説明

窒化チタンの除去方法

【課題】 反応器内の内壁や部品に付着した窒化チタン残留物の効果的な除去方法を提供する。
【解決手段】 (a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して富化された処理ガスを生成させ、この富化を第一の場所で行うこと、(c)基体表面の少なくとも一部が窒化チタンで被覆されている基体を、50℃を超える基体温度で供給すること、そして(d)当該基体表面の窒化チタンを、富化された処理ガスと接触させて基体表面から窒化チタンを揮発、除去し、この接触を第一の場所とは異なる第二の場所で行うこと、を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化チタンの除去方法に関し、更に詳細には、反応器内の内壁や部品に付着する窒化チタン残留物の効果的な除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタンは、通常、導電性物質が絶縁体やトランジスタの活性領域に拡散又は移行して入り込むことを防止するために働く、集積回路における拡散バリアとして使用されている。それは、また、導電体とそれを囲む絶縁、誘電体との間の離層や空隙を排除する定着剤としても使われている。最終物質並びに反応体を含むTiN残留物の析出中に、それが反応器内の内壁に沿って、また部品表面に析出する。これら残留物の付着から粒子の発生を軽減させるために、反応器内のチェンバーや部品は、定期的に洗浄しなければならない。したがって、かかる窒化チタンに係る効果的な除去方法が必要とされている。
【0003】
半導体の製造における有用性に加えて、窒化チタンは、屡、航空宇宙や自動車の用途における塗膜として使用される。窒化チタンの薄膜を析出させるために使われる反応器は、工程の均一性を確保するために、一定のスケジュールで洗浄しなければならない。その結果として、これらの反応器を洗浄する迅速で経済的な手段を講じることが必要となる。
【0004】
また、窒化チタンは、種々の機械部品を被覆するためにも使われている。時には、塗工の作業中あるいはその後に、塗膜が剥離したり、部品に要求される均一性が損なわれたりすることがある。度々、かかる「欠陥のある」部品は廃棄するか、低価格で欠陥部品として売却しなければならない。仮に、当該塗膜が、内在する部品表面や形態を損傷すること無しに部品から取り除くことができるならば、そのときは「下塗」部品として再塗工され、使用することが可能となる。
【0005】
現在、スクラビングやブラスチングのような機械的手段、又は湿式化学溶液法が、通常、窒化チタンの処理チェンバー及び当該チェンバーから外された部品を洗浄するために使われている。
【0006】
湿式洗浄又は機械洗浄と比較すると、反応性ガス洗浄では、反応器の真空を存続しているので、結果として、チェンバーの停止時間を極度に最小限度に抑え、またウェファーの処理量を増大させることが可能となる。反応性ガス洗浄法の特徴は、他の場面でも有効であることが知られているが、かかる方法は、表面からの窒化チタンの除去にとって完全に満足するということはなかった。例えば、C26及びO2のような酸素とフッ素を含有するガス混合物源を励起させる遠隔プラズマを用いて、W/TiNゲート構造から窒化チタンの薄膜を除去する乾式エッチング法を教示する米国特許第5,948,702号明細書には、約110nm/分未満の窒化チタンのエッチング速度しか開示されていない。
【0007】
他の材料に関する窒化チタンのエッチング選択性を高めるか、あるいは窒化チタンのエッチング速度を高める目的で、高温にされた基体温度を使用することが示唆されてきた。例えば、基体が最初50〜200℃に加熱され、次いでCF4、C26、及びCHF3のようなハロカーボンの供給ガスから発生するプラズマに曝されるプラズマエッチングによって、耐熱珪化金属の下層に対して耐熱窒化金属層を選択的にエッチングする方法を開示する米国特許第5,419,805号明細書、及び、例えば、高温エッチングがRF動力源電極の裏面側へのヘリウム冷却を止めることで発生するパッドエッチングによって、集積回路の導体を覆う反射防止膜を除去する方法を教示する米国特許第6,177,355号明細書を参照されたい。高温を使用するにも拘わらず、これらの方法によって達成されるエッチング速度には、改良の余地が残されている。
【0008】
処理チェンバーから生じる薄膜を洗浄する方法が、日本国特許第2,833,684号明細書において論じられている。この特許には、薄膜処理装置内で生じる窒化チタンを含む化学物質の析出物を洗浄する方法が開示されている。特に、当該特許には、150〜600℃の温度下で、三フッ化窒素に対してフッ素を添加する方法が教示されている。この特許には、単に熱的加熱を用いること以外に、プラズマの使用については教示がない。
