説明

自動変速機の多板ブレーキ潤滑構造

【課題】ドラム状回転部材M4を停止・回転させる多板ブレーキB2に対し潤滑油の供給が必要な時には、潤滑油を十分に供給する一方、多板ブレーキB2に対し潤滑油の供給が不要な時には、潤滑油の供給を制限することによって、引きずりトルクの低減を図る。
【解決手段】ドラム状回転部材M4が所定回転以上の時には、潤滑油孔22を介して多板ブレーキB2に供給される潤滑油の供給を制限すると共に、ドラム状回転部材M4が所定回転よりも低い時には、潤滑油孔22を介して多板ブレーキB2に供給される潤滑油の供給を許容する供給油量可変機構3を、ドラム状回転部材M4に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の多板ブレーキ潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より車両の自動変速機等においては、変速歯車機構の複数の回転要素間で動力の伝達又は遮断状態に切り替えたり、回転要素を回転又は停止状態に切り替えたりするために、湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
そして、そのような変速歯車機構の過熱を防止するための潤滑構造としては、この変速歯車機構の入力軸を中空状に形成し、その内部の潤滑油供給通路内の潤滑油を回転による遠心力で、入力軸を径方向に貫通する貫通孔から流出させて、多板クラッチや多板ブレーキを含む各部に供給することが通例である。
【特許文献1】特開平10−213191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば上記特許文献1にも開示されているように、多板ブレーキに対して潤滑油を供給するための従来の潤滑構造は、例えばブレーキハブに、その内周面側から外周面側に径方向に貫通する潤滑油孔を形成し、入力軸側から径方向の外方に放射状に供給される潤滑油を、上記ブレーキハブの潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給するように構成されている。
【0005】
ところが、入力軸の回転数が高いほど、その入力軸に形成した貫通孔から流出する潤滑油の量は多くなるため、それに伴いブレーキハブの潤滑油孔を介した多板ブレーキへの供給油量は多くなる。これは、ブレーキ非締結時の、多板ブレーキへの潤滑油の供給が不要な時に、多板ブレーキへの供給油量が多くなることにもなり、例えばその供給油量が多くなり過ぎてブレーキハブの回転抵抗が大きくなる(引きずりトルクが大きくなる)という問題がある。
【0006】
特に少なくとも後退速において締結される多板ブレーキはブレーキ容量が大きく、その多板ブレーキを構成するブレーキプレートの枚数は多いため、その多板ブレーキへの供給油量が多くなり過ぎたときには、引きずりトルクが大幅に大きくなってしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動変速機における多板ブレーキに対し潤滑油の供給が必要な時には、潤滑油を十分に供給する一方、多板ブレーキに対する潤滑油の供給が不要な時には、潤滑油の供給を制限することによって、引きずりトルクの低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構造は、自動変速機を収容する変速機ケースの内周面に対して離間して配置されかつ所定の回転軸回りに回転するドラム状回転部材と、上記変速機ケースの内周面とドラム状回転部材の外周面との間に配置された複数の摩擦板とを含み、該複数の摩擦板同士を締結・解放することによって、上記ドラム状回転部材を停止・回転させる多板ブレーキを備え、上記ドラム状回転部材には、その内周面側から外周面側に向かって径方向に貫通する潤滑油孔が形成されており、上記ドラム状回転部材の回転軸側から径方向の外方に放射状に供給される潤滑油を、上記潤滑油孔を介して上記多板ブレーキに供給する自動変速機の多板ブレーキ潤滑構造である。
【0009】
この構造は、上記ドラム状回転部材に取り付けられ、上記ドラム状回転部材が所定回転以上の時には、上記潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を制限すると共に、上記ドラム状回転部材が所定回転よりも低い時には、上記潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を許容する供給油量可変機構をさらに備える。
【0010】
