説明

窒化物半導体基板の製造方法

【課題】簡易かつ効果的に、窒化物半導体の絶縁破壊電圧低下が低減された窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶基板の一主面上に窒化ケイ素層を形成する工程と、前記窒化ケイ素層上に窒化物半導体からなる中間層を形成する工程と、前記中間層上に窒化物半導体からなる活性層を形成する工程と、を含む窒化物半導体基板の製造方法であって、前記窒化ケイ素層を形成する工程は、窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなるガス雰囲気にて室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温する第1ステップと、前記ガス雰囲気と前記到達温度のままで所定時間保持する第2ステップと、その後還元性ガス含有雰囲気に切り替えて所定時間保持する第3ステップと、からなることを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用の窒化物半導体に用いられる窒化物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代電子デバイス材料として期待されている窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体の製造方法の一例として、大口径化や低コスト化に有利といわれる、シリコン単結晶基板上に窒化物半導体を形成する方法があり、その製造方法もいくつか知られている。
【0003】
特許文献1には、基板と、前記基板上に形成されたAlN系超格子バッファ層と、前記AlN系超格子バッファ層の上に形成された窒化物半導体層とからなる窒化物半導体素子の製造方法であって、前記基板上に、AlGa1−xN(0.5≦x≦1)の組成を持つ第1のバッファ層を形成するステップと、前記第1のバッファ層の上に、AlGa1−yN(0.01≦y≦0.2)の組成を持つ第2のバッファ層を形成するステップと、前記第1のバッファ層を形成するステップおよび前記第2のバッファ層を形成するステップを交互に繰り返して前記AlN系超格子バッファ層を形成するステップと、を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法の発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、単結晶シリコン基板上に絶縁膜を形成する工程、前記絶縁膜上にチッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜してバッファ層とする工程、前記バッファ層上にチッ化ガリウム系化合物半導体からなる下部クラッド層、活性層、上部クラッド層およびキャップ層を順次積層する工程、前記単結晶シリコン基板に垂直にエッチングして、前記バッファ層を露出させる工程、前記キャップ層および前記エッチングにより露出したバッファ層上に電極を形成する工程、およびダイシングまたは劈開によってチップに分離する工程、からなる半導体発光素子の製法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−067077号公報
【特許文献2】特開平8−64913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、シリコン基板上に、AlGa1−xN(0.5≦x≦1)の組成を持つ第1のバッファ層を形成するステップにおいて、アンモニア等の原料ガスあるいは水素等のキャリアガスによってシリコン基板表面がエッチングされ、シリコン基板表面に凹凸が発生する、としている。
【0007】
しかし、この凹凸が存在する状態で、新たな窒化物の膜を形成すると、この凹凸に起因する欠陥が窒化物の膜中に発生し、窒化物半導体面上にmmオーダーの広い面積の電極を形成したとき、絶縁破壊電圧低下による絶縁破壊不良が多発する。
【0008】
そこで、シリコン基板上に窒化物半導体層を形成する場合、シリコン基板上に窒化ケイ素の膜を形成するという技術が知られており、この方法によれば、比較的簡易な方法で、窒化物半導体層への転位発生の抑制や、平坦性の向上が図れるとされている。
【0009】
