値A01を越えた時点の時刻を0として、例えば時刻0秒から10秒後までの比較を行う。
【0082】
次に、図8の初めに戻り、イベントの検出を行ったが検出されなかったので、そのまま状態判定処理を行った。状態判定処理を行った結果、部分期間t0(12)〜t1(12)の間は、状態種BG(右旋回と急減速が同時の操作状態・運転状態)と判定した。次に、今回のイベント(この場合、イベントe1)検出から今回の状態判定までの間に同じ種類の状態判定結果があるかどうかの判定を行った。状態種Bと状態種Gが同時の操作状態・運転状態であるので、同じ種類の状態としては状態種B、状態種G及び状態種BGを判定するものとした。
【0083】
今回のイベントe1から今回の状態判定までの間には、判定するものとした操作状態・運転状態が発生しなかったので、対象データは、今回の状態判定を行った部分期間t0(12)〜t1(12)のみを抽出した。同様の処理を繰り返したが、部分期間t0(13)〜t1(13)の間は、該当する状態種がなかったため、対象データを抽出しなかった。このような処理を繰り返し行った。
【0084】
次に、データ処理部7の別の動作を説明する。
【0085】
図11について説明する。複数種類のイベントのうち、同じ種類のイベントで対象データを抽出する期間を区切る場合の例を表4に示す。表4は、図11に示す手順で処理を行った結果をまとめたものである。
【0086】
【表4】
【0087】
図11の手順にしたがい、イベント検出→状態判定→対象データの抽出→異常検出→イベント検出→…の処理を繰り返す。図8の手順とは、対象データ抽出の部分が異なる。表4のイベント検出e4までは、同じ種類のイベントが発生していないので、図8の手順で行った場合との違いはない。イベントe4でエンジン停止の後の始動を検出しているが、イベントe1でもエンジン始動を検出しているため、対象データの抽出開始日時は、イベントe1の開始日時t0(11)とする。したがって、期間t0(41)〜t1(41)の間の状態種Pの異常検出処理を行う際の対象データ抽出期間は、期間t0(11)〜t1(41)となる。この期間内において、状態種Pは部分期間t0(11)〜t1(11)と部分期間t0(41)〜t1(41)の2回判定されている。
【0088】
例えば、エンジンを制御している電子回路が故障してアクセルを踏んだときの加速が正常時より遅くなる故障(異常)を検出する場合、アクセルの開度センサ出力A0(t)とそのときの前方向加速度Gx(t)から演算される、
加速度開度比関数Faog(t)=Gx(t)/A0(t)
の大きさと、正常時における前方向加速度とアクセル開度の比Faog0(t)との比較を行い、例えば20%以上小さいときに異常として検出する。ここで、アクセル開度が所定値A01を越えた時点の時刻を0として、例えば時刻0秒から10秒後までの比較を行う。今回抽出した対象データは2組あるため、2組の対象データそれぞれについて、前記手順で加速度開度比関数Faog(t)を計算し(計算結果はFaog1(t)、Faog2(t)とする)、計算結果であるFaog1(t)とFaog2(t)の平均を加速度開度比関数Faog(t)とする。加速度開度比関数Faog(t)と正常時における比Faog0(t)との比較を行い、例えば正常時より20%以上小さいときに異常として検出する。今回抽出した対象データについての異常検出処理では、2組の対象データからえられたFaog1(t)とFaog2(t)の平均を取って加速度開度比関数Faog(t)として異常検出を行ったので、1組の対象データのみを用いた場合より、異常検出精度を向上させることができる。
【0089】
図3の異常検出システムにおいては、データ処理部7は、4個の加速度センサ6の出力信号をデータとして収集し、いくつかの制御ユニットECU1,ECU2,…からの速度、温度等の出力信号をデータとして収集し、これら複数種類のデータを用い、あらかじめ設定しておいたイベント検出条件を参照してイベントを検出する。すなわち、表1に示されるように、データ処理部7内には、イベントの種類ごとに、検出条件が設定されている。各イベントには、当該イベントと相関を有する路面形状あるいは運転状態が存在する。
【0090】
例えば、イベント#1では、いずれか1つ以上の加速度センサ6の出力信号によるデータをデータ加工処理して振幅を求め、その振幅とあらかじめ定めたしきい値とを比較し、振幅がしきい値より大きくなった瞬間、あるいは振幅がしきい値より小さくなった瞬間をイベント#1の検出時点とする。イベント#1は、段差乗り越えや窪み通過によってナックル11に上向きあるいは下向きの加速度が生じたことに大きな相関を有する。
【0091】
