説明

穴かがりミシン

【課題】縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすこと。
【解決手段】穴かがりミシンは、縫い幅を入力する縫い幅入力手段60と、入力された縫い幅の比率を算出する比率算出手段3と、一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第1の位置算出手段3と、一方の側縫い部の幅を算出する側縫い幅算出手段3と、他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第2の位置算出手段3と、を備え、制御手段3は、記憶手段32に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、第2の位置算出手段により算出された他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴かがりミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
被縫製物に形成されるボタン穴の周囲に穴かがり縫いを施す穴かがりミシンが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
穴かがりミシンは、ボタンの形状や大きさ、縫製物の用途に合わせて縫い幅が自由に選択できるよう、複数の縫い幅毎に縫製データが予め制御装置のメモリにそれぞれ格納されている。そして、ユーザが所望する縫い幅を入力すると、その縫い幅に応じた縫製データをメモリから読み出し、読み出した縫製データに基づいてボタンホール縫い(穴かがり縫い)を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−66794号公報
【特許文献2】特開平10−66796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の穴かがりミシンにおいては、縫製可能な縫い幅の数だけ縫製データを準備してメモリに記憶させておくことが必要であった。そのため、メモリに記憶させる縫製データの容量が膨大となり、大容量のメモリが必要となることから、コストアップは避けられない。また、メモリ容量を小さくすると、記憶できる縫製データの数も少なくなってしまうため、ユーザの要望に柔軟に対応することが困難であった。
【0004】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ボタンホール縫いの縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすことができる穴かがりミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、
ミシンモータの駆動により上下動するとともに下端に縫い針が取り付けられた針棒を有する針上下動機構と、
前記被縫製物と前記押さえ枠とを一針ごとに送り方向に沿って送る送り歯と、
当該送り歯による送り量の調整を行う送りモータとを有する送り機構と、
針振りモータにより前記被縫製物の送り方向に直交する方向に前記縫い針の針振りを行う針振り機構と、
ボタンホール縫いに必要な縫製データが記憶された記憶手段と、
押さえ棒の下端に着脱可能に装着される押さえ体と、前記押さえ体により被縫製物の送り方向に沿って移動自在に支持されるとともに前記被縫製物の保持を行う押さえ枠と、ボタンの外周の一部を保持する固定部とこの固定部に対向するように設けられ前記固定部に対して接離するように移動自在に設けられた摺動部とを有し前記固定部と前記摺動部とでボタンを保持するボタン保持部とを備えたボタンホール縫い手段と、
前記固定部と前記摺動部の間隔からボタン径を検出してこのボタン径に対応した縫製長さのボタンホール縫いを行うように前記記憶手段に記憶された縫製データに基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御する制御手段と、を備える穴かがりミシンにおいて、
前記記憶手段には、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データが記憶され、
ボタンホール縫い目の縫い幅を入力する縫い幅入力手段と、
基準となる縫い幅に対する前記縫い幅入力手段から入力された縫い幅の比率を算出する比率算出手段と、
基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データに前記比率算出手段により算出された比率を乗じて前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第1の位置算出手段と、
前記第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の縫い目の前記一方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から前記一方の側縫い部の幅を算出する側縫い幅算出手段と、
基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の他方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データに前記側縫い幅算出手段により算出された側縫い幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第2の位置算出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第1の位置算出手段により算出された前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、前記第2の位置算出手段により算出された前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の穴かがりミシンにおいて、
前記記憶手段には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データと、縫製可能な縫い幅毎に鳩目ボタンホール縫い目の環状部の針落ち位置の座標データとが記憶され、
前記制御手段は、前記左右の側縫い部の縫製については、前記記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第1の位置算出手段により算出された前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、前記第2の位置算出手段により算出された前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御し、
前記環状部の縫製については、前記縫い幅入力手段から入力された縫い幅に対応する針落ち位置の座標データに基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の穴かがりミシンにおいて、
前記記憶手段には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データと、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部の内側と外側の針落ち位置の座標データとが記憶され、
基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における縫い幅方向の中心から一方側の外側の針落ち位置の座標データに前記比率算出手段により算出された比率を乗じて環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する第3の位置算出手段と、
