説明

窒化物結晶の製造方法及び窒化物結晶

【課題】酸素などの不純物濃度が低い窒化物半導体結晶を速い成長速度で製造する方法を提供する。
【解決手段】反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒3存在下にて窒化物半導体結晶2の成長を行う際に、鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用する。なお、ハロゲン化亜鉛以外の化合物であるハロゲン原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を含む化合物を併用してもよい。また、反応容器は、白金族又は白金族を含む合金からなるカプセルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶の製造方法及び窒化物結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方、アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。アモノサーマル法によって単結晶を成長させるためには、十分な量の原料が過飽和状態で存在し析出する必要があるが、そのためには結晶成長用原料が十分に溶媒に溶解することが必要である。しかしながら、例えば窒化ガリウムなどの窒化物は、採用しうる温度圧力範囲において純粋なアンモニアに対する溶解度が極めて低いため、実用的な結晶成長に必要な量を溶解させることができないという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するために、窒化ガリウムなどの窒化物の溶解度を向上させる鉱化剤を反応系内に添加することが一般に行われている。鉱化剤は、窒化物と錯体などを形成(溶媒和)することができるため、より多くの窒化物をアンモニア中に溶解させることができる。鉱化剤には、塩基性鉱化剤と酸性鉱化剤があり、塩基性鉱化剤の代表例としてはアルカリ金属アミドを挙げることができ、酸性鉱化剤の代表例としては塩化アンモニウムを挙げることができる(特許文献1参照)。塩基性鉱化剤は反応容器の内面等に対する腐食性が高いため、成長中の結晶に不純物が混入しやすいという問題を有している。一方、酸性鉱化剤に対しては完全防食性を有する材料が存在するため、そのような材料で内面を形成した反応容器内で酸性鉱化剤を用いれば純度が高い結晶が得られる。窒化ガリウムに代表される窒化物結晶は、LEDやLDなどのオプトデバイス、高周波デバイス、パワーデバイスといった電子デバイスに用いられる半導体結晶であることから、高純度化を図りやすい酸性鉱化剤、なかでも塩化アンモニウムを用いて窒化物結晶を成長させることが注目され、種々検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−277182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
典型的な酸性鉱化剤である塩化アンモニウムを用いた従来の結晶成長方法では、原料溶解領域と結晶成長領域において必要とされる温度差の関係から、反応温度が制限されて十分な成長速度が得られないなどの問題があった。加えて、従来のアモノサーマル法においては、得られる窒化物結晶中に酸素などの不純物が含まれることが問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、新たな酸性鉱化剤としてハロゲン化亜鉛が有用であることを見出した。鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用した場合には、従来よりも結晶品質の良好な結晶が得られ、成長速度を大きくすることが可能であることが明らかとなった。さらに、鉱化剤として用いるハロゲン化亜鉛中の亜鉛が、結晶成長によって得られる窒化物結晶中にドーパントとして取り込まれることで、効率的にp型窒化物結晶を得ることができる可能性を見出した。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、以下の結晶の製造方法により達成される。
[1] 反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、前記反応容器内で鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用して前記成長を行うことを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
[2] 前記鉱化剤として、ハロゲン化亜鉛以外の化合物を併用する、[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記ハロゲン化亜鉛以外の化合物が、ハロゲン原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を含む化合物である、[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記反応容器が、白金族又は白金族を含む合金からなるカプセルである、[1]〜[3]のいずれかに一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記反応容器がPt、またはPtとIrとを含む合金からなるカプセルである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記合金のIr含有率が30重量%以下である、[5]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記反応容器が、白金族又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 