また、イベント#4では、いずれか1つ以上の加速度センサ6の出力信号によるデータをデータ加工処理して周波数特性を求め、その周波数特性とあらかじめ定めた周波数特性との類似度を求め、類似度がしきい値より大きくなった瞬間、あるいは類似度がしきい値より小さくなった瞬間をイベント#4の検出時点とする。イベント#4は、タイヤ脱着や定期点検が行われたことに大きな相関を有する。
【0092】
タイヤ着脱を行う場合、タイヤを固定しているボルトを外す操作開始時や点検で工具を使用した際に急激に大きい力を加える必要があるため、加速度センサ6の出力信号の高周波成分が増える。そこで、周波数のしきい値Fthよりも低い周波数成分の積分値GLowとしきい値Fthよりも高い周波数成分の積分値GHighとの比RHLを計算し、比RHLがあらかじめ定めたしきい値RHL0より大きいときを、イベント#4の検出時点としてもよい。
【0093】
このように、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号や制御ユニットECU1,ECU2等からの出力信号を基に、イベントの発生とイベントの種類を検出するようになっている。
【0094】
さらに、データ処理部7は、上記複数種類のデータを用い、あらかじめ設定しておいた判定条件を参照して状態種を判定する。すなわち、表2に示されるように、データ処理部7内には、状態種ごとに判定条件が設定されている。各状態種は、自動車の操作状態、運転状態を判定したもので、データ処理部7内では識別用の記号が与えられる。
【0095】
例えば、状態種$01では、左輪の上向加速度センサの出力信号と右輪の上向加速度センサの出力信号との比を求め、その比としきい値とを比較し、比がしきい値より大きい場合に、自動車の状態を状態種$01に判定する。状態種$01は、自動車が左旋回操作されたという操作状態及び自動車が左旋回したという運転状態と大きな相関を有する。状態種$01を識別する記号はAとする。
【0096】
同様に、状態種$02では、左輪の上向加速度センサの出力信号と右輪の上向加速度センサの出力信号との比を求め、その比としきい値とを比較し、比がしきい値より小さい場合に、自動車の状態を状態種$02に判定する。状態種$02は、自動車が右旋回操作されたという操作状態及び自動車が右旋回したという運転状態と大きな相関を有する(図5参照)。状態種$02を識別する記号はBとする。
【0097】
このように、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号や制御ユニットECU1,ECU2等から出力信号を基に、自動車の状態を複数の状態種に判定するようになっている。
【0098】
次に、データ処理部7は、イベントが検出された後、判定した状態種ごとに、対象データと比較用データとを比較して異常検出を行う。すなわち、表3に示されるように、データ処理部7は、イベントの種類に応じ、かつ状態種ごとに、開始日時から終了日時までのデータを対象データとして抽出する。
【0099】
表3に示した状態種の記号は、表2で定義されたものである。複数の状態種が同時に成立しているときは、それぞれの状態種の記号を連記してある。例えば、記号AE(表3にはなし)は左旋回(記号A)と減速(記号E)の状態種が同時に成立していることであり、これは自動車が左旋回しながら減速している運転状態であることに大きな相関を有する。複数の状態種が同時に3つ以上、4つ以上成立するときは、それに応じて状態種の記号を連記することになる。
【0100】
データ処理部7は、上記抽出した対象データをデータ加工処理(ここでは統計的処理や周波数領域の処理を行うものとする)により、平均値、分散値、振幅値、最大値、最小値等の統計値を演算する。比較用データついては、あらかじめ統計的処理を施しておくことで、演算時間を短縮することができる。また、統計的処理後の比較用データのみを記憶するのであれば、記憶するデータ量を削減して記憶領域を節約することができる。
【0101】
データ処理部7は、上記抽出した対象データ又は上記データ加工処理した対象データを比較用データと比較演算して異常を検出する。具体的な比較演算としては、既に述べたように、2種類の対象データから演算される関数値と正常時の関数値との比を求め、比の値が所定%を超えるとき(あるいは満たさないとき)、異常が検出されたものとする。
【0102】
