説明

窒化物半導体発光素子の製造方法および窒化物半導体発光素子

【課題】反射率の高いAl層をn側電極に使用してn型導電層とのコンタクト層に使用した場合でも、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化を抑制して、電圧低下を抑制することができる窒化物半導体発光素子の製造方法および窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、窒化物半導体材料により形成されたn型導電性基板と、n型導電性基板に、n型導電層、発光層、p型導電層、p型半導体層上に設けられたp側電極と、p型導電層とは反対側のn型導電性基板上に設けられたn側電極とを備えている。n側電極をn型導電性基板上に設けるときには、まず、n型導電性基板にSiを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射してn型導電性基板にイオン照射層を形成する(照射工程、ステップS52)。次に、イオン照射層上に、Al電極とボンディング電極とを含む電極を形成してn側電極とする(電極形成工程、ステップS60)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体材料により形成された、n型半導体層、発光層、p型半導体層と、p型導電層上に設けられたp側電極と、p型半導体層とは反対側のn型半導体層上に設けられたn側電極とを備えた窒化物半導体発光素子の製造方法および窒化物半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体発光素子として特許文献1,2に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1には、n型クラッド層をウェットエッチングして、−c面を露出させ、更に、光の取出し効率を向上させるため、RIEによりエッチングして表面に凹凸面からなるディンブルを形成し、次に、Siによるn型不純物と、そのn型不純物とW−Al−Si、W−Siによる合金を形成する金属を含む多層膜を形成し、アニールしてn電極を形成し、ダイシングにより素子をチップ状に分離する窒化物半導体素子の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、GaN基板の研磨面に生成された変質層をエッチングガスに塩素と酸素との混合ガスを用いて、高周波誘導結合プラズマ(ICP)のドライエッチングや、反応性イオンエッチング(RIE)、電子サイクロン共鳴(ECR)エッチング等により除去し、エッチング後のエッチング面に、Ti/Al/Pt/Au等によるn型電極を形成する窒化物半導体装置の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−281863号公報
【特許文献2】特開2005−347534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の窒化物半導体素子の製造方法では、Si層を含む金属をコンタクト電極とすることで、通常の金属形成する場合よりもコンタクト抵抗が高くなったり、吸収率が高くなったりする可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の窒化物半導体装置の製造方法では、ウェットエッチングによる粗面に直接電極を形成する場合に比べて、コンタクト抵抗が高くなる。
【0008】
ところで、窒化物半導体素子をリードフレームや実装基板に搭載するために加熱すると電流電圧特性が大きく悪化する現象が発生する。
【0009】
例えば、窒化物半導体発光素子として、図9に示すように、導電性を有するウェハ状態のn型導電性基板2に、積層体3としてn型導電層31、発光層32、p型導電層33とを積層した後に反射電極4を設け、更に陰極となるn側電極5と、陽極となるp側電極6とを設ける。このn側電極5をn型導電性基板2に設ける際に、図10(A)に示すように、KOH薬液によるウェットエッチングを行って粗面にした後に、図10(B)に示すようにn側電極5が形成される領域を除いてレジストマスクを形成し、粗面加工の際の酸化物を除去するためにHFによるウェットエッチングを行った後に、図10(C)に示すようにAl層51、Ti層52、Au層53からなるn側電極5を蒸着により形成した。Al層51は、発光層32からの光を反射させてn側電極により遮光される光を有効活用するためのものである。
【0010】
そして、熱を加える前と、285℃の熱を1分間加えた後とで、図9に示すように、n側電極5間での電流および電圧の特性を測定した。この結果を図11に示す。
【0011】
