説明

自動変速機の制御装置

【課題】ポンプの小型化を図る。
【解決手段】シフトポジションSPがR(リバース)ポジションの場合にブレーキB2とクラッチC3とをオンとして後進変速段を形成するオートマチックトランスミッションを備えるものにおいて、シフトポジションSPがN(ニュートラル)ポジションの場合の他にシフトポジションSPがD(ドライブ)ポジションの場合にも(S110)車速Vが閾値Vref未満などブレーキB2の待機係合が許可されているときには(S190)ブレーキB2を待機係合する(S120)。これにより、シフトレバーがDポジションからRポジションに素早く操作されたときでも、残りのクラッチC3だけに油圧を作用させればよく、後進変速段の形成を迅速に行なうことができる。この結果、油圧源としての機械式オイルポンプを小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を用いて作動するポンプからの流体圧により、シフトポジションが後進走行用ポジションのときには第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素とを係合し、シフトポジションが非走行用ポジションのときには前記第1の摩擦係合要素をピストンストロークが開始されるストローク開始圧よりも高く完全係合圧よりも低い所定の待機圧で待機または完全係合圧で係合し、シフトポジションが前進走行用ポジションのときには発進用変速段として第3の摩擦係合要素を係合する自動変速機を制御する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機の制御装置としては、セレクトレバーの操作に基づいて三つのクラッチC−0〜Cー2と五つのブレーキB−0〜B−4とを選択的にオンオフしてパーキング(P)ポジション,リバース(R)ポジション,ニュートラル(N)ポジション,ドライブ(D)ポジションを切り替えるものが提案されている(特許文献1参照)。この装置では、セレクトレバーがRポジションのときにはクラッチC−2とブレーキB−0とブレーキB−4の三つを係合する必要から、セレクトレバーがNポジションの非走行ポジションでも動力伝達に関与しないブレーキB−4を予め係合状態とすることにより、セレクトレバーがRポジションに切り替えられたときにはクラッチC−2とブレーキB−0だけに新たに油圧を作用させるものとして、油圧発生源の容量増加を図ることなくクラッチやブレーキの作動遅れ、即ちシフト操作に対する応答遅れを抑制することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−157164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DポジションからNポジションを経由してRポジションに切り替えることを考えると、Nポジションで十分な停止期間があるときには、その期間内にブレーキB−4を係合することができるから、Rポジションに至ったときに残りのクラッチやブレーキを比較的迅速に係合することができるが、Nポジションで十分な停止期間がなく素早くDポジションからRポジションにシフト操作されたときには、ブレーキB−4の係合が間に合わず、Rポジションに至ったときにブレーキB−4を含む必要な全てのクラッチやブレーキを係合しなければならないから、Rポジションの形成に遅れが生じてしまう。
【0005】
本発明の自動変速機の制御装置は、前進走行用ポジションから後進走行用ポジションに素早くシフト操作されたときでも流体圧発生源の容量増加を図ることなく後進走行用変速段の形成を迅速に行なうことができるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動変速機の制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動変速機の制御装置は、
原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を用いて作動するポンプからの流体圧により、シフトポジションが後進走行用ポジションのときには第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素とを係合し、シフトポジションが非走行用ポジションのときには前記第1の摩擦係合要素をピストンストロークが開始されるストローク開始圧よりも高く完全係合圧よりも低い所定の待機圧で待機または完全係合圧で係合し、シフトポジションが前進走行用ポジションのときには発進用変速段として第3の摩擦係合要素を係合する自動変速機を制御する自動変速機の制御装置であって、
シフトポジションが前記前進走行用ポジションの場合、車速が第1の所定車速未満のときには前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させ、車速が前記第1の所定車速以上のときには前記所定の待機圧を解放する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の自動変速機の制御装置では、原動機からの動力を用いて作動するポンプからの流体圧により、シフトポジションが後進走行用ポジションのときには第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素とを係合し、シフトポジションが非走行用ポジションのときには第1の摩擦係合要素をピストンストロークが開始されるストローク開始圧よりも高く完全係合圧よりも低い所定の待機圧で待機または完全係合圧で係合し、シフトポジションが前進走行用ポジションのときには発進用変速段として第3の摩擦係合要素を係合する自動変速機において、シフトポジションが前進走行用ポジションの場合、車速が第1の所定車速未満のときには第1の摩擦係合要素を所定の待機圧で待機させ、車速が第1の所定車速以上のときには待機圧を解放する。前進走行用シフトポジションで第1の摩擦係合要素をストローク開始圧よりも高い待機圧で待機させておくことにより、前進走行用ポジションから後進走行用ポジションへのシフト操作が素早く行なわれるものとしても、後進走行用ポジションで流体圧を供給すべき摩擦係合要素の数を少なくすることができる。この結果、後進走行用変速段を形成をより短時間で行なうことができる。また、第1の摩擦係合要素に供給される流体の流量が増加するのは第1の摩擦係合要素のピストンがストロークしている間、つまり係合流体圧が供給される第1の摩擦係合要素の作動流体室の体積が変化している間であり、予め第1の摩擦係合要素にストローク開始圧以上の流体圧を供給することで、後進走行用ポジションへシフト操作されたときに第1の摩擦係合要素の作動流体室の体積の変化量を減らすことができ、後進走行用ポジションへシフト操作されたときの第1の摩擦係合要素へ供給する流体の流量と、ポンプが必要とする流体の吐出量を減らすことができる。よって、ポンプをより小型化することができる。また、後進走行用ポジションは通常車速が比較的高いときには受け付けられないから、第1の所定車速以上のときには待機圧を解放することにより、形成している変速段によっては第1の摩擦係合要素に引き摺りが生じるのを防止することができ、車両の効率をより向上させることができる。「所定の待機圧」には、第1の摩擦係合要素を滑りを伴って係合させるストロークエンド圧よりも大きい流体圧やストロークエンド圧未満の流体圧も含まれる。また、「完全係合圧」は、第1の摩擦係合要素を滑りを伴わずに係合させる油圧である。