前記第3の位置算出手段により算出された環状部の一方側の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における前記一方側の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から環状部の一方側の幅を算出する環状幅算出手段と、
基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における他方側の内側の針落ち位置の座標データに前記環状幅算出手段により算出された環状幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する第4の位置算出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された環状部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第3の位置算出手段により算出された環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データと、前記第4の位置算出手段により算出された環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ユーザが縫い幅入力手段から所望するボタンホール縫い目の縫い幅を入力すると、比率算出手段は、基準となる縫い幅に対する入力された縫い幅の比率を算出する。
次に、第1の位置算出手段は、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データに比率算出手段により算出された比率を乗じて一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
次に、側縫い幅算出手段は、第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の縫い目の一方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から一方の側縫い部の幅を算出する。
次に、第2の位置算出手段は、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の他方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データに側縫い幅算出手段により算出された側縫い幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
そして、制御手段は、記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、第2の位置算出手段により算出された他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御してボタンホール縫いを行う。
これにより、縫い幅入力手段から入力された縫い幅に応じて基準となるボタンホール縫い目の針落ち位置の座標データを縫い幅の方向に向けて拡大・縮小することができる。その結果、一つの基準となる縫い目の縫製データから異なる縫い幅の縫製データを作成することができる。すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求めることができるので、各縫い幅毎に縫製データを準備する必要がない。
よって、ボタンホール縫いの縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、鳩目ボタンホール縫い目を形成する際には、縫製を左右の側縫い部と鳩目となる環状部とに分け、制御手段は、左右の側縫い部の縫製については、記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、第2の位置算出手段により算出された他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御し、環状部の縫製については、縫い幅入力手段から入力された縫い幅に対応する針落ち位置の座標データに基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する。
すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求め、環状部は縫い幅分の縫製データを準備することになる。
これにより、鳩目ボタンホール縫いの場合においても、左右の側縫い部についての縫製データの容量を減らすことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、第3の位置算出手段は、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における縫い幅方向の中心から一方側の外側の針落ち位置の座標データに比率算出手段により算出された比率を乗じて環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
次に、環状幅算出手段は、第3の位置算出手段により算出された環状部の一方側の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における一方側の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から環状部の一方側の幅を算出する。
次に、第4の位置算出手段は、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における他方側の内側の針落ち位置の座標データに環状幅算出手段により算出された環状幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
そして、制御手段は、記憶手段に記憶された環状部の内側の針落ち位置の座標データと、第3の位置算出手段により算出された環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データと、第4の位置算出手段により算出された環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御してボタンホール縫いを行う。
これにより、鳩目ボタンホール縫い目においても、縫い幅入力手段から入力された縫い幅に応じて基準となる鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部及び環状部ともに針落ち位置の座標データを縫い幅の方向に向けて拡大・縮小することができる。その結果、一つの基準となる縫い目の縫製データから異なる縫い幅の縫製データを作成することができる。すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求めることができるので、各縫い幅毎に縫製データを準備する必要がない。
よって、ボタンホール縫いの縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<ミシンの全体構成>
以下、図面を参照して、穴かがりミシンの最良の形態について詳細に説明する。
穴かがりミシン10は、図1〜図6に示すように、ミシンモータ44(図6参照)を駆動源として縫い針の上下動並びに布送り方向に対して直交する方向に針振りを行う図示しない針上下動機構と、布送り方向に移動して被縫製物としての布と押さえ枠とを布送り方向に送る送り歯とこの送り歯による布送り量の調整を行う送りモータとしての送りステップモータ48(図6参照)とを備える送り機構と、布を保持して送り機構との協働により布を送り方向に沿って正逆方向に搬送するボタンホール縫い装置2と、上記各構成の動作制御を行う制御装置3(図6参照)と、を備えている。
