説明

自動利得制御装置

【課題】自船の位置する海域に応じた利得制御を自動的に行うことができる自動利得制御装置を提供する。
【解決手段】自船位置が、岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物が多数存在する港の周辺や港の内部、運河等の海域(港湾エリア)内にあるのか否かを判定部11により判定し、当該判定結果に基づいて閾値算出部12が自動的に閾値算出アルゴリズムを切替える。これにより、洋上においても港内においても、設定変更や感度調整などの操作を実行することなく、最適な感度のレーダ映像を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状電波を送受信するレーダ装置において受信信号の表示レベルを自動的に制御する自動利得制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
安全で効率的な航海を支援する目的で船舶に装備されるレーダ装置において、最適なレーダ映像を得るためには、適切に受信感度を調整し、レーダ装置の内部で発生するホワイトノイズや、海面反射、雨雪反射等のクラッタを最適レベルで除去することが必要である。
この受信感度の調整は、レーダ装置にある利得制御装置で行われる。なお、以下の説明では、このホワイトノイズやクラッタなどの不要信号をノイズと称し、船、ブイ、陸地などの検出されるべき物体からの反射信号を物標エコーと称して区別する。
【0003】
従来のレーダ装置における受信感度調整手法には、例えば特許文献1に記載のものがある。
この特許文献1は、感度調整を行うために受信した信号から一定の振幅値以上の信号を抽出し、抽出した信号を計数する。そして、計数値と予め設定した基準値とを比較し、その結果に応じて利得制御信号のレベルを調整している。
【特許文献1】特許第3288489号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物が多数存在する港の周辺や港の内部、運河等の海域(以下では、この海域を「港湾エリア」と称する)において安全な航行を支援するためには、レーダ装置は、自船の近くに存在する岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物を明瞭に表示することが望ましい。
しかしながら、この表示に適した閾値は、陸地から離れた洋上においてノイズを除去するのに適した閾値とは必ずしも一致しない。そのため、特許文献1に記載されているような従来の自動利得制御装置では、洋上でノイズを適切に除去できる反面、港湾エリアで人工構造物を明瞭に表示することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、自船の位置する海域に応じた利得制御を自動的に行うことができる自動利得制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自船位置が港湾エリアの内か外かによって適用する閾値を自動的に変更し、自船が位置する海域に応じた最適な受信感度調整を実現するものである。
【0007】
具体的には、本発明は、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する自動利得制御装置であって、自船位置が港湾エリア内であるか港湾エリア外であるかを判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて、前記港湾エリア外で用いる第1の閾値または前記港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する閾値算出部と、前記閾値算出部で算出された閾値を用いて受信信号の利得制御を行う出力制御部とを備える。
【0008】
前記判定部は、自船から一定の距離範囲の領域として定義される判定領域における受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。例えば、前記判定部は、前記判定領域の受信信号から所定の振幅(Aref)以上の振幅を有するデータの個数(N)を計数し、当該計数値(N)が所定の値(Nref)以上であるとき自船位置が港湾エリア内であると判定し、所定の値(Nref)未満のとき自船位置が港湾エリア外であると判定する。
【0009】
また、前記判定部は、前記判定領域を方位方向に分割した領域として定義される分割判定領域毎に抽出した受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定するようにしてもよい。
【0010】
また、前記判定部は、自船位置情報と地図情報とに基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定するようにしてもよい。
【0011】