【0009】
同一反応系でプラズマを使用する窒化チタンのプラズマエッチングを教示する参考文献には、WO98/42020、WO00/19491及びWO02/013241号公報が含まれる。当該処理ガスは、Cl含有又はF含有化合物のいずれか、例えば、Cl2、HCl、BCl3、CF4、SF6、CHF3、もしくはNF3であってよい。
【0010】
WO00/19491号公報には、窒化チタンの析出チェンバーを洗浄することの関係で、高温を使用することが教示されている。当該出願では、現場でのプラズマ活性化を用い、あるいは用いないで、高温下で塩素ガスをチェンバー内に導入することによる現場での処理チェンバーの洗浄に焦点を合わせている。本願で教示されている500〜700℃という高温は、実質的に、処理チェンバーに係る熱的予算を増加させ、また所有コストを増加させることになる。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,948,702号明細書
【特許文献2】米国特許第5,419,805号明細書
【特許文献3】米国特許第6,177,355号明細書
【特許文献4】日本国特許第2,833,684号明細書
【特許文献5】WO98/42020号公報
【特許文献6】WO00/19491号公報
【特許文献7】WO02/013241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明では、処理チェンバー又は部品の表面のようなそれぞれの表面から、高いエッチング速度で、窒化チタンを除去する方法を提供することを目的とする。また、本発明では、当該チェンバー又は部品の表面を損傷すること無しに、かかる除去を達成する方法を提供することを目的とする。更に、本発明では、表面から窒化チタンを除去する、効率的でかつ効果的である反応性ガス法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化し、この富化を第一の場所で行うこと、(c)基体表面の少なくとも一部が窒化チタンで被覆されている基体を、50℃を超える基体温度で供給すること、そして(d)当該基体表面の窒化チタンを、富化された処理ガスと接触させて基体表面から窒化チタンを揮発、除去し、この接触を第一の場所とは異なる第二の場所で行うこと、を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法が提供される。
【0014】
また、本発明の他の一態様によれば、(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して、富化された処理ガスを生成させること、(c)基体表面の少なくとも一部が窒化チタンで被覆されている基体を、50℃〜900℃の基体温度で供給すること、そして(d)当該基体表面の窒化チタンを、実質的にイオンを含まない富化された処理ガスと接触させて、180nm/分を超えるエッチング速度で基体表面から窒化チタンを揮発、除去すること、を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法が提供される。
【0015】
更に、本発明の他の態様によれば、(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して、富化された処理ガスを生成させ、この富化を第一の場所で行うこと、(c)基体を、50℃〜900℃の基体温度で供給すること、そして(d)当該基体表面上のチタンと窒素との二成分系化合物を含む塗膜を、富化された処理ガスと接触させて、180nm/分を超えるエッチング速度で基体表面から当該塗膜を揮発、除去し、この接触を第一の場所とは異なる第二の場所で行うこと、を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法が提供される。
【0016】
更に本発明によれば、処理反応器とは別個の洗浄処理反応器、離れた位置にあるプラズマ発生器、洗浄処理反応器全体にわたってガス流を供給するために用いられるガスディストリビュータ、加熱装置、及び洗浄処理反応器から反応性ガスを除去し、生成物を揮発させるために用いられるポンプ設備を含んでなる、本発明方法を行うための装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書には、反応性ガス洗浄を用いて基体表面から窒化チタンを除去する方法が記載されている。反応性ガス洗浄の要件は、固体の非揮発性材料を、(例えば、真空ポンプによって)除去が可能な揮発性化学種に転換することである。熱力学的に好ましいことに加えて、転換のための化学反応は、また、反応速度論的にも、実行可能性のあることが必要である。窒化チタンが化学的に不活性であることに起因して、当該反応が進むような、活性エネルギーのバリアを克服するための外部エネルギー源が必要である。外部エネルギー源は、熱的賦活の形態で提供されることが好ましい。熱的賦活に含まれる比較的高い温度では、化学反応が促進されて、反応副産物をより揮発性にする。しかしながら、製造チェンバー内の温度に関しては実行上の限界がある。
