説明

自動変速機の制御装置、および、自動変速機の制御プログラム

【課題】 走行中にニュートラル状態に制御した場合にも、適切に故障検出を行うことができる自動変速機の制御技術を提供する。
【解決手段】 複数の摩擦係合要素の係合状態に応じて、変速比が異なる複数の変速段を実現可能な自動変速機の制御ECUは、車両が前進走行している状態であって、かつ、いずれか1つの変速段が実現されている状態で、車両のアクセルが操作されていないことを含む走行条件が成立した場合に、少なくとも1つの摩擦係合要素について係合力を低下させることにより自動変速機をニュートラル状態とするニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段と、実際の変速比を特定する変速比特定手段と、ニュートラル制御の実行中に、実際の変速比に基づいて前記自動変速機が故障であるか否かを判定する第1の故障判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置、および、自動変速機の制御プログラムに関し、特に、所定条件が満たされた場合に自動変速機をニュートラル状態に制御する自動変速機の制御装置、および、自動変速機の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機において、運転者により操作されるシフトポジションが前進レンジ(Dレンジ)であるにも拘わらず、車両が停止していることを必要条件として含む所定の開始条件が成立した場合には、エンジンの動力が駆動車軸に伝わらないニュートラル状態に制御する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この技術では、車両の停止時にニュートラル状態に制御することにより、トルクコンバータで消費されるエネルギーが低減されるため、ニュートラル状態に制御しない場合に比べてエンジンの回転数を低くすることができ、車両の燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−228466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、車両の停止中にニュートラル制御を行う燃費向上技術であるが、かかるニュートラル制御を走行中に実施することが考えられる。この場合に、ニュートラル制御中、あるいは、ニュートラル制御から通常の変速制御に復帰した際に、意図しない摩擦係合要素の係合が発生すると、車両が走行中であるために自動変速機の耐久性、車両のドライバビリティ等の観点から問題が発生するおそれがあった。例えば、自動変速機を、ニュートラル状態から2つの摩擦係合要素を係合することで実現される変速段に切り替える際に、誤って3つの係合要素に係合油圧が発生すると、3つの摩擦係合要素のうちの1つが係合油圧が発生しているにも拘わらずスリップして、摩擦係合要素の摩耗、車両の減速が生じるおそれがあった。従って、このような問題を回避するために、車両の走行中にニュートラル制御を行う場合には、意図しない摩擦係合要素の係合等の故障検出を行うことが好ましい。
【0006】
ところで、従来の走行中の故障検出技術では、意図する変速段(制御変速段)の変速比と、自動変速機で実際に実現されている変速比とが異なる場合に、故障であると判断していた。この技術では、制御変速段の変速比が特定値に決まっていることが前提となっている。
【0007】
しかしながら、走行中にニュートラル状態に制御した場合、自動変速機の入力軸はエンジンのクランクシャフトと略同期して回転し、出力軸は車輪と同期して回転しており、変速比は、エンジンの回転速度および車輪の回転速度(車速)に応じて常に変化している。したがって、走行中にニュートラル状態に制御している間は、変速比が特定値に定まらないため、従来の走行中の故障検出技術を適用することができないという課題があった。
【0008】
本発明は、走行中にニュートラル状態に制御した場合にも、適切に故障検出を行うことができる自動変速機の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
車両の駆動源から駆動車輪への動力伝達経路に配置され、複数の摩擦係合要素と入力軸と出力軸とを有し、前記複数の摩擦係合要素の係合状態に応じて、前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比率である変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を実現可能な自動変速機の制御装置であって、
前記車両が前進走行している状態であって、かつ、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段が実現されている状態で、前記車両のアクセルが操作されていないことを含む走行条件が成立した場合に、係合されている摩擦係合要素について係合力を低下させることにより前記自動変速機を前記入力軸と前記出力軸との間の動力の伝達が抑制されたニュートラル状態とするニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段と、
前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度に基づいて、前記自動変速機の実際の変速比を特定する変速比特定手段と、
前記ニュートラル制御の実行中に、前記実際の変速比に基づいて、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する第1の故障判定手段と、
を備え、
前記第1の故障判定手段は、前記実際の変速比と、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比とが所定時間に亘って一致している場合に、前記自動変速機が故障であると判定する、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0011】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、車両が前進走行している状態で、、燃費の向上のために自動変速機をニュートラル状態に制御した場合であっても、自動変速機の実際の変速比を特定し、特定された実際の変速比に基づいて自動変速機の故障を判定することができる。具体的には、実際の変速比と、複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比とが所定時間に亘って一致している場合に、故障であると判定するので、正常であれば逐次に変化するニュートラル制御時の変速比が、意図しない摩擦係合要素の係合によって1つの変速段の変速比となってしまう故障を適切に検出することができる。したがって、上述した意図しない摩擦係合要素の係合を抑制することができる。この結果、摩擦係合要素の不要なスリップによる摩擦係合要素の摩耗および車両の減速等を抑制することができ、自動変速機の耐久性の向上および車両のドライバビリティの向上を図ることができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記ニュートラル制御手段は、前記ニュートラル制御の実行中であって、終了条件が成立した場合に、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段に前記自動変速機を変速させるニュートラル終了制御を実行する第1のニュートラル終了制御手段を含み、
前記第1の故障判定手段は、前記ニュートラル終了制御の実行中に、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0013】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、ニュートラル終了制御の実行中に故障であるか否かを判定するので、故障が発生していない場合であって終了条件の成立によりニュートラル制御を終了する場合に、自動変速機にいずれかの変速段を迅速に形成させることができる。具体的には、終了条件が成立した場合に故障であるか否かを判定し、その後にニュートラル終了制御を行う場合と比較して、自動変速機にいずれかの変速段を迅速に形成させることができる。また、ニュートラル終了制御の実行中に故障であるか否かを判定するので、故障であると判定された時点で故障対応を行えば良いため制御の複雑化を抑制できる。例えば、ニュートラル状態に制御している間に故障であるか否かを判定して、終了条件が成立後に故障対応を行う場合には、故障判定の結果を記憶する仕組み(フラグ等)が必要となるため、制御が複雑化するおそれがあるが、本構成によれば、そのような問題を回避できる。
【0014】
[適用例3]
適用例2に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記第1のニュートラル終了制御手段は、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定されない場合には、前記複数の変速段のうち、前記アクセルの開度と前記車両の車速とに基づいて決定される変速段に前記自動変速機を変速させ、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定された場合には、前記複数の変速段のうち、前記実際の変速比に対応する変速段に前記自動変速機を変速させる、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0015】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、第1の故障判定手段によって故障であると判定された場合には、アクセルの開度と車両の車速とに基づいて決定される変速段ではなく、実際の変速比に対応する変速段に変速させる。この結果、故障が発生しているにも拘わらず、実際の変速比に対応する変速段とは異なる変速段への変速指示が行われて、意図しない摩擦係合要素の係合が発生することを回避することができる。例えば、故障により2つの摩擦係合要素が係合している場合に、当該2つの摩擦係合要素とは別の摩擦係合要素を係合させて実現される変速段への変速指示が行われると、当該2つの摩擦係合要素に加えて別の摩擦係合要素まで係合された状態となり、これらの摩擦係合要素のうちのいずれかの摩擦係合要素がスリップしてしまう。本構成によれば、例えば、故障により2つの摩擦係合要素が係合している場合に、当該2つの摩擦係合要素の係合により実際に実現されている変速段への変速指示が行われるため、実際に実現されている変速段と変速指示される変速段とが一致し、意図しない摩擦係合要素の係合が回避される。この結果、上述した摩擦係合要素のスリップを回避できる。したがって、摩擦係合要素の不要なスリップによる摩擦係合要素の摩耗および車両の減速等を抑制することができる。
