説明

耐久性物品の製造方法

【課題】雨および砂の浸蝕の全期間で耐えることができ、必要な波長帯において透過性であり、かつ高速航空機における使用に耐えうる、20μmを超える厚いアルミナコーティングを硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品上に堆積させる方法を提供する。
【解決手段】a)硫化亜鉛またはセレン化亜鉛を含む物品を提供し;並びに、b)マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングによって、20μmを超える厚みのアルミナの層を硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に、60Å/分以上の堆積速度で堆積させる;ことを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2009年9月18日に出願された米国仮出願第61/276,983号に対して、35U.S.C.119(e)の下での優先権の利益を主張し、この仮出願の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の耐久性物品を製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、アルミナの厚いコーティングを有する硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の耐久性物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化亜鉛およびセレン化亜鉛のような赤外物質は、可視から長波長赤外(LWIR)バンド領域、すなわち、0.6μm〜14μmでの、その高い透過率のせいで、遷音速に到達しうる高速航空機の窓およびドームのような赤外(IR)物品のために非常に望ましい物質である。一般に、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛を通る透過率は約60%以上であり得る。しかし、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛は比較的柔らかくもあり、このことはそれらを高速航空機に不適切にする。このような物品は必要とされる波長帯における高い透過率を提供するだけでなく、雨および砂の衝突に耐えなければならない。しかし、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛は典型的には、雨および砂の衝突下でかなりの損傷を被り、このことは、結果的に透過率の低下および散乱の実質的な増大をもたらす。散乱は、光または移動する粒子のような放射線が、これらが通過する媒体中の局在化した一以上の不均一によって、直線軌道からそらされる一般的な物理プロセスである。一般に、約25.4mm/時の雨量で降り、約210m/秒の速度でサンプルに衝突する、2mmの名目液滴直径の人工雨フィールドにおいて、約20分間の曝露時間で、雨による浸蝕試験が行われる。典型的な試験は、オハイオ州、ダイトン、ライトパターソン空軍基地でのダイトン大学研究所により行われる回転腕レインリグ(Whirling Arm Rain Rig)試験である。硫化亜鉛およびセレン化亜鉛について行われた試験は、上記雨フィールドに5分以上曝露したときに、これらの物質が顕著な損傷を受けたことを示した。
【0003】
硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の耐久性を改良するために、ダイヤモンド様炭素、アルミナ、窒化ホウ素、ガリウムおよびホスフィドのような硬質で耐久性の物質のコーティングが、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛の赤外窓に適用される。コーティング物質の選択は目的の具体的な透過率帯に依存する。中波領域、すなわち、3μm〜5μmでは、好ましいコーティング物質は透明アルミナである、というのは、それは比較的硬質かつ耐久性であり、さらに雨および砂の浸蝕に対して高度な抵抗性を有するからである。さらに、その屈折率は硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の屈折率よりも小さく、このことは、コーティングされていない硫化亜鉛およびセレン化亜鉛よりも高い透過率を生じさせうる。また、アルミナの熱膨張係数は硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の熱膨張係数に近い。このことは、20μm以下の範囲のアルミナ厚みで、コーティング界面における過剰な圧縮応力および引っ張り応力を生じさせることなく、広い基体温度範囲にわたるアルミナ堆積を許容する。
【0004】
硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体上に20μm以下の厚みを有するアルミナコーティングを生じさせるために、いくつかの従来の堆積プロセスが使用されてきた。従来のプロセスの例は、イオンアシスト電子線蒸発プロセスおよびスパッタリングのような物理蒸着、並びに化学蒸着プロセス(CVD)である。しかし、このようなプロセスは、望まれる透過率を維持しつつ雨および砂に対する曝露に耐えることができる、20μmを超える厚みを有するアルミナを堆積させるのには成功していなかった。さらに、20μmを超える厚みを有するアルミナコーティングは信頼性がないと認められてきた。接着が弱く、コーティング厚みが不均一であった。このことは、アルミナコーティングと硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体との界面での過剰な応力の発生のせいであると考えられた。別の問題はコーティングされるべき物品のサイズである。物品が大きくなるにつれて、均一な厚みのコーティングを有し、基体に確実に接着するアルミナコーティングを適用するのがより困難になる。20μm以下の薄いコーティングのようなアルミナコーティングを堆積させるために使用されるプロセスパラメータは、より厚いコーティングを同じサイズの基体上に堆積させるための許容可能なパラメータを提供するために必ずしも外挿されうるわけではない。相対的に小さな、すなわち、直径約10μm以下の基体上にコーティングを堆積させるために使用されるパラメータは、より大きな基体上の同じ厚みのコーティングを堆積させるためのパラメータを提供するために必ずしも外挿されうるわけではない。サイズに加えて、物品の表面上の非従来的な角度のような物品の形状は困難性をもたらす場合がある。コーティング厚が増大する場合に、またはコーティングが堆積される物品のサイズが変化する場合に、物質の多くの物理的特性が関連する。典型的には、コーティング厚が変化する場合、並びに、物品のサイズが変化する場合に、効果を予想できない引っ張り応力および圧縮応力のような応力が関連する。
【0005】