ここで、具体的な例として、タイヤ部の異常を検出する場合を図12により説明する。ナックル11に取り付けた上向加速度センサの出力信号と、タイヤ3の1回転に対して1周期の論理反転信号を出力するタイヤ回転センサの出力信号とを監視信号とし、これら監視信号のデータを収集する。図示しないイベント検出と状態判定に基づき所定の期間、対象データを抽出する。図12(a)に示した上向加速度センサの出力信号と図12(b)に示したタイヤ回転センサの出力信号が抽出される。上向加速度センサの出力信号の周波数とタイヤ回転センサの出力信号の周波数(1/T)とを各々周波数分析するデータ加工処理により、図12(c)、図12(d)に示した周波数の時間変化Gf,Vfを得る。タイヤ回転センサの出力信号の1周期ごとに、該1周期の中における上向加速度センサの出力信号の振幅最大値を抽出すると、図12(e)の○で示した複数の振幅最大値が得られる。周波数の時間変化Gf,Vfの比Gf/Vfを類似度として求めると、図12(f)のようになる。
【0103】
各振幅最大値がしきい値Athを越え、かつ、周波数の時間変化Gf,Vfの比Gf/Vfが所定の類似度範囲、例えば、1±0.1の範囲に入った場合、タイヤ3の1回転ごとに所定以上の上向加速度が発生しており、かつ、上向加速度とタイヤ回転の周波数特性が類似していることになる。このとき、タイヤ3の回転に同期した異常が発生したことを検出する。
【0104】
周波数の時間変化Gf,Vfの比が1に近いことは、上向加速度の変化がタイヤ3の回転に同期していることを示す。また、タイヤ回転センサの出力信号の1周期中における上向加速度センサの出力信号の振幅最大値がしきい値Athを越えるか否かは異常の有無と相関がある。タイヤ3の回転に同期した異常としては、タイヤ回転の偏り、タイヤ3をハブ12に固定する部分の緩み、ハブ12の疲労によるひび発生、ベアリングの異常等が考えられる。これらのうちどの異常が発生したかの特定についてはここでは説明しないが、回転に同期した監視信号が得られる異常が発生したことが検出されることにより、その後の異常の特定につながる。
【0105】
異常検出は各状態種ごとに行うとよい。さらに、状態種ごとの検出結果を中間検出結果とし、複数の中間検出結果を組み合わせることで、複数の状態種の組み合わせにおける検出結果としてもよい。これにより、より詳細な検出を行うことができる。
【0106】
例えば、タイヤ3の回転に同期した異常が状態種C(左急旋回)で検出されたが、同じ異常が状態種A(左旋回)では検出されなかったとする。この場合、異常の程度が比較的軽いと判断できる。しかし、状態種Cと状態種Aのどちらでも上記異常が検出された場合は、異常の程度が重いと判断できる。このように、状態種ごとの中間検出結果を組み合わせて最終検出を行うことで、詳細な検出を行うことができる。これにより、異常の程度の軽重により警告のレベルを変えるなどの運用が行える。
【0107】
また、状態種ごとの異常検出は、1種類の状態種における異常検出でもよいし、複数種類の状態種を組み合わせた状態種における異常検出でもよいし、これらの異常検出を重複して行ってもよい。例えば、記号Aの状態種における異常検出と、記号AIの状態種における異常検出とをそれぞれ行う。表2に示されるように、記号Aの状態種は左旋回に関係しており、記号Iの状態種はスリップに関係している。重複して異常検出を行うことにより、より詳細な検出を行うことができる。
【0108】
例えば、状態種A(左旋回)のときにタイヤ3の回転に同期した監視信号が得られる異常が検出されたが状態種AI(左旋回&スリップ)のときには上記異常を検出しなかった場合は、状態種AIのときにも上記異常を検出した場合と比べて、異常の程度が軽い可能性がある。タイヤ3がスリップすることにより、タイヤ3にかかる負荷が解放されるために監視信号に異常が現れないためである。このように、複数種類の状態種において同種の異常を重複して検出することにより、詳細な検出を行うことができる。
【0109】
以上説明したように、本発明の異常検出方法によれば、稼動体1のデータを継続して収集し、稼動体1のイベントを検出し、上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて稼動体1の異常を検出するようにしたので、外部からの影響によって異常程度の進展や監視信号が変化する場合でも、異常程度の進展を的確に捉えることができ、外部からの影響を排除して異常検出を精度よく行える。
【0110】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
【0111】
稼動体1が自動車である場合に、監視信号(例えば、加速度センサ6の出力信号)をタイヤ3の回転に同期する信号と非同期の信号とに分離することも考えられる。タイヤ3の回転速度は、例えば、ABS(アンチロックブレーキシステム)用に各タイヤ3に設置してあるタイヤ回転センサの出力パルスから検出することができる。また、タイヤ3の回転速度は、タイヤ回転センサ出力パルスをタイヤ3の1回転分カウントすることで検出できる。なお、タイヤ3の1回転に対するタイヤ回転センサ出力パルス数はタイヤ回転センサの設計で決まる。検出したタイヤ3の回転速度(タイヤ回転センサ出力パルス)を基に、監視信号からタイヤ3の回転に同期する信号と非同期の信号とを分離するとよい。この考えに基づき、データ処理部7は、加速度センサ6の出力信号から得られた対象データをタイヤの同期信号のデータと非同期信号のデータとに分離する。