内壁がPt、またはPtとIrとを含む合金でライニングされている、[7]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] 内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされている、[7]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[10] 前記窒化物半導体結晶の成長温度が320〜700℃である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[11] 前記窒化物半導体結晶の成長圧力が85〜700MPaである、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[12] ドーパントとして亜鉛を含み、酸素濃度が5×1019atoms/cm3以下であることを特徴とする、窒化物結晶。
[13] 結晶中の亜鉛濃度が1×1017〜1×1022atoms/cm3である、[12]に記載の窒化物結晶。
[14] 結晶中に塩素を含み、塩素濃度が1×1017〜1×1021atoms/cm3である、[12]または[13]に記載の窒化物結晶。
[15] 前記窒化物結晶が窒化ガリウム結晶であって、該窒化ガリウム結晶中に立方晶窒化ガリウムを含まない、[12]〜[14]のいずれか1項に記載の窒化物結晶。
[16] 前記窒化物結晶が窒化ガリウム結晶であって、該窒化ガリウム結晶のガリウム面と窒素面のそれぞれの結晶成長厚みが略同一である、[12]〜[14]のいずれか1項に記載の窒化物結晶。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、従来よりも成長速度の速い製造方法を提供することが可能となり、除去が困難であった酸素などの不純物を低減した窒化物結晶を得ることができる。
また、本発明の窒化物結晶は均一で高品質であるために、発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例で用いた反応装置を説明するための図である。
【図2】実施例におけるアスグロウンGaN結晶のX線回折パターンである。
【図3】実施例におけるアスグロウンGaN結晶の蛍光顕微鏡写真である。
【図4】鉱化剤としてZnCl2とNH4Clを用いた場合の成長速度を比較したグラフである。
【図5】鉱化剤としてZnCl2とNH4Clを用いた場合の(002)ピークにおける2Θ-ωスキャンのXRDである。
【図6】実施例におけるアスグロウンGaN結晶のGa面のSEM画像(a)とN面のSEM画像(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
(鉱化剤)
本発明の製造方法においては、アモノサーマル法において結晶成長を行う際に、鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用する。すなわち、反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する際に、鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用して成長を行う。鉱化剤として使用するハロゲン化亜鉛としては、ZnF2、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2などが挙げられ、これらを単独で用いても、複数を併用してもよい。
【0012】
また、本製造方法においては、鉱化剤としてハロゲン化亜鉛以外の化合物を併用してもよい。併用する鉱化剤としては特に限定されず、通常、ハロゲン原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を含む化合物が挙げられる。中でも、鉱化剤はアンモニウムイオンやアミドなどの形で窒素原子を含むものが好ましい。ハロゲン原子を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化ガリウム等が例示される。
また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を含む鉱化剤としては、アルカリ金属メタル、アルカリ土類金属メタル、ハロゲン化アルカリ、アルカリ土類、希土類のハロゲン化物などが挙げられる。アルカリ、アルカリ土類、希土類の炭酸塩のようなオキソ酸塩も使用可能であるが、生成する結晶が酸素を含まないようにする観点からは、アンモニウムイオンやアミドなどの形で窒素原子を含むものを鉱化剤として使用することが好ましい。窒化物結晶への不純物の混入を防ぐため、必要な場合は鉱化剤を精製、乾燥することが行われる。鉱化剤の純度は、通常95%以上、好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上である。鉱化剤が含む水や酸素はできるだけ少なくすることが望ましく、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。
【0013】
アルカリ金属等と窒素原子を含む鉱化剤の具体例としては、ナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)、リチウムジエチルアミド((C252NLi)等のアルカリ金属アミドや、Mg(NH22などのアルカリ土類金属アミド、La(NH23などの希土類アミド、Li3N、Mg32、Ca32、Na3N等の窒化アルカリ金属または窒化アルカリ土類金属、NaN3等のアジド化合物、窒化亜鉛(Zn32)等が挙げられる。その他、NH2NH3Clのようなヒドラジン類の塩、炭酸アンモニウム((NH42CO3)、カルバミン酸アンモニウム(NH2COONH4)が挙げられる。
