説明

積層型電子部品の製造方法

【課題】 素体の端面と端面に隣接する面に導体ペーストを塗布し、焼き付けるため、導体ペーストを素体の端面と端面に隣接する面に塗布する工程と導体ペーストを焼き付ける工程が必要になると共に、高価な装置が必要となる。また、素体の上面に外部端子が形成されているので、シールドが施された回路や電子機器に実装する場合、素体の上面に絶縁体を設ける必要がある。
【解決手段】 絶縁体層と導体パターンを積層し、その底面に導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が上面に形成された積層体を形成する。次に、積層体の凹部内に外部端子電極を形成し、外部端子電極が形成された積層体の上面に有機物質膜を形成する。続いて、有機物質膜が形成された積層体を切断し、それぞれの素体に分割する。さらに、素体を焼成することにより、有機物質膜を焼失させて素体の底面に外部端子電極を露出させ、素体底面及び底面に隣接する面にのみ外部端子を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体層と導体パターンを積層し、素体内に回路素子が形成され、素体に外部端子が形成された積層型電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型電子部品に、図7、図8に示す様に、絶縁体層71と導体パターン72を積層した素体70内に導体パターン72によって回路素子が形成され、素体70の端面及び端面に隣接する面に外部端子73、74が形成されたものがある(例えば、特許文献1を参照。)。
この様な積層型電子部品は、絶縁体層71と導体パターン72を積層して素体70を形成し、これを焼成した後、この素体70の端面と端面に隣接する面に導体ペーストを浸漬、転写、印刷等により塗布し、焼き付けて外部端子73、74を形成することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-100414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様な従来の積層型電子部品は、素体の端面と端面に隣接する面に導体ペーストを塗布する工程と塗布された導体ペーストを素体に焼き付ける工程が必要なためにその分工数が増加すると共に、素体の端面と端面に隣接する面に導体ペーストを塗布する塗布装置と塗布された導体ペーストを素体に焼き付ける装置が必要となるという問題があった。
また、この種の積層型電子部品は、高速でスイッチングするDC−DCコンバータ等においてパワーインダクタとして用いられるようになってきている。この種の積層型電子部品が実装される電子機器や回路は小型化が進んでいる上、スイッチングする回路ではノイズによる影響を防止するためにシールドが施されている。この様な状況の中、従来の積層型電子部品は、素体の上面にも外部端子が形成されているため、素体の上面に絶縁体を設けて外部端子とシールド間を絶縁する必要があり、小型化が進んでいる電磁機器や回路に用いることができなかった。
小型化が進んでいる電磁機器や回路に用いるために、素体を低背にした場合、その分素体の体積が小さくなり、充分な特性が得られなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、特殊な工程や高価な装置を用いることなく製造することができると共に、小型化が進んでいるスイッチングする回路やスイッチングする回路を備えた電子機器に用いることができる積層型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、絶縁体層と導体パターンを積層し、素体内に回路素子が形成され、素体に外部端子が形成された積層型電子部品の製造方法において、絶縁体層と導体パターンを積層し、その底面に導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が上面に形成された積層体を形成する第1の工程、積層体の凹部内に外部端子電極を形成し、外部端子電極が形成された積層体の上面に有機物質膜を形成する第2の工程、有機物質膜が形成された積層体を切断し、それぞれの素体に分割する第3の工程及び、素体を焼成することにより、有機物質膜を焼失させて外部端子電極を露出させ、素体底面及び底面に隣接する面にのみ外部端子を形成する第4の工程を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層型電子部品の製造方法は、絶縁体層と導体パターンを積層し、その底面に導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が上面に形成された積層体を形成する第1の工程、積層体の凹部内に外部端子電極を形成し、外部端子電極が形成された積層体の上面に有機物質膜を形成する第2の工程、有機物質膜が形成された積層体を切断し、それぞれの素体に分割する第3の工程及び、素体を焼成することにより、有機物質膜を焼失させて外部端子電極を露出させ、素体底面及び底面に隣接する面にのみ外部端子を形成する第4の工程を備えるので、特殊な工程や高価な装置を用いることなく製造することができると共に、小型化が進んでいるスイッチングする回路やスイッチングする回路を備えた電子機器に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る積層型電子部品を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る積層型電子部品を示す斜視図である。
【図3】本発明の積層型電子部品の製造方法における製造工程を示す斜視図である。
【図4】本発明の積層型電子部品の製造方法における製造工程を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る別の積層型電子部品示す分解斜視図である。
【図6】本発明に係る別の積層型電子部品示す斜視図である。
【図7】従来の積層型電子部品を示す分解斜視図である。
