説明

細胞老化を遅延させるための組成物

本明細書では、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%のヘキサペプチド−11(Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Pro)、並びに水、油、アルコール、シリコーン、及びこれらの組合せから選択される該ペプチドのための皮膚科学的に許容される担体を含む、細胞老化を遅延させるための組成物が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、細胞老化を遅延させるための組成物;より詳細には、皮膚細胞における内因性又はストレス誘導性細胞老化を遅延させるために有効なヘキサペプチド−11を含有する化粧用組成物に関する。本発明はまた、皮膚細胞における老化を遅延させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大部分の細胞は、複製老化又は細胞老化のために無限に分裂することはできない。複製老化又は細胞老化は、Hayflick及びMoorheadによって約30年前に最初に認められ、細胞レベルにおける老化のモデルとして提案された。Hayflick及びMoorheadは、インビトロで増殖する細胞が、50〜60回の集団倍加の間だけ増殖する傾向があり、その後、それらは、新たなDNAの産生を停止するが、ATPの代謝及び産生は続ける複製老化と呼ばれる時点に達するという重大な発見をした。複製老化に入る細胞は、通常は、アポトーシスとして総称的に知られる一連の破壊事象によって、最終的に死滅する。
【0003】
細胞は、毒素、UV照射、又は他の酸化事象などのストレスの多い事象の結果として、早期に老化する可能性がある。この現象は、ストレス誘導性早期老化(Stress−Induced Premature Senescence)又はSIPSと称される。
【0004】
細胞老化は、加齢の本質的な原因要素であると考えられるので、細胞老化を遅延させる方法を開発すべく努力がなされてきた。例えば、米国特許出願公開第2002/0123526号には、角化細胞の細胞老化を遅延させるためのレチノイン酸の使用が開示されている。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0075902号には、Nuclear Factor Kappa Beta(NF−κβ)に作用して、NF−κβタンパク質の活性化を抑制し、この主要な細胞転写因子を不活性状態に本質的に維持するNemo Binding Domain(NBD)タンパク質を用いることによって細胞老化を遅延させる方法が開示されている。
【0006】
最近公開された国際特許出願公開第2009/046436号には、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)遺伝子及び経路の阻害によって細胞老化を遅延させるための薬剤ラパマイシンの局所適用が開示されている。
【0007】
Wonらは、市販の合成アセトアミド類似体である薬剤標識CGK733が、「老化時計」を実際に逆転させ、それにより、特に線維芽細胞における複製老化細胞を活発に複製する細胞に変換して戻すことができたことを開示している。Nat.Chem.Biol.2(7):369〜374頁(2006年)を参照されたい。老化逆転に対する主張は、Wonらによるその後の発表で取り下げられた。Wonら、Nat.Chem Biol 2008年を参照されたい。
【0008】
これまでのところ、NBDタンパク質などの細胞老化を遅延させる従来の物質は、合成するために費用がかかる。したがって、それらは、局所治療適用に望ましくない可能性がある。
【0009】
局所適用及び化粧品におけるペプチドの使用は、公知である。例えば、米国特許第6,492,326号には、ペンタペプチドが、コラーゲン発現の産生を刺激することにより皮膚外観に影響を与えるために使用され得ることが開示されている。Katayamaらは、同じペンタペプチドが、創傷治癒を改善するために使用され得ることを開示している。Katayamaら、J Biol Chem.、268、9941〜9944頁(1993年)を参照されたい。同様に、米国特許出願公開第2004/0141939号には、皮膚細胞間の接着を促進することが示唆されている、スキンケアを目的としたペプチドが開示されている。米国特許第5,554,375号には、皮膚の損傷及び創傷を改善し、毛髪増殖を刺激すると示唆された銅含有ペプチドが開示されている。
【0010】
局所適用のためのヘキサペプチドの使用について文献において言及されている。例えば、Reinhartらの米国特許出願公開第2007/0202216号には、老化皮膚の外観を改善するための構造セリン−イソロイシン−リシン−バリン−アラニン−バリンのヘキサペプチドの使用が開示されている。Reinhartの米国特許出願公開第2008/152606号には、老化皮膚の外観を改善するための構造アセチル−Glu−Glu−Met−Glu−Arg−Argのアセチル化ヘキサペプチドが記載されている。LaloeufのIE20060154には、老化皮膚の外観を改善する使用のための構造Gly−Pro−Gln−Gly−Pro−Glnのヘキサペプチドが開示されている。
【0011】
同様に、酵母抽出物、特に、パン酵母としても知られるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの抽出物由来のペプチドは、Bentleyら、Arch Surg、第125巻、1990年、641頁によれば、皮膚の創傷治癒及び皮膚の外観を改善するために局所的に機能し得る。アミノ酸配列Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Proを含むペプチド(INCI名:ヘキサペプチド−11)は、酵母発酵物から単離され、老化皮膚を安定させると報告された。Lupoら、Dermatol Therapy、第20巻、2007年、343頁を参照されたい。この論文には、創傷治癒の目的に使用されるペプチドの量が開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、これらの特許及び論文は、記載されたペプチドのいずれも、複製細胞老化を遅延させることができることを示唆できていない。したがって、細胞老化を遅延させる能力を有する費用効果的な活性剤に対する必要性が依然としてある。本発明は、その必要性に対する1つの答えを与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%のヘキサペプチド−11、及び該ペプチドのための皮膚科学的に許容される担体を含む、細胞老化を遅延させるための組成物に関する。担体は、水、油、アルコール、シリコーン、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0014】