【0016】
[適用例4]
適用例3に記載の自動変速機の制御装置は、さらに、
前記ニュートラル終了制御が実行された後に、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する第2の故障判定手段を備え、
前記第2の故障判定手段は、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定されない場合には、前記ニュートラル終了制御が実行された後に、さらに所定期間が経過した後、前記自動変速機が故障であるか否かを判定し、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定された場合には、前記ニュートラル制御が実行された後に、前記所定期間の経過を待たずに、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0017】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、第1の故障検出手段によって故障であると判定された場合には、速やかに第2の故障検出手段による故障判定を行うことができる。この結果、速やかに自動変速機が故障であるか否かを確定させることができる。
【0018】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の自動変速機の制御装置であって、
前記車両が前進走行している状態は、前記車両が予め定められた規定速度以上で前進走行している状態である、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0019】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、車両が有する力学的エネルギーを利用して走行できる規定速度以上で前進走行しているときに、ニュートラル制御が実行されるため、車両が有する力学的エネルギーを無駄なく(具体的には、エンジンブレーキによって損失することなく)利用して燃費の向上を図ることができる。
【0020】
[適用例6]
適用例1に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記ニュートラル制御手段は、前記第1の故障検出手段によって故障であると判定された場合に、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段に前記自動変速機を変速させるニュートラル終了制御を実行する第2のニュートラル終了制御手段を含む、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0021】
上記構成の自動変速機の制御装置によれば、故障であると判定された場合には、速やかにいずれかの変速段(例えば、故障であると判定されたときの実際の変速比に対応する変速段)に自動変速機を変速させるので、ニュートラル状態に制御しているにも拘わらず、変速段の変速比が所定時間に亘って成立しているという意図しない状態に自動変速機がある場合には、速やかにニュートラル制御を終了させることができる。
【0022】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、自動変速機の制御プログラム、当該制御プログラムを記録した記録媒体、自動変速機の制御方法、自動変速機を備えた車両、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例としての自動変速機10を搭載した車両の概略構成を示す図。
【図2】自動変速機10の機械的構成を示すスケルトン図。
【図3】変速機構5の動作表。
【図4】変速機構5の速度線図。
【図5】自動変速機10の油圧制御装置6を抜粋して示す概略図。
【図6】変速マップ122の一例を示す概略図。
【図7】第1実施例の走行中ニュートラル制御を中心としたECU100による自動変速機10の制御ステップを示すフローチャート。
【図8】自動変速機10が正常である場合における第1実施例の走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャート。
【図9】自動変速機10に故障が発生した場合における第1実施例の走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャート。
【図10】第2実施例の走行中ニュートラル制御を中心としたECU100による自動変速機10の制御ステップを示すフローチャートである。
【図11】自動変速機10に故障が発生した場合における第2実施例の走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、この発明の実施の形態を実施例に基づいて図1〜図9を参照しながら説明する。
【0025】
A.第1実施例:
図1は、本発明の一実施例としての自動変速機10を搭載した車両の概略構成を示す図である。図1では、図の煩雑を避けるため自動変速機10に関連する構成を選択的に図示している。図2は、自動変速機10の機械的構成を示すスケルトン図である。図2では、略上半分のみを図示し、略下半分の図示を省略している。
【0026】
図1に示すように、この車両は、駆動源としてのエンジン2と、自動変速機10と、電子制御装置(ECU(Electric Control Unit)とも呼ぶ。)100を備えている。
【0027】
エンジン2は、例えば、多気筒ガソリンエンジンであって、その出力軸であるクランクシャフト21(図2)に車両を駆動するためのトルクを出力する。
【0028】
自動変速機10は、トルクコンバータ4と、変速機構5と、油圧制御装置6を備えている。
【0029】
トルクコンバータ4は、ポンプインペラ42と、タービンランナ43と、ステータ44と、ワンウェイクラッチ45と、ロックアップクラッチ46を備えている。ポンプインペラ42は、エンジン2のクランクシャフト21と連結されている。タービンランナ43は、変速機構5の後述する入力軸INに連結されている。ポンプインペラ42がクランクシャフト21とともに回転すると、その回転が作動流体であるATF(Automatic Transmission Fluid)を介してタービンランナ43に伝達される。ステータ44は、ポンプインペラ42とタービンランナ43との間に、ワンウェイクラッチ45により一方向にのみ回転可能に配置され、ポンプインペラ42からタービンランナ43への回転のトルクを増幅する。ロックアップクラッチ46は、クランクシャフト21と変速機構5の入力軸INとを係合可能なクラッチである。ロックアップクラッチ46が係合状態にされると、クランクシャフト21の回転が、ポンプインペラ42およびタービンランナ43を介することなく、変速機構5の入力軸INに伝達される。
【0030】
変速機構5は、入力軸INと、出力軸O1と、第1のプラネタリギヤセットPG1と、第2のプラネタリギヤセットPG2と、油圧に基づき動作する摩擦係合要素であるクラッチC1、C2、C3と、油圧に基づき動作する摩擦係合要素であるブレーキB1、B2と、ワンウェイクラッチF1と、これらの構成要素を収容するケースCSとを備えている。
【0031】
入力軸INは、上述したように、トルクコンバータ4を介して、クランクシャフト21と、接続される。出力軸O1には、カウンタギヤが形成され、図示しないカウンタシャフト、ディファレンシャル装置を介して図示しない駆動車輪に接続されている。
【0032】
第1のプラネタリギヤセットPG1は、シングルピニオン式であり、サンギヤS1と、キャリヤCA1と、リングギヤR1と、複数のピニオンギヤP1とを備えている。複数のピニオンギヤP1は、キャリヤCA1に回転自在に保持されている。外歯歯車であるサンギヤS1と、内歯歯車であるリングギヤR1とは、同心に配置され、それぞれ複数のピニオンギヤP1と噛み合っている。また、サンギヤS1は、ケースCSに固定され、リングギヤR1は、入力軸INと一体に形成されている。
【0033】
第2のプラネタリギヤセットPG2は、ラビニヨ式であり、2つのサンギヤS2、S3と、キャリヤCA2と、リングギヤR2と、複数のロングピニオンギヤP2と、複数のショートピニオンギヤP3とを備えている。ロングピニオンギヤP2とショートピニオンギヤP3とは同数であり、各ロングピニオンギヤP2と対応するショートピニオンギヤP3とは互いに噛み合い、キャリヤCA2に回転自在に保持されている。外歯歯車であるサンギヤS2、S3と、内歯歯車であるリングギヤR2とは、同心に配置されている。サンギヤS2およびリングギヤR2は、それぞれ複数のロングピニオンギヤP2と噛み合っており、サンギヤS3は、複数のショートピニオンギヤP3と噛み合っている。リングギヤR2は、出力軸O1と一体に形成されている。
【0034】
クラッチC1〜C3は、湿式多板クラッチであり、油圧サーボに供給される油圧によって、係合状態と解放状態とに制御される。以下では、クラッチC1、C2、C3の各油圧サーボに供給される油圧を、それぞれ制御圧PC1、PC2、PC3と呼ぶ。クラッチC1は、第1のプラネタリギヤセットPG1のキャリヤCA1と第2のプラネタリギヤセットPG2のサンギヤS3とを、係合状態において結合し、解放状態において分離する。クラッチC2は、入力軸INと第2のプラネタリギヤセットPG2のキャリヤCA2とを、係合状態において結合し、解放状態において分離する。クラッチC3は、第1のプラネタリギヤセットPG1のキャリヤCA1と第2のプラネタリギヤセットPG2のサンギヤS2とを、係合状態において結合し、解放状態において分離する。
