自動変速機の制御装置
【課題】変速が繰り返される運転状態が発生することを抑制する自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】クルーズ制御手段(6)は、クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機(4)を制御し、変速マップによって変速機(4)を制御しているときに、シフトビジーが発生したと判定した場合は、エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように変速マップを補正する。
【解決手段】クルーズ制御手段(6)は、クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機(4)を制御し、変速マップによって変速機(4)を制御しているときに、シフトビジーが発生したと判定した場合は、エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように変速マップを補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクルーズにおいて変速が繰り返される運転状態が発生することを抑制する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のオートクルーズ制御は、任意の一定速度に維持するための燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似的なアクセル開度をし、擬似的なアクセル開度とエンジン回転数に基づく専用の変速マップを参照してトランスミッションを制御するもの(特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オートクルーズ制御によって走行する場合に、オートクルーズ制御によって行われる変速の発生によるトルク切れ状態の空走によって車速が減速したり、コーストモードに移行することに伴う擬似的な吸気量の減少により、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生する場合がある。このような運転状態は、運転者に違和感を抱かせるばかりか、変速が繰り返されることによって燃費が悪化する。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、クルーズ制御機能により自動走行中において、変速が繰り返される運転状態が発生することを抑制して、運転者に違和感を与えることを防止し、燃費を向上させることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンの吸気量を検出する吸気量検出手段と、検出された吸気量の信号によりエンジンの駆動を制御すると共に車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行可能とするクルーズ制御手段と、車両の走行状態に応じて変速機を制御するトランスミッション制御手段と、を有する自動変速機の制御装置であって、クルーズ制御手段は、クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機を制御し、変速マップによって変速機を制御しているときに、シフトビジーが発生したと判定した場合は、エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように変速マップを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シフトビジーが発生したときに、変速マップを補正することで、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点が近接しなくなり、シフトビジーによる変速の繰り返しが抑制されることによって、運転者に違和感を与えることがなくなり、シフトビジーによる燃費の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態の自動変速制御装置を示す斜視説明図である。
【図2】本発明の実施形態のECUによるエンジンの制御動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態の燃料噴射量演算部の説明図である。
【図5】本発明の実施形態の擬似アクセル開度演算部の説明図である。
【図6】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態のシフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態のオートクルーズ制御中の変速マップの一例を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態のオートクルーズ制御中の補正された変速マップの一例を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態の変速マップの補正の具体的な例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明による自動変速制御装置をエンジンを含む全体構成として示す斜視説明図である。この自動変速制御装置1は、トラック、バス、乗用車等の車両の走行中に検出される走行状態に応じて変速機を自動的に制御するものである。
【0011】
図1において、エンジン2にはクラッチ3を介してトランスミッション(変速機)4が取り付けられている。トランスミッション4は、TMCU5が電気配線によって接続される。エンジン2には、ECU6が電気配線によって接続されており、このECU6には、アクセル開度センサ7を介してアクセルペダル8が接続される。
【0012】
アクセル開度センサ7は、運転者のアクセルペダル8の操作により開閉されるアクセルの開度を検出するもので、吸気量検出手段に相当するものである。吸気量検出手段は、アクセル開度センサ7に限られず、エンジン2の吸入空気量に比例する量を検出する手段に相当するものであるならば他のものであってもよく、例えばエンジンの吸気系の吸入圧力を検出するものであってもよい。
【0013】
アクセル開度センサ7は、ECU6に電気配線によって接続される。エンジンコントロールユニット(以下、「ECU」)6は、アクセル開度センサ7によって検出されたアクセル開度の信号を入力してエンジン2の駆動を制御するエンジン制御手段となる。
【0014】
