説明

自動変速機の制御装置

【課題】変速のトルク相においてオン側(変速先の速度段)のクラッチトルクの発生によって生じる引き込みトルクをクラッチ油圧の応答性に依存させないようにした自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】変速の前後のエンジントルクTe1,Te2を推定し、推定された変速の前後のエンジントルクTe1,Te2に基づき、トルク相においてエンジントルクTeが変速後の出力トルク相当量(Te2×i2/i1。i1:変速前の速度段のギヤ比、i2:変速後の速度段のギヤ比)だけ一旦急減した後(ΔTRQ=ΔTRQst)、イナーシャ相までに徐々に回復する(ΔTRQ=ΔTRQst+ΔTRQon)ようにエンジントルクの変動量ΔTRQを算出すると共に、エンジントルクTeが前記算出された変動量ΔTRQに従って変動するように前記エンジンの動作を点火時期を介して制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の制御装置に関し、より具体的には変速フィーリングを向上させるようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1において、変速のトルク相においてエンジントルクを増加させる一方、イナーシャ相において低下させることで変速ショックを抑制すると共に、エンジントルクの変更に先立って吸入空気量を増大させ、応答性を向上させるようにした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変速のトルク相においては主にオン側(変速先の速度段)のクラッチトルク(摩擦係合要素(油圧クラッチ)の伝達トルク)の発生によって引き込みトルクが生じるが、引き込みトルクはオン側のクラッチ油圧の応答性に依存するため、トルク相において所望の変速フィーリングを常に得ることが困難であると共に、変速フィーリングが油圧クラッチごとに相違する不都合があった。
【0005】
その点について特許文献1記載の技術は、変速のトルク相においてエンジントルクを増加させると共に、エンジントルクの変更に先立って吸入空気量を増大させる技術を開示するに止まっていた。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、変速のトルク相においてオン側(変速先の速度段)のクラッチトルクの発生によって生じる引き込みトルクをクラッチ油圧の応答性に依存させないようにした自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、摩擦係合要素を介して車両に搭載されたエンジンの出力を変速する自動変速機の制御装置において、変速の前後の前記エンジントルクを推定するエンジントルク推定手段と、前記推定された変速の前後のエンジントルクに基づき、トルク相において前記エンジントルクが前記変速機の変速後の出力トルク相当量だけ一旦急減した後、イナーシャ相までに徐々に回復するように前記エンジントルクの変動量を算出するエンジントルク変動量算出手段と、前記エンジントルクが前記算出された変動量に従って変動するように前記エンジンの動作を制御するエンジン制御手段とを備える如く構成した。
【0008】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記エンジン制御手段は、点火時期を調整することで前記エンジンの動作を制御する如く構成した。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、変速の前後のエンジンのトルクを推定し、推定されたエンジントルクに基づき、トルク相においてエンジントルクが変速機の変速後の出力トルク相当量だけ一旦急減した後、イナーシャ相までに徐々に、より具体的には変速先の速度段、即ち、オン側のクラッチトルクの発生に同期して徐々に回復するようにエンジントルクの変動量を算出すると共に、エンジントルクが算出された変動量に従って変動するようにエンジンの動作を制御する如く構成したので、オン側のクラッチトルクの発生による引き込みトルクを打ち消すことが可能となり、その結果、引き込みトルクをその油圧の応答性に依存させないことが可能となり、よってトルク相において所望の変速フィーリングを得ることができると共に、変速フィーリングが摩擦係合要素(油圧クラッチ)ごとに相違することもない。
【0010】
さらに、摩擦係合要素に入力されるトルクが減少するため、摩擦係合要素の耐久性も向上できると共に、極低油温でも変速の応答性を向上させることが可能となる。
【0011】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、点火時期を調整することでエンジンの動作を制御する如く構成したので、上記した効果に加え、特許文献1記載の技術のように予め吸入空気量を変化させないことから、エンジントルク制御の応答性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す自動変速機の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図3】図2フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。
【図4】図2フロー・チャートのオフ側とオン側のクラッチトルクの推定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0014】
図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0015】
