説明

窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法、基板の製造方法、及び、種結晶の製造方法

【課題】大型で、結晶性が良好な窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】Ga及びNを含む混晶からなる種結晶を準備する工程S10と、当該種結晶の表面を種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に含まれる+c極性領域または−c極性領域の一部の極性を反転させる工程と、極性が反転した部分を含む+c極性領域または−c極性領域を成長面として結晶成長させることで、窒化ガリウム系半導体単結晶を得る工程S20と、を有する窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法、基板の製造方法、及び、種結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物半導体基板を低コストで製造するためには、バルク成長技術が不可欠である。例えば、異種基板上や+c極性GaN基板上に+c極性GaNを厚膜成長したIII族窒化物半導体の結晶をバルク成長する技術がある(非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kenji Fujito et al., "Bulk GaN crystals grown by HVPE", Journal of Crystal Growth, 2009, 311, p.3011-3014
【非特許文献2】M.Bockowski, "Review: Bulk growth of gallium nitride: challenges and difficulties", Cryst. Res. Technol., 2007, 42, No.12, p.1162-1175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような異種基板上や、異種基板上から剥離して得られた+c極性GaN基板上にIII族窒化物半導体の+c極性GaN結晶をバルク成長する技術の場合、(0001)と比較して、{1−101}、{11−22}など、(0001)から傾いた面の成長速度が著しく遅い。このため、長時間の成長で徐々にこれらの遅い成長速度面が現れ、バルク成長後に得られる結晶は、(0001)から傾いた面を含んで構成される。すなわち、結晶の形状は、成長が進むにつれて先細りとなり、例えば六角すいのような形状に近づいていく。また、このような面で構成された後の結晶の拡大成長速度は、構成された低成長速度面で律速されてしまう。これらの理由などから、+c極性GaN基板上にバルク成長する技術の場合、大型な結晶が得られ難いという問題がある。
【0005】
また、得られた結晶の側面は略三角形状となるため、結晶をスライスして成長用基板と同径の定型基板を複数製造することは困難であるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、+c極性及び−c極性を含む面を結晶成長面として窒化ガリウム系半導体を結晶成長させた場合、安定的に拡径して(または径を保ち)、大型で、結晶性が良好な窒化ガリウム系半導体の単結晶が得られることを発見した。
【0007】
本発明によれば、Ga及びNを含む混晶からなる種結晶を準備する準備工程と、前記種結晶の表面を前記種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に含まれる+c極性領域または−c極性領域の中の一部の極性を反転させる反転工程と、を有する種結晶の製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記種結晶の製造方法で製造された、結晶表面を前記種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域が含まれる種結晶を準備する種結晶準備工程と、前記種結晶準備工程の後、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域を成長面として結晶成長させることで、窒化ガリウム系半導体単結晶を得る成長工程と、を有する窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記化ガリウム系半導体単結晶の製造方法を用いて得られた前記窒化ガリウム系半導体単結晶をスライスして基板を得る基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大型で、結晶性が良好な窒化ガリウム系半導体の単結晶を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態にかかる種結晶の斜視図の一例である。
【図2】本発明の実施形態にかかる種結晶の平面図の一例である。
【図3】本発明の実施形態にかかる種結晶の平面図の一例である。
【図4】本発明の実施形態にかかる種結晶の平面図の一例である。
【図5】本発明の実施形態にかかる種結晶保持部材の断面図の一例である。
【図6】本発明の実施形態にかかる種結晶保持部材の斜視図の一例である。
【図7】本発明の実施形態にかかる種結晶保持部材の断面図の一例である。
【図8】HVPE装置を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる種結晶の斜視図の一例である。
【図10】本発明の実施形態にかかる窒化ガリウム系半導体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態にかかる窒化ガリウム系半導体の製造方法で製造した窒化ガリウム系半導体の平面図の一例である。
【図12】種結晶形成用部材上の種結晶が拡大成長した状態を示す断面図である。