ECU6は、車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行(オートクルーズ)を可能とするクルーズ制御機能を備える。なお、ECU6からの出力信号は、エンジン2に取り付けられた燃料噴射装置9に送られる。また、クルーズ制御機能がクルーズ制御中を示す出力信号及びアクセル開度センサ7で検出した実アクセル開度信号は、TMCU5に送られる。
【0015】
トランスミッション4には、トランスミッションコントロールユニット(以下、「TMCU」)5が電気配線によって接続される。TMCU5は、車両の走行状態に応じてトランスミッション4を制御するトランスミッション制御手段となる。
【0016】
TMCU5は、エンジン回転数センサ10、トランスミッション4に取り付けられたギア回転数センサ11及び車速センサ12からの信号が入力されるほか、クラッチペダル13に設けられたクラッチ接スイッチ14、クラッチ断スイッチ15からの信号が入力される。また、TMCU5には、トランスミッション4の変速段を切り換えるシフトレバーを備えたシフトタワー16が接続される。
【0017】
そして、TMCU5からの制御内容信号は、前述のECU6へと送られる。その制御内容信号は、表示モニタ17及びブザー18に送られ、運転者に車両の状態を知らせる。
【0018】
TMCU5は、ECU6のクルーズ制御中を示す信号に基づき、クルーズ制御機能において、クルーズ制御中であるか否かを判定するクルーズ制御判定手段を備える。クルーズ制御判定手段は、クルーズ制御中であると判定した場合は、アクセル開度センサ7に基づきECU6から送られた実アクセル開度の参照を中断すると共に、その実アクセル開度とエンジン回転数に基づく実アクセル開度用の変速マップの参照を中断する。そして、代わりに、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持するための燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似的なアクセル開度を参照すると共に、その擬似アクセル開度とエンジン回転数に基づく擬似アクセル開度用の変速マップを参照して、トランスミッション4を制御する。
【0019】
このような制御によって、車両がクルーズ制御機能によりオートクルーズ中において、運転者のアクセル踏込み量を参照することなく、通常の走行時と同様にトランスミッション4を自動的に変速制御する。
【0020】
次に、このように構成された自動変速制御装置の動作について、図2及び図3を参照して説明する。
【0021】
図2は、ECU6によるエンジン2の制御動作のフローチャートである。
【0022】
ECU6は、まず、クルーズ制御機能により行うクルーズ制御の状態について、初期値としてクルーズ制御中フラグ=0を設定する(ステップS1)。
【0023】
次に、ECU6は、クルーズ制御中か否かを判定する(ステップS2)。すなわち、クルーズ制御機能により自動走行(オートクルーズ)中であるか否かを判定する。オートクルーズ中でない場合は、ステップS5に移行する。そして、ステップS1で成立したクルーズ制御中フラグ=0を出力する(ステップS5)。
【0024】
一方、ステップS2でクルーズ制御中であると判定された場合は、ステップS3に移行する。そして、ECU6は、エンジン2の燃料噴射量について、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持するためのクルーズ制御噴射量が、運転者のアクセルペダル8の操作によりアクセル開度センサ7で検出された実アクセル開度から算出した噴射量と同一又はそれより小さいか否かを判定する。
【0025】
ここで、エンジン2の燃料噴射量の算出は、図4に示す燃料噴射量演算部19で行われる。すなわち、ECU6は、図1に示すエンジン回転数センサ10からのエンジン回転数の信号と、アクセル開度センサ7からの実アクセル開度の信号とを取り込み、これらの信号を、エンジン回転数と実アクセル開度とを可変要素とする予め作成された燃料噴射量マップ20に適用し、これらの関係を演算器21で演算して燃料噴射量を算出する。なお、この演算結果は常に外部に向かって出力されている。
【0026】
ECU6は、このように演算して求められた燃料噴射量の値を用いて、現在の制御噴射量が、実アクセル開度から算出した噴射量よりも大きいと判定した場合は、オートクルーズの制御をしている状態であり、ステップS3からステップS4へと移行する。そして、クルーズ制御機能により行うクルーズ制御の状態について、クルーズ制御中フラグ=1を設定する。その後、ステップS5に進み、ステップS4で成立したクルーズ制御中フラグ=1を出力する。
【0027】
一方、ステップS3において、現在の制御噴射量が実アクセル開度から算出した噴射量以下であると判定した場合は、ECU6は、運転者のアクセルペダル8の操作による実アクセル開度が、設定された速度を超えて加速する指示を行っているものとして、ステップS5に移行し、ステップS1で設定したクルーズ制御中フラグ=0をそのまま出力する。
【0028】
図3は、TMCU5によるトランスミッション4の制御動作のフローチャートである。
【0029】
まず、EUC6から、図2のステップS5で出力されたクルーズ制御中フラグが入力される(ステップS11)。
【0030】
次に、ECU6から、実アクセル開度が入力される(ステップS12)。ここでは、図1に示すアクセル開度センサ7で検出された実アクセル開度の信号が、ECU6から入力される。
【0031】
次に、TMCU5は、擬似アクセル開度が入力される(ステップS13)。ここでは、予め演算して求められた擬似アクセル開度のデータを記憶しておくメモリ等から、擬似アクセル開度に対応するデータを読み込む。
【0032】
より具体的には、擬似アクセル開度の算出は、図5に示す擬似アクセル開度演算部22で行われる。すなわち、TMCU5は、エンジン回転数センサ10からのエンジン回転数の信号と、クルーズ制御中に任意の一定速度を維持するために制御されている燃料噴射量の信号とを取得し、これらの信号を、エンジン回転数と燃料噴射量とを可変要素とする予め作成された擬似アクセル開度マップ23に適用し、これらの関係を演算器24で演算して擬似アクセル開度を算出する。なお、この演算結果は常に外部に向かって出力されている。
【0033】
次に、TMCU5は、クルーズ制御中フラグ=1か否かを判定する(ステップS14)。すなわち、クルーズ制御機能により自動走行(オートクルーズ)中であるか否かを判定する。クルーズ制御中フラグ=1でない(オートクルーズ中でない)場合は、ステップS15に移行し、アクセル開度センサ7で検出した実アクセル開度を参照した後、予め作成された実アクセル開度用の変速マップを参照する(ステップS16)。そして、後述のステップS19に進む。