なお、判定部による港湾エリアの内外判定は、自船の探索領域毎に行うもののほか、自船の探索領域を方位方向に複数に分割した領域として定義される内外判定領域毎にその領域が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定するようにしても良い。具体的には、前記判定部が、内外判定領域毎に港湾エリア内か港湾エリア外かの判定を行い、前記閾値算出部が、前記第1の閾値または前記第2の閾値を前記内外判定領域毎に算出する。これにより、例えば、入港時には、自船後方の領域に対して港湾エリア外で用いる第1の閾値を算出し、自船前方の領域に対して港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出することも可能である。なお、このように方位毎に処理を切替えた際に生じる感度の不連続性を避けるため、内外判定領域の境界において方位方向に感度が連続的に変化するように、算出した閾値に対して平滑化等の処理を行うようにしてもよい。
【0012】
また、前記判定部による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した直後、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した直後には、閾値が不連続に変化する可能性がある。この変化にともなってレーダ映像が不連続に変化することを避けるために、前記閾値算出部は、第1の閾値と第2の閾値を算出し、両者の重み付き平均値を閾値として出力するようにしてもよい。
【0013】
また、他の手法として、前記閾値算出部は、前回出力した閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を算出し、算出した平均値を今回出力する閾値として出力するようにしてもよい。
なお、後者の手法については、前記判定部による判定結果が変化するか否かに関わらず、常に、前回出力した閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を算出し、算出した平均値を今回出力する閾値として出力してもよい。これにより、前記閾値算出部は、何らかの原因により一時的に異常値が算出されたような場合であっても、その影響を殆ど受けることなく最適な閾値を出力することが可能になる。
【0014】
また、本発明は、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する自動利得制御装置であって、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果をユーザに通知する通知部と、前記通知を受けたユーザからの入力を受付けるユーザ入力受付部と、前記ユーザ入力受付部からの出力と前記判定部からの判定結果に基づいて、前記港湾エリア外で用いる第1の閾値または前記港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する閾値算出部と、前記閾値算出部で算出された閾値を用いて受信信号の利得制御を行う出力制御部とを備えるものである。このような構成により、ユーザは前記判定部による判定結果に応じて第1の閾値あるいは第2の閾値を選択して適用することもできるので、ユーザの利便性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、洋上においても港内においても、設定変更や感度調整などの操作を実行することなく、最適な感度のレーダ映像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1による自動利得制御装置の構成を示すブロック図である。
図1において、本発明の実施の形態1による自動利得制御装置は、判定部11と、閾値算出部12と、出力制御部13とからなる。
【0017】
判定部11は、自船の位置する海域が港湾エリア内であるか港湾エリア外であるかを判定する。なお、港湾エリアとは、岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物が多数存在する港の周辺や港の内部、運河等の海域をいう。
閾値算出部12は、判定部11の判定結果に基づいて、港湾エリア外で用いる第1の閾値あるいは港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する。なお、以下の説明では、第1の閾値を算出するためのアルゴリズムを第1の閾値算出アルゴリズム、第2の閾値を算出するためのアルゴリズムを第2の閾値算出アルゴリズムと称する。
出力制御部13は、閾値算出部12が算出した閾値を用いて受信信号の利得制御を行う。
【0018】
以下に、判定部11による判定処理の例を説明する。
1.受信信号の振幅値を利用する判定方式
レーダ装置は、所定の周期で水平面を回転するアンテナから、所定の周期でパルス状電波を送信するとともに、物標で反射した電波を受信する。レーダ装置の受信部は、受信した電波を電気信号に変換して所定のサンプリングレートでサンプリングし、デジタル信号に変換する。判定部11は、受信部によってデジタル信号に変換された受信信号を用いて、次に説明する(1)、(2)の判定処理を行う。
【0019】
