説明

脱脂炉

【課題】従来の燃焼炉付小型脱脂炉に比較して、消費電力を大幅に削減することができ、且つ高温の排気の排出量を抑制することが可能な脱脂炉を提供する。
【解決手段】脱脂炉1は、成型体に脱脂処理を施すための脱脂炉本体10、脱脂炉本体10の排気に含まれる有害物質を燃焼するための燃焼炉20、燃焼炉20から排出された高温の排気に外気を取り込んで冷却すると共に酸素を供給するための外気取込部30、外気取込部30の上端部と脱脂炉本体10の脱脂室101の底部と連通してなる循環路40、排気を循環させるための循環ファン50、排気の一部を外部に排出するための排気部60等から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス等の成型体を加熱脱脂して脱脂体を製造するための脱脂炉に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品や金属製品の製造方法の1つに、セラミックスや金属等の粉末と結合剤(バインダ)等とを加熱混練し、得られた混練物(コンパウンド)を射出成型して成型体(いわゆるグリーン体)を得る粉末射出成型(PIM:Powder Inection Molding)法がある。かかる粉末射出成型法では、得られた成型体を脱脂炉で加熱して結合剤を分解及び除去する脱脂処理が必要となる。
【0003】
近年では、環境対策の一環として、脱脂処理時に生成される排気に含まれる有害物質等を、バーナやヒータ等の熱源により燃焼及び排出する燃焼炉を備えた脱脂炉が開発されている。かかる脱脂炉では、排気に含まれる有害物質を完全燃焼するための、ある程度の長さの流路が必要であり、更に当該流路内の排気を加熱するための巨大ヒータが必要であるので、装置が大型化してしまい、当該装置を設置するための広いスペースが必要となるという問題があった。また、かかる巨大ヒータは消費電力が大きいため、製造コストが激増するという問題が生じていた。
【0004】
そこで、先に本発明者は、横長状の燃焼室が水平面上に複数並列して設けられ、当該燃焼室の一端部が隣接する直前の燃焼室と、他端部が隣接する直後の燃焼室と連通されて九十九折状の流路が形成された燃焼炉を備えることにより、小型で且つ燃焼炉の流路を十分に確保することが可能な燃焼炉付小型脱脂炉を発明した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3142832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記燃焼炉付小型脱脂炉によれば、脱脂処理時の有害な排気を完全燃焼して無害化することができるだけでなく、従来の燃焼炉付大型脱脂炉と比較して、大幅な小型化及び消費電力の低減化を達成することができるようになった。しかしながら、燃焼炉を備えていない従来の脱脂炉と比較すると、消費電力は未だ4、5倍程度であり、更なる消費電力の低減化が切望されていた。
【0007】
また、上記燃焼炉付小型脱脂炉を用いて無害化した排気は、ある程度は冷却されるものの比較的高温のまま外部に排出されるため、エコロジーの観点から好ましくないという問題があった。
【0008】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、従来の脱脂炉と同様にして有害物質等の完全燃焼を行いつつ、安全な排気の排出を可能とするだけでなく、消費電力を大幅に削減することができ、且つ高温の排気の排出量を抑制することが可能な脱脂炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0010】
(1)すなわち、本発明は、粉末原料と結合剤とを含む成型体に脱脂処理を施すための脱脂炉本体と、前記脱脂炉本体の排気に含まれる有害物質を燃焼するための燃焼炉と、前記燃焼炉の排気を前記脱脂炉本体に循環させて前記成型体を加熱するための循環加熱手段と、を有することを特徴とする、脱脂炉である。
【0011】
(2)本発明はまた、前記循環加熱手段は、前記燃焼炉の排気口と前記脱脂炉本体の給気口とを連結せしめる第1の流路を有することを特徴とする、(1)に記載の脱脂炉である。
【0012】
(3)本発明はまた、前記循環加熱手段は、前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度を制御する温度制御手段を更に有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の脱脂炉である。
【0013】