【0034】
一方、ステップS14において、クルーズ制御中フラグ=1の場合(オートクルーズ中)は、ステップS17に移行し、TMCU5は、図5に示す擬似アクセル開度演算部22で求めた擬似アクセル開度を参照した後、求めた擬似アクセル開度を用いて作成された擬似アクセル開度用の変速マップを参照する(ステップS18)。そして、後述のステップS19に進む。
【0035】
なお、このステップS14において、クルーズ制御機能がクルーズ制御中であるか否かを判定することによってクルーズ制御判定手段が構成される。また、クルーズ制御中でないと判定した場合(ステップS14で“NO”)は、検出された実アクセル開度を参照すると共に、その実アクセル開度とエンジン回転数に基づく実アクセル開度用の変速マップを参照するように切り換える。クルーズ制御中であると判定した場合(ステップS14で“YES”)は、燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似アクセル開度を参照すると共に、その擬似アクセル開度とエンジン回転数に基づく擬似アクセル開度用の変速マップを参照するように切り換える。
【0036】
次に、TMCU5は、実アクセル開度及び実アクセル開度用の変速マップに従って、又は、擬似アクセル開度及び擬似アクセル開度用の変速マップに従って、自動変速が起動される条件が成立したか否かを判定する(ステップS19)。未だ、自動変速の起動条件が成立しない場合は、ステップS11に戻り、以上のステップS11〜S18を繰り返す。
【0037】
そして、自動変速の起動条件が成立した場合は、ステップS20に移行し、通常の自動変速制御により所定の変速制御を行って終了する。
【0038】
このような動作により、車両がクルーズ制御機能によりオートクルーズ中において運転者のアクセル踏込み量を参照できない場合でも、通常の走行時と同様にトランスミッション4を自動的に変速制御することができる。
【0039】
次に、本実施形態における変速マップの補正について説明する。
【0040】
オートクルーズによって登坂路を走行している場合に、特定の設定車速付近において変速の繰り返しが発生する場合がある。例えば、オートクルーズ時に行われる変速の発生によるトルク切れ状態の空走によって車速が減速したり、コーストモードに移行することに伴う擬似的な吸気量(擬似アクセル開度)の減少により、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態(シフトビジー)となる。このような運転状態は、運転者に違和感を抱かせるばかりか、変速が繰り返されることによって燃費が悪化する。
【0041】
そこで、本実施形態では、次の説明するような制御によって、変速が繰り返されることを抑制するように構成した。
【0042】
図6及び図7は、TMCU5によるトランスミッション4の制御動作のフローチャートである。
【0043】
なお、このフローチャートによる制御は、図2に及び図3に示したフローチャートと平行して実行される。
【0044】
図6において、TMCU5は、エンジン回転速度と、擬似アクセス開度との軌跡をトレースしている(ステップS51)。そして、この軌跡から、所定時間内にシフトアップ及びシフトダウンが所定の回数以上繰り返され、いわゆるシフトビジーが発生したか否かを判定する(ステップS52)。
【0045】
所定時間内にシフトアップ及びシフトダウンが所定の回数以上繰り返されたと判定した場合は、ステップS53に移行して、TMCU5は、前述の図3のステップS18で参照される擬似アクセル開度用の変速マップを補正する。具体的には、現在の変速段について、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点を遠ざけるように、シフトアップをより高回転側に補正する。また、シフトダウンをより低回転側に補正してもよいし、両者を同時に補正してもよい。
【0046】
このように、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点を遠ざけるように、シフトアップを実行する回転数とシフトダウンを実行する回転数との間隔をより大きく補正することによって、変速が繰り返される運転状態の発生を抑制する。
【0047】
なお、シフトアップ及びシフトダウンが繰り返し発生するシフトビジーであるかの判定は、例えば、10秒以内に2つの変速段の間で二回往復して変速が行われた場合に、シフトビジーと判断する。
【0048】
また、図7において、TMCU5は、運転者によってシフトレバーが操作されているかを監視している(ステップS61)。
【0049】
運転者によってシフトレバーが操作され、手動の変速指示があった場合には、ステップS62において、現在TMCU5が参照している変速マップは、図6の処理によって補正された変速マップであるか否かを判定する。
【0050】
変速マップが補正後の変速マップであると判定した場合は、TMCU5は、ステップS63に移行して、変速マップを補正前の変速マップに戻す。そして、ステップS64に移行して、運転者によるシフトレバーの操作による変速指示に基づいて、又は、変速マップを参照して、変速制御を実行する。
【0051】
このように、運転者からの手動の変速指示があった場合、例えば、運転者がシフトアップ及びシフトダウンが連続して行われることを予測して、予めシフトレバーの操作によってこのような運転状態を回避しようとした場合は、変速マップ補正は必要ないので、変速マップを補正前の変速マップに戻す。
【0052】
以上のような制御によって、クルーズ制御中におけるシフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを抑制するので、運転者に違和感を抱かせることを防止することができ、燃費の悪化も防止できる。
【0053】
次に、変速マップの補正の具体的な例を説明する。
【0054】
図8は、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態の一例を示す説明図である。
【0055】
オートクルーズによって、例えば登坂路を走行している場合に、特定の設定車速付近において変速の繰り返しが発生するシフトビジーが発生する場合がある。このときシフトアップとシフトダウンとが繰り返されることによって振動が発生したり、車速が頻繁に変化することによって前後のGが発生し、運転者に違和感を与える。
【0056】
図9は、オートクルーズ制御中の変速マップの一例を示す説明図である。図9に示す例は、変速機4が6段の変速段及びH、Lの2段の副変速機を備える変速機において、6Lと6Hとで行われる変速マップの一例を示す。