特許文献2には、チッ素雰囲気中500〜900℃で熱処理、単結晶シリコン基板上の表面をチッ化、Siの絶縁膜を1〜5nmの厚さで形成、その上に気相成長法で窒化物半導体からなる各層を形成、という半導体発光素子の製法が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献2に記載の技術には、シリコン上に窒化ケイ素の膜を形成するにあたり、詳細な保持時間、保持雰囲気のガス種類については具体的な開示がない。このため、窒化物半導体面上にmmオーダーの広い面積の電極を形成したときの絶縁破壊電圧低下を、効果的に低減することが困難であった。
【0011】
これらの課題を鑑み、本発明は、シリコン単結晶基板上に窒化物を堆積させるときに発生する凹凸に起因する、窒化物半導体層の絶縁破壊電圧低下を、簡易かつ効果的に低減することの出来る、窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法は、シリコン単結晶基板の一主面上に窒化ケイ素層を形成する工程と、前記窒化ケイ素層上に窒化物半導体からなる中間層を形成する工程と、前記中間層上に窒化物半導体からなる活性層を形成する工程と、を含む窒化物半導体基板の製造方法であって、前記窒化ケイ素層を形成する工程は、窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなるガス雰囲気にて室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温する第1ステップと、前記ガス雰囲気と前記到達温度のままで所定時間保持する第2ステップと、その後還元性ガス含有雰囲気に切り替えて所定時間保持する第3ステップと、からなることを特徴とする。
【0013】
これにより、絶縁破壊電圧低下が低減された窒化物半導体基板を、簡易かつ効果的に製造することができる。
【0014】
本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法は、第3ステップの還元性ガス含有雰囲気が、還元性ガス30vol%以上70vol%以下で残部は不活性ガスからなることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリコン単結晶基板上に窒化物を堆積させるときに発生する凹凸に起因する窒化物半導体層の絶縁破壊電圧低下を、簡易かつ効果的に低減した窒化物半導体基板の作製が可能となる。特に、面積の大きい電極を窒化物半導体層に形成した場合において、より顕著な効果を呈するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法で作製された窒化物半導体基板の構造を、断面方向から見たときの概念図である。
【図2】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法で作製された窒化物半導体基板の、窒化ケイ素からなる薄膜層の平均厚さと、薄膜層の表層凹凸の最大高低差を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法で作製された窒化物半導体基板の構造を、断面方向から見たときの概念図である。
【0018】
本発明は、シリコン単結晶基板1の一主面上に窒化ケイ素層2を形成する工程と、窒化ケイ素層2上に窒化物半導体からなる中間層3を形成する工程と、中間層3上に窒化物半導体からなる活性層4を形成する工程と、を含む窒化物半導体基板Wの製造方法であって、窒化ケイ素層2を形成する工程は、窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなるガス雰囲気にて室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温する第1ステップと、前記ガス雰囲気と前記到達温度のままで所定時間保持する第2ステップと、その後還元性ガス含有雰囲気に切り替えて所定時間保持する第3ステップと、からなる。
【0019】
窒化物半導体基板Wの製造方法には、広く公知の製法が適用できるが、優れた成膜制御性と扱いやすさの点で、有機金属化学気相成長(MOCVD)法が好適である。以下、MOCVD法での製造工程に準じて説明する。
【0020】
まず、シリコン単結晶基板1を、MOCVD装置にセットする。このとき、シリコン単結晶基板1の表面は、自然酸化膜あるいは有機物等が残存しない状態が好ましい。このため、MOCVD装置にセットする前に、シリコン単結晶基板1を、あらかじめ公知の半導体基板の洗浄方法を適用するとよい。
【0021】
