説明

窒化物半導体基板

【課題】
しきい値電圧をより向上させることのできる、中間層とデバイス活性層の間にノーマリ
ーオフ作用をもつ窒化物半導体層を形成する。
【解決手段】
Si単結晶基板上に形成され窒化物半導体の積層構造からなる中間層と、中間層上に形成され、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)、厚さ200nm以上2000nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の窒化物半導体からなる領域1と、領域1上に形成され、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)、厚さ0.2nm以上100nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の窒化物半導体からなる領域2と、領域2上に形成される窒化物半導体のデバイス活性層からなる窒化物半導体基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速かつ高耐圧電子デバイスとして好適な窒化物半導体に用いられる、窒化物半導体基板の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物半導体は、高い電子移動度や高い耐熱性等の優れた特性を有し、特に、高周波動作かつ高耐圧を必要とする領域に用いられる電子デバイス、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)や、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET:Heterojunction FET)への適用が期待されている。
【0003】
この窒化物半導体に用いる窒化物半導体基板の構造や作製方法として、例えば、Si単結晶基板上に窒化物半導体層からなる中間層を介して窒化物半導体結晶を成膜する方法は、高品質な結晶を安定供給でき、低価格で大面積の基板が得られる点で、好適といえる。
【0004】
ところで、ヘテロ接合を用いた電界効果トランジスタには、AlGaN層を電子供給層とし、GaN層をチャネル層としたヘテロ接合が用いられているが、このようなGaN系FET構造の課題は、ノーマリーオフ型素子の作製が困難なことである。また、単純にノーマリーオフ型にすることだけを目的とすると、この材料系の特徴である通電時の抵抗である(オン抵抗)の低減性と相反する。すなわち、ノーマリーオフ型素子を作るためにはキャリアを抑制しなければならないが、これは素子のオン抵抗を高めることになり好ましくない。よって、ノーマリーオフ動作が低オン抵抗を損なうことなく実現されるには、制御可能なゲート部のみで電流の遮断を行い、その他のソース−ゲート間のチャネルおよびゲート−ドレイン間のチャネルでは低抵抗性を確保しなければならない。
【0005】
この課題の解決方法として、たとえば、特許文献1には、窒化物半導体電界効果トランジスタにおいて、しきい電圧の制御が可能なエンハンスメント形の動作を得ることを目的として、結晶方位の+c方向にAlGa1−xN層、GaN層、AlGa1−yN層の順に積層されており、x≧yにすることにより空乏化しているダブルヘテロ構造からなるチャンネルをゲート部に有することを特徴とする窒化物半導体電界効果トランジスタという技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ノーマリーオフ動作を実現可能な半導体装置として、第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に設けられ第1の窒化物半導体層よりもバン
ドギャップが大きい第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層の上に設けられたソース電極と、第2の窒化物半導体層の上に設けられたドレイン電極と、第2の窒化物半導体層の表面上におけるソース電極とドレイン電極との間に設けられた絶縁層と、絶縁層の上に設けられたp型の第3の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層の上に設けられたゲート電極とを備えるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−10803号公報
【特許文献2】特開2009−71061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術では、しきい値電圧の制御が可能ではあるが、さらに高いしきい値電圧を得るという要求に対しては、十分対応できているとはいえなかった。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、ゲート電極の下にp型窒化物半導体層を設けることと、p型窒化物半導体層を単に電子供給層に接して設けた場合に起こる不具合を抑制するために、p型窒化物半導体層とチャネル層との間を電気的に絶縁分離する絶縁膜を形成している。よって絶縁膜の形成が高コスト化を招く。また、しきい値電圧向上の点でも、やはり十分とはいいがたい。
