絶縁膜の成膜方法
【課題】絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することができる絶縁膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る絶縁膜の成膜方法においては、反応性ガスとして、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。酸素に窒素を混合することで成膜レートが上昇し、窒素の流量比が80〜85%のときに成膜レートの最大値が得られる。このときの成膜レートは、窒素の流量比が0%のときの約2倍である。窒素の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となる。得られたシリコン酸窒化膜は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜よりも高い絶縁耐圧特性を有する。したがって、上記成膜方法によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る絶縁膜の成膜方法においては、反応性ガスとして、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。酸素に窒素を混合することで成膜レートが上昇し、窒素の流量比が80〜85%のときに成膜レートの最大値が得られる。このときの成膜レートは、窒素の流量比が0%のときの約2倍である。窒素の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となる。得られたシリコン酸窒化膜は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜よりも高い絶縁耐圧特性を有する。したがって、上記成膜方法によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することができる絶縁膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスやフラットパネルディスプレイ等の製造分野において、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜の成膜にスパッタリング法やCVD法などの薄膜形成技術が広く用いられている。例えば、シリコン酸化膜の成膜に際して、特許文献1にはスパッタリング法を用いる成膜方法が記載されており、特許文献2にはプラズマCVD法を用いる成膜方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−281958号公報
【特許文献2】特開2005−327836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、スパッタリング法に比べてCVD法の方が成膜レートは高い。しかし、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜をプラズマCVD法で成膜する場合、反応ガスにシランやアンモニア等の水素を含むガスが用いられる。このとき、成膜面に酸化物材料が存在すると、成膜環境が還元性雰囲気となるため、当該酸化物材料が還元されるという懸念がある。また、スパッタリング法においては、シリコン窒化膜よりもシリコン酸化膜の方が耐圧性に優れている。光学的特性に関しても、シリコン窒化膜に比べてシリコン酸化膜の方が屈折率は低い。一方で、シリコン酸化膜よりもシリコン窒化膜の方がスパッタレートが高い。従って、シリコン酸化膜のような絶縁特性の高い低屈折率の絶縁膜を、シリコン窒化膜のように高いスパッタレートで成膜できれば、生産性の向上が図れることになる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することができる絶縁膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る絶縁膜の成膜方法は、Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置する工程を含む。真空チャンバ内には、窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスが導入される。そして、上記スパッタガスのプラズマで上記ターゲットをスパッタすることで、上記基板上にシリコン酸窒化膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態において用いられるスパッタリング装置の概略構成図である。
【図2】上記スパッタリング装置によって成膜された絶縁膜の、N2の流量比(N2/(N2+O2))と成膜レートとの関係を示す実験結果である。
【図3】上記スパッタリング装置によって成膜された絶縁膜の、N2の流量比(N2/(N2+O2))と屈折率との関係を示す実験結果である。
【図4】シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜の成膜時における反応ガスの流量とスパッタ放電電圧との関係を示す実験結果であり、(A)は反応ガスが窒素である場合を示し、(B)は反応ガスが酸素である場合を示す。
【図5】各種成膜法で成膜されたシリコン酸化膜(SiOx)及びシリコン窒化膜(SiNx)の耐電圧特性を示す一実験結果である。
【図6】図5に示した各サンプル膜の絶縁耐圧の評価方法を説明する模式図である。
【図7】本発明の実施形態において成膜された絶縁膜の屈折率と絶縁耐圧との関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る絶縁膜の成膜方法は、Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置する工程を含む。真空チャンバ内には、窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスが導入される。そして、上記スパッタガスのプラズマで上記ターゲットをスパッタすることで、上記基板上にシリコン酸窒化膜が形成される。
【0009】