【0018】
本発明者らは、処理ガスが、高められた濃度の活性化学種を有するように処理されるときには、その熱的賦活温度は過度に高くないことが必要であることを見出している。熱的賦活と処理ガスの反応性化学種の富化とを組み合わせることによって、熱的賦活のみの実施よりも、一層、効果的で効率的な基体表面からの窒化チタンの除去法が得られる。
【0019】
よって、熱的賦活された基体が処理ガスと接触すると、基体表面に析出した窒化チタンが揮発する。当該処理ガスは、それに反応性化学種を与える(あるいはその発生を増加させる)ように処理される。本明細書で使用される「反応性化学種」とは、窒化チタンと反応して揮発性の生成物を生成できるラジカルを意味する。フッ素及び塩素のラジカルは、特に、反応性化学種の具体例として好ましい。
【0020】
離れた位置にあるプラズマ発生器は、処理ガスを反応性化学種で富化する最も好ましい手段である。しかしながら、本発明はそれに限定されない。当該処理ガス中の反応性ラジカルの濃度を高める他の手段、例えば、離れた位置にある炉内での処理ガスの加熱、及び紫外線による処理ガスの解離等も、本発明の技術的範囲内である。
【0021】
その場のプラズマ発生器、並びに離れた位置にあるプラズマ発生器は、反応性化学種を与えることはできるが、その場でのプラズマ賦活では、望ましくない副作用が生じることもある。その場でのプラズマを使用すると、イオン衝撃のため、基体に損傷を与える結果となることがある。その場でのプラズマとは違って、離れた位置にあるプラズマでは、イオン衝撃により生じる基体への損傷無しに、窒化チタンの除去を容易にする反応性化学種を発生させることができる。損傷のない基体は、離れた位置にあるプラズマ発生器に存在するイオンが、離れた位置にあるプラズマ発生器から洗浄されるべき基体表面を収容する反応器までの通路において中性化されることの証拠である。よって、窒化チタンが、基体の損傷無しに基体から除去されるときには、この処理ガスには実質的にイオンが含まれていない。当該処理ガスは、そのイオン濃度が106/cm3未満であるときに、実質的にイオンが含まれない。
【0022】
加えて、離れた位置にあるプラズマ単位装置では、存続する装置システムに装置の改善を施すことが一層容易となる。よって、反応性ガスを用いて析出チェンバーを洗浄するときには、離れた位置にあるプラズマ発生器を使用することが好ましい。かかる実施態様によって、イオン衝撃による基体の損傷無しに、基体から窒化チタンの一部又は全てを除去することが可能となる。
【0023】
好適なプラズマ発生器の具体例には、マイクロ波プラズマ発生器及びRFプラズマ発生器が含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
処理ガスには、少なくとも一種の反応性ガスが含まれ、そして選択的に、少なくとも一種のキャリアガスが含まれる。当該反応性ガスには、少なくとも一種の、窒化チタンと反応して揮発性の生成物を生成することが可能な(あるいは、窒化チタンと反応性の化学種を生成して揮発性の生成物を生成することが可能な)反応体が含まれる。フッ素及び/又は塩素含有物質が好ましい反応体であるが、フッ素含有物質の方がより好ましい。
【0025】
非限定的なフッ素含有反応性ガスの具体例には、NF3(三フッ化窒素)、NClx3-x(x=1〜2)、F2(元素状フッ素)、ClF3(三フッ化塩素)、ClF(一フッ化塩素)、SF6(六フッ化硫黄)、BrF3(三フッ化臭素)、BF3(三フッ化硼素)、CF4及びC26等のようなペルフルオロカーボン、CHF3及びC37H等のようなヒドロフルオロカーボン、C48O(ペルフルオロテトラヒドロフラン)のようなオキシフルオロカーボン、CF3OF(フルオロオキシトリフルオロメタン)、CF3OOCF3(ビストリフルオロメタンペルオキシド)、及びCOF2などが含まれる。フッ素含有反応性ガスは、種々な手段、例えば、慣用のシリンダー、安全送出設備、真空送出設備、及び使用間際に反応性ガスを発生させる固体又は液体系発生器によって送出することが可能である。
【0026】