【0112】
タイヤ3の回転と同期する信号からは、ハブ12、ハブ12を保持するベアリング、車軸16、ギア14、ハブ12にタイヤ3を取り付けるホイール(図示せず)、ホイールにタイヤ3を取り付けるナット(ボルト)について異常を検出することができる。例えば、ボルトの緩み、タイヤ接地面の異常を検出することができる。タイヤ3の回転と非同期の信号からは、ナックル11、サスペンション13、ジョイント15、タイヤ3について異常を検出することができる。例えば、タイヤ3の空気圧異常を検出することができる。
【0113】
タイヤ3の空気圧が低下すると、路面の凹凸による上下動が加速度センサ6に伝わりにくくなる。前後左右4つのタイヤ3のうち、1つのタイヤ3の空気圧が低下すると、空気圧が低下したタイヤ3の近傍の加速度センサ6の出力信号の振幅が他のタイヤ3の近傍の加速度センサ6の出力信号の振幅より小さくなる。上下動は、タイヤ3の回転と同期するものよりも、路面の凹凸によるものが支配的であるため、タイヤ3の回転と非同期の信号として検出される。よって、前後左右4つの加速度センサ6の出力信号から得られた対象データからタイヤ3の回転と非同期のデータを分離し、分離した4つのデータの振幅を比較し、振幅が他のデータより所定値(所定比)以上小さいデータがあるときには、その加速度センサ6の近傍のタイヤ3の空気圧が異常であることを検出することができる。
【0114】
対象データを同期信号のデータと非同期信号のデータに分離する実施形態は、回転部材を備える稼動体1のみに限らず、往復運動する部材、振り子運動する部材、周期振動する部材等を備える稼動体にも適用できる。すなわち、対象データ中の周期性がある成分から周期性と相関を有する異常を検出し、対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出するとよい。
【0115】
稼動体1が自動車である場合に、操作量(ハンドル操作量、ブレーキ操作量)に対して自動車に生じる運動を予想することができる。この運動予測に基づいて加速度センサ6が設置されている部材に生じる加速度を予測することができる。予測された加速度と実際に測定された加速度との差分を演算し、差分が所定値範囲に収まらない場合に、異常と判断することができる。すなわち、データ処理部7は、制御信号に含まれている操作量から自動車に生じる運動を予想してその運動予測に基づいて加速度センサ6から得られるであろうデータを予測する。データ処理部7は、その予測データを比較用データとし、加速度センサ6の出力信号から得られた対象データを比較用データと比較する。
【0116】
稼動体1が自動車である場合の運動予測方法の一例を述べる。自動車の運動方程式は、
【0117】
【数1】
【0118】
で表すことができる。これらの方程式(式1)〜(式4)の変数のうち、質量m、慣性モーメントI、重心前車軸間距離lf、重心後車軸間距離lrは、設計値で定まる。走行速度V、舵角δ、ヨー角速度γ、横方向加速度Gyは、センサで検出する。以上の変数が分かれば、コーナリングパワーKf,Krを求めることができる。ハンドル操作量は舵角δに相当する。ブレーキ操作により走行速度Vが変化する。
【0119】
コーナリングパワーKf,Krは、自動車(タイヤ3)と路面の間に働く力に相当し、自動車が路面のみに拘束されて運動していると考えられるので、自動車の運動が把握できる。
【0120】
自動車の運動方程式から式4のように横すべり角βを求めることができるが、横すべり角β2は加速度と速度から
【0121】
【数2】
【0122】
のように式5から求めることができる。
【0123】
式5で求める横すべり角β2と式4で求める横すべり角βとの比較を行うことで、加速度センサ6の異常検出を行うことができる。
【0124】
稼動体1が自動車であって、電動パワーステアリング、ABS、各タイヤへの駆動トルク配分制御を行うものとし、電動パワーステアリング制御信号、ABS制御信号、駆動トルク配分制御信号を本発明の監視信号のデータとする場合、各制御信号における信号伝達のタイミングに起因して制御信号が監視信号のデータにとってノイズ源となる可能性がある。また、上記制御信号に制御されて電動機等の被制御機器が動作するとき、電磁ノイズが発生して監視信号のデータに重畳する可能性がある。
【0125】
