説明

積層構造体を有する基板及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、積層構造体を有する基板及び積層構造体を有する基板の製造方法において、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる金属膜と保護膜とを同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングすることを可能とすることである。
【解決手段】積層構造体を有する基板10は、基板20の表面に、少なくとも金属膜31と保護膜32をこの順に形成した積層構造体を有する基板10において、金属膜31は、銀又は銀を主成分とする銀合金からなり、保護膜32は、厚さが8Å以上32Å以下であり、かつ、金属膜31及び保護膜32は、同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも金属膜と保護膜を形成した積層構造体を有する基板に関し、特に金属膜と保護膜とを一括してウェットエッチングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ(FPD)の高画質化が進み、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)等の低反射率金属では光学的性能が満たせなくなってきた。銀(Ag)は、これらに比べ光学特性及び電気特性に優れ、FPDの反射膜や電極或いは半導体の配線に広く利用されている。このとき、銀の耐酸化性、耐熱性、耐硬化性等の耐食性を向上させるため、銀合金を銀層として基板に積層させて用いることがある。さらに、銀層を保護するために、銀層の表面に100Å以上の厚さの保護膜を積層することもある。
【0003】
銀層と保護膜とをエッチングして銀層にパターンを形成するとき、銀層と保護膜とを異なるエッチング液を用いて2度のウェットエッチングを行なう必要がある(以後、「2度エッチング」と記す。)。この場合、2度のウェットエッチング工程と2種類のエッチング液とが必要になり、エッチングに要するコストアップの要因となる。さらに、保護膜のエッチング工程において、保護膜用のエッチング液が、保護膜を通過して銀層まで染み出して銀層の一部までもエッチングしてしまうことがある。これによって、銀層にダメージを与えたり、銀層にサイドエッチングを発生させたりすることがある。銀層のダメージ及びサイドエッチングは、銀層の形状不良や銀層の光学特定及び電気特性の低下につながる。
【0004】
ところで、銀層を挟むように密着層とバリア層とを設け、密着層、銀層及びバリア層を一括してドライエッチングする技術が開示されている(例えば、特許文献1又は2を参照。)。
【0005】
また、金属膜と透明導電膜とを一括してウェットエッチングするためのエッチング組成物が開示されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−355918号公報
【特許文献2】特開2005−011793号公報
【特許文献3】特開2004−156070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1又は2をはじめとするドライエッチングする方法では、銀層のサイドエッチングが生じにくい。しかし、ドライエッチングする方法では、基板や複数の基板が形成されたウェハーを一枚しかエッチングすることができないので生産性が低く、エッチングに要するコストアップの要因となる。
【0008】
特許文献3をはじめとする一括してウェットエッチングする方法では、透明導電膜の厚さが200Å〜500Åと厚く、長時間のエッチングが必要となる。また、発明者の追試によれば、エッチング時間が長いため、上記と同様の理由によって金属膜にダメージを与えたり、金属膜にサイドエッチングを発生させたりすることがあった。また、長時間のエッチングによる生産性の低下を避ける為、エッチング速度を速くできるエッチングの温度条件が開示されている。しかし、エッチング速度を速くするとエッチングの制御が難しくなり、また、金属膜にダメージを与えたり、金属膜にサイドエッチングを発生させたりすることがあった。従って、高品質のエッチングがなされるとはいい難い状況であった。
【0009】
