説明

粘膜付着性組成物およびそれらの使用

本発明は、生体付着性、粘ちゅう性、安定性および膣pH調整を向上した特性を有する粘膜付着性組成物を提供することその目的とする。また、本発明は、粘膜、特に、膣道で引き起こされる障害若しくは疾患の治療または予防のための活性成分の担体およびその使用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に透明で、膣製剤のpH調整剤としての使用に適切で、また、粘膜、特に、膣粘膜で起こる微生物的障害若しくは疾患の治療のための活性成分の担体媒体として役立つ粘膜付着性医薬組成物に関する。
【発明の概要】
【0002】
本発明は、生体付着性、粘ちゅう性、安定性、保湿性および膣pH調整を向上した特性を有する粘膜付着性組成物を提供することその目的とする。また、本発明は、粘膜、特に、膣道での障害若しくは疾患の治療または予防のための活性成分の担体であり得る。
【0003】
第1の具体例は、本質的に油性物質を含まず、生体付着性ポリマー/ゲル化ポリマー比が1:1である条件で、(a)0.25〜1.5%、好ましくは、0.5〜1%の生体付着性ポリマー;(b)0.25〜1.5%、好ましくは、0.5〜1%のゲル化ポリマー;(c)17〜25%の薬学的に許容可能な賦形剤;および(d)水を含有する、粘膜付着性組成物に関する。前記組成物は、好ましくは、膣医薬の形態で存在する。好ましくは、組成物は水性ゲルの形態である。特に、組成物は25〜90%の水を含有する。さらにより好ましくは、組成物は少なくとも約70%の水を含有する。
【0004】
本発明の第2の具体例は、組成物が、本質的に油性物質を含まず、膣障害若しくは膣疾患の治療または予防のための活性成分の担体であり、(a)ホルモン、抗菌剤、抗カビ剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、殺精子剤、局所麻酔剤抗炎症剤および抗痙攣剤から成る群より選択される治療有効量の活性成分;および、(b)(i)バイオ付着性ポリマー/ゲル化ポリマー比が1:1である条件で、0.25〜1.5%、好ましくは、0.5〜1%の生体付着性ポリマー;(ii)0.25〜1.5%、好ましくは、0.5〜1%のゲル化ポリマー;(iii)17〜25%の賦形剤;および(iv)水を含む水性処方系を含有する粘膜付着性組成物に関する。好ましくは、組成物は水性ゲルの形態である。特に、組成物は25〜90%の水を含有する。さらにより好ましくは、組成物は少なくとも約70%の水を含有する。
【0005】
本発明の第3の具体例は、特に、2.0〜4.5という値への膣pHの調整と膣医薬の形態と膣道障害若しくは膣道疾患の治療または予防のための前記医薬製剤を、その目的として有する上記のとおりの粘膜付着性組成物の使用に関する。
【0006】
[発明の背景]
膣粘膜は、微生物の生存に適した環境である。これらの微生物は、易感染性病原の成長を妨害し、病原性微生物の感染への抵抗を促進することによって、膣のpHを、2.0〜4.5に維持する役割を担っている。こうして、正常な膣フローラまたはpHの如何なる変化も、微生物感染による障害等の一連の膣粘膜の障害を引き起こし得る。膣生態系の平衡は、前記正常な膣フローラ、微生物代謝産物、ホストのホルモン状態および免疫応答間の複雑な相互作用により維持されている。膣は、共生(正常なフローラ)とみなされるが特別な状況では病原体となる多くの異種の細菌により占められている。ドーダーライン(Doderlein)の桿菌は膣中膜中の主な微生物であり、正常なフローラに存在する微生物の90〜95%である。共生微生物は、酸性の膣pH(2.0〜4.5)を維持し、その結果、膣粘膜に有害である可能性のある数種の他の細菌の成長を妨害する役割を担っている。
【0007】
しかしながら、多くの因子が、乾燥により生じる膣生態系の変化、pH変化および膣フローラの乱れを引き起こし得、その症状は、閉経後の婦人において多く観察される。
【0008】
閉経期間中、ある種のホルモンの産生の減少により、婦人は低い膣潤滑性を呈する。閉経期間中の婦人にみられるエストロゲン不足は、泌尿生殖器変性を引き起こし、膣上皮の萎縮を生じ、組織を出血点まで脆弱にする。膣において、萎縮は、狭窄と短縮、可塑性の損失と分泌の減少を引き起こし、膣乾燥を生じる。膣が乾燥すると、性行為中のペニスの摩擦は、それを傷つけ得、ひいては、外陰部膣炎を引き起こす可能性もある。
【0009】