【0009】
こうした本発明の自動変速機の制御装置において、前記原動機の回転速度が所定回転速度以上であることを条件として前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させるものとすることもできる。こうすれば、ポンプから吐出される流体圧が十分であることを確認した上で第1の摩擦係合要素を係合待機圧で待機させることができる。
【0010】
また、本発明の自動変速機の制御装置において、前記第1の摩擦係合要素とは異なる他の摩擦係合要素を係合している最中に車速が前記第1の所定車速未満となった場合には、該他の摩擦係合要素の係合が完了するのを待って前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させるものとすることもできる。こうすれば、一度に必要なポンプの吐出量を低減することができ、ポンプの小型化を図ることができる。シフトポジションが前記前進走行用ポジションで且つニュートラル制御条件が成立したときに前記第3の摩擦係合要素を所定のニュートラル状態とするニュートラル制御を実行すると共に前記自動変速機の出力軸の逆回転を抑制するために第4の摩擦係合要素を係合するヒルホールド制御を実行する態様の本発明の自動変速機の制御装置において、前記異なる他の摩擦係合要素として前記第4の摩擦係合要素を係合するヒルホールド制御を実行している最中には、該第4の摩擦係合要素の係合が完了するのを待って前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させるものとすることができる。また、原動機が内燃機関として構成されている場合、ニュートラル制御中には内燃機関はアイドル回転状態となるため、第4の摩擦係合要素の係合が完了するのを待って第1の摩擦係合要素に油圧を供給することにより、内燃機関の回転速度が低い場合のポンプの必要吐出量を減らすことができ、ポンプをより小型化することができる。
【0011】
車速が第2の所定車速以上のときにはシフトポジションに拘わらず後進走行用変速段を形成させない態様の本発明の自動変速機の制御装置において、前記第1の所定車速は、前記第2の所定車速よりも高い車速に設定されてなるものとすることもできる。こうすれば、第1の摩擦係合要素を所定の待機圧で待機させるのにある程度の時間を要するものとしても、後進走行用変速段の形成が許可されるときには所定の待機圧による待機を完了させることができる。この結果、いずれのタイミングで前進走行用ポジションから後進走行用ポジションにシフト操作されたときでも、後進走行用変速段の形成に遅れが生じるのを抑制することができる。
【0012】
また、第1クラッチを介して入力軸側に接続された第1の回転要素と、第2クラッチを介して入力軸側に接続されると共に第2ブレーキを介してケースに接続された第2の回転要素と、出力軸側に接続された第3の回転要素と、第3クラッチを介して入力軸側に接続されると共に第1ブレーキを介してケースに接続された第4の回転要素とを有し回転速度比の関係の順に前記第4の回転要素,前記第2の回転要素,前記第3の回転要素,前記第1の回転要素となる遊星歯車機構を備え、前記第1の摩擦係合要素が前記第2ブレーキであり、前記第2の摩擦係合要素が前記第3クラッチであり、前記第3の摩擦係合要素が前記第1クラッチである態様の本発明の自動変速機の制御装置において、シフトポジションが前記非走行用ポジションとして中立ポジションで惰行走行している最中には、前記第2ブレーキにおける前記所定の待機圧を解放する又は係合圧を供給しないものとすることもできる。第1〜第3クラッチと第1,第2ブレーキがいずれも非係合のときには、遊星歯車機構の出力軸側に接続された第3の回転要素は車速に依存する回転速度で回転し、他の三つの回転要素は第3の回転要素の回転とは独立してバランスしながら回転するが、第2ブレーキが係合すると、第2ブレーキが接続された第2の回転要素が固定されるため、第1の回転要素が第3の回転要素の回転速度に対して増速回転してしまう。この増速回転は、遊星歯車機構の効率に悪影響を与えたり、第1の回転要素に接続された第1クラッチに引き摺りを生じさせたりする。したがって、シフトポジションが中立ポジションで惰行走行している最中には、第2ブレーキの待機圧を解放したり係合圧を供給しないことにより、こうした不都合の発生を回避して走行抵抗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての変速機装置を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】オートマチックトランスミッション20の作動表の一例を示す説明図である。
【図3】オートマチックトランスミッション20の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図4】ATECU29により実行される変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】ATECU29により実行されるB2待機係合許否設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】ATECU29により実行される惰行走行判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】変形例のオートマチックトランスミッション120の構成の概略を示す構成図である。