図11のグラフからもわかるように、熱処理前では順方向電流が20mAであるときには電圧が0.05Vであったが、熱処理後では電圧が0.25Vとなってしまっており、同じ電流値でも電圧値が大きく低下して性能が著しく低下した。これは、加熱することでn側電極5のAl層51とn型導電性基板2とが過剰に反応したために、コンタクト性が低下して高抵抗化したため電圧が大きく変動したものと推定できる。
【0012】
そこで本発明は、反射率の高いAl層をn側電極に使用してn型導電層とのコンタクト層に使用した場合でも、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化を抑制して、電圧低下を抑制することができる窒化物半導体発光素子の製造方法および窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、窒化物半導体材料により形成されたn型半導体層、発光層、p型半導体層と、前記p型半導体層上に設けられたp側電極と、前記p型半導体層とは反対側の前記n型半導体層上に設けられたn側電極とを備えた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、前記n型半導体層をSiまたはBを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射して、前記n型半導体層にイオン照射層を形成する照射工程と、前記イオン照射層上に、Al電極とボンディング電極とを含む電極を形成して前記n側電極とする電極形成工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオン照射層が加熱によりコンタクト性が低下してしまうAl層を含むn側電極であっても、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化を抑制することができるので、電圧低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子を示す断面図
【図2】(A)図1に示す窒化物半導体発光素子の製造方法の各工程を示すフローチャート、(B)ステップ50の各工程を示すフローチャート
【図3】(A)〜(E)図1に示す窒化物半導体発光素子の製造方法の各工程を示す図
【図4】(A)〜(D)図1に示す窒化物半導体発光素子のn側電極を形成する方法を説明するための図
【図5】n側電極形成工程にて使用されるプラズマ発生装置を示す図
【図6】図1に示す窒化物半導体発光素子を基体に実装した状態を示す図
【図7】本発明の実施の形態に係る製造方法により製造された窒化物半導体発光素子の電流と電圧との関係を示すグラフ
【図8】洗浄工程を省略した場合の窒化物半導体発光素子の電流と電圧との関係を示すグラフ
【図9】n型導電性基板がウェハ状態の従来の窒化物半導体発光素子と、そのn側電極間の電流電圧の測定方法とを説明するための断面図
【図10】(A)〜(C)図9に示す従来の窒化物半導体発光素子のn側電極を形成する方法を説明するための図
【図11】図10に示す製造方法により製造された窒化物半導体発光素子の電流と電圧との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願の第1の発明は、窒化物半導体材料により形成されたn型半導体層、発光層、p型半導体層と、p型半導体層上に設けられたp側電極と、p型半導体層とは反対側のn型半導体層上に設けられたn側電極とを備えた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、n型半導体層をSiまたはBを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射して、n型半導体層にイオン照射層を形成する照射工程と、イオン照射層上に、Al電極とボンディング電極とを含む電極を形成してn側電極とする電極形成工程とを含むことを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0017】
第1の発明によれば、n側電極を形成する前に、n型半導体層をSiまたはBを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射することで、イオン照射層が形成されるため、このイオン照射層が加熱によりコンタクト性が低下してしまうAl層を含むn側電極であっても、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化を抑制することができる。
【0018】
本願の第2の発明は、第1の発明において、照射工程は、100nm以下のエッチング量によりイオン照射層を形成することを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0019】
第2の発明によれば、100nm以下のエッチング量によりイオン照射層を形成することで、光取り出し向上のパターン形成をしている場合において状態が維持できるため、輝度のロスを防ぐことができる。また、過剰なエッチングによるコンタクト抵抗の悪化が抑制できる。
