説明

絶縁性シート、その製造方法及び樹脂成形品

【課題】アルミニウム蒸着膜等の導電性膜の長所を生かしつつ、絶縁性や電波透過性の性能に優れた絶縁性シートを提供する。
【解決手段】図1の(1)を参照して、本発明の絶縁性シート20は、基体シート1表面の一部または全部に導電層2を備え、導電層2の一部が切断され絶縁化された部分4が形成されるように構成されている。絶縁性シート20を用いて製造された樹脂成形品は、目視外観上は金属調等の導電性の意匠であるように見えるが、絶縁性を呈して電波透過性などの機能を呈することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性シートとその製造方法とその絶縁性シートを用いて製造する樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基体シート上にスズ、インジウム、鉛等の島状構造を形成する金属を真空蒸着法により形成した特許文献1の技術がある。この技術は、汎用的に使用されるアルミニウム蒸着膜層を、島状構造を形成するスズ等の金属蒸着膜層に変更することによって、テレビの外枠に触れても通電しない絶縁性のある金属膜を形成するところに特徴がある。
【特許文献1】特開昭62−174189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記真空蒸着法により形成した島状構造の金属蒸着膜は、その島の大きさや島と島の間隔が一定でなく、また真空度など蒸着工程の条件のバラツキによって島の大きさや間隔が変化していた。また、金属蒸着膜の厚みが厚くなると、島の隙間が埋まり絶縁性・電波透過性が低下していた。したがって、各々形成された金属蒸着膜ごとに絶縁性・電波透過性のバラツキがあり、安定した性能を出すのが困難という問題があった。
【0004】
その一方で、光線透過率が10〜15%あるいはそれ以上になるように金属蒸着膜の厚みを薄くすると、遮光性が低い金属蒸着膜となり、ディスプレイ窓部など照光機能が必須とされる意匠の場合には適用できない問題があった。また、厚みが薄いとピンホール不良が発生しやすくなるうえに、金属蒸着膜が腐食しやすくなるため高温高湿の環境下にさらされる可能性のある製品には適用できない問題があった。
【0005】
これに対し、アルミニウム蒸着膜層は、ピンホール不良が発生しにくく遮光性も高い膜を形成するという長所があるものの、そのまま蒸着膜を形成した場合は絶縁膜にならず電波も遮断してしまうため、内蔵アンテナ等が適用される最近の通信機器等には使用できない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは以下に示すように、ナノインプリント法等により、アルミニウム蒸着膜等の導電性膜に目視では確認できないレベルの微小な隙間を意図的に形成し、アルミニウム蒸着膜等の導電性膜を島状構造になるよう形成することで、アルミニウム蒸着膜等の導電性膜の長所を生かしつつ、絶縁性や電波透過性の性能に優れた絶縁性シートを発明した。
【0007】
すなわち、本発明の絶縁性シートの製造方法は、基体シート表面の一部または全部に導電膜を形成し、該導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部を絶縁性にしたことを特徴とするように構成した。
【0008】
また、本発明の第2態様の絶縁性シートの製造方法は、基体シート表面の一部または全部に導電膜を形成し、該導電膜の一部または全部にナノインプリント法を用いて該凸導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部を絶縁性にしたことを特徴とするように構成した。
【0009】
また、本発明の第3態様として、第2態様の絶縁性シートの製造方法は、前記ナノインプリント法が、断面形状がV字型で先端部の開き角度が5〜90度の多数かつ微細な凸部を有するスタンパーを用いることを特徴とするように構成することもできる。
【0010】
また、本発明の第4態様として、本発明の絶縁性シートは、基体シートの表面の一部または全部に導電膜が形成され、該導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部が絶縁性を有することを特徴とするように構成した。
【0011】
また、本発明の第5態様として、本発明の絶縁性シートは、基体シートの表面の一部または全部に導電膜が形成され、該導電膜の一部または全部を、ナノインプリント法を用いて導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部が絶縁性を有することを特徴とするように構成した。
【0012】
また、本発明の第6態様として、第4〜5態様の絶縁性シート法は、前記導電膜がアルミニウム、スズ、ニッケル、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物のいずれかからなり、金属調の意匠を呈することを特徴とするように構成した。
【0013】
また、本発明の第7態様として、第4〜5態様の絶縁性シート法は、前記導電膜が酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化亜鉛、ガリウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物のいずれかからなり、透明の意匠を呈することを特徴とするように構成した。
【0014】