【図8】オートマチックトランスミッション120の作動表の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は本発明の一実施例としての変速機装置を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2はオートマチックトランスミッション20の作動表を示し、図3はオートマチックトランスミッション20の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。実施例の自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12のクランクシャフト14に取り付けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ24と、このトルクコンバータ24の出力側に入力軸21が接続されると共にギヤ機構26およびデファレンシャルギヤ28を介して駆動輪18a,18bに出力軸22が接続され入力軸21に入力された動力を変速して出力軸22に伝達する有段のオートマチックトランスミッション20と、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット(以下、メインECUという)60とを備える。
【0016】
エンジン12は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16により運転制御されている。エンジンECU16は、詳細に図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。このエンジンECU16には、クランクシャフト14に取り付けられたエンジン回転速度センサなどのエンジン12を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU16からは、スロットル開度を調節するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力ポートを介して出力されている。エンジンECU16は、メインECU60と通信しており、メインECU60からの制御信号によってエンジン12を制御したり、必要に応じてエンジン12の運転状態に関するデータをメインECU60に出力する。
【0017】
オートマチックトランスミッション20は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構30とラビニヨ式の遊星歯車機構40と三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構30は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31はケース38に固定されており、リングギヤ32は入力軸21に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構40は、外歯歯車の二つのサンギヤ41a,41bと、内歯歯車のリングギヤ42と、サンギヤ41aに噛合する複数のショートピニオンギヤ43aと、サンギヤ41bおよび複数のショートピニオンギヤ43aに噛合すると共にリングギヤ42に噛合する複数のロングピニオンギヤ43bと、複数のショートピニオンギヤ43aおよび複数のロングピニオンギヤ43bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア44とを備え、サンギヤ41aはクラッチC1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構30のキャリア34に接続され、サンギヤ41bはクラッチC3を介してキャリア34に接続されると共にブレーキB1を介してケース38に接続され、リングギヤ42は出力軸22に接続され、キャリア44はクラッチC2を介して入力軸21に接続されている。また、キャリア44はブレーキB2を介してケース38に接続されると共にワンウェイクラッチF1を介してケース38に接続されている。
【0018】
こうして構成されたオートマチックトランスミッション20では、図2の作動表および図3の共線図に示すように、クラッチC1〜C3のオンオフ(オンが係合でオフが係合解除とも呼ぶ、以下同じ)とブレーキB1,B2のオンオフとの組み合わせにより前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り換えることができるようになっている。
【0019】
前進1速の状態は、クラッチC1をオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2とをオフとしたりクラッチC1とブレーキB2とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC1を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41aに伝達されると共にサンギヤ41aに入力される動力はワンウェイクラッチF1によるキャリア44の固定によりキャリア44側で反力を受け持つことにより減速されてリングギヤ42を介して出力軸22に出力されるから、入力軸21に入力される動力は比較的大きな減速比をもって減速して出力軸22に出力される。前進1速の状態では、エンジンブレーキ時には、ブレーキB2をオンとすることにより、ワンウェイクラッチF1に代えてキャリア44が固定される。前進2速の状態は、クラッチC1とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC1を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41aに伝達されると共にサンギヤ41aに入力される動力はブレーキB1によるサンギヤ41bの固定によりサンギヤ41b側で反力を受け持つことにより減速されてリングギヤ42を介して出力軸22に出力されるから、入力軸21に入力される動力は前進1速よりも小さな減速比をもって減速して出力軸22に出力される。前進3速の状態は、クラッチC1,C3をオンとすると共にクラッチC2とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC1を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41aに伝達されると共にサンギヤ41aに入力される動力はクラッチC1およびクラッチC3のオンによるラビニヨ式の遊星歯車機構40の一体回転により等速をもってリングギヤ42を介して出力軸22に出力されるから、入力軸21に入力される動力は前進2速よりも小さな減速比をもって減速して出力軸22に出力される。