このうち、好ましくはハロゲン原子を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウムであり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウムである。より好ましくは、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素である。これらの添加物は、超臨界状態のアンモニア溶媒への溶解性が高く、またアンモニア中において窒化能を有し、かつPt等の貴金属に対する反応性が小さい。これらの添加物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもかまわない。これらの添加物を用いることによって原料の溶解が促進され、反応条件の適切なコントロールにより、短期間に高品質のサイズの大きい窒化物の塊状結晶が得られる。
【0014】
(反応容器)
「反応容器」とは、超臨界アンモニアがその内壁面に直接接触しうる状態で窒化物結晶の製造を行うための容器を意味し、耐圧性容器内部の構造そのものや、耐圧性容器内に設置されるカプセルなどを好ましい例として挙げることができる。
【0015】
本発明に用いる耐圧性容器は、アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択する。高温強度が高く耐腐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐腐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金で構成されているものが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41、ハステロイ、ワスパロイが挙げられる。
【0016】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pH等の条件に従い、適宜選択すればよい。これら耐圧性容器に用いられる合金の耐腐食性は高いとはいえ、結晶品質に影響を全く及ぼさないほどに高い耐腐食性を有しているわけではない。これら合金は超臨界アンモニア雰囲気、特に鉱化剤を含有するより厳しい腐食環境下においてはNi、Cr、Feなどの成分が溶液中に溶け出し結晶中に取り込まれるおそれがある。したがって本発明では、これら耐圧性容器の内面腐食を抑制するために、内面を更に耐腐食性に優れる材料によって直接ライニングまたはコーティングする方法や、更に耐腐食性に優れる材料からなるカプセルを耐圧性容器内に配置する方法などにより反応容器を形成することが好ましい。
【0017】
反応容器を構成する材料としては、白金族や貴金属が挙げられ、具体的にはルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)である。これらの材料は、単独で用いられても、複数を組み合わせた合金として用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、反応容器を構成する材料としてその他の金属を含んでいてもよい。中でも優れた耐腐食性を有する白金族または白金族を含む合金を用いることが好ましく、より好ましくはPtまたはPtを含む合金であり、さらに好ましくはPtまたはPt−Ir合金である。
【0018】
反応容器を構成する様態としては、特に限定されないが、耐圧性容器の内面を直接ライニングまたはコーティングする方法では、反応容器内部のアンモニア溶媒に接触し得るすべての表面をライニングまたはコーティングすることが困難であるため、耐腐食性に優れる材料からなるカプセルを耐圧性容器内に配置する方法がより好ましい様態として挙げられる。
【0019】
反応容器の形状は、円筒形などをはじめとして任意の形状とすることができる。また、反応容器は立設しても横置きにしても斜めに設置して使用してもよい。
具体的に、好ましい反応容器の一様態としては、白金族又は白金族を含む合金からなるカプセルであって、より好ましくはPtまたはPtとIrを含む合金からなるカプセルであって、Pt−Ir合金を用いる場合には合金のIr含有率が30重量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
好ましい反応容器の別の様態としては、前記反応容器が、白金族又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器であって、より好ましくは内壁がPtまたはPtとIrを含む合金でライニングされている、または内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされていることである。
【0021】
(結晶成長条件)
アモノサーマル法による結晶成長条件は、適宜好ましい範囲を選択することが可能であるが、たとえば成長温度としては320〜700℃が好ましく、成長圧力としては85〜700MPaが好ましい。結晶成長の条件としては、特開2009−263229号公報に開示されているような原料、鉱化剤、シード(種結晶)、溶媒、温度、圧力などの条件を好ましく用いることができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0022】
具体的に、種結晶、原料、溶媒、温度、圧力について以下に説明する。