【図13】種結晶を拡大成長して得られた単結晶の断面図の一例である。
【図14】種結晶形成用部材上に種結晶が保持された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
<<実施形態>>
<種結晶の構成>
まず、本実施形態の種結晶の構成について説明する。
【0014】
図1に、本実施形態の種結晶10の斜視図の一例を示す。本実施形態の種結晶10は、Ga及びNを含む混晶からなり、窒化ガリウム系半導体の結晶成長に用いられる。本実施形態の種結晶10は略柱状であり、例えば、図1に示すような六角柱形状であってもよいし、図示しないが四角柱形状や円柱形状であってもよい。種結晶10のc軸方向に対して垂直な断面における最大径は、10μm以上200mm以下である。最大径とは、断面の外周上の任意の2点を結んで形成される複数の線分の中の最も長い線分の長さである。
【0015】
次に、図2乃至4に、図1に示す種結晶10の表面を、c軸と平行な2つの方向(図中、矢印A及びBで示す方向)の中の一方から観察したときの視野に映る種結晶10の一例を示す。図示するように、当該観察における視野には、+c極性領域20と、−c極性領域30とが含まれる。
【0016】
+c極性領域20とは、種結晶の表面に位置する領域であって、(1)+c極性面、及び、(2)+c極性面から90°未満の範囲で傾いた面であって当該傾斜面をc面と平行に平面研磨すると+c極性面が表出する面、の少なくとも一方を含む領域と言い換えることが可能である。さらに、+c極性領域20とは、種結晶の表面に位置する領域であって、(0001)、{h−h0l}、及び、{hh−2hl}の中の少なくとも1つの面を含む領域と言い換えることも可能である(h、lは自然数)。
【0017】
−c極性領域30とは、種結晶の表面に位置する領域であって、(1)−c極性面、及び、(2)−c極性面から90°未満の範囲で傾いた面であって当該傾斜面をc面と平行に平面研磨すると−c極性面が表出する面、の少なくとも一方を含む領域と言い換えることが可能である。さらに、−c極性領域30とは、種結晶の表面に位置する領域であって、(000−1)、{a−a0−c}、及び、{aa−2a−c}の中の少なくとも1つの面を含む領域と言い換えることも可能である(a、cは自然数)。
【0018】
以下、種結晶10の表面を、c軸と平行な2つの方向(図中、矢印A及びBで示す方向)の中の一方から見る観察を「第1のc軸方向観察」という。
【0019】
第1のc軸方向観察における視野において+c極性領域20及び−c極性領域30が含まれる場合であって、−c極性領域30の面積の方が、+c極性領域20の面積よりも大きい場合、当該視野における−c極性領域30と+c極性領域20の面積比は、50:50〜99:1とすることが好ましく、55:45〜95:5とすることが一層好ましい。
【0020】
一方、第1のc軸方向観察における視野において+c極性領域20及び−c極性領域30が含まれる場合であって、+c極性領域20の面積の方が、−c極性領域30の面積よりも大きい場合、当該視野における−c極性領域30と+c極性領域20の面積比は、50:50〜1:99とすることが好ましく、45:55〜5:95とすることが一層好ましい。
【0021】
なお、本実施形態の種結晶10は、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域20及び−c極性領域30が含まれる構成を実現できれば、その3次元的な構成は特段制限されず、あらゆるバリエーションを採用することができる。
【0022】
例えば、+c極性領域20及び−c極性領域30は、c軸と垂直な平面上に位置してもよいし、また、当該平面とは異なる平面上に位置してもよい。また、+c極性領域20及び−c極性領域30は、同一平面上に位置してもよいし、異なる平面上に位置してもよい。
【0023】
具体的には、+c極性領域20及び−c極性領域30いずれもが、c軸と垂直な平面上に位置してもよい。又は、図9の斜視図に示すように、例えば種結晶10の先端が凸状となることで、c軸と垂直な平面から所定角度M(0°<M<90°)傾いた傾斜面が形成されている場合、当該傾斜面上に、+c極性領域20及び/又は−c極性領域30が位置してもよい。
【0024】
なお、+c極性領域20と−c極性領域30との位置関係及びこれらの形状は、特段制限されない。
【0025】
このような本実施形態の種結晶10は、例えばエピタキシャル成長して得られる。本実施形態の種結晶10は単結晶からなってもよい。また、本実施形態の種結晶10は、例えばウルツ鉱型構造である。
【0026】
<種結晶の製造方法>
次に、本実施形態の種結晶10の製造方法について説明する。本実施形態の種結晶10の製造方法では、まず、Ga及びNを含む混晶からなる種結晶を準備する(準備工程)。当該種結晶は、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域20及び−c極性領域30の少なくともいずれか一方が含まれる。例えば、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域20及び−c極性領域30のいずれか一方のみが観察される種結晶を準備してもよい。
【0027】
次に、第1のc軸方向観察における視野に含まれる+c極性領域20又は−c極性領域30の中の一部の極性を反転させる(反転工程)ことで、本実施形態の種結晶10を製造する。以下、上記極性反転前(反転工程前)の種結晶を、「反転前種結晶」という。反転前種結晶の形状は特段制限されず、六角柱形状、四角柱形状、円柱形状などであってもよい。このような反転前種結晶は、従来技術を利用して製造することができる。
【0028】
次に、+c極性領域20又は−c極性領域30の中の一部の極性を反転させる手段について説明する。
【0029】