前進4速の状態は、クラッチC1,C2をオンとすると共にクラッチC3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC1を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41aに伝達される一方で入力軸21からクラッチC2を介して直接にラビニヨ式の遊星歯車機構40のキャリア44に伝達されてリングギヤ42すなわち出力軸22の駆動状態が決定されるから、入力軸21に入力される動力は前進3速よりも小さな減速比をもって減速して出力軸22に出力される。前進5速の状態は、クラッチC2,C3をオンとすると共にクラッチC1とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC3を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41bに伝達される一方で入力軸21からクラッチC2を介して直接にラビニヨ式の遊星歯車機構40のキャリア44に伝達されてリングギヤ42すなわち出力軸22の駆動状態が決定されるから、入力軸21に入力される動力は増速して出力軸22に出力される。前進6速の状態は、クラッチC2とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC1,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からクラッチC2を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のキャリア44に入力される動力はブレーキB1によるサンギヤ41bの固定によりサンギヤ41b側で反力を受け持つことにより増速されてリングギヤ42を介して出力軸22に出力されるから、入力軸21に入力される動力は前進5速よりも小さな減速比をもって増速して出力軸22に出力される。
【0020】
後進1速の状態は、クラッチC3とブレーキB2とをオンとすると共にクラッチC1,C2とブレーキB1とをオフとすることにより形成することができ、この状態では、入力軸21からシングルピニオン式の遊星歯車機構30のリングギヤ32に入力される動力はサンギヤ31の固定によりサンギヤ31側で反力を受け持つことにより減速されてキャリア34およびクラッチC3を介してラビニヨ式の遊星歯車機構40のサンギヤ41bに伝達されると共にサンギヤ41bに入力される動力はブレーキB2によるキャリア44の固定によりキャリア44側で反力を受け持つことにより逆回転してリングギヤ42を介して出力軸22に出力されるから、入力軸21に入力される動力は比較的小さな減速比をもって減速して逆回転の動力として出力軸22に出力される。
【0021】
ニュートラルの状態は、ブレーキB2をオンとすると共にクラッチC1〜C3とブレーキB1とをオフとすることにより形成したり、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2をすべてオフとすることにより形成することができる。実施例では、前者によりニュートラルの状態を形成するものとした。
【0022】
オートマチックトランスミッション20は、オートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(以下、ATECUという)29により駆動制御されている。ATECU29は、詳細に図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。ATECU29には、入力軸21に取り付けられた入力軸回転速度センサからの入力軸回転速度Ninや出力軸22に取り付けられた出力軸回転速度センサからの出力軸回転速度Nout,油圧回路50に取り付けられた油温センサからの油温Toilなどが入力ポートを介して入力されており、ATECU29からは、クラッチC1をオンオフするための油圧式アクチュエータ50への駆動信号やクラッチC2をオンオフするための油圧式アクチュエータ52への駆動信号,クラッチC3をオンオフするための油圧式アクチュエータ54への駆動信号,ブレーキB1をオンオフするための油圧式アクチュエータ56への駆動信号,ブレーキB2をオンオフするための油圧式アクチュエータ58への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。ATECU29は、メインECU60と通信しており、メインECU60からの制御信号によってオートマチックトランスミッション20を制御したり、必要に応じてオートマチックトランスミッション20の状態に関するデータをメインECU60に出力する。なお、油圧式アクチュエータ50〜58は、エンジン12からの動力により作動する機械式オイルポンプ59からの圧油を調圧して各クラッチC1〜C3,ブレーキB1,B2に出力するリニアソレノイドなどにより構成されている。
【0023】
メインECU60は、詳細には図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。メインECU60には、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込みを検出するブレーキスイッチ66からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ここで、シフトレバー61は、実施例では、パーキング(P)ポジション,リバース(R)ポジション,ニュートラル(N)ポジション,ドライブ(D)ポジションの順にレイアウトされており、これらの中から選択されたポジションに応じてクラッチC1〜C3やブレーキB1,B2をオンオフする。なお、メインECU60は、前述したように、エンジンECU16やATECU29と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU16やATECU29と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0024】
ここで、実施例の変速機装置としては、オートマチックトランスミッション20と、ATECU29が該当する。
【0025】
次に、こうして構成された自動車10が備える実施例の変速機装置の動作、特に、DポジションからRポジションにシフト操作されたときの動作について説明する。図4は、ATECU29により実行される変速制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、イグニッションONされてからOFFされるまでに所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0026】