上記絶縁膜の成膜方法においては、反応性ガスとして、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。酸素に窒素を混合することで成膜レートが上昇し、窒素の流量比が80〜85%のときに成膜レートの最大値が得られる。このときの成膜レートは、窒素の流量比が0%のときの約2倍である。窒素の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となる。得られたシリコン酸窒化膜は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜よりも高い絶縁耐圧特性を有する。したがって、上記成膜方法によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【0010】
上記絶縁膜の成膜方法において、窒素の流量比は、75%以上90%以下とすることができる。この場合、得られるシリコン酸窒化膜の屈折率は、1.5〜1.7である。したがって、窒素の流量比を適宜調整することによって、シリコン酸化膜と同程度の屈折率を有する絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。また、上記絶縁膜の成膜方法によれば、成膜雰囲気に水素が含まれないため、酸化物材料の表面にも安定して成膜することが可能となる。
【0011】
Si(シリコン)ターゲットは、真性(i型)半導体に限られず、これにB(ホウ素)やP(リン)を添加した不純物(p型、n型)半導体であってもよい。ターゲットのスパッタ方式は、DC、AC、RFのいずれであってもよく、成膜圧力も特に限定されない。スパッタガスとしての窒素及び酸素は、所定の流量比に調整された混合ガスの状態で真空チャンバ内に導入されてもよいし、流量制御された状態で各々独立して真空チャンバ内に導入されてもよい。
【0012】
上記スパッタガスとしては、アルゴンがさらに含まれてもよい。この場合、窒素及び酸素の総流量をアルゴンの流量の0.5倍以上とすることで、シリコン酸窒化膜を安定して成膜することが可能となる。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
[スパッタリング装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置を示す概略平面図である。スパッタリング装置100は、基板Sの表面に絶縁膜(シリコン酸窒化膜(SiON))Fを成膜する成膜室101と、ロード/アンロード室102と、成膜室101とロード/アンロード室102とを接続するゲートバルブ103とを有する。
【0015】
成膜室101は密閉構造を有し、真空ポンプ105によって内部が所定の成膜圧力(例えば0.1〜1Pa)に真空排気されることが可能であるとともに、その真空度を維持可能に構成されている。真空ポンプ105は特に限定されず、例えば、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ、クライオポンプ等が用いられる。
【0016】
成膜室101は、スパッタリングカソード104を有する。スパッタリングカソード104は、隣接する2つのスパッタリングターゲット(以下単に「ターゲット」という。)Tと、ターゲットTの表面に磁場を形成するためのマグネットユニット(図示略)と、2つのターゲットTの間にAC電圧を印加するAC電源Vとを有する。ターゲットTは、ホウ素(B)が添加されたp型シリコン(Si)で構成されている。AC電源Vの交流周波数は1〜100kHz、電力密度は0.5〜20W/cm2の範囲で適宜調整される。スパッタリングカソード104は、ACマグネトロン型のスパッタリングカソードとして、成膜室101の側壁面に設置されている。
【0017】
成膜室101は、基板Sを加熱するためのヒータhを有する。ヒータhは、基板Sの両面を加熱可能なように成膜室101の終端部に複数設置されているが、勿論、1つでも構わない。ヒータhは、基板Sの予備加熱と脱ガスのために用いられるが、必要に応じて省略されてもよい。
【0018】
スパッタリング装置100は、成膜室101の内部にスパッタ用のプロセスガス(スパッタガス)を導入するためのガス導入ライン106を有する。ガス導入ライン106は、図示しないガス供給源、流量調整バルブ等とともにガス導入系を構成している。本実施形態では、ガス導入ライン106は、Ar(アルゴン)、N2(窒素)及びO2(酸素)の混合ガスを成膜室101の内部に導入する。
【0019】
ロード/アンロード室102もまた密閉構造を有し、真空ポンプ107によって成膜室101内の圧力と同程度の真空度に真空排気されることが可能であるとともに、その真空度を維持可能に構成されている。ロード/アンロード室102は、図示せずともドアバルブを有しており、このドアバルブを介してロード/アンロード室102の内部と外部との間で基板Sの受け渡しが可能とされる。基板Sの受け渡し時においては、ロード/アンロード室102内は大気圧とされる。
【0020】
本実施形態のスパッタリング装置100は、ゲートバルブ103を介して成膜室101とロード/アンロード室102との間にわたって基板Sを垂直な姿勢で搬送するキャリア(図示略)をさらに有する。キャリアは、図示しない駆動源によって、成膜室101とロード/アンロード室102とに架け渡されたガイドレール(図示略)に反って直線的に移動される。ロード/アンロード室102から成膜室101へ搬送されたキャリアは、成膜室101を往復した後、ロード/アンロード室102へ戻される。基板Sは、ロード/アンロード室102へ戻される経路上であって、スパッタリングカソード104の正面を通過する過程で成膜される。なお、成膜室101における基板Sの往路と復路は、相互に重ならない位置に形成される。
【0021】
ここでは、基板Sにはガラス基板が用いられる。基板の成膜面は、基材であるガラス表面でもよいし、基材上に既に形成された絶縁膜の表面でもよい。また、基板Sはガラス基板に限られず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのような高分子フィルムであってもよい。
【0022】
[絶縁膜の成膜方法]
次に、スパッタリング装置100を用いた絶縁膜の成膜方法について説明する。
