説明

絶縁膜形成用組成物、絶縁膜、および電子デバイス

【課題】本発明は、低誘電率、高機械強度および高耐熱性を示す膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜、この絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する方法、及び、この絶縁膜を構成層として有する電子デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体を含む絶縁膜形成用組成物。


(一般式(1)中、Xは、カゴ型構造を表す。Yは、芳香族炭化水素基を表す。Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を、Rは置換基を表す。aは1〜18の整数を、bは0〜6の整数を表す。*は、結合位置を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜形成用組成物、これを用いて得られる絶縁膜、この絶縁膜を製造する方法、及びこの絶縁膜を有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野においては、高集積化、多機能化、高性能化の進行に伴い、回路抵抗や配線間のコンデンサー容量が増大し、消費電力や遅延時間の増大を招いている。中でも、遅延時間の増大は、デバイスの信号スピードの低下やクロストークの発生の大きな要因となるため、この遅延時間を減少させてデバイスの高速化を図るべく、寄生抵抗や寄生容量の低減が求められている。この寄生容量を低減するための具体策の一つとして、配線の周辺を低誘電性の層間絶縁膜で被覆することが試みられている。層間絶縁膜には、実装基板製造時の薄膜形成工程やチップ接続、ピン付けなどの後工程に耐え得る優れた耐熱性やウェットプロセスに耐え得る耐薬品性が求められている。さらに、近年は、Al配線から低抵抗のCu配線が導入されつつあり、これに伴い、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化が一般的となっており、このプロセスに耐え得る高い機械強度が求められている。
【0003】
有機ポリマー系の層間絶縁膜としては古くからポリベンゾオキサゾール、ポリイミド、ポリアリーレン(エーテル)などが開示されているが、高速デバイスを実現するためには更に誘電率の低い材料が要望されている。これらの材料のようにポリマー分子内に窒素、硫黄等のヘテロ原子や芳香族炭化水素ユニットを導入すると、高モル分極に起因して誘電率が高くなったりする場合や、吸湿に起因して経時で誘電率が上昇したりする場合があり、さらには電子デバイスの信頼性を損なう問題が生じることがあるため改良が必要であった。
【0004】
一方、飽和炭化水素で構成されるポリマーは、含ヘテロ原子ユニットや芳香族炭化水素ユニットで構成されるポリマーと比べてモル分極が小さくなるため、より低い誘電率を示すという利点がある。しかし、例えば、ポリエチレンなどのフレキシビリティーの高い炭化水素で構成されるポリマーは耐熱性が不十分であり、電子デバイス用途に利用することはできない。
また、特許文献1には、リジットなカゴ型構造の飽和炭化水素であるアダマンタンやジアマンタンを分子内に導入したポリマーが開示されているが、高速デバイスを実現するためには、その特性(誘電率、耐熱性、機械強度など)では必ずしも満足できるものではなく、特に、更なる誘電率の低減が強く要望されていた。
【0005】
【特許文献1】特表2005−522528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような実情に鑑みて、低誘電率、高機械強度、および高耐熱性を示す膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜、この絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する方法、および、この絶縁膜を構成層として有する電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、所定の繰り返し単位を有する重合体が優れた溶液への溶解性を示し、この重合体を含む組成物から得られる膜は、加工性に優れ、面状が良く、低誘電率および高耐熱性を示すことを見出した。
【0008】
つまり、本発明者らは、上記課題が下記の<1>〜<7>の構成により解決されることを見出した。
【0009】
<1> 一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体を含む絶縁膜形成用組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)中、Xは、カゴ型構造を表す。Yは、芳香族炭化水素基を表す。Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を、Rは置換基を表す。aは1〜18の整数を、bは0〜6の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
<2> 一般式(1)中の前記芳香族炭化水素基が、ベンゼン環基である<1>に記載の絶縁膜形成用組成物。
<3> 一般式(1)中の前記カゴ型構造が、アダマンタン、ビアダマンタン、またはジアマンタンである<1>または<2>に記載の絶縁膜形成用組成物。
<4> 前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体が、一般式(2)で表される繰り返し単位、一般式(3)で表される繰り返し単位、および一般式(4)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する重合体である<1>〜<3>のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(2)〜一般式(4)中、Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。Rは、置換基を表す。cは1〜6の整数を、dは0〜4の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
<5> 基板上に、<1>〜<4>のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する膜形成工程と、
前記塗膜に電子線または紫外線の高エネルギー線を照射して、硬化させる硬化工程とを備える、絶縁膜の製造方法。
<6> <1>〜<4>のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜。
<7> <6>に記載の絶縁膜を有する電子デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低誘電率、高機械強度、および高耐熱性を示す膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜、この絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する方法、および、この絶縁膜を構成層として有する電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜、および絶縁膜の製造方法について詳細に説明する。
まず、絶縁膜形成用組成物に含まれる一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体について説明する。
【0016】
<一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体>
本発明の絶縁膜形成用組成物は、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体を含有する。この重合体を使用することにより、低誘電率かつ優れた耐熱性を示す膜を得ることができる。
一般式(1)中のRが下記のような基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基など)の場合、絶縁膜を製造する際のファーネスキュアまたは電子線キュアの段階で、RがHOやアルコールなどとして脱離して、その部分が相互に架橋することで、架橋密度が上がり、低誘電率、高機械強度、高耐熱性の絶縁膜が得られると推測される。
【0017】
【化3】