(4)本発明はまた、前記温度制御手段は、前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度を検出する温度検出手段と、外気を取り込む外気取込手段と、前記温度検出手段により検出した前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度に従って前記外気取込手段による外気の取り込み量を制御するコントローラと、を有することを特徴とする、(3)に記載の脱脂炉である。
【0014】
(5)本発明はまた、前記循環加熱手段は、前記燃焼炉の排気の一部を外部に排出する排出手段を更に有することを特徴とする、(1)〜(4)の何れか1項に記載の脱脂炉である。
【0015】
(6)本発明はまた、前記燃焼炉は、九十九折状に形成された第2の流路と、前記第2の流路内に配設された燃焼手段と、を備えたことを特徴とする、(1)〜(5)の何れか1項に記載の脱脂炉である。
【0016】
(7)本発明はまた、前記燃焼炉は、複数の燃焼室を有することを特徴とする、(6)に記載の脱脂炉である。
【0017】
(8)本発明はまた、前記燃焼室は、横長状で水平面上に並列して形成されており、前記燃焼室の一端部が隣接する直前の燃焼室と他端部が隣接する直後の燃焼室とそれぞれ連通されて前記第2の流路が形成されていることを特徴とする、(7)に記載の脱脂炉である。
【0018】
(9)本発明はまた、前記脱脂炉本体は、前記循環加熱手段以外に前記成型体を加熱するための加熱手段を有していないことを特徴とする、(1)〜(8)の何れか1項に記載の脱脂炉である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脱脂炉によれば、燃焼炉の排気を脱脂炉本体に循環させて成型体を加熱するための循環加熱手段を備えているので、無害化処理された高温の排気を大気中に放出することなく再利用して成型体の加熱処理を行うことができる。これにより、従来の燃焼炉付小型脱脂炉のように、脱脂炉本体に成型体の加熱処理用のヒータを設ける必要がなくなり、脱脂炉の消費電力の大幅な低減化を実現させることができると共に、高温の排気の外部への放出を抑制することができるので、地球温暖化等のエコロジー問題にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかる脱脂炉の構成を示す概略平面図である。
【図2】脱脂炉1の概略A−A断面図である。
【図3】脱脂炉1の概略B−B断面図である。
【図4】外気取込部30の構成を示す図であり、(a)はその概略平面図、(b)はその概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態にかかる脱脂炉の構成を示す概略平面図であり、図2は、その概略A−A断面図である。図1及び図2に示すように、脱脂炉1は、粉末原料と結合剤とを含む成型体に脱脂処理を施すための脱脂炉本体10を備えている。脱脂炉本体10の正面には、脱脂室101に成型体や脱脂体等を出し入れするための扉102が設けられており、また、脱脂室101の内部には、成型体を載置するためのトレー103、モータ104により駆動して脱脂室101内を撹拌する撹拌ファン105、成型体への送風方向を調節する整流板(図示せず)等が設けられている。
【0023】
また、脱脂炉1の上部には、脱脂炉本体10の排気に含まれる有害物質等を燃焼するための燃焼炉20が設けられている。図3は、脱脂炉1の概略B−B断面図である。図3に示すように、燃焼炉20は、横長状の燃焼室201が水平面上に複数並列して設けられてなる。各燃焼室201内には、シーズヒータ202がそれぞれ設けられている。燃焼室201は、1つの燃焼室の一端部が隣接する直前の燃焼室と連通されており、他端部が隣接する直後の燃焼室と連通されており、これにより、燃焼炉20内の流路が九十九折状に形成されている。このような構成にすることで、例えば、小型の脱脂炉であっても流路を十分に確保することができ、脱脂処理時の排気に含まれる有害物質等を完全燃焼することができる。
【0024】
また、燃焼炉20の図中最上部の燃焼室201の一端は、脱脂炉用排気路106を介して脱脂炉1の脱脂室101と、また、図中最下部の燃焼室201の一端は、燃焼炉用排気路204を介して外気取込部30の下端部とそれぞれ連通されている。
【0025】