【0035】
ブレーキB1、B2は、湿式多板ブレーキであり、油圧サーボに供給される油圧によって、係合状態と解放状態とに制御される。以下では、ブレーキB1、B2の各油圧サーボに供給される油圧を、それぞれ制御圧PB1、PB2と呼ぶ。ブレーキB1は、ケースCSと第2のプラネタリギヤセットPG2のサンギヤS2とを、係合状態において結合し、解放状態において分離する。ブレーキB2は、ケースCSと第2のプラネタリギヤセットPG2のキャリヤCA2とを、係合状態において結合し、解放状態において分離する。
【0036】
ワンウェイクラッチF1は、ケースCSと第2のプラネタリギヤセットPG2のキャリヤCA2との間に配置されている。ワンウェイクラッチF1は、第2のプラネタリギヤセットPG2のキャリヤCA2がクランクシャフト21の回転方向の逆方向に回転することを禁止する。一方で、ワンウェイクラッチF1は、第2のプラネタリギヤセットPG2のキャリヤCA2がクランクシャフト21の回転方向と同一の方向に回転することを許容する。
【0037】
次に、変速機構5の動作について説明する。図3は、変速機構5の動作表である。図3において、クラッチC1〜C3およびブレーキB1、B2のうち、変速段の名称に対応する欄に○が付されている摩擦係合要素は、その変速段を実現する際に係合状態とされる。一方、クラッチC1〜C3およびブレーキB1、B2のうち、変速段の名称に対応する欄が無印である摩擦係合要素は、その変速段を実現する際に解放状態とされる。
【0038】
図4は、変速機構5の速度線図である。図3に示すようにクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2を係合または解放としたとき、第1のプラネタリギヤセットPG1および第2のプラネタリギヤセットPG2の各要素の速度比は、図4の速度線図のようになる。図4の速度線図から、図3の動作表に示すクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の係合状態/解放状態の組み合わせにより、リングギヤR1に入力された回転速度が減速されてリングギヤR2に出力される前進1速〜4速、リングギヤR1に入力された回転速度が増速されてリングギヤR2に出力される前進5速、6速、リングギヤR1に入力された回転速度が反転されてリングギヤR2に出力される後進が実現されることが解る。
【0039】
次に油圧制御装置6について説明する。まず、油圧制御装置6(図1)における図示を省略した、ライン圧、セカンダリ圧、モジュレータ圧等の生成部分について、大まかに説明する。なお、これらライン圧、セカンダリ圧、モジュレータ圧等の生成部分は、一般的な自動変速機の油圧制御装置と同様なものであり、周知のものであるので、簡単に説明する。
【0040】
油圧制御装置6は、例えば、図示を省略したオイルポンプ、マニュアルシフトバルブ、プライマリレギュレータバルブ、セカンダリレギュレータバルブ、ソレノイドモジュレータバルブ及びリニアソレノイドバルブ等を備えている。オイルポンプは、トルクコンバータ4のポンプインペラ42に接続され、エンジン2のクランクシャフト21の回転に連動して駆動される。オイルポンプは、不図示のオイルパンからストレーナを介してオイル(ATF)を吸上げて油圧を生成する。
【0041】
次に、油圧制御装置6について主に変速制御を行う部分について説明する。図5は、自動変速機10の油圧制御装置6を、抜粋して示す概略図である。油圧制御装置6は、上述のクラッチC1の油圧サーボ61、クラッチC2の油圧サーボ62、クラッチC3の油圧サーボ63、ブレーキB1の油圧サーボ64、ブレーキB2の油圧サーボ65に上述した制御圧PC1、PC2、PC3、PB1、PB2を調圧して供給するための4本のリニアソレノイドバルブSLC1、SLC2、SLC3、SLB1と、切換バルブ23を備えている。なお、該切換バルブ23は、実際には単体のバルブではなく、不図示のソレノイドバルブ、複数のリレーバルブ等から構成されているが、図5ではこれらを集約した形で図示している。
【0042】
リニアソレノイドバルブSLC1、リニアソレノイドバルブSLC2、リニアソレノイドバルブSLB1の各入力ポートSLC1a、SLC2a、SLB1aには、上述したマニュアルシフトバルブの前進レンジ圧出力ポートから前進レンジ圧Pが供給される。また、リニアソレノイドバルブSLC3の入力ポートSLC3aには、プライマリレギュレータバルブからライン圧Pが供給される。また、切換バルブ23には、上述したマニュアルシフトバルブの後進レンジ圧出力ポートから後進レンジ圧PREVが供給される。
【0043】
リニアソレノイドバルブSLC1は、非通電時に非出力状態となるノーマルクローズタイプであり、入力ポートSLC1aに供給された前進レンジ圧Pを調圧してクラッチC1の油圧サーボ61に供給するための制御圧PC1を出力ポートSLC1bから出力する。リニアソレノイドバルブSLC1は、ECU100からの指令値に基づいて、入力ポートSLC1aと出力ポートSLC1bとの連通する量(開口量)を調整して、指令値に応じた制御圧PC1を出力するように構成されている。
【0044】
上記リニアソレノイドバルブSLC2は、非通電時に出力状態となるノーマルオープンタイプであり、入力ポートSLC2aに供給された前進レンジ圧Pを調圧してクラッチC2の油圧サーボ62に供給するための制御圧PC2およびブレーキB2の油圧サーボ65に供給するための制御圧PB2を出力ポートSLC2bから出力する。リニアソレノイドバルブSLC2は、ECU100からの指令値に基づいて、入力ポートSLC2aと出力ポートSLC2bとの連通する量(開口量)を調整して、指令値に応じた制御圧PC1、PB2を出力するように構成されている。
【0045】
リニアソレノイドバルブSLC3は、非通電時に出力状態となるノーマルオープンタイプであり、入力ポートSLC3aに供給されたライン圧Pを調圧してクラッチC3の油圧サーボ63に供給するための制御圧PC3を出力ポートSLC3bから出力する。リニアソレノイドバルブSLC3は、ECU100からの指令値に基づいて、入力ポートSLC3aと出力ポートSLC3bとの連通する量(開口量)を調整して、指令値に応じた制御圧PC3を出力するように構成されている。
【0046】
リニアソレノイドバルブSLB1は、非通電時に非出力状態となるノーマルクローズタイプであり、入力ポートSLB1aに供給された前進レンジ圧Pを調圧してブレーキB1の油圧サーボ64に供給するための制御圧PB1を出力ポートSLB1bから出力する。リニアソレノイドバルブSLB1は、ECU100からの指令値に基づいて、入力ポートSLB1aと出力ポートSLB1bとの連通する量(開口量)を調整して、指令値に応じた制御圧PB1を出力するように構成されている。
【0047】
切換バルブ23は、リニアソレノイドバルブSLC1から出力される制御圧PC1をクラッチC1の油圧サーボ61に供給可能に構成される。また、切換バルブ23は、油路を切り換えることにより、リニアソレノイドバルブSLC2から出力される制御圧のうち、制御圧PC2をクラッチC2の油圧サーボ62に、制御圧PB2をブレーキB2の油圧サーボ65に、それぞれ供給可能に構成されている。また、切換バルブ23は、マニュアルシフトバルブから後進レンジ圧PREVをブレーキB2の油圧サーボ65に制御圧PB2として供給可能に構成されている。具体的には、切換バルブ23は、後進を実現する際に、後進レンジ圧PREVをブレーキB2の油圧サーボ65に制御圧PB2として供給し、1速時にエンジンブレーキを実現する際に、リニアソレノイドバルブSLC2により出力された制御圧PB2をブレーキB2の油圧サーボ65に供給する。
【0048】
次に、図1に戻って、自動変速機10の制御装置として機能するECU100について説明する。この車両は、ECU100に、各種情報を示す電気信号を送信するセンサとして、アクセル開度を示すアクセル開度信号を送信するアクセル開度センサ11と、自動変速機10の入力軸IN(図2)の単位時間当たりの回転数(回転速度)に関する信号を送信する入力軸回転数センサ12と、自動変速機10の出力軸O1(図2)の単位時間当たりの回転数(回転速度)に関する信号を送信する出力軸回転数センサ13と、シフトレバーのポジションを示すシフトポジション信号を送信するシフトレバーセンサ14と、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)を示すブレーキ操作量信号を送信するブレーキペダルセンサ15と、車両の車速を示す車速信号を送信する車速センサ16とを備えている。また、ECU100は、上述した油圧制御装置6のリニアソレノイドバルブSLC1、SLC2、SLC3、SLB1に指令値を電気信号(制御信号)として送信することにより、リニアソレノイドバルブSLC1、SLC2、SLC3、SLB1を制御可能に構成されている。
【0049】
ECU100は、これらのセンサからの信号に基づき、種々の制御を実現する。図1には、これらの制御のうち、本実施例の説明に関連する自動変速機10の制御に関する部分を選択的に図示している。
【0050】
ECU100は、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)110と、ROM(Read Only memory)やRAM(Random Access memory)などのメモリ120とを有する周知のコンピュータである。メモリ120には、制御プログラム121と、変速マップ122が格納されている。CPU110は、制御プログラム121を実行することにより、図1に図示する各種機能部を実現する。具体的には、CPU110は、通常変速制御部111と、ニュートラル制御部112と、変速比特定部113と、第1の故障判定部114と、第2の故障判定部115と、走行状態判定部116としての機能を実現する。
【0051】