【0018】
(一般式(1)中、Xは、カゴ型構造を表す。Yは、芳香族炭化水素基を表す。Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を、Rは置換基を表す。aは1〜18の整数を、bは0〜6の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
【0019】
一般式(1)中、Xは、カゴ型構造を表す。本発明において「カゴ型構造」とは、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような分子を指す。例えば、アダマンタン構造はカゴ型構造と考えられる。対照的にノルボルナン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)などの単一架橋を有する環状構造は、単一架橋した環状化合物の環が容積を定めないことから、カゴ型構造とは考えられない。
【0020】
本発明のカゴ型構造は、飽和、不飽和結合のいずれを含んでいてもよく、酸素、窒素、硫黄などのヘテロ原子を含んでもよいが、低誘電率の見地から飽和炭化水素が好ましい。
【0021】
本発明のカゴ型構造は、好ましくはアダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタンまたはドデカヘドランなどの構造であり、低誘電性および耐熱性の観点より、より好ましくはアダマンタン、ビアダマンタン、またはジアマンタンである。
【0022】
本発明のカゴ型構造は、3〜8価であることが好ましい。このとき、カゴ型構造に結合する基は、1価以上の置換基でも2価以上の連結基でもよい。カゴ型構造は、好ましくは3または4価である。
【0023】
一般式(1)中のYは、芳香族炭化水素基を表す。炭素数6〜20が好ましく、炭素数6〜15がより好ましく、炭素数6〜10が特に好ましい。具体的には、ベンゼン環基、ナフタレン環基、ビフェニル環基、アントラセン環基、テトラセン環基、ペンタセン環基、フェナントレン環基、ピレン環基、9,9−ジフェニルフルオレン環基、テトラフェニルメタン環基、スピロビフルオレン環基等であり、好ましくはベンゼン環基、ナフタレン環基、より好ましくはベンゼン環基である。
【0024】
一般式(1)中、Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を表し、ヒドロキシ基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基が好ましく、アルコキシ基、またはアリールオキシ基がより好ましい。
アルコキシ基としては、特に限定されず、直鎖、分岐鎖、または環状でもよく、さらにアルコキシ基は任意の置換基を有していてもよい。直鎖または分岐鎖のアルコキシ基としては、炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜2が特に好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基などが挙げられる。環状のアルコキシ基としては、シクロアルキルオキシ基、ビシクロアルキルオキシ基、またはカゴ型構造を有するアルコキシ基などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、炭素数3〜10が好ましく、炭素数4〜8がより好ましく、炭素数5〜6が特に好ましい。具体的には、シクロヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基などが挙げられる。ビシクロアルキルオキシ基としては、炭素数4〜20が好ましく、炭素数5〜15がより好ましく、炭素数6〜8が好ましい。具体的には、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イルオキシ基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−2−イルオキシ基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。炭素数6〜20が好ましく、炭素数6〜15がより好ましく、炭素数6〜10が特に好ましい。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、ビフェニルオキシ基、アントラセニルオキシ基、テトラセニルオキシ基、ペンタセニルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、ピレニルオキシ基、フルオレニルオキシ基、ビフェニレニルオキシ基、フェナレニルオキシ基などであり、好ましくはフェノキシ基、ナフチルオキシ基、より好ましくはフェノキシ基である。
ハロゲン原子としては、具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましい。
【0025】
アルコキシ基上、アリールオキシ基上の任意の置換基としては、本発明の効果を損なわない限り、どのような置換基であってもよい。具体的には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)、アルキル基(直鎖、分岐または環状のアルキル基であり、ビシクロアルキル基やカゴ型構造を有する基のように多環アルキル基であってもよい。炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが挙げられる)、アルケニル基(直鎖、分岐鎖、または環状でもよい。炭素数2〜20が好ましく、炭素数2〜10がより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、プレニル基などが挙げられる)、アルキニル基(直鎖、分岐鎖、または環状でもよく、炭素数2〜20が好ましく、炭素数2〜10がより好ましい。具体的には、エチニル基、フェニルエチニル基などが挙げられる)、アリール基(具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセン基、フェナントレン基、テトラセン基、ペンタセン基、フルオレン基)、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基(置換基を有するカルバモイル基としては、例えば、N−ヒドロキシカルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、チオカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、N−(アルキルまたはアリール)カルバモイル基、N,N−ジ(アルキルまたはアリール)カルバモイル基)、カルバゾイル基、カルボキシ基またはその塩、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基を繰り返し単位に含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシまたはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、N−ヒドロキシウレイド基、イミド基、(アルコキシまたはアリールオキシ)カルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、チオセミカルバジド基、ヒドラジノ基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルまたはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、ヒドロキシアミノ基、ニトロ基、四級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えば、ピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、メルカプト基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)チオ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)ジチオ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基またはその塩、スルファモイル基(置換基を有するスルファモイル基としては、例えば、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基)またはその塩、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基などが挙げられる。これらの基は更に任意の置換基を有していてもよい。
このうち好ましくは、炭素数2〜10のアルケニル基(ビニル基、アリル基、プレニル基等)、炭素数2〜10のアルキニル基(エチニル基、フェニルエチニル基等)、炭素数6〜20のアリール基(フェニル基、ナフチル基、アントラセン基等)、炭素数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜20のアリールオキシ基(フェノキシ基等)、炭素数1〜10のアシルオキシ基(アセトキシ基等)、炭素数0〜20のシリル基(トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリメトキシシリル基等)である。これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。
より好ましくは、炭素数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜20のアリールオキシ基(フェノキシ基等)、炭素数1〜10のアシルオキシ基(アセトキシ基等)であり、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)である。
【0026】
一般式(1)中、Rは置換基を表す。置換基としては、本発明の効果を損なわない限りどのような置換基であってもよく、具体的には上述したRで表されるアルコキシ基上、またはアリールオキシ基上に置換される任意の置換基の具体例と同様である。
このうち好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、炭素数2〜10のアルケニル基(ビニル基、アリル基、プレニル基等)、炭素数6〜20のアリール基(フェニル基、ナフチル基、アントラセン基等)、炭素数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜20のアリールオキシ基(フェノキシ基等)である。これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。
より好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、炭素数2〜10のアルケニル基(ビニル基、アリル基、プレニル基等)であり、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)である。
【0027】
一般式(1)中、aは1〜18の整数を表す。なかでも、1〜6がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
一般式(1)中、bは0〜6の整数を表す。なかでも、0〜4がより好ましく、0〜2が特に好ましい。
【0028】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、500〜1000000が好ましく、1000〜500000がより好ましく、2000〜300000がさらに好ましい。分子量が小さすぎると、加熱により揮発し膜厚が減少する場合がある。分子量が大きすぎると、有機溶剤への溶解性が不十分となる場合や、粘度が高くなり、硬化膜の平滑性に欠ける場合がある。
【0029】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体中における一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されず、重合体の全繰り返し単位(100モル%)に対して、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。上限値は100モル%である。
なお、一般式(1)で表される繰り返し単位のモル%は、一般式(1)を構成する、X由来の繰り返し単位と、Y由来の繰り返し単位との合計モル%を意味する。
【0030】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。例えば、以下の一般式(W−1)〜一般式(W−3)で表されるような、置換基を有しないカゴ型構造(アダマンタン、ジアマンタン)由来の繰り返し単位を有していてもよい。
【0031】
【化4】

