説明

窒化物系半導体発光素子及びその製造方法

【課題】 金属−半導体界面に1μm以下の凹凸を高密度に形成することにより、駆動電圧を低下させることができ、それによって発熱量の低下に基づく長寿命化及び高発光効率を期待できる窒化物系半導体発光素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の窒化物系半導体発光素子は、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする。
(1)窒化物化合物半導体素子の表面に段差が大きい凹凸を形成する工程、
(2)前記段差が大きい凹凸の表面に段差が小さい凹凸を形成して段差の大きさが異なる2段階の凹凸を形成する工程、
(3)前記段差の大きさが異なる2段階の凹凸の表面に電極を形成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウムGaN系の化合物半導体発光ダイオード(LED)、化合物半導体レーザ素子等の窒化物系半導体発光素子及びその製造方法に関し、特に金属−半導体間のコンタクト抵抗の低減を計って低駆動電圧化を達成できる窒化物系半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色LEDや青紫色半導体レーザには、窒化物系半導体が主として用いられている。この窒化物系半導体は、通常、サファイア基板、SiC基板またはGaNなどの窒化物系半導体基板上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシャル成長)法、または、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法などの結晶成長法を用いて成長させる。
【0003】
従来の窒化物系半導体レーザ素子の一具体例を図6に示す。なお、図6は、従来の窒化物系半導体レーザ素子50の模式的な断面図である。この窒化物系半導体レーザ素子50は、サファイア基板51上にバッファ層52、アンドープGaN層53、n−GaNコンタクト層54、n−AlGaNクラッド層55、n−GaN光ガイド層56、活性層57、p−GaN光ガイド層58が順に形成されてなる。p−GaN光ガイド層58の所定幅の領域上にリッジ状にp−AlGaNクラッド層59が形成されており、このリッジ状のp−AlGaNクラッド層59の側面に電流狭窄層60が形成されている。更に、p−AlGaNクラッド層59の上面および電流狭窄層60上にp−GaNコンタクト層61が形成されている。p−GaNコンタクト層61からn−GaNコンタクト層54までの一部領域が除去されてn−GaNコンタクト層54が露出し、メサ形状が形成されている。露出したn−GaNコンタクト層54の所定領域上にn側電極62が形成され、p−GaNコンタクト層61の所定領域上にp側電極63が形成されている。
【0004】
このような窒化物系半導体レーザ素子ないしは発光ダイオード素子(以下、これらを合わせて「窒化物系半導体発光素子」という。)においては、駆動電圧が上昇すると、内部電力損失が大きくなるために発熱量が増大する。この発熱量の増大は、窒化物系半導体発光素子の寿命ないし発光効率に悪影響を及ぼすために、駆動電圧の低減のために多様な方面から注力がなされている。
【0005】
この駆動電圧の低減策の一つとして、窒化物系半導体発光素子の金属−半導体間のコンタクト抵抗の低減がある。これは一般的にコンタクト電極材料となる金属の最適化を行うことの他に、金属−半導体の接触界面の面積を半導体表面に凹凸を形成することによって増大させることにより対応されている。このような金属−半導体界面に凹凸を形成した場合、コンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効な凹凸の大きさは1μm以下のミクロな凹凸である。
【0006】
このような金属−半導体界面に凹凸を形成することによりコンタクト抵抗を低減するようにした窒化物系半導体発光素子は、既に下記特許文献1及び2にも開示されているように、周知のものであるが、このうち、下記特許文献2に開示されている金属−半導体の接触界面の面積を半導体表面に凹凸を形成することによって増大させた窒化物系半導体レーザ素子を、模式的な断面図である図7を用いて説明する。
【0007】
この下記特許文献2に開示されている窒化物系半導体レーザ素子70は、サファイア基板71の上に、n型コンタクト層72、n型クラッド層73、活性層74、p型クラッド層75、p型コンタクト層76が順に積層されたダブルヘテロ構造を示している。この窒化物半導体レーザ素子ではp型コンタクト層76の表面にはストライプ状のp側電極77が形成され、更に、n型コンタクト層72の表面には凹凸面78が設けられ、その凹凸面78にp側電極と平行な方向にストライプ状のn側電極79が形成されている。なお、p側電極77とn側電極79との間にある窒化物半導体層表面には、短絡防止のためにSiO2よりなる絶縁膜80が設けられている。
【0008】
また、この窒化物系半導体レーザ素子70は、p側電極77のストライプ幅が数μm以下と非常に狭いので、p側電極77に直接ワイヤーボンディングすることが困難であるため、パッド電極81を設けることによりp側電極77を外部電源と接続することを容易にしている。
【0009】
このように、窒化物系半導体レーザ素子70のn型コンタクト層72の表面に凹凸面78を設けることにより、n側電極79とn型コンタクト層72との接触面積が大きくなるため、n側電極とn型コンタクト層との間に好ましいオーミック接触が得られ、窒化物系半導体レーザ素子70全体の消費電力に対するn側電極−n型コンタクト層72間のコンタクト抵抗に基づく消費電力が小さくなるので、窒化物系半導体レーザ素子70の駆動電圧を低下させることができるというものである。
【0010】