図4は、外気取込部30の構成を示す図であり、(a)はその概略平面図、(b)はその概略正面図である。外気取込部30は、燃焼炉20から排出された高温の排気に外気を取り込んで冷却すると共に酸素を供給するためのものであり、図4(a)及び(b)に示すように、外気取込部30は筒状体301a及び301bを備え、筒状体301aの内部に筒状体301bが収納されている。筒状体301a及び301bの側壁部には、複数の開口302a及び302bが相対する位置にそれぞれ設けられており、開口302a及び302bにより外気取込口303が形成されている。筒状体301aの側壁部の外周下部には、ウォームホイール304が固設されており、これにより、筒状体301aがウォームホイール304及びウォームホイール304と噛合されたウォームギア305を介してモータ306により筒状体301aが回動するようになっている。かかる構成により、筒状体301aをその中心軸回りに回動させることによって、外気取込口303の開口度を調節することができる。
【0026】
外気取込部30の上端部には、脱脂炉本体10の脱脂室101の底部と連通せしめた循環路40が形成されている。また、循環路40の外気取込部30の上部付近には、モータ501で駆動する循環ファン50が設けられており、燃焼炉20から排出された排気は、循環ファン50により循環するようになっている。更に、循環路40には、脱脂炉1の上面に設けられた排気部60が連通されている。排気部60は、排気ダクト601、排気ダクト601のカバー602、排気ダクト601の内部に設けられた排出量調節板603、排気量調節板603を操作するためのレバー604等から構成されており、循環路40内を流れる排気の一部を外部に排出するようになっている。また、循環路40の脱脂室101への給気口付近には熱電対70が設けられており、脱脂炉本体10への給気温度を検出するようになっている。
【0027】
制御部80は、撹拌ファン105及び循環ファン50の駆動制御、シーズヒータ202の温度制御、外気取込部30の外気取り込み量の制御等を行うものであり、用途に応じてデジタル表示調節計、プログラム温度調節計、過昇防止器、漏電ブレーカー、タイマー、サーマルリレー、エアー流量計、温度記録計、警報シグナル等を有してもよい。
【0028】
次に、本実施形態にかかる脱脂炉1の動作について説明する。
【0029】
脱脂炉本体10の脱脂室101内に成型体が投入されて脱脂炉1の稼働が開始されると、撹拌ファン105により脱脂室101の空気が循環されると共に、循環ファン50により燃焼炉20からの排気が、燃焼炉用排気路204、外気取込部30及び循環路40を介して脱脂室101へと循環される。その際に、燃焼炉20において、脱脂炉本体10からの排気が加熱されて完全燃焼され、外気取込部30において、低温の外気が取り込まれて排気と混合されて冷却され、排気部60において、排気の一部が外部へ放出される。更に、熱電対70により脱脂炉本体10への給気温度が検出され、制御部80にフィードバックされることにより、外気取込部30の外気取込口303の開口度が調節され、給気温度が制御される。
【0030】
本発明の脱脂炉1においては、まず、燃焼炉20を800℃に昇温し、更に、燃焼炉20の高温の排気を循環させることによって、脱脂炉本体10内の温度を120〜200℃/時間で600℃まで昇温し、その後、2〜3日間かけて成型体に脱脂処理を施す。このようにすることにより、成型体が脱脂されると共に、脱脂処理により発生した一酸化炭素、一酸化窒素等の有毒ガスやメタン、エタン、プロパン等の可燃性ガス等を含む排気が完全燃焼され、無害化された高温の排気が再度熱源として利用される。
【0031】
本発明において利用される成型体としては、圧縮成型(圧粉成型)、押出成型、射出成型等により成型されたもの等が挙げられ、成型体の原材料となり得る粉末原料としては、酸化物系セラミックス等のセラミックス、鉄やニッケル等の金属、コークスやグラファイト等の炭素質材料等が挙げられ、結合剤としては、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル等の各種樹脂、各種ワックス等が挙げられる。
【0032】
なお、本発明の脱脂炉は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0033】
例えば、上記実施形態にかかる脱脂炉が備える撹拌ファン、シーズヒータ、外気取込部、循環ファン、排気部、循環路等の形状や数量等は、上記実施形態の例に限定されるものではない。
【0034】
また、上記実施形態にかかる燃焼炉の流路は九十九折り状のものでなくてもよく、例えば、直線状や螺旋状等の流路であってもよい。
【0035】
また、上記実施形態にかかる外気取込部、循環ファン、排気部等の位置は、上記実施形態の例に限定されるものではなく、例えば、循環路の他の部分に設けられてもよい。
【0036】
また、上記の実施形態にかかる熱電対の位置は、上記実施形態の例に限定されるものではなく、例えば、循環路の他の部分、脱脂室内、脱脂炉用排気路内等に設けられてもよい。
【0037】
