説明

自動変速機の油圧制御装置

【課題】アイドリングストップ機能を有する車両において、電動オイルポンプを不要としながら、エンジン再始動時の良好な再発進応答性を得る。
【解決手段】ライン圧油路33に電磁遮断弁42を介してアキュムレータ40を接続し、発進時に締結されるロウクラッチ50のクラッチ圧油路34に、一方弁39、3方電磁切換弁44および保圧弁46を付設して、エンジン停止時にアキュムレータをライン圧油路から遮断するとともに、ロウクラッチを保圧弁に連通してクラッチ圧をトルク伝達制御直前の値に保持し、エンジン再始動時に、アクセル開度に応じて電磁遮断弁をデューティ制御してアキュムレータから放出する。再始動直後でオイルポンプ30から十分な油圧が供給されなくても、トルク伝達制御直前の状態にあるロウクラッチは、アキュムレータ放出により直ちにトルク伝達を開始することができ、高い応答性で発進が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップを行う車両における自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機はそのギアトレーン内に油圧で摩擦板を押圧して作動する複数のクラッチやブレーキ(以下、単にクラッチで代表する)を備え、その締結、解放の組合せにより複数の変速段を実現する。例えばロウクラッチ(LOW/C)やハイクラッチ(HIGH/C)等が備えられ、前進第1速ではロウクラッチを締結し、高速の第3速などではロウクラッチを解放し、ハイクラッチを締結するようになっている。
クラッチは油圧室と油圧室に供給される作動油圧によってストロークするピストンを備え、その作動過程には、ピストンが摩擦板に当接するまでの空走区間におけるストローク詰めの段階と、実際にピストンが摩擦板を押圧して滑り状態から完全締結状態へ滑らかに変化させるために作動油圧を制御しながら最大締結圧まで変化させるトルク伝達制御段階とがある。
【0003】
このような自動変速機を搭載した車両において、従来、燃費の向上と排気ガスの削減を目的として、運行中交差点などで信号待ちのため一時停車した場合や踏切での列車の通過待ち状態などの場合にエンジンを自動停止させ、その後所定条件になったときにエンジンを再始動させて発進するアイドリングストップ機能を備えるものがある。
【0004】
ところで、自動変速機ではエンジン動力により駆動される機械式オイルポンプによる油圧を用いて上記のクラッチを締結、解放するが、アイドリングストップのエンジン停止中は機械式オイルポンプも作動停止しているので、再始動時に直ちに必要な油圧を得ることはできない。
また、再発進のための第1速で締結されるべきクラッチにおいて、アイドリングストップの間に油圧室の作動油がドレーンされていると、ストローク詰めのための油量も要求される。したがって、アイドリングストップ後の再発進時には所望の応答性が得られないという問題がある。この応答性についての要求はとくに再発進が前進方向である場合に大きい。
【0005】
このため、例えば特開2002−115755号公報には、自動変速機に電動オイルポンプを付設し、エンジン再始動の際に電動オイルポンプと油圧回路内のアキュムレータとを組合せて、これら双方からの油圧を発進用クラッチに供給するようにした油圧制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−115755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の油圧制御装置では、機械式オイルポンプとは別に、追加のポンプ機構とこれを駆動するモータが必要になるため、自動変速機の大型化とコスト増大を招くことになる。
また、電動オイルポンプは大電力を必要とするのでバッテリ消費も甚大となるという問題がある。
【0008】
