説明

絶縁膜の形成方法および情報処理装置

【課題】炭素を含むシリコン系酸化物を用いた絶縁膜の形成方法において、クラックの発生を抑制する。
【解決手段】基板2の上に導電層3を形成した後、インクジェット法により、炭素を含むシリコン系酸化物を含むインクを塗布する。次いで、真空中でインクに対して第1の熱処理を行い、インクに含まれる炭素成分を除去する。その後、第2の熱処理を行って隔壁5を形成する。第1の熱処理は、80℃〜100℃の温度で行うことができる。また、第2の熱処理は、300℃〜400℃の温度で行うことができる。炭素を含むシリコン系酸化物は、アルキルシルセスキオキサン、アルキルシロキサンまたはオルガノポリシロキサンとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜の形成方法および情報処理装置に関し、より詳しくは、炭素を含むシリコン系酸化物を用いた絶縁膜の形成方法と、この方法による絶縁膜を有する情報処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理の飛躍的な増大に伴って、ハードディスクなどの磁気記録媒体に大幅な大容量化が求められている。そこで、磁気記録層の表面に垂直な方向に磁化してデータを記録する高密度磁気記録媒体が注目されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−329306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高密度磁気記録媒体は、例えば、基板の上に導電層と記録層が設けられた構造を有する。記録層は、非磁性の絶縁膜からなる隔壁と、導電層に接触する柱状磁性体とを備えることができる。また、柱状磁性体は、複数の硬磁性体と、これらを隔てる非磁性の分離層とを有することができる。
【0005】
上記例において、隔壁には酸化物を用いることができる。しかし、炭素を含むシリコン系酸化物を用いて隔壁を形成した場合、高温での熱処理によって隔壁にクラックが発生するという問題があった。隔壁にクラックが発生すると、高密度磁気記録媒体を備えた情報処理装置の電気的特性や信頼性を低下させる結果となる。
【0006】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、炭素を含むシリコン系酸化物を用いた絶縁膜の形成方法において、クラックの発生を抑制することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、上記方法による絶縁膜を用いることにより、電気的特性や信頼性に優れた情報処理装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、インクジェット法によって、基板の上に炭素を含むシリコン系酸化物を含むインクを塗布する工程と、
真空中で前記インクに対して第1の熱処理を行い、前記インクに含まれる炭素成分を除去する工程と、
前記第1の熱処理を終えた後に第2の熱処理を行って絶縁膜を得る工程とを有することを特徴とする絶縁膜の形成方法に関する。
【0010】
本発明の第1の態様において、前記第1の熱処理は、80℃〜100℃の温度で行うことができる。
【0011】
本発明の第1の態様において、前記第2の熱処理は、300℃〜400℃の温度で行うことができる。
【0012】
本発明の第1の態様において、前記炭素を含むシリコン系酸化物は、アルキルシルセスキオキサン、アルキルシロキサンおよびオルガノポリシロキサンよりなる群から選ばれることができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様により形成された絶縁膜を有することを特徴とする情報処理装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、真空中で第1の熱処理を行い、インクに含まれる炭素成分を除去してから第2の熱処理を行うので、絶縁膜にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、電気的特性と信頼性に優れた情報処理装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
アルキルアルコキシシランや有機シロキサンなどの材料を用いて絶縁膜を形成する場合、縮合反応を進めるために350℃程度の温度で加熱すると、絶縁膜にクラックが発生する。この問題に対して、本発明者は、材料に含まれる炭素成分が多いほどクラックが発生することを見出した。ここで、炭素成分は、アルキルアルコキシシランや有機シロキサンなどの側鎖であったり、これら以外の有機モノマーであったりする。本発明者の研究によれば、高温で熱処理を行う前に真空中で加熱して炭素成分を除去すると、高温で加熱した後も絶縁膜にクラックが発生しないことが分かった。以下、本実施の形態による絶縁膜の形成方法について、高密度磁気記録媒体を例にとり説明する。
【0017】