別の態様では、本発明は、例えば、皮膚線維芽細胞、表皮角化細胞及び皮膚色素細胞などの細胞における内因性細胞老化及びストレス誘導性早期老化を抑制する方法に関する。該方法は、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%のヘキサペプチド−11、及び該ペプチドのための皮膚科学的に許容される担体を含有する組成物と、該細胞を接触させる段階を含む。担体は、水、油、アルコール、シリコーン、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、SA−β−Gal発現により測定した内因性老化皮膚線維芽細胞における老化の遅延を示すグラフである。
【0016】
【図2】図2は、ATM発現により測定した表皮角化細胞におけるHストレス誘導性早期老化の遅延を示すグラフである。
【0017】
【図3】図3は、p53発現により測定した表皮角化細胞におけるHストレス誘導性早期老化の遅延を示すグラフである。
【0018】
【図4】図4は、SA−β−Gal発現により測定した皮膚色素細胞におけるUVストレス誘導性早期老化の遅延を示すグラフである。
【0019】
【図5】図5は、DNA修復酵素Ogg1の細胞発現に対するヘキサペプチドの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
今や、少なくとも50%の純度を有する、約0.01%から約5%の濃度のヘキサペプチド、好ましくはヘキサペプチド−11が、SA−β−ガラクトシダーゼ(SA−β−Gal)の発現、ATM若しくはp53の抑制によって、又はMTTアッセイなどの細胞生存アッセイにより測定される細胞生存率の増加を介して測定して、皮膚細胞における内因性又はストレス誘導性早期細胞老化を遅延させる能力を示すことが見出された。
【0021】
当業者に知られているように、老化の遅延は、いくつかのインビボでのアッセイによって測定され得る。特に、SA−β−ガラクトシダーゼ、ATM、ATR、p53、p21、及びp16の発現並びにMTTアッセイにより測定される細胞生存率の増加はすべて、細胞老化における遅延を示し得る。
【0022】
細胞老化は、老化に入った細胞の形態の変化で認めることもできる。最も重要であるのは、内因性又はストレス誘導性細胞老化の細胞によって発現されることが知られている独特の細胞マーカーであるSA−β−ガラクトシダーゼの発現減少である。
【0023】
老化マーカーの細胞発現は、インビボでのアッセイを用いる複数の方法で測定され得るが、2つの非常に実際的な方法は、ヒト遺伝子マイクロアレーによるもの及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)によるものである。第1の手法は、Affymetrix(Santa Clara、CA)により提供されるものなどのゲノムマイクロチップを用いて、特定の処理が線維芽細胞の遺伝性素因に影響して、RNA発現を増加又は減少させることによってタンパク質及び酵素を作り出すかどうかを調べる。第2の試験は、目的の特定のタンパク質に特異的な蛍光標識抗体を用いることによって、所望の老化タンパク質の実際の発現を調べる。
【0024】
広範で徹底的な研究によって、ヘキサペプチド、特にヘキサペプチド−11が、線維芽細胞及び皮膚色素細胞などの皮膚細胞における内因性又はストレス誘導性細胞老化の遅延に有効であることが初めて見出されている。例えば、研究により、ヘキサペプチドは、特定の重要な細胞タンパク質の発現、例えば、SA−β−ガラクトシダーゼ、ATM、又はp53細胞タンパク質の発現を阻害し得ることが示される。ヘキサペプチドはまた、DNA修復酵素、Ogg1などの特定の重要な細胞マーカーの発現を増強し得ることが見出された。
【0025】
したがって、一実施形態では、本発明は、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%、好ましくは約0.01から約2%、より好ましくは約0.1から約1%のヘキサペプチド、及び皮膚科学的に許容される担体を含有する組成物を提供する。好ましくは、ヘキサペプチドは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%以上の純度を有するヘキサペプチド−11(Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Pro)である。該組成物は、皮膚細胞、特に線維芽細胞、角化細胞及び皮膚色素細胞における内因性又はストレス誘導性細胞老化の遅延に有効である。
【0026】
線維芽細胞は、新たなコラーゲン及びエラスチンの皮膚中への発現に関与する皮膚の皮層で増殖する細胞である。角化細胞は、皮膚の表皮で増殖し、皮膚における角質層及び脂質の形成に関与する。皮膚色素細胞も、皮膚の皮層で増殖し、毛髪の発現に関与する細胞である。このような細胞は、インビトロで局所処理の有益な影響を調べるために知られている条件下で培養皿において増殖させることができる。
【0027】
本発明の組成物は、局所適用に、並びに皮膚老化の徴候、より特には老化に伴う皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性を調節するために有用である。「皮膚老化の徴候を調節する」は、1種又は複数のこのような徴候を予防的に調節及び/又は治療的に調節すること(同様に、皮膚老化の所与の徴候、例えば、線、皺又は孔を調節することは、その徴候を予防的に調節及び/又は治療的に調節することを包含する)を包含する。本明細書で用いられる場合、このような徴候を予防的に調節することには、皮膚老化の徴候を遅延、最少化よび/又は予防することを包含する。本明細書で用いられる場合、このような徴候を治療的に調節することには、皮膚老化の徴候を軽減、例えば、減少、最少化及び/又は消失させることを包含する。
【0028】
「皮膚老化の徴候」には、限定されるものではないが、外側へ視覚的に及び触覚的に認知できる発現のすべて、並びに皮膚老化による任意の他のマクロ又はミクロ効果が含まれる。このような徴候は、内因子又は外因子、例えば、暦年老化及び/又は環境被害(例えば、太陽光、UV、煙、オゾン、汚染物質、ストレスなど)によって誘導又は引き起こされ得る。これらの徴候は、限定されるものではないが、皺(wrinkle)などのきめの不連続性の進行(細かい表面皺及び粗い深い皺の両方を含む)、皮膚線、眉間皺線、表情線、皺(rhytide)、皮膚日射病、光傷害、早期皮膚老化、間隙、隆起、くぼみ、大きな孔(例えば、汗腺管、脂腺、又は毛嚢などの付属器構造に関連した)、「橙皮(orange peel)」皮膚外観、乾燥、鱗屑、薄片剥離及び/又は他の皮膚不均一又は粗さの形態;過剰な皮膚油の問題(皮脂の産生過剰、油性、顔面つや、ファンデーションのくずれ(foundation breakthrough)など);落屑異常(又は剥離)又は表皮分化異常(例えば、皮膚のターンオーバー異常)(鱗屑、薄片剥離、ケラトース、角化亢進など);皮膚保湿(又は水分補給)不十分(皮膚バリア損傷、環境乾燥によって生じたものなど);皮膚弾性の喪失(機能的皮膚エラスチンの喪失よび/又は不活性化)(弾性線維症、たるみ(眼領域及び顎の腫脹を含む)、皮膚堅さの喪失、皮膚緊張の喪失、変形からの皮膚反動の喪失を含む);非メラニン皮膚褪色(目の下のくま、しみ(例えば、むらのある赤着色(例えば、酒さによる))、土色(浅色)、毛細血管拡張症により生じた褪色;メラニン関連過度色素沈着(又は不均一色素沈着)皮膚部;炎症後過度色素沈着(炎症事象(例えば、座瘡病変、内生毛、昆虫/蜘蛛咬傷又は刺傷、ひっかき傷、切り傷、創傷、擦過傷など)に続いて起こるものなど);アトピー(限定されるものではないが、老化、ステロイド使用又は昆虫、蛇又は細菌毒素(例えば、ボツリヌス毒素など)の使用に伴うものなど);基質などの皮膚成分(例えば、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカンなど)における他の組織学的又は顕微鏡的変化、コラーゲン破壊及び構造変質又は異常(例えば、角質層、真皮、表皮、毛細血管拡張症などの皮膚血管系の変化);掻痒(itch or pruritus)などの傷害に対する皮膚神経系、組織反応;並びに下層組織に対する変質(例えば、皮下扁平、セリュライト、筋肉、小柱、隔膜など)、特に皮膚に近接したものを含むプロセスに起因し得る。