非限定的な塩素含有反応性ガスの具体例には、BCl3(三塩化硼素)、Cl2(塩素)、COCl2(ホスゲン)、HCl(塩化水素)、及びトランス−ジクロロエチレン(C22Cl2)(例えば、ペンシルバニア州、アレンタウンの Air Products and Chemicals 製TRANS−LC)が含まれる。
【0027】
処理ガスは、10〜10000sccmの流速で、プラズマ反応器に供給することが好ましい。
【0028】
処理ガスには、選択的に、少なくとも一種のキャリアガスが含まれてもよい。好適なキャリアガスには、N2、He、Ne、Kr、Xe及び/又はArが含まれるが、これらに限定されない。当該キャリアガスは、処理ガスの0〜99.9%から成ってよく、より好適には処理ガスの1〜99.9%から成ってよい。
【0029】
処理ガスには、それらが処理効率を不当に妨げないことを条件として、選択的に、付加的な添加剤が含まれてもよい。例えば、酸素ガスは、ある実施態様では反応性ガスの解離を助けて反応性化学種を生成させるのに有用であるが、他の実施態様では有効でないことがある。
【0030】
上記したように、処理ガスを反応性化学種で富化するための好ましい手段は、離れた位置にあるプラズマ発生器内で当該処理ガスからプラズマを発生させることである。本明細書で使われる用語「プラズマ」とは、イオン及び電子を含有するガスを意味する。当該プラズマは、富化された処理ガスを供給するために、離れた位置にあるプラズマ発生器中で処理ガスから発生させ、そしてこの富化された処理ガスが反応器に搬送され、その反応器内で、当該処理ガス中の反応性化学種が窒化チタンと反応する。この反応生成物は揮発性であり、当該反応器を通るガス流によって基体から運び去られる。
【0031】
処理ガスからプラズマを発生させる好適な条件は、特に限定されない。好ましいプラズマ発生のパラメータは、0.5〜50トールのプラズマ圧と100〜10000ワットのプラズマ出力である。より好ましいプラズマ発生のパラメータは、1〜10トールのプラズマ圧と500〜5000ワットのプラズマ出力である。
【0032】
好ましい実施態様では、富化された処理ガスは、離れた位置にあるプラズマ発生器(「第一の場所」)から窒化チタンが除去されるべき基体を収容する反応器(「第二の場所」)に搬送される。富化された処理ガスは、選択的なキャリアガス及び/又は第一と第二の場所間の差圧の助けを借りて搬送されてもよい。当該反応器における条件は、基体上でのプラズマと窒化チタンとの反応性ガス間で反応が起こり易いように選定される。反応器の圧力は、好ましくは0.5〜50トールであり、より好ましくは1〜10トールである。当該反応器の圧力は、プラズマの圧力と同じであっても、異なってもよい。当該反応器の温度は、特に限定されない。
【0033】
基体は、反応器内に収容され、そしてある実施態様では、反応器それ自体の表面であってもよい。他の実施態様では、当該基体は、その反応器とは異なる反応器内の物体である。よって、窒化チタンが取り除かれる表面を有する適当な基体には、処理チェンバー、工具部品、機械部品、加工物などが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
当該基体は、富化された処理ガス中の反応性化学種と結合して基体から窒化チタンが除かれ易くなる基体温度になるまで加熱される。適当な基体の温度範囲は、反応性ガスの熱分解温度、反応活性化エネルギーのバリアを克服するに必要なエネルギー、及び装置機材の能力に依存する。反応性化学種の富化と組み合わせて用いられるときの熱的賦活に好適な基体温度は、50℃以上が好適であり、好ましくは50〜900℃、より好ましくは50〜500℃、そして更に好ましくは100〜350℃である。
【0035】
基体を加熱するための手段は、特に、限定されない。ある実施態様では、基体は加熱装置との熱的接触に置かれる。好ましくは、当該基体は、富化された処理ガスに到達可能な位置での基台加熱器上に固定される。他の実施態様では、ランプや抵抗加熱器のような外部加熱要素を用いることによって反応器の温度が高められ、基体が加熱される。例えば、基体が反応器それ自体の表面であるときには、その反応器の温度が高められる(そして、基体温度は、反応器温度と同じである)。
【0036】
本明細書に記載した方法では、基体を損傷すること無しに、高速度で、基体表面から窒化チタンをエッチングすることが可能である。慣用の意味と合致させて本明細書中で使われる表現「窒化チタン」とは、広範囲の化学量論比にあるチタンと窒素との二成分系化合物を意味する。
【0037】
