説明

繊維強化プラスチック用炭素繊維および繊維強化プラスチック

【課題】本発明は、吸湿高温条件下および乾燥室温条件下での、いずれの90゜引張強度においても、強度低下の少ない優れた繊維強化プラスチックを提供せんとするものである。
【解決手段】本発明の繊維強化プラスチック用炭素繊維は、X線光電子分光法により測定される表面比珪素濃度Si/Cが0.001〜0.030であることを特徴とするものであり、また、本発明の繊維強化プラスチックは、かかる繊維強化プラスチック用炭素繊維と硬化剤とエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物が硬化されてなる繊維強化プラスチックであって、かつ、乾燥室温条件下での90°引張強度に対する吸湿高温条件下での90°引張強度の強度比率が0.5〜0.8であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、航空宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途などに好ましく使用できる繊維強化プラスチックに関するものである。
【0002】
【従来の技術】強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは、その機械強度が優れているために、スポーツ用途をはじめ、航空宇宙用途、一般産業用途などで広範囲に用いられている。特に航空宇宙用途では、航空機の1次構造材や2次構造材、衛星アンテナ、ロケットの部材などが主要な用途として挙げられ、繊維強化プラスチックの軽量化と機械強度を高めることが必要となる。
【0003】航空宇宙用途では、強化繊維として炭素繊維やガラス繊維、マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が主として用いられ、繊維強化プラスチックの製造には、繊維にマトリックス樹脂を含浸されたシート状中間基材であるプリプレグを用いる方法が用いられることが多い。この方法ではプリプレグを複数枚積層した後、加熱することによって成形体が得られる。
【0004】このような航空宇宙用途では高温多湿下や低温下などの過酷な条件での強度保持に対する要望が強いが、そのためには過酷な条件下で使用した際の繊維強化プラスチックの強度低下を抑えることが必要となる。
【0005】繊維強化プラスチックにおいては、強化繊維の強度向上の努力が行われてきたため、配列された繊維の方向(0゜方向)においては引張強度の高い繊維強化プラスチックが得られるようになってきた。0゜引張強度については強化繊維の引張強度が有効に利用できるため過酷な条件下で使用した際でも強度低下は少ない。
【0006】しかしながら、繊維強化プラスチックには繊維方向以外の方向からも複雑に荷重が加わる。かかる荷重に対しては、強化繊維の方向における強度特性が有効に機能しないため、繊維方向以外の方向における繊維強化プラスチックの強度は充分に満足されるものではなかった。特に配列された繊維の垂直方向(90゜方向)においては、樹脂と強化繊維との接着性が繊維強化プラスチックの強度を支配する。この接着性は温度や湿度による影響を受けやすく、特に吸湿高温条件下での90゜引張強度は通常、乾燥室温条件のそれに比べて大幅に低下する問題がある。
【0007】この問題をクリアするには、航空機などに使用する繊維強化プラスチックの量を増やすなど、何らかの補強手段を講じることで対処することができるが、その場合には、前記したような軽量化と両立することは難しくなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、吸湿高温条件下および乾燥室温条件下での、いずれの90゜引張強度においても、強度低下の少ない優れた繊維強化プラスチックを提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック用炭素繊維は、X線光電子分光法により測定される表面比珪素濃度Si/Cが0.001〜0.030であることを特徴とするものであり、また、本発明の繊維強化プラスチックは、かかる繊維強化プラスチック用炭素繊維と硬化剤とエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物が硬化されてなる繊維強化プラスチックであって、かつ、乾燥室温下の90°引張強度に対する吸湿高温下の90°引張強度の強度比率が、0.5〜0.8であることを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明は、前記した課題について、鋭意検討し、表面処理することで、表面比珪素濃度Si/Cを特定な繊維強化プラスチック用炭素繊維をつくって、これとエポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物をつくって、これを加熱し、硬化させて繊維強化プラスチックとしてみたところ、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0011】すなわち、かかる特定な炭素繊維からなるエポキシ樹脂組成物により構成された繊維強化プラスチックは、その乾燥室温下の90゜引張強度に対する吸湿高温下の90゜引張強度の強度低下が、従来になく小さいものを提供することができ、さらに、かかる繊維強化プラスチックは、高温多湿下で使用したときにも、90°引張強度に優れ、しかも、軽量であることを見いだすに至り、本発明に到達した。