このようなn型コンタクト層72の表面に凹凸面78を設けるには、所定の形状のマスクを電極を形成すべきn型コンタクト層72の表面に形成した後、エッチングする方法が採用されている。このエッチング方法としては、エッチング後のn型コンタクト層の表面を荒らさないようにするため、RIE(反応性イオンエッチング)、イオンミリング、ECR(電子サイクロトロン共鳴)等の乾式エッチング装置を使用する方法が採用され、凹凸面78の凹凸段差は、例えば0.01μm以上の凹凸差で形成することが望ましく、0.01μmよりも小さいと駆動電圧の低下が顕著に現れない傾向にあるとされている。
【特許文献1】特開平10−065213号公報(特許請求の範囲、段落[0009]〜[0012]、図1、図2)
【特許文献2】特開昭60−175468号公報(特許請求の範囲、2頁右上欄19行〜同頁右下欄8行、図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年に至り発光波長が短い青紫色や更に短波長領域の光を発し、高性能で長寿命な窒化物系半導体発光素子が要望され、そのために転位密度が非常に低い窒化物化合物半導体基板が使用されるようになってきている。このような窒化物系半導体材料は、LEDとして利用するには転位密度が108個/cm2〜1010個/cm2程度のものが使用できるが、レーザダイオードとして利用するには転位密度を106個/cm2オーダーにする必要がある。特に、短波長領域の光を発する窒化物系半導体レーザダイオード用には、転位密度が106個/cm2オーダー以下である窒化物系半導体基板が使用される。
【0012】
しかしながら、このような転位密度が低い窒化物系半導体基板を用いて窒化物系半導体発光素子を製造する場合、窒化物系半導体基板に凹凸を形成しようとしても、化学的エッチング法によっては段差が1μm以下の凹凸は低密度にしか形成されない。金属−半導体界面に凹凸を形成した場合、コンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効な凹凸の大きさは1μm以下(0.01μm以上。上記特許文献1参照)のミクロな凹凸である。しかし、この1μm以下の凹凸の形成を乾式エッチング処理によって行なった場合、高密度に凹凸を形成することは困難である。
【0013】
本願の発明者は、転位密度が106個/cm2オーダー以下である窒化物系半導体基板を用いた際にも1μm以下の凹凸を形成し得る方法につき種々検討を重ねた結果、物理的研削法と乾式エッチング法を組み合わせると解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0014】
すなわち、本発明は、転位密度が106個/cm2オーダー以下である窒化物系半導体基板を使用した窒化物系半導体発光素子においても、金属−半導体界面に1μm以下の凹凸を高密度に形成することにより、駆動電圧を低下させることができ、それによって発熱量の低下に基づく長寿命化及び高発光効率を期待できる窒化物系半導体発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記第1の目的は以下の構成により達成し得る。すなわち、請求項1に係る窒化物系半導体発光素子の発明は、窒化物系半導体基板を備える窒化物系半導体発光素子において、前記窒化物系半導体基板と電極との界面に、段差が大きい凹凸の表面に前記凹凸よりも段差が小さい凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の窒化物系半導体発光素子において、前記段差が大きい凹凸は段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸であり、前記段差が小さい凹凸は段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸であることを特徴とする。段差が大きい凹凸の上限値は、あまり大きくしてもそれに対応して基板を厚くする必要が生じるため、9μm程度に止めるべきである。
【0017】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の窒化物系半導体発光素子において、前記ミクロな凹凸間の距離は1μm以下であることを特徴とする。このミクロな凹凸間の距離の下限は0、すなわち、隣り合うミクロな凹凸が重なる場合があってもよい。
【0018】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れかに記載の化物系半導体発光素子において、前記窒化物系半導体基板の転位密度が106個/cm2オーダー以下であることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の上記第2の目的は以下の構成により達成し得る。すなわち、請求項5に係る窒化物系半導体発光素子の製造方法発明は、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする。
【0020】
(1)窒化物系半導体基板の表面に段差が大きい凹凸を形成する工程、
(2)前記段差が大きい凹凸の表面に前記凹凸よりも段差が小さい凹凸を形成して段差の大きさが異なる2段階の凹凸を形成する工程、
(3)前記段差の大きさが異なる2段階の凹凸の表面に電極を形成する工程。
【0021】
また、請求項6に係る発明は、請求項5記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記段差が大きい凹凸は段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸であり、前記段差が小さな凹凸は段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項7に係る発明は、請求項6記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記マクロな凹凸を物理的研磨法によって形成したことを特徴とする。