低濃度のエストロゲンは、また、膣フローラの変性の原因の一つであり、膣のpH変化を生じ、粘膜を膣炎発生にかかりやすくする不特定のフローラの出現を容易にする。
【0010】
膣生態系を改善するために、特に、閉経中の婦人においては、保湿および/または酸性化クリームの使用とホルモンの回復見込みが当を得ている。
【0011】
膣使用のための多くの処方が提案されてきたが、技術水準に関連して解決すべき課題の意味では、以下が常に関連する:(i)治療すべき障害若しくは疾患により、迅速な放出、延長した放出またはその両方のニーズを満足するために、活性成分の制御された放出をもつ媒体の提供;(ii)投与されるべき製品の粘ちゅう性;(iii)膣環境中での活性成分の生体適合性を保証するために製品の疎水性および親水性プロフィル間の平衡;(iv)製品の膣粘膜への適当な生体付着性;(v)粘膜のアレルギー反応または被刺激性を引き起こす因子。
【0012】
これらすべての指標に従うことは、ささいではない課題を同時に構成する。特に、膣処方は、毒性がなく、膣炎と膣粘膜の他の障害を引きこす微生物の成長に好都合ではない必要がある。それゆえに、技術水準には、主に、膣水分の改善、健全なpHの維持および主として活性成分の送達を目的とする膣使用のための粘膜付着性処方に焦点を絞った特許文献が数多く存在する。
【0013】
世界市場では、膣生態系を改善する機能を有する非常に多くの種類の酸性化および/または保湿(または湿潤)膣製品が存在する。市販製品の中でも、KYゲルブランド(登録商標、ジョンソン アンド ジョンソン)、レプレンス(Replens、登録商標、コロンビア研究所)とRepHresh(登録商標、コロンビア研究所)に光を当てることができる。
【0014】
技術水準に記載される製品の中でも、EP 431,719に対応するPI 900780-1、US 6,017,521およびUS 5、968,500(コロンビア研究所)で言及されるものに光を当てる価値がある。このような製品は、生体粘着性ポリマー(たとえば、なかでも、ポリカルボフィル、カルボポール(登録商標))と、代替として粘度増加剤(たとえば、なかでも、カルボポール(登録商標)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)を含む。US 5,968,500およびUS 6,017,521を参照されたい。PI 900780-1とその対応特許で紹介された実施例に光を当てることが重要であるが、処方は、常に、それらのなかでも異なる割合の生体粘着性ポリマーと粘ちゅう性増加ポリマーを含んでいる。さらに、「より多い量の粘ちゅう性増加剤は、一般的により少ない量の生体付着性ポリマーと共に使用され、逆もまた同様である。たとえば、025重量%のポリカルボフィルを生体付着剤として含むpH値2.2−2.5の組成物は、膣中の機械的配置に適切な粘度を達成するためには約8−10重量%のカルボポール(登録商標)934を必要とする。」と言及されている(US 5,968,500、11欄第2パラグラフ参照。)。EP 431,719(PI 900780-1に対応する)の実施例4では、ポリカルボフィル(2%)、カルボポール(登録商標)934(1%)、ミベロール(登録商標、分散剤)(1%)、50mlの鉱物油、100mlのグリセリン、メチルパラベン(0.1%、保存剤)、脱イオン水(q.s.p)を含み、HCL中のクエン酸ナトリウムでpH2.4に調整された処方が提供されている。この特許(EP 431,719)の実施例5によれば、1%のカルボポール(登録商標)934(例4に記載されたもの)を含む処方は、適当な粘性を示すが、1%のカルボポール(登録商標)934と1%または3%のポリカルボフィルを含む処方は、不適当な粘性を示すこと、なぜならば、前者(1%のカルボポール(登録商標)934と1%のポリカルボフィル)は、そのクリーミーな粘ちゅう性にもかかわらず、あまりにも「精細」であるとみなされるが、後者(1%のカルボポール(登録商標)934と3%のポリカルボフィル)は、適用するには濃すぎるからであることが言及されている。
【0015】
US 4,226,848には、マトリックス中にポリマーマトリックスと活性成分を含み、マトリックスは、50〜95%のセルロースエーテル(たとえば、ヒドロキシプロピルセルロース)と50〜5%のアクリルホモ-またはコポリマー(たとえば、カルボポール(登録商標)934)を含む、制御された放出組成物が記載されている。処方は、生体付着性を改善することをその目的として、従来技術に共通する膣粘膜の炎症を回避するという事実が言及されている。