【0010】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、より高いしきい値電圧
を実現できるノーマリーオフ型の高耐圧デバイスに好適な窒化物半導体基板を、簡易な構造で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る窒化物半導体基板は、Si単結晶からなる基板と、前記基板上に形成されAlを含む窒化物半導体層を少なくとも1層以上含む窒化物半導体の積層構造からなる中間層と、前記中間層上に形成され、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)、厚さ200nm以上2000nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域1と、前記領域1上に形成され、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)、厚さ0.2nm以上100nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域2と、前記領域2上に形成される窒化物半導体のデバイス活性層とからなることを特徴とする。このような構成をとることで、従来よりしきい値電圧を高くできるノーマリーオフ型の窒化物半導体基板とすることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る窒化物半導体基板は、前記中間層または前記デバイス活性層のいずれか1つもしくは両方の炭素濃度が、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下であることが好ましい。このような構成をとることで、高耐圧化に加えてノーマリーオフ化が達成される効果を併せ持つ、従来よりしきい値電圧を高くできるノーマリーオフ型の窒化物半導体基板とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る窒化物半導体基板は、これを用いてデバイスを作製することにより、しきい値電圧の向上を図ることができるため、高耐圧デバイス、特に、ノーマリーオフ型スイッチングデバイスに好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係る窒化物半導体基板の一形態を示す概念図である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る窒化物半導体基板の一形態を示す概念図。
【0016】
本発明に係る窒化物半導体基板は、Si単結晶からなる基板と、前記基板上に形成されAlを含む窒化物半導体層を少なくとも1層以上含む窒化物半導体の積層構造からなる中間層と、前記中間層上に形成され、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)、厚さ200nm以上2000nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域1と、前記領域1上に形成され、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)、厚さ0.2nm以上100nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域2と、前記領域2上に形成される窒化物半導体のデバイス活性層とからなる。
【0017】
Si単結晶からなる基板は、窒化物半導体を形成するための下地の基板として用いられる。このSi単結晶は、公知の技術で製造された各種の材料を広く用いることができる。例えば、チョクラルスキー法(CZ法)やフローティングゾーン法(FZ法)で製造された単結晶や、あるいは気相成長法や貼り合わせ法、等の各種製法で作製された基板も適用できる。さらに、窒化物半導体基板へ及ぼす特性を考慮して、Si単結晶基板の厚さや面状態、基板中に含まれる酸素、窒素、炭素、リンやボロンなどのドーパント、各種結晶欠陥における濃度や分布を適時制御して用いることも可能である。
【0018】
Si単結晶基板上には、Alを含む窒化物半導体層を少なくとも1層以上含む窒化物半導体の積層構造からなる中間層が形成される。Si単結晶と窒化物半導体では格子定数、熱膨張係数が異なり、これにより、窒化物半導体基板に大きな反りが発生、またスリップ等の結晶欠陥が多発する。これを抑えるため、デバイスを形成するデバイス活性層との間に各種構造の中間層を設けるが、本発明においては、高い基板特性を容易に得られることから、Alを含む窒化物半導体層を少なくとも1層以上含む窒化物半導体の積層構造からなる中間層が好適に適用される。
【0019】
そして、中間層上には、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)、厚さ200nm以上2000nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域1が形成されている。ここで、多層の場合は、各層の合計値の厚さを領域1の厚さとする。
【0020】