【0023】
また、請求項8に係る発明は、請求項7記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記物理的研磨法は、粒径3μm以上9μm以下の所定の粒径の研磨材を用いた研磨法であることを特徴とする。
【0024】
また、請求項9に係る発明は、請求項6記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記ミクロな凹凸を化学的処理方法によって形成したことを特徴とする。
【0025】
また、請求項10に係る発明は、請求項9記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記化学的処理方法は、RIE法であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項11に係る発明は、請求項5〜10のいずれかに記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記ミクロな凹凸間の距離が1μm以下であることを特徴とする。このミクロな凹凸間の距離の下限は0、すなわち、隣り合うミクロな凹凸が重なる場合があってもよい。
【0027】
また、請求項12に係る発明は、請求項5〜11のいずれかに記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法において、前記窒化物系半導体基板は転位密度が106個/cm2オーダー以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は上記の構成を備えることにより以下に述べるような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1に係る発明によれば、窒化物系半導体基板と電極との界面に、段差が大きい凹凸の表面に前記凹凸よりも段差が小さな凹凸が形成されており、段差が大きい凹凸により窒化物系半導体基板と電極との間の接触面積が大きくなるとともに、段差が小さい凹凸によって実質的に窒化物系半導体基板と電極との間のコンタクト抵抗を低下させるとともに、密着性を向上させることができるので、窒化物系半導体発光素子の駆動電圧が低く、それによって発熱量の低下に基づく長寿命化及び高発光効率を期待できる窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0029】
また、請求項2に係る発明によれば、段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸の表面に段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸が多数形成されており、このうち段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸は特に窒化物系半導体基板と電極との間のコンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効であるため、請求項1に係る発明の効果が顕著に奏される窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0030】
また、請求項3に係る発明によれば、実質的に窒化物系半導体基板と電極との間のコンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効であるミクロな凹凸間の間隔が小さく、高密度に生成されているから、請求項1又は2に係る発明の効果が顕著に奏される窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0031】
また、請求項4に係る発明によれば、特に短波長領域の光を発する窒化物系半導体発光素子でありながら、請求項1〜3の何れかに係る発明の効果が奏される窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0032】
更に、請求項5に係る発明によれば、容易に請求項1に係る発明の窒化物系半導体発光素子を製造することができる。
【0033】
また、請求項6に係る発明によれば、容易に請求項2に係る発明の窒化物系半導体発光素子を製造することができる。
【0034】
また、請求項7に係る発明によれば、段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸は、化学的処理方法では形成困難であるが、物理的研磨法を採用すると簡単に形成することができる。
【0035】
また、請求項8に係る発明によれば、用いた研磨材の粒径により容易に3μm以上9μm以下の所定の段差の凹凸を形成することができる。
【0036】
また、請求項9及び10に係る発明によれば、RIE法による化学的処理方法ではマクロな凹凸の底部にも容易にミクロな凹凸を多数形成することができる。
【0037】
また、請求項11に係る発明によれば、容易に請求項3に係る発明の窒化物系半導体発光素子を製造することができる。
【0038】
また、請求項12に係る発明によれば、通常、窒化物系半導体基板の転位密度が106個/cm2オーダー以下であると、コンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効である段差の小さい凹凸を高密度に形成することは困難であるが、請求項5〜11に係る発明の窒化物系半導体発光素子の製造方法を採用すると窒化物系半導体基板の転位密度が106個/cm2オーダー以下のものであっても多数の段差の小さい凹凸を高密度に形成することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例、比較例及び図面を用いて詳細に説明するが、以下に述べた実施例は、本発明の技術思想を具体化するための窒化物系半導体発光素子及びその製造方法を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0040】