本発明の目的は、積層構造体を有する基板及びその製造方法において、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる金属膜と保護膜とを同一のエッチング液によって一括して高品質にウェットエッチングすることを可能とすることである。このとき、マスキング部分の金属膜のダメージを低減させ、金属膜のサイドエッチングを低減させることで、金属膜の光学特性及び電気特性を良好にすることを目的とする。さらに、従来の2度エッチングと比較して、エッチング液の数やエッチング工程の数を低減させることを目的とする。また、ドライエッチングと比較して、複数の基板やウェハーを一括してウェットエッチングし、生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意開発した結果、金属膜と保護膜を形成した積層構造体を有する基板において、保護膜を極めて薄くすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る積層構造体を有する基板は、基板の表面に、少なくとも金属膜と保護膜をこの順に形成した積層構造体を有する基板において、前記金属膜は、銀又は銀を主成分とする銀合金からなり、前記保護膜は、厚さが8Å以上32Å以下であり、かつ、前記金属膜及び前記保護膜は、同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る積層構造体を有する基板では、前記保護膜は、前記金属膜及び前記保護膜を一括してウェットエッチングする平均速度が5Å/秒以上であり、かつ、前記金属膜及び前記保護膜を一括してウェットエッチングするのに要する時間が300秒以内の材料からなることが好ましい。短時間で一括したウェットエッチングを終了することにより、前記金属膜のダメージ及びサイドエッチングをより低減させ、前記金属膜の光学特性及び電気特性をより良好にできる。
【0012】
本発明に係る積層構造体を有する基板では、前記保護膜は、透明酸化物導電体からなることを含む。
【0013】
本発明に係る積層構造体を有する基板では、前記基板は、ガラス基板、半導体基板、金属基板、セラミック基板又はプラスチック基板であることを含む。
【0014】
本発明に係る積層構造体を有する基板の製造方法は、基板の表面に、少なくとも金属膜と保護膜をこの順に形成した積層構造体を有する基板の製造方法において、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる前記金属膜を成膜する金属膜成膜工程と、厚さが8Å以上32Å以下で、前記金属膜と共に同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできる前記保護膜を成膜する保護膜成膜工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る積層構造体を有する基板の製造方法は、前記同一のエッチング液によって前記金属膜と前記保護膜とを一括してウェットエッチングし、露出面を形成するエッチング工程をさらに備えることが好ましい。一括してウェットエッチングしても、前記金属膜の形状不良が少なく、前記金属膜の光学特性及び電気特性を良好にでき、前記金属膜にパターンを形成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、積層構造体を有する基板及びその製造方法において、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる金属膜と保護膜とを同一のエッチング液によって一括して高品質にウェットエッチングすることができる。このとき、マスキング部分の金属膜のダメージを低減させ、金属膜のサイドエッチングを低減させることで、金属膜の光学特性及び電気特性を良好にできる。さらに、従来の2度エッチングと比較して、エッチング液の数やエッチング工程の数を低減できる。また、ドライエッチングと比較して、複数の基板やウェハーを一括してウェットエッチングし、生産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。なお、同一部材・同一部位には同一符号を付した。
【0018】
本実施形態に係る積層構造体を有する基板について説明する。図1に本実施形態に係る積層構造体を有する基板の一部縦断面概略図を示した。本実施形態に係る積層構造体を有する基板10は、基板20の表面に、少なくとも金属膜31と保護膜32をこの順に形成した積層構造体30を有する基板において、金属膜31は、銀又は銀を主成分とする銀合金からなり、保護膜32は、厚さが8Å以上32Å以下であり、かつ、金属膜31及び保護膜32は、同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできる。
【0019】
ここで、基板20は、ガラス基板、半導体基板、金属基板、セラミック基板又はプラスチック基板であることを含む。例えば、基板20がガラス基板であれば、積層構造体を有する基板10をFPDの透過型基板、半透過型基板又は反射型基板として用いることができる。また、基板20が銅等の金属基板、シリコン等の半導体基板、アルミナ等のセラミック基板又はポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチック基板であれば、積層構造体を有する基板10をFPDの反射型基板として用いることができる。プラスチック基板を用いると、積層構造体を有する基板10を柔軟、かつ、軽量にすることができる。また、基板20が上記いずれの材質であっても、金属膜31及び保護膜32を一括してウェットエッチングするときに用いるエッチング液(以後、「エッチング液」と記す。)に対しての耐エッチング性を有することが好ましい。また、基板20の厚さは特に制限されない。例えば、基板20の厚さは、0.5mm〜3mmであっても良い。