シリコン単結晶基板1は、窒化物半導体基板Wにおける下地基板となる。その口径、厚さ、抵抗、ドーパントタイプ、面方位、表裏面の面仕上げ状態、欠陥密度、酸素濃度、等については、設計される窒化物半導体基板Wの仕様に応じて、適時設定してよい。シリコン単結晶基板1の製造方法としては、例えば、チョクラルスキー(CZ)法、フローティングゾーン(FZ)法、貼りあわせ法、が挙げられる。
【0022】
次に、窒化ケイ素層2を形成する工程を行う。まず、第1ステップとして、窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなるガス雰囲気にて室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温する。
【0023】
MOCVD装置にセットされたシリコン単結晶基板1の処理雰囲気は、大気雰囲気から窒素雰囲気に切り替えられる。その切り替えのタイミングは、室温状態でも、あるいは昇温途中でもよいが、後者の場合、600℃に達する前に窒素雰囲気への置換が完了されることが好ましい。これは、反応室内に残留する酸素や水分が、温度が高いことでシリコンと活発に反応し、次工程の窒化ケイ素層2の形成に悪影響を及ぼす懸念があることによる。
【0024】
ガス雰囲気は、窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなることが望ましい。窒素ガスが90vol%未満では、次工程において、窒化ケイ素層2が、均等な厚さでかつ高品質に形成されないおそれがある。好適には窒素ガス濃度が98vol%以上、より好適には100vol%である。
【0025】
窒素ガスは、例えば、純度99.999%以上の半導体製造用高純度窒素ガスが好適である。なお、窒素ガス濃度が100%未満の場合における窒素ガス以外の残部は、不活性ガスが好ましく、一例として、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。
【0026】
次に、MOCVD装置にセットされたシリコン単結晶基板1は、室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温される。このとき、シリコン単結晶基板1の表層部が窒素雰囲気下で窒化され、窒化ケイ素層2が形成される。
【0027】
室温は、厳密に規定されるものではないが、5℃以上35℃以下の範囲である。
【0028】
到達温度は、900℃以上1000℃以下の範囲、好ましくは、950℃以上1000℃以下である。
【0029】
到達温度が900℃未満では、必要とされる窒化ケイ素層2を構成する窒化ケイ素の生成が不十分となるおそれがある。1000℃を越えると、成長速度が必要以上に速くなり、窒化ケイ素が、シリコン単結晶基板1の一主面における平面方向に対して、均等に成膜せず、その結果、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差が増大する懸念がある。
【0030】
なお、窒化ケイ素層2の表層凹凸とその最大高低差については、図2および実施例で説明する。
【0031】
ここで、昇温には、10分以上200分以下の時間をかけることが望ましい。この範囲であると、シリコン単結晶基板1の表層部にあるシリコン原子と窒素分子とが反応して、窒化ケイ素が生成する成長速度は非常に遅くなり、極端に大きい表層凹凸が生成しにくい。
【0032】
昇温時間が10分未満では、昇温速度が速すぎて、窒化ケイ素層2が、シリコン単結晶基板1上の全面に対して、均等な膜厚で生成されにくい。その結果として、層の厚さの均一性が低下する。昇温時間が200分以上では、本発明の温度領域では、窒化ケイ素層2の平均厚さがほとんど増加せず、製造プロセス上の工程ロスに繋がる。
【0033】
引き続き、第一ステップのガス雰囲気および到達温度のままで、所定時間保持する第2ステップに移る。この第2ステップは、昇温工程の遅い成長速度で生成された窒化ケイ素層2が、シリコン単結晶基板1上で均等な厚さとなるように、必要にして十分な時間保持する、いわゆる層厚の均等化の役目を有する。
【0034】
第2ステップの保持時間は、1分以上10分以下であることが望ましい。1分未満では、層厚の均等化の効果が十分得られない。10分を超えると、窒化ケイ素層2の形成が進行する過程で、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差T2が大きくなるおそれがある。
【0035】
第2ステップに続いて、雰囲気を、還元性ガス含有雰囲気に変更して所定時間保持する第3ステップが実施される。還元性ガスが存在することにより、窒化ケイ素層2の表層凹凸を埋めるように、窒化ケイ素分子が移動するのを促進する作用が引き起こされる。