【0032】
一般式(W−1)〜一般式(W−3)中、Rは、置換基を表す。eは0〜4の整数を表す。*は、結合位置を表す。Rで表される置換基は、一般式(1)中のRで表される置換基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
eは0〜4の整数を表す。なかでも、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。
【0033】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の中でも、誘電性および耐熱性の観点より、一般式(2)で表される繰り返し単位、一般式(3)で表される繰り返し単位、および一般式(4)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する重合体であることが好ましい。
【0034】
【化5】


(一般式(2)〜一般式(4)中、Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。Rは、置換基を表す。cは1〜6の整数を、dは0〜4の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
【0035】
一般式(2)〜一般式(4)中、Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。Rで表されるアルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子の定義は、上述した一般式(1)中のRの定義と同義である。なお、Rの結合位置は、特に制限されない。
一般式(2)〜一般式(4)中、Rは、置換基を表す。Rで表される置換基の定義は、上述した一般式(1)中のRの定義と同義である。なお、ベンゼン環基上のRの結合位置は、特に限定されない。
【0036】
一般式(2)〜一般式(4)中、cは1〜6の整数を表す。なかでも、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜2である。
一般式(2)〜一般式(4)中、dは0〜4の整数を表す。なかでも、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。
【0037】
以下に、一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を記載するが、本発明はこれらに限定はされない。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

【0044】
以下に、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位の具体例を記載するが、本発明はこれらに限定はされない。
【0045】
【化12】

【0046】
【化13】

【0047】
【化14】

【0048】
【化15】

【0049】
(合成方法)
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の合成方法は特に制限されず、公知の方法を組み合わせて合成することができる。例えば、ハロゲン原子またはヒドロキシ基を2つ以上有するカゴ型化合物と芳香族化合物とを、フリーデルクラフツ反応によって重合することで合成できる。
ハロゲン原子を2つ以上有するカゴ型化合物としては、例えば、市販の1,3−ジブロモアダマンタン、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, vol.23, 3527-3530(1999年)等に記載された方法で合成することのできる1,3−ジブロモ−5,7−ジメチルアダマンタン、J. Org. Chem., vol.39, 2995-3003(1974年)等に記載された方法で合成することのできる1,6−ジブロモジアマンタン、4,9−ジブロモジアマンタン等が挙げられる。ヒドロキシ基を2つ以上有するカゴ型化合物としては、例えば、市販の1,3−アダマンタンジオール、1,3,5−アダマンタントリオール、J. Org. Chem., vol.39, 2987-2994(1974年)等に記載された方法で合成することのできる1,6−ジアマンタンジオール、4,9−ジアマンタンジオール等が挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アニソール、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、t−ブチルベンゼン、オクチルベンゼン、1,4−ジ−t−ブチルベンゼン、1,3−ジ−t−ブチルベンゼン、1,3,5−トリ−t−ブチルベンゼン、(トリメチルシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0050】
本発明の重合体を合成するためのフリーデルクラフツ反応は、ルイス酸存在下またはブレンステッド酸存在下で行うことが好ましい。ルイス酸としては、例えば、三臭化アルミニウム、三塩化アルミニウム、三塩化ガリウム、三塩化鉄、五塩化アンチモン、四塩化ジルコニウム、四塩化スズ、四塩化チタン、四臭化チタン、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、トリメトキシホウ素、二塩化亜鉛、二塩化ベリリウム、二塩化カドミウム、三ハロゲン化ランタノイド、ハロゲン化アルキルアルミニウム、アルミニウムトリアルキル、アルミニウムアルコキシド、銀トリフラート、セリウムトリフラート、ハフニウムトリフラート、ランタニウムトリフラート、スカンジウムトリフラート、タリウムトリフラート、イッテルビウムトリフラート、ビスマストリフラート、トリメチルシリルトリフラート、チタノセントリフラート、ジアルキルボロントリフラート、スカンジウムトリフリルイミド、スカンジウムトリフリルメチド、オキソバナジウムトリフラート、トリメチルシリルトリフリルイミド、トリメチルシリルヨージド等が好ましく用いられる。
ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、フッ化水素酸、リン酸、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、ゼオライトやペルフルオロスルホン酸樹脂等の固体酸、フッ化水素と五フッ化アンチモンの混合物、フルオロ硫酸と五フッ化アンチモンの混合物等が好ましく用いられる。
【0051】
また、本発明の重合体を合成するためのフリーデルクラフツ反応は、溶媒を用いることが好ましく、反応原料であるカゴ型化合物および芳香族化合物が室温または加熱により可溶で、ルイス酸またはブレンステッド酸に不活性であれば特に制限はない。例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒などが利用できる。これらの中でより好ましい溶媒は、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒であり、具体的にはクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、二硫化炭素、ニトロメタン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
重合溶媒中の固形分(原料のカゴ型化合物と芳香族化合物)の濃度は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは3〜20質量%である。
【0053】
重合反応の最適な条件は、原料のカゴ型化合物と芳香族化合物、重合触媒、溶媒の種類、濃度等によって異なるが、好ましくは内温0℃〜150℃、より好ましくは0℃〜100℃で、好ましくは0.1〜48時間、より好ましくは0.2〜24時間である。
【0054】
<絶縁膜形成用組成物>
本発明の絶縁膜形成用組成物は、上述の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体を含む。絶縁膜形成用組成物中における一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の含有量は、使用目的に応じて、適宜最適な量が選択される。この重合体は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0055】
絶縁膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記重合体以外に他の絶縁膜用樹脂またはその前駆体を含有していてもよい。
絶縁膜用樹脂またはその前駆体とは、絶縁膜を形成する樹脂化合物またはその前駆体化合物であれば特に限定されず、形成された膜の比誘電率が4.0以下、好ましくは3.0以下となるような樹脂化合物またはその前駆体が好適である。例えば、ポリアリーレン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリキノリン樹脂、ポリキノキサリン樹脂などの高耐熱性樹脂、または、これらの樹脂の前駆体、カゴ型構造を有する化合物などが挙げられる。
【0056】
絶縁膜用樹脂またはその前駆体に使用できる高耐熱性樹脂の具体例としては、特開平11−322929号公報、特開2003−12802号公報、特開2004−18593号公報記載のポリベンゾオキサゾール、特開2001−2899号公報に記載のキノリン樹脂、特表2003−530464号公報、特表2004−535497号公報、特表2004−504424号公報、特表2004−504455号公報、特表2005−501131号公報、特表2005−516382号公報、特表2005−514479号公報、特表2005−522528号公報、特開2000−100808号公報、米国特許第6509415号明細書に記載のポリアリール樹脂、特開平11−214382号公報、特開2001−332542号公報、特開2003−252982号公報、特開2003−292878号公報、特開2004−2787号公報、特開2004−67877号公報、特開2004−59444号公報に記載のポリアダマンタン、特開2003−252992号公報、特開2004−26850号公報に記載のポリイミドなどが挙げられる。
【0057】
本発明の絶縁膜形成用組成物は、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては特に限定はされないが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−エトキシメタノール、3−メトキシプロパノール,1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ベラトロールなどのエーテル系溶媒、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒などが挙げられ、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
より好ましい有機溶媒は、1−メトキシ−2−プロパノール、プロパノール、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、アニソール、メシチレン、t−ブチルベンゼンであり、特に好ましくは1−メトキシ−2−プロパノール、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、t−ブチルベンゼン、アニソールである。
【0058】
本発明の絶縁膜形成用組成物が上述の有機溶媒を含む場合の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは2〜15質量%であり、特に好ましくは3〜10質量%である。ここで固形分とは、この組成物を用いて得られる膜を構成する全成分に相当する成分で、有機溶媒は含まれない。
【0059】
<絶縁膜形成用組成物への添加剤>
更に、本発明の絶縁膜形成用組成物には、得られる絶縁膜の特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性など)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、コロイド状シリカ、界面活性剤、シランカップリング剤、密着促進剤などの添加剤を添加してもよい。
【0060】
本発明の絶縁膜形成用組成物は、コロイド状シリカを含有していてもよい。例えば、高純度の無水ケイ酸を親水性有機溶媒または水に分散した分散液であり、通常、平均粒径5〜30nm、好ましくは10〜20nm、固形分濃度が5〜40質量%のものである。
【0061】
本発明の絶縁膜形成用組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられ、さらにシリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。本発明に用いることができる界面活性剤は、一種類でもよいし、二種類以上でもよい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。本発明に用いることができる界面活性剤の含有量は、膜形成塗布液の全量に対して、0.01〜1.0質量%であることが好ましく、0.1〜0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明において、シリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤である。本発明に使用するシリコーン系界面活性剤としては、いかなるシリコーン系界面活性剤でもよく、アルキレンオキシド及びジメチルシロキサンを含む構造であることが好ましい。下記化学式を含む構造であることがさらに好ましい。
【0063】
【化16】

