説明

積層セラミックコンデンサー用導電ペースト

【課題】バインダー樹脂の溶解性を向上させ、かつ、デラミネーションの発生を抑制した積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを提供する。更に、該積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び導電粉末を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペーストであって、前記有機溶剤は、芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂の溶解性を向上させ、かつ、デラミネーションの発生を抑制した積層セラミックコンデンサー用導電ペーストに関する。更に、本発明は、該積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサー等の積層型の電子部品は、一般に、次のような方法を用いて製造される。まず、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、可塑剤、分散剤等の添加剤を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等を用いて均一に混合してセラミックスラリー組成物を得る。得られたセラミックスラリー組成物を、ドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、SUSプレート等の支持体面に流延成形し、有機溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0003】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗工し、これを複数枚積み重ね、加熱及び圧着して積層体を得る。得られた積層体を加熱して、バインダー樹脂等の成分を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成することによって、内部電極を備えたセラミック焼成体を得る。更に、得られたセラミック焼成体の端面に外部電極を塗布し、焼成することによって、積層セラミックコンデンサーが完成する。
【0004】
このような方法に用いられる内部電極を形成するための導電ペーストは、一般に、電極を構成する銅、銀、パラジウム、ニッケル等の導電性を有する金属粉末(導電粉末)、エチルセルロース等のバインダー樹脂及び有機溶剤を含有する。このような導電ペーストとして、例えば、特許文献1及び特許文献2には、従来広く用いられているエチルセルロースをバインダー樹脂として、内部電極に生じる問題のひとつであるデラミネーション(層間剥離現象)を抑制した導電ペーストが開示されている。
【0005】
しかし、近年、積層セラミックコンデンサーに更なる高容量化が求められており、そのためには、よりいっそうの多層化及び薄膜化を実現する必要があることから、バインダー樹脂として、塗膜の強度が高く、かつ、セラミックグリーンシートとの接着性に優れたポリビニルアセタール樹脂を用いる方法が検討されている。例えば、特許文献3には、所定の有機溶剤と変性ポリビニルアセタール樹脂とを含有することで、優れた接着性を有する導電ペーストが開示されている。
【0006】
また、多層化及び薄膜化を実現するためには、導電粉末の分散性を改善し、導電ペーストを印刷して形成された導電層において、導電粉末の密度を均一にする必要がある。しかし、塗膜の強度を高めるためには高い重合度を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることが望ましいのに対して、高い重合度を有するポリビニルアセタール樹脂は有機溶剤に対する溶解性が悪く、未溶解樹脂分が導電粉末の分散性に悪影響を及ぼすという問題があった。従って、高い重合度を有するポリビニルアセタール樹脂を用いても未溶解樹脂分が少なく、導電粉末の高い分散性を維持することのできる積層セラミックコンデンサー用導電ペーストが望まれている。
【特許文献1】特公平3−35762号公報
【特許文献2】特公平4−49766号公報
【特許文献3】特開2007−116083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バインダー樹脂の溶解性を向上させ、かつ、デラミネーションの発生を抑制した積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを提供することを目的とする。更に、本発明は、該積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び導電粉末を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペーストであって、上記有機溶剤は、芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペーストである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、バインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含有し、かつ、有機溶剤として所定の沸点の芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、デラミネーションの発生を抑制し、また、高重合度を有するポリビニルアセタール樹脂の溶解性を向上させた結果、導電粉末を均一に分散させ、印刷特性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、ポリビニルアセタール樹脂を含有する。上記ポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒドによりポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0011】
上記ポリビニルアルコールは、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステルの重合体をケン化することで得られるポリビニルアルコールであることが好ましい。上記ビニルエステルは、経済的にみると、酢酸ビニルであることがより好ましい。
【0012】
上記ポリビニルアルコールはまた、上記ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化することで得られるポリビニルアルコールであることが好ましい。上記α−オレフィンを用いることで、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合力が低下し、その結果、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度の経時安定性又は印刷性を向上させることができる。上記α−オレフィンとして、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレンが挙げられる。なかでも、エチレンが好ましい。
また、上記ポリビニルアルコールとして、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、上記ビニルエステルとエチレンとを共重合し、その後、ケン化することで得られる末端変性ポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0013】
上記ポリビニルアルコールを共重合する際、上記α−オレフィンの含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が20モル%である。上記α−オレフィンの含有量が1モル%未満であると、α−オレフィンを添加する効果を得ることができないことがある。上記α−オレフィンの含有量が20モル%を超えると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下するためにアセタール化反応を行うことが困難になったり、得られるポリビニルアセタール樹脂の疎水性が強くなりすぎ、有機溶剤に対する溶解性が低下したりすることがある。
【0014】
上記ポリビニルアルコールはまた、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ビニルエステル及び上記α−オレフィンに加えて、その他のエチレン性不飽和単量体を共重合することで得られるポリビニルアルコールであってもよい。
上記その他のエチレン性不飽和単量体として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0015】
上記ポリビニルアルコールを共重合する際、上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が30モル%である。上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が1モル%未満であると、その他のエチレン性不飽和単量体を添加する効果を得ることができないことがある。上記その他のエチレン性不飽和単量体の含有量が30モル%を超えると、得られるポリビニルアセタール樹脂の接着性、塗膜強度、熱分解性等の性質が低下することがある。