この構成によれば、多板ブレーキには、ドラム状回転部材に形成された潤滑油孔を通じて潤滑油が供給されて、この多板ブレーキの過熱が防止される。そして、ドラム状回転部材には、供給油量可変機構が取り付けられているため、多板ブレーキの非締結状態時でかつドラム状回転部材の高回転時には、多板ブレーキへの潤滑油の供給が供給油量可変機構によって制限される。これにより、多板ブレーキへの供給油量が過多になることが防止されて引きずりトルクが抑制され、自動変速機の伝達効率が高まる。
【0011】
一方、ドラム状回転部材の停止時又は低回転時には、供給油量可変機構によって多板ブレーキへの潤滑油の供給が許容されるため、例えば非締結状態の多板ブレーキを締結状態へと移行させる締結時や、締結状態の多板ブレーキを非締結状態へと移行させる解放時には、多板ブレーキに潤滑油が十分に供給されて、その過熱が防止される。
【0012】
上記多板ブレーキは、少なくとも後退速にて締結されるブレーキである、としてもよい。
【0013】
少なくとも後退速にて締結されるブレーキは大トルクを受けるブレーキであり、そのブレーキ容量を大きくするためにそのブレーキプレートの枚数は比較的多くされる。このため、そうしたブレーキは供給油量の過多による引きずりトルクが増大し易いが、上記の潤滑構造は、供給油量可変機構によって引きずりトルクが抑制されるため、少なくとも後退速にて締結される多板ブレーキの潤滑構造として特に有効である。
【0014】
上記自動変速機は、上記回転軸方向に並設された第1及び第2のプラネタリギヤセットを含み、上記ドラム状回転部材は、上記第1のプラネタリギヤセットのキャリアと、上記第2のプラネタリギヤセットのリングギヤとを連結する部材であって、上記第1のプラネタリギヤセットのリングギヤの外周囲を覆うように配置されており、上記潤滑油孔は、上記第1及び第2のプラネタリギヤセットの中間位置に形成されている、としてもよい。
【0015】
こうすることで、第1及び第2のプラネタリギヤセットと、それらのプラネタリギヤセットの外周側に配置されるドラム状回転部材と、によって囲まれた閉空間が形成され、潤滑油孔はその閉空間の内と外とを連通させる孔となる。このため、その閉空間内から多板ブレーキへの潤滑油の供給は、潤滑油孔を通じての供給のみに制限され、その潤滑油孔を介した潤滑油の供給を供給油量可変機構によって制御することで、ドラム状回転部材の高回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給制限と、ドラム状回転部材の停止時又は低回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給と、が共に、確実に行われる。
【0016】
上記第1及び第2のプラネタリギヤセットはそれぞれ、上記自動変速機の入力軸上に配設され、上記ドラム状回転部材は、上記入力軸回りに回転し、上記入力軸には、上記第1及び第2プラネタリギヤセットの中間位置に油路が形成されており、上記入力軸の油路から、第1及び第2プラネタリギヤセットの間を通って上記多板ブレーキに潤滑油が供給されるように構成されている、としてもよい。
【0017】
こうすることで、入力軸側から閉空間内への潤滑油の供給は、第1及び第2のプラネタリギヤセットの中間位置に配置された油路を通じての供給のみに制限される。また上述したように、閉空間内から多板ブレーキへの潤滑油の供給は潤滑油孔を通じての供給のみに制限されることから、供給油量可変機構による潤滑油孔を介した潤滑油の供給制御の確度が高まり、ドラム状回転部材の高回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給制限と、ドラム状回転部材の停止時又は低回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給と、が共に、より一層確実に行われる
上記供給油量可変機構は、上記潤滑油孔における内周面側の開口を開閉するよう弾性変形する弾性部材と、該弾性部材に取り付けられたウエイトと、を備えたバルブであって、上記バルブは、上記ドラム状回転部材が上記所定回転よりも低い時には、上記弾性部材が上記潤滑油孔の開口を開とする状態になる一方、上記ドラム状回転部材が上記所定回転以上の時には、上記ウエイトに作用する遠心力によって上記弾性部材が上記潤滑油孔の開口を閉とする状態に変形するように構成されている、としてもよい。
【0018】