【0023】
図1を参照して、ロード/アンロード室102に搬入された基板Sは、図示しないキャリアに垂直な姿勢で保持される。その後、真空ポンプ107が駆動され、ロード/アンロード室102内が排気される。ロード/アンロード室102の圧力が、成膜室101の圧力と同程度になると、ゲートバルブ103が開放され、基板Sが成膜室101内へ搬送される。ロード/アンロード室102から成膜室101へ基板Sが搬送された後、ゲートバルブ103は閉塞する。成膜室101に搬送された基板Sは、成膜室101を直線的に移動した後、ヒータhの位置で停止し予備的に加熱される。その後、基板Sは、ロード/アンロード室102へ向けて直線的に移動されながら、スパッタリングカソード104によって成膜される。
【0024】
成膜室101には、ガス導入ライン106からスパッタガス(Ar+N2+O2)が所定の流量で導入される。本実施形態においては、窒素及び酸素の総流量に対する窒素の流量の比(N2/(N2+O2))が90%以下となるように、スパッタガスが調整される。さらに、本実施形態では、窒素及び酸素の総流量をアルゴンの流量の0.5倍以上となるように、スパッタガスが調整される。
【0025】
成膜室101へ導入されたスパッタガスは、ターゲットTの間に印加された交流電場と、図示しないマグネットユニットによってターゲットTの表面に形成された固定磁場とにより励起され、これによりスパッタガスのプラズマが発生する。プラズマ中のイオン(特にArイオン)は、電界の作用を受けてターゲットTに引き付けられ、ターゲットTの表面をスパッタする。イオンによるスパッタ作用を受けてターゲットTの表面から叩き出されたSi粒子は、プラズマ中の酸素及び窒素のラジカル(活性種)と反応し、基板Sの表面に付着、堆積する。これにより、基板Sの表面にシリコン酸窒化膜からなる絶縁膜Fが形成される。
【0026】
本実施形態では、ターゲットTに対して基板Sを移動させながら成膜する、いわゆる通過成膜方式が採用されている。基板Sの移動速度は、成膜すべき絶縁膜Fの厚み等に応じて適宜設定される。通過成膜方式に代えて、ターゲットに対して基板を静止させた状態で成膜する、いわゆる静止成膜方式が採用されてもよい。また、基板Sは無加熱で成膜されるが、必要に応じて、キャリアに加熱源を内蔵させ、成膜時に基板を所定温度に加熱してもよい。
【0027】
絶縁膜Fの成膜が完了した基板Sは、キャリアとともにゲートバルブ103を介してロード/アンロード室102へ搬送される。その後、ゲートバルブ103が閉塞され、ロード/アンロード室102が大気に開放されて、図示しないドアバルブを介して成膜済みの基板Sが外部へ取り出される。
【0028】
本実施形態によれば、スパッタガスに、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。これにより、窒素ガスを含まないスパッタガス(Ar+O2)を用いて成膜する場合と比較して、成膜レートの向上を図ることができる。
【0029】
図2は、N2の流量比(N2/(N2+O2))と絶縁膜Fの成膜レートとの関係を示す実験結果である。成膜装置には、図1を参照して説明したスパッタリング装置100を用いた。スパッタガスにはAr、N2及びO2の混合ガスが用いられ、Arに関しては、その流量を100sccmに固定し、分圧は0.3Pa及び0.8Paの2種類の条件を用いた。一方、N2及びO2に関しては、それらの総流量を150sccmに固定し、下記表1に示すようにAr分圧ごとにN2の流量比を異ならせて、それらの成膜レートを測定した。成膜レートは、実験が通過成膜で行われたことにより動的成膜レート(ダイナミックレート)とした。絶縁膜Fの厚みは1000Åとした。また、ターゲットTのスパッタ条件としては、交流電力密度4.83W/cm2、周波数40kHz、ターゲット表面の磁場370G、ターゲットと基板との距離160mmとした。成膜時、基板は無加熱とした。
【0030】
図2に示すように、N2の流量比が増加するに従って成膜レートが上昇し、N2の流量比が80〜85%で成膜レートの最大値が認められる。このときの成膜レートは、N2流量比が0%の成膜レートの約2倍である。また、N2の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となることが確認された。さらに、N2の流量比が75%以上90%以下の範囲で、200Å・m/min以上の成膜レートを得られることが確認された。なお、成膜レートにAr分圧の依存性はほとんど認められなかった。
【0031】
一方、図3は、N2の流量比(N2/(N2+O2))と成膜された絶縁膜の屈折率との関係を示す実験結果である。屈折率の測定には、図2に示した実験で得られた絶縁膜サンプルを用いた。屈折率測定の基準波長は633nmであり、その測定値には、アルバック社製「ESM-1AT」の測定結果を用いた。
【0032】
図3に示すように、N2の流量比が0〜75%までの範囲では、屈折率の変化はほとんど認められず、75%を超えるN2流量比で、その流量比の上昇に従って屈折率が急激に上昇することが確認された。また、N2の流量比が75%以上90%以下の範囲で、1.5以上1.7以下の屈折率を得られることが確認された。なお、屈折率にAr分圧の依存性はほとんど認められなかった。
【0033】
図2及び図3に示した各絶縁膜サンプルのN2の流量比、屈折率及び成膜レートを表1にまとめて示す。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、図4(A)は、スパッタガスにArとN2の混合ガスを用い、異なるN2流量でターゲットをスパッタしたときの放電特性を評価した一実験結果である。一方、図4(B)は、スパッタガスにArとO2の混合ガスを用い、異なるO2流量でターゲットをスパッタしたときの放電特性を評価した一実験結果である。各々の実験において、Arの分圧、流量、スパッタ条件等は、図2の実験条件と同一とした。図4(A)、(B)において横軸は、N2、O2の流量を示し、縦軸は、放電電圧を示している。
【0036】
