説明

缶コーティング

コーティング組成物は、ベースコーティング樹脂と;上層コーティング樹脂とを含み、このベースコーティング樹脂は、微小圧痕と平面領域とを含み、下記の式、即ち:P×T>A×Tがこのコーティング組成物について満され、式中、Aは、微小圧痕の面積であり、Pは、平面領域の面積であり、Tは、ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;Tは、上層コーティング樹脂の引張り強さである。ある場合には、TがTよりも大きい。コーティング組成物を調製するための方法は、基材にベースコーティング樹脂を付着させ、ベースコーティング樹脂の上面に微小圧痕を施して、微小圧痕と、微小圧痕が施されていない平面領域とを含む、ベースコーティングの微小圧痕付き上面を設けること、ベースコーティングの微小圧痕付き上面に上層コーティング樹脂を付着させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が任意のおよび全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる、2010年1月21日に出願された米国特許出願第12/691,462号の利益を主張するものである。
【0002】
本出願の技術は、一般に、容器用のポリマーコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビス−フェノールA、またはBPAとも呼ばれる。)に対する非職業性人体曝露の主な源は、食品缶詰のコーティングからのものである。ラッカーまたはエナメルとしても知られる缶内コーティングは、缶の腐食、および金属味による食品の汚染を防止するために、缶の内面に付着される。これらのコーティングは缶の酸化を防止するので、コーティングは、缶の金属に対して良好な接着性を有するべきであり、コーティングの小穴または混在物がなくなるように金属表面上をうまく流れるべきであり、かつしばしば酸性食品に対する非常に長い時間の曝露に耐えられるよう十分な耐久性を有するべきである。缶をコーティングするプロセスでは、典型的には、エアレススプレーシステムを使用して(コーティングシステムに応じて)、1層または2層のコーティングをスプレーする。次いでこのコーティングを、高温で、例えば約210℃で熱硬化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
利用可能ないくつかのタイプの缶コーティングがあるが、多くは、食品の化学的性質との不適合性により、またはその法外に高いコストのため、非常に限定された適用例を有している。樹脂の選択は、典型的には、コストと、缶内部にある製品のタイプとを基にする。今日製造されている食品および飲料の缶の大多数は、BPAベースのフェノール−エポキシ樹脂でコーティングされる。しかしBPAは、これらの缶のコーティングから少量が液体および食品に移行し、それによって、食品を消費する人間に対して潜在的な健康上のリスクをもたらすことが示されている。このため、BPAによるコーティングは、それらの優れた性能特性にも関わらず嫌われるようになってきた。
【0005】
様々な缶の適用例におけるBPAに関し、提案された代替のコーティングは、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を含む。しかしPETベースのコーティング材料は、軟質で接着性が低いので、缶の加工中に損傷および剥離を被る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、コーティングされた基材を調製する方法は、ベースコーティング樹脂の上面に微小圧痕(micro-impressions)を施して、微小圧痕と圧痕が施されていない平面領域とを含むベースコーティングの微小圧痕付き上面を提供すること;このベースコーティングの微小圧痕付き上面に上層コーティング樹脂を付着させることを含む。いくつかの実施形態では、コーティングされた基材は、式:P×T>A×Tに従い;式中、Tは、ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;Tは、上層コーティング樹脂の引張り強さであり;Aは、微小圧痕の面積であり、Pは、圧痕が施されていない平面領域の面積である。いくつかの実施形態では、TはTよりも大きい。
【0007】
いくつかの実施形態では、この方法は、上層コーティング樹脂を付着させる前にベースコーティングの微小圧痕付き上面と溶媒とを接触させて、ベースコーティングの未反応のまたは過剰な材料を抽出することも含む。いくつかのそのような実施形態では、未反応のまたは過剰な材料は、ビスフェノールAを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロセスは、ベースコーティング樹脂を硬化して、硬化したベースコーティング樹脂を形成することを含み、この場合の微小圧痕処理は、硬化したベースコーティング樹脂の上面に穴を開けることを含む。その他の実施形態では、微小圧痕処理は、ベースコーティング樹脂の上面に微小圧痕をローリングしまたはスタンピングすることを含む。さらにその他の実施形態では、微小圧痕のローリングは、硬化したまたは硬化しているベースコーティング樹脂上に微小突起を含むパターニングデバイスをローリングすることを含む。その他の実施形態では、微小圧痕のスタンピングは、微小突起を含むスタンプを、硬化したまたは硬化しているベースコーティング樹脂に付着させることを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、基材がプラスチック、金属、またはガラスである。その他の実施形態では、基材は、缶を形成するための金属ブランクである。いくつかのその他の実施形態では、方法は、基材を缶に形成することを含む。