国際公開第97/13169号およびR.M.サリバン(Sullivan)、A.フェルプス(Phelps)、J.A.キルシュ(Kirsch)、E.A.ウェルシュ(Welsh)およびD.C.ハリス(Harris)Erosion Studies of Infrared Dome Materials(赤外ドーム物質の浸蝕試験)Proc.SPIE、第6545巻、1−11(2007)の文献に開示されているイオンアシスト電子線蒸発プロセスは、アルミニウムまたはアルミナターゲットを蒸発させるために電子線を使用する。アルミナでコーティングされるべき硫化亜鉛基体は固定装置に取り付けられ、2つの軸の周りに回転、すなわち、惑星自転およびスピニングさせられ、均一なコーティング堆積物を得る。アルゴンイオンビームは基体に衝突し、コーティング堆積中のエネルギーを提供する。このプロセスは0.5ミクロン/時未満の堆積速度と非常にゆっくりしており、数十ミクロンの厚み範囲の厚いコーティングを適用するには何週間もかかる。さらに、20μmを超えるコーティング厚の窓の生産は高価であり、かつ過剰なコーティング応力がコーティング剥離を導くのでこのプロセスによって達成するのが困難である。イオンアシスト電子線蒸発プロセスを用いて適用された30μmのアルミナコーティングでコーティングされた硫化亜鉛は回転腕レインリグにおいて雨による浸蝕について試験された。曝露の数分後にコーティングは剥離し、全部で20分間の雨への曝露に耐えられなかった。R.M.サリバンらを参照。この方法に関連する別の問題は、従来のコーティングチャンバー内で、大きな、すなわち、直径15cm超の硫化亜鉛ドームにアルミナコーティングを適用することにおいて遭遇する困難性である。これらのドームは急な曲率を有するので、コーティングは中心の小さな領域、すなわち、直径10cm未満には充分に接着するが、堆積の急な角度、すなわち45度を超える角度のせいで外側の部分では剥離する。さらに、コーティングの厚みが20μmを超えると、アルミナコーティングと硫化亜鉛基体との界面において圧縮応力および引っ張り応力が生じ、結果的にコーティングの剥離を生じさせると考えられる。
【0006】
スパッタリングは、アルミナコーティングを硫化亜鉛上に堆積させるために使用されてきた別の物理蒸着プロセスである。スパッタリングプロセスは蒸発プロセスよりも高いエネルギーを提供し、蒸発コーティングよりも密でかつ硫化亜鉛基体に対してより良好に接着するコーティングを提供する。しかし、コーティングは典型的には、その物質中のより大きな散乱のせいで茶色の色彩を有し、これは典型的には50%未満の低い透過率を提供する。コーティング堆積速度も低く、すなわち、0.5ミクロン/時未満であり、20μmを超える厚みを達成するには延長された堆積時間を必要とする。また、このような堆積厚みについて、剥離の可能性も高い。このこともやはり、コーティングと硫化亜鉛基体との界面での圧縮応力および引っ張り応力のせいであると考えられる。
【0007】
化学蒸着すなわちCVDは400〜1000℃の温度範囲でアルミナコーティングを堆積させるのに使用される別のプロセスである。硫化亜鉛は約550℃の温度で昇華し始めるので、550℃未満の温度での堆積を要求するCVDプロセスが必要とされる。当該技術分野における作業者は、アルミニウムアセチルアセトナートが酸素および水蒸気と反応させられて、アルミナコーティングを生じさせる熱CVDプロエスを試みてきた。しかし、これらの努力は硫化亜鉛上に高品質のアルミナコーティングを生じさせなかった。堆積されたコーティングは、比較的薄く、すなわち、10μm未満の厚みで、不均一であり、かつ高い値の赤外透過率を生じさせず、すなわち60%未満であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第97/13169号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R.M.サリバン(Sullivan)、A.フェルプス(Phelps)、J.A.キルシュ(Kirsch)、E.A.ウェルシュ(Welsh)およびD.C.ハリス(Harris)Erosion Studies of Infrared Dome Materials(赤外ドーム物質の浸蝕試験)Proc.SPIE、第6545巻、1−11(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体上にアルミナコーティングを堆積させる公知の方法があるが、雨および砂の浸蝕の全期間で耐えることができ、必要な波長帯において透過性であり、かつ高速航空機における使用に耐えうる、20μmを超える厚いアルミナコーティングを硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品上に堆積させる方法についての必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一形態においては、方法は、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛を含む物品を提供し;並びに、マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングによって、20μmを超える厚みのアルミナの層を硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に、60Å/分以上の堆積速度で堆積させる;ことを含む。
別の形態においては、方法は、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛を含む物品を提供し;1種以上のモノマーを含む組成物の少なくとも1層と20μmを超える厚みのアルミナの少なくとも1層との交互の層を、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に堆積させ;並びに、組成物を硬化させる;ことを含む。
さらなる形態においては、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛の物品は、20μm以上の厚みを有するアルミナの層を含み、アルミナの層は、マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングプロセスによって硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に、60Å/分以上の速度で堆積される。
さらに別の形態においては、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛の物品は、硬化した組成物の少なくとも1層と20μm以上の厚みを有するアルミナの少なくとも1層との交互の層を硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に含み、アルミナの層はマイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングプロセスによって、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に60Å/分以上の速度で堆積される。
【発明の効果】
【0012】
マイクロ波プラズマ工程によってアシストされるマグネトロンスパッタリング工程は高い堆積速度、広い堆積領域および低い基体加熱をもたらす。広い領域の能力は重要である、というのは、このことは大きな部品のコーティングを可能にし、または多くの小さい部品を一度の運転でコーティングすることができ、このことが部品あたりの製造コストを低下させる。コーティングと基体との間の熱膨張の不適合に起因する応力を低減させるために低い基体温度が望まれる。本方法は、これら2つの工程が実質的に同時に行われ、0.35μm〜8μmの可視波長範囲および赤外波長範囲における透過性を有する化学量論量アルミナコーティングを提供するものである。本方法は、所望の光学特性を備えた厚いアルミナ層を提供するために、各工程を別々に最適化することも許容する。1種以上のモノマーを含む組成物が硫化亜鉛およびセレン化亜鉛上にコーティングされることができ、下地硫化亜鉛またはセレン化亜鉛を雨による損傷からさらに保護することを提供できる。アルミナおよびアルミナと硬化した組成物とでコーティングされた硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品は、高速航空機における精密な電子部品を保護するための窓およびドーム、スキャナーにおける窓、時計並びに光学用途、例えば、耐久性レンズとして、並びに赤外物質が望まれる他の物品において使用されうる。