【0036】
よって、第2ステップのみで窒化ケイ素を形成する場合と比べて、より一層表層凹凸が低減される。また、必要以上の膜厚増加が生じないので、シリコン単結晶基板1の結晶面方位情報が、上方に形成される窒化物半導体に対して、より的確に伝えられる。
【0037】
還元性ガス含有雰囲気は、還元性ガスが30vol%以上70vol%以下で残部が不活性ガスであることが望ましい。還元性ガスが30vol%未満では、還元性ガス不足で、窒化ケイ素分子の移動を促進する作用が十分発揮されない懸念がある。一方、還元性ガスが70vol%を越えると、還元性ガス過多になり、窒化ケイ素分子の移動を促進する作用が過大になり、表層凹凸が大きくなる懸念がある。
【0038】
還元性ガスは、高純度品が入手容易で取扱いも周知である点から、水素が好ましい。例えば、純度99.999%以上の半導体製造用高純度水素ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。
【0039】
なお、第3ステップにおける保持時間は、1分以上10分以下であることが望ましい。1分未満では、均一な成膜が行われず、10分を超えると、膜厚が厚いことによる表層凹凸の増大が懸念されるためである。
【0040】
さらに、還元性ガス含有雰囲気での保持温度は、第1ステップの到達温度から、±50℃の範囲で温度を変更してから実施してもよい。この範囲内であれば、本発明の混合ガス雰囲気での保持効果が、著しく損なわれるおそれはないからである。
【0041】
続いて、第3ステップが終了したシリコン単結晶基板1の一主面上に、窒化物半導体からなる中間層3を気相成長法にて少なくとも1層形成する。そして、中間層3上に、窒化物半導体層からなる活性層4を、少なくとも1層以上形成する。ここでは、設計されるデバイスの仕様に合わせて、任意の組成、厚さ、層数の窒化物半導体層を形成してよい。
【0042】
本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法で製造された窒化物半導体基板Wは、図1に示すように、シリコン単結晶基板1の一主面上に窒化ケイ素層2が形成され、その上には、少なくとも1層の窒化物半導体からなる中間層3と、中間層3上に少なくとも1層の窒化物半導体からなる活性層4を備える。中間層3と活性層4は、作製する製品の目的や仕様に応じて、広く公知の窒化物半導体基板の構成を適用できる。
【0043】
窒化ケイ素層2は、シリコン単結晶基板1の一主表面に対して、窒化物半導体層を気相成長法などの手段で形成する際に生じる、微小な表層凹凸の発生を抑制する。この表層凹凸が大きいと、窒化物半導体基板Wの絶縁破壊電圧の低下を招く。
【0044】
窒化ケイ素層2の平均厚さT1は、1nm以上3nm以下であることが望ましい。1nm以下では、表層凹凸発生を抑制する効果が不十分である。しかし、3nmを超えると、シリコン単結晶基板1の結晶情報が、中間層3および活性層4に正確に伝播されず、中間層3および活性層4の結晶性が損なわれる懸念がある。
【0045】
窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差T2は、0.3nm以下であることが望ましい。これは、完全に平坦な窒化ケイ素の層が理想であるが、実際にはその実現が困難であることを考慮し、実用上窒化ケイ素1分子径なら、その上に形成する中間層3の平坦性確保には問題のないレベルであるとする。それでも、T2が0.3nmを超えると、絶縁破壊電圧の低下が大きくなるおそれがある。
【0046】
なお、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差T2は、絶対値が0.3nm近辺という表層凹凸としては非常に小さい値であるにもかかわらず、絶縁破壊電圧に非常に敏感に作用する。この点を考慮して、本発明の窒化物半導体基板Wは、窒化ケイ素層2の厚さと表層凹凸を低く抑えて設計される。
【0047】
以上のとおり、本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法によれば、シリコン単結晶基板上に、窒化物半導体を堆積させるときに発生する表層凹凸に起因する、窒化物半導体層の絶縁破壊電圧低下を、簡易かつ効果的に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