+c極性領域20の極性反転については、+c極性領域20を結晶成長面として、四角柱形状などの反転前種結晶を結晶成長させることで、{1−101}面から構成される略六角錐形状となった結晶を形成した後、原料供給量を相対的に増加させて成長することにより実現される。具体的には、III族ハロゲン化物ガス(ここでは、GaClガス)の分圧を2.5×10Pa以上、2.5×10Pa以下とし、V族元素を含むガス(ここではアンモニアガス)の分圧を5.9×10Pa以上、3.8×10Pa以下とし、成長温度を950℃以上、1100℃以下とすることが好ましい。
【0030】
以下、一例についてより詳細に説明する。
まず、例えば図5及び6に示すような種結晶形成用部材(サセプター)1を用意し、当該種結晶形成用部材(サセプター)1に反転前種結晶を保持させる。
【0031】
図5は種結晶形成用部材(サセプター)1の断面図の一例であり、図6は種結晶形成用部材(サセプター)1の斜視図の一例である。この種結晶形成用部材1は、基材11と、この基材11に突設されるとともに離間配置された複数の立設部12と、基材11を支持する支持部13とを有する。なお、立設部12の数は図示するものに限定されない。
【0032】
基材11は、例えば、平板状であり、材料は特に限定されないが、石英、グラファイト、SiCコートグラファイト、ガラス状カーボンコートグラファイト、アルミナ等の材料で構成される。基材11上には、複数の立設部12が柱状に突設されている。
【0033】
立設部12は、柱状(例えば、円柱状、四角柱状)であり、基材11に対し、着脱可能である。例えば、基材11に凹部111を形成し、この凹部111内に立設部12の基端部をはめ込み、立設部12が凹部111から着脱可能なものとしてもよい。また、基材11の凹部111を雌ねじとし、立設部12の基材11側の基端部にねじを刻設して、凹部111と、立設部12とを螺合してもよい。立設部12は、グラファイトを含んでなり、特には、グラファイトからなるものであることが好ましい。また、立設部12は、ガラス状カーボンやSiC、BNなどでコーティングされたグラファイトで構成されてもよい。例えば、このような立設部12の先端に、グラファイト、アルミナ、SiO、アルミナイトライド等を母材とする接着剤を塗布し、当該接着剤を介して、反転前種結晶を立設部12の先端に固定する。
【0034】
ここで、種結晶形成用部材1の構造は、図5及び6に示したものに限られず、図7に示すようなものとしてもよい。図7は種結晶形成用部材(サセプター)1の断面図の一例である。図7に示す例の場合には、基材11上に複数の立設部12が隣接配置され、隣り合う立設部12は、互いに接している。ただし、立設部12は、凹部内(図6では、図示略)にはめ込まれたものであるため、基材11に対し、着脱可能である。
【0035】
このような種結晶形成用部材1においては、図5乃至7に示すように反転前種結晶を保持する立設部12が周囲の部材から突出しているので、立設部12に保持された反転前種結晶への原料供給が、立設部12の周囲の部材により阻害されることを抑制することができる。
【0036】
次に、図8に示すように、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)装置3内に、種結晶形成用部材1を設置する。このHVPE装置3は、反応管31を備え、この反応管31内に、ソースボート39が設置されている。ソースボート39内には、窒化ガリウム系半導体の種結晶の原料となるIII族原料、例えば、ガリウムが配置される。また、反応管31には、ガス導入管33及び34が接続されている。
【0037】
HVPE装置3内に種結晶形成用部材1を設置した後、ガス導入管33及び34より窒素(N2)ガスを供給して反応管31内をパージする。反応管31内に供給したガスは、排出口38より排出される。反応管31内を十分パージした後、水素(H2)ガスに切替えて、ヒータ35により反応管31を昇温する。成長領域36の温度が例えば500℃前後となったら、ガス導入管34よりアンモニア(NH3)ガスを加えて昇温する。さらにGaソース37領域の温度が例えば、850℃、成長領域36の温度が例えば、1050℃になるまで昇温を続ける。
【0038】
Gaソース37領域の温度及び成長領域36の温度が安定してからガス導入管33よりHClガスを加えて供給し、ソースボート39内のガリウム(Ga)と反応させて塩化ガリウム(GaCl)を生成し、成長領域36に輸送する。このようにして、四角柱形状などの反転前種結晶から、結晶成長により{1−101}面から構成される略六角錐形状の種結晶を形成した後、原料供給量を相対的に増加させて結晶成長を行う。例えば、III族ハロゲン化物ガス(ここでは、GaClガス)の分圧を2.5×10Pa以上、2.5×10Pa以下とし、V族元素を含むガス(ここではアンモニアガス)の分圧を5.9×10Pa以上、3.8×10Pa以下とし、成長温度を950℃以上、1100℃以下とする。
【0039】
本発明者は、このような成長条件とすることで、略六角錐形状を形成した種結晶の{1−101}面上に−c極性に反転した核が形成され、核同士の合体により−c極性領域30が形成されることを確認している。また、略六角錐形状の頂点部分は+c極性を維持しやすいため、結果的に+c極性領域20を−c極性領域30が取り囲んだ状態となりやすいことを確認している。
【0040】
−c極性領域30の極性反転については、四角柱形状などの反転前種結晶を、−c極性領域30を結晶成長面として、上述した+c極性領域30の極性反転と同様な成長条件で成長することにより、−c極性領域30の外周部に+c極性領域20が形成されることを確認している。このような方法により+c極性領域と−c極性領域が含まれる結晶が作製される。
【0041】
<窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法>
次に、本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法について説明する。本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法は、図10のフローチャートに示す種結晶準備工程S10と、成長工程S20と、を含む。