【0020】
金属膜31は、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる。銀合金としては、Ag−Pd−Cu合金(以後、APC合金と記す。)、Ag−Pd−Cu−Ge合金、Ag−Cu−Au合金、Ag−Ru−Cu合金、Ag−Ru−Au合金、Ag−Pd合金、Ag−Nd合金、Ag−Mg合金、Ag−Ca合金及びAg−Na合金を例示することができる。本実施形態において、金属膜31は、APC合金としている。例えば、金属膜31は、銀の反射率が高いので反射膜としても良い。さらに、金属膜31を電極又は配線としても良い。また、金属膜31の厚さは特に制限されないが、保護膜32と共に一括してウェットエッチングできる厚さであることが好ましい。例えば、金属膜31の厚さは、500Å〜2000Åであっても良い。
【0021】
保護膜32は、金属膜31を保護する。その製造工程において、積層構造体を有する基板10に紫外線を照射することがある。このとき、金属膜31に直接紫外線を照射すると、金属膜31にダメージを与え、銀が有する高反射率等の光学特性及び電気特性が損なわれてしまう。そのため、保護膜32が紫外線による金属膜31のダメージを低減させる。
【0022】
図2に金属膜及び保護膜を一括してウェットエッチングしたときの概略図を示した。図2(a)は、本実施形態に係る積層構造体を有する基板の一部縦断面概略図であり、図2(b)は、従来の保護膜を有する基板の一部縦断面概略図である。図2(b)に示すように、保護膜32の厚さが32Åを超えると、金属膜31及び保護膜32の一括したウェットエッチングに時間が長くかかり、一括してウェットエッチングできない場合もある。例えば、図2(b)の保護膜32の厚さは、100Åである。これによって、金属膜31の一部までエッチングされ、金属膜31にダメージを与え、金属膜31にサイドエッチング31aを発生させることがある。このため、エッチングサイド面31bは、基板20に垂直又は略垂直とならない。また、保護膜32の厚さが8Å未満であると、保護膜32が薄すぎて金属膜31を保護する機能を果さない。
【0023】
しかし、積層構造体を有する基板10は、保護膜32の厚さを8Å以上32Å以下と極めて薄くすることで、保護膜32からエッチング液が染み出す前に、金属膜31及び保護膜32の一括したウェットエッチングが終了する。これによって、マスキング部分の金属膜31のダメージを低減させ、金属膜31のサイドエッチングを低減させ、ウェットエッチングを高品質にできる。例えば、図2(a)に示すように、積層構造体を有する基板10は、サイドエッチング31aが少なく、基板20に垂直又は略垂直となるエッチングサイド面31bを形成できる。このとき、金属膜31のダメージを低減させ、金属膜31のサイドエッチング31aを低減させることで、金属膜31の光学特性及び電気特性を良好にできる。さらに、従来の2度エッチングと比較して、エッチング液の数やエッチング工程の数を低減できる。また、ドライエッチングと比較して、複数の基板やウェハーを一括してウェットエッチングし、生産性を向上できる。
【0024】
本発明において、エッチング液は、リン酸、硝酸及び酢酸を配合した溶液を例示することができる。例えば、エッチング液は、63質量%のリン酸、2質量%の硝酸及び33質量%の酢酸を配合したものでも良い。
【0025】
本実施形態に係る積層構造体を有する基板では、保護膜32は、金属膜31及び保護膜32を一括してウェットエッチングする平均速度が5Å/秒以上であり、金属膜31及び保護膜32を一括してウェットエッチングするのに要する時間が300秒以内の材料からなることが好ましい。なお、一括してウェットエッチングするのに要する時間を判断するに際して、例えば、金属膜31の標準膜厚を1500Åとしても良い。もちろん、本発明は、この標準膜厚に限定されるものではない。上記のように一括してウェットエッチングする時間が長くなる程、金属膜31にダメージを与えてしまい、金属膜31にサイドエッチング31aを発生させることがある。短時間で一括してウェットエッチングを終了することにより、金属膜31のダメージ及びサイドエッチングをより低減させ、金属膜31の光学特性及び電気特性をより良好にできる。
【0026】