本発明のある実施態様では、他のものよりも高速のエッチング速度を与える。例えば、240nm/分を超えるエッチング速度は、NF3プラズマと100℃の熱的加熱を用いて達成されるのに対して、一方、約6nmのエッチング速度は、離れた位置にあるCl2プラズマと350℃の熱的加熱を用いて達成される。本明細書中に記載される方法によれば、少なくとも約6nm/分の速度で窒化チタンをエッチングしてよく、好ましくは少なくとも約40nm/分の、より好ましくは180nm/分を超える、そして更に好ましくは240nm/分を超える速度でエッチングされる。
【0038】
本発明のある実施態様では、その部品が窒化チタンで被覆された処理反応器から離れた位置にある反応器内で、当該部品が洗浄される。この離れた位置での洗浄処理に好適な装置には、離れた位置にあるプラズマ発生器装置、洗浄処理反応器の全体に均一なガス流を確保するためのガスディストリビュータ、反応器を加熱するための手段、及び洗浄処理反応器から反応性ガスを取り除き、生成物を揮発させるためのポンプ装置を備えた洗浄処理反応器が含まれていることが好ましい。TiNで被覆された反応器部品及び工具ビットのような部品は、当該反応器内に装填される。所望の処理温度に達したときに、反応性ガスの流れが、離れた位置にあるプラズマ単位装置を通して開始される。次いで、プラズマによって発生するフッ素及び/又は塩素ラジカルが、ディストリビュータ板を通して処理チェンバー内に流れ込む。析出物の無い基体を残して、TiNが、反応器内に置かれた部品から取り除かれる。
【実施例】
【0039】
本発明について、以下の実施例を参照して更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されないものと解されるべきである。
【0040】
以下は、反応性ガス洗浄を用いる窒化チタンの除去に係る実験例である。実験装置は、離れた位置にあるプラズマ設備と熱加熱設備の両者を有する。全ての実験では、試料を、約120nmの窒化チタンで被覆されたSiウェーハから準備した。窒化チタンの除去速度は、処理条件に対する時限的な暴露での前後における、窒化チタンの薄膜の厚さの変化によって算出した。当該窒化チタンの薄膜の厚さは、四つの先端をもつ導電性プローブを用いて決定した。この導電性の四つの先端をもつプローブによる測定値の精度を確認するために、数個の試料クーポンを、そのエッチング/洗浄処理後に断面で切断した。次いで、そのクーポン断面を、走査電子顕微鏡(SEM)によって検査して、処理後の窒化チタンの厚さを正確に決定した。当該全てのSEM結果は、前記四つの先端をもつプローブの測定値と一致していた。
【0041】
実施例1: 離れた位置にあるNF3プラズマと熱的加熱の組合せを用いた窒化チタンの除去
この実施例では、処理ガスとしてSF3を使用した、離れた位置にあるプラズマと熱的加熱の組合せを用いることによる処理チェンバー及び部品の洗浄法について示す。
【0042】
図1は、実験装置の略断面処理図を示している。離れた位置にあるプラズマ発生器10(マサチューセッツ州、ウィルミントンの MKS Instruments 製のMKS ASTRON)を、反応器12の頂部に固定した。プラズマ発生器10の出口14と試料クーポン16間の距離は、約6インチ(15.25cm)であった。クーポン16を、基台加熱器18の表面に置いた。加熱器を用いて、種々の基体温度を得た。実験の全てにおいて、離れた位置にあるプラズマ発生器を、処理ガスとして200sccmのNF3と200sccmのArとの混合物を用いて操作し(パイプ20を経てプラズマ発生器に10に供給した)、そしてチェンバー圧を、ポンプ出口22の助けを借りて4トールに維持した。
【0043】
以下の実験順序を、それぞれの実験計画(DE)の試験に対して行った。
1.チェンバーの開口、
2.試験クーポンの装填及び前ドアの閉鎖、
3.基準真空圧に到達させるためのチェンバーの排気、
4.温度設定のための試験クーポンの加熱、
5.設定温度に達した後のアルゴンの導入と圧力の安定化、
6.離れた位置にあるプラズマ出力の供給開始、
7.処理ガスの導入、
8.設定時間後の離れた位置にあるプラズマ出力の供給停止、
9.処理流の停止とチェンバーの排気、及び
10.チェンバーの開放と分析のための試験クーポンの回収。
【0044】
図2は、異なる基体温度下での窒化チタンのエッチング速度を示している。40℃では、薄膜の厚さは増大し、結果として、この温度条件下での負のエッチング速度が図2に示されている。かかる低温度下では、試料表面における窒化チタンの格子構造中に塩素原子が取り込まれることによって、その薄膜の厚さに増大を生じさせている。
【0045】
窒化チタンのエッチングは、40℃を超える温度で観察された。窒化チタンのエッチング速度は、気体温度の上昇と共に増加した。驚くことに、90℃と100℃の間では、そのエッチング速度が、10より大きい倍数で突然急に跳ね上がった。実施例3には、熱的加熱のみが用いられたときには、そのエッチング速度が、450℃で、約20nm/分であったことが示されている。この結果は、離れた位置にあるプラズマと熱的加熱との間には相乗的な相互作用があることを示している。