【図8】従来の積層型電子部品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層型電子部品の製造方法は、まず、絶縁体層と導体パターンを積層して、導体パターンによって内部に回路素子が形成された積層体が形成される。この積層体の上面には、その底面に積層体内部の導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が形成される。この積層体の凹部内には、引出し導体と接続された外部端子が形成される。外部端子電極が形成された積層体の上面には、外部端子を覆う様に有機物質が形成される。そして、この積層体を切断してそれぞれの素体に分割した後、これを焼成することにより有機物質膜を焼失させて外部端子を露出させ、素体底面及び底面に隣接する面にのみ外部端子を形成する。
従って、本発明の積層型電子部品の製造方法は、絶縁体層と導体パターンと外部端子電極を積層するだけで積層型電子部品を形成することができ、素体の端面と端面に隣接する面に導体ペーストを塗布する必要がない。また、本発明の積層型電子部品の製造方法は、外部端子が形成された積層体の上面に有機物質膜を形成し、素体に分割した後、素体を焼成することにより、有機物質膜を焼失させて外部端子電極を露出させるので、積層体を素体に分割する際、切断刃等の治具や、素体同士の接触によって外部端子に傷が発生するのを防止できる。さらに、本発明の積層型電子部品の製造方法によって形成された積層型電子部品は、素体の上面に外部端子が存在しないので、シールドが施された回路や電子機器に実装する場合でも、外部端子とシールド間の絶縁を取ることができ、外部端子とシールド間に絶縁体を設ける必要がなくなる。またさらに、本発明の積層型電子部品の製造方法によって形成された積層型電子部品は、外部端子が底面に隣接する面にも露出しているので、外部端子の底面に隣接する面に露出した部分と実装基板の回路パターン間にはんだフィレットが形成され、外部端子と実装基板の回路パターンの接続確認を容易にすることができると共に、積層型電子部品と実装基板の接続強度を向上させることができる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の積層型電子部品の製造方法の実施例を図1乃至図6を参照して説明する。
図1は本発明に係る積層型電子部品を示す分解斜視図、図2は本発明に係る積層型電子部品を示す斜視図である。
図1において、11A〜11Eは絶縁体層、12A〜12Cはコイル用導体パターンである。
絶縁体層11A〜11Eは、誘電体、磁性体等の絶縁体を用いて形成される。
絶縁体層11Aには、長さ方向の両端部の外部端子が形成される部分に絶縁体層11Aの幅方向に延在する様に外部端子と同じ形状の貫通孔が形成され、この貫通孔内に導電材料を形成して外部端子13と外部端子14が形成される。外部端子13と外部端子14は、それぞれ絶縁体層11Aの表裏面に露出すると共に、絶縁体層11Aの端面と側面にも露出する様に形成される。
絶縁体層11Bの表面には、コイル用導体パターン12Aが形成される。コイル用導体パターン12Aは、1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン12Aの一端は、絶縁体層11Bに形成されたスルーホール内の導体を介して絶縁体層11Aに形成された外部端子14に接続される。
絶縁体層11Cの表面には、コイル用導体パターン12Bが形成される。コイル用導体パターン12Bは、1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン12Bの一端は、絶縁体層11Cに形成されたスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Aの他端に接続される。
絶縁体層11Dの表面には、コイル用導体パターン12Cが形成される。コイル用導体パターン12Cは、1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン12Cの一端は、絶縁体層11Dに形成されたスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Bの他端に接続される。コイル用導体パターン12Cの他端は、絶縁体層11B、11C、11Dに形成されたスルーホール内の導体を介して絶縁体層11Aに形成された外部端子13に接続される。
このコイル用導体パターン12Cが形成された絶縁体層11Dの上には、コイル用導体パターンを保護するための絶縁体層11Eが形成される。
この様にして絶縁体層間のコイル用導体パターン12A〜12Cを螺旋状に接続することによって素体10内にコイルパターンが形成される。
この素体10は、図2(A)、(B)に示す様に、底面、端面及び、側面にのみ外部端子13、14が形成され、この外部端子13と外部端子14間に素体内に形成されたコイルパターンが接続される。
【0011】
この様な積層型電子部品は次の様にして製造される。まず、絶縁体層と導体パターンを積層して図3(A)に示す様な積層体30Aが形成される。積層体30Aは、絶縁体層間の導体パターンによって内部に回路素子が形成される。この積層体30Aの上面側には凹部37Aと凹部37Bが形成される。この凹部37Aの底面には、積層体30Aの内部に形成された導体パターンに接続された引出し導体35が露出する。また、凹部37Bの底面には、積層体30Aの内部に形成された導体パターンに接続された引出し導体36が露出する。
次に、この積層体30Aの凹部37Aと凹部37B内に導体ペーストを印刷して、図3(B)に示す様に、積層体30Aに外部端子電極33Aと外部端子電極34Aが形成される。外部端子電極33Aと外部端子電極34Aは、その上面が積層体30Aの上面と同じ高さになる様に積層体30Aの上面側に形成され、外部端子電極33Aが凹部37Aの底面に露出した引出し導体35に接続され、外部端子電極34Aが凹部37Bの底面に露出した引出し導体36に接続される。