【0012】
(針上下動機構、針振り機構)
針上下動機構は、ミシンモータ44により回転駆動される上軸(図示略)と、上軸の回転駆動力を上下動の往復駆動力に変換して縫い針を保持する針棒に付与するカム又はクランクを用いた動力伝達機構(図示略)と、針棒を上下動可能に保持する保持枠と、を備えている。また、針上下動機構の針棒には、保持枠を介して縫い針を保持する針棒を布送り方向に直交する針振り方向に移動させる針振りモータとしての針振りステップモータ46(図6参照)が連結されている。すなわち、針棒と針振りステップモータ46を備えることで針振り機構が構成される。
【0013】
(送り機構)
送り機構は、ミシンモータ44より回転駆動される下軸(図示略)と、カム又はクランクを利用して下軸から布送り方向及び上下方向の往復の回動力を送り歯(図示略)に付与する周知の伝達機構とを備えている。この伝達機構は、例えば、周知構造である四節リンク機構や往復動作方向を可変とする角駒などの移動体を用いて布送り方向の往復動作量及び位相を変更調節可能であり、当該変更調節の動作は送りモータとしての送りステップモータ48を駆動源として行われる。
【0014】
(ボタンホール縫い装置)
図1に示すように、ミシンフレームのアーム部先端の顎部には、バネにより下方に押圧された押さえ棒1が押さえレバーにより上下動可能に支持されている。この押さえ棒1の下端には、押さえホルダ1aが設けられ、この押さえホルダ1aには、布を押さえるボタンホール縫い装置(ボタンホール縫い手段)2が設けられている。
ボタンホール縫い装置2は、その下面が布の載置される針板の上面に対向するように配置されている。
図2に示すように、ボタンホール縫い装置2は、押さえ棒1の下端に設けられた押さえホルダ1aに取り付けられた押さえ体21と、押さえ体21に摺動自在に保持され、布を上方から押さえるとともに縫製動作中に布の布送りに伴って移動しながら布を押さえる押さえ枠22と、押さえ体21と一体に設けられたボタン保持装置(ボタン保持部)23と、ボタンホール縫いにおける縫製開始位置からの変位量を随時検出する位置検出装置24(図5参照)と、ボタン保持装置23により挟持されたボタンの径を検出するボタン径検出装置25(図4参照)と、を備えている。
【0015】
(押さえ体)
図2に示すように、押さえ体21の上面には、押さえ棒1の下端に設けられた押さえホルダ1aが押さえ体21を把持して連結するための連結棒21aが設けられており、押さえホルダ1aには連結棒21aを手動操作により把持と解除が切り替え可能な把持部が設けられている。従って、押さえホルダ1aによる連結棒21aの把持及び解放により押さえ体21を押さえ棒1に着脱自在とすることができる。
押さえ体21は、押さえ枠22の一端に設けられたうず巻きばね22aに連結されており、押さえ枠22に外部から力を与えて移動させない限り、押さえ体21は、押さえ枠22の一端に設けられたストッパ22sに当接するように付勢されている。なお、うず巻きばね22aが押さえ体21をストッパ22s側に引き寄せる方向を布送りにおける正送り方向とし、うず巻きばね22aに抗して押さえ体21をストッパ22sから引き離す方向を布送りにおける逆送り方向とする。
【0016】
(押さえ枠)
図2に示すように、押さえ枠22は、長手方向が布送り方向に沿うような略長方形状の板材から形成され、押さえ体21に対して摺動するために押さえ体21を嵌め込むガイド22bがその長手方向に沿って形成されている。押さえ枠22には、ボタンホール縫いを行うための開口が形成されている。押さえ枠22の一端に設けられたストッパ22sの内部には、押さえ枠22のストッパ22sを押さえ体21に向けて付勢するうず巻きばね22aが設けられている。このうず巻きばね22aにより、縫製開始前の押さえ枠22に設けられたストッパ22sは押さえ体21に当接した状態とされている。
【0017】
(位置検出装置)
図2、図4、図5に示すように、位置検出装置24は、押さえ体21に対する押さえ枠22の布送り方向に沿った送り量(変位量)を検出するものであり、送り量検出手段として機能する。
位置検出装置24は、いわゆるスライドボリュームで構成されている。位置検出装置24は、押さえ体21の上面に固定され、布送り方向に沿って延びる可変抵抗器24aと、可変抵抗器24a上で布送り方向に沿って摺動自在に設けられたボリュームレバー24bと、を備えている。
可変抵抗器24aは、押さえ枠22の長手方向に沿ってほぼ平行、言い換えると布送り方向に沿って設けられている。そして、可変抵抗器24a上のボリュームレバー24bの位置により可変抵抗器24aの抵抗値が変化する。
ボリュームレバー24bは、押さえ枠22に取り付けられた把持部材24cによってその移動方向両側が挟み込まれるように把持されている。そして、押さえ体21は押さえ棒1に固定されていることから、押さえ枠22が布送り方向に沿って移動することにより、把持部材24cも布送り方向に沿って移動することとなり、把持部材24cに把持されているボリュームレバー24bも布送り方向に沿って可変抵抗器24a上を移動する。従って、押さえ枠22の送り量に応じて可変抵抗器24aの抵抗値が変化し、検出される電圧値が変化する。押さえ枠22は縫いの送り動作に応じて移動を行うことから、これを利用することで、検出される電圧値の大きさで押さえ枠22の布送り方向における位置、言い換えると、ボタンホール縫いを行った縫い長さを計測することができる。
なお、可変抵抗器24aにかかる電圧値は、制御装置3で検出することができるようになっている。制御装置3は、押さえ枠22が押さえ体21に対して縫製開始位置にある状態、すなわち、押さえ枠22の一端と押さえ体21とが当接している状態からの押さえ枠22の布送り方向における位置を随時検出することができるようになっている。
【0018】
(ボタン保持装置)
図2、図3に示すように、ボタン保持装置23は、押さえ体21及び位置検出装置24の上方に固定され、ボタンの外周の一部を保持する固定部23aと、この固定部23aに対向配置されるとともに押さえ体21に移動調節可能に設けられ、固定部23aとでボタンを挟持する摺動部23bと、を備えている。固定部23a及び摺動部23bはボタンの任意の直径の両端部を挟持するようになっている。そして、摺動部23bは、押さえ体21及び固定部23aに対して移動調節可能となっているが、外力を加えない限り一定の位置でとどまるように構成され、ボタンの大きさに合わせて摺動部23bを移動させることにより、ボタンを安定した状態で挟持することができるように構成されている。
【0019】
(ボタン径検出装置)
図3、図4に示すように、ボタン径検出装置25は、ボタン保持装置23の摺動部23bに固定装備されたラック25aと、ラック25aに噛合するピニオン25bと、押さえ体21に支持されているポテンショメータ25cと、ポテンショメータ25cの出力信号を制御装置3に出力するリード線25dとを備えている。
ピニオン25bは、ポテンショメータ25cの回転量検出軸に装備されており、摺動部23bが挟持されるボタンの大きさに応じて布送り方向に沿って移動すると、摺動部23bに固定されているラック25aも同方向に移動し、その移動はピニオン25bを回転させるので、ポテンショメータ25cの回転量検出軸が回転し、摺動部23bの移動量に応じた検出信号を制御装置3に出力することが可能となっている。
リード線25dは、可変抵抗器24aにより検出された電圧値信号とポテンショメータ25cの出力信号とを制御装置3に出力するものであり、その先端には制御装置3に着脱自在とされたコネクタ26が設けられている。
【0020】