【0013】
マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリング方法は、コーティング界面において硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品に接着する20μm以上の厚いアルミナの層の形成を可能にする。本方法は、また、多くの従来プロセスよりもより密なアルミナコーティングを硫化亜鉛およびセレン化亜鉛上に提供する。マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリング方法は、界面での過剰な応力を生じさせることなく、広い基体温度範囲にわたって、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品上へのアルミナの堆積を可能にする。20μm以上の厚みのアルミナコーティング硫化亜鉛およびセレン化亜鉛物品は、これら物品が雨および砂の衝突に耐えうる様な耐久性であり、かつ所望の波長範囲において高い透過率を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書を通じて使用される場合、文脈が他に示さない限りは、次の略語は以下の意味を有する:℃=摂氏度;UV=紫外;IR=赤外;MWIR=中波長赤外;LWIR=低波長赤外;gm=グラム;L=リットル;mL=ミリリットル;m=メートル;cm=センチメートル;mm=ミリメートル;μm=ミクロン;nm=ナノメートル;cc=立方センチメートル;min.=分;sec.=秒;hr=時;Torr=1mmHg=133.322368パスカル;sccm=標準立方センチメートル/分;eV=電子ボルト;kW=キロワット;kHz=キロヘルツ;GHz=ギガヘルツ;psi=ポンド/インチ=0.06805atm(気圧);1atm=1.01325×10ダイン/cm;DC=直流;およびAC=交流。
【0015】
用語「モノマー」は1種以上の他の分子と化合してポリマーを形成することができる分子をいう。用語「化学量論」とは、化学反応の要素が明確な比率で化合し、反応物質の各要素の量が生成物における各要素の量と同じであることを意味する。
【0016】
他に示されない場合には、全てのパーセンテージは重量パーセンテージであり、乾燥重量(溶媒を含まない重量)を基準とする。全ての数値範囲は境界値を含み、このような数値範囲が合計で100%になることに制約されることが論理的である場合を除いて任意に組み合わせ可能である。
【0017】
アルミナは、マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリング(microwave assisted magnetron sputtering)によって、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛の表面上に隣接して60Å/分以上の速度で化学量論的に堆積され、20μmを超えるアルミナコーティングを形成する。硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体の表面は、それを120/80またはそれより良好なスクラッチ/ディグ比までグラインディング(grinding)、ラッピング(lapping)およびポリッシング(polishing)することによって、コーティングのために処理される。従来の方法が使用されうる。典型的には、グラインディングは、ダイヤモンド、炭化ホウ素、窒化ホウ素、窒化炭素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはこれらの混合物のような研磨剤粒子を用いて行われる。粒子サイズは0.005μm〜30μmの範囲であり得る。ダイヤモンドペーストが使用される場合には、粒子サイズは2μm以下の範囲であり得る。このような研磨剤粒子は水性スラリーの1重量%〜30重量%を構成しうる。ダイヤモンドホイールも使用されうる。ラッピングおよびポリッシングは、ラッピングプレートおよびポリッシングパッドを使用するような従来の装置を用いて行われうる。ラッピングプレートが使用される場合には、そのプレートは300m/分〜3000m/分の表面速度でターンしうる。ラッピングおよびポリッシングは1時間〜10時間、1psi〜15psiの圧力で行われうる。ラッピングおよびポリッシングに使用される研磨剤はグラインディングに使用されるのと同じである。次いで、基体は、当該技術分野において周知のアセトンおよびメチルアルコールクリーニング溶媒のような有機洗浄剤で洗浄される。
【0018】
次いで基体は、典型的に1.2mの直径を有する反応性スパッタリングドラムコーター内に取り付けられ、処理された表面はスパッタリングドラムコーターまたはコーティングチャンバーの内側を向く。使用されうるスパッタリングドラムコーターのある種の例は、MicroDyn商標(マイクロダイン)反応性スパッタリングドラムコーター(カリフォルニア州、サンタローサ、Deposition Sciences Inc.,(デポジションサイエンスインコーポレーテッド)から入手可能)である。そのチャンバーは最大直径1.27mの八角形の形状である。この八角形の各面は処理領域を支持する。この処理領域は次のハードウェアの1つを備える:DCマグネトロン、ACマグネトロンペア、マイクロ波プラズマアプリケータまたはヒーター。中波長パルスDC電力はDCマグネトロンに電力を供給する。中波長AC電力はACマグネトロンに電力を供給する。ACマグネトロンはアノードでの損失を最小限にすることができ、このことは、アノードからカソードへの物質の移動によって引き起こされ、典型的には、より高い品質のコーティング、例えば、より少ない結節成長を提供する。これら結節はコーティングの表面で起こりうる。結節成長は通常、コーティング厚の関数であり、コーティング厚が増大するにつれて増大する。この方法は、従来のコーティングプロセスと比較して、このような結節成長を低減させる。
【0019】
2以上のスパッタリングソースおよび2以上のマイクロ波プラズマソースが同時に使用されることができ、アルミナ堆積速度を増大させることができる。典型的には、2つのスパッタリングソースおよび2つのマイクロ波プラズマソースが同時に使用されうる。本方法のマグネトロンスパッタリング形態においては、アルミニウム電極がターゲットとして使用される。アルミニウム電極はアルミナコーティングのためのアルミナのソースを提供し、典型的には実質的に純粋なアルミニウム、すなわち、純度99%〜99.99%である。硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体からのターゲット距離は8cm〜20cm、典型的には10cm〜15cm、より典型的には11cm〜13cmの範囲であり得る。ターゲットサイズは変動しうる。本方法は、均一な厚みの堆積で、130,000cm以上の広い堆積領域を許容し、すなわち、それぞれが50cm四方の5つ以上の部品を許容する。典型的には、それは、長さ250mm〜450mm、幅100nm〜150nmである。マイクロ波プラズマ形態においては、マイクロ波駆動プラズマは、2原子分子の酸素を解離させる。解離エネルギーは1eV〜20eV、または例えば2eV〜10eV、または例えば、4eV〜8eVの範囲であり、アルミナ堆積のアルミニウムと酸素との間の結合形成をサポートする。解離により生じた単原子種に付与されるエネルギーは、アルミナの薄膜の成長に移される。その上に基体が配置されるドラムは、コーティング堆積速度に応じて、1秒あたり0.75〜3回転の速度で回転させられる。対応する堆積速度での好適な回転速度を決定するために、わずかな実験が必要とされる場合がある。典型的には、回転速度は1秒あたり1〜2回転である。本方法は、化学量論アルミナコーティングを提供するために、これら2つの工程が実質的に同時に行われるものである。