さらに、金属膜31及び保護膜32を一括してウェットエッチングする平均速度は、300Å/秒以下が好ましく、200Å/秒以下がより好ましい。一括してウェットエッチングする平均速度が300Å/秒を超えると、エッチングの制御が難しくなる。また、一括してウェットエッチングする平均速度が5Å/秒未満であると、エッチングに時間が長くかかり、一括してウェットエッチングできない場合がある。ここで、ウェットエッチングの平均速度とは、金属膜31及び保護膜32を合せた厚さを保護膜32のウェットエッチングを開始してから金属膜31のウェットエッチングが終了するまでの時間で割った値である。
【0027】
ここで、保護膜32は、透明酸化物導電体からなることを含む。保護膜32が透明酸化物導電体であれば、保護膜32を電極又は配線とできる。透明酸化物導電体としては、ITO化合物、IZO化合物等の酸化インジウム系透明導電体、ATO化合物、FTO化合物等の酸化スズ系透明導電体、AZO化合物、GZO化合物等の酸化亜鉛系透明導電体を例示することができる。本実施形態において、保護膜32は、ITO化合物としている。
【0028】
図1又は図2に示す積層構造体30は、金属膜31及び保護膜32のみを形成した場合について示した。基板20の側から金属膜31と保護膜32を順に形成すれば、金属膜31及び保護膜32以外の密着膜(不図示)を形成してもよい。積層構造体を有する基板10の用途によって、密着膜は、透明酸化物導電体膜、低反射率金属膜、セラミック膜又はプラスチック膜であっても良い。また、密着膜は、基板20と金属膜31との間、金属膜31と保護膜32との間、保護膜32の表面のいずれの場所に形成しても良い。
【0029】
密着膜は、金属膜31及び保護膜32と共に一括してウェットエッチングしても良い。密着膜の厚さは特に制限されないが、金属膜31及び保護膜32と共に一括してウェットエッチングできる厚さであることが好ましい。このとき、密着膜は、エッチング液でエッチングできることが好ましい。密着膜も一括してウェットエッチングできると、金属膜31のダメージやサイドエッチングを低減できる。密着膜を基板20と金属膜31との間に形成した場合、金属膜31まで一括してウェットエッチングできれば、密着膜をウェットエッチングできなくとも良い。このとき、密着膜の厚さは特に制限されず、エッチング液に対しての耐エッチング性を有することが好ましい。さらに、2種類以上の密着膜を形成し、金属膜31及び保護膜32を含めて4種類以上の膜を有する積層構造体30としても良い。以下、密着膜について具体的に説明する。
【0030】
図3に本実施形態に係る積層構造体の第二形態の一部縦断面概略図を示した。図1の積層構造体を有する基板10と異なる点についてのみ説明する。図3では、基板20と金属膜31との間に密着膜33aが形成されている。密着膜33aも一括してウェットエッチングするのであれば、密着膜33aは、透明酸化物導電体膜又は低反射率金属膜でもよい。このとき、金属膜31と密着膜33aとを合せた厚さが500Å〜2000Åでもよい。密着膜33aが透明酸化物導電体膜であれば、金属膜31が積層構造体を有する基板10から剥離しにくくなり、積層構造体を有する基板10をFPDの透過型基板又は半透過型基板として用いることができる。また、密着膜33aが透明酸化物導電体膜又は低反射率金属膜であれば、密着膜33aを電極又は配線とできる。或いは、密着膜33aをウェットエッチングしないのであれば、密着膜33aがセラミック膜であってもよい。このとき、密着膜33aの厚さが2000Åを超えても良い。密着膜33aがセラミックであれば、密着膜33aを絶縁膜ともできる。
【0031】
図4に本実施形態に係る積層構造体の第三形態の一部縦断面概略図を示した。図1の積層構造体を有する基板10と異なる点についてのみ説明する。図4では、金属膜31と保護膜32との間に密着膜33bが形成されている。密着膜33bも一括してウェットエッチングするのであれば、密着膜33bが透明酸化物導電体膜又は低反射率金属膜であってもよい。このとき、金属膜31と密着膜33bとを合せた厚さは、500Å〜2000Åであっても良い。密着膜33bが透明酸化物導電体膜であれば、保護膜32及び密着膜33bで金属層31を保護でき、積層構造体を有する基板10をFPDの透過型基板又は半透過型基板として用いることができる。ここで、保護膜32と密着膜33bとを合せた厚さは、8Å以上32Å以下とすることが好ましい。また、密着膜33bが透明酸化物導電体膜又は低反射率金属膜であれば、密着膜33bを電極又は配線とできる。
【0032】