変速制御ルーチンが実行されると、ATECU29のCPUは、まず、シフトポジションSPやアクセル開度Acc,車速Vなどの制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、シフトポジションSPとアクセル開度Accと車速Vは、それぞれシフトポジションセンサ62とアクセルペダルポジションセンサ64と車速センサ68により検出されたものをメインECU60から通信を介して入力するものとした。データを入力すると、入力したシフトポジションSPを調べ(ステップS110)、シフトポジションSPがN(ニュートラル)ポジションと判定されたときには、ブレーキB2の待機係合が許可されているか否かを示す後述するB2待機係合許否判定フラグFb2の値を調べ(ステップS115)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値1のときには、ブレーキB2の待機係合が許可されていると判断してブレーキB2がオンされるよう油圧アクチュエータ58を制御し(ステップS120)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値0のときにはブレーキB2の待機係合が禁止されていると判断してオンされているブレーキB2がオフされるよう油圧アクチュエータ58を制御して(ステップS195)、本ルーチンを終了する。一方、シフトポジションSPがRポジションと判定されたときには、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2未満であるか否かを判定し(ステップS130)、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2未満であるときにはクラッチC3とブレーキB2とがオンされるよう油圧式アクチュエータ54,58を制御して(ステップS140)、本ルーチンを終了し、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2以上のときには現在のクラッチとブレーキの状態を維持して(ステップS135)、本ルーチンを終了する。これにより、NポジションからRポジションにシフト操作されたときには、クラッチC3だけをオンすればよいから、機械式オイルポンプ59から一度に必要な吐出量を少なくすることができ、迅速に後進1速を形成することができる。
【0027】
ステップS110でシフトポジションSPがD(ドライブ)ポジションと判定されたときには、変速条件が成立したか否か(ステップS150)、ヒルホールド制御条件が成立したか否か(ステップS160)をそれぞれ判定する。ここで、変速条件の判定は、アクセル開度Accと車速Vと変速マップとに基づいて目標変速段を設定し、設定した目標変速段と現変速段とを比較することにより行なうことができる。また、ヒルホールド制御条件の判定は、シフトポジションSPがDポジション、車速Vが所定車速未満,アクセルオフ,ブレーキオン,エンジン12が運転中などの条件の全てが成立しているか否かを判定することにより行なうことができる。なお、ヒルホールド制御条件は、クラッチC1をストロークエンド圧以下の油圧で待機させて入力軸21と出力軸22とを切り離すニュートラル制御条件が成立しているときに成立する。変速条件が成立したときには、前進1速〜前進6速のうち条件が成立した変速段を設定し、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のうち設定した変速段に応じて図2に示す必要なクラッチやブレーキがオンされると共にオンしている不要なクラッチやブレーキがオフされるよう各油圧式アクチュエータ50〜58を制御し(ステップS170)、ヒルホールド制御条件条件が成立したときには、ニュートラル制御に加えてブレーキB1をオンして出力軸22の逆回転を抑制するよう油圧式アクチュエータ50,56を制御(ヒルホールド制御)する(ステップS180)。そして、B2待機係合許否判定フラグFb2の値を調べ(ステップS190)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値1のときにはブレーキB2の待機係合が許可されていると判断してブレーキB2がオンされるよう油圧アクチュエータ58を制御し(ステップS120)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値0のときにはブレーキB2の待機係合が禁止されていると判断してブレーキB2がオフされるよう油圧アクチュエータ58を制御して(ステップS195)、本ルーチンを終了する。ここで、本ルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行されるから、変速制御のステップS170の処理やヒルホールド制御のステップS180の処理,ブレーキB2の待機係合のステップS120の処理は、これらの処理が完了(対応するクラッチやブレーキのオンオフが完了)するまで繰り返し実行されることになる。このようにシフトポジションSPがDポジションのときでもブレーキB2を待機係合するのは、DポジションからNポジションを経由してRポジションにシフト操作された場合を考えると、Nポジションで十分な停止期間があるときには、その期間内にブレーキB2が待機係合されるが、Nポジションで十分な停止期間がないときには、NポジションにおけるブレーキB2の待機係合が間に合わない場合があることに基づく。これにより、DポジションからRポジションに素早くシフト操作されたときでも、Rポジションに至ったときにクラッチC3だけをオンすればよいから、機械式オイルポンプ59からの一度に必要な吐出量を少なくすることができ、迅速に後進1速を形成することができる。ここで、ブレーキB2の待機係合は、実施例では、ブレーキB2にストロークエンド圧よりも若干高い油圧を作用させることにより行なわれ、前進1速か前進2速のときに限って実行される。なお、前進1速では、エンジンブレーキ時には待機係合に代えてブレーキB2を完全に係合する。なお、ブレーキB2を完全に係合されていない状態でRポジションがシフト操作されたときには、ブレーキB2が完全に係合するまで油圧を供給する必要があるが、ブレーキB2を待機係合しないものに比して、機械式オイルポンプ59から一度に必要な吐出量を少なくすることができる。ステップS115,S190におけるB2待機係合許否判定フラグFb2は、図5に例示するB2待機係合許否設定ルーチンを実行することにより設定される。このB2待機係合許否設定ルーチンは、変速制御ルーチンと同様に、イグニッションONされてからOFFされるまでに所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行され、B2待機係合許否設定ルーチンが実行される毎に変速制御ルーチンのステップS190で用いられるフラグFb2の値が更新される。