【0020】
本願の第3の発明は、第1または第2の発明において、照射工程の後に、n型半導体層をウェットエッチングにより付着物を除去する洗浄工程を含むことを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0021】
第3の発明によれば、照射工程の後に、洗浄工程を行うことにより、n側電極が形成される電極形成領域に照射工程で付着したデポ物を除去することができる。
【0022】
本願の第4の発明は、第3の発明において、洗浄工程は、ウェットエッチングとしてHF薬液により処理することを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0023】
第4の発明によれば、HFによるウェットエッチングを行うことで、n側電極が形成される電極形成領域に付着したデポ物を効果的に除去することができる。
【0024】
本願の第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、照射工程をする前に、n側電極を形成するn型半導体層の表面をウェットエッチングにより粗面加工する粗面加工工程を含むことを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0025】
第5の発明によれば、照射工程をする前に、粗面加工工程を行うことにより、n型半導体層の表面が粗面となるので光取り出し効率を向上させることができる。
【0026】
本願の第6の発明は、第5の発明において、粗面加工工程は、ウェットエッチングとしてKOH薬液により処理することを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0027】
第6の発明によれば、KOH薬液によるウェットエッチングを行うことで、n型半導体層の表面を効果的に凹凸面とすることができる。
【0028】
本願の第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明において、電極形成工程の後に、イオン照射層の中にn側電極のAlを拡散させる加熱工程を備えることを特徴とした窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0029】
第7の発明によれば、基体に実装する前に加熱したり、基体実装時に加熱したりすることで、イオン照射層の中にn側電極のAlが拡散して、n型半導体層とn側電極との接合面を低抵抗化した状態とすることができるので、コンタクト性が向上した窒化物半導体発光素子とすることができる。
【0030】
本願の第8の発明は、第1から7のいずれかの発明に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法により製造されたことを特徴とした窒化物半導体発光素子である。
【0031】
第8の発明によれば、加熱によりコンタクト性が低下してしまうAl層を含むn側電極であっても、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化が抑制できることで電圧の低下を抑制できる窒化物半導体発光素子とすることができる。
【0032】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子について、図面に基づいて説明する。
【0033】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子1は、導電性を有するn型半導体層であるn型導電性基板2に、積層体3と反射電極4が設けられ、陰極となるn側電極5と、陽極となるp側電極6とが設けられたものである。
【0034】
n型導電性基板2は、窒化物半導体材料の窒化系ガリウム半導体であるn型GaNで形成されている。n型導電性基板2のn側電極5が設けられている領域には、詳細は後述するが、変性させた変質層であるイオン照射層が設けられている。
【0035】
積層体3は、n型導電性基板2の積層面側に、n型半導体層であるn型導電層31、発光層32、p型半導体層であるp型導電層33を順に積層したものである。n型導電性基板2とn型導電層31との間に、バッファ層を設けてもよい。n型導電層31へのn型ドーパントとして、SiまたはGe等が好適に用いられる。このn型導電層31は、膜厚2μmで形成されている。
【0036】
発光層32は、少なくともGaとNとを含み、必要に応じて適量のInを含ませることで、所望の発光波長を得ることができる。また、発光層32としては、1層構造とすることもできるが、例えば、InGaN層とGaN層を交互に少なくとも一対積層した多量子井戸構造とすることも可能である。発光層32を多量子井戸構造とすることで、更に輝度を向上させることができる。