【0042】
種結晶準備工程S10では、表面を種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に、極性が反転した部分を含む+c極性領域20または−c極性領域30が含まれる種結晶10を準備する。具体的には、上記本実施形態の種結晶の製造方法で得られた本実施形態の種結晶10を準備する。すなわち、実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法は、上記本実施形態の種結晶の製造方法を含んでもよい。
【0043】
成長工程S20では、種結晶準備工程S10で準備した種結晶10を用い、極性が反転した部分を含む+c極性領域20または−c極性領域30を成長面として結晶成長させることで、窒化ガリウム系半導体単結晶を得る。
【0044】
以下、このような本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法の一例について説明する。
【0045】
例えば、まず、図14に示すような、種結晶保持材4を用意する。当該種結晶保持材4は、図5及び6を用いて説明した種結晶保持部材1と同じ構成であり、基材41上に突設する立設部42が設けられている。立設部42の先端には、グラファイト、アルミナ、SiO、アルミナイトライド等を母材とする接着剤6が塗布され、この接着剤6を介して、反転前種結晶43が立設部42の先端に固定されている。
【0046】
上述のような種結晶保持材4を準備すると、立設部42の先端面に反転前種結晶43を保持させる。なお、反転前種結晶43を保持させる際、+c極性領域20および−c極性領域30のいずれを上面(図中、上側の面)として保持させてもよい。
【0047】
その後、上述した、反転工程を実行することで、本実施形態の種結晶10を製造する。次いで、このようにして得られた本実施形態の種結晶10を、結晶成長させる。
【0048】
種結晶10の結晶成長は、例えば以下のようにして行われる。HVPE装置3内に種結晶10が保持された種結晶形成用部材1を設置した状態で、ガス導入管33、34より窒素(N2)ガスを供給して反応管31内をパージする。反応管31内に供給したガスは、排出口38より排出される。反応管31内を十分パージした後、水素(H2)ガスに切替えて、ヒータ35により反応管31を昇温する。成長領域36の温度が例えば500℃前後となったら、ガス導入管34よりアンモニア(NH3)ガスを加えて昇温する。さらにGaソース37領域の温度が850℃、成長領域36の温度が例えば1050℃になるまで昇温を続ける。
【0049】
Gaソース37領域の温度及び成長領域36の温度が安定してからガス導入管33よりHClガスを加えて供給し、ソースボート39内のガリウム(Ga)と反応させて塩化ガリウム(GaCl)を生成し、成長領域36に輸送する。成長領域36では、NH3ガスとGaClが反応する。これにより、図12に示すように、各立設部12上の種結晶10が拡径するとともに、縦方向にも成長し、大型な窒化ガリウム系半導体の単結晶21を得ることができる。
【0050】
なお、アンモニアガスの分圧は、種結晶10周辺への窒化ガリウム系半導体の多結晶付着防止という観点から、1.4×10Pa以下が好ましい。また、製造性の観点から、アンモニアガスの分圧は、7.1×10Pa以上が好ましい。
【0051】
ここで、種結晶10を成長させる際に、基材11上に窒化ガリウム系半導体の多結晶が堆積することがある。この場合、基材11上の多結晶の層が非常に厚くなってしまうと、種結晶10に付着してしまうおそれがある。そこで、立設部12の基端部の外周にねじを刻設するとともに、基材11表面に形成された凹部111に雌ねじを形成し、立設部12の先端部の種結晶10の基材11からの高さを調整し、基材11上の多結晶が種結晶10に付着してしまうことを防止してもよい。
【0052】
さらに、基材11表面の位置によって多結晶の堆積のしやすさに違いがあるため、各立設部12の先端の基材11からの高さをそれぞれ調整することもできる。
【0053】
さらに、種結晶10をある程度拡大成長させた後、基材11上に堆積した多結晶が種結晶10に付着する前に、種結晶10が設けられた種結晶形成用部材1をHVPE装置3から取り出し、立設部12を基材11から取り外した後に基材11上に堆積した多結晶を除去(基材11を洗浄)してもよい。その後、立設部12を基材11に取り付け、種結晶10を再度拡大成長させることができる。
【0054】
さらに、種結晶10を成長させる前に、予め基材11上に薄く多結晶を堆積させるか、成長によって基材11上に厚く付着した多結晶の層を除去する際にわずかに残すなどして、基材11上に多結晶の層を形成する。このようにすることで、立設部12周辺に供給される原料が、基材11上の多結晶に優先的に消費され、立設部12に新たに多結晶が発生することが抑制できる。そのため、単結晶21を多結晶との合体なしに単独で拡大できるため、窒化ガリウム系半導体の単結晶21の結晶性を良好なものとすることができる。
【0055】
また、種結晶10をある程度拡大成長させた後、基材11から一部の立設部12を取り外し、立設部12間の間隔をあけて、拡大成長した種結晶10同士がぶつからないように調整してもよい。拡大成長した種結晶10同士を合体させずに、複数の窒化ガリウム系半導体の単結晶を得ることが好ましい。例えば、N個(複数)の種結晶10を拡大成長させて、そのうちの10%以上の種結晶10(N×0.1個以上)が互いに合体することなく成長し、複数の窒化ガリウム系半導体の単結晶(N×0.1個以上)が得られることが好ましい。
【0056】
さらに、種結晶10をある程度拡大成長させた後、基材11から一部の立設部12を取り外し、結晶性が良好でないものを間引いてもよい。
【0057】