ノーマリーオフ型の窒化物半導体基板の一例として、デバイス活性層にGaNからなる電子走行層とAlGaNからなる電子供給層を形成し、さらに、中間層と電子走行層との間にAlGaNからなる層を挿入した構造が挙げられる。そして、各層の膜厚や特性を調整することで、ノーマリーオフ化を達成し、さらにしきい値電圧を向上させることが可能となる。
【0021】
しきい値電圧を向上させる方法として、この中間層と電子走行層との間に形成されるAlGaNからなる層(以下、ノーマリーオフ化層と記載)における伝導帯とフェルミ準位とのエネルギー差を大きくすることが考えられる。フェルミ準位を低く抑えるには、ノーマリーオフ化層内の電子の密度を減らす必要があり、一例として、ノーマリーオフ化層内の欠陥の発生を抑制することが挙げられる。
【0022】
ところで、AlGaN自体は、気相成長法で成膜する際において欠陥の入りやすい材料である。このため、成膜された層内に含有される電子が増え、フェルミ準位が高くなり、しきい値電圧を向上させることが困難となる。
【0023】
ノーマリーオフ化層としてAlGaNを用いた場合、ノーマリーオフ化達成のためにはある程度の膜厚が必要になる。しかし、膜厚を厚くすると成膜された層内に含有される電子の量も、これに比例して増加するので、しきい値電圧を向上が見込めない。
【0024】
そこで、本発明においては、ノーマリーオフ化層を領域1と領域2の2つの異なる構造を有する構成とすることで、相反する特性であるノーマリーオフ化としきい値電圧向上を同時に高いレベルで達成することを可能とする。ここで、領域1は、欠陥の発生しにくい領域であることにより、しきい値電圧向上の効果をもたらす役割を受け持っている。
【0025】
領域1におけるAlGa1−xNのxは、0以上0.05以下が好ましく、0以上0.02以下がさらに好ましい。AlGaNに比べると、GaNのほうが成膜時欠陥は入りにくいので、しきい値電圧向上においてAlを含まないGaNが理想ではある。しかしながら、しきい値電圧向上を著しく阻害しない範囲でAlが含有されていても、本発明の効果は得られる。実質的に気相成長工程では、領域1にはAl組成が完全にゼロでない層もわずかに形成される。それでも、AlGa1−xNのxは、0≦x≦0.05の範囲であれば特に問題ない。
【0026】
領域1におけるAlGa1−xNの厚さは、200nm以上2000nm以下が好ましく、1000nm以上1500nm以下がさらに好ましい。200nm未満では、本発明の効果がみられる程度の電子量とするには著しく膜厚が不足しているので好ましくない。しかし、2000nmを超えると、中間層とデバイス活性層を含めた窒化物半導体層の合計の膜厚が厚くなりすぎて、窒化物半導体基板全体の反りが増大してしまうので、これも好ましくない。
【0027】
また、領域1は、AlGa1−xN(0≦x≦0.05)の単層または多層構造の窒化物半導体から構成されるが、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)の単層のみならず、Alの組成xの値が異なる複数のAlGa1−xN層を形成した多層構造であってもよい。さらには、Alの濃度が厚さ方向に一様に増加、または減少して変化する構造も、擬似的にxが異なる層が多層連続した構造とみなせるので、本発明の範疇に入る。
【0028】
領域1における炭素濃度は、1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下が好ましく、より好ましくは1´1019atoms/cm以上5´1019atoms/cm以下である。炭素が窒化物半導体に高濃度で含有されることで、欠陥によるフェルミ準位の上昇を抑え、デバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯を引上げる効果がある。しかしながら、1´1018atoms/cmより低い炭素濃度では、欠陥によるフェルミ準位の上昇抑制とデバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯引上げ効果が十分に得られず、逆に1´1021atoms/cmより高い濃度では、炭素をドープすること自体が困難であることから、いずれも好ましくない。
【0029】
ここで、炭素濃度が1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下というのは、広がり抵抗(SR)測定法や二次イオン質量分析(SIMS)法などの公知の濃度測定方法を用いて、基板の厚さ方向に沿って測定したときの平均値を用いる。また特に断らない限り、基板の一主面における中央1点の測定値で代表するが、必要に応じて、基板の一主面における多点を測定した値を用いてもよい。
【0030】
次に、領域1上には、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)、厚さ0.2nm以上100nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層、または多層構造の窒化物半導体からなる領域2が形成される。
【0031】
AlGaN層においては、Al組成が大きいと、伝導帯からフェルミ準位までのエネルギー差が大きくなるので、しきい値電圧を高くすることが出来る。領域1のみでは、十分にしきい値電圧を高くすることが困難なので、領域2と組み合わせることで、よりしきい値電圧を高くすることが可能となる。