【0037】
p型導電層33は、発光層32の上に直接あるいは少なくともGaとNを含んだ半導体層を介して積層されたものである。また、p型導電層33へのp型ドーパントとしては、Mg等が好適に用いられる。このp型導電層33は膜厚0.1μmで形成されている。
【0038】
反射電極4は、高い反射率を有するAg層により形成されている。この反射電極層の膜厚は、200nmである。反射電極4の周囲には、SiO2などの絶縁膜により形成された保護膜7が設けられている。
【0039】
n側電極5は、n型導電性基板2の積層体の積層面とは反対側となる面に設けられている。n側電極5は、三層構造を有しており、n型導電性基板2側から、nコンタクト電極として機能するAl層51、金属拡散バリア電極として機能するTi層52と、ボンディング電極として機能するAu層53とにより形成されている。Al層51は、n型導電性基板2との良好なコンタクト性を向上させるだけでなく、450nmの発光波長で、約86%の高い反射率を有するAlから形成されていることで、反射電極としても機能する。
【0040】
p側電極6は、反射電極4上に形成され、カバー電極として機能するバリア電極61、バリア電極61上に形成されたボンディング電極として機能する金と錫との合金のめっき接合電極62とを備えている。バリア電極61は、反射電極4の拡散を抑制するために、電極材料としてIn,Zn,Pt,Pd,Ni、または、これらの金属を少なくとも1種類以上含む合金、または導電性膜より形成することができる。バリア電極61の膜厚は、100nmから300nmとすることができる。また、接合電極62の膜厚は、1μmから5μmとすることができる。
【0041】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法について、図2から図6に基づいて説明する。
【0042】
図3(A)に示すように、ウェハ状態のn型導電性基板2に、積層体3であるn型導電層31と発光層32とp型導電層33とを順次積層する(図2(A)参照、積層体形成工程、ステップS10)。
【0043】
図3(B)に示すように、積層工程が終了すると、積層体3の積層面側から溝12を形成する(図2(A)参照、溝形成工程、ステップS20)。溝12を形成するときには、p型導電層33から少なくともn型導電層31に達するまでの深さで、最終的に個片にするときの境界となる位置に形成する。溝12は、レーザ装置によるレーザ光の照射で形成することができる。溝12をレーザ光により照射や、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)などにより形成する。
【0044】
図3(C)に示すように、溝12を形成した後に、反射電極4が形成される領域以外の領域に保護膜7を形成する(図2(A)参照、保護膜形成工程、ステップS30)。この保護膜7は、例えばSiO2などの酸化膜で形成することができる。
【0045】
図3(D)に示すように、保護膜7から露出したp型導電層33上に反射電極4を形成する。そして、図3(E)に示すように、反射電極4上にバリア電極61と接合電極62を積層してp側電極6を形成する(図2(A)参照、p側電極形成工程、ステップS40)。
【0046】
次に、n側電極5をn型導電性基板2上の電極形成領域Jに形成するが、その前に前処理(図2(A)参照、電極形成前工程、ステップS50)を行う。この電極形成前工程について、図4と図2(B)に基づいて詳細に説明する。
【0047】
まず、図4(A)に示すように、n型導電性基板2からの光取り出し効率を向上させるために、n型導電性基板2をウェットエッチングにより0.5〜5μmのエッチング量で粗面加工する(図2(B)参照、粗面加工工程、ステップS51)。この粗面加工をKOH薬液によりウェットエッチングとすることで、凹凸面となると共に、n型導電性基板2の表面にはGaOHやNOHXなどの酸化物が生成され付着する。
【0048】
次に、図4(B)に示すように、粗面となったn型導電基板2の電極形成面に電極形成用のレジストマスク13を形成する。このレジストマスク13は、n側電極5が形成される電極形成領域Jを除いて形成されている。このレジストマスク13から露出したn型導電性基板2の表面、つまり、n側電極5を形成するための電極形成領域Jに、イオン照射層を形成する(図2(B)参照、照射工程、ステップS52)。このイオン照射層は、例えばプラズマ発生装置でRIEを行うことにより形成することができる。
【0049】
ここで、プラズマ発生装置で行われる照射工程を、図5に基づいて詳細に説明する。図5は、n側電極形成工程にて使用されるプラズマ発生装置を示す図である。
【0050】