【0012】本発明の繊維強化プラスチック用炭素繊維は、下記の表面処理をすることで、その表面比珪素濃度Si/Cが0.001〜0.030の範囲であることが重要であり、、好ましくは0.002〜0.020さらに好ましくは0.002〜0.005である。かかる特定な範囲の表面比珪素濃度を有する炭素繊維のみが、高温多湿下でも強度低下のない優れた性質を有する軽量複合材料素材を提供することができたものである。
【0013】炭素繊維の表面比珪素濃度Si/Cを上述の特定な範囲のものにするためには、前記炭素繊維表面を、何らかの処理により改質する方法を採用することができる。かかる炭素繊維表面の改質、特にSi/Cを低めるための手段としては、その繊維表面をアルカリで電解処理する方法が好ましく採用される。なお、酸で電解処理する方法を採用すると、Si/Cを低める効果が少ないことがあるので好ましくない場合がある。
【0014】かかる電解処理手段におけるアルカリ性の電解液に溶存させる電解質の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムなどの有機塩類、さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩又は他の金属塩、及びアンモニウム塩、水酸化テトラエチルアンモニウム又はヒドラジンなどの有機化合物が好ましく使用されるが、樹脂の硬化に対する障害をなくす観点から、アルカリ金属を含有しないもの、つまり炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム類がより好ましく使用される。
【0015】なお、酸で電解処理する方法を採用したい場合には、電解質として、硫酸、硝酸などの無機酸、酢酸、酪酸などの有機酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウムなどの塩を使用することができる。
【0016】また、かかる電解処理において、通電する電気量は、炭素繊維の炭化度に応じて最適化することができる。すなわち、かかる電気量としては、好ましくは3〜500クーロン/g(g:炭素繊維の重量)、さらに好ましくは5〜200クーロン/gの範囲とする条件が、表層の結晶性の低下を適度に抑える観点から好ましく採用される。
【0017】かかる電解処理の後、糸条を水洗及び乾燥するのが良い。乾燥に際しては、温度が高過ぎると、炭素繊維の最表面に存在する官能基が熱分解により消失しやすいため、乾燥温度はできる限り低くするのが望ましく、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下で乾燥するのがよい。
【0018】ここで、本発明でいう炭素繊維表面の表面比珪素濃度Si/Cは、次の手順に従ってX線光電子分光法により求めたものである。
【0019】先ず、測定する炭素繊維束から、塩化メチレン、メチルエチルケトン、アセトン、エタノールなどの溶媒で洗浄し、蒸留水で洗い流し、必要に応じて超音波洗浄するなどしてサイジング剤などを除去後、適当な長さにカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、下記条件にて測定できるものである。また、プリプレグなどの中間基材に使用されている場合は、塩化メチレン、メチルエチルケトン、アセトン、エタノールなどの溶媒で樹脂を除去して炭素繊維束を取り出し同様の方法で測定できるものである。
【0020】・光電子脱出角度:35度・X線源:AlKα1,2・試料チャンバー内真空度:1×10-8Torr尚、測定時の帯電に伴うピークの補正は、C1Sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせることで実施できる。
【0021】次いで、C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、Si1sピーク面積[Si2P]は、98〜106eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0022】表面比珪素濃度Si/Cは、上記Si2Pピーク面積[Si2P]、C1sピーク面積[C1s]の比、及び装置固有の感度補正値より、次式により求めることができる。
【0023】
Si/C=([Si2P]/[C1s])/(感度補正値)
本発明の繊維強化プラスチック用炭素繊維は、有撚糸、解撚糸、又は無撚糸などいずれでも良いが、解撚糸や無撚糸が、繊維強化プラスチックの成形性と機械強度を両立する上から好ましく使用される。さらに、本発明の炭素繊維を繊維強化プラスチックの強化繊維として用いる際に炭素繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられたもの、織物、ニット、不織布、マット、および組み紐などの繊維構造物として用いてもよい。特に本発明の炭素繊維を一方向に引き揃えて用いる場合には繊維の引き揃え方向に対して90°の方向の強度向上が顕著になるものである。また、本発明の炭素繊維を織物(クロス材)として用いる場合には、平織り、朱子織りなど、使用する部位や用途に応じて、適宜の組織のものを自由に選択して使用することができる。本発明の炭素繊維は、その表面比珪素濃度Si/Cが特定の範囲であることによりマトリックス樹脂との接着性が向上しているため、織物形態により用いた場合にも繊維強化プラスチックの機械特性が向上し、耐衝撃性が高めることができる。尚、本発明の強化繊維プラスチックは前記した炭素繊維の他にガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いることができ、これらの繊維を2種類以上混合して用いることもできる。