【0032】
領域2のAl組成は、AlGa1−yNとした場合において、yを0.1以上1以下とすることが好ましく、0.2以上1以下がさらに好ましい。Alが少ないと、伝導帯からフェルミ準位までのエネルギー差を十分大きく出来ないので、よりしきい値電圧を高くするという目的を十分達成することが困難になる。なお、領域1の場合と同様に、領域2のAl組成は、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上限は特に制限されない。
【0033】
領域2におけるAlGa1−yNの厚さは、0.2nm以上100nm以下が好ましく、さらに好ましくは、0.2nm以上10nm以下である。0.2nm未満では、1分子層を下回るほどの薄い膜なので、基盤の表面全体に均一に成膜することが困難になり、膜厚保が不均一になることによる特性劣化が懸念され、好ましくない。しかし、100nmを超えると、フェルミ準位が高くなり、しきい値電圧の向上効果が低減してしまうので、これも好ましくない。
【0034】
領域2における炭素濃度は、1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下が好ましく、より好ましくは1´1019atoms/cm以上5´1019atoms/cm以下である。領域1と同様に、炭素が窒化物半導体に高濃度で含有されることで、欠陥によるフェルミ準位の上昇を抑え、デバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯を引上げる効果がある。しかしながら、1´1018atoms/cmより低い炭素濃度では、欠陥によるフェルミ準位の上昇抑制とデバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯引上げ効果が十分に得られず、好ましくない。一方、1´1021atoms/cmより高い濃度では、炭素をドープすること自体が困難であることから、これも好ましくない。
【0035】
また、領域2は、領域1と同様に、AlGa1−yN(0.1≦y≦1)の単層または多層構造の窒化物半導体から構成される。しかしながら、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)の単層のみならず、Alの組成yの値が異なる複数のAlGa1−yN層を形成した多層構造であってもよい。さらには、Alの濃度が厚さ方向に一様に増加、または減少して変化する構造も、擬似的にyが異なる層が多層連続した構造とみなせるので、本発明の範疇に入る。
【0036】
そして、前記領域2上には、窒化物半導体のデバイス活性層が形成される。本発明の好適な例としては、電子走行層と電子供給層から構成された窒化物半導体層の積層構造が挙げられる。なお、このとき、電子走行層と電子供給層との間に、本発明の領域2に相当する窒化物半導体層を挿入してもよい。領域2を介在させることで、この部位にも、しきい値電圧向上効果を追加することが可能となるからである。
【0037】
また、本発明に係る窒化物半導体基板は、前記中間層は炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下かつ前記デバイス活性層は炭素濃度5´1017atoms/cm以下であることが好ましい。
【0038】
領域1および領域2と同様に、前記中間層に炭素が窒化物半導体に高濃度で含有されることで、欠陥によるフェルミ準位の上昇を抑え、デバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯を引上げる効果がある。しかしながら、1´1018atoms/cmより低い炭素濃度では、欠陥によるフェルミ準位の上昇抑制とデバイス活性層として形成されるGaN層の伝導帯引上げ効果が十分に得られず、好ましくない。一方、1´1021atoms/cmより高い濃度では、炭素をドープすること自体が困難であることから、いずれも好ましくない。加えて、前記デバイス活性層に炭層濃度が5´1017atoms/cmより高い濃度では、電子が散乱され電子移動度の低下が顕著となり好ましくない。
【0039】
以上のように、本発明に係る窒化物半導体基板においては、中間層とデバイス活性層との間に、しきい値電圧をより向上できるノーマリーオフ化層を簡易な構成で具備する。これにより、従来よりしきい値電圧を高くできるノーマリーオフ型の窒化物半導体基板とすることが可能となる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0041】
図1に示すような層構造を備えた窒化物半導体基板を、以下の工程により作製した。
共通する製造方法として、直径4インチのSi単結晶基板1をMOCVD装置にセットし、窒化物半導体の原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、NH3、メタンを用い、積層する膜に応じてこれらの原料を適時使い分け、気相成長温度を1000℃にして各層を気相成長にて形成した。なお、各層の組成および厚さの調整は、各原料の選定、流量および供給時間の調整により行った。
【0042】
(実施例1)