これによって、ドラム状回転部材の高回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給制限と、ドラム状回転部材の停止時又は低回転時における多板ブレーキへの潤滑油の供給と、が簡易な構造で確実に実行し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の自動変速機の多板ブレーキ潤滑構造によると、ドラム状回転部材に供給油量可変機構を取り付けて、ドラム状回転部材の高回転時には、潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を制限することにより、多板ブレーキへの供給油量が過多になることが防止されて引きずりトルクが抑制され、自動変速機の動力伝達効率を高めることができる。一方、供給油量可変機構は、ドラム状回転部材の停止時又は低回転時には、潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を許容することにより、多板ブレーキの締結時や解放時には、多板ブレーキに潤滑油が十分に供給されて多板ブレーキの過熱を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る多板ブレーキ潤滑構造が適用された自動変速機ATの一部分を示しており、この自動変速機ATの変速歯車機構は、図2に示すように構成されている。
【0022】
図2は、変速歯車機構の構成を示す骨子線図(スケルトン図)であり、この自動変速機ATは、車両に対し横置きに搭載されるFF車用のパワートレインに適用した場合を示している。同図においてInputは、駆動源である図外のエンジン等の回転駆動力がトルクコンバータ(図示せず)を介して入力する入力軸であり、Outputは、回転駆動力をファイナルギヤ等を介して駆動輪側に出力する出力ギヤである。入力軸Input及び出力ギヤOutputは同軸上に配置されている。
【0023】
この変速歯車機構は、第1〜第4の4組のプラネタリギヤセットGS1,GS2,GS3,GS4と、第1〜第3の3つの湿式多板式のクラッチC1,C2と、第1及び第2の2つの湿式多板式のブレーキB1,B2と、を備え、前進6速と後退速とが得られるようになっている。また、第1及び第2のプラネタリギヤセットGS1,GS2は、それぞれ第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4よりも小型のものとされている。
【0024】
第1のプラネタリギヤセットGS1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、該両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギヤセットである。また、第2のプラネタリギヤセットGS2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、該両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギヤセットである。尚、上記第1及び第2のプラネタリギヤセットGS1,GS2における入力回転の減速比(即ち、それぞれのリングギヤ及びピニオンの歯数の比)は、互いに異なる値に設定されている。
【0025】
上記第1サンギヤS1は、入力軸Inputの一側を支持するボス部の外周面に対してスプライン等によって固定(常時固定)され、第2サンギヤS2は、入力軸Inputの他側を支持するボス部に対してスプライン等によって固定(常時固定)されている。
【0026】
一方、第1リングギヤR1は、第1連結メンバM1によって入力軸Inputに連結(常時連結)され、第2リングギヤR2は、第2連結メンバM2によって入力軸Inputに連結(常時連結)されている。
【0027】
これにより、上記入力軸Inputの回転は第1及び第2のプラネタリギヤセットGS1,GS2においてそれぞれ常時減速されて、第1及び第2キャリアPC1,PC2から出力される。
【0028】
第3のプラネタリギヤセットGS3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、該両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギヤセットである。また、第4のプラネタリギヤセットGS4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、該両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオンタイプのプラネタリギヤセットである。
【0029】
そして、上記第3リングギヤR3と第4キャリアPC4とは、第3連結メンバM3により連結(常時連結)されており、これによって、第3リングギヤR3と第4キャリアPC4とは互いに一体に回転するようになっている。また、上記第3キャリアPC3と第4リングギヤR4とは、第4連結メンバM4により連結(常時連結)されており、これによって、上記第3キャリアPC3と第4リングギヤR4とは互いに一体的に回転するようになっている。
【0030】