通常変速制御部111は、変速機構5において実現される変速段を制御する通常変速制御を実行する。具体的には、通常制御が行われている間には、シフトレバーセンサ14から取得したシフトレバーのポジションと、アクセル開度センサ11から取得したアクセル開度と、車速センサ16から取得した車速とに基づき、変速マップ122を参照して、適正変速段を定めるルーチンがECU100によって繰り返し行われている。通常変速制御部111は、このルーチンによって適正変速段が変更されたタイミングで、適正変速段への変速を行うためにリニアソレノイドバルブSLC1、SLC2、SLC3、SLB1などに制御信号を送信する。これにより、通常変速制御部111は、図3の動作表に示す摩擦係合要素の係合状態/解放状態の組み合わせを実現して、変速機構5を適正変速段に制御する。
【0052】
図6は、変速マップ122の一例を示す概略図である。変速マップ122は、アクセル開度および車速に基づく変速機構5における変速段のシフトスケジュールを設定したマップである。図6に示すように、変速マップ122には、概略右上がりの線で表される、複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されている。ここで、アップシフト線は、アクセル開度および/または車速に応じて、変速段を一段高速の変速段へ移行するアップシフトを行うか否かを判断するための変速線であり、図6において実線で図示されている。ダウンシフト線は、アクセル開度および/または車速に応じて、変速段を一段低速の変速段へ移行するダウンシフトを行うか否かを判断するための変速線であり、図6において破線で図示されている。
【0053】
ニュートラル制御部112は、走行中ニュートラル制御を実行可能である。走行中ニュートラル制御は、後述する惰性走行条件が成立した場合に、シフトレバーのポジションが前進レンジ(Dレンジ)であるにも拘わらず、変速機構5をニュートラル状態にする制御である。ニュートラル状態は、入力軸INと出力軸O1との間の動力の伝達が抑制された状態である。ニュートラル状態は、入力軸INと出力軸O1との間の動力の伝達が完全に停止された状態と、入力軸INと出力軸O1との間の動力の伝達が通常の変速段が実現されている状態より小さくされた状態を含む。
【0054】
ニュートラル制御部112は、ニュートラル開始制御部112aと、ニュートラル終了制御部112bとを備えている。ニュートラル開始制御部112aは、惰性走行条件が成立した場合に、その時点における変速機構5の変速段を実現するために係合状態とされている摩擦係合要素のうちの少なくとも1つの摩擦係合要素を解放状態に移行させることにより、変速機構5をニュートラル状態に移行させるニュートラル開始制御を実行する。ニュートラル終了制御部112bは、変速機構5がニュートラル開始制御部112aにより変速機構5がニュートラル状態にされている状態で、終了条件が成立した場合に、少なくとも1つの摩擦係合要素を解放状態から係合状態に移行させることにより、変速機構5をニュートラル状態から通常の変速段が実現された状態に移行させるニュートラル終了制御を実行する。本実施例では、後述する惰性走行条件のうちの少なくとも1つが非成立となった場合に終了条件が成立したと判断する。ニュートラル制御部112による制御についての詳細は後述する。
【0055】
変速比特定部113は、入力軸INの回転速度と出力軸O1の回転速度から変速機構5において実際に実現されている変速比(以下、実変速比と呼ぶ。)を算出する。第1の故障判定部114は、詳細は後述する走行中ニュートラル制御の実行中に、変速比特定部113により算出された実変速比に基づいて自動変速機10が故障であるか否かを判定する。具体的には、第1の故障判定部114は、実変速比と、変速機構5において実現可能な前進の変速段(本実施例では1速〜6速)のいずれかに対応する変速比が所定時間に亘って一致している場合に、故障であると判定する。正常に走行中ニュートラル制御が実行されている場合には、入力軸INの回転速度はエンジンの回転速度に応じて、出力軸O1の回転速度は車輪の回転速度(車速)に応じて、それぞれ独立して逐次に変化する。このため、正常に走行中ニュートラル制御が実行されている場合には、実変速比は逐次に変化する。したがって、走行中ニュートラル制御が実行されているにも拘わらず、実変速比と、前進の変速段のいずれかに対応する変速比が所定時間に亘って一致している場合には、故障により意図しない摩擦係合要素が係合して、意図しない変速段が変速機構5において実現されていると考えられる。
【0056】
第2の故障判定部115は、通常変速制御の実行中に所定のタイミングで、変速比特定部113により算出された実変速比に基づいて自動変速機10が故障であるか否かを判定する。例えば、第2の故障判定部115は、通常変速制御において通常の変速が行われたタイミングで自動変速機10が故障であるか否かを判定する。さらには、第2の故障判定部115は、走行中ニュートラル制御が終了されて通常変速制御に復帰したタイミングで、すなわち、ニュートラル終了制御が実行された後に、自動変速機10が故障であるか否かを判定する。第2の故障判定部115は、通常変速制御部111の制御により実現されているべき変速段の変速比(以下、制御変速比と呼ぶ。)と、実変速比とが所定時間に亘り一致している場合には、故障ではないと判定する。一方、第2の故障判定部115は、制御変速比と実変速比とが所定時間に亘り一致しない場合には、故障であると判定する。第1の故障判定部114および第2の故障判定部115による故障判定については、さらに、詳細を後述する。
【0057】
走行状態判定部116は、上述した各種のセンサから車両の走行状態に関する情報を取得し、当該情報に基づき惰性走行条件が成立しているか否かを判定する。本実施例では、走行状態判定部116は、下記の条件が全て成立した場合に、惰性走行条件は成立していると判定する。また、走行状態判定部116は、下記の条件が1つでも成立していない場合に、惰性走行条件は成立していないと判定する。
1.車速が規定速度(例えば、時速60km/h)以上であること
2.アクセル開度がゼロであること(アクセルペダルが操作されていない(踏み込まれていない)こと)
3.減速度(マイナスの加速度)が規定値以下であること
4.シフトレバーのポジションが前進レンジ(Dレンジ)であること
5.エンジン2、自動変速機10に故障(エラー)がないこと
【0058】
条件1は、車速センサ16により検出される車速から判断される。これに代えて、出力軸回転数センサ13により検出される変速機構5の出力軸O1の回転速度を車速に換算して判断しても良い。条件1の規定速度は、マイナスの速度(後進の速度)および停止(速度0)に設定されることはなく、停止状態から前進走行によって到達し得る速度に設定される。
【0059】
条件2は、アクセル開度センサ11により検出されるアクセル開度から判断される。これに代えて、エンジン2のストットルバルブの開度がアイドリングレベルの開度である場合に、実質的にアクセル開度がゼロであると判断しても良い。
【0060】
なお、条件1および条件2が成立する場合(例えば、速度60km以上、かつ、アクセル開度がゼロである場合)、図6の変速マップ122から解るように、変速機構5の変速段は、所定の変速段以上(例えば、本実施例では、前進3速以上)となる。したがって、変速機構5が所定の変速段以上である場合に惰性走行条件が満たされることになる。なお、変速機構5の変速段が所定の変速段以上(例えば、前進3速以上)であることを条件1と共にあるいは条件1に代えて惰性走行条件に含めても良い。
【0061】
条件3は、出力軸回転数センサ13により検出される出力軸O1の回転速度の変化から判断されても良いし、車速センサ16により検出される車速の変化から判断されても良い。あるいは、ブレーキペダルセンサ15の踏み込み量が規定値以下であるか否かによって判断されても良い。あるいは、ブレーキの実際の制動圧が規定値以下であるか否かによって判断されても良い。
【0062】
条件4は、シフトレバーセンサ14から検出されるシフトレバーのポジションから判断される。条件4が設けられているのは、条件1〜3が成立しており、かつ、シフトレバーのポジションが前進レンジではない場合、シフトレバーのポジションとしてはニュートラルレンジ(Nレンジ)であることが考えられるが、その場合には、ニュートラル制御を行う意味がないためである。
【0063】
条件5は、エンジン2、自動変速機10に故障が発生している場合には、特別な制御の実行を抑制するために設定されている。
【0064】
なお、本実施例では、5つの条件を惰性走行条件として設定しているが、少なくとも条件1、条件2、あるいは、これらに相当する条件が必要条件として設定されれば良く、他の条件は適宜に省略され得る。
【0065】
以上のような惰性走行条件が成立している場合、車両は、規定速度以上での惰性走行状態にあるといえる。惰性走行状態は、エンジン2が出力する動力(エネルギー)を利用せずに、車両が有する力学的エネルギー(主として運動エネルギー、位置エネルギーも含む)を利用して走行している状態である。惰性走行状態では、出力軸O1と入力軸INとの間の動力の伝達が停止されている状態(ニュートラル状態)の方が、トルクコンバータ4やエンジン2の負荷によるエネルギー損失(いわゆるエンジンブレーキによるエネルギー損失)が発生しないため、燃費の観点から有利となり得る。本実施例では、規定速度以上での惰性走行状態にある場合には、変速機構5をニュートラル状態にする走行中ニュートラル制御を実行することで燃費の向上を図っている。
【0066】
一方で、惰性走行状態である場合に、変速機構をニュートラル状態にせずに、車両が有する力学的エネルギーを利用してエンジンの回転を維持して、エンジンへの燃料の供給を停止するいわゆるフューエルカット制御も知られている。フューエルカット制御も実行可能な車両に走行中ニュートラル制御を適用する場合には、総合的にみてフューエルカット制御を行うより走行中ニュートラル制御を行う方が燃費の観点から有利となる場合に、走行中ニュートラル制御を行うように、適切な惰性走行条件を定めることが好ましい。例えば、フューエルカット制御機能を有する車両で利用される条件1の規定速度は、フューエルカット制御機能を有していない車両で利用される条件1の規定速度よりも高い値に設定することが好ましい。