(制御装置)
図6に示すように、穴かがりミシン10には、ミシンモータ44、針振りステップモータ46、送りステップモータ48の駆動を所定の縫製プログラムに従って制御する制御装置3が設けられている。
制御装置3には、布に対する縫いの種類である縫製模様を選択入力する模様選択スイッチ41、縫製の開始及び停止の入力を行うスタートストップスイッチ42が接続されている。また、制御装置3には、縫いにおける送りピッチと針振り幅とをそれぞれ入力するための設定ボリューム49がA/D変換器49aを介して接続されている。模様選択スイッチ41は、ミシン本体表面に設けられ、ユーザによる操作指示入力がなされる表示部としての操作パネル60のタッチパネルから構成されている。スタートストップスイッチ42及び設定ボリューム49は、ミシン本体表面に設けられている。ここで、操作パネル60は、例えば、液晶表示パネル等から形成されており、制御装置3による制御の下、ユーザにミシン10の各種情報を知らせることができるようになっている。操作パネル60を模様選択として用いる場合には、その画面上に複数の縫い模様が表示され、ユーザが所望する縫い模様の上から画面に触れることにより、その触れた縫い模様が選択入力され、その選択入力された情報が制御装置3に送信される。また、操作パネル60には、ボタン径検出装置25により検出されたボタン径が表示される。また、操作パネル60は、縫製するボタンホール縫い目の縫い幅を入力することができるように構成されており、操作パネル60は、縫い幅入力手段として機能する。
【0021】
制御装置3には、ミシンモータ駆動回路43が接続され、このミシンモータ駆動回路43にミシンモータ44が接続されている。
制御装置3には、ミシンモータ44に回転駆動される上軸の軸角度を検出するエンコーダ50が接続されている。
制御装置3には、針振りステップモータ駆動回路45が接続され、この針振りステップモータ駆動回路45に針振りステップモータ46が接続されている。
制御装置3には、送りステップモータ駆動回路47が接続され、この送りステップモータ駆動回路47に送りステップモータ48が接続されている。
制御装置3には、A/D変換器25eを介してポテンショメータ25cが接続され、ポテンショメータ25cの検出出力が制御装置3に入力される。
制御装置3には、A/D変換器24fを介して位置検出装置24が接続され、検出された可変抵抗器24aにかかる電圧が検出出力として制御装置3に入力される。
制御装置3は、縫製プログラム等を実行して各部の駆動制御等を行うCPU31、縫製される縫製模様(かん止め縫い、ボタンホール縫い等)に関する縫製プログラムや縫製データ等を記憶するメモリ32を備えている。
メモリ32には、ボタンホール縫いに必要な縫製条件に関する縫製データが記憶されている。すなわち、メモリ32は、記憶手段として機能する。
【0022】
具体的には、メモリ32には、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データが記憶されている。図7に示すように、左側の側縫い部Aの内側の針落ち位置の座標データはa1,a3,a5・・・であり、左側の側縫い部Aの外側の針落ち位置の座標データはa2,a4,a6・・・である。また、右側の側縫い部Bの内側の針落ち位置の座標データはb1,b3,b5・・・であり、右側の側縫い部Bの外側の針落ち位置の座標データはb2,b4,b6・・・である。ここで、縫製の際の針落ち順序は、内側と外側が交互に針落ちするように運針される。すなわち、左側の側縫い部であればa1,a2,a3,a4,a5,a6・・・の順に、右側の側縫い部であればb1,b2,b3,b4,b5,b6・・・の順に針落ちがなされる。これらの針落ち位置は、形成された縫い目の縫い幅が、基準となる縫い幅Xを満たすよう各針落ち位置の座標が決定されている。
【0023】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、基準となる縫い幅Xに対する操作パネル60から入力された縫い幅の比率を算出する機能を実現する比率算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が比率算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、比率算出手段として機能する。
ここで、縫い幅の比率rは、操作パネル60から入力された縫い幅をYとすると、
r=X/Y
で求めることができる。
【0024】
メモリ32には、図7に示すように、CPU31に実行されることにより、基準となる縫い幅Xのボタンホール縫い目の一方の側縫い部(例えば、左側の側縫い部Aとする)の外側の針落ち位置の座標データa2,a4,a6・・・に比率算出プログラムの実行により算出された比率rを乗じて一方(左側)の側縫い部Aの外側の針落ち位置の座標データa2’,a4’,a6’・・・を算出する機能を実現する第1の位置算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が第1の位置算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、第1の位置算出手段として機能する。
【0025】
CPU31が第1の位置算出プログラムを実行すると、CPU31は、各座標データのうち、縫い幅方向の成分をr倍する。例えば、基準となるボタンホール縫い目の縫い幅Xを「4mm」とし、操作パネル60から入力された縫い幅Yを「5mm」とすると、比率r=4/5となるので、座標データの縫い幅方向の成分の座標データ(座標値)が「5」であるとすると、これにrが乗算されて縫い幅「5mm」となった左側の側縫い部A’における座標データの縫い幅方向の成分の座標データは「4」となり、左側の側縫い部の外側の位置がボタンホールから遠ざかるので、左側の側縫い部Aの縫い幅は、XからYに、すなわち、1.25倍に拡大される。
【0026】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、第1の位置算出プログラムの実行により算出された一方(左側)の側縫い部A’の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅Xの縫い目の一方(左側)の側縫い部Aの内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から一方(左側)の側縫い部の幅を算出する機能を実現する側縫い幅算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が側縫い幅算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、側縫い幅算出手段として機能する。
例えば、上記の例を用いると、左の側縫い部Aの内側の座標データが「10」であるとすると、算出された左側の側縫い部A’の外側の座標データ「4」との差、すなわち、10−4=「6」が左側の側縫い部A’の縫い幅Laとして算出される。
【0027】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、基準となる縫い幅Xのボタンホール縫い目の他方(右側)の側縫い部Bの内側の針落ち位置の座標データに、CPU31による側縫い幅算出プログラムの実行により算出された側縫い幅Laに相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して他方(右側)の側縫い部Bの外側の針落ち位置の座標データを算出する機能を実現する第2の位置算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が第2の位置算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、第2の位置算出手段として機能する。