【0057】
図9(A)は、変速段が6Lである場合における変速マップであり、実線が6Lから6Hにシフトアップするときの変速線を示す。なお、点線は、変速段が6Hである場合に6Hから6Lへのシフトダウンしたときの変速後のエンジン回転数を示すものである。
【0058】
この図9(A)に示す変速マップにおいて、例えば、エンジン回転数が1300〜1500[rpm]付近で、擬似アクセル開度が50〜80[%]付近で6Lから6Hへのシフトアップがおこわなれることを示す。
【0059】
図9(B)は、変速段が6Hである場合における変速マップであり、実線が6Hから6Lにシフトダウンするときの変速線を示す。なお、点線は、変速段が6Lである場合に6Lから6Hへのシフトアップしたときの変速後のエンジン回転数を示すものである。
【0060】
この図9(B)に示す変速マップにおいて、例えば、エンジン回転数が950〜1000[rpm]付近で、擬似アクセル開度が80〜90[%]付近で6Hから6Lへのシフトダウンがおこわなれることを示す。
【0061】
このような変速マップが設定されている場合、エンジン回転数が1300〜1500[rpm]付近で、擬似アクセル開度が50〜80[%]付近で、6Lから6Hへのシフトアップが行われる。シフトアップが行われた結果、エンジン回転数が低下して、950〜1000[rpm]付近となる。このときに、例えば登坂路などで駆動力が必要と判断し、擬似アクセル開度が80〜90[%]に設定された場合は、再び6Hから6Lへのシフトダウンが行われることとなる。これが繰り返されることによる制御のビジーによって、運転者に違和感を与える。
【0062】
そこで、TMCU5が、前述の図6のフローチャートのよる制御によって、変速が繰り返される運転状況であると判断した場合は、変速マップを補正する。
【0063】
図10は、オートクルーズ制御中において、補正された変速マップの一例を示す説明図である。
【0064】
図10(A)は、変速段が6Lである場合における変速マップであり、図10(B)は、変速段が6Hである場合における変速マップである。なお、ここでは、6Lから6Hへのアップシフトの変速線を補正した例を示す。
【0065】
この図10に示す例では、6Lから6Hへのアップシフトの変速線を、太実線で示すように、エンジン回転数がより高回転側になるように補正した。この補正により、図9に示す通常の変速マップと比較して、より高回転側でアップシフトが行われるようになり、アップシフト後に再びダウンシフトとなる変速線を跨ぐことがなくなる。この結果、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを抑制することができる。
【0066】
図11は、変速マップの補正の具体的な例を示す説明図である。図11(A)は通常時(初期状態)における6Lから6Hへのアップシフトの変速マップの一例であり、図11(B)は補正後における6Lから6Hへのアップシフトの変速マップの一例を示す。
【0067】
例えば、図11(A)に示す通常の変速マップでは、擬似アクセル開度が50[%]である場合に、エンジン回転数が1200[rpm]のときにアップシフトを行っている。これに対して、図11(B)に示す補正後の変速マップでは、擬似アクセル開度が50[%]である場合に、エンジン回転数がより高回転側1200[rpm]のときにアップシフトを行うように補正した。
【0068】
このような変速マップを補正することによって、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを防止することができる。
【0069】
以上のように、本発明の実施形態の自動変速制御装置では、オートクルーズ制御中において、シフトアップ及びシフトダウンが繰り返し行われる、いわゆるシフトビジーとなる運転状態が発生した場合に、擬似アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて取得する変速マップの補正を行う。
【0070】
この補正によって、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点が近接しなくなり、シフトビジーが発生することが抑制されるので、運転者に違和感を与えることがなくなり、シフトビジーによる燃費の悪化を防止することができる。
【0071】
なお、変速マップの補正は、シフトアップをより高回転側に、シフトダウンをより低回転側に補正するので、より確実にシフトビジーを防止することができる。
【0072】
また、変速マップの補正後に、運転者によってシフトレバーが操作され、手動の変速が指示されたことを判定した場合は、変速マップを補正前の変速マップへと戻すので、補正された変速マップによって変速タイミングが変更されることによる違和感を解消し、運転者の運転性を向上することができる。
【0073】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1 自動変速制御装置
2 エンジン
4 トランスミッション(変速機)
5 トランスミッションコントロールユニット(TMCU)
6 エンジンコントロールユニット(ECU)
7 アクセル開度センサ(吸気量検出手段)
8 アクセルペダル
10 エンジン回転数センサ
11 ギア回転数センサ
12 車速センサ
19 燃料噴射量演算部
22 擬似アクセル開度演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクルーズにおいて変速が繰り返される運転状態が発生することを抑制する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のオートクルーズ制御は、任意の一定速度に維持するための燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似的なアクセル開度をし、擬似的なアクセル開度とエンジン回転数に基づく専用の変速マップを参照してトランスミッションを制御するもの(特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オートクルーズ制御によって走行する場合に、オートクルーズ制御によって行われる変速の発生によるトルク切れ状態の空走によって車速が減速したり、コーストモードに移行することに伴う擬似的な吸気量の減少により、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生する場合がある。