図5に本実施形態に係る積層構造体の第四形態の一部縦断面概略図を示した。図1の積層構造体を有する基板10と異なる点についてのみ説明する。図5では、保護膜32の表面に第二保護膜34が形成されている。第二保護膜34は、透明酸化物導電体膜又は低反射率金属膜であってもよい。このとき、保護膜32と第二保護膜34とを合せた厚さは、8Å以上32Å以下とすることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係る積層構造体を有する基板の製造方法について説明する。図6に本実施形態に係る積層構造体を有する基板の製造方法の工程概念図を示した。本実施形態に係る積層構造体を有する基板の製造方法は、基板20の表面に、少なくとも金属膜31と保護膜32をこの順に形成した積層構造体を有する基板の製造方法において、銀又は銀を主成分とする銀合金からなる金属膜31を成膜する金属膜成膜工程S1と、厚さが8Å以上32Å以下で、金属膜31と共に同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできる保護膜32を成膜する保護膜成膜工程S2と、を備えることを特徴とする。さらに、保護膜成膜工程S2の後に、フォトレジスト50を積層構造体30の表面に形成するレジスト形成工程S3、フォトレジスト50にパターンを転写する露光工程S4、パターンが転写されたフォトレジスト50を現像する現像工程S5、金属膜31と保護膜32を一括してウェットエッチングするエッチング工程S6、フォトレジスト50を除去するレジスト除去工程S7を設けてもよい。
【0034】
まず、金属膜成膜工程S1において、金属膜31を成膜する。金属膜31を成膜する方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、イオンプレーティング法又はメッキ法を例示することができる。本実施形態においては、スパッタリング法で金属膜31を成膜した。銀又は銀を主成分とする銀合金からなるスパッタリングターゲット及び基板20の周囲に適切な反応ガスを充満させる。その後、プラズマを発生させ、プラズマ中のイオンをスパッタリングターゲットに衝突させると、スパッタ粒子が基板20に積層され、金属膜31を成膜することができる。
【0035】
次に、保護膜成膜工程S2において、保護膜32を成膜する。保護膜32を成膜する方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、イオンプレーティング法又は塗布法を例示することができる。本実施形態においては、スパッタリング法で保護膜32を成膜した。ここで、金属膜成膜工程S1の前、金属膜成膜工程S1と保護膜成膜工程S2との間又は保護膜成膜工程S2の後に密着膜(不図示)又は第二保護膜(不図示)を成膜する工程を設けても良い。
【0036】
次に、レジスト形成工程S3において、フォトレジスト50を積層構造体30の表面に形成する。フォトレジスト50となる感光剤を積層構造体30の表面に塗布しても良い。
【0037】
次に、露光工程S4において、フォトレジスト50を露光させて、フォトレジスト50に電極や配線等のパターンを転写する。フォトマスク52には、電極や配線等のパターンが予め描かれている。フォトマスク52を介してフォトレジスト50に光51を照射すると、フォトレジスト50にパターンの形状に従って光被照射部53が形成される。これによって、フォトレジスト50に電極や配線等のパターンを転写することができる。
【0038】
次に、現像工程S5において、パターンが転写されたフォトレジスト50を現像し、フォトレジスト50から光被照射部53を除去する。例えば、フォトレジスト50に薬品を塗布し、光被照射部53を除去しても良い。
【0039】
本実施形態に係る積層構造体を有する基板の製造方法では、同一のエッチング液によって金属膜31と保護膜32とを一括してウェットエッチングし、露出面を形成するエッチング工程S6をさらに備えることが好ましい。保護膜32の厚さが8Å以上32Å以下と極めて薄いので、エッチング工程S6の所要時間が短くなる。このため、一括してウェットエッチングしても、金属膜31の形状不良が少なく、金属膜31の光学特性及び電気特性を良好にでき、金属膜31にパターンを形成できる。
【0040】
次に、レジスト除去工程S7において、フォトレジスト50を除去する。上記の工程を経て、積層構造体を有する基板をパターニングできる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
図1に示す積層構造体を有する基板を用いた。積層構造体を有する基板をアニール処理し、それとは別に、図6に示す方法で積層構造体を有する基板をエッチングした。基板は、無アルカリガラス(20mm×40mm)を用いた。金属膜は、APCターゲット(組成98Ag−1Pd−1Cu)を用いて、電力が200Wの及び圧力が0.1Paの条件でスパッタリング法により形成した。このとき、金属膜は、厚さが1500Åであり、組成がAPCターゲットと略同じAPC膜であった。保護膜は、ITOターゲットを用いて、電力が100W及び圧力が0.1Paの条件でスパッタリング法により形成した。このとき、保護膜は、厚さが10Åであり、組成がITOターゲットと略同じITO膜であった。保護膜の表面の50%にフォトレジストを塗布し、金属膜及び保護膜を一括してウェットエッチングした。このとき、エッチング液として関東化学(株)製のSEA−1を用いた。