これに対し、本発明では、制御信号の出力タイミングに対する電磁ノイズが発生するタイミングの遅延時間、及びノイズ源の周波数をあらかじめ測定してデータ処理部7に設定しておくことができる。制御信号と同期する監視信号について、制御信号が電圧変化したのと同時、あるいは制御信号が電圧変化してからモータ動作時定数等を考慮した所定の遅れ時間の経過後までの所定期間、ノイズ源の周波数成分を対象データから除外する。ノイズが重畳した期間以外の周波数成分には影響が及ばないようにする。ノイズ源の周波数成分が除外された対象データから異常を検出することにより、ノイズに起因する誤検出を防止することができる。
【0126】
図13(c)は、タイヤ付近に設置した加速度センサ6の出力信号(センサ出力信号103)に図13(a)のブレーキ制御信号101からの図13(b)の電磁雑音102が重畳した波形である。方形波インパルス状の制御信号101が出力された後、時間遅延して被制御機器から比較的高周波成分を含んだ電磁雑音102が発生する。センサ出力信号103には本来の出力信号(図7(b)に相当する緩やかに曲線変化している成分とタイヤ3の回転に同期した異常に起因する信号成分(負の三角波インパルス状の周期信号))に、制御信号から時間遅延した被制御機器の電磁雑音に同期し波形が類似した信号成分が重畳している。
【0127】
電磁雑音102が継続する期間(フィルタ期間)104と電磁雑音102の周波数帯域をあらかじめ調べておき、フィルタ期間104だけ上記周波数帯域を遮断するローパスフィルタ処理を行う。ただし、ここでは電磁雑音に類似の成分の周波数帯域と短周期繰り返しのインパルス状の成分のノイズ周波数帯域とが重複しているものとする。
【0128】
フィルタ出力信号105は、離散的に存在している複数箇所のフィルタ期間104において上記周波数帯域が遮断されたものとなる。このとき、センサ出力信号103にあった電磁雑音に類似の成分は全て除去される。一方、センサ出力信号103にあったタイヤ3の回転に同期した短周期繰り返しのインパルス状の成分はフィルタ期間104では除去されるが、非フィルタ期間106では除去されることなく残っている。本来の出力信号である緩やかに曲線変化している成分も残っている。
【0129】
図13に示したような波形処理により、要因や特徴の異なる複数の成分が監視信号に重畳している場合でも、一方の成分を完全に除去しつつ、成分同士が重畳していない期間に他方の成分を検出することが可能となる。例えば、タイヤ3の回転と同期して発生する異常に起因する信号成分の周波数帯域と電磁雑音に起因する信号成分の周波数帯域とが重複する場合でも、電磁雑音102の発生期間以外のデータには、タイヤ3の回転と同期して発生する異常に起因する信号成分が対象データに残ることになり、異常検出を行うことができる。
【0130】
電磁雑音発生期間のデータに対してローパスフィルタ処理を行ったデータ(図13(d))を対象データとする。図14に示されるように、時系列データである対象データをFFT(高速フーリエ変換)処理により、周波数データに変換する。これに伴い時間応答が周波数応答に変換される。図示のようにFFT処理により得られた周波数データには、異常に起因する信号の周波数範囲に含まれる成分103c,103d,103eとその周波数範囲に含まれない成分103a,103b,103fとがある。対象データの周波数範囲に含まれる成分に対して、しきい値を超える成分103dがあることで異常を検出する。
【0131】
イベントの検出や異常の検出に使用する監視信号のデータとして、稼動体1が自動車である上記実施形態において、ナックル11に取り付けられ上下方向の加速度を検出する加速度センサ6を用いた。本発明は、上下方向の他に、自動車の進行方向、横方向などさまざまな方向の加速度を検出する加速度センサを用いてよい。また、単方向の加速度センサに限らず、複数方向の加速度センサを組み合わせて用いてよい。例えば、上下方向、進行方向、横方向の加速度センサを一箇所に取り付けると、その取り付け箇所における加速度を三次元ベクトルとして捕らえることができる。これにより、異常検出精度を上げることができる。
【0132】
上記実施形態では、加速度センサ6をナックル11に取り付けたが、ナックル11以外の部材でもサスペンション13よりタイヤ3側においてタイヤ3等の回転部材を除いた各非回転部材は互いに同じ運動をすると考えてよいので、サスペンション13よりタイヤ3側の非回転部材に加速度センサ6を取り付けることで、加速度センサ6をナックル11に取り付たのと同様の信号を得ることができる。回転するタイヤ3の中に物理量センサを設置し、物理量センサの出力信号を無線により非回転部材に取り付けた受信器に伝送してももよい。
【0133】