つまり、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4は、第3及び第4連結メンバM3,M4によって互いに連結されることにより、合わせて4つの回転要素(第3サンギヤS3、第3キャリアPC3=第4リングギヤR4、第3リングギヤR3=第4キャリアPC4、第4サンギヤS4)を有するようになっており、これによりシンプソン型の遊星歯車列を構成している。
【0031】
出力ギヤOutputは、第4キャリアPC4に連結されており、これによって、第4キャリアPC4と一体に回転するようになっている。
【0032】
そして上記変速歯車機構は、上記第1〜第3の3つのクラッチC1〜C3と、第1及び第2の2つのブレーキB1,B2とを選択的に作動させて入力軸Inputから出力ギヤOutputまでの駆動力の伝達経路を切り替えることにより、前進6速と後退速とが得られるようになっている。
【0033】
尚、図示しないが、上記第1〜第3のクラッチC1〜C3、第1、第2のブレーキB1,B2には変速油圧制御装置が接続されており、この変速油圧制御装置が、図3の締結作動表に示すように、各変速段にて締結圧(●印)や解放圧(無印)を作り出すようになっている。このような変速油圧制御装置としては、油圧制御タイプ、電子制御タイプ、油圧+電子制御タイプ等が考えられる。尚、本実施形態では第2のブレーキB2と並列にワンウエイクラッチOWCが配置されており、この場合、前進1速では第2のブレーキB2は締結されず、例えばマニュアルモードやホールドモード等、エンジンブレーキの必要な場合にのみ、第2のブレーキB2は締結される(締結作動表においては括弧を付して示す)。但し、ワンウエイクラッチOWCはなくてもよく、その場合は、前進1速で第2のブレーキB2が締結される。
【0034】
第1のクラッチC1は、第4サンギヤS4と第1キャリアPC1とを選択的に断接するクラッチであって、図3の締結作動表に示すように、低速側の1〜4速にて締結されることから、Lowクラッチとも呼ばれる。
【0035】
第2のクラッチC2は、第3キャリアPC3と第1リングギヤR1(入力軸Input)とを選択的に断接するクラッチであって、図3の締結作動表に示すように、高速側の4〜6速にて締結されることから、Highクラッチとも呼ばれる。
【0036】
第3のクラッチC3は、第2キャリアPC2と第3サンギヤS3とを選択的に断接するクラッチであって、図3の締結作動表に示すように、3速、5速及び後退速にて締結されることから、3/5/Rクラッチとも呼ばれる。
【0037】
第1のブレーキB1は、第3サンギヤS3を選択的に変速機ケース1に断接して、これを選択的に停止させるブレーキであり、図3の締結作動表に示すように、2速及び6速にて締結されることから、2/6ブレーキとも呼ばれる。
【0038】
第2のブレーキB2は、第3キャリアPC3及び第4リングギヤR4を連結する第4連結メンバM4を、選択的に変速機ケース1に断接して、これを選択的に停止させるブレーキであり、図3の締結作動表に示すように、1速及び後退速にて締結されることから、L/Rブレーキとも呼ばれる。
【0039】
次に、本発明の多板ブレーキ潤滑構造が適用された第2のブレーキB2の構成について、図1,4を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
上記第2のブレーキB2は、上述したように、第3キャリアPC3及び第4リングギヤR4を連結する第4連結メンバM4を、選択的に変速機ケース1に断接して、これを選択的に停止させるブレーキである。
【0041】
第2のブレーキB2は、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の外周側位置に配置されている。この第2のブレーキB2のブレーキハブは、上記第4連結メンバM4によって構成されており、第4連結メンバM4は、上記第3のプラネタリギヤセットGS3の第3リングギヤR3を覆うように配置されている。
【0042】
この第4連結メンバM4の外周面及び変速機ケース1の内周面には、それぞれスプライン歯が形成されており、変速機ケース1の内周面及び第4連結メンバM4の外周面の間には、複数のブレーキプレート93,94,…が入力軸方向に交互に配設されている。
【0043】
第4のプラネタリギヤセットGS1に対して軸方向の一側(図1の右側)の位置には、変速機ケース1の内周面から径方向の内方に立設する支持壁15が形成されており、この支持壁15には凹部15cが形成されている。当該凹部15c内には、第2のブレーキB2のブレーキピストン95が内挿されており、この凹部15cとブレーキピストン95との間に受圧室が区画形成されている。ブレーキピストン95は、その受圧室への油圧の供給に応じて、リターンスプリング97の付勢力に抗して軸方向の他側(図1の左側)へ移動し、ブレーキプレート93,94,…を押圧し、軸方向に隣接するブレーキプレート93,94,…同士を係合させるようになっている。