【0029】
本発明は、皮膚老化に伴う機構のために生じる上記の「皮膚老化の徴候」の調節に限定されないが、しかし、原因の機構にかかわらず、前記徴候の調節を包含することが意図される。本明細書で用いられる場合、「皮膚状態を調節する」は、原因の機構にかかわらずに、このような徴候の調節を包含することが意図される。
【0030】
本発明は、皮膚老化に伴うきめの不連続性を含めて、哺乳動物の皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性を治療的に調節するために特に有用である。本明細書で用いられる場合、このような不連続性の治療的な調節には、哺乳動物皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性を軽減、例えば、減少、最少化及び/又は消失させ、それにより、皮膚外観及び/又は触感の改善、例えば、より平滑で、より均一な外観及び/又は触感を与えることが含まれる。このような皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性には、裂け目、隆起、孔、細線、皺、鱗屑、薄片及び/又は他の皮膚老化に伴うきめの不均一性又は粗さの形態が含まれる。例えば、線及び/又は皺の長さ、深さ、及び/又は他の寸法は低下し、孔の見かけ直径は低下し、又は開孔部にすぐ近接した組織の見かけ高さは、付属器内皮膚のものに近づく。
【0031】
本発明はまた、皮膚老化に伴うきめの不連続性を含めて、哺乳動物皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性を予防的に調節するために特に有用である。本明細書で用いられる場合、このような不連続性を予防的に調節することには、哺乳動物皮膚のきめの目に見える及び/又は触知できる不連続性を軽減、例えば、減少、最少化及び/又は消失させ、それにより、皮膚外観及び/又は触感の改善、例えば、より平滑で、より均一な外観及び/又は触感を与えることが含まれる。
【0032】
本発明の組成物は、その必須の及び任意選択の成分を含めて、以下に詳細に説明される。
【0033】
本発明の組成物はまた、脱毛の治療に有用であり得る。Bahta AWらは、はげた又ははげている個体から単離された皮膚色素細胞は、非脱毛個体から単離した皮膚色素細胞に比べて、早期老化の進行状態にあることが見出されたことを開示している。Bahta AWら、J.Invest Dermatol 128(2009年)1088〜1094頁を参照されたい。著者らは、それらの発見を実証するために、ATM及びSA−β−ガラクトシダーゼの測定を用いている。したがって、本発明の組成物は、細胞老化を抑制することによる脱毛の治療に有効であり得る。
必須成分
ペプチド
【0034】
本発明の必須成分は、発酵などの生物学的手段を介して、又は固相若しくは液相の合成化学などのより古典的な方法によって単離されたペプチドである。より詳細には、本発明で重要であるのは、総称的にヘキサペプチドとして知られている、6個の必須アミノ酸を含むペプチドである。ヘキサペプチドのアミノ酸は、任意の天然起源のアミノ酸であってもよく、又は非天然の合成プロセスを介して形成されるアミノ酸を含んでもよい。
【0035】
本発明のペプチドは、限定されるものではないが、塩、エステル、アミド、エーテルなどの形成を含めて、当業者に知られている方法でさらに化学的に誘導され得る。
【0036】
ペプチドはまた、皮膚中へのペプチドの局所浸透を増強させ得る送達系に取り込ませ得る。このような送達系は、当業者に周知であり、限定されるものではないが、リポソーム、ニアソーム、ナノソームなどを含む。
【0037】
本発明による好ましいペプチドは、ヘキサペプチド−11(化学構造:Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Pro)として知られている、酵母発酵からもともとは単離されたヘキサペプチドである[Lupoら、Dermatol Therapy 2007年]。ヘキサペプチド−11の構造は以下に概略的に示される:
【化1】

【0038】
本発明のヘキサペプチド−11は、当業者に知られた標準的な方法によって作製された合成ペプチドとしても提供され得る。それは、少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは90%の純度を有する。ペプチドの純度は、NMR、HPLC又はGC/MSなどの当業者に知られた様々な方法で測定され得る。HPLCによる純度が本発明にとって最も好ましい。
担体
【0039】
本発明の別の必須成分は、皮膚科学的に許容される担体である。本明細書で用いられる場合、「皮膚科学的に許容される担体」という表現は、その担体が、皮膚への局所適用に適しており、良好な美的特性を有し、本発明の活性剤及び任意の他の成分に適合しており、都合の悪い安全性又は毒性の問題を引き起こさないことを意味する。
【0040】
担体は、多種多様な形態であり得る。例えば、エマルジョン担体は、限定されるものではないが、水中油型、油中水型、水中油中水型、及びシリコーンエマルジョン中水中油型を含めて、本明細書で有用である。これらのエマルジョンは、広範な粘度、例えば、約100cpsから約200,000cpsに及び得る。これらのエマルジョンはまた、機械的ポンプ容器を用いるスプレー又は従来の推進剤を用いる加圧エアロゾルの形態で送達され得る。これらの担体は、ムースの形態でも送達され得る。他の適切な局所用担体には、無水液体溶媒(油、アルコール及びシリコーンなど(例えば、鉱油、エタノール、イソプロパノール、ジメチコン、シクロメチコンなど));水系単相液体溶媒(例えば、水−アルコール溶媒系);及びこれらの無水及び水系単相溶媒の増粘バージョン(例えば、溶媒の粘度が、適当なガム、樹脂、ろう、ポリマー、塩などの添加によって固体又は半固体を形成させるために増加させた場合)が含まれる。本発明に有用な局所用担体系の例は、以下の4件の参考文献に記載されている:「サン製品調合(Sun Products Formulatory)」Cosmetics & Toiletries、第105巻、122〜139頁(1990年12月);「サン製品調合(Sun Products Formulary)」Cosmetics & Toiletries、第102巻、117〜136頁(1987年3月);1990年10月2日に発行されたFigueroaらの米国特許第4,960,764号;及び1981年3月3日に発行されたFukudaらの米国特許第4,254,105号。