図4(A)に示すように、シリコン窒化膜の成膜に際しては、N2の流量が40sccm付近から緩やかに放電電圧が変化し、50sccm以上で放電電圧が安定する。また、図4(B)に示すように、シリコン酸化膜の成膜に際しては、O2の流量が50sccm付近から急激に放電電圧が変化するが、50sccm以上で放電電圧が安定する。すなわち、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜を安定に成膜するには、N2及びO2の流量を例えば50sccm以上とすればよいことがわかる。Arの流量は100sccmであるため、これら反応性ガスの流量は、Ar流量の0.5倍以上とすることにより、安定したスパッタ成膜が実現可能となる。本実施形態では、N2とO2の総流量をArの流量の0.5倍以上とすることで、シリコン酸窒化膜の安定したスパッタ成膜を実現可能としている。
【0037】
続いて、図5は、各種成膜法で成膜されたシリコン酸化膜(SiOx)及びシリコン窒化膜(SiNx)の耐電圧特性を示す一実験結果である。
【0038】
図5の(1)及び(2)は、スパッタリング法で成膜されたシリコン酸化膜を示している。スパッタガスにはAr及びO2の混合ガスを用いた。Arの流量は100sccm、分圧は(1)で0.3Pa、(2)で0.8Paとした。一方、O2の流量は150sccmとした。成膜厚みは1000Åとした。また、ターゲットのスパッタ条件としては、交流電力密度4.83W/cm2、周波数40kHz、ターゲット表面の磁場370G、ターゲットと基板との距離160mmとした。成膜時、基板は無加熱とした。
【0039】
図5の(3)及び(4)は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜を示している。スパッタガスにはAr及びN2の混合ガスを用いた。Arの流量は100sccm、分圧は(3)で0.3Pa、(4)で0.8Paとした。一方、N2の流量は150sccmとした。成膜厚みは1000Åとした。スパッタ条件は、上記(1)及び(2)の例と共通とした。
【0040】
図5の(5)は、プラズマCVD法で成膜されたシリコン窒化膜を示している。成膜厚みは1000Åとした。成膜条件は、基板温度を300℃、RF電力を350W(13.56MHz)、成膜圧力を100Pa、SiH4流量を35sccm、N2O流量を600sccmとした。
【0041】
成膜したサンプル膜の絶縁耐圧は、図6に示すようにして測定した。まず、p型シリコン基板10の上にサンプル膜11とAl(アルミニウム)電極膜12とが順に成膜された素子を作製した。そして、基板10と電極膜12との間に直流電源13を接続し、その電源電圧を変化させながら当該素子のリーク電流を電流計14によって測定した。図5において、横軸は電界強度を、縦軸はリーク電流の電流密度をそれぞれ示している。なお、縦軸は対数目盛である。
【0042】
図5の結果から明らかなように、シリコン窒化膜よりもシリコン酸化膜の方が耐圧性に優れていることがわかる。特に、シリコン酸化膜は、Ar分圧に関係なく耐圧性を有することが確認された。一方、シリコン窒化膜は、スパッタリング法で成膜する場合よりもCVD法で成膜する場合の方が高い耐圧性を示すことがわかる。
【0043】
上述のような耐圧試験法によって、表1に示した幾つかのシリコン酸窒化膜の耐電圧特性を測定したところ、図7に示すような結果が得られた。図7は、本実施形態に係る成膜方法によって作製されたシリコン酸窒化膜の耐電圧特性を示している。図7において、横軸は屈折率を示し、縦軸は、電流密度が1×10−6A/cm2のときの耐電圧をそれぞれ示している。図中の矢印(6)で示した耐電圧は、図5のCVD SiNx膜(5)の実績値に対応する。
【0044】
図7に示すように、シリコン酸窒化膜は、屈折率が大きいほど絶縁耐圧特性が低下することがわかる。また、Ar分圧に関係なく、同様な傾向を示すことが確認された。したがって、本実施形態に係るシリコン酸窒化膜は、屈折率の値から耐電圧を評価することが可能となる。特に、屈折率が1.6以下の場合に、CVD法で作製されたシリコン窒化膜と同等以上の耐電圧特性を得ることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。また、窒素の流量比を適宜調整することによって、シリコン酸化膜と同程度の屈折率を有する絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態によれば、成膜雰囲気に水素が含まれないため、酸化物材料の表面にも安定して成膜することが可能となる。例えば、In−Ga−Zn−O系等の酸化物半導体で構成された活性層を有する薄膜トランジスタの保護膜の成膜に、本実施形態の絶縁膜の成膜方法を用いることができる。この場合、上記保護膜の成膜にシラン(SiH4)やアンモニア(NH3)等の反応ガスを使用しないため、酸化物半導体の導電特性に影響を及ぼすことなく保護膜を成膜することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0048】
例えば以上の実施形態では、ターゲットTに対して基板Sを移動させながら成膜する、いわゆる通過成膜方式を説明したが、これに代えて、ターゲットに対して基板を静止させた状態で成膜する、いわゆる静止成膜方式が採用されてもよい。
【0049】
また、上述の実施形態によって製造される絶縁膜は、基板として高分子フィルムやアルカリガラスが用いられる場合に、当該基板からのガスやNaの放出を防止するバリア膜として機能させることができる。したがって、本発明に係る絶縁膜の成膜方法は、これらのバリア膜の製造工程にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
100…スパッタリング装置
101…成膜室
104…スパッタリングカソード
106…ガス導入ライン
F…絶縁膜
S…基板
T…ターゲット
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することができる絶縁膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスやフラットパネルディスプレイ等の製造分野において、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜の成膜にスパッタリング法やCVD法などの薄膜形成技術が広く用いられている。例えば、シリコン酸化膜の成膜に際して、特許文献1にはスパッタリング法を用いる成膜方法が記載されており、特許文献2にはプラズマCVD法を用いる成膜方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−281958号公報