Si単結晶基板1上に、厚さ20nmで炭素濃度5´1019atoms/cmのAlN単結晶層21を形成し、続けて、厚さ80nmで炭素濃度5´1019atoms/cmのAl0.2Ga0.8N単結晶層22を積層させ、これらを同様の工程にて交互に繰り返し、各10層、合計20層積層させて中間層2を形成した。この中間層2上に、厚さ1400nmかつ組成AlGa1−xN(x=0)で炭素濃度5´1019atoms/cmの単層からなる領域1と、領域1上に厚さ30nmかつ組成AlGa1−yN(y=0.2)で炭素濃度5´1019atoms/cmの単層からなる領域2とを形成した。領域2上に、厚さ500nmで炭素濃度5´1017atoms/cmのGaN単結晶層を電子走行層41として、続けて、厚さ30nmで炭素濃度5´1017atoms/cmのAl0.25Ga0.75N単結晶による電子供給層42をそれぞれ積層させることで、窒化物活性層4を形成した。以上の工程を経て、窒化物半導体基板を得た。
【0043】
(比較例1)
中間層2の形成までは実施例1と同様に作製した。この中間層2上に、厚さ1430nmかつ組成AlGa1−xN(x=0)で炭素濃度5´1019atoms/cmの単層からなる領域1のみ作製した。領域1上には、実施例1と同様の窒化物活性層4を形成した。以上の工程を経て、窒化物半導体基板を得た。
【0044】
(参考例)
参考例として、本発明における領域1のない構造の例を示す。まず、中間層2の形成までは実施例1と同様に作製した。この中間層2上に、厚さ30nmかつ組成AlGa1−yN(y=0.2)で炭素濃度5´1019atoms/cmの単層からなる領域2のみ作製した。領域2上には、実施例1と同様の窒化物活性層4を形成した。以上の工程を経て、窒化物半導体基板を得た。
【0045】
これら3つの窒化物半導体基板に対して、それぞれしきい値電圧を測定し、比較した。なお、しきい値電圧の測定は、それぞれ作製した窒化物半導体基板のデバイス活性層上に、リセスゲートのショットキー電極(Ni/Au)およびソース・ドレインとしてオーミック電極(Ti/Al)の電極形成および素子分離を行い、電界効果型トランジスタのデバイスを形成後、室温にてカーブトレーサによるI−V測定を行うことで実施した。
【0046】
しきい値電圧は、比較例1.0Vに対して、参考例は0.7V、実施例1は2.2Vとなった。これより、本発明の構成を有することで、従来よりしきい値電圧の向上が確認された。
【0047】
次に、実施例1の形態を有する窒化物半導体基板をもとに、領域1と領域2のAl組成、膜厚、炭素濃度を変更して作製した窒化物半導体基板の、それぞれのしきい値電圧を測定、比較した。このときの、領域1と領域2の各パラメータ値としきい値電圧を表1に示す。なお、各パラメータを振った実施例と比較例の評価結果において、しきい値電圧以外で特性の変化がみられたものについては、特記事項として記載した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果から、本発明の実施範囲においては、しきい値電圧が1.5V以上となり、しきい値向上の効果が発揮されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、大電流制御のインバータや高速かつ高耐圧電子デバイスとして好適な窒化物半導体に用いられる、窒化物半導体基板として好適である。
【符号の説明】
【0051】
1…Si単結晶基板、2…中間層、21…1層目緩衝層、22…2層目緩衝層、3…ノーマリーオフ化層、31…領域1、32…領域2、4…デバイス活性層、41…電子走行層、42…電子供給層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si単結晶からなる基板と、前記基板上に形成されAlを含む窒化物半導体層を少なくとも1層以上含む窒化物半導体の積層構造からなる中間層と、前記中間層上に形成され、組成AlGa1−xN(0≦x≦0.05)、厚さ200nm以上2000nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域1と、前記領域1上に形成され、組成AlGa1−yN(0.1≦y≦1)、厚さ0.2nm以上100nm以下、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下の単層または多層構造の窒化物半導体からなる領域2と、前記領域2上に形成される窒化物半導体のデバイス活性層とからなることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項2】
前記中間層は、炭素濃度1´1018atoms/cm以上1´1021atoms/cm以下、かつ前記デバイス活性層は炭素濃度5´1017atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−258782(P2011−258782A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132558(P2010−132558)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】