【0020】
コーティングチャンバーは、ロータリーポンプによって補助されるターボモレキュラーポンプを用いる堆積の前に、10−5Torr〜10−6Torrの圧力までポンプで減圧される。二原子酸素および不活性ガス、例えば、アルゴン、ネオンまたはクリプトンはコーティングチャンバーに導入される。典型的に、アルゴンは最適な不活性ガスである。二原子酸素の流速は、20sccm〜80sccm、典型的には40sccm〜60sccmの範囲である。不活性ガスの流速は、30sccm〜150sccm、典型的には50sccm〜100sccmの範囲である。チャンバー内の全圧は2×10−3Torr〜7×10−3Torr、典型的には3×10−3Torr〜5×10−3Torrの範囲である。二原子酸素分圧は、1×10−4Torr〜20×10−4Torr、典型的には5×10−4Torr〜10×10−4Torrの範囲である。マイクロ波ソースは不活性ガスと二原子酸素との混合物をイオン化して、マイクロ波ソース付近にプラズマを生じさせる。マイクロ波プラズマサイズは、長さ300mm〜400mm、および幅約5cm〜15cmの範囲(プラズマ中の電子密度を基準にする)であり得る。マイクロ波電力は、1kW〜5kW、典型的には2kW〜4kWの範囲である。周波数は、1GHz〜5GHz、典型的には2GHz〜3GHzの範囲でありうる。
【0021】
コーティングの前に、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体は、それらをマイクロ波プラズマに曝露することにより、プレ洗浄される。このプレ洗浄工程は有機残渣を除去し、水による汚染を低減させ、かつ膜堆積のための表面を調製する。プレ洗浄プロセスは、3分〜7分間、典型的には4分〜6分間続く。プレ洗浄した後、DCまたはACマグネトロンにエネルギーを加えて、堆積プロセスを開始させる。DCまたはACパルス電力は、3kW〜9kW、典型的には5kW〜7kWの範囲である。周波数は20kHz〜50kHz、典型的には35kHz〜45kHzの範囲であり得る。堆積中、マイクロ波プラズマは維持されて、ターゲットアルミニウムプラズマを安定化させ、かつコーティング酸素消費を増大させる。硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体が40℃〜200℃、または例えば60℃〜180℃の温度に維持される。最小の応力を生じさせるアルミナのコーティング堆積速度は60Å/分〜270Å/分、典型的には190Å/分〜230Å/分の範囲である。このような堆積速度は、アルミナコーティング中に最小の圧縮応力および引っ張り応力を生じさせ、かつそのコーティングが基体から剥離しないことを確実にする。
【0022】
20μmを超える、または例えば30μm〜60μmの範囲の厚みを有するアルミナコーティングは、DCマグネトロンスパッタリングプロセスを用いて硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体上に堆積されうる。典型的には、このようなコーティング厚み範囲はDCマグネトロンプロセスを用いて20時間〜50時間にわたって達成されうる。20μmを超える、または例えば30μm〜100μmの範囲の厚みを有するアルミナコーティングは、ACマグネトロンスパッタリングプロセスを用いて、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体上に堆積されうる。ACおよびDCプロセスの双方で適用されるアルミナコーティングは均一であり、かつアルミナコーティングと硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体との界面での接着は、アルミナコーティングが硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体から容易に剥離しないような高度に一体的なものである。堆積時間は20時間〜90時間の範囲である。典型的には、所望の厚みに応じて35時間から75時間である。
【0023】
アルミナコーティングの表面粗さはコーティング厚みが増大するにつれて増大する。この表面粗さは、基体表面に衝突する放射線を望ましくなく散乱させる場合があり、かつアルミナコーティングされた基体の性能を悪化させる場合がある。例えば、6mmの厚みのコーティングされていない硫化亜鉛の前方散乱は3%である。ACマグネトロン堆積アルミナコーティングは硫化亜鉛の前方散乱を632.8μmで1%増大させ、すなわち、30μm厚みのコーティングについて3%〜4%、60μm厚みのコーティングについて6%、および100μm厚みのコーティングについて13%増大させる。この散乱を低減させるために、コーティングされた硫化亜鉛およびセレン化亜鉛の表面は典型的にはラッピングされ、ポリッシングされる。上述のような従来のラッピングおよびポリッシング方法が使用されうる。ラッピングおよびポリッシングは結果的に、コーティングされた基体から10μm〜20μmのアルミナを除去し、よって、望ましくない散乱を低減させることができる。例えば、ポリッシングされたアルミナコーティング硫化亜鉛の632.8μmでの前方散乱は3%まで低減されることができ、これはコーティングされていない硫化亜鉛の前方散乱に等しい。
【0024】
アルミナコーティングは400nm〜700nmの可視波長範囲および0.7μm〜8μmの赤外波長範囲において透過性を有する。典型的には、透過率は1.06μmでの波長帯においてであり、レーザーおよび様々な商業的および防衛用途のための、トリモードシーカードーム(trimode seeker domes)、デュアルアパーチャIR窓(dual aperture IR window)およびIR光学部品、例えば、レンズ、ビームスプリッターおよびプリズムのような多くの用途について3〜5μmが必要とされる。このような波長の透過率は60%以上、典型的には65%〜90%、より典型的には70%〜80%の範囲であり得る。
【0025】