【0064】
上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、a、bはそれぞれ独立に2〜100の整数である。また、Rが複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0065】
本発明に用いることができるシリコーン系界面活性剤としては、例えばBYK306、BYK307(ビックケミー社製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TroysolS366(トロイケミカル社製)などを挙げることができる。
【0066】
本発明に用いることができるノニオン系界面活性剤としては、いかなるノニオン系界面活性剤でもよい。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアリールエーテル類、ポリオキシエチレンジアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、脂肪酸変性ポリオキシエチレン類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などを挙げることができる。
【0067】
本発明に用いることができる含フッ素系界面活性剤としては、いかなる含フッ素系界面活性剤でもよい。例えば、パーフルオルオクチルポリエチレンオキシド、パーフルオルデシルポリエチレンオキシド、パーフルオルドデシルポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0068】
本発明に用いることができるアクリル系界面活性剤としては、いかなるアクリル系界面活性剤でもよい。例えば、(メタ)アクリル酸系共重合体などが挙げられる。
【0069】
本発明においては、いかなるシランカップリング剤を使用してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノグリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、1−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。本発明に用いることができるシランカップリング剤は、一種類単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0070】
本発明においては、いかなる密着促進剤を使用してもよい。密着促進剤としては、例えば、トリメトキシシリル安息香酸、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、ジメチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール、ビニルトリクロロシラン、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、イミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、ウラゾール、チオウラシル、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリミジン、1,1−ジメチルウレア、1,3−ジメチルウレア、チオ尿素化合物などを挙げることができる。官能性シランカップリング剤が、密着促進剤として好ましい。密着促進剤の使用量は、全固形分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に0.05〜5質量部であることがより好ましい。
【0071】
本発明では、膜の機械強度の許す範囲内で、空孔形成因子を使用して膜を多孔質化し、低誘電率化を図ることができる。空孔形成剤となる添加剤としての空孔形成因子は、特に限定はされないが、非金属化合物が好適に用いられ、絶縁膜形成用塗布液で使用される溶剤との溶解性、絶縁膜用樹脂またはその前駆体との相溶性を同時に満たすことが必要である。
空孔形成剤としては、ポリマーも使用することができる。空孔形成剤として使用できるポリマーとしては、例えば、ポリビニル芳香族化合物(ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ハロゲン化ポリビニル芳香族化合物など)、ポリアクリロニトリル、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドなど)、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリメタクリレート(ポリメチルメタクリレートなど)またはポリメタクリル酸、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレートなど)およびポリアクリル酸、ポリジエン(ポリブタジエンおよびポリイソプレンなど)、ポリビニルクロライド、ポリアセタール、およびアミンキャップドアルキレンオキシド、その他、ポリフェニレンオキシド、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリテトラヒドロフラン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリエチルオキサゾリン、ポリビニルピリジン、ポリカプロラクトン等であってもよい。
特にポリスチレンは、空孔形成剤として好適に使用できる。ポリスチレンとしては、例えば、アニオン性重合ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、未置換および置換ポリスチレン(例えば、ポリ(α−メチルスチレン))が挙げられ、未置換ポリスチレンが好ましい。
【0072】
また、この空孔形成剤の沸点または分解温度は、好ましくは100〜500℃、より好ましくは200〜450℃、特に好ましくは250〜400℃である。分子量としては、好ましくは200〜50,000、より好ましくは300〜10,000、特に好ましくは400〜5,000である。添加量は、絶縁膜形成用組成物の固形分に対して、好ましくは0.5〜75質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%である。
また、空孔形成因子として、絶縁膜用樹脂またはその前駆体の中に分解性基を含んでいてもよく、その分解温度は、好ましくは100〜500℃、より好ましくは200〜450℃、特に好ましくは250〜400℃である。分解性基の含有率は、膜を形成する絶縁膜用樹脂またはその前駆体に対して、好ましくは0.5〜75モル%、より好ましくは0.5〜30モル%、特に好ましくは1〜20モル%である。
【0073】
本発明の絶縁膜形成用組成物には、不純物としての金属含量が充分に少ないことが好ましい。絶縁膜形成用組成物の金属濃度はICP−MS法にて高感度に測定可能であり、その場合の遷移金属以外の金属含有量は、好ましくは30ppm以下、より好ましくは3ppm以下、特に好ましくは300ppb以下である。
また、遷移金属に関しては酸化を促進する触媒能が高く、プリベーク、熱硬化プロセスにおいて酸化反応によって本発明で得られた膜の誘電率を上げてしまうという観点から、含有量がより少ないほうがよく、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、特に好ましくは100ppb以下である。
絶縁膜形成用組成物の金属濃度は、本発明の絶縁膜形成用組成物を用いて得た膜に対して全反射蛍光X線測定を行うことによっても評価できる。X線源としてW(タングステン)線を用いた場合、金属元素としてK、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pdが観測可能であり、それぞれ100×1010atom・cm−2以下が好ましく、50×1010atom・cm−2以下がより好ましく、10×1010atom・cm−2以下が特に好ましい。また、ハロゲンであるBrも観測可能であり、残存量は10,000×1010atom・cm−2以下が好ましく、1,000×1010atom・cm−2以下がより好ましく、400×1010atom・cm−2以下が特に好ましい。また、ハロゲンとしてClも観測可能であるが、CVD装置、エッチング装置などへダメージを与えるという観点から残存量は100×1010atom・cm−2以下が好ましく、50×1010atom・cm−2以下がより好ましく、10×1010atom・cm−2以下が特に好ましい。
【0074】
上述の絶縁膜形成用組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体、有機溶媒、上記各任意成分を入れ、混合ミキサーなどの攪拌機を用いて攪拌する方法を用いることができる。
【0075】
本発明の絶縁膜形成用組成物はフィルターろ過により、不溶物、ゲル状成分等を除いてから膜形成に用いることが好ましい。その際に用いるフィルターの孔径は、0.001〜0.2μmが好ましく、孔径0.003〜0.05μmがより好ましく、孔径0.01〜0.03μmが最も好ましい。フィルターの材質は、PTFE、ポリエチレン、ナイロンが好ましく、ポリエチレンおよびナイロンがより好ましい。
【0076】
<絶縁膜の製造方法>
上述の絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する方法は、特に限定されず、種々の方法を実施することができるが、主に、上述の組成物を用いて膜を作製する膜形成工程と、得られた膜を硬化する硬化工程よりなる。以下に、各工程について述べる。
【0077】
<膜形成工程>
本発明の絶縁膜形成用組成物を用いて得られる膜は、例えば、絶縁膜形成用組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法等の任意の方法により基板に塗布して塗膜を得て、必要に応じて溶剤を加熱処理などで除去することにより形成することができる。基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法、スキャン法によるものが好ましい。特に好ましくは、スピンコーティング法によるものである。
スピンコーティングについては、市販の装置を使用できる。例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン(株)製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン製造(株)製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業(株)製)などが好ましく使用できる。スピンコート条件としては、いずれの回転速度でもよいが、膜の面内均一性の観点より、300mmシリコン基板においては1,300rpm程度の回転速度が好ましい。