【0028】
B2待機係合許否設定ルーチンが実行されると、ATECU26のCPUは、まず、シフトポジションSPやアクセル開度Acc,車速V,エンジン回転速度Ne,油温Toil,出力軸回転速度Noutなどの制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS200)。ここで、油温Toilと出力軸回転速度Noutは、それぞれ油温センサと出力軸回転速度センサにより検出されたものを入力するものとした。エンジン回転速度Neは、エンジン回転速度センサにより検出されたものをエンジンECU16からメインECU60を介して通信により入力するものとした。なお、シフトポジションSPやアクセル開度Acc,車速Vの入力については前述した。
【0029】
こうしてデータを入力すると、惰行走行中でないか(ステップS210)、前述した変速制御中でないか(ステップS220)、前述したヒルホールド制御によるブレーキB1の係合途中でないか(ステップS230)、NポジションからDポジションにシフト操作されたときにクラッチC1をオンするN−D制御中でないか(ステップS240)、シフトポジションSPがRポジション以外のポジションであるか(ステップS250)、油温Toilが閾値Tref以上であるか(ステップS260)、車速Vが閾値Vref未満であるか(ステップS270)、エンジン回転速度Neが閾値Nref以上であるか(ステップS280)をそれぞれ判定し、ステップS210〜S280の判定のいずれもが肯定的な判定であるときには、B2待機係合許否判定フラグFb2に値1を設定してブレーキB2の待機係合を許可し(ステップS290)、ステップS210,S250〜S280の判定のいずれかが否定的な判定であるときには、B2待機係合許否判定フラグFb2に値0を設定してブレーキB2の待機係合を禁止して(ステップS295)、本ルーチンを終了する。また、ステップS220〜S240のいずれかが否定的な判定であるときには、B2待機係合許否判定フラグFb2の値を調べ(ステップS245)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値1のときには、ブレーキB2の待機係合の許可を継続し(ステップS290)、B2待機係合許否判定フラグFb2が値0のときには、ブレーキB2の待機係合の禁止を継続して(ステップS295)、本ルーチンを終了する。ここで、惰行走行の判定は、図6に示す惰行走行判定ルーチンを実行することにより行なわれる。この惰行走行判定ルーチンは、車速Vが閾値Vref2以上の状態が所定時間Tref(例えば、数秒など)以上継続しているかを判定し(ステップS300)、継続していない場合には、惰行走行を判定するのに適さないと判断して、本ルーチンを終了する。一方、車速Vが閾値Vref2以上の状態が所定時間Tref以上継続していると判定されると、次に、シフトポジションSPがNポジションか(ステップS305)、出力軸回転速度Noutが閾値Nref2以上か(ステップS310)、アクセルオフ(スロットルオフ)か(ステップS320)、ブレーキオフか(ステップS330)をそれぞれ判定し、ステップS305〜S330のいずれもが肯定的な判定のときには、惰行走行と判定する(ステップS340)。この惰行走行の判定は、ステップS305〜330の判定のいずれかが否定的な判定となるまで継続され、これらの判定のいずれかが否定的な判定とされると、惰行走行でないと判定して(ステップS350)、本ルーチンを終了する。NポジションでクラッチC1〜C3,ブレーキB1,B2がいずれも係合してない場合を考えると、ラビニヨ式の遊星歯車機構40では、出力軸22に接続されているリングギヤ42は出力軸22の回転速度で回転し、サンギヤ41a,41bやキャリア44はリングギヤ42の回転とは独立してバランスしながら比較的互いに回転差が小さな状態で回転する。一方、NポジションでブレーキB2だけを係合している場合を考えると、ブレーキB2に接続されているキャリア44はその回転が固定されるため、サンギヤ41aがリングギヤ42の回転速度に対して増速し、その回転抵抗が増すと共にサンギヤ41aに接続されたクラッチC1に残存する油圧によってはクラッチC1に引き摺りが生じてしまう。Nポジションの惰行走行中にブレーキB2の待機係合を禁止するのは、こうした不都合を回避し、惰行走行に伴う走行抵抗を低減させるためである。また、変速制御中では変速制御に必要なクラッチやブレーキに対する油圧の供給のために、ヒルホールド制御でブレーキB1が係合途中のときにはヒルホールド制御に必要なブレーキB1に対する油圧の供給のために、N−D制御中ではニュートラルから前進1速への切り替えに必要なクラッチC1に対する油圧の供給のためにそれぞれブレーキB2の待機係合を禁止する。これにより、二つ以上のクラッチやブレーキに一度に油圧が供給される状況を回避し、クラッチやブレーキを十分な油圧をもって適切にオンさせることができる。したがって、変速制御やヒルホールド制御(ブレーキB2の係合),N−D制御が完了すると、他の条件が成立していれば、ブレーキB2の待機係合が許可されることになる。ステップS250の判定は、実施例では、前述したように、D(ドライブ)ポジションでは前進1速か前進2速のいずれかであるかを判定するものとなる。また、ステップS260で用いられる閾値Trefは、適正温度範囲の下限付近の値として定められ、ステップS270で用いられる閾値Vrefは、後進走行用変速段形成許可車速である閾値Vref2よりも若干高い値として定められ、ステップS280で用いられる閾値Nrefは、機械式オイルポンプ59が作動することができるエンジン回転速度の下限付近の値として定められている。したがって、ステップS260〜S280の判定は、油温Toilが適正温度にあるか否か、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2よりも若干高い車速(閾値Vref)未満であるか否か、エンジン回転速度Neが機械式オイルポンプ59を作動させるのに十分な回転速度にあるか否かを判定するものとなる。なお、ブレーキB2の待機係合はRポジションにシフト操作されたときに後進1速を迅速に形成するために行なうものであるから、基本的には、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2未満のときに行なえばよいが、実施例では、待機係合に要する時間を考慮して閾値Vrefを後進走行用変速段形成許可車速よりも高い値として定めるものとした。