別の実施形態においては、1種以上のモノマーを含む硬化性組成物が硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体上に隣接してコーティングされることができ、次いで、硬化した組成物コーティング上に隣接するアルミナコーティングを堆積させる。あるいは、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体上に隣接するアルミナコーティング上に隣接して、硬化性組成物が堆積されることができる。さらに、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛基体がアルミナおよび硬化したコーティングの交互の層を複数有することができる。硬化したコーティングは可とう性であり、下地硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体を衝撃損傷からさらに保護する。第1のデザインにおいては、衝突のせいで伝わった衝撃波は、厚いアルミナコーティングを通って伝播することによって弱められ、そして硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体に有意な損傷を生じさせることなく、可とう性の硬化したコーティングによって反射して戻される。第2のデザインにおいては、硬化したコーティングが衝突による衝撃波を弱め、次いで、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛基体に有意な損傷を生じさせることなく、この衝撃波は厚いアルミナコーティングから反射される。硬化した組成物は、当該技術分野において知られているポリマーコーティング方法によって適用されうる。このような方法の例は、スピンコーティング、ホットメルト押出、およびディップコーティングである。硬化したコーティングは10μm以下、典型的には5μm〜10μmの厚みの範囲であることができる。硬化したコーティングはアルミナ基体に良好に接着し、雨および砂に対する望まれる耐衝撃性および耐摩耗性を有する。硬化したコーティングはλ=応力/歪み(λは弾性係数である)によって定義される低い弾性係数も有する。弾性係数は永久歪みの傾向である。このコーティングは硬化中に均一な収縮を有し、1.06μmおよび3〜5μmで60%を超える透過率を有する。
【0026】
硬化性組成物中に含まれうるモノマーは、1以上の反応性または架橋性部位を有しうる。モノマーの重量平均分子量は10〜10,000、およびそれを超える範囲であり得る。典型的には、重量平均分子量は20〜1000である。モノマーは組成物の30重量%〜95重量%、または例えば、組成物の40重量%〜90重量%の量で含まれうる。組成物は水ベース、有機溶媒ベースまたは100%固体であることができる。硬化性組成物が有機溶媒ベースの場合には、このような組成物に典型的な従来の有機溶媒が使用されうる。典型的には、少なくとも1種のアクリラート官能性モノマーが硬化性組成物中に含まれる。一般的に、エポキシ、ポリエステルおよびポリウレタンの3種の主要なアクリラートの種類が存在する。エポキシアクリラートはアミン官能化されうる。
【0027】
エポキシには、これに限定されないが、エポキシ化合物、例えば、ビスフェノールA−ベースの物質およびシクロ脂肪族エポキシド、ビニルエーテル、例えば、ジビニルエーテル、および、脂肪族ウレタンジビニルエーテルが挙げられる。
【0028】
硬化性組成物中に含まれうるジイソシアナートには、これに限定されないが、芳香族ジイソシアナート、例えば、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナートおよびこれらの混合物、クルードトリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアナート、および1,5−ナフチレンジイソシアナート;脂肪族または脂環式ジイソシアナート、例えば、ヘキサメチレン−ジイソシアナート、リシンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタン−ジイソシアナート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、およびキシリデンジイソシアナート;並びに、これらのダイマー、トリマーおよびカルボジイミド修飾化合物が挙げられる。ジイソシアナートのなかでは、その耐候性のために、脂肪族および脂環式ジイソシアナートが典型的に使用される。
【0029】
モノ官能性アクリラートには、これに限定されないが、イソボルニルアクリラート、イソボルニルメタクリラート、サイクリックトリメチロールプロパンホルマールアクリラート、テトラヒドロフルフリルアクリラート、イソデシルアクリラート、トリデシルアクリラート、2−フェノキシエチルアクリラート、4−t−ブチルシクロヘキシルアクリラート、オクチルおよびデシルアクリラートが挙げられる。
【0030】
多官能性アクリラートには、これに限定されないが、ジアクリラート、例えば、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリラート、ヘキサンジオールジアクリラート、トリプロピレングリコールジアクリラート、ジプロピレングリコールジアクリラート、および1,3−ブチレングリコールジアクリラート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリラート、トリプロピレングリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジアクリラート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリラート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリラートが挙げられ、トリアクリラートおよびそれより高次のものには、これらに限定されないが、アミン修飾ポリエーテルアクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートトリアクリラート、ジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサアクリラート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリラートが挙げられる。
【0031】
硬化性組成物は、電子線、UV光、可視光によるようなおよびフリーラジカル開始剤によるような当該技術分野において知られている好適な方法によって硬化されうる。典型的には、組成物はUV光によって硬化される。
【0032】
典型的には、組成物は1種以上の光開始剤を含む。このような光開始剤には、これに限定されないが、カチオン性光開始剤、例えば、スルホニウム塩およびヨードニウム塩、フリーラジカル光開始剤、例えば、アリールケトン、ジアリールケトン、およびアリールホスフィンオキシド−含有光開始剤が挙げられる。このような光開始剤は当該技術分野において周知であり、商業的に容易に入手可能であり、または文献に開示されている方法によって製造されうる。商業的に入手可能なアリールケトンの例には、DAROCUR商標184、IRGACURE商標1173、ESACURE商標ONEおよびESACURE商標TZTが挙げられ;並びに、商業的に入手可能なアリールホスフィンオキシド−含有光開始剤の例には、IRGACURE商標500、819および1850が挙げられる。典型的には、これらは0.01重量%〜10重量%の量で使用される。
【0033】
場合によっては、硬化性組成物は1種以上の金属酸化物、例えば、アルミナ、MgO、スピネル(MgAl)、HfO、ジルコニア、イットリア、酸化セリウムおよび可視およびMWIR波長領域において透過性である他の酸化物のナノ粒子を含むことができる。他の物質には、これに限定されないが、BN、Si、SiC、MgF、GaP、ダイヤモンドおよびこれらの混合物が挙げられる。これらは金属酸化物の1種以上と混合されうる。アルミナのナノ粒子が硬化性組成物中に含まれる場合には、それらは少なくとも1重量%、典型的には10重量%〜30重量%の量で含まれる。アルミナのナノ粒子の量は変動することができ、好適なモノマー成分を選択することによって硬化性組成物中で増やされることができる。粒子濃度を増大させるためのこの種のモノマーを決定するために、わずかな実験が使用されても良い。硬化性コーティング組成物がアクリラートモノマーを含む場合には、アクリラートモノマーは典型的には、未硬化の溶液中で、ナノ粒子の重量を除いた溶液の90重量%〜95重量%の量で含まれ、その溶液の残部は光開始剤または他の硬化剤を含む。ナノ粒子は、平均サイズで5nm〜500nm、または例えば、10nm〜150nm、または例えば、10nm〜75nmの範囲である。ナノ粒子は商業的に入手可能であり、または文献において公知の方法によって製造されうる。