【0016】
膣粘膜などの粘膜を治療および/または保湿するための組成物を記載する多くの文献があり、ポリカルボフィル(たとえば、ノベオン−AA1(登録商標))および/またはカルボマー(たとえば、カルボポール(登録商標)934P、カルボポール(登録商標)974P、カルボポール(登録商標)976P等)である。このような文献のなかでもEP 719,146、WO 99/13862、US 2001/0031251(US 6,479,045)および両方のポリマー(ポリカルボフィルとカルボポール)を含む例を紹介するPI 0213584-1(WO 03/037382に対応する)に光を当てることができる。
【0017】
生体付着性ポリマーは、特徴として、水分吸収能力に関連する水不溶解性を有する。これらの特徴によれば、このようなポリマーは、膣内ゲル等の幾つかの投与経路の薬物放出システムに使用されてきた。膣内形態で適用されるときには、生体付着性ゲルは、膣組織上に保湿フィルムを生み出し、上皮細胞表面に付着しとどまる。保湿作用は、ポリマーによる以前に吸収された水分の放出と引き続く隣接する細胞の水和に基づく。上皮の水和は膣壁を潤滑し、かゆみ、炎症および性交不快症等の乾燥することに関連する症状の生起を減少する。それに加えて、生体付着性ポリマーに基づくゲルは、月経閉止前の健康な婦人の膣pHであり、また、膣感染の発症を避けるための理想的pHである2.0〜4.5の範囲への膣pHの減少に貢献することができる。
【0018】
文献WO 2005/007194の教示は、粘膜、特に、膣粘膜の治療および/または保湿というすべての急迫した事情に合致する適当な組成物の複雑さを、なおさらに明らかにする。この文献では、少なくとも二つの生体付着性ポリマーと一つの活性成分を含む半固体状粘膜付着性処方が、記載されている。第1のポリマーはアクリル酸型(たとえば、ノベオン−AA1(登録商標))であり、第2のポリマーはゲル化型(たとえば、カルボポール(登録商標))934P、カルボポール(登録商標))971P)であり、前記処方は、また、保湿/湿潤剤(たとえば、グリセリン)、脂肪/脂質成分(たとえば、パラフィン、ワセリン、鉱物油)、溶解剤/乳化剤(ラブラフィル(登録商標))M1944、pHを2〜6の間に調整するための中和剤および水を含む。文献WO 2005/007194では、第1と第2のポリマーの濃度は、0.1〜5%で変化し、好ましくは、第1のポリマー(ポリカルボフィル)は、0.5〜2.5%の範囲で、第2のポリマー(カルボポール(登録商標))は、0.1〜1.0%の範囲であり、より好ましくは、第1のポリマーは、0.75〜1.5%の範囲で、第2のポリマーは、0.25〜0.5%の範囲である。例A〜H、Kおよび2〜11(プロゲステロン処方(例2〜6)、エステリール処方(例1、7および8)、クロトリマゾール処方(例9と10)、クリンダマイシン処方(例11))では、カルボポール(登録商標)/ポリカルボフィルの比は、1:3であり(例A〜H、Kおよび7および8の処方中では、0.5%カルボポールと1.5%ポリカルボフィルであり、例2〜6および9〜11の処方では、0.25%カルボポールと0.75%ポリカルボフィルである。)、例J、Q、PおよびR(0.5%カルボポールと1.0%ポリカルボフィル)では1:2であることを確認すると面白い。
【0019】
文献WO 2005/007194に記載された処方は、粘膜の保湿と治療のための組成物の粘ちゅう性の改善に関しては前進を示してきたが、膣使用のための組成物の場合には、このような組成物は、排出を避けるためにより付着性を示し、粘膜への接触時に疎水性製品の感触を避けるために、より快適性を示す必要がある製品の膣投与特性に基づき、粘ちゅう性という急迫した事情を満足しないことが証明された。
【0020】
要約すると、いくつかの公知の粘膜付着性処方に生じた集中的な研究にもかかわらず、技術水準に記載された製品は、膣投与のための製品の急迫した事情、特に、粘膜への十分な生体付着性に関するもの、油状製品への接触により引き起こされる不快感がない湿潤感覚、処方により引き起こされ得る粘膜の炎症が低いか存在しないこと、満足な感覚受容性、正常な膣フローラの維持と病原の発症の妨害を助ける適当なpHを完全には満足しないことが証明された。これら急迫した事情のすべてを満足するすべての適応性が、本発明の組成物の目的である。
【0021】
[発明の詳細な説明]