また、組成物溶液の吐出方法においては、回転する基板上に組成物溶液を吐出する動的吐出、静止した基板上へ組成物溶液を吐出する静的吐出のいずれでもよいが、膜の面内均一性の観点より、動的吐出が好ましい。また、組成物の消費量を抑制する観点より、予備的に組成物の主溶剤のみを基板上に吐出して液膜を形成した後、その上から組成物を吐出するという方法を用いることもできる。スピンコート時間については特に制限はないが、スループットの観点から180秒以内が好ましい。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
【0078】
なお、使用される基板としては、特に限定されず、例えば、シリコンウエハー、SiO2ウエハー、SiNウエハー、ガラス基板、セラミックス基板、プラスチック基板などが使用目的に応じて選択される。特に、金属配線を有する基板、例えば、銅を含有する配線を有する半導体集積回路が好ましい。
【0079】
上述のようにスピンコーティング法などで膜を作製した後、必要に応じて、溶媒を取り除くための熱処理(乾燥工程)を設けてもよい。なお、乾燥工程においては、使用される材料により適宜最適な条件が選択されるが、後述するような膜の硬化が起こらないような条件で膜の乾燥を実施することが好ましい。
熱処理の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法、RTP(Rapid Thermal Processor)などによるキセノンランプを使用した光照射加熱などを適用することができる。好ましくは、ホットプレート加熱、ファーネスを使用した加熱方法である。ホットプレートとしては市販の装置を好ましく使用でき、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン(株)製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン製造(株)製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業(株)製)などが好ましく使用できる。ファーネスとしては、αシリーズ(東京エレクトロン(株)製)などが好ましく使用できる。
【0080】
<硬化工程>
次に、硬化工程では、膜形成工程で得られた膜を、高エネルギー線の照射や加熱処理によって硬化する。硬化方法としては、硬化時間の短縮、機械強度の点で、高エネルギー線(例えば、電子線、紫外線)を照射する方法が好ましい。
【0081】
高エネルギー線を照射することで硬化させる場合、高エネルギー線としては、電子線、紫外線、X線などが挙げられるが、特に電子線を用いるのが好ましい。
高エネルギー線として、電子線を使用した場合のエネルギーは、0〜50keVが好ましく、0〜30keVがより好ましく、0〜20keVが特に好ましい。電子線の総ドーズ量は、好ましくは0〜5.0μC/cm2、より好ましくは0〜2.0μC/cm2、特に好ましくは0〜1.0μC/cm2である。電子線を照射する際の基板温度は、0〜450℃が好ましく、0〜400℃がより好ましく、0〜350℃が特に好ましい。圧力は、好ましくは0〜133kPa、より好ましくは0〜60kPa、特に好ましくは0〜20kPaである。本発明の膜の酸化を防止するという観点から、基板周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、電子線との相互作用で発生するプラズマ、電磁波、化学種との反応を目的に酸素、炭化水素、アンモニアなどのガスを添加してもよい。本発明における電子線照射は複数回行ってもよく、この場合は電子線照射条件を毎回同じにする必要はなく、毎回異なる条件で行ってもよい。
【0082】
高エネルギー線として紫外線を用いてもよい。紫外線を用いる際の照射波長領域は190〜400nmが好ましく、その出力は基板直上において0.1〜2,000mWcm−2が好ましい。紫外線照射時の基板温度は、250〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましく、250〜350℃が特に好ましい。本発明の膜の酸化を防止するという観点から、基板周囲の雰囲気は、Ar、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、その際の圧力は0〜133kPaが好ましい。
【0083】
また、本発明では高エネルギー線を照射するのではなく加熱処理によって硬化させてもよい。例えば、絶縁膜形成用組成物により形成した膜中に残存する炭素三重結合の後加熱時の重合反応が利用できる。この後加熱処理の条件は、好ましくは100〜450℃、より好ましくは200〜420℃、特に好ましくは350℃〜400℃で、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは10分〜1.5時間、特に好ましくは30分〜1時間の範囲である。後加熱処理は数回に分けて行ってもよい。また、この後加熱は酸素による熱酸化を防ぐために窒素雰囲気下で行うことが特に好ましい。
なお、加熱処理と上述の高エネルギー線の照射とを同時に行ってもよい。
【0084】
なお、上述した本発明の絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する好ましい製造方法としては、基板上に、上述の絶縁膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程で得られた塗膜に電子線または紫外線の高エネルギー線を照射して、硬化させる硬化工程とを備える製造方法である。
【0085】
<絶縁膜>
本発明の絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜の膜厚は、使用用途により適宜最適な厚みが選択されるが、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましい。
【0086】
本発明の絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜の比誘電率は、使用する材料によって異なるが、絶縁膜として使用する場合は、通常、測定温度25℃において、4.0以下であることが好ましく、1.5〜3.5であることがより好ましく、1.8〜3.0であることがさらに好ましい。
また、本発明の絶縁膜形成用組成物より得られる膜における比誘電率の測定方法としては、測定温度25℃で、フォーディメンジョンズ社製水銀プローバ及び横河ヒューレットパッカード社製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出することが好ましい。
【0087】
本発明の絶縁膜のヤング率は、使用する材料によって異なるが、3.0〜15.0GPaであることが好ましく、5.0〜15.0GPaであることがより好ましい。
本発明の絶縁膜におけるヤング率の測定方法としては、MTS社ナノインデンターSA2を使用して測定する。
【0088】
本発明の絶縁膜における空気中400℃で30秒加熱処理後の膜厚減少率は、使用する材料によって異なるが、0.0〜15.0%であることが好ましく、0.0〜5.0%であることがより好ましい。
【0089】
<用途>
本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、半導体用層間絶縁膜として好適に使用することができる。すなわち、本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、電子デバイスに好適に使用できる。電子デバイスとは、半導体装置や、磁気記録ヘッドなどを含めた広範な電子機器を意味する。
例えば、半導体用層間絶縁膜として使用する際、その配線構造において、配線側面にはメタルマイグレーションを防ぐためのバリア層があってもよく、また、配線や層間絶縁膜の上面底面にはCMP(化学的機械的研磨)での剥離を防ぐキャップ層、層間密着層の他、エッチングストッパー層などがあってもよく、更には層間絶縁膜の層を必要に応じて他種材料で複数層に分けてもよい。
【0090】
本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、銅配線あるいはその他の目的でエッチング加工をすることができる。エッチングとしてはウエットエッチング、ドライエッチングのいずれでもよいが、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングは、アンモニア系プラズマ、フルオロカーボン系プラズマのいずれもが適宜使用できる。これらプラズマにはArだけでなく、酸素、窒素、水素、ヘリウムなどのガスを用いることができる。また、エッチング加工後に、加工に使用したフォトレジストなどを除く目的でアッシングすることもでき、さらにはアッシング時の残渣を除くため、洗浄することもできる。
【0091】
本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、銅配線加工後に、銅めっき部を平坦化するためCMP処理を施されてもよい。CMPスラリー(薬液)としては、市販のスラリー(例えば、(株)フジミインコーポレーテッド製、ロデールニッタ(株)製、JSR(株)製、日立化成工業(株)製など)を適宜使用できる。また、CMP装置としては市販の装置(アプライドマテリアル社製、(株)荏原製作所製など)を適宜使用することができる。さらにCMP後のスラリー残渣除去のため、洗浄することができる。
【0092】
本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、多様の目的に使用することが出来る。例えばLSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAMなどの半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板などの電子部品における絶縁膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、エッチングストッパー膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜などとして使用することができる。
さらに、別の用途として本発明の膜に電子ドナーまたはアクセプターをドープすることによって導電性を付与し、導電性膜として使用することもできる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0094】
以下のGPC測定は、Waters2695およびShodex製GPCカラムKF−805Lを使用し、カラム温度40℃で、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流量で測定を行い、重量平均分子量は標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算した。
【0095】
<合成例1:重合体(A1)の合成>
下記スキームに従って、重合体(A1)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(A1)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0096】
【化17】