【特許文献2】特開2005−327836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、スパッタリング法に比べてCVD法の方が成膜レートは高い。しかし、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜をプラズマCVD法で成膜する場合、反応ガスにシランやアンモニア等の水素を含むガスが用いられる。このとき、成膜面に酸化物材料が存在すると、成膜環境が還元性雰囲気となるため、当該酸化物材料が還元されるという懸念がある。また、スパッタリング法においては、シリコン窒化膜よりもシリコン酸化膜の方が耐圧性に優れている。光学的特性に関しても、シリコン窒化膜に比べてシリコン酸化膜の方が屈折率は低い。一方で、シリコン酸化膜よりもシリコン窒化膜の方がスパッタレートが高い。従って、シリコン酸化膜のような絶縁特性の高い低屈折率の絶縁膜を、シリコン窒化膜のように高いスパッタレートで成膜できれば、生産性の向上が図れることになる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することができる絶縁膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る絶縁膜の成膜方法は、Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置する工程を含む。真空チャンバ内には、窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスが導入される。そして、上記スパッタガスのプラズマで上記ターゲットをスパッタすることで、上記基板上にシリコン酸窒化膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態において用いられるスパッタリング装置の概略構成図である。
【図2】上記スパッタリング装置によって成膜された絶縁膜の、N2の流量比(N2/(N2+O2))と成膜レートとの関係を示す実験結果である。
【図3】上記スパッタリング装置によって成膜された絶縁膜の、N2の流量比(N2/(N2+O2))と屈折率との関係を示す実験結果である。
【図4】シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜の成膜時における反応ガスの流量とスパッタ放電電圧との関係を示す実験結果であり、(A)は反応ガスが窒素である場合を示し、(B)は反応ガスが酸素である場合を示す。
【図5】各種成膜法で成膜されたシリコン酸化膜(SiOx)及びシリコン窒化膜(SiNx)の耐電圧特性を示す一実験結果である。
【図6】図5に示した各サンプル膜の絶縁耐圧の評価方法を説明する模式図である。
【図7】本発明の実施形態において成膜された絶縁膜の屈折率と絶縁耐圧との関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る絶縁膜の成膜方法は、Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置する工程を含む。真空チャンバ内には、窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスが導入される。そして、上記スパッタガスのプラズマで上記ターゲットをスパッタすることで、上記基板上にシリコン酸窒化膜が形成される。
【0009】
上記絶縁膜の成膜方法においては、反応性ガスとして、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。酸素に窒素を混合することで成膜レートが上昇し、窒素の流量比が80〜85%のときに成膜レートの最大値が得られる。このときの成膜レートは、窒素の流量比が0%のときの約2倍である。窒素の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となる。得られたシリコン酸窒化膜は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜よりも高い絶縁耐圧特性を有する。したがって、上記成膜方法によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【0010】
上記絶縁膜の成膜方法において、窒素の流量比は、75%以上90%以下とすることができる。この場合、得られるシリコン酸窒化膜の屈折率は、1.5〜1.7である。したがって、窒素の流量比を適宜調整することによって、シリコン酸化膜と同程度の屈折率を有する絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。また、上記絶縁膜の成膜方法によれば、成膜雰囲気に水素が含まれないため、酸化物材料の表面にも安定して成膜することが可能となる。
【0011】
Si(シリコン)ターゲットは、真性(i型)半導体に限られず、これにB(ホウ素)やP(リン)を添加した不純物(p型、n型)半導体であってもよい。ターゲットのスパッタ方式は、DC、AC、RFのいずれであってもよく、成膜圧力も特に限定されない。スパッタガスとしての窒素及び酸素は、所定の流量比に調整された混合ガスの状態で真空チャンバ内に導入されてもよいし、流量制御された状態で各々独立して真空チャンバ内に導入されてもよい。
【0012】
上記スパッタガスとしては、アルゴンがさらに含まれてもよい。この場合、窒素及び酸素の総流量をアルゴンの流量の0.5倍以上とすることで、シリコン酸窒化膜を安定して成膜することが可能となる。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
[スパッタリング装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置を示す概略平面図である。スパッタリング装置100は、基板Sの表面に絶縁膜(シリコン酸窒化膜(SiON))Fを成膜する成膜室101と、ロード/アンロード室102と、成膜室101とロード/アンロード室102とを接続するゲートバルブ103とを有する。