図5に示すように、プラズマ発生装置100は、真空チャンバ101内に、電極102と、電極102に電圧を印加する電源部103と、真空チャンバ101内の空気を排気する排気バルブ104を有する排気装置105と、ガスを真空チャンバ101内に導入するガス導入装置106とを備えている。また、真空チャンバ101内に、積層体3にp側電極6が形成されたウェハ状態のn型導電性基板2を載置する載置台107が設けられている。この真空チャンバ101は、グランドレベルとする接地部108によりアースされている。
【0051】
電極102は、電源部103からの高周波電圧により真空チャンバ101内で放電し、プラズマを発生させる。排気装置105は、排気バルブ104を開放し、真空チャンバ101内の空気を排気して、圧力を1.0×10-3Pa以下とする機能を有する。ガス導入装置106は、SiまたはBを含む塩素系化合物ガスなどを貯留したタンク106aから真空チャンバ101に導入させる。本実施の形態では、SiCl4ガスを使用している。
【0052】
以上のようなプラズマ発生装置100を用いてn型導電性基板2の電極形成領域JをRIEして、粗面加工工程により付着した塩素系残留物やSi系の沈殿物(デポ物)を除去すると共に、表面を変質させてイオン照射層を形成する方法について説明する。
【0053】
(1)p側電極6が積層体3上に形成されたウェハ状態のn型導電性基板2を載置台107に配置する。
【0054】
(2)排気バルブ104を開放して排気装置105から真空チャンバ101内の空気を排気し、圧力を1.0×10-3Pa以下とする。
【0055】
(3)ガス導入装置106からSiCl4ガスを真空チャンバ101内へ導入する。
【0056】
(4)電源部103により電極102に高周波電圧を印加する。
【0057】
高周波電圧が印加されたことにより、電極102と載置台107の間の空間S1にプラズマが発生しSiCl4ガスが分解される。
【0058】
この分解されたSiCl4ガスの雰囲気に電極形成領域Jを曝すことで、エッチングされて、塩素系残留物やSi系の沈殿物(デポ物)が除去される。また、電極形成領域Jの表面が変質してイオン照射層2aとなる(図4(B)参照)。
【0059】
このときのエッチング量は100nm以下とすることができる。100nm以下のエッチング量によりイオン照射層2aを形成することで、50μm〜150μmのエッチング量で粗面加工された凹凸面のパターンをほぼ維持することができる。従って、表面をイオン照射により変質させつつ、光取り出し効率の向上を図るための粗面の状態を残すことができるので、輝度のロスを防止することができる。また、過剰なエッチングによるコンタクト抵抗の悪化が抑制できる。
【0060】
次に、照射工程によりイオン照射した後に、図4(C)に示すように、n型導電性基板2の電極形成領域Jをウェットエッチングにより洗浄する(図2(B)参照、洗浄工程、ステップS53)。このウェットエッチングは、HF薬液により行うことで、粗面加工工程でのKOHの付着物や照射工程でのデポ物Yを除去する。このウェットエッチングをHF薬液により行うことで、n型導電性基板2とn側電極5の電極界面における不純物が除去できるので、処理しない場合に比べて、n型導電性基板2とn側電極5の間は、約1/2低いコンタクト抵抗が得られる。
【0061】
このようにして電極形成前工程(図2(A)参照、ステップS50)が終わると、図4(D)に示すように、洗浄工程により洗浄した電極形成領域Jに蒸着によりAl層51、Ti層52、Au層53を積層してn側電極5を形成する(図2(A)参照、電極形成工程、ステップS60)。
【0062】
そして、ダイシングラインに沿ってダイサーまたはレーザースクライブにより切断して個片とすることで、図1に示す窒化物半導体発光素子を得ることができる(図2(A)参照、個片化工程、ステップS70)。
【0063】
このようにして製造された窒化物半導体発光素子1は、図6に示すように、リードフレームや実装基板などの基体Fにp側電極6を向かい合わせて300℃の高温で加熱して共晶接合させる。
【0064】
しかし、窒化物半導体発光素子1は、n側電極5をn型導電性基板2に設ける際に、Siを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射しているため、n型導電性基板2が変質してイオン照射層2a(図4(B)参照)が生成される。このイオン照射層2a上にn側電極5が設けられているので、Al層51はTiと比較してコンタクト性が劣るが、n型導電性基板2とn側電極5とのコンタクト性を向上させることができる。また、n側電極5に、反射電極として機能するAl層51を設けたことで、発光層32からの光を反射させることができるので、Ti層52やAu層53によって吸収されてしまう光を効果的に反射させて外部へ出射させることができる。
【0065】
従って、反射率の高いAl層51をn側電極5に使用してn型導電性基板2とのコンタクト層に使用した場合でも、加熱によるn側電極5のコンタクト性の悪化を抑制して、電圧低下を抑制することができる。
【0066】