以下説明すると、符号Tは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションTは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
【0016】
トランスミッションTは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続されるアウトプットシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
【0017】
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
【0018】
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
【0019】
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0020】
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0021】
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0022】
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0023】
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
【0024】
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションTが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
【0025】
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
【0026】
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)はDBW(Drive By Wire)機構55に接続される。即ち、スロットルバルブはアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結が断たれ、電動機などのアクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0027】
DBW機構55のアクチュエータの付近にはスロットル開度センサ56が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THHFを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
【0028】
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0029】
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数(トランスミッションTの入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションTの出力回転数)NCを示す信号を出力する。
【0030】
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
【0031】
さらに、トランスミッションTの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各クラッチに接続される油路には油圧スイッチ72がそれぞれ設けられ、各クラッチに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
【0032】
また車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じる。
【0033】
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
【0034】
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。マイクロコンピュータはA/D変換器92を備える。
【0035】
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
【0036】
前記した車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数Neが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。
【0037】
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁してクラッチ油路の切替え制御を行うと共に、リニアソレノイドSL6からSL8を励磁・非励磁して変速に関係する油圧クラッチCnとトルクコンバータ12のロックアップ機構Lへの供給油圧を制御する。
【0038】
さらに、CPU82はエンジンEの燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ(図示せず)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置(図示せず)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
【0039】
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
【0040】