窒化物半導体結晶の成長では、結晶成長の核として種結晶を用いることが好ましい。種結晶としては、特に限定されないが、成長させる結晶と同種のものが好ましく用いられる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)またはこれらの混晶等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、成長させる結晶との格子整合性などを考慮して決定することができる。例えば、種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、Gaなどの金属からNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶及びそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0023】
窒化物半導体結晶の成長では、種結晶上に成長させようとしている窒化物半導体結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表13族金属の窒化物半導体結晶を成長させようとする場合は、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料及び/又は13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0024】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0025】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0026】
結晶成長で用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることが好ましい。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
前記溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0027】
結晶成長工程においては、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0028】
超臨界条件では、窒化物半導体結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物半導体結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力(成長圧力)は結晶性および生産性の観点から、50MPa以上にすることが好ましく、85MPa以上にすることがより好ましく、90MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、300MPa以下にすることがより好ましく、120MPa以下にすることがさらに好ましく、100MPa以下にすることがさらに好ましい。本発明の製造方法においては、100MPa以下という低圧においても高品質な結晶の成長が可能であることより、より安全であり、装置の製造も容易に行うことができるため特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0029】
反応容器内の温度範囲(成長温度)は、結晶性および生産性の観点から、下限値が320℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることがさらに好ましい。本発明の製造方法においては、400℃以下という低温においても高品質な結晶の成長が可能であることより、より安全であり、装置の製造も容易に行うことができるため特に好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域(T2)の温度が、結晶成長領域の温度(T1)よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶成長領域との温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0030】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上とし、また、通常95%以下、好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とする。
【0031】
反応容器内での窒化物半導体結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0032】
なお、前記の「成長温度」は、反応容器内の種結晶設置箇所である結晶成長領域の温度であり、反応容器内に熱電対を挿入し、アンモニアを充填し加熱した際に観測された温度である。
【0033】
本発明の製造方法においては、成長温度320〜400℃という低温、または成長圧力85〜100MPaという低圧においても結晶成長が可能であるため、6インチ以上の結晶成長が可能な大型装置の作製が容易になることから産業上有用である。
【0034】
本発明の製造方法によれば、結晶成長速度を速くすることが可能であり、たとえば、温度・圧力条件が同一の場合において、鉱化剤として塩化アンモニウムを用いた場合の3倍以上、好ましくは4倍以上とすることが可能である。
【0035】
また、本発明の製造方法によれば、たとえば窒化ガリウムを製造する場合に、ガリウム面と窒素面での成長速度が略同一となるように成長させることができる。通常は、窒素面の成長がガリウム面に比べて20倍程度速くなるが、本発明の製造方法によればガリウム面の成長速度を窒素面と略同一程度にまで速くすることができる。ここで、成長速度はシードからの窒化物結晶の厚みと成長時間から算出することができる。また、成長速度が略同一とは成長速度の比が1.5倍の範囲内であるような場合をいう。
【0036】
(窒化物結晶)
本発明の製造方法によれば、ドーパントとして亜鉛を含み、酸素濃度が5×1019atoms/cm3以下である窒化物結晶を得ることができる。酸素濃度は好ましくは3×1019atoms/cm3以下であり、より好ましくは1×1019atoms/cm3以下である。結晶中の酸素濃度を低減できれば、結晶の着色がおさえられ、LED用途に適した結晶が得られる。また、p型の窒化物結晶を得ることが容易になるため好ましい。