なお、図1は実施例及び比較例に共通するGaN青紫色レーザダイオード素子のn側電極形成前の断面図である。また、図2(a)は実施例に相当するn側電極形成前の半導体基板にマクロな凹凸を形成した状態の模式的な断面図であり、図2(b)は図2(a)のマクロな凹凸を形成した後にミクロな凹凸を形成した状態を示す模式的な断面図であり、図3(a)は図2(a)の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図3(b)は図2(b)の表面のSEM写真である。さらに、図4(a)は比較例に相当するn側電極形成前の半導体基板に微細な凹凸を形成した状態の模式的な断面図であり、図4(b)は図4(a)の微細な凹凸を形成した後にミクロな凹凸を形成した状態を示す模式的な断面図であり、図5(a)は図4(a)の表面のSEM写真であり、図5(b)は図4(b)の表面のSEM写真である。
[n側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子の製造]
最初に実施例及び比較例に共通するn側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子10を以下の製造方法により製造した。まず、転位密度が106個/cm2オーダー以下であるアンドープGaN基板11を用意し、このアンドープGaN基板11上に、MOCVD(有機金属気相成長法)法によりn型AlGaNクラッド層12を1.0μm成長させた。その後、3周期構造MQW活性層13のうちInGaN井戸層を0.003μm成長させ、次に3周期構造MQW活性層13のうちGaN障壁層を0.02μm成長させ、さらに、InGaN光ガイド層14を0.1μm成長させた。
【0041】
その後、p型AlGaNキャップ層15を0.02μm成長させ、次に、p型AlGaNクラッド層16を0.5μm成長させた。そして、最後に、p型GaNコンタクト層17を0.005μm成長させ、Pt/Pdからなるp側電極層18を形成し、その後、ドライエッチングにより、電流狭窄部分であるp型GaNコンタクト層17とp側電極層18からなるリッジを形成し、次いで、CVD装置を用いてリッジ両側にSiO2膜20を形成した。次に、Ti/Pd/Auからなるパッド電極19を形成し、アンドープGaN基板11の裏側を研磨してウエハを110μm程度の厚さにして、n側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子10を作製した。
【実施例】
【0042】
上述のようにして作製されたn側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子10を各種のエピタキシャル成長面(まとめて符号21で表す)を下にして、n型GaN基板11の裏側を粒径3μmのスラリーを使用して研削装置により研磨することにより段差が3μmのマクロな凹凸22を形成した。この時の模式的な断面図を図2(a)に、また、研磨面の1500倍SEM写真を図3(a)に示す。
【0043】
次に、このマクロな凹凸22を形成した表面に誘導結合プラズマイオン化(ICP)−反応性イオンエッチング(RIE)法による乾式エッチング装置を用いて3分間化学的な処理を行い、マクロな凹凸22の表面にミクロな凹凸23を形成した。このときの模式的な断面図を図2(b)に、また、化学的処理面の10000倍SEM写真を図3(b)に示す。
[比較例]
上述のようにして作製されたn側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子10を各種のエピタキシャル成長面21を下にして、n型GaN基板11の裏側を粒径1μmのスラリーを使用して研削装置により研磨することにより段差が1μmの微細な凹凸24を形成した。このときの模式的な断面図を図4(a)に、また、研磨面の1500倍SEM写真を図5(a)に示す。
【0044】
次に、この段差が1μmの微細な凹凸24を形成した表面に、実施例の場合と同様にして、表面誘導結合プラズマイオン化(ICP)−反応性イオンエッチング(RIE)法による乾式エッチング装置を用いて3分間化学的な処理を行い、ミクロな凹凸25形成した。このときの模式的な断面図を図4(b)に、また、化学的処理面の10000倍SEM写真を図5(b)に示す。
【0045】
上述の実施例及び比較例の結果から次のことが分かる。すなわち、段差が3μmのマクロな凹凸を形成した後に乾式エッチング装置を用いて化学的な処理を行った実施例の場合は、図3(b)に示すように、段差が1μ以下の円錐状の突起が多数、高密度に形成されている。これに対し、段差が1μmの微細な凹凸を形成した後に乾式エッチング装置を用いて化学的な処理を行った比較例の場合は、図5(b)に示すように、段差が1μm以下の円錐状の突起が生じてはいるが、その数は少なく、また、まばらにしか生じていない。
【0046】
したがって、転位密度が106個/cm2オーダー以下である窒化物系半導体基板に対して化学的エッチング法を適用しても段差が1μm以下の凹凸は低密度にしか形成されないことが知られていることも考慮すると、転位密度が106個/cm2オーダー以下での窒化物系半導体基板を用いた場合、窒化物系半導体基板に段差が1μm以下のミクロな凹凸を多数かつ高密度に形成するには、乾式エッチング装置を用いて化学的な処理を行う前に、予め段差が3μm以上のマクロな凹凸を形成しておく必要があることがわかる。
【0047】
なお、上述のようにしてn型GaN基板11の裏側にマクロな凹凸とミクロな凹凸とを形成した後に、例えばAl/Pt/Auからなるn側電極を形成することによりGaN青紫色レーザダイオード素子を作製することができる。このようにして得られたGaN青紫色レーザダイオード素子は、電極を構成する金属と半導体基板の界面に、両者間のコンタクト抵抗を低下させ、密着性を向上させるのに有効である1μm以下の凹凸が高密度に多数設けられているため、駆動電圧を低下させることができ、それによって発熱量の低下に基づく長寿命化及び高発光効率を期待できるようになる。