【0046】
また、実験データは、処理ガスに対してO2を添加しても、洗浄処理を改善しなかったことも示している。
【0047】
実施例2: 離れた位置にあるCl2プラズマと熱的加熱の組合せを用いた窒化チタンの除去
この実施例では、処理ガスとしてCl2を使用した、離れた位置にあるプラズマと熱的加熱の組合せを用いることによる処理チェンバー及び部品の洗浄法について示す。
【0048】
実験の組立は、実施例1のそれと同じである。
【0049】
ここでの処理ガスは、200sccmのCl2と200sccmのArとの混合物である。離れた位置にあるCl2のプラズマ下では、100℃で何らのエッチングも観察されなかったのに対して、一方、約6nm/分のエッチング速度が、350℃で得られた。Cl2ガスでのエッチング速度は、NF3ガスでのそれよりもはるかに遅い。CRCハンドブックによれば、TiCl4は、Ti(V)塩化物の中で最も高い揮発性である(融点25℃と沸点136℃を有する)。TiF4は、284℃の融解温度を有し、同じ高温下でのみ昇華する。この知識によれば、塩素系試薬では、フッ素系試薬よりも一層容易に窒化チタンを揮発させることが可能であると言わねばならない。プラズマと熱的活性化とを組み合わせる方法において、NF3のようなフッ素試薬の方がCl2のような塩素試薬よりも一層容易に窒化チタンを除去するという発見は、予期し得ないものである。
【0050】
実施例3: NF3の熱的加熱を用いた窒化チタンの除去
この比較例では、処理ガスとしてSF3を使用した、熱的加熱を用いることによる処理チェンバー及び部品の洗浄法について示す。
【0051】
実験の組立は、離れた位置にあるプラズマの供給を停止して、より高いチェンバー圧、8トールを用いた点を除き、実施例1及び2のそれと同じであった。
【0052】
処理ガスとして、500sccmのNF3流を用いた。350℃及び450℃での窒化チタンのエッチング速度は、それぞれ、約0.6nm/分と約20nm/分であった。離れた位置にあるプラズマ無しでは、同じ処理ガスの場合でも、はるかに高い温度が、窒化チタンの除去には必要である。
【0053】
実施例4: F2の熱的加熱を用いた窒化チタンの除去
この比較例では、処理ガスとしてF2を使用した、熱的加熱を用いることによる処理チェンバー及び部品の洗浄法を示す。
【0054】
NF3以外に、N2中5.1%のF2についても、窒化チタンの除去に関して試験した。250sccmの定常流を反応チェンバーに通過させ、かつ当該チェンバーを8トールの圧力下に維持した。図3には、基体温度に伴う窒化チタンのエッチング速度が示されている。基体温度が高くなると、結果として、窒化チタンのエッチング速度が増加した。NF3に比して、窒化チタンとの洗浄反応を開始させるためには、より低い基体温度であることが、N2中5.1%のF2の場合には必要であった。
【0055】
実施例5: Cl2の熱的加熱を用いた窒化チタンの除去
この比較例では、処理ガスとしてCl2を使用した、熱的加熱を用いることによる処理チェンバー及び部品の洗浄法を示す。
【0056】
実験条件を、200sccmのCl2流、8トールのチェンバー圧、及び350℃の基体温度としたとき、何らのエッチングも観察されなかった。その温度を450℃に上げたときに、10分の洗浄後にも依然として窒化チタンの薄膜の残渣が残った。このことは、450℃でのエッチング速度は12nm/分よりも遅く、それは、同様の操作条件下で、NF3のそれよりもはるかに遅いことを示している。フッ素含有化合物は、窒化チタンの除去に関して、塩素含有化合物よりも一層有効である。
【0057】
実施例6: 基台加熱器の表面からの窒化チタンの除去
窒化チタンの被覆表面をもつ基台加熱器について、実施例1におけるそれと同じ方法を用いて試験した。アルミニウム製の加熱器を、窒化チタンの処理チェンバーから取り外した。当該加熱器表面の窒化チタン層は、約20μmであった。この実験では、離れた位置にあるプラズマ条件として、400sccmのNF3、400sccmのAr、及び4トールのチェンバー圧を用い、そして基体温度としては150℃を用いた。45分以内に、窒化チタン層は、完全に除去された。何らの損傷も、当該加熱器表面には観察されなかった。
【0058】
本発明について、特定の具体例を参照して詳細に述べてきたが、本発明の技術思想及び技術的範囲から離れること無しに、種々の変更および改変が可能であることは当業者にとって自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例で使用した実験装置の略図である。