以上のようにして得られた窒化ガリウム系半導体の単結晶をスライスして、複数の窒化ガリウム系半導体自立基板または複数の窒化ガリウム系半導体の種結晶基板(本実施形態の種結晶10)を得ることができる。また、以上のようにして得られた窒化ガリウム系半導体の単結晶から所定形状(例:六角柱形状、四角柱形状、円柱形状など)の結晶を所定位置から切り出して、本実施形態の種結晶10を得ることができる。
【0058】
<作用効果>
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0059】
本実施形態では、Ga及びNを含む混晶からなる種結晶であって、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域と、−c極性領域とが含まれる種結晶を用い、当該視野に含まれる結晶面を結晶成長面として、窒化ガリウム系半導体を結晶成長する。すなわち、+c極性領域及び−c極性領域のいずれもが含まれる結晶成長面に原料ガスを供給して、窒化ガリウム系半導体を結晶成長する。
【0060】
このように、+c極性及び−c極性を含む面を結晶成長面として窒化ガリウム系半導体を結晶成長させる本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法によれば、+c極性のみからなる結晶成長面上に窒化ガリウム系半導体を結晶成長させる場合に比べて、大型な窒化ガリウム系半導体の単結晶を、効率的に製造することができる。このような結果となるメカニズムは明らかでないが、当該事実は以下の実施例により明らかにされている。なお、+c極性領域に関しては、c軸方向から傾いた方向(例えば<1−101>)の成長速度は遅いが、c軸方向[0001]の成長速度は速い。一方、−c極性領域に関しては、c軸方向[000−1]の成長は+c極性のc軸方向[0001]に比べて遅いが、c軸方向から傾いた方向(例えば<1−10−1>)の成長速度はc軸方向[000−1]に比べて著しく速いということを確認している。本発明者は、本件のような+c極性領域及び−c極性領域が結晶成長面に混在した場合、+c極性領域におけるc軸方向の成長速度、及び、−c極性領域におけるc軸方向から傾いた方向の成長速度の相乗効果により、上記結果が得られるのでないかと予測している。
【0061】
また、本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法によれば、上記種結晶は拡径しながら拡大成長していくことで、大型な窒化ガリウム系半導体の単結晶となる。本発明者は、本実施形態の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法により得られた窒化ガリウム系半導体単結晶を分析した結果、得られた窒化ガリウム系半導体単結晶のc軸方向に対して垂直な断面は、種結晶の状態での+c極性領域及び−c極性領域の形状に関わらず、図13に示すように、+c極性領域20を−c極性領域30が取り囲むような状態になりやすいことを確認した。また、結晶成長により得られた窒化ガリウム系半導体単結晶の結晶成長面も同様に、+c極性領域を−c極性領域が取り囲むような状態になりやすいことを確認した。さらに、このような結晶成長面は、−c極性領域の面積の方が、+c極性領域の面積よりも大きくなりやすいことを確認した。図11に、本実施形態の製造方法によって得られた窒化ガリウム系半導体単結晶の結晶成長面を示す。図からも、上述の結果が得られていることが分かる。すなわち、−c極性領域の結晶成長面における面積の増加が、上記拡径に寄与していると考えられる。
【0062】
また、本実施形態では、第1のc軸方向観察における視野において+c極性領域及び−c極性領域が含まれる場合であって、−c極性領域の面積の方が、+c極性領域の面積よりも大きい場合、当該視野における−c極性領域と+c極性領域の面積比は、50:50〜99:1、好ましくは、55:45〜95:5とする。このようにすることで、全面が−c極性領域の場合と比較して、多結晶の発生を抑制して持続的にc軸方向成長が行われ、c軸方向成長速度を速めることができ、径方向も拡径することができる。
【0063】
さらに、本実施形態では、第1のc軸方向観察における視野において+c極性領域及び−c極性領域が含まれる場合であって、+c極性領域の面積の方が、−c極性領域の面積よりも大きい場合、当該視野における−c極性領域と+c極性領域の面積比は、50:50〜1:99、好ましくは、45:55〜5:95とする。このようにすることで、全面が+c極性領域の場合と比較して、−c極性成長領域の存在と−c極性領域の拡大により、{1−101}面などの形成による成長阻害が無く、持続的にc軸方向成長が行われ、径方向も拡径することができる。
【0064】
また、本実施形態では、HVPE法により種結晶を製造することができるため、この種結晶を、HVPE法を使用して拡大成長させた場合に、結晶性の良好な窒化ガリウム系半導体の単結晶を得ることができる。
【0065】
例えば、アモノサーマル法や、Naフラックス法等の液相成長で種結晶を製造し、その後、成長速度の比較的速い、気相成長法のHVPE法により、種結晶を拡大成長させた場合、種結晶の製造方法と、種結晶を拡大成長させる方法とが大きく異なり、製法の違いによる不純物元素の種類とその濃度差などに起因して、窒化ガリウム系半導体の単結晶に歪みやクラック等が発生しやすいと考えられる。
【0066】
本実施形態のように、種結晶の製造及び拡大成長を、同じ成長方法で実施することでこのような問題を解決することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、種結晶の製造及び拡大成長をHVPE法で実施したが、例えば、種結晶製造をMOCVD法で実施し、種結晶の拡大成長をHVPE法で実施した場合にも、アモノサーマル法や、Naフラックス法等で種結晶を製造し、その後、HVPE法により拡大成長させる場合に比べれば、HVPE法と同じ気相成長という点でドーピングガスによる不純物制御が容易であり、HVPE成長時に結晶に取り込まれる不純物元素とその濃度を近づけた種結晶を得ることができるので、窒化ガリウム系半導体の単結晶の歪み等を抑制することができる。