【0037】
また、結晶中の亜鉛濃度は好ましくは1×1017〜1×1022atoms/cm3であって、より好ましくは1×1019〜1×1021atoms/cm3である。この範囲で結晶中に亜鉛を含むと、p型もしくは半絶縁性の窒化物結晶を得ることができ、半導体デバイスの基板などとして有用である。
【0038】
さらに、本発明の窒化物結晶は塩素を含んでいてもよく、好ましくは塩素濃度が1×1017〜1×1021atoms/cm3、より好ましくは5×1020atoms/cm3以下である。塩素濃度が上限値以下である場合には、結晶性が良好であり、半導体デバイスの基板などとして用いた場合に、デイバス構造を形成する薄膜への塩素の混入を抑制することができるため好ましい。
【0039】
本発明の窒化物結晶は結晶性が良好である。よって、たとえば窒化ガリウム結晶においては、結晶中に立方晶窒化ガリウムを含まない六方晶窒化ガリウムを得ることができる。
【0040】
本発明の製造方法によれば、たとえば窒化ガリウムを製造する場合に、ガリウム面の成長速度を窒素面の成長速度と同程度に速くすることができる。よって、得られる窒化ガリウム結晶のガリウム面と窒素面のそれぞれの結晶成長厚みは、略同一である。ここで、結晶成長厚みが略同一とはシードから成長したそれぞれの面方位の窒化物結晶の厚みの比が1.5倍の範囲内であるような場合をいう。
【実施例】
【0041】
以下に実験例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
(実施例)
図1に示す装置を用い、アモノサーマル法によって、鉱化剤としてZnCl2を用いGaN結晶を成長させる実験を行なった。ZnCl2は、和光製薬株式会社製(99.9%)の市販品を用いた。
オートクレーブの内壁がPt−Ir製カプセル(Ir含有率:20重量%)でライニングされたRENE41製オートクレーブ(内容積約345cm3)を用いて結晶成長を行った。オートクレーブ内に、原料として多結晶GaN粒子を入れ、さらに、鉱化剤として十分に乾燥したZnCl2を入れた。貫通孔を有する白金製バッフル板4を図示する位置に設置して、バッフル板から下のカプセル下部領域(原料溶解領域)とバッフル板から上のカプセル上部領域(結晶成長領域)に区分けした。その後、HVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶をGaNシード2として図示するように結晶成長領域に白金ワイヤーにより吊した。
【0043】
導管を真空ポンプに通ずるように操作し真空脱気した。その後バルブを窒素ボンベに通ずるように操作し、カプセル内を窒素ガスにてパージした。前記真空脱気と窒素パージをそれぞれ5回行った後、真空ポンプに繋いだ状態で加熱をしてオートクレーブ内の水分や付着ガスの脱気を行なった。オートクレーブを室温まで自然冷却したのちバルブを閉じ、真空状態を維持したままオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベに通ずるようにバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じた。
【0044】
オートクレーブを、上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ内部の結晶成長領域の温度(T1)が原料溶解領域の温度(T2)よりも低くなるように昇温し、T1を420℃、T2を540℃として96時間保持した。オートクレーブ内の圧力は110MPaであった。溶媒として用いたNH3に対してのZnCl2の濃度は2.50モル%であった。
【0045】
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブに付属したバルブ1を開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。その後、オートクレーブの蓋を開け、カプセルを取り出した。カプセル上部に付属したチューブに穴を開けカプセル内部からNH3を取り除いて、カプセル内の成長結晶を取り出して、GaN結晶を得た。
【0046】
上記の実験手順の詳細については、(a)Y.Kagamitani,T.Kuribayashi,K.Hazu,T.Onuma,D.Tomida,R.Simura,S.Chichibu,K.Sugiyama,C.Yokoyama,T.IshiguroandT.Fukuda,J.Cryst.Growth,2010,312,3384.(b).D.Ehrentraut,Y.Kagamitani,C.YokoyamaandT.Fukuda,J.Cryst.Growth,2008,310,891.(c)A.Yoshikawa,E.Ohshima,T.Fukuda,H.TsujiandK.Oshima,J.Cryst.Growth,2004,260,67.(d)Y.Kagamitani,D.Ehrentraut,A.Yoshikawa,N.Hoshino,T.Fukuda,S.KawabataandK.Inaba,Jpn.65J.Appl.Phys.,2006,45(5A),4018.(e)D.Ehrentraut,N.Hoshino,Y.Kagamitani,A.Yoshikawa,T.Fukuda,H.ItohandS.Kawabata,J.Mater.Chem.,2007,17,886.(f)D.Ehrentraut,Y.Kagamitani,A.Yoshikawa,N.Hoshino,H.Itoh,S.Kawabata,K.Fujii,T.YaoandT.Fukuda,J.Mater.Sci.,2007,43,2270.等を参照することができる。
【0047】