(1)第1の判定方式
図2は、判定部11による判定処理を説明するための説明図である。
図2に示すように、判定部11は、自船から一定の距離範囲(例えば、0.1〜0.2NM)の領域として定義される判定領域における受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。
【0020】
例えば、判定部11は、探索領域全域の受信信号から判定領域の受信信号を抽出し、抽出した受信信号の内、所定の振幅(Aref)以上の振幅を有するデータの個数(N)を計数する。そして、判定部11は、この計数値(N)が所定の値(Nref)以上であるときには自船位置が港湾エリア内であると判定し、所定の値(Nref)未満のときには自船位置が港湾エリア外であると判定する。なお、受信信号の振幅の大きさは送信パルス幅に依存するため、Aref、Nrefの値を送信パルス幅に応じて変更するようにすればよい。また、受信信号のサンプリングレートが探知レンジにより異なる場合には、Aref、Nrefの値を受信信号のサンプリングレートに応じて変更するようにすればよい。
【0021】
(2)第2の判定方式
港湾エリア内での受信信号は、例えば、大きなビルが存在する方位や、送信パルスが岸壁の側面に垂直に入射する方位において特に大きな振幅を有し、港湾エリア外での受信信号と比べて、受信信号の振幅が方位ごとに大きく異なる傾向がある。一方で、洋上での受信信号は、港内に比べれば小さいものの、例えば、自船の全周に多数の船が存在するような場合には、前述した第1の判定方式における計数値(N)が大きな値をとる。したがって、判定部11は、実際には自船位置が港湾エリア外であるにもかかわらず、誤って自船位置が港湾エリア内であると判定してしまう恐れがある。
【0022】
そこで、第2の判定方式では方位毎の振幅値の違いを考慮して自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。
図3は、判定部11による、方位を考慮した判定処理を説明するための説明図である。
【0023】
図3に示すように、判定部11は、判定領域を方位方向にM(例えば12)個に分割した領域として定義される分割判定領域毎に抽出した受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。
【0024】
一例として、判定部11は、探索領域全域の受信信号から分割判定領域毎に受信信号を抽出し、分割判定領域毎に抽出した受信信号の内、所定の振幅(Aref)以上の振幅を有するデータの個数を計数する。そして、判定部11は、分割判定領域毎に得られた計数値(Nsub)のうち、大きいものから順にM0(例えば3)個を抽出し、抽出したM0個の計数値の総和(S)を算出する。判定部11は、この総和(S)が所定の値(Sref)以上であるときには自船位置が港湾エリア内であると判定し、所定の値(Sref)未満のときには自船位置が港湾エリア外であると判定する。なお、受信信号の振幅の大きさは送信パルス幅に依存するため、Aref、Srefの値を送信パルス幅に応じて変更するようにすればよい。また、受信信号のサンプリングレートが探知レンジにより異なる場合には、Aref、Nrefの値を受信信号のサンプリングレートに応じて変更するようにすればよい。
【0025】
また、別の一例として、隣接する分割判定領域の振幅値を変量とする度数分布の相似性に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定することも可能である。例えば、判定部11は、上記計数値(Nsub)が最も大きい値をとる分割判定領域とそれに隣接する分割判定領域の受信信号に関して、振幅値を変量とする度数分布を生成する。ここでは、これらの度数分布を、それぞれ、h1[j]、h2[j](0≦j≦J−1)で表記する。jは度数分布の階級を示し、Jは階級数を示す。判定部11は、これらの配列に基づいて、数1で定義される相似性の指標ρを算出する。
【数1】

判定部11は、この指標ρが所定の値(ρref)以上であるときには自船位置が港湾エリア外であると判定し、所定の値(ρref)未満のときには自船位置が港湾エリア内であると判定する。
【0026】
このように、判定部11は、方位毎に得た振幅情報から自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かの判定を行うことにより、方位毎の状況を反映した判定処理を行うことが可能になる。
【0027】
2.地図情報を利用する判定方式
自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かの判定は、受信信号の振幅値を利用する以外に地図情報を利用して行うこともできる。つまり、判定部11は、港湾エリアの緯度と経度を予め記憶しておき、GPSなどの測位装置から得られた自船位置の緯度と経度をもとに、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。
【0028】
次に、閾値算出部12による閾値算出処理を図4を用いて説明する。