【0016】
上記ポリビニルアルコールは、ケン化度の好ましい下限が80モル%である。上記ケン化度が80モル%未満であると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下するためにアセタール化反応を行うことが困難になることがあり、また、上記ポリビニルアルコールの水酸基量が少ないとアセタール化反応自体の進行が困難になることがある。
【0017】
上記ポリビニルアルコールは、重合度の好ましい下限が1000、好ましい上限が4000である。上記重合度が1000未満であると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いて得られた塗膜の強度が低下することがある。上記重合度が4000を超えると、得られるポリビニルアルコールの水への溶解性が低下したり、水溶液の粘度が高くなったりして、アセタール化反応を行うことが困難になることがある。また、上記重合度が4000を超えると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度が高すぎて塗工性が低下することがある。
なお、本明細書中、合成前の原料であるポリビニルアルコールの重合度をポリビニルアセタール樹脂の重合度とし、合成前の原料として2種以上のポリビニルアルコールを混合して用いる場合には、用いるポリビニルアルコールの重合度の平均をポリビニルアセタール樹脂の重合度とする。
【0018】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアルデヒド、m−ヒドロキシアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピオンアルデヒドが挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド及び/又はブチルアルデヒドが好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上のアルデヒドを併用してもよい。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法は特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアルコールを温水に溶解し、酸触媒存在下で、所望のアセタール化度となるようにアルデヒドを添加して反応させた後、生成物を中和、水洗及び乾燥する方法が挙げられる。
上記酸触媒は特に限定されず、有機酸であってもよく、無機酸であってもよい。上記酸触媒として、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸が挙げられる。また、中和に用いるアルカリは特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムが挙げられる。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が60モル%未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合力が強くなりすぎ、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストが充分な印刷性を有することができないことがある。上記アセタール化度が80モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂は、一般に、工業的に製造が困難である。なお、P.J.Floryの理論計算によると、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい上限は、81.6モル%である(J.Am.Chem.Soc.61,1518(1939)参照)。
【0021】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストにおいて、上記ポリビニルアセタール樹脂は、導電粉末100重量部に対して含有量の好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が1重量部未満であると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの分散安定性が低下したり、塗工、乾燥後の塗膜の強度又は接着性が低下したりすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量が20重量部を超えると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの脱脂性が低下したり、得られる焼成体の導電層の密度が低下して充分な電気特性が得られなかったりすることがある。
【0022】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤は、芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物を含有する。
元来、ポリビニルアセタール樹脂は、エタノールとトルエンとの混合溶剤に対する溶解性が比較的高いことが知られている。しかし、このような揮発性の高い溶剤を含有する導電ペーストは、作製時又は塗工時に乾燥しやすく、特にスクリーン印刷のように一つのスクリーン製版を介して多数の基板に連続して塗工するような場合には、スクリーン製版のメッシュに目詰まりが生じやすくなるという問題がある。本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストでは、芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物を含有することにより、高重合度を有するポリビニルアセタール樹脂の溶解性を向上させることができ、更に、上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物の沸点が140℃以上、290℃未満であることにより、導電ペーストが乾燥しやすいという問題を解決することができる。
上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物の沸点が140℃未満であると、3本ロールミルを用いた作製時又はスクリーン印刷時に、有機溶剤の揮発によって積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度が変化し、安定したペースト又は印刷像が得られない。上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物の沸点が290℃以上であると、得られる積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを塗工する場合、乾燥に時間がかかり、生産効率上好ましくない。上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有する化合物の沸点は、180℃以上、260℃未満であることが好ましく、190℃以上、250℃未満であることがより好ましい。
【0023】
上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物は、得られる積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度、印刷性、乾燥性等の観点から、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル及びベンジルグリコールから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストにおいて、全有機溶剤中の上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物の含有量は、好ましい下限が1重量%、好ましい上限が60重量%である。上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物の含有量が1重量%未満であると、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解させることが難しくなる。上記芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物の含有量が60重量%を超えると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度が低すぎて印刷性が低下することがある。
【0025】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストにおいて、上記全有機溶剤は、含有量の好ましい下限が5重量%、好ましい上限が60重量%である。上記全有機溶剤の含有量が5重量%未満であると、導電粉末の含有量が高すぎて、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの印刷性が低下することがある。上記全有機溶剤の含有量が60重量%を超えると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度が低すぎて印刷性が低下することがある。