したがって本発明は、上記従来の問題点に鑑み、電動オイルポンプを不要としながら、アイドリングストップ時の良好な再発進応答性を得られる自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動変速機の油圧制御装置は、所定の停止条件下でエンジンを停止させ、所定の始動条件下でエンジンを再始動させる車両において、自動変速機の発進時に締結されるクラッチへの油圧供給路に電磁遮断弁を介して接続された蓄圧手段と、クラッチの作動油圧を所定値に保持する保圧手段と、電磁遮断弁を制御する制御手段とを有して、該制御手段は、エンジンの停止時に蓄圧手段を油圧供給路から遮断し、保圧手段により油圧供給路の油圧を所定値に保持して、エンジンの再始動時に、蓄圧手段に充填された作動油を油圧供給路に電磁遮断弁により放出するように構成したものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジン再始動直後の過渡状態でオイルポンプから十分な油圧が供給されなくても、クラッチには保圧手段で所定値に保持された作動油圧に電磁遮断弁による蓄圧手段の放出油圧の制御を行うことで棚圧制御を行いながら油圧が供給されるのでショックのない高い応答性能で早期にトルク伝達を開始することができ、発進が行われる。
したがって、追加の電動オイルポンプの設置の必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態にかかる車両の駆動系統を示す図である。
【図2】アイドリングストップに関連する油圧回路を示す図である。
【図3】アイドリングストップ対応制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】電磁遮断弁のデューティ制御要領を示す図である。
【図5】エンジン再始動時の動作過程を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態にかかる車両の駆動系統を示す図である。
エンジン1の出力軸に自動変速機2が接続され、自動変速機2はトルクコンバータ3、変速機構部4、および油圧コントロールバルブユニット5とからなっている。自動変速機2の出力は駆動軸6からディファレンシャルギヤ7を経て駆動輪8、9へ伝達される。
エンジン1にはその不図示のスロットル弁や燃料噴射弁、そして点火時期等を制御するエンジン制御ユニット(ECU)10が接続され、自動変速機2には目標変速段やこれを実現するためのクラッチへの作動油圧等を制御する自動変速機制御ユニット(ATCU)16が接続されている。
エンジン制御ユニット10と自動変速機制御ユニット16には車両電子制御ユニット20が接続されている。
【0013】
エンジン制御ユニット10にはエンジン回転数センサ12からエンジン出力軸の回転数(回転速度)が入力され、アクセルペダルセンサ14からアクセル開度が入力される。
自動変速機制御ユニット16にはシフトレバーセンサ18からのシフトレバー位置が入力されるとともに、エンジン制御ユニット10を介してエンジン回転数およびアクセル開度が、入力される。
車両電子制御ユニット20には、ブレーキスイッチ22、車速センサ24からの信号が入力されるとともに、エンジン制御ユニット10を介してアクセル開度が、自動変速機制御ユニット16を介してシフトレバー位置が入力されて、車両の運転状態に基づいて、エンジン1と自動変速機2を統合制御するためエンジン制御ユニット10と自動変速機制御ユニット16に対して制御指令を発する。
【0014】
車両電子制御ユニット20は、とくにアイドリングストップの制御において、車両が停止状態(車速=0)、シフトレバーがN(中立)ポジションまたはP(パーキング)ポジション、およびアクセル開度0(アクセルペダルが踏み込まれていない状態)のとき、または、車両が停止状態、シフトレバーがD(ドライブ)ポジション、アクセル開度0、およびブレーキオン(ブレーキペダルが踏み込まれている状態)のときをエンジン1の自動停止条件とする。
エンジン1の再始動条件は、上記自動停止の条件が成立しなくなった状態である。
【0015】
自動停止条件の成立および再始動条件の成立に対応して、車両電子制御ユニット20はエンジン制御ユニット10に対してそれぞれエンジン停止の指令およびエンジン再始動の指令を出力し、エンジン制御ユニット10はこれらの指令に基づいてエンジン1を停止、再始動させる。
また、エンジン停止の指令およびエンジン再始動の指令は自動変速機制御ユニット16にも出力され、自動変速機制御ユニット16は自動変速機2に対して、後述するアイドリングストップ対応制御を行う。
【0016】
図2はアイドリングストップに関連する油圧回路を示す。