本発明の組成物は、第1の具体例では、膣粘膜のpH調整、特に、2.0〜4.5の範囲のpH値に向けられ、このpH値範囲は、フローラの維持および膣障害と疾患を引き起こす病原性微生物の成長の阻止のための役割を担っている。
【0022】
本発明は、本質的に油性物質を含まない膣投与のための適当な処方が、膣粘膜の壁に製品の生体付着性を与えるための第1のポリマーと製品にゲル化特性を与えるための第2のポリマーを含み、前記第1と第2のポリマーは水性処方中で低濃度で、1:1の第1/第2のポリマー比で存在するという確認に基づいている。
【0023】
生体付着特性を有する第1のポリマーは、ここでそれ全体を組みまれる、US 5,968,500およびUS 6,017,521に言及された生体付着性ポリマーのなかから選択することができ、特に、好ましいのは、ノベオン−AA1(登録商標)からの酸性ポリカルボフィル等のポリカルボフィルである。
【0024】
ゲル化特性を有する第2のポリマーは、ここでそれ全体を組みまれる、文献WO 01/066084に言及されるゲル化剤またはマトリックス生成剤、またはここでそれ全体を組みこまれる、US 6,017,521で引用された粘ちゅう性向上剤のなかから、またさらに、カルボポール(登録商標)934P、カルボポール(登録商標)971P、カルボポール(登録商標)974P、カルボポール(登録商標)976P等のカルボポール(登録商標)シリーズのカルボマーポリマーの群から選択することができる。好ましくは、ゲル化特性を有する第2のポリマーは、カルボポール(登録商標)934P、カルボポール(登録商標)971P、カルボポール(登録商標)974P、カルボポール(登録商標)976Pから選択され、さらにより好ましくは、ゲル化特性を有する第2のポリマーは、カルボポール(登録商標)974Pである。
【0025】
本発明の組成物は、水性系型のものであり、処方のpHを3.5〜5.0に、さらにより好ましくは、4.1〜4.5の範囲の値に維持するpH調整剤を含み、pH調整剤は、乳酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、アルギン酸、ソルビン酸、ジアミ四酢酸(EDTA)、酢酸、リンゴ酸、トリエタノールアミン、それらの塩およびそれらの混合物から成る群より選択され、より好ましくは、pH調整剤は、乳酸、ソルビン酸およびトリエタノールアミンであり、もっとも好ましくは、トリエタノールアミンである。
【0026】
追加的に、本発明の粘膜付着性組成物は、医薬処方技術の当業者の知識に基づいて組み合わせることのできる1以上の賦形剤、または潤滑剤、可塑化剤、保存剤、着色剤、付香剤および保湿剤(湿潤剤)から成る群より選択される補助剤を含む。
【0027】
保湿剤(湿潤剤)は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、トリアセチンおよびグリセリンから成る群より選択することができ、もっとも好ましくは、グリセリンである。
【0028】
保存剤は、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、硝酸フェニル水銀、クロレキシジン、パラベンおよびソルビン酸から成る群より選択することができ、もっとも好ましくは、ソルビン酸である、
一般的な面によると、本発明に含まれる組成物は、本質的に油性物質を含まない。油性物質としては、たとえば、鉱物油、トリグリセリド、脂肪酸、水添野菜油等のような疎水性を有し実質的に水不混和性であるものと理解される。用語「本質的に油性物質を含まない」とは前記油性物質を2%まで含むものとして理解することができる。
【0029】
第2の一般的な面によると、本発明に含まれる組成物は、とりわけ、エタノール、パラベン等の刺激性物質を本質的に含まない。
【0030】
本発明の第2の具体例は、本質的に油性物質を含まず、膣障害若しくは膣疾患の治療または予防のための活性成分の担体に関し、以下を含有する、粘膜付着性組成物である:(a)ホルモン、抗菌剤、抗カビ剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、殺精子剤、局所麻酔剤、抗炎症剤および抗痙攣剤から成る群より選択される治療有効量の活性成分;および、(b)上記組成物に対応する処方基材。
【0031】