【0044】
尚、上記支持壁15は、その内周側に形成されたボス部15aに内嵌されたベアリング15bを介して出力ギヤOutputを回転可能に支持するためのものである。
【0045】
上記リターンスプリング97は、変速機ケース1の内周面に形成した凹溝17内に配置されており、これによってリターンスプリング97は、ブレーキプレート93,94よりも外周側に位置している。
【0046】
また、この第2のブレーキB2に対して軸方向の他側位置には、ワンウエイクラッチOWCが配置されており、ワンウエイクラッチOWCは、変速機ケース1と第4連結メンバM4との間で、この第4連結メンバM4の一方向回転を阻止するようになっている。
【0047】
このワンウエイクラッチOWCは、変速機ケース1の内周面に取付固定された支持部材18によって支持されている。この支持部材18は、ワンウエイクラッチOWCの支持の他にも、第2のブレーキB2のリターンスプリング97の受けとして機能すると共に、ブレーキピストン95によるブレーキプレート93,94,…の押圧力を受け止めるためのリテーニングプレートとしての役割を有している。
【0048】
本自動変速機ATの潤滑構造として、上記入力軸Inputには、その内部に潤滑油供給通路2が軸線に沿って形成されていると共に、径方向に貫通する貫通孔21が軸方向に所定の間隔を空けて複数形成されている。そして、入力軸Inputの回転による遠心力で、潤滑油を貫通孔21から径方向の外方に放射状に流出させて、変速歯車機構の各部に潤滑油を供給するように構成されている。
【0049】
ここで、上記第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の近傍に形成された貫通孔21は、その第3のプラネタリギヤセットGS3と、第4のプラネタリギヤセットGS4との中間位置に位置している。この貫通孔21を通じて流出する潤滑油は、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の間の空間を通って径方向の外方へと供給される。
【0050】
そして、上記第4連結メンバM4には、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の中間位置に対応する位置に、その内周面側から外周面側に向かって径方向に貫通する潤滑油孔22が、その周方向に等間隔を空けて複数形成されている(図例では一つのみ示す)。この各潤滑油孔22は、上記軸方向に並んだブレーキプレート93,94の略中央位置に位置しており、貫通孔21を通じて流出し、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の間の空間を通って径方向の外方へと供給される潤滑油を、この潤滑油孔22を通じて第2のブレーキB2の軸方向中央位置に供給するようにしている。これは、熱がこもり易い多板ブレーキの中央部を冷却する上で効果的である。
【0051】
また、第3リングギヤR3及び第3連結メンバM3の内部には、潤滑油が通過する油路24(図例では一つのみを示す)が穿孔されており、この油路24は、その流入口が第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の間の空間に開口すると共に、その流出口が上記潤滑油孔22に対して斜め下方位置で、第3連結メンバM3と第4連結メンバM4との間の空間に開口している。そして、油路24は、潤滑油孔22に対して斜め方向から潤滑油が供給されるよう、それら2つの開口の間で傾斜した部分を有している。
【0052】
上記第4連結メンバM4の内周面側には、各潤滑油孔22に対して、供給油量可変機構としてのリードバルブ3が取り付けられている(図4参照)。
【0053】
このリードバルブ3は、第4連結メンバM4の内周面に、その周方向の全域に亘って固定された帯状のバルブホルダ31と、このバルブホルダ31に対して片持ち状態で固定された弾性部材からなるリード板32と、リード板32に対して固定されたウエイト33とを、備えている。
【0054】
リード板32は、弾性的に変形することによって潤滑油孔22の内周面側開口を開閉するものであり、第4連結メンバM4の停止状態及び低速回転状態においては、潤滑油孔22の開口を開状態にする(図4の実線参照)一方、第4連結メンバM4の高速回転状態においては、ウエイト33に作用する遠心力によって径方向外方に弾性的に曲げられて、潤滑油孔22の開口を閉状態にする(図4の二点鎖線参照)。
【0055】