また、本発明の第8態様として、本発明の樹脂成形品は、第4〜7態様のいずれかに記載の絶縁性シートを金型内に配置し、樹脂を射出することによって成形されたことを特徴とするように構成した。
【0015】
また、本発明の第9態様として、本発明の樹脂成形品は、第4〜7態様のいずれかに記載の絶縁性シートを金型内に配置し、樹脂を射出し、基体シートを剥離することによって成形されたことを特徴とするように構成した。
【0016】
また、本発明の第10態様として、本発明の樹脂成形品は、第4〜7態様のいずれかに記載の絶縁性シートを表面に一体に接合したことを特徴とするように構成した。
【発明の効果】
【0017】
本発明の絶縁性シートの製造方法は、基体シート表面の一部または全部に導電膜を形成し、該導電膜の一部または全部にナノインプリント法を用いて該導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部を絶縁性にしたことを特徴とするものである。したがって、目視外観上は金属調等の導電性の意匠であるように見えるが、絶縁性を呈して電波透過性などの機能を呈することができる。また、酸化インジウム等の透明導電膜の意匠については、導電パターンのパターニングのためのエッチング処理が不要となるメリットがある。また、導電部分と絶縁部分の色相がほとんど同じなので、透明導電パターンの骨見え防止効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0019】
図1の(1)はこの発明の第1の実施の形態による絶縁性シートの概略構成を示した断面図であり、その(2)がこの発明の第2の実施の形態による絶縁性シートの概略構成を示した断面図である。図2は、図1の(1)で示した絶縁性シートの製造方法を示した概略工程図である。図3は、スタンパーの概略構成を示した断面図である。図4は、樹脂成形品の製造方法を示した概略工程図である。
【0020】
図1の(1)を参照して、本発明の絶縁性シート20は、基体シート1表面の一部または全部に導電層2を備え、導電層2の一部が切断され絶縁化された部分4が形成されるように構成されている。
【0021】
本発明の絶縁性シート20に用いる基体シート1は、離型性を有してもよいし、密着性を有してもよい。離型性を有する基体シート1とは、転写後に導電層2から離型するシートのことである。離型性を有する基体シート1の厚みは0.02〜5mmの範囲にするのが好ましい。厚みが0.02mm未満であるとしわが入り加工しづらくなり、5mmを超えるであると剛性がありすぎて、後加工しにくいからである。また基体シート1の材質としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シートなどの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいは以上の各シートの複合体など、通常の転写材の基体シートとして離型性を有するものを使用することができる。
【0022】
導電層2は、導電性を得るためのものであり、基体シート1上に形成する。導電層2の形成方法は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などが挙げられる。導電層2の材質としては、アルミニウム、スズ、ニッケル、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物を使用するとよい。これらの金属は美麗な金属光沢色を呈し、優れた意匠表現が可能である。あるいは、導電層2の材質として、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化亜鉛、ガリウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物などを使用してもよい。これらの酸化物は美麗な透明性を呈し、優れた意匠表現が可能である。
【0023】
導電層2の一部を切断して絶縁化する方法としては、機械による切削加工、レーザーまたは電子線照射による加工、ナノインプリントなどの方法が挙げられる。その中でも10nm〜70nmの範囲の非常に微細な加工を安価かつ容易にできるという点でナノインプリント法が好ましい。ナノインプリント法とは、微細な凹凸を設けたスタンパー3を基材に押し付け、基材表面に微細な凹凸部3を形成する方法である。本発明は、このナノインプリントスタンパーを切断用の刃のような形状等にし、その押圧力によって導電層2の一部を切断し、導電層2の全部または一部を絶縁化させようとするものである。以下にナノインプリント法を用いて、導電層2の全部または一部を絶縁化させる方法について説明する。
【0024】
図2の(1)から(4)を参照して、まず電子線などで描いた母型7の金型からニッケル電鋳からなるスタンパー3を作製し、次に導電層2が形成された基体シート1上に導電層2とスタンパー3とが対向するように載置し、高圧下で押しつける。押し付ける圧力は一般的に数MPa〜数十MPaに設定する。押しつける際にスタンパー3および基体シート1を加熱しておいてもよい。その場合には、押圧した後数秒間スタンパー3を保持した後、急速冷却または自然冷却してから、スタンパー3を取り外す。なお、ロールによるナノインプリント法では、線で圧力がかかるため高圧の圧力をかけやすく、加温した場合には冷却時間が少なくて済み、生産性も向上するため、非常に有益となる。
【0025】