【0048】
なお、上記実施例においては転位密度が106個/cm2オーダー以下の窒化物半導体基板を用いた例を示したが、化学的エッチング法によってミクロ間凹凸を形成しやすい転位密度が106個/cm2オーダーを超える高転位密度の窒化物半導体基板に対しても有効に適用し得る。本発明を適用する窒化物半導体基板の転位密度は、LED用であれば109個/cm2オーダー以下、より好ましくは108個/cm2オーダー以下が好ましく、レーザダイオード用であれば106個/cm2オーダー以下、より好ましくは105個/cm2オーダー以下である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例及び比較例に共通するGaN青紫色レーザダイオード素子のn側電極形成前の断面図である。
【図2】図2(a)は実施例に相当するn側電極形成前の半導体基板にマクロな凹凸を形成した状態の模式的な断面図であり、図2(b)は図2(a)のマクロな凹凸を形成した後にミクロな凹凸を形成した状態を示す模式的な断面図である。
【図3】図3(a)は図2(a)の表面のSEM写真であり、図3(b)は図2(b)の表面のSEM写真である。
【図4】図4(a)は比較例に相当するn側電極形成前の半導体基板に微細な凹凸を形成した状態の模式的な断面図であり、図4(b)は図4(a)の微細な凹凸を形成した後にミクロな凹凸を形成した状態を示す模式的な断面図である。
【図5】図5(a)は図4(a)の表面のSEM写真であり、図5(b)は図4(b)の表面のSEM写真である。
【図6】従来の窒化物系半導体発光素子の模式的な断面図である。
【図7】別の従来の窒化物系半導体発光素子の模式的な断面図である
【符号の説明】
【0050】
10 n側電極形成前のGaN青紫色レーザダイオード素子
11 アンドープGaN基板
12 n型AlGaNクラッド層
13 3周期構造MQW活性層
14 InGaN光ガイド層
15 p型AlGaNキャップ層
16 p型AlGaNクラッド層
17 p型GaNコンタクト層
18 p側電極層
19 パッド電極
20 SiO2
21 エピタキシャル成長面
22 マクロな凹凸
23、25 ミクロな凹凸
24 段差が1μmの微細な凹凸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物系半導体基板を備える窒化物系半導体発光素子において、前記窒化物系半導体基板と電極との界面に、段差が大きい凹凸の表面に前記凹凸よりも段差が小さい凹凸が形成されていることを特徴とする窒化物系半導体発光素子。
【請求項2】
前記段差が大きい凹凸は段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸であり、前記段差が小さい凹凸は段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項3】
前記ミクロな凹凸間の距離は1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項4】
前記窒化物系半導体基板は、転位密度が106個/cm2オーダー以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物系半導体発光素子。
【請求項5】
以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体発光素子を製造する方法。
(1)窒化物系半導体基板の表面に段差が大きい凹凸を形成する工程、
(2)前記段差が大きい凹凸の表面に前記凹凸よりも段差が小さい凹凸を形成して段差の大きさが異なる2段階の凹凸を形成する工程、
(3)前記段差の大きさが異なる2段階の凹凸の表面に電極を形成する工程。
【請求項6】
前記段差が大きい凹凸は段差が3μm以上9μm以下のマクロな凹凸であり、前記段差が小さな凹凸は段差が1μm以下0.01μ以上のミクロな凹凸であることを特徴とする請求項5記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記マクロな凹凸を物理的研磨法によって形成したことを特徴とする請求項6記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記物理的研磨法は、粒径3μm以上9μm以下の所定の粒径の研磨材を用いた研磨法であることを特徴とする請求項7記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記ミクロな凹凸を化学的処理方法によって形成したことを特徴とする請求項6記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記化学的処理方法は、RIE(反応性イオンエッチング)法であることを特徴とする請求項9記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記ミクロな凹凸間の距離は1μm以下であることを特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記窒化物系半導体基板は、転位密度が106個/cm2オーダー以下であることを特徴とする請求項5〜11のいずれかに記載の窒化物系半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−67209(P2007−67209A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252038(P2005−252038)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】