CZ法で製造された、面方位(111)、直径4インチ、厚さ625μm、比抵抗25Ωcmの、Nタイプシリコン単結晶基板1を準備し、この一主面に対して、窒化ケイ素層2と中間層3、および活性層4を、MOCVD法により積層して、評価用窒化物半導体基板を作製した。
【0050】
まず、シリコン単結晶基板1を、室温でMOCVD装置にセットし、窒素ガス100%に置換した後、950℃まで30分の時間をかけて、一定の昇温速度にて昇温し、950℃で5分保持した。このときの窒素ガス流量は、6リットル/分とした。
【0051】
引き続き、窒素ガス100%から、窒素ガス50volと%水素ガス50vol%の混合ガス雰囲気に置換したのち、温度はそのままにして5分間保持した。このようにして、窒化ケイ素層2をシリコン単結晶基板1の一主面上に形成した。
【0052】
次に、窒化ケイ素層2上に、以下の内容で中間層3を形成した。原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)、およびアンモニア(NH)を用い、1000℃での気相成長により、厚さ5nmのAlN単結晶層を積層させた。続けて、トリメチルガリウム(TMG)、TMAおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により、厚さ20nmのGaN単結晶層を積層させた。前記AlN単結晶層およびGaN単結晶層を同様の工程にて交互に繰り返し、積層数を50として、多層バッファ領域を形成した。このようにした多層バッファ領域を中間層3とした。
【0053】
中間層3上に、原料としてTMGおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により、厚さ2000nmのGaN単結晶層を積層させた。これを活性層4とした。
【0054】
以上の工程を経て、実施例1の評価用窒化物半導体基板を作製した。なお、気相成長により形成した各層の厚さは、ガス流量および供給時間の調整により行った。
【0055】
実施例1の評価用窒化物半導体基板の中央1点について、窒化ケイ素層2の形成直後に、エリプソメトリを用いて、窒化ケイ素層2の平均厚さT1を測定した。
【0056】
ここで、窒化ケイ素層2の平均厚さは図2のT1に、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差は図2のT2に、それぞれ相当する。T1とT2の測定、評価方法としては、窒化物半導体基板Wを直径方向に対して劈開し、その断面を原子力間顕微鏡(AFM)で測定する手法を好適に用いることができる。以下に、その評価例を示す。
【0057】
窒化物半導体基板Wの、主面の中心点を含む領域から、径方向に測定箇所1mm幅を有した短冊状のサンプルを劈開して切り出す。そして、サンプルの断面をAFMで観察し、シリコン単結晶基板1と中間層3の界面に存在する、窒化ケイ素層2の断面方向の距離を計測する。
【0058】
計測箇所は、測定箇所1mm幅を均等に5分割した箇所とする。このときのAFM観察範囲T3は、径方向に500nmから2000nmをとる。なお、この計測箇所、分割ピッチ、測定範囲は、測定精度やサンプルの状態、評価仕様に応じて、適時変更してよい。
【0059】
AFM観察範囲T3において、シリコン単結晶基板1と薄膜層2の境界にラインL1を引く。そして、窒化ケイ素層2と中間層3の境界近傍において、目視で観察できる範囲で、表層凹凸を平均化したラインL2を引く。このようにして得られたL1とL2の距離T1を、中心部と外周部それぞれの箇所における窒化ケイ素層2の平均厚さとする。
【0060】
あるいは、窒化ケイ素層2の平均厚さT1は、薄膜層2が形成された直後に、MOCVD装置にインラインで膜厚保測定装置、好適にはエリプソメトリで評価してもよい。
【0061】
また、AFM観察範囲T3内において、観察される限度において窒化ケイ素層2の厚さが最大の箇所と、最小の箇所を選択し、L1と平行な仮想ラインL3、L4を、図2に示すように設定する。そして、L3とL4との距離T2のうち、AFM観察範囲T3内において最大の値を、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差とする。
【0062】
なお、サンプルを切り出す箇所は、窒化物半導体基板Wの主面中心点を含む領域以外の、任意の箇所を複数選択してもよい。
【0063】
実施例1の評価用窒化物半導体基板の中央1点から、幅1mm角の切片を切り出し、任意の1辺について、切片の断面部2000nmをAFM観察して、窒化ケイ素層2の表層凹凸の最大高低差T2を測定した。