【0010】
別の態様では、コーティング組成物は、微小圧痕および平面領域を含むベースコーティング樹脂と;上層コーティング樹脂とを含み;但し:P×T>A×Tであり;式中、Tは、ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;Tは、上層コーティング樹脂の引張り強さであり;Aは、微小圧痕の面積であり、Pは、平面領域の面積である。いくつかの実施形態では、TはTよりも大きい。
【0011】
いくつかの実施形態では、ベースコーティング樹脂は、エポキシ樹脂を含む。いくつかのそのような実施形態では、エポキシは、2成分エポキシ樹脂である。その他のそのような実施形態では、エポキシ樹脂はビスフェノールAを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、またはこれらの任意の2種以上の樹脂のブレンド、または任意の2種以上のそのような樹脂のコポリマーである。いくつかのそのような実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂またはそのブレンドである。別の実施形態では、微小圧痕に、上層コーティング樹脂が充填される。
【0013】
いくつかの実施形態では、微小圧痕の面積は、約0.001μmから約1000μmである。いくつかのその他の実施形態では、Tは約50MPaから約100MPa、約55MPaから約90MPa、約60MPaから約85MPa、約65MPaから約80MPa、または約65MPaから約75MPaである。いくつかの実施形態では、Tが約65MPaから約75MPaである。その他の実施形態では、Tは、約70MPaから約110MPa、約75MPaから約105MPa、約75MPaから約100MPa、約80MPaから約95MPa、または約80MPaから約90MPaである。その他の実施形態では、Tが約80MPaから約90MPaである。
【0014】
別の態様では、缶は、微小圧痕および平面領域を含むベースコーティング層と;上層コーティング樹脂とを含む。缶のいくつかの実施形態では、P×T>A×Tであり;式中、Tは、ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;Tは、上層コーティング樹脂の引張り強さであり;Aは、微小圧痕の面積であり、Pは、平面領域の面積である。いくつかの実施形態では、TはTよりも大きい。
【0015】
いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、またはこれらの任意の2種以上の樹脂のブレンド、または任意の2種以上のそのような樹脂のコポリマーである。いくつかのそのような実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂またはそのブレンドである。別の実施形態では、微小圧痕に、上層コーティング樹脂を充填する。
【0016】
いくつかの実施形態では、微小圧痕の面積は、約0.001μmから約1000μmである。いくつかのその他の実施形態では、Tは約50MPaから約100MPa、約55MPaから約90MPa、約60MPaから約85MPa、約65MPaから約80MPa、または約65MPaから約75MPaである。いくつかの実施形態では、Tが約65MPaから約75MPaである。その他の実施形態では、Tは、約70MPaから約110MPa、約75MPaから約105MPa、約75MPaから約100MPa、約80MPaから約95MPa、または約80MPaから約90MPaである。その他の実施形態では、Tが約80MPaから約90MPaである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、一実施形態による、微小圧痕コーティング組成物を有する、コーティングされた缶を示す図である。
【図1B】図1Bは、Aとして示される図1Aの部分の詳細を示す図である。
【図2A】図2Aは、コーティング組成物の微小圧痕のデザインを示す図であり、P×Tの積がA×Tの積よりも大きいことを示す図である。
【図2B】図2Bは、コーティング組成物の微小圧痕のデザインを示す図であり、P×Tの積がA×Tの積よりも小さいことを示す図である。
【図3】一実施形態による、微小圧痕コーティング組成物を使用した、缶コーティングの方法を示す概略図である。
【図4A】図4Aは、実施形態による、三角形の微小圧痕パターンを示す図である。
【図4B】図4Bは、実施形態による、矩形の微小圧痕パターンを示す図である。
【図4C】図4Cは、実施形態による、六角形の微小圧痕パターンを示す図である。