【0097】
文献(J. Org. Chem. USSR (Engl.Trans.), vol.20, 2039-2040 (1984年)、およびJ. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, vol.23, 3527-3530 (1999年))に記載の合成法に準じて、1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタンを合成した。
次に、窒素導入管、撹拌装置を備えた200ml三つ口フラスコに1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン4.81g、1,3−ジブロモアダマンタン16.0g、ベンゼン5.31g、ジクロロベンゼン100gを加え、窒素気流下、撹拌しながら原料を完全に溶解させた。塩化鉄(III)2.20gを加え、反応液を室温で90分間撹拌した。反応液をメタノール500mLに添加し、析出した固体を濾過して、メタノールで洗浄した。得られた固体を窒素導入管、撹拌装置を備えた300ml三つ口フラスコに加え、トリス(トリメチルシリル)シラン46.8g、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)1.54g、トルエン200mLを加え、窒素気流下、撹拌しながら80℃で3時間撹拌した。反応液を室温に冷却後、メタノール500mLに添加し、析出した固体を濾過した。得られた固体をテトラヒドロフラン100mLに再溶解し、メタノール500mL、テトラヒドロフラン500mLの混合液に滴下した。析出した固体を濾過してメタノールで洗浄し、減圧乾燥することで、重量平均分子量約2.7万の重合体(A1)を8.13g得た。重合体(A1)中のジメトキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比はH NMRより算出し、10:40:50であった。
【0098】
<合成例2:重合体(A2)の合成>
1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタンを12.1g、1,3−ジブロモアダマンタンを10.0gに変更した以外は、合成例1と全く同じようにして、重合体(A2)を合成した。得られた重合体(A2)の重量平均分子量は約2.3万、重合体(A2)中のジメトキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は25:25:50であった。
【0099】
<合成例3:重合体(A3)の合成>
1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタンを19.2g、1,3−ジブロモアダマンタンを4.00gに変更した以外は、合成例1と全く同じようにして、重合体(A3)を合成した。得られた重合体(A3)の重量平均分子量は約2.2万、重合体(A3)中のジトキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は40:10:50であった。
【0100】
<合成例4:重合体(B)の合成>
下記スキームに従って、重合体(B)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(B)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0101】
【化18】