例えば、右側の側縫い部Bの内側の針落ち位置の座標データを「12」とした場合、上記の例を用いると、側縫い幅Laは「6」と算出されたため、CPU31は、座標データ「12」に側縫い幅Laの「6」を加算して右側の側縫い部B’の外側の針落ち位置の座標データを「18」と算出する。
【0028】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、ボタン径検出装置25により検出されたボタン径に対応して、ボタン径よりもやや大きな縫製長さを算出すると共に、算出した縫製長さのボタンホール縫いを行うように縫製データに基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する機能を実現する制御プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が制御プログラムを実行することにより、制御装置3は、制御手段として機能する。
ここで、制御プログラムは、CPU31に実行されることにより、メモリ32に記憶された双方の側縫い部A,Bの内側の針落ち位置の座標データと、CPU31による第1の位置算出プログラムの実行により算出された一方(左側)の側縫い部A’の外側の針落ち位置の座標データと、CPU31による第2の位置算出プログラムの実行により算出された他方(右側)の側縫い部B’の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する機能を実現する。
【0029】
<ボタンホール縫いの流れ>
次に、図8を用いてボタンホール縫いを行う際の流れについて説明する。なお、以下の説明においては、左側の側縫い部から下縫いを経て右側の側縫い部を縫製するボタンホール縫い目の流れについて説明する。
ボタンホール縫いを行う前にミシンベッドに布を載置し、この布をボタンホール縫い装置2によって保持させる。
ミシンベッドへの布の載置が終了すると、作業者は、ボタン保持装置23の固定部23aと摺動部23bとの間にボタンホールに通すボタンを保持させる。そして、ボタンホール縫い目の形成が行われる。
【0030】
図8に示すように、ユーザにより模様選択スイッチ41からボタンホール縫いの模様選択がなされると(ステップS1)、CPU31は、左側の側縫い部の針落ち番号nを1と定義する(ステップS2)。次いで、CPU31は、選択されたボタンホール縫いの模様の基準となる縫い幅の縫製データをメモリ32から読み出す(ステップS3)。ここで、読み出す縫製データは、第1針目の座標データである。
【0031】
模様選択の後、ユーザにより操作パネル60から縫い幅が入力されると(ステップS4)、CPU31は、比率算出プログラムを実行し、縫い幅の比率rを算出する(ステップS5)。比率rの算出後、CPU31は、スタートストップスイッチ42が入力されたか否かを判断する(ステップS6)。
ステップS6において、CPU31は、スタートストップスイッチ42が入力されたと判断した場合(ステップS6:YES)、CPU31は、その座標データが側縫い部の内側の針落ち位置データであるか否かを判断する(ステップS7)。
【0032】
ステップS7において、CPU31が、内側の針落ち位置の座標データであると判断した場合(ステップS7:YES)、CPU31は、読み出した座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS8、S10)。
ステップS7において、CPU31が、内側の針落ち位置以外の座標データ(外側の針落ち位置の座標データ)であると判断した場合(ステップS7:NO)、CPU31は、第1の位置算出プログラムを実行することにより、入力された縫い幅に対応する外側の針落ち位置の座標データを算出する(ステップS9)。そして、CPU31は、算出された座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS10)。
縫製を行っている間、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了したか否かを判断する(ステップS11)。
【0033】
ステップS11において、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了していないと判断した場合(ステップS11:NO)、CPU31は、針落ち番号nに1を加算し(ステップS12)、n+1番の針落ち位置における座標データをメモリ32から読み出し(ステップS13)、ステップS7に戻る。
ステップS11において、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了したと判断すると(ステップS11:YES)、CPU31は、下縫いデータをメモリ32から読み出し、下縫いを行う(ステップS14)。下縫いが終了すると、CPU31は、メモリ32に記憶された針数だけかん止め縫いを行う(ステップS15)。
かん止め縫いの終了後、CPU31は、針落ち番号n+1番の針落ち位置における座標データをメモリ32から読み出し(ステップS16)、CPU31は、その座標データが側縫い部の内側の針落ち位置データであるか否かを判断する(ステップS17)。
【0034】
ステップS17において、CPU31が、内側の針落ち位置の座標データであると判断した場合(ステップS17:YES)、CPU31は、読み出した座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS18、S20)。
ステップS17において、CPU31が、内側の針落ち位置以外の座標データ(外側の針落ち位置の座標データ)であると判断した場合(ステップS17:NO)、CPU31は、側縫い幅算出プログラムを実行することにより、左側の側縫い部の縫い幅を算出する。さらに、CPU31は、第2の位置算出プログラムを実行して、読み出した内側の針落ち位置の座標データに算出した縫い幅方向成分の座標データを加算して、右側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する(ステップS19)。
そして、CPU31は、算出された座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS20)。
【0035】
縫製を行っている間、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了したか否かを判断する(ステップS21)。
ステップS21において、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了していないと判断した場合(ステップS21:NO)、CPU31は、針落ち番号nに1を加算し(ステップS22)、n+1番の針落ち位置における座標データをメモリ32から読み出し(ステップS23)、ステップS17に戻る。
ステップS21において、CPU31は、右側の側縫い部の縫製が終了したと判断すると(ステップS21:YES)、CPU31は、メモリ32に記憶された針数だけかん止め縫いを行い(ステップS24)、これをもって本処理を終了する。
【0036】
<作用効果>
このように、ミシン10を上記のような構成とすることにより、ユーザが操作パネル60から所望するボタンホール縫い目の縫い幅を入力すると、CPU31は比率算出プログラムを実行して、基準となる縫い幅に対する入力された縫い幅の比率を算出する。