【図5】いくつかの実施形態による、微小圧痕および平面状の表面積を決定するための、最小反復単位を決定する図である。
【図6A】図6Aは、微小圧痕のある表面の清浄化を示す図である。
【図6B】図6Bは、微小圧痕のない表面の清浄化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明および特許請求の範囲に記載されている例示的な実施形態は、限定を意味するものではない。本明細書に提示される対象の精神または範囲から逸脱することなく、その他の実施形態を利用してもよく、その他の変更を行ってもよい。
【0019】
BPAなどの抽出可能な量の毒性成分を含むベースコーティング層上に、無毒性の第2のコーティングが重なっている、2層コーティングが提供される。そのような2層コーティングは、摂取される液体または食材が保存される容器の内面をコーティングするのに役立てることができる。ベースコーティング層は、第2のコーティング層の付着前に毒性成分が抽出されるようより広い表面積を提供することができ、かつ/または、ベースコーティング層に第2のコーティング層のさらなる接着を行うこともできる、微小圧痕を含む。ベースコーティングおよび第2のコーティング層に使用される材料は、この第2のコーティング層がベース層から剥離される場合には、微小圧痕に接触する(即ち、塞ぐ)第2のコーティング層の部分が第2のコーティング層から引き剥がされ、それによって「栓」としてベースコーティング層の微小圧痕内に残るように選択される。栓としての部分が微小圧痕内に残るように裂けることによって、第2の層は、剥離後であっても、ベースコーティング層からのかつ液体または食材への毒性成分のさらなる抽出に対して何らかの保護を提供する。
【0020】
このように一態様では、コーティング組成物が提供される。コーティング組成物は、プラスチック、金属、ガラスなどの様々な基材をコーティングするのに役立てることができる。組成物は、ベースコーティングが基材から剥がれないようにまたは持ち上がらないように、基材に十分接着するベースコーティング樹脂の使用を提供する。しかし、そのようなベースコーティング樹脂は、コーティング樹脂に接触する溶液(即ち、液体または食材)によって抽出されることが可能な化学物質を含む傾向がある。したがって、そのような抽出が生じるのを部分的にまたは完全に防止する、上層コーティングも提供される。
【0021】
ベースコーティング樹脂は、当技術分野で公知のように、いくつかの実施形態ではエポキシコーティングである。いくつかの実施形態では、エポキシコーティングは、2成分エポキシコーティングである。そのようなエポキシコーティングは、金属、プラスチック、およびガラスなどの基材に良好な接着をもたらす。いくつかの実施形態では、エポキシコーティングは、金属基材に対して良好な接着をもたらす。いくつかの実施形態では、ベースコーティング組成物またはエポキシコーティングはBPAを含有する。いくつかの実施形態によれば、エポキシ樹脂は、缶コーティングに従来から使用されているものである。
【0022】
ベースコーティング材料は、引張り強さTを有する。様々な実施形態によれば、Tは約50MPaから約100MPa、約55MPaから約90MPa、約60MPaから約85MPa、約65MPaから約80MPa、または約65MPaから約75MPaである。その他の実施形態では、Tが約65MPaから約75MPaである。
【0023】
上層コーティング樹脂は、いくつかの実施形態では、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリウレタン樹脂、または任意の2種以上のそのような材料の混合物、ブレンド、もしくはコポリマーであってもよい。いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、またはこれらのブレンドもしくはコポリマーである。その他の実施形態では、上層コーティング樹脂は、ポリエチレンテレフタレートである。そのような上層コーティング樹脂は、無毒性である傾向があり、より毒性のある、しかし接着してより堅牢なベースコーティング樹脂に対して障壁層を提供することができる。
【0024】
上層コーティング材料は、引張り強さTを有する。様々な実施形態によれば、Tは約70MPaから約110MPa、約75MPaから約105MPa、約75MPaから約100MPa、約80MPaから約95MPa、または約80MPaから約90MPaである。その他の実施形態では、Tが約80MPaから約90MPaである。
【0025】
ベースコーティング樹脂は、微小圧痕により任意選択でパターニングされる。いくつかの実施形態によれば、微小圧痕は、上層コーティング樹脂を付着させる前にBPAなどの毒性材料をベースコーティング樹脂からより完全に抽出(即ち、洗浄)できるように、ベースコーティング樹脂にさらなる表面積を提供する。その他の実施形態によれば、微小圧痕は、上層コーティング樹脂をベースコーティング樹脂に接触することができるさらなる表面積を提供し、それによって、上層コーティング樹脂とベースコーティング樹脂との接着は、上層コーティングがベース層コーティングの微小圧痕に充填(即ち、「プラッギング」または「相互嵌合」)されることによって増大する。ベースコーティング樹脂の微小圧痕のそれぞれは、表面積Aを占める。本明細書で使用される、各微小圧痕の表面積は、通常ならベースコーティング層の表面積であった可能性がある面積である。いくつかの実施形態では、微小圧痕の表面積は、約0.0001μmから約100μm、約0.001μmから約800μm、約0.001μmから約500μm、約0.01μmから約300μm、または約0.01μmから約100μmである。