この構成によって、入力軸Inputの潤滑油供給通路2から貫通孔21を通じて径方向の外方に放射状に流出した潤滑油は、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の間の空間を通って油路24の流入口に至り、そこから油路24を介して、第3連結メンバM3と第4連結メンバM4との間の空間に供給される。そして、潤滑油は、第4連結メンバM4に形成された潤滑油孔22を通って、第2のブレーキB2に供給されて、この第2のブレーキB2を冷却する。
【0056】
ここで、潤滑油孔22にはリードバルブ3が取り付けられているため、第2のブレーキB2の非締結時でかつ第4連結部材M4の高回転時(所定回転以上の時)には、リードバルブ3によって潤滑油孔22が閉じられ、第2のブレーキB2への潤滑油の供給が制限される(図4の二点鎖線参照)。一方、第4連結部材M4の低回転時(所定回転よりも低い時)には、潤滑油孔22が開けられ、第2のブレーキB2へ潤滑油が供給される(図4の実線参照)。このときに、油路24から潤滑油孔22へは、リード板32が第4連結メンバM4の内周面に対して離接する側から(バルブホルダ31とは反対側から)斜め方向に潤滑油が供給されるため、第2のブレーキB2に潤滑油を確実に供給することができる(図4の矢印参照)。
【0057】
エンジン回転が高くなって入力軸Inputが高回転になるほど、貫通孔21を通じて径方向の外方に放射状に流出される潤滑油の量は多くなるものの、第4連結部材M4の高回転時には第2のブレーキB2への潤滑油の供給が制限されるため、非締結状態の第2のブレーキB2への供給油量が過多になることが防止され、引きずりトルクが抑制される。その結果、自動変速機ATの動力伝達効率が高まる。特に第2のブレーキB2は、後退速で締結されるブレーキであって、ブレーキ容量を確保すべく、ブレーキプレート93,94の枚数が比較的多い。そのため、第2のブレーキB2への供給油量が過多になった場合には、引きずりトルクが大きくなり易いが、上記の構成ではそれが抑制され、有効である。
【0058】
一方、例えば非締結状態の第2のブレーキB2を締結状態へと移行させる締結時(Dレンジの1速からマニュアルモードの1速へ切り替わる時、また後退速に切り替わる時等)、また締結状態の第2のブレーキB2を非締結状態へと移行させる解放時(マニュアルモードの1速から2速へ切り替わる時や、後退速から他に切り替わる時等)には、第4連結メンバM4が停止又は低回転であるため、リードバルブ3による潤滑油の供給制限が行われず、第2のブレーキB2に対し潤滑油が十分に供給されて、その過熱が防止される。
【0059】
また、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の中間位置に、貫通孔21及び潤滑油孔22をそれぞれ配置することによって、第2のブレーキB2に対する潤滑油の供給は、第3及び第4のプラネタリギヤセットGS3,GS4の間の空間を通り潤滑油孔22に至る経路に制限される。そのため、リードバルブ3による供給油量の制御が確実に行われる。
【0060】
尚、供給油量可変機構は、上記に示したリードバルブ3には限らず、例えば図5に示すように、潤滑油孔22の内周面側開口を開閉する凸形状のバルブ体41と、このバルブ体41を潤滑油孔22の開側に付勢するワッシャスプリング42とを備えた構成のバルブ4としてもよい。この構成では、第4連結メンバM4の停止状態及び低速回転状態においては、ワッシャスプリング42によりバルブ体41が径方向の内方に付勢され、潤滑油孔22の開口を開状態にする(図5の実線参照)一方、第4連結メンバM4の高速回転状態においては、バルブ体41に作用する遠心力によって、バルブ体41がワッシャスプリング42の付勢力に抗して径方向の外方に移動し、潤滑油孔22の開口を閉状態にする(図5の一点鎖線参照)。
【0061】
また、例えば図6に示すように、潤滑油孔22の内周面側開口を開閉する半球状のバルブ体51と、このバルブ体51を潤滑油孔22の開側に付勢するコイルばね52とを備えた構成のバルブ5としてもよい。
【0062】
尚、図5,6に示す構成では、油路24が傾斜した部分を有する必要はない。
【0063】
また、本発明は、上記実施形態の構成に限定されず、それ以外の種々の構成を包含するものである。上記実施形態では、本発明の潤滑構造を第2のブレーキB2(L/Rブレーキ)に適用した例を示したが、その他の多板ブレーキに広く適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明は、引きずりトルクを抑制しつつ、必要時には潤滑油を十分に供給することができる多板ブレーキの潤滑構造であるから、自動車等の車両に用いられる自動変速機における多板ブレーキの潤滑構造として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態に係る多板ブレーキ潤滑構造が適用された自動変速機の一部分を示す断面図である。