図2はその処理を示すフロー・チャート、図3は図2フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。図示のプログラムはCPU82によって所定時間ごとに実行される。
【0041】
以下説明すると、S10においてオフ側のクラッチトルク(変速前の速度段の油圧クラッチCnの伝達トルク)Toffとオン側のクラッチトルク(変速先の速度段の油圧クラッチCnの伝達トルク)Tonを推定する。
【0042】
図4はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0043】
以下説明すると、S100においてUP(アップ)シフト、即ち、1速から2速、2速から3速などのアップシフトにあるか否か判断する。例えばダウンシフトにある場合、アップシフトであったが終了している場合、そもそも変速状態にない場合などは否定されてS102,S104に進み、オフ側とオン側のクラッチトルクToff,Tonを共に零に設定する。
【0044】
他方、S100で肯定されるときはS106に進み、変速前のエンジントルクTe1を推定する。これは、そのときのエンジン回転数Neと吸気管内絶対圧PBAから適宜なマップを検索することで算出する。
【0045】
次いでS108に進み、変速後のエンジントルクTe2を推定する。変速後のエンジントルクTe2も、変速後に予想されるエンジン回転数と吸気管内絶対圧PBAから適宜なマップを検索することで算出する。
【0046】
次いでS110に進み、オン側のクラッチトルクTonが0を越えたか否か判断する。図3において時刻t1より前であれば、その判断は否定されてS112に進み、変速前のエンジントルクTe1に係数kを乗じて得た値をオフ側のクラッチトルクToffとする。オフ側の油圧クラッチCnが滑らないように、kは1.0以上の値に設定される。
【0047】
他方、図3において時刻t1以後であればS110の判断は肯定されてS114に進み、I相(イナーシャ相)中にあるか否か判断する。
【0048】
図3において時刻t2より前にあればS114の判断は否定されてS116に進み、オフ側のクラッチトルクToffを減算補正し、S118に進み、オン側のクラッチトルクTonを加算補正する。
【0049】
一方、図3において時刻t2以後であればS114の判断は肯定されてS120に進み、オフ側のクラッチトルクToffを零に設定する。次いでS122に進み、オン側のクラッチトルクTonを変速後のエンジントルクTe2に設定する。
【0050】
図2フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、UP(アップ)シフトにあるか否か再び判断し、否定されるときはS14に進み、値ΔTRQを零とする。
【0051】
図2フロー・チャートの説明を続ける前に、図3タイム・チャートを参照して図2フロー・チャートの処理を説明する。
【0052】
この実施例においては、変速の前後のエンジントルク(エンジンEの出力トルク)Te、より具体的には変速前のエンジントルクTe1と変速後のエンジントルクTe2を推定し、推定されたエンジントルクTe1,Te2に基づき、トルク相においてエンジントルクTeが一旦急減した後(ΔTRQ=ΔTRQst)、イナーシャ相までに徐々に増加する(ΔTRQ=ΔTRQst+ΔTRQon)ようにエンジントルクの変動量ΔTRQを算出し、エンジントルクTeが変動量ΔTRQに従って変動するようにエンジンEの動作を制御、より具体的には点火時期を調整することで制御するようにした。TRQonはオン側の油圧クラッチCnの発生トルク推定値である。
【0053】
図2フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、オン側のクラッチトルクTonが零を超えるか否か再び判断し、否定されるときはS14に進む一方、肯定されるときはS18に進み、初回、即ち、図2フロー・チャートの実行がS16で肯定された後に初めてか否か判断する。
【0054】
S18で肯定されるときはS20に進み、エンジントルクの急減量(初期値)ΔTRQst(負値)を以下の式に従って算出する。
【0055】
ΔTRQst=Te1−Te2×i2/i1
上記で、i1:変速前の速度段のギヤ比、i2:変速後の速度段のギヤ比である。上式において右辺第2項は、エンジントルクTe2から推定される、変速後の出力トルクToutに相当する。
【0056】
従って、エンジントルクの急減量ΔTRQstは、図3に示す如く、変速前のエンジントルクTe1を変速後の出力トルクTout相当量だけ急減させる値を意味する。
【0057】
次いでS22に進み、算出された急減量ΔTRQstをエンジントルクTeの変動量ΔTRQとする。図3から明らかな如く、S20からS22までの処理は時刻t1に1回だけ実行される。
【0058】
次いでS24に進み、点火時期制御を実行する。即ち、トルク相においてエンジントルクTeが一旦急減する(ΔTRQ=ΔTRQst)ようにエンジントルクの変動量ΔTRQを算出すると共に、エンジントルクTeがその変動量ΔTRQに従って変動、具体的には低下するように点火時期が遅角制御する。
【0059】
他方、S18で否定されるときはS26に進み、I相中にあるか否か判断する。S26で否定されるときはS28に進み、エンジントルクの増加量ΔTRQon(正値)を以下の式に従って算出する。
ΔTRQon=Ton×(i1−i2)/i1
【0060】
次いでS30に進み、算出された増加量ΔTRQonを急減量ΔTRQst(負値)に加算して減少補正した値をエンジントルクTeが変動量ΔTRQとする。図3に示す如く、S20からS22までの処理は時刻t1を超えてからt2に至るまでに複数回実行される。
【0061】