次に、CPU31は、第1の位置算出プログラムを実行して、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の左側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データに比率を乗じて左側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
次に、CPU31は、側縫い幅算出プログラムを実行して、算出された左側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の縫い目の左側の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から左側の側縫い部の幅を算出する。
次に、CPU31は、第2の位置算出プログラムを実行して、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の右側の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データに算出された側縫い幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して右側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する。
そして、CPU31は、制御プログラムを実行して、メモリ32に記憶された左右の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、算出された左側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、算出された右側の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御してボタンホール縫いを行う。
【0037】
これにより、操作パネル60から入力された縫い幅に応じて基準となるボタンホール縫い目の針落ち位置の座標データを縫い幅の方向に向けて拡大・縮小することができる。その結果、一つの基準となる縫い目の縫製データから異なる縫い幅の縫製データを作成することができる。すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求めることができるので、各縫い幅毎に縫製データを準備する必要がない。
よって、ボタンホール縫いの縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすことができる。
【0038】
[変形例1]
次に、変形例1について説明する。変形例1は、鳩目ボタンホール縫いを行う場合の例である。
メモリ32には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データに加え、縫製可能な縫い幅毎に鳩目ボタンホール縫い目の環状部の針落ち位置の座標データとが記憶されている。
【0039】
図9に示すように、メモリ32に記憶されている制御プログラムは、CPU31に実行されることにより、鳩目ボタンホール縫いの左右の側縫い部C,Dの縫製については、メモリ32に記憶された双方の側縫い部C,Dの内側の針落ち位置の座標データと、第1の位置算出プログラムの実行により算出された左側の側縫い部C’の外側の針落ち位置の座標データと、第2の位置算出プログラムの実行により算出された右側の側縫い部D’の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する機能を実現する。従って、左右の側縫い部C,Dに関しては、上記実施形態と同様の手順で座標データを算出し、その座標データに基づいて縫製を行う。
【0040】
ただし、制御プログラムは、CPU31に実行されることにより、環状部Eの縫製については、操作パネル60から入力された縫い幅に対応する針落ち位置の座標データに基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する機能を実現する。すなわち、環状部Eに関しては、縫い幅毎に座標データを予めメモリ32に記憶させておき、CPU31は、左側の側縫い部Cの縫製終了後、操作パネル60から入力された縫い幅に対応する環状部Eの縫製データを用いて環状部Eの縫製を行う。そして、CPU31は、環状部Eの縫製の終了後に右側の側縫い部Dの縫製を行い、最後にかん止め縫いを施す。
【0041】
<鳩目ボタンホール縫いの流れ>
次に、鳩目ボタンホール縫いを行う際の流れについて説明する。なお、上記実施形態と同様の処理を行う部分については、ステップ番号を示した上で説明を省略する。
上記実施形態と同様の手順(図8のステップS1〜S11参照)で左側の側縫い部Cの縫製が終了すると、CPU31は、メモリ32から環状部Eの針落ち位置の座標データを読み出す。次いで、CPU31は、読み出した座標データに基づいて針落ちさせて環状部Eの縫製を行う。環状部Eの縫製が終了すると、CPU31は、右側の側縫い部Dの針落ち位置の座標データを読み出す。
以降は、上記実施形態と同様の手順(図8のステップS17〜S24参照)で右側の側縫い部の縫製を行い、これをもって本処理を終了する。
【0042】
すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求め、環状部Eは縫い幅分の縫製データを準備することになる。
よって、鳩目ボタンホール縫いの場合においても、左右の側縫い部C,Dについての縫製データの容量を減らすことができる。
【0043】
[変形例2]
次に、変形例2について説明する。変形例2は、鳩目ボタンホール縫いを行う場合の例であり、変形例1と違って環状部についても入力された縫い幅に応じて針落ち位置の座標データを算出する例である。
図10に示すように、メモリ32には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部F,Gの内側と外側の針落ち位置の座標データと、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部Hの内側と外側の針落ち位置の座標データとが記憶されている。ここで、環状部Hの内側の針落ち位置とは、環状部Hの内周側の針落ち位置をいい、環状部Hの外側の針落ち位置とは、環状部Hの外周側の針落ち位置をいう。
【0044】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部Hにおける縫い幅方向の中心から一方側(左側)の外側の針落ち位置の座標データに算出された縫い幅の比率を乗じて環状部H’における一方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する機能を実現する第3の位置算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が第3の位置算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、第3の位置算出手段として機能する。
【0045】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、CPU31による第3の位置算出プログラムの実行により算出された環状部H’の一方側(左側)の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部Hにおける一方側(左側)の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から環状部H’の一方側(左側)の幅を算出する機能を実現する環状幅算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が環状幅算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、環状幅算出手段として機能する。