【0024】本発明において、繊維強化プラスチック用炭素繊維としては、たとえば黒鉛繊維を含み得るものであり、具体的には、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの前駆体繊維から製造された各種の炭素繊維を使用することができる。中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られるポリアクリロニトリル系繊維を前駆体とする炭素繊維が好ましく使用される。本発明の炭素繊維の前駆体として好適に用いることができるポリアクリロニトリル系の前駆体繊維は、例えば以下に述べる工程を経て製造することができる。
【0025】アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルから成る紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、又は溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸を、水洗、延伸、乾燥及び油剤付与などの製糸工程を経てアクリル系プリカーサーを製造し、得られたアクリル系プリカーサーから耐炎化、炭化などの工程を経てアクリル系炭素繊維を得ることができる。
【0026】ここで、紡糸方法としては湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましく採用でき、炭素繊維の表面が平滑な炭素繊維を得やすい点で乾湿式紡糸法がより好ましい。
【0027】また、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法において、紡糸後の凝固過程における凝固速度、凝固糸の延伸倍率などを適宜適正化することによっても、得られる炭素繊維の表面の粗さを制御することが可能であるので好ましい。
【0028】さらに油剤付与に用いる油剤としてはシリコン系油剤や非シリコン系油剤を適宜用いることができるが、シリコン系油剤の方が耐熱性に優れることから好ましい。
【0029】繊維強化プラスチック用炭素繊維のストランド引張強度は3.0〜6.5GPaであることが好ましい。3.0GPa未満では、繊維強化プラスチックにした場合、十分な強度が得られず、結果として軽量化の効果が得られないことがある。また、繊維強化プラスチック用炭素繊維の引張強度は最大でも6.5GPa程度あれば、従来用いられているスポーツ用途、航空宇宙用途、一般産業用途において高強度化および軽量化の効果を十分に発揮することが出来る。好ましくは3.5〜6.5GPaである。
【0030】さらに繊維強化プラスチック用炭素繊維のストランド引張弾性率は200〜500GPaであることが好ましい。200GPa未満では、繊維強化プラスチックにした場合、十分な剛性が得られず、結果として軽量化の効果が得られないことがある。また、繊維強化プラスチック用炭素繊維の引張弾性率は最大でも500GPa程度あれば、従来用いられているスポーツ用途、航空宇宙用途、一般産業用途において十分な剛性が得られ、軽量化の効果を発揮することが出来る。好ましくは230〜500GPaである。
【0031】また、繊維強化プラスチック用炭素繊維には取り扱い性や耐擦過性を良好にするためにサイジング剤を付着させるのが一般的であり、本発明においてもエポキシ樹脂などを含む公知のサイジング剤を適宜使用できる。特に多官能エポキシを含むサイジング剤は炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が良好となることからより好ましい。
【0032】本発明の繊維強化プラスチックにおいて、マトリックス樹脂を構成するエポキシ樹脂組成物は、前記炭素繊維の他に、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤を含んでいることが肝要である。
【0033】かかるエポキシ樹脂としては、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物が用いられる。特にアミン類、フェノール類、炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましく用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂等あるいはこれらの組み合わせが好適に用いられる。
【0034】かかるエポキシ樹脂組成物に使用される硬化剤としては、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば用いることができるが、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が、好ましくは使用される。具体的には、ジシンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が好ましく使用される。