また、本発明においては、燃焼炉の排気が循環供給されるのに加えて、給気ブロア等により外気が脱脂室内に供給されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、本発明の脱脂炉は、無害化処理された高温の排気を大気中に放出することなく再利用して成型体の加熱処理を行うことができ、また、地球温暖化等のエコロジー問題にも寄与することができるので、セラミックス製品や金属製品の製造に用いられる成型体の脱脂処理用の脱脂炉として利用した場合極めて有用である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・脱脂炉
10・・・脱脂炉本体
101・・・脱脂室
102・・・扉
103・・・トレー
104、306、501・・・モータ
105・・・撹拌ファン
106・・・脱脂炉用排気路
20・・・燃焼炉
201・・・燃焼室
202・・・シーズヒータ
203・・・パイプ
204・・・燃焼炉用排気路
30・・・外気取込部
301a、301b・・・筒状体
302a、302b・・・開口
303・・・外気取込口
304・・・ウォームホイール
305・・・ウォームギア
40・・・循環路
50・・・循環ファン
60・・・排気部
601・・・排気ダクト
602・・・カバー
603・・・排出量調節板
604・・・レバー
70・・・熱電対
80・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末原料と結合剤とを含む成型体に脱脂処理を施すための脱脂炉本体と、
前記脱脂炉本体の排気に含まれる有害物質を燃焼するための燃焼炉と、
前記燃焼炉の排気を前記脱脂炉本体に循環させて前記成型体を加熱するための循環加熱手段と、
を有することを特徴とする、脱脂炉。
【請求項2】
前記循環加熱手段は、前記燃焼炉の排気口と前記脱脂炉本体の給気口とを連結せしめる第1の流路を有することを特徴とする、請求項1に記載の脱脂炉。
【請求項3】
前記循環加熱手段は、前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度を制御する温度制御手段を更に有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の脱脂炉。
【請求項4】
前記温度制御手段は、
前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度を検出する温度検出手段と、
外気を取り込む外気取込手段と、
前記温度検出手段により検出した前記脱脂炉本体の温度又は前記脱脂炉本体への給気温度に従って前記外気取込手段による外気の取り込み量を制御するコントローラと、
を有することを特徴とする、請求項3に記載の脱脂炉。
【請求項5】
前記循環加熱手段は、前記燃焼炉の排気の一部を外部に排出する排出手段を更に有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の脱脂炉。
【請求項6】
前記燃焼炉は、
九十九折状に形成された第2の流路と、
前記第2の流路内に配設された燃焼手段と、
を備えたことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の脱脂炉。
【請求項7】
前記燃焼炉は、複数の燃焼室を有することを特徴とする、請求項6に記載の脱脂炉。
【請求項8】
前記燃焼室は、横長状で水平面上に並列して形成されており、前記燃焼室の一端部が隣接する直前の燃焼室と他端部が隣接する直後の燃焼室とそれぞれ連通されて前記第2の流路が形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の脱脂炉。
【請求項9】
前記脱脂炉本体は、前記循環加熱手段以外に前記成型体を加熱するための加熱手段を有していないことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の脱脂炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174703(P2011−174703A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109966(P2011−109966)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3159266号
【原出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(508118614)株式会社イーアンドエムエンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】