【0034】
本発明は、高速航空機における可視からMWIR、すなわち0.35μm〜5μmの波長範囲で使用するための耐久性窓およびドームを製造するために使用されうる。これらの窓は5μm〜8μmの領域をカバーする広域IR範囲用途に有用でもあり得る。アルミナコーティング基体はグローサリースキャナーおよびウオッチにおける窓としても使用されうる。他の用途には、これに限定されないが、耐久性レンズおよびビームスプリッターのような様々な光学部品の生産が挙げられる。
以下の実施例は、本発明をさらに例示することを意図しており、その範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0035】
実施例1
マサチューセッツ州、マルボロのダウエレクトロニックマテリアルズから入手可能なCLEARTRAN商標硫化亜鉛の複数のサンプル(それぞれ、直径2.5cmおよび厚み6mm)が、9〜0.3μmの範囲の粒子直径を有するアルミナ粒子を用いて、それらを、80/50のスクラッチ/ディグにグラインディング、ラッピングおよびポリッシングすることによって調製される。このサンプルはまずアセトンで洗浄され、次いで70重量%メチルアルコールで洗浄され、次いで、MicroDyn商標反応性スパッタリングドラムコーターの反応性スパッタリングドラムコーターに取り付けられる。2つのスパッタリングソースおよび2つのマイクロ波プラズマソースが同時に使用されて、硫化亜鉛サンプル上にアルミナを200Å/分の堆積速度で堆積させる。ターゲット物質は純粋99.99%のアルミニウムであり、それはサンプルから12cmの距離にある。サンプルが取り付けられているドラムは1秒あたり1回転の速度で回転させられる。コーティングチャンバーは、堆積の前に、10−6Torrの圧力までポンプで減圧される。二原子酸素とアルゴンとの混合物が堆積チャンバー内に導入される。二原子酸素およびアルゴンの流速は、それぞれ、50sccmおよび100sccmである。チャンバー内の全圧は0.004Torrである。マイクロ波電力は2.54GHzの周波数で3kWである。マイクロ波はマイクロ波ソースの付近でプラズマを作り出す。
【0036】
コーティングの前に、サンプルはマイクロ波プラズマに5分間曝露されることにより、プレ洗浄される。次いで、DCマグネトロンにエネルギーが入れられ、堆積プロセスを開始させる。DCパルス電力範囲は6kWであり、周波数は40kHzである。堆積中に、マイクロ波プラズマは保持され、ターゲットプラズマを安定化させ、コーティング酸素消費を増大させる。アルミナコーティング堆積は25時間行われる。
【0037】
各サンプル上のアルミナコーティングは30μm厚であり、サンプルに接着している。較正フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で測定した場合に、3μm〜5μm範囲での平均透過率は約70%である。
【0038】
実施例2
3μm〜5μmの範囲での平均透過率を有する2つの30μ厚のアルミナコーティングサンプル(番号A5およびA6)が、5分および10分間の90°での雨曝露について試験される。雨曝露試験は回転腕レインリグを用いて行われる。回転腕システムにおいては、サンプルはプロペラ翼の2つの末端の各端部に配置され、回転させられて、高いサンプル速度を達成する。回転腕が回転しているときに、人工フィールドの水滴は頂部の皮下注射針から落とされる。この雨試験条件は、25.4mm/時の雨量で降り、垂直入射(すなわち、表面に対して90度の衝突角度または垂直な雨衝突)で、210m/sの速度で、曝露時間5〜10分で、サンプルに衝突する名目液滴直径2mmの人工雨フィールドである。雨の衝突の後で、このサンプルはIR透過率について再び測定され、表1に示されるように、サンプルA5およびサンプルA6について、3μm〜5μmの範囲における平均透過率は約69%である。このことは、5および10分間の雨への曝露中に、1%のみのわずかな損失を示す。
【0039】
雨の衝突の後で、サンプルA5およびA6は1.06μmでの透過率について分光光度計を用いて測定され、その透過率は約70%である。これらのサンプルの前方散乱は0.6328μmでのHe−Neレーザーを用いた散乱計を用いて測定され、その前方散乱は約5%である。これらの値は、雨の衝突前のアルミナコーティングサンプルについて得られる典型的な値に近い。
【0040】
2つの30μm厚のアルミナコーティングサンプル(番号A2およびA1)が小さなおよび大きな砂の衝突について試験される。小さな砂の衝突は、38μm〜53μmの範囲の粒子サイズで、270m/sの速度で、垂直入射(90度)の乾燥シリカ砂またはダストからのものである。この小さな粒子は、12mg/cmの全質量負荷で表面に衝突する。サンプルA2の3μm〜5μm平均透過率は衝突前で約70%であり、砂衝突後に約68%であって、2%のわずかな損失をもたらす。大きな砂の衝突は、125〜177μmの粒子サイズで、135m/sの速度で、垂直入射の乾燥シリカ砂からのものである。大きな粒子は30mg/cmの全質量負荷で表面に衝突する。サンプルA1の3〜5μm平均透過率は衝突前で約70%であり、砂の衝突後に約50%であって、表1に示されるような20%のわずかな損失をもたらす。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例3
堆積が25時間で検査され、コーティングが剥離しないかまたはこのサンプルを曲げるための大きな応力を有しないことを除いて、実施例1と同じである。検査後、コーティングプロセスは従前のように再スタートされ、次いでさらに12.5時間継続し、37.5時間の全堆積時間で45μm厚のコーティングを生じさせる。アルミナコーティングはサンプルに対して充分に接着することが予想される。コーティングされた硫化亜鉛窓の透過率は3μm〜5μm範囲で、FTIRを用いて約68%である。
【0043】
2つの45μm厚のアルミナコーティングサンプル(番号A10およびA11)は、実施例2で示されるのと同じ条件下で20分間の雨への曝露について試験される。雨の衝突の後で、サンプルはIR透過率について測定され、平均透過率は3μm〜5μmの範囲で、表2に示されるように、サンプルA10について約67%、サンプルA11について約68%である。雨への曝露のせいで、1%のわずかな損失がサンプルA10について起こる。A11は損失を有さない。
【0044】
雨の衝突後、サンプルA10およびA11は、1.06μmでの透過率についても分光光度計を用いて測定され、その結果はそれぞれ約65%および約68%である。これらのサンプルの0.6328μmでの前方散乱は、それぞれ約9%および5%である。これら全ての値は、雨の衝突前のアルミナコーティングサンプルについての典型的な値に近い。
【0045】
2つの45μm厚のアルミナコーティングサンプル(番号A9およびA8)が、実施例1に示されるのと同じ条件下で、小さなおよび大きな砂の衝突について試験される。小さな粒子の衝突については、サンプルA9の3μm〜5μm平均透過率は衝突前で約68%であり、砂の衝突後で約66%であって、2%のわずかな損失をもたらす。大きな粒子の衝突については、サンプルA8の3μm〜5μmの平均透過率は衝突前で約68%であり、砂の衝突後で約55%であって、13%の損失をもたらす。この損失は実施例2において30μmのコーティング厚みについて観察されたのよりも小さく、このことは、より厚いアルミナコーティングは、より大きな粒子による損傷に対して良好な抵抗性を提供しうることを示す。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例4