【0026】
いくつかの実施形態では、微小圧痕は、深い微小圧痕である。本明細書で使用される、深いは、開口の深さの長さが、開口の辺の長さ(細孔が正方形/長方形などである場合)または直径(細孔が円である場合)よりも長いことを意味する。任意選択で、微小圧痕は、ベースコーティング樹脂の表面に、不連続な反復パターンとして提供される。あるいは微小圧痕は、ベースコーティング樹脂の表面に、ランダムに間隔を空けて配置される。
【0027】
ベースコーティング樹脂は、任意選択で、非圧痕領域におけるベースコーティング層の表面に、平面領域を有する。そのような平面領域は、表面積Pを有する。下記の関係から明らかなように、平面表面積Pを最小化することが、いくつかの実施形態によれば望ましい。
【0028】
図1は、缶の内面に存在するコーティング組成物20を有する、缶10の図を提供する。図1Bは、図1Aの円で囲まれた領域30の詳細を示す図である。図1Bに示されるように、缶15の金属は、微小圧痕55を有するベースコーティング50でコーティングされ、上層コーティング60が微小圧痕を充填している。平面領域56も示されている。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、ベースコーティング樹脂の引張り強さTは、上層コーティング樹脂の引張り強さTよりも大きい。その他の実施形態では、下記の関係が適用され、即ち:PとTとの積が、AとTとの積よりも大きい。いくつかの実施形態によれば、微小圧痕は、この関係に従ったままで可能な限り大きい。その他の実施形態では、Pを最小化することは、コーティングに対する関係を維持するのを助ける。この関係に従えば、ベースコーティングからの上層コーティングの剥離によって、上層コーティングから提供された微小圧痕を充填する上層コーティングの部分がもたらされる。この結果、微小圧痕は、上層コーティングの充填剤部分によって「栓がなされた」ままであり、それによって、それらの保護作用が継続し、容器の内容物が、ベース層に接触しかつ通常ならベースコーティングから内容物へと漏れる可能性のある残留BPAに接触するのを防止する。剥離は、外力を加えることによって、または樹脂コーティング内の応力によって引き起こすことができる。そのような関係を、図2に示す。例えば図2Aでは、PとTとの積がAとTとの積より大きいケースが示されており、上層コーティング220がベースコーティング210から剥がされるとき、上層コーティング220の栓225が微小圧痕215内に残されている状態が示されている。逆の関係が真であったなら、上層コーティング240がベースコーティング層230から剥がれて、ベースコーティング層230の小片233を含有する微小圧痕が除去されて、保護されていないコーティング235が剥き出しになるという、図2Bに示される望ましくない状況が生じたであろう。
【0030】
別の態様によれば、コーティング組成物を調製するための方法が提供される。一実施形態では、ベースコーティング樹脂が基材に付着され、ベースコーティング樹脂の上面には任意選択で微小圧痕が施され、上層コーティング樹脂が、ベースコーティング樹脂の微小圧痕付き上面に付着される。例えば、様々な実施形態によるコーティング缶360の形成体が形成されている、図3の概略図を参照されたい。上述のように、ベースコーティング樹脂310は、金属表面305に付着されるエポキシ樹脂であってもよい。微小圧痕320は、樹脂を硬化する前または後に、様々な技法によって付着することができる。そのような技法には、当業者知られるものの中でも、硬化した樹脂に各圧痕を開けること、周囲温度または高温のいずれかで圧痕を形成するためにプレス330を使用すること、硬化プロセス335中に型枠を使用すること、またはナノインプリントリソグラフィを使用することが含まれるが、これらに限定するものではない。本明細書で使用される「樹脂を硬化すること」は、室温で基板上を流れないコーティングとして樹脂を固めることを指す。硬化後、微小圧痕が施されたベースコーティング層311を洗浄340して、ベースコーティング層311中に存在する可能性のある毒性物質を除去する。次いで上層コーティング層350を付着させて、微小圧痕が施されたベースコーティング層311上の微小圧痕に充填する。次いでコーティングされた缶360を形成することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、微小圧痕は、プレスを使用して形成される。微小圧痕を有するプレスは、基材上の硬化されたまたは硬化している樹脂に微小圧痕をプレスするのに使用することができる。プレスは、ロールエンボス加工またはスタンピングのためのローラプレスであってもよい。十分な圧力下、硬化されたまたは硬化しているベースコーティング樹脂は、微小圧痕が形成されるように得ることができる。熱は、そのような方法において硬化されたベースコーティング樹脂を軟化させるために、加えることができる。あるいは、ベースコーティング樹脂が硬化するにつれて、微小圧痕が施された表面を有するように成型されるように、微小突起を有する型枠または型を使用してもよい。あるいは、ナノインプリントリソグラフィおよびローラを使用して、微小圧痕を形成してもよい。そのような技法は、表面積の増大が可能になるようにナノレベルの凹凸を利用することができる。