つぎにスタンパー3について説明する。図3の(1)から(3)を参照して、スタンパー3は微細な凹部5と微細な凸部6からなる。微細な凸部6の断面形状としては、例えばU字型、V字型、コの字型等が挙げられる。その中でも、V字型の形状は先端部に圧力が集中するので導電層2を切断するには最も適している。そして、導電層2を効率よく切断するためには、その先端部の開き角度を5度から90度に形成するのが好ましい。V字型であってもその先端部の開き角度が90度を超えるようなものは、導電層2の材質によっては導電層2が割れにくくなる場合があり、先端部の開き角度が5度未満であるとスタンパー3の強度が低下しやすく繰り返し使用する場合に支障が出る場合があるからである。強度を保ちつつ導電層2を切断するのにさらに適している先端部の開き角度を検証した結果、10度から40度がさらに好ましい。
【0026】
また微細な凸部6の平面形状としては、格子形状・ハニカム形状などの多角形状や円形状等の幾何学形状等が挙げられるが、ここに示したものに限定はされない。なお、微細な凸部6の高さは、導電層2の厚みや材質によって適宜設定するのが好ましい。
【0027】
導電層2が金やアルミニウムなどの表面が平滑に形成され、伸延性のあるような金属の場合は、微細な凸部6の高さは少なくとも導電層2の厚みの2倍以上に設定する必要がある。これらの金属は押圧されても伸びて追随しやすいため、微細な凸部6の高さが低いと絶縁化が困難になるためである。一方、導電層2がスズ、クロム、インジウム、鉛などの島状構造を経て形成されるような金属の場合は、微細な凸部6の高さが導電層2の厚みの1/2程度に設定しても、押圧によって絶縁化される場合もある。ただいずれの金属に対しても絶縁化を確実にするためには、微細な凸部6の高さは導電層2の厚みの3〜10倍程度に設定しておくほうが好ましい。
【0028】
図1の(2)を参照して、本発明によって得られる絶縁性シート20において、これらの層以外に、絶縁性シート20の最外面に接着層10などを形成してもよい。接着層10は、被加飾面に上記の各層を接着するものである。また接着層10は、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、接着層10を全面的に形成する。接着させたい部分が部分的なら、接着層10を部分的に形成する。接着層10としては、被加飾の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、被加飾の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。また、被加飾の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、被加飾の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層10の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0029】
また、本発明によって得られる絶縁性シート20において、図柄層11やアンカー層12を形成してもよい。図柄層11は種々のパターンや文字などの装飾を行うための層である。図柄層11の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。印刷層の形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。図柄層11は、表現したい図柄に応じて任意のパターンに設けるとよい。
【0030】
アンカー層12は図柄層11と剥離層14の密着性を向上させる層であるが、金属薄膜層2と接着層10の密着性を向上させる層でもあり、これらの間に形成してもよい。アンカー層12の材質としては、二液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用するとよい。アンカー層12の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0031】
次に必要に応じて、離型層13を基体シート1の上に形成してもよい。離型層13は、転写後に基体シート1を剥離した際に、基体シート1とともに金属薄膜層2から離型する。離型層13の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤およびこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層13の形成方法としては、ロールコート法、スプレーコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0032】
次に必要に応じて、離型層13の上に剥離層14を全面的に形成してもよい。剥離層14は、転写後または成形同時転写後に基体シート1を剥離した際に、基体シート1または離型層13から剥離して被転写物の最外面となる層である。剥離層14の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離層14に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いるとよい。剥離層14は、着色したものでも、未着色のものでもよい。剥離層14の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0033】
また、必要に応じて、アンカー層12を剥離層14の上に設けてもよい。アンカー層12は図柄層11と剥離層14の密着性を向上させる層であるが、図柄層11と塗膜層15、金属薄膜層2と接着層10の密着性を向上させる層でもあり、これらの間に形成してもよい。アンカー層12の材質、形成方法は、前述と同様である。