【0035】かかるエポキシ樹脂組成物に、上記のエポキシ樹脂、硬化剤の他、高分子化合物、有機又は無機の粒子など、他の成分を、適宜、その目的に応じて配合することができる。
【0036】かかる高分子化合物としては、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。かかる熱可塑性樹脂を配合することにより、前記樹脂組成物の粘度やプリプレグの取り扱い性の適性化、あるいは、接着性を改善する効果を増進する作用がある。
【0037】かかる熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく使用される。これら熱可塑性樹脂の中でも、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく使用される。特に好ましくは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどが、耐熱性にも優れることから好適に使用される。
【0038】かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物における全エポキシ樹脂100重量%に対して、好ましくは1〜20重量%配合するのが、エポキシ樹脂組成物に適度な粘弾性を与え、得られる繊維強化プラスチックの機械強度を高める作用を有するのでよい。
【0039】また、かかるエポキシ樹脂組成物に配合する有機粒子としては、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子が好ましく用いられる。これらの粒子は、樹脂の靭性向上、繊維強化プラスチック製部材の耐衝撃性向上の効果を有する。
【0040】さらに、かかるゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が好ましく用いられる。
【0041】市販の架橋ゴム粒子としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるXER−91(型番、日本合成ゴム工業(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(型番、日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(型番、東都化成(株)製)などを使用することができる。
【0042】市販のコアシェルゴム粒子としては、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体からなるパラロイドEXL−2655(登録商標、呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなるスタフィロイドAC−3355、TR−2122(登録商標、型番、武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合体からなるPARALOIDEXL−2611、EXL−3387(登録商標、型番、Rohm & Haas社製)などを使用することができる。
【0043】また、熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミドあるいはポリイミドの粒子が好ましく用いられる。市販のポリアミド粒子としては、東レ(株)製、型番SP−500、ATOCHEM社製、オルガソール(登録商標)などを使用することができる。
【0044】また、かかるエポキシ樹脂組成物に配合する無機粒子としては、シリカ、アルミナ、スメクタイト、合成マイカなどを、好ましく使用することができる。これらの無機粒子は、主としてレオロジー制御、すなわち、増粘や揺変性付与するために配合されるものである。
【0045】さらに本発明の繊維強化プラスチックにおいて、繊維強化プラスチック中の炭素繊維含有率が40〜90重量%であることが好ましい。炭素繊維含有率が40%未満では必要な強度を得るための繊維強化プラスチックの量が増加し、軽量化の効果が十分でないことがある。炭素繊維含有率が90%を越えると、炭素繊維に対するエポキシ樹脂組成物量が少なくなるために繊維強化プラスチック中にボイド(空隙)が生じやすく、その結果、繊維強化プラスチックの強度が低下することがある。尚、繊維強化プラスチック中の炭素繊維の含有率(重量%)は、例えば還元炎により樹脂硬化物を焼きとばし炭素繊維の質量を求める燃焼法や濃硫酸により樹脂硬化物を除去し炭素繊維の質量を求める硫酸分解法によって求めることができる。燃焼時に炭化物の残る樹脂などは硫酸分解法により求めることが好ましい。また、中間基材としてプリプレグを用いる場合には、プリプレグの重量(W1)とプリプレグ中の炭素繊維をメチルチルケトンなどの有機溶剤で抽出したときの炭素繊維の重量(W2)から次式 (W2/W1)×100で算出する方法などにより繊維強化プラスチック中の炭素繊維の含有量を概算することが可能である。