【0030】
以上説明した実施例の変速機装置によれば、シフトポジションSPがR(リバース)ポジションの場合にブレーキB2とクラッチC3とをオンとして後進1速を形成するオートマチックトランスミッション20を備えるものにおいて、シフトポジションSPがN(ニュートラル)ポジションの場合の他にシフトポジションSPがD(ドライブ)ポジションの場合にも車速Vが閾値Vref未満などブレーキB2の待機係合が許可されているときにはブレーキB2を待機係合するから、シフトレバー61がDポジションからRポジションに素早く操作されたときでも、残りのクラッチC3だけに油圧を作用させればよく、後進1速の形成を迅速に行なうことができる。この結果、機械式オイルポンプ59として小型のものを用いることができ、装置全体をより小型化することができる。しかも、ブレーキB2の待機係合に要する時間を考慮して閾値Vrefを後進走行用変速段形成許可車速Vref2よりも若干高い値に定めているから、車速Vが後進走行用変速段形成許可車速Vref2以上から後進走行用変速段形成許可車速Vref2未満に至ったときに直ちにブレーキB2を待機係合している状態でRポジションのシフト操作を受け付けることができる。また、シフトポジションSPがNポジションで惰行走行中にはブレーキB2の待機係合を行なわないから、惰行走行中にブレーキB2を係合することに起因して走行抵抗が増加するのを防止することができる。さらに、変速制御中やヒルホールド制御によるブレーキB1の係合途中にもブレーキB2の待機係合を禁止するから、二つ以上のクラッチやブレーキに一度に機械式オイルポンプ59からの圧油が供給されないようにすることができ、各クラッチやブレーキの係合をより適切に行なうことができると共に機械式オイルポンプ59を小型化することができる。
【0031】
実施例の変速機装置では、ブレーキB2の係合待機として、ストロークエンド圧よりも若干高い油圧を作用させるものとしたが、ピストンストロークが開始されるストローク開始圧よりも高い油圧であれば、変速段の形成に影響を与えない範囲内で如何なる高さの油圧を作用させるものとしてもよい。ただし、ブレーキB2の係合により引き摺りなどの影響を受ける変速段(例えば、前進2速)については、ストロークエンド圧未満の油圧とする方が望ましい場合がある。
【0032】
実施例の変速機制御では、Dポジション時のブレーキB2の待機係合を、前進1速と前進2速に限って実行するものとしたが、前進1速だけで実行するものとしてもよいし、前進1速〜前進3速で実行するものとしてもよいし、前進1〜前進4速で実行するものとしてもよいし、前進1速〜前進5速で実行するものとしてもよいし、全ての変速段で実行するものとしても構わない。
【0033】
実施例の変速機装置では、図5のB2待機係合許否設定ルーチンにおいて、惰行走行中でないことと油温Toilが閾値Tref以上であることをブレーキB2の待機係合を許可するための条件に含めるものとしたが、これらの条件のいずれか又は全部を省略するものとしてもよい。
【0034】
実施例の変速機装置では、オートマチックトランスミッション20を前進1速〜前進6速の6段変速の有段変速機により構成するものとしたが、これに限定されるものではなく、2〜5段変速の有段変速機により構成するものとしてもよいし、7段以上の有段変速機により構成するものとしてもよい。例えば、図7の変形例のオートマチックトランスミッション120に示すように、8段変速の有段変速機として構成するものとしても構わない。変形例のオートマチックトランスミッション120は、図7に示すように、ダブルピニオン式の遊星歯車機構130とラビニヨ式の遊星歯車機構140と四つのクラッチC11,C12,C13,C14と二つのブレーキB11,B12とワンウェイクラッチF11とを備える。ダブルピニオン式の遊星歯車機構130は、外歯歯車としてのサンギヤ131と、このサンギヤ131と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ132と、サンギヤ131に噛合する複数の第1のピニオンギヤ133aと、第1のピニオンギヤ133aに噛合すると共にリングギヤ132に噛合する複数の第2のピニオンギヤ133bと、第1および第2のピニオンギヤ133a,133bを自転かつ公転自在に保持するキャリア134とを備え、サンギヤ131はケース38に固定されており、リングギヤ132はクラッチC13を介して回転軸136に接続されており、キャリア134はクラッチC14を介して回転軸136に接続されている。この回転軸136は、ブレーキB11のオンオフによりその回転が自由にまたは固定されるようになっている。ラビニヨ式の遊星歯車機構140は、外歯歯車の二つのサンギヤ141a,141bと、内歯歯車のリングギヤ142と、サンギヤ141aに噛合する複数のショートピニオンギヤ143aと、サンギヤ141bおよび複数のショートピニオンギヤ143aに噛合すると共にリングギヤ142に噛合する複数のロングピニオンギヤ143bと、複数のショートピニオンギヤ143aおよび複数のロングピニオンギヤ143bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア144とを備え、サンギヤ141aはクラッチC11を介してダブルピニオン式の遊星歯車機構130のリングギヤ132に接続されており、サンギヤ141bは回転軸136に接続されており、リングギヤ142は出力軸22に接続されており、キャリア144はワンウェイクラッチF11によりその回転が一方向に規制され且つブレーキB12のオンオフによりその回転を自由にまたは固定されると共にクラッチC12を介して入力軸21に接続されている。なお、変形例のオートマチックトランスミッション120の作動表を図8に示す。