【0034】
以上のような絶縁性シート20は、次のように用いることにより、樹脂部19に対して装飾を行うことができる。
【0035】
図4の(1)から(3)を参照して、前述の絶縁性シート20を用い、射出成形による成形同時インサート法を利用して被加飾である樹脂部19の面に装飾を行う方法について説明する。次に、可動型18と固定型17とからなる成形用金型内に絶縁性シート20を送り込む。その際、枚葉の絶縁性シート20を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の絶縁性シート20の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の絶縁性シート20を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、絶縁性シート20のパターンと成形用金型との見当が一致するようにするとよい。また、絶縁性シート20を間欠的に送り込む際に、絶縁性シート20の位置をセンサーで検出した後に絶縁性シート20を可動型18と固定型17とで固定するようにすれば、常に同じ位置で絶縁性シート20を固定することができ、パターンの位置ずれが生じないので便利である。成形用金型を閉じた後、ゲートから溶融樹脂を金型内に射出充満させ、樹脂部19を形成するのと同時にその面に絶縁性シート20を接着させる。樹脂部19を冷却した後、成形用金型を開いて転写層16が転写された樹脂部19を取り出す。このようにして樹脂成形品30は製造される。
【0036】
次に、前述の絶縁性シート20を用い、射出成形による成形同時転写法を利用して被転写物である樹脂部19の面に装飾を行う方法について説明する。まず、可動型18と固定型17とからなる成形用金型内に絶縁性シート20を送り込む。その際、枚葉の加飾材を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の絶縁性シート20の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の絶縁性シート20を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、絶縁性シート20のパターンと成形用金型との見当が一致するようにするとよい。また、絶縁性シート20を間欠的に送り込む際に、絶縁性シート20の位置をセンサーで検出した後に絶縁性シート20を可動型18と固定型17とで固定するようにすれば、常に同じ位置で絶縁性シート20を固定することができ、パターンの位置ずれが生じないので便利である。成形用金型を閉じた後、ゲートから溶融樹脂を金型内に射出充満させ、樹脂部19を形成するのと同時にその面に絶縁性シート20を接着させる。樹脂部19を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂部19を取り出す。最後に、基体シート1を剥がすことにより、転写が完了し、樹脂成形品30が製造される。
【0037】
最後に前記した層構成の絶縁性シート20を用い、転写法を利用して被転写物面に装飾を行う方法について説明する。まず、被転写物面に、絶縁性シート20の接着層10側を密着させる。次に、シリコンラバーなどの耐熱ゴム状弾性体を備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、温度80〜260℃程度、圧力490〜1960Pa程度の条件に設定した耐熱ゴム状弾性体を介して絶縁性シート20の基体シート1側から熱と圧力とを加える。こうすることにより、接着層10が被転写物表面に接着する。最後に、冷却後に基体シート1を剥がすと、基体シート1と剥離層14との境界面で剥離が起こり、転写が完了する。
【0038】
樹脂部19等の被転写物は、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、被転写物は、着色されていても、着色されていなくてもよい。樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。
【実施例1】
【0039】
基体シートとして厚さ38μmのポリエステル樹脂フィルムを用い、基体シート上に、メラミン樹脂系の離型層、アクリル樹脂系の剥離層および装飾層、ウレタン樹脂系の蒸着前アンカー層をグラビア印刷により順次形成した後、該蒸着前アンカー層上に真空蒸着法により厚み60nmのアルミニウム蒸着膜を形成した。次に、幅が100nm、ピッチが1μmの正方形の多数の微細格子パターンで、格子パターンが凸部になっており、その断面形状が先端部の開き角度が20度・高さ500nmのV字型に形成されたニッケル電鋳からなるナノインプリント金型をアルミニウム蒸着膜の一部上に載せ、100℃の加温下で10MPaの圧力で押圧し、水冷して2分間放置し、上記金型を離型したところアルミニウム蒸着膜の一部が多数の微細な1μm角の正方形島状パターンに切断され、絶縁化されていた。
【0040】
このアルミニウム蒸着膜上にアクリル樹脂系の接着層を塗装により塗布し絶縁性シートを得た後、これを用いて成形同時転写法によりアクリル樹脂成形品の表面に転写して、樹脂成形品を得た。
【0041】
得られた樹脂成形品は、アルミニウム蒸着膜が導電性の部分と絶縁性の部分からなり、導電性の部分は電磁波遮蔽性を有し、絶縁性の部分は電波透過性を有するものであった。そして、導電性の部分と絶縁性の部分とは目視外観上変わりがない意匠を有するものであった。