【0046】
メモリ32には、CPU31に実行されることにより、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部Hにおける他方側(右側)の内側の針落ち位置の座標データに、CPU31による環状幅算出プログラムの実行により算出された環状幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して環状部H’における他方側(右側)の外側の針落ち位置の座標データを算出する機能を実現する第4の位置算出プログラムが記憶されている。すなわち、CPU31が第4の位置算出プログラムを実行することにより、制御装置3は、第4の位置算出手段として機能する。
【0047】
制御プログラムは、CPU31に実行されることにより、メモリ32に記憶された環状部Hの内側の針落ち位置の座標データと、CPU31による第3の位置算出プログラムの実行により算出された環状部H’における一方側(左側)の外側の針落ち位置の座標データと、CPU31による第4の位置算出プログラムの実行により算出された環状部H’における他方側(右側)の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて針上下動機構、送り機構及び針振り機構の駆動を制御する機能を実現する。
【0048】
<鳩目ボタンホール縫いの流れ>
次に、図11を用いて鳩目ボタンホール縫いを行う際の流れについて説明する。なお、上記実施形態と同様の処理を行う部分については、該当するステップ番号を示した上で説明を省略し、図11には、環状部の形成についての処理についてのみ記載する。
上記実施形態と同様の手順(図8のステップS1〜S13参照)で左側の側縫い部F’の縫製が終了すると、CPU31は、メモリ32から環状部Hにおける縫い幅方向の中心から左側の針落ち位置の座標データを読み出す(ステップS31)。次いで、CPU31は、その座標データが環状部Hの内側の針落ち位置データであるか否かを判断する(ステップS32)。
【0049】
図11に示すように、CPU31が、内側の針落ち位置の座標データであると判断した場合(ステップS32:YES)、CPU31は、読み出した座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS33、S35)。
ステップS32において、CPU31が、内側の針落ち位置以外の座標データ(外側の針落ち位置の座標データ)であると判断した場合(ステップS32:NO)、CPU31は、第3の位置算出プログラムを実行することにより、入力された縫い幅に対応する外側の針落ち位置の座標データを算出する(ステップS34)。そして、CPU31は、算出された座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS35)。
縫製を行っている間、CPU31は、左側の側縫い部の縫製が終了したか否かを判断する(ステップS36)。
【0050】
ステップS36において、CPU31は、環状部H’における縫い幅方向の中心から左側の縫製が終了していないと判断した場合(ステップS36:NO)、CPU31は、針落ち番号nに1を加算し(ステップS37)、n+1番の針落ち位置における座標データをメモリ32から読み出し(ステップS38)、ステップS32に戻る。
ステップS36において、CPU31は、環状部H’における縫い幅方向の中心から左側の縫製が終了したと判断すると(ステップS36:YES)、CPU31は、メモリ32から環状部Hにおける縫い幅方向の中心から右側の針落ち位置の座標データを読み出す(ステップS39)。
【0051】
次に、CPU31は、その標データが環状部H’の内側の針落ち位置データであるか否かを判断する(ステップS40)。
ステップS40において、CPU31が、内側の針落ち位置の座標データであると判断した場合(ステップS40:YES)、CPU31は、読み出した座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS41、S43)。
ステップS41において、CPU31が、内側の針落ち位置以外の座標データ(外側の針落ち位置の座標データ)であると判断した場合(ステップS41:NO)、CPU31は、環状幅算出プログラムを実行することにより、環状部H’の左側の縫い幅Lhを算出する。さらに、CPU31は、第4の位置算出プログラムを実行して、読み出した環状部H’の右側の内側の針落ち位置の座標データに算出した縫い幅方向成分の座標データを加算して、環状部H’の右側の外側の針落ち位置の座標データを算出する(ステップS42)。
そして、CPU31は、算出された座標データを用いてその座標位置に針落ちを行わせる(ステップS43)。
【0052】
縫製を行っている間、CPU31は、環状部H’の右側の縫製が終了したか否かを判断する(ステップS44)。
ステップS44において、CPU31は、環状部H’の右側の縫製が終了していないと判断した場合(ステップS44:NO)、CPU31は、針落ち番号nに1を加算し(ステップS45)、n+1番の針落ち位置における座標データをメモリ32から読み出し(ステップS46)、ステップS40に戻る。
ステップS44において、CPU31は、環状部H’の右側の縫製が終了したと判断すると(ステップS44:YES)、CPU31は、上記実施形態と同様の手順(図8のステップS17〜S24参照)で右側の側縫い部G’の縫製を行い、これをもって本処理を終了する。
【0053】
これにより、鳩目ボタンホール縫い目においても、操作パネル60から入力された縫い幅に応じて基準となる鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部及び環状部ともに針落ち位置の座標データを縫い幅の方向に向けて拡大・縮小することができる。その結果、一つの基準となる縫い目の縫製データから異なる縫い幅の縫製データを作成することができる。すなわち、基準となる一つの縫製データから複数の縫製データを求めることができるので、各縫い幅毎に縫製データを準備する必要がない。
よって、ボタンホール縫いの縫い幅の選択肢を減らすことなく、縫製データの容量を減らすことができる。
【0054】
なお、本発明の範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の本質的部分を変更しない範囲内で自由に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では検出装置で検出したボタン径に対応した縫製長さを演算して、この縫製長さだけ縫製するようにしたが、これに限らず、従来のボタンホール縫いのように送り歯で送りながらボタン径に対応する縫製長さを検出したら自動的に送り方向を逆にすることでボタン径に対応した縫製長さを形成するように制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ボタンホール縫い装置の概略側面図。
【図2】ボタンホール縫い装置の平面図。
【図3】ボタン保持装置の平面図。
【図4】ボタン径検出装置の平面図。
【図5】位置検出装置周囲の斜視図。
【図6】ミシンの制御系の構成を示すブロック図。
【図7】縫い幅の変更について説明する図。
【図8】ボタンホール縫いの縫製処理を説明するフローチャート。
【図9】変形例1における縫い幅の変更について説明する図。
【図10】変形例2における縫い幅の変更について説明する図。