このような運転状態は、運転者に違和感を抱かせるばかりか、変速が繰り返されることによって燃費が悪化する。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、クルーズ制御機能により自動走行中において、変速が繰り返される運転状態が発生することを抑制して、運転者に違和感を与えることを防止し、燃費を向上させることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンの吸気量を検出する吸気量検出手段と、検出された吸気量の信号によりエンジンの駆動を制御すると共に車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行可能とするクルーズ制御手段と、車両の走行状態に応じて変速機を制御するトランスミッション制御手段と、を有する自動変速機の制御装置であって、クルーズ制御手段は、クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機を制御し、変速マップによって変速機を制御しているときに、シフトビジーが発生したと判定した場合は、エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように変速マップを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シフトビジーが発生したときに、変速マップを補正することで、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点が近接しなくなり、シフトビジーによる変速の繰り返しが抑制されることによって、運転者に違和感を与えることがなくなり、シフトビジーによる燃費の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態の自動変速制御装置を示す斜視説明図である。
【図2】本発明の実施形態のECUによるエンジンの制御動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態の燃料噴射量演算部の説明図である。
【図5】本発明の実施形態の擬似アクセル開度演算部の説明図である。
【図6】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態のTMCUによるトランスミッションの制御動作のフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態のシフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態のオートクルーズ制御中の変速マップの一例を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態のオートクルーズ制御中の補正された変速マップの一例を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態の変速マップの補正の具体的な例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明による自動変速制御装置をエンジンを含む全体構成として示す斜視説明図である。この自動変速制御装置1は、トラック、バス、乗用車等の車両の走行中に検出される走行状態に応じて変速機を自動的に制御するものである。
【0011】
図1において、エンジン2にはクラッチ3を介してトランスミッション(変速機)4が取り付けられている。トランスミッション4は、TMCU5が電気配線によって接続される。エンジン2には、ECU6が電気配線によって接続されており、このECU6には、アクセル開度センサ7を介してアクセルペダル8が接続される。
【0012】
アクセル開度センサ7は、運転者のアクセルペダル8の操作により開閉されるアクセルの開度を検出するもので、吸気量検出手段に相当するものである。吸気量検出手段は、アクセル開度センサ7に限られず、エンジン2の吸入空気量に比例する量を検出する手段に相当するものであるならば他のものであってもよく、例えばエンジンの吸気系の吸入圧力を検出するものであってもよい。
【0013】
アクセル開度センサ7は、ECU6に電気配線によって接続される。エンジンコントロールユニット(以下、「ECU」)6は、アクセル開度センサ7によって検出されたアクセル開度の信号を入力してエンジン2の駆動を制御するエンジン制御手段となる。
【0014】
ECU6は、車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行(オートクルーズ)を可能とするクルーズ制御機能を備える。なお、ECU6からの出力信号は、エンジン2に取り付けられた燃料噴射装置9に送られる。また、クルーズ制御機能がクルーズ制御中を示す出力信号及びアクセル開度センサ7で検出した実アクセル開度信号は、TMCU5に送られる。
【0015】
トランスミッション4には、トランスミッションコントロールユニット(以下、「TMCU」)5が電気配線によって接続される。TMCU5は、車両の走行状態に応じてトランスミッション4を制御するトランスミッション制御手段となる。
【0016】
TMCU5は、エンジン回転数センサ10、トランスミッション4に取り付けられたギア回転数センサ11及び車速センサ12からの信号が入力されるほか、クラッチペダル13に設けられたクラッチ接スイッチ14、クラッチ断スイッチ15からの信号が入力される。また、TMCU5には、トランスミッション4の変速段を切り換えるシフトレバーを備えたシフトタワー16が接続される。
【0017】
そして、TMCU5からの制御内容信号は、前述のECU6へと送られる。その制御内容信号は、表示モニタ17及びブザー18に送られ、運転者に車両の状態を知らせる。
【0018】
TMCU5は、ECU6のクルーズ制御中を示す信号に基づき、クルーズ制御機能において、クルーズ制御中であるか否かを判定するクルーズ制御判定手段を備える。クルーズ制御判定手段は、クルーズ制御中であると判定した場合は、アクセル開度センサ7に基づきECU6から送られた実アクセル開度の参照を中断すると共に、その実アクセル開度とエンジン回転数に基づく実アクセル開度用の変速マップの参照を中断する。そして、代わりに、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持するための燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似的なアクセル開度を参照すると共に、その擬似アクセル開度とエンジン回転数に基づく擬似アクセル開度用の変速マップを参照して、トランスミッション4を制御する。