【0026】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、導電粉末を含有する。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上の金属粉末を併用してもよい。
【0027】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストにおいて、上記導電粉末の含有量は特に限定されず、用いる導電粉末の種類及び比重、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの印刷方法等によって適宜調整されるが、好ましい下限が30重量%、好ましい上限が80重量%である。上記導電粉末の含有量が30重量%未満であると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度が低いために印刷性が低下したり、有機成分が多いために焼成後の残留有機分が多くなったりすることがある。上記導電粉末の含有量が80重量%を超えると、導電粉末を分散させることが困難になることがある。
【0028】
更に、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0029】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定したときの粘度は、好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。上記のように測定した粘度が0.1Pa・s未満であると、ダイコート印刷法等により塗工した後、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストが所定の形状を維持することが困難となることがある。上記のように測定した粘度が100Pa・sを超えると、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの印刷性が低下することがある。
【0030】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを製造する方法は特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂、上記有機溶剤、上記導電粉末及び各種添加剤を、三本ロール、ビーズミル等を用いた従来公知の攪拌方法で混練する方法が挙げられる。
【0031】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを塗工する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法が挙げられる。
【0032】
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストは、例えば、積層セラミックコンデンサーを製造するために好適に用いることができる。上記積層セラミックコンデンサーを製造する方法として、例えば、本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工したものを複数積み重ね、これを加熱及び圧着して積層体を得た後、脱脂処理を行い、次いで、焼成して得られた焼成体の端面に外部電極を形成する方法が挙げられる。
本発明の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法もまた、本発明の一つである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、バインダー樹脂の溶解性を向上させ、かつ、デラミネーションの発生を抑制した積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを提供することができる。更に、本発明によれば、該積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0035】
(合成例1)
ポリビニルアルコール(重合度1700、ケン化度98モル%)193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌して溶解させた。この溶液を40℃に冷却し、濃度35重量%の塩酸20gとn−ブチルアルデヒド145gとを添加した後、液温を15℃まで下げ、液温を保持しながらアセタール化反応を行って反応生成物を析出させた。その後、液温を40℃で3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
なお、得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度を測定したところ、アセタール化度は78モル%であった。
【0036】
(合成例2)
ポリビニルアルコール(重合度3300、ケン化度99モル%)193g、及び、n−ブチルアルデヒド115gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は65モル%であった。
【0037】
(合成例3)
ポリビニルアルコール(重合度1200、ケン化度88モル%)185g、n−ブチルアルデヒド63g、及び、アセトアルデヒド45gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は62モル%であった。
【0038】
(合成例4)
ポリビニルアルコール(重合度1000、ケン化度98モル%、エチレン含有量6モル%)230g、及び、n−ブチルアルデヒド165gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は77モル%であった。
【0039】
(合成例5)
ポリビニルアルコール(重合度1700、ケン化度98モル%、エチレン含有量4モル%)200g、n−ブチルアルデヒド115g、及び、アセトアルデヒド23gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は77モル%であった。
【0040】
(合成例6)
ポリビニルアルコール(重合度1700、ケン化度88モル%、エチレン含有量2モル%)185g、及び、n−ブチルアルデヒド98gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は64モル%であった。
【0041】
(実施例1)
(1)積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、合成例1で得られたポリビニルアセタール樹脂と、有機溶剤としてエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点244℃)とを加え、80℃の温度で4時間攪拌してポリビニルアセタール樹脂溶液を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液とニッケル粉(「NFP201」、JFEミネラル社製)とを混合し、三本ロールに数回通して積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを得た。なお、積層セラミックコンデンサー用導電ペースト中の組成比率は、ポリビニルアセタール樹脂3重量%、エチレングリコールモノフェニルエーテル42重量%、ニッケル粉55重量%となるように調整した。
【0042】
(2)セラミックグリーンシートの製造
ポリビニルブチラール樹脂(「エスレックB BM−2」、積水化学工業社製、重合度850)10重量部を、トルエン30重量部とエタノール15重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解した後、更に、可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(「BT−02」、堺化学工業社製、平均粒子径0.2μm)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。得られたセラミックスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが約1μmとなるように塗工し、常温で1時間風乾後、熱風乾燥機を用いて80℃の温度で3時間、続いて120℃の温度で2時間乾燥させて、セラミックグリーンシートを得た。
【0043】
(3)セラミック焼成体の製造
上記(2)の工程で得られたセラミックグリーンシートの片面に、上記(1)の工程で得られた積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを、乾燥後の厚みが約1.5μmとなるようにスクリーン印刷法により塗工し、乾燥させて導電層を形成した。この導電層を有するセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚積重ねて、温度70℃、圧力150kg/cmで10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。得られた積層体を、窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、5時間保持した後、昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、10時間保持することにより、セラミック焼成体を得た。