エンジン1の出力軸回転により駆動されるオイルポンプ30の出力がレギュレータバルブ32によりライン圧とされて、ライン圧油路33を通ってマニュアルバルブ35の入力ポートPに入力される。
マニュアルバルブ35のDレンジポートDは、制御バルブ37および一方弁39を順次経て前進第1速で締結されるロウクラッチ(LOW/C)50の油圧室に接続されている。
制御バルブ37はパイロット弁36でライン圧から生成したパイロット圧をソレノイド38で制御して駆動圧とし、自動変速機制御ユニット16からの指令にしたがってロウクラッチ50への油圧(クラッチ圧)を制御してクラッチ圧油路34に出力する。
なお、Dレンジポートは高速段で締結される他のクラッチ系統にも接続され、RレンジポートRは後退段で締結されるクラッチ系統に接続されるが、図示省略している。
【0017】
マニュアルバルブ35の入力ポートへのライン圧油路33には電磁遮断弁42を介してアキュムレータ40が接続されている。電磁遮断弁42はオフ(OFF)状態でアキュムレータ40をライン圧油路33と連通させ、オン(ON)状態で遮断し、デューティ制御される。
Dレンジで走行中は、電磁遮断弁42はオフ状態に保持され、アキュムレータ40はライン圧油路33に連通しているから、作動油が充填されてライン圧に相当するアキュムレータ圧を保持している状態となっている。
【0018】
また、一方弁39と並列に、3方電磁切換弁44が設けられている。3方電磁切換弁44は、オフ(OFF)状態で一方弁39のロウクラッチ50側を一方弁の制御バルブ37側と連通させ、オン(ON)状態で一方弁のロウクラッチ50側を保圧弁46に接続する。通常走行中は3方電磁切換弁44は、オフ状態である。
保圧弁46は、3方電磁切換弁44を経て入力される油圧が所定値より高い間はドレーンし、所定値に低下すると、当該油圧を保持する。
【0019】
自動変速機制御ユニット16による自動変速機2のアイドリングストップ対応制御は以下のように行われる。図3はアイドリングストップ対応制御の流れを示すフローチャートである。
まず、ステップ100では、車両電子制御ユニット20からエンジン停止の指令があったかをチェックする。
エンジン停止の指令があった場合には、ステップ101において、電磁遮断弁42をオンする。これにより、アキュムレータ40にはアキュムレータ圧の作動油が保持される。
【0020】
ステップ102では、シフトレバーがDレンジ位置にあるかどうかをチェックする。
シフトレバーがDレンジ位置にある場合は、ステップ103に進んで、Dレンジフラグを1にするとともに、3方電磁切換弁44をオンする。これにより、ロウクラッチ50は制御バルブ37側から遮断され、保圧弁46に連通される。そして、保圧弁46は、ロウクラッチ50側の油圧を所定値に保持する。
ここで、保圧弁46に保持される作動油圧の所定値は、ロウクラッチ50の摩擦板は締結していないが、ストローク詰めを要するクリアランスがない状態に対応する値、換言すれば、トルク伝達制御直前の値に設定されている。
3方電磁切換弁44をオンしたあとは、ステップ105へ進む。
【0021】
一方、シフトレバーがDレンジ位置にない場合は、ステップ104において、3方電磁切換弁44はオフ状態を継続させたまま、Dレンジフラグを0にして、ステップ105へ進む。
一度設定されたDレンジフラグの状態および3方電磁切換弁44の状態は、エンジン停止の間は、シフトレバーの操作があっても変わらない。
【0022】
ステップ105では、車両電子制御ユニット20からエンジン再始動の指令があったかをチェックする。
エンジン再始動の指令がない間は、ステップ105が繰り返される。
エンジン再始動の指令によってエンジン制御ユニット10はクランキングを開始してエンジン1を始動する。
【0023】
自動変速機制御ユニット16ではこのエンジン再始動の指令を同時に受けると、ステップ106において、シフトレバーがDレンジ位置であるかどうかをあらためてチェックする。エンジン停止中にシフトレバーを操作している場合があるからである。
Dレンジ位置であるときは、ステップ107で、Dレンジフラグが1であるかどうかをチェックする。
Dレンジフラグが1であれば、エンジン再始動の前後を通じてシフトレバーがDレンジ位置に保持され、3方電磁切換弁44はオンということになる。この場合は、ステップ108へ進み、エンジン制御ユニット10を介してアクセルペダルセンサ14によるアクセル開度を読み込む。