図4は、本発明の閾値算出部12の処理を説明するためのフローチャートである。
(S11)先ず、閾値算出部12は、判定部11から自船位置が港湾エリア外か港湾エリア内かの判定結果を取得する。
(S12)判定部11による判定結果が港湾エリア外である場合には、閾値算出部12は第1の閾値算出アルゴリズムを用いて港湾エリア外で用いる第1の閾値を算出する。
(S13)一方で、判定部11による判定結果が港湾エリア内である場合には、閾値算出部12は第2の閾値算出アルゴリズムを用いて港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する。
【0029】
次に、第1の閾値算出アルゴリズムについて図5を用いて説明する。
第1の閾値算出アルゴリズムは、所定領域の受信信号に関して振幅値を変量とする度数分布を生成し、この度数分布に基づいて、ホワイトノイズやクラッタなどのノイズを最適レベルで除去する閾値を算出する。
第1の閾値算出アルゴリズムは、所定領域からの受信信号に関して振幅値を変量とする度数分布を生成し、この度数分布に基づいて、ホワイトノイズやクラッタなどのノイズを最適レベルで除去する閾値を算出する。
【0030】
以下、その具体例について説明する。
図5は第1の閾値算出アルゴリズムを用いた閾値算出手法の一例を説明するための説明図である。
第1の閾値算出アルゴリズムは、先ず、図5に示すように、レーダ探索領域を複数の領域に分割した領域として定義される閾値算出領域毎に、その領域の度数分布に基づいて、物標エコーが優勢な物標エコー優勢領域かノイズが優勢な領域であるノイズ優勢領域かの判定を行う。
【0031】
次に、ノイズ優勢領域と判定された領域の度数分布に基づいてノイズ優勢領域の閾値を算出する。物標エコー優勢領域では、物標エコーの影響により、ノイズを除去するための適正な閾値を算出することが困難である。そこで、物標エコー優勢領域の閾値は、ノイズ優勢領域で算出した閾値を、補間処理あるいは外挿処理することにより算出する。これにより、物標エコーの影響を受けず、ホワイトノイズやクラッタなどのノイズを最適レベルで除去する閾値を算出することができる。
【0032】
なお、ここで説明した第1の閾値算出アルゴリズムは、あくまで一例であり、陸地から離れた洋上でホワイトノイズやクラッタなどのノイズを最適レベルで除去できる閾値算出アルゴリズムであれば、これに限定されるものではない。
【0033】
一方、港湾エリアで安全な航行を支援するためには、レーダ装置は、自船の近くに存在する岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物を明瞭に表示することが望ましい。しかしながら、この表示に適した閾値は、陸地から離れた洋上においてノイズを除去するのに適した閾値とは必ずしも一致しない。
【0034】
このことは、前述の第1の閾値算出アルゴリズムも例外ではなく、閾値算出部12は、港湾エリア内で第1の閾値算出アルゴリズムを用いて最適な閾値調整を行うことが困難である。
【0035】
そこで、本発明の自動利得制御装置は、判定部11の判定結果に基づいて閾値の算出アルゴリズムを切替え、自船位置が港湾エリア外にある場合には第1の閾値算出アルゴリズムを用いて第1の閾値を算出し、自船位置が港湾エリア内にある場合には、第2の閾値算出アルゴリズムを用いて第2の閾値を算出する。
【0036】
以下に、第2の閾値算出アルゴリズムについて図6を用いて説明する。
第2の閾値算出アルゴリズムは、図6に示すように、自船から一定の距離(例えば0.5 NM)以上離れた領域に対して、第1の閾値算出アルゴリズムをそのまま用いて閾値を算出し、この距離よりも自船に近い領域に対しては自船からの距離に応じて予め定められた閾値を用いる。
【0037】
すなわち、閾値算出部12は、自船の近くの領域に対しては、岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物を明瞭に表示するために適切な閾値を出力し、自船から一定の距離以上離れた領域に対しては、前述した第1の閾値算出アルゴリズムを用いて算出した閾値を出力する。なお、距離方向において閾値が不連続に変化することを防ぐため、これらふたつの領域の境界部分で閾値が連続的に変化するような処理を行えばなお好適である。
【0038】
なお、ここで説明した第2の閾値算出アルゴリズムは、あくまで一例であり、自船の近くに存在する岸壁、防波堤、桟橋、船などの人工構造物を明瞭に表示することができる閾値算出アルゴリズムであれば、これに限定されるものではない。
【0039】
以上のように本発明は自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定し、当該判定結果に基づいて使用する閾値を切替えることにより、洋上においても港内においても、設定変更や感度調整などの操作を実行することなく、常に最適な感度のレーダ映像を得ることができる。
【0040】