【0041】
本発明の担体は、本発明の組成物の重量で約50%から約99%、好ましくは約75%から約99%、最も好ましくは約85%から約95%を構成し得る。
【0042】
好ましい化粧品的に及び/又は薬学的に許容される局所用担体には、水−アルコール系及び水中油型エマルジョンが含まれる。担体が水−アルコール系である場合、担体は、約0%から約99%のエタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物、及び約1%から約99%の水を含み得る。約5%から約60%のエタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物、及び約40%から約95%の水を含む担体がより好ましい。約20%から約50%のエタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物、及び約50%から約80%の水を含む担体が特に好ましい。担体が水中油型エマルジョンである場合、担体は、これらのエマルジョンを調製するための一般的な添加剤成分のいずれかを含み得る。適切な担体のより詳細な検討は、Blankらの米国特許第5,605,894号及びBissettの米国特許第5,681,852号に見出される。
任意選択の成分
【0043】
本発明の組成物は、さらなる皮膚活性剤を任意選択により含み得る。このような皮膚活性剤の非限定的な例には、ビタミンB3化合物(Oblongらの、1997年10月30日に公開されたPCT出願国際公開第97/39733号に記載されたものなど);ヒドロキシ酸(サリチル酸など);剥離又は落屑剤(双性イオン界面活性剤など);サンスクリーン(2−エチルヘキシル−p−メトキシシンナメート、4,4’−t−ブチルメトキシジベンゾイル−メタン、オクトクリレン、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸など);サンブロック(酸化亜鉛及び二酸化チタンなど);抗炎症剤;酸化防止剤/ラジカル捕捉剤(トコフェノール及びこれらのエステルなど);金属キレート剤(特に鉄キレート剤);レチノイド類(レチノール、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、プロピオン酸レチニル、及びレチナールなど);N−アセチル−L−システイン及びその誘導体;ヒドロキシ酸(グリコール酸など);ケト酸(ピルビン酸など);ベンゾフラン誘導体;脱毛剤(例えば、スルフヒドリル化合物);皮膚美白剤(例えば、アルブチン、コジック酸、ヒドロキノン、アスコルビン酸及びアスコルビン酸リン酸エステル塩などの誘導体、胎盤抽出物など);抗セリュライト剤(例えば、カフェイン、テオフィリン);保湿剤;抗菌剤;抗男性ホルモン物質;及び皮膚保護剤が含まれる。上記皮膚活性剤の任意の混合物も使用され得る。これらの活性剤のより詳細な説明は、Blankらの米国特許第5,605,894号に見出される。好ましい皮膚活性剤には、サリチル酸などのヒドロキシ酸、サンスクリーン、酸化防止剤及びこれらの混合物が含まれる。
【0044】
他の従来のスキンケア製品の添加物も、本発明の組成物中に含まれ得る。例えば、尿素、グアニジン、グリセロール、ペトロラタム、鉱油、糖エステル及びポリエステル、ポリオレフィン、イソステアリン酸メチル、イソステアリン酸エチル、リシノール酸セチル、イソノナン酸イソノニル、イソヘキサデカン、ラノリン、ラノリンエステル、コレステロール、ピロリドンカルボン酸/塩(PCA)、トリメチルグリシン(ベタイン)、トラネキサム酸、アミノ酸(例えば、セリン、アラニン、スレオニン、ヒスチジン)及び/又はこれらの塩、パンテノール及びその誘導体、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、加水分解物、プリムローズ油、ホホバ油、上皮細胞増殖因子、ダイズサポニン、ムコ多糖類、並びにこれらの混合物が使用され得る。他の適切な添加物又は皮膚活性剤は、Oblongらの1997年10月30日に公開されたPCT出願国際公開第97/39733号にさらに詳細に検討されている。
他の成分
【0045】
本処方物は、担体、任意選択の成分又は本処方物の意図された用途に応じて選択され得る他の成分を含み得る。さらなる成分には、限定されるものではないが、酸化防止剤(BHTなど);エマルジョン安定剤(カルボマーなど);保存剤(フェノキシエタノールなど);芳香剤(ピネンなど);湿潤剤(グリセリンなど);防水剤(フォンブリンペルフルオロエーテルなど);水溶性フィルム形成剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);油溶性フィルム形成剤(水素化C−9樹脂など);保湿剤(コレステロールなど);カチオン性ポリマー(ポリクオタニウム−10など);アニオン性ポリマー(キサンタンガムなど);ビタミン(トコフェノールなど)などが含まれる。
【0046】
本組成物は、1種又は複数のさらなる活性成分を包含することもでき、したがって、化粧用又は医薬組成物であり得る。有用な活性剤の例には、限定されるものではないが、染み、角質線維及び皺を改善又は根絶するもの、鎮痛剤、麻酔剤、抗座瘡剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、ふけ防止剤、抗皮膚炎剤、止痒塗布剤、制吐剤、抗高角質溶解剤、抗乾燥皮膚剤、制汗剤、乾癬治療剤、抗脂漏剤、老化防止剤、皺防止剤、抗ヒスタミン剤、日焼け止め剤、脱色剤、創傷治癒剤、抗炎症剤、なめし剤、又はホルモンが含まれる。
【0047】
本処方物の特に好ましい実施形態は、老化防止製品として使用されるスキンケアローション又はクリームである。この目的のために、本処方物は、保湿剤、皮膚軟化剤又は湿潤剤である剤と組み合わせる。有用な組合せの例は、油、脂肪、ろう、エステル、脂肪酸アルコール、脂肪酸エトキシレート、グリコール、糖、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸塩、ジメチコン、シクロメチコンなどである。さらなる例は、International Cosmetic Ingredient Dictionary CTFA、第10版、2004年に見出すことができる。
【0048】
本発明ではまた、この局所組成物の適用と同時及び/又は逐次的に(例えば、10分間以内)、送達向上装置を介して、角質組織への本発明の必須成分の有効性を増強させるために皮膚へのエネルギーの送達が企図される。エネルギー送達装置は、限定されるものではないが、光、熱、音(超音波を含む)の形態のエネルギー、磁気エネルギー、電磁エネルギー(高周波及びマイクロ波を含む)、機械的エネルギー(剥離又はマイクロダーマブレーション装置)、及びこれらの組合せを含む、様々な形態のエネルギーを送達し得る。
組成物の調製
【0049】
本発明の組成物は一般に、局所組成物の製造の技術分野で知られているような従来の方法によって調製される。このような方法は、典型的には、加熱、冷却、真空の適用などを用いて又は用いずに、1つ又は複数の段階で成分を相対的に均一な状態に混合することを含む。
皮膚状態を調節する方法
【0050】