【0046】本発明の繊維強化プラスチックは、前記繊維強化プラスチック用炭素繊維とかかるエポキシ樹脂組成物を、加熱、硬化して得られるものであり、かつ乾燥室温下の90゜引張強度に対する吸湿高温下の90゜引張強度の強度比率が、0.5〜0.8の範囲にあることが重要であり、好ましくは0.55〜0.8、より好ましくは0.6〜0.8の範囲にあることが特徴的である。かかる強度比率が0.5未満であると、高温・多湿条件下で破損され易くなり、0.8以上を越えると、前記炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性(以下、単に接着性と略記する)が過大となる傾向があり、繊維強化プラスチックの0゜引張強度が低下する場合がある。
【0047】ここでいう吸湿高温下の90゜引張強度とは、水分率を0.7〜1.4%とした繊維強化プラスチックを用いて温度75〜95℃、湿度40〜60%の雰囲気下で、ASTM D3039に基づいて90°引張強度を測定することにより求められる。尚、繊維強化プラスチックの水分率を0.7〜1.4%とするには、71℃の温水に2週間浸水するなどの方法によることができる。
【0048】また、乾燥室温下の90゜引張強度は温度18〜28℃、湿度40〜60%の雰囲気で、水分率0.01〜0.4%の繊維強化プラスチックを用いて、ASTM D3039に基づいて、90°引張試験を行ったときの強度である。尚、繊維強化プラスチックの水分率は測定用サンプルを室温で48時間静置し、その水分率を0.01〜0.4%とすることができる。
【0049】このように求めた吸湿高温下の90°引張強度を乾燥室温下の90°引張強度で除した値を乾燥室温下の90°引張強度に対する吸湿高温下の90°引張強度の強度比率とする。
【0050】尚、水分率とは100℃雰囲気下で2時間乾燥させたサンプルの重量(W3)を基準とし、各測定雰囲気下での重量(W4)から次式、((W4−W3)/W3)×100で求めることができる。
【0051】かかる繊維強化プラスチックの吸湿高温下の90゜引張強度と乾燥室温下の90゜引張強度との強度比率は、前記炭素繊維の表面比珪素濃度Si/C(以下Si/Cと略記)を低めると、向上させることができる。すなわち、Si/Cが高すぎる場合、本発明の効果は得られない。これは、繊維強化プラスチックに使用する前記炭素繊維表面に存在するSiが、吸湿・高温条件下で、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性を低下させるためだと考えられる。
【0052】本発明のかかる繊維強化プラスチックの製造には、その目的に応じて各種の方法が用いられる前述したようなエポキシ樹脂組成物を、繊維強化プラスチック用炭素繊維に含浸させてプリプレグを作成し、これを積層し、積層物に圧力を付与しながら樹脂を加熱し硬化させて繊維強化プラスチックを製造する方法を採用するのが、取り扱い容易性、成形時の利便性などの観点から好ましい。
【0053】かかるプリプレグは、マトリックス樹脂を、メチルエチルケトン、メタノール、溶媒に溶解させ、低粘度化し、繊維強化プラスチック用炭素繊維に含浸させるウエット法と、加熱により低粘度化し、繊維強化プラスチック用炭素繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
【0054】ウエット法は、繊維強化プラスチック用炭素繊維を樹脂組成物からなる溶液に浸漬した後に引き上げ、オーブンなどを用いて加熱しながら溶媒を蒸発させてプリプレグを得る方法である。
【0055】ホットメルト法には、加熱により低粘度化した樹脂組成物を、直接、繊維強化プラスチック用炭素繊維に含浸させる方法、あるいは、一旦、前記樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムを作成しておき、ついで、繊維強化プラスチック用炭素繊維の両側あるいは片側から、かかるフィルムを重ね、加熱することにより、樹脂組成物を含浸させて、プリプレグとする方法など使用することができる。中でも、ホットメルト法が、溶媒をプリプレグ中に、実質的に残留させないことから好ましく採用される。
【0056】積層したプリプレグに熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などがある。特に航空機用途品に関しては、オートクレーブ成形法、バッギング成形法が好ましく採用される。またスポーツ用途品に関しては、ラッピングテープ法、内圧成形法が好ましく採用される。
【0057】オートクレーブ成形法は成形型にプリプレグを適宜積層し、ナイロンバッグ等で積層対全体を覆い、バッグ内を真空引きした状態でオートクレーブに入れて樹脂を加熱硬化させた後、成形型から外すことで必要な繊維強化プラスチック製部材を得る方法であり、車両や航空機用部材などの比較的大型の部材を得るのに適している。
【0058】ラッピングテープ法は、マンドレルなどの芯金にプリプレグを巻いて、管状体を成形する方法であり、ゴルフクラブ用シャフト、釣り竿などの棒状体を作製する際に好適である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻き付け、プリプレグの固定及び圧力付与のために、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻き付け、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去ることで繊維強化プラスチック製管状体を得ることができる。