なお、本発明の実施の形態1では、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かにより、探索領域全体の閾値算出アルゴリズムを変更するものについて説明したが、自船が位置する周囲の海域の状況に基づいて、方位毎に港湾エリア内か港湾エリア外を判定し、方位毎に閾値算出アルゴリズムを切替えるようにしてもよい。
【0041】
具体的には、判定部11が、レーダ探索領域を方位方向に複数に分割した領域として定義される内外判定領域毎に港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する。そして、閾値算出部12が判定部11による内外判定領域毎の判定結果に基づいて、第1の閾値算出アルゴリズムと第2の閾値算出アルゴリズムとを内外判定領域毎に選択して実行する。これにより、例えば、入港時に自船前方では港湾エリア内に適合した第2の閾値を算出し、自船後方では港湾エリア外に適合した第1の閾値を算出することも可能である。なお、方位毎に処理を切替えた際に生じる感度の不連続性を避けるため、内外判定領域の境界において方位方向に感度が連続的に変化するように、算出した閾値に対して平滑化等の処理を行うようにしてもよい。
【0042】
(実施の形態2)
次に本発明の実施の形態2による自動利得制御装置について説明する。本発明の実施の形態2による自動利得制御装置は、閾値算出部12が、判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した直後、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した直後に、第1の閾値と第2の閾値を算出し、両者の重み付き平均値を閾値として出力する点において、前述した本発明の実施の形態1による自動利得制御装置と相違する。なお、閾値算出部12以外の構成要素については、前述した実施の形態1による自動利得制御装置と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0043】
図7は、本発明の実施の形態2による閾値算出部12の処理を説明するためのフローチャートである。図7に示すフローチャートは、判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した時、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した時に閾値算出部12によって実行される処理である。
【0044】
(S21)判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した時、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した時、閾値算出部12は、第1の閾値算出アルゴリズム、第2の閾値算出アルゴリズムの両方を用いて第1の閾値と第2の閾値を算出する。
【0045】
(S22)次に、閾値算出部12は、第1の閾値と第2の閾値の重み付け量α及びβを設定する。ここで、αは変化前の判定結果に対応する閾値算出アルゴリズムを用いて算出した閾値に乗じる係数、βは変化後の判定結果に対応する閾値算出アルゴリズムを用いて算出した閾値に乗じる係数である。例えば、表1に示すように重み付け量を0.1ずつ変化させる場合、前回使用したαをα[N−1]、今回使用するαをα[N]とすると、重み付け量αは、α[N]=α[N−1]−0.1となる。また、前回使用したβをβ[N−1]、今回使用するβをβ[N]とすると、重み付け量βは、β[N]=β[N−1]+0.1となる。なお、α、βの初期値はα=1、β=0である。
【表1】

【0046】
(S23)α、βの設定後、閾値算出部12はαA+βBの演算を行い、出力制御部13に出力する閾値を算出する。なお、Aは変化前の判定結果に対応する閾値算出アルゴリズムを用いて算出した閾値であり、Bは変化後の判定結果に対応する閾値算出アルゴリズムを用いて算出した閾値である。例えば、判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した時には、港湾エリア内で使用する第2の閾値算出アルゴリズムを用いて算出した第2の閾値がA、港湾エリア外で使用する第1の閾値算出アルゴリズムを用いて算出した第1の閾値がBとなる。
【0047】
(S24)閾値算出部12は、αA+βBの演算により算出した閾値を出力制御部13に出力する。
(S25)その後、閾値算出部12は、変化前の状態から変化後の状態へ完全に移行したか、つまりαの設定値が「0」、βの設定値が「1」であるか否かを判定し、α=0、β=1であれば処理を終了する。一方で、α=0、β=1でなければステップS21からステップS23の処理をα=0、β=1になるまで繰り返し実行する。これにより、10回分の閾値算出処理を経て、徐々に変更前の閾値から変更後の閾値に移行することが可能になる。
【0048】