また、n型導電性基板2は粗面に形成されていることで、発光層32からの光が全反射して内部への戻り光となることを抑制することができるので、更に、光取り出し効率を向上させることができる。
【0067】
なお、実施の形態では300℃で共晶接合を行うことによりn側電極5のコンタクト性を向上させているが、下限として150℃以上で1分以上の加熱による熱履歴が加わっていればAl層51とn型導電性基板2に含まれるGaは、3nm程度拡散が進むので、イオン照射層2aの中にAlが拡散することによるコンタクト性を向上させる効果が得られる。
【0068】
例えば、コンタクト性の向上が得られない程度の低温度によりリードフレームや実装基板などの基体に実装する場合には、個片化する前の状態の窒化物半導体発光素子1に、150℃以上での熱履歴を加える、または望ましくは250℃で1分以上の熱履歴を加えることにより、n型導電性基板2とn側電極5との接合面を予め低抵抗化した状態とすることができる。従って、コンタクト性を向上させた窒化物半導体発光素子1を工場から出荷することができる。
【0069】
なお、この加熱(加熱工程)は、基体に実装する前に行うだけでなく、基体に実装する際に行うことも可能である。そうすることで、窒化物半導体発光素子1を基体に実装し、樹脂により封止した発光装置として需要先に提供するときに、低電圧で高輝度化な発光装置を提供することができる。
【実施例】
【0070】
本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子を発明品Aとして製作した。発明品Aは、まず、n型導電性基板2上に有機金属気相成長法(MOCVD)により、n型導電層31、発光層32、p型導電層33を順次成長させる。
【0071】
n型導電層31は、GaN層を成長温度1000℃でTMG(トリメチガリウム)、NH3(アンモニア)、キャリアとして水素ガスを用いて成長させた。そして、n型導電性を得るためにドーパントとしてSi(シラン)を5×1018cm-3得られるようにドープしながら3μmの膜厚に成長させた。
【0072】
発光層32は、成長温度700℃でTMG,TMIそしてアンモニアを用いて、GaN/GaInNの多重量子井戸層を総膜厚が32nmとなるように成長させた。
【0073】
p型導電層33は、GaN層を成長温度1000℃でTMG、NH3、を用いて成長させた。p型導電性を得るためにドーパントとしてMg:CP2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を1×1020cm-3得られるようドープしながら12nmの膜厚に成長させた。
【0074】
次に、反射電極4と、p側電極6のバリア電極61とを順次形成した。反射電極4は、Pt/Ag=0.05/200nmの膜厚に形成した。バリア電極61は、Ti/Au=200/1500nmの膜厚に形成した。
【0075】
次に、p側電極6の接合電極62を形成した。接合電極62は、AuSnを3μmの膜厚に形成した。
【0076】
次に、n型導電性基板2を100μmまで研磨した後に、n型導電性基板2の研磨した面をKOH薬液でエッチングして、n型導電性基板2の表面を六角錐状の集合体となる凹凸形状の粗面にした。
【0077】
次に、プラズマ発生装置100によりSiCl4の雰囲気に電極形成領域Jを50秒間曝すことで、約40nmがエッチングされて、塩素系残留物やSi系の沈殿物(デポ物)が除去した。そして、HF薬液によるウェットエッチングにより表面処理を行った。
【0078】
次に、n側電極5を形成する。n側電極5は、Al層51/Ti層52/Au層53=200/300/3000nmとなるよう形成した。
【0079】
最後に、レーザースクライブによりチップ分離を行って個片とすることで図1に示す窒化物半導体発光素子1を得た。
【0080】
この発明品Aに対して、熱を加える前と、285℃の熱を1分間加えた後とで、図9に示す接続によりn側電極5間での電流および電圧の特性を測定した。この結果を図7に示す。
【0081】
図7に示すグラフからもわかるように、熱処理前では順方向電流が20mAであるときの電圧が0.1Vであったが、熱処理後では電圧が0.05Vとなり、熱処理後の方が電圧が低下し、電圧特性が改善した。これは、熱処理によりn型導電性基板2とn側電極5との接合面がイオン照射層2aを介して低抵抗化したためと推定できる。
【0082】
次に、発明品Bとして、図2にて説明した洗浄工程(ステップS53)を省略した以外は、同じ工程、同じ条件で、窒化物半導体発光素子を作製し、発明品Aと同様にn側電極5間での電流および電圧の特性を測定した。この結果を図8に示す。
【0083】