【0059】内圧成形法では、熱可塑性樹脂のチューブなどの内圧付与体にプリプレグを巻きつけたプリフォームを金型中にセットし、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力をかけると同時に金型を加熱することによって繊維強化プラスチック製管状体を成形することができる。
【0060】加熱硬化温度や時間は用いる樹脂組成物に応じて適宜選択することができる。例えば、硬化剤としてジアミノジフェニルスルホンやm−フェニレンジアミンなどを用いる場合は170〜190℃が好ましく、硬化剤としてジシアンジアミドを、さらに3−(3,4−ジクロロフェニル)を硬化助剤として用いる場合は120〜140℃が好ましく用いられることがある。
【0061】また、本発明の繊維複合材料を得る方法としては、プリプレグを用いて得る方法の他に、ハンドレイアップ、RTM、SCRIMP(登録商標)、フィラメントワインディング、プルトルージョン、レジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することが出来る。
【0062】さらに、用途に応じて適当なストランド弾性率の本発明の炭素繊維を用いることができる。また本発明の炭素繊維によりJIS K7079記載の方法により測定される面内剪断強度、JIS K7077記載の方法により測定されるシャルピー衝撃試験強度、層間強度なども向上することができる。
【0063】
【実施例】以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0064】実施例における、炭素繊維、樹脂組成物、プリプレグの作成、各物性の測定方法については、次に示す方法で行った。
(1)炭素繊維の作製アクリロニトリル99.8mol%とイタコン酸0.2mol%からなる共重合体を紡糸原液として用い、乾湿式紡糸法により単糸繊度1.1dtex、フィラメント数12000のアクリル系プリカーサーを得た。紡糸後の繊維プリカーサーには1重量%の油剤を付着した。得られたプリカーサーを230〜270℃の空気中で延伸比1.15%で加熱処理し、耐炎化繊維を得た。ついで、窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を250℃/分とし、さらに1400℃まで焼成することで炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束に下記実施例、比較例で記載する表面処理を行った。表面処理に際し、アルカリ性電解液には2wt%の炭酸アンモニウム水溶液を、酸性電解液には10wt%の硫酸水溶液を用いた。その後、多官能エポキシ樹脂からなるサイジング剤を浸積法により付与し、サイジング付着量0.8%の炭素繊維を得た。
(2)樹脂組成物の作製下記原料をニーダーで混合して樹脂組成物を得た。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂 15重量部 (EPICLON(登録商標)830、大日本インキ化学工業(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 35重量部 (エピコート(登録商標)825、油化シェルエポキシ(株)製)
多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂 50重量部 (スミ−エポキシ(登録商標)ELM−434、住友化学工業(株)製)
ポリエーテルスルホン 15重量部 (‘VICTREX’(登録商標)PES 5003P、ICI PLC製)
ジアミノジフェニルスルホン 45重量部 (スミキュアーS、登録商標、住友化学工業(株)製)
(3)プリプレグの作製樹脂組成物をリバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布し、樹脂目付52g/m2の樹脂フィルムを作製した。次に、この樹脂フィルム2枚を、シート状に一方向に整列させた炭素繊維の両側から挟み込むようにして重ね合わせ、加圧しながら加熱して炭素繊維に樹脂を含浸させ、炭素繊維目付195g/m2の一方向プリプレグを得た。
(4)繊維強化プラスチック製部材の90°引張強度試験片の作製一方向プリプレグを12枚積層して得られる一方向複合材料から、オートクレーブ中で温度180℃、圧力290Paで2時間加熱して硬化させて、幅25.4mm、長さ250mm、厚み2.3mmの試験片を90゜方向が長手方向になるようにサンプルを作製した。
(5)繊維強化プラスチック製部材の90°引張強度吸湿高熱下の90゜引張強度は測定に先立ち、上記サンプルを71℃の温水に2週間浸水し、試験片の水分率を0.7〜1.4%とした。乾燥室温下の90゜引張強度はサンプルを室温(24℃、湿度50%)で48時間静置し、試験片の水分率を0.01〜0.4%とした。これらのサンプルを使用してASTM D3039に従い引張試験を行い、90゜引張強度を測定した。なお、吸湿高温下の90゜引張強度は75〜95℃、湿度40〜60%の雰囲気で、また乾燥室温下の90゜引張強度は18〜28℃、湿度40〜60%の雰囲気で測定した。また、ヘッド速度は2mm/minとした。