【実施例2】
【0042】
基体シートとして厚さ100μmのポリカーボネート樹脂フィルムを用い、該基体シート上にスパッタリング法により厚み40nmのインジウムスズ酸化物(ITO)膜を形成した。次に、幅が0.05μmで一辺が0.4μmの多数の微細な正六角形のハニカムパターンで、ハニカムパターンが凸部になっており、その断面形状が先端部の開き角度が20度・高さ500nmのV字型に形成されたニッケル電鋳からなるナノインプリント金型をインジウムスズ酸化物(ITO)膜の一部に載せ、150℃の加温下で10MPaの圧力で押圧し、水冷して4分間放置し、上記金型を離型したところ、インジウムスズ酸化物(ITO)膜の一部が多数の微細な正六角形のハニカムパターンに切断され、絶縁化されていた。
【0043】
得られた絶縁性シートは、インジウムスズ酸化物(ITO)膜が導電性の部分と絶縁性の部分からなり、導電性の部分と絶縁性の部分とは目視外観上色相に変わりがない意匠を有するものであった。したがって、導電部分と絶縁部分の色相がほとんど同じなので、インジウムスズ酸化物(ITO)膜の導電パターンの骨見えが防止されていた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、携帯電話などの通信機器、自動車内部の情報機器、家電製品など、各種成形品において好適に用いることができ、産業上有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】その(1)がこの発明の第1の実施の形態による絶縁性シートの概略構成を示した断面図であり、その(2)がこの発明の第2の実施の形態による絶縁性シートの概略構成を示した断面図である。
【図2】図1の(1)で示した絶縁性シートの製造方法を示した概略工程図である。
【図3】スタンパーの概略構成を示した断面図である。
【図4】樹脂成形品の製造方法を示した概略工程図である。
【符号の説明】
【0046】
1 基体シート
2 導電層
3 スタンパー
4 導電層の切断された部分
5 凹部
6 凸部
7 母型
10 接着層
11 図柄層
12 アンカー層
13 離型層
14 剥離層
15 塗膜層
16 転写層
17 固定型
18 可動型
19 樹脂部
20 絶縁性シート
30 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シート表面の一部または全部に導電膜を形成し、該導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部を絶縁性にしたことを特徴とする絶縁性シートの製造方法。
【請求項2】
基体シート表面の一部または全部に導電膜を形成し、ナノインプリント法を用いて該導電膜の一部を切断することにより、該導電膜の一部または全部を絶縁性にしたことを特徴とする絶縁性シートの製造方法。
【請求項3】
前記ナノインプリント法が、断面形状がV字型で先端部の開き角度が5〜90度の多数かつ微細な凸部を有するスタンパーを用いることを特徴とする請求項2に記載の絶縁性シートの製造方法。
【請求項4】
基体シートの表面の導電膜の一部が切断され、該導電膜の一部または全部が絶縁性を有することを特徴とする絶縁性シート。
【請求項5】
基体シートの表面の一部または全部に導電膜が形成され、ナノインプリント法を用いて該導電膜の一部が切断されることにより、該導電膜の一部または全部が絶縁性を有することを特徴とする絶縁性シート。
【請求項6】
前記導電膜がアルミニウム、スズ、ニッケル、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物のいずれかからなり、金属調の意匠を呈することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁性シート。
【請求項7】
前記導電膜が酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化亜鉛、ガリウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物のいずれかからなり、透明の意匠を呈することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁性シート。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載の絶縁性シートを金型内に配置し、樹脂を射出することによって成形されたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれかに記載の絶縁性シートを金型内に配置し、樹脂を射出し、基体シートを剥離することによって成形されたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項10】
請求項4〜7のいずれかに記載の絶縁性シートを表面に一体に接合したことを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−42609(P2010−42609A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208508(P2008−208508)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】