次いでS24に進み、点火時期制御を実行する。即ち、トルク相においてエンジントルクTeが一旦急減した後(ΔTRQ=ΔTRQst)、イナーシャ相までに徐々に回復(増加)する(ΔTRQ=ΔTRQst+ΔTRQon)ようにエンジントルクの変動量ΔTRQを算出すると共に、エンジントルクTeが変動量ΔTRQに従って変動、具体的には増加するように点火時期を進角制御する。
【0062】
また、S26で肯定されるときはS32に進み、エンジントルクの減少量ΔTRQi(負値)を以下の式に従って算出する。
ΔTRQi=I×Δω/t
【0063】
上記で、I:エンジンEのイナーシャ、Δω:エンジンEの回転変化量、t:時間である。即ち、エンジンEのイナーシャを時間tで吸収するようにエンジントルクの減少量を算出する。
【0064】
次いでS34に進み、算出された減少量ΔTRQiをエンジントルクTeの変動量ΔTRQとし、S24に進み、エンジントルクTeが変動量ΔTRQに従って変動、具体的には減少するように点火時期を遅角制御する。
【0065】
上記した如く、この実施例にあっては、摩擦係合要素(油圧クラッチCn)を介して車両に搭載されたエンジンEの出力を変速する自動変速機(トランスミッション)Tの制御装置(ECU80)において、変速の前後の前記エンジントルクTe1,Te2を推定するエンジントルク推定手段(S106,S108)と、前記推定された変速の前後のエンジントルクに基づき、トルク相において前記エンジントルクTeが一旦急減した後(ΔTRQ=ΔTRQst)、イナーシャ相までに徐々に回復する(ΔTRQ=ΔTRQst+ΔTRQon)ように前記エンジントルクの変動量ΔTRQを算出するエンジントルク変動量算出手段(S18からS22,S36からS34)と、前記エンジントルクTeが前記算出された変動量ΔTRQに従って変動するように前記エンジンの動作を制御するエンジン制御手段(S24)とを備える如く構成、即ち、トルク相においてエンジントルクTeが変速後の出力トルクTout相当量だけ一旦急減した後、イナーシャ相までに徐々に、より具体的には変速先の速度段、即ち、オン側のクラッチトルクの発生に同期して徐々に回復(増加)するようにエンジントルクTeを変動させるように構成したので、オン側の油圧クラッチ(摩擦係合要素)の伝達トルク(クラッチトルク)Tonの発生によって生じる引き込みトルクを打ち消すことが可能となり、その結果、引き込みトルク、換言すればトランスミッションTの出力トルクToutをその油圧の応答性に依存させないことが可能となり、よってトルク相において所望の変速フィーリングを得ることができると共に、変速フィーリングが油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnごとに相違することもない。
【0066】
即ち、図3の出力トルクToutに示す如く、この実施例においては、トルク相において出力トルクToutが「従来」と示す場合に比し、一定の値、換言すれば油圧クラッチCnの油圧の応答性に依存させないようにすることができる。また、イナーシャ相においても、ΔTRQiによるエンジントルクの減少制御も行うことで、出力トルクToutを一定の値にすることができる。
【0067】
さらに、油圧クラッチCnに入力されるトルクが減少するため、油圧クラッチCnの耐久性も向上できると共に、極低油温でも変速の応答性を向上させることが可能となる。
【0068】
また、前記エンジン制御手段は、点火時期を調整することで前記エンジンのE動作を制御する(S28)如く構成したので、上記した効果に加え、特許文献1記載の技術のように予め吸入空気量を変化させないことから、エンジントルク制御の応答性を一層向上させることができる。
【0069】
また、この発明を平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機などにも妥当すると共に、さらにはDCT(Dual Clutch Transmission)にも妥当する。
【符号の説明】
【0070】
T 自動変速機(トランスミッション)、E エンジン(内燃機関)、O 油圧回路、12 トルクコンバータ、L ロックアップ機構、14,16,18,20,22,24,28,30,32,34,36,42 ギヤ、Cn 油圧クラッチ(摩擦係合要素)、55 DBW機構、58 車速センサ、60 クランク角センサ、62 絶対圧センサ、64,66 回転数センサ、76 アクセル開度センサ、80 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係合要素を介して車両に搭載されたエンジンの出力を変速する自動変速機の制御装置において、変速の前後の前記エンジントルクを推定するエンジントルク推定手段と、前記推定された変速の前後のエンジントルクに基づき、トルク相において前記エンジントルクが前記変速機の変速後の出力トルク相当量だけ一旦急減した後、イナーシャ相までに徐々に回復するように前記エンジントルクの変動量を算出するエンジントルク変動量算出手段と、前記エンジントルクが前記算出された変動量に従って変動するように前記エンジンの動作を制御するエンジン制御手段とを備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御手段は、点火時期を調整することで前記エンジンの動作を制御することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163169(P2011−163169A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25014(P2010−25014)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】