【0067】
次に走行中ニュートラル制御の詳細について説明する。図7は、第1実施例の走行中ニュートラル制御を中心としたECU100による自動変速機10の制御ステップを示すフローチャートである。図8は、自動変速機10が正常である場合における第1実施例の走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャートである。図9は、自動変速機10に故障が発生した場合における第1実施例の走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャートである。図8および図9は、前進3速で車両が走行中に走行中ニュートラル制御が行われ、走行中ニュートラル制御後に、再び、前進3速での走行に戻る場合を一例として示している。
【0068】
図8および図9において、上段には、ECU100が、クラッチC1、C3、ブレーキB1の各油圧サーボ61、63、64の制御圧PC1、PC3、PB1を制御するために、リニアソレノイドバルブSLC1、SLC3、SLB1に出力を指示しているリクエスト圧RC1、RC3、RB1を示している。また、図8および図9において、下段には、車速が一定であると仮定した場合におけるエンジン2のクランクシャフト21の回転速度EGRPMおよび変速機構5の入力軸INの回転速度INRPMを示している。図8および図9の下段において、上側の一点破線は、変速機構5において2速が実現されている場合におけるクランクシャフト21および入力軸INの回転速度を示し、下側の一点破線は、変速機構5において3速が実現されている場合におけるクランクシャフト21および入力軸INの回転速度を示している。なお、図8は、正常時についての図示であるので、各油圧サーボ61、63、64の実際の制御圧PC1、PC3、PB1については、リクエスト圧RC1、RC3、RB1に追従した圧力となるため、図示を省略している。また、図8に示す制御では、ブレーキB1は、常に、解放状態に制御しているため、リクエスト圧RB1は、ゼロに維持されている。図9では、ブレーキB1は、常に、解放状態に制御しているものの、故障によりブレーキB1が係合状態となってしまった場合を例示している。このため、図9では、リクエスト圧RB1は、ゼロに維持されているが、油圧サーボ64の制御圧PB1は、ライン圧P相当の圧力になっている。
【0069】
車両が前進走行を行っている際、通常変速制御部111が車両の走行状態に応じて通常変速制御を適宜行うとともに、ステップS10で示すように、走行状態判定部116は、上述した惰性走行条件が成立したか否かの判定を常に行っている。
【0070】
走行状態判定部116が惰性走行条件が成立していないと判定している場合には(ステップS10:NO)、通常変速制御部111による通常変速制御が継続される。一方、走行状態判定部116が惰性走行条件が成立していると判定すると(ステップS10:YES)、ニュートラル制御部112のニュートラル開始制御部112aは、ニュートラル開始制御を実行する(ステップS20)。
【0071】
図8の例では、時刻t0に惰性走行条件が成立し、時刻t0から時刻t1までの間にニュートラル開始制御が行われている。ニュートラル開始制御部112aは、図8に示すようなリクエスト圧RC3を出力して前進3速を実現するために係合状態とされている2つの摩擦係合要素であるクラッチC1およびクラッチC3のうち、クラッチC3の油圧サーボ63に供給される制御圧PC3を、ライン圧P相当からゆるやかにゼロまで低下させる。この結果、クラッチC3は係合力が低下して係合状態から解放状態になる。この結果、出力軸O1から入力軸INへの動力の伝達がなくなる。この結果、変速機構5はニュートラル状態となる。この結果、エンジン2のクランクシャフト21の回転速度EGRPMおよび変速機構5の入力軸INの回転速度INRPMは、アイドリング回転速度に低下する。なお、このときクラッチC1は係合状態にあるが、変速機構5の出力軸O1の回転速度が入力軸INの回転速度より十分に大きいため、ワンウェイクラッチF1の係合作用は発揮されず、変速機構5は前進1速の状態にはならない。
【0072】
なお、上記では、前進3速からニュートラル状態に移行する場合を一例に説明したが、ニュートラル開始制御部112aは、任意の前進の変速段からニュートラル状態に移行できる。すなわち、ニュートラル開始制御部112aは、惰性走行条件が成立した時点で実現されている変速段を実現するために係合されている摩擦係合要素のうち、少なくとも1つを解放状態に制御することで、当該変速段からニュートラル状態に移行できる。例えば、ニュートラル開始制御部112aは、前進6速からニュートラル状態に移行する場合には、前進6速を実現するために係合状態とされている2つの摩擦係合要素であるクラッチC2およびブレーキB1のうち、クラッチC2を解放状態に制御する。
【0073】
ニュートラル開始制御が終了して、変速機構5がニュートラル状態となった後、走行状態判定部116は、終了条件が成立しているか否かを監視し続ける(ステップS30)。終了条件が成立していない間は、ニュートラル制御部112は、変速機構5をニュートラル状態に維持する(ステップS30、ステップS30:NO、ステップS40)。図8の例では、時刻t1から時刻t2までの間、変速機構5はニュートラル状態に維持されている(ニュートラル維持制御)。なお、本実施例では、走行状態判定部116は、上述した惰性走行条件が1つでも非成立となった場合に、終了条件が成立したと判定する。
【0074】
走行状態判定部116が、終了条件は成立したと判定すると(ステップS30:YES)、ニュートラル終了制御部112bは、ニュートラル終了制御を実行する。具体的には、ニュートラル終了制御部112bは、変速機構5を通常変速段に変速させる通常変速段変速制御を開始する(ステップS50)。ここで、通常変速段は、ニュートラル終了制御実行開始時(図8の時刻t2)におけるアクセル開度および車速に基づいて変速マップ122(図6)を参照して定められる。具体的には、ニュートラル制御が行われている間には、通常変速制御が行われている場合と同じアルゴリズムによって適正変速段を定めるルーチンがECU100によって繰り返し行われている。ニュートラル終了制御部112bは、このルーチンによって時刻t2において定められている適正変速段を、ニュートラル終了制御において変速する通常変速段に定める。図8に示す例では、通常変速段として前進3速が定められた場合について図示している。したがって、図8に示す例では、クラッチC3を解放状態から係合状態に移行させて、既に係合状態にあるクラッチC1とともに変速機構5に前進3速を実現させる制御を通常変速段変速制御として実行する。
【0075】
通常変速段変速制御の前半部分(図8:時刻t2〜t3)は、クラッチC3の油圧サーボ63のピストンを摩擦係合要素の係合直前まで(ピストンのストロークエンド近傍まで)詰める制御であり、ニュートラル終了制御部112bは、リクエスト圧RC3を急激に上昇させ、しばらく高いリクエスト圧RC3を維持した後、リクエスト圧RC3を一旦低下させる。なお、概ね時刻t2〜t3の間に、変速ショックを抑制するために、エンジン2の回転速度EGRPMが、出力軸O1の回転速度に対して前進3速の変速比となるように制御される。
【0076】
通常変速段変速制御の後半部分(図8:時刻t3〜t4)では、ニュートラル終了制御部112bは、緩やかに油圧サーボ63の制御圧PC3に対するリクエスト圧RC3を上昇させてクラッチC3を係合させていく。そして、ニュートラル終了制御部112bは、入力軸INの回転速度INRPMが前進3速の変速比となる時刻から急激にリクエスト圧RC3を上昇させてクラッチC3の係合を完了させる(図8:時刻t4〜t5)。このようにクラッチC3の制御圧PC3をリクエスト圧RC3によって制御することで、変速ショックを抑制しつつ、速やかにクラッチC3の係合を実現することができる。
【0077】
ニュートラル終了制御部112bが通常変速段変速制御を実行している間に、第1の故障判定部114は、自動変速機10の故障判定を行う(ステップS60、S90)。具体的には、上述したように第1の故障判定部114は、実変速比と、前進の変速段(1速〜6速)のいずれかに対応する変速比が所定時間に亘って一致している場合に、故障判定が成立した(故障である)と判断する(ステップS60)。第1の故障判定部114により故障であると判定されることなく、通常変速段変速制御が終了すると(ステップS90:YES)、この時点でニュートラル終了制御は終了され、通常変速制御に移行する(図8:時刻t5以降)。
【0078】
通常変速制御では、第2の故障判定部115は、変速が行われる度に意図しない係合要素の係合を回避するため故障であるか否かの判定を行う。本実施例において、ニュートラル状態から通常変速段に変速された場合にも、第2の故障判定部115により故障であるか否かの判定が行われる。具体的には、第2の故障判定部115は、まず、所定の判定禁止時間が経過するまで待機する(ステップS100、S100:NO)。図8における時刻t5〜t6までの期間が判定禁止期間である。判定禁止期間を設けるのは、変速直後には、変速ショックにより変速比のバラツキが生じ得るため、故障判定の判定精度を向上させるため変速比が安定するのを待つからである。
【0079】
判定禁止期間が経過すると(ステップS100:YES)、第2の故障判定部115は、故障判定制御を実行する(ステップS110、図8:時刻t6〜t7)。具体的には、第2の故障判定部115は、入力軸INと出力軸O1の回転速度から実変速比を算出し、所定の判定期間に亘って、実変速比が所望の制御変速比と一致するか否かを判定する。第2の故障判定部115が、当該判定によって自動変速機10が故障であると判定すると(ステップS120:YES)、ECU100は故障時制御を実行する(ステップS140)。故障時制御は、例えば、実変速比に対応する変速段への変速制御を行い、運転者に故障を通知するためのランプを点灯させる等の制御である。