【0032】
様々な実施形態によれば、微小圧痕は、使用される方法と、プレス、ローラ、またはスタンプの微小突起の形状とに依存する形状を有する。例えば形状は、円形、または三角形、正方形、四角形、もしく六角形などの多角形であって、そのいくつかが図4に示されるものであってもよいが、これらに限定するものではない。いくつかの実施形態では、そのような形状は、P×T>A×Tの関係に従うアレイとして提供することができる。その他の実施形態によれば、そのような形状は、ベースコーティング樹脂の平面部分の面積を最小限に抑える稠密なアレイとして提供することができ、したがってP×T>A×Tの関係を支持するものである。例えば図5において、上面図は、微小圧痕面積520(Amm)および平面面積530(Pmm)を容易に計算するための、「最小反復単位」510を示す。最小反復単位は、任意の形状と、その形状の表面積の値を設定することによって、決定することができる。その他の実施例では、順次繰り返される表面上の適切な形状をピックアップすることができ、表面積を計算することができる。次いで表面積および引張り強さの両方に基づいて、多孔質領域と平面領域との表面積の比率を計算することができる。その他の実施形態では、微小圧痕は、ベースコーティング樹脂において線、即ち溝の形をとることができる。いくつかの実施形態では、微小圧痕または凹凸が、穴の形状をしている。
【0033】
いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂の付着前に、ベースコーティング樹脂を溶媒に接触させて、未反応のまたは過剰な成分をベースコーティングから抽出する。いくつかの実施形態では、未反応のまたは過剰な成分は毒性である。例えば、ベースコーティング樹脂が遊離BPAを含有する場合、ベースコーティングは、硬化後に、適切な溶媒を用いた抽出に供される。適切な溶媒には、全体として硬化されたベースコーティング樹脂の完全性、ベースコーティング樹脂の接着性に影響を及ぼすことなくBPAが容易に可溶であるもの、および上層コーティング樹脂の付着前に容易に除去されるものが含まれる。そのような溶媒には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル、または任意の2種以上のそのような溶媒の混合物が含まれるが、これらに限定するものではない。あるいは、ベースコーティング樹脂を清浄化してもよく、したがって少なくともいくらかの未反応のまたは遊離したBPAを除去することができる。そのような清浄化は、超音波清浄化技法を使用して実施してもよい。図6に示されるように、微小圧痕615は、圧痕が施されていない表面620に比べ、金属基材605上のベースコーティング樹脂610に広い表面積をもたらし、その結果、ベースコーティング樹脂からのBPAなどの毒素635の清浄化または洗浄630は、より良好に促進するようになる。
【0034】
方法のいくつかの実施形態によれば、ベースコーティング樹脂の引張り強さTは、上層コーティング樹脂の引張り強さTよりも大きい。その他の実施形態によれば、PとTとの積は、AとTとの積よりも大きく、但しAは、微小圧痕の面積であり;Pは、圧痕が施されていない平面領域の面積である。いくつかの実施形態では、ベースコーティングがエポキシであり、上層コーティングがPETである。
【0035】
いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂は、当技術分野で一般に使用される方法に従い付着される。例えば、スピンコーティング、ドローコーティング、スプレー、ブラッシング、またはその他の一般に使用される技法を使用してもよい。いくつかの実施形態では、上層コーティング樹脂の被膜が、熱圧着結合を使用してベースコーティング樹脂を覆っておりまたはこのベースコーティング樹脂に積層されている。そのような結合では、ベース樹脂コーティングの表面の凹凸によって、缶製造プロセス中に上層コーティング樹脂が剥落しまたは剥離する可能性が低下する。例えば表面の凹凸は、缶形成中の、プレスおよび深絞り(deep drawing)中の剥落の可能性を低下させる。さらに、上述のように、上層コーティング樹脂の剥離が生じたとしても、微小圧痕に浸入した上層コーティング樹脂まで剥落するようになるとは考えられない。言い換えれば、微小圧痕は、A、T、P、およびTの関係により充填されたままである。微小圧痕が充填されたままであるので、BPAなどのベースコーティング樹脂中の毒素は、溶出するのが防止されまたは妨害される。
【0036】