【0044】
(実施例2)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例2で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点283℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0045】
(実施例3)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例3で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてエチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点256℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0046】
(実施例4)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例4で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてプロピレングリコールモノフェニルエーテル(沸点242℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0047】
(実施例5)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例5で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてベンジルアルコール(沸点205℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0048】
(実施例6)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例6で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点244℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0049】
(実施例7)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例4で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてブチルカルビトールアセテート(沸点247℃、ダイセル社製、以下、BCAともいう)とフェニル酢酸メチル(沸点213℃)との1対1の混合溶剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0050】
(実施例8)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例5で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてブチルカルビトールアセテート(沸点247℃、ダイセル社製、以下、BCAともいう)と安息香酸エチル(沸点213℃)との1対1の混合溶剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0051】
(実施例9)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例6で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてターピネオール(沸点219℃)とプロピレングリコールモノフェニルエーテル(沸点242℃)との1対1の混合溶剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0052】
(比較例1)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、有機溶剤としてブチルカルビトールアセテート(沸点247℃、ダイセル社製、以下、BCAともいう)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0053】
(比較例2)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例2で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤としてターピネオール(沸点219℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0054】
(比較例3)
積層セラミックコンデンサー用導電ペーストの製造において、合成例3で得られたポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、有機溶剤として1,3,5−トリメチルベンゼン(沸点168℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミック焼成体を得た。
【0055】
(評価)
実施例及び比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂溶液、導電層及びセラミック焼成体について、以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
(1)未溶解樹脂分の測定
実施例及び比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂溶液を、樹脂量が2重量%になるように同じ有機溶剤にて希釈し、この溶液10mL中のポリビニルアセタール樹脂の粒子径分布を、パーティクルカウンター(「KL−11A」、リオン社製)を用いて測定した。溶液1mL当たりの直径2μm以上の粒子の個数を表2に示す。溶液1mL当たりの直径2μm以上の粒子が1000個未満である場合を○、1000個以上である場合を×として評価した。
【0056】
(2)表面粗さの測定
実施例及び比較例で得られた導電層について、触針式粗さ計(「サーフコム1400D」、東京精密社製)を用い、JIS B 0601に準拠した方法で表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。Raが0.07μm以下である場合を○、0.07μmより大きく、0.1μm以下である場合を△、0.1μmを超える場合を×として評価した。
なお、Raが0.1μmを超えると、積層時に導電層がセラミック層を突き破り、得られる積層セラミックコンデンサーの歩留まりが低下したり、導電層の突起部により圧迫されたセラミック層が、使用中に圧電破壊され、品質不良を起こしたりすることがある。
【0057】
(3)接着性の評価
実施例及び比較例で得られたセラミック焼成体を、常温まで冷却し、中央部を積層面に対し垂直方向に切断して、50層目付近のシート状態を電子顕微鏡で観察することにより、セラミック層と導電層とのデラミネーションの有無を観察した。デラミネーションが確認できない場合を○、デラミネーションが確認できた場合を×として評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、バインダー樹脂の溶解性を向上させ、かつ、デラミネーションの発生を抑制した積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを提供することができる。更に、本発明によれば、該積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いた積層セラミックコンデンサーの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び導電粉末を含有する積層セラミックコンデンサー用導電ペーストであって、
前記有機溶剤は、芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物を含有する
ことを特徴とする積層セラミックコンデンサー用導電ペースト。
【請求項2】
芳香環、及び、水酸基又はカルボニル基を有し、かつ、沸点が140℃以上、290℃未満である化合物は、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル及びベンジルグリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサー用導電ペースト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の積層セラミックコンデンサー用導電ペーストを用いることを特徴とする積層セラミックコンデンサーの製造方法。

【公開番号】特開2010−118470(P2010−118470A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290210(P2008−290210)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】