堆積が50時間継続され、60μm厚のコーティングを生じさせることを除いて、実施例1と同じ。検査において、アルミナコーティングはサンプルに接着する。コーティングされた硫化亜鉛窓の透過率は3μm〜5μm範囲で測定され、FTIRを用いて約64%である。2つの60μm厚のアルミナコーティングサンプル(番号A14およびA15)は、実施例2に示されるのと同じ条件下で、10および20分の雨による浸蝕について試験される。雨の衝突の後、サンプルは再びIR透過率について測定され、3μm〜5μmの範囲における平均透過率に関して、両方のサンプルについて有意な劣化は観察されない。このことは、60μmのコーティングは雨による浸蝕に対して優れた抵抗性を提供することを示す。
【0048】
雨の衝突の後で、サンプルA14およびA15は1.06μmでの透過率についても測定分光光度計を用いて測定され、その結果はそれぞれ約68%および70%である。0.6328μmでのサンプルの前方散乱は、それぞれ約8%および6%である。全ての値は、雨の衝突前のアルミナコーティングサンプルについての典型的な値に近い。
【0049】
2つの60μm厚のアルミナコーティングサンプル(サンプル番号A13およびA12)は、実施例2において示されるのと同じ条件下で小さなおよび大きな砂の衝突について試験される。小さな粒子の衝突については、サンプルA13の3μm〜5μmの平均透過率は衝突前で約64%であり、砂の衝突後で約63%であって、1%のわずかな損失をもたらす。大きな粒子の衝突については、サンプルA12の3μm〜5μmの平均透過率は衝突前に約64%であり、砂の衝突後に約60%であって、4%の損失をもたらす。この損失は、実施例2における30μmおよび実施例3における45μmのコーティング厚について観察されるよりも小さく、60μm以上の厚みのアルミナコーティングが、大きな粒子による損傷に対して良好な抵抗性を提供しうることを示す。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例5
100ミクロンの厚みのアルミナコーティングが、反応性スパッタリングドラムコーターにおいてDCマグネトロンをACマグネトロンと置き換えることにより製造される。ACスパッタリングは、DCスパッタリングと場合によって関連するアノード損失を除去し、コーティング表面上の結節も少なくする。それぞれが直径2.5cmで厚み6mmの全部で41の硫化亜鉛サンプルが、それらを実施例1におけるように80/50のスクラッチ/ディグにグラインディング、ラッピングおよびポリッシングすることによって製造される。このサンプルは、実施例1におけるようにアセトンおよびメチルアルコールの溶液で洗浄され、次いで、MicroDyn商標反応性スパッタリングドラムコーターに取り付けられる。2つのスパッタリングソースおよび2つのマイクロ波プラズマソースが同時に使用されて、250Å/分の堆積速度を提供する。基体からのターゲット距離は12cmである。ターゲット物質は純度99.99%のアルミニウムである。その上に基体が取り付けられるドラムは1秒あたり1回転の速度で回転させられる。コーティングチャンバーは堆積前に、10−5Torrの圧力までポンプで減圧される。二原子酸素とアルゴンとの混合物が堆積チャンバーに導入される。酸素およびアルゴンの流速は、それぞれ、40sccmおよび80sccmである。チャンバー内の全圧は0.004Torrである。マイクロ波電力は2.54GHzの周波数で3kWである。コーティング前に、サンプルは、それらを5分間のマイクロ波プラズマに曝露することによりプレ洗浄される。ACマグネトロンは、次いで、エネルギーが入れられ、堆積プロセスを開始させる。ACパルス電力は7kWであり、周波数は40kHzである。堆積中、マイクロ波プラズマは維持され、ターゲットプラズマを安定化し、コーティングにおける酸素消費を増大させる。
【0052】
アルミナコーティング堆積は25時間の間行われ、次いで、チャンバーは開放されてサンプルを検査する。コーティング剥離および過剰な応力の兆候は観察されない。14のサンプルはチャンバーから出されて、D1〜D14と番号が付けられる。D14の断面サンプルが切り出されポリッシングされる。この断面は光学顕微鏡で拡大されて検査される。アルミナコーティングは非常に均一に見え、その厚みは30μmであると測定される。残りの27サンプルはラッピングおよびポリッシングパッドで処理されて、結節を除去し、結節のサイズを低減させる。サンプルはコーティングチャンバー内でさらに25時間の堆積のために、再び処理される。これは、従前の30μmの上にさらに30μmのアルミナコーティングを追加し、60μmのコーティング厚を作り出した。再び、コーティングチャンバーは開放され、サンプルが検査される。14のサンプルが再びチャンバーから取り出され、E1〜E14と番号が付けられる。E14の断面サンプルが切り出され、ポリッシングされ、光学顕微鏡で倍率200倍で検査される。アルミナコーティングは均一に見えて、その厚みは約60μmであると測定される。残りの13サンプルはラッピング/ポリッシングパッドで処理され、結節の除去/サイズ低減を行う。これらのサンプルは、さらなる34時間の堆積のために、コーティングチャンバー内で再び処理される。これは、従前の60μmの上にさらに40μmのアルミナコーティングを追加し、100μmのコーティング厚を作り出す。13のサンプル全てにおいて、剥離は認められない。これらのサンプルはF1〜F13と番号が付けられる。F13の断面サンプルが切り出され、ポリッシングされ、200倍の倍率の光学顕微鏡で検査される。アルミナコーティングは均一に見えて、その厚みは約100μmであると測定される。サンプルD14、E14およびF13は可視およびIR透過率、並びに前方散乱について特徴づけられ、結果は表4にまとめられる。
【0053】
【表4】

【0054】
表4における散乱の値はアルミナコーティングのみについて示される。厚み6mmの硫化亜鉛サンプルの前方散乱は3%である。アルミナコーティングに起因する散乱は、アルミナコーティングの前後での硫化亜鉛の散乱値の差をとることによって得られうる。30μmの厚みのアルミナコーティングについては、散乱に貢献するほとんどは硫化亜鉛基体に原因がある。表4から、アルミナコーティング厚が30μmから100μmに増大するにつれて、窓透過率は減少するが、前方散乱は増大することが認められる。このことは、より厚いコーティングの表面粗さの増大が原因であり得る。
【0055】
コーティング表面を滑らかにするために、アルミナコーティングはラッピングされ、ポリッシングされて、30μm、60μmおよび100μmのコーティングサンプルについて、それぞれ、10μm、15μmおよび20μmだけコーティング厚を低減する。ポリッシングされたサンプルは1.06および3〜5ミクロンでのサンプル透過率を約5%以下だけ増大させ、632.8nmでのアルミナコーティングの前方散乱を1%未満低減させる。
【0056】
3つの異なるコーティング厚み30μm、60μm、100μmの、8つのアルミナコーティングされた、6mmの厚みを有する硫化亜鉛サンプルが大きなおよび小さな砂の衝突について試験される。大きな砂の条件は149μm〜177μmの粒子サイズ範囲で、30mg/cmの質量負荷で、240m/sの速度で衝突する乾燥シリカ砂である。小さな砂の条件は、38μm〜44μmの粒子サイズ範囲で、12mg/cmの質量負荷で、262m/sの速度で衝突する乾燥シリカ砂である。大きなおよび小さな砂の場合両方ともで、砂の衝突時間は12分間であり、衝突角度は90度である。