【0024】
そして、ステップ109において、3方電磁切換弁44をオンのまま、電磁遮断弁42をデューティ制御して、アキュムレータ40から作動油を放出する。
ここでは、図4に示すように、アクセル開度が小さいときONデューティ比が大きく、アクセル開度が大きくなるほどONデューティ比が低下するように設定されている。
ここで、ロウクラッチ50は3方電磁切換弁44がオンのため保圧弁46に連通してストローク詰めを終わった状態に相当するクラッチ圧にある。したがって、アキュムレータ40からの作動油放出によりロウクラッチ50は直ちに摩擦板の押圧を開始して、トルク伝達制御状態に入る。
【0025】
ステップ110では、エンジン制御ユニット10を介してエンジン回転数を読み込み、エンジン回転数が再始動したエンジンの完爆を示す所定回転数Nk以上であるかどうかをチェックする。エンジン回転数がNk未満の間は、ステップ108へ戻り、アクセル開度に基づく電磁遮断弁42のデューティ制御を継続する。
【0026】
エンジン回転数がNk以上になったときは、ステップ111へ進んで、3方電磁切換弁44および電磁遮断弁42の双方をオフして、アイドリングストップ対応制御を終了する。
エンジンが完爆したあとはオイルポンプ30から十分な作動油圧が供給されるようになるので、3方電磁切換弁44のオフにより、ロウクラッチ50は保圧弁46から切り離され、制御バルブ37に接続されて通常の制御圧が供給される。また、電磁遮断弁42のオフ状態維持により、アキュムレータ40にもライン圧が充填されることになる。
【0027】
ステップ106のチェックにおいて、シフトレバーがDレンジ位置でない場合には、ステップ112へ進んで、Dレンジフラグを0にするとともに、3方電磁切換弁44をオフさせる。
これにより、エンジン停止時のシフトレバーがDレンジ位置であって3方電磁切換弁44がオンされていた場合でも、ロウクラッチ50を制御バルブ37に連通させ、ロウクラッチ50のクラッチ圧をドレーン可能とする。
【0028】
つぎにステップ113において、シフトレバーがRレンジ位置にあるかどうかをチェックする。
シフトレバーがRレンジ位置にあるときは、ステップ114で電磁遮断弁42をオフさせたあと、制御を終了する。電磁遮断弁42のオフにより、ライン圧油路33から遮断されていたアキュムレータ40はライン圧油路33との連通状態に戻る。
一方、ステップ113のチェックでシフトレバーがRレンジ位置になかった場合は、NレンジまたはPレンジ位置にあり、今後Dレンジへ操作されるのか、Rレンジへ操作されるのか不明のため、電磁遮断弁42はオンのままステップ106へ戻る。
【0029】
つぎに、ステップ107のチェックでDレンジフラグが0であった場合には、ステップ114へ進む。
Dレンジフラグが0は、エンジン停止中にシフトレバーがDレンジ以外からDレンジ位置へ操作されたことを示し、3方電磁切換弁44はオンされていないから、ロウクラッチ50は制御バルブ37と連通し、ロウクラッチ50の作動油は制御バルブ37を通じてドレーンされている。
ステップ114では電磁遮断弁42をオフさせるので、アキュムレータ40からの作動油がライン圧油路33に一挙に排出される。
【0030】
図5は上述の制御によりDレンジ位置でエンジン停止した状態から再始動する際の動作過程を示すタイムチャートである。
アイドリングストップによるエンジン停止中は、ブレーキ信号がオン、アクセル開度0であり、電磁遮断弁42がオンで、アキュムレータ40は作動油が充填された状態に保持され、ロウクラッチ50のクラッチ圧は保持圧に保持されている。
時刻t0においてブレーキ信号がオフになると、エンジン始動指令が発せられ(オン)、クランキングが開始されてエンジン回転数が変則的に上昇を始める。
【0031】
同時に電磁遮断弁42がデューティ制御でオン、オフを繰り返す。アクセル開度0の場合、オンデューティが大きいので、アキュムレータ40の作動油は緩慢な速度で放出される。
エンジン回転数が低くオイルポンプ30から十分な油圧が発生しない間でも、アキュムレータ40からの作動油放出により、マニュアルバルブ35、制御バルブ37および一方弁39を経て油圧がロウクラッチ50に及ぶ。ロウクラッチ50は保持圧でストローク詰めが済んでいる状態にあるので、クラッチ圧は保持圧から上昇を始め、直ちに締結を開始する。しかし、クラッチ圧の上昇度合いは緩慢なアキュムレータ放出のため油圧上昇が極めて緩やかなので、発進加速度(G)波形に示すように、一挙に放出する場合に発生し得る破線で示すような締結ショックを招かず、滑らかな車両発進となる。