【0068】
さらに、本実施形態では、HVPE装置内で種結晶を形成し、当該種結晶をHVPE装置から出さずに、そのまま種結晶を拡大成長させることができる。かかる場合には、種結晶をHVPE装置から取り出すことで種結晶が汚染されてしまう不都合を回避できる。
【0069】
また、本実施形態では、種結晶を拡大成長させる処理中に、窒化ガリウム系半導体に1×1017cm−3以上の酸素がドープされることを本発明者は確認している。かかる場合、別途キャリアをドープする工程を設ける必要がないため、作業効率が向上するというメリットがある。
【0070】
なお、上記作用を実現するため、本実施形態では、HVPE装置の部材、例えば反応管を石英で構成することができる。このようにすれば、ドーピングガスを導入することなく反応管内に酸素を供給できるので好ましい。なお、当該手段で供給される酸素は、(1)原料由来の酸素、例えばHCl、NH中の水由来の酸素や、(2)石英(SiO2)とGaClとの反応により発生する酸素や、(3)大気中の酸素、水分由来の酸素などが考えられる。
【0071】
<変形例>
ここで、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0072】
例えば、上記例では、柱状の反転前種結晶に反転領域を形成し、窒化ガリウム系半導体の単結晶を成長させたが、その他、基板形状の反転前種結晶に、同様の手段で反転領域を形成し、窒化ガリウム系半導体の単結晶を成長させてもよい。本発明者は、当該例においても同様の作用効果を得られることを確認している。
【0073】
また、上記例では、相対的な原料供給量の増加により反転前種結晶に反転領域を形成したが、原料供給量の増加に代えて(または加えて)、反転前種結晶を支持する立設部12、基材11等の構成の調整や、種結晶形成用部材1の成長領域36内での位置関係の調整等を行い、実効的な原料供給量を増加させることでも同様の作用効果を実現することができる。
【0074】
また、前記実施形態では、種結晶10をHVPE法により成長させていたが、これに限らず、MOCVD法で成長させてもよい。ただし、比較的成長速度の速いHVPE法により成長させることで、MOCVD法と比較して短時間で種結晶10が得られるという利点がある。
【0075】
さらに、前述の実施形態では、複数の核が合体しないように、III族ハロゲン化物ガスの分圧等を調整するとしたが、これに限らず、例えば、複数の核が形成された後、一部の核を除去して、核同士の間隔をあけ、残った複数の核を成長させて種結晶10を製造してもよい。
【0076】
また、核を形成する際、あるいは形成後に、立設部12へむけて塩化水素ガスを供給し、立設部12上に形成される核の一部が塩化水素ガスでエッチングされるようにしてもよい。このようにすることで、核間の間隔を広く確保することができ、核同士を合体させずに、種結晶10を成長させることができる。
【0077】
さらに、前記実施形態では、立設部12上に形成した種結晶10をそのまま用い、当該種結晶10を拡大成長させて、窒化ガリウム系半導体の単結晶21を得たが、反転工程の後、かつ、拡大成長の前に種結晶10を一度立設部12上から取り外し、再度保持させた後に、種結晶10を拡大成長させることもできる。さらに、前記実施形態では、立設部42に対し、接着剤6を介して種結晶10を固定していたが、これに限らず、種結晶10が立設部42から落下しないような構造とすれば、接着剤6は使用しなくてもよい。
【0078】
また、本実施形態においては、上述した種結晶の製造方法で得られた窒化ガリウム系半導体の単結晶から所定形状の結晶を切り出すことで、表面を第1のc軸方向観察したときの視野に+c極性領域20と−c極性領域30とが含まれる種結晶10を製造することもできる。なお、切り出した結晶は、切り出し面のすべてを研磨加工し、その後CMP(Chemical Mechanical Polish)処理や、ドライエッチング処理を行って加工変質層を取り除くことが好ましい。
【実施例】
【0079】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0080】
(実施例1)
(種結晶の製造)
種結晶形成用部材としては、図14に示した種結晶形成用部材4を使用した。種結晶形成用部材4は、基材41と、立設部42とを備える。基材41、立設部42の材料はグラファイトである。また、立設部42は、円柱形状であり、その径は、3mmである。立設部42間の間隔は、20mmであり、種結晶形成用部材4の基材41表面側からみて、立設部42は、正方格子の格子点上に配置されている。
【0081】
立設部42の先端に、アルミナを母材とする接着剤6を塗布し、反転前種結晶43を、反転前種結晶43のc軸方向と立設部42の中心軸の方向がなるべく一致するように固定した。なお、−c極性領域30が露出するように(図14中、上側を向くように)、固定した。
【0082】
その後、反転前種結晶43の−c極性領域30の一部の極性を反転させた。具体的には、下記成長条件で成長を行って−c極性領域30の一部に+c極性領域20を形成した。
【0083】
製造方法:HVPE法
成長温度:1050℃
原料ガス:HClガス 200cc/min、NHガス3.8L/min
キャリアガス:Hガス 16L/min
成長時間:1h
【0084】
(結果)
本実施例では、−c極性領域30の外周部に+c極性領域を形成した種結晶10を得ることができた。そして、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域(Ga領域)20及び−c極性領域(N領域)30が含まれていた。なお、当該観察にあたっては、数多くの結晶について、アズグロウン状態の表面モフォロジーとコントラストをSEMで観察した後、結晶のリン酸硫酸エッチング耐性による極性判別を行って、対応を調査することにより、アズグロウンの表面モフォロジーとコントラストが+c極性と−c極性とで特徴的に異なっていることを予め確認した。このことにより、アズグロウン結晶の極性判別が表面SEM観察のみでほぼ可能となった。