図1は、情報処理装置に用いられる高密度磁気記録媒体の断面図の一例である。この図に示すように、高密度磁気記録媒体1は、基板2と、基板2上に設けられた導電層3および記録層4を有している。ここで、記録層4は、非磁性の絶縁膜からなる隔壁5と、柱状磁性体6とを有しており、柱状磁性体6は導電層3に接触している。また、柱状磁性体6は、複数の硬磁性体7と、これらを隔てる非磁性の分離層8とを有する。このように、非磁性材料を隔壁に用いて磁性体を分離することで、隣接する磁性ドメイン間の相互作用を弱めることができる。また、柱状磁性体が基板に対して垂直方向に複数の硬磁性体を有することで、各硬磁性体は2値で垂直磁気記録され、各硬磁性体の組合せによって多値記録できるようになっている。
【0018】
高密度磁気記録媒体1は、次のようにして製造される。
【0019】
まず、基板2を準備する。
【0020】
本実施の形態においては、炭素を含むシリコン系酸化物を用いて隔壁を形成することとしており、これを縮合してシロキサン結合を形成するには300℃〜400℃の高温で加熱する必要があるため、基板には耐熱温度が400℃程度まであるものを用いる。例えば、シリコン基板またはガラス基板などを使用することができる。
【0021】
次に、基板2の上に導電層3を形成する。導電層3は、後工程において、電着によって柱状磁性体6を形成する際の電極として機能するものである。それ故、柱状磁性体6の配向を制御するために、特定の面方位に配向した膜とすることが好ましい。
【0022】
導電層3を形成した後は、この上に記録層4を形成する。
【0023】
具体的には、まず、隔壁5を構成する材料を導電層3の上に塗布する。塗布方法としては、スピンコート法、スプレー法、浸漬法、ロールコート法、スクリーン印刷法、コンタクトプリント法、スリットコート法またはインクジェット法などの種々の方法を挙げることができるが、本実施の形態においてはインクジェット法を用いる。インクジェット法は、液滴化したインクを基板2の上に直接吐出する方法であり、オフセット印刷などのように版下を作製することなしに所望のパターンを形成することができる。また、基板2の必要な領域にのみ必要な量のインクを塗布できるため、基板2の全面にインクを塗布し焼成した後に、フォトリソグラフィ法によって不要な部分のインクを除去する方法に比べて、工程数を削減することができるとともに、インクの無駄も低減することができる。さらに、エッチング工程で生じる廃液の問題も解消することができる。
【0024】
インクジェット装置の方式は、コンティニュアス型(連続吐出型)とオンデマンド型に大別されるが、本実施の形態においてはいずれの方式であってもよい。
【0025】
コンティニュアス型では、インクはポンプでノズルから連続的に押し出された後、超音波発振器によって微小な液滴になる。生じたインク滴には、偏向電極を介して電荷が加えられる。これにより、インク滴は、軌道を曲げられて基板面に到達する。一方、偏向電極で軌道を曲げられなかったインク滴は、ガターと呼ばれる回収口に吸い込まれた後、インクタンクに戻って再利用される。
【0026】
上記のコンティニュアス型では、基板上にインクを吐出していないときであっても、インクは常に連続して噴射される。これに対して、オンデマンド型は、必要なときに必要な量のインクが吐出される方式である。この方式には、コンティニュアス型に比べて装置を小型化できるという長所がある。オンデマンド型は、インク滴に圧力を加える方法によって、ピエゾ方式やサーマル方式などに分かれる。ピエゾ方式は、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)をインクの詰まった微細管に取り付け、これに電圧を加えて変形させることでインクを管外へ噴出させる方式である。また、サーマル方式は、加熱によって管内のインクに気泡を発生させてインクを噴射する方式である。
【0027】
隔壁5を形成するためのインクとして、本実施の形態では、炭素を含むシリコン系酸化物を含むインクを用いる。例えば、メチルシルセスキオキサン(MSQ)などのアルキルシルセスキオキサン、メチルシロキサンなどのアルキルシロキサンまたはオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。尚、インクは、適当な溶剤、分散剤または界面活性剤などを含むことができる。
【0028】
インクの粘度は、温度0〜50℃において、1〜100mPa・sとすることが好ましく、1〜10mPa・sの粘度とすることがより好ましい。また、インクの表面張力は、25〜80mN/mとすることができ、30〜60mM/mとすることが好ましい。このようなインクであれば、塗布時におけるインクの供給安定性や液滴形成飛翔安定性を維持したり、インクジェット装置のヘッドの高速応答性などを実現したりするのに適したものとすることができる。
【0029】
本実施の形態においては、導電層3に対して撥液処理を行ってからインクを塗布することが好ましい。これにより、導電層3の上でインク滴が広がるのを抑制して、既定より大きい幅で隔壁5が形成されてしまうのを防ぐことができる。撥液剤としては、例えば、フッ素系表面処理剤を使用することができる。尚、原液で処理すると撥液度が高くなり、断線を起こすおそれがあることから、溶剤で適度に希釈したものを使用する。
【0030】
基板2の上にインクを塗布した後は、真空中で第1の熱処理を行い、インクに含まれる炭素成分を除去する。例えば、圧力が6Pa以下である真空室内で、80℃〜100℃の温度で15分〜30分加熱する。これにより、インクに含まれる炭素成分を除去することができる。また、溶剤などの揮発成分も除去することができる。
【0031】