本発明による粘膜付着性組成物の活性成分は;(i)エストロゲン、たとえば、エストリオールおよび17-β-エストラジオールの、またはプロゲストゲン、たとえば、プロゲステロンおよびメドロゲストン等プロゲストゲン等のホルモン群から;(ii)クリンドマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、カナマイシンおよびストレプトマイシン等の抗菌剤群から;(iii)ミコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール等の抗カビ剤群から;(iv)チニダゾール、メトロニダゾール等の抗原虫剤群から;(v)抗HIV剤または抗ヘルペス剤等の抗ウイルス剤群から;(vi)ノノキシノール-9、メフェゴール等の殺精子剤群から;(vii)リドカインおよびそのアイソマー、ベンゾカイン、プロカイン等の局所麻酔剤群から;(viii)コルチコステロイドおよび非ステロイド等の抗炎症剤群から;(ix)テルブタリン、サラムブトール、ヘキソプレナリン等の抗痙攣剤群から;であり得る。
【0032】
本発明の第3の具体例は、膣の保湿と2.0〜4.5の範囲の値への膣pHの調整における本発明の粘膜付着性組成物の使用に関する。膣粘膜の壁への製品の付着性を顕著に増加するゲル化剤と結合した生体付着性ポリマーを含む本発明の組成物により付与される生体付着作用は、アミンの分離を回避し、フローラの主成分としてのドーダーライン(Doderlein)の桿菌乳酸菌の再生を可能とし、他の微生物の望ましくない増殖に敵対する膣環境とすることを可能とする。本発明の粘膜付着性組成物は、膣流路を減少し、それゆえ、閉経期間後に自然に生起する膣の乾燥という結果に対する保湿作用を呈する。本発明の組成物中で使用される生体付着性ポリマーは、その特徴として、水の吸収容量と関連して、水での不溶解性を有する。膣内形態で適用されると、生体付着性ゲルは膣組織を覆う湿潤フィルムを生み出し、上皮細胞の表面に付着しとどまる。保湿作用はポリマーにより以前に吸収された水分の放出とその結果の隣接する細胞の水和に基づく。上皮の水和は膣壁を潤滑し、かゆみ、炎症、性交不快症等の乾燥に関連する症状の生起を減少する。
【0033】
膣道の障害若しくは疾患の治療または予防における別の重要な因子は、生理学的範囲でのpH維持である。生体付着性ポリマーに基づくゲルは、月経閉止前の健康な婦人の膣pHであり、また、膣感染の発症を避けるための理想的pHである2.0〜4.5の範囲への膣pHの減少に貢献することができる。
【0034】
本発明の第4の具体例は、本発明の粘膜付着性組成物の膣障害若しくは膣疾患の治療または予防のための活性成分の水性系担体としての使用に関する。向上した生体付着性と粘ちゅう性および膣粘膜の炎症を引き起こし得る本質的に油性物質と疎水性物質を含まないという事実等の本発明の組成物の改善された特徴は、活性成分の担体として機能するために、本発明の粘膜付着性組成物に最適な性質を付与し、より高い生体適合性と膣路でのその耐久性を促進する。
【0035】
ここに記載された例と実施形態は単に例示のためであり、本発明の精神と範囲を離れることなく幾つかの変形と改変が当業者には明白であろうし、発明の詳細な説明と特許請求の範囲の精神に包含されねばならないことが理解されねばならない。
【0036】

以下の実験例は本発明の例示であり、そのカバー範囲を制限するものではない。
【0037】
例1−本発明による処方の調製方法
攪拌装置を具備したビーカー中に脱イオン水とソルビン酸が添加され、完全に均質化するまで攪拌が維持される。
【0038】
続いて、スクリーンによる強力攪拌下、混合物が半透明液体になるまで、ポリカルボフィル(ノベオン−AA1(登録商標)−米国)とカルボポール(登録商標)974Pが攪拌されながら、ゆっくりと水に調合される。次に、攪拌速度が減じられ、混合物はこの条件下20分間維持される。
【0039】
混合相終了後、グリセリンが添加され、完全に均質化するまで攪拌が維持される。
【0040】
最後に、pHが確かめられ、必要ならば、混合物がpH値4.3に達するまで、トリエタノールアミンまたは50%クエン酸溶液により、pH較正が行われる。pH値は、ゲル付着のためおよび、膣pHの維持および/または較正を調整するために重要である。
【0041】
上記方法を使用して、幾つかの処方が次に定義されるように調製された。
【0042】
三つの処方(A〜C)が本発明により調製され、異なる濃度のポリマー(酸性ポリカルボフィル(ノベオン−AA1(登録商標)))とポリアクリル酸(カルボポール(登録商標)974P)が1:1の比に維持されながら使用され、処方の他成分の濃度は一定に維持された。