【0019】
このような制御によって、車両がクルーズ制御機能によりオートクルーズ中において、運転者のアクセル踏込み量を参照することなく、通常の走行時と同様にトランスミッション4を自動的に変速制御する。
【0020】
次に、このように構成された自動変速制御装置の動作について、図2及び図3を参照して説明する。
【0021】
図2は、ECU6によるエンジン2の制御動作のフローチャートである。
【0022】
ECU6は、まず、クルーズ制御機能により行うクルーズ制御の状態について、初期値としてクルーズ制御中フラグ=0を設定する(ステップS1)。
【0023】
次に、ECU6は、クルーズ制御中か否かを判定する(ステップS2)。すなわち、クルーズ制御機能により自動走行(オートクルーズ)中であるか否かを判定する。オートクルーズ中でない場合は、ステップS5に移行する。そして、ステップS1で成立したクルーズ制御中フラグ=0を出力する(ステップS5)。
【0024】
一方、ステップS2でクルーズ制御中であると判定された場合は、ステップS3に移行する。そして、ECU6は、エンジン2の燃料噴射量について、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持するためのクルーズ制御噴射量が、運転者のアクセルペダル8の操作によりアクセル開度センサ7で検出された実アクセル開度から算出した噴射量と同一又はそれより小さいか否かを判定する。
【0025】
ここで、エンジン2の燃料噴射量の算出は、図4に示す燃料噴射量演算部19で行われる。すなわち、ECU6は、図1に示すエンジン回転数センサ10からのエンジン回転数の信号と、アクセル開度センサ7からの実アクセル開度の信号とを取り込み、これらの信号を、エンジン回転数と実アクセル開度とを可変要素とする予め作成された燃料噴射量マップ20に適用し、これらの関係を演算器21で演算して燃料噴射量を算出する。なお、この演算結果は常に外部に向かって出力されている。
【0026】
ECU6は、このように演算して求められた燃料噴射量の値を用いて、現在の制御噴射量が、実アクセル開度から算出した噴射量よりも大きいと判定した場合は、オートクルーズの制御をしている状態であり、ステップS3からステップS4へと移行する。そして、クルーズ制御機能により行うクルーズ制御の状態について、クルーズ制御中フラグ=1を設定する。その後、ステップS5に進み、ステップS4で成立したクルーズ制御中フラグ=1を出力する。
【0027】
一方、ステップS3において、現在の制御噴射量が実アクセル開度から算出した噴射量以下であると判定した場合は、ECU6は、運転者のアクセルペダル8の操作による実アクセル開度が、設定された速度を超えて加速する指示を行っているものとして、ステップS5に移行し、ステップS1で設定したクルーズ制御中フラグ=0をそのまま出力する。
【0028】
図3は、TMCU5によるトランスミッション4の制御動作のフローチャートである。
【0029】
まず、EUC6から、図2のステップS5で出力されたクルーズ制御中フラグが入力される(ステップS11)。
【0030】
次に、ECU6から、実アクセル開度が入力される(ステップS12)。ここでは、図1に示すアクセル開度センサ7で検出された実アクセル開度の信号が、ECU6から入力される。
【0031】
次に、TMCU5は、擬似アクセル開度が入力される(ステップS13)。ここでは、予め演算して求められた擬似アクセル開度のデータを記憶しておくメモリ等から、擬似アクセル開度に対応するデータを読み込む。
【0032】
より具体的には、擬似アクセル開度の算出は、図5に示す擬似アクセル開度演算部22で行われる。すなわち、TMCU5は、エンジン回転数センサ10からのエンジン回転数の信号と、クルーズ制御中に任意の一定速度を維持するために制御されている燃料噴射量の信号とを取得し、これらの信号を、エンジン回転数と燃料噴射量とを可変要素とする予め作成された擬似アクセル開度マップ23に適用し、これらの関係を演算器24で演算して擬似アクセル開度を算出する。なお、この演算結果は常に外部に向かって出力されている。
【0033】
次に、TMCU5は、クルーズ制御中フラグ=1か否かを判定する(ステップS14)。すなわち、クルーズ制御機能により自動走行(オートクルーズ)中であるか否かを判定する。クルーズ制御中フラグ=1でない(オートクルーズ中でない)場合は、ステップS15に移行し、アクセル開度センサ7で検出した実アクセル開度を参照した後、予め作成された実アクセル開度用の変速マップを参照する(ステップS16)。そして、後述のステップS19に進む。
【0034】
一方、ステップS14において、クルーズ制御中フラグ=1の場合(オートクルーズ中)は、ステップS17に移行し、TMCU5は、図5に示す擬似アクセル開度演算部22で求めた擬似アクセル開度を参照した後、求めた擬似アクセル開度を用いて作成された擬似アクセル開度用の変速マップを参照する(ステップS18)。そして、後述のステップS19に進む。
【0035】
なお、このステップS14において、クルーズ制御機能がクルーズ制御中であるか否かを判定することによってクルーズ制御判定手段が構成される。また、クルーズ制御中でないと判定した場合(ステップS14で“NO”)は、検出された実アクセル開度を参照すると共に、その実アクセル開度とエンジン回転数に基づく実アクセル開度用の変速マップを参照するように切り換える。クルーズ制御中であると判定した場合(ステップS14で“YES”)は、燃料噴射量とエンジン回転数から算出した擬似アクセル開度を参照すると共に、その擬似アクセル開度とエンジン回転数に基づく擬似アクセル開度用の変速マップを参照するように切り換える。
【0036】
次に、TMCU5は、実アクセル開度及び実アクセル開度用の変速マップに従って、又は、擬似アクセル開度及び擬似アクセル開度用の変速マップに従って、自動変速が起動される条件が成立したか否かを判定する(ステップS19)。未だ、自動変速の起動条件が成立しない場合は、ステップS11に戻り、以上のステップS11〜S18を繰り返す。
【0037】
そして、自動変速の起動条件が成立した場合は、ステップS20に移行し、通常の自動変速制御により所定の変速制御を行って終了する。
【0038】
このような動作により、車両がクルーズ制御機能によりオートクルーズ中において運転者のアクセル踏込み量を参照できない場合でも、通常の走行時と同様にトランスミッション4を自動的に変速制御することができる。
【0039】
次に、本実施形態における変速マップの補正について説明する。
【0040】