皮膚状態の調節は、典型的には、本発明の組成物の安全及び有効な量を皮膚に局所適用することを含む。適用される組成物の量、適用の頻度及び使用の期間は、所与の組成物のペプチド及び/又は他の成分のレベル並びに、例えば、対象に存在する皮膚老化のレベル及びさらなる皮膚老化の速度に照らして所望される調節のレベルに応じて広範に変わる。
【0051】
好ましい実施形態では、本組成物は、皮膚に慢性的に適用される。「慢性的局所適用」によって、対象の寿命の間に長期間にわたる、好ましくは少なくとも約1週間の期間、より好ましくは少なくとも約1ヶ月間、さらにより好ましくは少なくとも約3ヶ月、さらにより好ましくは少なくとも約6ヶ月、より好ましくはさらに少なくとも約1年の期間の該組成物の継続した局所適用が意味される。使用の様々な最大期間(例えば、5、10又は20年間)後に利益が得られるが、慢性適用は、対象の寿命を通して続くことが好ましい。典型的には適用は、このような長期間にわたって1日当たり約1回のオーダーであるが、しかし、適用割合は、1週間当たり約1回から1日当たり約3回以上に変わり得る。
【0052】
本発明の組成物の広範な量を用いて、皮膚の外観及び/又は触感の利益を与えることができる。適用当たり典型的に適用される本組成物の量は、皮膚1cm当たり組成物mgで、約0.1mg/cmから約10mg/cmである。特に有用な適用量は、約2mg/cmである。
【0053】
皮膚状態の調節は、好ましくは、いくらかの美的、予防的、治療的又は他の利益のために皮膚上に残されることが意図されるスキンローション、クリーム、ジェル、エマルジョン、スプレー、コンディショナー、化粧品、口紅、ファンデーション、マニキュア液などの形態の組成物(すなわち、「リーブ−オン」組成物)を適用することによって実施される。本組成物を皮膚に適用後、それは、好ましくは少なくとも約15分間、より好ましくは少なくとも約30分間、さらにより好ましくは少なくとも約1時間、最も好ましくは少なくとも7時間、例えば、最大約12時間の期間皮膚上に残される。
【0054】
顔、髪、及び/又は爪の外部の任意の部分、例えば、顔面、唇、目の下の部分、瞼、頭皮、頚、胴、腕、手、足、指の爪、足指の爪、頭毛、睫毛、眉などが処置され得る。
【0055】
皮膚の少なくとも最低レベルの本発明のペプチドへ連続的曝露を確実にする別の手法は、例えば、顔面に適用されるパッチを用いて本ヘキサペプチドを適用することである。このような手法は、より集中的な処置を必要とする問題の皮膚部分に特に有用である。パッチは、密封性、半密封性又は非密封性であり得る。本ペプチド組成物は、パッチ内に含有させ得るか、又はパッチの適用前に皮膚に適用され得る。パッチは、さらなる活性剤、例えば、BurkettらのPCT出願国際公開第9701313号に記載されたものなどの発熱反応用の化学開始剤を含むこともできる。パッチは、皮膚上に好ましくは少なくとも約15分間、より好ましくは少なくとも約30分間、さらにより好ましくは少なくとも約1時間、最も好ましくは夜間に夜間療法の形態として残される。
【0056】
本発明の組成物を適用するための別の手法は、例えば、限定されるものではないが、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、スクラブ洗顔料などの洗い流しタイプの組成物による。
【0057】
以下の実施例により、本発明の範囲内の実施形態がさらに説明及び実証される。これらの実施例は、説明の目的のためのみに示されるのであって、本発明の多くの変形が、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく可能であるので、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。特に断らない限り、本明細書で用いられるパーセント及び割合のすべては、全組成物の重量によるものであり、行った測定はすべて、25℃である。
【実施例】
【0058】
(例1)
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの発酵によるヘキサペプチドの単離
酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))は、Jazwinski SM.「酵素学の方法(Methods in Enzymology)」 182(1990年)154〜174頁で概略された条件に従って増殖させた。発酵処理の終了後、酵母をろ過により単離し、PBS中に懸濁させた。マイクロ流動化装置に混合物を通すことによって破裂させ、破裂した酵母細胞及び細胞質内容物の混合物を得た。主に細胞壁成分に含まれる未溶解成分をろ過により除去して、他の成分の中でも、ペプチド、オリゴペプチド、糖及び糖ポリマーを含有する水溶性物質の混合物を得た。
【0059】
得られた酵母抽出物を最初に、名目上3000ダルトンの分子量カットオフの薄膜フィルタを用いるタンジェント流ろ過(tangential flow filtration)を用いて、分子量分布について分画した。得られた低い分子量画分を、以下の条件を用いる高性能液体クロマトグラフィーを用いてさらに分画した:カラム:C18(1.0×250mm)、移動相:水中0.1%のトリフルオロ酢酸及びアセトニトリル中0.0075%のトリフルオロ酢酸の混合物5%から80%。クロマトグラフィーカラムから採取した画分を単離し、最大画分の成分を濃縮して、ヘキサペプチド−11(Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Pro)を含有する画分を得て、この構造をErdman Degradationを介して同定して、アミノ酸配列を決定した。
(例2)
化学合成によるヘキサペプチドの単離
【0060】
例1に記載したヘキサペプチドはまた、当業者に周知の固相ペプチド合成技術を用いて合成した。固相合成を介して合成したペプチドは、HPLCクロマトグラフィーで決定して95%を超える純度で単離した。
(例3)
SA−β−Gal発現により測定した内因性老化皮膚線維芽細胞における老化の遅延
【0061】
例2から単離したペプチドを用いて、一連の集団倍加によって老化した皮膚線維芽細胞における老化を遅延させるペプチドの能力を調べた。
線維芽細胞培養
【0062】
ヒト新生児線維芽細胞を、初代培養(継代1)後に得て、1組のT−75フラスコ中3ml/フラスコの線維芽細胞増殖培地(FGM)に播種し、37±2℃及び5±1%COで増殖させた。細胞を6継代によって増やした(1継代は、フラスコがコンフルエントになるまで細胞を増殖させること、次いで、細胞を1:2に分割させることと定義し、したがって、1継代は、おおよそ1回の集団倍加に等しかった)。6番目の継代後に、線維芽細胞を異なる処理群に分割し、継代18を通して種々の試験物質で処理した。継代18で、線維芽細胞の一部を用いて、老化関連β−ガラクトシダーゼ(SA−β−Gal)の変化をアッセイする一方、残りの線維芽細胞は、試験物質の非存在下でさらに1週間(さらなる約2継代)培養した。
SA−β−Gal染色
【0063】