【0064】
評価用窒化物半導体基板の一主表面上に、直径2mmのAu電極箔を、中心点を通る十字線上に対して、中心に1枚、3mmピッチで縦横各2枚、計9枚を蒸着した。評価用窒化物半導体基板の裏面と、各電極箔との間に、市販のプローブ装置と電界印加、測定回路を有する装置を用いて、600Vの電界を印加して、絶縁破壊の有無を確認した。
【0065】
実施例1は、平均厚さT1が1.5nm、表層凹凸の最大高低差T2が0.2nmであった。すなわち、還元性ガスを含む追加熱処理による、表層凹凸の低減がみられた。また、絶縁破壊不良も、9枚全ての電極で発生していなかった。
【0066】
[比較例1]
窒化ケイ素層2を形成せず、その他は実施例1と同様に作製、評価した評価用窒化物半導体基板を比較例1とした。
【0067】
比較例1の評価用窒化物半導体基板は、電極9枚のうち、8枚が絶縁破壊不良を示した。このことから、窒化ケイ素層2の効果が顕著に現れていることが確認できた。
【0068】
[比較例2]
第3ステップを省略して、その他は実施例1と同様に作製、評価した評価用窒化物半導体基板を比較例2とした。
【0069】
比較例2の評価用窒化物半導体基板は、5枚の電極で絶縁破壊不良が発生した。また、平均厚さT1が1.8nm、表層凹凸の最大高低差T2が0.3nmであり、表層凹凸が実施例1と比べて大きいものであった。
【0070】
[実施例2〜9、比較例3〜5]表1の内容で製造条件を変更し、その他の製造条件、評価方法は実施例1に準じた。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、本発明の実施範囲を外れた場合は、絶縁破壊不良の発生数が9枚中5枚以上、または、窒化ケイ素層2の膜厚均一性の低下、凹凸増大がみられ、本発明の実施範囲に比べて劣るものであった。
【0073】
また、第3ステップの還元性ガスの濃度が、本発明のより好ましい範囲を外れると、絶縁破壊不良の発生数が9枚中2枚となり、本発明の実施範囲外よりは良好であるが、若干見劣りするものであった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、発光ダイオード、レーザ発光素子、高速・高温での動作可能な電子素子等に用いられる窒化物半導体基板として好適である。また、さまざま材料のヘテロエピタキシャル成長における、基板の平坦性を向上させる方法に応用できる。
【符号の説明】
【0075】
W 窒化物半導体基板
1 シリコン単結晶基板
2 窒化ケイ素層
3 窒化物半導体からなる中間層
4 窒化物半導体からなる活性層
L1 シリコン単結晶基板1と薄膜層2の境界ライン
L2 薄膜層2の凹凸を平均化したライン
L3 薄膜層2の厚さが最大の箇所を仮想したL1と平行な仮想ライン
L4 薄膜層2の厚さが最小の箇所を仮想したL1と平行な仮想ライン
T1 薄膜層2の平均厚さ
T2 薄膜層2の表層凹凸の最大高低差
T3 AFM観察範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶基板の一主面上に窒化ケイ素層を形成する工程と、
前記窒化ケイ素層上に窒化物半導体からなる中間層を形成する工程と、
前記中間層上に窒化物半導体からなる活性層を形成する工程と、
を含む窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記窒化ケイ素層を形成する工程は、
窒素ガスが90vol%以上100vol%以下で残部は前記窒素ガス以外の不活性ガスからなるガス雰囲気にて室温から900℃以上1000℃以下の到達温度まで昇温する第1ステップと、
前記ガス雰囲気と前記到達温度のままで所定時間保持する第2ステップと、
その後還元性ガス含有雰囲気に切り替えて所定時間保持する第3ステップと、
からなることを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
第3ステップの還元性ガス含有雰囲気が、還元性ガス30vol%以上70vol%以下で残部は不活性ガスからなることを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−33887(P2013−33887A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170010(P2011−170010)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】