なお、ステップS21からステップS24までの処理中に、判定部11による判定結果が再度変化した場合には、前述のステップS21からステップ25までの処理と同様に、α及びβの値を0.1ずつ変化させ、α=1、β=0の状態に戻すようにすればよい。これにより、判定部11による判定結果が再度変化された場合であっても、適用される閾値が急激に変化することを防止することができる。
【0049】
また、前述した本発明の実施の形態2による重み付け処理をより簡易に実現する方法として次の方法もある。
レーダ装置が動作している間、閾値算出部12は、判定部11による判定結果に基づいて第1の閾値あるいは第2の閾値を算出し出力制御部13へ出力するという動作を繰り返す。この際、閾値算出部12は、算出した閾値をそのまま出力するかわりに、同じ方位及び距離で算出された前回の閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を算出し、この平均値を出力する。前回出力した閾値をTHout[N−1]、今回算出した閾値をTH[N]とすると、今回出力する閾値THout[N]は、例えば、THout[N]=0.1×TH[N]+0.9×THout[N−1]という式で表される。なお、レーダ装置が起動した直後には、算出した閾値をそのまま出力すればよい。
【0050】
これにより、判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外あるいは港湾エリア外から港湾エリア内へ移り変わるときにも、閾値を徐々に変化させることができるため、レーダ映像の不連続な変化を避けることが可能になる。また、判定部11が一時的に判定を誤った場合にも、閾値の急激な変化が緩和されるため、レーダ映像上でユーザに違和感を与えることなく、誤判定の影響を防ぐことが可能になる。
【0051】
なお、本発明の実施の形態2では、判定部11による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した直後、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した直後に、前回出力した閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を算出し、算出した平均値を今回出力する閾値として出力する処理を行うものについて説明したが、前記判定部による判定結果が変化するか否かに関わらず、常に、前回出力した閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を今回出力する閾値として出力するようにしてもよい。これにより、前記閾値算出部は、何らかの原因により一時的に異常値を算出したような場合であっても、その影響を殆ど受けることなく最適な閾値を出力することが可能になる。
【0052】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3による自動利得制御装置について説明する。本発明の実施の形態3による自動利得制御装置は、判定部11による判定結果をユーザに通知する点において、前述した本発明の実施の形態1による自動利得制御装置と相違する。なお、前述した実施の形態1による自動利得制御装置と同じ構成要素については同一の符号を付し説明を省略する。
【0053】
図8は、本発明の実施の形態3による自動利得制御装置の構成を示すブロック図である。
図8において、本発明の実施の形態3による自動利得制御装置は、判定部11と、閾値算出部12と、出力制御部13と、通知部21と、ユーザ入力受付部22とからなる。
【0054】
通知部21は、判定部11の判定結果をユーザに通知する。なお、ユーザへの通知手法は、表示画面上に判定結果を表示する手法のほか、音や振動により通知する手法であってもよい。
【0055】
ユーザ入力受付部22は、ユーザの入力を受付けるマウス等の入力装置であり、次に示す[1]から[3]のいずれの処理を実行するかの指示を受付け、受付けた指示を閾値算出部12に出力する。
[1]判定部11の判定結果に従って、第1の閾値あるいは第2の閾値を算出する。
[2]判定部11の判定結果によらず、第1の閾値を算出する。
[3]判定部11の判定結果によらず、第2の閾値を算出する。
【0056】
閾値算出部12は、ユーザ入力受付部22が受付けた指示に従って、上に示した[1]から[3]のいずれかの処理を実行する。これにより、ユーザはレーダ映像を見ながら、閾値を変更することが可能になる。例えば、ユーザは、港湾エリア内で海面反射のクラッタを除去したい場合には、上に示した[2]を選択すればよい。また、判定部11が誤判定を生じた場合には、上に示した[2]あるいは[3]を選択して適正な閾値を適用することが可能になる。
【0057】
なお、本発明は、本発明の各実施の形態で説明した発明の本旨を逸しない範囲で自由に設計変更可能であり、本発明の各実施の形態で説明した内容に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態1による自動利得制御装置の構成を示すブロック図
【図2】判定部による判定処理を説明するための説明図
【図3】方位を考慮した判定部による判定処理を説明するための説明図