【0080】
一方、第2の故障判定部115が、当該判定によって自動変速機10が故障でない(正常である)と判定すると(ステップS120:NO)、ECU100は通常制御を実行する(ステップS130)。通常制御は、例えば、特別な制御を実行することなく、通常変速制御を継続する等の制御である。
【0081】
次に、図7と図9を参照しながら、故障が発生した場合について詳しく説明する。図9は、走行中ニュートラル制御のうち、ニュートラル開始制御については図示を省略し、ニュートラル維持制御の状態から図示している。図9では、上述したように、ブレーキB1の油圧サーボ64に対するリクエスト圧RB1がゼロである(解放状態を指示)であるにも拘わらず、故障により、ブレーキB1の油圧サーボ64の実際の制御圧PB1がライン圧P相当になっている。また、クラッチC1は、ニュートラル開始制御において、解放されることなく係合状態のまま維持されている。この結果、ブレーキB1が意図せず係合状態となっているため、意図的に係合状態とされているクラッチC1との組み合わせにより、変速機構5は、ニュートラル維持制御中にも拘わらず、前進2速を実現している。したがって、図9の下段に示すように、エンジン2の回転速度EGRPMおよび入力軸INの回転速度INRPMは、出力軸O1の回転速度に対して前進2速の変速比となる値になっている。このように、変速機構5において実現可能な変速段の変速比のいずれかであって、ニュートラル制御中であるにも拘わらず、故障により実現されている変速段の変速比を故障時変速比と呼ぶ。
【0082】
ステップS60において、実変速比と、前進の変速段(1速〜6速)のいずれかに対応する変速比が所定時間に亘って一致しているか否かを判定する際には、例えば、ニュートラル開始制御において、解放されることなく係合状態のまま維持されている摩擦係合要素と、他の摩擦係合要素との組み合わせによって実現される変速段に対応する変速比を実変速比と一致するか否かを比較する候補として判定を行っても良い(図3参照)。例えば、本実施例では、クラッチC1とクラッチC3とが係合されている状態(前進3速)からクラッチC3を解放してニュートラル状態に移行しているので、クラッチC1と他の摩擦係合要素との組み合わせによって実現される変速段(前進2速〜4速)の変速比が実変速比と一致するか否かを比較する候補となる。こうすれば、実変速比と一致するか否かを比較する候補となる変速比を絞り込めるため、速やかに故障か否かの判定を行うことができる。
【0083】
図9に示す例の場合、ニュートラル終了制御部112bが、上述した通常変速段変速制御を開始(ステップS50、図9:時刻t2)しても、エンジン2の回転速度EGRPMおよび入力軸INの回転速度INRPMが前進3速の変速比へと変化せず、前進2速の変速比に固定された状態になる。この結果、通常変速段変速制御を実行している間に、第1の故障判定部114が行う上述した自動変速機10の故障判定(ステップS60)において、実変速比と、前進2速の変速比が所定時間に亘って一致していると判定され、故障判定が成立した(故障である)と判断される(ステップS60:YES)。
【0084】
第1の故障判定部114が故障判定が成立したと判断すると(ステップS60:YES)、ニュートラル終了制御部112bは、通常変速段変速制御を中止し(ステップS70)、故障時変速比の変速段への変速制御を行う(ステップS80)。図9の例では、時刻t4〜t5において、通常変速段(図9の例では前進3速)への変速制御を中止して、故障時変速比の変速段(図9の例では前進2速)への変速制御が行われている。すなわち、ニュートラル終了制御部112bは、クラッチC3の油圧サーボ63へのリクエスト圧RC3を速やかにゼロに下降させるとともに、ブレーキB1の油圧サーボ64へのリクエスト圧RB1を速やかにゼロからライン圧P相当に上昇させている。故障時変速比の変速段への変速制御が終了した時点(図9:時刻t5)で、ニュートラル終了制御は終了され、通常変速制御に移行する。
【0085】
通常変速制御では、上述した正常時と同様に、故障であるか否かを判定する故障検出制御が行われる。この際、本実施例では、故障時には正常時と異なり、第2の故障判定部115は、上述した判定禁止時間を設けることなく、速やかに故障検出制御を実行する(ステップS110)。ステップS80において故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行う前から故障により故障時変速比に対応する変速段が変速機構5において実現されている蓋然性が高いため、変速ショックによる変速比のバラツキを考慮する必要性が低いうえに、故障であるか否かを速やかに確定させる要請が高いためである。
【0086】
故障時変速比の変速段への変速制御によってニュートラル終了制御が終了された後の通常変速制御における故障検出制御は、正常時とは異なり、故障時変速比の変速段から他の変速段(本実施例では、通常変速段である前進3速)への変速制御を行いつつ、実変速比を観測することによって行われる。図9の例では、故障判定部113は、時刻t6から前進2速から前進3速へ変速させる制御、すなわち、クラッチC3の油圧サーボ63へのリクエスト圧RC3を上昇させるとともに、ブレーキB1の油圧サーボ64へのリクエスト圧RB1を下降させる制御を行っている。
【0087】
この変速制御中に、実変速比が故障時変速比(図9の例では前進2速の変速比)に維持されたままである場合には、第2の故障判定部115は、最終的に自動変速機10は故障であると判定する(ステップS120:YES)。最終的に自動変速機10は故障であると判定されると、ECU100は故障時制御を実行する(ステップS120)。この場合の故障時制御では、例えば、ECU100は、故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行い、以後、走行中ニュートラル制御の実行を惰性走行条件の成立の有無に拘わらず禁止する。また、運転者に故障を通知するためのランプを点灯させる。図9の例では、時刻t7において、ECU100は、故障時変速比に対応する変速段である前進2速に変速する制御として、クラッチC3の油圧サーボ63へのリクエスト圧RC3を速やかに下降させるとともに、ブレーキB1の油圧サーボ64へのリクエスト圧RB1を速やかに上昇させる制御を行っている。
【0088】
一方、上述の変速制御中に、実変速比が、変速制御に応じて故障時変速比から通常変速段に対応する変速比に変化した場合には、第2の故障判定部115は、自動変速機10は故障でないと判定する(ステップS120:NO)。自動変速機10は故障でないと判定されると、ECU100は通常制御を実行する(ステップS130)。通常制御では、例えば、ECU100は、通常変速段への変速制御を最後まで継続する。例えば、図示は省略するが、ECU100は、図9におけるt7以降に、クラッチC3の油圧サーボ63へのリクエスト圧RC3をライン圧PL相当速やかに上昇させるとともに、ブレーキB1の油圧サーボ64へのリクエスト圧RB1を速やかに下降させる制御を行って、前進3速への変速制御を完了させる。
【0089】
以上の説明から解るように、ステップS60における第1の故障判定部114による故障判定は、一次的な故障判定であり、ステップS110における第2の故障判定部115による故障検出制御が最終的な故障判定であるといえる。第2の故障判定部115による故障判定を省略し、第1の故障判定部114による故障判定で故障であると判定された場合に、故障時対応を実行しても良い。故障時対応としては、上述したように故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行っても良いし、故障時変速比に対応する変速段への変速制御とともに、あるいは、故障時変速比に対応する変速段への変速制御に代えて、運転者に故障を通知するためのランプを点灯させても良い。
【0090】
以上説明した本実施例によれば、上述した惰性走行条件が成立している間に、走行中ニュートラル制御を実行するので、車両の運動エネルギーがトルクコンバータの回転やエンジンブレーキのために消費されることを抑制して、車両の燃費を向上することができる。さらに、走行中ニュートラル制御中に、少なくとも入力軸INの回転速度と出力軸O1の回転速度から算出される実変速比に基づいて自動変速機10の故障を判定することができるので、走行中ニュートラル制御中に自動変速機10が故障した場合に故障時制御を行うことができる。したがって、意図しない摩擦係合要素の係合を回避することができる。この結果、摩擦係合要素の不要なスリップによる摩擦係合要素の摩耗および車両の減速等を抑制することができ、自動変速機の耐久性の向上および車両のドライバビリティの向上を図ることができる。
【0091】
さらに、走行中ニュートラル制御中の故障判定は、実変速比と、変速機構5が実現可能な変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比が所定期間に亘って一致しているか否かによって判定するので、正常であれば逐次に変化する走行中ニュートラル制御時の変速比が、意図しない摩擦係合要素の係合によって1つの変速段の変速比となってしまう故障を適切に検出することができる。
【0092】
さらに、走行中ニュートラル制御中に故障比であると判定した場合には、故障時変速比に対応する変速段に自動変速機10を変速させる。この結果、故障が発生しているにも拘わらず、実変速比に対応する変速段とは異なる変速段への変速指示が行われた結果、意図しない摩擦係合要素の係合が発生することを回避することができる。例えば、故障によりクラッチC1とブレーキB1が係合して変速機構5において意図せず2速が実現されている場合に、これら2つの摩擦係合要素とは別の摩擦係合要素であるクラッチC3を係合させて実現される3速への変速指示が行われると、クラッチC1とブレーキB1に加えてクラッチC3まで係合された状態となり、これら3つの摩擦係合要素のうちの1つがスリップしてしまうおそれがある。本構成によれば、例えば、故障により意図せず2速が実現されている場合に、当該2速への変速指示が行われるため、実際に実現されている変速段と変速指示される変速段とが一致し、その結果、意図しない摩擦係合要素の係合が回避され、上述した摩擦係合要素のスリップを回避できる。したがって、摩擦係合要素の不要なスリップによる摩擦係合要素の摩耗および車両の減速等を抑制することができる。