【0032】
そして、エンジン回転数が完爆を示す所定回転数Nkに至ると、オイルポンプ30が油圧を発生してライン圧が正常値となっているので、当該時刻t1において、電磁遮断弁42はデューティ制御が停止されてオフ状態とし、アキュムレータ40とライン圧油路33が常時連通状態となる。これにより、これまで放出状態にあったアキュムレータ40はライン圧油路33からの充填状態となって充填量が増大方向となる。
【0033】
時刻t1にはまた、3方電磁切換弁44もオフされて、ライン圧が制御バルブ37経由でロウクラッチ50に供給される。これにより、比較例の従来の通常制御油圧が後の時刻t2まで待たないとクラッチ圧を定常圧とすることができないのに対して、時刻t1にはクラッチ圧を定常圧とすることができ、制御バルブ37によるクラッチ圧制御が可能となる。
なお、図5のタイムチャートではアクセル開度が0に保持されているので、緩やかなクリープ発進となるが、アクセルペダルの踏み込みが大きくアクセル開度が大きくなるほど、アキュムレータ40からの放出速度が高くなるよう設定されているので、高い応答性が得られる。
【0034】
本実施の形態では、ロウクラッチ50が発明における発進時に締結されるクラッチに、ライン圧油路33が油圧供給路にそれぞれ該当する。
そして、一方弁39、3方電磁切換弁44、および保圧弁46が保圧手段を構成し、とくに3方電磁切換弁44が切換弁に該当する。アキュムレータ40が蓄圧手段に該当する。
また、図3のフローチャートにおけるステップ100〜114の処理を実行する自動変速機制御ユニット16の機能部分が制御手段を構成している。
【0035】
本実施例は以上のように構成され、所定の停止条件下でエンジン1を停止させ、所定の始動条件下でエンジン1を再始動させる車両において、自動変速機2の発進時に締結されるロウクラッチ50への油圧供給路をなすライン圧油路33に電磁遮断弁42を介して接続されたアキュムレータ40を備える一方、保圧弁46等を用いてロウクラッチ50の作動油圧を所定値に保持するようにし、エンジン1の停止時にアキュムレータ40をライン圧油路33から遮断し、エンジン1の再始動時に、アキュムレータ40に充填された作動油をライン圧油路33に放出するようにしたので、エンジン再始動直後の過渡状態でオイルポンプ30から十分な油圧が供給されなくても、ロウクラッチ50には所定値の保持圧にアキュムレータ放出分が追加された作動油圧が供給されるので、早期にトルク伝達を開始することができ、高い応答性で発進が行われる。したがって、追加の電動オイルポンプの設置も必要がない。(請求項1の効果)
【0036】
とくに、保持圧として保持される所定値がロウクラッチ50におけるトルク伝達制御直前の値であり、ストローク詰めが済んでいる状態にあるので、アキュムレータ40はストローク詰めに充当する分までの容量を必要とせず、小容量の小型で済むという利点を有している。(請求項2の効果)
【0037】
また、アキュムレータ40の作動油の放出に際しては、とくにアクセル開度に応じて電磁遮断弁42をデューティ制御するので、エンジン再始動の当初からアクセル開度に応じたトルク伝達制御が可能となる。(請求項3の効果)
上記ロウクラッチ50の作動油圧の所定値保持は、とくにエンジン1の停止時にDレンジが選択されているときのみ行うことにより、Dレンジ以外でロウクラッチ50がエンジン再始動時に締結される必要がない場合に、速やかにその完全解放を確保することができる。(請求項4の効果)
【0038】
エンジン停止の間ロウクラッチ50の作動油圧を所定値に保持する具体的構成は、ロウクラッチ50と制御バルブ37との間に設けられ、ロウクラッチ50方向へのみ流通を許す一方弁39と、所定値を超える油圧を当該所定値に低減して保持する保圧弁46と、一方弁39のロウクラッチ50側を一方弁39の制御バルブ37側または保圧弁46に切換え接続する3方電磁切換弁44とからなり、3方電磁切換弁44が、通常走行でDレンジが選択されているとき一方弁39のロウクラッチ50側を制御バルブ37側に連通させ、アイドルストップ中でDレンジが選択されているときは一方弁39のロウクラッチ50側を保圧弁46に連通させるようにしているので、簡単ながら確実にクラッチ圧を所定値に保持することができる。(請求項5の効果)