【表1】

【表2】

【表3】

【0043】
上記三つの処方に関して実行された試験では、処方Cが良好な粘ちゅう性、良好な付着性を有し、排出もなく、膣路での投与のための満足できる処方であった。処方Bはポリマー濃度が0.75%であり、最適な粘ちゅう性、良好な付着性と低い排出を有した。
【0044】
従来技術の教示に反し、本発明の組成物は低濃度のポリマー(ポリカルボフィルとポリアクリル酸)を基礎とし、それらは、1:1の比で存在するが、これが、本発明の組成物の主たる特徴の一つであり、本発明の水性組成物の最適な粘ちゅう性を獲得できる理由である。
【0045】
例2−本発明による処方の粘度測定
粘度を測定するために、ブルックフィールド粘度計、モデル:DV-I(ヘリパス ディスポジティブ(Helipath dispositive))、スピンドルS96、速度6rpm温度25℃が、使用された。これらのパラメータの如何なる変更も、結果として、同等の組成物に対して異なる結果を得ることになり得ることを認めることが重要である。したがって、同じパラメータが適用された試験にかけられた製品の粘度を比較することだけに意味がある。
【表4】

【0046】
例3−本発明による処方での付着性試験(ムチンによる試験)の粘度測定
膣粘膜における製品の粘膜付着性を立証するために、付着性試験がムチンにより実行された。
【0047】
試験の実施のために、膣路は、直径1〜1.5cm、長さ15〜15.5cmで、傾斜42〜45°の孔を有する水路で、セロハンを有する糖果でシミュレートされた。膣路の生理学的粘膜をシミュレートするために、シミュレーターシステムに豚の胃のムチン系の処方が加えられた。調製後、システム全体は、試験実施中37℃に維持された。
【0048】
試験は、本発明の処方の三つの例で実行された;市販化既製品(市販の抗カビ製品1と市販の抗カビ製品2)と(KYゲルブランド(登録商標)−活性成分がない膣路保湿用)である。試料は、膣アプリケーターの使用により、4〜5gの量でシステムに添加され、2時間システム中に維持された、結果は表5に記載される。
【表5】

【0049】
このように、研究室でなされた試験は、市販の入手可能な他の製品に比べて、本発明の処方、主として処方BとCは、排出もなく、より長い時間膣路と接触したままであるが、KYゲルブランド(登録商標)製品と二つの市販の抗カビ製品は排出がある。使用者に不快感を引き起こす上に、製品の排出は、粘膜と接触する製品の時間と量をも減少する。二つの抗カビ製品の場合には、膣炎を治療するための活性成分を含むならば、粘膜表面との接触時間が本質的に重要である。したがって、本発明の処方は、粘膜への付着により、活性成分の膣粘膜とのより長い接触時間を維持することができ、同じ治療効果でより低い量の活性成分の使用を可能とする。
【0050】
本発明の組成物は、潤滑、保湿と膣pHの酸性化、良好な付着性と粘膜とのより長い接触時間を示すことができ、乾燥とpH増加に関する症状と閉経後に主として婦人に見られる症状の軽減と膣pHの生理学的値への調整を可能とし、それゆえに、膣感染の発症を避けることを可能にする。
【0051】
本発明の組成物の他の重要な特徴は以下である:(i)非油製品であること;(ii)たとえば、パラベンおよびアルコールのような粘膜組織に炎症を引き起こす物質を本質的に含まないという事実による膣粘膜の低い非刺激性;(iii)特定の割合で使用される生体付着性およびゲル化ポリマーは、膣pHの生理学的値(2.0〜4.5)への減少に貢献するが、これは閉経前の健康な婦人の膣pHであり、それゆえ膣感染の発症を回避すること;(iv)特定の割合のポリマーを有する水性タイプの組成物により、潤滑特性と膣pHの酸性化を向上すること;
説明で言及されたすべての文献と特許出願は、本発明が関連する技術分野の当業者の水準を示す。すべての文献と特許出願は、個々の文献または各特許出願が特別にまた個々に参照により組み込まれることを示すのと同じ範囲で、参照によりここに組み込まれる。
【0052】
本発明は、明確性と理解のために例証と例によりやや詳細に説明されているにもかかわらず、ある程度の変更と変形が特許請求の範囲と詳細な説明の範囲内で実行できることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜付着性組成物であって、組成物は、本質的に油性物質を含まず、生体付着性ポリマー/ゲル化ポリマー比が1:1である条件で、以下を含有する。