染色前に、線維芽細胞をPBSで1回洗浄し、次いで、固定液(PBS中2%ホルムアルデヒド及び0.2%グルタルアルデヒド)中で約6分間固定した。固定後、細胞をPBSで3回洗浄し、続いて染色液(150mMのNaCl、2mMのMgCl、40mMのクエン酸(pH6.0)、12mMのNaPO、5mMのフェロシアン化カリウム、5mMのフェリシアン化カリウム、及び400μg/mlのX−gal)を添加した。次いで、細胞を非COインキュベータ中37℃で一晩培養した。翌日、染色液を除去し、PBSで置き換えた。次いで、細胞を顕微鏡によって写真に撮り、それぞれの視野中の染色細胞(SA−β−Gal陽性)の数を数えた。
【0064】
アッセイの結果を図1に示す。これらの結果は、18回の集団倍加後に、未処理細胞におけるSA−β−Galの発現は、0.5又は1.0%のヘキサペプチド処理で見られるものよりも統計的に高かったことを示す。これは、ヘキサペプチドが、これらの内因性老化皮膚線維芽細胞における老化の開始を遅延させることができることを示す。ヘキサペプチドの除去1週間後に、ペプチド除去1週間後に増加するがまだ正常に戻らないことが示される1%処理を除く処理のすべてで、SA−β−Galの発現は、正常に戻る。このデータにより、老化の遅延へのペプチドの影響は、永続的でなく、培養培地からのペプチドの除去後に逆行させ得ることが実証される。
(例4)
ATM及びp53発現により測定した表皮角化細胞におけるHストレス誘導性早期老化の遅延
【0065】
例2のヘキサペプチドを用いて、過酸化水素ストレス誘導性早期老化の表皮角化細胞における老化の遅延を実証した。
ヒト角化細胞の培養
【0066】
ヒト表皮角化細胞を培養フラスコ中に播種し、製造業者により推奨されるとおりに補充した無血清Epilife培地を用いて、37±2℃及び5±1%COで増殖させた。十分な数の細胞を増殖させた後、それらを96ウェルプレートに移し、最低24時間培養して、細胞をウェルプレートに付着させた。最初の24時間の培養後、非付着性細胞をすべて除去するために培地を変え、残存する細胞がコンフルエントになるまで培養し、必要に応じて培地は48から72時間ごとに変えた。
試験物質による角化細胞の処理
H2O2処理
【0067】
早期細胞老化を、H2O2で角化細胞を処理することによって誘導した。H2O2処理に関して、細胞培地は、150μMのH2O2を補充したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に置き換えた。細胞をこのH2O2溶液中2時間インキュベートして、その後、それらをPBSで1回洗浄し、次いで試験物質を含んだ又は含まない新鮮培地を細胞に適用した。これらのレベルで、H2O2処理は、細胞生存率に影響を有すると認められなかった。
ATM/p53発現の分析
【0068】
ATM及びp53発現の量の相対的変化は、ELISAに基づいた方法を用いて角化細胞で決定した。処理期間の最後に、細胞培地を除去し、100μl/ウェルの氷冷メタノールに置き換えて、細胞を固定した。固定後、細胞をPBSで2回洗浄し、0.5%H2O2中でインキュベートし、内因性ペルオキシダーゼ活性をすべてクエンチし、次いで、PBS中さらに2回洗浄した。300μlのブロッキング液(PBS中1.5%標準ヤギ血清)を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。ブロッキング後、抗ATM又は抗p53抗体を含有する100μlの新鮮なブロッキング液を添加し、ウェルプレートを室温で1時間インキュベートした。ウェルを0.05%Tween20を補充したPBSで3回洗浄後、HRP共役抗ヤギ二次抗体を含有する100μlのブロッキング液を各ウェルに添加した。プレートを室温で1時間インキュベートし、次いで、ウェルを、0.05%Tween20を補充したPBSで3回洗浄した。最後の洗浄後、200μlのHRP基質溶液(0.4mg/mlのo−フェニレンジアミン二塩酸塩、0.4mg/mlの尿素過酸化水素及び0.5Mのリン酸−クエン酸[pH5.0])を各ウェルに添加し、プレートを室温で15から30分間インキュベートした。十分なレベルの着色が達成された後、プレートリーダを用いて、プレートを460nmで読み取った。アッセイの結果を図2及び図3に示す。
【0069】
データにより、ATM及びp53タンパク質の発現の減少によって測定して、早期老化の表皮角化細胞へのヘキサペプチドの局所適用が、早期老化の未処理角化細胞と比べて、1%処理レベルで老化を統計的に遅延させ得ることが実証される。
(例5)
SA−β−Gal発現によって測定した皮膚色素細胞におけるUVストレス誘導性早期老化の遅延
【0070】
例2のヘキサペプチドを用いて、UV照射による処理によって早期老化に誘導された皮膚色素細胞における老化を遅延させる能力を実証した。
皮膚色素細胞の培養
【0071】
ヒト皮膚色素細胞を、Dermal Papillae Growth Medium(DPGM)における12ウェルプレート中に播種し、コンフルエントになるまで37±2℃及び5±1%COで増殖させ、培地は必要に応じて48から72時間ごとに変えた。細胞がコンフルエントになると直ぐに、細胞培地をPBSに置き換え、細胞を20mJ/cmUVBで照射した。UVB照射後、PBSを除去し、種々の試験物質を補充した細胞培地に置き換えた。非補充DPGMを未処理対照として用いた。細胞の1組は、UVBに曝露せず、非UVB処理対照として役立てた。培地の添加後、細胞の組を48時間培養した。インキュベーション期間の最後に、細胞を得て、SA−β−Gal活性の変化についてアッセイした。
【0072】
第2の試験の組において、皮膚色素細胞を増殖させ、上記のとおりにプレートに播いた。この第2の細胞の組を同じ試験物質で処理したが、しかしそれらはUVB照射に曝露しなかった。これは、この試験で測定したマーカーに対する試験物質単独の効果を決定するために行った。
SA−β−ガラクトシダーゼアッセイ
【0073】
48時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、次いで、固定緩衝液(PBS中2%ホルムアルデヒド及び0.2%グルタルアルデヒド)中で6〜7分間短時間で固定した。次いで、細胞をPBSで3回洗浄し、その後、染色液(リン酸緩衝液中5mMのフェリシアン化カリウム、5mMのフェロシアン化カリウム、1mg/mlのX−gal、pH6.0)をウェルに添加し、ウェルプレートを37℃(COなし)で一晩インキュベートした。翌日、ウェルを顕微鏡によって調べ、写真を撮って、視野当たり染色細胞の数を定量することができた。各視野における陽性染色細胞の数を数えた。次いで、ANOVAを用いて、各処理の平均細胞カウント数を比較した。
【0074】
UVストレス誘導性早期老化の皮膚色素細胞における老化遅延に対するアッセイの結果を図4に示す。結果により、UV線への皮膚色素細胞の曝露は、細胞が早期老化にあることを示す、SA−β−Galの発現の増加を引き起こすことが実証される。0.5%及び1.0%のヘキサペプチドの適用により、処理細胞における老化遅延を実証する、SA−β−Gal発現の統計的に有意な低下が実証される。
(例6)
DNA修復酵素Ogg1の細胞発現に対するヘキサペプチドの影響
【0075】
以下の例は、Ogg1(細胞が老化に入る前に重要なDNA損傷の修復によってDNA損傷細胞における老化を遅延させることが知られているDNA修復酵素)の発現を上流制御する例2のヘキサペプチドの能力を実証する。
ヒト線維芽細胞の培養
【0076】