【0039】
なお、実施の形態では、車両電子制御ユニット20がエンジン停止およびエンジン再始動を判断し、自動変速機2におけるアイドリングストップ対応制御は自動変速機制御ユニット16で行い、また自動変速機制御ユニット16はエンジン回転数やアクセル開度の情報をエンジン制御ユニット10を介して得るものとしたが、これに限定されず、自動変速機制御ユニット16が直接各情報を入力してもよく、あるいは逆に、自動変速機制御ユニット16がシフトレバーの位置を車両電子制御ユニット20を介して入力するようにしてもよい。
さらには、車両電子制御ユニット20と自動変速機制御ユニット16とを統合してもよく、各情報の入手経路は問わない。
また、アクセルペダルセンサによるアクセル開度は、エンジンのスロットルセンサによるスロットル開度を用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
2 自動変速機
10 エンジン制御ユニット
12 エンジン回転数センサ
14 アクセルペダルセンサ
16 自動変速機制御ユニット
18 シフトレバーセンサ
20 車両電子制御ユニット
22 ブレーキスイッチ
30 オイルポンプ
32 レギュレータバルブ
33 ライン圧油路
34 クラッチ圧油路
35 マニュアルバルブ
36 パイロット弁
37 制御バルブ
38 ソレノイド
39 一方弁
40 アキュムレータ
42 電磁遮断弁
44 3方電磁切換弁
46 保圧弁
50 ロウクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件下でエンジンを停止させ、所定の始動条件下でエンジンを再始動させる車両において、
自動変速機の発進時に締結されるクラッチへの油圧供給路に電磁遮断弁を介して接続された蓄圧手段と、
前記クラッチの作動油圧を所定値に保持する保圧手段と、
前記電磁遮断弁を制御する制御手段とを有して、
該制御手段は、エンジンの停止時に前記蓄圧手段を前記油圧供給路から遮断し、前記保圧手段により前記油圧供給路の油圧を所定値に保持して、
エンジンの再始動時に、前記蓄圧手段に充填された作動油を前記油圧供給路に電磁遮断弁により放出するように構成したことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記保圧手段が保持するクラッチの前記作動油圧の所定値は、前記クラッチにおけるトルク伝達制御直前の値であることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、蓄圧手段の作動油の前記放出に際して、前記車両のアクセル開度に応じて前記電磁遮断弁をデューティ制御することを特徴とする請求項1または2に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
前記保圧手段は、エンジンの停止時にDレンジが選択されているときのみ前記クラッチの作動油圧を前記所定値に保持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記保圧手段は、
前記クラッチと該クラッチへの作動油圧を調整する制御バルブとの間に設けられ、クラッチ方向へのみ流通を許す一方弁と、
前記所定値で保持する保圧弁と、
前記一方弁の前記クラッチ側を一方弁の前記制御バルブ側または前記保圧弁に切換え接続する切換弁とからなり、
該切換弁は、Dレンジが選択されている通常走行時のとき前記一方弁のクラッチ側を前記制御バルブ側に連通させ、アイドルストップ中でDレンジが選択されているときは前記一方弁のクラッチ側を前記保圧弁に連通させることを特徴とする請求項4に記載の自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−185414(P2011−185414A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54127(P2010−54127)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】