【0093】
さらに、ニュートラル終了制御中のステップS60において、第1の故障判定部114が、故障時変速比が所定期間に亘って継続していると判定した場合には、その後の通常変速制御におけるステップS110において、第2の故障判定部115が、待機期間(判定禁止期間)の経過を待たずに故障検出制御を行うので、自動変速機10が故障であるか否かを、速やかに確定させることができる。
【0094】
さらに、第1の故障判定部114は、走行中ニュートラル制御のうちのニュートラル終了制御の実行中に故障であるか否かを判定するので、故障が発生していない場合であって終了条件の成立によりニュートラル制御を終了する場合に、自動変速機10に通常変速段を迅速に形成させることができる。例えば、終了条件が成立した場合に故障であるか否かを判定し、その後にニュートラル終了制御を行う場合(後述する第1変形例)と比較して、自動変速機10に通常変速段を迅速に形成させることができる。また、第1の故障判定部114は、ニュートラル終了制御の実行中に故障であるか否かを判定するので、故障であると判定された時点で故障対応(具体的には、故障時変速比に対応する変速段への変速)を行えば良いため制御の複雑化を抑制できる。例えば、ニュートラル状態に制御している間に故障であるか否かを判定して、終了条件が成立後に故障対応を行う場合(後述する第2変形例)には、故障判定の結果を記憶する仕組み(具体的には、フラグ等)が必要となるため、制御が複雑化するおそれがあるが、本実施例によれば、そのような問題を抑制できる。
【0095】
B.第2実施例:
次に走行中ニュートラル制御の他の態様を第2実施例として説明する。図10は、第2実施例における走行中ニュートラル制御を中心としたECU100による自動変速機10の制御ステップを示すフローチャートである。図11は、自動変速機10に故障が発生した場合における第2実施例における走行中ニュートラル制御について説明するためのタイミングチャートである。
【0096】
第2実施例におけるステップS1010〜ステップS1020(図10)までの制御は、第1実施例におけるステップS10〜ステップS20(図7)までの制御と同一であるので、その説明を省略する。
【0097】
ステップS1020におけるニュートラル開始制御が終了して、変速機構5がニュートラル状態となった後、走行状態判定部116が、終了条件が成立しているか否かを監視し続ける(ステップS1030)とともに、第1の故障判定部114が、自動変速機10の故障判定を行う(ステップS1040)。故障判定は、第1実施例と同様に、実変速比と、変速機構5が実現可能な変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比が所定期間に亘って一致しているか否かによって行われる。
【0098】
終了条件が成立せず(ステップS1030:NO)、かつ、故障判定が成立した(故障である)と判断されない(ステップS1040:NO)間は、変速機構5はニュートラル状態に維持される(ステップS1050)。
【0099】
走行状態判定部116が終了条件が成立したと判定すると(ステップS1030:YES)、ニュートラル終了制御部112bは、ニュートラル終了制御として、通常変速段への変速制御を実行する(ステップS1060)。通常変速段は、第1実施例と同様に、アクセル開度および車速に基づいて変速マップ122(図6)を参照して定められる。
【0100】
第1の故障判定部114が、故障判定が成立した(故障である)と判断すると(ステップS1040:YES)、ニュートラル終了制御部112bは、ニュートラル終了制御として、故障時変速比に対応する変速段への変速制御を実行する(ステップS1070)。
【0101】
すなわち、第2実施例における走行中ニュートラル制御では、ニュートラル状態に制御しているときに、終了条件が成立した場合には通常変速段への変速制御を行って走行中ニュートラル制御を終了させ、故障であると判定された場合には故障時変速比に対応する変速段への変速制御を実行して走行中ニュートラル制御を終了させる。
【0102】
第2実施例における走行中ニュートラル制御が終了した後の処理(図10:ステップS1080〜S1120)は、第1実施例における走行中ニュートラル制御が終了した後の処理(図7:ステップS100〜S140)と同一であるので、その説明を省略する。
【0103】
以上説明した第2実施例における走行中ニュートラル制御において故障が発生しなかった場合については、第1実施例における走行中ニュートラル制御において故障が発生しなかった場合(図8)と同様であるのでその説明を省略する。以下では、第2実施例における走行中ニュートラル制御において故障が発生した場合について、図11のタイミングチャートを参照しながら説明する。
【0104】
図11では、ニュートラル維持制御中に、ブレーキB1の油圧サーボ64に対するリクエスト圧RB1がゼロである(解放状態を指示)にも拘わらず、時刻t2から故障により、ブレーキB1の油圧サーボ64の実際の制御圧PB1が急激に上昇を始め、時刻t3ではライン圧P相当にまで上昇している。この結果、時刻t3の時点では、変速機構5は、ニュートラル維持制御中にも拘わらず、前進2速を実現している。したがって、図11の下段に示すように、エンジン2の回転速度EGRPMおよび入力軸INの回転速度INRPMは、時刻t2からt3の間に出力軸O1の回転速度に対して前進2速の変速比となる値に変化している。
【0105】
図11に示す例では、時刻t3〜時刻t4の間に、実変速比が前進2速の変速比に固定される。図11では、時刻t4の時点で、第1の故障判定部114が、故障判定が成立した(故障である)と判断し(ステップS1040:YES)、ニュートラル終了制御部112bが、時刻t4〜t5の間に、故障時変速比に対応する変速段(本実施例では、前進2速)への変速制御(ステップS1070)をニュートラル終了制御として行っている様子が示されている。すなわち、ニュートラル終了制御部112bは、ブレーキB1の油圧サーボ64へのリクエスト圧RB1を速やかにゼロからライン圧P相当に上昇させている。故障時変速比の変速段への変速制御が終了した時点(図11:時刻t5)で、ニュートラル終了制御は終了され、通常変速制御に移行する。通常変速制御に移行した後(図11:時刻t5以降)は、第1実施例(図9:時刻t5以降)と同一であるので、説明を省略する。
【0106】
以上説明した第2実施例によれば、ニュートラル維持制御中に故障の判定を行い、故障であると判定された場合には、速やかにニュートラル終了制御を行うことで走行中ニュートラル制御を終了して通常変速制御に移行する。したがって、ニュートラル維持制御を行っているにも拘わらず、いずれかの変速段が変速機構5において実現しているという意図しない状態に自動変速機10がある場合には、速やかに走行中ニュートラル制御を終了させることができる。そして、故障時変速比の変速段に変速する制御を行うことで、制御変速比と、実変速比とを一致させ、意図しない摩擦係合要素が係合することによって生じる摩擦係合要素のスリップを回避することができる。
【0107】
さらに、第2実施例によれば、走行中ニュートラル制御中に自動変速機10が故障であると判定された場合には、通常変速段への変速制御を開始することなく、故障時変速比の変速段に変速を行って、走行中ニュートラル制御を終了させる。この結果、通常変速段への変速制御のために摩擦係合要素の油圧を発生させることなく、速やかに故障時変速比の変速段に変速して走行中ニュートラル制御を終了させることができる。例えば、第1実施例では、図9の時刻t2〜t4にかけて、通常変速段への変速制御のために摩擦係合要素の油圧が発生しているが、第2実施例では、発生していない(図11)。
【0108】
C.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0109】
第1変形例:
上記第1実施例における走行中ニュートラル制御(図7)では、ニュートラル維持制御中に終了条件が成立した場合に(図7:ステップS30:YES)、通常変速段への変速制御を開始し(図7:ステップS50)、通常変速段への変速制御を行っている最中に、第1の故障判定部114による故障判定が行われている(図7:ステップS60)。これに代えて、ニュートラル維持制御中に終了条件が成立した場合に、通常変速段への変速制御を開始する前に、第1の故障判定部114による故障判定を行っても良い。
【0110】
この場合には、第1の故障判定部114による故障判定の結果、故障であると判定された場合には、通常変速段への変速制御を開始することなく、故障時変速比に対応する変速段への変速制御が行われ、故障でないと判定された場合には、通常変速段への変速制御が行われる。
【0111】
第1変形例によれば、故障が発生している場合に、一旦、通常変速段への変速制御を開始しながら、当該通常変速段への変速制御を中止して、故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行うという複雑な制御が必要ないという利点がある。すなわち、第1変形例によれば、故障が発生している場合に、通常変速段への変速制御を開始することなく、故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行うことができるので、通常変速段への変速制御のために摩擦係合要素の油圧を発生させることなく、速やかに故障時変速比の変速段に変速して走行中ニュートラル制御を終了させることができる。
【0112】
第2変形例:
上記第2実施例における走行中ニュートラル制御(図10)では、ニュートラル維持制御中に第1の故障判定部114による故障判定が行われ(図10:ステップS1040)、故障であると判定された場合には(図10:ステップS1040:YES)、終了条件が成立しているか否かに拘わらず、故障時変速比に対応する変速段に変速して(図10:ステップS1070:YES)、速やかに走行中ニュートラル制御を終了している。これに代えて、ニュートラル維持制御中に第1の故障判定部114による故障判定を行い、故障であると判定された場合には、故障である旨をフラグ等を用いて記憶しておき、終了条件が成立した後に、故障時変速比に対応する変速段に変速しても良い。そして、故障であると判定されることなく、終了条件が成立した場合には、通常変速段に変速することとしても良い。第2変形例によれば、第1変形例と同様に、通常変速段への変速制御を開始しながら、当該通常変速段への変速制御を中止して、故障時変速比に対応する変速段への変速制御を行うという複雑な制御が必要ないという利点がある。
【0113】
第3変形例:
上記実施例では、例えば、クラッチC1とクラッチC3の係合により前進3速を実現している状態からニュートラル状態に移行する際に、クラッチC3のみの係合を解除し、クラッチC1は係合したままで、ニュートラル状態を実現しているが、これに限られない。クラッチC1とクラッチC3の両方を解除してニュートラル状態を実現しても良い。また、上記実施例では、ニュートラル状態において、クラッチC3の制御圧PC3をゼロにしているが、クラッチC3の制御圧PC3を待機圧としても良い。ここで、待機圧とは、油圧サーボにおいてピストンを、当該ピストンがクラッチプレートに係合圧を印加する直前の位置まで移動させる制御圧のことである。こうすれば、変速機構5は、ニュートラル状態から通常の変速段が実現された状態へとより速やかに復帰することができる。また、ニュートラル状態は、入力軸INと出力軸O1との間の動力の伝達が停止された状態に限らず、例えば、少なくとも1つの摩擦係合要素の制御圧を、当該摩擦係合要素が適度にスリップ可能な程度に低下させて、入力軸INと出力軸O1との間の動力の伝達が抑制された状態であっても良い。
【符号の説明】
【0114】
2...エンジン
4...トルクコンバータ
5...変速機構
6...油圧制御装置
10...自動変速機
11...アクセル開度センサ
12...入力軸回転数センサ
13...出力軸回転数センサ
14...シフトレバーセンサ
15...ブレーキペダルセンサ
16...車速センサ
21...クランクシャフト
23...切換バルブ
42...ポンプインペラ
43...タービンランナ
44...ステータ
45...ワンウェイクラッチ
46...ロックアップクラッチ
61〜65...油圧サーボ
100...ECU
110...CPU
111...通常変速制御部
112...ニュートラル制御部
112a...ニュートラル開始制御部
112b...ニュートラル終了制御部
113...変速比特定部
114...第1の故障判定部
115...第2の故障判定部
116...走行状態判定部
120...メモリ
121...制御プログラム
122...変速マップ
SLC1〜SLC3、SLB1...リニアソレノイドバルブ
IN...入力軸
O1...出力軸
C1〜C3...クラッチ
B1、B2...ブレーキ
F1...ワンウェイクラッチ
CS...ケース
PG1...第1のプラネタリギヤセット
PG2...第2のプラネタリギヤセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源から駆動車輪への動力伝達経路に配置され、複数の摩擦係合要素と入力軸と出力軸とを有し、前記複数の摩擦係合要素の係合状態に応じて、前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比率である変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を実現可能な自動変速機の制御装置であって、
前記車両が前進走行している状態であって、かつ、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段が実現されている状態で、前記車両のアクセルが操作されていないことを含む走行条件が成立した場合に、係合されている摩擦係合要素について係合力を低下させることにより前記自動変速機を前記入力軸と前記出力軸との間の動力の伝達が抑制されたニュートラル状態とするニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段と、
前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度に基づいて、前記自動変速機の実際の変速比を特定する変速比特定手段と、
前記ニュートラル制御の実行中に、前記実際の変速比に基づいて、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する第1の故障判定手段と、
を備え、
前記第1の故障判定手段は、前記実際の変速比と、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比とが所定時間に亘って一致している場合に、前記自動変速機が故障であると判定する、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記ニュートラル制御手段は、前記ニュートラル制御の実行中であって、終了条件が成立した場合に、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段に前記自動変速機を変速させるニュートラル終了制御を実行する第1のニュートラル終了制御手段を含み、
前記第1の故障判定手段は、前記ニュートラル終了制御の実行中に、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記第1のニュートラル終了制御手段は、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定されない場合には、前記複数の変速段のうち、前記アクセルの開度と前記車両の車速とに基づいて決定される変速段に前記自動変速機を変速させ、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定された場合には、前記複数の変速段のうち、前記実際の変速比に対応する変速段に前記自動変速機を変速させる、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動変速機の制御装置は、さらに、
前記ニュートラル終了制御が実行された後に、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する第2の故障判定手段を備え、
前記第2の故障判定手段は、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定されない場合には、前記ニュートラル終了制御が実行された後に、さらに所定期間が経過した後、前記自動変速機が故障であるか否かを判定し、
前記第1の故障判定手段によって故障であると判定された場合には、前記ニュートラル制御が実行された後に、前記所定期間の経過を待たずに、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項5】
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の自動変速機の制御装置であって、
前記車両が前進走行している状態は、前記車両が予め定められた規定速度以上で前進走行している状態である、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記ニュートラル制御手段は、前記第1の故障検出手段によって故障であると判定された場合に、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段に前記自動変速機を変速させるニュートラル終了制御を実行する第2のニュートラル終了制御手段を含む、ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項7】
車両の駆動源から駆動車輪への動力伝達経路に配置され、複数の摩擦係合要素と入力軸と出力軸とを有し、前記複数の摩擦係合要素の係合状態に応じて、前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比率である変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を実現可能な自動変速機の制御プログラムであって、
前記車両が前進走行している状態であって、かつ、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段が実現されている状態で、前記車両のアクセルが操作されていないことを含む走行条件が成立した場合に、係合されている摩擦係合要素について係合力を低下させることにより前記自動変速機を前記入力軸と前記出力軸との間の動力の伝達が抑制されたニュートラル状態とするニュートラル制御を実行するニュートラル制御機能と、
前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度に基づいて、前記自動変速機の実際の変速比を特定する変速比特定機能と、
前記ニュートラル制御の実行中に、前記実際の変速比に基づいて、前記自動変速機が故障であるか否かを判定する機能であって、前記実際の変速比と、前記複数の変速段のうちのいずれか1つの変速段の変速比とが所定時間に亘って一致している場合に、前記自動変速機が故障であると判定する第1の故障判定機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする自動変速機の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−72810(P2012−72810A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216908(P2010−216908)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】