(比較例)
鉱化剤としてZnCl2のかわりにNH4Clを用いて、上記実施例と同様にしてGaN結晶を成長させた。成長圧力は130MPaとして、鉱化剤濃度は2.0mol%とした。
【0048】
(結果)
図2は実施例のアスグロウンGaN結晶のX線回折パターンであり、図3は実施例のアスグロウンGaN結晶の断面を示す蛍光顕微鏡写真である。図4は、鉱化剤としてZnCl2を用いた実施例とNH4Clを用いた比較例の成長速度の差を示す図である。図5は、実施例と比較例のGaN結晶の(002)ピークにおける2Θ-ωスキャンのXRDである。図6は、実施例のアスグロウンGaN結晶のGa面のSEM画像(a)とN面のSEM画像(b)である。
【0049】
図4に示すように、実施例におけるGaNの結晶成長速度は、おおよそ15μm/日であった。この成長速度は、実施例と同一の実験条件下において鉱化剤としてNH4X(X:Cl、Br及びI)を用いた場合の成長速度よりも明らかに速い。アモノサーマル法によるGaN結晶の成長方法において、温度条件が重要であることが知られている。本発明者らの研究結果によれば、酸性鉱化剤としてNH4X(X:Cl、Br及びI)を用いた場合、六方晶GaNの結晶成長を開始するためには、結晶成長領域の温度(T1)を低い温度にすることが必要であることが分かっている。NH4X(X:Cl、Br及びI)を用いた際の温度は、それぞれ、おおよそ420℃、475℃及び520℃である。本検討により、これらのNH4X(X:Cl、Br及びI)を用いても、ZnCl2(T1:420℃)を用いた場合の成長条件下では、満足できる六方晶GaNの成長速度を達成することができないことを示している。例えば、同等な条件においてNH4Clを用いで六方晶GaNを成長させた比較例の成長速度は、おおよそ3.8μm/日であった。また、NH4Br及びNH4Iを用いた場合もほぼ同様である。
【0050】
鉱化剤としてNH4Clを用いた比較例のGaN結晶と比較例すると、実施例のアスグロウンGaN結晶は、結晶品質が高い。図5に示されるように、鉱化剤としてZnCl2を用いるとω(degree)=17.436であり、半値全幅が低い(411arcsec)。これらの値は、鉱化剤としてNH4Clを用いた場合の値(ω=18.325、3189arcsec)よりも大変優れた値である。GaNのωは理論値は、17.277である(C. Balkas and R. Davis, J. Am. Ceram. Soc., 1996, 79, 2309.)。
【0051】
鉱化剤としてZnCl2を用いた場合は、結晶中の不純物(特に酸素)の濃度が低くなるという特徴がある。酸素は、アモノサーマル法を利用して成長させたGaNサンプル内に存在する主な不純物の一つとして知られている(D. Ehrentraut, Y. Kagamitani, T. Fukuda, F. Orito, S. Kawabata, K.Katano and S. Terada, J. Cryst. Growth, 2008, 310, 3902.)。結晶の元素含有量の定量的測定手段としてのエネルギー分散型分光(EDS:energy-dispersive spectroscopy)の使用には制限があるが、実験に用いる材料や実験器具から持ち込まれる不純物としての酸素は、HVPEによって成長させたGaN及びアモノサーマル法により成長させたGaNの両方とも、EDSによって検出するこことができる(D. Ehrentraut, Y. Kagamitani, A. Yoshikawa, N. Hoshino, H. Itoh, S.Kawabata, K. Fujii, T. Yao and T. Fukuda, J. Mater. Sci., 2008, 43,2270.)。アスグロウンGaN結晶のEDS分析を行った結果、不純物の濃度が低いことが明らかとなった(表1)。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されるように、EDS分析によってGa、N、Cl及びZnのみが検出された。O,Si,Co及びPtなどの不純物は、検出限界値よりも低い濃度であった。また、オートクレーブの上端に白い粉が観察された。この白い粉は、XRD分析によってZnOであると確認されたため、恐らくZnCl2が脱酸素剤として機能し、これにより結晶中の酸素の濃度が低くなったものと推定される。なお、表1中の1〜5は、図6(a)中におけるポイント1〜5に対応するものである。
【0054】
上述の結果から、ZnCl2はアモノサーマル法によるGaN成長に対し、新規な酸性鉱化剤として機能し、成長温度および圧力がより緩やかな条件下でGaNの成長速度を著しく上昇させるとともに、従来の酸性鉱化剤を用いた場合に比して結晶純度を向上させることができることが分かった。
【0055】
EDS分析の結果によれば、アスグロウンGaN結晶中のZn濃度は0.702atom%であった。一般に、亜鉛をドープしたGaNは、MOVPE法より作製できること、及び、GaNは青色発光中心を作るために重要な役割を担うことが知られていることから(例えば、亜鉛をドープしたGaNについては、(a) H. Amano, I. Akasaki, T.Kozawa, K. Hiramatsu, N. Sawaki, K. Ikeda and Y. Ishii, J. Lumin.,1988, 40&41, 121. (b) H. Amano, K. Hiramatsu, M. Kito, N. Sawaki and I. Akasaki, J. Cryst. Growth, 1988, 93, 79. (c) J. Sheu and G. Chi, J. Phys.: Condens. Matter, 2002, 14, 657.)、本発明の技術的意義が高いことがうかがえる。即ち、上記結果は、酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法によって、成長させたバルクGaN結晶にZnをドープすることができることを示した初めての実験結果となる。半導体材料へのZnの幅広い適用を考慮すると、酸性鉱化剤としてZnCl2を用いたGaNのアモノサーマル成長は、GaN系半導体材料の作製に関して大きな可能性を秘めている。