図8に示すグラフからもわかるように、熱処理前では順方向電流が20mAであるときの電圧が0.1Vであったが、熱処理後では電圧が0.22Vとなっていた。発明品Bは、発明品Aよりは電圧の特性が悪化したものの、図11に示す従来の窒化物半導体発光素子では順方向電流が20mAであるときに加熱後には0.25Vとなってしまっていたため、従来品より電圧の低下が抑えられている。従って、プラズマ処理によるイオン照射層2aの生成が、n側電極5とのコンタクト性の向上に効果的であることがわかる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本実施の形態では、照射工程をSiを含む塩素系化合物ガスであるSiCl4ガスの雰囲気中で行っているが、Bを含む塩素系化合物ガスとしてもよい。
【0085】
また、窒化物半導体発光素子1は、n側電極5がn型導電性基板2に形成されているが、n型導電性基板2上に積層体3を積層した後に積層体3からn型導電性基板2を剥離させ、n側電極5をn型半導体層であるn型導電層31に形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、反射率の高いAl層をn側電極に使用してn型導電層とのコンタクト層に使用した場合でも、加熱によるn側電極のコンタクト性の悪化を抑制して、電圧低下を抑制することができるので、窒化物半導体材料により形成された、n型半導体層、発光層、p型半導体層と、p型半導体層上に設けられたp側電極と、p型半導体層とは反対側のn型半導体層上に設けられたn側電極とを備えた窒化物半導体発光素子の製造方法および窒化物半導体発光素子に好適である。
【符号の説明】
【0087】
1 窒化物半導体発光素子
2 n型導電性基板
2a イオン照射層
3 積層体
4 反射電極
5 n側電極
6 p側電極
7 保護膜
31 n型導電層
32 発光層
33 p型導電層
51 Al層
52 Ti層
53 Au層
61 バリア電極
62 接合電極
12 溝
13 レジストマスク
100 プラズマ発生装置
101 真空チャンバ
102 電極
103 電源部
104 排気バルブ
105 排気装置
106 ガス導入装置
107 載置台
108 接地部
J 電極形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体材料により形成されたn型半導体層、発光層、p型半導体層と、前記p型半導体層上に設けられたp側電極と、前記p型半導体層とは反対側の前記n型半導体層上に設けられたn側電極とを備えた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記n型半導体層をSiまたはBを含む塩素系化合物ガスの雰囲気中でプラズマ照射して、前記n型半導体層にイオン照射層を形成する照射工程と、
前記イオン照射層上に、Al電極とボンディング電極とを含む電極を形成して前記n側電極とする電極形成工程とを含むことを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記照射工程は、100nm以下のエッチング量によりイオン照射層を形成する請求項1記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記照射工程の後に、前記n型半導体層をウェットエッチングにより付着物を除去する洗浄工程を含む請求項1または2記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程は、ウェットエッチングとしてHF薬液により処理する請求項3記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記照射工程をする前に、前記n側電極を形成する前記n型半導体層の表面をウェットエッチングにより粗面加工する粗面加工工程を含む請求項1から4のいずれかの項に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記粗面加工工程は、ウェットエッチングとしてKOH薬液により処理する請求項5記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記電極形成工程の後に、前記イオン照射層の中に前記n側電極のAlを拡散させる加熱工程を備える請求項1から6のいずれかの項に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1から7のいずれかの項に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法により製造されたことを特徴とする窒化物半導体発光素子。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−138452(P2012−138452A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289377(P2010−289377)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】