【図2】実施例1に係るエッチング速度対基体温度のグラフである。
【図3】実施例4に係るエッチング速度対基体温度のグラフである。
【符号の説明】
【0060】
10 プラズマ発生器
12 反応器
14 プラズマ発生器の出口
16 試料クーポン
18 基台加熱器
20 パイプ
22 ポンプ出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、
(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して富化された処理ガスを生成させ、この富化を第一の場所で行うこと、
(c)基体表面の少なくとも一部が窒化チタンで被覆されている基体を、50℃を超える基体温度で供給すること、そして
(d)当該基体表面の窒化チタンを、富化された処理ガスと接触させて基体表面から窒化チタンを揮発、除去し、この接触を第一の場所とは異なる第二の場所で行うこと、
を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法。
【請求項2】
前記第一の場所がプラズマ発生器であり、前記富化が処理ガスからプラズマを発生させることを含み、そして前記第二の場所がプラズマ発生器と流体通路で結ばれた反応器である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも一種の反応体がNF3、NClF2、NCl2F、F2、ClF3、ClF、SF6、BrF3、BF3、ペルフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、及びオキシフルオロカーボンからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理ガスがN2、He、Ne、Kr、Xe及びArからなる群より選ばれるキャリアガスを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種の反応性化学種がフッ素ラジカルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、
(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して、富化された処理ガスを生成させること、
(c)基体表面の少なくとも一部が窒化チタンで被覆されている基体を、50℃〜900℃の基体温度で供給すること、そして
(d)当該基体表面の窒化チタンを、実質的にイオンを含まない富化された処理ガスと接触させて、180nm/分を超えるエッチング速度で基体表面から窒化チタンを揮発、除去すること、
を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法。
【請求項7】
前記富化が処理ガスからプラズマを発生させることを含み、そして窒化チタンと接触させる前記富化された処理ガスがプラズマでない、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
以下の工程:
(a)フッ素含有物質及び塩素含有物質からなる群より選ばれる少なくとも一種の反応体を含む処理ガスを供給すること、
(b)当該処理ガスを、少なくとも一種の反応体からなる少なくとも一種の反応性化学種で富化して、富化された処理ガスを生成させ、この富化を第一の場所で行うこと、
(c)基体を、50℃〜900℃の基体温度で供給すること、そして
(d)当該基体表面上のチタンと窒素との二成分系化合物を含む塗膜を、富化された処理ガスと接触させて、180nm/分を超えるエッチング速度で基体表面から塗膜を揮発、除去し、この接触を第一の場所とは異なる第二の場所で行うこと、
を含む基体表面から窒化チタンを除去する方法。
【請求項9】
以下の機器:
処理反応器とは別個の洗浄処理反応器、
離れた位置にあるプラズマ発生器、
洗浄処理反応器全体にわたってガス流を供給するために用いられるガスディストリビュータ、
加熱装置、及び
洗浄処理反応器から反応性ガスを除去し、生成物を揮発させるために用いられるポンプ設備
を含んでなる、請求項1の方法を行う装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−35213(P2006−35213A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209698(P2005−209698)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【Fターム(参考)】