【0015】
成膜室101は密閉構造を有し、真空ポンプ105によって内部が所定の成膜圧力(例えば0.1〜1Pa)に真空排気されることが可能であるとともに、その真空度を維持可能に構成されている。真空ポンプ105は特に限定されず、例えば、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ、クライオポンプ等が用いられる。
【0016】
成膜室101は、スパッタリングカソード104を有する。スパッタリングカソード104は、隣接する2つのスパッタリングターゲット(以下単に「ターゲット」という。)Tと、ターゲットTの表面に磁場を形成するためのマグネットユニット(図示略)と、2つのターゲットTの間にAC電圧を印加するAC電源Vとを有する。ターゲットTは、ホウ素(B)が添加されたp型シリコン(Si)で構成されている。AC電源Vの交流周波数は1〜100kHz、電力密度は0.5〜20W/cm2の範囲で適宜調整される。スパッタリングカソード104は、ACマグネトロン型のスパッタリングカソードとして、成膜室101の側壁面に設置されている。
【0017】
成膜室101は、基板Sを加熱するためのヒータhを有する。ヒータhは、基板Sの両面を加熱可能なように成膜室101の終端部に複数設置されているが、勿論、1つでも構わない。ヒータhは、基板Sの予備加熱と脱ガスのために用いられるが、必要に応じて省略されてもよい。
【0018】
スパッタリング装置100は、成膜室101の内部にスパッタ用のプロセスガス(スパッタガス)を導入するためのガス導入ライン106を有する。ガス導入ライン106は、図示しないガス供給源、流量調整バルブ等とともにガス導入系を構成している。本実施形態では、ガス導入ライン106は、Ar(アルゴン)、N2(窒素)及びO2(酸素)の混合ガスを成膜室101の内部に導入する。
【0019】
ロード/アンロード室102もまた密閉構造を有し、真空ポンプ107によって成膜室101内の圧力と同程度の真空度に真空排気されることが可能であるとともに、その真空度を維持可能に構成されている。ロード/アンロード室102は、図示せずともドアバルブを有しており、このドアバルブを介してロード/アンロード室102の内部と外部との間で基板Sの受け渡しが可能とされる。基板Sの受け渡し時においては、ロード/アンロード室102内は大気圧とされる。
【0020】
本実施形態のスパッタリング装置100は、ゲートバルブ103を介して成膜室101とロード/アンロード室102との間にわたって基板Sを垂直な姿勢で搬送するキャリア(図示略)をさらに有する。キャリアは、図示しない駆動源によって、成膜室101とロード/アンロード室102とに架け渡されたガイドレール(図示略)に反って直線的に移動される。ロード/アンロード室102から成膜室101へ搬送されたキャリアは、成膜室101を往復した後、ロード/アンロード室102へ戻される。基板Sは、ロード/アンロード室102へ戻される経路上であって、スパッタリングカソード104の正面を通過する過程で成膜される。なお、成膜室101における基板Sの往路と復路は、相互に重ならない位置に形成される。
【0021】
ここでは、基板Sにはガラス基板が用いられる。基板の成膜面は、基材であるガラス表面でもよいし、基材上に既に形成された絶縁膜の表面でもよい。また、基板Sはガラス基板に限られず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのような高分子フィルムであってもよい。
【0022】
[絶縁膜の成膜方法]
次に、スパッタリング装置100を用いた絶縁膜の成膜方法について説明する。
【0023】
図1を参照して、ロード/アンロード室102に搬入された基板Sは、図示しないキャリアに垂直な姿勢で保持される。その後、真空ポンプ107が駆動され、ロード/アンロード室102内が排気される。ロード/アンロード室102の圧力が、成膜室101の圧力と同程度になると、ゲートバルブ103が開放され、基板Sが成膜室101内へ搬送される。ロード/アンロード室102から成膜室101へ基板Sが搬送された後、ゲートバルブ103は閉塞する。成膜室101に搬送された基板Sは、成膜室101を直線的に移動した後、ヒータhの位置で停止し予備的に加熱される。その後、基板Sは、ロード/アンロード室102へ向けて直線的に移動されながら、スパッタリングカソード104によって成膜される。
【0024】
成膜室101には、ガス導入ライン106からスパッタガス(Ar+N2+O2)が所定の流量で導入される。本実施形態においては、窒素及び酸素の総流量に対する窒素の流量の比(N2/(N2+O2))が90%以下となるように、スパッタガスが調整される。さらに、本実施形態では、窒素及び酸素の総流量をアルゴンの流量の0.5倍以上となるように、スパッタガスが調整される。
【0025】
成膜室101へ導入されたスパッタガスは、ターゲットTの間に印加された交流電場と、図示しないマグネットユニットによってターゲットTの表面に形成された固定磁場とにより励起され、これによりスパッタガスのプラズマが発生する。プラズマ中のイオン(特にArイオン)は、電界の作用を受けてターゲットTに引き付けられ、ターゲットTの表面をスパッタする。イオンによるスパッタ作用を受けてターゲットTの表面から叩き出されたSi粒子は、プラズマ中の酸素及び窒素のラジカル(活性種)と反応し、基板Sの表面に付着、堆積する。これにより、基板Sの表面にシリコン酸窒化膜からなる絶縁膜Fが形成される。
【0026】
本実施形態では、ターゲットTに対して基板Sを移動させながら成膜する、いわゆる通過成膜方式が採用されている。基板Sの移動速度は、成膜すべき絶縁膜Fの厚み等に応じて適宜設定される。通過成膜方式に代えて、ターゲットに対して基板を静止させた状態で成膜する、いわゆる静止成膜方式が採用されてもよい。また、基板Sは無加熱で成膜されるが、必要に応じて、キャリアに加熱源を内蔵させ、成膜時に基板を所定温度に加熱してもよい。
【0027】