また、自動車の他の部分、例えば、エンジン5の周辺に物理量センサを設置すれば、エンジン5の異常検出に本発明を適用できる。ハンドル4等のステアリング装置付近に物理量センサを設置すれば、ステアリング装置の異常検出に本発明を適用できる。
【0134】
上記実施形態では、加速度センサ6をナックル11に取り付けたが、サスペンション13の上側に支持されている車体2に加速度センサを取り付けてもよい。この場合、車室全体が車体2と一体で運動するので、車体2の1箇所に加速度センサを取り付ければ、車室全体に生じる加速度を検出して車室の挙動に相関のあるデータを収集することができる。ただし、サスペンション13の下側に生じている振動がサスペンション13によって吸収されるため、車体2に取り付けられた加速度センサではタイヤ3の振動については感度が弱い。よって、サスペンション13の下側を支持しているナックル11に加速度センサ6を取り付けることで、タイヤ周辺部材の異常検出に有利となる。
【0135】
上記実施形態では、監視信号を出力するセンサとして加速度センサを用いたが、本発明では、振動センサ、音響センサ、角速度センサ、部材の歪みを検出する歪みセンサ、自動車の速度センサ、タイヤ回転センサ、温度センサ等の物理量センサを用いることができる。これらの物理量センサを異常に応じて出力信号が変化するように配置するとよい。これらの物理量センサを単独であるいは複数個組み合わせて使用するとよい。使用する物理量センサの種類・個数が多いほど異常検出が高精度になることが期待されるので、コストバランスを考慮して物理量センサの種類・個数を決めるとよい。また、物理量センサは、異常検出の目的のみに使用するとは限らず、他の用途、例えば自動車運動制御にも共用することができる。共用によりコスト削減を図ることができる。
【0136】
次に、同じ種類のイベント間のデータを使用する場合の例として、始動直後と段差乗り越えイベントについて適用する例を表4に、処理の流れを図8に示す。始動直後の状態(記号P)については、イベントe4でのエンジン始動時に以前のイベントe1のデータも合わせて使用してデータ量を増やして検出精度を上げている。同様に、段差乗り越えイベントe3とe5の間に、エンジン停止始動イベントe4があるが、左旋回状態(記号A)と右旋回状態(記号B)での異常検出処理には、イベントe3〜イベントe5の間の該当状態のデータを全て使用して、データ量を増やして検出精度向上を図っている。
【0137】
上記実施形態では、稼動体1を自動車としたが、本発明は、撚り合わせ装置、押出装置、圧延装置にも適用できる。これらの製造装置の連続稼働中に本発明により異常検出を行うことは有効である。
【0138】
電線等の撚り合わせ装置では、異常として、撚り合わせ線材の重なり、切れ、太さ変動等がある。イベントとして、撚り合わせ速度の変化、材料切り替え、起動などがある。操作状態・運転状態としては、ピッチ設定、送り出し速度の高低等がある。イベント検出や異常検出のためのデータには、中心材や送り出し材用の張力センサ、送り出し速度センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【0139】
押出装置では、異常として、押出完了品の寸法ばらつき増加、材料密度ばらつき増加、詰まり等がある。イベントとして、押出速度の変化、材料切り替え、起動などがある。操作状態・運転状態としては、押出速度レベル、押出圧力の高低、使用材料の種類などがある。イベント検出や異常検出のためのデータには、押出速度センサ、圧力センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【0140】
圧延装置では、異常として、圧延完了品の厚さばらつき増加、強度ばらつき増加等がある。イベントとして、送り速度の変化、材料切り替え、起動等がある。操作状態・運転状態として、送り出し速度レベル、温度の高低等がある。イベント検出や異常検出のためのデータには、送り出し速度センサ、温度センサ等の物理量センサの出力信号や各種制御信号を使用するとよい。
【符号の説明】
【0141】
1 稼動体
2 車体
3 タイヤ
4 ハンドル
5 エンジン
6 加速度センサ
7 データ処理部
8 ステアリング機構
11 ナックル
13 サスペンション
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼動体のデータを継続して収集し、
上記稼動体のイベントを検出し、
上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、
あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、