【図4】本発明の閾値算出部による処理を説明するためのフローチャート
【図5】第1の閾値算出アルゴリズムを用いた閾値算出手法の一例を説明するための説明図
【図6】第2の閾値算出アルゴリズムを用いて算出した第2の閾値の一例を示す図
【図7】本発明の実施の形態2による自動利得制御装置の判定部による判定結果が変化した際の閾値算出部による処理を説明するためのフローチャート
【図8】本発明の実施の形態3による自動利得制御装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0059】
11 判定部
12 閾値算出部
13 出力制御部
21 通知部
22 ユーザ入力受付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する自動利得制御装置において、
自船位置が港湾エリア内であるか港湾エリア外であるかを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、前記港湾エリア外で用いる第1の閾値または前記港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する閾値算出部と、
前記閾値算出部で算出された閾値を用いて受信信号の利得制御を行う出力制御部と、
を備えることを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部は、自船から一定の距離範囲の領域として定義される判定領域における受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部は、前記判定領域の受信信号から所定の振幅(Aref)以上の振幅を有するデータの個数(N)を計数し、当該計数値(N)が所定の値(Nref)以上であるとき自船位置が港湾エリア内にあると判定し、所定の値(Nref)未満のとき自船位置が港湾エリア外にあると判定することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部は、前記判定領域を方位方向に複数に分割した領域として定義される分割判定領域毎に抽出した受信信号の振幅値に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部は、自船位置情報と地図情報とに基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部は、レーダ探索領域を方位方向に複数に分割した領域として定義される内外判定領域毎に港湾エリア内か港湾エリア外かの判定を行い、
前記閾値算出部は、前記第1の閾値または前記第2の閾値を前記内外判定領域毎に算出することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記閾値算出部は、前記判定部による判定結果が港湾エリア内から港湾エリア外に変化した直後、あるいは港湾エリア外から港湾エリア内に変化した直後に、第1の閾値と第2の閾値を算出し、両者の重み付き平均値を今回出力する閾値として前記出力制御部に出力することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記閾値算出部は、前回出力した閾値と今回算出した閾値との重み付き平均値を算出し、算出した平均値を今回出力する閾値として前記出力制御部に出力することを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記判定部の判定結果に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かをユーザに通知する通知部を備えることを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項10】
レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する自動利得制御装置において、
自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、自船位置が港湾エリア内か港湾エリア外かをユーザに通知する通知部と、
前記通知を受けたユーザからの入力を受付けるユーザ入力受付部と、
前記ユーザ入力受付部からの出力と前記判定部からの判定結果に基づいて、前記港湾エリア外で用いる第1の閾値または前記港湾エリア内で用いる第2の閾値を算出する閾値算出部と、
前記閾値算出部で算出された閾値を用いて受信信号の利得制御を行う出力制御部と、
を備えることを特徴とする自動利得制御装置。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103581(P2009−103581A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275645(P2007−275645)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】