【0085】
また、種結晶10のc軸と平行な方向から観察したときの視野における+c極性領域20と−c極性領域30との面積比は、10:90程度であった。
【0086】
また、種結晶10のc軸方向に対して垂直な断面における最大径は、2mmであり、高さ(厚みH)/直径(L)は、1.5であった。
【0087】
本発明者は、反転前種結晶43の+c極性領域20の極性を反転させた場合においても、同等の結果が得られることを確認した。
【0088】
(窒化ガリウム系半導体単結晶の製造)
上述のようにして、立設部12上に種結晶10を形成した後、種結晶形成用部材1をHVPE装置3から取り出し、一部の立設部12を種結晶形成用部材1から取り外した。そして、立設部12間の間隔を20mmとした。その後、再度、種結晶形成用部材1をHVPE装置3内に配置し、複数の種結晶10を同時に拡大成長させた。製造条件は以下の通りである。
【0089】
製造方法:HVPE法
成長温度:1050℃
原料ガス:HClガス 50cc/min、NHガス1.0L/min
キャリアガス:Hガス 7L/min
ソース :Gaソース(850℃)
成長時間:50時間
【0090】
(結果)
上記成長時間で、複数の種結晶10は互いに合体することなく成長し、直径5mm程度、高さ7mm程度の複数(種結晶と同数)の単結晶を得ることができた。その形状は六角柱状であった。
【0091】
また、得られた結晶(種結晶を拡大成長させた結晶)は、X線回折でいずれも単結晶(半値幅FWHMが70arcsec以下)であることがわかった。
【0092】
また、単結晶をスライスし、基板を得た。そして、基板の表面をリン酸硫酸溶液中で240℃、1.5時間処理してエッチピットを形成し、基板の転位密度を評価したところ、いずれも良好な結晶品質であることがわかった。
【0093】
本発明者は、反転前種結晶43の+c極性領域20の極性を反転させた場合においても、同等の結果が得られることを確認した。
【0094】
(実施例2)
(種結晶の製造)
Φ3mm、厚さ0.4mmに切り出したGaN基板の−c極性領域30上に、RFスパッタ法で厚さ100nmのSiO膜を形成した後、フォトレジストを用いたパターニングにより、GaN基板の中心付近に、−c極性領域30が露出する直径0.3mmの開口部を備えたSiOマスクを形成した。その後下記の成長条件で成長を行った。
【0095】
製造方法:HVPE法
成長温度:1050℃
原料ガス:HClガス 200cc/min、NHガス3.8L/min
キャリアガス:Hガス 16L/min
成長時間:10min
【0096】
成長後の基板をフッ酸に浸してSiO膜を溶解除去するとともに、SiO膜上に形成されたGaN多結晶をリフトオフして取り除いた。また、水洗後、100℃に保温したリン酸硫酸溶液(リン酸:硫酸=1:1)中で30minエッチング処理を行なった。再度水洗してN2ブローにより乾燥を行った。このようにして種結晶10を製造した。
【0097】
(結果)
このような方法では、基板状の種結晶10を得ることができた。そして、第1のc軸方向観察における視野において、+c極性領域(Ga極性領域)20及び−c極性領域(N極性領域)30が含まれていた。なお、当該観察は、リン酸硫酸のエッチング後のモフォロジー変化をSEM観察することにより+c極性領域と−c極性領域の判別を行った。
【0098】
また、種結晶10のc軸と平行な方向から観察したときの視野における+c極性領域20と−c極性領域30との面積比は、0.3:99.7程度であった。
【0099】
(窒化ガリウム系半導体単結晶の製造)
上述のようにして、立設部12上に種結晶10を形成した後、実施例1と同様な手段により、窒化ガリウム系半導体単結晶を製造した。
【0100】
(結果)
上記成長時間で、直径5mm程度、高さ7mm程度の複数(種結晶と同数)の単結晶を得ることができた。その形状は六角柱状であった。
【0101】
また、得られた結晶(種結晶を拡大成長させた結晶)は、X線回折でいずれも単結晶(半値幅FWHMが70arcsec以下)であることがわかった。
【0102】
また、単結晶をスライスし、基板を得た。そして、基板の表面をリン酸硫酸溶液中で240℃、1.5時間処理してエッチピットを形成し、基板の転位密度を評価したところ、いずれも良好な結晶品質であることがわかった。
【0103】
(比較例1)
(種結晶の製造)
比較例1の種結晶(以下、「比較例1種結晶」という)として、種結晶の表面を、種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に、+c極性領域のみが観察される種結晶を準備した。比較例1種結晶のc軸方向に対して垂直な断面における最大径は、1mmであり、高さ(厚みH)/直径(L)は、0.85であった。
【0104】
(窒化ガリウム系半導体単結晶の製造)
種結晶形成用部材4としては、図14に示したものを使用した。種結晶形成用部材4は、基材41と、立設部42とを備える。基材41、立設部42の材料はグラファイトである。また、立設部42は、円柱形状であり、その径は、3mmである。立設部42間の間隔は、20mmであり、種結晶形成用部材4の基材41表面側からみて、立設部42は、正方格子の格子点上に配置されている。
【0105】
立設部42の先端に、アルミナを母材とする接着剤6を塗布し、比較例1種結晶を、当該比較例1種結晶のc軸方向と立設部42の中心軸の方向がなるべく一致するように固定した。なお、+c極性領域が図14中上側を向くように固定した。その後、種結晶形成用部材4をHVPE装置3内に配置し、実施例1と同様の成長条件で、比較例1種結晶を成長させた。
【0106】
(結果)