【図2】同自動変速機の概略構成を示す骨子線図である。
【図3】同自動変速機の締結作動表である
【図4】リードバルブが取り付けられた潤滑油孔付近を拡大して示す拡大図である。
【図5】他の実施形態に係るバルブが取り付けられた潤滑油孔付近を拡大して示す拡大図である。
【図6】さらに別の他の実施形態に係るバルブが取り付けられた潤滑油孔付近を拡大して示す拡大図である。
【符号の説明】
【0066】
1 変速機ケース
21 貫通孔(油路)
22 潤滑油孔
3 リードバルブ(供給油量可変機構)
32 リード板(弾性部材)
33 ウエイト
93 ブレーキプレート(摩擦板)
94 ブレーキプレート(摩擦板)
AT 自動変速機
B2 第2のブレーキ(多板ブレーキ)
GS3 第3のプラネタリギヤセット(第1のプラネタリギヤセット)
GS4 第4のプラネタリギヤセット(第2のプラネタリギヤセット)
Input 入力軸
M4 第4連結部材(ドラム状回転部材)
PC3 第3キャリア(第1のプラネタリギヤセットのキャリア)
R3 第3リングギヤ(第1のプラネタリギヤセットのリングギヤ)
R4 第4リングギヤ(第2のプラネタリギヤセットのリングギヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機を収容する変速機ケースの内周面に対して離間して配置されかつ所定の回転軸回りに回転するドラム状回転部材と、上記変速機ケースの内周面とドラム状回転部材の外周面との間に配置された複数の摩擦板とを含み、該複数の摩擦板同士を締結・解放することによって、上記ドラム状回転部材を停止・回転させる多板ブレーキを備え、
上記ドラム状回転部材には、その内周面側から外周面側に向かって径方向に貫通する潤滑油孔が形成されており、上記ドラム状回転部材の回転軸側から径方向の外方に放射状に供給される潤滑油を、上記潤滑油孔を介して上記多板ブレーキに供給する自動変速機の多板ブレーキ潤滑構造であって、
上記ドラム状回転部材に取り付けられ、上記ドラム状回転部材が所定回転以上の時には、上記潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を制限すると共に、上記ドラム状回転部材が所定回転よりも低い時には、上記潤滑油孔を介して多板ブレーキに供給される潤滑油の供給を許容する供給油量可変機構をさらに備えている多板ブレーキ潤滑構造。
【請求項2】
請求項1に記載の多板ブレーキ潤滑構造において、
上記多板ブレーキは、少なくとも後退速にて締結されるブレーキである多板ブレーキ潤滑構造。
【請求項3】
請求項2に記載の多板ブレーキ潤滑構造において、
上記自動変速機は、上記回転軸方向に並設された第1及び第2のプラネタリギヤセットを含み、
上記ドラム状回転部材は、上記第1のプラネタリギヤセットのキャリアと、上記第2のプラネタリギヤセットのリングギヤとを連結する部材であって、上記第1のプラネタリギヤセットのリングギヤの外周囲を覆うように配置されており、
上記潤滑油孔は、上記第1及び第2のプラネタリギヤセットの中間位置に形成されている多板ブレーキ潤滑構造。
【請求項4】
請求項3に記載の多板ブレーキ潤滑構造において、
上記第1及び第2のプラネタリギヤセットはそれぞれ、上記自動変速機の入力軸上に配設され、
上記ドラム状回転部材は、上記入力軸回りに回転し、
上記入力軸には、上記第1及び第2プラネタリギヤセットの中間位置に油路が形成されており、上記入力軸の油路から、第1及び第2プラネタリギヤセットの間を通って上記多板ブレーキに潤滑油が供給されるように構成されている多板ブレーキ潤滑構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多板ブレーキ潤滑構造において、
上記供給油量可変機構は、上記潤滑油孔における内周面側の開口を開閉するよう弾性変形する弾性部材と、該弾性部材に取り付けられたウエイトと、を備えたバルブであって、
上記バルブは、上記ドラム状回転部材が上記所定回転よりも低い時には、上記弾性部材が上記潤滑油孔の開口を開とする状態になる一方、上記ドラム状回転部材が上記所定回転以上の時には、上記ウエイトに作用する遠心力によって上記弾性部材が上記潤滑油孔の開口を閉とする状態に変形するように構成されている多板ブレーキ潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−127237(P2007−127237A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322092(P2005−322092)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】