ヒト線維芽細胞を培養フラスコに播種して、FGMを用いて37±2℃及び5±1%COで増殖させた。十分な数の細胞を増殖させたとき、それらを24ウェルプレートに移し、最低24時間培養して、細胞をウェルプレートに付着させた。次いで、細胞がコンフルエントになるまで増殖させ、培地は48から72時間ごとに変えた。
線維芽細胞の処理
【0077】
試験物質をFGM中で調製した。次いで、培地を培養プレートから除去し、試験物質を補充した0.5mlの培地に置き換え、各処理を三通り試験した。FGM単独は、未処理対照としての役割を果たした。細胞培地の適用後、プレートを37±2℃及び5±1%COで24時間インキュベートした。インキュベーション期間の最後に、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄した。洗浄液を除去後、200μlのLysisバッファー(リン酸緩衝生理食塩水中で調製した1mMのEDTA、0.5%のTriton X−100、10mMのNaF、150mMのNaCl、20mMのβ−グリセロホスフェート、1mMのDTT、10μg/mlのロイペクチン、10μg/mlのペプスタチン、3μg/mlのアプロチニン)を各ウェルに添加し、それらをロッカープレート(rocking platform)上、氷上で15分間インキュベートして、細胞を溶解させた。次いで、細胞溶解物を1.5mlのチューブに移し、最大速度(4℃)で5分間遠心分離機にかけた。上清を保持して、−75℃で保存した。上清のタンパク質濃度は、BCAタンパク質アッセイを用いて決定した。
OGG1:細胞溶解物のマイクロろ過ブロット法及び免疫検出
【0078】
各細胞の溶解物試料について、10μgのタンパク質を100μlのTris緩衝生理食塩水(TBS:20mMのTris、pH7.5、150mMのNaCl)と合わせた。PVDF膜をメタノールで前もって湿らせ、TBSで平衡化し、Bio−Dotマイクロろ過装置中に取り付けた。取り付け後、100μlのTBSをBio−Dotマイクロろ過装置中のウェルに添加し、真空をかけて、ウェルのすべてにわたって適切な流れがあることを確保した。次に、上で調製した各細胞の溶解物試料を装置中のウェルに割り当て、試料を適切なウェルに適用した。試料のすべてを添加した後、真空を装置にかけて、膜を通して試料の流動体を引き出し、タンパク質は膜に付着したまま残した。試料を割り当てられていないウェルにTBSを添加し、膜がこの手順の間に乾燥しきらないように確保した。ブロット法手順の最後に、膜をBio−Dot装置から取り外し、TBS中5〜10分間洗浄し、次いで、ブロッキング液(1%脱脂粉乳を含むTBS)中に入れ、ロッカープレート上、室温で少なくとも1時間インキュベートした。
抗体インキュベーション及び検出
【0079】
ブロッキング後、抗Ogg1抗体の適当な希釈液と一緒の20mlのTBST(0.1%Tween−20を含むTBS)(及び0.1%脱脂粉乳)に移し、ロッカープレート上4℃で一晩インキュベートした。このインキュベーション後、膜をTBST中で3回(1×15分間及び2×5分間)洗浄した。次いで、二次抗体(フルオロフォアと共役)を15mlのTBST(0.1%脱脂粉乳を含む)中膜と一緒に室温で1時間インキュベートし、次いで、TBSで3回(1×15分間、2×5分間)洗浄した。
【0080】
最終の洗浄後、膜をBioRad Molecular Imager FX中に入れ、フルオロフォアに適した励起レーザ及びエミッションフィルタの組合せを用いて走査した。次いで、スキャナーにより生じた画像をImageJ画像解析ソフトウェアを用いて解析した。
計算
画像解析
【0081】
蛍光強度測定は、相対蛍光単位(RFU)で表した。次いで、各処理の平均FRUを計算し、一元配置分散分析(one way ANOVA)を用いて処理を比較した。Ogg1アッセイの結果を図5に示す。
【0082】
このアッセイの結果により、ヘキサペプチドは、0.1%の処理レベルでOgg1の発現を統計的に増加させ得ることが実証される。この試験からの結果により、ヘキサペプチドは恐らくは、細胞における重要なDNA修復酵素を増加させることによって細胞老化を遅延し得る。Ogg1は、損傷DNAにおける酸化グアニン残基を置き換えることができ、それにより、この特定のDNA損傷の形態に起因して老化の開始を遅延させ得る。
(例7)
ヘキサペプチドを含む水中油型エマルジョン
【0083】
例2のヘキサペプチド−11を、以下の処方及びプロセスを用いて水中油型エマルジョン中に処方した:
【表1】


手順
1.相Aを合わせて、75℃に加熱する。均一になるまで混合する。
2.相Bを合わせて、75℃に加熱する。均一になるまで混合する。
3.ゆっくり撹拌しながら、相Bを相Aに加える。20分間混合する。
4.プレミックス相Cを加え、均一になるまで混合する。加熱を止める。
5.サイドケトル内で、相Dをプレミックスし、40℃未満の該バッチに加える。均一になるまで混合する。
6.相EのMikrokill COS及び芳香剤を加え、均一になるまで混合する。
(例8)
ヘキサペプチドを含む油中水型エマルジョン
【0084】
例2のヘキサペプチドを、以下の処方及びプロセスを用いて油中水型エマルジョン中に処方した:
【表2】


手順:
1.相Aの成分すべてを一緒に混合する。
2.示した順序で相Bの成分を合わせ、均質になるまで各成分を完全に混合し、その後次の成分を加える。
3.十分撹拌しながら、相Aを相Bにゆっくりと加える。混合物が増粘するにつれて、撹拌を高せん断に徐々に増加させる。撹拌を10分間続ける。
(例9)
ヘキサペプチドリポソームを含むアイジェル(Eye Gel)
【0085】
例2のヘキサペプチドをリポソーム組成物中にカプセル化し、次いで、カプセル化したヘキサペプチドを以下の処方及びプロセスを用いてアイジェル組成物中に組み込んだ。
【表3】


手順
1.Carbopol Ultrez 21を水に50℃で分散させ、Keltrol CG−SFTを加える。均一になるまで混合する。
2.ブチレングリコール、Mikrokill COS、AMP、EDTA及びシリコーン193を加える。均一になるまで混合する。
3.ヘキサペプチドリポソームを40℃で掃引撹拌しながら加える。均一になるまで混合する。
4.必要に応じて、pHを5.5に調整する。
(例10)
ヘキサペプチドのカプセル化
【0086】
例2のヘキサペプチド抽出物を、米国特許公開第2003/0198682A1号に概略された手法を用いて、ポリマーマトリックス中にカプセル化した。
(例11)
口紅組成物
【0087】
例2のヘキサペプチドを、以下の処方及びプロセスを用いて口紅中に処方した。
【表4−1】


【表4−2】


手順
1.ろう、油及び保存剤(相A)を合わせ、83℃〜87℃に加熱する。
2.温度を保持し、均一になるまで撹拌する。
3.温度を75℃〜80℃に低下させ、相Bを加える;均一になるまで混合する。
4.パール、ヘキサペプチド及びパルミチン酸アスコルビル(相C)を加える。
5.型に注入する。
(例12)
トナー組成物
【0088】
例2のヘキサペプチドを、以下の処方及びプロセスを用いて、水性アルコール性トニック中に処方した:
【表5】


手順
・水を入れ、Betafin BP−20及びヘキサペプチドを加える。均一になるまで混合する。
・ハマメリス(Witch Hazel)及びMikrokill COSを加え、均一になるまで混合する。