様々な実施形態によれば、コーティング組成物を調製する方法で使用される基材には、プラスチック、金属、またはガラスの1種または複数が含まれるが、これらに限定するものではない。いくつかの実施形態では、基材は、BPAを含むプラスチックであってもよく、その場合、基材およびベースコーティング層が同じであってもよい。いくつかの実施形態では、基材は、缶を形成するための金属ブランクである。その他の実施形態では、方法は、基材を缶に形成することも含む。基材が金属である場合、基材を缶に形成することは、缶への金属の深絞りを含んでいてもよい。このように、別の態様では、(1種または複数の)コーティング組成物でコーティングされた金属缶が提供される。
【0037】
本明細書で使用される「約」は、当業者に理解されるであろうし、それが使用される文脈に応じてある程度まで変わるであろう。当業者に明らかではない用語が使用される場合、それが使用される文脈の下で、「約」は特定の用語の±10%までを意味することになる。
【0038】
本明細書に例示的に記述される実施形態は、本明細書では特に開示しなかった任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定が存在しない状態で、適切に実施することができる。したがって例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、広範な意味で読まれるものとし、限定するものではない。さらに、本明細書で用いられる用語および表現は、説明のためのものであって限定を意味するものではない用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、図示され記述される特徴のいかなる均等物もまたはその部分をも排除する意図はなく、特許請求の範囲に記載された技術の範囲内での様々な変更が可能であると認識される。さらに、「本質的に〜からなる」という文言は、特に列挙された要素と、特許請求の範囲に記載された技術の基本的なおよび新規な特徴に著しい影響を及ぼさない追加の要素を含むことが理解されよう。「〜からなる」という文言は、指定されていない任意の要素を除外する。
【0039】
均等物
ある実施形態について例示し記述してきたが、下記の特許請求の範囲で定義されるそのより広範な態様における技術から逸脱することなく、当業者によりそこで変更および修正を行うことができることを、理解すべきである。
【0040】
本開示は、本出願に記述される特定の実施形態に限定するものではない。多くの修正および変更を、当業者に明らかにされるように、その精神および範囲から逸脱することなく行うことができる。この開示の範囲内にある、機能的均等物である方法および組成物は、本明細書に列挙されるものに加え、前述の説明から当業者に明らかにされよう。そのような修正および変更は、添付される特許請求の範囲内に包含されるものとする。本開示は、添付される特許請求の範囲が与えている均等物の全範囲と共に、添付さえる特許請求の範囲の用語によってのみ限定されるものである。この開示は、特定の方法、試薬、化合物、組成物、または生体系に限定するものではなく、当然ながら変えることができると理解される。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を記述するためのものであり、限定を意図するものではないことも理解される。
【0041】
さらに、開示の特徴または態様がマーカッシュグループとして記述される場合、当業者なら、それによってこの開示が、マーカッシュグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループとして記述されることも理解されよう。
【0042】
当業者に理解されるように、任意のおよび全ての目的で、特に書面にされた説明を提供することに関し、本明細書に開示される全ての範囲は、任意のおよび全ての可能性ある部分範囲とその部分範囲の組合せも包含する。任意の列挙された範囲は、十分に記述的であり、かつ同じ範囲を少なくとも均等な2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解可能であることを、容易に理解することができる。非限定的な例として、本明細書に論じられる各範囲は、下部3分の1、中部3分の1、および上部3分の1などに容易に分解することができる。やはり当業者に理解されるように、「〜まで」、「少なくとも」、「〜よりも大きい」などの全ての言語は、列挙された数を含み、かつ上記にて論じられたように部分範囲に引き続き分解することができる範囲を指す。最後に、当業者に理解されるように、ある範囲は、個々のメンバーのそれぞれを含む。
【0043】
その他の実施形態については、下記の特許請求の範囲に記述する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小圧痕および平面領域を含むベースコーティング樹脂と;
上層コーティング樹脂と
を含むコーティング組成物であって、
P×T>A×Tであり、
式中、Tは、前記ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;
は、前記上層コーティング樹脂の引張り強さであり;
Aは、前記微小圧痕の面積であり;
Pは、前記平面領域の面積である、コーティング組成物。
【請求項2】