絶縁膜Fの成膜が完了した基板Sは、キャリアとともにゲートバルブ103を介してロード/アンロード室102へ搬送される。その後、ゲートバルブ103が閉塞され、ロード/アンロード室102が大気に開放されて、図示しないドアバルブを介して成膜済みの基板Sが外部へ取り出される。
【0028】
本実施形態によれば、スパッタガスに、窒素と酸素の混合ガスが用いられる。これにより、窒素ガスを含まないスパッタガス(Ar+O2)を用いて成膜する場合と比較して、成膜レートの向上を図ることができる。
【0029】
図2は、N2の流量比(N2/(N2+O2))と絶縁膜Fの成膜レートとの関係を示す実験結果である。成膜装置には、図1を参照して説明したスパッタリング装置100を用いた。スパッタガスにはAr、N2及びO2の混合ガスが用いられ、Arに関しては、その流量を100sccmに固定し、分圧は0.3Pa及び0.8Paの2種類の条件を用いた。一方、N2及びO2に関しては、それらの総流量を150sccmに固定し、下記表1に示すようにAr分圧ごとにN2の流量比を異ならせて、それらの成膜レートを測定した。成膜レートは、実験が通過成膜で行われたことにより動的成膜レート(ダイナミックレート)とした。絶縁膜Fの厚みは1000Åとした。また、ターゲットTのスパッタ条件としては、交流電力密度4.83W/cm2、周波数40kHz、ターゲット表面の磁場370G、ターゲットと基板との距離160mmとした。成膜時、基板は無加熱とした。
【0030】
図2に示すように、N2の流量比が増加するに従って成膜レートが上昇し、N2の流量比が80〜85%で成膜レートの最大値が認められる。このときの成膜レートは、N2流量比が0%の成膜レートの約2倍である。また、N2の流量比が90%を超えると、成膜レートの低下が顕著となることが確認された。さらに、N2の流量比が75%以上90%以下の範囲で、200Å・m/min以上の成膜レートを得られることが確認された。なお、成膜レートにAr分圧の依存性はほとんど認められなかった。
【0031】
一方、図3は、N2の流量比(N2/(N2+O2))と成膜された絶縁膜の屈折率との関係を示す実験結果である。屈折率の測定には、図2に示した実験で得られた絶縁膜サンプルを用いた。屈折率測定の基準波長は633nmであり、その測定値には、アルバック社製「ESM-1AT」の測定結果を用いた。
【0032】
図3に示すように、N2の流量比が0〜75%までの範囲では、屈折率の変化はほとんど認められず、75%を超えるN2流量比で、その流量比の上昇に従って屈折率が急激に上昇することが確認された。また、N2の流量比が75%以上90%以下の範囲で、1.5以上1.7以下の屈折率を得られることが確認された。なお、屈折率にAr分圧の依存性はほとんど認められなかった。
【0033】
図2及び図3に示した各絶縁膜サンプルのN2の流量比、屈折率及び成膜レートを表1にまとめて示す。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、図4(A)は、スパッタガスにArとN2の混合ガスを用い、異なるN2流量でターゲットをスパッタしたときの放電特性を評価した一実験結果である。一方、図4(B)は、スパッタガスにArとO2の混合ガスを用い、異なるO2流量でターゲットをスパッタしたときの放電特性を評価した一実験結果である。各々の実験において、Arの分圧、流量、スパッタ条件等は、図2の実験条件と同一とした。図4(A)、(B)において横軸は、N2、O2の流量を示し、縦軸は、放電電圧を示している。
【0036】
図4(A)に示すように、シリコン窒化膜の成膜に際しては、N2の流量が40sccm付近から緩やかに放電電圧が変化し、50sccm以上で放電電圧が安定する。また、図4(B)に示すように、シリコン酸化膜の成膜に際しては、O2の流量が50sccm付近から急激に放電電圧が変化するが、50sccm以上で放電電圧が安定する。すなわち、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜を安定に成膜するには、N2及びO2の流量を例えば50sccm以上とすればよいことがわかる。Arの流量は100sccmであるため、これら反応性ガスの流量は、Ar流量の0.5倍以上とすることにより、安定したスパッタ成膜が実現可能となる。本実施形態では、N2とO2の総流量をArの流量の0.5倍以上とすることで、シリコン酸窒化膜の安定したスパッタ成膜を実現可能としている。
【0037】
続いて、図5は、各種成膜法で成膜されたシリコン酸化膜(SiOx)及びシリコン窒化膜(SiNx)の耐電圧特性を示す一実験結果である。
【0038】
図5の(1)及び(2)は、スパッタリング法で成膜されたシリコン酸化膜を示している。スパッタガスにはAr及びO2の混合ガスを用いた。Arの流量は100sccm、分圧は(1)で0.3Pa、(2)で0.8Paとした。一方、O2の流量は150sccmとした。成膜厚みは1000Åとした。また、ターゲットのスパッタ条件としては、交流電力密度4.83W/cm2、周波数40kHz、ターゲット表面の磁場370G、ターゲットと基板との距離160mmとした。成膜時、基板は無加熱とした。
【0039】
図5の(3)及び(4)は、スパッタリング法で成膜されたシリコン窒化膜を示している。スパッタガスにはAr及びN2の混合ガスを用いた。Arの流量は100sccm、分圧は(3)で0.3Pa、(4)で0.8Paとした。一方、N2の流量は150sccmとした。成膜厚みは1000Åとした。スパッタ条件は、上記(1)及び(2)の例と共通とした。
【0040】
図5の(5)は、プラズマCVD法で成膜されたシリコン窒化膜を示している。成膜厚みは1000Åとした。成膜条件は、基板温度を300℃、RF電力を350W(13.56MHz)、成膜圧力を100Pa、SiH4流量を35sccm、N2O流量を600sccmとした。
【0041】
成膜したサンプル膜の絶縁耐圧は、図6に示すようにして測定した。まず、p型シリコン基板10の上にサンプル膜11とAl(アルミニウム)電極膜12とが順に成膜された素子を作製した。そして、基板10と電極膜12との間に直流電源13を接続し、その電源電圧を変化させながら当該素子のリーク電流を電流計14によって測定した。図5において、横軸は電界強度を、縦軸はリーク電流の電流密度をそれぞれ示している。なお、縦軸は対数目盛である。