(6)炭素繊維のストランド引張強度、ストランド引張弾性率測定する炭素繊維に、ユニオンカーバイド(株)製 、ベークライト(登録商標)ERL−4221を1000g(100重量部)、三フッ化ホウ素モノエチルアミン(BF3・MEA)を30g(3重量部)及びアセトンを40g(4重量部)混合した樹脂組成物を含浸させ、次に130℃で、30分間加熱し、硬化させ、樹脂含浸ストランドを得た。樹脂含浸ストランド試験法(JIS R7601)に従い、引張強度と引張弾性率を求めた。
(7)炭素繊維の引張伸度JIS R7601に基づいて測定した。
(8)炭素繊維表面の表面比珪素濃度Si/C表面比珪素濃度Si/Cは、次の手順に従ってX線光電子分光法により求めた。 先ず、測定する炭素繊維束から、濃硫酸で1回、蒸留水で10回洗浄、乾燥することでサイジング剤などを除去後、適当な長さにカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、下記条件にて測定した。
【0065】・光電子脱出角度:35度・X線源:AlKα1,2・試料チャンバー内真空度:1×10-8Torr次に、測定時の帯電に伴うピークの補正のため、C1Sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせた。
【0066】次いで、C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、Si1sピーク面積[Si2P]は、98〜106eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。
【0067】表面比珪素濃度Si/Cは、上記Si2Pピーク面積[Si2P]、C1sピーク面積[C1s]の比、及び装置固有の感度補正値より、次式により求めた。
【0068】
Si/C=([Si2P]/[C1s])/(感度補正値)
なお、ここでは、測定装置として米国SSI社製モデルSSX-100-206を用いた。この装置固有のC1sピーク面積に対するSi2Pピーク面積の感度補正値kは0.85であった。
【0069】実施例1アルカリ性電解液中、10クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPa、ストランド引張弾性率が240GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0070】実施例2アルカリ性電解液中、80クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPa、ストランド引張弾性率が240GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0071】実施例3アルカリ性電解液中、120クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPa、ストランド引張弾性率が240GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有量は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0072】実施例4アルカリ性電解液中、600クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が3.3GPa、ストランド引張弾性率が240GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。表面処理が強かったため、従来の処理時に比べて炭素繊維のストランド引張強度が低下したが、その他の特性に変化はなかった。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有量は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0073】実施例5アルカリ性電解液中、80クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.0GPa、ストランド引張弾性率が230GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0074】実施例6アルカリ性電解液中、80クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が6.0GPa、ストランド引張弾性率が300GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0075】実施例7酸性電解液中、15クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が5.5GPa、ストランド引張弾性率が290GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0076】実施例8アルカリ性電解液中、80クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が3.8GPa、ストランド引張弾性率が590GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