インクに炭素成分が多く含まれた状態で高温での熱処理を行うと、材料の縮合反応が進んで絶縁膜が形成されるとともに、気化した炭素成分が膜の内部に閉じ込められる。この炭素成分が膜を突き破って外部に抜け出ると、絶縁膜にクラックが発生する結果となる。一方、本実施の形態では、高温での熱処理前に真空中において低温で熱処理を行い、インクに含まれる炭素成分を除去してしまうので、高温での熱処理時に気化した炭素成分によって絶縁膜にクラックが生じるのを防ぐことができる。ここで、低温で熱処理を行うのは、材料の縮合反応によって膜が硬化する前に炭素成分を除去するためであり、真空中で行うのは、低温下での炭素成分の排出を促すためである。
【0032】
上記の第1の熱処理を終えた後は、第2の熱処理を行って、炭素を含むシリコン系酸化物を硬化させる。例えば、大気中において、300℃〜400℃の温度で1時間程度加熱する。これにより、縮合反応を進めてシロキサン結合を形成し、絶縁膜からなる隔壁5を形成することができる。本実施の形態によれば、第2の熱処理を行う前にインク中の炭素成分を除去しているので、第2の熱処理後に隔壁5にクラックが発生するのを防ぐことができる。
【0033】
隔壁5を形成した後は、柱状磁性体6を形成する。例えば、導電層3を電極とする電着によって柱状磁性体6を形成することができる。この場合、複数の硬磁性体7と非極性の分離層8とは単一の電着液から形成可能である。
【0034】
以上述べたように、本実施の形態によれば、真空中で低温による熱処理を行ってから、高温での熱処理を行うので、炭素成分が概ね除去された状態で膜の硬化を進めることができる。したがって、硬化後に膜にクラックが発生するのを防いで、電気的特性と信頼性に優れた情報処理装置を得ることが可能となる。
【0035】
本実施の形態による絶縁膜の形成方法において、クラックの発生を抑制する点からは、絶縁膜は薄い方が好ましい。具体的には、5μm以下とすることが好ましく、例えば、2μm〜3μmとすることができる。また、インクジェット法によって形成する絶縁膜パターンは、例えば、平面で見たときに格子状とすることができる。この場合、格子の幅は、例えば40μm〜80μmとすることができ、格子の間隔は、例えば400μm程度とすることができる。
【0036】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。
【0037】
例えば、上記実施の形態では、絶縁膜を導電層の上に形成する場合について述べた。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、基板の上に直接形成してもよい。この場合にも、基板に対して撥液処理を行ってからインクを塗布することが好ましい。撥液剤としては、フッ素系表面処理剤などを使用することができ、これを溶剤で適度に希釈して使用するのは上記と同様である。
【0038】
また、上記実施の形態では、絶縁膜が高密度磁気記録媒体の隔壁に用いられる例について述べたが、半導体装置の層間絶縁膜などにも本発明を適用することができる。この場合にも、硬化後に膜にクラックが発生するのを防いで、電気的特性と信頼性に優れた半導体装置が得られる。特に、本発明は、高周波デバイスの絶縁膜や、電気的に耐圧が必要とされる電子部品に用いられる絶縁膜の形成に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施の形態の情報処理装置に用いられる高密度磁気記録媒体の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 高密度磁気記録媒体
2 基板
3 導電層
4 記録層
5 隔壁
6 柱状磁性体
7 硬磁性体
8 分離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法によって、基板の上に炭素を含むシリコン系酸化物を含むインクを塗布する工程と、
真空中で前記インクに対して第1の熱処理を行い、前記インクに含まれる炭素成分を除去する工程と、
前記第1の熱処理を終えた後にさらに第2の熱処理を行って絶縁膜を得る工程とを有することを特徴とする絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
前記第1の熱処理を80℃〜100℃の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記第2の熱処理を300℃〜400℃の温度で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項4】
前記炭素を含むシリコン系酸化物は、アルキルシルセスキオキサン、アルキルシロキサンおよびオルガノポリシロキサンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により形成された絶縁膜を有することを特徴とする情報処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−54905(P2009−54905A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222054(P2007−222054)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】