【0042】
表1に、保護膜の成膜条件、エッチングの結果及びその反射率を示した。可否は、金属膜のエッチング面を電子顕微鏡で目視したものである。このとき、金属膜にサイドエッチングが発生せずにエッチングが終了したときに○とし、金属膜にサイドエッチングが発生したとき又は保護膜のエッチングが終了しなかったときに×とした。エッチング時間は、金属膜及び保護膜を一括してウェットエッチングするのに要した時間である。エッチング速度は、金属膜と保護膜との厚さをエッチング時間で割った値である。アニール前の反射率は、ウェットエッチングしていない積層構造体を有する基板をアニール処理する前の反射率である。アニール後の反射率は、ウェットエッチングしていない積層構造体を有する基板をアニール処理した後の反射率である。ここで、雰囲気ガスが空気、温度が250℃及び1時間の条件でアニール処理した。
【0043】
(実施例2)
保護膜のターゲットとしてIZOターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてIZOの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを10Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングとアニール処理とを行い、その結果を表1に示した。
【0044】
(実施例3)
保護膜のターゲットとしてIZOターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてIZOの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを30Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングとアニール処理とを行い、その結果を表1に示した。
【0045】
(実施例4)
保護膜のターゲットとしてバナジウムターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてバナジウムの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを10Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングとアニール処理とを行い、その結果を表1に示した。
【0046】
(比較例1)
基板にAPC合金の金属膜のみを形成し、実施例1と同じエッチング液を用いて金属膜をウェットエッチングし、その結果を表1に示した。
【0047】
(比較例2)
保護膜のターゲットとしてITOターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてITOの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを50Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングを行い、その結果を表1に示した。
【0048】
(比較例3)
保護膜のターゲットとしてスズターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてスズの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを10Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングを行い、その結果を表1に示した。
【0049】
(比較例4)
保護膜のターゲットとしてアルミニウムターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてアルミニウムの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを30Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングを行い、その結果を表1に示した。
【0050】
(比較例5)