(a)0.25〜1.5%の生体付着性ポリマー
(b)0.25〜1.5%のゲル化ポリマー
(c)17〜25%の薬学的に許容可能な賦形剤;および
(d)水
【請求項2】
前記組成物が、(a)0.5〜1.0%の生体付着性ポリマーおよび(b)0.5〜1.0%のゲル化ポリマーを含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、水性ゲルである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、25〜90%の水を含有する、請求項1または3項記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、70%未満の水を含有する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記生体付着性ポリマーが、ポリカルボフィルである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記ゲル化ポリマーが、カルボマー型のポリアクリルポリマーである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリマーが、カルボポール(登録商標)934P、カルボポール(登録商標)972P、カルボポール(登録商標)974Pおよびカルボポール(登録商標)976Pから成る群より選択される、請求項1乃至7項いずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、0.75%の生体付着性ポリマーと0.75%のゲル化ポリマーを含有する、請求項1または2記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、1%の生体付着性ポリマーと1%のゲル化ポリマーを含有する、請求項1または2記載の組成物。
【請求項11】
前記薬学的に許容可能な賦形剤が、pH調整剤、潤滑剤、可塑化剤、保存剤、着色剤、付香剤および保湿剤(湿潤剤)から成る群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記pH調整剤が、乳酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、アルギン酸、ソルビン酸、ジアミ四酢酸、酢酸、リンゴ酸、トリエタノールアミン、それらの塩およびそれらの混合物から成る群より選択される、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記保湿剤が、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、トリアセチンおよびグリセリンから成る群より選択される、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
前記保存剤が、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、硝酸フェニル水銀、クロレキシジン、およびソルビン酸から成る群より選択される、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
前記保存剤が、ソルビン酸である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、2%までの油性物質を含み、本質的に油性物質を含まない、請求項1乃至14項いずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
組成物が、本質的に油性物質を含まず、膣障害若しくは膣疾患の治療または予防のための活性成分の担体であり、以下を含有する、粘膜付着性組成物、
(a)ホルモン、抗菌剤、抗カビ剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、殺精子剤、局所麻酔剤、抗炎症剤および抗痙攣剤から成る群より選択される治療有効量の活性成分;および、
(b)(i)生体付着性ポリマー/ゲル化ポリマー比が1:1である条件で、0.25〜1.5%の生体付着性ポリマー;(ii)0.25〜1.5%のゲル化ポリマー;(iii)17〜25%の薬学的に許容可能な賦形剤;および(iv)水を含む水性処方系。
【請求項18】