続いて、この積層体30Aの上面全体に、図3(C)に示す様に、有機物質膜38が形成される。有機物質膜38は、橙色モノアゾ系顔料等の、絶縁体や導体パターンの焼結温度よりも低い温度で焼失する有機物質が用いられ、積層体30Aの上面全体に有機物質を塗布するか又は、積層体30Aの上面に有機物質で形成されたシートを積層することにより形成される。
さらに、この積層体30Aを切断装置を用いて一点鎖線で示す部分で切断して、図4に示す様にそれぞれの素体40に分割される。この分割された素体40の端面と側面には、外部端子電極33Aと外部端子電極34Aが露出する。
そして、この素体40は、有機物質膜48が付着したままで焼成される。この焼成によって、絶縁体層と導体パターンを焼結すると共に、有機物質を焼失させ、図2(B)に示す様に、素体10の底面にも外部端子電極を露出させる。この素体10の底面、端面及び側面に露出した外部端子電極は、外部端子として用いられる。
【0012】
図5は本発明に係る別の積層型電子部品を示す分解斜視図、図6は本発明に係る別の積層型電子部品を示す斜視図である。
絶縁体層51Aには、長さ方向の両端部の外部端子が形成される部分に絶縁体層51Aの幅方向に延在する様に外部端子と同じ形状の貫通孔が形成され、この貫通孔内に導電材料を形成して外部端子53と外部端子54が形成される。外部端子53と外部端子54は、それぞれ絶縁体層51Aの表裏面に露出すると共に、絶縁体層51Aの端面と側面が交差する部分にも露出する様に形成される。
絶縁体層51Bの表面には、1ターン未満のコイル用導体パターン52Aが形成される。コイル用導体パターン52Aの一端は、絶縁体層51Bに形成されたスルーホール内の導体を介して絶縁体層51Aに形成された外部端子54に接続される。
絶縁体層51Cの表面には、1ターン未満のコイル用導体パターン52Bが形成される。コイル用導体パターン52Bの一端は、絶縁体層51Cに形成されたスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン52Aの他端に接続される。
絶縁体層51Dの表面には、1ターン未満のコイル用導体パターン52Cが形成される。コイル用導体パターン52Cの一端は、絶縁体層51Dに形成されたスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン52Bの他端に接続される。コイル用導体パターン52Cの他端は、絶縁体層51B、51C、51Dに形成されたスルーホール内の導体を介して絶縁体層51Aに形成された外部端子53に接続される。
このコイル用導体パターン52Cが形成された絶縁体層51Dの上には、コイル用導体パターンを保護するための絶縁体層51Eが形成される。
この様にして絶縁体層間のコイル用導体パターン52A〜52Cを螺旋状に接続することによって素体50内にコイルパターンが形成される。
この素体50は、図6(A)、(B)に示す様に、底面及び、端面と側面が交差する部分にのみ外部端子53、54が形成され、この外部端子53と外部端子54間に素体内に形成されたコイルパターンが接続される。
この様な積層型電子部品も前述の積層型電子部品と同様にして製造される。まず、絶縁体層と導体パターンを積層し、その底面に導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が上面に形成された積層体が形成される。次に、積層体の凹部内に外部端子電極を形成し、外部端子電極が形成された積層体の上面に有機物質膜が形成される。続いて、有機物質膜が形成された積層体を切断し、それぞれの素体に分割される。そして、この素体を焼成することにより、有機物質膜を焼失させて外部端子電極を露出させ、素体の底面及び、端面と側面が交差する部分にのみ外部端子が形成される。
【0013】
以上、本発明の積層型電子部品の製造方法の実施例を述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例えば、絶縁体層とコンデンサ用導体パターンを積層して素体内にコンデンサを形成したり、絶縁体層とコイル用導体パターンとコンデンサ用導体パターンを積層して素体内にLC回路が形成されてもよい。また、絶縁体層と導体パターンは、積層法によって積層されてもよいし、印刷法によって積層されてもよい。
【符号の説明】
【0014】
11A〜11E 絶縁体層
12A〜12C コイル用導体パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体層と導体パターンを積層し、素体内に回路素子が形成され、該素体に外部端子が形成された積層型電子部品の製造方法において、
絶縁体層と導体パターンを積層し、その底面に該導体パターンに接続された引出し導体が露出した凹部が上面に形成された積層体を形成する第1の工程、
該積層体の該凹部内に外部端子電極を形成し、該外部端子電極が形成された積層体の上面に有機物質膜を形成する第2の工程、
該有機物質膜が形成された該積層体を切断し、それぞれの素体に分割する第3の工程及び、
該素体を焼成することにより、該有機物質膜を焼失させて外部端子電極を露出させ、該素体底面及び該底面に隣接する面にのみ外部端子を形成する第4の工程を備えたことを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記回路素子は、前記導体パターンを螺旋状に接続して形成されたコイルである請求項1に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記有機物質膜がモノアゾ系顔料で形成された請求項1又は請求項2に記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−198884(P2011−198884A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61967(P2010−61967)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】