(例13)
ボディウォッシュ組成物
【0089】
例2のヘキサペプチドを、以下の処方及びプロセスを用いて、ボディウォッシュに処方した。
【表6】


手順
1.水を70℃に加熱し、EDTA二ナトリウム、グリセリンを加え、均一になるまで混合する。
2.温度を70℃以上に維持して、Standapol WAQ Special、Standapol ES−2、Cerasynt IP、Cocamide MEA、Velvetex BA−35を加え、均一になるまで混合する。
3.45℃に冷却し、Mikrokill COS及びヘキサペプチドを加える。
4.均質になるまで混合する。
(例14)
ヘキサペプチドの発酵
【0090】
例2のヘキサペプチドを、酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含む発酵培地の一部として入れた。
【0091】
例2のペプチドの試料を、Red Star Yeast(Milwaukee、WI)から入手したBaker’s Yeast増殖培地の水性混合物中に入れた。この培地に、やはりRed Starから入手した活性サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母を接種し、この混合物を制御された好気性条件下で発酵させて、米国特許第2,239,345号に記載されたとおりのストレス条件を用いて得られるLive Yeast Cell Derivative(LYCD)を得た。
(例15)
サブミクロンエマルジョン濃縮物
【0092】
この実施例は、例2に記載されたように調製されたヘキサペプチドを含有するサブミクロンエマルジョン濃縮物を例証する。
【表7】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%のヘキサペプチド−11(Phe−Val−Ala−Pro−Phe−Pro)、並びに水、油、アルコール、シリコーン及びこれらの組合せからなる群から選択される該ペプチドのための皮膚科学的に許容される担体を含む、細胞老化を遅延させるための組成物。
【請求項2】
油が、鉱油、植物油、及びこれらの組合せから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
担体が、油中水型、水中油型、水中油中水型、及びシリコーン中水中油型のエマルジョンからなる群から選択されるエマルジョンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ペプチドが、合成により得られるか、又は発酵プロセスの成分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ペプチドが、合成ペプチドである、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
ヘキサペプチドが、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約2重量%の濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ヘキサペプチドが、少なくとも50%の純度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ヘキサペプチドが、少なくとも75%の純度である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ヘキサペプチドが、少なくとも90%の純度である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ヘキサペプチドが、リポソーム、ニアソーム、ナノソーム、及びこれらの組合せからなる群から選択される送達ビヒクル中にカプセル化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
ヒドロキシル酸、剥離又は落屑剤、サンスクリーン、サンブロック、抗炎症剤、酸化防止剤/ラジカル捕捉剤、金属キレート剤、ケト酸、脱毛剤、皮膚美白剤、抗セルライト剤、保湿剤、抗菌剤;抗男性ホルモン物質、皮膚保護剤、エマルジョン安定剤、保存剤、芳香剤、湿潤剤、防水剤、水溶性フィルム形成剤、油溶性フィルム形成剤、カチオン性ポリマー、ビタミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が、SA−β−ガラトシダーゼ、ATM又はp53細胞タンパク質発現の阻害に有効である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が、DNA修復酵素Ogg1の発現の増強に有効である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚細胞の老化を遅延させる方法であって、組成物の全重量に基づいて、約0.01重量%から約5重量%のヘキサペプチド−11、並びに水、油、アルコール、シリコーン、及びこれらの組合せからなる群から選択される該ペプチドのための皮膚科学的に許容される担体を含有する組成物と、前記皮膚細胞を接触させる段階を含む、上記方法。
【請求項15】
皮膚細胞が、線維芽細胞、角化細胞又は皮膚色素細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
担体が、油中水型、水中油型、水中油中水型、及びシリコーン中水中油型のエマルジョンからなる群から選択されるエマルジョンである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ヘキサペプチドが、組成物の全重量に基づいて、0.01重量%から約2重量%の濃度で存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ヘキサペプチドが、少なくとも50%の純度である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ヘキサペプチドが、リポソーム、ニアソーム、ナノソーム、及びこれらの組合せからなる群から選択される送達ビヒクル中にカプセル化される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
皮膚細胞における内因性又はストレス誘導性細胞老化の遅延が、SA−β−ガラクトシダーゼの発現、ATM若しくはp53タンパク質の抑制によって、又は細胞生存アッセイにより測定される細胞生存率の増加を介して測定される、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−503871(P2013−503871A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527959(P2012−527959)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2010/047215
【国際公開番号】WO2011/028673
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(502075397)アーチ パーソナル ケア プロダクツ、エル.ピー. (6)
【Fターム(参考)】