オートクルーズによって登坂路を走行している場合に、特定の設定車速付近において変速の繰り返しが発生する場合がある。例えば、オートクルーズ時に行われる変速の発生によるトルク切れ状態の空走によって車速が減速したり、コーストモードに移行することに伴う擬似的な吸気量(擬似アクセル開度)の減少により、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態(シフトビジー)となる。このような運転状態は、運転者に違和感を抱かせるばかりか、変速が繰り返されることによって燃費が悪化する。
【0041】
そこで、本実施形態では、次の説明するような制御によって、変速が繰り返されることを抑制するように構成した。
【0042】
図6及び図7は、TMCU5によるトランスミッション4の制御動作のフローチャートである。
【0043】
なお、このフローチャートによる制御は、図2に及び図3に示したフローチャートと平行して実行される。
【0044】
図6において、TMCU5は、エンジン回転速度と、擬似アクセス開度との軌跡をトレースしている(ステップS51)。そして、この軌跡から、所定時間内にシフトアップ及びシフトダウンが所定の回数以上繰り返され、いわゆるシフトビジーが発生したか否かを判定する(ステップS52)。
【0045】
所定時間内にシフトアップ及びシフトダウンが所定の回数以上繰り返されたと判定した場合は、ステップS53に移行して、TMCU5は、前述の図3のステップS18で参照される擬似アクセル開度用の変速マップを補正する。具体的には、現在の変速段について、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点を遠ざけるように、シフトアップをより高回転側に補正する。また、シフトダウンをより低回転側に補正してもよいし、両者を同時に補正してもよい。
【0046】
このように、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点を遠ざけるように、シフトアップを実行する回転数とシフトダウンを実行する回転数との間隔をより大きく補正することによって、変速が繰り返される運転状態の発生を抑制する。
【0047】
なお、シフトアップ及びシフトダウンが繰り返し発生するシフトビジーであるかの判定は、例えば、10秒以内に2つの変速段の間で二回往復して変速が行われた場合に、シフトビジーと判断する。
【0048】
また、図7において、TMCU5は、運転者によってシフトレバーが操作されているかを監視している(ステップS61)。
【0049】
運転者によってシフトレバーが操作され、手動の変速指示があった場合には、ステップS62において、現在TMCU5が参照している変速マップは、図6の処理によって補正された変速マップであるか否かを判定する。
【0050】
変速マップが補正後の変速マップであると判定した場合は、TMCU5は、ステップS63に移行して、変速マップを補正前の変速マップに戻す。そして、ステップS64に移行して、運転者によるシフトレバーの操作による変速指示に基づいて、又は、変速マップを参照して、変速制御を実行する。
【0051】
このように、運転者からの手動の変速指示があった場合、例えば、運転者がシフトアップ及びシフトダウンが連続して行われることを予測して、予めシフトレバーの操作によってこのような運転状態を回避しようとした場合は、変速マップ補正は必要ないので、変速マップを補正前の変速マップに戻す。
【0052】
以上のような制御によって、クルーズ制御中におけるシフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを抑制するので、運転者に違和感を抱かせることを防止することができ、燃費の悪化も防止できる。
【0053】
次に、変速マップの補正の具体的な例を説明する。
【0054】
図8は、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態の一例を示す説明図である。
【0055】
オートクルーズによって、例えば登坂路を走行している場合に、特定の設定車速付近において変速の繰り返しが発生するシフトビジーが発生する場合がある。このときシフトアップとシフトダウンとが繰り返されることによって振動が発生したり、車速が頻繁に変化することによって前後のGが発生し、運転者に違和感を与える。
【0056】
図9は、オートクルーズ制御中の変速マップの一例を示す説明図である。図9に示す例は、変速機4が6段の変速段及びH、Lの2段の副変速機を備える変速機において、6Lと6Hとで行われる変速マップの一例を示す。
【0057】
図9(A)は、変速段が6Lである場合における変速マップであり、実線が6Lから6Hにシフトアップするときの変速線を示す。なお、点線は、変速段が6Hである場合に6Hから6Lへのシフトダウンしたときの変速後のエンジン回転数を示すものである。
【0058】
この図9(A)に示す変速マップにおいて、例えば、エンジン回転数が1300〜1500[rpm]付近で、擬似アクセル開度が50〜80[%]付近で6Lから6Hへのシフトアップがおこわなれることを示す。
【0059】
図9(B)は、変速段が6Hである場合における変速マップであり、実線が6Hから6Lにシフトダウンするときの変速線を示す。なお、点線は、変速段が6Lである場合に6Lから6Hへのシフトアップしたときの変速後のエンジン回転数を示すものである。
【0060】
この図9(B)に示す変速マップにおいて、例えば、エンジン回転数が950〜1000[rpm]付近で、擬似アクセル開度が80〜90[%]付近で6Hから6Lへのシフトダウンがおこわなれることを示す。
【0061】
このような変速マップが設定されている場合、エンジン回転数が1300〜1500[rpm]付近で、擬似アクセル開度が50〜80[%]付近で、6Lから6Hへのシフトアップが行われる。シフトアップが行われた結果、エンジン回転数が低下して、950〜1000[rpm]付近となる。このときに、例えば登坂路などで駆動力が必要と判断し、擬似アクセル開度が80〜90[%]に設定された場合は、再び6Hから6Lへのシフトダウンが行われることとなる。これが繰り返されることによる制御のビジーによって、運転者に違和感を与える。
【0062】
そこで、TMCU5が、前述の図6のフローチャートのよる制御によって、変速が繰り返される運転状況であると判断した場合は、変速マップを補正する。
【0063】
図10は、オートクルーズ制御中において、補正された変速マップの一例を示す説明図である。
【0064】
図10(A)は、変速段が6Lである場合における変速マップであり、図10(B)は、変速段が6Hである場合における変速マップである。なお、ここでは、6Lから6Hへのアップシフトの変速線を補正した例を示す。