【0057】
大きなおよび小さな砂の衝突の結果は、表5に表される。大きなおよび小さな砂の衝突に起因する損傷を最小限にするには、より厚いコーティングが好ましい。
【0058】
【表5】

【0059】
3つのアルミナコーティング硫化亜鉛サンプルD3、E3、およびF3は、それぞれが6mmの厚みを有し、かつそれぞれ3つの異なるコーティング厚30μm、60μm、100μmを有し、回転レインリングプロセスを用いて、20分間90度で、雨の衝突について試験される。25.4mm/時の雨量で降り、サンプルに210m/sの速度で衝突する2mmの名目液滴直径の人降雨フィールドにおいて、雨による浸蝕試験が行われる。雨の衝突結果は表6に示される。一般に、コーティング厚が増大するにつれて、1.06および3〜5μmの波長での透過率損失が増大して、かつ632.8nmの波長での前方散乱が低下する。より厚いコーティングについての散乱の減少は、上述のような大きなおよび小さな砂の衝突に類似する傾向に従う。雨の衝突はアルミナコーティング表面を滑らかにして、この効果は、コーティング厚が増大するにつれて、前方散乱のより大きな減少を生じさせる。
【0060】
【表6】

【0061】
実施例6
8つの硫化亜鉛サンプル(番号23−30)が、それらをポリマーおよびアルミナ粒子コーティングの薄層でコーティングすることにより調製される。2つのサンプル(番号31−32)はポリマーでコーティングされるが、アルミナ粒子を含まない。アルミナ粒子は直径20nmから30nmの範囲である。3つの異なる組成(番号9、11、5)のポリマーおよびアルミナ粒子コーティングが製造される。3つのポリマーおよびアルミナ粒子コーティングの組成は重量基準で以下の通りである:1溶液(番号9)は、1,3−ブチレングリコールジアクリラート、47.5%のアルミナを含むアルミナ懸濁液30%、脂肪族ウレタンアクリラート23.8%、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートトリアクリラート23.8%、ESACURE商標ONE4%(これは、ジベンゾイル光開始剤である)、およびESACURE商標TZT0.9%(これはトリメチルベンゾフェノンとメチルベンゾフェノンとの混合物である)を含む;2溶液(番号11)は1,3−ブチレングリコールジアクリラート、95%のアルミナを含むアルミナ懸濁液30%、ESACURE商標ONE4%およびESACURE商標TZT1%を含む;3溶液(番号5)は、1,3−ブチレングリコールジアクリラート、脂肪族ウレタンアクリラート23.8%、トリス(2−ヒドロキシルエチル)イソシアヌラートトリアクリラート23.8%、ESACURE商標ONE4%およびESACURE商標TZT0.9%を含む。これらの組成物は、超音波浴を用いて50℃で完全に混合され、次いで、10コの硫化亜鉛サンプルの一方の面を、溶液9および11についてはそれぞれ4つ、溶液5については2つを、ポリマーコーティングと共にスピンコートするために使用される。スピンコーターは1分あたり1500回転の速度で1分間運転される。このコーティングの適用後、サンプルはUV硬化させられる。コーティング密度は、溶液の成分の密度を重量平均することにより概算される。その密度は、溶液9および5については1.1g/ccであり、溶液11については1.05g/ccである。重量変化測定と共に、計算された密度が使用され、コーティング厚みを決定する。コーティング厚みの範囲は、番号9について5.3μm〜6.6μm、番号11について2.6μm〜3.3μm、および番号5について9.1μm〜9.8μmである。
【0062】
10コのコーティングされた硫化亜鉛サンプルが、実施例5におけるのと同じ条件を使用して雨および砂の浸蝕について試験される。結果は表7に示される。アルミナ粒子を含む2つの組成物のなかで、組成物番号9は、雨および砂による浸蝕に起因する3μm〜5μmでの最小の透過率損失を提供する。雨の衝突の後で、ポリマーおよびアルミナコーティングサンプルは試験され、透過率損失を引き起こす何らかの損傷が表面ではなく、基体の内側で起こることが観察される。このことは、非常に光沢があり反射性である表面によって認識可能である。
【0063】
【表7】

【0064】
実施例7
硫化亜鉛の32コのサンプルが提供される。16コは懸濁液番号9のポリマーコーティングでコーティングされ、残りの16コは実施例6に記載される溶液番号5でコーティングされる。これらのサンプルは実施例1〜5において記載されるようなDCおよびACマイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングプロセスを用いて、30μmを超える厚みのアルミナでコーティングされる。これらのサンプルは、実施例5におけるのと同じ条件を用いて、雨および砂による浸蝕について試験される。この結果は雨および砂の衝突のせいで1.06および3〜5ミクロンでわずかな透過率損失を示すことが予想される。雨の衝突の後で、コーティングされたサンプルは試験され、ポリマーまたはアルミナコーティング、並びに硫化亜鉛基体において有意な損傷は起こらない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)硫化亜鉛またはセレン化亜鉛を含む物品を提供し;並びに、
b)マイクロ波アシストマグネトロンスパッタリングによって、20μmを超える厚みのアルミナの層を硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に、60Å/分以上の堆積速度で堆積させる;
ことを含む方法。
【請求項2】
1種以上のモノマーを含む組成物の少なくとも1層とアルミナの少なくとも1層との交互の層を、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛上に堆積させ;並びに組成物を硬化させる;工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物がアルミナ粒子をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1種以上のモノマーがポリオール、ポリアミン、ジイソシアナートおよびジイソシアナート誘導体から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
20μmを超えるアルミナ厚みを有する、請求項1の方法に従って製造された物品。
【請求項6】
アルミナ厚みが30μm〜100μmである、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
物品が窓、ドームまたは耐久性レンズである、請求項5に記載の物品。
【請求項8】
硬化した組成物の厚みが10μm以下であり、アルミナの厚みが20μmを超える、請求項2の方法に従って製造された物品。
【請求項9】
アルミナの厚みが30μm〜100μmである、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
物品が窓、ドームまたは耐久性レンズである、請求項8に記載の物品。

【公開番号】特開2011−127219(P2011−127219A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−208794(P2010−208794)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】