がTよりも大きい、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ベースコーティング樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールAである、請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記上層コーティング樹脂が、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、またはこれらの任意の2種以上の樹脂のブレンド、または任意の2種以上のそのような樹脂のコポリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記上層コーティング樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂またはそのブレンドである、請求項5に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記微小圧痕に、前記上層コーティング樹脂が充填される、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記微小圧痕の面積が、約0.001μmから約1000μmである、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
が、約50MPaから約100MPa、約55MPaから約90MPa、約60MPaから約85MPa、約65MPaから約80MPa、または約65MPaから約75MPaである、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
が約65MPaから約75MPaである、請求項9に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
が、約70MPaから約110MPa、約75MPaから約105MPa、約75MPaから約100MPa、約80MPaから約95MPa、または約80MPaから約90MPaである、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
が約80MPaから約90MPaである、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
ベースコーティング樹脂の上面に微小圧痕を施して、微小圧痕と、微小圧痕が施されていない平面領域とを含む、ベースコーティングの微小圧痕付き上面を設けること;
前記ベースコーティングの前記微小圧痕付き上面に上層コーティング樹脂を付着させること
を含む、コーティングされた基材を調製する方法であって、
P×T>A×Tであり、
式中、Aは、前記微小圧痕の面積であり;
Pは、圧痕が施されていない平面領域の面積であり;
は、前記ベースコーティング樹脂の引張り強さであり;
は、前記上層コーティング樹脂の引張り強さである
方法。
【請求項14】
前記上層コーティング樹脂の付着前に、前記ベースコーティングの前記微小圧痕付き上面を溶媒に接触させて、前記ベースコーティングの未反応のまたは過剰な材料を抽出することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記未反応のまたは過剰な材料がビスフェノールAを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ベースコーティング樹脂を硬化して、硬化したベースコーティング樹脂を形成することをさらに含み、前記微小圧痕を施すことが、前記硬化したベースコーティング樹脂の前記上面に穴を開けることを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記微小圧痕を施すことが、前記ベースコーティング樹脂の前記上面に微小圧痕をローリングしまたはスタンピングすることを含む、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ベースコーティング樹脂を硬化して、硬化したベースコーティング樹脂を形成することをさらに含み、前記微小圧痕を施すことは、前記硬化したまたは硬化しているベースコーティング樹脂に、微小突起を含むスタンプを付着させる、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記基材が、缶を形成するための金属ブランクである、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
微小圧痕および平面領域を含むベースコーティング層と;
上層コーティング樹脂と
を含む缶。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2013−517156(P2013−517156A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548928(P2012−548928)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/039570
【国際公開番号】WO2011/090503
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509348786)エンパイア テクノロジー ディベロップメント エルエルシー (117)
【Fターム(参考)】