保護膜のターゲットとしてアルミニウムターゲットを用いて、表1に示した成膜条件にてアルミニウムの保護膜を形成した。保護膜は、厚さを10Åとした。実施例1と同様に一括してウェットエッチングを行い、その結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から次のことが分かった。実施例1〜4では、保護膜は残存せず、一括ウェットエッチングができた。さらに、電子顕微鏡による目視の結果、金属膜にサイドエッチングは発生しなかった。比較例1と実施例1〜4とを比較すると、実施例1〜4のいずれもが比較例1よりエッチング速度が遅いことが分かった。比較例2では、300秒経過しても保護膜の一括ウェットエッチングが終了しなかった。比較例2と実施例1とを比較すると、保護膜がITO化合物であっても保護膜を極めて薄くしないと一括ウェットエッチングが終了しないことが分かった。比較例3では、300秒経過しても保護膜の一括ウェットエッチングが終了しなかった。保護膜がスズであると保護膜を10Åと極めて薄くしても一括ウェットエッチングが終了しないことが分かった。比較例4では、360秒経過しても保護膜の一括ウェットエッチングが終了しなかった。また、比較例5では、金属膜にサイドエッチングが発生した。保護膜がアルミニウムであると、保護膜が厚いと一括ウェットエッチングできず、保護膜が薄くてもサイドエッチングが発生し、いずれにしても品質よくエッチングできないことが分かった。
【0053】
以上の結果、保護膜は、厚さを8Å以上32Å以下とし、材質をITO化合物又はIZO化合物とするよいことが分かった。また、保護膜の材質をバナジウムとしても良いことが分かった。
【0054】
また、実施例1〜3において、保護膜の材質をITO化合物又はIZO化合物とすると、アニール後も反射率の低下が少ないことから積層構造体を有する基板の光学特性が特に良好であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係る積層構造体を有する基板の一部縦断面概略図である。
【図2】金属膜及び保護膜を一括してウェットエッチングしたときの概略図であり、(a)は、本実施形態に係る積層構造体を有する基板の一部縦断面概略図であり、(b)は、従来の保護膜を有する基板の一部縦断面概略図である。
【図3】本実施形態に係る積層構造体の第二形態の一部縦断面概略図である。
【図4】本実施形態に係る積層構造体の第三形態の一部縦断面概略図である。
【図5】本実施形態に係る積層構造体の第四形態の一部縦断面概略図である。
【図6】本実施形態に係る積層構造体を有する基板の製造方法の工程概念図である。
【符号の説明】
【0056】
10 積層構造体を有する基板
20 基板
30 積層構造体
31 金属膜
31a サイドエッチング
31b エッチングサイド面
32 保護膜
33a、33b 密着膜
34 第二保護膜
50 フォトレジスト
51 光
52 フォトマスク
53 光被照射部
90 従来の厚さの保護膜を有する基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、少なくとも金属膜と保護膜をこの順に形成した積層構造体を有する基板において、
前記金属膜は、銀又は銀を主成分とする銀合金からなり、
前記保護膜は、厚さが8Å以上32Å以下であり、
かつ、前記金属膜及び前記保護膜は、同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできることを特徴とする積層構造体を有する基板。
【請求項2】
前記保護膜は、前記金属膜及び前記保護膜を一括してウェットエッチングする平均速度が5Å/秒以上であり、かつ、前記金属膜及び前記保護膜を一括してウェットエッチングするのに要する時間が300秒以内の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体を有する基板。
【請求項3】
前記保護膜は、透明酸化物導電体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層構造体を有する基板。
【請求項4】
前記基板は、ガラス基板、金属基板、半導体基板、セラミック基板又はプラスチック基板であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の積層構造体を有する基板。
【請求項5】
基板の表面に、少なくとも金属膜と保護膜をこの順に形成した積層構造体を有する基板の製造方法において、
銀又は銀を主成分とする銀合金からなる前記金属膜を成膜する金属膜成膜工程と、
厚さが8Å以上32Å以下で、前記金属膜と共に同一のエッチング液によって一括してウェットエッチングできる前記保護膜を成膜する保護膜成膜工程と、を備えることを特徴とする積層構造体を有する基板の製造方法。
【請求項6】
前記同一のエッチング液によって前記金属膜と前記保護膜とを一括してウェットエッチングし、露出面を形成するエッチング工程をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の積層構造体を有する基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−220965(P2007−220965A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40997(P2006−40997)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】