【0056】
ZnCl2がNH4Clよりも高い成長速度を達成する正確なメカニズムは、現時点ではまだ明白ではない。可能性としては、ZnCl2中におけるNH3、N2及びH2間の平衡の変化が関係しているとも推測できる。H2は、MOVPE法においてGaN結晶を分解することが知られている(R. Davis, J. Cryst. Growth, 2002, 236, 529. (b) A. Rebey, T.Boufaden and B. Jani, J. Cryst. Growth, 1993, 203, 12.)。ZnCl2は、NH3と反応し、ZnCl2(NH32やZnCl2NH3などの錯体を形成する(P. Gardner, P. Pang and S. Preston, Thermochim. Acta, 1989, 138,371.)。これらの錯体は、H2の平行圧力に影響を与え、GaNの分解を抑制する可能性がある。
【0057】
以上のように、HVPEで成長させたGaNシード上にアモノサーマル法によってGaNを結晶成長させる際に、ハロゲン化亜鉛を鉱化剤として用いることは初めての試みである。NH4X(X:Cl、Br及びI)など他の鉱化剤を使用した場合と比較した場合、ZnCl2は十分に結晶成長速度を上昇させることができ、成長温度・圧力がより緩やかな条件下において、得られる結晶の純度を高めることができる。更に、ZnをドープしたGaN結晶もまた発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 バルブ
2 GaNシード
3 アンモニア
4 バッフル板
5 原料(GaN多結晶)とZnCl2
6 圧力計
T1 結晶成長領域の温度
T2 原料溶解領域の温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、前記反応容器内で鉱化剤としてハロゲン化亜鉛を使用して前記成長を行うことを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記鉱化剤として、ハロゲン化亜鉛以外の化合物を併用する、請求項1に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化亜鉛以外の化合物が、ハロゲン原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を含む化合物である、請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記反応容器が、白金族又は白金族を含む合金からなるカプセルである、請求項1〜3のいずれかに一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記反応容器がPt、またはPtとIrとを含む合金からなるカプセルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記合金のIr含有率が30重量%以下である、請求項5に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記反応容器が、白金族又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
内壁がPt、またはPtとIrとを含む合金でライニングされている、請求項7に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされている、請求項7に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記窒化物半導体結晶の成長温度が320〜700℃である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
前記窒化物半導体結晶の成長圧力が85〜700MPaである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
ドーパントとして亜鉛を含み、酸素濃度が5×1019atoms/cm3以下であることを特徴とする、窒化物半導体結晶。
【請求項13】
結晶中の亜鉛濃度が1×1017〜1×1022atoms/cm3である、請求項12に記載の窒化物半導体結晶。
【請求項14】
結晶中に塩素を含み、塩素濃度が1×1017〜1×1021atoms/cm3である、請求項12または13に記載の窒化物半導体結晶。
【請求項15】
前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム結晶であって、該窒化ガリウム結晶中に立方晶窒化ガリウムを含まない、請求項12〜14のいずれか1項に記載の窒化物半導体結晶。
【請求項16】
前記窒化物半導体結晶が窒化ガリウム結晶であって、該窒化ガリウム結晶のガリウム面と窒素面のそれぞれの結晶成長厚みが略同一である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の窒化物半導体結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−6762(P2013−6762A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141264(P2012−141264)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】