【図11】変形例2における環状部の縫製処理を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0056】
1 押さえ棒
2 ボタンホール縫い装置(ボタンホール縫い手段)
3 制御装置(比率算出手段、第1の位置算出手段、側縫い幅算出手段、第2の位置算出手段、第3の位置算出手段、環状幅算出手段、第4の位置算出手段、)
10 ミシン
21 押さえ体
22 押さえ枠
23 ボタン保持装置(ボタン保持部)
23a 固定部
23b 摺動部
24 位置検出装置(送り量検出手段)
25 ボタン径検出装置
31 CPU
32 メモリ(記憶手段)
42 模様選択スイッチ
44 ミシンモータ
46 針振りステップモータ(針振りモータ)
48 送りステップモータ(送りモータ)
60 操作パネル(縫い幅入力手段)
80 送り歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータの駆動により上下動するとともに下端に縫い針が取り付けられた針棒を有する針上下動機構と、
前記被縫製物と前記押さえ枠とを一針ごとに送り方向に沿って送る送り歯と、
当該送り歯による送り量の調整を行う送りモータとを有する送り機構と、
針振りモータにより前記被縫製物の送り方向に直交する方向に前記縫い針の針振りを行う針振り機構と、
ボタンホール縫いに必要な縫製データが記憶された記憶手段と、
押さえ棒の下端に着脱可能に装着される押さえ体と、前記押さえ体により被縫製物の送り方向に沿って移動自在に支持されるとともに前記被縫製物の保持を行う押さえ枠と、ボタンの外周の一部を保持する固定部とこの固定部に対向するように設けられ前記固定部に対して接離するように移動自在に設けられた摺動部とを有し前記固定部と前記摺動部とでボタンを保持するボタン保持部とを備えたボタンホール縫い手段と、
前記固定部と前記摺動部の間隔からボタン径を検出してこのボタン径に対応した縫製長さのボタンホール縫いを行うように前記記憶手段に記憶された縫製データに基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御する制御手段と、を備える穴かがりミシンにおいて、
前記記憶手段には、基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データが記憶され、
ボタンホール縫い目の縫い幅を入力する縫い幅入力手段と、
基準となる縫い幅に対する前記縫い幅入力手段から入力された縫い幅の比率を算出する比率算出手段と、
基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データに前記比率算出手段により算出された比率を乗じて前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第1の位置算出手段と、
前記第1の位置算出手段により算出された一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の縫い目の前記一方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から前記一方の側縫い部の幅を算出する側縫い幅算出手段と、
基準となる縫い幅のボタンホール縫い目の他方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データに前記側縫い幅算出手段により算出された側縫い幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データを算出する第2の位置算出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第1の位置算出手段により算出された前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、前記第2の位置算出手段により算出された前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする穴かがりミシン。
【請求項2】
前記記憶手段には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データと、縫製可能な縫い幅毎に鳩目ボタンホール縫い目の環状部の針落ち位置の座標データとが記憶され、
前記制御手段は、前記左右の側縫い部の縫製については、前記記憶手段に記憶された双方の側縫い部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第1の位置算出手段により算出された前記一方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、前記第2の位置算出手段により算出された前記他方の側縫い部の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御し、
前記環状部の縫製については、前記縫い幅入力手段から入力された縫い幅に対応する針落ち位置の座標データに基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする請求項1に記載の穴かがりミシン。
【請求項3】
前記記憶手段には、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の左右の側縫い部の内側と外側の針落ち位置の座標データと、基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部の内側と外側の針落ち位置の座標データとが記憶され、
基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における縫い幅方向の中心から一方側の外側の針落ち位置の座標データに前記比率算出手段により算出された比率を乗じて環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する第3の位置算出手段と、
前記第3の位置算出手段により算出された環状部の一方側の外側の針落ち位置の座標データと基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における前記一方側の内側の針落ち位置の座標データとの縫い幅方向成分の座標データの差から環状部の一方側の幅を算出する環状幅算出手段と、
基準となる縫い幅の鳩目ボタンホール縫い目の環状部における他方側の内側の針落ち位置の座標データに前記環状幅算出手段により算出された環状幅に相当する縫い幅方向成分の座標データを加算して環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データを算出する第4の位置算出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された環状部の内側の針落ち位置の座標データと、前記第3の位置算出手段により算出された環状部における一方側の外側の針落ち位置の座標データと、前記第4の位置算出手段により算出された環状部における他方側の外側の針落ち位置の座標データと、に基づいて前記針上下動機構、前記送り機構及び前記針振り機構の駆動を制御することを特徴とする請求項1に記載の穴かがりミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−81994(P2010−81994A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251468(P2008−251468)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】