【0035】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン12が「原動機」に相当し、機械式オイルポンプ59が「ポンプ」に相当し、ブレーキB2が「第1の摩擦係合要素」に相当し、クラッチC3が「第2の摩擦係合要素」に相当し、クラッチC1が「第3の摩擦係合要素」に相当する。また、ブレーキB1が「第4の摩擦係合要素」に相当する。また、クラッチC1が「第1クラッチ」に相当し、クラッチC2が「第2クラッチ」に相当し、クラッチC3が「第3クラッチ」に相当し、ブレーキB1が「第1ブレーキ」に相当し、ブレーキB2が「第2ブレーキ」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わないし、電動機などの原動機であっても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0036】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、自動車産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 自動車、12 エンジン、14 クランクシャフト、16 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、18a,18b 駆動輪、20 オートマチックトランスミッション、21 入力軸、22 出力軸、24 トルクコンバータ、26 ギヤ機構、28 デファレンシャルギヤ、29 オートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(ATECU)、30 シングルピニオン式の遊星歯車機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、38 ケース、40 ラビニヨ式の遊星歯車機構、41a,41b サンギヤ、42 リングギヤ、43a ショートピニオンギヤ、43b ロングピニオンギヤ、44 キャリア、50〜58 油圧式アクチュエータ、59 機械式オイルポンプ、60 メイン電子制御ユニット(メインECU)、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキスイッチ、68 車速センサ、120 オートマチックトランスミッション、130 ダブルピニオン式の遊星歯車機構、131 サンギヤ、132 リングギヤ、133a 第1のピニオンギヤ、133b 第2のピニオンギヤ、134 キャリア、136 回転軸、140 ラビニヨ式の遊星歯車機構、141a,141b サンギヤ、142 リングギヤ、143a ショートピニオンギヤ、143b ロングピニオンギヤ、144 キャリア、C1〜C3,C11〜C14 クラッチ、B1,B2,B11,B12 ブレーキ、F1,F11 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を用いて作動するポンプからの流体圧により、シフトポジションが後進走行用ポジションのときには第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素とを係合し、シフトポジションが非走行用ポジションのときには前記第1の摩擦係合要素をピストンストロークが開始されるストローク開始圧よりも高く完全係合圧よりも低い所定の待機圧で待機または完全係合圧で係合し、シフトポジションが前進走行用ポジションのときには発進用変速段として第3の摩擦係合要素を係合する自動変速機を制御する自動変速機の制御装置であって、
シフトポジションが前記前進走行用ポジションの場合、車速が第1の所定車速未満のときには前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させ、車速が前記第1の所定車速以上のときには前記所定の待機圧を解放する
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機の制御装置であって、
前記原動機の回転速度が所定回転速度以上であることを条件として前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させる
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動変速機の制御装置であって、
前記第1の摩擦係合要素とは異なる他の摩擦係合要素を係合している最中に車速が前記第1の所定車速未満となった場合には、該他の摩擦係合要素の係合が完了するのを待って前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させる
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
シフトポジションが前記前進走行用ポジションで且つニュートラル制御条件が成立したときに前記第3の摩擦係合要素を所定のニュートラル状態とするニュートラル制御を実行すると共に前記自動変速機の出力軸の逆回転を抑制するために第4の摩擦係合要素を係合するヒルホールド制御を実行する請求項3記載の自動変速機の制御装置であって、
前記異なる他の摩擦係合要素として前記第4の摩擦係合要素を係合するヒルホールド制御を実行している最中には、該第4の摩擦係合要素の係合が完了するのを待って前記第1の摩擦係合要素を前記所定の待機圧で待機させる
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項5】
車速が第2の所定車速以上のときにはシフトポジションに拘わらず後進走行用変速段の形成させない請求項1ないし4いずれか1項に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記第1の所定車速は、前記第2の所定車速よりも高い車速に設定されてなる
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項6】
第1クラッチを介して入力軸側に接続された第1の回転要素と、第2クラッチを介して入力軸側に接続されると共に第2ブレーキを介してケースに接続された第2の回転要素と、出力軸側に接続された第3の回転要素と、第3クラッチを介して入力軸側に接続されると共に第1ブレーキを介してケースに接続された第4の回転要素とを有し回転速度比の関係の順に前記第4の回転要素,前記第2の回転要素,前記第3の回転要素,前記第1の回転要素となる遊星歯車機構を備え、前記第1の摩擦係合要素が前記第2ブレーキであり、前記第2の摩擦係合要素が前記第3クラッチであり、前記第3の摩擦係合要素が前記第1クラッチである請求項1ないし5いずれか1項に記載の自動変速機の制御装置であって、
シフトポジションが前記非走行用ポジションとして中立ポジションで惰行走行している最中には、前記第2ブレーキにおける前記所定の待機圧を解放する又は係合圧を供給しない
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−208780(P2011−208780A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79146(P2010−79146)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】