【0042】
図5の結果から明らかなように、シリコン窒化膜よりもシリコン酸化膜の方が耐圧性に優れていることがわかる。特に、シリコン酸化膜は、Ar分圧に関係なく耐圧性を有することが確認された。一方、シリコン窒化膜は、スパッタリング法で成膜する場合よりもCVD法で成膜する場合の方が高い耐圧性を示すことがわかる。
【0043】
上述のような耐圧試験法によって、表1に示した幾つかのシリコン酸窒化膜の耐電圧特性を測定したところ、図7に示すような結果が得られた。図7は、本実施形態に係る成膜方法によって作製されたシリコン酸窒化膜の耐電圧特性を示している。図7において、横軸は屈折率を示し、縦軸は、電流密度が1×10−6A/cm2のときの耐電圧をそれぞれ示している。図中の矢印(6)で示した耐電圧は、図5のCVD SiNx膜(5)の実績値に対応する。
【0044】
図7に示すように、シリコン酸窒化膜は、屈折率が大きいほど絶縁耐圧特性が低下することがわかる。また、Ar分圧に関係なく、同様な傾向を示すことが確認された。したがって、本実施形態に係るシリコン酸窒化膜は、屈折率の値から耐電圧を評価することが可能となる。特に、屈折率が1.6以下の場合に、CVD法で作製されたシリコン窒化膜と同等以上の耐電圧特性を得ることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、スパッタリング法によって絶縁特性に優れた絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。また、窒素の流量比を適宜調整することによって、シリコン酸化膜と同程度の屈折率を有する絶縁膜を高い成膜レートで成膜することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態によれば、成膜雰囲気に水素が含まれないため、酸化物材料の表面にも安定して成膜することが可能となる。例えば、In−Ga−Zn−O系等の酸化物半導体で構成された活性層を有する薄膜トランジスタの保護膜の成膜に、本実施形態の絶縁膜の成膜方法を用いることができる。この場合、上記保護膜の成膜にシラン(SiH4)やアンモニア(NH3)等の反応ガスを使用しないため、酸化物半導体の導電特性に影響を及ぼすことなく保護膜を成膜することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0048】
例えば以上の実施形態では、ターゲットTに対して基板Sを移動させながら成膜する、いわゆる通過成膜方式を説明したが、これに代えて、ターゲットに対して基板を静止させた状態で成膜する、いわゆる静止成膜方式が採用されてもよい。
【0049】
また、上述の実施形態によって製造される絶縁膜は、基板として高分子フィルムやアルカリガラスが用いられる場合に、当該基板からのガスやNaの放出を防止するバリア膜として機能させることができる。したがって、本発明に係る絶縁膜の成膜方法は、これらのバリア膜の製造工程にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
100…スパッタリング装置
101…成膜室
104…スパッタリングカソード
106…ガス導入ライン
F…絶縁膜
S…基板
T…ターゲット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置し、
窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスを前記真空チャンバ内に導入し、
前記スパッタガスのプラズマで前記ターゲットをスパッタすることで、前記基板上にシリコン酸窒化膜を形成する
絶縁膜の成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記流量比は、75%≦N2/(N2+O2)≦90%である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記スパッタガスは、アルゴンをさらに含み、
前記窒素及び酸素の総流量は前記アルゴンの流量の0.5倍以上である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記シリコン酸窒化膜の屈折率は、1.5以上1.7以下である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記基板は高分子フィルムまたはアルカリガラスである
絶縁膜の成膜方法。
【請求項1】
Siターゲットを有する真空チャンバ内に基板を配置し、
窒素の流量比が0%<N2/(N2+O2)≦90%である、窒素及び酸素を含むスパッタガスを前記真空チャンバ内に導入し、
前記スパッタガスのプラズマで前記ターゲットをスパッタすることで、前記基板上にシリコン酸窒化膜を形成する
絶縁膜の成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記流量比は、75%≦N2/(N2+O2)≦90%である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記スパッタガスは、アルゴンをさらに含み、
前記窒素及び酸素の総流量は前記アルゴンの流量の0.5倍以上である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記シリコン酸窒化膜の屈折率は、1.5以上1.7以下である
絶縁膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1に記載の絶縁膜の成膜方法であって、
前記基板は高分子フィルムまたはアルカリガラスである
絶縁膜の成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−114045(P2011−114045A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266953(P2009−266953)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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