【0065】
この図10に示す例では、6Lから6Hへのアップシフトの変速線を、太実線で示すように、エンジン回転数がより高回転側になるように補正した。この補正により、図9に示す通常の変速マップと比較して、より高回転側でアップシフトが行われるようになり、アップシフト後に再びダウンシフトとなる変速線を跨ぐことがなくなる。この結果、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを抑制することができる。
【0066】
図11は、変速マップの補正の具体的な例を示す説明図である。図11(A)は通常時(初期状態)における6Lから6Hへのアップシフトの変速マップの一例であり、図11(B)は補正後における6Lから6Hへのアップシフトの変速マップの一例を示す。
【0067】
例えば、図11(A)に示す通常の変速マップでは、擬似アクセル開度が50[%]である場合に、エンジン回転数が1200[rpm]のときにアップシフトを行っている。これに対して、図11(B)に示す補正後の変速マップでは、擬似アクセル開度が50[%]である場合に、エンジン回転数がより高回転側1200[rpm]のときにアップシフトを行うように補正した。
【0068】
このような変速マップを補正することによって、シフトアップとシフトダウンとが繰り返される運転状態が発生することを防止することができる。
【0069】
以上のように、本発明の実施形態の自動変速制御装置では、オートクルーズ制御中において、シフトアップ及びシフトダウンが繰り返し行われる、いわゆるシフトビジーとなる運転状態が発生した場合に、擬似アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて取得する変速マップの補正を行う。
【0070】
この補正によって、シフトアップ及びシフトダウンが発生する運転点が近接しなくなり、シフトビジーが発生することが抑制されるので、運転者に違和感を与えることがなくなり、シフトビジーによる燃費の悪化を防止することができる。
【0071】
なお、変速マップの補正は、シフトアップをより高回転側に、シフトダウンをより低回転側に補正するので、より確実にシフトビジーを防止することができる。
【0072】
また、変速マップの補正後に、運転者によってシフトレバーが操作され、手動の変速が指示されたことを判定した場合は、変速マップを補正前の変速マップへと戻すので、補正された変速マップによって変速タイミングが変更されることによる違和感を解消し、運転者の運転性を向上することができる。
【0073】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1 自動変速制御装置
2 エンジン
4 トランスミッション(変速機)
5 トランスミッションコントロールユニット(TMCU)
6 エンジンコントロールユニット(ECU)
7 アクセル開度センサ(吸気量検出手段)
8 アクセルペダル
10 エンジン回転数センサ
11 ギア回転数センサ
12 車速センサ
19 燃料噴射量演算部
22 擬似アクセル開度演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気量を検出する吸気量検出手段と、検出された吸気量の信号によりエンジンの駆動を制御すると共に車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行可能とするクルーズ制御手段と、車両の走行状態に応じて変速機を制御するトランスミッション制御手段と、を有する自動変速機の制御装置であって、
前記クルーズ制御手段は、
クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機を制御し、
前記変速マップによって変速機を制御しているときにシフトビジーが発生したと判定した場合は、前記エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように前記変速マップを補正することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クルーズ制御手段は、前記エンジン回転数が低回転側でシフトダウンが行われるように前記変速マップを補正することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記クルーズ制御手段は、前記変速マップを補正した後、運転者によって変速が指示されたと判定した場合は、前記変速マップを補正前の変速マップに変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項1】
エンジンの吸気量を検出する吸気量検出手段と、検出された吸気量の信号によりエンジンの駆動を制御すると共に車両の走行速度を任意の一定速度に設定して自動走行可能とするクルーズ制御手段と、車両の走行状態に応じて変速機を制御するトランスミッション制御手段と、を有する自動変速機の制御装置であって、
前記クルーズ制御手段は、
クルーズ制御中であると判定した場合は、クルーズ制御中に任意の一定速度に維持する燃料噴射量とエンジン回転数から擬似的な吸気量を算出し、算出された擬似的な吸気量とエンジン回転数に基づく変速マップを参照して変速機を制御し、
前記変速マップによって変速機を制御しているときにシフトビジーが発生したと判定した場合は、前記エンジン回転数が高回転側でシフトアップが行われるように前記変速マップを補正することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クルーズ制御手段は、前記エンジン回転数が低回転側でシフトダウンが行われるように前記変速マップを補正することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記クルーズ制御手段は、前記変速マップを補正した後、運転者によって変速が指示されたと判定した場合は、前記変速マップを補正前の変速マップに変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−132477(P2012−132477A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282647(P2010−282647)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】
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