上記成長時間で、比較例1種結晶は、直径2mm程度、高さ1.7mm程度まで成長した。その形状は六角錐形状であった。また、六角錐先端付近に多結晶が発生することがあった。
【0107】
−c極性領域のみが観察される種結晶についても同様に試験した結果、全く成長しないか、成長したとしても成長速度が著しく遅く、−c極性面に多結晶が発生することがあった。
【符号の説明】
【0108】
1 種結晶形成用部材
3 HVPE装置
4 種結晶保持材
6 接着剤
10 種結晶
11 基材
12 立設部
13 支持部
20 +c極性領域
21 単結晶
30 −c極性領域
31 反応管
33 ガス導入管
34 ガス導入管
35 ヒータ
36 成長領域
37 ソース
38 排出口
39 ソースボート
41 基材
42 立設部
43 反転前種結晶
111 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga及びNを含む混晶からなる種結晶を準備する準備工程と、
前記種結晶の表面を前記種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に含まれる+c極性領域または−c極性領域の中の一部の極性を反転させる反転工程と、
を有する種結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の種結晶の製造方法において、
前記反転工程の後、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域を成長面として結晶成長させることで、窒化ガリウム系半導体単結晶を得る成長工程と、
前記窒化ガリウム系半導体単結晶から所定形状の結晶を切り出すことで、結晶表面を前記種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域が含まれる種結晶を形成する形成工程と、
をさらに有する種結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の種結晶の製造方法において、
前記+c極性領域は、種結晶の表面に位置する領域であって、+c極性面、及び、+c極性面から90°未満の範囲で傾いた面であって当該傾斜面をc面と平行に平面研磨すると+c極性面が表出する面、の少なくとも一方を含む領域であり、
前記−c極性領域は、種結晶の表面に位置する領域であって、−c極性面、及び、−c極性面から90°未満の範囲で傾いた面であって当該傾斜面をc面と平行に平面研磨すると−c極性面が表出する面、の少なくとも一方を含む領域である種結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の種結晶の製造方法において、
前記+c極性領域は、種結晶の表面に位置する領域であって、(0001)、{h−h0l}、及び、{hh−2hl}の中の少なくとも1つの面を含む領域(h、lは自然数)であり、
前記−c極性領域は、種結晶の表面に位置する領域であって、(000−1)、{a−a0−c}、及び、{aa−2a−c}の中の少なくとも1つの面を含む領域(a、cは自然数)である種結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の種結晶の製造方法で製造された、結晶表面を前記種結晶のc軸と平行な2つの方向の中の一方から観察したときの視野に、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域が含まれる種結晶を準備する種結晶準備工程と、
前記種結晶準備工程の後、極性が反転した部分を含む前記+c極性領域または前記−c極性領域を成長面として結晶成長させることで、窒化ガリウム系半導体単結晶を得る成長工程と、
を有する窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記成長工程は、気相成長法により、前記種結晶を成長させる窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記気相成長法は、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法である窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記成長工程では、前記種結晶は、拡径しながら、または径を保ちながら成長する窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記結晶成長の処理中に、前記窒化ガリウム系半導体に1×1017cm−3以上の酸素がドープされる窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記結晶成長後の前記窒化ガリウム系半導体の結晶成長面において、前記−c極性領域の面積が、前記+c極性領域の面積よりも大きい窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法において、
前記結晶成長後の前記窒化ガリウム系半導体の結晶成長面において、前記−c極性領域が、前記+c極性領域を取り囲んでいる窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法。
【請求項12】
請求項5から11のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系半導体単結晶の製造方法を用いて得られた前記窒化ガリウム系半導体単結晶をスライスして基板を得る基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−211038(P2012−211038A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77199(P2011−77199)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】