前記組成物が、0.5〜1.0%の生体付着性ポリマーおよび0.5〜1.0%のゲル化ポリマーを含有する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、水性ゲルである、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、25〜90%の水を含有する、請求項17記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、70%未満の水を含有する、請求項17記載の組成物。
【請求項22】
前記活性成分が、エストロゲンおよびプロゲストゲンから成る群より選択されるホルモンである、請求項17記載の組成物。
【請求項23】
前記活性成分が、抗菌剤である、請求項17記載の組成物。
【請求項24】
前記抗菌剤が、クリンドマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、カナマイシンおよびストレプトマイシンから成る群より選択される、請求項17または23記載の組成物。
【請求項25】
前記活性成分が、抗カビ剤および/または抗原虫剤である、請求項17記載の組成物。
【請求項26】
前記抗カビ剤および/または抗原虫剤が、イトラコナゾール剤、ケトコナゾール剤、ミコナゾール剤、チニダゾール剤、フルコナゾール剤、メトロニダゾール剤またはそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項17または25記載の組成物。
【請求項27】
前記活性成分が、抗ウイルス剤である、請求項17記載の組成物。
【請求項28】
前記抗ウイルス剤が、抗HIV剤または抗ヘルペス剤から成る群より選択される、請求項17または27記載の組成物。
【請求項29】
前記薬学的に許容可能な賦形剤が、保湿剤、保存剤およびpH調整剤から成る群より選択される、請求項17項記載の組成物。
【請求項30】
前記保湿剤が、グリセリンである、請求項17または29記載の組成物。
【請求項31】
前記保存剤が、ソルビン酸である、請求項17または29記載の組成物。
【請求項32】
前記pH調整剤が、トリエタノールアミンである、請求項17または29記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物が、20%のグリセリン、0.1%のソルビン酸および4.3±0.2にpH調整するために必要な量のトリエタノールアミンおよび水を含む、請求項17または29記載の組成物。
【請求項34】
前記生体付着性ポリマーが、ポリカルボフィルで、前記ゲル化ポリマーが、カルボマー型のものである、請求項17記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物が、2%までの油性物質を含み、本質的に油性物質を含まない、請求項17乃至34項いずれか一項記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物が、その目的として、膣内pHの調整を有する、請求項1乃至35項いずれか一項記載の粘膜付着性組成物の使用。
【請求項37】
前記組成物が、2.0〜4.5という値に膣pHを調整する、請求項36記載の粘膜付着性組成物の使用。
【請求項38】
前記組成物が、膣道障害若しくは膣道疾患の治療または予防のための膣医薬の形態の調剤である、請求項1乃至35項いずれか一項記載の粘膜付着性組成物の使用。
【請求項39】
前記組成物が、膣医薬の形態の調剤である、請求項1乃至35項いずれか一項記載の粘膜付着性組成物の使用。
【請求項40】
前記組成物が、水性ゲル調剤である、請求項39記載の粘膜付着性組成物の使用。

【公表番号】特表2011−530541(P2011−530541A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522354(P2011−522354)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/BR2009/000255
【国際公開番号】WO2010/017614
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(508361438)インクレメンサ・ピーデーアンドアイ−ペスクイサ,デセンボルビメント・エ・イノバカオ・デ・ファルマコス・エ・メディカメントス・エルティーデーエー (2)
【Fターム(参考)】