【0102】
文献(Chem. Ber., vol.106, 3095-3096 (1973年)、およびJ. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, vol.23, 3527-3530 (1999年))に記載の合成法に準じて、1,3−ジブロモ−5−フェノキシアダマンタンを合成した。
合成例2における1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン12.1gの代わりに、1,3−ジブロモ−5−フェノキシアダマンタン13.2gを用いたこと以外は合成例2と同様の方法で、重合体(B)を合成した。得られた重合体(B)の重量平均分子量は約2.5万であった。また、重合体(B)中のフェノキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は、H NMRより算出し、25:25:50であった。
【0103】
<合成例5:重合体(C)の合成>
下記スキームに従って、重合体(C)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(C)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0104】
【化19】

【0105】
文献(Can. J. Chem., vol.56, 1269-1272 (1978年))に記載の合成法に従って、1,3−ジブロモ−5−クロロアダマンタンを合成した。
合成例2における1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン12.1gの代わりに、1,3−ジブロモ−5−クロロアダマンタン11.2gを用いたこと以外は合成例2と同様の方法で、重合体(C)を合成した。得られた重合体(C)の重量平均分子量は約2.8万、重合体(C)中のクロロアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は、H NMRより算出し、25:25:50であった。
【0106】
<合成例6:重合体(D)の合成>
下記スキームに従って、重合体(D)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(D)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0107】
【化20】

【0108】
文献(Tetrahedron, vol.53, 5995-6000 (1997年))に記載の合成法に準じて、1,3−ジブロモ−5−ヒドロキシアダマンタンを合成した。
合成例2における1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン12.1gの代わりに、1,3−ジブロモ−5−ヒドロキシアダマンタン10.6gを用いたこと以外は合成例2と同様の方法で、重合体(D)を合成した。得られた重合体(D)の重量平均分子量は約1.8万、重合体(D)中のヒドロキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位のモル比はH NMRより算出し、25:25:50であった。
【0109】
<合成例7:重合体(E)の合成>
下記スキームに従って、重合体(E)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(E)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0110】
【化21】

【0111】
窒素導入管、撹拌装置を備えた300ml三つ口フラスコに1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン3.60g、1,3−ジブロモアダマンタン3.00g、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン3.88g、ジクロロベンゼン180gを加え、窒素気流下、撹拌しながら原料を完全に溶解させた。塩化鉄(III)0.66gを加え、反応液を室温で10分間撹拌した。反応液をメタノール500mLに添加し、析出した固体を濾過して、メタノールで洗浄した。得られた固体を窒素導入管、撹拌装置を備えた100ml三つ口フラスコに加え、トリス(トリメチルシリル)シラン7.02g、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.23g、トルエン60mLを加え、窒素気流下、撹拌しながら80℃で3時間撹拌した。反応液を室温に冷却後、メタノール500mLに添加し、析出した固体を濾過した。得られた固体をテトラヒドロフラン30mLに再溶解し、メタノール150mL、テトラヒドロフラン150mLの混合液に滴下した。析出した固体を濾過してメタノールで洗浄し、減圧乾燥することで、重量平均分子量約11.1万の重合体(E)を3.30g得た。重合体(E)中のジメトキシアダマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位:tert−ブチルベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は、H NMRより算出し、25:25:25:25であった。
【0112】
<合成例8:重合体(F)の合成>
下記スキームに従って、重合体(F)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(F)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0113】
【化22】


文献(J. Org. Chem., vol.39, 2995-3003 (1974年))に記載の合成法に従って、1,6−ジブロモジアマンタンを合成した。
合成例7における1,3−ジブロモアダマンタン3.00gの代わりに、1,6−ジブロモジアマンタン3.53gを用いたこと以外は合成例7と同様の方法で、重合体(F)を合成した。得られた重合体(F)の重量平均分子量は、約5.2万であった。また、重合体(F)中のジメトキシアダマンタン構造の繰り返し単位:ジアマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位:tert−ブチルベンゼン構造の繰り返し単位のモル比は、H NMRより算出し、25:25:25:25であった。
【0114】
<合成例9:重合体(G)の合成>
下記スキームに従って、重合体(G)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(G)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0115】
【化23】

文献(J. Org. Chem. USSR (Engl.Trans.), vol.20, 2039-2040 (1984年)、およびJ. Org. Chem., vol.39, 2995-3003 (1974年))に記載の合成法に準じて、1,6−ジブロモ−4−メトキシジアマンタンを合成した。
合成例7における1,3−ジブロモ−5,7−ジメトキシアダマンタン3.60gの代わりに、1,6−ジブロモ−4−メトキシジアマンタン3.82gを用いたこと以外は合成例7と同様の方法で、重合体(G)を合成した。得られた重合体(G)の重量平均分子量は、約6.9万であった。重合体(G)中のメトキシジアマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位:tert−ブチルベンゼン構造の繰り返し単位のモル比はH NMRより算出し、25:25:25:25であった。
【0116】
<合成例10:重合体(H)の合成>
下記スキームに従って、重合体(H)を合成した。なお、下記スキーム中、重合体(H)の繰り返し単位中の「*」は、他の繰り返し単位中の「**」と結合する。
【0117】
【化24】