上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出することを特徴とする稼動体の異常検出方法。
【請求項2】
物理量センサの出力信号と上記稼動体が制御される制御信号の両方又はいずれか一方を上記データとして収集することを特徴とする請求項1記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項3】
複数種類のイベントを検出し、
同種の2つのイベントの検出タイミングで上記期間を区切ることを特徴とする請求項1又は2記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項4】
上記データから上記イベントを検出することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項5】
複数種類のデータを収集し、
そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、
判定した状態種ごとに異常を検出することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項6】
複数種類のデータを収集し、
そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、
上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内にて、所定の状態種で部分期間を区切り、
該部分期間に収集される上記データを対象データとして抽出して異常を検出することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項7】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、
上記制御信号のデータに対して同時又は所定時間遅れで上記出力信号のデータに所定の信号処理を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項8】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、
上記制御信号のデータに基づいて上記出力信号のデータの予測を行い、
その予測データを上記比較用データとすることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項9】
上記対象データをデータ加工処理し、
上記データ加工処理された対象データとあらかじめデータ加工処理された比較用データとを比較して異常を検出することを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項10】
上記対象データ中の周期性がある成分から該周期性と相関を有する異常を検出し、
上記対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出することを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項11】
上記稼動体が回転部材と非回転部材とを含み、
上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期する成分から上記回転部材の異常を検出し、
上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期しない成分から上記非回転部材の異常を検出することを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項12】
上記稼動体が自動車であることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項13】
稼動体と、
該稼動体のデータを継続して収集するデータ収集部と、
上記稼動体のイベントを検出するイベント検出部と、
上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出する対象データ抽出部と、
あらかじめ異常検出のための比較用データを記憶した比較用データベースと、
上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出する比較演算部とを備えたことを特徴とする稼動体の異常検出システム。
【請求項1】
稼動体のデータを継続して収集し、
上記稼動体のイベントを検出し、
上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出し、
あらかじめ異常検出のための比較用データを用意しておき、