表1に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0077】比較例1アルカリ性電解液中、0クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表2に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有量は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0078】比較例2酸性電解液中、2クーロン/gで表面処理した炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表2に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有量は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0079】比較例3表面処理を全くしていない炭素繊維を用いて、前記した方法に従い、繊維方向におけるストランド引張強度が4.9GPaの炭素繊維を用い、マトリックス樹脂の含有率を35重量%としてプリプレグを作製した。このプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。このプリプレグを加熱し硬化させて得られた繊維強化プラスチックの乾燥室温下の90゜引張強度、吸湿高温下の90゜引張強度を表2に示す。得られた繊維強化プラスチックの炭素繊維含有量は硫酸分解法により測定すると67重量%であった。
【0080】
【表1】


【0081】
【表2】


【0082】表1、表2から明らかなように、実施例1〜4の、表面比珪素濃度Si/Cを0.001〜0.030とした繊維強化プラスチック用炭素繊維と硬化剤とエポキシ樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物を硬化されてなる繊維強化プラスチックは、前述の乾燥室温下の90°引張強度に対する吸湿高温下の90°引張強度の強度比率が、0.5〜0.8となり、かかる繊維強化プラスチックでは、乾燥室温下の90゜引張強度に対する吸湿高温下の90゜引張強度の強度低下が、従来になく小さいものを提供することができることがわかる。
【0083】また本発明の繊維強化プラスチック用炭素繊維を用いて得られたプリプレグの取り扱い性および品位は良好であった。
【0084】
【発明の効果】本発明によれば、乾燥・室温条件下だけでなく、吸湿・高温条件下であっても強度低下が少なく、優れた90゜引張強度を有する繊維強化プラスチックを提供することができるので、航空宇宙用途では、主翼、尾翼、フロアビームなどの航空機一次構造材、フラップ、エルロン、カウル、フェアリング、内装材などの二次構造材、ロケットモーターケース、人工衛星構造材など、さらにまた、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニス、バドミントン、スカッシュなどのラケット、ホッケーなどのスティック、スキーポールなど、さらに、一般産業用途では、自動車、船舶、鉄道車両などの移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補強筋、補修補強材料などの土木・建築材料などに好ましく用いられる素材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 X線光電子分光法により測定される表面比珪素濃度Si/Cが0.001〜0.030であることを特徴とする繊維強化プラスチック用炭素繊維。
【請求項2】ストランド引張強度が3.0〜6.5GPaである請求項1に記載の繊維強化プラスチック用炭素繊維。
【請求項3】ストランド引張弾性率が200〜500GPaである請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック用炭素繊維。
【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック用炭素繊維を硬化剤とエポキシ樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】 請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック用炭素繊維と、硬化剤とエポキシ樹脂とを少なくとも含む樹脂組成物が硬化されてなる繊維強化プラスチックであって、かつ、乾燥室温下の90°引張強度に対する吸湿高温下の90°引張強度の強度比率が、0.5〜0.8であることを特徴とする繊維強化プラスチック。
【請求項6】 繊維強化プラスチック中の炭素繊維含有率が40〜90重量%である請求項5に記載の繊維強化プラスチック。

【公開番号】特開2002−327374(P2002−327374A)
【公開日】平成14年11月15日(2002.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−35235(P2002−35235)
【出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】