【0118】
文献(J. Org. Chem. USSR (Engl.Trans.), vol.20, 2039-2040 (1984年)、およびJ. Org. Chem., vol.39, 2995-3003 (1974年))に記載の合成法に準じて、4,9−ジブロモ−1−メトキシジアマンタンを合成した。
合成例9における1,6−ジブロモ−4−メトキシジアマンタン3.82gの代わりに、4,9−ジブロモ−1−メトキシジアマンタン3.82gを用いたこと以外は合成例9と同様の方法で、重合体(H)を合成した。得られた重合体(H)の重量平均分子量は、約6.1万であった。また、重合体(H)中のメトキシジアマンタン構造の繰り返し単位:アダマンタン構造の繰り返し単位:ベンゼン構造の繰り返し単位:tert−ブチルベンゼン構造の繰り返し単位のモル比はH NMRより算出し、25:25:25:25であった。
【0119】
<実施例1>
重合体(A1)1.0gをシクロヘキサノン9.0gに完全に溶解させて塗布液を調製した。この溶液を孔径0.1μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコーターを用いて基板抵抗値7Ω/cmの4インチベアシリコンウェハー上にスピン塗布した。塗布後の膜を110℃で60秒間、続いて200℃で60秒間ベークを行った。更に窒素置換された400℃のクリーンオーブン内で1時間焼成(ファーネスキュア)した結果、膜厚0.5μmのブツのない均一な膜が得られた。
膜の比誘電率(測定温度:25℃、以降も同様)を、フォーディメンジョンズ社製水銀プローバ及び横河ヒューレットパッカード社製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出したところ、2.59であった。
得られた絶縁膜の外観をピーク社製ポケットマイクロルーペ(50倍)で観察したが、塗膜表面にクラックは認められず、面状は良好であった。なお、光学顕微鏡で1平方センチメートルの領域において膜面状を観察した際に、色ムラが観察された場合を「面状が悪い」、色ムラが全く観察されない場合を「面状が良好」と評価した。
また、MTS社ナノインデンターSA2を使用して得られた絶縁膜のヤング率を測定したところ、7.9GPaであった。
耐熱性の評価として、得られた膜を空気中400℃で30秒加熱し、膜厚の減少率を測定したところ、1.7%であった。
【0120】
<実施例2>
重合体(A1)1.0gをシクロヘキサノン9.0gに完全に溶解させて塗布液を調製した。この溶液を孔径0.1μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコーターを用いて基板抵抗値7Ω/cmの4インチベアシリコンウェハー上にスピン塗布した。塗布後の膜を110℃で60秒間、続いて200℃で60秒間ベークを行った。得られた塗膜を、ヘリウムガス雰囲気で真空度10Torrに調製された真空チャンバ内に設置された350℃ホットプレート上で、加速電圧13keVの電子線を照射しながら50秒キュアした結果、膜厚0.5μmのブツのない均一な膜が得られた。
膜の比誘電率(測定温度:25℃)をフォーディメンジョンズ社製水銀プローバ及び横河ヒューレットパッカード社製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出したところ、2.56であった。
得られた絶縁膜の外観をピーク社製ポケットマイクロルーペ(50倍)で観察したが、塗膜表面にクラックは認められず、面状は良好であった。
また、MTS社ナノインデンターSA2を使用して得られた絶縁膜のヤング率を測定したところ、10.8GPaであった。
耐熱性の評価として、得られた膜を空気中400℃で30秒加熱し、膜厚の減少率を測定したところ、1.2%であった。
【0121】
<実施例3〜11>
重合体(A2)、重合体(A3)、重合体(B)、重合体(C)、重合体(D)、重合体(E)、重合体(F)、重合体(G)、重合体(H)についても実施例2と同様にして、塗布液の調製、塗布、塗膜の焼成を行った。得られた絶縁膜の評価結果を表1に示す。
【0122】
<比較例1>
特表2005−522528号公報に記載の発明実施例4の調製方法に準じて、塗布液を調製し、実施例1と同様にして膜を形成した。膜の比誘電率(測定温度:25℃)を、フォーディメンジョンズ社製水銀プローバ及び横河ヒューレットパッカード社製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出したところ、2.79であった。
得られた絶縁膜の外観をピーク社製ポケットマイクロルーペ(50倍)で観察したが、得られた絶縁膜の面状は悪かった。
また、MTS社ナノインデンターSA2を使用して得られた絶縁膜のヤング率を測定したところ、5.3GPaであった。
耐熱性の評価として、得られた膜を空気中400℃で30秒加熱し、膜厚の減少率を測定したところ、7.2%であった。
【0123】
【表1】

【0124】
本発明の絶縁膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜は、低誘電率、耐熱性、機械強度および膜面状に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体、を含む絶縁膜形成用組成物。
【化1】


(一般式(1)中、Xは、カゴ型構造を表す。Yは、芳香族炭化水素基を表す。Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を、Rは置換基を表す。aは1〜18の整数を、bは0〜6の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
【請求項2】
一般式(1)中の前記芳香族炭化水素基が、ベンゼン環基である請求項1に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項3】
一般式(1)中の前記カゴ型構造が、アダマンタン、ビアダマンタン、またはジアマンタンである請求項1または2に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体が、一般式(2)で表される繰り返し単位、一般式(3)で表される繰り返し単位、および一般式(4)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物。
【化2】


(一般式(2)〜一般式(4)中、Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。Rは、置換基を表す。cは1〜6の整数を、dは0〜4の整数を表す。*は、結合位置を表す。)
【請求項5】
基板上に、請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する膜形成工程と、
前記塗膜に電子線または紫外線の高エネルギー線を照射して、硬化させる硬化工程とを備える絶縁膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2010−70726(P2010−70726A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242918(P2008−242918)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】