上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出することを特徴とする稼動体の異常検出方法。
【請求項2】
物理量センサの出力信号と上記稼動体が制御される制御信号の両方又はいずれか一方を上記データとして収集することを特徴とする請求項1記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項3】
複数種類のイベントを検出し、
同種の2つのイベントの検出タイミングで上記期間を区切ることを特徴とする請求項1又は2記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項4】
上記データから上記イベントを検出することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項5】
複数種類のデータを収集し、
そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、
判定した状態種ごとに異常を検出することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項6】
複数種類のデータを収集し、
そのうち1種類以上のデータに基づいて上記稼動体の状態を複数の状態種に判定し、
上記イベントの検出タイミングで区切られた所定期間内にて、所定の状態種で部分期間を区切り、
該部分期間に収集される上記データを対象データとして抽出して異常を検出することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項7】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、
上記制御信号のデータに対して同時又は所定時間遅れで上記出力信号のデータに所定の信号処理を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項8】
物理量センサの出力信号のデータと上記稼動体が制御される制御信号のデータとを収集し、
上記制御信号のデータに基づいて上記出力信号のデータの予測を行い、
その予測データを上記比較用データとすることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項9】
上記対象データをデータ加工処理し、
上記データ加工処理された対象データとあらかじめデータ加工処理された比較用データとを比較して異常を検出することを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項10】
上記対象データ中の周期性がある成分から該周期性と相関を有する異常を検出し、
上記対象データ中の周期性がない成分から周期性と相関のない異常を検出することを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項11】
上記稼動体が回転部材と非回転部材とを含み、
上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期する成分から上記回転部材の異常を検出し、
上記対象データ中の上記回転部材の回転と同期しない成分から上記非回転部材の異常を検出することを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項12】
上記稼動体が自動車であることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載の稼動体の異常検出方法。
【請求項13】
稼動体と、
該稼動体のデータを継続して収集するデータ収集部と、
上記稼動体のイベントを検出するイベント検出部と、
上記イベントで区切られた所定期間内に収集される上記データを対象データとして抽出する対象データ抽出部と、
あらかじめ異常検出のための比較用データを記憶した比較用データベースと、
上記対象データと上記比較用データとを比較し、その比較結果に基づいて上記稼動体の異常を検出する比較演算部とを備えたことを特徴とする稼動体の異常検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−165242(P2010−165242A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7958(P2009−7958)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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